(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電力供給装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240910BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240910BHJP
B62D 5/04 20060101ALN20240910BHJP
B62D 6/00 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P29/024
B62D5/04
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2021095704
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 博和
(72)【発明者】
【氏名】株根 秀樹
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169405(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176316(WO,A1)
【文献】特開2018-042403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 29/024
B62D 5/04
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の電源(150、151、152)と負荷(80)との間に設けられ、前記電源の電力を用いて協働して前記負荷に電力を供給可能であり、前記電源の負極に接続されるグランド線(Lg1、Lg2)が系統毎に独立して構成された複数系統の電力供給回路(201、202)と、
各系統の前記グランド線に流れる電流であるグランド電流を検出する複数のグランド電流検出器(261、262)と、
各系統の前記電力供給回路の動作を制御する制御部(401、402)と、
を備え、
前記制御部は、前記グランド電流に基づいて前記グランド線の異常を診断するグランド線診断部(451、452)を有し
、
前記グランド線診断部は、前記グランド電流及び前記グランド線の配線抵抗に基づき、前記グランド線の通電で消費される電力であるグランド電力を算出し、複数系統のうちから選択された二系統の前記グランド電力の比に基づいて異常を診断し、
前記制御部は、前記グランド線診断部により少なくとも一つの系統の前記グランド線が異常と判定されたとき、異常と判定された系統の前記電力供給回路の動作を変更する電力供給装置。
【請求項2】
前記グランド線診断部は、前記グランド電力が所定の許容電力を上回ったとき、異常であると判定する請求項
1に記載の電力供給装置。
【請求項3】
前記グランド線診断部は、前記グランド線の異常診断を実施しつつ、前記グランド線の配線抵抗を学習する請求項
1または
2に記載の電力供給装置。
【請求項4】
前記制御部は、少なくとも一つの系統の前記グランド線が異常と判定されたとき、異常と判定された系統の前記電力供給回路の動作を停止するか、又は、電流を制限する請求項1
~3のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【請求項5】
前記グランド線診断部は、系統毎に設けられており、
各系統の前記グランド線診断部は、前記グランド線の異常診断に関する情報を系統間通信により相互に通信する請求項1~
4のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【請求項6】
複数系統の前記電力供給回路は、共通の前記電源(150)に接続されている請求項1~
5のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【請求項7】
各系統の前記電力供給回路は、系統毎に対応する前記電源(151、152)に接続されている請求項1~
5のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【請求項8】
各系統の前記グランド線は、グランド端子(Tg1、Tg2)を介して前記電源に接続可能であり、
複数系統の前記グランド端子は、共通のコネクタ(30)の間口に設けられている請求項1~
7のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【請求項9】
各系統の前記グランド線は、グランド端子(Tg1、Tg2)を介して前記電源に接続可能であり、
各系統の前記グランド端子は、系統毎に対応するコネクタ(31、32)の間口に設けられている請求項1~
7のいずれか一項に記載の電力供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源回路におけるグランド線の接続不良を検出する装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された装置は、車両のステアリングシステムにおいて、第1の電源(1)の第1グランド線(10)の接続不良を検出する。この装置は、電流(IGND1)を測定するための抵抗(R3)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第102016102248号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、グランド線が接続されているか、又は断線しているかを判別するものに過ぎない。例えば、負荷に電力を供給する電力供給回路を複数系統備える装置において、少なくとも一つの系統のグランド線が異常の場合にどうするかということについて何ら言及されていない。また、特許文献1の装置では、系統間での配線抵抗のばらつきや電流検出タイミングのずれに関しても考慮されていない。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、少なくとも一つの系統のグランド線の異常時に異常時処置を実施可能な電力供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電力供給装置は、複数系統の電力供給回路(201、202)と、複数のグランド電流検出器(261、262)と、(401、402)と、を備える。複数系統の電力供給回路は、一つ以上の電源(150、151、152)と負荷(80)との間に設けられ、電源の電力を用いて協働して負荷に電力を供給可能である。複数系統の電力供給回路から電源の負極に接続されるグランド線(Lg1、Lg2)は、系統毎に独立して構成されている。
【0008】
複数のグランド電流検出器は、各系統のグランド線に流れる電流であるグランド電流を検出する。制御部は、各系統の電力供給回路の動作を制御する。
【0009】
制御部は、グランド電流に基づいてグランド線の異常を診断するグランド線診断部(451、452)を有する。グランド線診断部は、グランド電流及びグランド線の配線抵抗に基づき、グランド線の通電で消費される電力であるグランド電力を算出し、複数系統のうちから選択された二系統のグランド電力の比に基づいて異常を診断する。制御部は、グランド線診断部により少なくとも一つの系統のグランド線が異常と判定されたとき、異常と判定された系統の電力供給回路の動作を変更する。
【0010】
例えば制御部は、少なくとも一つの系統のグランド線が異常と判定されたとき、異常と判定された系統の電力供給回路の動作を停止するか、又は、電流を制限する。
【0011】
本発明の電力供給装置は、少なくとも一つの系統のグランド線の異常時に異常時処置を実施することにより、例えば他の系統が正常である場合、負荷への電力供給を適切に継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態の電力供給装置が操舵アシストモータの駆動装置として適用される電動パワーステアリングシステムの構成図。
【
図2】第1、第2実施形態の電力供給装置の構成図。
【
図3】第3、第4実施形態の電力供給装置の構成図。
【
図4】(a)第1、第3実施形態、(b)第2、第4実施形態の電力供給装置における、グランド端子が設けられたコネクタの構成図。
【
図6】(a)第1系統、(b)第2系統の異常診断マップ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による電力供給装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2~
図4に示す第1~第4実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の電力供給装置は、車両の電動パワーステアリングシステムにおいて操舵アシストモータの駆動装置として適用される。
【0014】
[電動パワーステアリングシステムの構成]
図1を参照し、電動パワーステアリングシステム99の概略構成を説明する。
図1にはコラムアシスト式の電動パワーステアリングシステムを図示するが、本実施形態の電力供給装置100は、ラックアシスト式の電動パワーステアリングシステムにも同様に適用可能である。
【0015】
ハンドル91にはステアリングシャフト92が接続されている。ステアリングシャフト92の先端に設けられたピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が設けられる。運転者がハンドル91を回転させると、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によりラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の変位量に応じた角度に一対の車輪98が操舵される。
【0016】
ステアリングシャフト92の途中に設けられた操舵トルクセンサ93は、運転者の操舵トルクを検出する。
図1に示す構成例では二系統の操舵トルクtrq1、trq2の検出値が冗長的に出力されるが、一つの操舵トルク検出値が二系統に共用されてもよい。
【0017】
操舵アシストモータとして機能するモータ80は、電力供給装置100の「負荷」に相当する。本実施形態のモータ80は、二組の巻線組を有する二重巻線式の三相ブラシレスモータである。電力供給装置100は、二組の巻線組に電力を供給する二系統の電力供給回路201、202、及び、電力供給回路201、202の動作を制御する制御部401、402を備える。以下、第1系統の構成要素の符号や物理量の記号の末尾に「1」を付し、第2系統の構成要素の符号や物理量の記号の末尾に「2」を付して記す。
【0018】
電力供給装置100は、操舵トルクtrq1、trq2に基づいて、モータ80が所望のアシストトルクを発生するようにモータ80の駆動を制御する。モータ80が出力したアシストトルクは、減速ギア94を介してステアリングシャフト92に伝達される。
【0019】
[電力供給装置の構成]
図2~
図4を参照し、第1~第4実施形態の構成について説明する。各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1~第4実施形態は、二通りの電源構成と二通りのコネクタ構成とが組み合わされてなる。
図2に示す電源構成を第1、第2実施形態とし、
図3に示す電源構成を第3、第4実施形態とする。各電源構成において、
図4(a)のコネクタ構成と組み合わされる形態を第1、第3実施形態とし、
図4(b)のコネクタ構成と組み合わされる形態を第2、第4実施形態とする。
【0020】
(第1、第2実施形態)
図2を参照し、第1、第2実施形態について説明する。電力供給装置100は、二系統の電力供給回路201、202、グランド電流検出器261、262、制御部401、402等を備える。
図2において電源150、モータ80及び回転角センサ851、852を除く部分が電力供給装置100に相当する。電力供給装置100、モータ80及び回転角センサ851、852は、一体型の「機電一体式モータ」として構成されてもよい。
【0021】
また、一点鎖線の枠で示す範囲のうち制御部401及びグランド電流検出器261を除く部分が第1系統の電力供給回路201である。二点鎖線の枠で示す範囲のうち制御部402及びグランド電流検出器262を除く部分が第2系統の電力供給回路202である。第1、第2実施形態では、各系統の電力供給回路201、202は、共通の電源150に接続されている。電源150は、車両に搭載されたバッテリである。
【0022】
電力供給回路201、202は、電源150と「負荷」としてのモータ80との間に設けられ、電源150の電力を用いて協働してモータ80に電力を供給可能である。電力供給回路201、202は、電源150の直流電力をインバータ601、602で三相交流電力に変換してモータ80の各巻線組に供給する。
【0023】
電力供給回路201、202から電源150の正極に接続される電源線Lp1、Lp2、及び、電源150の負極に接続されるグランド線Lg1、Lg2は、系統毎に独立して構成されている。二系統の電源線Lp1、Lp2が系統毎に独立して構成されるのは通常であるが、各系統のグランド側は共通のアースに接地される構成もあり得る。本実施形態では、系統毎に独立したグランド線Lg1、Lg2が存在することがポイントとなる。
【0024】
各系統の電源線Lp1、Lp2は、電源端子Tp1、Tp2を介して電源150の正極に接続されている。各系統のグランド線Lg1、Lg2は、グランド端子Tg1、Tg2を介して電源150の負極に接続されている。本実施形態ではグランド線Lg1、Lg2に着目し、電源線Lp1、Lp2についてはそれ以上言及しない。
【0025】
グランド線Lg1、Lg2は、電源150からグランド端子Tg1、Tg2までのケーブルの部分、ケーブルとグランド端子Tg1、Tg2との接続部分、及び、例えば基板のパターンで形成される回路内の配線部分を含む。それらのトータルをグランド線Lg1、Lg2の配線抵抗Rw1、Rw2と定義し、配線長の大部分を占めるケーブル部分にイメージとして抵抗記号を記す。
【0026】
二系統の電力供給回路201、202の構成は実質的に同一であるため、代表として第1系統の電力供給回路201について説明する。第2系統の電力供給回路202については、第1系統の電力供給回路201の説明における構成要素の符号や物理量の記号の末尾を「1」から「2」に読み替えて解釈される。
【0027】
電力供給回路201は、インバータ601を主として、ノイズフィルタを構成するコイル271及びコンデンサ281、電源リレー531及び逆接続保護リレー541、平滑コンデンサ551、シャント抵抗等の相電流検出器701を含む。インバータ601は、三相の上下アームのスイッチング素子がブリッジ接続されている。この構成は、電動パワーステアリングシステムのモータ駆動装置における周知技術であるため、詳細な説明を省略する。なお、インバータ601とモータ80との間にモータリレーが設けられてもよい。
【0028】
グランド電流検出器261は、第1系統のグランド線Lg1に流れる電流であるグランド電流Ig1を検出する。グランド電流検出器261は、電流検出抵抗の両端電圧を電流に換算することにより電流を検出する。
図2では、インバータ601の相電流検出器701と同様、模式的なブロックで図示する。
【0029】
制御部401は、第1系統の電力供給回路201の動作を制御する。制御部401は、マイコンやカスタムICで構成される。制御部401は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備え、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0030】
制御部401に入力される信号を破線矢印で示し、制御部401が出力する信号を実線矢印で示す。システムの起動時、例えばイニシャルチェックで回路素子やセンサ等の正常が確認されると、制御部401は、電源リレー531及び逆接続保護リレー541をオンする。モータ80の駆動時、制御部401は、相電流検出器701が検出した相電流Iuvw1、及び、回転角センサ851が検出した回転角θ1を取得する。制御部401は、操舵トルクtrq1に応じたアシストトルクをモータ80に出力させるように、相電流Iuvw1及び回転角θ1に基づく電流フィードバック制御により電圧指令を演算し、インバータ601へ駆動信号を出力する。
【0031】
特に本実施形態の制御部401は、グランド電流に基づいてグランド線の異常を診断するグランド線診断部451を有する。ここで、二系統の制御部401、402において、その制御部が含まれる系統を「自系統」といい、他の制御部が含まれる系統を「他系統」という。第1系統のグランド線診断部451は、自系統(すなわち第1系統)のグランド電流Ig1及び他系統(すなわち第2系統)のグランド電流Ig2をいずれも取得する。
【0032】
第1系統のグランド線診断部451は、二系統のグランド電流Ig1、Ig2に基づいて、少なくとも自系統のグランド線Lg1の異常を診断する。グランド線Lg1、Lg2の異常には、ケーブルの断線やグランド端子Tg1、Tg2の接触不良等が含まれる。異常診断の詳細については、
図5、
図6を参照して後述する。
【0033】
グランド線診断部451、452は、系統毎に設けられている。第1系統のグランド線診断部451と第2系統のグランド線診断部452とは、グランド線Lg1、Lg2の異常診断に関する情報を系統間通信により相互に通信する。例えば制御部401、402がマイコンで構成される場合、いわゆるマイコン間通信が系統間通信に相当する。
【0034】
制御部401、402は、グランド線診断部451、452により少なくとも一つの系統のグランド線が異常と判定されたとき、異常と判定された系統の電力供給回路の動作を変更する。すなわち、制御部401、402は「異常時処置」を実施する。異常時処置の詳細については、
図5を参照して後述する。
【0035】
第1、第2実施形態では各系統の電力供給回路201、202は、共通の電源150に接続されているため、二系統のグランド線Lg1、Lg2に印加される電源電圧のばらつきが生じない。また、電源150から電力供給装置100までのケーブル長もほぼ同等になり、配線抵抗Rw1、Rw2のばらつきが抑制される。
【0036】
(第3、第4実施形態)
図3を参照し、第3、第4実施形態について説明する。第3、第4実施形態では、各系統の電力供給回路201、202は、系統毎に対応する電源151、152に接続されている。電源151、152の負極は、共通のアースである車両のシャーシに接続され、同電位となっている。
【0037】
二つの電源151、152は、容量や出力が同等の電源が冗長的に設けられることが好ましい。また、各電源151、152から電力供給装置100までのケーブル長も同程度であり、配線抵抗Rw1、Rw2が同程度であることが好ましい。ただし、配線抵抗Rw1、Rw2が系統毎に異なっていても、本実施形態では、後述のように電流を電力に換算することで、配線抵抗のばらつきを考慮した異常診断が可能である。
【0038】
第3、第4実施形態では電源151、152が冗長的に設けられるため、一方の電源が失陥した場合にも、他方の電源により電力供給装置100の動作を継続可能である。したがって、システムの信頼性が向上する。
【0039】
(コネクタの構成例)
次に
図4(a)、(b)を参照し、電力供給回路201、202の電源端子Tp1、Tp2及びグランド端子Tg1、Tg2が設けられるコネクタの構成例について説明する。本実施形態の電力供給装置100は、車両に搭載された共通電源150又は系統別電源151、152に接続された電源ケーブルと、コネクタを介して脱着可能に接続される。
【0040】
図2、
図3に示すように、各系統のグランド線Lg1、Lg2は、グランド端子Tg1、Tg2を介して共通電源150又は系統別電源151、152に接続可能である。なお、各系統の電源線Lp1、Lp2も同様に電源端子Tp1、Tp2を介して電源に接続可能であるが、ここでは電源端子Tp1、Tp2についての言及を省略する。
【0041】
図4(a)に示す構成例では、二系統のグランド端子Tg1、Tg2は、共通のコネクタ30の間口に設けられている。
図2に示す共通電源150と共通コネクタ30との組み合わせが第1実施形態であり、
図3に示す系統別電源151、152と共通コネクタ30との組み合わせが第3実施形態である。第1、第3実施形態では、コネクタ30の脱着を一度に行うことができるため、取付作業性が向上する。
【0042】
図4(b)に示す構成例では、各系統のグランド端子Tg1、Tg2は、系統毎に対応するコネクタ31、32の間口に設けられている。
図2に示す共通電源150と系統別コネクタ31、32との組み合わせが第2実施形態であり、
図3に示す系統別電源151、152と系統別コネクタ31、32との組み合わせが第4実施形態である。第2、第4実施形態では、コネクタ31、32を小型にし、また、一系統仕様の他の装置のコネクタと共用することができる。
【0043】
[グランド線異常診断]
図5のフローチャ-ト、及び
図6(a)、(b)の異常診断マップを参照し、本実施形態によるグランド線異常診断について説明する。フローチャート中の記号「S」はステップを意味する。この異常診断は、例えばシステム起動後のイニシャルチェック時に実施される。或いは、システム稼働中の常時、もしくは定期的なタイミングで、もしくは別のチェックで異常の疑いがあると判定された時に実施されてもよい。
【0044】
S1では、イニシャルチェックであるか、又は診断条件を充足しているか判断される。診断条件の一例として、異常診断マップにおいて正しく判定可能な最小電力Pj_minが各系統のグランド線Lg1、Lg2で消費され得る状況であることが必要である。インバータ601、602に指令される出力がそもそも最低レベルに達しない場合等には診断条件を充足していないと見なされ、S1でNOと判断される。S1でYESの場合、S2に移行する。
【0045】
S2でグランド線診断部451、452は、第1系統及び第2系統のグランド電流Ig1、Ig2を取得する。つまり、各系統のグランド線診断部は、自系統及び他系統の電流情報を取得する。S3でグランド線診断部451、452は、グランド電流Ig1、Ig2及び配線抵抗Rw1、Rw2に基づき、グランド電力Pg1、Pg2を算出する。グランド電力Pg1、Pg2は、グランド線Lg1、Lg2の通電で消費される電力であり、式(1.1)、(1.2)により算出される。配線抵抗Rw1、Rw2は、製造時の初期値が固定値として用いられてもよいし、後述のように学習した値が用いられてもよい。
【0046】
Pg1=Rw1×Ig12 ・・・(1.1)
Pg2=Rw2×Ig22 ・・・(1.2)
【0047】
S4では、第1系統と第2系統とのグランド電力Pg1、Pg2の比が算出される。詳しくは、各系統のグランド線診断部451、452は、自系統のグランド電力を他系統のグランド電力で除することによりグランド電力比ρ1、ρ2を算出する。第1系統のグランド線診断部451は、
図6(a)の縦軸のグランド電力比ρ1を式(2.1)により算出する。第2系統のグランド線診断部452は、
図6(b)の縦軸のグランド電力比ρ2を式(2.2)により算出する。
【0048】
ρ1=Pg1/Pg2 ・・・(2.1)
ρ2=Pg2/Pg1 ・・・(2.2)
【0049】
S5でグランド線診断部451、452は、異常診断マップにより異常診断を行う。
図6(a)に第1系統の異常診断マップを示し、
図6(b)に第2系統の異常診断マップを示す。異常診断マップには、閾値を表す境界線により正常範囲が区画されている。値が正常範囲の外にある場合、グランド線診断部451、452はグランド線Lg1、Lg2が異常であると判定する。以下、代表として
図6(a)について説明する。
図6(b)についても同様である。
【0050】
第1系統の異常診断マップの横軸はグランド電力Pg1であり、縦軸はグランド電力比ρ1である。横軸の最小側の電力閾値は、判定可能な最小電力Pj_minである。横軸の最大側の電力閾値は許容電力最大値Pa_maxである。許容電力最大値Pa_maxは、例えば電力供給回路201を構成するスイッチング素子の定格等に基づいて設定される。グランド線診断部451は、グランド電力Pg1が「所定の許容電力」である最大値Pa_maxを上回ったとき、異常であると判定する。
【0051】
次に縦軸のグランド電力比ρ1に関し、二系統のグランド線Lg1、Lg2が正常であり、回路の動作特性にばらつきがなければグランド電力比ρ1は理想的に1になる。それに対し、許容電力最大値Pa_maxでのグランド電力比ρ1を例えば2分の1から2倍まで許容するものとして異常閾値が設定される。
【0052】
異常閾値は、グランド電力Pg1が小さいとき1に近く、グランド電力Pg1が大きくなるほど1から離れる。つまり、グランド電力Pg1が大きくなるほど正常範囲が広くなるように設定される。なお、マップの異常閾値は直線に限らず曲線で設定されてもよい。また、各系統の電力供給回路201、202が系統別電源151、152に接続される第3、第4実施形態では、対応する電源の電源電圧に応じて異常閾値が設定されてもよい。
【0053】
フローチャートに戻り、S5でグランド線診断部451、452は、上述のように二系統のグランド電力比ρ1、ρ2に基づいてグランド線Lg1、Lg2の異常を診断する。このとき、グランド線診断部451、452は、グランド線Lg1、Lg2の異常診断を実施しつつ、演算データに基づき、グランド線Lg1、Lg2の配線抵抗Rw1、Rw2を学習してもよい。これにより、製造後の配線抵抗Rw1、Rw2の経時変化に対応して異常診断の精度を向上させることができる。
【0054】
また、グランド線診断部451、452が診断結果を系統間通信して比較することで、検出機能が冗長化される。したがって、電流検出タイミングにずれがあっても、適宜補正を行うこと等により、正しい異常判定をすることができる。
【0055】
S6では、異常診断の結果が正常であるか判断される。S6でYESの場合、ルーチンを終了する。S6でNO、すなわち異常が有る場合、制御部401、402は異常時処置を実施する。例えば第1系統のグランド線Lg1が異常と判定され、第2系統は正常であるとする。
【0056】
S7で第1系統の制御部401は、異常と判定された第1系統の電力供給回路201の動作を変更する。具体的には、制御部401は、第1系統の電力供給回路201の動作を停止するか、又は、電流を制限する。例えば通電が可能なレベルの異常の場合、インバータ601に通電する電流を制限し、第1系統の出力を制限しつつ動作を継続してもよい。電力供給回路201の動作を停止する場合、インバータ601の全素子をオフすることに加え、電源リレー531及び逆接続保護リレー541をオフしてもよい。逆接続保護リレー541をオフすることで、モータ80側からの逆入力を遮断することができる。
【0057】
第1系統の電力供給回路201の動作が停止された場合、モータ80の要求出力を維持しようとすると、第2系統の電力供給回路202に対し正常時の二系統分の出力を一系統で負担することが要求される。それにより第2系統の出力が過剰となることを防ぐため、S8で第2系統の制御部402は、正常系統の使用電力を制限する。例えば制御部402は、第2系統の電力供給回路202の使用電力が許容電力最大値Pa_max以下となるように、或いは、二系統正常時の使用電力の半分以下となるように制限する。
【0058】
(効果)
以上のように本実施形態の電力供給装置100は、少なくとも一つの系統のグランド線の異常時に異常時処置を実施することにより、例えば他の系統が正常である場合、モータ80への電力供給を適切に継続することができる。
【0059】
グランド線診断部451、452は、グランド電流Ig1、Ig2及びグランド線Lg1、Lg2の配線抵抗Rw1、Rw2に基づき、グランド電力Pg1、Pg2を算出し、二系統のグランド電力Pg1、Pg2の比ρ1、ρ2に基づいて異常を診断する。配線抵抗Rw1、Rw2の情報が反映されたグランド電力Pg1、Pg2を用いることで、配線抵抗Rw1、Rw2のばらつきを考慮した適切な異常診断が可能となる。
【0060】
グランド線診断部451、452は、グランド電力Pg1、Pg2が所定の許容電力Pa_maxを上回ったとき、異常であると判定する。これにより、グランド線Lg1、Lg2で過大な電力が消費されることによる過熱等の不具合を回避することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
(a)三系統以上の複数系統の電力供給回路を備えた電力供給装置において、複数系統のグランド線の異常が診断されてもよい。その場合、複数系統のうちから選択された二系統のグランド電力の比に基づいて異常が診断され、その結果を組み合わせて各系統のグランド線の異常を判定可能である。また、例えば三系統の場合、三系統のうち二系統が共通電源に接続され、他の一系統が個別電源に接続される混合型の電源構成が採用されてもよい。コネクタ構成についても同様である。
【0062】
(b)グランド線診断部を含む制御部は、系統毎に独立して設けられて相互に通信する構成に限らず、複数系統に共通の回路で構成されてもよい。その場合、一つの回路内で、各系統の情報が共用されるようにしてもよい。
【0063】
(c)電力供給回路は、電源の直流電力から変換した交流電力を交流モータ等の負荷に供給するインバータを含むものに限らない。例えば、電源の直流電力から変換した直流電力を直流モータ等の負荷に供給するHブリッジ回路を含むものであってもよい。或いは、入力電圧に対する出力電圧を変更する昇降圧コンバータを含むものであってもよい。
【0064】
(d)電源は、バッテリに限らず、キャパシタや燃料電池で構成されてもよい。また、直流電源の電力に代えて、交流電源の出力が整流された電力が電力供給装置100に入力されてもよい。
【0065】
(e)電力供給装置100の電源端子Tp1、Tp2及びグランド端子Tg1、Tg2が電源ケーブルとコネクタで脱着可能に接続される構成に限らない。電力供給装置100の筐体から引き出されたケーブルが外部の専用電源に直接接続されてもよい。
【0066】
(f)特開2020-18087号公報(対応US公報:US2020/0036269A1)に開示されているように、二系統のグランド線Lg1、Lg2の間にコンデンサが接続されてもよい。
【0067】
(g)本発明の電力供給装置は、電動パワーステアリングシステムに限らず、複数系統の電力供給回路が電源の電力を用いて協働して負荷に電力を供給するどのようなシステムにも適用可能である。
【0068】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0069】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
100・・・電力供給装置、
150、151、152・・・電源、
201、202・・・電力供給回路、
261、262・・・グランド電流検出器、
401、402・・・制御部、
451、452・・・グランド線診断部、
80 ・・・モータ(負荷)。