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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021017920
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022120890
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 泰造
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184759(JP,A)
【文献】特開平02-123387(JP,A)
【文献】特開2010-113206(JP,A)
【文献】特開2007-206178(JP,A)
【文献】特開2002-162776(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102380(WO,A1)
【文献】特開2016-184012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に形成されたトナーの像を前記記録媒体に定着させる定着装置であって、
定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する加熱部材と、
前記定着ベルトに接触する第1加圧部材と、
前記定着ベルトを介して前記第1加圧部材を押圧し、前記定着ベルトとの間に定着ニップを形成する第2加圧部材とを備え、
前記トナーは、樹脂と、前記樹脂に分散された着色剤と、離型剤とを含み、前記離型剤はワックスを含み、
前記第1加圧部材は、前記定着ニップの入口から、前記定着ニップを通過する前記トナーの温度が前記トナーを構成する前記樹脂の軟化点温度に到達するまでの時間に相当する範囲において、平坦な形状の表面を有し、
前記定着ニップの入口から、前記定着ニップの面圧が、前記定着ベルトが変形して前記記録媒体の表面の凹部に接触するために必要な面圧である凹凸追従必要圧に到達するまでの時間を、第1の時間とし、前記定着ニップの入口から、前記定着ニップを通過する前記トナーの温度が、前記離型剤に含まれる前記ワックスの融点に到達するまでの時間を、前記第1の時間よりも短い第2の時間とするように構成された、定着装置。
【請求項2】
前記定着ニップの入口から、前記定着ニップを通過する前記トナーの温度が、前記軟化点温度に到達するまでの時間を、前記第1の時間よりも長い第3の時間とするように構成された、請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着ニップの入口から前記第3の時間が経過した時点での前記定着ニップの面圧を、前記凹凸追従必要圧よりも高く維持するように構成された、請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
記録媒体上にトナーの像を形成する画像形成部と、
前記トナーの像を前記記録媒体に定着させる、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の定着装置とを備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-184759号公報(特許文献1)には、パッド定着方式の定着装置が開示されている。定着装置は、定着ベルトと、定着ベルトに対向する対向面を含む定着パッドと、定着ベルトを介して定着パッドと対向して配置され定着パッドと定着ニップ部を形成する加圧ローラーとを備えている。対向面は、記録媒体の搬送方向の下流側に向かうにつれて加圧ローラーの中心に近づくように凹状に湾曲する曲面部と、曲面部に対して記録媒体の搬送方向の下流側に設けられ搬送方向の下流側に向かうにつれて加圧ローラーの中心から離れる延長部とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-184759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載の定着パッドは、記録媒体の搬送方向における定着ニップ部の下流側で加圧ローラーに対して凸の形状を有している。定着ニップ部の圧力が最も高くなる位置を搬送方向における下流側にすることで、トナーの溶融の効率の向上を図っている。
【0005】
しかし、定着パッドの凸部において記録媒体の表面の凹凸に対する定着ベルトの追従性が悪くなり、トナーの溶融不足が発生する場合がある。定着ニップ部において、特に定着ニップ部の入口付近で、定着パッドと定着ベルトとの摺動抵抗により未定着のトナーが記録媒体に対して相対移動すると、記録媒体の下地が露出することで画像の濃度が低下する。
【0006】
本開示では、画像品質を向上できる定着装置および画像形成装置が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従うと、記録媒体上に形成されたトナーの像を記録媒体に定着させる定着装置が提案される。定着装置は、定着ベルトと、定着ベルトを加熱する加熱部材と、定着ベルトに接触する第1加圧部材と、定着ベルトを介して第1加圧部材を押圧し、定着ベルトとの間に定着ニップを形成する第2加圧部材とを備えている。定着ニップの入口から、定着ニップの面圧が、定着ベルトが変形して記録媒体の表面の凹部に接触するために必要な面圧である凹凸追従必要圧に到達するまでの時間を、第1の時間とし、定着ニップの入口から、定着ニップを通過するトナーの温度が、定着ベルトと第1加圧部材との摺動抵抗による記録媒体に対するトナーの相対移動が発生しないために必要な温度に到達するまでの時間を、第1の時間よりも短い第2の時間とするように、定着装置は構成されている。
【0008】
上記の定着装置は、定着ニップの入口から、定着ニップを通過するトナーの温度が、トナーが記録媒体に十分定着するために必要な温度に到達するまでの時間を、第1の時間よりも長い第3の時間とするように、構成されてもよい。
【0009】
上記の定着装置は、定着ニップの入口から第3の時間が経過した時点での定着ニップの面圧を、凹凸追従必要圧よりも高く維持するように、構成されてもよい。
【0010】
上記の定着装置において、記録媒体に対するトナーの相対移動が発生しないために必要な温度は、トナーの形状の変化が起こり始める温度であってもよい。
【0011】
上記の定着装置において、トナーは離型剤を含み、離型剤はワックスを含み、記録媒体に対するトナーの相対移動が発生しないために必要な温度は、ワックスの融点であってもよい。
【0012】
上記の定着装置において、第1加圧部材は、定着ニップの入口から、定着ニップを通過するトナーの温度が記録媒体に十分定着するのに必要な温度に到達するまでの時間に相当する範囲において、平坦な形状の表面を有してもよい。
【0013】
本開示に従うと、記録媒体上にトナーの像を形成する画像形成部と、トナーの像を記録媒体に定着させる上記のいずれかの局面の定着装置とを備える、画像形成装置が提案される。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る定着装置および画像形成装置によれば、画像品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に従う画像形成装置の全体構成を概略的に示す図である。
図2図1に示される画像形成装置の定着装置を示す概略図である。
図3】定着パッドの断面形状を示す拡大断面図である。
図4】用紙の搬送方向における定着ニップ内の圧力分布を示すグラフである。
図5】用紙の搬送方向における定着ニップ内の温度変化を示すグラフである。
図6】ニップ入口におけるトナーの状態を示す模式図である。
図7】トナーワックス融点に到達したときのトナーの状態を示す模式図である。
図8】必要圧到達時間が経過したときのトナーの状態を示す模式図である。
図9】トナー樹脂軟化点に到達したときのトナーの状態を示す模式図である。
図10】必要圧保持時間が経過したときのトナーの状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示に係る定着装置および画像形成装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0017】
[画像形成装置100の構成]
図1は、実施形態に従う画像形成装置100の全体構成を概略的に示す図である。以下では、カラープリンターとしての画像形成装置100について説明するが、画像形成装置100は、カラープリンターに限定されない。たとえば、画像形成装置100は、モノクロプリンターであってもよいし、ファックスであってもよいし、スキャナー、プリンターおよびコピー機の機能を有する複合機(MFP:Multi-Functional Peripheral)であってもよい。
【0018】
画像形成装置100は、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、中間転写ベルト30と、一次転写ローラー31と、二次転写ローラー33と、カセット37と、従動ローラー38と、駆動ローラー39と、タイミングローラー40と、定着装置50と、制御装置101と、筐体102とを備えている。
【0019】
筐体102は、画像形成装置100の外殻を規定している。筐体102は、内部に、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、中間転写ベルト30と、一次転写ローラー31と、二次転写ローラー33と、カセット37と、従動ローラー38と、駆動ローラー39と、タイミングローラー40と、定着装置50と、制御装置101とを収容している。
【0020】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kと、中間転写ベルト30と、一次転写ローラー31と、二次転写ローラー33と、カセット37と、従動ローラー38と、駆動ローラー39と、タイミングローラー40とによって画像形成部が構成される。この画像形成部は、後述する搬送経路41に沿って搬送される記録媒体としての用紙S上にトナー画像を形成する。
【0021】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト30に沿って順に並べられている。画像形成ユニット1Yは、トナーボトル15Yからトナーの供給を受けてイエロー(Y)のトナーの像を形成する。画像形成ユニット1Mは、トナーボトル15Mからトナーの供給を受けてマゼンタ(M)のトナーの像を形成する。画像形成ユニット1Cは、トナーボトル15Cからトナーの供給を受けてシアン(C)のトナーの像を形成する。画像形成ユニット1Kは、トナーボトル15Kからトナーの供給を受けてブラック(BK)のトナーの像を形成する。
【0022】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、それぞれ、中間転写ベルト30に沿って中間転写ベルト30の回転方向の順に配置されている。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、それぞれ、感光体10と、帯電装置11と、露光装置12と、現像装置13と、クリーニング装置17とを備えている。
【0023】
帯電装置11は、感光体10の表面を一様に帯電する。露光装置12は、制御装置101からの制御信号に応じて感光体10にレーザー光を照射し、入力された画像パターンに従って感光体10の表面を露光する。これにより、入力画像に応じた静電潜像が感光体10上に形成される。
【0024】
現像装置13は、現像ローラー14を回転させながら、現像ローラー14に現像バイアスを印加し、現像ローラー14の表面にトナーを付着させる。これにより、トナーが現像ローラー14から感光体10に転写され、静電潜像に応じたトナーの像が感光体10の表面に現像される。
【0025】
感光体10と中間転写ベルト30とは、一次転写ローラー31を設けている部分で互いに接触している。一次転写ローラー31は、ローラー形状を有し、回転可能に構成される。トナーの像と反対極性の転写電圧が一次転写ローラー31に印加されることによって、トナーの像が感光体10から中間転写ベルト30に転写される。イエロー(Y)のトナーの像、マゼンタ(M)のトナーの像、シアン(C)のトナーの像、およびブラック(BK)のトナーの像が順に重ねられて感光体10から中間転写ベルト30に転写される。これにより、カラーのトナーの像が中間転写ベルト30上に形成される。
【0026】
トナーは、樹脂と、樹脂に分散された着色剤とを含む。樹脂としては、従来公知の材料を特に限定されることなく用いることができ、たとえば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル系共重合樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、または、酢酸ビニル樹脂等を挙げることができる。トナーは、樹脂および着色剤以外に、離型剤を含む。離型剤は、ワックスを含む。ワックスとしては、従来公知の材料を特に限定されることなく用いることができ、たとえば、合成エステルワックスを挙げることができる。
【0027】
中間転写ベルト30は、従動ローラー38および駆動ローラー39に張架されている。駆動ローラー39は、たとえばモーター(図示しない)によって回転駆動される。中間転写ベルト30および従動ローラー38は、駆動ローラー39に連動して回転する。これにより、中間転写ベルト30上のトナーの像が二次転写ローラー33に搬送される。
【0028】
クリーニング装置17は、感光体10に圧接されている。クリーニング装置17は、トナーの像の転写後に感光体10の表面に残留するトナーを回収する。
【0029】
筐体102の底部のカセット37には、用紙Sがセットされる。用紙Sは、画像形成装置100において形成される画像を記録するために用いられる記録媒体の一例である。記録媒体は、普通紙、印画紙、厚紙、封筒などの紙製の記録媒体であってもよく、OHP(オーバーヘッド・プロジェクター)用紙などの樹脂製の記録媒体であってもよい。用紙Sは、カセット37から1枚ずつ、タイミングローラー40によって、搬送経路41に沿って二次転写ローラー33に送られる。
【0030】
二次転写ローラー33は、ローラー形状を有し、回転可能に構成されている。二次転写ローラー33は、トナーの像と反対極性の転写電圧を搬送中の用紙Sに印加する。これにより、トナーの像は、中間転写ベルト30から二次転写ローラー33に引き付けられ、中間転写ベルト30上のトナーの像が用紙Sに転写される。一次転写ローラー31、中間転写ベルト30,および二次転写ローラー33は、トナーの像を感光体10から用紙Sに転写する転写部に相当する。
【0031】
二次転写ローラー33への用紙Sの搬送タイミングは、中間転写ベルト30上のトナーの像の位置に合わせてタイミングローラー40によって調整される。タイミングローラー40により、中間転写ベルト30上のトナーの像は、用紙Sの適切な位置に転写される。
【0032】
定着装置50は、自身を通過する用紙Sを加圧および加熱する。これにより、用紙S上のトナーの像が用紙Sに定着する。このように、定着装置50は、搬送経路41に沿って搬送される用紙S上に形成されたトナーの像を、用紙Sに定着させる。トナーの像が定着された用紙Sは、トレイ48に排紙される。
【0033】
なお、上述では、印刷方式としてタンデム方式を採用している画像形成装置100について説明したが、画像形成装置100の印刷方式は、タンデム方式に限定されない。画像形成装置100内における各構成の配置は、採用される印刷方式に従って適宜変更され得る。画像形成装置100の印刷方式として、ロータリー方式または直接転写方式が採用されてもよい。ロータリー方式の場合、画像形成装置100は、1つの感光体10と、同軸上で回転可能に構成される複数の現像装置13で構成される。画像形成装置100は、印刷時には、各現像装置13を感光体10に順に導き、各色のトナーの像を現像する。直接転写方式の場合、画像形成装置100は、感光体10上に形成されたトナーの像が用紙Sに直接転写される。
【0034】
[定着装置50の構成]
続いて、定着装置50の構造について詳細に説明する。図2は、図1に示される画像形成装置100の定着装置50を示す概略図である。
【0035】
図2に示されるように、定着装置50は、加圧ローラー51と、無端状の定着ベルト52と、定着ヒーター54を有する加熱ローラー53と、定着パッド56とを主に有している。
【0036】
加圧ローラー51は、定着ベルト52の外側に配置されている。加圧ローラー51は、定着パッド56に対向している。加圧ローラー51は、図示しない付勢部材の付勢力により、定着ベルト52を間に挟み込んで定着パッド56を加圧する。これにより、定着ベルト52が定着パッド56に押圧される。加圧ローラー51は、定着ベルト52を介して定着パッド56を押圧する。
【0037】
加圧ローラー51が定着パッド56の形状にならうように圧縮変形することで、加圧ローラー51と定着ベルト52との間に、加圧ローラー51と定着ベルト52との接触領域である定着ニップ57が形成される。定着パッド56は、実施形態の第1加圧部材に相当する。加圧ローラー51は、実施形態の第2加圧部材に相当する。
【0038】
加圧ローラー51は、たとえば、芯金、表層、および離型層で構成されている。芯金は、アルミニウムまたは鉄鋼などの金属製であり、中空円筒形状を有している。表層は、芯金の外周面を被覆している。表層は、たとえばシリコーンゴムなどの弾性層である。離型層は、表層を覆うように設けられている。離型層は、たとえば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などによって構成されている。
【0039】
加圧ローラー51は、駆動モーター69からのトルクによって、図2中に示される矢印AR1方向に回転する。加圧ローラー51の回転に伴って、定着ベルト52が、図2中に示される矢印AR3方向に周回する。加圧ローラー51が回転することにより、定着ベルト52は、加圧ローラー51の回転方向と反対方向に回転する。加熱ローラー53は、定着ベルト52の周回運動に伴って、図2中に示される矢印AR4方向に回転する。
【0040】
加圧ローラー51は、定着ベルト52を従動回転させることによって、用紙Sを搬送する。定着パッド56および加圧ローラー51は、未定着のトナーTを担持した用紙Sを定着ニップ57で挟持して、所定の搬送方向に搬送しながら用紙Sを加熱および加圧する。用紙Sが定着ニップ57を通過する間にトナーTが加熱および加圧されることにより、用紙S上に形成されたトナーTが溶融して、トナーTの像が用紙Sに定着する。
【0041】
加圧ローラー51の軸方向(図2においては、紙面垂直方向)の長さは、使用可能な最大サイズの用紙Sの幅よりも長い。これは、定着ベルト52、加熱ローラー53および定着パッド56についても、同様である。なお、搬送経路41に沿う用紙Sの搬送方向を、図2中に矢印AR2で示す。用紙Sの幅とは、搬送方向に直交しかつ用紙Sの厚み方向に直交する方向(図2においては、紙面垂直方向)における用紙Sの寸法をいう。
【0042】
定着ベルト52は、無端状に形成されている。定着ベルト52の周回経路の内側に、定着パッド56、加熱ローラー53およびベルトガイド部材58が配置されている。定着ベルト52は、定着パッド56、加熱ローラー53およびベルトガイド部材58に、回転可能にかけ回されている。
【0043】
定着ベルト52は、基層と、基層を被覆する弾性層と、弾性層を被覆する離型層とを有している。基層は、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、銅などの金属、または、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミドなどの樹脂で形成されてもよい。弾性層は、シリコーンゴムまたはフッ素ゴムなどの耐熱性の高い材料で形成されてもよい。離型層は、フッ素樹脂またはフッ素系コーティングなどの、離型性を付与した構成であってもよい。
【0044】
加熱ローラー53は、定着ベルト52の内側に配置されている。加熱ローラー53は、定着パッド56から離れた位置に配置されている。加熱ローラー53は、アルミニウムまたはSUSなどの金属材料製の芯金を有している。芯金は、中空円筒形状を有している。芯金の外周面に、異物などによる外周面の傷の発生を抑制するために、PTFEなどをコーティングしてもよい。芯金の外周面に、耐熱離型層を被覆してもよい。
【0045】
芯金の内部に、定着ベルト52を加熱する加熱部材としての定着ヒーター54が配置されている。加熱ローラー53は、定着ヒーター54を内蔵している。定着ヒーター54は、芯金を内側から加熱する。定着ヒーター54の発生する熱は、加熱ローラー53を介して、定着ベルト52に伝達され、さらに、定着ベルト52を介して、定着ニップ57を通過する用紙Sに伝達される。
【0046】
定着ヒーター54は、たとえばハロゲンヒーターである。定着ヒーター54としてハロゲンヒーターを用いる場合、芯金の内周面を黒色にしてもよい。定着ベルト52を加熱する加熱部材は、ハロゲンヒーターの他に、誘導加熱式ヒーターまたはカーボンヒーターであってもよく、加熱ローラー53および定着ベルト52を抵抗発熱体として発熱させるものを利用してもよい。
【0047】
定着パッド56は、定着ベルト52の内側に配置されている。定着パッド56は、定着ベルト52を間に挟んで加圧ローラー51に対向するように配置されている。定着パッド56は、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、または液晶ポリマーなどの、耐熱性の樹脂で形成されている。定着パッド56は回転不能であり、回転する定着ベルト52は定着パッド56の表面に対して摺動する。
【0048】
図3は、定着パッド56の断面形状を示す拡大断面図である。図2および図3に示されるように、定着パッド56は、定着ベルト52の内周面に接触する接触面80と、支持部材55に当接する支持面81とを有している。接触面80は、定着ベルト52の内周面に対向している。加圧ローラー51は、接触面80の表面形状にならうように弾性変形する。
【0049】
接触面80は、用紙Sの搬送方向の上流側から下流側に向かって順に、凸曲面状の第3面74と、平坦な形状の第1面71と、平坦な形状の第2面72とを有している。ここでいう「平坦」とは、おおよそ平坦であることを意味するものであり、微小な曲率を有し僅かに湾曲する面も「平坦」に含まれるものとする。定着装置50に封筒が通紙される場合に、封筒にシワが発生しない程度の湾曲であれば、平坦に含まれるものとしてもよい。
【0050】
第1面71を延長した仮想平面95と、第2面72を延長した仮想平面96とは、接触面80が加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって交差している。第1面71と第2面72とは、互いに交差している。接触面80は、全体として、加圧ローラー51に向かって突出するように形成されている。第1面71と第2面72とが交わる凸部73が、接触面80が最大に突出する突出端となっている。
【0051】
凸部73は、用紙Sの搬送方向における定着ニップ57の上流側の始端であるニップ入口57Aと、搬送方向における定着ニップ57の下流側の終端であるニップ出口57Bとの間に設けられている。ニップ入口57Aは、定着ニップ57を通過する用紙SおよびトナーTへの圧力の付与が生じ始める開始端である。ニップ出口57Bは、定着ニップ57を通過する用紙SおよびトナーTへの圧力の付与が終了する終了端である。
【0052】
第1面71は、ニップ入口57Aと凸部73との間の平坦な面を含む。第2面72は、凸部73とニップ出口57Bとの間の平坦な面を含む。搬送方向において、第1面71は凸部73よりも上流側に位置し、第2面72は凸部73よりも下流側に位置している。凸部73は、搬送方向における第1面71の下流端を構成する。凸部73は、搬送方向における第2面72の上流端を構成する。
【0053】
凸部73は、定着ニップ57の後半部分に設けられている。用紙Sの搬送方向における第1面71の長さは、用紙Sの搬送方向における第2面72の長さよりも長い。凸部73は、定着ニップ57の出口側に配置されている。用紙Sの搬送方向における、ニップ入口57Aから凸部73までの長さが、凸部73からニップ出口57Bまでの長さよりも、長くなっている。第1面71は、用紙Sの搬送方向の下流側に向かうに従って、加圧ローラー51側へ次第に突出している。第2面72は、用紙Sの搬送方向の下流側に向かうに従って、加圧ローラー51の中心から離れている。定着ニップ57における圧力は、ニップ入口57Aから凸部73に近づくにつれて大きくなり、凸部73からニップ出口57Bに近づくにつれて小さくなる。
【0054】
第3面74は、平面状の第1面71を用紙Sの搬送方向の上流側に延長した仮想平面95よりも、搬送経路41から遠ざかる方向に、第1面71の上流端91から延伸した曲面である。第2面72の下流端98より搬送方向の下流側においても、定着パッド56は、曲面形状の表面を有している。
【0055】
図2に戻って、定着パッド56は、支持面81において、支持部材55により支持されている。支持部材55は、金属、たとえば、アルミニウムを材料として形成されている。支持部材55は、定着ベルト52の幅方向(図2においては紙面垂直方向)に沿って見た場合に、角張ったU字形状を有している。支持部材55は、U字形状の先端側が加圧ローラー51と反対側を向くように配置されている。支持部材55におけるU字形状の底部と、定着ベルト52の回転方向の上流側におけるU字形状の腕部とに、定着パッド56が支持されている。定着ベルト52の回転方向の下流側におけるU字形状の腕部に、ベルトガイド部材58が支持されている。
【0056】
支持部材55は、加圧ローラー51により圧力を受ける定着パッド56の変形を抑制することで、加圧ローラー51の軸方向(図2においては紙面垂直方向)で均一な幅の定着ニップ57を得られるようにしている。
【0057】
[定着装置50の動作の設定]
以上の構成を備えている定着装置50について、良好な画像品質を得るための動作の設定について説明する。図4は、用紙Sの搬送方向における定着ニップ57内の圧力分布を示すグラフである。図4の横軸は、用紙Sの搬送方向における、定着ニップ57内の(ニップ入口57Aからニップ出口57Bまでの)位置を示す。図4の縦軸に示されるニップ面圧(軸方向平均)とは、加圧ローラー51が定着パッド56を押圧する荷重を受ける定着ニップ57内の単位面積当たりに加わる圧力を、加圧ローラー51の軸方向において平均した結果を示す。
【0058】
ニップ面圧は、加圧ローラー51による荷重付与中にシート状の圧力センサ(たとえば、ニッタ社製のタクタイルセンサ)を定着ニップ57内に挟み込ませることにより、計測することができる。用紙Sが定着ニップ57を通過する時間は、用紙Sの搬送速度、および、ニップ面圧の計測結果から算出することができる。
【0059】
図4のグラフ中の横軸に平行な破線は、定着ニップ57内において加圧ローラー51が定着パッド56を押圧する荷重により定着ベルト52の表面の弾性層が変形して用紙Sの表面の凹部に接触するために必要な面圧(以下、凹凸追従必要圧Pと称する)を示す。用紙Sは複数の長い繊維が絡み合って構成されているため、絡み合う繊維と繊維との間に凹型の空隙(凹部)が形成される。一般的な普通紙においても表面に凹凸が存在する。エンボス紙は普通紙よりも大きい凹凸を有する。
【0060】
凹凸追従必要圧Pは、定着ベルト52の表面が、通紙可能な各種類の用紙Sの表面における凹凸高さのうちの最大値に対応する変形をするために必要な圧力である。定着装置50に、普通紙のみが通紙されることが想定されている場合と、普通紙とエンボス紙との両方が通紙されることが想定されている場合とでは、凹凸追従必要圧Pは異なり、後者の方が凹凸追従必要圧Pが高くなる。凹凸追従必要圧Pは、定着ベルト52の表面の弾性層の硬度、用紙Sの表面の凹凸高さ、用紙Sの表面の凹凸の搬送方向における周期から、計算機シミュレーションまたは実測により求めることができる。
【0061】
図4に示されるように、ニップ面圧は、ニップ入口(図4中の点A。図3に示されるニップ入口57Aに相当)から用紙Sの搬送方向に増加し、凹凸追従必要圧Pよりも大きくなるまで増加する。図4中の点Bは、計測ばらつきを考慮しても確実にニップ面圧が凹凸追従必要圧P以上に保たれる領域の上流端の、搬送方向の位置を示す。定着ニップ57内を搬送される用紙Sが点A(ニップ入口)から点Bに到達するまでの時間を、必要圧到達時間t1と称する。必要圧到達時間t1は、実施形態の第1の時間に相当する。
【0062】
図4中の点Cは、計測ばらつきを考慮しても確実にニップ面圧が凹凸追従必要圧P以上に保たれる領域の下流端の、搬送方向の位置を示す。定着ニップ57内を搬送される用紙Sが点Bから点Cに到達するまでの時間を、必要圧保持時間t2と称する。
【0063】
点Bと点Cとの間に、ニップ面圧が最大値となる点が存在する。図4に示されるように、ニップ面圧は、ニップ入口から点Bに至るまで急に増加し、点Bから最大圧力に至るまで緩やかに増加し、最大圧力に至った後点Cまで緩やかに減少し、点Cから急に減少する分布をとる。
【0064】
必要圧到達時間t1および必要圧保持時間t2は、定着パッド56の形状および寸法、加圧ローラー51の外周面の硬度、加圧ローラー51の寸法、加圧ローラー51が定着パッド56を押圧する荷重から、求めることができる。
【0065】
図5は、用紙Sの搬送方向における定着ニップ57内の温度変化を示すグラフである。図5の横軸は、図4と同様に、用紙Sの搬送方向における、定着ニップ57内の(ニップ入口57Aからニップ出口57Bまでの)位置を示す。図5の縦軸は、定着ニップ57内の各位置における温度を示す。図5においては、定着ベルト52の表面の温度が実線で、用紙S上のトナーTの温度が一点鎖線で、用紙Sの表面の温度が二点鎖線で図示されている。
【0066】
用紙Sが定着ニップ57を通過する間のトナーTの温度および用紙Sの表面の温度の推移は、計算機シミュレーションで求めることができる。トナーTの温度および用紙Sの表面の温度は、定着ヒーター54の制御方法、定着ヒーター54から加熱ローラー53への熱伝達量、加熱ローラー53から定着ベルト52への熱伝達量などの定着装置50の物性および構造、ならびにトナーTの物性値から、求めることができる。または、定着ベルト52に接触する側の表面に所定の温度センサ、たとえば熱電対など、を固定した用紙Sを定着ニップ57に通過させることにより、トナーTの温度および用紙Sの表面の温度を実測することができる。
【0067】
図5のグラフ中の横軸に平行な2つの破線のうち横軸に近い側の線は、トナーTに含まれる離型剤に含まれるワックスの融点(以下、トナーワックス融点Twmと称する)を示す。図5のグラフ中の横軸に平行な2つの破線のうち横軸から離れる側の線は、トナーTを構成する樹脂の軟化点温度(以下、トナー樹脂軟化点Tmと称する)を示す。
【0068】
トナーワックス融点Twmは、トナー樹脂軟化点Tmより低く、定着ベルト52と定着パッド56との摺動抵抗によるせん断力が働くことで用紙Sに対するトナーTの相対移動が発生しない程度に、トナーTに含まれるワックスが溶融する温度であればよい。適度にトナーTが溶融する前にトナーTに大きなせん断力が作用するとトナーTの相対移動が発生するため、これを防止する目的である。トナーTの温度は、トナーTが適度に溶融していることを確認するための指標として用いられる。トナーTの温度は、用紙S上に形成されるトナーTの層の厚み方向における中心の温度であってもよい。トナーTの温度は、トナーTと用紙Sとの界面の温度であってもよい。
【0069】
トナー樹脂軟化点Tmは、トナーTが完全に溶融するための条件として既定される。トナーTの表面に接触する定着ベルト52からの伝熱によりトナーTと用紙Sとの界面の温度がトナー樹脂軟化点Tm以上であれば、トナーTが用紙Sに十分定着しているとの考えである。トナーTと用紙Sとの界面の温度は、用紙Sの表面の凹凸形状の凹部における温度に限定してもよい。凹部内に存在するトナーTが完全に用紙Sに固着していない状態でのせん断力の作用でトナーTが相対移動することを防止する目的である。
【0070】
トナーワックス融点Twmとトナー樹脂軟化点Tmとは、トナーTに含まれる樹脂およびワックスの種類、トナーT中に含有されるワックスの比率、トナーTの粒子径などの、トナーTの物性値に従って決定される。なお、トナーTの温度がトナーワックス融点Twm以上トナー樹脂軟化点Tm以下の間は、加圧ローラー51の押圧によるトナーTを用紙Sに対して固着させる力が、せん断力によるトナーTを用紙Sに対して相対移動させる力よりも大きくなる。
【0071】
図5中の点A,B,Cは、図4を参照して説明した通りである。点Dは、トナーTの温度を示す曲線とトナーワックス融点Twmとの交点であり、トナーTの温度がトナーワックス融点Twmに到達する位置を示す。点Eは、トナーTの温度を示す曲線とトナー樹脂軟化点Tmとの交点であり、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達する位置を示す。
【0072】
図5に示されるように、定着装置50は、定着ニップ57を通過するトナーTの温度がトナーワックス融点Twmに到達するまでの時間が、必要圧到達時間t1よりも短くなるように設定されている。図4,5に示される点Aから点BまでトナーTが搬送される所要時間が、図5に示される点Aから点DまでトナーTが搬送される所要時間よりも長く設定されている。定着装置50は、ニップ入口57Aから面圧が凹凸追従必要圧Pに到達するまでの時間が、定着ニップ57を通過中のトナーTの温度が用紙Sに対するトナーTの相対移動が発生しないために必要な温度に到達するまでの時間より長くなるように、構成されている。ニップ入口57Aから、定着ニップ57を通過するトナーTの温度がトナーワックス融点Twmに到達するまでの時間は、実施形態の第2の時間に相当する。
【0073】
定着装置50は、定着ニップ57を通過するトナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間が、必要圧到達時間t1よりも長くなるように設定されている。トナーTがニップ入口57Aに到達してから、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間は、定着ニップ57を通過中のトナーTが用紙Sに十分定着するのに必要な時間であるといえる。図4,5に示される点Aから点BまでトナーTが搬送される所要時間が、図5に示される点Aから点EまでトナーTが搬送される所要時間よりも短く設定されている。定着装置50は、ニップ入口57Aから面圧が凹凸追従必要圧Pに到達する迄の時間が、定着ニップ57内を通過中のトナーTの温度が用紙Sに対して十分定着するのに必要な温度に到達するまでの時間より短くなるように、構成されている。ニップ入口57Aから、定着ニップ57を通過するトナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間は、実施形態の第3の時間に相当する。
【0074】
定着装置50は、必要圧到達時間t1と必要圧保持時間t2との合計が、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間よりも長くなるように設定されている。図4,5に示される点Aから点CまでトナーTが搬送される所要時間が、図5に示される点Aから点EまでトナーTが搬送される所要時間よりも長く設定されている。定着装置50は、ニップ入口57Aから凹凸追従必要圧Pを維持する時間が、定着ニップ57内を通過中の用紙Sの表面(トナーTの像が形成されている画像面)の温度が、トナーTの温度が用紙Sに対して十分定着するのに必要な温度に到達するまでの時間より長くなるように、構成されている。定着装置50は、ニップ入口57Aから定着ニップ57内を通過中のトナーTの温度が用紙Sに対して十分定着するのに必要な温度に到達するまでの時間が経過した時点での定着ニップ57の面圧を、凹凸追従必要圧Pよりも高く維持するように、構成されている。
【0075】
図3を併せて参照して、定着パッド56の接触面80は、平坦な形状の第1面71を有している。第1面71は、用紙Sの搬送方向に対して平行に延びている。第1面71は、用紙Sの搬送方向に対して湾曲していない。定着パッド56は、ニップ入口57Aから、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間に相当する範囲において、平坦な形状の表面を有している。定着パッド56は、ニップ入口57Aから、定着ニップ57内を通過中のトナーTの温度が用紙Sに十分定着するのに必要な温度に到達するまでの範囲において、平坦な形状の表面を有している。
【0076】
必要圧保持時間t2は、変更可能である。必要圧保持時間t2の終了時の定着ニップ57内の位置(図4,5に示される点Cに相当)が、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tm以上になる定着ニップ57内の位置(図5に示される点Eに相当)よりも、定着ニップ57の下流側(ニップ出口57Bにより近い位置)であればよい。必要圧保持時間t2をより長くすることで、用紙Sの表面の凹部のトナーTを効率的に用紙Sに定着させることができる。必要圧保持時間t2を、画像形成装置100を使用するユーザーの好み、定着装置50に通紙される紙種に合わせて変更してもよい。光沢設計、紙種対応などにより、画像形成装置100の機種毎に必要圧保持時間t2を設定してもよい。
【0077】
[定着ニップ57内におけるトナーTの溶融]
図6は、ニップ入口におけるトナーTの状態を示す模式図である。図6には、用紙Sが定着ニップ57の入口(図3に示されるニップ入口57A、図4,5に示される点A)を通過するときの、用紙S上に形成されたトナーTが模式的に示されている。図6および後述する図7~10に示される矢印AR2は、図2を参照して説明した用紙Sの搬送方向である。矢印Xは、定着ベルト52と定着パッド56との摺動摩擦抵抗が定着ベルト52に作用する方向を示す。
【0078】
図5を併せて参照して、ニップ入口57Aでは、定着ベルト52からトナーTへの熱伝達量が小さく、トナーTの温度はトナーワックス融点Twmよりも低い。そのため、全てのトナーTが溶融しておらず、トナーTは粒子状の形状を保持している。ニップ入口57Aでは、加圧ローラー51の押圧により定着ベルト52に作用する荷重も低く、そのため用紙Sに対するトナーTの相対移動も発生していない。
【0079】
図7は、トナーワックス融点Twmに到達したときのトナーTの状態を示す模式図である。図7には、用紙Sが点Dの位置を通過するときの、用紙S上に形成されたトナーTが模式的に示されている。図7および後述する図8~10に示される下向きの白抜き矢印は、加圧ローラー51の押圧により定着ベルト52に作用する荷重を模式的に示すものである。
【0080】
図7に示されるように、トナーTの温度がトナーワックス融点Twmに到達した時点で、定着ベルト52との界面側のトナーTは一部溶融しているが、加圧ローラー51の押圧の作用による荷重が低いため、トナーTが変形するには至っていない。トナーTの温度がトナーワックス融点Twmよりも高くなると、トナーTが変形し始める。トナーワックス融点Twmは、トナーTの形状の変化が起こり始める温度であるといえる。
【0081】
図8は、必要圧到達時間t1が経過したときのトナーTの状態を示す模式図である。図8には、用紙Sが点Bの位置を通過するときの、用紙S上に形成されたトナーTが模式的に示されている。
【0082】
図5を併せて参照して、トナーTの温度がトナーワックス融点Twmよりも高くなっていることで、トナーTは一部溶解している。図4を併せて参照して、ニップ面圧が凹凸追従必要圧Pよりも高くなっており、トナーTの変形に必要なニップ面圧が作用している。加圧ローラー51の押圧の作用による荷重を受けて、定着ベルト52との界面側の一部のトナーTが変形している。
【0083】
加圧ローラー51が定着ベルト52を介して定着パッド56を押圧する荷重が増大することで、定着ベルト52と定着パッド56との摺動抵抗が増大している。これにより、定着ベルト52からトナーTに矢印X方向の摩擦力が作用する。このとき、定着ベルト52との界面にある溶融したトナーTが変形することにより、用紙Sとの界面にあるトナーTの用紙Sに対する相対移動は発生しない。
【0084】
図9は、トナー樹脂軟化点Tmに到達したときのトナーTの状態を示す模式図である。図9には、用紙Sが点Eの位置を通過するときの、用紙S上に形成されたトナーTが模式的に示されている。
【0085】
トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達することで、図9に示されるように、定着ベルト52との界面にあるトナーTが溶融して一体化した層構造を形成している。図8を参照して説明した通り、定着ベルト52との界面にある溶融したトナーTの変形が矢印X方向の摩擦力を吸収することにより、用紙Sとの界面にあるトナーTの用紙Sに対する相対移動は発生しない。
【0086】
図10は、必要圧保持時間t2が経過したときのトナーTの状態を示す模式図である。図9には、用紙Sが点Cの位置を通過するときの、用紙S上に形成されたトナーTが模式的に示されている。
【0087】
図5を併せて参照して、用紙Sの表面の温度もトナー樹脂軟化点Tmに到達することで、トナーTの全体が溶融する。溶融したトナーTが、用紙Sの表面の凹凸形状に合わせて変形する。これにより、トナーTの像の用紙Sへの定着が完了する。
【0088】
[作用および効果]
上述した説明と一部重複する記載もあるが、本実施形態の特徴的な構成および作用効果についてまとめて記載すると、以下の通りである。
【0089】
定着装置50は、図5に示されるように、ニップ入口57Aから、定着ニップ57を通過するトナーTの温度が、定着ベルト52と定着パッド56との摺動抵抗による用紙Sに対するトナーTの相対移動が発生しないために必要な温度に到達するまでの時間を、必要圧到達時間t1よりも短くするように、構成されている。より具体的には、トナーTの温度が、トナーTの形状の変化が起こり始める温度、つまりトナーワックス融点Twmに到達するまでの時間が、必要圧到達時間t1よりも短く設定されている。
【0090】
ニップ面圧が凹凸追従必要圧Pに到達するよりも前にトナーTの温度をトナーワックス融点Twmに到達させることで、図7,8に示されるように、用紙Sの表面の未定着のトナーTがせん断力により搬送方向の下流に相対移動する前に、ワックスを溶融させることができる。未定着のトナーTが本来の位置からずれることが抑制される結果、用紙Sの全体のトナーTの被覆率の低下が抑制され、画像濃度の低下を効率的に抑制できる。したがって、実施形態の定着装置50および画像形成装置100は、画像品質を向上することができる。
【0091】
図5に示されるように、定着装置50は、ニップ入口57Aから、定着ニップ57を通過するトナーTの温度が、トナーTが用紙Sに十分定着するために必要な温度、具体的にはトナー樹脂軟化点Tm、に到達するまでの時間を、必要圧到達時間t1よりも長くするように、構成されている。
【0092】
ニップ面圧が凹凸追従必要圧Pに到達した後に、トナーTの温度をトナー樹脂軟化点Tmに到達させることで、図9,10に示されるように、トナーTの全体を溶融させることができる。用紙Sの表面の凹部に存在するトナーTにも十分な圧力と熱量とを付与してトナーTを確実に凹部に定着させることができるので、画像濃度の低下を抑制でき、画像品質を向上することができる。
【0093】
図4,5に示されるように、定着装置50は、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達した時点でのニップ面圧を、凹凸追従必要圧Pよりも高く維持するように、構成されている。
【0094】
トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまで、凹凸追従必要圧Pよりも高いニップ面圧が維持されるので、図9,10に示されるように、溶融したトナーTを用紙Sの表面の凹凸形状に合わせて変形させ、トナーTを確実に凹部に定着させることができる。
【0095】
図3に示されるように、定着パッド56は、ニップ入口57Aから、トナーTの温度がトナー樹脂軟化点Tmに到達するまでの時間に相当する範囲において、平坦な形状の表面を有している。
【0096】
トナーTが十分に溶融する前に定着ベルト52に接触する定着パッド56の形状を平坦にすることで、定着ベルト52と定着パッド56との摺動抵抗によるせん断力を抑制できる効果が好適に得られる。
【0097】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
50 定着装置、51 加圧ローラー、52 定着ベルト、53 加熱ローラー、54 定着ヒーター、55 支持部材、56 定着パッド、57 定着ニップ、57A ニップ入口、57B ニップ出口、58 ベルトガイド部材、69 駆動モーター、71 第1面、72 第2面、73 凸部、74 第3面、80 接触面、81 支持面、91 上流端、95,96 仮想平面、98 下流端、100 画像形成装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10