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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ケーブル付きコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/655 20060101AFI20240910BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01R13/655
H01R4/18 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021070146
(22)【出願日】2021-04-19
(65)【公開番号】P2022165000
(43)【公開日】2022-10-31
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 佑介
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和明
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-028873(JP,A)
【文献】特開2020-057493(JP,A)
【文献】特開2018-147564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R4/00-4/22
H01R12/00-12/91
H01R13/56-13/72
H01R24/00-24/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、
前記電線を包囲するシースと、
前記シースの端末部を包囲するスリーブと、
前記電線と前記シースとの間に介在するとともに、前記シースの端末部から露出して前記スリーブの外側に折り返された折り返し部を有している編組線と、を備えるケーブルと、
前記ケーブルに接続されたコネクタハウジングと、
前記コネクタハウジングを覆う覆い部と、前記ケーブルにおいて前記折り返し部が配された端末部に圧着されるバレル部と、前記バレル部から前記シースに向かって延びる複数の突部とを備えるシールド部材と、を備え、
前記複数の突部が、
先端部が前記シースにめり込んでいる少なくとも1個の長突部と、前記長突部よりも短く、先端部が前記シースにめり込まないが、前記スリーブに係止可能な長さを有する少なくとも1個の短突部と、を含み、
少なくとも1個の前記長突部は、第1長突部と、第2長突部と、を含み、
前記第1長突部の突出長さは、前記第2長突部の突出長さより長く、
前記短突部は、前記第1長突部と前記第2長突部との間に配されている、ケーブル付きコネクタ。
【請求項2】
前記バレル部が、前記ケーブルの前記端末部に重ねられる基部と、前記基部から延びて前記ケーブルの前記端末部に巻き付けられる圧着片とを備え、
前記長突部の少なくとも一部が、前記圧着片に最も近接して配されている、請求項1に記載のケーブル付きコネクタ。
【請求項3】
前記シールド部材に備えられる前記突部の総数が4個であり、前記突部のうち2個が前記短突部である、請求項1または請求項2に記載のケーブル付きコネクタ。
【請求項4】
前記シールド部材に備えられる前記突部の総数が6個であり、前記突部のうち2個が前記短突部である、請求項1または請求項2に記載のケーブル付きコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、ケーブル付きコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド電線の端末部に外導体端子が接続された端子付きシールド電線が知られている(特許文献1参照)。シールド電線は、複数の被覆電線と、これらの被覆電線を一括して覆う編組線と、編組線のさらに外周を覆うシースとを備えている。シールド電線の端末部においては、シースが皮剥ぎされて、編組線の端末部がシースから露出している。シースから露出された編組線の端末部は、折り返されてシースの外側に重ねられた折り返し部となっている。シースの端末部の外側であって、且つ、折り返し部の内側には、金属製のスリーブが配されている。外導体端子は、バレル部を備えており、バレル部は、シースの端末部に、折り返し部の外側から圧着されている。
【0003】
外導体端子は、バレル部から内側に突出する突部を備えている。このような構成によれば、シールド電線に引っ張り力が加えられた場合に、スリーブが突部に当接することによって、シールド電線がバレル部から脱落することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-147564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような端子付きシールド電線において、外導体端子のシールド電線に対する固着力を増大させるために、例えば、バレル部をシールド電線に強くかしめることが考えられる。しかし、かしめ力が強くなりすぎると、通信性能の悪化や断線等が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示されるケーブル付きコネクタは、電線と、前記電線を包囲するシースと、前記シースの端末部を包囲するスリーブと、前記電線と前記シースとの間に介在するとともに、前記シースの端末部から露出して前記スリーブの外側に折り返された折り返し部を有している編組線と、を備えるケーブルと、前記電線に接続されたコネクタハウジングと、前記コネクタハウジングを覆う覆い部と、前記ケーブルにおいて前記折り返し部が配された端末部に圧着されるバレル部と、前記バレル部から前記シースに向かって延びる複数の突部と、を備えるシールド部材と、を備え、前記複数の突部が、先端部が前記シースにめり込んでいる少なくとも1個の長突部と、前記長突部よりも短く、先端部が前記シースにめり込まないが、前記スリーブに係止可能な長さを有する少なくとも1個の短突部と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によって開示されるケーブル付きコネクタによれば、ケーブルのバレル部からの脱落を効果的に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態のケーブル付きコネクタの斜視図である。
図2図2は、実施形態のケーブル付きコネクタの分解斜視図である。
図3図3は、実施形態の第2シールド部材の斜視図である。
図4図4は、実施形態のケーブル付きコネクタの背面図である。
図5図5は、実施形態の第2シールド部材の背面図である。
図6図6は、図4のA-A線断面図である。
図7図7は、変形例のケーブル付きコネクタの背面図である。
図8図8は、試験例1において、短突部の数と固着力との関係を示すグラフである。
図9図9は、試験例2において、短突部の数と固着力との関係を示すグラフである。
図10図10は、他の実施形態におけるケーブル付きコネクタを図4のA-A線と同位置で切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示されるケーブル付きコネクタは、電線と、前記電線を包囲するシースと、前記シースの端末部を包囲するスリーブと、前記電線と前記シースとの間に介在するとともに、前記シースの端末部から露出して前記スリーブの外側に折り返された折り返し部を有している編組線と、を備えるケーブルと、前記電線に接続されたコネクタハウジングと、前記コネクタハウジングを覆う覆い部と、前記ケーブルにおいて前記折り返し部が配された端末部に圧着されるバレル部と、前記バレル部から前記シースに向かって延びる複数の突部と、を備えるシールド部材と、を備え、前記複数の突部が、先端部が前記シースにめり込んでいる少なくとも1個の長突部と、前記長突部よりも短く、先端部が前記シースにめり込まないが、前記スリーブに係止可能な長さを有する少なくとも1個の短突部と、を含む。
【0010】
上記の構成によれば、相対的に長く、シースにめり込んでいる長突部と、相対的に短く、シースにめり込んでいないがスリーブに係止可能な短突部とが併用される。これにより、全ての突部がシースにめり込んでいる場合、または、全ての突部がシースにめり込んでいない場合と比較して、強い固着力が得られ、ケーブルのバレル部からの脱落が効果的に規制される。
【0011】
(2)上記(1)のケーブル付きコネクタにおいて、前記バレル部が、前記ケーブルの前記端末部に重ねられる基部と、前記基部から延びて前記ケーブルの前記端末部に巻き付けられる圧着片とを備え、前記長突部の少なくとも一部が、前記圧着片に最も近接して配されていても構わない。
【0012】
圧着片の近傍では、バレル部とスリーブとの間隔に変動が生じやすい。このため、圧着片の近傍に短突部を配置しようとする場合、短突部を、シースにめり込まないが、スリーブを確実に係止可能な長さに調整することが難しい。このため、圧着片に最も近接して配される突部は、相対的に長く、シースにめり込む長突部であることが好ましい。
【0013】
(3)上記(1)または(2)のケーブル付きコネクタにおいて、前記シールド部材に備えられる前記突部の総数が4個であり、前記突部のうち2個が前記短突部であっても構わない。あるいは、上記(1)または(2)のケーブル付きコネクタにおいて、前記シールド部材に備えられる前記突部の総数が6個であり、前記突部のうち2個が前記短突部であっても構わない。
【0014】
突部の数が上記のようであるときに、強い固着力が得られ、ケーブルのバレル部からの脱落を効果的に規制することができる。
【0015】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
<実施形態1>
実施形態1を、図1から図6を参照しつつ説明する。本実施形態のケーブル付きコネクタ1は、図1および図2に示すように、電線11を備えるケーブル10と、電線11の端末に接続されるコネクタハウジング20と、ケーブル10の端末部10Aに圧着されてコネクタハウジング20を覆うシールド部材30と、を備えている。
【0017】
[ケーブル10]
ケーブル10は、図2に示すように、複数(本実施形態では2本)の電線11と、複数の電線11を一括して覆う編組線12と、編組線12の外周を覆うシース13と、シース13の端末部を包囲するスリーブ14とを備えている。
【0018】
各電線11は、詳細に図示はしないが、金属製の芯線と、この芯線の外周を包囲する絶縁性の合成樹脂からなる絶縁被覆を備える。芯線を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。
【0019】
編組線12は、導電性を有する複数の線材がメッシュ状に編み込まれて筒状とされた部材である。導電性の線材は、例えば、金属製の線材であってもよく、合成樹脂製の素線の表面に金属箔が貼付された線材であってもよい。金属製の線材、または合成樹脂製の素線の表面に貼付される金属箔を構成する金属は、銅、銅合金等必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態においては、銅又は銅合金製の線材が用いられている。
【0020】
シース13は、絶縁性の合成樹脂からなる。ケーブル10の端末部10Aにおいては、シース13が皮剥ぎされており、電線11の端末部と編組線12の端末部とが、シース13から露出している。電線11の端末部には、図示しない端子金具が接続されている。シース13から露出された編組線12の端末部は、シース13側に折り返されてシース13の外側に重ねられた折り返し部12Aとなっている。
【0021】
スリーブ14は、シース13の端末部に外側から圧着されており、折り返し部12Aの内側に配されている。スリーブ14は金属製であって、円筒状をなしている。スリーブ14を構成する金属は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択できる。本実施形態においては銅又は銅合金が用いられている。
【0022】
[コネクタハウジング20]
コネクタハウジング20は、合成樹脂製であって、図2に示すように、概ね直方体状をなしている。コネクタハウジング20の内部には、電線11の端末部と、電線11の端末部に接続された接続された端子金具とが収容されている。
【0023】
[シールド部材30]
シールド部材30は、金属製であって、図1および図2に示すように、第1シールド部材31と、第2シールド部材41とを備えている。
【0024】
第1シールド部材31は、金属板材を打ち抜き加工および曲げ加工することによって形成される。この第1シールド部材31は、図2に示すように、角筒状の筒部32と、筒部32の一端から延びる第1連結部33と、第1連結部33から延びる板状の舌片34とを備える。筒部32の内部には、コネクタハウジング20が収容される。
【0025】
第2シールド部材41は、金属板材を打ち抜き加工および曲げ加工することによって形成される。この第2シールド部材41は、図2および図3に示すように、第1シールド部材31の筒部32を覆う覆い部42と、覆い部42から延びる第2連結部43と、第2連結部43から延びてケーブル10の端末部10Aに圧着されるバレル部44と、バレル部44から延びる複数の突部51、52、53とを備えている。
【0026】
覆い部42は、図1図2および図3に示すように、筒部32の一面に沿って配される矩形板状の天板42Aと、天板42Aの2つの側縁からそれぞれ延びる2個の側板42Bとを備えている。2個の側板42Bは、第2シールド部材41が第1シールド部材31に組み付けられていない単体の状態では、図2および図3に示すように、天板42Aから真っ直ぐに延びており、第2シールド部材41が第1シールド部材31に組み付けられた状態では、図1に示すように、筒部32に沿うように屈曲される。
【0027】
バレル部44は、図1および図4に示すように、ケーブル10の端末部10Aに、折り返し部12Aの外側から巻き付けられるようにして圧着される。バレル部44は、図3に示すように、ハーフパイプ状をなす基部45と、基部45から延びる2つの第1圧着片46と、同じく基部45から延びる第2圧着片47とを備えている。2つの第1圧着片46のそれぞれは、帯状をなし、基部45の2つの側縁45E1、45E2のうち一方の側縁45E1から延びている。2つの第1圧着片46は、互いに間隔を空けて配置されている。第2圧着片47は、帯状をなし、基部45の他方の側縁45E2から延びている。2つの第1圧着片46のそれぞれの先端部は、内側に向かって折り返されており、この折り返された部分は第1開き止め片46Aとなっている。第2圧着片47の先端部も、内側に向かって折り返されており、この折り返された部分は第2開き止め片47Aとなっている。
【0028】
バレル部44がケーブル10の端末部10Aに圧着されていない状態では、図3に示すように、第1圧着片46と第2圧着片47とが基部45から真っ直ぐに延びており、バレル部44が全体としてU字状をなしている。バレル部44がケーブル10の端末部10Aに圧着された状態では、図1および図4に示すように、バレル部44がケーブル10の端末部10Aに巻き付けられて、全体として略円筒状をなす。第2圧着片47は、2つの第1圧着片46の間に位置する。また、舌片34が、第1圧着片46および第2圧着片47と折り返し部12Aとの間に配され、第1開き止め片46Aと第2開き止め片47Aが舌片34の両側に配される。
【0029】
複数の突部51、52、53は、基部45からシース13に向かって延びる板片であって、ケーブル10がバレル部44から脱落することを規制する。突部51、52、53は、図3に示すように、基部45において、覆い部42および第2連結部43とは反対側の端縁から延びている。
【0030】
図3図4および図5に示すように、本実施形態では、第2シールド部材41は、6個の突部51、52、53を備えており、そのうち2個は、第1長突部51(長突部の一例)であり、他の2個は、第1短突部52(短突部の一例)であり、残りの2個は、第2長突部53(長突部の一例)である。図5に示すように、基部45から第1短突部52の先端までの長さで表される第1短突部52の突出長さL2は、基部45から第1長突部51の先端までの長さで表される第1長突部51の突出長さL1、および基部45から第2長突部53の先端までの長さで表される第2長突部53の突出長さL3よりも短くなっている。また、第1長突部51の突出長さL1は、第2長突部53の突出長さL3よりも長くなっている。
【0031】
突部51、52、53のうち最も長い2個の第1長突部51のうち一方は、第1圧着片46に最も近接して配されており、他方は、第2圧着片47に最も近接して配されている。2個の第1短突部52は、2個の第1長突部51の間に配されている。2個の第2長突部53は、2個の第1短突部52の間に、隣り合って配されている。
【0032】
図5に示すように、各第1長突部51は、第1面取り部51A(面取り部の一例)を有している。第1面取り部51Aは、第1長突部51の先端縁と、2つの側縁のうち第1短突部52に近い一方の側縁とで形成される角部が斜めに削られた形状を有する。各第2長突部53は、2つの第2面取り部53A(面取り部の一例)を有する。第2面取り部53Aのそれぞれは、第2長突部53の先端縁と、2つの側縁のそれぞれとで形成される2つの角部がそれぞれ斜めに削られた形状を有する。これらの面取り部51A、53Aの存在によって、バレル部44がケーブル10に圧着される際に、隣り合う突部51、52、53が互いに干渉することが回避される。本実施形態では、面取り部51A、53Aが、いずれも角部が45°に削られた形状を有している。
【0033】
バレル部44がケーブル10の端末部10Aに圧着された状態では、第1長突部51および第2長突部53の先端は、シース13にめり込んでいる。より具体的には、図4および図6に示すように、第1長突部51および第3長突部53の先端は、シース13の表面の一部を押圧して窪ませた状態となっている。また、第1短突部52の先端部は、シース13にめり込んでいない。第1短突部52は、図4および図6に示すように、スリーブ14の端縁に係止可能な長さを有しており、先端がシース13の表面に接触している。なお、電線11については、詳細な断面形状を図示せず、全体を模式的に示している。
【0034】
突部51、52、53は、ケーブル10に対して引っ張り力が加わっていない状態では、スリーブ14の端縁に接触していてもよく、接触していなくても構わないが、ケーブル10に対してバレル部44から脱落する方向(図6の上方向)に引っ張り力が加わった場合にはスリーブ14の端縁に係止可能となっている。
【0035】
上記のように、本実施形態では、突部51、52、53は、相対的に長く、シース13にめり込んでいる第1長突部51および第2長突部53と、相対的に短く、シース13にめり込んでいないがスリーブ14に係止可能な第1短突部52とを含んでいる。このような構成によれば、突部の全てがシース13にめり込んでいる場合、または、突部の全てがシース13にめり込んでいない場合と比較して、ケーブル10のバレル部44からの脱落を効果的に規制することができる。その理由は、以下のようであると考えられる。
【0036】
ケーブル10に対して、バレル部44から脱落する方向に引っ張り力が加えられた場合には、シース13が、シース13にめり込んでいる第1長突部51および第2長突部53の先端部を引っ張る。また、スリーブ14とシース13との間、およびスリーブ14と編組線12との間に働く摩擦力によって、シース13は、スリーブ14から脱落する方向に移動しようとする力に抵抗するが、大きな引っ張り力がケーブル10に対して加えられた場合には、スリーブ14がシース13とともにバレル部44から脱落する方向に移動しようとし、突部51、52、53を押圧する。
【0037】
ここで、突部51、52、53に対して垂直方向に力が加えられ、突部51、52、53が開き変形(図6の矢印方向に回転)しようとする際の力のモーメントMは、下記式(1)で表される。
【0038】
M=FR…(1)
【0039】
式(1)中、Rは、回転軸から力の作用点までの距離である。回転軸は、突部51、52、53のそれぞれと基部45との境界線であり、力の作用点は、突部51、52、53のそれぞれとスリーブ14との接触位置、または、突部51、52、53のそれぞれとシース13との接触位置である。また、Fは、突部51、52、53のそれぞれに加えられる力の大きさである。
【0040】
言い換えると、突部51、52、53が開き変形するために必要な力の大きさFは、回転軸から力の作用点までの距離Rに反比例する。
【0041】
突部51、52、53における回転軸からシース13との接触位置までの距離は、回転軸からスリーブ14との接触位置までの距離に対して相対的に長い。上記したように、突部51、52、53が開き変形するために必要な力の大きさFは、回転軸から力の作用点までの距離Rに反比例する。したがって、突部が相対的に長く、シース13にめり込んでいる場合には、突部は、より小さい力で開き変形しやすくなってしまう。これに対し、突部が相対的に短く、シース13にめり込んでいない場合には、突部を開き変形させるために、より大きな力が必要となる。しかし、突部へのシース13への引っ掛かりがない分、シース13の引っ張りによる応力は突部ではなくスリーブ14に作用する。これにより、スリーブ14に加えられる力は突部がシース13にめり込んでいる場合よりも大きくなってしまう。このため、スリーブ14とシース13との間、およびスリーブ14と編組線12との間に働く摩擦力がケーブル10に対する引っ張り力に抗しきれなくなり、スリーブ14のシース13からの脱落が生じやすくなる。
【0042】
このように、相対的に長く、シース13にめり込んでいる第1長突部51および第2長突部53と、相対的に短く、シース13にめり込んでいない第1短突部52とは、それぞれ、利点と欠点とを有する。しかし、第1長突部51、第2長突部53と第1短突部52とを併用すると、互いの欠点が補われ、相乗効果が発揮されて、より強い固着力が発揮され、ケーブル10のバレル部44からの脱落を効果的に規制することができると考えられる。
【0043】
また、上記したように、2個の第1長突部51のうち一方は、第1圧着片46に最も近接して配されており、他方は、第2圧着片47に最も近接して配されている。その理由は、以下のようである。
【0044】
バレル部44の圧着の際にスリーブ14が圧縮されて変形することにより、編組線12には周方向に余長が生じるが、生じた余長部分は、バレル部44の圧着工程において、ケーブル10に最後に巻き付く第1圧着片46および第2圧着片47の近傍に集まりやすい。このため、第1圧着片46および第2圧着片47の近傍では、バレル部44とスリーブ14との間隔に変動が生じやすい。また、本実施形態では、舌片34が、第1圧着片46および第2圧着片47と折り返し部12Aとの間に配される。この舌片34の存在によっても、第1圧着片46および第2圧着片47の近傍では、バレル部44とスリーブ14との間隔に変動が生じやすい。このため、第1圧着片46および第2圧着片47の近傍に、相対的に短く、シース13にめり込まない短突部を配置しようとする場合、短突部を、シース13にめり込まないが、スリーブ14を確実に係止可能な長さに調整することが難しい。第1圧着片46または第2圧着片47に最も近接して配される突部は、突部51、52、53のうち最も長く、シース13にめり込む第1長突部51であることが好ましい。
【0045】
複数の突部51、52、53は、図4に示すように、基部45の両側縁45E1、45E2間の中央位置を避けて配置されており、基部45の両側縁45E1、45E2間の中央位置と、バレル部44の中心位置とを通る線Lsを対称軸として、線対称となるように配置されている。これにより、力が特定の突部51、52、53に偏ってしまうことが抑制される。
【0046】
[ケーブル付きコネクタ1の組み立て工程]
本実施形態に係るケーブル付きコネクタ1の組み立て工程の一例について説明する。
【0047】
まず、ケーブル10の端末処理が行われる。ケーブル10の端末部10Aにおいて、シース13が皮剥ぎされることにより、電線11の端末部と編組線12の端末部とがシース13から露出される。編組線12が所定の長さに切断され、編組線12から電線11が露出される。次に、電線11の端末部において、所定の長さで絶縁被覆が皮剥ぎされることにより、芯線が絶縁被覆から露出される。次に、シース13の端末部にスリーブ14が外嵌される。編組線12においてシース13から露出した端末部が、折り返されることによりスリーブ14の外側に被せられて折り返し部12Aとなる。次に、端子金具が電線11の端末部に接続される。次に、端子金具およびケーブル10の端末部10Aにコネクタハウジング20が組み付けられる。
【0048】
次に、コネクタハウジング20に、シールド部材30が組み付けられる。まず、第1シールド部材31がコネクタハウジング20に組み付けられる。筒部32の内部にコネクタハウジング20が収容され、舌片34が、折り返し部12Aに外側から重ねられる。
【0049】
次に、第2シールド部材41が組み付けられる。2個の側板42Bが筒部32に沿って屈曲され、覆い部42が筒部32を覆う。バレル部44が、ケーブル10の端末部10Aと、この部分に重ねられた舌片34の外側から巻き付けられるようにして圧着される。このようにして、ケーブル付きコネクタ1の組み立てが完了する。
【0050】
[作用効果]
以上のように本実施形態によれば、ケーブル付きコネクタ1は、電線11と、電線11を包囲するシース13と、シース13の端末部を包囲するスリーブ14と、電線11とシース13との間に介在するとともに、シース13の端末部から露出してスリーブ14の外側に折り返された折り返し部12Aを有している編組線12と、を備えるケーブル10と、電線11に接続されたコネクタハウジング20と、コネクタハウジング20を覆う覆い部42と、ケーブル10において折り返し部12Aが配された端末部10Aに圧着されるバレル部44と、バレル部44からシース13に向かって延びる複数の突部51、52、53と、を備えるシールド部材30と、を備え、複数の突部51、52、53が、先端部がシース13にめり込んでいる第1長突部51および第2長突部53と、第1長突部51および第2長突部53よりも短く、先端部がシース13にめり込まないが、スリーブ14に係止可能な長さを有する第1短突部52と、を含む。
【0051】
上記の構成によれば、相対的に長く、シース13にめり込んでいる第1長突部51および第2長突部53と、相対的に短く、シース13にめり込んでいないがスリーブ14に係止可能な第1短突部52が併用される。これにより、突部の全てが相対的に長く、シース13にめり込んでいる場合、または、突部の全てが相対的に短く、シース13にめり込んでいない場合と比較して、強い固着力が得られ、ケーブル10のバレル部44からの脱落が効果的に規制される。
【0052】
また、バレル部44が、ケーブル10の端末部10Aに重ねられる基部45と、基部45から延びてケーブル10の端末部10Aに巻き付けられる第1圧着片46および第2圧着片47とを備え、2個の第1長突部51のうち一方が第1圧着片46に最も近接して配され、他方が第2圧着片47に最も近接して配されている。
【0053】
第1圧着片46および第2圧着片47の近傍では、バレル部44とスリーブ14との間隔に変動が生じやすい。このため、第1圧着片46および第2圧着片47の近傍に第1短突部52を配置しようとする場合、第1短突部52を、シース13にめり込まないが、スリーブ14を確実に係止可能な長さに調整することが難しい。このため、第1圧着片46または第2圧着片47に最も近接して配される突部は、相対的に長く、シース13にめり込む第1長突部51であることが好ましい。
【0054】
<変形例>
次に、変形例を、図7を参照しつつ説明する。変形例において、第2シールド部材60は、バレル部44の基部45から延びる4個の突部61、62を備えている。4個の突部61、62のうち2個は、第3長突部61(長突部の一例)であり、残りの2個は、第2短突部62(短突部の一例)である。2個の第3長突部61のうち一方は、第1圧着片46に最も近接して配されており、他方は、第2圧着片47に最も近接して配されている。2個の第2短突部62は、2個の第3長突部61の間に配されている。基部45から第2短突部62の突出端までの長さで表される第2短突部62の突出長さL4は、基部45から第3長突部61の突出端までの長さで表される第3長突部61の突出長さL5よりも短い。
【0055】
バレル部44がケーブル10の端末部10Aに圧着された状態では、第3長突部61の先端部は、上記実施形態の第1長突部51および第2長突部53と同様に、シース13にめり込んでいる。また、第2短突部62の先端部は、シース13にめり込まない。第2短突部62は、シース13の表面に接触していてもよく、接触していなくでも構わないが、スリーブ14の端縁に係止可能な長さを有している。
【0056】
その他の構成は、実施形態と同様であるため、同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
このように、突部61、62の数が相対的に少ない構成は、スリーブ14の摩擦力が相対的に大きい場合や、電線11の外径が小さい場合に好適である。
【0058】
<試験例1>
1.試験方法
1)試験例1-1
4個の突部全てがシースにめり込む長突部である点以外は上記変形例と同様の構成のケーブル付きコネクタを5本準備し、試験体とした。ケーブルの長さは100mmとした。
【0059】
各試験体について、シールド部材の先端部と、ケーブルの後端部とを引張試験機によって把持させ、引張試験に共した。引っ張り速度は50mm/minとした。各試験体について、ケーブルがシールド部材から脱落するまでに到達した最大荷重を測定し、ケーブルに対するシールド部材の固着力とした。
【0060】
2)試験例1-2
4個の突部のうち1個(図7の左上に位置する突部)が短突部であり、残り3個が長突部であること以外は上記試験例1-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。
【0061】
3)試験例1-3
4個の突部のうち2個(図7の左上および右上に位置する突部)が短突部であり、残り2個が長突部であること以外は上記試験例1-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。
【0062】
4)試験例1-4
4個の突部のうち3個(図7の左上、右上および右下に位置する突部)が短突部であり、残り1個が長突部であること以外は上記試験例1-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。
【0063】
5)試験例1-5
4個全てが短突部であること以外は上記試験例1-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。
【0064】
2.結果
各試験例について、固着力の平均値、最大値、最小値、最大値と平均値との差、および平均値と最小値との差を、表1および図8に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1および図8より、短突部が0個である場合には、固着力の平均値は89.8Nであった。また、固着力の最大値と平均値との差は6.3N、平均値と最小値との差は5.3Nであり、固着力のばらつきは比較的小さかった。短突部が1個である場合には、固着力の平均値は100.6Nであり、短突部が0個の場合よりも良好であった。固着力の最大値と平均値との差は8.7N、平均値と最小値との差は5.4Nであり、固着力のばらつきは、短突部が0である場合に比べてやや大きくなった。短突部が2個である場合には、固着力の平均値は113.5Nであり、短突部が1個の場合よりもさらに良好であった。また、固着力の最大値と平均値との差は3.6N、平均値と最小値との差は3.2Nであり、固着力のばらつきは、最も小さかった。短突部が3個である場合には、固着力の平均値は113.7Nであり、短突部が2個の場合と同程度であった。また、固着力の最大値と平均値との差は9.1N、平均値と最小値との差は11.4Nであり、固着力のばらつきは、短突部が0個、1個、または2個の場合と比べてかなり大きかった。全てが短突部である場合には、固着力の平均値は101.3であり、短突部が2個または3個の場合と比較して小さかった。また、固着力の最大値と平均値との差は11.6N、平均値と最小値との差は11.2Nであり、固着力のばらつきは、短突部が0個、1個または2個の場合と比べてかなり大きかった。
【0067】
短突部が2個以下の場合には、主として突部が開き変形することによりケーブルの脱落が生じており、短突部が3個以上の場合には、スリーブのシースからの脱落が生じていた。
【0068】
スリーブとシースとの間、およびスリーブと編組線との間に働く摩擦力が一定と考えると、固着力は突部が開き変形しようとする際の力のモーメントMに支配される。上記したように、突部が開き変形するために必要な力の大きさFは、回転軸から力の作用点までの距離Rに反比例するから、距離Rが小さく、開き変形がより生じにくい短突部が多いほど、固着力は大きくなると考えられる。一方、突部の強度が一定である場合と考えると、固着力は、スリーブとシースとの間、およびスリーブと編組線との間に働く摩擦力に支配される。シースにめり込んでいない短突部が多いほど、シース13の引っ張りによる応力はスリーブ14により大きく加わるため、スリーブのシースからの脱落が生じやすくなると考えられる。図8に示すように、短突部が2個以下(図8の一点鎖線よりも左側の領域)では、固着力は、主として突部の強度に支配され、短突部が3個以上(図8の一点鎖線よりも右側の領域)では、固着力は、主としてスリーブとシースとの間、およびスリーブと編組線との間に働く摩擦力に支配されていると考えられる。短突部が2個または3個である場合に、摩擦力と突部の強度との相乗効果が最も発揮され、より強い固着力を得ることができると考えられる。
【0069】
また、短突部が2個以下である場合、固着力は主として突部の強度に支配されるが、突部の強度のばらつきは製造公差等に起因しており、それほど大きくならないために、固着力のばらつきが比較的小さいと考えられる。これに対し、短突部が3個以上である場合、固着力は主としてスリーブのシース及び編組線との摩擦力に支配されるが、引っ張り力によって摩擦力が破壊されるタイミングや部位は安定しないため、固着力のばらつきが大きくなるものと考えられる。
【0070】
以上より、突部の総数が4個である場合には、短突部が2個である場合に、最も高い固着力が発揮され、かつ、固着力のばらつきが最も小さく、好ましいといえる。
【0071】
<試験例2>
1.試験方法
1)試験例2-1
6個の突部全てがシースにめり込む長突部であること以外は上記実施形態と同様の構成のケーブル付きコネクタを5本準備し、試験体とした。ケーブルの長さは100mmとした。各試験体について、上記試験例1と同様にして引張試験を行った。
【0072】
2)試験例2-2
6個の突部のうち2個が短突部であり、残り4個が長突部であること以外は試験例2-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。なお、2個の短突部の配置は、図4に示す第1短突部52と同様とした。
【0073】
)試験例2-3
6個の突部全てが短突部であること以外は試験例2-1と同様の試験体を準備し、引張試験に供した。
【0074】
2.結果
各試験例について、固着力の平均値、最大値、最小値、最大値と平均値との差、および平均値と最小値との差を、表2および図9に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2および図9より、短突部が0個である場合には、固着力の平均値は108.5Nであった。また、固着力の最大値と平均値との差は8.6N、平均値と最小値との差は9.3Nであった。短突部が2個である場合には、固着力の平均値は116.4Nであり、最も良好であった。また、固着力の最大値と平均値との差は9.5N、平均値と最小値との差は10.3Nであった。短突部が6個である場合には、固着力の平均値は105.5Nであった。また、固着力の最大値と平均値との差は8.7N、平均値と最小値との差は10.1Nであった。固着力のばらつきには大きな違いがみられなかったが、短突部が2個の場合には、固着力が最小でも106.1Nであり、100Nを超えていたのに対し、短突部が0および6個の場合には、固着力の最小値が100Nを下回った。このように、短突部が2個の場合に、固着力が最も高く、かつ、固着力の最小値が100Nを上回っていた。このように、突部の総数が6個である場合にも、短突部が2個の場合に最も良好な結果が得られた。
【0077】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、バレル部44がケーブル10の端末部10Aに圧着された状態では、第1長突部51の先端部がシース13の表面の一部を押圧して窪ませた状態となっていたが、本明細書によって開示される技術において、突部が「シースにめり込んでいる」とは、図10に示すように、第4長突部71(長突部の一例)の先端部がシース13の表面を突き破り、シース13に突き刺さった状態も含む。この場合、第4長突部71はシース13を貫通しないことが好ましい。長突部がシースを貫通すると、ケーブルに引っ張り力が加わった場合に、シースがちぎれてしまうことが懸念されるためである。
(2)突部の総数は上記実施形態では6個であり、変形例では4個であったが、突部の総数および長突部と短突部の数は、電線の本数やシースおよびスリーブの外径等に応じて任意に設定できる。
(3)上記実施形態では、第1長突部51が第1面取り部51Aを有し、第2長突部53が第2面取り部53Aを有していたが、例えば、隣り合う突部同士の間隔が広く、互いに干渉しあうおそれがない場合には、長突部が面取り部を有していなくても構わない。
(4)上記実施形態において、面取り部51A、53Aは角部が45°に削られた形状を有していたが、面取り部は、角部が丸く滑らかに削られた形状を有していても構わない。
(5)複数の突部は、互いに等間隔に並んでいてもよく、等間隔に並んでいなくても構わない。
【符号の説明】
【0078】
1:ケーブル付きコネクタ
10:ケーブル
10A:端末部
11:電線
12:編組線
12A:折り返し部
13:シース
14:スリーブ
20:コネクタハウジング
30:シールド部材
31:第1シールド部材
32:筒部
33:第1連結部
34:舌片
41:第2シールド部材
42:覆い部
42A:天板
42B:側板
43:第2連結部
44:バレル部
45:基部
45E1、45E2:側縁
46:第1圧着片
46A:第1開き止め片
47:第2圧着片
47A:第2開き止め片
51:第1長突部(突部、長突部)
51A:第1面取り部(面取り部)
52:第1短突部(突部、短突部)
53:第2長突部(突部、長突部)
53A:第2面取り部(面取り部)
60:第2シールド部材
61:第3長突部(突部、長突部)
62:第2短突部(突部、短突部)
71:第4長突部(突部、長突部)
L1:第1長突部の突出長さ
L2:第1短突部の突出長さ
L3:第2長突部の突出長さ
L4:第2短突部の突出長さ
L5:第3長突部の突出長さ
Ls:線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10