IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関の制御装置 図1
  • 特許-内燃機関の制御装置 図2
  • 特許-内燃機関の制御装置 図3
  • 特許-内燃機関の制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 21/08 20060101AFI20240910BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20240910BHJP
   F02B 37/16 20060101ALI20240910BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240910BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240910BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20240910BHJP
【FI】
F02D21/08 311B
F02B37/00 302F
F02B37/16 B
F02D23/00 J
F02D43/00 301N
F02D43/00 301R
F02M26/05
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021027269
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128829
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英幸
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-329879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0216422(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02B 37/00
F02B 37/16
F02D 23/00
F02D 43/00
F02M 26/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機とEGR装置とを備え、
前記過給機は、排気通路に設けられたタービンと、吸気通路に設けられたコンプレッサと、前記コンプレッサによって過給された吸気の一部を前記吸気通路における前記コンプレッサの上流側に還流するエアバイパス通路と、前記エアバイパス通路を開閉するエアバイパスバルブと、を有し、
前記EGR装置は、前記排気通路における前記タービンよりも上流側と、前記吸気通路における前記コンプレッサよりも下流側とに連通し、前記排気通路を通過する排気ガスの一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流するEGR通路と、前記EGR通路を開閉するEGRバルブと、を有する内燃機関の制御装置であって、
前記EGRバルブおよび前記エアバイパスバルブの開度を制御するバルブ制御部を有し、
前記バルブ制御部は、
前記エアバイパスバルブを閉弁し、かつ、前記EGRバルブを所定の開度に開弁した状態で、エンジン負荷とエンジン回転数との組み合わせからなるマップにおいて前記エンジン負荷が閾値L以上であることにより、前記EGR通路における前記EGRバルブの上流側と下流側との差圧が所定値未満であると判断した場合は、
前記EGRバルブを全開状態に開弁し、前記EGRガスの量を調整するように前記エアバイパスバルブを開弁することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記バルブ制御部は、
前記エアバイパスバルブを閉弁し、かつ、前記EGRバルブを前記所定の開度に開弁した状態で、前記差圧が所定値未満であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、
前記EGRバルブを全開状態に開弁し、前記EGRガスの量を調整するように前記エアバイパスバルブを開弁することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記バルブ制御部は、
前記エアバイパスバルブを閉弁し、かつ、前記EGRバルブを前記所定の開度に開弁した状態で、前記差圧が所定値以上であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、
前記エアバイパスバルブの閉弁を維持したまま、前記EGRバルブを前記所定の開度よりも大きく開弁することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される内燃機関には、ターボ過給機とEGR装置とが搭載されたものがある。EGR装置の構成としては、ターボ過給機のタービンの上流側からコンプレッサの下流側に排気ガスを還流する高圧EGRと、タービンの下流側からコンプレッサの上流側に排気ガスを還流する低圧EGRがある。高圧EGRは、低圧EGRと比較して、EGR通路(排気ガスの流路)が短いことから応答性に優れる一方で、高負荷域においてEGR通路におけるEGRバルブの上流側と下流側との圧力差が小さくなり、十分な量のEGRガスを還流できない場合があるという問題がある。したがって、高圧EGRと低圧EGRは、応答性と、高負荷域でのEGRガスの還流量とにおいて利点と欠点が逆転する。
【0003】
従来の内燃機関の制御装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載の内燃機関の制御装置は、ターボチャージャと、低圧EGR装置と、高圧EGR装置と、を備え、高圧EGR装置と低圧EGR装置とを切り替えて、または併用して排気の再循環を行うEGR装置付き内燃機関に設けられている。そして、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置は、内燃機関における少なくとも排気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、内燃機関の運転状態が第1の運転状態からこの第1の運転状態よりも低圧EGR装置によって再循環される排気の流量である低圧EGRガス量が増加する第2の運転状態に変更される過渡期に、可変バルブタイミング機構に排気弁の閉弁時期を遅角させ内燃機関の内部EGRガス量を増加させる内部EGRガス量増加手段と、を備えている。これにより、特許文献1に記載のものは、内燃機関の運転状態が第1の運転状態から第2の運転状態に変更される過渡期において、内燃機関から排出されるNOxが過度に増加することを抑制できる。また、特許文献1に記載のものは、高負荷域において低圧EGRを用いる場合に、EGRバルブの上流側と下流側との圧力差が小さくなることを回避し、十分な量のEGRガスを還流し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-150957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置にあっては、高圧EGRと低圧EGRとの両方を備えているために、これらの一方のみを備える構成よりもコストが増加するという問題があった。また、高圧EGRと低圧EGRとの切り替え時は、内燃機関の状態が急変する過渡的な状態であるため、過渡的な状態に対応するための制御が複雑化するという問題があった。また、低圧EGRを用いる場合は、EGRガスの流路が長いため応答性が悪化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、コストの増加、制御の複雑化、および応答性の悪化を回避でき、高負荷域であっても高いEGR率を確保できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、過給機とEGR装置とを備え、前記過給機は、排気通路に設けられたタービンと、吸気通路に設けられたコンプレッサと、前記コンプレッサによって過給された吸気の一部を前記吸気通路における前記コンプレッサの上流側に還流するエアバイパス通路と、前記エアバイパス通路を開閉するエアバイパスバルブと、を有し、前記EGR装置は、前記排気通路における前記タービンよりも上流側と、前記吸気通路における前記コンプレッサよりも下流側とに連通し、前記排気通路を通過する排気ガスの一部をEGRガスとして前記吸気通路に還流するEGR通路と、前記EGR通路を開閉するEGRバルブと、を有する内燃機関の制御装置であって、前記EGRバルブおよび前記エアバイパスバルブの開度を制御するバルブ制御部を有し、前記バルブ制御部は、前記エアバイパスバルブを閉弁し、かつ、前記EGRバルブを所定の開度に開弁した状態で、エンジン負荷とエンジン回転数との組み合わせからなるマップにおいて前記エンジン負荷が閾値L以上であることにより、前記EGR通路における前記EGRバルブの上流側と下流側との差圧が所定値未満であると判断した場合は、前記EGRバルブを全開状態に開弁し、前記EGRガスの量を調整するように前記エアバイパスバルブを開弁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように上記の本発明によれば、コストの増加、制御の複雑化、および応答性の悪化を回避でき、高負荷域であっても高いEGR率を確保できる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置を有する車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置の動作に係るタイミングチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置が参照するマップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、過給機とEGR装置とを備え、過給機は、排気通路に設けられたタービンと、吸気通路に設けられたコンプレッサと、コンプレッサによって過給された吸気の一部を吸気通路におけるコンプレッサの上流側に還流するエアバイパス通路と、エアバイパス通路を開閉するエアバイパスバルブと、を有し、EGR装置は、排気通路におけるタービンよりも上流側と、吸気通路におけるコンプレッサよりも下流側とに連通し、排気通路を通過する排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路に還流するEGR通路と、EGR通路を開閉するEGRバルブと、を有する内燃機関の制御装置であって、EGRバルブおよびエアバイパスバルブの開度を制御するバルブ制御部を有し、バルブ制御部は、エアバイパスバルブを閉弁し、かつ、EGRバルブを所定の開度に開弁した状態で、EGR通路におけるEGRバルブの上流側と下流側との差圧が所定値未満の場合は、EGRバルブを全開状態に開弁し、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブを開弁することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、コストの増加、制御の複雑化、および応答性の悪化を回避でき、高負荷域であっても高いEGR率を確保できる。
【実施例
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置について詳細に説明する。
【0012】
図1において、本発明の一実施例に係る内燃機関の制御装置を搭載した車両1は、内燃機関2と、この内燃機関2の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)3とを含んで構成されている。
【0013】
内燃機関2は、内燃機関本体2Aを備えており、内燃機関本体2Aは、ピストンが気筒内を2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行なう4サイクルのエンジンによって構成されている。
【0014】
各気筒に収納されたピストンは、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに連結されている。コネクティングロッドは、ピストンの往復動をクランクシャフトの回転運動に変換するようになっている。
【0015】
したがって、内燃機関2は、気筒内の図示しない燃焼室で燃料と空気との混合気を燃焼させることによりピストンを往復動させ、コネクティングロッドを介してクランクシャフトを回転させることにより、車両1を駆動させる駆動力を発生するようになっている。
【0016】
内燃機関2は、燃焼室に空気を導入する吸気管10を備えており、吸気管10には吸気通路10Aが形成されている。吸気管10にはスロットルバルブ11が設けられている。スロットルバルブ11は、電子制御スロットルバルブとして構成されており、ECU3からの指令信号に応じてそのスロットル開度が制御されることによって内燃機関2の吸入空気量を調整する。
【0017】
内燃機関2は、燃焼室から排気ガスを車外に排出する排気管20を備えており、排気管20には排気通路20Aが形成されている。排気管20には、排気ガスを浄化する触媒21が設けられている。
【0018】
内燃機関2は、排気ガスを利用して吸気を加圧する過給機30を備えている。過給機30は、排気通路20Aに設けられたタービン31と、吸気通路10Aに設けられたコンプレッサ32と、を備えている。過給機30において、排気ガスによりタービン31が回転すると、この回転がコンプレッサ32に伝達され、コンプレッサ32が吸気を過給する。
【0019】
過給機30は、過給機30のタービン31を迂回する排気ガスが通過する排気バイパス通路33と、排気バイパス通路33を通過する排気ガス量を調整するウェイストゲートバルブ34とを備えている。ウェイストゲートバルブ34の開度はECU3のバルブ制御部3Aにより制御される。
【0020】
過給機30は、エアバイパス通路35と、エアバイパスバルブ36と、を有している。エアバイパス通路35は、コンプレッサ32によって過給された吸気の一部を吸気通路10Aにおけるコンプレッサ32の上流側に還流する。
【0021】
エアバイパスバルブ36は、エアバイパス通路35に設けられており、エアバイパス通路35を開閉する。エアバイパスバルブ36の開度はECU3のバルブ制御部3Aにより制御される。
【0022】
スロットルバルブ11が急に閉じられたとき、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を開く。これにより、コンプレッサ32の下流側(出口側)の過給圧を上流側(入口側)に逃がし、気流の跳ね返りを抑制し、バックタービン音及び過給機30へのダメージを回避することができる。
【0023】
内燃機関2はEGR装置40を備えている。EGR装置40は、排気通路20Aにおけるタービン31よりも上流側と、吸気通路10Aにおけるコンプレッサ32よりも下流側とに連通し、排気通路20Aを通過する排気ガスの一部を吸気通路10Aに還流するEGR通路41と、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42と、を有している。したがって、EGR装置40は、高圧EGR装置(HPL-EGR)に該当する。
【0024】
EGRバルブ42の開度はECU3のバルブ制御部3Aにより制御される。EGR通路41を通って排気通路20Aから吸気通路10Aに還流される排気ガスを、EGRガスともいう。EGRガスの量が適切に制御されることにより、窒素酸化物(NOx)の排出量を削減する効果と、内燃機関2のポンピングロスを低下させて燃費を向上させる効果と、排気温度を低下させてプレイグニッションの発生を抑制する効果とを得ることができる。
【0025】
ECU3は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0026】
ECU3のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU3として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、ECU3として機能する。
【0027】
本実施例では、ECU3は、バルブ制御部3Aを備えており、バルブ制御部3Aは、ウェイストゲートバルブ34、エアバイパスバルブ36およびEGRバルブ42の開度を制御する。バルブ制御部3Aは、EGRガスを還流させるときは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度(以下、所定のEGRバルブ開度ともいう)に開弁する。
【0028】
バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値未満の場合は、EGRバルブ42を全開状態に開弁し、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブ36を開弁する。
【0029】
言い換えれば、上記の差圧が所定値未満の場合は、この差圧が不足しているためにEGR通路41を通過できるEGRガスが少ないため、バルブ制御部3Aは、EGRバルブ42を全開状態にすることにより、EGRバルブ42によってEGRガスの還流量が制限されなくなり、EGRバルブ42を通過するEGRガスの還流量が増加する。
【0030】
そして、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36の開度を調整することによりEGR通路41の下流側(吸気通路10Aの側)の圧力を低下させる。これにより、上記の差圧が大きくなり、EGRガスの還流量が増加する。例えば、バルブ制御部3Aは、所望の量のEGRガスが還流するようにエアバイパスバルブ36の開度を調整する。つまり、エアバイパスバルブ36の開度を調整することにより、EGRガスの還流量を変更することができる。
【0031】
ここで、EGRガスの所望の量とは、上記の差圧が所定値以上である通常の場合と同じ量を必ずしも意味するものではなく、上記の差圧が所定値未満の状況において確保し得る範囲内で適量に近い量を意味している。
【0032】
バルブ制御部3Aは、差圧が所定値未満であることに加えて、実EGR率が目標EGR率未満であることをさらに条件として、EGRバルブ42およびエアバイパスバルブ36を制御することが好ましい。
【0033】
詳しくは、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、上記の差圧が所定値未満であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、EGRバルブ42を全開状態に開弁し、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブ36を開弁する。
【0034】
ここで、EGR率とは、吸入空気に占めるEGRガス(還流された排気ガス)の割合をいう。目標EGR率は、目標とするEGR率であり、実EGR率は、実際のEGR率である。
【0035】
目標EGR率は、予めエンジン負荷及びエンジン回転速度などに応じた最適な目標EGR率のマップを予め用意しておき、このマップを参照することで設定される。
【0036】
実EGR率は、測定または推定により求めることができる。EGR率を推定する手法としては、例えば、特開2020-12383号公報に記載されているように、EGRバルブの開度(開口面積)を基に演算する技術や、EGRバルブ近傍に取り付けられた差圧センサによって検出したEGRバルブの前後の差圧に基づいて演算する技術を用いることができる。
【0037】
ここで、実EGR率が目標EGR率未満であっても、上記の差圧が所定値以上の場合は、EGRガスが還流されやすい状況にあり、EGRバルブ42の開度を所定の開度よりも大きくすることにより実EGR率の向上が期待できるため、エアバイパスバルブ36を開弁する必要がない。
【0038】
そこで、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値以上であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、エアバイパスバルブ36の閉弁を維持したまま、EGRバルブ42を所定の開度よりも大きく開弁する。
【0039】
以上のように構成された本実施例に係る内燃機関の制御装置による動作について、図2のフローチャートを参照して説明する。以下の動作はECU3のバルブ制御部3Aによって実施される。
【0040】
図2において、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36(図中、ABVと記す)を閉弁する(ステップS1)。次いで、バルブ制御部3Aは、EGRバルブ42を所定のEGRバルブ開度に開弁する(ステップS2)。ここでは、バルブ制御部3Aは、エンジン負荷およびエンジン回転数等に応じてEGRバルブ42の開度(以下、EGRバルブ開度ともいう)を定めたマップを参照し、そのマップに従って所定のEGRバルブ開度を決定する。
【0041】
EGRバルブ開度のマップは、試験等によって得たデータに基づいて予め設定されており、ECU3のROMに記憶されている。所定のEGRバルブ開度は、エアバイパスバルブ36の閉弁を維持した状態を前提とした、基準となるバルブ開度である。
【0042】
次いで、バルブ制御部3Aは、実EGR率が目標EGR率以上であるか否かを判断する(ステップS3)。実EGR率が目標EGR率以上である場合(ステップS3でYES)、バルブ制御部3Aは、今回の動作を終了する。
【0043】
一方、実EGR率が目標EGR率未満である場合(ステップS3でNO)、バルブ制御部3Aは、EGRバルブ42の前後の差圧が所定値以上であるか否かを判断する(ステップS4)。ここでは、バルブ制御部3Aは、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値以上であるか否かを判断する。
【0044】
ステップS4で用いる所定値は、図4に示すように、エンジン負荷とエンジン回転数との組み合わせからなるマップにおいて、エンジン負荷が閾値Lとなる場合に対応する値に設定されている。図4において、横軸はエンジン回転数を表しており、横軸の右方ほどエンジン回転数が大きい。また、縦軸はエンジン負荷を表しており、縦軸の上方ほどエンジン負荷が大きい。図4において、領域Aは高負荷域であり、この領域では過給が行われる。領域Cは低負荷域であり、この領域では自然吸気が行われる。領域Bは、中高負荷域である。領域Bにおいては、内燃機関2の運転状態に応じて、完全な自然吸気、または過給機30の予回転を伴う自然吸気が行われる。過給機30の予回転を伴う自然吸気が行われているときは過給圧が発生する。閾値Lは領域B内に設定されている。したがって、エンジン負荷が閾値L以上となる高負荷域では、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値未満となる。
【0045】
EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値未満の場合(ステップS4でNO)、バルブ制御部3Aは、EGRバルブ42を全開状態に開弁し(ステップS5)、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブ36を開弁し(ステップS6)、今回の動作を終了する。
【0046】
一方、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値以上の場合(ステップS4でYES)、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36の閉弁を維持したまま、EGRバルブ42を所定の開度よりも大きく開弁し(ステップS7)、今回の動作を終了する。
【0047】
なお、バルブ制御部3Aは、ステップS2の後、ステップS3を実施することなくステップS4、S5、S6を実施してもよい。つまり、バルブ制御部3Aは、実EGR率が目標EGR率未満であるか否かの判断を省略し、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値未満であることだけを条件として、ステップS5およびステップS6を実施するようにしてもよい。
【0048】
図3は、図2の動作が実施された場合の内燃機関2の状態を説明するタイミングチャートである。図3において、縦軸は、スロットルバルブ11の開度(以下、スロットルバルブ開度ともいう)、エアバイパスバルブ36(図中、ABVと記す)の開度(以下、エアバイパスバルブ開度ともいう)、EGR率、Comp後圧力(吸気通路10Aにおけるコンプレッサ32の下流側の圧力)を表し、横軸は時間を表している。また、エアバイパスバルブ開度、EGR率、Comp後圧力については、本発明に係る状態を実線で表し、従来の技術に係る状態を破線で表している。
【0049】
時刻t0において、エアバイパスバルブ36は閉じられている。また、ドライバの操作に応じた開度にスロットルバルブ開度が設定されている。また、図に表れていないEGRバルブ開度が所定のEGRバルブ開度に開弁されている。
【0050】
その後、時刻t1において、エアバイパスバルブ36が開弁されたことにより、Comp後圧力は従来と比較して低い圧力を維持する。また、図に表れていないEGRバルブ開度が全開に設定される。
【0051】
その後、時刻t2において、エアバイパスバルブ36がさらに開弁されたことにより、Comp後圧力は従来と比較して低い圧力をさらに維持する。この状態では、EGR通路41におけるEGRバルブ42の下流側(吸気側)の圧力も従来と比較して低く、EGRガスが還流しやすい状態であるため、EGR率は従来と比較して高いEGR率を維持する。
【0052】
なお、図3の例では、時刻t3においてエアバイパスバルブ36が閉弁されている。エアバイパスバルブ36が閉弁されると、Comp後圧力が増加し、EGR率が低下する。
【0053】
以上のように、本実施例によれば、ECU3は、EGRバルブ42およびエアバイパスバルブ36の開度を制御するバルブ制御部3Aを有している。そして、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値未満の場合は、EGRバルブ42を全開状態に開弁し、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブ36を開弁する。
【0054】
このように、内燃機関2の高負荷域において、EGRガスが還流し難い状態の場合は、EGRバルブ42を全開に開弁し、エアバイパスバルブ36を開弁することで、吸気通路10Aにおけるコンプレッサ32の下流側の圧力が下がり、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が大きくなるので、排気ガスを還流しやすくなり、高いEGR率を確保できる。そして、高いEGR率を確保することにより、燃費を向上させることができ、窒素酸化物の排出量を低減できる。
【0055】
また、過給機30は通常のターボ過給機と同様の構成を有しており、新たな部品の追加を伴っていないため、部品点数の増加およびコストの増加を回避できる。
【0056】
また、EGR装置40は高圧EGRの構成を備えているため、高圧EGRと低圧EGR装置の両方を備える場合と比較して、コストを抑制できる。また、高圧EGRは、低圧EGRシステムのように長いEGR通路を備える必要がないので、EGRガスの量の応答性の悪化を回避できる。
【0057】
また、高圧EGRと低圧EGR装置との切り替えに伴う内燃機関の状態の急変が発生しないため、内燃機関の状態の急変時の過渡的な状態に対応させて制御を複雑化させることを回避できる。また、EGRバルブ42を全開にした状態でエアバイパスバルブ36の開度の調整によりEGRガスを制御しているので、制御の複雑化を回避できる。
【0058】
また、EGR装置40のEGR通路41は、吸気通路10Aにおけるコンプレッサ32下流側に排気ガスを還流しているので、排気ガス中の成分がデポジットとしてコンプレッサ32に堆積することを抑制できる。
【0059】
この結果、コストの増加、制御の複雑化、および応答性の悪化を回避でき、高負荷域であっても高いEGR率を確保できる。
【0060】
また、本実施例によれば、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、上記の差圧が所定値未満であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、EGRバルブ42を全開状態に開弁し、EGRガスの量を調整するようにエアバイパスバルブ36を開弁する。
【0061】
これにより、実EGR率が目標EGR率未満であることを追加の条件として、エアバイパスバルブ36の開弁を伴う制御が行われるので、目標EGR率との比較に基づいた適切な制御を実現でき、排気ガスの還流量の不足による異常燃焼等のない内燃機関2の運転状態を維持することができる。
【0062】
また、本実施例によれば、バルブ制御部3Aは、エアバイパスバルブ36を閉弁し、かつ、EGRバルブ42を所定の開度に開弁した状態で、EGR通路41におけるEGRバルブ42の上流側と下流側との差圧が所定値以上であり、かつ、実EGR率が目標EGR率未満の場合は、エアバイパスバルブ36の閉弁を維持したまま、EGRバルブ42を所定の開度よりも大きく開弁する。
【0063】
これにより、実EGR率が目標EGR率未満であっても、上記の差圧が所定値以上の場合は、EGRガスが還流されやすい状況にあるため、EGRバルブ42開度をより大きく開弁することにより、高いEGR率を確保できる。
【0064】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0065】
2 内燃機関
3 ECU(制御装置)
3A バルブ制御部
10A 吸気通路
20A 排気通路
30 過給機
31 タービン
32 コンプレッサ
35 エアバイパス通路
36 エアバイパスバルブ
40 EGR装置
41 EGR通路
42 EGRバルブ
図1
図2
図3
図4