(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】液体噴射装置、および液体噴射装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240910BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240910BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240910BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/01 401
B41J2/14 605
B41J2/175 501
B41J2/18
(21)【出願番号】P 2021024015
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】横山 泰一
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-351664(JP,A)
【文献】特開2008-213349(JP,A)
【文献】特開2002-067353(JP,A)
【文献】特開2013-067032(JP,A)
【文献】特開2020-049874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0050443(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0096969(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルを有するヘッドユニットであって、前記液体が通過可能な孔が設けられるフィルター、前記フィルターによって区画される上流室および下流室を含むフィルター室と、複数の前記ノズルが形成する第1ノズル群と、複数の前記ノズルが形成する第2ノズル群と、を有するヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットが着脱可能に装着される装着部と、
前記フィルター室に気体を導入可能とする気体導入部と、
制御部と、
を備え、
前記第2ノズル群を形成する前記ノズルは前記フィルター室の前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、
前記気体側の圧力と前記フィルターの前記孔に形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、前記気体側の圧力と前記ノズルに形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、前記耐圧Pfは前記耐圧Pnより大きく、
前記制御部は、前記ヘッドユニットが前記装着部から取り外される前に、前記気体導入部を制御し、前記フィルター室に前記気体を導入することで前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成する事前動作を実行する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記ヘッドユニットが有する前記複数の前記ノズルの間の高低差に起因して、前記ノズルに形成される前記気液界面に作用する前記ヘッドユニット内の前記液体の圧力のうちの最大圧力を圧力Ph1としたとき、前記耐圧Pfは前記圧力Ph1より大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体を貯留する液体貯留部と、
前記上流室と前記液体貯留部とを連通可能とする第1通路と、
前記液体貯留部と前記上流室とを連通可能とする第2通路と、
前記第2通路に通じる大気通路と、
前記大気通路が、前記第2通路と通じる連通状態と前記第2通路と通じていない非連通状態とを切換え可能な、前記気体導入部としての切換え弁と、
前記第2通路に設けられる導入ポンプと、
を備え、
前記制御部は、前記切換え弁を制御して前記連通状態とし、前記導入ポンプを駆動することで前記大気通路から前記第2通路を介して前記上流室に前記気体を導入し、前記第1通路を介して前記上流室内の前記液体を前記液体貯留部に戻すことで前記フィルターの前記孔に前記気液界面を形成する前記事前動作を実行する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記上流室内の圧力が前記下流室内の圧力より高く、かつ前記上流室内の前記圧力と前記下流室内の前記圧力との圧力差が前記耐圧Pfよりも大きくなるように前記導入ポンプを駆動する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記フィルター室を第1フィルター室、前記上流室を第1上流室、前記下流室を第1下流室としたとき、前記ヘッドユニットは、前記フィルター、前記フィルターによって区画される第2上流室および第2下流室を含む第2フィルター室と、前記第1上流室および前記第2上流室と通じる共通流路と、を有し、
前記第1ノズル群を形成する前記複数の前記ノズルおよび前記第2ノズル群を形成する前記複数の前記ノズルは、前記共通流路を介して供給される前記液体を噴射し、前記第2ノズル群を形成する前記ノズルは、前記第2フィルター室の前記フィルター、前記共通流路、および前記第1フィルター室の前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、
前記気体導入部は、前記第1フィルター室および前記第2フィルター室に前記気体を導入可能とし、
前記制御部は、前記事前動作において前記第1フィルター室および前記第2フィルター室に前記気体を導入することで、前記第1フィルター室の前記フィルターに設けられる前記孔および前記第2フィルター室の前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記ヘッドユニットは、前記フィルター、前記フィルターによって区画される第3上流室および第3下流室を含む第3フィルター室と、前記第3上流室と通じる前記共通流路を介して供給される前記液体を噴射する複数の前記ノズルを有する第3ノズル群と、を有し、
前記第3ノズル群を形成する前記ノズルは、前記第3フィルター室の前記フィルター、前記共通流路、および前記第1フィルター室の前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、かつ、前記第3フィルター室の前記フィルター、前記共通流路、および前記第2フィルター室の前記フィルターを介して前記第2ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、
前記ヘッドユニットが有する前記複数の前記ノズルの間の高低差に起因して、前記第3ノズル群の前記ノズルに形成される前記気液界面に作用する前記ヘッドユニット内の前記液体の圧力のうちの最大圧力を圧力Ph2としたとき、前記耐圧Pnが前記圧力Ph2より大きい場合、
前記制御部は、前記事前動作において前記第3フィルター室の前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成しない、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
液体を噴射する複数のノズルを有するヘッドユニットであって、前記液体が通過可能な孔が設けられるフィルターと、複数の前記ノズルが形成する第1ノズル群と、複数の前記ノズルが形成する第2ノズル群と、を有するヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットが着脱可能に装着される装着部と、
を備え、
前記第2ノズル群を形成する前記ノズルは前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、
気体側の圧力と前記フィルターの前記孔に形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、前記気体側の圧力と前記ノズルに形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、前記耐圧Pfが前記耐圧Pnより大きい液体噴射装置の制御方法であって、
前記ヘッドユニットが前記装着部から取り外される前に、前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成する事前動作を実行する、
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置、および液体噴射装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、媒体に液体の一例であるインクを噴射することで印刷を行う液体噴射装置の一例であるインクジェット式のプリンターが開示されている。このプリンターは、ヘッドユニットの一例である液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドが着脱可能に装着される装着部と、を備え、液体吐出ヘッドは、インクを噴射する複数のノズルが形成するノズル群の一例であるノズル列を複数有する。また、複数のノズル列どうしは、液体吐出ヘッド内の流路を介して通じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の液体噴射装置では、例えば、装着部からヘッドユニットを取り外すことで、ヘッドユニットの姿勢が変化し、複数のノズルの間に高低差が発生する場合がある。この場合、インクによってノズルに形成されている気液界面に対して、複数のノズルの間の高低差に起因するヘッドユニット内のインクの圧力が作用し、ノズルの気液界面が壊れてインク漏れが生じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
液体噴射装置は、液体を噴射する複数のノズルを有するヘッドユニットであって、前記液体が通過可能な孔が設けられるフィルター、前記フィルターによって区画される上流室および下流室を含むフィルター室と、複数の前記ノズルが形成する第1ノズル群と、複数の前記ノズルが形成する第2ノズル群と、を有するヘッドユニットと、前記ヘッドユニットが着脱可能に装着される装着部と、前記フィルター室に気体を導入可能とする気体導入部と、制御部と、を備え、前記第2ノズル群を形成する前記ノズルは前記フィルター室の前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、前記気体側の圧力と前記フィルターの前記孔に形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、前記気体側の圧力と前記ノズルに形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、前記耐圧Pfは前記耐圧Pnより大きく、前記制御部は、前記ヘッドユニットが前記装着部から取り外される前に、前記気体導入部を制御し、前記フィルター室に前記気体を導入することで前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成する事前動作を実行する。
【0006】
液体噴射装置の制御方法は、液体を噴射する複数のノズルを有するヘッドユニットであって、前記液体が通過可能な孔が設けられるフィルターと、複数の前記ノズルが形成する第1ノズル群と、複数の前記ノズルが形成する第2ノズル群と、を有するヘッドユニットと、前記ヘッドユニットが着脱可能に装着される装着部と、を備え、前記第2ノズル群を形成する前記ノズルは前記フィルターを介して前記第1ノズル群を形成する前記ノズルと通じており、気体側の圧力と前記フィルターの前記孔に形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、前記気体側の圧力と前記ノズルに形成される気液界面を維持可能な前記液体側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、前記耐圧Pfが前記耐圧Pnより大きい液体噴射装置の制御方法であって、前記ヘッドユニットが前記装着部から取り外される前に、前記フィルターに設けられる前記孔に前記気液界面を形成する事前動作を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態としてのヘッドユニットを備える液体噴射装置の概略構成を示すブロック図。
【
図3B】ヘッドユニットの詳細構成を示す要部断面図。
【
図4】事前動作を含む液体噴射装置の制御方法の一例を示すフローチャート。
【
図5A】事前動作においてヘッドユニットに気体が流入した状態を示す断面図。
【
図5B】事前動作においてフィルター室の上流室に気体が流入した状態を示す断面図。
【
図5C】事前動作においてフィルター室の下流室に気体が流入した状態を示す断面図。
【
図6A】実施形態2における事前動作においてフィルター室の上流室に気体が流入した状態を示す断面図。
【
図6B】実施形態2における事前動作においてフィルター室の下流室に気体が流入した状態を示す断面図。
【
図7】流体流動部の一部を変更したその他の実施形態に係る液体噴射装置を示す断面図。
【
図8】流体流動部およびヘッドユニットの一部を変更したその他の実施形態に係る液体噴射装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。各図において同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向とする。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用し、各図の矢印が向かう向きを+方向、矢印の反対方向を-方向として説明する。またZ方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。
【0010】
1.実施形態1
本実施形態において、液体噴射装置500は、インクジェット式プリンターとして構成され、印刷用紙Pにインクを噴射して画像を形成する。インクは液体の一例である。なお、印刷用紙Pに代えて、樹脂フィルム、布帛等の任意の種類の媒体を、インクの吐出対象としてもよい。
【0011】
図1に示すように、液体噴射装置500は、ヘッドユニット200と、流体流動部20と、搬送機構30と、装着部40と、メンテナンス部50と、入出力部80と、制御部90とを備える。
【0012】
図1から
図3Bに示すように、ヘッドユニット200は、流路部211と、液体噴射ヘッド10と、を有する。流路部211には、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、後述する流体流動部20の液体流路24から供給されるインクを液体噴射ヘッド10に供給可能となる共通流路224と、液体噴射ヘッド10から排出されるインクを流体流路25に排出可能となる第2共通流路225と、が設けられる。共通流路224は、液体流路24が有する液体流路側接続部24Cと連通可能な共通流路側接続部224Cを有する。
【0013】
共通流路側接続部224Cには、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、共通流路224を液体流路24と連通状態とし、ヘッドユニット200が装着部40から取り外されることで、共通流路側接続部224Cの外部との連通を遮断する開閉弁が設けられる。第2共通流路225は、流体流路25が有する流体流路側接続部25Cと連通可能な第2共通流路側接続部225Cを有する。第2共通流路側接続部225Cには、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、第2共通流路225を流体流路25と連通状態とし、ヘッドユニット200が装着部40から取り外されることで、第2共通流路側接続部225Cの外部との連通を遮断する開閉弁が設けられる。
【0014】
液体噴射ヘッド10は、インクを噴射する複数のノズルNを有する。複数のノズルNは、一方向に等間隔で並ぶことでノズル列12を形成する。ヘッドユニット200が後述する装着部40に取り付けられた状態において、ノズル列12はX軸方向に沿い、ノズル列12を形成する複数のノズルNのうちX軸方向における両端のノズルNどうし間の寸法は印刷用紙Pの幅寸法より長い。ノズル列12はノズル群の一例である。
【0015】
本実施形態のヘッドユニット200は、ノズル列12を構成する複数のノズルNから+Z方向にインクを噴射して印刷用紙P上に画像を形成する、所謂ラインヘッドである。本実施形態のヘッドユニット200において、噴射するインクとしては、例えば、ブラックインク1色であるが、ヘッドユニット200にY軸方向に間隔を置いて4つのノズル列12を設け、それぞれのノズル列12から異なるインク、例えばブラック、シアン、マゼンタ、イエロー等の合計4色のインクを噴射してもよい。
【0016】
本実施形態における液体噴射ヘッド10は、複数の液体噴射ヘッド10a,10b,10c,10d,10eにより構成される。液体噴射ヘッド10はノズル面11を有する。ノズル面11は、ノズル面11a,11b,11c,11d,11eにより構成される。各液体噴射ヘッド10a,10b,10c,10d,10eは、それぞれノズル面11a,11b,11c,11d,11eを有する。各ノズル面11a,11b,11c,11d,11eには、それぞれ複数のノズルNが一方向に並ぶことで形成されるノズル列12a,12b,12c,12d,12eが設けられる。本実施形態におけるノズル列12は、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eにより構成される。ノズル列12aは第1ノズル群の一例であり、ノズル列12eは第2ノズル群の一例であり、ノズル列12cは第3ノズル群の一例である。
【0017】
本実施形態では、複数のノズル列12a,12b,12c,12d,12eが1つのノズル列12を形成するように、複数の液体噴射ヘッド10a,10b,10c,10d,10eが流路部211に取り付けられることで、ヘッドユニット200が形成されているが、複数のノズル列12a,12b,12c,12d,12eが形成する1つのノズル列12を有する1つの液体噴射ヘッド10が流路部211に取り付けられることで、ヘッドユニット200が形成されてもよい。あるいは、ヘッドユニット200は、複数のノズル列12a,12b,12c,12d,12eが形成する1つのノズル列12を有する1つの液体噴射ヘッド10が流路部211を一体的に備える形態であってもよい。
【0018】
液体噴射ヘッド10はフィルター室17を有する。フィルター室17は、インクをろ過可能なフィルター16と、フィルター16によって区画される上流室17Uおよび下流室17Dと、を含む。フィルター16には、インクを含む流体が通過可能な孔16Hが複数設けられる。上流室17Uには、上流室17Uを共通流路224と通じさせる第1フィルター流路18と、上流室17Uを第2共通流路225と通じさせる第2フィルター流路19と、が設けられる。フィルター室17は複数のフィルター室17a,17b,17c,17d,17eを含む。本実施形態では、液体噴射ヘッド10aがフィルター室17aを有し、液体噴射ヘッド10bがフィルター室17bを有し、液体噴射ヘッド10cがフィルター室17cを有し、液体噴射ヘッド10dがフィルター室17dを有し、液体噴射ヘッド10eがフィルター室17eを有する。
【0019】
フィルター室17aは第1フィルター室の一例であり、フィルター室17aが含む上流室17Uは第1上流室の一例であり、フィルター室17aが含む下流室17Dは第1下流室の一例である。フィルター室17eは第2フィルター室の一例であり、フィルター室17eが含む上流室17Uは第2上流室の一例であり、フィルター室17eが含む下流室17Dは第2下流室の一例である。フィルター室17cは第3フィルター室の一例であり、フィルター室17cが含む上流室17Uは第3上流室の一例であり、フィルター室17cが含む下流室17Dは第3下流室の一例である。
【0020】
フィルター16には、例えば、網目状体、多孔質体、微細な貫通孔を形成した多孔板などを用いることができる。網目状体のフィルターとしては、金網、樹脂製の網、メッシュフィルター、金属繊維などがある。金属繊維のフィルターとしては、ステンレスの細線をフェルト状にしたフェルトフィルター、ステンレスの細線を圧縮焼結させた金属焼結フィルターなどがある。多孔板のフィルターとしては、エレクトロフォーミング金属フィルター、電子線加工金属フィルター、レーザービーム加工金属フィルターなどがある。
【0021】
フィルター16は、流体が通過可能な多数の孔16Hが設けられて異物を捕集する。フィルター16の捕集可能な異物の大きさを示す濾過粒度は、ノズルNの最小寸法、例えばノズルNのノズル面11に開口するノズル開口の寸法より小さいことが好ましい。これにより、インク中の異物がノズルNに到達し難くできる。ノズル開口の最小寸法とは、ノズル開口が円形の場合には、ノズル開口の直径である。
【0022】
ここで、本実施形態におけるフィルター16の孔16Hに大気とインクによって形成される気液界面と、ヘッドユニット200が有するノズルNに大気とインクによって形成される気液界面と、について比較する。フィルター16の孔16Hに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力と大気側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、ノズルNに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力と大気側の圧力の間の圧力差を耐圧Pnとするとき、耐圧Pfは耐圧Pnより大きい。すなわち、本実施形態におけるフィルター16の孔16Hの仕様は、耐圧Pfが耐圧Pnより大きくなるように設定されている。なお、大気は気体の一例であり、地球の空気を指す。本実施形態における、耐圧Pfは、例えば5.5kPaであり、耐圧Pnは、例えば3.5kPaである。
【0023】
また、ヘッドユニット200が有する複数のノズルNの間の高低差に起因して、ノズルNに形成される気液界面に作用するヘッドユニット200内のインクの圧力のうちの最大圧力を圧力Ph1とするとき、フィルター16の孔16Hの仕様は、耐圧Pfが圧力Ph1より大きくなるように設定されている。例えば、装着部40からヘッドユニット200を取り外すことで、ヘッドユニット200の姿勢が
図1から
図3Aに示す姿勢に対して傾くと、ノズル列12を構成する複数のノズルNの間に高低差が発生する。この場合、インクによってノズルNに形成されている気液界面に対して、ヘッドユニット200が有する複数のノズルNの間の高低差に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する。
【0024】
本実施形態では、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、各ノズルNに作用するヘッドユニット200内のインクの圧力が最大となる。
図2、
図3Aに示すように、液体噴射ヘッド10が有するノズル列12を構成する各ノズル列12a,12b,12c,12d,12eを形成する複数のノズルNを、-X方向側から順に#1ノズル、#2ノズル、#3ノズル、#4ノズル、#5ノズル、#6ノズルとする。つまり、#1ノズルは、ノズル群を形成する複数のノズルNのうち最も-X方向に位置するノズルNであり、#6ノズルは、ノズル群を形成する複数のノズルNのうち最も+X方向に位置するノズルNである。そして、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、各ノズルNに作用するヘッドユニット200内のインクの圧力が最大となる。
【0025】
このとき、ノズル列12aにおいて、作用するインクの圧力が最大となるノズルNは#1ノズルであり、寸法Dhaを水頭とするインクの圧力が作用する。寸法Dhaは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12aの♯1ノズルと、ノズル列12aの♯1ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12eの♯6ノズルまでの距離である。また、ノズル列12bにおいて、作用するインクの圧力が最大となるノズルNは#1ノズルであり、寸法Dhbを水頭とするインクの圧力が作用する。寸法Dhbは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12bの♯1ノズルと、ノズル列12bの♯1ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12eの♯6ノズルまでの距離である。また、ノズル列12cにおいて、作用するインクの圧力が最大となるノズルNは#1ノズルと#6ノズルであり、寸法Dhcを水頭とするインクの圧力が作用する。寸法Dhcは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12cの♯1ノズルと、ノズル列12cの♯1ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12eの♯6ノズルまでの距離である。また、寸法Dhcは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12cの♯6ノズルと、ノズル列12cの♯6ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12aの♯1ノズルまでの距離である。また、ノズル列12dにおいて、作用するインクの圧力が最大となるノズルNは#6ノズルであり、寸法Dhbを水頭とするインクの圧力が作用する。寸法Dhbは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12dの♯6ノズルと、ノズル列12dの♯6ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12aの♯1ノズルまでの距離である。また、ノズル列12eにおいて、作用するインクの圧力が最大となるノズルNは#6ノズルであり、寸法Dhaを水頭とするインクの圧力が作用する。寸法Dhaは、ヘッドユニット200の姿勢が、ノズル列12を構成する複数のノズルNの並ぶ方向、あるいは複数の液体噴射ヘッド10の並ぶ方向が鉛直方向であるZ軸方向となるとき、ノズル列12eの♯6ノズルと、ノズル列12eの♯6ノズルから鉛直方向であるZ軸方向において最も離れたノズル列12aの♯1ノズルまでの距離である。
【0026】
よって、本実施形態では、ヘッドユニット200の姿勢に起因して、ノズルNに形成される気液界面に作用するヘッドユニット200内のインクの最大圧力は、寸法Dhaを水頭とするインクの圧力である。従って、本実施形態において、ノズルNに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力と大気側の圧力の間の圧力差である耐圧Pnは、寸法Dhaを水頭とするインクの圧力Ph1より小さい。また、本実施形態における耐圧Pnは、寸法Dhbを水頭とするインクの圧力より小さく、
図2、
図3Aに示す寸法Dhc,Dhd,Dhgを水頭とするインクの圧力より大きい。本実施形態において、Dhgは0.09m、Dhdは0.19m、Dhcは0.29m、Dhbは0.4m、Dhaは0.5mであり、インクの比重量を10kN/m
3とすると、寸法Dhgを水頭とするインクの圧力は0.9kPa、寸法Dhdを水頭とするインクの圧力は1.9kPa、寸法Dhcを水頭とするインクの圧力は2.9kPa、寸法Dhbを水頭とするインクの圧力は4kPa、寸法Dhaを水頭とするインクの圧力は5kPaとなる。すなわち、本実施形態において、圧力Ph1は5kPaである。
【0027】
フィルター16として、メッシュフィルターを採用する場合、綾畳織のフィルターとすることができる。ステンレスの針金を織り込んで形成されるメッシュフィルターは、針金同士の隙間である網目が設けられている。この場合、針金同士の隙間である網目を、孔16Hという。
【0028】
フィルター16として、多孔板のフィルターを採用する場合、孔16Hの最小寸法がノズル開口の最小寸法よりも小さいことが好ましい。多孔板のフィルターには、ステンレスの板を貫通する多数の孔16Hが形成されている。孔16Hの最小寸法とは、孔16Hが円形の場合には、孔16Hの直径(内径)である。孔16Hの形状は、円形に限らず、正方形、六角形などの多角形、楕円形などとしてもよい。
【0029】
図3Bに示すように、液体噴射ヘッド10は、共通液室13を有する。共通液室13はフィルター室17と通じている。各液体噴射ヘッド10a,10b,10c,10d,10eは、それぞれ共通液室13を有する。本実施形態では、液体噴射ヘッド10aが有する共通液室13はフィルター室17aと通じており、液体噴射ヘッド10bが有する共通液室13はフィルター室17bと通じており、液体噴射ヘッド10cが有する共通液室13はフィルター室17cと通じており、液体噴射ヘッド10dが有する共通液室13はフィルター室17dと通じており、液体噴射ヘッド10eが有する共通液室13はフィルター室17eと通じている。
【0030】
液体噴射ヘッド10は、1つのノズルNと通ずる個別液室15と、1つの個別液室15と通ずる個別連通路14と、を複数のノズルNに対応して複数有する。個別液室15には、駆動されることで、個別液室15内のインクをノズルNから液滴として噴射可能とする吐出素子ACTが設けられる。本実施形態の吐出素子ACTは、駆動電圧が印加された場合に収縮する圧電素子によって構成される。圧電素子への駆動電圧の印加と印加の解除とにより、容積が変化した個別液室15内のインクがノズルNから液滴として噴射される。
【0031】
図3Aに示すように、本実施形態では、液体噴射ヘッド10aが有するノズルNと連通する個別液室15は、個別連通路14を介して、液体噴射ヘッド10aが有する共通液室13と通じている。液体噴射ヘッド10bが有するノズルNと連通する個別液室15は、個別連通路14を介して、液体噴射ヘッド10bが有する共通液室13と通じている。液体噴射ヘッド10cが有するノズルNと連通する個別液室15は、個別連通路14を介して、液体噴射ヘッド10cが有する共通液室13と通じている。液体噴射ヘッド10dが有するノズルNと連通する個別液室15は、個別連通路14を介して、液体噴射ヘッド10dが有する共通液室13と通じている。液体噴射ヘッド10eが有するノズルNと連通する個別液室15は、個別連通路14を介して、液体噴射ヘッド10eが有する共通液室13と通じている。
【0032】
このため、本実施形態では、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eのうち1つのノズル列を構成するノズルNと、他のノズル列を構成するノズルNとは、少なくとも1つのフィルター16を介して通じている。例えば、ノズル列12aを構成する#1ノズル~#6ノズルと、ノズル列12eを構成する#1ノズル~#6ノズルとは、フィルター室17aのフィルター16、およびフィルター室17eのフィルター16を介して通じている。また、例えば、ノズル列12cを構成する#1ノズル~#6ノズルと、ノズル列12aを構成する#1ノズル~#6ノズルとは、フィルター室17cのフィルター16、およびフィルター室17aのフィルター16を介して通じている。また、例えば、ノズル列12cを構成する#1ノズル~#6ノズルと、ノズル列12eを構成する#1ノズル~#6ノズルとは、フィルター室17cのフィルター16、およびフィルター室17eのフィルター16を介して通じている。
【0033】
図1から
図3Aに示すように、流体流動部20は、接続流路22と、液体貯留部23と、液体流路24と、流体流路25と、大気通路26と、を有する。接続流路22は、液体収容部21が取り付けられることで、液体収容部21内のインクを液体貯留部23に供給可能とする。液体貯留部23は、液体収容部21から供給されるインクを貯留する。液体貯留部23の上面には大気開放孔23AHが設けられている。大気開放孔23AHにより、液体貯留部23がインクを貯留する内部空間は、外部空間となる大気と通じている。液体貯留部23に貯留されるインクの液面はヘッドユニット200のノズル面11に対して、+Z方向となる位置に調整される。
【0034】
液体流路24は、ヘッドユニット200の共通流路224と接続されることで、フィルター室17の上流室17Uと液体貯留部23とを連通可能とする。液体流路24は、上流室17Uと液体貯留部23とを連通可能とする第1通路の一例である。液体流路24と液体貯留部23とは、液体貯留部23の側面で接続される。液体流路24の液体貯留部23との接続位置は、液体貯留部23の大気開放孔23AHに対して+Z方向に位置する。液体流路24には、第1ポンプ24Pと、第1開閉弁24Vと、前述の液体流路側接続部24Cと、が設けられる。第1ポンプ24Pは、液体貯留部23とヘッドユニット200との間でインクを流動可能であり、第1ポンプ24Pを駆動することで、例えば、液体流路24内のインクが
図3Aの矢印の向きで示す供給方向に流動する。第1開閉弁24Vは、液体流路24におけるインクの流動を許容する開状態とインクの流動を遮断する閉状態とを切換え可能である。
【0035】
流体流路25は、ヘッドユニット200の第2共通流路225と接続されることで、液体貯留部23とフィルター室17の上流室17Uとを連通可能とする。流体流路25は、液体貯留部23と上流室17Uとを連通可能とする第2通路の一例である。流体流路25と液体貯留部23とは、液体貯留部23の側面で接続される。流体流路25の液体貯留部23との接続位置は、液体貯留部23の大気開放孔23AHに対して+Z方向に位置し、かつ液体流路24の液体貯留部23との接続位置に対して-Z方向に位置する。流体流路25には、第2ポンプ25Pと、切換え弁27と、前述の流体流路側接続部25Cと、が設けられる。第2ポンプ25Pは、液体貯留部23とヘッドユニット200との間で流体を流動可能であり、第2ポンプ25Pが駆動されることで、例えば、流体流路25内のインクが
図3Aの矢印の向きで示す帰還方向に流動する。第2ポンプ25Pは、導入ポンプの一例である。
【0036】
切換え弁27は、流体流路25において、第2ポンプ25Pと比較して液体貯留部23に近い位置に設けられる。すなわち、切換え弁27は、流体流路25において、第2ポンプ25Pと液体貯留部23との間に配置されている。大気通路26は、切換え弁27を介して流体流路25に接続される。大気通路26は、流体流路25を大気と連通させることで、液体噴射ヘッド10のフィルター室17に気体を導入可能とする気体導入部の一例である。切換え弁27を駆動することで、流体流路25と液体貯留部23とが通じる開状態と、流体流路25における流体の流動を遮断する閉状態と、流体流路25と大気通路26とが通じる連通状態と、に流体流路25の状態を切換え可能である。なお、開状態および閉状態では、流体流路25と大気通路26とが通じていないので、開状態および閉状態は、流体流路25と大気通路26とが通じていない非連通状態である。換言すると、切換え弁27は、流体流路25と大気通路26とが通じる連通状態と、流体流路25と大気通路26とが通じていない非連通状態と、を切換え可能である。
【0037】
搬送機構30は、印刷用紙Pを搬送方向に搬送する。
図1に示すように、本実施形態における搬送方向は、+Y方向および-Y方向である。搬送機構30は、3つの搬送ローラー32が装着された搬送ロッド34と、搬送ロッド34を回転駆動する搬送用モーター36とを備える。搬送用モーター36が搬送ロッド34を回転駆動することにより、複数の搬送ローラー32が回転して印刷用紙Pが搬送方向における+Y方向に搬送される。なお、搬送ローラー32の数は3つに限らず任意の数であってもよい。また、搬送機構30を複数備える構成としてもよい。
【0038】
図1から
図3Aに示すように、装着部40は、ヘッドユニット200が着脱可能に装着される。本実施形態における着脱方向はX軸方向であり、ヘッドユニット200の装着部40への装着方向は-X方向であり、ヘッドユニット200の装着部40からの取り外し方向は+X方向である。ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、ヘッドユニット200の共通流路224が液体流路24と連通し、第2共通流路225が流体流路25と連通する。また、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、ヘッドユニット200と本体側との電気的な接続が行われ、後述する制御部90による吐出素子ACTの駆動制御によってノズルNからのインクの噴射が可能となる。
【0039】
メンテナンス部50は、ヘッドユニット200のメンテナンスを行う。メンテナンス部50は、メンテナンスユニット保持部51と、メンテナンスユニット駆動部52と、キャップ61と、キャップ弁62と、吸引ポンプ63と、廃液チューブ64と、廃液収集部66と、およびワイパー71と、を有する。
【0040】
キャップ61は、ヘッドユニット200のノズルNからインクを排出させることで、ヘッドユニット200のメンテナンスを行う。キャップ61は、ヘッドユニット200のノズル面11に接触することで、複数のノズルNが開口する吸引空間を形成する。キャップ61はメンテナンスユニット保持部51に保持される。キャップ61を保持するメンテナンスユニット保持部51は、メンテナンスユニット駆動部52を駆動することで、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかに移動する。キャップ61は、メンテナンスユニット駆動部52を駆動することで、ノズル面11に接触しない非キャッピング位置と、ノズル面11に接触する吸引可能位置と、に移動する。
【0041】
キャップ61は、廃液チューブ64を介して、廃液を収集する廃液収集部66と通じている。廃液チューブ64には、キャップ61が形成する吸引空間を吸引するための吸引ポンプ63が設けられる。また、廃液チューブ64におけるキャップ61と吸引ポンプ63との間となる位置には、キャップ61と吸引ポンプ63とが連通する開状態と、キャップ61と吸引ポンプ63とが非連通となる閉状態とに、キャップ61と吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62が設けられる。
【0042】
キャップ61は、ヘッドユニット200が有するノズル面11aに接触することで、ノズル列12aの複数のノズルNが開口する吸引空間を形成可能なキャップ61a、ノズル面11bに接触することで、ノズル列12bの複数のノズルNが開口する吸引空間を形成可能なキャップ61b、ノズル面11cに接触することで、ノズル列12cの複数のノズルNが開口する吸引空間を形成可能なキャップ61c、ノズル面11dに接触することで、ノズル列12dの複数のノズルNが開口する吸引空間を形成可能なキャップ61d、およびノズル面11eに接触することで、ノズル列12eの複数のノズルNが開口する吸引空間を形成可能なキャップ61eを含む。
【0043】
キャップ弁62は、キャップ61aと吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62a、キャップ61bと吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62b、キャップ61cと吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62c、キャップ61dと吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62d、およびキャップ61eと吸引ポンプ63との接続状態を切換え可能なキャップ弁62eを含む。
【0044】
本実施形態のキャップ61は、複数のノズル列12a,12b,12c,12d,12eのうち、いずれかを構成する複数のノズルNからインクを排出させることで、ヘッドユニット200のメンテナンスを行う。例えば、ノズル列12aをメンテナンスする場合、キャップ61a,61b,61c,61d,61eを吸引可能位置に移動することで、各ノズル列12a,12b,12c,12d,12eを構成する複数のノズルNが開口する複数の吸引空間が形成される。
【0045】
そして、キャップ弁62aを開状態、その他のキャップ弁62b,62c,62d,62eを閉状態とし、吸引ポンプ63を駆動することで、ノズル列12aを構成する複数のノズルNからインクが吸引空間に排出される。吸引空間に排出されるインクは、廃液チューブ64を介して、廃液収集部66に収集される。また、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eをメンテナンスする場合、キャップ弁62a,62b,62c,62d,62eを開状態とし、吸引ポンプ63を駆動することで、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eを構成する複数のノズルNからインクが吸引空間に排出される。
【0046】
ワイパー71はヘッドユニット200のノズル面11をワイピングすることで、ヘッドユニット200のメンテナンスを行う。ワイパー71はメンテナンスユニット保持部51に保持される。ワイパー71はメンテナンスユニット駆動部52を駆動することで、ノズル面11に接触しない待機位置とノズル面11に接触可能なワイピング位置との間をZ軸方向に移動する。本実施形態では、ワイパー71がワイピング位置にある状態で、メンテナンスユニット駆動部52を駆動することで、ワイパー71を保持するメンテナンスユニット保持部51をY軸方向に移動させ、ノズル面11を構成するノズル面11a,11b,11c,11d,11eのワイピングを行う。
【0047】
入出力部80は、表示部81と、操作部82と、を有する。表示部81は、液体噴射装置500の操作の案内表示や液体噴射装置500に関する情報を報知する報知部の一例である。ユーザーは、表示部81に表示される内容を参照しながら、操作部82を操作することで、液体噴射装置500における各種操作を実施することができる。なお、表示部81がタッチパネル機能を有する液晶表示モジュールで構成され、液体噴射装置500に対する各種設定を行う操作部としての機能を有する場合、操作部82はなくてもよい。
【0048】
制御部90は、液体噴射装置500の全体を制御する。例えば、制御部90は、流体流動部20による液体貯留部23とヘッドユニット200との間の流体の流動動作や、印刷用紙Pの搬送方向に沿った搬送動作、ヘッドユニット200のノズルNからのインクの噴射動作、メンテナンス部50によるヘッドユニット200のメンテナンス動作、入出力部80によるユーザー指示に基づく液体噴射装置500の制御およびユーザーへの報知等を制御する。制御部90は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とにより構成されてもよい。
【0049】
本実施形態のヘッドユニット200は、装着部40に着脱可能に設けられる。例えば、ヘッドユニット200を装着部40から取り外すことで、ヘッドユニット200の姿勢が
図1から
図3Aに示す姿勢に対して傾くと、ノズル列12を構成する複数のノズルNの間に高低差が発生する。この場合、インクによってノズルNに形成されている気液界面に対して、複数のノズルNの間の高低差に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する。インクによってノズルNに形成されている気液界面に対して作用するヘッドユニット200内のインクの圧力が、ノズルNに形成されている気液界面を維持可能なインク側の圧力と大気側の圧力の間の圧力差である耐圧Pnより大きい場合、ノズルNに形成されている気液界面が壊れて、ノズルNからのインク漏れが生じる虞がある。
【0050】
本実施形態のヘッドユニット200において、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eのうち1つのノズル列を構成するノズルNと、他のノズル列を構成するノズルNとは、少なくとも1つのフィルター16を介して通じている。また、フィルター16の孔16Hに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力と大気側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとするとき、耐圧Pfは耐圧Pnより大きい。すなわち、本実施形態におけるフィルター16の孔16Hの仕様は、耐圧Pfが耐圧Pnより大きくなるように設定されている。
【0051】
よって、ノズルNに形成されている気液界面に対して、複数のノズルNの間の高低差に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する場合に、本実施形態のヘッドユニット200によれば、フィルター16の孔16Hに気液界面を形成することで、ノズルNからのインク漏れを抑制できる。また、フィルター室17内のインクを大気と置換することで、フィルター16の孔16Hに気液界面を形成することができるので、例えば、ヘッドユニット200が取り外される前に実行する事前動作においてヘッドユニット200内のインクを全て排出する場合と比較して、事前動作の時間短縮、無駄なインクの削減、廃液収集部66の使用量削減を図れる。
【0052】
そこで、制御部90は、ヘッドユニット200が装着部40から取り外される前に、切換え弁27を駆動制御することでフィルター室17に大気を導入可能とし、フィルター室17に大気を導入することで、フィルター16の孔16Hに気液界面を形成する事前動作を実行する。ここでは、
図4に示すフローチャートを参照して、本実施形態において制御部90が事前動作を含む制御を行うときに実行する処理の流れについて説明する。本実施形態において、制御部90が事前動作を含む制御を行うときに実行する処理の流れは、液体噴射装置500の制御方法に該当する。
【0053】
入出力部80において、ヘッドユニット200の取り外しを行うための操作がユーザーにより行われると、制御部90は、ステップS11において、ヘッドユニット200にインクが充填済みか否かを判断する。ステップS11において、ヘッドユニット200にインクが充填されていない場合、ステップS11はNOになる。ステップS11がNOの場合、制御部90は、処理をステップS15に移行し、表示部81にヘッドユニット200の取り外しが可能である旨のメッセージを表示する。制御部90は、ステップS15の処理を実行すると、事前動作を含む制御を行うときに実行する処理を終了する。
【0054】
ステップS11において、ヘッドユニット200にインクが充填済みである場合、ステップS11はYESになる。制御部90は、処理をステップS12に移行する。制御部90は、ステップS12において、表示部81にヘッドユニット200の取り外し前の準備中である旨のメッセージを表示する。
【0055】
ステップS13において、制御部90は、事前動作を実行する。事前動作において、制御部90は、切換え弁27を駆動制御して、切換え弁27を連通状態にする。これにより、流体流路25は大気通路26と通じ、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eに流体流路25、第2共通流路225、第2フィルター流路19を介して大気通路26からの大気を導入可能な状態となる。制御部90は、連通状態において、第1開閉弁24Vを開状態とし、大気通路26、流体流路25、液体流路24における流体の流れが
図5Aの矢印の向きとなるように、第2ポンプ25Pおよび第1ポンプ24Pを駆動制御する。これにより、
図5Aに示すように、大気通路26を介して、流体流路25、第2共通流路225、各第2フィルター流路19に大気が流入する。
【0056】
流体流路25、第2共通流路225、各第2フィルター流路19内のインクは、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eを介して、各第1フィルター流路18、共通流路224、液体流路24内を液体貯留部23に向けて流動する。なお、事前動作の実行中にノズルNからインクが滴下する可能性を考慮して、制御部90は、切換え弁27を駆動制御する前に、
図5Aに示すように、メンテナンスユニット駆動部52を駆動制御して、キャップ61を吸引可能位置に移動させておいてもよい。
【0057】
図5Aに示す状態から、さらに、第2ポンプ25Pおよび第1ポンプ24Pの駆動を継続すると、
図5Bに示すように、大気がフィルター室17a,17b,17c,17d,17eの上流室17Uに流入し、各上流室17U内のインクが大気に置換される。これにより、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eにおけるフィルター16の孔16Hの各上流室17U側に気液界面が形成される。各上流室17U内への大気の流入により、各上流室17U、各第1フィルター流路18、共通流路224のインクは、液体貯留部23に向けて流動する。
【0058】
上流室17U内のインクが大気に置換しにくい場合、制御部90は、上流室17U内が大気圧より高くなるように第2ポンプ25Pの駆動を制御してもよい。例えば、制御部90は、第2ポンプ25Pによる流体の流量が第1ポンプ24Pの駆動による流体の流量と比較して多くなるように、第2ポンプ25Pの駆動を制御してもよい。また、このとき、制御部90は、上流室17U内の圧力が下流室17D内の圧力より高く、かつ、上流室17U内の圧力と下流室17D内の圧力との差が耐圧Pfより大きくなるように、第2ポンプ25Pの駆動を制御してもよい。
【0059】
フィルター16における孔16Hの上流室17U側に気液界面が形成されたら、制御部90は、事前動作を終了してもよいが、本実施形態では、事前動作において、フィルター室17の下流室17Dにも大気を流入させる。制御部90が、さらに、第2ポンプ25Pおよび第1ポンプ24Pの駆動を継続すると、
図5Cに示すように、大気がフィルター室17a,17b,17c,17d,17eの下流室17Dに流入し、各下流室17D内のインクが大気に置換される。このとき、各フィルター16の孔16Hのインクは大気に置換されずに孔16Hに留まり、孔16Hには、留まったインクにより上流室17U側と下流室17D側の両側に気液界面が形成される。
【0060】
下流室17D内に大気が流入しにくい場合、例えば、制御部90は、上流室17U内の圧力が下流室17D内の圧力より高く、かつ、上流室17U内の圧力と下流室17D内の圧力との差が耐圧Pfより大きくなるように、第2ポンプ25Pの駆動を制御してもよい。このとき、ヘッドユニット200内の一部のインクがノズルNから滴下する場合があっても、
図5Cに示すように、キャップ61を吸引可能位置に移動させておくことで、キャップ61によりインクを収集できる。
【0061】
ステップS13において、事前動作が終了すると、制御部90は、処理をステップS14に移行する。ステップS14において、制御部90は、メンテナンス動作を実行する。制御部90は、メンテナンス動作として、
図5Dに示すように、メンテナンスユニット駆動部52を駆動制御して、ワイパー71を保持するメンテナンスユニット保持部51をY軸方向に移動させ、ノズル面11を構成するノズル面11a,11b,11c,11d,11eのワイピングを行う。また、本実施形態では、
図5Dに示すように、事前動作を実行した後もヘッドユニット200内にインクが収容されている。この場合、制御部90は、ワイピングの後に、吐出素子ACTを駆動して、ノズルNからインクを吐出することで、ノズルN内のインクの状態を整えるフラッシングを行ってもよい。
【0062】
ステップS14において、メンテナンス動作が終了すると、制御部90は、処理をステップS15に移行する。ステップS15において、制御部90は、表示部81にヘッドユニット200の取り外しが可能である旨のメッセージを表示する。制御部90は、ステップS15の処理を実行すると、事前動作を含む制御を行うときに実行する処理を終了する。
【0063】
以上述べたように、実施形態1に係る液体噴射装置500、および液体噴射装置500の制御方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0064】
液体噴射装置500は、インクを噴射する複数のノズルNを有するヘッドユニット200であって、インクが通過可能な孔16Hが設けられるフィルター16、フィルター16によって区画される上流室17Uおよび下流室17Dを含むフィルター室17aと、複数のノズルNが形成するノズル列12aと、複数のノズルNが形成するノズル列12eと、を有するヘッドユニット200と、ヘッドユニット200が着脱可能に装着される装着部40と、フィルター室17aに大気を導入可能とする切換え弁27と、制御部90と、を備え、ノズル列12eを形成するノズルNはフィルター室17aのフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じており、大気側の圧力とフィルター16の孔16Hに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、大気側の圧力とノズルNに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、耐圧Pfは耐圧Pnより大きく、制御部90は、ヘッドユニット200が装着部40から取り外される前に、切換え弁27を制御し、フィルター室17aに大気を導入することでフィルター16に設けられる孔16Hに前記気液界面を形成する事前動作を実行する。
【0065】
ヘッドユニット200の取り外し等によりヘッドユニット200の姿勢が変化し、ノズルNに形成されている気液界面に対して、ヘッドユニット200の姿勢変化により発生する複数のノズルNどうしの高低差に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する。この場合に、ノズル列12eを形成するノズルNはフィルター室17aのフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じているので、フィルター16の孔16Hに形成される気液界面の耐圧Pfによって、ノズルNからのインク漏れを抑制できる。
【0066】
ヘッドユニット200が有する複数のノズルNの間の高低差に起因して、ノズルNに形成される前記気液界面に作用するヘッドユニット200内のインクの圧力のうちの最大圧力を圧力Ph1としたとき、耐圧Pfは圧力Ph1より大きい。これによれば、フィルター16の孔16Hに形成される気液界面の耐圧Pfによって、ヘッドユニット200の姿勢変化に起因するノズルNからのインク漏れをより抑制できる。
【0067】
液体噴射装置500は、インクを貯留する液体貯留部23と、上流室17Uと液体貯留部23とを連通可能とする液体流路24と、液体貯留部23と上流室17Uとを連通可能とする流体流路25と、流体流路25に通じる大気通路26と、大気通路26が、流体流路25と通じる連通状態と流体流路25と通じていない非連通状態とを切換え可能な、気体導入部としての切換え弁27と、流体流路25に設けられる第2ポンプ25Pと、を備え、制御部90は、切換え弁27を制御して前記連通状態とし、第2ポンプ25Pを駆動することで大気通路26から流体流路25を介して上流室17Uに大気を導入し、液体流路24を介して上流室17U内のインクを液体貯留部23に戻すことでフィルター16の孔16Hに前記気液界面を形成する前記事前動作を実行する。これによれば、フィルター16の孔16Hに気液界面を形成しやすい。
【0068】
制御部90は、上流室17U内の圧力が下流室17D内の圧力より高く、かつ、上流室17U内の前記圧力と下流室17D内の前記圧力との圧力差が耐圧Pfよりも大きくなるように第2ポンプ25Pを駆動する。これによれば、フィルター16の孔16Hに気液界面をより形成しやすい。
【0069】
ヘッドユニット200は、フィルター16、フィルター16によって区画される上流室17Uおよび下流室17Dを含むフィルター室17eと、フィルター室17aの上流室17Uおよびフィルター室17eの上流室17Uと通じる共通流路224と、を有し、ノズル列12aを形成する複数のノズルNおよびノズル列12eを形成する複数のノズルNは、共通流路224を介して供給されるインクを噴射し、ノズル列12eを形成するノズルNは、フィルター室17eのフィルター16、共通流路224、およびフィルター室17aのフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じており、切換え弁27は、フィルター室17aおよびフィルター室17eに大気を導入可能とし、制御部90は、前記事前動作においてフィルター室17aおよびフィルター室17eに大気を導入することで、フィルター室17aのフィルター16に設けられる孔16Hおよびフィルター室17eのフィルター16に設けられる孔16Hに前記気液界面を形成する。
【0070】
これによれば、ノズル列12eを形成するノズルNはフィルター室17eのフィルター16およびフィルター室17aのフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じているので、フィルター16の孔16Hに形成される気液界面の耐圧Pfによって、ノズルNからのインク漏れをより抑制できる。
【0071】
液体噴射装置500の制御方法は、インクを噴射する複数のノズルNを有するヘッドユニット200であって、インクが通過可能な孔16Hが設けられるフィルター16と、複数のノズルNが形成するノズル列12aと、複数のノズルNが形成するノズル列12eと、を有するヘッドユニット200と、ヘッドユニット200が着脱可能に装着される装着部40と、を備え、ノズル列12eを形成するノズルNはフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じており、大気側の圧力とフィルター16の孔16Hに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力との間の圧力差を耐圧Pfとし、大気側の圧力とノズルNに形成される気液界面を維持可能なインク側の圧力との間の圧力差を耐圧Pnとしたとき、耐圧Pfが耐圧Pnより大きい液体噴射装置500の制御方法であって、ヘッドユニット200が装着部40から取り外される前に、フィルター16に設けられる孔16Hに前記気液界面を形成する事前動作を実行する。
【0072】
これによれば、ノズルNに形成されている気液界面に対して、ヘッドユニット200の取り外し等により、ヘッドユニット200の姿勢変化に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する場合に、ノズルNからのインク漏れを抑制できる。
【0073】
2.実施形態2
次に、本開示の一実施形態としての実施形態2の液体噴射装置500、および液体噴射装置500の制御方法について説明する。なお、実施形態1の液体噴射装置500、および液体噴射装置500の制御方法と共通する部分については、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0074】
本実施形態の液体噴射装置500、ヘッドユニット200の仕様は実施形態1の液体噴射装置500、ヘッドユニット200と同じである。よって、ヘッドユニット200の姿勢に起因して、ノズル列12aのノズルNに作用する寸法Dhaを水頭とするインクの圧力、ノズル列12bのノズルNに作用する寸法Dhbを水頭とするインクの圧力、ノズル列12dのノズルNに作用する寸法Dhbを水頭とするインクの圧力、およびノズル列12eのノズルNに作用する寸法Dhaを水頭とするインクの圧力は、ノズルNに形成される気液界面の耐圧Pnより大きい。また、ヘッドユニット200の姿勢に起因して、ノズル列12cのノズルNに作用する寸法Dhcを水頭とするインクの圧力は、耐圧Pnより小さい。このため、ノズル列12cのノズルNに寸法Dhcを水頭とするインクの圧力が作用したとき、フィルター室17cにおけるフィルター16の孔16Hに気液界面が形成されていなくても、ノズル列12cのノズルNの気液界面は壊れない。
【0075】
実施形態1において制御部90が実行する事前動作では、
図5Aから
図5Cに示すように、フィルター室17cにおけるフィルター16の孔16Hにも気液界面が形成される。これに対して、本実施形態における制御部90は、
図6A、
図6Bに示すように、事前動作において、フィルター室17a,17b,17d,17eにおけるフィルター16の孔16Hに気液界面を形成するが、フィルター室17cにおけるフィルター16の孔16Hに気液界面を形成しない。
【0076】
次に、本実施形態において、制御部90が事前動作を含む制御を行うときに実行する処理の流れについて説明する。なお、本実施形態において、制御部90が事前動作を含む制御を行うときに実行する処理の流れは、
図4に示すフローチャートにおけるステップS13が実施形態1と異なる以外は同じである。このため、ここでは、
図4に示すフローチャートにおけるステップS13における処理の流れについて説明する。
【0077】
ステップS13において、制御部90は、事前動作を実行する。事前動作において、制御部90は、キャップ61を吸引可能位置に移動させる。また、制御部90は、第1開閉弁24Vを閉状態にする。また、制御部90は、切換え弁27を連通状態にする。また、キャップ弁62a,62b,62d,62eを開状態とし、キャップ弁62cを閉状態とする。そして、制御部90は、吸引ポンプ63を駆動する。このとき、制御部90は、フィルター室17a,17b,17d,17eの下流室17D内の圧力が、上流室17U内の圧力より低く、かつ、下流室17D内の圧力と上流室17U内の圧力との圧力差が耐圧Pnより大きくなるように、吸引ポンプ63を駆動する。これにより、
図6Aに示すように、ノズル列12a,12b,12d,12eのノズルNから排出されるインクが、キャップ61a,61b,61d,61e、および廃液チューブ64を介して、矢印のように、廃液収集部66に向けて流動する。
【0078】
これに伴い、矢印のように、大気通路26を介して、流体流路25、第2共通流路225、フィルター室17a,17b,17d,17eに通ずる第2フィルター流路19、フィルター室17a,17b,17d,17eの上流室17Uに大気が流入し、フィルター室17a,17b,17d,17eの上流室17U内のインクが大気に置換される。これにより、フィルター室17a,17b,17d,17eにおけるフィルター16の孔16Hの各上流室17U側に気液界面が形成される。一方、フィルター室17cに通じる第2フィルター流路19とフィルター室17cには、大気が流入しないので、フィルター室17cにおけるフィルター16の孔16Hに気液界面は形成されていない。
【0079】
フィルター室17a,17b,17d,17eのフィルター16における孔16Hの上流室17U側に気液界面が形成されたら、制御部90は、事前動作を終了してもよいが、
図6Bに示すように、フィルター室17a,17b,17d,17eの各フィルター16における孔16Hの上流室17U側と下流室17D側の両側に気液界面を形成する場合、吸引ポンプ63の駆動を継続する。フィルター室17a,17b,17d,17eの下流室17D内に大気が流入しにくい場合、例えば、制御部90は、フィルター室17a,17b,17d,17eの下流室17D内の圧力が、上流室17U内の圧力より低く、かつ、下流室17D内の圧力と上流室17U内の圧力との圧力差が耐圧Pfより大きくなるように、吸引ポンプ63を駆動してもよい。
【0080】
以上述べたように、実施形態2に係る液体噴射装置500によれば、以下の効果を得ることができる。
【0081】
ヘッドユニット200は、フィルター16、フィルター16によって区画される上流室17Uおよび下流室17Dを含むフィルター室17cと、フィルター室17cの上流室17Uと通じる共通流路224を介して供給されるインクを噴射する複数のノズルNを有するノズル列12cと、を有し、ノズル列12cを形成するノズルNは、フィルター室17cのフィルター16、共通流路224、およびフィルター室17aのフィルター16を介してノズル列12aを形成するノズルNと通じており、かつ、フィルター室17cのフィルター16、共通流路224、およびフィルター室17eのフィルター16を介してノズル列12eを形成するノズルNと通じており、ヘッドユニット200が有する複数のノズルNの間の高低差に起因して、ノズル列12cのノズルNに形成される気液界面に作用するヘッドユニット200内のインクの圧力のうちの最大圧力を圧力Ph2としたとき、耐圧Pnが圧力Ph2より大きい場合、制御部90は、事前動作においてフィルター室17cのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成しない。
【0082】
これによれば、ノズルNに形成されている気液界面に対して、ヘッドユニット200の取り外し等により、ヘッドユニット200の姿勢変化に起因するヘッドユニット200内のインクの圧力が作用する場合に、ノズルNからのインク漏れを抑制できるとともに、フィルター室17内のインクと大気の置換量を少なくすることができる。
【0083】
本発明の上記実施形態に係る液体噴射装置500は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。また、上記実施形態および以下に説明する他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。以下、他の実施形態について説明する。
【0084】
上記実施形態2における事前動作において、制御部90は、ヘッドユニット200が有する複数のノズルNの間の高低差に起因して、ノズルNに形成される気液界面に作用するヘッドユニット200内のインクの圧力のうちの最大圧力が、ノズルNに形成される気液界面の耐圧Pnより小さくなるように、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eのいずれかのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成してもよい。上記実施形態のヘッドユニット200であれば、寸法Dhcを水頭とするインクの圧力は、ノズルNに形成される気液界面の耐圧Pnより小さいので、例えば、フィルター室17a,17eのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成する。この場合、事前動作において、制御部90は、第1開閉弁24Vを閉状態にし、切換え弁27を連通状態にし、キャップ弁62a,62eを開状態とし、キャップ弁62b,62c,62dを閉状態とし、吸引ポンプ63を駆動する。この事前動作において、フィルター室17b,17c,17dのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面は形成されない。また、上記実施形態のヘッドユニット200であれば、寸法Dhcを水頭とするインクの圧力は、ノズルNに形成される気液界面の耐圧Pnより小さいので、例えば、フィルター室17a,17bのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成し、フィルター室17c,17d,17eのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成しなくてもよい。また、例えば、フィルター室17d,17eのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成し、フィルター室17a,17b,17cのフィルター16に設けられる孔16Hに気液界面を形成しなくてもよい。
【0085】
上記実施形態1における事前動作において、制御部90は、連通状態において、第1開閉弁24Vを開状態とし、大気通路26、流体流路25、液体流路24における流体の流れが
図5Aの矢印の向きとなるように、第2ポンプ25Pおよび第1ポンプ24Pのいずれか一方を駆動制御してもよい。
【0086】
上記実施形態1における事前動作において、制御部90は、連通状態において、第1開閉弁24Vを閉状態とし、大気通路26、流体流路25における流体の流れが
図5Aの矢印の向きとなるように、第2ポンプ25Pを駆動制御することで、フィルター室17に大気を流入させ、フィルター16の孔16Hに気液界面を形成してもよい。この場合、フィルター室17内のインクはノズルNから排出されるが、
図5Cに示すように、キャップ61を吸引可能位置に移動させておくことで、キャップ61により収集できる。
【0087】
上記実施形態において、液体噴射装置500は、液体流路24を介して、液体噴射ヘッド10のフィルター室17に大気を導入可能としてもよい。この場合、例えば、切換え弁27を液体流路24における第1ポンプ24Pと液体貯留部23との間となる位置に設け、大気通路26を切換え弁27を介して液体流路24に接続してもよい。また、この場合、制御部90は、事前動作において、切換え弁27を連通状態とすることで、液体流路24、共通流路224、第1フィルター流路18を介して、大気通路26からの大気をフィルター室17に導入可能とし、大気通路26からフィルター室17に向けて大気が流入する向きに第1ポンプ24Pを駆動する。
【0088】
上記実施形態において、液体噴射装置500は、フィルター室17に導入する大気を収容する空気タンクを備えてもよい。この場合、大気通路26は、切換え弁27を介して空気タンクと流体流路25とを接続してもよい。
【0089】
上記実施形態において、液体噴射装置500は、流体流路25を液体貯留部23内のインクの上方空間と連通させることで、液体噴射ヘッド10のフィルター室17に液体貯留部23内の気体を導入可能としてもよい。この場合、
図7に示すように、流体流動部20は、大気通路26に替えて、気体通路626を有してもよい。
【0090】
上記実施形態において、液体噴射装置500は、大気通路26からフィルター室17に大気を導入しなくてもよい。例えば、第1開閉弁24Vを開状態とし、切換え弁27を開状態とし、第2ポンプ25Pを駆動することで、
図3Aに示すように、液体流路24内のインクが供給方向に流動し、流体流路25内のインクが帰還方向に流動している状態で、第1開閉弁24Vを閉状態とする。これにより、ヘッドユニット200内にノズルNから大気が流入し、共通液室13を介して、フィルター室17に大気を導入することができる。この場合、第1開閉弁24Vは、ヘッドユニット200のフィルター室17に気体を導入可能とする気体導入部として機能する。
【0091】
上記実施形態において、液体噴射装置500は、流体流路25、第2共通流路225、第2フィルター流路19を介して、大気通路26からの大気をフィルター室17に導入しなくてもよい。この場合、例えば、
図8に示すように、流体流動部20は、大気通路26、および切換え弁27に替えて、気体流路28と、第3ポンプ28Pと、気体導入部の一例である気体流路開閉弁28Vと、気体流路側接続部28Cと、を有する。気体流路側接続部28Cには、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、気体流路28を第3共通流路228と連通状態とし、ヘッドユニット200が装着部40から取り外されることで、気体流路側接続部28Cの外部との連通を遮断する開閉弁が設けられる。ヘッドユニット200は、流路部211に、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eの各上流室17Uに設けられる第3フィルター流路328と通じる第3共通流路228と、第3共通流路側接続部228Cと、を有する。第3共通流路側接続部228Cには、ヘッドユニット200が装着部40に装着されることで、第3共通流路228を気体流路28と連通状態とし、ヘッドユニット200が装着部40から取り外されることで、第3共通流路側接続部228Cの外部との連通を遮断する開閉弁が設けられる。また、この場合、制御部90は、事前動作において、気体流路開閉弁28Vを開弁することで、第3共通流路228、第3フィルター流路328を介して、気体流路28からの大気をフィルター室17に導入可能とし、第3ポンプ28Pを駆動する。これにより、
図8に矢印で示すように、気体流路28からフィルター室17に向けて大気が流入する。
【0092】
図8に示す気体流路28からフィルター室17a,17b,17c,17d,17eのいずれかに選択的に大気が流入可能に、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eに設けられる各第3フィルター流路328と接続される第3共通流路228の各分岐流路に開閉弁を設けてもよい。あるいは、フィルター室17a,17b,17c,17d,17eに設けられる各第3フィルター流路328に対応させて、第3ポンプ28Pと、気体導入部の一例である気体流路開閉弁28Vと、が設けられる気体流路28を接続可能としてもよい。
【0093】
上記実施形態において、ヘッドユニット200が有する複数の共通液室13に通じてノズル列12a,12b,12c,12d,12eを形成する各複数のノズルNは、1つの共通液室13に通じる複数のノズルNの間の高低差に起因して、ノズルNに形成される気液界面に作用するインクの圧力のうちの最大圧力が、ノズルNに形成される気液界面の耐圧Pnより小さいことを条件として、複数のノズル列を形成してもよい。この場合、1つの共通液室13に通じる複数のノズル列が1つのノズル群となる。
【0094】
上記実施形態において、ヘッドユニット200が有するノズル列12a,12b,12c,12d,12eは、一列のノズル列を形成しなくてもよく、例えば、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eが千鳥状に配置されていてもよい。
【0095】
上記実施形態において、ヘッドユニット200の各液体噴射ヘッド10が有するノズル群の一例として、X軸方向に複数のノズルNが一列に並んで形成されたノズル列12を示したが、この態様には限られない。各液体噴射ヘッド10が備えるノズル群は、フィルター16を介在しないで下流室17Dに連通する複数のノズルNで構成されていれば、その他の構成でもよい。この場合、例えば、各液体噴射ヘッド10が備えるノズル群のその他の構成は、例えばX軸方向と交差する方向に複数のノズルNが一列に並んで形成されるノズル列をX軸方向に複数並べて構成されるノズル群でもよい。
【0096】
上記実施形態において、ヘッドユニット200はラインヘッドでなくてもよい。例えば、ヘッドユニット200がX軸方向に移動しながら印刷用紙P上に画像を形成する場合、ヘッドユニット200が有する各ノズル列12a,12b,12c,12d,12eはY軸方向に沿い、ノズル列12a,12b,12c,12d,12eどうしがX軸方向に間隔をおいて配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0097】
10,10a,10b,10c,10d,10e…液体噴射ヘッド、11,11a,11b,11c,11d,11e…ノズル面、12,12a,12b,12c,12d,12e…ノズル列、13…共通液室、14…個別連通路、15…個別液室、16…フィルター、16H…孔、17,17a,17b,17c,17d,17e…フィルター室、17D…下流室、17U…上流室、18…第1フィルター流路、19…第2フィルター流路、20…流体流動部、21…液体収容部、22…接続流路、23…液体貯留部、23AH…大気開放孔、24…液体流路、24C…液体流路側接続部、24P…第1ポンプ、24V…第1開閉弁、25…流体流路、25C…流体流路側接続部、25P…第2ポンプ、26…大気通路、27…切換え弁、28…気体流路、28C…気体流路側接続部、28P…第3ポンプ、28V…気体流路開閉弁、30…搬送機構、32…搬送ローラー、34…搬送ロッド、36…搬送用モーター、40…装着部、50…メンテナンス部、51…メンテナンスユニット保持部、52…メンテナンスユニット駆動部、61,61a,61b,61c,61d,61e…キャップ、62,62a,62b,62c,62d,62e…キャップ弁、63…吸引ポンプ、64…廃液チューブ、66…廃液収集部、71…ワイパー、80…入出力部、81…表示部、82…操作部、90…制御部、200…ヘッドユニット、211…流路部、224…共通流路、224C…共通流路側接続部、225…第2共通流路、225C…第2共通流路側接続部、228…第3共通流路、228C…第3共通流路側接続部、328…第3フィルター流路、500…液体噴射装置、626…気体通路。