(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20240910BHJP
H02M 7/483 20070101ALI20240910BHJP
H02M 7/497 20070101ALI20240910BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/483
H02M7/497
(21)【出願番号】P 2021018235
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-047713(JP,A)
【文献】特開2018-190612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0005589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流リンクコンデンサの正極端子に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、
前記直流リンクコンデンサの負極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、
前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、
を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、
2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、
制御対象の相の前記電圧指令値が1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0以下となった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満のとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせるスイッチング素子のゲート制御器と、
通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲインGcを乗算した充放電電流指令値に
前記直流リンクコンデンサの電圧リプルを抑制するように高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力する電流指令値演算部と、
一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力する電流制御部と、
前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満であるとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成するゲート信号生成部と、
を備えたことを特徴とするモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【請求項2】
直流リンクコンデンサの負極端子に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、
前記直流リンクコンデンサの正極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、
前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、
を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、
2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、
制御対象の相の前記電圧指令値が-1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0より大きくなった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせるスイッチング素子のゲート制御器と、
通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲイン-Gcを乗算した充放電電流指令値に
前記直流リンクコンデンサの電圧リプルを抑制するように高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力する電流指令値演算部と、
一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、-1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力する電流制御部と、
前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成するゲート信号生成部と、
を備えたことを特徴とするモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【請求項3】
前記高調波は、(4)式中の高調波に基づいて決定することを特徴とする請求項1または2記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【数4】
i
DC:直流リンクに流れる電流
k:1以上の整数
Id:d軸電流
Iq:q軸電流
ω:角周波数
t:時間
Ic:循環電流
【請求項4】
(4)式で求められる前記高調波のうち(11)式の3次高調波のみを前記充放電電流指令値に重畳することを特徴とする請求項3記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【数11】
i
DC1:直流リンクに流れる電流のうち3次高調波
【請求項5】
(4)式で求められる前記高調波のうち(11)式の3次高調波と(12)式の6次高調波を前記充放電電流指令値に重畳することを特徴とする請求項3記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【数11】
【数12】
i
DC1:直流リンクに流れる電流のうち3次高調波
i
DC2:直流リンクに流れる電流のうち6次高調波
【請求項6】
(4)式で求められる前記高調波のうち、Idの項よりもIqの項についてより高い次数の高調波まで重畳することを特徴とする請求項3記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【請求項7】
前記高調波を、(4)式、または(11)式、または(12)式で求められる高調波よりも小さくしたことを特徴とする請求項3~6のうち何れかに記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【請求項8】
直流リンクコンデンサの正極端子に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、
前記直流リンクコンデンサの負極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、
前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、
を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の制御方法であって、
2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、
ゲート制御器は、制御対象の相の前記電圧指令値が1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0以下となった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満のとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせ、
電流指令値演算部は、通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲインGcを乗算した充放電電流指令値に
前記直流リンクコンデンサの電圧リプルを抑制するように高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力し、
電流制御部は、一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力し、
ゲート信号生成部は、前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満であるとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成する
ことを特徴とするモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の制御方法。
【請求項9】
直流リンクコンデンサの負極端子に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、
前記直流リンクコンデンサの正極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、
前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、
を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の制御方法であって、
2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、
ゲート制御器は、制御対象の相の前記電圧指令値が-1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0よりも大きくなった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせ、
電流指令値演算部は、通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲイン-Gcを乗算した充放電電流指令値に
前記直流リンクコンデンサの電圧リプルを抑制するように高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力し、
電流制御部は、一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、-1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力し、
ゲート信号生成部は、前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成する
ことを特徴とするモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)において、二重スターチョッパセル(DSCC)の片側アームを高耐圧スイッチング素子に置き換えた回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は特許文献1の
図14に示されているモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)の主回路構成である。この回路の特長として部品点数が少ないこと、導通損失を低減できることが特許文献1,非特許文献1にて挙げられている。損失低減効果は特許文献1,非特許文献1にて示されている。
【0003】
図1の左側には直流電圧源が接続されているが、実際には直流リンクコンデンサが接続される。さらに、別の電力源となる電力変換装置や負荷、直流の送配電線が接続される場合もある。
【0004】
図3は特許文献1の
図15に示されている同回路の制御ブロック線図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kazunobu Oi,Kenta Takasho,Yugo Tadano,「Modular Multilevel Converter Replaced One Module with High Voltage IGBT」, IPEC2018新潟22B3-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1の回路の問題点は、他の構成に比べて大型の直流リンクコンデンサを必要とすることである。この原因は、回路を動作させることにより直流リンクコンデンサに高調波電流が流れ込むためである。この高調波電流を評価する。交流相電圧v
SU,v
SV,v
SWが(1)式,交流相電流i
invU,i
invV,i
invWが(2)式で表される場合を考える。
【0008】
【0009】
【0010】
ここで、Vは交流側線間電圧実効値、Idはd軸電流で回路の入出力電力のうち有効電力に関与、Iqはq軸電流で無効電力に関与する。ωは角周波数,tは時間である。
【0011】
図1の回路では、ある相の相電圧が他の相に比べ大きいときに上アームの高耐圧のスイッチング素子がONする。(1)式では、U相の上アームスイッチング素子がONする期間は-π/3<ωt<π/3である。V相についてはπ/3<ωt<π,W相は-π<ωt<-π/3となる。
【0012】
直流リンクには、上アームスイッチング素子がONの相の交流相電流iinvU,またはiinvV,またはiinvWと、該当相のセルコンデンサを充電しセルコンデンサ電圧を一定に保つための循環電流Icが流れる。特許文献1では循環電流Icを一定値としている。この直流リンクに流れる電流iDCは以下の(3)式で表される。
【0013】
【0014】
π/3<ωt<πの期間では、直流リンクからU相に流れる電流は零である。しかし、各相のスイッチング素子やセル損失のばらつきを無視すると、直流リンクからV相に流れる電流の波形はU相のものと全く同じである。-π<ωt<-π/3の期間も直流リンクからW相に同じ波形の電流が流れる。そのため、直流リンクに流れる電流iDCは基本波の3倍の周波数の周期性を持つ波形となる。直流リンクに流れる電流iDCをフーリエ級数展開すると、(4)式が得られる。なお、kは1以上の整数とする。
【0015】
【0016】
直流リンクに流れる電流iDCのうち、直流成分を除いたすべての高調波電流が直流リンクコンデンサに流れ込むと仮定した場合、直流リンクコンデンサの電圧リプルΔvDCは(5)式で表される。CDCは直流リンクコンデンサの容量である。
【0017】
【0018】
以上のように、
図1の回路を動作させると直流リンクコンデンサ電圧に電圧リプルΔv
DCが発生する。電圧リプルΔv
DCのうち最大の周波数成分は基本波の3倍であり、特にq軸電流I
q,すなわち無効電力を出力しようとすると有力電力出力時に比べ電圧リプルΔv
DCは3倍となる。電圧リプルΔv
DCが大きい場合は回路の動作が不安定になる恐れがある。安定動作のためには直流リンクコンデンサ電圧V
DCは(6)式を満たす必要がある。
【0019】
【0020】
(6)式を満たせず直流リンクコンデンサ電圧VDCが交流線間電圧ピークよりも小さくなると、交流側から直流リンクに制御不能な電流が流れてしまう。これを防ぐ方法の1つとして電圧リプルΔvDCの低減があるが、直流リンクコンデンサの容量CDCを大きくすると装置のコストや体積が増加してしまう。
【0021】
直流リンクに接続される他の装置や負荷のインピーダンスが小さければ、高調波電流は他の装置や負荷にも流れるため直流リンクコンデンサの容量CDCの容量を小さくできる。
【0022】
しかし、長距離直流送電やサイリスタ変換装置などインピーダンスの高い装置や負荷が接続される場合には対応できない。別の方法として直流リンクコンデンサ電圧VDCの増加があるが、直流リンクコンデンサの耐圧を高くする必要があり、この場合もコストや体積が増加してしまう。
【0023】
さらに、直流リンクコンデンサ電圧VDCを増加するとそれに比例してセルコンデンサ電圧も増加させる必要があり、セルコンデンサのコストや体積増加、スイッチング損失増加、セルのスイッチングによる電圧リプル増加といった問題も発生する。また、非特許文献1では直流リンクコンデンサ電圧VDCと交流側線間電圧実効値Vの関係が以下の(7)式を満たすとき、循環電流Icを零にできることが示されている。
【0024】
【0025】
直流リンクコンデンサ電圧VDCを増加すると(7)式の条件から離れ、循環電流Icが増加し導通損失まで増加してしまう。
【0026】
以上示したようなことから、モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器において、直流リンクコンデンサの電圧リプルを低減し、小容量のコンデンサを適用することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流リンクコンデンサの正極端子に接続されたスイッチング素子と、前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、前記直流リンクコンデンサの負極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、制御対象の相の前記電圧指令値が1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0以下となった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満のとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせるスイッチング素子のゲート制御器と、通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲインGcを乗算した充放電電流指令値に高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力する電流指令値演算部と、一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力する電流制御部と、前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が1未満であるとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成するゲート信号生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
また、他の態様として、直流リンクコンデンサの負極端子に接続されたスイッチング素子と、前記スイッチング素子に対して並列に接続された並列コンデンサと、前記直流リンクコンデンサの正極端子に2個以上カスケード接続されたチョッパセルまたはブリッジセルを有するセルモジュールと、前記スイッチング素子と前記セルモジュールとの間に接続されたバッファリアクトルと、を備えた相数が2以上のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、2アーム変調方式を用いて電圧指令値を生成し、制御対象の相の前記電圧指令値が-1、かつ、前記制御対象の相の前記スイッチング素子の電圧検出値が0より大きくなった時、前記スイッチング素子をターンONし、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき、前記スイッチング素子をターンOFFさせるスイッチング素子のゲート制御器と、通常は出力電流検出値に固定値αを加算した転流指令値をセルモジュール出力電流指令値として出力し、前記制御対象の相の前記スイッチング素子がONした場合、一定時間Δtcの間、セルコンデンサ電圧平均値とセルコンデンサ電圧指令値との偏差にゲイン-Gcを乗算した充放電電流指令値に高調波を重畳して前記セルモジュール出力電流指令値として出力する電流指令値演算部と、一定時間Δt前の前記セルモジュール出力電流指令値と現在の前記セルモジュール出力電流指令値との差分にゲインGlを乗算したフィードフォワード項と、前記セルモジュール出力電流指令値とセルモジュール出力電流検出値との偏差にゲインGを乗算した値と、-1と、を加算した値をセルモジュール電圧指令値として出力する電流制御部と、前記制御対象の相の前記スイッチング素子のゲート指令がOFFであり、かつ、前記制御対象の相の前記電圧指令値が-1より大きいとき前記電圧指令値を選択し、それ以外のとき前記セルモジュール電圧指令値を選択し、選択された値に補正係数を乗算し、セルコンデンサ電圧制御指令値が加算された値とキャリア三角波を比較してセルゲート指令を生成するゲート信号生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
また、その一態様として、前記高調波は、(4)式中の高調波に基づいて決定することを特徴とする。
【0030】
【0031】
iDC:直流リンクに流れる電流
k:1以上の整数
Id:d軸電流
Iq:q軸電流
ω:角周波数
t:時間
Ic:循環電流。
【0032】
また、その一態様として、(4)式で求められる前記高調波のうち(11)式の3次高調波のみを前記充放電電流指令値に重畳することを特徴とする。
【0033】
【0034】
iDC1:直流リンクに流れる電流のうち3次高調波。
【0035】
また、他の態様として、(4)式で求められる前記高調波のうち(11)式の3次高調波と(12)式の6次高調波を前記充放電電流指令値に重畳することを特徴とする。
【0036】
【0037】
【0038】
iDC1:直流リンクに流れる電流のうち3次高調波
iDC2:直流リンクに流れる電流のうち6次高調波。
【0039】
また、他の態様として、(4)式で求められる前記高調波のうち、Idの項よりもIqの項についてより高い次数の高調波まで重畳することを特徴とする。
【0040】
また、その一態様として、前記高調波を、(4)式、または(11)式、または(12)式で求められる高調波よりも小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器において、直流リンクコンデンサの電圧リプルを低減し、小容量のコンデンサを適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】実施形態1~3のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の主回路構成図。
【
図2】チョッパセルとブリッジセルを示す回路構成図。
【
図4】スイッチング素子のゲート制御器の一例を示す図。
【
図6】スイッチング素子のゲート制御器の他例を示す図。
【
図7】スイッチング素子のゲート制御器の出力波形を示すタイムチャート。
【
図11】実施形態1適用時のシミュレーション波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本願発明におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の実施形態1~3を
図1~
図11に基づいて詳述する。
【0044】
[実施形態1]
図1に基づいてモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)の主回路構成を説明する。このMMCCの回路の特徴は
図2に示すチョッパセルCをカスケード接続したセルモジュール1で下アームを構成する点にあり、セル接続台数を増加することでより高い電圧を扱うことができる。
【0045】
また、本実施形態1では、
図1に示すように、上アームに高耐圧のスイッチング素子Su,Sv,Swを接続する。さらに、スイッチング素子Su,Sv,Swには並列コンデンサCu,Cv,Cwがそれぞれ並列接続される。すなわち、本実施形態1におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、直流リンクコンデンサDCP,DCNと、スイッチング素子Su,Sv,Swと、並列コンデンサCu,Cv,Cwと、セルモジュール1と、バッファリアクトルLu,Lv,Lwと、フィルタリアクトルFLと、を備える。
【0046】
直流リンクコンデンサDCP,DCNは、1つに統合してもよい。
【0047】
スイッチング素子Su,Sv,Swは、自己消弧能力を有する半導体素子にダイオードを逆並列に接続したもので、4500V耐圧などの高耐圧のものとする。スイッチング素子Su,Sv,Swは、直流リンクコンデンサDCPの正極端子と交流出力端子u,v,wの間に配置される。出力する交流電圧の大きさによって、スイッチング素子Su,Sv,Swは複数個が直列接続される場合もある。並列コンデンサCu,Cv,Cwは、スイッチング素子Su,Sv,Swに並列接続される。
【0048】
セルモジュール1は、直流リンクコンデンサDCNの負極端子に接続され、チョッパセルCを複数個カスケード接続したものである。このセルモジュール1により各交流出力相の下アームが構成される。
【0049】
セルモジュール1と交流出力端子u,v,wの間には、バッファリアクトルLu,Lv,Lwがそれぞれ接続される。交流出力端子u,v,wには、一般的にスイッチングノイズの流出を抑制するためのフィルタリアクトルFLが接続される。
【0050】
なお、Vpu,Vpv,Vpwはスイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値、V
DCは直流電圧検出値(直流リンクコンデンサ電圧)、Izはセルモジュール出力電流検出値、Iinvは出力電流検出値、Vsは系統電圧検出値であり、それぞれ検出され、後述する
図3の制御回路で用いられる。
【0051】
チョッパセルCは、
図2(a)に示すように、一方の接続端子に第1スイッチングデバイスS1の一端が接続される。一方の接続端子と他方の接続端子との間に第2スイッチングデバイスS2が接続される。第1スイッチングデバイスS1の他端と他方の接続端子との間にセルコンデンサCaが接続される。
【0052】
また、チョッパセルCの代わりに、ブリッジセルBを接続してもよい。ブリッジセルBは、
図2(b)に示すように、一方の接続端子に第3スイッチングデバイスS3の一端が接続される。第3スイッチングデバイスS3と一方の接続端子の共通接続点に第4スイッチングデバイスS4の一端が接続される。第3スイッチングデバイスS3の他端と他方の接続端子との間に第5スイッチングデバイスS5が接続される。第4スイッチングデバイスS4の他端と他方の接続端子との間に第6スイッチングデバイスS6が接続される。第3,第5スイッチングデバイスS3,S5の共通接続点と第4,第6スイッチングデバイスS4,S6の共通接続点との間にセルコンデンサCbが接続される。
【0053】
これらの回路では、特許文献1の
図2に示すように電圧指令値に2アーム変調を適用することを想定している。期間1において上アームのスイッチング素子SuをONし出力電流を上アームにバイパスさせることでスイッチング素子の導通損を低減し、この期間中に下アームのセルモジュール1に循環電流を流しセルコンデンサCaを充放電することで、セルコンデンサ電圧制御を簡単に実現することを想定している。
【0054】
図1を例にすると、期間1では以下の動作を行う必要がある。
・上アームのスイッチング素子SuのターンON時にスイッチング素子Suに並列接続されている並列コンデンサCuの残留電荷による短絡を防ぐため、下アームから電流を過剰に出力し並列コンデンサCuの電荷を放電し、その後、上アームの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる。
・転流の確認後、上アームのスイッチング素子SuをターンONする。
・直流リンクコンデンサDCP,DCNから上アームのスイッチング素子Su,下アームのセルモジュール1に循環電流を流し、セルコンデンサCaを充電する。
・循環電流を停止し、上アームにおけるスイッチング素子SuのターンOFF時の零電圧スイッチング確立のため、下アームのセルモジュール1から電流を過剰に出力し並列コンデンサCuの電荷を放電し、その後、上アームの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる。この動作によって、上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuを零以下とする。
・転流の確認後、上アームのスイッチング素子SuをターンOFFする。
【0055】
以上の実現には非常に高速な電流制御が必要となる。
【0056】
図3に特許文献1の実施形態7の制御部の構成図を示す。この制御部は
図1の回路に適用することを想定している。
図3はいくつかの制御ブロックに分かれている。まず電圧指令値V*を演算するブロック(以下、電圧指令値演算部2と称する)について説明する。
【0057】
電圧指令値V*の演算方法としては、フィードフォワードで求める、電圧制御を行うといった方法もあるが、ここでは電流制御を行う場合を例に説明する。電圧指令値演算部2は、以下のように構成される。
【0058】
位相同期回路PLLは、系統電圧検出値Vsを入力し、位相θを出力する。ここではモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)を系統連系装置として適用することを想定しているが、モータ駆動装置としての適用であれば位相θはモータに備えられたロータリーエンコーダにより検出される。
【0059】
dq変換器3は、変換器各相の出力電流検出値Iinvと位相θを入力し、出力電流検出値Iinvを系統周波数に同期した回転座標系のd軸電流検出値Id,q軸電流検出値Iqに変換する。出力電流検出値Iinvにはスイッチングリプルやノイズを除去するためのフィルタが適用される場合もある(
図3では省略)。
【0060】
減算器4d,4qは、d軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*と、d軸電流検出値Id,q軸電流検出値Iqとの偏差を求める。PIアンプ5d,5qは、減算器4d,4qで求めた偏差を増幅し、系統周波数(またはモータ電圧の周波数)に同期した回転座標上の電圧指令値を出力する。
【0061】
dq逆変換器6において、PIアンプ5d,5qの出力である回転座標上の電圧指令値を位相θに基づいてdq逆変換し、固定座標上の電圧指令値を出力する。
【0062】
2アーム変調器7は、dq逆変換器6の出力である固定座標上の電圧指令値に対して2アーム変調を行う。最大値選択部7aは、dq逆変換された固定座標上の三相の電圧指令値のうち、最も大きい値を選択して出力する。加算器8aは、dq逆変換された3相の電圧指令値に固定値である1を加算し、加算結果から最大値選択部7aの出力を減算する。
【0063】
以上により電圧指令値V*の演算・2アーム変調処理が行われる。dq逆変換器6の出力が3相平衡正弦波ならば、2アーム変調後の電圧指令値V*は特許文献1の
図2に示す波形になる。
【0064】
電圧指令値V*と上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値(スイッチング素子のコレクタ、エミッタ間電圧)Vpu,Vpv,Vpwはスイッチング素子のゲート制御器9aに入力される。
図4にU相におけるスイッチング素子のゲート制御器9aの構成を示す。U相のスイッチング素子のゲート制御器9aは以下のように構成される。
【0065】
比較器10aにおいて、U相の電圧指令値Vu*が1に等しいか否かを判定し、1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器10aの出力は、後述するスイッチSW3の下側入力端子とOR素子11に入力される。
【0066】
比較器12aにおいて、U相におけるスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが0を超えているか否かを判定する。比較器12aの出力は、スイッチSW3の制御信号となる。Vpu>0ならばスイッチSW3は上側入力端子の入力信号を出力し、Vpu≦0ならばスイッチSW3は下側入力端子の入力信号を出力する。スイッチSW3の出力信号は、そのままU相上アームゲート指令となる。
【0067】
バッファ13は、スイッチSW3の出力信号を入力し、1演算時間遅らせて出力する。バッファ13の出力信号は、スイッチSW3の上側入力端子に入力される。
【0068】
OR素子11は、スイッチSW3の出力信号と比較器10aの出力を入力し、少なくとも一方が1ならば1を出力し、両方0の場合は0を出力する。NOT素子14は、OR素子11の出力を反転して出力する。NOT素子14の出力は、後述するスイッチSW2の制御信号となる。
【0069】
立ち上がり検出器15は、スイッチSW3の出力信号が0から1に変化したときに1演算時間だけ1を出力する。ホールド器16は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を一定時間Δtc出力し続ける。一定時間Δtcは、セルコンデンサ充放電制御の時間である。特許文献1の
図2の期間1よりも少し短い時間を指定する。NOT素子17は、ホールド器16の出力信号を反転して出力する。NOT素子17の出力信号は、後述するスイッチSW1の制御信号となる。
【0070】
スイッチング素子のゲート制御器9aは、U相上アームゲート指令として、制御対象の相の電圧指令値V*が1である場合にON指令を出力し、V*<1の場合はOFF指令を出力する。ただし、ON/OFFの切り替えは、上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwのうち制御対象の相の値が零以下である場合のみ行う。
【0071】
また、スイッチSW1の制御信号は、通常1である。制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになったら、一定時間Δtcだけ0になり、その後1に戻る。
【0072】
スイッチSW2の制御信号は、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子がONである、または電圧指令値V*が1に等しい、のどちらかを満たす場合に0を出力する。
【0073】
期間2における下アームのセルモジュール出力電流指令値I*を演算する電流指令値演算部18aについて説明する。電流指令値演算部18aは、以下のように構成される。
【0074】
加算器19は、変換器各相の出力電流検出値Iinvに固定値αを加算し、転流指令値を演算する。固定値αは、出力電流検出値Iinvの定格値(100%連続運転可能な電流値)の1%~10%程度とする。加算器19の出力である転流指令値は、スイッチSW1の上側入力端子に入力される。
【0075】
乗算器20は、直流電圧検出値VDCに固定値1+βを乗算し、セル台数nで除算し、セルコンデンサ電圧平均値の指令値(セルコンデンサ電圧指令値)VDC(1+β)/nを出力する。固定値1+βとして、β=5%程度(≒0.05)を設定する。これによりセルコンデンサ電圧指令値VDC(1+β)/nは、直流電圧検出値VDCを1相あたりのセル台数nで割りさらに5%増加させた値となる。
【0076】
ホールド器21は、各相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgを所定のタイミングでホールドし、そのときの値を出力し続ける。セルコンデンサ電圧平均値Vcavgは、1相あたりのセル台数をn、k番目のセルコンデンサ電圧検出値をVckとしたとき以下の(8)式で求める。所定のタイミングは、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになった直後である。
【0077】
【0078】
減算器22は、ホールド器21の出力から乗算器20の出力を減算し、偏差を求める。乗算器23aは、偏差にゲインGcを乗算し、セルコンデンサ充電のための充放電電流指令値を出力する。特許文献1では乗算器23aの出力である充放電電流指令値をスイッチSW1の下側入力端子に入力するが、本実施形態1では充放電指令値に後述する高調波を重畳してスイッチSW1の下側入力端子に入力する。
【0079】
スイッチSW1は、スイッチング素子のゲート制御器9aからの制御信号を入力し、1ならば上側入力端子の信号を出力し、0ならば下側入力端子の信号を出力する。すなわち、スイッチSW1は、通常は転流指令値Iinv+αを出力し、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになったら一定時間Δtcだけ充放電電流指令値の出力に切り替え、その後、転流指令値Iinv+αの出力に戻る。
【0080】
セルモジュール出力電流指令値I*を入力し、期間2におけるセルモジュール電圧指令値Vn*を求める電流制御部24aについて説明する。電流制御部24aは、以下のように構成される。
【0081】
微分器25は、セルモジュール出力電流指令値I*を入力し、現在のセルモジュール出力電流指令値I*と時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*との差分を出力する。微分器25は、後述する起動信号を入力し、セルn台分のキャリア三角波の最大値の谷の部分でのみ動作する。時間Δtはキャリア三角波の1/n周期である。
【0082】
アンプ26は、微分器25の出力にゲインGlをかけ、電圧指令値のフィードフォワード項を出力する。減算器27は、対応する相同士のセルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*の偏差を演算する。
【0083】
アンプ28は、偏差にゲインGを乗算する。加算器29aは、アンプ28の出力に電圧指令値のフィードフォワード項と固定値1を加算する。加算器29aの出力がセルモジュール1のセルモジュール電圧指令値Vn*となる。
【0084】
電圧指令値V*とセルモジュール電圧指令値Vn*からゲート信号を生成するゲート信号生成部30について説明する。
【0085】
スイッチSW2の上側入力端子には電圧指令値V*が入力され、スイッチSW2の下側入力端子にはセルモジュール電圧指令値Vn*が入力される。スイッチSW2は、スイッチング素子のゲート制御器9aからの制御信号を入力し、1ならば上側入力端子の信号を出力し、0ならば下側入力端子の信号を出力する。すなわち、制御対象となる相のスイッチング素子のゲート指令がONまたはV*==1であれば下側入力端子の出力に切り替え、それ以外では上側入力端子の出力に切り替わる。
【0086】
スイッチSW2の出力は乗算器31に入力され、振幅の補正が行われる。乗算器31の乗数は、以下のように演算される。
【0087】
除算器32は、変換器の直流電圧検出値VDCをセル台数nで除算しその結果の逆数を演算、すなわち、n/VDCを出力する。乗算器33は、除算器32の出力とセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの積を演算する。乗算器33の出力が乗算器31の乗数、すなわち、振幅の補正係数となる。
【0088】
加算器34は、振幅補正が行われた電圧指令値に、各セルコンデンサ電圧制御指令値を加算する。セルコンデンサ電圧制御指令値は、以下のように演算される。
【0089】
減算器35は、セル3n台分のセルコンデンサ電圧検出値Vcそれぞれと、制御対象のセルと同じ相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差を演算する。セルコンデンサ電圧検出値Vcは、1相あたりのセルn台3相分、合計セル3n台分の信号である。
【0090】
アンプ36は、偏差にゲインGciを乗算する。符号抽出器37は、セルモジュール出力電流検出値Izの符号抽出結果を出力する。すなわち、符号抽出器37は、Iz>0ならば1を、Iz<0ならば-1を、Iz=0ならば0を出力する。乗算器38は、アンプ36の出力と、制御対象のセルと同じ相のセルモジュール出力電流検出値Izの符号検出結果と、の積を演算する。乗算器38の出力がセルコンデンサ電圧制御指令値となる。
【0091】
PWM変調器39は、各セルコンデンサ電圧制御指令値を加算した電圧指令値とキャリア三角波を比較してゲート信号を生成し、デッドタイムの付加を行う。PWM変調に使用するキャリア三角波は、例えば以下のように生成される(PS[フェーズシフト]の場合)。
【0092】
遅延器41は、k番目のセルに対して、キャリア三角波生成器40から出力されたキャリア三角波の位相を2(k-1)π/nだけ遅らせる。遅延器41により、2π/nずつ位相のずれたn本のキャリア三角波が生成され、PWM変調器39において、k番目の三角波はU相、V相、W相それぞれの電圧指令値と比較され、対応する相のk番目のセルに送られる。
【0093】
キャリア三角波からは、以下のように、電流制御部24a内部の微分器25の起動信号を生成する。最大値選択部42aは、遅延器41から出力されるn本のキャリア三角波から値が最も大きいものを選択して出力する。微分器43は、最大値選択部42の出力を微分する。
【0094】
比較器44aは、微分器43の出力がプラスならば1,零以下ならば0を出力する。立ち上がり検出器45は、比較器44aの出力が0から1に変化した直後に1演算時間だけ1を出力する。立ち上がり検出器45の出力は電流制御部24a内部の微分器25に出力され、微分器25はキャリア三角波最大値の谷の部分でのみ動作する。キャリア三角波および生成される微分器25の起動信号を
図5に示す。
図5のA点が、キャリア三角波最大値の谷の部分に相当する。
【0095】
電圧指令値演算部2は、一般的なインバータの電流制御ブロックと同じ構成である。出力電流検出値Iinvとd軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*の偏差をPIアンプで増幅した値に基づいて出力電圧指令値を演算し、さらに2アーム変調器7にて2アーム変調を適用する。
【0096】
スイッチング素子のゲート制御器9aについて説明する。
図1の回路では、特許文献1の
図2に示す期間1において変換器出力電流を上アームにバイパスさせることでスイッチング素子の導通損を低減する。
【0097】
期間1、すなわち対応する相の電圧指令値V*=1の時に上アームのスイッチング素子をONする。ただし、出力電流の符号によってはONした時に並列コンデンサを短絡してしまう場合がある。このコンデンサ短絡現象はスイッチング素子を過電流破壊させるおそれがあるため好ましくない。そこで、スイッチング素子の電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwを検出し、電圧指令値V*=1、かつ、スイッチング素子の電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwが零またはダイオード電圧降下を考慮し零以下になった場合に上アームのスイッチング素子をONすることにより、下アームのセルモジュール1が並列コンデンサの電荷を放電するまで上アームのスイッチング素子のON動作を待機することとなり、コンデンサ短絡を避けることができる。
【0098】
上アームのスイッチング素子のターンOFFについても、上アームのスイッチング素子のON動作中の素子電圧(数V程度)によって残留する並列コンデンサの電荷を放電して上アームのスイッチング素子のターンOFF時の零電圧スイッチングを成立させる。そのため、V*<1、かつ、上アームのスイッチング素子の電圧が零以下であることを検出した後に、上アームのスイッチング素子のOFF指令を出力する。
【0099】
ただし、ターンOFFにおいて、電流は並列コンデンサを迂回するためスイッチング損失はあまり増加しない。そのため、スイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwを検出せずV*<1の条件のみでOFF指令を出力してもよい。
【0100】
このときのスイッチング素子のゲート制御器9aを
図6に示す。比較器10aにおいて、U相の電圧指令値Vu*が1に等しいか否かを判定し、1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器10aの出力は、後述するAND素子65とOR素子11に入力される。
【0101】
比較器12aにおいて、U相における上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが0を超えているか否かを判定する。比較器12aの出力は、反転してOR素子64に入力される。AND素子65は、比較器10aの出力およびOR素子64の出力を入力し、両方1の時1を出力し、それ以外のとき0を出力する。AND素子65の出力がU相上アームゲート指令となる。
【0102】
OR素子11は、比較器10aの出力とAND素子65の出力を入力し、少なくとも何れか一方が1のとき1を出力し、両方0のとき0を出力する。OR素子11の出力はNOT素子14により反転され、スイッチSW2の制御信号として出力される。
【0103】
バッファ66は、AND素子65の出力信号を入力し、1演算時間遅らせて出力する。バッファ66の出力は、OR素子64に入力される。
【0104】
立ち上がり検出器15は、AND素子65の出力信号が0から1に変化したときに1演算時間だけ1を出力する。ホールド器16は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を一定時間Δtc出力し続ける。一定時間Δtcは、セルコンデンサ充放電制御の時間である。特許文献1の
図2の期間1よりも少し短い時間を設定する。NOT素子17は、ホールド器16の出力信号を入力する。NOT素子17の出力信号は、後述するスイッチSW1の制御信号となる。
【0105】
電流指令値演算部18aについて説明する。セルモジュール出力電流指令値I*は、上アーム通過電流を下アームのセルモジュール1に転流させるための転流指令値と、制御対象の相のセルコンデンサ電圧平均値を一定に制御するための充放電電流指令値の2種類からなる。前者はスイッチSW1の上側入力端子、後者は下側入力端子に入力され、状況に応じてスイッチSW1により切り替えられセルモジュール出力電流指令値I*として出力される。
【0106】
転流指令値は、現在の出力電流検出値Iinvをαだけ上回る値とする。αは出力電流検出値Iinvの定格値(100%連続運転可能な電流値)の+1%~+10%程度の値とする。セルモジュール出力電流検出値Izが指令値通りの電流に制御できれば、上アーム通過電流はIinv-Iz=-αとなり下から上に向かって電流が流れる。並列コンデンサCu,Cv,Cwに電荷がある場合、上アーム通過電流はスイッチング素子の逆並列ダイオードよりも並列コンデンサCu,Cv,Cwに優先的に流れ、並列コンデンサCu,Cv,Cwは放電される。並列コンデンサCu,Cv,Cwの放電が完了すると、上アーム通過電流は逆並列ダイオードを通過する。
【0107】
このとき、過剰な電流は交流出力側には流れない。これは、出力電流検出値Iinvが他の2相によって制御されているためである。また、バッファリアクトルLu,Lv,Lw,フィルタリアクトルFLのインダクタンスがLu,Lv,Lw>Lzの関係にあるためである。この式でのLu,Lv,Lwは、バッファリアクトルLu,Lv,Lwのインダクタンス値を意味している。Lzは、フィルタリアクトルFLの1相あたりのインダクタンス値を意味している。
【0108】
フィルタリアクトルFLは交流出力電流リプルを除去するため大きなインダクタンス値を設定し、バッファリアクトルLu,Lv,Lwは転流や並列コンデンサCu,Cv,Cwの充放電を素早く行うためインダクタンス値を小さく設定する。
【0109】
フィルタリアクトルFLにより出力電流検出値Iinvは急峻な変化をしないため、セルモジュール出力電流検出値Izの増加分はほとんど上アームを通過する。転流を行うに当たり、出力電流検出値Iinvのひずみはほとんど増加しない。ここでαを増加すると、転流を確実に行える利点が生じるが、損失が増加する欠点もある。よってαの条件は10%程度にとどめる。
【0110】
充放電電流指令値は、まずはセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとセルコンデンサ電圧指令値VDC(1+β)/nとの偏差を演算する。セルコンデンサ電圧指令値VDC(1+β)/nは直流電圧検出値VDCを1相あたりのセル台数nで除算した値である。しかし、転流を行うためにはセルコンデンサ電圧の総和を直流電圧検出値VDCよりも過剰にする必要がある。そのため、ここでは過剰分をβと設定し係数1+βをVDC/nに乗算する。得られた偏差にゲインGcをかけ、充放電電流指令値を求める。このゲインGcであるが、コンデンサの電圧・電流の関係式より、以下の(9)式となる。なお、(9)式のCはセルコンデンサCaの容量である。
【0111】
【0112】
一定時間Δtcはセルコンデンサの充放電時間である。一定時間Δtcは期間1(基本波の1/3周期)の70~80%程度とし、残りを転流制御に割り当てる。
【0113】
スイッチSW1は転流指令値と充放電電流指令値を切り替える。通常は上側入力端子に入力され転流指令値を出力する。上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwがONしたら、一定時間Δtcの間スイッチSW1は下側入力端子の出力に切り替わり充放電電流指令値を出力し、セルコンデンサ電圧を制御する。一定時間Δtc後、スイッチSW1は上側入力端子の出力に戻り再度転流指令値を出力することで、上アームの並列コンデンサCu,Cv,Cwの電荷(数V程度)を放電し、その後の上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのターンOFF時に零電圧スイッチングを成立させることができる。
【0114】
電流制御部24aについて説明する。電流制御部24aは、一般的な電流制御ブロックとフィードフォワード項で構成される。一般的な電流制御ブロックは、セルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*の偏差をアンプ28で増幅し、この結果に後述するフィードフォワード項を加算してセルモジュール電圧指令値Vn*を求める。
【0115】
フィードフォワード項について説明する。前述したように、この回路構成では高速な電流制御が必要となる。そこで、バッファリアクトルLu,Lv,Lwの電圧・電流の関係から所望の電流出力に必要な電圧を計算し、フィードフォワードで出力することで高速化を実現する。バッファリアクトルLu,Lv,Lwの関係式とそこから求められるゲインGl,必要なセルモジュール出力電圧Vnは、以下の(10)式で求められる。
【0116】
【0117】
ここで、vLzはバッファリアクトルLu,Lv,Lwの印加電圧を示し、LzはバッファリアクトルLu,Lv,Lwのインダクタンスを示す。以上の(10)式で得られたセルモジュール出力電圧Vnをセルモジュール電圧指令値Vn*とする。
【0118】
電流制御部24aは、まず、バッファにより、ある一定時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*を保持し、セルモジュール出力電流指令値I*との差分を演算することでΔI*を求める。ここで、一定時間Δtは下アームのセルモジュール1が出力できる電圧パルスの最小単位、すなわちキャリア三角波の1/n周期とする。
【0119】
アンプ26により求めたΔI*にゲインGlを乗算し、フィードフォワード項の電圧指令値として出力する。以上のフィードフォワード補償により、セルモジュール出力電流指令値I*が変化してもキャリア三角波の1/n周期後にはセルモジュール出力電流検出値Izをセルモジュール出力電流指令値I*にほぼ等しくすることができる。
【0120】
アンプ28はセルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*のずれを補正するのが目的であるため、ゲインGは小さくてよい。一方、ゲインGlは分母の微小値(一定時間)Δtにより大きな値となる。そのため、セルモジュール出力電流指令値I*へのノイズ重畳には注意しなければならない。
【0121】
ただし、セルモジュール出力電流指令値I*は出力電流検出値Iinvに基づいた値であるが、出力電流検出値Iinvが通過するフィルタリアクトルFLは大きなインダクタンス値であることを想定しているため、出力電流検出値Iinvに重畳するノイズは小さい。
【0122】
また、セルモジュール出力電流指令値I*は直流電圧検出値VDC,セルコンデンサ電圧平均値Vcavgによっても求められているが、これらはコンデンサ電圧であるためノイズが重畳しにくい。
【0123】
加算器29aでは、フィードフォワード項として1を加算している。これは後述する振幅の補正係数を乗算することで(10)式の直流電圧検出値VDC相当となる。この1の加算は、セルモジュール出力電流指令値I*が零一定の場合、下アームのセルモジュール1から直流電圧検出値VDCに等しい電圧を出力させセルモジュール出力電流検出値Izを零にするためのものである。
【0124】
電圧指令値演算部2で求められた電圧指令値V*と電流制御部24aにより求められたセルモジュール電圧指令値Vn*は、スイッチSW2によって適切なものが選択された後、補正係数nVcavg/VDCを乗算する。これはV*=1の時に下アームのセルモジュール1が出力する電圧を、上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのONの時に出力される電圧すなわち直流電圧検出値VDCに揃えるためのものである。これにより、V*=1において上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのONとOFFが切り替わっても変換器出力電圧は変化せず、出力電圧のひずみを抑えることができる。
【0125】
補正係数nVcavg/VDCを乗算した後、電圧指令値にはセルコンデンサ電圧制御指令値が加算される。セル個別のコンデンサ電圧検出値Vcとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgの偏差をアンプ36により増幅する。
【0126】
次に、セルモジュール出力電流検出値Izの符号によりアンプ36の出力を補正する。例えば、制御対象のセルのコンデンサ電圧検出値Vcが過剰でアンプ36の出力がプラス、セルモジュール出力電流検出値Izもプラスの場合を考える。
【0127】
対象のセル出力電圧を増加すれば、セルの出力する有効電力が増加し、セルコンデンサCaを放電することができる。セル出力電圧を増加するには、プラスのセルコンデンサ電圧制御指令値を加算すればよい。
【0128】
同じ条件でセルモジュール出力電流検出値Izがマイナスの場合を考える。このときは対象のセル出力電圧を減少すればセルに入力される有効電力が減少し、セルコンデンサ充電量を減少させることができる。セル出力電圧を減少させるには、マイナスのセルコンデンサ電圧制御指令値を加算すればよい。
【0129】
最後に、電圧指令値とキャリア三角波を比較し、各セルのゲート指令を生成する。ここではキャリア三角波はフェーズシフト方式とし、位相を2(k-1)π/nずつずらしたものを用意する。
【0130】
例として、各相のセルが4直列の場合、n=4、k=1,2,3,4となる。1番目のセルでは位相をずらさない。2番目のセルでは位相を2π/4ずらす。3番目のセルでは位相を4π/4ずらす。4番目のセルでは位相を6π/4ずらす。
【0131】
このとき、
図5に示すように各セルのキャリア三角波から最も大きい値を抽出し、谷の部分で起動信号を生成し、電流制御部24a内部の微分器25に入力する。これにより、微分器25は一定時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*と現在のセルモジュール出力電流指令値I*の差分を演算し、出力することができる。
【0132】
起動信号を谷で生成する理由を述べる。山で生成した起動信号に遅延が生じた場合、電圧指令値V*がほぼ1の状態から減少すると電圧指令値V*とキャリア三角波との交点が連続して3個以上生じ、スイッチング回数が一時的に増加し、損失が増加してしまうことがある。
【0133】
また、パルス幅が極端に短くなるとスイッチング素子が能動領域で動作してしまい、素子発熱による寿命低下や破壊の恐れが生じる。これを防ぐため起動信号を谷で生成する。
【0134】
図5にキャリア三角波と起動信号の波形を示す。最大値選択部42aの出力信号を太線で示す。起動信号は最大値選択部42aの出力信号の谷の部分、すなわち点Aにおいて1になる。
【0135】
図7にスイッチング素子のゲート制御器9aから出力される上アームゲート指令とスイッチSW1,SW2の制御信号を示す。これを元に、U相を例にして一連の動作について説明する。制御対象の相の電圧指令値がVu*<1の時、スイッチSW2の制御信号は1であり、スイッチSW2は上側入力端子の信号を出力する。上アームゲート指令は0、上アームのスイッチング素子SuはOFFである。一般的な電流制御が行われ、下アームのセルモジュール1は電流制御により得られた電圧指令値Vu*に相当する電圧を出力する。
【0136】
Vu*=1になると、まず、スイッチSW2の制御信号が0になりスイッチSW2は下側入力端子の出力に切り替わる。スイッチSW1の制御信号は1のままであり、スイッチSW1は上側入力端子の信号を出力する。
【0137】
そのため、下アームのセルモジュール1は現状の出力電流検出値Iinvよりも少し大きな電流を出力して転流制御を行い、上アームのスイッチング素子Suの並列コンデンサCuを放電する。上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが零以下になり並列コンデンサCuが完全に放電されたことを検出したら、上アームゲート指令を0→1に切り替え、上アームのスイッチング素子SuをターンONする。
【0138】
スイッチSW1の制御信号は0になりスイッチSW1は下側入力端子の出力に切り替わり、下アームのセルモジュール1はセルコンデンサCaの充放電を行い、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgをセルコンデンサ電圧指令値VDC(1+β)/nに制御する。
【0139】
このとき変換器出力電流の制御は他の2相の下アームのセルモジュール1により行われるため、U相のセルコンデンサCaの充放電中も変換器は指令値通りの電流を出力することができる。
【0140】
一定時間Δtc経過後にスイッチSW1が上に切り替わると、下アームのセルモジュール1は再度転流制御を行う。下アームのセルモジュール1からの出力電流は出力電流検出値Iinvとなり、過剰分は上アームのスイッチング素子Suの逆並列ダイオードを通過する。
【0141】
図7においては、上アーム電流はスイッチング素子Suを通過し、上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuは電圧降下分わずかにプラスであったが、上アーム電流が逆向きになり逆並列ダイオードを通過し、その電圧降下分わずかにマイナスとなり、上アームのスイッチング素子SuのターンOFFの準備が完了する。
【0142】
V*<1かつVpu≦0を満たしたら上アームゲート指令を1→0に切り替えることで上アームのスイッチング素子SuをターンOFFし、スイッチSW2は上側入力端子の出力に切り替わり、一般的な電流制御に戻る。
【0143】
以上の制御ブロックは
図1に適用することを想定している。しかし、特許文献1の
図20,
図21の主回路に適用することもできる。
【0144】
また、特許文献1の
図28に示すように、直流リンクコンデンサDCP,DCNの負極端子にスイッチング素子Su,Sv,Swを接続し、直流リンクコンデンサDCP、DCNの正極端子にセルモジュール1を接続した構成にも適用することができる。この場合、特許文献1の実施形態13,
図28に示すように、変更を加えればよい。
【0145】
2アーム変調器7での相違点は、最大値選択部7aの代わりに最小値選択部を設け、dq逆変換された3相の電圧指令値のうち、最も小さい値を選択して出力する。加算器8aでは、3相の電圧指令値と最小値選択部の出力との偏差に固定値-1を加算する。
【0146】
上アームのスイッチング素子のゲート制御器9aは下アームのスイッチング素子のゲート制御器となる。下アームのスイッチング素子のゲート制御器は、比較器10aにおいて、U相の電圧指令値Vu*が-1か否かを判定する。比較器12aは、U相におけるスイッチング素子Suの電圧検出器Vnuが0よりも大きいか否かを判定する。スイッチSW3の出力は、U相の下アームゲート指令となり、下アームのスイッチング素子Suに出力される。
【0147】
電流指令値演算部18aでは、乗算器23aにおいて、ゲインの符号を反転し、ゲイン-Gcを乗算する。
【0148】
セルモジュール出力電流検出値Izは、直流側から交流側へ流れる向きをプラスとしている。直流リンクコンデンサDCP,DCNの正極端子にスイッチング素子が接続されている構成では上から下に流れるとプラス、直流リンクコンデンサDCP,DCNの負極端子にスイッチング素子が接続されている構成では下から上に流れるとプラスとなる。この検出向きの違いに対応するための変更である。
【0149】
電流制御部24aについては、加算器29aは、アンプ26の出力とアンプ28の出力と-1とを加算する。加算器29aの出力は上アームのセルモジュール電圧指令値Vp*となる。
【0150】
キャリア三角波から電流制御部24aの微分器25の起動信号を生成するブロックは、最大値選択部42aの代わりに最小値選択部を設け、遅延器41から出力されるn本のキャリア三角波から値が最も小さいものを選択して出力する。比較器44aは、微分器43の出力がマイナスならば1,零以上ならば0を出力する。以上により、微分器25はキャリア三角波最小値の山の部分でのみ動作する。
【0151】
本実施形態1は、
図3の点線の丸で図示した箇所に変更を行う。変更内容として、ゲインGcを乗算する乗算器23aの出力信号に高調波(正弦波)を重畳し、スイッチSW1の下側端子に入力する。
【0152】
図8に本実施形態1の高調波重畳ブロックを示す。
図8に示すように、高調波重畳ブロックは以下により構成される。
【0153】
乗算器70は、d軸電流指令値Id*にゲイン3√3/8π≒0.2067を乗算する。乗算器71は、乗算器70の出力にさらにゲインG3を乗算する。乗算器72は、q軸電流指令値Iq*にゲイン9√3/8π≒0.6202を乗算する。乗算器73は、乗算器72の出力にさらにゲインG3を乗算する。
【0154】
乗算器74は、
図3の位相同期回路PLLから得られた位相θにゲイン3を乗算する。加算器75は、乗算器74の出力である3θに位相オフセットφ3を加算して3θ+φ3を出力する。テーブル(cos,sin)76,77は3θ+φ3を入力し、対応した余弦波、正弦波を出力する。
【0155】
乗算器78は、テーブル76の出力cos(3θ+φ3)と乗算器71の出力3√3/8π×G3×Id*を乗算する。乗算器79は、テーブル77の出力sin(3θ+φ3)と乗算器73の出力9√3/8π×G3×Iq*を乗算する。加算器80は、乗算器78,79の出力を加算し、符号を反転する。
【0156】
加算器81は、
図3のゲインGcを乗算する乗算器23aの出力信号に、上記加算器80の出力信号を加算する。加算した信号を、スイッチSW1の下側入力信号とする。スイッチSW1の上側入力信号は、Iinv+αである。スイッチSW1の出力信号は、下アームセルモジュールの出力電流指令値I*である。
【0157】
本実施形態1では、下アームのセルモジュール1から適切な高調波電流を出力し、直流リンクを流れる電流iDCに重畳された高調波を打ち消すことで直流リンクコンデンサの電圧リプルΔvDCを抑制する。
【0158】
本実施形態1の動作を説明する。直流リンクを流れる電流iDCのうちk=1(3次高調波)を抽出すると、以下の(11)式となる。iDC1は直流リンクを流れる電流の3次高調波である。
【0159】
【0160】
そこで、上アームがONの相の下アームのセルモジュール1からこれとは逆向きの電流を出力する。
【0161】
図8について説明する。(11)式の通りに余弦波や正弦波にゲインをかけて高調波を求める。
図8のゲインは(11)式に比べて1/√2小さいが、これは制御系が実効値を基準とするか振幅を基準とするかによって適切な方を選択する。
【0162】
図8では、さらにゲインG3をかけているが、これは後段の下アームのセルモジュール1の電流制御ゲインが有限のため偏差が生じることを想定したためである。ゲインG3を1より少し大きな値に設定することで、ゲインが低く偏差が大きい場合でも想定に近い下アームのセルモジュール1の電流を得ることができる。
【0163】
位相3θにφ3(固定値)を加算しているが、これは下アームのセルモジュール1の電流制御に遅延が生じることを想定したためである。想定よりも位相を少し進めた電流指令値を電流制御ブロックに渡すことで、想定に近い位相の下アームのセルモジュール1の電流を得ることができる。
【0164】
ゲインGcを乗算する乗算器23aの出力信号は、3相分の下アームのセルモジュール1の電流指令値である。求めた高調波電流は、3相すべての下アームのセルモジュール1の電流指令値に加算する。
【0165】
本来であれば、上アームがONの相の下アームセルモジュール電流指令値だけに加算すべきであるが、後段のスイッチSW1により上アームがONの相だけセルモジュール出力電流指令値I*に高調波を重畳することになる。上アームがOFFの相のセルモジュール出力電流指令値I*はIinv+αに等しくなり高調波は重畳しない。
【0166】
これにより、高調波を重畳した場合でも上アームのスイッチング素子をターンONするときにスイッチング素子Su,Sv,Swに並列接続された並列コンデンサCu,Cv,Cwを放電することができる。並列コンデンサCu,Cv,Cwの短絡による損失増加やノイズの発生を防ぐことができ、また並列コンデンサの放電完了を検出できず上アームをONできず動作不安定に陥る、といった事態も防ぐことができる。
【0167】
以上示したように、本実施形態1によれば、
図1の回路において発生する直流リンクコンデンサ電圧のリプルを低減できる。
【0168】
また、電圧リプルを同程度にするならば、本実施形態1の適用により低耐圧・低コストのセルコンデンサ容量を増加する必要があるが、高耐圧・高コストの直流リンクコンデンサ容量をそれ以上に削減でき、コストを下げることができる。
【0169】
また、出力電流のTHD(Total Harmonic Distortion)を同程度にするならば、直流リンクコンデンサ容量を削減でき、セルコンデンサ容量は増加する必要がないため、コストをさらに下げることができ小型化も実現できる。
【0170】
また、直流リンクコンデンサ・セルコンデンサの容量を変えないならば、直流リンクコンデンサ・セルコンデンサの定格電圧(100%連続運転可能な電圧値)を下げることができ、コンデンサの小型化・低コスト化を図ることができる。さらに、スイッチング損失低減、低ノイズ化、リアクトルの小型化、循環電流減少による導通損失低減といった効果も得られる。
【0171】
また、直流リンクに接続される他の装置のインピーダンスが高い場合でも、
図1の回路を適用できる
また、最も電圧リプルへの影響が大きい3次高調波だけを打ち消すため、最も低い演算負荷で効果的に電圧リプルを低減できる
[実施形態2]
図9に本実施形態2の高調波重畳ブロックを示す。
図9は
図8に対し以下を追加した。
【0172】
乗算器82は、d軸電流指令値Id*にゲイン3√3/35π≒0.0473を乗算する。乗算器83は、乗算器82の出力にさらにゲインG6を乗算する。乗算器84は、q軸電流指令値Iq*にゲイン18√3/35π≒0.2835を乗算する。乗算器85は、乗算器84の出力にさらにゲインG6を乗算する。
【0173】
乗算器86は、θにゲイン6を乗算する。加算器87は、乗算器86の出力6θに位相オフセットφ6を加算して6θ+6φを出力する。テーブル(cos,sin)88,89は、加算器87の出力6θ+φ6を入力し、対応した余弦波、正弦波を出力する。
【0174】
乗算器90は、テーブル88の出力cos(6θ+φ6)と乗算器83の出力3√3/35π×G6×Id*を乗算する。乗算器91は、テーブル89の出力sin(6θ+φ6)と乗算器85の出力18√3/35π×G6×Iq*を乗算する。
【0175】
加算器92、93は、乗算器90,91の出力に、実施形態1で求めた-3√3/8π×G3×Id*×cos(3θ+φ3)と、-9√3/8π×G3×Iq*×sin(3θ+φ3)を加算する。加算器81は、加算した信号を、ゲインGcをかける乗算器23aの出力信号に加算する。
【0176】
本実施形態2の動作を説明する。本実施形態2は直流リンクを流れる電流iDCに重畳された高調波のうち、3次高調波だけでなく6次高調波も打ち消すようにした。直流リンクを流れる電流iDCのうちk=2(6次高調波)を抽出すると、以下の(12)式となる。iDC2は直流リンクを流れる電流の6次高調波である。
【0177】
【0178】
そこで、下アームのセルモジュール1の出力電流指令値にこれとは逆向きの電流を加算し、下アームのセルモジュール1から-iDC1,-iDC2の電流を出力する。計算方法は実施形態1と同じであり、電流制御の遅延や偏差が3次高調波とは異なることを考慮してゲインや位相オフセットを分けている。
【0179】
本実施形態2では-iDC1,-iDC2(3次,6次高調波)を下アームのセルモジュール1から出力するが、k=3以上のさらに高い次数の高調波も出力することが考えられる。
【0180】
しかし、(5)式より電圧リプルΔvDCのIdの項(有効電力)はだいたいkの3乗に反比例して小さくなる。Iqの項(無効電力)もおおよそkの2乗に反比例する。そのため電圧リプルΔvDCに重畳する高調波は次数が高くなるほど小さくなるため、高い次数の高調波を無視しても十分な効果を得ることができ、また無視することで演算負荷を低減することができる。
【0181】
無効電力(q軸電流)による電圧リプルは有効電力(d軸電流)による電圧リプルよりも大きいため、(4)式で求められる高調波のうち、Idの項よりもIqの項についてより高い次数の高調波まで重畳してもよい。例えば本実施形態2においてd軸電流のみ出力する高調波電流を3次のみにして簡略化する、q軸電流のみ9次の高調波電流も出力する、といった変更を適用してもよい。
【0182】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、6次高調波も打ち消すことで、実施形態1よりも電圧リプルを低減できる。
【0183】
[実施形態3]
図10に本実施形態3の高調波重畳ブロックを示す。
図10は
図8に対し以下を追加した。
【0184】
デッドバンド94,95は、d軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*の絶対値が設定した閾値以内であれば零を、閾値を超えていたらd軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*を閾値だけ零に近づけた値を出力する。
【0185】
乗算器70,72は、デッドバンド94,95の出力に、ゲイン3√3/8π,9√3/8πを乗算する。以降は実施形態1と同様である。また、実施形態2に本実施形態3を適用してもよい。
【0186】
実施形態1,2では、下アームセルモジュール出力電流に高調波を重畳させ直流リンクコンデンサの電圧リプルΔvDCを低減する。しかし、多くのセルを通過する下アームセルモジュール出力電流を増加させるため、この回路の長所である導通損失の低減効果を損ねてしまうという問題がある。
【0187】
そこで、実際に重畳する高調波を、(4)式、または(11)式、または(12)式で求められる高調波よりも小さくする。本実施形態3では高調波重畳ブロックに入力するd軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*にデッドバンドを設定する。これにより、もともと電圧リプルの小さい軽負荷では下アームセルモジュール出力電流に高調波を重畳せず、重負荷では高調波を少しだけ重畳して運転に支障がないレベルに電圧リプルΔvDCを抑えるという動作を実現できる。
【0188】
デッドバンドの設定方法の例を説明する。電圧リプルΔvDCを最も大きなk=1(3次高調波)について展開すると、以下の(13)式となる。
【0189】
【0190】
これより、無効電力(q軸電流)によって生じる3次の電圧リプルは有効電力(d軸電流)のものよりも3倍大きいため、q軸電流のデッドバンドを1/3小さくすることが考えられる。
【0191】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1,2と同様の作用効果を奏する。また、ある程度の電圧リプルを許容することで、下アームセルモジュール出力電流に重畳する高調波電流を小さくでき、損失増加を抑えることができる。
【0192】
図11にシミュレーション波形を示す。ただし、直流リンクには電力源や負荷などは一切接続せず、電圧リプルΔv
DCが大きくなる条件として装置からは1p.u.の無効電力(q軸電流)を出力している。時刻1秒において、実施形態1を有効にした。最下段の直流リンクコンデンサ電圧V
DCは実施形態1を有効にしたことによりリプルがほぼ半分に減少した。その一方でセルコンデンサ電圧のリプル増加は1.4倍程度と小さい。
【0193】
コンデンサ電圧リプルを同程度にするならば、低圧で低コストのセルコンデンサ容量を1.4倍に増加する必要があるが、高圧が印加される高コストの直流リンクコンデンサを半分にできるため、コスト上のメリットを得られる。
【0194】
出力電流IinvのTHDを確認すると、実施形態1の適用前後で3.9%から3.4%に減少した。THDへの影響は直流リンクコンデンサの方が大きいことを示している。THDを同程度にするならば、セルコンデンサ容量を増加する必要はなく、直流リンクコンデンサ容量を削減できるため、コストや体積をさらに下げることができる。
【0195】
実施形態1の適用前で出力電流検出値IinvのTHDが高い原因は、直流リンクコンデンサVDC最小値が線間電圧ピーク6.6×√2≒9334Vよりも小さくなり(6)式を満たしていないためである。
【0196】
しかし、実施形態1適用後では直流リンクコンデンサ電圧VDCの定格値(100%連続運転可能な電圧値)を10kVから9.8kVに下げても(6)式を満たすことができる。直流リンクコンデンサ電圧VDCの定格値(100%連続運転可能な電圧値)を下げればセルコンデンサ電圧の定格値(100%連続運転可能な電圧値)も低くでき、スイッチング損失を低減できる。スイッチングによりセルから出力される電圧リプルも低減でき、低ノイズ化、フィルタリアクトルFLやバッファリアクトルLu,Lv,Lwの小型化といった効果も得られる。
【0197】
さらに、この条件で循環電流Icを零にできる条件は(7)式よりVDC=9774Vである。直流リンクコンデンサ電圧VDCの定格値(100%連続運転可能な電圧値)を下げることによりこの値に近づき、循環電流Icを小さくして導通損失を削減することができる。
【0198】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0199】
1…セルモジュール
DCP,DCN…直流リンクコンデンサ
C…チョッパセル
B…ブリッジセル
Su,Sv,Sw…スイッチング素子
u,v,w…交流出力端子
FL…フィルタリアクトル
Lu,Lv,Lw…バッファリアクトル
Cu,CV,Cw…並列コンデンサ