(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】無人搬送車の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240910BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G05D1/43
G05B11/36 G
(21)【出願番号】P 2021085171
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】米野 敬祐
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-021693(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な走行体に搭載された基台と、
前記基台上の四隅に各々設置されたアクチュエータであり、出力軸が前記
基台上における前記設置
された面に対して垂直方向に運動自在に構成された第1~第4のアクチュエータと、
前記第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部に対向して配設された被制御体と、
前記第1~第4のアクチュエータ駆動用のモータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、次の(1)式、(2)式、(3)式を用いて、前記被制御体の垂直推力指令および被制御体の傾斜指令からモードの位置指令値に変換する指令値生成部と、
【数1】
【数2】
【数3】
(ただし、x
1~x
4は被制御体における第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部の位置、X
1は被制御体の昇降に対応するモード変数でありX
1=(x
1+x
2+x
3+x
4)/4で定義され、X
2は被制御体の横方向(x軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX
2=(x
1-x
2+x
3-x
4)/4で定義され、横方向の傾斜S
xと比例関係X
2=(d
12/2)S
x(d
12は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第2のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ左右間隔)にあり、X
3は被制御体の進行方向(y軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX
3=(x
1+x
2-x
3-x
4)/4で定義され、進行方向の傾斜S
yと比例関係X
3=(d
13/2)S
y(d
13は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第3のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ前後間隔)にあり、X
4は被制御体のねじれに対応するモード変数であり、F
N
cmdは被制御体の垂直推力指令、S
x
cmdは被制御体の横方向の(x軸に関する)傾斜指令、S
y
cmdは被制御体の進行方向の(y軸に関する)傾斜指令、X
2
cmd~X
4
cmdはモードの位置指令値)、
前記指令値生成部により変換されたモードの位置指令と、第1~第4のアクチュエータに対して制御を行ったことによる各アクチュエータの駆動用のモータの角度を変数変換したモードの応答値とに基づいて、(4)式を用いてモードの加速度参照値を求めるモード制御器と、
【数4】
(ただしC
PMi(s)はi番目のモードの制御ゲイン、X
2
cmd~X
4
cmdはモードの位置指令値、X
2
res~X
4
resはモードの応答値、2階微分のマークを付したX
1
ref~X
4
refはモードの加速度参照値)
前記モード制御器により求められたモードの加速度参照値から(5)式、(6)式を用いてアクチュエータの推力を導出し、
【数5】
【数6】
(ただし、T
-1は変換行列の逆行列、2階微分マークを付したx
1
ref~x
4
refはアクチュエータの加速度参照値、M
aはアクチュエータ慣性、f
1
ref~f
4
refはアクチュエータの推力)
導出したアクチュエータの推力f
refに、推力とトルクの変換係数G
rを乗じて前記アクチュエータ駆動用のモータのトルク参照値τ
refを求める変数変換部と、を有し、
最大静止摩擦トルクとなる垂直推力指令によるリフタ上昇制御と、設定した垂直推力指令による垂直推力制御と、負方向の最大静止摩擦トルクとなる垂直推力指令によるリフタ下降制御と、を行うことを特徴とする無人搬送車の制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、出力軸推力対付加入力の変換関数によって前記第1~第4のアクチュエータの出力軸推力から付加入力に変換する出力軸推力-付加入力変換部と、前記変換された付加入力に最大静止摩擦入力を加算して垂直推力指令を出力する加算部とを有し、前記加算部の出力を、前記指令値生成部に入力する被制御体の垂直推力指令とし、
前記出力軸推力対付加入力の変換関数は、
垂直推力指令値をゼロから微小に上げていき前記アクチュエータが動き出すときの垂直推力指令値を最大静止摩擦入力として記録し、最大静止摩擦入力でアクチュエータを壁面に押し付けたときの反力を力センサで計測した値も記録する第1の同定プロセスと、
前記第1の同定プロセスで記録された最大静止摩擦入力に付加入力を加えたものを垂直推力指令値として、アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した出力軸計測値と、付加入力との関係を求める第2の同定プロセスとを実行し、
前記第2の同定プロセスで求められた出力軸推力計測値と付加入力の関係を、前記出力軸推力対付加入力の変換関数に変換して設定されていることを特徴とする請求項1に記載の無人搬送車の制御装置。
【請求項3】
絶対座標系における前記基台の傾斜を計測する計測手段を備え、
前記コントローラは、前記計測手段で計測された計測値と逆方向の値を、前記指令値生成部に入力される被制御体の傾斜指令とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の無人搬送車の制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記モード制御器から出力されるモードの加速度参照値および前記モードの応答値を入力とし、モード空間での加速度の推定外乱を求める外乱オブザーバと、前記外乱オブザーバの出力を前記モード制御器の出力に加算する加算器とを備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無人搬送車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば台車を下から持ち上げて搬送するリフトアップ式の無人搬送車(Automated Guided Vehicle;以下、AGVと称することもある)に係り、特に台車の車輪を接地させたまま搬送する接地搬送を可能にするリフタの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AGVの接地搬送に関する手法として、従来、次のような技術が挙げられる。特許文献1および特許文献2では、空気圧アクチュエータを用いた圧力制御により接地搬送を実現している。特許文献3では、電動アクチュエータの高さの制御により接地搬送を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6641994号公報(特願2015-255945)
【文献】特許第6848651号公報(特願2017-87864)
【文献】特開2020-77295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2では、空気圧アクチュエータを用いており、メンテナンスの頻度が高い、高精度制御が難しい、騒音といった問題点がある。特許文献3では電動アクチュエータを用いて高さの制御をしているが、斜面上では台車とリフタの接触面ですべりが生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、垂直推力制御と傾斜制御が同時に行える無人搬送車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に記載の無人搬送車の制御装置は、
移動可能な走行体に搭載された基台と、
前記基台上の四隅に各々設置されたアクチュエータであり、出力軸が前記基台上における前記設置された面に対して垂直方向に運動自在に構成された第1~第4のアクチュエータと、
前記第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部に対向して配設された被制御体と、
前記第1~第4のアクチュエータ駆動用のモータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、次の(1)式、(2)式、(3)式を用いて、前記被制御体の垂直推力指令および被制御体の傾斜指令からモードの位置指令値に変換する指令値生成部と、
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
(ただし、x1~x4は被制御体における第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部の位置、X1は被制御体の昇降に対応するモード変数でありX1=(x1+x2+x3+x4)/4で定義され、X2は被制御体の横方向(x軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX2=(x1-x2+x3-x4)/4で定義され、横方向の傾斜Sxと比例関係X2=(d12/2)Sx(d12は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第2のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ左右間隔)にあり、X3は被制御体の進行方向(y軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX3=(x1+x2-x3-x4)/4で定義され、進行方向の傾斜Syと比例関係X3=(d13/2)Sy(d13は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第3のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ前後間隔)にあり、X4は被制御体のねじれに対応するモード変数であり、FN
cmdは被制御体の垂直推力指令、Sx
cmdは被制御体の横方向の(x軸に関する)傾斜指令、Sy
cmdは被制御体の進行方向の(y軸に関する)傾斜指令、X2
cmd~X4
cmdはモードの位置指令値)、
前記指令値生成部により変換されたモードの位置指令と、第1~第4のアクチュエータに対して制御を行ったことによる各アクチュエータの駆動用のモータの角度を変数変換したモードの応答値とに基づいて、(4)式を用いてモードの加速度参照値を求めるモード制御器と、
【0011】
【0012】
(ただしCPMi(s)はi番目のモードの制御ゲイン、X2
cmd~X4
cmdはモードの位置指令値、X2
res~X4
resはモードの応答値、2階微分のマークを付したX1
ref~X4
refはモードの加速度参照値)
前記モード制御器により求められたモードの加速度参照値から(5)式、(6)式を用いてアクチュエータの推力を導出し、
【0013】
【0014】
【0015】
(ただし、T-1は変換行列の逆行列、2階微分マークを付したx1
ref~x4
refはアクチュエータの加速度参照値、Maはアクチュエータ慣性、f1
ref~f4
refはアクチュエータの推力)
導出したアクチュエータの推力frefに、推力とトルクの変換係数Grを乗じて前記アクチュエータ駆動用のモータのトルク参照値τrefを求める変数変換部と、を有し、
最大静止摩擦トルクとなる垂直推力指令によるリフタ上昇制御と、設定した垂直推力指令による垂直推力制御と、負方向の最大静止摩擦トルクとなる垂直推力指令によるリフタ下降制御と、を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1において、
前記コントローラは、出力軸推力対付加入力の変換関数によって前記第1~第4のアクチュエータの出力軸推力から付加入力に変換する出力軸推力-付加入力変換部と、前記変換された付加入力に最大静止摩擦入力を加算して垂直推力指令を出力する加算部とを有し、前記加算部の出力を、前記指令値生成部に入力する被制御体の垂直推力指令とし、
前記出力軸推力対付加入力の変換関数は、
垂直推力指令値をゼロから微小に上げていき前記アクチュエータが動き出すときの垂直推力指令値を最大静止摩擦入力として記録し、最大静止摩擦入力でアクチュエータを壁面に押し付けたときの反力を力センサで計測した値も記録する第1の同定プロセスと、
前記第1の同定プロセスで記録された最大静止摩擦入力に付加入力を加えたものを垂直推力指令値として、アクチュエータを壁面に押し付けた際の反力を力センサで計測した出力軸計測値と、付加入力との関係を求める第2の同定プロセスとを実行し、
前記第2の同定プロセスで求められた出力軸推力計測値と付加入力の関係を、前記出力軸推力対付加入力の変換関数に変換して設定されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1又は2において、
絶対座標系における前記基台の傾斜を計測する計測手段を備え、
前記コントローラは、前記計測手段で計測された計測値と逆方向の値を、前記指令値生成部に入力される被制御体の傾斜指令とすることを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載の無人搬送車の制御装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記コントローラは、前記モード制御器から出力されるモードの加速度参照値および前記モードの応答値を入力とし、モード空間での加速度の推定外乱を求める外乱オブザーバと、前記外乱オブザーバの出力を前記モード制御器の出力に加算する加算器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(1)請求項1~4に記載の発明によれば、被制御体の垂直推力制御と傾斜制御が同時に行えるので、被制御体が車輪付きの台車である場合、傾斜ゼロを補償した安全な接地搬送が可能となる。
【0020】
すなわち、従来は垂直推力制御、傾斜制御といった各機能に関する制御ゲインの比重を調整することは難しいものであったが、各機能のモードの変数に対して(4)式のように制御系を直接組んでいるため、各機能の性能を直接設計することができる。
【0021】
(2)請求項2に記載の発明によれば、静止時の垂直推力とモータのトルク参照値の関係を同定することができる。傾斜ゼロが補償されるため、前記出力軸推力対付加入力の変換関数を設定するための安全な同定試験(第1および第2の同定プロセス)が行える。そしてこの結果を用いて出力軸推力対付加入力の変換関数を設定しているので、力センサレスの推力制御を高い精度で実現することができる。
【0022】
(3)請求項3に記載の発明によれば、垂直推力制御と水平制御が同時に実現できる。このため、被制御体が車輪付きの台車である場合は、斜面上にて水平を維持した接地搬送が可能となる。
【0023】
(4)請求項4に記載の発明によれば、傾斜制御のロバスト化を達成できる。特に、外乱オブザーバの付加により定常偏差や外乱抑圧特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態例による装置の概要を示し、(a)は外観図、(b)は装置上面から俯瞰したアクチュエータの番号の説明図。
【
図2】本実施形態例による装置の、アクチュエータ出力軸と被制御体の接続例を示す説明図。
【
図4】本発明の実施例1におけるコントローラの構成図。
【
図6】本発明の実施例2における出力軸推力と付加入力の対応を表し、(a)は出力軸推力計測値と付加入力の関係を示す説明図、(b)は所望の出力軸推力と付加入力の関係を示す説明図、(c)は垂直推力指令生成のブロック図。
【
図8】本発明の実施例4におけるコントローラの構成図。
【
図9】モード空間外乱オブザーバの有無による傾斜制御の応答比較を表し、(a)はモード空間外乱オブザーバ無しの場合の応答特性図、(b)はモード空間外乱オブザーバ有りの場合の応答特性図。
【
図10】斜面上での各制御手法の応答の違いを表し、(a)は従来の制御の説明図、(b)は本発明の制御の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1に、本発明の実施例によるリフタ装置(以下4軸リフタと称することもある)の概要を示す。
図1(a)において、無人搬送車(AGV:移動可能な走行体)10には基台20が搭載され、固定され、基台20上の四隅には、サーボモータを備えた第1~第4のアクチュエータ31~34の各固定子が固定されている。
【0027】
第1~第4のアクチュエータ31~34の各出力軸は、それぞれの垂直方向
(図1に示す通り、基台20上における第1~第4のアクチュエータ31~34が設置されている面に対して垂直方向)の運動の自由度を有しており、この垂直方向の運動は、アクチュエータの出力軸(図示a)を垂直方向に移動させるサーボモータの作用によって行われる。
【0028】
第1~第4アクチュエータ31~34の各出力軸の先端部には、該先端部によって支持されるように、被制御体を構成する天板40が配設されている。本発明の被制御体は、天板40に限らず、天板40上に搭載される荷物、かご台車、車輪付き台車等を含めて被制御体としている。
【0029】
天板40における各アクチュエータの位置関係を
図1(b)に示す。図中Actuator1~4は第1~第4のアクチュエータ31~34の位置を示し、x軸をAGVの走行方向としている。
【0030】
尚、本実施形態例のアクチュエータ31~34は、一例としてボールねじ機構を採用した。
【0031】
アクチュエータ31~34のうち、第1のアクチュエータ31の出力軸31aと天板40の接続例を
図2に示す。
図2において、出力軸31aの先端部には球面座ナット51-1が取り付けられている。
【0032】
球面座ナット51-1と天板40の間には球面座受52-1が配設されている。
【0033】
球面座ナット51-1、球面座受52-1、球面座受52-1の配設位置に対向する天板40の部位には、全ねじ(ねじ)53-1の一端が挿通され、球面座ナット51-1、球面座受52-1、天板40を接続している。
【0034】
前記、球面座ナット51-1、球面座受52-1に代えて球面ジョイントを用いてもよい。
【0035】
図2の接続構成により、天板40が傾く場合でもアクチュエータの出力軸と天板40が接することができ、天板の傾斜を機構的に許容することができる。
【0036】
また、全ねじ53-1によって天板40が崩れ落ちないようになっており、また全ねじ53-1の他端には袋ナット54-1(天板離脱防止具)が被せられており、これによって天板40が全ねじ53-1から外れることは防止される。
【0037】
第2~第4のアクチュエータ32~34についても
図2と同様の接続構成となる。
【0038】
実施例1のシステム全体の構成を
図3に示す。
図3において
図1と同一部分は同一符号をもって示している。
図3の太線は機械的な接続を示す。下から、AGV10、基台20、アクチュエータ駆動用のモータ100、アクチュエータ31~34、天板40、荷物50が接続されている。
【0039】
荷物50は天板40上に搭載されるものであるが、本実施形態例では、車輪付きの台車を想定している。モータ100とはモータドライバとモータ自体を合わせたものであり、アクチュエータ(31~34)とはボールねじやギヤなどの伝動機構である。
【0040】
コントローラ60はモータ100にトルク参照値を与え、モータ回転角(モータの角度θres:アクチュエータ長さxに相当する)をフィードバックする。
【0041】
コントローラ60の構成(実施例1)を
図4に示す。
図4において61は指令値生成部であり、被制御体の垂直推力指令(F
N
cmd)および傾斜指令(S
x
cmd,S
y
cmd,0)を変数変換してモード(モード空間)の指令値X
cmdを算出する。
【0042】
62は、
図3のモータ100から入力されるモータの角度θ
resを変数変換してモードの応答値X
resを算出する変数変換部である。
【0043】
63はモードの指令値X
cmdとモードの応答値X
resを基にモードの加速度参照値X
ref(
図4中の表記は2階微分マーク付きのX
ref)を算出するモード制御器である。
【0044】
64は、モード制御器63で算出されたモードの加速度参照値X
refを、モータのトルク参照値τ
refに変換して
図3のモータ100への入力とする変数変換部である。
【0045】
【0046】
(モータの角度からモードの応答値への変数変換)
まず、モータの角度θからアクチュエータ長さxはx=(R/2π)θで求められる。Rはリードである。アクチュエータの長さのベクトルx=[x1,x2,x3,x4]から各機能のモード変数Xres=[X1,X2,X3,X4]への変換については、(1)式、(2)式で与えられる。
【0047】
【0048】
【0049】
ただし、アクチュエータ番号は
図1(b)の位置関係を想定している。X
1は昇降、X
2は横方向の傾斜、X
3は進行方向の傾斜、X
4は天板のねじれに対応する。
【0050】
(垂直推力・傾斜指令)
実施例1では傾斜指令はゼロとする。垂直推力指令は予め計算した一定値とする。接地搬送の際は例えば荷重の定数倍とし、リフタ昇降の際は例えば最大静止摩擦力(に微小力を加えたもの)とする。
【0051】
垂直推力の最大静止摩擦力は次のように求める。推力指令FN
cmdをゼロから徐々に上げていき、アクチュエータが動き出す推力指令を記録する。これを最大静止摩擦入力Fsfとする。
【0052】
(垂直推力・傾斜指令からモードの指令値への変数変換)
垂直推力・傾斜指令からモードの指令値は、垂直推力・傾斜とモードの関係から(3)式で表される。
【0053】
【0054】
ただし、d
12はアクチュエータ1と2の距離、d
13はアクチュエータ1と3の距離を表す(
図1(b)参照)。S
x
cmd,S
y
cmdは、x方向およびy方向の傾斜指令である。この実施例1では、S
x
cmd=S
y
cmd=0とする。
【0055】
(モード制御器)
モード空間の制御器については(4)式のように、モード1はFF型力制御、それ以外(モード2~4)は位置制御として参照値を算出する。
【0056】
【0057】
ただし、CPMi(s)はi番目のモードの制御ゲイン、Mmはモード空間での慣性を表す。
【0058】
ここで、前記(1)式~(4)式の各パラメータの定義をまとめて記載しておく。
【0059】
・x1~x4は被制御体における第1~第4のアクチュエータの各出力軸の先端部の位置。
【0060】
・X1は被制御体の昇降に対応するモード変数でありX1=(x1+x2+x3+x4)/4で定義される。
【0061】
・X2は被制御体の横方向(x軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX2=(x1-x2+x3-x4)/4で定義され、横方向の傾斜Sxと比例関係X2=(d12/2)Sx(d12は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第2のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ左右間隔)にある。
【0062】
・X3は被制御体の進行方向(y軸を回転軸とする回転方向)の傾斜に対応するモード変数でありX3=(x1+x2-x3-x4)/4で定義され、進行方向の傾斜Syと比例関係X3=(d13/2)Sy(d13は第1のアクチュエータの出力軸の先端部と第3のアクチュエータの出力軸の先端部の間の距離;アクチュエータ前後間隔)にある。
【0063】
・X4は被制御体のねじれに対応するモード変数である。
【0064】
・FN
cmdは被制御体の垂直推力指令、Sx
cmdは被制御体の横方向の(x軸に関する)傾斜指令、Sy
cmdは被制御体の進行方向の(y軸に関する)傾斜指令、X2
cmd~X4
cmdはモードの位置指令値である。
【0065】
・CPMi(s)はi番目のモードの制御ゲイン、X2
res~X4
resはモードの応答値、2階微分のマークを付したX1
ref~X4
refはモードの加速度参照値である。
【0066】
(モードの加速度参照値からモータのトルク参照値の変数変換)
(5)式のようにモードの加速度参照値に変換行列の逆行列T-1を掛け、アクチュエータの加速度参照値を算出する。
【0067】
【0068】
次に(6)式のように、アクチュエータの推力f1
ref~f4
refを、加速度参照値にアクチュエータ慣性Maを掛けて導出する。
【0069】
【0070】
最後に、アクチュエータ推力とトルクの変換をτref=Grfrefとして算出する。Grは推力とトルクの変換係数であり、カタログ値からGr=R/2πと求められる。尚、後述の実施例2では推力とトルクの関係を実験により同定する。
【0071】
接地搬送における一連の流れ「(1)リフタ上昇→(2)押し上げ制御→(3)リフタ下降」について、具体的には次を想定している。
【0072】
(1)リフタ上昇:最大静止摩擦(に微小力を加えたもの)となる垂直推力指令を入力し、リフタを上昇させ台車に接触させる。またはモード1(垂直推力指令)にも他のモードと同様に位置制御を実装し、ランプ指令などでリフトを上昇させてもよい。
【0073】
(2)押し上げ制御:垂直推力指令に押し上げ力として一定値(荷重の定数倍など)を入力する。垂直推力指令を変更後、接地搬送を行う。搬送終了後、(3)リフタ下降へ移る。
【0074】
(3)リフタ下降:負の方向の最大静止摩擦(に微小トルクを加えたもの)をモード1(垂直推力指令)に入力し、リフタを下降させる。(1)と同様、位置制御でリフタ下降させてもよい。
【0075】
本発明では(4)式のように各機能のモードの変数に対する制御器を直接組むため、各機能の制御性能を直接設計することができる。具体的には、モード1に垂直推力制御、モード2~4にゼロ位置制御を実装することで、所望の垂直推力とゼロ傾斜を同時に達成することができる。
【実施例2】
【0076】
高精度なセンサレス推力制御が必要な場合は、推力指令と実際の推力との間の関係を事前に同定する必要がある。この場合は同定の際に力センサが必要である。実施例2のシステム全体の構成を
図5に示す。
【0077】
図5において
図1、
図3と同一部分は同一符号をもって示している。実施例2では、コントローラ70はモータ100にトルク参照値を与え、モータ100からのモータ回転角と力センサ110からの反力をフィードバックする。反力を計測する力センサ110は各アクチュエータ31~34の先端に設置する。荷物50(例えば台車55)を持ち上げる際は、力センサ110で全重量を支えるようにする。
【0078】
推力指令と実際の推力との関係を事前に同定するプロセスは次のとおりである。
【0079】
(1)垂直推力指令FN
cmdをゼロから微小に上げていき、アクチュエータ(31~34)が動き出す垂直推力指令を最大静止摩擦入力Fsfとして記録し、この最大静止摩擦力で壁面を押し付けた際の反力計測値も記録する(第1の同定プロセス)。なおモータ回転角は、モータ100が動き出すタイミングを検出するために用いる。
【0080】
(2)前記最大静止摩擦入力F
sfに付加入力F
adを加えたものを垂直推力指令として、壁面(または十分に重いかご台車)をアクチュエータ(31~34)で押す。このときの、力センサ110で計測した反力計測値を記録し、
図6(a)のように出力軸推力計測値F
res
outと付加入力F
ad
inの関係性をプロットする(第2の同定プロセス)。
【0081】
図6(a)の関係は、その逆関数から、
図6(b)に示す所望の出力軸推力F
des
outに必要な付加入力F
ad
inの関係として導出することができる。
【0082】
そして前記のようにして求められた出力軸推力計測値と付加入力の関係を、出力軸推力対付加入力の変換関数とし、
図6(c)のブロックにより垂直推力指令を生成する。
【0083】
図6(c)の71は、前記出力軸推力対付加入力の変換関数によって、所望の出力軸推力F
des
outから付加入力F
ad
inに変換する出力軸推力-付加入力変換部である。
【0084】
72は、前記変換された付加入力Fad
inに前記最大静止摩擦入力Fsfを加算して垂直推力指令FN
cmdを出力する加算部である。
【0085】
図6(c)のブロックで生成された垂直推力指令F
N
cmdは
図4の指令値生成部61に入力されるものである。
【0086】
実施例2では実施例1に比べ、最大静止摩擦力を垂直推力指令とする場合の推力値、および実際の効率が同定できるため、より高精度な推力制御が可能となる。実施例1では直接F
des
out=F
N
cmdとして定めたが、実施例2では
図6(c)のブロックを通して垂直推力指令を生成している。事前に
図6(a)のように現実の出力軸推力と入力の対応を記録しておくことで、力センサレスでも高精度の推力制御を実現することができる。
【実施例3】
【0087】
実施例1では垂直推力制御とゼロ傾斜制御を同時に実現したが、実施例3では垂直推力制御と水平制御の同時実現を扱う。ゼロ傾斜制御ではAGV(10)の基台(20)からみた相対的な傾斜をゼロにする制御であるが、水平制御では絶対座標系における傾斜をゼロにする。そのため、基台の絶対空間における傾斜を計測する必要がある。例えばジャイロセンサで得られる角速度を積分して傾斜を求める際は、
図7のような構成になる。
【0088】
図7において
図3と同一部分は同一符号をもって示している。
図7において
図3と異なる点は、基台20に絶対座標系における基台の傾斜を計測する計測手段であるジャイロセンサ120を設け、ジャイロセンサ120で得られた角速度をコントローラ80にフィードバックしたことにあり、その他の部分は
図3と同一に構成されている。
【0089】
本実施例3におけるコントローラ80の構成は実施例1の
図4で可能だが、指令値の生成が異なる。ゼロ傾斜制御ではS
x
cmd=S
y
cmd=0であったが、水平制御では(7)式のように指令値を定める。
【0090】
【0091】
ただしSbx
resは基台のx方向の傾斜、Sby
resは基台のy方向の傾斜の計測値(または推定値)である。ジャイロセンサ120を用いる場合は、「傾斜の推定値=ジャイロセンサの角速度計測値を積分した値」とする。
【0092】
実施例3では垂直推力制御と水平制御の同時実現を扱うが、水平制御は絶対座標系における傾斜をゼロにする制御である。そのため(7)式のように、基台の傾斜と同じ分だけ逆方向に傾けることで、水平を実現する。基台と垂直方向に関しては推力制御を施しているため、台車の車輪は接地する形となる。
【0093】
実施例3の構成によれば、垂直推力制御と水平制御が同時に実現できるため、AGV10上の天板40に搭載した、車輪55a,55b付きの台車55を斜面92上で接地搬送している様子を示す
図10(b)のように、斜面上にて水平を維持した接地搬送が可能となる。
図10(a)は従来の推力・ゼロ傾斜制御による接地搬送を示しているが、台車55の水平は維持できない。
【実施例4】
【0094】
実施例1または実施例3の傾斜制御において、モード空間で外乱オブザーバを組むことでよりロバストな傾斜制御を実現することができる。ここでいう外乱オブザーバとは、位置と電流参照値を入力とし、規範モデルは単慣性系とする標準的な外乱オブザーバを想定している。
【0095】
モード空間に外乱オブザーバを適用した、実施例4におけるコントローラの構成を
図8に示す。
図8において
図4と同一部分は同一符号をもって示している。
図8(a)において
図4と異なる点は、モードの加速度参照値X
ref(
図8の表記では2階微分マーク付きのX
ref)およびモードの応答値X
resを入力とし、モード空間での加速度の推定外乱(X^
dis)を求める外乱オブザーバ65と、外乱オブザーバ65の出力を、モード制御器63の出力に加算する加算器66とを備えたことにあり、その他の部分は
図4と同一に構成されている。
【0096】
図8(b)は外乱オブザーバ65の構成を示し、モードの加速度参照値X
ref(
図8(b)の表記では2階微分マーク付きのX
ref)にモード空間での慣性M
mを乗じたものと、モードの応答値X
resにモード空間での慣性の係数を乗じたものとの偏差をローパスフィルタLPFに通した推定推力F^
disに、力-位置変換係数1/M
mを乗じて加速度の推定外乱X^
dis(
図8(b)の表記では2階微分マーク付きのX^
dis)を出力する。sはラプラス演算子である。
【0097】
図8のようにモード空間で外乱オブザーバを組むことで、よりロバストな傾斜制御を実現することができる。モード空間での補償器になるため、モード1の推力制御と干渉することなく制御を組むことができる。
【0098】
実施例4の外乱オブザーバ有りの場合と無しの場合で傾斜制御の実験を行った結果を
図9に示す。
図9の縦軸は角度を表し、L1は角度指令値を、L2は角度応答値を示している。
【0099】
この実験のモード1は推力制御ではなく位置制御による完全持ち上げをしているが、推力制御としても同様に実装が可能である。実験の流れとしては、水平面で静止→斜面進入→斜面で静止→斜面下り→水平面静止という順序で台車とAGV10を動かした。モード空間外乱オブザーバ(65)がない場合だと、
図9(a)のように30s後に角度応答値L2にオフセットが発生しているのがわかる。一方モード空間外乱オブザーバ(65)がある場合だと、
図9(b)のようにオフセットが減少しているのがわかる。
【符号の説明】
【0100】
10…AGV
20…基台
31~34…アクチュエータ
40…天板
50…荷物
55…台車
55a,55b…車輪
60,70,80…コントローラ
62,84…変数変換部
63…モード制御器
65…外乱オブザーバ
71…出力軸推力-付加入力変換部
72…加算部
100…モータ
110…力センサ
120…ジャイロセンサ