(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240910BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2021023925
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀之
(72)【発明者】
【氏名】井上 尊夫
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-135368(JP,A)
【文献】特表2015-528985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/00 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム吸蔵前のラマンスペクトルでの480cm
-1以上550cm
-1の範囲に現れるピークの半値幅に対してリチウム吸蔵後のラマンスペクトルでの前記ピークの半値幅が小さい値を示す、多孔質シリコン材料。
【請求項2】
以下の(1)~(4)のいずれか1以上を満たす、請求項1に記載の多孔質シリコン材料。
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた画像から求めた空孔率が20体積%以下である。
(2)水銀圧入法により求めた細孔分布において1μm以下の細孔を有する。
(3)温度77Kでの窒素吸着法により求めた細孔分布において200nm以上800nm以下の範囲に細孔ピークを有する。
(4)温度77Kでの窒素吸着法により求めたBET比表面積が10m
2/g以上100
m
2/g以下の範囲である。
【請求項3】
1000mAh/gのLi吸蔵後の多孔質シリコン材料が1mol/Lとなるようエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7で混合した溶媒に入れた試験体を封入し示差走査熱量計(DSC)で450℃まで昇温したときの総発熱量が3500J/g以下の範囲である、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項4】
前記試験体を前記示差走査熱量計で測定した結果、以下の(5)~(7)のいずれか1以上を満たす、請求項3に記載の多孔質シリコン材料。
(5)前記試験体を前記示差走査熱量計で350℃まで昇温したときの総発熱量が3000J/g以下である。
(6)前記試験体を前記示差走査熱量計で450℃まで昇温したときに2W/g以上を示すピークが250℃以上の範囲にある。
(7)前記試験体を前記示差走査熱量計で450℃まで昇温したときに4W/g以上を示すピークを示さない。
【請求項5】
Mgを2質量%以下の範囲で含み、Oを10質量%以下の範囲で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項6】
リチウムを吸蔵させたときに、Li
13Si
4相を示す、請求項1~5のいずれか1項に
記載の多孔質シリコン材料。
【請求項7】
リチウムイオンをキャリアとする蓄電デバイスに用いられる電極であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料を電極活物質として備えた、
蓄電デバイス用電極。
【請求項8】
リチウムイオンをキャリアとする蓄電デバイスであって、
請求項7に記載の蓄電デバイス用電極を備えた、
蓄電デバイス。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法であって、
マグネシウムとシリコンとを含む原料を酸素及び不活性ガスを含む酸化雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度範囲で加熱して前駆体を得る加熱工程と、
酸化物を溶出する溶液に前記前駆体を浸漬して多孔化を行う多孔化工程と、
を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程では、Mg
2Siを前記原料として用いる、請求項9に記載の多孔質シリ
コン材料の製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程では、前記酸化雰囲気として10体積%以上50体積%以下の範囲で酸素を含む窒素中で前記原料を加熱する、請求項9又は10に記載のシリコン材料の製造方法。
【請求項12】
前記多孔化工程では、酸溶液で前記酸化物を溶出する、請求項9~11のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質シリコン材料としては、例えば、Mg2Siを窒化し、Mg3N2を酸でエッチングして多孔質シリコン材料を抽出し、更に気相法により細孔表面に炭素を被覆したものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、多孔質シリコン材料としては、Mg-Si合金を作製し、Bi浴中でMgを抽出することにより得られる、粒子径300nmの単結晶シリコンが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この単結晶シリコンは、粒子間の空隙が緩衝して粒子の損壊をより抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nature Communications, 10, 1447(2019)
【文献】Nano Letters, 14, 4505-4510(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1の製造方法では、細孔を有する試料を得ることが困難であり、再現性に難があった。また、上述の非特許文献2の製造方法では、BET比表面積が10m2/g以下程度であり、体積膨張を緩衝する空間が十分でなく、ある限界以上のリチウムが挿入すると粒子が崩壊するという問題があった。また、非特許文献2の単結晶シリコンの製造方法は、熔融したBi浴中で処理しなければならず、得られる量が極小であり、更なる改良が求められていた。より安定な新規の多孔質シリコン材料及びその製造方法が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、より安定な新規の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、マグネシウムとシリコンとを含む原料を酸化雰囲気で加熱したのち酸化物を除去することによって得られた多孔質シリコン材料が熱的及び化学的に安定であることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料は、
リチウム吸蔵前のラマンスペクトルでの480cm-1以上550cm-1の範囲に現れるピークの半値幅に対してリチウム吸蔵後のラマンスペクトルでの前記ピークの半値幅が小さい値を示すものである。
【0008】
また、本開示の蓄電デバイス用電極は、リチウムイオンをキャリアとする蓄電デバイスに用いられる電極であって、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。また、本開示の蓄電デバイスは、リチウムイオンをキャリアとする蓄電デバイスであって、上述の電極を備えたものである。
【0009】
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
マグネシウムとシリコンとを含む原料を酸素及び不活性ガスを含む酸化雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度範囲で加熱して前駆体を得る加熱工程と、
酸化物を溶出する溶液に前記前駆体を浸漬して多孔化を行う多孔化工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、より安定な新規の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコン材料は、質量あたりのLi吸蔵量が黒鉛の10倍以上あるが、多くのLiを吸蔵したシリコンは、熱安定性が劣る。本開示の多孔質シリコン材料は、マグネシウム及びシリコンを含む原料を酸化雰囲気で酸化したのち、この酸化物を除去して作製されており、リチウム吸蔵前における480cm-1以上550cm-1の範囲に現れるピークの半値幅に対してリチウム吸蔵後のラマンスペクトルでのピークの半値幅が小さい、即ち、結晶性をより高く維持する効果があり、Liの吸蔵放出に対して化学的安定性に優れるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】多孔質シリコン材料の製造方法の一例を示すスキーム。
【
図2】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図3】酸化雰囲気及び不活性雰囲気で熱処理したシリコン材料のSEM像及びラマンスペクトル。
【
図4】実験例4の多孔質シリコン材料のTEM像及びEDXマッピング像。
【
図5】Mg
2Si原料を大気中800℃で焼成した試料のTEM像。
【
図6】多孔質シリコン材料の細孔分布曲線及び窒素吸着等温線。
【
図7】多孔質シリコン材料のX線回折測定結果及びSEM像。
【
図8】多孔質シリコン材料の熱処理温度と空孔率との関係図。
【
図9】実験例1、4、12の評価セルの充放電曲線。
【
図10】実験例1、4、12のLi吸蔵前後のラマンスペクトル。
【
図11】実験例1、4、12のLi吸蔵後のDSCプロファイル。
【
図12】実験例1、4、12のDSC測定前後のラマンスペクトル。
【
図13】実験例4、12のフル充電後のX線回折測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、リチウム吸蔵前のラマンスペクトルでの480cm-1以上550cm-1の範囲に現れるピークの半値幅に対してリチウム吸蔵後のラマンスペクトルでの上記ピークの半値幅が小さい値を示すものである。この半値幅は、リチウム吸蔵前後で10%以上低減するものとしてもよいし、20%以上低減するものとしてもよいし、30%以上低減するものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、蓄電デバイスに用いられる非水系電解液を共存して加熱したあとの上記ラマンスペクトルでのピーク半値幅が加熱前以下の値を示すものとしてもよい。即ち、この多孔質シリコン材料は、リチウムの吸蔵や加熱などによってアモルファス化しにくいものである。
【0013】
この多孔質シリコン材料は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた画像から求めた空孔率が20体積%以下であるものとしてもよい。この空孔率は、より大きい方が、Liの析出を緩衝することができ好ましい。この空孔率は、2体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましく、12体積%以上が更に好ましい。この空孔率は、SEM画像を二値化処理し、Si領域と空隙領域とを分離し、その面積比から求めた空孔率とする。また、この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法により求めた細孔分布において、1μm以下の細孔を有するものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法により求めた細孔分布において、0.1μm以上1μmの範囲に細孔ピークを有するものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、温度77Kでの窒素吸着法により求めた細孔分布において、200nm以上800nm以下の範囲に細孔ピークを示すものとしてもよい。この細孔分布は、BJH法で求めるものとする。更に、この多孔質シリコン材料は、温度77Kでの窒素吸着法により求めたBET比表面積が10m2/g以上100m2/g以下の範囲であるものとしてもよい。この比表面積は、20m2/g以上であることが好ましく、25m2/g以上としてもよい。また、この比表面積は、75m2/g以下としてもよいし、50m2/g以下としてもよい。
【0014】
多孔質シリコン材料は、1000mAh/gのLi吸蔵後の多孔質シリコン材料1mgに対して0.27μLの1mol/Lとなるようエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7で混合した溶媒に入れた試験体を封入し示差走査熱量計(DSC)で450℃まで昇温したときの総発熱量が3500J/g以下の範囲であるものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、上記試験体を示差走査熱量計で350℃まで昇温したときの総発熱量が3000J/g以下であることが好ましい。総発熱量は、より低い方が熱安定性が高く、より好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、上記試験体を示差走査熱量計で5℃/分のスキャンレートにて450℃まで昇温したときに2W/g以上を示すピークが250℃以上の範囲にあるものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料は、上記試験体を示差走査熱量計で450℃まで昇温したときに4W/g以上を示すピークを示さないことが好ましい。このような特徴を有するものとすれば、化学的安定性、熱的安定性がより高く好ましい。
【0015】
多孔質シリコン材料は、Mgを2質量%以下の範囲で含み、Oを10質量%以下の範囲で含むものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、MgとSiとを含む原料を酸化雰囲気で加熱したのちMg成分を除去して得られたものとしてもよい。この原料は、Mg2Oとしてもよい。この多孔質シリコン材料では、結晶性が高く、好ましい。この多孔質シリコン材料において、Mg成分の含有量は、より少ないほど多孔質になることから、より少ないことが好ましく、1質量%以下としてもよいし、0.6質量%以下としてもよい。また、酸素の含有量は、7.5質量%以下としてもよいし、6質量%以下としてもよい。この多孔質シリコン材料は、その表面に1nm以上10nm以下の範囲の酸化皮膜層が形成されているものとしてもよい。酸化皮膜層は、酸化シリコン層としてもよい。この組成比は、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察におけるEDX測定によって求めた値とする。
【0016】
多孔質シリコン材料は、リチウムを吸蔵させたときに、Li13Si4相を示すものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、リチウムをフル充電したときにLi13Si4相を示すものとしてもよい。この多孔質シリコン材料では、結晶相を形成し、アモルファス化をより抑制することができ、好ましい。
【0017】
多孔質シリコン材料は、蓄電デバイスとして用いた際に、充電容量が2000mAh/g以上を示すものとしてもよい。この充電容量は、より大きいことが好ましく、2500mAh/g以上であるものとしてもよい。
【0018】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
次に、多孔質シリコン材料の製造方法について説明する。この製造方法は、上述した多孔質シリコン材料を製造する方法である。この多孔質シリコン材料の製造方法は、例えば、加熱工程と、多孔化工程とを含むものとしてもよい。
図1は、多孔質シリコン材料の製造方法の一例を示すスキームである。
【0019】
(加熱工程)
この工程では、マグネシウムとシリコンとを含む原料を、酸素及び不活性ガスを含む酸化雰囲気中、700℃以上900℃以下の温度範囲で加熱して前駆体を得る。用いる原料において、マグネシウムとシリコンとの比率は特に限定されないが、例えば、Mg2Siが好ましい。酸化雰囲気は、酸素と不活性ガスとを含むものであればその比率は特に限定されないが、例えば、酸素/不活性ガスの体積比が1/9~9/1の範囲が好ましく、2/8~6/4の範囲がより好ましい。酸素の比率が不活性ガスよりも低い方が好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素や希ガスなどが挙げられ、このうち窒素が好ましい。酸化雰囲気は、空気とすることがより好ましい。この工程では、酸化雰囲気として10体積%以上50体積%以下の範囲で酸素を含む窒素中で原料を加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば、750℃以上が好ましく、775℃以上がより好ましい。また、加熱温度は、875℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましい。加熱温度は、原料に含まれるマグネシウムを十分酸化することができ、多孔化を十分実現できる温度を適宜選択すればよい。
【0020】
(多孔化工程)
この工程では、前記戴に含まれる酸化物を溶出する溶液に前駆体を浸漬して多孔化する処理を行う。この工程では、酸溶液で酸化物を溶出することが好ましい。酸溶液としては、例えば、無機酸、有機酸などが挙げられ、このうち無機酸としてもよい。この酸溶液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられ、このうち塩酸が好ましい。酸の濃度は、マグネシウム酸化物やその他の不純物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この多孔化処理は、例えば、40℃~80℃で加温するものとしてもよい。また、多孔化処理は、上記前駆体を酸溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことが好ましい。多孔化処理を行い、得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。この多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、マグネシウムや酸素などは、残存しても構わないが、多孔質シリコン材料には不要な成分であるため、より少ない方がより好ましい。この工程では、平均空孔率が20体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この平均空孔率は、SEM画像を画像処理して得られた値とする。このような工程を経て、本開示の多孔質シリコン材料を得ることができる。
【0021】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなる。この電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。即ち、上述した多孔質シリコン材料は、導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程や、結着材と混合して集電体に圧着する工程などにより作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0022】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極及び負極の間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した蓄電デバイス用電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0023】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0024】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0025】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料であり、構造体を形成するシリコン21と、空隙23とを有する。
【0027】
以上詳述したように、本開示では、より安定な新規の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコン材料は、質量あたりのLi吸蔵量が黒鉛の10倍以上あるが、多くのLiを吸蔵したシリコンは、熱安定性が劣る。本開示の多孔質シリコン材料は、マグネシウム及びシリコンを含む原料を酸化雰囲気で酸化したのち、この酸化物を除去して作製されており、リチウム吸蔵前における480cm-1以上550cm-1の範囲に現れるピークの半値幅に対してリチウム吸蔵後のラマンスペクトルでのピークの半値幅が小さい。即ち、結晶性をより高く維持する効果があり、Liの吸蔵放出に対して化学的安定性に優れるものと推察される。
【0028】
また、この多孔質シリコン材料は、非水系電解液との共存下における加熱処理において、リチウムを吸蔵した多孔質シリコン材料と非水系電解液とが、低温側から徐々に発熱する。このため、この多孔質シリコン材料では、例えば、250℃以上の温度範囲において、反応エンタルピーの高い、非水系電解液と吸蔵リチウムとの発熱量が少なくなるため、熱安定性に優れるものと推察される。
【0029】
更に、この多孔質シリコン材料では、例えば、微細な細孔を多く有するため、多くのリチウムを吸蔵しても、体積膨張をより抑制することができ、その結果、充放電容量をより向上することができる。また、この多孔質シリコン材料は、結晶構造が比較的安定であるため、リチウムの吸蔵放出により結晶相の変化が起きにくく、安定した充放電が可能であるものと推察される。また、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、Mg2Siを酸化させたのち、Mg成分を除去するものであり、酸素共存下で処理可能であり、簡便に且つより多量の多孔質シリコン材料を製造することができる。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0031】
以下には、本開示の多孔質シリコン材料および蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~7が本開示の実施例であり、実験例8~11が参考例であり、実験例12が比較例である。
【0032】
[多孔質シリコン材料の作製]
(加熱工程)
マグネシウムとシリコンとを含む原料を用いて
図1に示すスキームにしたがって、多孔質シリコン材料を作成した。まず、純度99%以上のMg
2Siを乳鉢で1mm以下の粒度に粉砕し、原料粉体とした。この原料をアルミナのるつぼに入れ、酸素及び窒素の混合ガス又は窒素を100mL/分で流通させた環状炉で、600℃~900℃、2~5時間の熱処理を行った。酸素/窒素の割合を体積比で2/8とし、600℃、3時間の熱処理を行ったものを実験例1とした。この熱処理条件を700℃で3時間、750℃で3時間、800℃で3時間としたものをそれぞれ実験例2~4とした。また、この熱処理条件を、酸素/窒素の割合を体積比で5/5とし、800℃、3時間の熱処理を行ったものを実験例5とした。また、この熱処理条件を850℃で3時間、900℃で3時間としたものをそれぞれ実験例6~7とした。また、上記熱処理条件を、窒素気流中、750℃で3時間、800℃で3時間、850℃で3時間としたものをそれぞれ実験例8~10とした。また、この熱処理条件を、酸素気流中、800℃、3時間の熱処理を行ったものを実験例11とした。また、純度99%以上のSi(高純度化学製)をそのまま用いたものを実験例12とした。
【0033】
(多孔化工程)
実験例1~11の熱処理後の試料を1NのHCl水溶液で酸化マグネシウム、あるいは窒化マグネシウムを溶解・除去した。溶解処理は、室温(20℃)で60分間、撹拌しながら行った。この試料をろ過、水洗したのち、残渣であるシリコン材料を回収し、室温~60℃で減圧乾燥して試料を得た。得られた実験例1~12のシリコン材料の原料、熱処理雰囲気、温度(℃)、組成比(質量%)、細孔容積(cm3/g)、空孔率(体積%)、比表面積(m2/g)、ラマンスペクトルのSiピークの半値幅(cm-1)、充電容量(mAh/g)などをまとめて表1に示す。
【0034】
(SEM観察)
得られたシリコン材料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。SEM観察は、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)により試料の観察を行った。ラマンスペクトルは、測定装置として日本分光製NRS-3300型レーザーラマン分光計を用いた。また、励起波長は532nmとし、レーザーパワーは0.01mW又は0.001mWとした。
【0035】
図3は、酸化雰囲気(実験例3,4,6)及び不活性雰囲気(実験例8~10)で熱処理したシリコン材料のSEM像及びラマンスペクトルの測定結果である。
図3に示すように、窒素中で熱処理を行うと、750℃では特に細孔は認められず、800℃以上では粒状の構造が確認された。一方、酸化雰囲気(大気中)で熱処理を行うと、750~850℃の範囲において、粒子の表面から内部に通じる細孔が形成されることが確認された。また、ラマンスペクトルは、熱処理の雰囲気に係わらず、480cm
-1以上550cm
-1の範囲、おおよそ510cm
-1近傍に結晶シリコンに特有のピークが観察された。
【0036】
(TEM観察及び元素マッピング)
実験例4の多孔質シリコン材料を用いてTEM観察及びEDX測定を行った。このTEM観察は、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-2100F)を用い、元素マッピングには、(日本電子製JED-2300T)を用いた。
図4は、実験例4の多孔質シリコン材料のTEM像及びEDXマッピング像であり、
図4(a)が全体像、
図4(b)が
図4(a)の拡大図、
図4(c)がEDX測定結果である。
図4(a)に示すように、大気中800℃で熱処理した実験例4では、1μm以下の細孔が観察され、微量でMg、Oが観察された。また、
図4(b)の重ね合わせ画像および、Oのマッピング画像から、シリコン表面に1~10nmの酸化シリコン層が形成されていることが確認された。また、
図4(b)のSiのEDXマッピングから、細孔は、数10nmのシリコンが連結して形成されていることが伺えた。また、
図4(c)に示すように、シリコンは95質量%程度含有されており、Mgが除去され、ほぼシリコンになっていると考えられた。
【0037】
(加熱処理したMg
2SiのTEM像及び元素マッピング)
多孔性の起源を直接確認するために、不純物の含まれていないMg
2Si原料を800℃で加熱して得られた試料のTEM観察を行った。
図5は、Mg
2Si原料を大気中800℃で焼成した試料のTEM像であり、
図5(a)がHAADF-STEM像、
図5(b)がTEM像、
図5(c)がSAED図形、
図5(d)がSAED図形の回転平均、
図5(e)が回転平均の動径強度プロファイルである。
図5(c)~(e)は、
図5(b)の円で示した領域の回折パターンである。
図5(a),(b)に示すように、母相のMg
2Siの自形を保持し、数10~50nmの微粒子が連結した構造を形成していることが判った。
図5(c)~(e)に示すように、多結晶性であること結晶はSiであることが判った。
【0038】
(細孔分布評価)
実験例1、2、4、5、7、9、11の細孔分布及び比表面積を評価した。細孔分布は、水銀圧入法及び窒素吸着法により評価した。水銀圧入法では、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)を用いて測定した。比表面積測定は、ガス吸脱着測定装置(Quantachrome製Autosorb-1)を用いて窒素吸脱着測定を行った。窒素吸脱着測定は、P/P0が0~1の範囲で、窒素の吸脱着等温線を液体窒素温度(77K)で測定した。この吸脱着等温線の脱着側の曲線を用い、BJH法により細孔分布曲線を求めた。
【0039】
図6は、実験例1、2、4、5、7、9、11の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線及び窒素吸着等温線であり、
図6(a)が実験例5の水銀圧入法による細孔分布、
図6(b)が実験例4の水銀圧入法による細孔分布、
図6(c)が実験例1,2,4,7の窒素吸着法による細孔分布、
図6(d)が実験例1,2,4,7の窒素吸脱着等温線である。窒素100体積%雰囲気および酸素100体積%の雰囲気で熱処理を行った実験例9、11には、1μm以下の細孔は存在しなかった。酸素と窒素が共存する場合のみ、1μm以下と10nm程度の細孔が存在していた。
図6(c)に示すように、600℃の熱処理を行った実験例1では、60~70nmに細孔のピークを有するが、700℃の熱処理を行った実験例2では300nm近傍に細孔ピークを示し、800℃の熱処理を行った実験例4では600nm近傍に細孔ピークを示した。また、
図6(d)及び表1に示すように、600℃の熱処理では比表面積は143m
2/gと比較的大きな値を示したが、700℃の熱処理では54m
2/g、800℃の熱処理では25m
2/g、900℃の熱処理では40m
2/gを示し、熱処理温度の上昇と共に比表面積は減少する傾向を示した。
【0040】
(生成物相の確認と空孔率)
600℃~900℃で熱処理を行った実験例1、2、4、7の生成相を粉末X線回折測定により評価した。粉末X線回折測定は、粉末X線解析装置(リガク社製RINT-TTR)を用い、測定条件を管電圧50kV、管電流300mA、拡散スリット1/2deg、散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mmとした。
図7は、多孔質シリコン材料のX線回折測定結果及びSEM像であり、
図7(a)がXRDスペクトル、
図7(b)がSEM像である。
図7(a)に示すように、全ての実験例でSiが主成分として生成していることが確認された。また、600℃、700℃で熱処理した実験例1、2では、2θ=20°近傍にハローが観察され、非晶質シリカの生成が確認された。これは、未反応のMg
2SiがHCl水溶液で酸化されることにより、生成したものと推察された。この結果から、これらの温度範囲では酸化反応が不十分であるものと推察された。また、900℃で熱処理した実験例7では、帰属不明の相の成長が確認され、テルミット反応時の副生成物が酸処理によっても残存したものと視察された。一方、800℃で熱処理した実験例4では、副生成物は確認されなかった。また、
図7(b)に示すように、いずれの試料でも多孔性を示した。また、その細孔形状は、熱処理温度の上昇に伴い、疎になる傾向が認められた。
【0041】
このSEM画像を用いて、多孔質シリコン材料の空孔率を簡易的に求めた。空孔率は、JIS-Z8827-1に従い、SEM像の画像解析を行った。画像解析には、Image Jを使用し、Siと空隙とを二値化し、一義的に空孔率を求めた。
図8は、実験例1、2、4、5、7の多孔質シリコン材料の熱処理温度と空孔率との関係図である。
図8に示すように、600℃で熱処理した実験例1では、34体積%を示したが、熱処理温度の上昇に伴い連続的に減少し、900℃の熱処理では僅かに2体積%であった。
【0042】
(充電曲線測定)
実験例1、4、12のシリコン材料を電極活物質として用いて、試験セルを作製し、充放電曲線を測定した。実験例1、4、12のシリコン材料(1mg)と炭素系導電助材と結着材としてのポリテトラフルオロエチレンとを80:15:5の質量比となるように混合することで電極合材を調製した。この電極合材を銅メッシュに圧着し、電極を作製した。この電極を作用極とし、金属リチウムを対極とし、ポリエチレン製微多孔質膜をセパレータとし、電解液を注液して加圧式コイン電池(評価セル)を作製した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを1:1の体積比で混合した溶媒に、1MとなるようにLiPF6を溶解したものを用いた。この評価セルを充放電装置(北斗電工社製HJR-1010SM8)にセットして充放電試験を行った。充放電試験は、50mV~1.5Vを電位窓とし、1/50Cで行った。シリコン材料を用いた電極に1000mAh/gまでLiを吸蔵させ、容量、電圧・電流曲線を測定した。
【0043】
図9は、実験例1、4、12の評価セルの充放電曲線であり、
図9(a)が実験例12、
図9(b)が実験例1、
図9(c)が実験例4の測定結果である。
図9(b)に示すように、実験例1では、700mAh/g程度までは定電流にてLiを吸蔵し、その後、セル電圧が10mVに達し、定電圧にてLiを吸蔵した。実験例1は、比表面積が143m
2/gと大きく、Siの表面が酸化され、Si-O層が多く存在すると推察される。このような理由から、電極全体の抵抗が上昇し、1000mAh/gより早い段階で10mVに達したものと視察された。一方、実験例4、12では、1000mAh/gまで定電流によりLiを吸蔵させることができた。
【0044】
(Li吸蔵前後のラマン測定)
実験例1、2、4、12のLi吸蔵前と、電流容量1000mAh/gを充電してLiを吸蔵させたあとのシリコン材料のラマンスペクトルを測定した。Li吸蔵は、上記充電曲線の測定条件で行った。ラマン測定は、測定装置として日本分光製NRS-3300型レーザーラマン分光計を用いた。また、励起波長は532nmとし、レーザーパワーは0.01mW又は0.001mWとした。
図10は、実験例1、4、12のLi吸蔵前後のラマンスペクトルであり、
図10(a)~(c)がLi吸蔵前の実験例12,1,4のスペクトル、
図10(d)~(f)がLi吸蔵後の実験例12,1,4のスペクトルである。
図10に示すように、Liの吸蔵によって、実験例1、12では、ラマンスペクトルがブロード化した一方、実験例4ではそのブロード化は見られなかった。表1に各シリコン材料のLi吸蔵前後における480cm
-1以上550cm
-1の範囲に現れるSiピークのラマンシフトの半値幅を示した。実験例12の市販品のシリコンは、Li吸蔵によって半値幅が32%増加し、アモルファス化が進行したと推察された。600℃で熱処理した多孔質シリコン材料の実験例1では、半値幅が25%増加し、アモルファス化が進行したと推察された。一方、800℃で熱処理した多孔質シリコン材料の実験例4では、半値幅が30%減少した。このように、実験例4では、Li吸蔵によってシリコンのアモルファス化は進行せず、結晶性がより向上することがわかった。
【0045】
(Li吸蔵後のDSC測定)
上記Li吸蔵後の実験例1、4、12のシリコン材料の示差走査熱量測定(DSC)を行った。DSC測定は、示差走査熱量測定装置(Rigaku社製Thermo plus2)を用い、5MPaの内部耐圧を有するステンレス製密閉測定容器に、試料と非水系電解液とを密閉し、走査速度5℃/分で室温から450℃まで熱流量を計測することにより行った。測定試料は、非水電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7の比率で混合した溶媒に、1000mAh/gの充電によりLiを吸蔵させた多孔質シリコン材料が、1mol/Lとなるように配合したものとした。DSC測定では、積算発熱量および発熱挙動を求めた。
【0046】
図11は、実験例1、4、12のLi吸蔵後のDSCプロファイルであり、
図11(a)が各試料の積算発熱量、
図11(b)~(d)がそれぞれ実験例12、1、4の発熱挙動である。実験例12では、350℃まで昇温したときの総発熱量は4000J/gを示し、450℃まで昇温したときの総発熱量は4200J/gを示した。同様に、比表面積の大きな実験例1では、350℃まで昇温したときの総発熱量は3800J/gを示し、450℃まで昇温したときの総発熱量は4200J/gを示した。これに対して、実験例4では、350℃まで昇温したときの総発熱量は3000J/g以下であり、450℃まで昇温したときの総発熱量は3200J/gであり、3500J/g以下を示した。また、実験例1、12では、
図11(b)、(c)に示すように、250℃以上に4W/gを超える大きな発熱ピークを示した。一方、実験例4では、
図11(d)に示すように、250℃以上に2W/g程度の発熱ピークはあるものの、4W/gを超える大きな発熱ピークはを示さなかった。このように、実験例4は、非水電解液との反応性が低く、化学的安定性及び熱安定性が非常に高いことがわかった。
【0047】
(Li吸蔵後の加熱前後のラマン測定)
実験例1、4、12の上記DSC測定後の試料のラマンスペクトル測定を行った。この測定条件は、上述したラマン測定の条件と同様とした。
図12は、実験例1、4、12のDSC測定前後のラマンスペクトルであり、
図12(a)~(c)がそれぞれDSC測定(加熱)前の実験例12,1,4のスペクトル、
図12(d)~(f)がそれぞれDSC測定(加熱)後の実験例12,1,4のスペクトルである。
図12に示すように、実験例1、12では、DSC測定の加熱後にはラマンスペクトルが明らかにブロード化していた。即ち、非水系電解液との反応によって、シリコンの結晶性が低下し、アモルファス化が進行したものと推察された。一方、実験例4では、シリコンの結晶性は加熱前後で変化がなく、化学的安定性及び熱安定性がより高いことが示された。また、表1に加熱前後における480cm
-1以上550cm
-1の範囲に現れるピークの半値幅をまとめた。表1に示すように、実験例4の半値幅は変化せず、非水系電解液を共存した加熱処理でもアモルファス化が進行しないことが明らかとなった。
【0048】
(フル充電後のX線回折測定)
実験例4、12のシリコン材料をフル充電し、X線回折測定を行った。実験例4、12を上記評価セルにおいて電流値50μA、下限電圧10mVの条件で充電を行ったところ、いずれも2500mAh/g程度まで充電することができた。フル充電後にこの評価セルを不活性雰囲気中で解体し、シリコン材料を取り出し、X線回折測定を行った。X線回折測定は、上述した測定条件を用いた。
図13は、実験例4、12のフル充電後のX線回折測定結果であり、
図13(a)、(b)がそれぞれ実験例12、4の充電曲線、
図13(c)、(d)がそれぞれ実験例12、4のX線回折測定結果である。実験例12では、Li吸蔵後のSiは、アモルファスであるのに対して、多孔質シリコン材料である実験例4では、Li
13Si
4相の結晶が観測された。このように、通常、SiはLiを吸蔵するとアモルファス化するが、本開示の多孔質シリコン材料では、リチウムと結晶層を形成する特徴を有することがわかった。
【0049】
【0050】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 シリコン、23 空隙。