(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】真空鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20240910BHJP
B22D 18/06 20060101ALI20240910BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B22D17/20 Z
B22D18/06 509Z
B22D43/00 Z
B22D18/06 509B
(21)【出願番号】P 2021041269
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悠生
(72)【発明者】
【氏名】釼 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 工成
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110024(WO,A1)
【文献】特開2019-202350(JP,A)
【文献】特開昭50-127806(JP,A)
【文献】実開昭56-003887(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0167128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/20
B22D 18/06
B22D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶湯が供給される射出スリーブと、前記射出スリーブに設けられた吸引口と、前記吸引口から前記射出スリーブ内の気体を真空吸引する吸引経路と、前記吸引経路の出口側に接続される真空吸引装置と、前記吸引経路の途中に設けられ前記気体に含まれる溶湯カスを捕集する捕集部
と、前記捕集部に前記溶湯カスを捕集したことを検知する捕集検出部
と、を備
え、
前記捕集検出部は、前記溶湯カスが前記捕集部に捕集されたことを、前記溶湯カスによる前記捕集部の温度上昇によって検知する温度センサを有する、ことを特徴とする真空鋳造装置。
【請求項2】
前記捕集検出部は
、前記
温度センサからの信号を受けて前記捕集部内の前記溶湯カスの捕集量を判定する判定部を備えた、請求項1
に記載の真空鋳造装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記温度センサからの信号を受ける信号入力部と、前記信号入力部からの信号情報の回数を積算し溶湯カスの捕集量を演算する演算部と、前記捕集部の容量から算出される捕集制限値を設定する設定部と、前記設定部の数値と前記演算部の演算結果を比較して捕集量の割合を評価する比較評価部と、前記比較評価部の評価結果を受けて警報を発信する警報発信部とを備え、前記警報発信部の警報を受けて前記捕集部内に捕集された前記溶湯カスを除去する手段を含む、請求項
2に記載の真空鋳造装置。
【請求項4】
前記捕集部は、
前記気体から前記溶湯カスを比重差を利用して分離する本体部と、分離した前記溶湯カスを溜める底部と、を備え、前記本体部と前記底部とに分割可能に構成される捕集容器を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の真空鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出スリーブ内の空間部の真空吸引と並行して、金型キャビティへの溶湯の射出充填により鋳造品を得る真空鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出スリーブを備えた鋳造装置を用いた鋳造成形は、射出スリーブ内に供給されたアルミニウム合金等の溶湯を、射出スリーブ内に進退自在に配置されたプランジャーの前進動作により、金型キャビティ内へ射出充填させる。次いで、金型キャビティ内で射出充填した溶湯を冷却固化させて、冷却固化したものを金型キャビティから取り出して鋳造品を得る。同時に、プランジャーを後退動作させて、再び射出スリーブ内に溶湯を供給する。この一連の鋳造成形の動作を、計画された個数の鋳造品を得るまで繰り返される。
【0003】
ここで、射出スリーブとプランジャーの滑りを良くするために用いられる潤滑剤や、金型と鋳造品の離型性を確保するための離型剤が、溶湯と反応した際にガスを発生させる。また、射出スリーブ内へ供給される溶湯の量は、金型キャビティ容量に応じて適宜調整され、射出スリーブの大きさは、多種多様な金型キャビティに鋳造成形が適用できるように、余裕度をもった容量のものが、鋳造装置として準備される。そのために、射出スリーブ内は、必ず溶湯と空間部が混在した状態となる。さらに、金型キャビティ内は、完全に空間部であり、複雑な形状をしている。
潤滑剤や添加剤と溶湯が反応して発生したガス、溶湯と空間部の混在、金型キャビティ内の空間部と複雑形状は、金型キャビティへの溶湯の射出充填の際に、溶湯の流動乱れによってガスや空気の巻き込みが生じやすく、ボイド、湯廻り不良、湯ジワ、湯境等の鋳造不良の原因となる。
【0004】
そこで、ガスや空気の巻き込みを防止する手段として、特許文献1に示すように、成形金型に真空ベント装置を取り付けて、金型キャビティ内を真空吸引する真空鋳造装置が提案されている。特許文献1によると、真空ベント装置は、射出充填された溶湯の流動末端部近傍に連通される適切な位置に設置されることで、金型キャビティ内の空間部に存在する空気や、潤滑剤や添加剤と溶湯が反応して発生したガスを効率よく吸引でき、ガスや空気に起因する鋳造不良の低減を可能とするものとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す手段では、金型キャビティ形状によっては真空ベント機構を適切な位置に設置することができず、これによって、ガスや空気の吸引効率が低下し、鋳造不良の低減を満足させる結果を得ることが困難となる。また、金型キャビティの真空吸引は、金型キャビティと連通している射出スリーブ内の空間部も合わせて真空吸引できるが、真空吸引の経路距離が長く、射出スリーブ内の空間部の空気の吸引効率は大きく低下し、鋳造不良の低減効果は期待できない。そのために、真空鋳造装置の改良型として、真空ベント機構からの真空吸引の大容量化を行い、金型キャビティ内と射出スリーブ内の吸引効率を高める手段が新たに提案されている。しかしながら、真空吸引度は、金型キャビティ側が高く射出スリーブ側は低いために、射出スリーブ内の溶湯が、真空吸引度の高い金型キャビティ側へ吸引される先湯現象により、吸引された溶湯が固化して異物として混入し、鋳造成形後に行われる鋳造品の仕上げ処理工程において、ショットブラスト後の剥離や機械加工時の欠け等の鋳造不良を誘発する結果となる。
【0006】
そのために、特許文献2に示すように、射出スリーブに吸引口を設け、吸引口に連結した真空吸引装置を用いて、射出スリーブ内の空間部の真空吸引を直接行うようにした真空鋳造装置が提案されている。特許文献2によると、射出スリーブ内の空間部の吸引効率は極めて高くなり、ガスや空気に起因する鋳造不良は大幅に低減できるとされている。また、射出スリーブを経由して金型キャビティ内の真空吸引も可能であり、真空吸引度は、射出スリーブ側が高く金型キャビティ側は低いために、先湯現象は発生しない。
さらに、特許文献1と特許文献2を組み合わせた形態も可能である。なおこの場合は、先湯現象を防止するために、真空吸引度は射出スリーブ側が高く金型キャビティ側が低くなるように調整することを必要とする。あるいは、射出スリーブ側の真空吸引を先に開始し、適当な間隔をあけて、金型キャビティ側の真空吸引を遅れて開始する等の調整を必要とする。いずれにおいても、真空鋳造装置は、特許文献2に示される射出スリーブ側の真空吸引の手段が主とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-5504号公報
【文献】特開2019-202350公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献2に示す手段では、射出スリーブ内の空間部の吸引効率は高く、ガスや空気に起因する鋳造不良の低減効果は期待できるが、射出スリーブ内の溶湯まで真空吸引する可能性が示唆されている。そのために、真空吸引された溶湯カスを捕集する捕集構造部が、真空吸引の吸引経路の途中に設けられている。この捕集構造部により、真空吸引された溶湯カスを分離でき、溶湯カスによる吸引経路の詰りや真空吸引装置の故障が防止できるとされている。
【0009】
なお、真空吸引された溶湯カスで吸引経路が詰まることはもちろんのこと、溶湯カスで捕集構造部が満杯となれば、吸引経路の詰りとなって、射出スリーブ内の吸引効率が大きく低下してしまう。また、満杯となった溶湯カスが溢れて、真空吸引装置に引き込まれてしまうと、高い確率で真空吸引装置の故障を誘発する。そのために、捕集構造部の溶湯カスの満杯状態を検知し、捕集構造部から溶湯カスを除去するメンテナンス作業を行うことで、吸引経路の詰り等を予防することが提案されている。なお、捕集構造部のメンテナンス作業は、鋳造成形を一時停止して実施される。
【0010】
捕集構造部の溶湯カスの満杯状態の検知として、真空吸引時の真空度の変化と、エアブロー清掃時のエアブロー圧の変化を監視する方法が提案されている。真空吸引時の真空度の変化は、射出スリーブ内に溶湯を供給後に真空吸引を開始し、溶湯の射出充填工程中に真空吸引を停止するまでの工程の範囲内で監視される。真空度に変化があれば、捕集構造部を含む吸引経路のどこかに溶湯カスによる詰りが発生していると判断される。同様に、エアブロー清掃時のエアブロー圧の変化は、溶湯の射出充填後から、プランジャーを後退させて射出スリーブ内に溶湯を供給する次ショットの鋳造成形の準備の工程の間に、吸引経路と射出スリーブ内のエアブロー清掃を行う行程中に監視される。エアブロー圧に変化があれば、捕集構造部を含む吸引経路のどこかに溶湯カスによる詰りが発生していると判断される。
【0011】
ここで、特許文献2に示す溶湯カスの検知の手段では、捕集構造部が溶湯カスで満杯状態、あるいは吸引経路を溶湯カスで閉鎖状態、のいずれかの状態であり、この段階では既に手遅れ感がある。また、既に詰りが発生していることで、その詰りの程度にもよるが、射出スリーブ内の吸引効率は確実に低下しており、ガスや空気を起因とする鋳造不良が既に発生している可能性が疑われる。さらに、溶湯カスの詰りの箇所が特定されていないために、メンテナンス作業に時間を要し、鋳造成形の長時間の停止を必要とし、生産性を大きく低下させることとなる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶湯カスによる詰りが発生する前に、溶湯カスの捕集状態を精度良く検知し、また、溶湯カスが捕集されている箇所を特定することにより、鋳造成形を停止することなくメンテナンス作業ができ、生産性を確保しつつ、ガスや空気に起因する鋳造不良の無い高品質な鋳造品を安定して得ることを目的とする、真空鋳造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る真空鋳造装置は、内部に溶湯が供給される射出スリーブと、前記射出スリーブに設けられた吸引口と、前記吸引口から前記射出スリーブ内の気体を真空吸引する吸引経路と、前記吸引経路の出口側に接続される真空吸引装置と、前記吸引経路の途中に設けられ前記気体に含まれる溶湯カスを捕集する捕集部、とを備えた真空鋳造装置において、前記溶湯カスを捕集したことを検知する捕集検出部を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る真空鋳造装置において、前記捕集検出部は、前記捕集部に設置され前記溶湯カスが捕集されたことを検知する検知センサと、前記検知センサからの信号を受けて前記捕集部内の前記溶湯カスの捕集量を判定する判定部を備えても良い。
【0015】
本発明に係る真空鋳造装置において、前記検知センサは、前記捕集部の温度変化を計測する温度センサとしても良い。
【0016】
本発明に係る真空鋳造装置において、前記判定部は、前記温度センサからの信号を受ける信号入力部と、前記信号入力部からの信号情報の回数を積算し溶湯カスの捕集量を演算する演算部と、前記捕集部の容量から算出される捕集制限値を設定する設定部と、前記設定部の数値と前記演算部の演算結果を比較して捕集量の割合を評価する比較評価部と、前記比較評価部の評価結果を受けて警報を発信する警報発信部とを備え、前記警報発信部の警報を受けて前記捕集部内に捕集された前記溶湯カスを除去する手段を含むとしても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋳造成形を停止することなくメンテナンス作業ができ、生産性を確保しつつ、ガスや空気に起因する鋳造不良の無い高品質な鋳造品を安定して得ることを目的とする、真空鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明に係る溶湯カスの捕集検知の手段を示す図である。
【
図3】本発明に係る溶湯カスの捕集検知の制御装置を示す図である。
【
図5】本発明に係る溶湯カスの捕集検知の制御フロー図である。
【
図6】本発明に係る溶湯カスの捕集結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0020】
[真空鋳造装置]
先ず、本実施形態に係るに真空鋳造装置ついて、
図1を用いて説明する。なお、以下の説明では、本実施形態に係る真空鋳造装置100として、横型のダイカストマシンをベースとしたが、これに限定されるものではない。
【0021】
図1に示す真空鋳造装置100は、図示しない固定盤に支持された固定金型12と、図示しない可動盤に支持され固定金型12に対して進退可能な可動金型13と、固定金型12と可動金型13の型締動作により金型キャビティ14を形成する鋳造金型10と、アルミニウム合金等の溶湯を射出充填する射出装置20と、射出装置20を駆動させる射出駆動部30と、射出駆動部30へ制御指令を発信し射出充填の動作を制御する射出制御部40と、を備えている。射出装置20により溶湯を金型キャビティ14内に射出充填することで、鋳造品が成形される。
【0022】
射出装置20は、内部に溶湯が供給される射出スリーブ22と、射出スリーブ22の内側に配置されるプランジャー23とを備え、プランジャー23と射出駆動部30はロッド24で連結され、射出駆動部30によりロッド24を介してプランジャー23は射出スリーブ22内で進退可能に動くことができる。ここで、金型キャビティ14に近い側を前方F、金型キャビティ14から遠い側を後方Bと定義する。
後方Bの待機位置BEにプランジャー23が待機している間に、射出スリーブ22に設けた注湯口25から図示しない給湯装置等を用いて射出スリーブ22内に溶湯が供給される。その後、プランジャー23を前方Fに向けて移動させて、射出スリーブ22内の溶湯を金型キャビティ14内へ射出充填と保圧を行い、射出完了位置FEで射出充填工程を終える。射出充填された金型キャビティ14内の溶湯の冷却固化を経て、金型キャビティ14から冷却固化した鋳造品を取り出すとともに、プランジャチップ23を待機位置BEに後退させて、次ショットの鋳造成形の準備に進む。
【0023】
射出スリーブ22には、必要に応じて、水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却機構が設けられている。また、プランジャー23の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯の付着抑制等のため、射出スリーブ22とプランジャー23との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、プランジャー23には、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む冷却機構が設けられても良い。
【0024】
射出スリーブ22の前方Fの射出スリーブ先端部22Fは、ゲート14Gを介して金型キャビティ14と連通するように、固定金型12の所定の位置に締結される。射出スリーブ22内の溶湯は、ゲート14Gを通って金型キャビティ14内に射出充填される。
【0025】
また、射出スリーブ22の注湯口25から前方F側に吸引口52が設けられている。吸引口52には吸引経路53が接続されている。吸引経路53は、分岐弁55を経て、真空吸引装置56に接続される。これにより、真空吸引装置56により吸引経路53から吸引口52を介して、射出スリーブ22内の空間部を真空吸引できる。また、真空吸引装置56は、射出制御部40と信号線等で接続されており、鋳造成形の工程に応じて真空吸引のタイミングを適切に制御されるように構成されている。
なお、
図1においては、吸引口52と吸引経路53を簡便的に1つとしたが、複数設けても良い。その場合は、真空吸引装置56と吸引口52の間に、複数の吸引経路53を1つに集約して真空吸引装置56と接続させる図示しない集合弁等や、複数の吸引経路53または複数の吸引口52の使用または不要、開放または閉鎖、を適宜選択できる図示しない流路切替え装置等を設けることが好ましい。また、吸引経路53に、ゴミ等の不純物を除去する図示しないフィルター等や、真空度等を検知するセンサ類を設けても良い。さらに、注湯口25から前方F側において、射出スリーブ22内の吸引効率を考慮した適切な位置に、吸引口52が配置されることが好ましい。
【0026】
分岐弁55からは別の補助経路57が伸びており、エアブロー装置58に接続されている。溶湯の射出充填の完了時に、あるいはプランジャーが所定の位置を通過したタイミングで、エアブロー装置58から清掃用のエアブローを噴射し、吸引経路53及び吸引口52と、射出スリーブ22内のエアブロー清掃を行う。このエアブロー清掃は、吸引経路53等に間違って真空吸引された溶湯が冷えて固まらないうちに吹き飛ばしたいため、真空吸引を終えてから直ちに行うことが好ましい。また、吸引経路53が複数ある場合は、複数を同時に行うのではなく、順に個別にエアブロー清掃を行うことがより好ましい。なお、エアブロー清掃によって吸引経路53等に付着した溶湯カスが、射出スリーブ22内に落下したとしても、次ショットの準備のためにプランジャー23の後退動作時に、落下した溶湯カスを射出スリーブ22から外に排出することができる。このエアブロー清掃の工程中は、分岐弁55を操作して、分岐弁55から真空吸引装置56側の吸引経路53を閉鎖状態とする。同様に、射出スリーブ22内の真空吸引の工程中は、分岐弁55を操作して、分岐弁55からエアブロー装置58の補助経路57を閉鎖状態とする。また、エアブロー装置58は、射出制御部40および真空吸引装置56と信号線等で接続されており、鋳造成形の工程および真空吸引のタイミングに応じてエアブロー清掃のタイミングを適切に制御されるように構成されている。
なお、
図1においては、補助経路57あるいは吸引経路53を用いてエアブロー清掃を行うとしたが、これに限定することなく、例えば注湯口25を用いてエアブロー清掃を追加しても良い。
【0027】
溶湯が供給された状態で射出スリーブ22内を真空吸引する際に、溶湯の供給量、吸引口52の位置、真空吸引を開始するタイミング、射出充填動作とのバランス等により、吸引口52から溶湯カスとして誤って吸引する可能性はゼロとは言えない。そのために、吸引口52から分岐弁55の間の吸引経路53に、誤って吸引した溶湯カスを捕集する捕集部60が設けられている。これにより、捕集部60より後方側の吸引経路53や分岐弁55、および真空吸引装置56に溶湯カスが吸引されることを回避できる。
【0028】
次に、
図2を用いて捕集部60を詳細に説明する。
図2は
図1のA~A断面を示す。射出スリーブ22の垂直上面に吸引口52が設けられ、吸引口52と接続した吸引経路53が真空吸引装置56まで連結しており、射出スリーブ22内の溶湯Mの上面の空間部の空気と、潤滑剤や離型剤と溶湯Mが反応して発生したガスとの混合気体を効率よく真空吸引できる。
吸引経路53の途中には、誤って吸引した射出スリーブ22内の溶湯や冷却して固まった溶湯固化物等(溶湯カスMCと総称する)を捕集する捕集部60が接続される。捕集部60は、吸引経路53よりも容積の大きい圧力開放の捕集容器62により、真空吸引した混合気体から比重差を利用して溶湯カスMCのみを分離させて捕集できる仕組みである。分離後の混合気体は、吸引経路53に接続される出口管64より排出され、真空吸引装置56で真空吸引される。また、溶湯カスMCの分離効率を高めるために、捕集容器62内の所定の位置まで吸引経路53の先端部分53Sを延長させている。この先端部分53Sの延長は、真空吸引の混合気体の流れとは反対となるエアブロー清掃時に、捕集した溶湯カスMCを誤って吸引経路53内に逆流させ、射出スリーブ22側に溶湯カスMCを戻すことを防止する効果を得ることもできる。また、捕集容器62に図示しない邪魔板等を追加することで、真空吸引時の溶湯カスMCの分離効率と、エアブロー清掃時の溶湯カスMCの飛散防止を、さらに確実なものとすることができる。
【0029】
また、捕集容器62は、溶湯カスMCを分離する本体部62Uと、分離した溶湯カスMCを溜める底部62Lの分割構造とし、脱着治具66により底部62Lが短時間で簡単に脱着または交換できるようにしている。これにより、鋳造成形を一時停止することなく、捕集容器62から溶湯カスMCを除去するメンテナンス作業を可能とする。
ここで、底部62Lの脱着または交換は、作業時間を考慮して、手作業で実施しても良く、図示しない自動交換装置等を用いて行っても良い。また、底部62Lに開閉板を設け、例えば掃除機のような吸引具を接続して溶湯カスMCを吸引除去するような手段を加えても良く、鋳造成形を中断せずに、捕集部60で捕集した溶湯カスMCを除去するメンテナンス作業ができるのであれば手段は限定されない。
【0030】
ここで、捕集した溶湯カスMCで捕集部60が満杯となると、溶湯カスMCは捕集部60から溢れ出てしまう。この漏れ出た溶湯カスMCは、分離して綺麗な混合ガスに混入し、出口管64から排出され真空吸引装置56に吸引されてしまう。また、満杯となった溶湯カスMCにより、吸引経路53を塞ぐこととなり、射出スリーブ22内の吸引効率を大きく低下させる。溶湯カスMCの満杯状態を知らずに、この状態を放置すると、空気やガスに起因する鋳造不良を再発させ、真空吸引装置56の破損事故を誘発する。さらに、吸引経路53の詰りも発生し、詰りの箇所が特定できずに、復旧にかかるメンテナンス作業の時間が過大となり、鋳造成形の長時間の停止による生産性の大幅な低下を招く。この傾向は、溶湯カスMCが満杯になる前の段階から徐々に発生する。
そのために、捕集部60が溶湯カスMCで満杯となる前に、捕集部60での溶湯カスMCの捕集状態を精度良く正確に検知する手段を必要とする。
【0031】
[溶湯カス捕集検出部]
次に、本実施形態に係る、真空吸引した混合ガスから、溶湯カスMCのみを捕集部60で分離して捕集したことを検知する捕集検出部について、
図2と
図3を用いて説明する。
先ず、
図2に示すように、捕集検出部70は、検知センサ72と判定部74を備える。検知センサ72の取付け位置は、検知精度を高めるため、溶湯カスMCが溜まる捕集容器62の底部62Lとする。なお、底部62Lは、メンテナンス作業時に脱着または交換するとしているので、例えばマグネット等を利用して、検知センサ72も簡単に脱着または交換できる構造とすることが好ましい。また、
図2においては、底部62Lに検知センサ72を取り付けたが、溶湯カスMCの捕集を正確に検知できるのであれば、本体部62Uや吸引経路53の先端部53S等の他の場所に検知センサ72を取り付けても良い。
【0032】
ここで、真空吸引した混合ガスから分離し捕集した直後の溶湯カスMCは、まだ高温の状態にある。そのため、検知センサ72を取り付けた底部62Lは、高温の溶湯カスMCにより加熱され温度が上昇する。この温度変化を計測することにより、捕集部60で溶湯カスMCを分離し捕集したことを正確に検知できると考え、熱電対や測温抵抗体等の接触式、あるいは、サーモカメラや赤外線放射を利用した非接触式等の温度センサを検知センサ72に用いるものとする。
なお、温度計測を利用した溶湯カスMCの捕集の検知手段として、溶湯カスMCが通過したことを直接検知する光電管方式や近接スイッチ等を代用として用いても良い。また、溶湯カスMCが吸引経路53や捕集部60等へ衝突した際に生じる衝突音や振動を計測できる音響センサや振動センサ等を代用として用いても良い。また、例えば捕集部60を重力方向に動ける構造とし、溶湯カスMCの捕集による捕集部60の重量変化を測定する重量センサ等を代用として用いても良い。
【0033】
検知センサ72と判定部74は、信号線等の有線やWi-Fi等の無線によって接続され、判定部74は検知センサ72からの検知信号を受けて、捕集部60での溶湯カスMCの捕集状態を評価するように構成されている。詳しくは、
図3を用いて説明する。
【0034】
図3において、判別部74は、検知センサ72からの検知信号を受信する信号入力部741と、受信回数を積算し溶湯カスMCの捕集量を演算する演算部742と、捕集部60の容量から算出される溶湯カスMCの捕集量制限値を設定する設定部743と、設定部743で設定した捕集量制限値と演算部742の演算結果とを比較して、捕集部60内の溶湯カスMCの捕集量の割合を評価する比較評価部744と、比較評価部744の評価結果を受けて警報を発信する警報発信部745、とを備える。
【0035】
また、捕集検出部70の警報発信部745は、射出制御部40と信号線等で接続されており、鋳造成形の工程と溶湯カスの捕集状態の検出を同調させることで、鋳造成形を停止させることなくメンテナンス作業が可能となり、鋳造品質の安定化を実現させることとなる。さらに、捕集検出部70の警報発信部745からの警報信号を受けて、鋳造成形の工程とのタイミングを見計らって、捕集部60から捕集した溶湯カスMCの除去の清掃メンテナンスを行う。この清掃メンテナンスは、上述したように、手作業で行っても良く自動装置を用いても良い。
【0036】
[溶湯カス捕集検出手順]
次に、本実施形態に係る、真空吸引した混合ガスから溶湯カスMCのみを分離し、捕集部60で捕集するに際して、捕集部60の溶湯カスMCの捕集状態を検出する手順について、
図4~
図6を用いて説明する。
図4は、
図1に示す真空鋳造装置を用いて鋳造成形を行う真空鋳造成形において、鋳造成形の工程と真空吸引の工程と溶湯カス捕集検知の工程を重ねて示したものである。
図5は、溶湯カス捕集量の適正状態を評価する手順を示したものである。また
図6は、溶湯カス捕集量の評価結果を示したものである。
【0037】
先ず、真空鋳造成形と溶湯カス捕集検出について説明する(
図4)。前提条件として、図示しない型締装置により鋳造金型10は型締され金型キャビティ14が形成され、射出スリーブ22とプランジャー23等には離型剤が塗布されているとする。
図示しない給湯装置等により、射出スリーブ22内に所定量の溶湯が供給され、射出充填を開始する。プランジャー23が予め設定された切替え位置S1に到達すると、真空吸引装置56を用いて射出スリーブ22内を真空吸引する。ここで切替え位置S1は、プランジャー23で注湯口25が閉鎖される位置である。切替え位置S1以降は、射出充填と真空吸引が同時に行われる。また、真空吸引の開始と同時に、真空吸引装置56または吸引経路53の真空度をモニタし、真空吸引されていることを確認する。
【0038】
次に、射出充填に伴い、プランジャー23は設定された射出速度で前進し、予め設定された切替え位置S2にプランジャー23が到達すると、分岐弁55を閉状態に切り替えて、真空吸引装置56からの射出スリーブ22内の真空吸引を停止させる。ここで切替え位置S2は、吸引口52をプランジャー23が通過する手前の位置である。仮に、吸引口52をプランジャー23が通過した後も真空吸引を継続させると、真空吸引装置56はプランジャー23から後方の開放された外気を吸引することになり、真空吸引装置56の真空度は大幅に低下し、次の真空吸引の際に支障をきたす。分岐弁55を閉鎖状態とすることで真空吸引装置56は高真空の状態を維持できる。また、エアブロー装置58からのエアブロー用エアの漏れ出しも防止できる。
【0039】
射出充填は、プランジャー23の前進速度(射出速度)を多段で変化させて、射出スリーブ22内の溶湯を金型キャビティ14内に射出充填させる。プランジャー23の前進に伴い、射出スリーブ22内は空間部が減り溶湯の湯面は上昇し溶湯で満たされる状態となり、満たされた溶湯は金型キャビティ内へ射出充填される。射出充填の完了の時点、あるいは、金型キャビティ14内に射出充填された溶湯の冷却に伴う凝固収縮を補う保圧工程の開始の時点で、分岐弁55を切り替えて、エアブロー装置58を用いて吸引経路53等のエアブロー清掃を行う。
【0040】
ここで、捕集検出部70による溶湯カスMCの捕集検出は、溶湯カスMCが吸引される可能性の高い、真空吸引開始から真空吸引停止の間で行われる(
図4の破線)。
溶湯カスMCの捕集検出と清掃メンテナンスについて、
図5を用いて詳しく説明する。予め、捕集部60の容量から算出される溶湯カスMCの捕集容量制限値(Q)を設定する。具体的には、
図2に示すように、捕集容器62の底部62Lの容積を捕集容量制限値(Q)とすることが、最も安全な設定であり好ましい。または、吸引経路53の先端部分53Sに溶湯カスMCが到達する手前までの捕集容器62の容積としても良い。溶湯カスMCで吸引経路53や出口管64が詰まらない範囲で、捕集容量制限値(Q)を設定することが好ましい。
なお、捕集容器62を大型とし容量を増やすことで、捕集容量制限値(Q)を大きく設定することは可能となるが、捕集部60を含む吸引経路53の全体の容量が増えて、吸引効率が低下することがある。そのため、吸引効率を加味して捕集容器62の大きさを設計することが好ましい。
【0041】
図5の説明に戻る。溶湯カスMCの捕集検出が開始されると、捕集検知の回数を積算し、捕集量(W)の演算を演算部742で行う。予め、例えば鋳造条件の調整等の準備の鋳造成形の時に、数回の捕集検知で捕集された溶湯カスの重量の平均値を求めておけば、捕集検知の回数を積算することで、その時点での溶湯カスの捕集量(W)が正確に分かる。
なお、溶湯カスの形状から、かさ密度を試算し、かさ密度と捕集量(W)から捕集容器62に溜まる溶湯カスMCを容積に変換した数値(捕集容積)を、捕集量(W)としても良い。逆に、かさ密度と捕集容量制限値(Q)から溶湯カスMCの重量に変換した数値(捕集容量制限重量)を、捕集容量制限値(Q)としても良い。このように、捕集量(W)と捕集容量制限値(Q)を同じ指標とすることで、比較評価を容易とする。
【0042】
次に、捕集量(W)と捕集容量制限値(Q)の比較評価を判定評価部744で行う。比較評価の結果、W<Qであれば、溶湯カスMCの捕集量は少なく捕集部60は余裕がある状態として正常判定とし、鋳造成形は継続される。W≧Qであれば、溶湯カスMCの捕集量は多く捕集部60の余裕が少なくなっているとして警報発信部745は警報を発信する。警報発信部745の警報を受けて、捕集部60に溜まった溶湯カスMCを除去する清掃メンテナンスを行う。
なお、捕集部60が満杯になる前の余裕を持たせた数値に捕集容量制限値(Q)を設定することで、比較評価の結果がW≧Qであっても、捕集部60は満杯になる前の余裕を持った状態であるため、清掃メンテナンスは簡単で短時間で終えることができる。その結果、鋳造成形を停止することなく清掃メンテナンスができ、鋳造成形の継続を実現する。同時に、空気やガスに起因する鋳造不良の発生を防止でき、高品質な鋳造品の安定生産を実現できる。
【0043】
次に、真空吸引した混合ガスから溶湯カスMCを分離して捕集部60で捕集した真空鋳造成形事例について、
図6を用いて説明する。
図6(a)は、本実施形態に係る捕集検出部70を用いた時の溶湯カスMCの捕集検出結果である。横軸は鋳造成形の工程を時間で表現し、縦軸は検出センサ72に温度センサを用いたことで検知温度とした。図中の記号H1とH2は、溶湯カスMCを捕集したことを示し、その瞬間に温度が明確に上昇している。このように、温度変化を計測することにより、溶湯カスMCの捕集状態を正確に検出できることを示している。つまり、温度変化の回数を積算することで、溶湯カスMCの捕集状態を正確に把握でき、捕集部60が溶湯カスMCで満杯になる前に、吸引経路53が溶湯カスMCで詰まる前に、予防保全を行うことができるものを示している。
【0044】
これに対して、
図6(b)は、従来技術の検知手段の検知結果を示す。真空吸引工程中の真空度の変化から溶湯カスMCの捕集を検知するものであり、縦軸は真空度を表す。
図6(a)と
図6(b)は、同時に計測した。
図6(a)では2回の溶湯カスMCの捕集検知(H1とH2)を示したが、
図6(b)では全く検知できなかった。
図6(b)では、捕集部60が捕集した溶湯カスMCで満杯となって吸引経路53が閉鎖する、あるいは吸引経路53の何処かの箇所に溶湯カスMCが詰まって吸引経路53が閉鎖することによって、初めて真空度に変化が現れるのであって、吸引経路53が詰まることを予見できず、検知の遅れが問題となっていたものを明確に示している。
【0045】
図6(c)は、
図6(a)の溶湯カスMCの捕集状態を示す。清掃メンテナンスのために、捕集容器62の底部62Lを外して溶湯カスMCの溜まり具合を観察したものである。例えば、型締力12500KNの真空鋳造装置でアルミニウム合金を真空鋳造成形した場合、130ショットの連続鋳造成形で、溶湯カスMCは20~50g捕集される。この程度の捕集量であれば、清掃メンテナンスを簡単に短時間で行うことができる。
【0046】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0047】
上述した実施形態では、アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティ14内に射出充填する、横型のダイカストマシンをベースとした真空鋳造装置に適用するものと説明したが、これに限定されず、例えば、竪型の低圧鋳造機をベースとした真空鋳造装置や、半凝固状態の金属合金を加圧して射出充填する半凝固鋳造機をベースとした真空鋳造装置に適用するとしても良い。
【0048】
上述した実施形態では、射出スリーブ22内を真空吸引する真空鋳造装置に適用するものと説明したが、これに限定されず、例えば、金型キャビティを真空吸引する真空鋳造装置に適用するとしても良い。
【符号の説明】
【0049】
100 真空鋳造装置
10 鋳造金型
12 固定金型
13 可動金型
14 金型キャビティ
20 射出装置
22 射出スリーブ
23 プランジャー
24 プランジャロッド
25 注湯口
30 射出駆動部
40 射出制御部
52 吸引口
53 吸引経路
55 分岐弁
56 真空吸引装置
58 エアブロー装置
60 捕集部
62 捕集容器
70 捕集検出部
72 検知センサ
74 判定部