(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】負極材料およびフッ化物イオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/46 20060101AFI20240910BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240910BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240910BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M4/46
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M10/05
H01M10/0562
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2021020468
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2022-08-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】野井 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】三木 秀教
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-132677(JP,A)
【文献】特開2019-121596(JP,A)
【文献】特開2018-077987(JP,A)
【文献】特開2017-054721(JP,A)
【文献】特開2018-092863(JP,A)
【文献】特表2020-502752(JP,A)
【文献】小林 俊介ほか,Nanoscale Defluorination Mechanism and Solid Electrolyte Interphase of a MgF2 Anode in Fluoride-Shuttle Batteries,APPLIED ENERGY MATERIALS,米国,Amerian Chemical Society,2021年01月25日,Volume 4, Issue 1,996-1003,DOI:10.1021/acsaem.0c02977,Published online 4 January 2021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/46
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/58
H01M 10/05
H01M 10/0562
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、
Mg元素を含有するMg材料と、
少なくともCa元素、Ba元素およびF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料と、を含有する負極材料。
【請求項2】
フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、
Mg元素を含有するMg材料と、
少なくともLa元素、Ba元素およびF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料と、を含有
し、
前記フッ化物イオン伝導性材料が、La
1-x
Ba
x
F
3-x
(xは、0.05≦x≦0.8を満たす)である負極材料。
【請求項3】
前記Mg材料が、Mg単体である、
請求項1または
請求項2に記載の負極材料。
【請求項4】
前記フッ化物イオン伝導性材料が、充放電時に負極活物質として機能する、請求項1から
請求項3までのいずれかの請求項に記載の負極材料。
【請求項5】
前記フッ化物イオン伝導性材料が、Ca
1-xBa
xF
2(xは、0.45≦x≦0.65を満たす)である、
請求項1に記載の負極材料。
【請求項6】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層と、を有するフッ化物イオン電池であって、
前記負極層が、請求項1から
請求項5までのいずれかの請求項に記載の負極材料を含有する、フッ化物イオン電池。
【請求項7】
前記固体電解質層における固体電解質が、前記フッ化物イオン伝導性材料における金属元素と同一の金属元素およびF元素を含有する、
請求項6に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項8】
前記固体電解質層における固体電解質のイオン伝導度が、前記負極層におけるフッ化物イオン伝導性材料のイオン伝導度以上である、
請求項6または
請求項7に記載のフッ化物イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧かつ高エネルギー密度な電池として、例えばLiイオン電池が知られている。Liイオン電池は、Liイオンをキャリアとして用いるカチオンベースの電池である。一方、アニオンベースの電池として、フッ化物イオンをキャリアとして用いるフッ化物イオン電池が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の電極層および固体電解質層という2種類の部材で、電池の発電要素を形成可能なフッ化物イオン電池が開示されている。また、特許文献1の電池においては、固体電解質層または負極集電体に、Pb、Sn、In、Bi、Sb等の金属元素を有する金属材料を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、固体電解質の脱フッ化反応を利用して、固体電解質から負極活物質を自己形成している。さらに、固体電解質層または負極集電体に、特定の金属材料を用いることで、短絡の発生を抑制している。特許文献1のように、自己形成される負極活物質に対して特定の金属材料を用いることで、短絡発生を抑制できるものの、負極活物質の反応電位が貴電位側にシフトすることで、電池の作動電位が低下するという新たな課題が生じる。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制可能な負極材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、Mg元素を含有するMg材料と、少なくとも一種の金属元素(Mg元素を除く)およびF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料と、を含有する負極材料を提供する。
【0008】
本開示によれば、フッ化物イオン伝導性材料とともに、Mg材料を用いることで、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制可能な負極材料となる。
【0009】
上記開示においては、上記Mg材料が、Mg単体であってもよい。
【0010】
上記開示においては、上記フッ化物イオン伝導性材料が、充放電時に負極活物質として機能してもよい。
【0011】
上記開示においては、上記フッ化物イオン伝導性材料が、上記金属元素を二種以上含有していてもよい。
【0012】
上記開示においては、上記フッ化物イオン伝導性材料が、Ca元素、Ba元素およびF元素を含有していてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記フッ化物イオン伝導性材料が、Ca1-xBaxF2(xは、0.45≦x≦0.65を満たす)であってもよい。
【0014】
上記開示においては、上記フッ化物イオン伝導性材料が、La元素、Ba元素およびF元素を含有していてもよい。
【0015】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層と、を有するフッ化物イオン電池であって、上記負極層が、上述した負極材料を含有する、フッ化物イオン電池を提供する。
【0016】
本開示によれば、負極層が上述した負極材料を含有することで、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制したフッ化物イオン電池となる。
【0017】
上記開示においては、上記固体電解質層における固体電解質が、上記金属元素およびF元素を含有していてもよい。
【0018】
上記開示においては、上記固体電解質層における固体電解質のイオン伝導度が、上記負極層における上記フッ化物イオン伝導性材料のイオン伝導度以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示においては、フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制可能な負極材料を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
【
図2】実施例1~5で得られた負極材料に対するXRD測定の結果である。
【
図3】実施例1~5および比較例1の充放電曲線である。
【
図4】実施例1~5の容量を比較したグラフである。
【
図5】実施例6および比較例2の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示における負極材料およびフッ化物イオン電池について、詳細に説明する。
【0022】
A.負極材料
本開示における負極材料は、フッ化物イオン電池に用いられる負極材料であって、Mg元素を含有するMg材料と、少なくとも一種の金属元素(Mg元素を除く)およびF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料と、を含有する。
【0023】
本開示によれば、フッ化物イオン伝導性材料とともに、Mg材料を用いることで、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制可能な負極材料となる。上述したように、特許文献1では、固体電解質の脱フッ化反応を利用して、固体電解質から負極活物質を自己形成している。さらに、固体電解質層または負極集電体に、特定の金属材料を用いることで、短絡の発生を抑制している。特許文献1のように、自己形成される負極活物質に対して、特定の金属材料を用いることで、短絡発生を抑制できるものの、負極活物質の反応電位が貴電位側にシフトすることで、電池の作動電位が低下するという新たな課題が生じる。
【0024】
具体的には、負極活物質源として機能するフッ化物イオン伝導性材料の反応電位(脱フッ化電位、フッ化反応電位)が、添加される金属材料(Pb、Sn、In、B、またはSb)の作用によって、貴電位側(+電位側)に、0.5~0.7vs.Pb2+/Pb程度シフトする。その結果、正極活物質と負極活物質との電位差が小さくなり、電池の作動電圧が低くなる。これに対して、本開示においては、金属材料としてMg材料を用いることで、シフト量を0.3vs.Pb2+/Pb程度に留めることができる。その結果、Mg材料を用いることで、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制することができる。
【0025】
なお、金属材料の添加により、フッ化物イオン伝導性材料の反応電位が変化するメカニズムは明らかではないが、放電開始時または放電中に、金属材料と固体電解質との間で化学結合が電気化学的に速やかに生じることで、固体電解質の電子構造(バンド構造)が変化し、電極電位と直結するパラメータである材料のフェルミ準位が変化するためであると考えられる。
【0026】
また、短絡の発生を抑制できるメカニズムについて、正極層と、固体電解質層と、負極層と、をこの順に備えるフッ化物イオン電池を用いて説明する。負極層におけるフッ化物イオン伝導性材料の脱フッ化/フッ化反応電位は、Mg材料の共存下ではわずかに貴(+)電位側にシフトする。これにより、放電(電池の電位が卑(-)側に変化する)時に、固体電解質層における固体電解質の脱フッ化が生じる前に、負極層におけるフッ化物イオン伝導性材料の脱フッ化が生じる。そのため、放電生成物(固体電解質由来の金属)が固体電解質層中に生成することを防止できる。その結果、短絡の発生を抑制することができる。
【0027】
本開示における負極材料は、Mg元素を含有するMg材料を含有する。Mg材料は、Mg単体であってもよく、Mg合金であってもよい。Mg合金は、Mgを主成分とする合金であることが好ましい。Mg合金におけるMg元素の割合は、例えば50at%以上であり、70at%以上であってもよく、90at%以上であってもよい。Mg合金中のMg元素の割合は、例えばICP発光分析法により測定することができる。負極材料は、Mg材料を一種のみ含有していてもよく、Mg材料を二種以上含有していてもよい。また、負極材料は、少なくともMg単体を含有することが好ましい。
【0028】
Mg材料の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。また、Mg材料の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上50μm以下である。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0029】
負極材料におけるMg材料の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。一方、Mg材料の割合は、例えば50重量%以下である。
【0030】
また、本開示における負極材料は、少なくとも一種の金属元素(Mg元素を除く)およびF元素を含有するフッ化物イオン伝導性材料を含有する。フッ化物イオン伝導性材料は、フッ化物イオン伝導性を有する。また、フッ化物イオン伝導性材料は、充放電時に負極活物質として機能する。例えば、フッ化物イオン伝導性材料がLa0.9Ba0.1F2.9である場合、充電時(F-脱離時)に、以下の反応が生じる。
La0.9Ba0.1F2.9+2.7e-→0.9La+0.1BaF2+2.7F-
【0031】
すなわち、フッ化物イオン伝導性材料から自己形成的に負極活物質が生じる。本開示における負極材料は、フッ化物イオン伝導性材料を、主な負極活物質として含有することが好ましい。「主な負極活物質」とは、フッ化物イオン伝導性材料(および、その充電生成物)に由来する容量が、全容量の中で最も多いことをいう。また、本開示における負極材料は、フッ化物イオン伝導性材料以外に、負極活物質を含有しなくてもよい。
【0032】
フッ化物イオン伝導性材料は、通常、Mg以外の金属元素MおよびF元素を含有し、フッ化物イオン伝導性を有する。金属元素Mとしては、例えば、La、Ce等のランタノイド元素、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素(Mgを除く)、Pb、Sn等の第14族元素、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ元素が挙げられる。中でも、金属元素Mは、La元素、Ba元素、Pb元素、Sn元素、Ca元素およびCe元素の少なくとも一種であることが好ましい。イオン伝導性が良好なフッ化物イオン伝導性材料が得られるからである。フッ化物イオン伝導性材料は、金属元素Mを一種のみ含有していてもよく、二種以上含有していてもよい。また、フッ化物イオン伝導性材料は、金属元素Mとして、少なくともBa元素を含有していてもよい。
【0033】
フッ化物イオン伝導性材料は、金属元素Mとして、CaおよびBaを含有することが好ましい。すなわち、フッ化物イオン伝導性材料は、Ca元素、Ba元素およびF元素を含有することが好ましい。イオン伝導性が良好なフッ化物イオン伝導性材料が得られるからである。この場合、フッ化物イオン伝導性材料は、Ca1-xBaxF2(xは、0<x<1を満たす)であることが好ましい。xは、0.45以上であってもよく、0.50以上であってもよく、0.55以上であってもよい。一方、xは、0.65以下であってもよく、0.60以下であってもよい。特に、xが0.45≦x≦0.65を満たす場合、可逆容量が良好になる。
【0034】
また、フッ化物イオン伝導性材料は、金属元素Mとして、LaおよびBaを含有することが好ましい。すなわち、フッ化物イオン伝導性材料は、La元素、Ba元素およびF元素を含有することが好ましい。イオン伝導性が良好なフッ化物イオン伝導性材料が得られるからである。この場合、フッ化物イオン伝導性材料は、La1-xBaxF3-x(xは、0<x<1を満たす)であることが好ましい。xは、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。一方、xは、0.8以下であってもよく、0.6以下であってもよい。
【0035】
フッ化物イオン伝導性材料の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。また、フッ化物イオン伝導性材料の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上50μm以下である。
【0036】
負極材料におけるフッ化物イオン伝導性材料の割合は、例えば50重量%以上であり、60重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。一方、フッ化物イオン伝導性材料の割合は、例えば90重量%以下であり、80重量%以下であってもよい。
【0037】
また、本開示における負極材料は、必要に応じて、導電材(電子伝導材)およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。導電材としては、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブが挙げられる。一方、バインダーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0038】
また、本開示における負極材料は、Mg材料およびフッ化物イオン伝導性材料が複合化した複合材料であってもよい。複合材料は、例えば、Mg材料およびフッ化物イオン伝導性材料を含有する混合物に対してメカニカルミリングを行うことにより、得ることができる。
【0039】
本開示における負極材料は、通常フッ化物イオン電池に用いられる。フッ化物イオン電池については後述する。
【0040】
B.フッ化物イオン電池
図1は本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示されるフッ化物イオン電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本開示においては、負極層2が上述した負極材料を含有する。なお、本開示におけるフッ化物イオン電池は固体電解質層を有するため、全固体フッ化物イオン電池と称すこともできる。
【0041】
本開示によれば、負極層が上述した負極材料を含有することで、短絡発生を抑制しつつ、作動電圧の低下を抑制可能なフッ化物イオン電池となる。
【0042】
1.負極層
本開示における負極層は、少なくとも上述した負極材料を含有する層である。負極材料は、「A.負極材料」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。負極層の厚さは特に限定されず、電池の構成によって適宜調整することができる。
【0043】
2.正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。
【0044】
正極活物質は、通常、放電時に脱フッ化する活物質である。正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物が挙げられる。正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Ag、Ni、Co、Pb、Ce、Mn、Au、Pt、Rh、V、Os、Ru、Fe、Cr、Bi、Nb、Sb、Ti、Sn、Znが挙げられる。中でも、正極活物質は、Cu、CuFz、Fe、FeFz、Ag、AgFzであることが好ましい。なお、上記zは、0よりも大きい実数である。また、正極活物質の他の例として、炭素材料およびそのフッ化物が挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、コークスおよびカーボンナノチューブが挙げられる。また、正極活物質のさらに他の例として、ポリマー材料が挙げられる。ポリマー材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンおよびポリチオフェンが挙げられる。
【0045】
正極層における正極活物質の含有量は特に限定されないが、容量の観点からは多いことが好ましい。正極活物質の含有量は、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。導電材およびバインダーについては、「A.負極材料」に記載に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、固体電解質については、「3.固体電解質層」に記載する内容と同様である。また、正極層の厚さは特に限定されず、電池の構成によって適宜調整することができる。
【0046】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、正極層および負極層の間に形成される層であり、固体電解質を少なくとも含有する。また、固体電解質層は、必要に応じて、さらにバインダーを含有していてもよい。
【0047】
固体電解質としては、フッ化物イオン伝導性を有する材料であれば、特に限定されないが、通常は、無機フッ化物である。無機フッ化物としては、La、Ce等のランタノイド元素を含有するフッ化物、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素を含有するフッ化物、Pb、Sn等の第14族元素を含有するフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ元素を含有するフッ化物が挙げられる。
【0048】
本開示においては、固体電解質層における固体電解質が、上記金属元素(上述したフッ化物イオン伝導性材料における金属元素と同一の金属元素)およびF元素を含有することが好ましい。短絡の発生を効果的に抑制できるからである。
【0049】
特に、固体電解質層における固体電解質の構成元素の種類と、負極層におけるフッ化物オン伝導性材料の構成元素の種類とが、同一であることが好ましい。例えば、固体電解質層における固体電解質がCa1-xBaxF2(0<x<1)であり、負極層におけるフッ化物オン伝導性材料がCa1-yBayF2(0<y<1)である場合は、構成元素の種類が同一であるといえる。xおよびyは、同じであってもよく、異なっていてもよい。すなわち、固体電解質層における固体電解質と、負極層におけるフッ化物オン伝導性材料とは、組成が同一であってもよく、組成が異なっていてもよい。
【0050】
また、本開示においては、固体電解質層における固体電解質のイオン伝導度が、負極層におけるフッ化物イオン伝導性材料のイオン伝導度以上であってもよい。過電圧を抑制でき、大きな比容量を得ることができるからである。固体電解質層における固体電解質のイオン伝導度をC1とし、負極層におけるフッ化物イオン伝導性材料のイオン伝導度をC2とする。C1は、C2と同じであってもよく、C2より大きくてもよい。C1/C2の値は、例えば1.00以上であり、1.05以上であってもよく1.10以上であってもよい。
【0051】
上記バインダーについては、「A.負極材料」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは特に限定されず、電池の構成によって適宜調整することができる。
【0052】
4.その他の構成
本開示におけるフッ化物イオン電池は、正極層の集電を行う正極集電体、負極層の集電を行う負極集電体、および上述した部材を収容する電池ケースを有することが好ましい。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等が挙げられる。また、電池ケースとしては、従来公知の電池ケースを用いることができる。
【0053】
5.フッ化物イオン電池
本開示におけるフッ化物イオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。また、フッ化物イオンの形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【0054】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
(フッ化物イオン伝導性材料の合成)
原料としてCaF2およびBaF2を準備し、モル比で、CaF2:BaF2=80:20となるように秤量した。これらを、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、PL-7)を用いたメカニカルミリングにより、混合および反応させることで粉末状のフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.8Ba0.2F2)を得た。なお、メカニカルミリングの条件は、600rpm、20時間、乾燥アルゴン雰囲気とした。
【0056】
(負極材料の調製)
粉末状Mg(Mg単体)、フッ化物イオン伝導性材料(Ca0.8Ba0.2F2)、および、導電材(アセチレンブラックカーボン)を、重量比で、粉末状Мg:フッ化物イオン伝導性材料:導電材=35:62:3となるように秤量した。これらを、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、PL-7)を用いたメカニカルミリングにより、混合することで粉末状の負極材料を調製した。メカニカルミリングの条件は、600rpm、3時間、乾燥アルゴン雰囲気とした。
【0057】
(固体電解質の合成)
原料としてCaF2およびBaF2を準備し、モル比で、CaF2:BaF2=60:40となるように秤量した。これらを、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、PL-7)を用いたメカニカルミリングにより、混合および反応させることで粉末状の固体電解質(Ca0.6Ba0.4F2)を得た。なお、メカニカルミリングの条件は、600rpm、20時間、乾燥アルゴン雰囲気とした。なお、Ca0.6Ba0.4F2は、上述したフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.8Ba0.2F2)、および、後述する実施例3~5におけるフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.5Ba0.5F2、Ca0.4Ba0.6F2、Ca0.3Ba0.7F2)よりもイオン伝導度が高い。
【0058】
(評価用電池(ハーフセル)の作製)
Al箔(対極集電体)と、50mgのPbF2粉末(5重量%のアセチレンブラックカーボンを含む)をPb箔上に形成した圧粉体(対極)と、100mgの固体電解質(Ca0.6Ba0.4F2)の圧粉体(固体電解質層)と、10mgの負極材料の圧粉体(作用極)と、Pt箔(作用極集電体)とをこの順に積層した。なお、対極におけるPb箔はAl箔と接する側に配置した。この積層体をセラミックス製の内径11.28mmの円筒容器内に配置し、対極集電体および作用極集電体の両側から直径11.28mmのステンレス鋼製の円柱で挟み固定した。このようにして、評価用電池(ハーフセル)を作製した。
【0059】
[実施例2]
CaF2およびBaF2の割合を、モル比で、CaF2:BaF2=60:40となるように変更してフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.6Ba0.4F2)を合成したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0060】
[実施例3]
CaF2およびBaF2の割合を、モル比で、CaF2:BaF2=50:50となるように変更してフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.5Ba0.5F2)を合成したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0061】
[実施例4]
CaF2およびBaF2の割合を、モル比で、CaF2:BaF2=40:60となるように変更してフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.4Ba0.6F2)を合成したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0062】
[実施例5]
CaF2およびBaF2の割合を、モル比で、CaF2:BaF2=30:70となるように変更してフッ化物イオン伝導性材料(Ca0.3Ba0.7F2)を合成したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0063】
[比較例1]
粉末状In(In単体)、フッ化物イオン伝導性材料(Ca0.8Ba0.2F2)、および、導電材(アセチレンブラックカーボン)を、重量比で、粉末状In:フッ化物イオン伝導性材料:導電材=30:65:5となるように秤量した。得られた混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極材料および評価用電池を作製した。
【0064】
[評価]
(XRD測定)
実施例1~5で得られた負極材料に対して、X線回折測定を行った。具体的には、リガク社製のSmartLabを用い、CuKα線を照射する集中法により行った。結果を
図2に示す。
【0065】
図2に示すように、実施例1~5のいずれにおいても、Mgに由来するピークと、Caリッチなフッ化物イオン伝導性材料に由来するピークと、Baリッチなフッ化物イオン伝導性材料に由来するピークが確認された。また、実施例1においては、未反応の原料(残渣成分)としてCaF
2のピークも確認された。
【0066】
(組成分析)
実施例1~5で得られた負極材料に対して、組成分析を行った。具体的には、得られた負極材料を圧粉成型したペレットの表面に対して、SEM-EDS(日立ハイテク社、SU-8220;オックスフォード・インストゥルメンツ社、EMAX Evolution)を用い、観察視野倍率を1000倍としたマッピング測定を行い、組成を分析した。その結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、BaおよびCaの原子数比は、仕込み(原料)および測定値で一致し、所望の負極材料が合成されていることが確認された。
【0069】
(放電・充電試験)
実施例1~5および比較例1で作製した評価用電池(ハーフセル)について、放電・充電試験を行い、可逆容量および平均作動電位を求めた。具体的には、ハーフセルを密閉容器に入れ、容器内を真空引きしながら、200℃において試験を行った。まず、セルを電流密度50μA/cm2で放電(卑電位方向へ作動)させた。次いで、同じ電流密度で充電(貴電位方向へ作動)させた。カットオフ電位は、放電では-2.65V(vs.Pb2+/Pb)、充電では-1.00V(vs.Pb2+/Pb)とした。ただし、充電の終了条件として容量制限を設け、充電容量が放電容量を上回ることなく、試験が終了するように設定した。
【0070】
実施例1~5および比較例1の充放電曲線を
図3に示す。なお、
図3における各図の横軸(比容量)は、負極材料中のCa
1-xBa
xF
2(フッ化物イオン伝導性材料)の重量で規格化している。また、実施例1~5の可逆容量の結果を
図4に示す。さらに、可逆容量および平均作動電位の結果を表2に示す。なお、平均作動電位は、放電および充電において、それぞれ容量を50%取り出したときの電位を読み取り、それらの平均をとることで算出した。
【0071】
【0072】
図3に示すように、実施例1~5および比較例1のいずれにおいても、短絡が発生することなく放電および充電が可能であった。なお、発明者等が別途行ったサイクリックボルタンメトリ試験(材料の反応電位調査)の結果から、金属材料を添加していない負極材料(プリスティンCa
1-xBa
xF
2)では、-2.65V(vs.Pb
2+/Pb)より卑な電位で脱フッ化が生じることが確認された。また、プリスティンCa
1-xBa
xF
2を負極材料として用いた評価用電池(ハーフセル)では、脱フッ化の進行とともに短絡が生じた。
【0073】
一方、実施例1~5および比較例1では、金属材料(Mg、In)の添加により、Ca1-xBaxF2の脱フッ化電位が貴な方向にシフトすることで、固体電解質層(プリスティンCa0.6Ba0.4F2)からの脱フッ化が生じず、短絡の発生が抑制可能になったと考えられる。
【0074】
また、表2に示すように、実施例1~5における負極材料の平均作動電位は、概ね-2.3V(vs.Pb2+/Pb)となり、比較例1における負極材料の平均作動電位は、-2.16V(vs.Pb2+/Pb)となった。すなわち、実施例1~5における負極材料は、比較例1における負極材料に比べて、より卑な電位で作動することが確認された。ここで、代表的なフッ化物イオン電池の正極活物質として、作動電位が約+0.7V(vs.Pb2+/Pb)であるCuを用いた場合を想定する。正極活物質としてCuを用いたフッ化物イオン電池(フルセル)を想定した場合、作動電圧(正極作動電位-負極作動電位)は、実施例1では3.05V、実施例2では3.04V、実施例3では3.06V、実施例4では3.05V、実施例5では3.02Vとなる。これに対して、比較例1の作動電圧は2.86Vとなる。このように、Mg材料を用いた場合、In材料を用いた場合と同様に短絡発生を抑制でき、さらに、In材料を用いた場合に比べて作動電圧の低下を抑制可能であることが確認された。
【0075】
また、
図4および表2に示すように、実施例3(x=0.5)および実施例4(x=0.6)が、突出して大きな可逆容量を示すことが確認された。すなわち、Ca
1-xBa
xF
2におけるxの値を制御することで、可逆容量に優れた負極が得られた。これは、
図3に示す充放電曲線において、実施例3、4では、他の実施例に比べて、放電初期、中期、末期において、放電曲線の勾配が緩やかな領域が出現していることから、実施例3、4の組成において過電圧が抑制されたためであると考えられる。この原因は定かではないが、負極中のイオン輸送特性がxの値に依存し、上記実施例の組成において、その特性が最大化するためであると推測される。
【0076】
[実施例6]
(フッ化物イオン伝導性材料の合成)
原料としてLaF3およびBaF2を準備し、モル比で、LaF3:BaF2=90:10となるように秤量した。これらを、ボールミル装置を用いたメカニカルミリングにより混合し、次いで、アルゴン雰囲気で焼成して反応させた。これにより、粉末状のフッ化物イオン伝導性材料(La0.9Ba0.1F2.9)を得た。なお、メカニカルミリング条件は、600rpm、20時間、乾燥アルゴン雰囲気とし、焼成条件は800℃、3時間とした。
【0077】
(負極材料の調製)
粉末状Mg(Mg単体)、フッ化物イオン伝導性材料(La0.9Ba0.1F2.9)、および、導電材(アセチレンブラックカーボン)を、重量比で、粉末状Mg:フッ化物イオン伝導性材料:導電材=27:70:3となるように秤量した。得られた混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を作製した。
【0078】
(評価用電池(ハーフセル)の作製)
固体電解質層として150mgのLa0.9Ba0.1F2.9の圧粉体を用い、作用極として15mgの負極材料の圧粉体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0079】
[比較例2]
粉末状In(In単体)、フッ化物イオン伝導性材料(La0.9Ba0.1F2.9)、および、導電材(アセチレンブラックカーボン)を、重量比で、粉末状In:フッ化物イオン伝導性材料:導電材=20:80:0となるように秤量した。得られた混合物を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、負極材料および評価用電池を作製した。
【0080】
(放電・充電試験)
実施例6および比較例2で作製した評価用電池(ハーフセル)について、放電・充電試験を行い、可逆容量および平均作動電位を求めた。具体的には、ハーフセルを密閉容器に入れ、容器内を真空引きしながら、140℃において試験を行った。まず、セルを電流密度10μA/cm2で放電(卑電位方向へ作動)させた。次いで、同じ電流密度で充電(貴電位方向へ作動)させた。カットオフ電位は、放電では-2.40V(vs.Pb2+/Pb)、充電では-1.00V(vs.Pb2+/Pb)とした。ただし、充電の終了条件として容量制限を設け、充電容量が放電容量を上回ることなく、試験が終了するように設定した。
【0081】
実施例6および比較例2の充放電曲線を
図5に示す。なお、
図5における各図の横軸(比容量)は、負極材料中のLa
0.9Ba
0.1F
2.9(フッ化物イオン伝導性材料)の重量で規格化している。また、実施例6および比較例2の可逆容量および平均作動電位の結果を表3に示す。
【0082】
【0083】
図5に示すように、実施例6および比較例2のいずれにおいても、短絡が発生することなく放電および充電が可能であった。なお、発明者等が別途行ったサイクリックボルタンメトリ試験(材料の反応電位調査)の結果から、金属材料を添加していない負極材料(プリスティンLa
0.9Ba
0.1F
2.9)では、-2.40V(vs.Pb
2+/Pb)より卑な電位で脱フッ化が生じることが確認された。また、プリスティンLa
0.9Ba
0.1F
2.9を負極材料として用いた評価用電池(ハーフセル)では、脱フッ化の進行とともに短絡が生じた。
【0084】
一方、実施例6および比較例2では、金属材料(Mg、In)の添加により、La0.9Ba0.1F2.9の脱フッ化電位が貴な方向にシフトすることで、固体電解質層(プリスティンLa0.9Ba0.1F2.9)からの脱フッ化が生じず、短絡の発生が抑制可能になったと考えられる。
【0085】
また、表3に示すように、実施例6における負極材料の平均作動電位は、-2.20V(vs.Pb2+/Pb)となり、比較例2における負極材料の平均作動電位は、-1.79V(vs.Pb2+/Pb)となった。すなわち、実施例6における負極材料は、比較例2における負極材料に比べて、より卑な電位で作動することが確認された。ここで、代表的なフッ化物イオン電池の正極活物質として、作動電位が約+0.7V(vs.Pb2+/Pb)であるCuを用いた場合を想定する。正極活物質としてCuを用いたフッ化物イオン電池(フルセル)を想定した場合、作動電圧(正極作動電位-負極作動電位)は、実施例6では2.90Vとなる。これに対して、比較例2の作動電圧は2.49Vとなる。このように、Mg材料を用いた場合、In材料を用いた場合と同様に短絡発生を抑制でき、さらに、In材料を用いた場合に比べて作動電圧の低下を抑制可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0086】
1 …正極層
2 …固体電解質層
3 …負極層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …電池ケース
10 …フッ化物イオン電池