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  • 特許-動力伝達装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
F16H1/28
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021088177
(22)【出願日】2021-05-26
(65)【公開番号】P2022181302
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】林 皇希
(72)【発明者】
【氏名】初山 広明
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031210(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0180940(US,A1)
【文献】特開平06-100944(JP,A)
【文献】特開2005-048950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドグ歯と一体型のプラネタリキャリアプレートを形成するための熱間鍛造を行う第1の工程と、
プラネタリキャリアを形成するための焼結加工を行う第2の工程と、
前記第1の工程及び前記第2の工程後、焼結材を用いて製造された前記プラネタリキャリアの周縁部において周方向に配列された支柱部において、鍛造材を用いて鍛造成形された前記プラネタリキャリアプレートをロウ付けによって接合させ、前記プラネタリキャリアの、ピニオンギヤが位置する側において対向して前記プラネタリキャリアプレートを固定する第3の工程と、
前記ロウ付けによる接合後、前記プラネタリキャリアを前記プラネタリキャリアプレートと焼結する第4の工程と、
前記第4の工程後、前記プラネタリキャリアプレート及び前記プラネタリキャリアに前記ピニオンギヤを構成するピニオンシャフトを取り付けるためのピニオンシャフト穴の加工を行う第5の工程と、
前記第5の工程後、前記プラネタリキャリアプレートと一体にドグ歯を形成する第6の工程と、
前記第6の工程後、前記プラネタリキャリアプレートの前記ドグ歯において高周波焼入れを行う第7の工程と、
を備えた、動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の減速機等に用いられる動力伝達装置は、平歯車を組み合わせた減速装置に比べて少ない段数で大きな減速比を得ることができる遊星歯車が用いられる。遊星歯車は、一組の互いにかみ合う歯車において、二枚の歯車がそれぞれ回転すると同時に、一方の歯車が他方の歯車の軸を中心として公転するものである。
【0003】
特許文献1には、ドグ歯を備える変速機について、各部品を溶接することによって形成される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-059600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両に用いられる動力伝達装置は、複数の噛み合い式係合機構を搭載する場合がある。そのため、動力伝達装置は、搭載性を向上させるために軸長を短縮する必要がある。遊星歯車を備える動力伝達装置は、溶接される部品を備える場合、部品ごとに溶接長を確保する必要がある。そのため、部品全体として軸長が増大する可能性がある。遊星歯車を備える動力伝達装置は、軸長の増大を抑制するための技術的な改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するために、軸長をより短くし、搭載性を向上できる動力伝達装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる動力伝達装置は、ピニオンギヤを軸支するピニオンシャフトを支持し、前記ピニオンギヤを自転自在に支持するとともに、自身が回転することによって前記ピニオンギヤを公転させるプラネタリキャリアと、前記ピニオンギヤが位置する側において前記プラネタリキャリアと対向して固定され、ドグ歯が一体に形成されたプラネタリキャリアプレートと、を備える。
【0008】
本発明にかかる動力伝達装置の製造方法は、プラネタリキャリアの、ピニオンギヤが位置する側において対向してプラネタリキャリアプレート固定する工程と、前記プラネタリキャリアプレートを、ドグ歯と一体に形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、軸長をより短くし、搭載性を向上できる動力伝達装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における実施形態1にかかる動力伝達装置の構成を示した垂直断面図である。
図2】本発明における実施形態1にかかる動力伝達装置の構成を示した水平断面図である。
図3】本発明における実施形態1にかかる動力伝達装置を製造する工程のフローを示した図である。
図4】関連する動力伝達装置の構成を示した垂直断面図である。
図5】関連する動力伝達装置を製造する工程のフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として実施の形態の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む。)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0012】
<実施形態にかかる動力伝達装置に想到するまでの検討経緯>
関連する動力伝達装置1について、図4を用いて説明する。図4は、関連する動力伝達装置1の構成を示した垂直断面図である。図4に示すように、関連する動力伝達装置1は、プラネタリキャリアプレート10、プラネタリキャリア11、ピニオンギヤ12及び回転部材15を備える。
【0013】
プラネタリキャリアプレート10は、ピニオンシャフト穴14が設けられる。プラネタリキャリア11は、周縁部には、複数の支柱部11aが周方向に配列されている。また、プラネタリキャリア11は、ピニオンシャフト穴14が設けられる。プラネタリキャリア11は、回転軸cを中心に回転する。プラネタリキャリア11は、ピニオンギヤ12を軸支するピニオンシャフト13bを支持し、ピニオンギヤ12を自転自在に支持するとともに、自身が回転することによってピニオンギヤ12を公転させる。
【0014】
ピニオンギヤ12は、スプライン13a及びピニオンシャフト13bを備える。スプライン13aは、ピニオンシャフト13bに取り付けられる。ピニオンシャフト13bは、プラネタリキャリア11のピニオンシャフト穴14及びプラネタリキャリアプレート10のピニオンシャフト穴14それぞれに嵌合される。回転部材15は、ドグ歯15a、15bを備える。
【0015】
次に、関連する動力伝達装置1の製造工程を、図5を用いて説明する。図5は、関連する動力伝達装置を製造する工程のフローを示した図である。
【0016】
まず、回転部材15を所定の形状とするために熱間鍛造を行う(ステップ201)。次に、回転部材15を回転させ切削する旋盤を行い(ステップ202)、表面から炭素を浸入及び拡散させ、焼入れすることによって耐摩耗の高い特性を与える浸炭焼入を行う(ステップ203)。回転部材15は、浸炭後の後処理である浸炭層除去によって、表面層と内部の間に応力が生じ、割れに対する抵抗性を与えられる(ステップ204)。プラネタリキャリアプレート10も、同様に所定の形状とするために熱間鍛造を行い(ステップ205)、旋盤を行う(ステップ206)。
【0017】
プラネタリキャリア11は、熱間鍛造を行い(ステップ207)、旋盤を行う(ステップ208)。その後、プラネタリキャリア11は、旋盤されたプラネタリキャリアプレート10を溶接部16aにおいて溶接し(ステップ209)、ピニオンギヤ12を構成するピニオンシャフト13bを取り付けるための穴を加工するピニオンシャフト穴14の加工を行う(ステップ210)。さらに、プラネタリキャリアプレート10は、浸炭層除去を行った回転部材15を溶接部16bにおいて溶接し(ステップ211)、溶接による歪を除去する処理を行う(ステップ212)。
【0018】
上述のとおり、関連する動力伝達装置1においては、プラネタリキャリアプレート10、プラネタリキャリア11及び回転部材15の3つの部品を、溶接部16a、16bにおいて溶接することによって形成される。そのため、溶接される部品を備える場合、部品ごとに溶接長を確保する必要がある。溶接長は、図4に示すb+cの長さに相当する。
【0019】
また、回転部材15は、プラネタリキャリアプレート10に溶接される。プラネタリキャリアプレート10は、強度を確保するために浸炭可能な材料を用いて浸炭させるため、表面から一定の深さの浸炭層が形成される。しかしながら、各部品を溶接するために、浸炭層を除去しなければならない。溶接が不十分となることを避けるためである。浸炭層を除去する工程において、浸炭層が高強度であることから相当の手間がかかる。
【0020】
さらに、回転部材15において、ドグ歯15a、15bを形成する際に、ドグ歯15a、15bの強度を担保するためにドグ歯15a、15bを高周波焼入又は浸炭焼入れを実施する必要がある。このとき、浸炭焼入れの硬度は、高硬度であることが求められる。このとき、硬度は例えばビッカース硬さ(Vickers hardness:Hv)では600以上であることが多い。
【0021】
そして上述のとおり、プラネタリキャリアプレート10にはピニオンシャフト穴14を設ける。ピニオンシャフト穴14は、μm単位の高精度な仕上げ加工が必要となるため、ピニオンシャフトの硬度であるHvを例えば250程度以下に抑える必要がある。ピニオンシャフト穴14を設けるプラネタリキャリアプレート10は、同様にピニオンシャフト穴14を設けるプラネタリキャリア11に比べて高硬度である。そのため、それぞれのピニオンシャフト穴14を加工するにあたって、高度な技術が必要となる。
【0022】
そこで、そのような問題を解決することが可能な、以下の実施の形態にかかる動力伝達装置1が見いだされた。
【0023】
<実施形態1>
本実施形態における動力伝達装置1について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施形態における動力伝達装置1の構成を示した垂直断面図である。図2は、本実施形態における動力伝達装置1の構成を示した水平断面図である。図1に示すように、動力伝達装置1は、プラネタリキャリアプレート10、プラネタリキャリア11及びピニオンギヤ12を備える。
【0024】
プラネタリキャリアプレート10は、ドグ歯10a、10bを備え、ピニオンシャフト穴14が設けられる。プラネタリキャリアプレート10は、ピニオンギヤ12が位置する側において、プラネタリキャリア11と対向して固定される。より具体的には、プラネタリキャリアプレート10は、プラネタリキャリア11の支柱部11aに当接するとともに、プラネタリキャリア11とピニオンシャフト13bの軸を介して設けられてもよい。本実施形態におけるプラネタリキャリアプレート10は、関連する関連する動力伝達装置1と異なり、回転部材を一体に構成させることによって、ドグ歯10a、10bを一体に形成する。
【0025】
プラネタリキャリア11は、周縁部には、複数の支柱部11aが周方向に配列されている。また、プラネタリキャリア11は、ピニオンシャフト穴14が設けられる。プラネタリキャリア11は、回転軸cを中心に回転する。プラネタリキャリア11は、ピニオンギヤ12を軸支するピニオンシャフト13bを支持し、ピニオンギヤ12を自転自在に支持するとともに、自身が回転することによってピニオンギヤ12を公転させる。
【0026】
ピニオンギヤ12は、スプライン13a及びピニオンシャフト13bを備える。スプライン13aは、ピニオンシャフト13bに取り付けられる。ピニオンシャフト13bは、プラネタリキャリア11のピニオンシャフト穴14及びプラネタリキャリアプレート10のピニオンシャフト穴14それぞれに嵌合される。
【0027】
ピニオンギヤ12は、動力伝達装置1の回転軸cと同軸に設けられた、図示しないサンギヤの外周を囲む図示しないリングギヤに噛み合う構成としてもよい。プラネタリキャリア11は、サンギヤに対して同心円上に配置された複数のピニオンギヤ12を回転可能に支持する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態におけるプラネタリキャリアプレート10は、関連する動力伝達装置1のプラネタリキャリアプレート10及び回転部材15が一体となった形状である。そのため、本実施形態におけるプラネタリキャリアプレート10は、回転軸cに垂直な方向であって、回転内周側に延材するプレート部分を有する。プラネタリキャリアプレート10は、プレートに相当する構造を有しつつ、プラネタリキャリア11との一体性を確保するために、当該プレート部分のロウ付け接合部11bにおいてプラネタリキャリア11とロウ付けによって接合する。プラネタリキャリアプレート10は鍛造材を用いて鍛造成形される鍛造成形品である。鍛造材は、例えばS45C等の材料が用いられるがこれに限らず、高周波焼入が可能な材料を用いることができる。
【0029】
そのため、動力伝達装置1は、プラネタリキャリアプレート10及びプラネタリキャリア11の2つの部品を、プラネタリキャリア11の支柱部11aのロウ付け接合部11bにおいてロウ付けによる接合を行うことによって形成することができる。
【0030】
本実施形態における動力伝達装置1の製造工程を、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態における動力伝達装置1を製造する工程のフローを示した図である。
【0031】
まず、プラネタリキャリアプレート10とドグ歯10a、10bとを一体型とした所定の形状とするために、プラネタリキャリアプレート10の熱間鍛造を行い(ステップ101)、旋盤を行う(ステップ102)。
【0032】
プラネタリキャリア11は、粉末状である焼結材を所定の形状にする焼結ソフト加工を行う(ステップ103)。プラネタリキャリア11は、旋盤したプラネタリキャリアプレート10をロウ付け接合部11bにおいてロウ付けによる接合を行う(ステップ104)。その後、プラネタリキャリア11は、プラネタリキャリアプレート10と焼結し(ステップ105)、ピニオンギヤ12を構成するピニオンシャフト13bを取り付けるための穴を加工するピニオンシャフト穴14の加工を行う(ステップ106)。さらに、プラネタリキャリアは、ドグ歯10a、10bを形成し(ステップ107)、形成したドグ歯10a、10bを、硬度を保つために高周波を用いて局所焼入を行う(ステップ108)。焼入れの硬度Hvは600以上であってもよいが、これに限らず、材料や構造に応じた硬度であればよい。
【0033】
上述のように、本実施形態における動力伝達装置1は、プラネタリキャリア11に焼結材を用いて製造する。また、プラネタリキャリアプレート10は鍛造材を用いて鍛造成形する。鍛造材は、例えばS45C等の材料が用いられるがこれに限らず、高周波焼入が可能な材料を用いることができる。さらに、プラネタリキャリアプレート10とプラネタリキャリア11とをロウ付け接合部11bにおいてロウ付けによる接合を行う。
【0034】
また、鍛造材であるプラネタリキャリアプレート10は、所定範囲Rにおいて高周波焼入れする。所定範囲Rとは、ドグ歯10a、10bの周囲であって所定の強度が必要な範囲をいう。なお、所定範囲Rは、図1に示す範囲の全てを指すものではなく、その一部であってもよいし、当該範囲外であってもよい。したがって、ピニオンシャフト穴14の穴径をμm単位の高精度な加工を比較的容易に行うことができる。また、プラネタリキャリアプレート10は、浸炭層がなく、レーザ光等による溶接も行わないため浸炭層の除去といった手間のかかる工程が不要となる。
【0035】
さらに、動力伝達装置1は、構造上必要な部品点数が減り、各部品を固定する手法として溶接に代えてロウ付けによる接合を行う。そのため、部品ごとの溶接長は、図4に示す関連する動力伝達装置1と比べて、図4におけるb+cに相当する長さの軸長を短縮することができる。
【0036】
本実施形態における動力伝達装置1によれば、軸長をより短くし、搭載性を向上することができる。
【0037】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 動力伝達装置
10 プラネタリキャリアプレート
10a、10b ドグ歯
11 プラネタリキャリア
11a 支柱部
11b ロウ付け接合部
12 ピニオンギヤ
13a スプライン
13b ピニオンシャフト
14 ピニオンシャフト穴
図1
図2
図3
図4
図5