(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】異常診断装置、異常診断システム及び異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240910BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2021002053
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020142341
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
(72)【発明者】
【氏名】堀 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】井坂 一貴
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-354341(JP,A)
【文献】特開2003-161495(JP,A)
【文献】特開2015-021901(JP,A)
【文献】特開2019-101777(JP,A)
【文献】特開2010-236302(JP,A)
【文献】特開2007-198918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断装置であって、
前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する過渡期除去部を備え、
前記診断対象は可変速の回転機であり、当該回転機の加速度データに基づき設定された特定の回転周波数が前記逐次学習及び前記診断に供されること
を特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断装置であって、
前記診断対象の加速度データから得られた回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外するデータ絞込部を備えたこと
を特徴とする異常診断装置。
【請求項3】
前記加速度データの加速度実効値の移動平均の標準偏差が所定範囲に収束する時間帯を前記逐次学習の期間として選択する学習期間選定部を備えたこと
を特徴とする請求項1または2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記診断対象と関連する他の対象の稼動状態の検出信号または前記逐次学習を指令するマニュアルトリガ信号を受けて当該逐次学習を開始する逐次学習処理部を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記診断対象の稼動停止時の正常な前記加速度実効値の推移を学習する逐次学習処理部を備えたことを特徴とする請求項3に記載の異常診断装置。
【請求項6】
前記診断対象は可変速の回転機であり、当該回転機の加速度データに基づき設定された特定の回転周波数が前記逐次学習及び前記診断に供されることを特徴とする請求項
2に記載の異常診断装置。
【請求項7】
診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断システムであって、
前記逐次学習及び前記診断を行う請求項1から6のいずれか1項に記載の異常診断装置と、
前記逐次学習で得られた前記加速度データの多変量サンプルと既存の当該加速度データの多変量サンプルに基づき前記診断の基準を再学習する学習装置と
を有することを特徴とする異常診断システム。
【請求項8】
前記学習装置は、前記加速度データの時系列データの定Q変換を行うことなく前記再学習を行うことを特徴とする請求項7に記載の異常診断システム。
【請求項9】
前記学習装置は、既存の前記加速度データの時系列データの定Q変換による当該加速度データの同一レベル若しくは近接するレベルの多変量サンプルと、新たに測定された前記加速度データの時系列データの定Q変換による当該加速度データの同一レベル若しくは近接するレベルの多変量サンプルとに基づき、前記再学習を行うことを特徴とする請求項7に記載の異常診断システム。
【請求項10】
診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断方法であって、
前記診断対象の加速度データから得られた
回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する過程を有することを特徴とする異常診断方法。
【請求項11】
前記逐次学習で得られた前記加速度データの多変量サンプルと既存の当該加速度データの多変量サンプルに基づき前記診断の基準を再学習する過程を有することを特徴とする請求項10に記載の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機等の診断対象の異常を診断する技術、特に、定Q変換に基づく診断対象の異常診断において、診断精度を上げるため学習データを選定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、稼動中の回転機等の機器の運転状態から機器の異常を診断する手法が提案されている(例えば特許文献1~5)。特に、特許文献1-3の異常診断は、回転機に具備された加速度センサのデータの定Q変換に基づく診断により行われる。基本的な診断の手法としては、回転機が正常に動作し続けている場合には異常時のデータが極端に少ないことから、正常時のデータのみを学習して、現在のデータが正常時と比較してどれだけ異なっているかを数値化することで、機器が正常または異常であるかの診断が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-198619号公報
【文献】特開2017-198620号公報
【文献】特開2019-101777号公報
【文献】特開2019-079356号公報
【文献】特開2019-027860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の機器の異常診断の手法は以下の事情により精度が低下する。
【0005】
機器が安定稼働している正常の状態が学習されるので、機器の稼働停止時(以下、「過渡期」と記述する)の不安定な加速度が異常と判断されることがある。
【0006】
機器の加速度センサが設置された直後や機器の修繕などを行った直後は、下記の事由により、センサの出力が安定しない。
【0007】
前記センサはマグネットや接着剤、ボルト締め等により機器に設置されるが、設置状態が馴染むまでセンサ出力が安定しない。
【0008】
修繕を行った場合、回転機本体を土台にボルト締めを行うので、ボルトの締め具合などが馴染むまでセンサの出力が安定しない。
【0009】
また、センサ出力が安定しない期間のデータは、安定稼働中に比べて加速度が大きかったり小さかったりするので、その期間のデータを学習すると精度が低下する。
【0010】
さらに、
図32に示したようにある一定の期間(1週間または1か月)の機器の稼動データを学習すると、その期間を基準に年変動が発生する。そして、この年変動の影響により、機器が正常である場合でも閾値を超えることがあり、異常が誤検出される。また、年変動は温度により機器の膨張や収縮を招き、ポンプ等の場合には水に溶け込む空気量が変化することが影響しているものと考えられる。
【0011】
本発明は、以上の事情に鑑み、診断対象の定Q変換に基づく異常診断の精度向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明の一態様は、診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断装置であって、前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する過渡期除去部を備える。
【0013】
本発明の一態様は、診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断装置であって、前記診断対象の加速度データから得られた回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外するデータ絞込部を備える。
【0014】
本発明の一態様は、前記異常診断装置において、前記加速度データの加速度実効値の移動平均の標準偏差が所定範囲に収束する時間帯を前記逐次学習の期間として選択する学習期間選定部を備える。
【0015】
本発明の一態様は、前記異常診断装置において、前記診断対象と関連する他の対象の稼動状態の検出信号または前記逐次学習を指令するマニュアルトリガ信号を受けて当該逐次学習を開始する逐次学習処理部を備える。
【0016】
本発明の一態様は、前記異常診断装置において、前記診断対象の稼動停止時の正常な前記加速度実効値の推移を学習する逐次学習処理部を備える。
【0017】
本発明の一態様は、前記異常診断装置において、前記診断対象は可変速の回転機であり、当該回転機の加速度データに基づき設定された特定の回転周波数が前記逐次学習及び前記診断に供される。
【0018】
本発明の一態様は、診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断方法であって、前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の変動または回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する。
【0019】
本発明の一態様は、診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断システムであって、前記逐次学習及び前記診断を行う上記の異常診断装置と、前記逐次学習で得られた前記加速度データの多変量サンプルと既存の当該加速度データの多変量サンプルに基づき前記診断の基準を再学習する学習装置と、を有する。
【0020】
本発明の一態様は、前記異常診断システムにおいて、前記学習装置は、前記加速度データの時系列データの定Q変換を行うことなく前記再学習を行う。
【0021】
本発明の一態様は、前記異常診断システムにおいて、前記学習装置は、既存の前記加速度データの時系列データの定Q変換による当該加速度データの同一レベル若しくは近接するレベルの多変量サンプルと、新たに測定された前記加速度データの時系列データの定Q変換による当該加速度データの同一レベル若しくは近接するレベルの多変量サンプルとに基づき、前記再学習を行う。
【0022】
本発明の一態様は、診断対象の稼動状態の逐次学習及び異常の診断を行う異常診断方法であって、前記診断対象の加速度データから得られた加速度振幅の変動または回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する過程を有する。
【0023】
本発明の一態様は、前記異常診断方法において、前記逐次学習で得られた前記加速度データの多変量サンプルと既存の当該加速度データの多変量サンプルに基づき前記診断の基準を再学習する過程を有する。
【発明の効果】
【0024】
以上の本発明によれば、診断対象の定Q変換に基づく異常診断の精度向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態1の設備異常診断システムの構成図。
【
図2】本発明の実施例1-3の設備異常診断システムの構成図。
【
図3】実施形態1の異常診断装置のブロック構成図。
【
図4】実施例1-3の異常診断装置のブロック構成図。
【
図5】実施形態1の設備異常診断のフローチャート。
【
図6】診断対象の稼動の過渡期の加速度データの経時的変化。
【
図7】
図6の過渡期が複数区間に分割にされた加速度データの経時的変化。
【
図8】
図6の所定区間の周波数解析により得られた回転周波数の波形図。
【
図9】
図8の所定区間の回転周波数の波形の比較に基づく過渡期の判断の説明図。
【
図13】実施例1-2の設備異常診断のフローチャート。
【
図14】実施例1-3の設備異常診断のフローチャート。
【
図15】実施例1-3での加速度データの再計測及び再診断の説明図。
【
図16】実施例1-4の設備異常診断のフローチャート。
【
図19】本発明の実施形態2の設備異常診断システムの構成図。
【
図20】実施形態2の異常診断装置のブロック構成図。
【
図21】実施例2-1の設備異常診断のフローチャート。
【
図22】実施例2-4の異常診断装置のブロック構成図。
【
図23】絞りパラメータの更新処理のフローチャート。
【
図24】ある設備における2年強の期間で計測したデータから推定した回転周波数の全期間及び最初の1月における回転周波数割合の分布図。
【
図25】
図24の設備における2年強の期間で計測したデータに基づき回転周波数制限なしで診断した結果のグラフ
【
図26】ある設備における2年強の期間で計測したデータに基づき回転周波数19Hzに制限で診断した結果のグラフ
【
図27】回転周波数16Hzから20Hzまで可変速な回転機の回転周波数が16Hzと20Hzである場合の周波数解析結果。
【
図28】本発明の実施形態3の設備異常診断システムの構成図。
【
図29】実施形態3の異常診断装置のブロック構成図。
【
図30】実施形態3の設備異常診断のフローチャート。
【
図31】実施形態3における計測データに対する周波数解析に基づく回転周波数毎のデータ分類の説明図。
【
図32】機器の稼動データの変動を示した乖離度の経時的変化。
【
図33】本発明の実施形態4の設備異常診断システムの構成図。
【
図34】実施形態4の異常診断装置のブロック構成図。
【
図35】実施形態4の設備異常診断のフローチャート。
【
図36】実施形態4の逐次学習処理のフローチャート。
【
図37】本発明の実施形態5の設備異常診断システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0027】
[実施形態1]
図1に示された本発明の一態様である異常診断装置1が適用された設備異常診断システム2は、定Q変換(特許文献1-3)に基づく回転機3の異常診断にあたり、主に以下の(1)~(3)の処理を行うことにより、回転機3の診断精度の向上を図る。
【0028】
(1)回転機3の運転データからの稼動状態の過渡期のデータを除去することにより当該過渡期に因る回転機3の異常の誤検出を防止する。
【0029】
(2)回転機3に具備される加速度センサ4の出力値の安定化を検出することにより回転機3の正常な稼動状態を学習する最適な期間を選定する。
【0030】
(3)回転機3の運転データを逐次学習して年変動を抑制することにより年変動に因る回転機3の異常の誤検出を防止する。
【0031】
異常診断装置1は回転機3の診断に供される。回転機3はポンプ、ターボブロワ、水車等の回転体設備5に接続されている。回転機3には加速度センサ4が付帯される。加速度センサ4で検出されたか回転機3の加速度データはデータ計測部6を介して異常診断装置1に出力される。データ計測部6は、加速度センサ4の出力信号を回転機3の加速度データとして受信して異常診断装置1に供する。
【0032】
異常診断装置1は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により、
図3に示した以下の機能部を実装する。
【0033】
記憶部10は、データ計測部6から供された加速度データを保存する。
【0034】
過渡期除去部11は、記憶部10から引き出した加速度データに基づき、回転機3の稼動状態が過渡期であるか否かを判断して過渡期であれば当該加速度データを逐次学習の対象から除外する。特に、加速度データから得られた加速度振幅の変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する。
【0035】
学習期間選定部12は、前記過渡期の加速度データが除去された加速度データに基づき、加速度センサ4の出力信号が安定した期間を学習期間として選定する。特に、前記加速度データから得られた加速度実効値の移動平均の標準偏差が所定範囲に収束する時間帯を前記逐次学習の期間として選択する。
【0036】
逐次学習処理部13は、前記選定された学習期間から回転機3の正常な稼動状態を逐次的に学習する。前記学習を行うタイミングは異常診断装置1の性能に依存するため、1日に1個のデータを追加して逐次学習を行ったり、1週間に1個のデータを追加して逐次学習を行ったりしてもよい。また、年変動を抑制するためには最低1年間逐次学習を行う必要があり、1年経過後は逐次学習を継続しても終了してもよい。
【0037】
診断処理部14は、前記学習した学習結果モデルを用いて、現在の加速度データから回転機3の状態を診断する。また、診断結果が異常と判断された場合に再度計測と診断を行い、連続して異常と判断された場合、本当に異常であると判断することで診断精度が向上する。基本的には設備(回転機3)に異常が発生した場合、継続して異常が発生し続けるものなので、連続して異常と判断された場合を異常と判断する。
【0038】
診断結果伝送部15は、前記診断した結果を監視制御システムやクラウド等に伝送する。
【0039】
(実施例1-1)
図5のフローチャートに基づき実施例1の診断処理について説明する。
【0040】
S111:測定対象である回転機3の例えば軸受に加速度センサ4が設置され、加速度データが計測される。加速度センサ4の出力信号はデータ計測部6を介して回転機3の加速度データとして記憶部10に保存される。
【0041】
S112:過渡期除去部11は、記憶部10から引き出した加速度データに対して、過渡期かどうかを判断する。過渡期かどうかの判断する方法を
図6から
図9に示す。
図6のような過渡期の加速度データがあった場合、まず、
図7のように1秒毎に加速度データを分割する。
図8で示すように、分割した加速度データ毎に周波数解析を行い、
図9で示すように分割した加速度データ毎に回転周波数を求める。求めた回転周波数が合っていない場合に、過渡期と判断する。過渡期と判断された加速度データは学習も診断も行わない。その他、監視制御システムなどと連携することで機器の稼働停止のタイミングが分かる場合は、監視制御システムのデータを利用して過渡期かどうかを判断しても良い。前記加速度データに対応した期間が過渡期であると判断された場合、学習期間の対象から除去する。
【0042】
S113:S112で過渡期が除去された場合(Yes)、S111の処理に戻る。一方、過渡期が除去されていない場合(No)、S114の学習期間の選定処理に移行する。
【0043】
S114:過渡期ではないと判断された場合、学習期間選定部12は、学習期間の選定処理を行う。基本的に、センサ出力が安定したときからを学習期間と判断するようにする。センサ出力が安定したかどうかを判定する方法を
図10から
図12で示す。
図10は加速度データの実効値計算例となるが、センサ設置後や修繕後は実効値が高くなる。そこで、
図11で示すように加速度データの実効値の移動平均を計算し、
図12で示すように移動平均の傾きを計算する。傾きの標準偏差を計算し、傾きが1週間「±σ」の範囲内に収束した時点を学習期間の開始時期として選定する。
【0044】
S115:S114で学習期間が選定されなかった場合(No)、S111の処理に戻る。一方、前記学習期間が選定された場合(Yes)、S116の一年分逐次学習が行われる。
【0045】
S116:S115で学習期間が選定された場合、逐次学習処理部13は、1年間毎日の逐次学習を行う。学習については、例えば特許文献1-3の手法を用いる。一年分の逐次学習が実行されると、S118の診断処理に移行する。
【0046】
S117:1年間分学習されていない場合、逐次学習処理部13により逐次学習が実行される。1年間分学習された場合、S118の診断処理が実行される。逐次学習を行う異常診断装置1のCPUの性能によっては、1日に1個のデータを学習したり、1週間に1個のデータを学習したりしてもよい。1年間学習を行った後は年変動の影響がなくなるので、逐次学習を行う必要がないが、継続してもよい。
【0047】
S118:診断処理部14は、S117の学習後のモデルを用いて、現在の加速度データが正常か異常かを判断するために、診断処理を行う。診断処理については、特許文献1-3の手法を用いる。
【0048】
S119:診断結果伝送部15は、S118で得られた診断結果を監視制御システムやクラウドなどに伝送するために、診断結果の伝送処理を実行する。
【0049】
以上のように、設備の異常診断過程で、過渡期の通常とは異なる振動を自動で除去し、加速度データから回転機3が安定稼働している期間を自動的に求めることで適切な学習期間が選定され、逐次学習を行うことで年変動の影響が除され、診断の精度が向上する。
【0050】
尚、前記過渡期の判断においては、異常データや単発異常は除外するよい。また、加速データの計測時間は周波数解析精度に応じて設定してもよい。さらに、回転周波数の変動検出の計測期間は、システム特性に応じて設定してもよい。また、周波数特性の平均を求める際に、計測時間に応じた重み付けしてもよい。これらの手法を適用すれば、診断時の過検出を一層効果的に回避できる(後述の実施形態2,3も同様である)。
【0051】
(実施例1-2)
本実施例は異常時のデータを逐次学習の対象から除外することで診断精度の向上を図る。
【0052】
図13のフローチャートに基づき実施例1-2の診断処理について説明する。学習期間選定処理までの過程(S111~S115)は実施例1と同じなので説明を省略する。以下に学習期間選定処理後の処理(S116~S125)について説明する。
【0053】
S116,S117:逐次学習処理部13は1回目の逐次学習を通常通り行う。基本的に1回目の逐次学習は、センサ設置後や修繕後になるため、機器は正常に動作している状態として取り扱う。
【0054】
S118:診断処理部14により1回目の診断処理が行われる。
【0055】
S119:1回目の診断結果が診断結果伝送部15により監視制御システムやクラウドなどに伝送される。
【0056】
S121:2回目以降は、先ず、診断処理部14により診断処理が行われる。
【0057】
S122,S125:異常であると判断された場合(Yes)、逐次学習が実行されずに、その診断結果が診断結果伝送部15により監視制御システムやクラウドなどに伝送される。
【0058】
S122~S124,S125:異常でないと判断された場合(No)、逐次学習処理部13により逐次学習が実行される。その後、診断処理部14により得られた診断結果が診断結果伝送部15により監視制御システムやクラウドなどに伝送される。
【0059】
以上のように、異常時のデータを自動的に学習対象から除外して適切な学習を行うことで、診断の精度が向上する。
【0060】
(実施例1-3)
本実施例は再診断による診断精度の向上を図る。特に、本実施例は、実施例1-1の態様において、診断結果が異常と判断された場合に再度計測と診断を行い、連続して異常と判断された場合に、本当に異常であると判断することで診断精度を向上させる。基本的には設備に異常が発生した場合、継続して異常が発生し続けるものなので、連続して異常と判断された場合を異常と判断する。
【0061】
図14のフローチャートを参照して実施例1-3の診断処理について説明する。診断処理までは実施例1-1と同じなので説明を省略する。以下は、S118の診断処理後の処理(S131~S134)について説明する。
【0062】
回転機3で異常が発生した場合、基本的には異常は継続して発生する。したがって、
図15で示すように一度異常が検出された場合、加速度データの再計測及び再診断を行い、連続して異常と判断された場合に異常と判断するようにする。これにより、誤検出の数を減らすことができる。
【0063】
S131,S132:S118の診断処理で異常と判断された場合、データ計測部6は加速度データの再計測処理を行う。再計測された加速度データは記憶部10に保存される。
【0064】
S133:診断処理部14は、記憶部10から引き出した前記再計測した加速度データを用いてS118に基づく再診断処理を行う。
【0065】
S134:S133での再診断処理により再度異常と判断された場合、異常という診断結果が診断結果伝送部15により
図2の監視制御システム7やクラウドなどに伝送される。一方、正常と判断された場合、正常という診断結果が、監視制御システム7や図示省略のクラウド等に伝送される。
【0066】
以上のように、設備の異常の再診断により、異常が継続して発生しているかどうかを自動で判断して本当の異常かどうかを判断することで、診断の精度が向上する。
【0067】
(実施例1-4)
トリガ機能を用いて回転機3の稼働を検知し、その稼働開始後のデータを追加学習する。特に、回転機3と関連する他の対象の稼動状態の検出信号または前記逐次学習を指令するマニュアルトリガ信号を受けて当該逐次学習を開始する。前記他の対象としては、例えば、負荷側の回転体設備5が送風機である場合、機器の稼働停止のタイミングで振動のパターンが変化し、稼働後のデータが前記逐次学習に供される。
【0068】
図2,4において、トリガ機能を用いた稼働開始後データの追加学習による精度向上方法の装置構成と構成例を示す。本態様の異常診断装置1は、
図2の監視制御システム7からの監視制御システムデータを監視し、回転機3の稼働停止状態を判断して、加速度センサ4からの加速度データを計測するトリガ計測部8を備える。尚、監視制御システムデータを使用せずに、前記加速度データの実効値などから閾値判定して回転機3の稼働停止を判断してもよい。
【0069】
図16のフローチャートを参照して実施例1-4の診断処理について説明する。
【0070】
実施例1-4の診断処理は、基本的には実施例1-1の診断処理と同じであるが、S111~S115の学習期間選定処理と並列でS141のトリガ計測処理を行う点が異なる。
【0071】
ブロワ等の回転体設備5の場合、
図17で示した稼働停止のタイミングで振動のパターンが変化するときがある。全てのデータを逐次学習する場合は問題ないが、異常診断装置1のCPUの性能によっては1日に1個や1週間に1個のデータを逐次学習しなければならない場合がある。1日に1個や1週間に1個のデータを逐次学習する場合、
図18で示すように、新たに逐次学習を行うまでは乖離度が上昇する。
【0072】
そこで、
図2の監視制御システム7からの「監視制御システムデータ」または加速度センサ4からの「加速度データ」に基づき、回転機3の稼働停止を判別し、この停止状態から稼動状態となったタイミングで加速度データを計測する「トリガ計測」を行う。そして、この「トリガ計測」を行ったデータを逐次学習することで
図18のような誤検出の数を低減できる。「トリガ計測」は適宜にマニュアルトリガにより行われる。
【0073】
S141,S111~S115:「監視制御システムデータ」または「加速度データ」に基づき回転機3の稼働停止を判断し、停止状態から稼働状態になった場合に「加速度データ」を計測する。「監視制御システムデータ」を使用する場合は、機器のON/OFF情報を用いる(S141)。「加速度データ」を使用する場合は、加速度実効値を計算し、稼働停止を判断するために閾値を設定して機器の稼働停止を判断する(S111~S115)。
【0074】
S116,S117:逐次学習処理部13は、前記トリガ計測により得られた加速度データに対して、逐次学習を行う。特に、前記診断対象の稼動停止時の正常な加速度実効値の推移が学習される。
【0075】
S118:診断処理部14は、逐次学習後の学習結果モデルを用いて、診断を行う。
【0076】
S119:診断結果伝送部15は、S118に基づく診断結果を監視制御システム7やクラウドなどに伝送するために、診断結果の伝送処理を実行する。
【0077】
以上の実施例1-4によれば、トリガ機能を用いた稼働開始後データの追加学習による診断精度の向上が図れる。特に、設備の異常診断手法において、稼働停止のタイミングで振動のパターンが変化するような機器に対しても、稼働停止のタイミングのデータを学習することで、診断の精度が向上できる。
【0078】
[実施形態2]
図19に例示の設備異常診断システム2において、異常診断装置1は回転機3や回転体設備5の振動データの計測と診断を実施する。特に、本態様は、診断及び学習の対象データを計測した加速度データから診断や学習に向いているものだけに絞り込み、診断精度を高める。
【0079】
測定対象となる回転機3や負荷など回転体設備5の軸受付近に一つ以上の加速度センサ4が設置される。加速度センサ4の個数は図示の4つに限定されない。加速度センサ4には、加速度データを計測するデータ計測部6が接続される。また、データ計測部6には、異常診断装置1が接続される。異常診断装置1は診断結果の送付先としてSCADAやクラウドシステムなどにつながっていてもよい。
【0080】
異常診断装置1は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により
図20に示した以下の機能部を実装する。
【0081】
データ収集部16は、加速度センサ4から出力された加速度データをデータ計測部6から収集して記憶部10に保存する。
【0082】
データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データを解析して、診断及び学習に向いているか判定し、向いているデータのみを診断及び学習に使用させる。そして、後述のように、加速度データが過渡期と判断されれば診断(及び学習)に向いていないと判定する。さらに、診断及び学習に向く判定を一定の回転周波数範囲だけに絞り込む。
【0083】
学習期間選定部12は、記憶部10から引き出した加速度データを解析して加速度センサ4の出力が安定した期間を学習期間として自動的に選定する。
【0084】
逐次学習処理部13は、学習期間選定部12により選定された学習期間から逐次的に学習データを行う。尚、学習を行うタイミングは異常診断装置1のCPUの性能に依存するため、1日に1個のデータを追加して逐次学習を行ったり、1週間に1個のデータを追加して逐次学習を行ったりしてもよい。また、年変動を抑制するためには最低1年間逐次学習を行う必要があり、1年経過後は逐次学習を継続しても終了しても良い。
【0085】
診断処理部14は、逐次学習処理部13によって学習した学習結果モデルを用いて、現在の加速度データから設備の状態を診断する。
【0086】
診断結果伝送部15は、診断処理部14によって回転機3及び回転体設備5の状態を診断した結果を監視制御システムやクラウドなどに伝送する。
【0087】
(実施例2-1)
図21のフローチャートに基づき実施例2-1の診断処理について説明する。
【0088】
S211:測定対象である回転機3や回転体設備5の軸受に加速度センサ4が設置される。加速度センサ4の出力信号はデータ計測部6及びデータ収集部16を介して回転機3の加速度データとして記憶部10に保存される。この計測された加速データは、データ計測部6及びデータ収集部16を介して記憶部10に保存される。
【0089】
S212:データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データに対して、診断及び学習に使えるデータへの絞り込みを行う。先ず、運転しているか否かを判断する。これは振動実効値の大きさを使えばよい。運転していない場合は診断及び学習の対象から除外する。次に、実施形態1のS112の手法により過渡期かどうかを判断する。概略としては計測した1回の加速度データを1秒ごとに分割し、それぞれを周波数解析して分割した要素ごとの回転周波数を推定して、要素ごとの回転周波数にバラつきがあったら過渡期と判断する。さらに、ここで推定した回転周波数を使って絞り込む。過渡期でなく且つ回転周波数が一定範囲内の値の場合だけを診断及び学習に使えるものとする。
【0090】
S213:S112で過渡期が除去された場合(No)、S211の処理に戻る。一方、診断及び学習に使えるデータであると判断された場合(Yes)、S214の学習期間の選定処理に移行する。
【0091】
S214:診断に使えるデータと判断された場合、学習期間選定部12は、学習期間選定処理を行う。学習期間選定処理は実施形態1のS114と同様の手法に行われる。
【0092】
S215:S214で学習期間が選定されなかった場合(No)、S211の処理に戻る。一方、前記学習期間が選定された場合(Yes)、S216の一年分逐次学習が行われる。
【0093】
S216,S217:S213で学習期間が選定された場合、逐次学習処理部13は、1年間毎日の逐次学習を行う。学習については、実施形態1と同様に特許文献1-3の手法を用いる。異常診断装置1のCPUの性能によっては、1日に1個のデータを学習したり、1週間に1個のデータを学習したりしてもよい。1年間の逐次学習を行った後は年変動の影響がなくなるので、逐次学習を行う必要がないが、継続してもよい。
【0094】
S218:診断処理部14は、S217の学習後のモデルを用いて、現在の加速度データが正常か異常かを判断するために、診断処理を行う。診断処理についても、実施形態1と同様に特許文献1-3の手法を用いる。
【0095】
S219:診断結果伝送部15は、S218で得られた診断結果を監視制御システムやクラウドなどに伝送するために、診断結果の伝送処理を実行する。
【0096】
以上のように、診断及び学習を回転周波数が一定範囲内の値の場合だけに絞っているので、診断指標値の変動が抑制される。
【0097】
(実施例2-2)
実施例2-1のS212の回転数推定処理を変更する。
【0098】
実施例2-1のS212では、計測データの1秒ごと推定回転周波数(過渡期でなければ全て同じ値)を利用したが、実施例2-2では1回の計測データ全体(例えば5秒)から過渡期除去とは別に回転周波数を推定する。これにより実施例2-1より細かい精度で回転周波数を推定でき、診断対象をより一定の条件に絞り込むことができる。
【0099】
(実施例2-3)
実施例2-1及び実施例2-2では、診断対象として絞り込む回転周波数の範囲をどう決定するかは人の知見による。本実施例では、絞り込む回転周波数範囲の決定方法を与える。
【0100】
実施例2-1のS212の処理における絞り込む回転周波数範囲を次のようにする。
【0101】
先ず、初めは絞り込む回転周波数範囲を全体とする。すなわち、最小の回転数から最大の回転数まで診断(及び学習)の対象とする。この際、算出した推定回転周波数を記憶部10に記録しておく。
【0102】
一定の期間(例えば1カ月)が経った時点で診断結果の変動が大きいようなら、記憶部10に記録してあった推定回転周波数を統計処理して最も頻度の高い回転周波数を診断及び学習の対象として絞り込む。この際に診断及び学習の対象の頻度が十分に高くない(例えば運転しているデータ全数の1/4未満の数になる)場合には回転周波数の範囲を上下に広げて診断対象を増やす。尚、診断結果の変動が大きくない場合は、回転周波数の変動が診断結果に大きな影響がないので回転周波数の絞り込みは必要ない。
【0103】
(実施例2-4)
実施例2-3では、回転周波数の絞り込みを開始するか否かの判断と統計処理の実施は人手による。実施例2-4では、前記判断と統計処理がシステムに組み込まれている。
【0104】
実施例2-4の異常診断装置1は、
図22に示したように、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により以下の機能部を実装する。
【0105】
過渡期除去部11、学習期間選定部12、逐次学習処理部13、診断処理部14及び診断結果伝送部15は、実施形態1の過渡期除去部11、学習期間選定部12、逐次学習処理部13、診断処理部14及び診断結果伝送部15と同様の態様である。
【0106】
データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データを絞り込むと共に過渡期でないときの回転周波数を記憶部10に記録する。特に、前記診断対象の加速度データから得られた回転周波数帯域のピーク変動に基づき当該診断対象の稼動状態の過渡期と判断された当該加速度データを前記逐次学習の対象から除外する。また、絞込パラメータ(回転周波数範囲など)を記憶部10から取得する。
【0107】
パラメータ更新部18は、加速度データが一定数(例えば1カ月分)溜まった時に回転周波数を統計処理して最も頻度の高い回転周波数に回転周波数範囲を絞り込み、記憶部10の絞込パラメータを更新する。
【0108】
図23のフローチャートに基づき絞りパラメータの更新処理について説明する。
【0109】
パラメータ更新部18は、通常の診断及び学習の処理とは別途に運用開始から一定期間(例えば1カ月)経った時に実行される。
【0110】
S241:回転周波数のヒストグラムを計算する。
【0111】
S242:最も頻度の高い回転周波数を回転周波数範囲に設定する。
【0112】
S243:回転周波数範囲の頻度が全体の1/4以上なら終了、そうでなければS244に移行する。
【0113】
S244:現在の範囲の上/下の頻度の高い方を回転周波数範囲に取り込み、再度、S243を実行する。
【0114】
図24に、ある設備における2年強の期間で計測したデータから推定した回転周波数の全期間及び最初の1月における回転周波数割合の分布図に示す。同図には、ある設備の2年強の期間での回転周波数分布が示される。
【0115】
これで分かるように、回転周波数は最初の一月でおおよそ正確な分布が得られるとともに、最も頻度の高い回転周波数の頻度は30%ほどもある。診断する回転周波数を絞っても、運転時間の1/3ほどは診断対象となる。この例では運転時刻の割合が50%ほどであり、毎日、1日当たり3~4回の診断が見込める。
【0116】
図25及び
図26に上記と同じある設備における2年強の期間で計測したデータから回転周波数制限なし及び回転周波数19Hzに制限で診断した結果のグラフを示す。これで分かるように、回転周波数を制限しない
図25ではたびたび異常閾値を超える指標値が発生しているが、回転周波数19Hzに制限した
図26の指標値は学習が進んでいない初期を除いて全く異常値を出していない。注意ラインの下にある。
図25でたびたび異常値を示すのは回転数の変化により指標値が大きく変動するためである。
図26で診断する回転周波数を絞り込んだことにより、
図25のような診断異常による誤検知が避けられる。
【0117】
[実施形態3]
特許文献1-3等の異常診断手法を可変速の回転機に適用した場合、センサデータの計測毎に回転周波数が変化するので、正常時のデータでもバラつきが生じ、誤検出されることがある。回転周波数16Hzから20Hzまで可変速な回転機の回転周波数が16Hzと20Hzである場合の周波数解析結果を
図27に例示した。回転周波数が16Hzと20Hzの場合、ピークとなる周波数の位置にズレが生じることや周波数強度が異なることがある。このようなデータをまとめて学習すると正常に診断ができないことがある。
【0118】
これに対して、実施形態2では、回転周波数の分布を作成し、頻度が高い回転周波数のデータのみを学習したり、頻度の割合が高い回転周波数の範囲のデータのみを学習したりすることで、診断の精度を向上させている。
【0119】
しかしながら、頻度が高い回転周波数に絞ってしまうと、診断を行う頻度も絞られてしまうので、回転周波数範囲を広げておく必要がある。頻度の割合が高い回転周波数の範囲を設定するだけでは、精度の良い診断を行うための回転周波数の範囲を自動で設定することは難しいという問題がある。
【0120】
そこで、
図28に示された本実施形態の異常診断装置1aは、実施形態1の異常診断手法において、診断手法の精度を考慮した回転周波数の範囲を自動で設定する。
【0121】
図28,29に例示した異常診断装置1aは、データ絞込部17が追加された点以外は、実施形態1の異常診断装置1と同様の態様であり、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により以下の機能部を実装する。尚、データ絞込部17は、実施形態2のデータ絞込部17とは処理内容が異なる。
【0122】
データ計測部6は、加速度センサ4から出力された加速度データを記憶部10に保存する。
【0123】
データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データに基づき、学習や診断に使用できるかどうかを自動で判断して、加速度データを絞り込む。
【0124】
過渡期除去部11は、記憶部10から引き出した加速度データに基づき、回転機3の稼動状態が過渡期かどうかを判断し、過渡期であれば逐次学習及び診断の対象から除外する。
【0125】
学習期間選定部12は、記憶部10から引き出した加速度データをもとに、センサ出力が安定した期間を学習期間と自動で選定する。
【0126】
逐次学習処理部13は、前記選定された学習期間から逐次的に学習を行う。
【0127】
診断処理部14は、前記学習により得られた学習結果モデルに基づき、現在の加速度データから設備の状態を診断する。
【0128】
診断結果伝送部15は、診断処理部14によって設備の状態を診断した結果を監視制御システムやクラウドなどに伝送する。
【0129】
(実施例3-1)
図30のフローチャートに基づき実施例3-1の診断処理について説明する。本態様の処理フローは、S302以外の処理については、実施形態1の処理フローと同じである。
【0130】
S301:測定対象である回転機3などの軸受に加速度センサ4が設置され、データ計測部6により回転機3の加速度データが計測される。この計測された加速度データは記憶部10に保存される。
【0131】
S302:安定した診断を行うために、データ絞込部17は、記憶部10の加速度データを学習や診断に供するかどうかを、回転周波数を基準にして絞り込む。基本的な考え方は下記の通りである。
【0132】
図27に示したように、回転周波数毎の周波数解析の結果が異なるようなデータを学習及び診断を行うと安定した診断を行うことができない。そこで、回転周波数毎に周波数解析を行い、周波数解析結果の相関を計算して相関値が高い回転周波数の範囲のデータを使用する。処理の例として、回転周波数が16Hzから20Hzまで変化する可変速の回転機3を考える。
(1)
図31に示したように、計測データに対して周波数解析を行い、回転周波数毎にデータを分類する。回転周波数については、周波数解析した結果において、16Hzから20Hzでピークとなった周波数を回転周波数とする。
(2)回転周波数毎に周波数解析結果の平均値を算出する。
(3)回転周波数毎に周波数解析結果の平均値のデータそれぞれの相関値を計算する。相関値の計算結果例を表1に示す。
(4)表1において、相関値の最小値を計算し、その相関値の最小値が0.95以上の回転周波数の範囲のデータに関してS313以降の処理を行う。尚、相関値の最小値の閾値は任意に決めてもよい。
【0133】
【0134】
S303:過渡期除去部11は、計測した加速度データに対して、過渡期かどうかを判断する。過渡期かどうかの判断方法は実施形態1での判断法が適用される。
【0135】
S304:S303で過渡期ではないと判断された場合、学習期間選定部12は、学習期間選定処理を行う。学習期間の選定方法については実施形態1での選定法が適用される。
【0136】
S305:S304で学習期間が選定されなかった場合(No)、S301の処理に戻る。一方、前記学習期間が選定された場合(Yes)、S306の一年分逐次学習が行われる。
【0137】
S306:S305で学習期間が選定された場合、逐次学習処理部13は、1年間毎日の逐次学習を行う。逐次学習においては、実施形態1と同様に例えば特許文献1-3の手法が適用される。一年分の逐次学習が実行されると、S118の診断処理に移行する。
【0138】
S307:1年間分学習されていない場合、逐次学習が実行される。1年間分学習された場合、S118の診断処理が実行される。逐次学習を行う異常診断装置1のCPUの性能によっては、1日に1個のデータを学習したり、1週間に1個のデータを学習したりしても良い。1年間学習を行った後は年変動の影響がなくなるので、逐次学習を行う必要がないが、継続してもよい。
【0139】
S308:診断処理部14は、S307の学習後のモデルを用いて、現在の加速度データが正常か異常かを判断するために、診断処理を行う。診断処理については、特許文献1-3の手法を用いればよい。
【0140】
S309:診断結果伝送部15は、S308で得られた診断結果を監視制御システムやクラウドなどに伝送するために、診断結果の伝送処理を実行する。
【0141】
以上のように、可変速の回転機の診断を行う場合に、安定した診断を行うための回転周波数の範囲を自動で設定することで、診断の精度が向上できる。また、診断するデータを絞り込みによって、除外されるデータの数を最小限にできる。特に、異常診断を行いたい可変速の回転機の加速度のセンサデータから、安定した診断が行える回転周波数のデータを自動で絞り込むことができ、実施形態2と比較しても、精度良く設備の異常状態を診断できる。
【0142】
[実施形態4]
従来の特許文献1-3の異常診断は、先ず、準備フェーズで予め用意した複数の正常な時系列データから診断基準(変換行列と正規化係数)を算出する。
【0143】
これに対し、上述の実施形態2の異常診断装置1は、時間の経過とともに変化しうる正常状態に追従して診断の精度を上げるために、診断に使用した時系列データの一部を新たに学習に使う正常な時系列データに追加して準備フェーズを再実行する(
図20,21)。
図21の診断処理では、逐次学習処理を行ってから診断する流れになっており(S217,S218)、診断と学習を分離することが難しいので、学習段階(準備フェーズ)も異常診断装置で実施することになる。
【0144】
定Q診断において最も重い処理(演算量やメモリ使用量が多い処理)は、準備フェーズの主成分分析である。準備フェーズと診断フェーズの両方で実行される特許文献1-3の定Q変換もそれなりに重い演算処理であり、同文献において、その高速化手法が提案されている。定Q変換の演算量は時系列データの長さで決まるので、同文献のように毎回同じ長さの時系列データを扱う場合、診断フェーズでは毎回ほぼ同等の演算量であり、準備フェーズでは使用する時系列データの数にほぼ比例する演算量となる。
【0145】
主成分分析は、多変量サンプル数に対して2乗オーダー以上に演算量が大きくなり、またメモリ使用量も増大する。多変量サンプル数は、準備フェーズで使用する時系列データ数と比例関係にある。このことから、ある程度多い時系列データ数で準備フェーズを実行するには要求される計算機資源(演算量及びメモリ量)が膨大となる。このため高性能パソコンやクラウドサーバなどの計算機資源に余裕がある環境なら多くの時系列データを使った準備フェーズを問題なく実行可能でも、時系列データを計測する現場機器のそばに配置するために計算機資源が限られる異常診断装置では、対象とする時系列データ数が増えると準備フェーズの実行が困難となる。
【0146】
特許文献1-3の診断であれば、予め十分な計算機資源が確保できる環境で準備フェーズを実行しておき、その診断基準で異常診断装置を運用すれば問題ない。
【0147】
一方、実施形態2の異常診断装置1において、準備フェーズを含む逐次学習処理をしようとすると、異常診断装置に過大な計算機資源(CPU,メモリ)を要求する。このような過大な計算機資源はサイズ、排熱性能、消費電力、価格などの課題があり、全ての異常診断装置に具備することは困難となる。
【0148】
そこで、
図33に示した実施形態4の設備異常診断システム2は、実施形態2の逐次学習及び定Q診断において、逐次学習処理の順序変更と再学習処理の分離を行い、処理の重い準備フェーズ含む再学習処理を異常診断装置1とは別の学習装置21で行う。
【0149】
本態様の設備異常診断システム2は、回転機3の異常診断を行う。回転機3はポンプ、ターボブロワ、水車等の回転体設備5に接続されている。回転機3には加速度センサ4が付帯される。加速度センサ4で検出された回転機3の加速度データはデータ計測部6を介して異常診断装置1に出力される。データ計測部6は、加速度センサ4の出力信号を回転機3の加速度データとして受信して異常診断装置1に出力する。異常診断装置1は加速度データを選別して診断や学習を行う。この際、学習処理は学習装置21に再学習処理を委譲する。また、異常診断装置1は診断結果の送付先として表示装置、監視制御システム、クラウドシステム等の外部システム22につながっていてもよい。
【0150】
異常診断装置1は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により
図34に示した以下の機能を実装する。
【0151】
データ収集部16は、加速度センサ4から出力された加速度データをデータ計測部6から収集して記憶部10に保存する。
【0152】
データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データを解析して、診断及び学習に向いているか判定し、向いているデータのみを診断及び学習に使用させる。そして、後述のように、加速度データが運転していないと判断されたり過渡期と判断されたりすれば診断及び学習に向いていないと判定する。さらに、診断及び学習に向く判定を一定の回転周波数範囲だけに絞り込んでもよい。
【0153】
診断処理部14は、データ絞込部17で診断及び学習に向くと判断された加速度データを診断する。この際、学習に使える十分なデータがなく逐次学習処理部が診断基準データを算出できていない場合は診断対象外として診断結果はなしとする。特に最初はまだ学習されていないので診断対象外である。
【0154】
診断結果伝送部15は、診断処理部14によって回転機3及び回転体設備5の状態を診断した結果を外部システム9に伝送する。
【0155】
学習期間選定部12は、記憶部10から引き出した加速度データを解析して加速度センサ4の出力が安定した期間を学習期間として自動的に選定する。
【0156】
逐次学習処理部13は、学習期間選定部12により選定された学習期間から逐次的に学習データを抽出する。この際、データ絞込部17で診断及び学習に向くと判断された加速度データのみが対象である。また、診断結果が異常な加速度データは除外してもよい。なお、学習対象数や学習のタイミング及び頻度は学習装置21の演算性能に依存するため、1日に1個のデータを追加して逐次学習を行ったり、1週間に1個のデータを追加して逐次学習を行ったりしてもよい。また、年変動を抑制するためには最低1年間逐次学習を行う必要があり、1年経過後は逐次学習を継続しても終了しても良い。尚、学習データを追加した際の実際の学習処理は学習装置21に加速度データを伝送して学習装置21で行う。
【0157】
図35,36のフローチャートに基づき実施例1の診断処理について説明する。
この診断処理は定期的に、あるいはトリガによって実行される。
【0158】
S211:測定対象である回転機3や回転体設備5の軸受に加速度センサ4が設置される。加速度センサ4の出力信号はデータ計測部6及びデータ収集部16を介して回転機3の加速度データとして記憶部10に保存される。
【0159】
S212:データ絞込部17は、記憶部10から引き出した加速度データに対して、診断及び学習に使えるデータへの絞り込みを行う。先ず、運転しているか否かを判断する。これは振動実効値の大きさを使えばよい。運転していない場合は診断及び学習の対象から除外する。次に、実施形態1の方法により過渡期かどうかを判断する。概略としては計測した1回の加速度データを1秒ごとに分割し、それぞれを周波数解析して分割した要素ごとの回転周波数を推定して、要素ごとの回転周波数にバラつきがあったら過渡期と判断する。さらに、ここで推定した回転周波数を使って絞り込む。過渡期でなく且つ回転周波数が一定範囲内の値の場合だけを診断及び学習に使えるものとする。
【0160】
S213:S212で除去された場合(no)、今回の診断処理は終わりである。一方、診断及び学習に使えるデータであると判断された場合(yes)、S451の診断基準の判定に移行する。
【0161】
S251:診断処理部14は、診断基準がある場合(yes)、診断処理S418を実行する。診断基準がない場合(no)、診断なしS452で診断対象外という診断結果を作成する。診断基準は、特許文献1-3の準備フェーズで作成されるものである。診断基準は本態様では逐次学習処理S217で作成する。逐次学習処理S217を実行する前には存在しない可能性があるため、ここで判定する。
【0162】
S252:診断処理部14は、診断基準がない場合、診断対象外という診断結果を作成する。
【0163】
S218:診断処理部14は、診断基準がある場合、現在の加速度データが正常か異常かを判断するために診断処理を行う。この診断処理は特許文献1,2に記述された診断フェーズの処理である。
【0164】
S219:診断結果伝送部15は、S218あるいはS252で得られた診断結果を外部システム22に伝送するために、診断結果の伝送処理を実行する。
【0165】
S212:学習期間選定部12は、学習期間選定処理を行う。学習期間選定処理は実施形態2と同様の手法で行われる。
【0166】
S215:S214で学習期間が選定されなかった場合(no)、今回の診断処理は終わりである。一方、前記学習期間が選定された場合(yes)、S216に進みの一年分まで逐次学習が行われる。
【0167】
S216:S213で学習期間が選定された場合、逐次学習処理部13は、一年間毎日の逐次学習を行う。一年間の逐次学習を行った後は年変動の影響がなくなるので、逐次学習を行う必要がないが、継続してもよい。
【0168】
S217:逐次学習処理部13は、一年間毎日の逐次学習を行う。逐次学習処理部13における逐次学習処理を
図36のフローチャートに記載する。
【0169】
S253:逐次学習処理ではまず初めに学習データの選出を行う。基本的にS212で診断及び学習に使えるデータと判断されたデータは全て学習データとしてよいが、学習装置21のCPU性能によっては、1日に1個のデータを学習したり、1週間に1個のデータを学習したりというように学習データを間引いてもよい。また、学習データがある程度の数ある場合には診断結果が異常なデータも学習データから除外することにしてもよい。
【0170】
S254:S253により新たな学習データが選出されなかった場合(no)、今回の逐次学習処理は終わりである。一方、新たな学習データが選出された場合(yes)、遠隔学習要求(S255)を行う。
【0171】
S255:新たな学習データが選出された場合、逐次学習処理部13は、学習装置21に新たな学習データを送付して遠隔学習を要求する。
【0172】
S256:遠隔学習処理においては、学習装置21は、逐次学習処理部13から新たな学習データを受け付けると、既に保存してある学習データとともに診断基準を再計算する。この処理は例えば特許文献1-3に記載の準備フェーズの手法を用いる。
【0173】
S257:逐次学習処理部13は、学習装置21にて遠隔学習処理の完了を待機し、返された診断基準を受け取る。
【0174】
S258:逐次学習処理部13は、遠隔学習処理から返された診断基準を記憶部10に保存して、今後の診断に利用できるようにする。
【0175】
遠隔学習処理は、学習装置21のCPU性能によっては診断処理の周期より長い演算時間がかかる可能性がある。この場合は学習データ選出処理S253にて選出する学習データを適切に間引いて遠隔学習処理が終わる前に次の遠隔学習処理が呼び出されないようにする。また、この場合は次の診断処理には診断基準の更新が間に合わないので、診断基準が更新されるまでは従前の診断基準を使用する。また診断基準の更新は、診断処理S218で不整合な診断基準が使用されないよう適切に排他制御する。
【0176】
以上の本実施形態によれば、逐次学習及び定Q診断において診断処理と学習処理の順序を整理し、重い学習処理を異常診断装置1とは別の高速な学習装置21に供することで学習処理がさらに高速化する。
【0177】
[実施形態5]
図37に示された実施形態5の設備異常診断システムは、実施形態4の態様において、診断時に作成する多変量サンプル(定Q変換結果)を再利用する。但し、学習装置21はクラウドシステム上など、異常診断装置1から遠く離れた遠隔地に置かれ、異常診断装置1と学習装置21を結ぶネットワーク帯域の都合により伝送するデータ量を削減する必要があることを想定する。
【0178】
診断処理部14は、実施形態4と同様に診断するが、診断処理の際に算出した定Q変換結果の多変量サンプルも診断結果データとともに記憶部10に保存する。
【0179】
逐次学習処理部13は、加速度データと同時に対応する多変量サンプルも読み出す。そして学習データを選出した場合、学習装置21に送信するデータは加速度データではなく対応する多変量サンプルとする。
【0180】
学習装置21は遠隔学習処理を実施する際に定Q変換を省略して前記多変量サンプルから特許文献1-3の準備フェーズの処理を行う。
【0181】
本実施形態の診断処理も上述の
図35,36のフローチャートに基づく。本診断処理は、診断処理(S252,S218,S255,S256)以外は、実施形態4と同様の処理となる。
【0182】
S252:診断処理部14は、診断基準がない場合、診断対象外という診断結果を作成する。また、診断基準がない場合も定Q変換は実施して多変量サンプルを記憶部10に保存する。
【0183】
S218:診断処理部14は、診断基準がある場合、実施形態4と同様に診断するとともに、診断の途中で算出された定Q変換結果の多変量サンプルを記憶部10に保存する。
【0184】
S255:新たな学習データが選出された場合、逐次学習処理部13は、学習装置21に新たな学習データに対応する多変量サンプルを送付して遠隔学習を要求する。
【0185】
S256:遠隔学習処理においては、学習装置21は、逐次学習処理部13から新たな学習データの多変量サンプルを受け付けて学習装置21内に保存し、すでに保存してある学習データ(多変量サンプル)と共に診断基準を再計算する。この処理は例えば特許文献1-3に記載の準備フェーズの手法を用いる。但し、既に定Q変換した多変量サンプルがあるので、定Q変換は省略して主成分分析から処理する。
【0186】
したがって、本態様の診断処理によれば、学習に使うデータを加速度データから診断時に作成した多変量サンプルにして学習時の定Q変換を省略することで学習処理を高速化するとともに、元の加速度データより多変量サンプルのサイズが小さくなることで学習データの伝送負荷を低減する。
【0187】
実施形態5の伝送データ量の削減効果について以下に一例を試算する。
【0188】
51.2kHzで5秒間記録した加速度データは、各値が倍精度浮動小数点数(8バイト)として2MBほど(51200×5×8=2048000)になる。
【0189】
一方、1/6オクターブバンドで6.25Hzから8064Hzまでの周波数帯は63個あり、5秒間のサンプルから100サンプル生成する場合、定Q変換結果の多変量サンプルは50kBほど(63×100×8=50400)である(値は倍精度浮動小数点数)。
【0190】
このため、加速度データから多変量サンプルにすることでデータサイズは1/40になる。例えば、加速度センサの計測値が2バイト整数で取得できて、加速度データが上記の1/4サイズになったとしても、定Q変換結果の多変量サンプルはその1/10になる。このように学習データを多変量サンプルにしてから学習装置21に伝送することで、伝送コストの削減の効果が高まる。
【0191】
[実施形態6]
本実施形態の診断処理は、実施形態4,5の態様において、学習装置21は、マルチレベル定Q診断により再学習を対象データが影響するレベルのみを制限する。
【0192】
学習装置21としては、特許文献3に開示された準備フェーズ及び診断フェーズを実行する異常診断装置が適用される。すなわち、学習装置21は、
図38に示したように、準備フェーズを実行するパラメータ作成部100と、診断フェーズを実行する診断部200と、を実装し、マルチレベル定Q診断を実行する。
【0193】
パラメータ作成部100は、定Q変換部101、主成分分析部102、統計値計算部103及び正規化部104を備える。定Q変換部101は、予め異常診断の診断対象から測定(計測)して収集した時系列データD1を定Q変換して学習の対象となる多変量サンプル(学習サンプル)を作成する。主成分分析部102は、前記多変量サンプルを主成分分析して変換行列を得るとともに各多変量サンプルの主成分得点を計算する。統計値計算部103は、前記主成分得点に基づき多変量サンプルの指標となる統計量を得る。正規化部104は、前記統計量を正規化して異常度とする。
【0194】
診断部200は、定Q変換部201、主成分計算部202、第2の統計値計算部203及び正規化部204を備える。定Q変換部201は、新たに測定された時系列データD2を定Q変換して多変量サンプルを作成する。主成分計算部202は、前記多変量サンプルから主成分分析部102で得られた変換行列に基づき主成分得点を得る。第2の統計値計算部203は、前記主成分得点に基づき統計量を得る。正規化部204は、前記統計量を正規化部104で使用した正規化係数により正規化して異常度を計算する。そして、診断部200は、前記異常度に基づき異常診断対象の異常を診断する。
【0195】
本実施形態の診断処理は、遠隔学習処理(S256)以外は、
図35,36のフローチャートに基づく実施形態4,5と同様の処理となる。以下、本実施形態の遠隔学習処理(S256)について説明する。
【0196】
S256:マルチレベル定Q診断は、時系列データのレベルごとに同一レベルあるいは近接するレベルの多変量サンプルを主成分分析して診断基準を作成する。このとき、新たな学習データを一つ追加したときに更新される診断基準は同一あるいは近接する数個のレベルの診断基準のみである。
【0197】
したがって、新たな学習データを追加した際に再学習する診断基準を、同一あるいは近接する数個のレベルの診断基準だけに限定することで再学習の処理は軽減される。特に、マルチレベル定Q診断を行う際に、新たな学習データが選出された場合の再学習処理を新たな学習データが診断基準に影響を与える近接するレベルの範囲に限定することで、再学習が効率化する。
【符号の説明】
【0198】
1,1a…異常診断装置
2…設備異常診断システム
3…回転機
4…加速度センサ
5…回転体設備
6…データ計測部
7…監視制御システム
8…トリガ計測部
10…記憶部
11…過渡期除去部
12…学習期間選定部
13…逐次学習処理部
14…診断処理部
15…診断結果伝送部
16…データ収集部
17…データ絞込部
18…パラメータ更新部
21…学習装置、100…パラメータ作成部、101…定Q変換部、102…主成分分析部、103…統計値計算部、104…正規化部、200…診断部、201…定Q変換部、202…主成分計算部、203…第2の統計値計算部、204…正規化部
22…外部システム