(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】光デバイスおよび光送受信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20240910BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G02F1/035
G02F1/01 C
(21)【出願番号】P 2021039733
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0081277(US,A1)
【文献】特開2020-134874(JP,A)
【文献】米国特許第10649244(US,B1)
【文献】特開2007-047326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125, 1/21-7/00
G02B 6/12-6/14, 6/26-6/27, 6/30-6/34, 6/42-6/43
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバッファ層、電気光学効果を有する薄膜、および第2のバッファ層がこの順番で積層された基板と、
前記基板上に設けられ、光をRF信号に応じて変調するRF変調部と、
前記基板上に設けられ、前記RF変調部によって変調された光信号の位相を調整する位相調整部と
を備え、
前記位相調整部は、
前記第2のバッファ層と前記薄膜との間に設けられ、前記RF変調部によって変調された、または変調される光を通過させる第1の光導波路であって、熱光学効果を有する材料により形成されている第1の光導波路と、
前記第2のバッファ層を介して前記第1の光導波路と対向する位置に設けられており、前記第1の光導波路を加熱するヒータと
を有
し、
前記薄膜には、突条の第2の光導波路が形成されており、
前記第1の光導波路の熱光学効果は、前記第2の光導波路の熱光学効果よりも大きいことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記RF変調部では、前記第2の光導波路を伝搬する光信号が変調され、
前記位相調整部では、前記第2の光導波路の延伸方向に連続するように前記第1の光導波路が配置されており、前記第1の光導波路の延伸方向における前記第1の光導波路の端面と前記第2の光導波路の延伸方向における前記第2の光導波路の端面とが接していることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1の光導波路の屈折率は、前記薄膜の屈折率よりも大きいことを特徴とする請求項
1または2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記位相調整部において、前記第2の光導波路の延伸方向における前記第2の光導波路の端部は、前記第1の光導波路に接する前記第2の光導波路の端面に近付くに従って幅が狭くなっており、前記第1の光導波路に接する前記第2の光導波路の端面の幅は、前記第2の光導波路に接する前記第1の光導波路の端面の幅よりも狭いことを特徴とする請求項
1に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記位相調整部において、前記第1の光導波路の厚さは、前記第2の光導波路の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項
1から4のいずれか一項に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記RF変調部では、前記第2の光導波路を伝搬する光信号が変調され、
前記位相調整部では、前記第2の光導波路と前記ヒータとの間に前記第1の光導波路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1の光導波路の延伸方向における前記第1の光導波路の端部は、前記第1の光導波路の先端に近付くに従って幅が狭くなっていることを特徴とする請求項
6に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記第1の光導波路が設けられた部分の前記第2の光導波路の幅は、前記第1の光導波路が設けられていない部分の前記第2の光導波路の幅よりも広いことを特徴とする請求項
6または
7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記第1の光導波路が設けられた部分の前記第2の光導波路の幅は、前記第1の光導波路の延伸方向における前記第1の光導波路の先端に対応する位置に近付くに従って幅が狭くなることを特徴とする請求項
8に記載の光デバイス。
【請求項10】
RF信号に応じて変調された光信号を送信する光送信デバイスとして機能する請求項1から
9のいずれか一項に記載の光デバイスと、
光信号を受信し、受信された光信号に応じた電気信号を出力する光受信デバイスと
を備えることを特徴とする光送受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスおよび光送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献1には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3;LN)を利用したマッハツェンダ型の光変調器が開示されている。このような光変調器では、バッファ層の上にLN膜が設けられ、LN膜の上にバッファ層が設けられ、バッファ層の上に信号電極が設けられる。そして、LN膜にリッジ構造の光導波路(薄膜LN光導波路)が形成され、薄膜LN光導波路内を伝搬する光が信号電極を介して供給された電気信号によって変調される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、RF変調用および位相調整用のいずれの電極においても、電極に電圧を印加することによって、電極が存在する領域の光導波路の屈折率が変化する。この結果、RF変調部の実効的な光路長および位相調整部の実効的な光路長が変化し、位相変調および位相差の調整が可能となる。また、光導波路として、LN膜とバッファ層の間にチタン(Ti)で形成された導波路(Ti拡散光導波路)を設ける構造も考えられる。しかし、Ti拡散光導波路では、薄膜LN光導波路よりも光の閉じ込め効果が低いため、光の損失が多いという問題がある。一方で、Ti拡散光導波路から薄膜LN光導波路に変更した場合、RF変調部では、電界印加効率が高くできるため、RF変調するためのRF電極を小型化することができる。しかし、位相調整部では、効果的な電界印加効率を得るためには、位相調整のためのDC電極を長くする必要がある。しかし、DC電極の長さを長くすると光変調器の小型化が難しくなる。
【0005】
一方、位相調整部の駆動電力を下げるためには、DC電極とグランド電極との間の距離を短くすることも考えられる。しかし、製造誤差等を考慮すると、DC電極とグランド電極との間の距離を短くすることには限界がある。そのため、DC電極とグランド電極との間の距離を短くすることによるさらなる省電力化は難しい。
【0006】
本願に開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、省電力化を図りつつ小型化が可能な光デバイスおよび光送受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面では、光デバイスは、基板と、RF変調部と、位相調整部とを備える。基板は、第1のバッファ層、電気光学効果を有する薄膜、および第2のバッファ層がこの順番で積層されている。RF変調部は、基板上に設けられ、光をRF信号に応じて変調する。位相調整部は、RF変調部が設けられた基板と同一の基板上に設けられ、RF変調部によって変調された光信号の位相を調整する。位相調整部は、第1の光導波路と、ヒータとを有する。第1の光導波路は、第2のバッファ層と電気光学効果を有する薄膜との間に設けられ、RF変調部によって変調された、または変調される光を通過させる。また、第1の光導波路は、熱光学効果を有する材料により形成されている。ヒータは、第2のバッファ層を介して第1の光導波路と対向する位置に設けられており、第1の光導波路を加熱する。
【発明の効果】
【0008】
1実施形態によれば、光デバイスの省電力化を図りつつ小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、光送受信装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、光送信デバイスの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、RF変調部の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、位相調整部の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、位相調整部の光導波路の構造の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、位相調整部の光導波路の構造の他の例を示す図である。
【
図11】
図11は、位相調整部の光導波路の構造の他の例を示す図である。
【
図12】
図12は、位相調整部の光導波路の構造の他の例を示す図である。
【
図14】
図14は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、位相調整部の光導波路の製造過程の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、位相調整部の光導波路の構造の他の例を示す図である。
【
図19】
図19は、位相調整部の光導波路の構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願が開示する光デバイスおよび光送受信装置の実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、開示の技術を限定するものではない。
【実施例】
【0011】
[光送受信装置10の構成]
図1は、光送受信装置10の一例を示す図である。本実施例における光送受信装置10は、光送受信部11、LD(Laser Diode)12、およびDSP(Digital Signal Processor)13を備える。光送受信部11は、光送信デバイス20および光受信デバイス14を有する。光送信デバイス20は、光デバイスの一例である。
【0012】
光送信デバイス20は、LD12から供給された光を、DSP13から出力された送信信号に基づいて変調する。そして、光送信デバイス20は、送信信号に応じて変調された光信号(Tx_out)を出力する。光受信デバイス14は、光信号(Rx_in)を受光する。受光された光信号は、偏波分離され、LD12から供給された光を用いて復調され、電気信号に変換されてDSP13へ出力される。
【0013】
[光送信デバイス20の構成]
図2は、光送信デバイス20の一例を示す図である。光送信デバイス20は、RF(Radio Frequency)変調領域21、位相調整領域22、PR(Polarization Rotator)23、およびPBC(Polarization Beam Combiner)24を有する。RF変調領域21および位相調整領域22は、1つの基板W上に設けられている。RF変調領域21には、複数のRF変調部210と、終端部211とが設けられている。それぞれのRF変調部210は、信号電極2100および接地電極2101を有する。本実施形態において、複数のRF変調部210は、マッハツェンダ型の光変調器を構成する。位相調整領域22には、複数の位相調整部220aおよび複数の位相調整部220bが設けられている。なお、以下では、複数の位相調整部220aおよび複数の位相調整部220bを区別せずに総称する場合に位相調整部220と記載する。複数のRF変調部210および複数の位相調整部220を1つの基板W上に設けることにより、光送信デバイス20を容易に製造することができる。
【0014】
基板W上には、光を伝搬する光導波路200が形成されている。LD12から出力された光は、光導波路200の入力端201から入力され、光導波路200を介してそれぞれのRF変調部210に入力される。それぞれのRF変調部210は、DSP13から入力されたRF信号に応じて、入力された光を変調する。
【0015】
それぞれのRF変調部210によって変調された光信号は、それぞれの位相調整部220bに入力される。それぞれの位相調整部220bは、DSP13から入力された調整信号に応じて光信号の位相を調整する。それぞれの位相調整部220bによって位相が調整された光信号は、それぞれの位相調整部220aに入力される。それぞれの位相調整部220aは、DSP13から入力された調整信号に応じて光信号の位相をさらに調整する。
【0016】
PR23は、一部の位相調整部220aによって位相が調整された光信号が合成された後に、合成された光信号の偏光面を回転させる。他の位相調整部220aによって位相が調整された光信号は、PR23によって偏光面が回転された光信号とPBC24によって合成され、光信号(Tx_out)として出力される。
【0017】
[RF変調部210の構成]
図3は、RF変調部210の一例を示す断面図である。RF変調部210は、基板Wの上に設けられた信号電極2100および接地電極2101を有する。本実施例において、信号電極2100および接地電極2101は、例えば金、銀、または銅等で形成されている。基板Wは、支持基板30、バッファ層31、薄膜LN基板32、およびバッファ層33がこの順番で積層された多層基板である。支持基板30は、例えば単結晶シリコン等により形成されている。バッファ層31およびバッファ層33は、例えばシリコン酸化膜等により形成されている。バッファ層31は第1のバッファ層の一例であり、バッファ層33は第2のバッファ層の一例である。薄膜LN基板32は、LiNbO
3等の屈折率変化が大きく、かつ、電気光学効果を有する薄膜で形成されている。薄膜LN基板32には、薄膜LN基板32の他の領域よりも厚さが大きく、薄膜LN基板32の面に沿って突条に形成されたリッジ320が設けられている。リッジ320は、光が伝搬する光導波路200として機能する。薄膜LN基板32およびリッジ320は同じ材料で形成されている。薄膜LN基板32およびリッジ320の屈折率は、バッファ層31およびバッファ層33の屈折率よりも大きい。リッジ320は、第2の光導波路の一例である。
【0018】
信号電極2100には、DSP13から例えば数十GHzの帯域をもつRF信号が入力される。信号電極2100にRF信号が入力されると、信号電極2100と接地電極2101との間に電界が発生する。そして、信号電極2100と接地電極2101との間に発生した電界によってリッジ320の屈折率が変化する。これにより、リッジ320内を伝搬する光の位相が変化する。それぞれのRF変調部210において、リッジ320内を伝搬する光の位相を個別に変化させることにより、RF信号に応じて光が変調される。
【0019】
[位相調整部220の構成]
図4は、位相調整部220の一例を示す断面図である。位相調整部220は、基板Wの上に設けられたヒータ2200を有する。本実施例において、ヒータ2200は、例えばチタンまたは窒化チタン等で形成されており、バッファ層33を介して被加熱光導波路2201と対向する位置に設けられている。また、本実施例の位相調整部220において、ヒータ2200と薄膜LN基板32との間には、薄膜LN基板32よりも熱光学効果が大きい材料により形成された被加熱光導波路2201が設けられている被加熱光導波路2201は、第1の光導波路の一例である。薄膜LN基板32よりも熱光学効果が大きい材料とは、例えば、シリコンやポリマー等である。ポリマーとしては、例えば、ポリイミドやポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等が挙げられる。
【0020】
図5は、位相調整部220の光導波路200の構造の一例を示す図である。なお、
図5では、バッファ層33およびヒータ2200が省略されている。本実施例において、被加熱光導波路2201は、リッジ320の延伸方向に連続するように薄膜LN基板32上に配置されている。また、本実施例において、被加熱光導波路2201は、被加熱光導波路2201の延伸方向における被加熱光導波路2201の端面とリッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端面とが接するように薄膜LN基板32上に配置されている。被加熱光導波路2201の屈折率は、薄膜LN基板32およびバッファ層33の屈折率よりも大きい。これにより、リッジ320を伝搬した光は、被加熱光導波路2201内に進入する。
【0021】
また、被加熱光導波路2201における熱光学効果は、薄膜LN基板32およびリッジ320における熱光学効果よりも大きい。熱光学効果とは、温度変化に対する屈折率の変化の割合であり、熱光学効果が大きいとは、温度変化に対する屈折率の変化の割合が大きいことである。
【0022】
ヒータ2200は、DSP13から入力された調整信号の大きさに応じて発熱する。ヒータ2200から発生した熱により、バッファ層33を介して被加熱光導波路2201が加熱され、被加熱光導波路2201の屈折率が変化する。これにより、リッジ320内を伝搬する光の位相が変化する。それぞれの位相調整部220において、被加熱光導波路2201内を伝搬する光の位相を個別に変化させることにより、光信号の位相が個別に調整される。本実施例では、ヒータ2200に発熱効率の高いチタン等の材料を用い、被加熱光導波路2201にシリコン等の熱光学効果が大きい材料を用いることにより、少ない電力で光の位相を調整することができる。
【0023】
[位相調整部220における光導波路200の形成方法]
次に、位相調整部220における光導波路200の形成方法の一例について、
図6~
図9を参照して説明する。
図6~9は、位相調整部220の光導波路200の製造過程の一例を示す図である。
【0024】
まず、例えば
図6に示されるように、支持基板30、バッファ層31、および薄膜LN基板32が積層された基板Wにおいて、リッジ320の位置にマスク40が配置される。そして、マスク40が配置された部分を除き、薄膜LN基板32がエッチングされ、マスク40が除去される。これにより、例えば
図7に示されるように、マスク40が配置された位置に、リッジ320が形成される。
【0025】
次に、薄膜LN基板32の上に、被加熱光導波路2201と同じ材質の膜2202が積層される。そして、例えば
図8に示されるように、リッジ320が露出するまで膜2202が研磨される。そして、被加熱光導波路2201が形成される膜2202上の位置にマスク41が配置される。そして、膜2202がエッチングされ、マスク41および薄膜LN基板32がエッチングされない処理条件で、膜2202の下層の薄膜LN基板32が露出するまで膜2202がエッチングされる。これにより、例えば
図9に示されるように、マスク41と薄膜LN基板32との間に被加熱光導波路2201が形成される。そして、マスク41を除去することにより、例えば
図5に例示された光導波路200が形成される。
【0026】
本実施例の光送信デバイス20では、ヒータ2200に発熱効率の高いチタン等の材料を用い、被加熱光導波路2201にシリコン等の熱光学効果が大きい材料を用いる。これにより、光送信デバイス20の小型化と位相調整における省電力化の両立が可能となる。
【0027】
[実施例の効果]
上記説明から明らかなように、本実施例の光送信デバイス20は、基板Wと、RF変調部210と、位相調整部220とを備える。基板Wは、バッファ層31、薄膜LN基板32、およびバッファ層33がこの順番で積層されている。RF変調部210は、基板W上に設けられ、光をRF信号に応じて変調する。位相調整部220は、RF変調部210が設けられた基板Wと同一の基板W上に設けられ、RF変調部210によって変調された光信号の位相を調整する。位相調整部220は、ヒータ2200と、被加熱光導波路2201とを有する。被加熱光導波路2201は、薄膜LN基板32とバッファ層33との間に設けられ、RF変調部210によって変調された光信号を通過させる。また、被加熱光導波路2201は、熱光学効果を有する材料により形成されている。ヒータ2200は、バッファ層33を介して被加熱光導波路2201と対向する位置に設けられており、被加熱光導波路2201を加熱する。
【0028】
RF変調部210および位相調整部220のそれぞれの電極に電圧を印加することにより、電極が存在する領域の光導波路の屈折率を変化させることができる。この結果、光導波路の実効的な光路長が変化し、位相変調および位相差の調整が可能となる。LN薄膜で形成された薄膜LN光導波路は電気光学効果が高く、RF変調による電界印加効率がよい。そのため、RF変調部の小型化を図ることができる。しかし、LN薄膜で形成された位相調整部では、消費電力の低減が難しいため、電界印加効率の向上が難しかった。そこで、本実施例では、薄膜LN光導波路の利点を生かしつつ、位相調整部220については、LN薄膜に代えて、熱光学効果を有する材料により形成されている被加熱光導波路2201を用いた。これにより、光送信デバイス20の省電力化が可能となる。
【0029】
また、薄膜LN光導波路を用いた場合、RF変調部210では、電界印加効率が高くできるため、RF変調するための信号電極2100を小型化することができる。しかし、位相調整部220では、効果的な電界印加効率を得るためには、位相調整のためのDC電極を長くする必要がある。そこで、本実施例では、位相調整部220については、LN薄膜に代えて、熱光学効果を有する材料により形成されている被加熱光導波路2201を用いた。薄膜LN光導波路を用いた場合の位相調整部のDC電極の長さは、例えば5~20mmであるのに対し、被加熱光導波路2201を用いた本実施例のヒータ2200の長さは、例えば0.5~5mmまで短くすることができる。これにより、光送信デバイス20の小型化が可能となる。
【0030】
このように、本実施例の光送信デバイス20では、位相調整部220による位相調整が、電気光学効果ではなく熱光学効果を用いて実現されるので、消費電力の低減および小型化が可能となる。また、本実施例の位相調整部220による位相調整が電気光学効果ではなく熱光学効果で実現されるため、DCドリフトを抑制することができ、長期信頼性を実現することも可能となる。
【0031】
また、上記した実施例において、薄膜LN基板32には、突条のリッジ320が形成されており、RF変調部210では、リッジ320を伝搬する光信号が変調される。位相調整部220では、リッジ320に代えて、リッジ320の延伸方向に連続するように被加熱光導波路2201が配置されている。被加熱光導波路2201の延伸方向における被加熱光導波路2201の端面とリッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端面とは接している。これにより、リッジ320から被加熱光導波路2201へ光信号が伝搬する際の損失、および、被加熱光導波路2201からリッジ320へ光信号が伝搬する際の損失を低減することができる。
【0032】
また、上記した実施例において、被加熱光導波路2201の熱光学効果は、リッジ320よりも大きい。これにより、少ない電力で光の位相を調整することができる。
【0033】
また、上記した実施例において、被加熱光導波路2201の屈折率は、薄膜LN基板32の屈折率よりも大きい。これにより、光信号が被加熱光導波路2201内により多く進入し、光信号の位相を効率よく変更することができる。
【0034】
[その他]
なお、開示の技術は、上記した各実施例に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0035】
例えば、上記した実施例では、リッジ320と被加熱光導波路2201とが接している部分において、リッジ320の幅と被加熱光導波路2201の幅とはほぼ同一であるが、開示の技術はこれに限られない。例えば
図10に示されるように、位相調整部220において、リッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端部321は、被加熱光導波路2201に接するリッジ320の端面320aに近付くに従って幅W1から幅W2へ狭くなっていてもよい。
図10は、位相調整部220の光導波路200の構造の他の例を示す図である。
図10は、薄膜LN基板32に対向する位置から位相調整部220の光導波路200を見た場合の光導波路200の構造が模式的に示されている。
図10の例では、被加熱光導波路2201に接するリッジ320の端面320aの幅W2は、リッジ320に接する被加熱光導波路2201の端面2201aの幅W3よりも狭い。
【0036】
被加熱光導波路2201の屈折率は、リッジ320の屈折率よりも大きいため、被加熱光導波路2201における光のモードフィールドは、リッジ320における光のモードフィールドよりも狭い。そのため、リッジ320と被加熱光導波路2201とが接する部分において、リッジ320の幅を狭めることで、リッジ320から被加熱光導波路2201内に入射した光信号が被加熱光導波路2201内でマルチモードになってしまうことを抑制することができる。また、被加熱光導波路2201からリッジ320へ光信号が入射する部分では、リッジ320の幅が徐々に広がることにより、被加熱光導波路2201からリッジ320へ光信号が入射する際の損失を抑え、光信号をより効率よく伝搬させることができる。
【0037】
また、上記した実施例では、リッジ320と被加熱光導波路2201とが接している部分において、リッジ320の厚さと被加熱光導波路2201の厚さとはほぼ同一であるが、開示の技術はこれに限られない。例えば
図11に示されるように、位相調整部220において、被加熱光導波路2201の厚さT1は、リッジ320の厚さT2より薄くてもよい。
図11は、位相調整部220の光導波路200の構造の他の例を示す図である。
図11は、薄膜LN基板32の面と平行な方向から光導波路200を見た場合の光導波路200の構造が模式的に示されている。これにより、光信号が被加熱光導波路2201内を伝搬する際にマルチモードになってしまうことを抑制することができる。
【0038】
また、位相調整部220において、リッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端部321は、例えば
図12に示されるように、被加熱光導波路2201に接する端面320aに近付くに従って厚さT2から厚さT1まで徐々に薄くなってもよい。
図12は、位相調整部220の光導波路200の構造の他の例を示す図である。
図12は、薄膜LN基板32の面と平行な方向から光導波路200を見た場合の光導波路200の構造が模式的に示されている。これにより、リッジ320内の光信号がより効率よく被加熱光導波路2201内に進入することができる。
【0039】
なお、
図12の例において、リッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端部321は、被加熱光導波路2201に接する端面320aに近付くに従って厚さT1よりも薄くなってもよい。これにより、リッジ320から被加熱光導波路2201内に入射した光信号が被加熱光導波路2201内でマルチモードになってしまうことを抑制することができる。また、
図12の構成に加えて、光導波路200の幅方向においては、リッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端部321は、例えば
図10のように構成されてもよい。即ち、被加熱光導波路2201に接するリッジ320の端面320aの幅は、リッジ320に接する被加熱光導波路2201の端面の幅よりも狭くなるように構成されてもよい。
【0040】
また、上記した実施例では、リッジ320の延伸方向に連続するように被加熱光導波路2201が配置されており、被加熱光導波路2201の延伸方向における被加熱光導波路2201の端面とリッジ320の延伸方向におけるリッジ320の端面とが接している。しかし、開示の技術はこれに限られない。他の例として、被加熱光導波路2201は、例えば
図13に示されるように、リッジ320とヒータ2200との間に被加熱光導波路2201が設けられていてもよい。
図13は、位相調整部220の他の例を示す断面図である。このような構成でも、リッジ320内を伝搬した光信号は、リッジ320と被加熱光導波路2201との境界において、リッジ320よりも屈折率が大きい被加熱光導波路2201内に進入する。これにより、ヒータ2200からの熱によって被加熱光導波路2201内を伝搬する光信号の位相を変化させることができる。
【0041】
図13に例示された構成の光導波路200は、例えば
図14~
図17に示される手順で作成可能である。
図14~
図17は、位相調整部220の光導波路200の製造過程の一例を示す図である。
【0042】
まず、例えば
図14に示されるように、支持基板30、バッファ層31、および薄膜LN基板32が積層された基板W上に、被加熱光導波路2201と同じ材質の膜2202が積層される。そして、被加熱光導波路2201の位置にマスク42が配置される。そして、マスク42が配置された部分を除き、膜2202がエッチングされる。これにより、例えば
図15に示されるように、マスク42の位置に被加熱光導波路2201が形成される。そして、マスク42が除去される。
【0043】
次に、例えば
図16に示されるように、リッジ320の位置にマスク43が配置される。そして、薄膜LN基板32がエッチングされ、マスク43および被加熱光導波路2201がエッチングされない処理条件で、薄膜LN基板32がエッチングされる。そして、マスク43が除去される。これにより、例えば
図17に示されるように、リッジ320上に被加熱光導波路2201が配置された光導波路200が形成される。
図17に例示された光導波路200の製造過程では基板Wの研磨が不要であるため、例えば
図5に示された実施例の光導波路200に比べて、製造工程を削減することができる。
【0044】
なお、
図13および
図17に例示された光導波路200において、被加熱光導波路2201の延伸方向における被加熱光導波路2201の端部2203は、例えば
図18に示されるように、被加熱光導波路2201の先端に近付くに従って幅が狭くなっていてもよい。これにより、リッジ320から被加熱光導波路2201に光信号が進入する際、および、被加熱光導波路2201からリッジ320に光信号が進入する際に、屈折率の急激な変化を緩和することができる。これにより、被加熱光導波路2201とリッジ320との境界における光の結合損失を低減することができる。
【0045】
また、
図18に例示された光導波路200において、被加熱光導波路2201が設けられた部分のリッジ320の幅は、例えば
図19に示されるように、被加熱光導波路2201が設けられていない部分のリッジ320の幅よりも広くてもよい。これにより、リッジ320内を伝搬する光信号が、より効率よく被加熱光導波路2201内に進入することができる。なお、被加熱光導波路2201が設けられた部分のリッジ320の幅は、被加熱光導波路2201の延伸方向における被加熱光導波路2201の先端に対応する位置に近付くに従って幅が狭くなってもよい。これにより、リッジ320の幅が急激に変化することにより、リッジ320内を伝搬する光信号がマルチモードになってしまうことを抑制することができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者には明らかである。また、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0047】
W 基板
T1 厚さ
T2 厚さ
W1 幅
W2 幅
W3 幅
10 光送受信装置
11 光送受信部
12 LD
13 DSP
14 光受信デバイス
20 光送信デバイス
200 光導波路
201 入力端
21 RF変調領域
210 RF変調部
2100 信号電極
2101 接地電極
211 終端部
22 位相調整領域
220 位相調整部
2200 ヒータ
2201 被加熱光導波路
2201a 端面
2202 膜
23 PR
24 PBC
30 支持基板
31 バッファ層
32 薄膜LN基板
320 リッジ
320a 端面
321 端部
33 バッファ層
40 マスク
41 マスク
42 マスク
43 マスク