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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20240910BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20240910BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240910BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
F16D66/00 Z
B60W30/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021107792
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005696
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
(72)【発明者】
【氏名】田村 美侑
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-73534(JP,A)
【文献】特開2011-11590(JP,A)
【文献】特開2007-196705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
F16D 49/00-71/04
B60W 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生させる動力源と、車輪と一体に回転する回転体に摩擦材を押圧する押圧力に応じて当該車輪に制動力を付与するものであり、前記車輪のうち前輪および後輪に対して付与する制動力を各別に調整することができる摩擦制動装置と、を有する車両に適用される制御装置であって、
前記摩擦制動装置を制御する制動制御部と、
前記押圧力の大きさに対する前記制動力の大きさの関係を表す係数である効力係数を推定する推定部と、を備え、
前記制動制御部は、前記駆動力が増大されている場合に、前記前輪および前記後輪の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させる微小制動制御を開始することができ、
前記推定部は、前記微小制動制御の実行中に、前記動力源への要求値に基づく発生駆動力と前記車両に実際に作用する実駆動力との偏差と、前記微小制動制御によって制動力が付与されている車輪に対応する前記押圧力と、に基づいて、前記微小制動制御によって制動力が付与されている車輪についての前記効力係数を推定する
制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記微小制動制御では、前記前輪および前記後輪のいずれか一方の車輪に対して制動力を発生させる
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制動制御部は、前記微小制動制御では、前記前輪に付与する制動力および前記後輪に付与する制動力の和である総制動力に占める前記前輪に付与する制動力の比率を示す前後配分比に基づいて、前記前輪および前記後輪の両方の車輪に対して制動力を発生させる
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制動制御部は、前記微小制動制御を開始すると制動力を付与する付与処理を行い、該付与処理の終了後に制動力を「0」まで減少させる解消処理を行って当該微小制動制御を終了し、
前記推定部は、前記効力係数を算出する際には、制動力が増大している期間における前記発生駆動力と前記実駆動力との偏差を用いる
請求項1~3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制動制御部は、前記付与処理では、前記摩擦制動装置の制御に用いる要求制動力として、前記発生駆動力と釣り合う制動力よりも小さい値を算出する
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制動制御部は、前記付与処理では、前記発生駆動力に応じて前記要求制動力を算出するものであり、前記発生駆動力が規定のしきい値以下である範囲では、前記発生駆動力が大きいほど前記要求制動力を大きく算出する
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制動制御部は、前記微小制動制御では、前記付与処理を開始してから規定時間が経過した場合に、前記付与処理を終了して前記解消処理を開始する
請求項4~6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記制動制御部は、前記微小制動制御の実行中に前記駆動力が減少に転じた場合には、前記付与処理を開始してから前記規定時間が経過していなくても、前記付与処理を終了して前記解消処理を開始する
請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記推定部は、前記微小制動制御の実行中に前記車両が旋回を始めた場合には、前記車両が旋回している期間における前記発生駆動力と前記実駆動力との偏差と、前記押圧力と、を前記効力係数の算出に用いない
請求項1~8のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦制動装置を備える車両に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキペダルが踏まれた場合に、ホイールシリンダ圧に対しての実際の制動力の大きさを示す関係を、ブレーキの効き度合いとして推定する制動制御装置が開示されている。具体的には、ブレーキを作動させて、前後加速度センサからの検出信号に基づく前後加速度から算出する実減速度と、ホイールシリンダ圧から算出する推定減速度と、の偏差に基づいてブレーキの効き度合いを推定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-196705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の車輪のうち前輪と後輪とでは、車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押圧する押圧力の大きさと車輪に付与される制動力の大きさとの関係が異なる場合がある。特許文献1に開示されている制動制御装置では、ブレーキの効き度合いとして一律に推定がなされており、前輪と後輪との差異が考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制御装置は、駆動力を発生させる動力源と、車輪と一体に回転する回転体に摩擦材を押圧する押圧力に応じて当該車輪に制動力を付与するものであり、前記車輪のうち前輪および後輪に対して付与する制動力を各別に調整することができる摩擦制動装置と、を有する車両に適用される制御装置であって、前記摩擦制動装置を制御する制動制御部と、前記押圧力の大きさに対する前記制動力の大きさの関係を表す係数である効力係数を推定する推定部と、を備え、前記制動制御部は、前記駆動力が増大されている場合に、前記前輪および前記後輪の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させる微小制動制御を開始することができ、前記推定部は、前記微小制動制御の実行中に、前記動力源への要求値に基づく発生駆動力と前記車両に実際に作用する実駆動力との偏差と、前記微小制動制御によって制動力が付与されている車輪に対応する前記押圧力と、に基づいて、前記微小制動制御によって制動力が付与されている車輪についての前記効力係数を推定することをその要旨とする。
【0006】
上記構成では、効力係数を推定するために制動力を付与する制御として微小制動制御を実行する。微小制動制御では、前輪および後輪の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させる。そして、制動力が付与されている車輪に対応する押圧力を効力係数の推定に用いるようにしている。これによって、前輪についての効力係数と、後輪についての効力係数とを判別して推定することができる。
【0007】
さらに、微小制動制御は、駆動力が増大されている場合に開始される。微小制動制御を駆動力が増大されている場合に行うようにしていることで、前輪および後輪の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させたとしても、車両の搭乗者に違和感を与えたり、車両がピッチング運動をしたりといった制動力の発生による影響を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の制御装置の一実施形態と、同制御装置を備える車両と、を示す模式図である。
図2図2は、駆動力の増大中に制動力を付与した場合の制動液圧と駆動力の推移との関係を例示するタイミングチャートである。
図3図3は、制動液圧と効力係数と駆動力の減少量との関係を示す図である。
図4図4は、同制御装置が微小制動制御を実行する際の処理の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、微小制動制御の実行時における、要求制動力を算出するためのマップを示す図である。
図6図6は、同制御装置が効力係数の推定を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、効力係数推定部を示すブロック図である。
図8図8は、同制御装置が実行する微小制動制御による制動力の推移を示すタイミングチャートである。
図9図9は、変更例の制御装置が実行する微小制動制御による制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、制御装置の一実施形態について、図1図8を参照して説明する。
図1は、動力源91と摩擦制動装置70と制御装置10とを備える車両90を示す。制御装置10は、摩擦制動装置70を制御対象とする。摩擦制動装置70は、車両90に摩擦制動力を発生させることができる。
【0010】
図1には、車両90が備える車輪のうち前輪81の一つと、車両90が備える車輪のうち後輪82の一つと、を示している。
車両90は、制動操作部材79を備えている。制動操作部材79は、車両90の運転者による操作が可能である。制動操作部材79の一例は、ブレーキペダルである。
【0011】
車両90は、車両90を自動走行させるための指令値を算出する自動運転制御装置30を備えていてもよい。自動運転制御装置30は、制御装置10との間で情報を送受信することができる。
【0012】
〈動力源〉
車両90が備える動力源91の一例は、電動モータである。動力源91は、電動モータに限らず、内燃機関でもよい。また、電動モータと内燃機関とが動力源91として採用されていてもよい。その他、動力源91としては、車両90の各車輪におけるホイールに電動モータを取り付けたインホイールモータでもよい。
【0013】
〈摩擦制動装置〉
摩擦制動装置70について説明する。摩擦制動装置70は、車両90の各車輪に対応した制動機構73F,73Rを備えている。図1には、前輪81に対応した制動機構73Fと、後輪82に対応した制動機構73Rとを例示している。
【0014】
摩擦制動装置70の一例は、液圧制動装置である。液圧制動装置としての摩擦制動装置70は、液圧発生装置71と、液圧発生装置71からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ72と、を備えている。液圧発生装置71には、制動操作部材79が連結されている。液圧発生装置71は、車両90の運転者による制動操作部材79の操作量である制動操作量に応じた液圧を発生させることができる。液圧発生装置71は、自動運転制御装置30が算出した指令値に基づいて液圧を発生させることもできる。
【0015】
制動機構73F,73Rにおけるそれぞれの構成要素は共通であるため、共通の符号を付して説明する。制動機構73F,73Rは、ホイールシリンダ74と、車輪と一体回転する回転体76と、回転体76に対して押し付けることができる摩擦材75と、によって構成されている。制動機構73F,73Rの一例は、ディスクブレーキである。制動機構73F,73Rは、ドラムブレーキであってもよい。
【0016】
制動アクチュエータ72は、各ホイールシリンダ74に接続されている。たとえば、制動操作部材79が操作されると、その操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ74に供給される。液圧制動装置では、制動機構73F,73Rが備えるホイールシリンダ74内の液圧であるWC圧に応じて摩擦制動力を発生させることができる。制動機構73F,73Rは、WC圧が高いほど、車輪と一体回転する回転体76に対して摩擦材75を押し付ける力が大きくなるように構成されている。各制動機構73F,73Rは、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪に付与することができる。WC圧は、回転体76に摩擦材75を押し付ける押圧力を示す値の一例である。
【0017】
制動アクチュエータ72は、各車輪に付与する制動力の大きさがそれぞれ異なるように各ホイールシリンダ74の液圧を個別に変更することができる。前輪81に対応して設けられている制動機構73Fによって前輪81に付与される制動力の合計を前輪制動力という。後輪82に対応して設けられている制動機構73Rによって後輪82に付与される制動力の合計を後輪制動力という。
【0018】
〈センサ〉
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの一例として、液圧センサ61、前後加速度センサ62および車輪速センサ63を示している。各種センサからの検出信号は、制御装置10に入力される。
【0019】
液圧センサ61は、摩擦制動装置70における摩擦材75が回転体76に押し付けられる押圧力を検出するセンサである。一例として、液圧センサ61は、各ホイールシリンダ74のWC圧を制動液圧Pとして検出することができる。この場合には液圧センサ61は、各ホイールシリンダ74に対応して取り付けられている。なお、制動液圧Pとして検出する値は、押圧力に対応する圧力であればWC圧に限らない。
【0020】
前後加速度センサ62は、車両90の前後方向における加速度を検出するセンサである。
車輪速センサ63は、車輪速度を検出するセンサである。車輪速センサ63は、各車輪のそれぞれに設けられている。車輪速度に基づいて車速を算出することができる。
【0021】
〈制御装置〉
制御装置10について説明する。制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。図1には、機能部の一例として、駆動制御部11、制動制御部12、取得部13、摩擦材温度推定部14、記憶部15、および効力係数推定部20を示している。効力係数推定部20は、効力係数Kを推定する推定部に対応する。制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0022】
車両90は、制御装置10に限らず、他の制御装置を備えていてもよい。また、制御装置10が備える機能部の一部は、他の制御装置が備えていてもよい。
なお、制御装置10、自動運転制御装置30、および他の制御装置は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路である。
【0023】
駆動制御部11について説明する。駆動制御部11は、動力源91を制御することができる。駆動制御部11は、動力源91を作動させて駆動力を駆動輪に伝達させることができる。たとえば、駆動制御部11は、車両90の運転者によるアクセル操作部材の操作に応じた動力源91への要求値を算出して、要求値に基づいて動力源91から駆動力を伝達させることができる。また、たとえば、駆動制御部11は、自動運転制御装置30が算出した指令値に基づいて、動力源91から駆動力を伝達させることもできる。駆動制御部11は、動力源91への要求値に基づいて、動力源91が出力する駆動力として発生駆動力Fpを算出することができる。たとえば、動力源91として搭載されている電動モータの仕事量に基づいて、発生駆動力Fpを算出することができる。
【0024】
制動制御部12について説明する。制動制御部12は、摩擦制動装置70を制御することができる。制動制御部12は、摩擦制動装置70を作動させて制動力を発生させることができる。
【0025】
制動制御部12の機能の一例を説明する。
制動制御部12は、車両90に対して付与する制動力の要求値として、要求制動力BPを算出することができる。たとえば、制動操作部材79の操作量に基づいて要求制動力BPを算出することができる。また、たとえば、自動運転制御装置30が算出した指令値に基づいて要求制動力BPを取得することもできる。
【0026】
制動制御部12は、要求制動力BPのうち前輪81に付与する制動力が占める比率を示す値として、前後配分比aを算出することができる。前後配分比aは、前輪81に付与する制動力および後輪82に付与する制動力の和である総制動力に占める前輪81に付与する制動力の比率を示す。制動制御部12は、要求制動力BPと、前後配分比aとに基づいて、前輪制動力の要求値と、後輪制動力の要求値と、を算出することができる。以下では、前輪制動力の要求値のことを要求前輪制動力BPfという。また、後輪制動力の要求値のことを要求後輪制動力BPrという。たとえば、前後配分比aが「1」であれば、要求前輪制動力BPfが要求制動力BPに等しくなる。また、たとえば、前後配分比aが「0」であれば、要求後輪制動力BPrが要求制動力BPに等しくなる。
【0027】
制動制御部12は、変換係数Kbを用いて制動力の要求値と押圧力の目標値とを相互に変換することができる。変換係数Kbは、押圧力の大きさに対する制動力の大きさの関係を表す係数である。たとえば、要求前輪制動力BPfを前輪81に対するWC圧の目標値に変換できる。同様に、要求後輪制動力BPrを後輪82に対するWC圧の目標値に変換できる。制動制御部12は、発生する押圧力が目標値に追従するように摩擦制動装置70を作動させる。制動制御部12は、車両90の諸元、および実験データ等に基づいて予め算出された値を変換係数Kbの初期値として記憶している。
【0028】
制動制御部12は、微小制動制御を実行することができる。詳細は後述するが、微小制動制御は、効力係数推定部20による係数推定処理を実行するために、前輪81および後輪82の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させる制御である。
【0029】
取得部13について説明する。取得部13は、各種センサからの検出信号に基づいて、車両90の状態量を算出することができる。たとえば、取得部13は、液圧センサ61からの検出信号に基づいて、制動液圧Pを算出することができる。取得部13は、前後加速度センサ62からの検出信号に基づいて、前後加速度Gxを算出することができる。取得部13は、車輪速センサ63からの検出信号に基づいて、車輪速度を算出することができる。
【0030】
取得部13は、車両90の重さとして車両重量Mを算出することができる。車両重量Mは、車両90自体の重さに加えて搭乗者および積荷の重さを考慮したものである。車両重量Mは、たとえば、発生駆動力Fpと、当該発生駆動力Fpが車両90に作用したときの前後加速度Gxと、を用いて算出することができる。車両重量Mの算出方法は、特に限定されるものではなく、最小二乗法によって算出してもよいし、複数回算出した値の算術平均を車両重量Mとしてもよい。
【0031】
摩擦材温度推定部14は、摩擦材75の温度を推定することができる。摩擦材75の温度は、たとえば、温度増加量と温度減少量との積算によって推定することができる。温度増加量は、たとえば、車両90の制動時における車輪速度の減少速度、およびWC圧から算出することができる。温度減少量は、たとえば、摩擦材75が回転体76に接触していない時間に基づいて算出することができる。
【0032】
記憶部15について説明する。記憶部15は、各種センサから取得した検出値を記憶することができる。また、記憶部15は、各機能部が算出した算出値を記憶することもできる。
【0033】
効力係数推定部20について説明する。効力係数推定部20は、効力係数Kを推定する係数推定処理を実行することができる。効力係数Kは、押圧力の大きさに対する制動力の大きさの関係を表す係数である。効力係数推定部20は、微小制動制御の実行中に、係数推定処理を実行する。係数推定処理では、発生駆動力Fpと車両90に実際に作用する実駆動力Fxとの偏差と、微小制動制御によって制動力が付与されている車輪に対応する押圧力と、に基づいて、微小制動制御によって制動力が付与されている車輪についての効力係数Kが推定される。効力係数推定部20は、前輪81についての効力係数Kと、後輪82についての効力係数Kと、をそれぞれ推定することができる。効力係数推定部20は、図7に示すように、偏差算出部21、変動圧算出部22および出力部23を備えている。
【0034】
〈効力係数の活用〉
効力係数推定部20によって推定される効力係数Kは、次のように用いることができる。たとえば、効力係数Kは、制動制御部12に記憶されている変換係数Kbの補正に用いることができる。たとえば、制動制御部12は、効力係数Kを新たな変換係数Kbとして置き換えることができる。たとえば、制動制御部12は、前輪81についての効力係数Kと、後輪82についての効力係数Kと、の差異に基づいて前後配分比aを調整することで、前輪制動力と後輪制動力とを調整することができる。
【0035】
〈効力係数の推定原理〉
図2および図3を用いて、係数推定処理によって効力係数Kを推定する原理について説明する。
【0036】
図2に示す例では、図2の(a)に示すように、タイミングt1からタイミングt2までの期間において駆動力を増大させている。図2の(a)には、発生駆動力Fpを実線で示している。また、実駆動力Fxを破線で示している。発生駆動力Fpが増大しているタイミングt1からタイミングt2までの期間において、制動力を発生させている。このため、図2の(b)に示すように、制動液圧Pがタイミングt1からタイミングt2までの期間において発生している。発生駆動力Fpの具体例としては、たとえば、動力源91から車輪の接地面に伝達される駆動力について、全車輪の分を合計したものである。実駆動力Fxの具体例としては、たとえば、実際に車輪の接地面で発生する駆動力について、全車輪の分を合計したものである。
【0037】
タイミングt1からタイミングt2までの期間では車両90に制動力が付与されているため、車両90に実際に作用する実駆動力Fxは、図2の(a)に破線で示すように、発生駆動力Fpよりも小さくなる。このとき、実駆動力Fxは、制動力が大きいほど発生駆動力Fpに対してより小さくなる。換言すれば、制動力が大きいほど発生駆動力Fpと実駆動力Fxとの偏差である駆動力偏差ΔFが大きくなる。
【0038】
すなわち、発生駆動力Fpと実駆動力Fxとの偏差である駆動力偏差ΔFと、制動液圧Pの変動量と、を用いることによって、制動液圧Pの変動量に応じた駆動力偏差ΔFに基づいて、車両90に実際に作用した制動力を推定することができる。これによって、制動液圧P、すなわち押圧力と、実際の制動力との関係を求めることができる。
【0039】
図3は、制動液圧Pの変動量である液圧変動量ΔPと駆動力偏差ΔFとの関係を示す。当該関係は、液圧変動量ΔPが大きくなるほど駆動力偏差ΔFが大きくなるものであり、図3に示すように近似直線Lとして表すことができる。近似直線Lの傾きが、効力係数Kに相当する。
【0040】
効力係数Kは、たとえば、最小二乗法によって算出することができる。最小二乗法による算出方法について、関係式(式1)~関係式(式3)を用いて説明する。最小二乗法では、関係式(式1)に示す二乗和誤差Jが最小となる効力係数Kを求める。
【0041】
【数1】
関係式(式1)を関係式(式2)が成立するように解くと、関係式(式3)が得られる。
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
得られた関係式(式3)によって、効力係数Kを算出することができる。
【0044】
なお、効力係数Kを算出する方法は、最小二乗法による算出方法に限らない。効力係数Kは、たとえば、算術平均として算出した値でもよい。
〈微小制動制御〉
制動制御部12が実行する微小制動制御の詳細について説明する。微小制動制御は、以下に説明する付与処理と解消処理とを行うことによって摩擦制動装置70を作動させる一連の制御のことをいう。
【0045】
図4は、制動制御部12が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制動制御部12は、開始条件が成立しているか否かを判定する。たとえば、制動制御部12は、次の条件Aおよび条件Bが共に成立している場合に開始条件が成立していると判定することができる。
(条件A)車両重量Mの算出が完了している。
(条件B)駆動力が増大中である。
【0046】
開始条件が成立していない場合には(S101:NO)、制動制御部12は、本処理ルーチンを一旦終了する。
一方、開始条件が成立している場合には(S101:YES)、制動制御部12は、処理をステップS102に移行する。
【0047】
ステップS102では、制動制御部12は、付与処理を開始する。付与処理では、制動制御部12は、発生駆動力Fpに応じた要求制動力BPを算出する。発生駆動力Fpと要求制動力BPとの関係について図5を用いて説明する。
【0048】
図5は、発生駆動力Fpと要求制動力BPとの関係を示すマップの一例である。制動制御部12には、当該関係を示すマップが記憶されている。
図5に示す関係に従って、発生駆動力Fpが第1駆動力f1以上であり第3駆動力f3以下である範囲で要求制動力BPが算出される。発生駆動力Fpが第1駆動力f1以上であり第2駆動力f2以下である範囲では、発生駆動力Fpが大きいほど要求制動力BPが大きく算出される。第2駆動力f2は、発生駆動力Fpに関する規定のしきい値に対応する。発生駆動力Fpが第2駆動力f2よりも大きく第3駆動力f3以下である範囲では、発生駆動力Fpが大きいほど要求制動力BPが小さく算出される。すなわち、発生駆動力Fpが第2駆動力f2であるときに、算出される要求制動力BPが最大となる。発生駆動力Fpが第2駆動力f2であるときの最大制動力bmaxは、第2駆動力f2に釣り合う制動力よりも小さい値が設定されている。ここで、釣り合うとは、路面が水平であると仮定した場合に制動力によって駆動力を相殺して車両90の移動量が「0」になる状態である。最大制動力bmaxの一例は、第2駆動力f2に釣り合う制動力の10%に相当する大きさである。
【0049】
また、制動制御部12は、微小制動制御では、前後配分比aを任意に設定できる。微小制動制御の実行中における前後配分比aを「0」または「1」に固定すると、算出された要求制動力BPに基づく制動力を前輪81に付与するか後輪82に付与するかを選択できる。一例として、制動制御部12は、前輪81にのみ制動力を付与する微小制動制御と、後輪82にのみ制動力を付与する微小制動制御と、を交互に実行することができる。また、制動制御部12は、微小制動制御の実行中に前後配分比aを変動させることもできる。前後配分比aを「0」よりも大きく「1」よりも小さい値にすることで、前輪81および後輪82に制動力を付与することもできる。
【0050】
図4に戻り、制動制御部12は、ステップS102において付与処理を開始して要求制動力BPを算出すると、要求制動力BPと変換係数Kbとに基づいて、WC圧の目標値を算出する。次に制動制御部12は、WC圧の目標値に基づいて摩擦制動装置70を作動させる。この結果として、制動力の付与が開始される。
【0051】
ステップS102において付与処理を開始すると、制動制御部12は、処理をステップS103に移行する。
ステップS103では、制動制御部12は、終了条件が成立しているか否かを判定する。たとえば、制動制御部12は、付与処理を開始してから規定時間が経過している場合に終了条件が成立していると判定する。
【0052】
ステップS103の処理に関して、以下のように判定を行うこともできる。制動制御部12は、付与処理を開始してから規定時間が経過していない場合でも、終了条件が成立したと判定することができる。たとえば、制動制御部12は、駆動力が減少に転じた場合には、終了条件が成立したと判定してもよい。またたとえば、制動制御部12は、運転者による制動操作部材79の操作が介入した場合に終了条件が成立したと判定することもできる。また、制動制御部12は、制動操作部材79の操作速度が規定の減速操作判定値よりも速い場合に終了条件が成立したと判定することもできる。減速操作判定値は、操作速度が減速操作判定値よりも速い場合には運転者が急制動を求めていると判定できる値として設定できる。またたとえば、制動制御部12は、運転者によるアクセル操作部材の操作速度が規定の加速操作判定値よりも速い場合に終了条件が成立したと判定することもできる。加速操作判定値は、操作速度が加速操作判定値よりも速い場合には運転者が急加速を求めていると判定できる値として設定できる。また、制動制御部12は、自動運転制御装置30によって急制動または急加速が要求された場合にも終了条件が成立したと判定してもよい。
【0053】
終了条件が成立している場合には(S103:YES)、制動制御部12は、処理をステップS104に移行する。一方、終了条件が成立していない場合には(S103:NO)、制動制御部12は、ステップS103の処理を繰り返し実行する。終了条件が成立するまでは、付与処理に従って摩擦制動装置70が作動される。
【0054】
ステップS104では、制動制御部12は、解消処理を開始する。より詳しくは、制動制御部12は、付与処理を終了して解消処理を開始する。解消処理では、付与処理によって付与された制動力を「0」まで減少させるように、摩擦制動装置70を作動させる。たとえば、制動制御部12は、所定の減少速度で制動力を減少させる。制動制御部12は、解消処理を開始してから所定の時間以内に制動力を「0」にするようにしてもよい。解消処理を開始すると、制動制御部12は、本処理ルーチンを終了する。
【0055】
〈係数推定処理〉
効力係数推定部20が実行する係数推定処理について説明する。
図6は、効力係数推定部20が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0056】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、効力係数推定部20は、微小制動制御を実行中であるか否かを判定する。微小制動制御が実行されていない場合には(S201:NO)、効力係数推定部20は、本処理ルーチンを終了する。一方、微小制動制御が実行されている場合には(S201:YES)、効力係数推定部20は、処理をステップS202に移行する。
【0057】
ステップS202では、効力係数推定部20は、制動力が増大中であるか否かを判定する。効力係数推定部20は、微小制動制御によって車輪に付与されている制動力が増大している場合には(S202:YES)、処理をステップS203に移行する。
【0058】
ステップS203では、効力係数推定部20は、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPを算出する。効力係数推定部20は、算出した値を一時的に記憶して効力係数Kの算出に用いる。図7を用いて、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの算出について説明する。
【0059】
図7に示すように、効力係数推定部20は、取得部13を介して発生駆動力Fpを取得する。さらに、効力係数推定部20は、取得部13を介して車両重量Mおよび前後加速度Gxを取得する。効力係数推定部20は、車両重量Mに前後加速度Gxを乗算することによって、実駆動力Fxを算出する。発生駆動力Fpおよび実駆動力Fxは、効力係数推定部20の偏差算出部21に入力される。偏差算出部21は、発生駆動力Fpおよび実駆動力Fxに基づいて、駆動力偏差ΔFを算出する。このとき、偏差算出部21は、微小制動制御が開始された時点での駆動力偏差ΔFが「0」となるように算出した補正値を用いて、駆動力偏差ΔFの算出を行ってもよい。
【0060】
また、効力係数推定部20は、取得部13を介して制動液圧Pを取得する。制動液圧Pは、効力係数推定部20の変動圧算出部22に入力される。この制動液圧Pは、実行中である微小制動制御によって制動力が付与されている車輪に対応する制動液圧Pである。変動圧算出部22は、入力された制動液圧Pを前回の制動液圧Pと比較して、制動液圧Pの変動量として液圧変動量ΔPを算出する。
【0061】
図6に戻り、ステップS203において駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPを算出すると、効力係数推定部20は、処理をステップS204に移行する。
一方で、ステップS202の処理において、微小制動制御の対象となっている車輪に対する制動力が増大中ではない場合には(S202:NO)、効力係数推定部20は、処理をステップS204に移行する。すなわち、微小制動制御の対象となっている車輪に対する制動力が一定に保持されている場合、または制動力が減少している場合には、効力係数推定部20は、ステップS203の処理を行うことなく処理をステップS204に進める。
【0062】
ステップS204では、効力係数推定部20は、微小制動制御における付与処理が終了しているか否かを判定する。付与処理が終了している場合には(S204:YES)、効力係数推定部20は、処理をステップS205に移行する。
【0063】
一方、付与処理が終了していない場合には(S204:NO)、効力係数推定部20は、処理をステップS202に移行する。このため、付与処理が終了するまでは、ステップS202~ステップS204までの処理が繰り返し実行される。このとき、ステップS203の処理によって駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPが算出されると、効力係数推定部20は、前回までに算出した駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの値を保持して、新たに算出した駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPを記憶する。これによって、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの算出値が蓄積される。
【0064】
ステップS205では、効力係数推定部20は、効力係数Kの推定を実施する。効力係数推定部20は、ステップS203の処理が繰り返し実行されることによって蓄積されている駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPに基づいて、効力係数Kを算出する。
【0065】
図7に示すように、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPは、効力係数推定部20の出力部23に入力される。出力部23は、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPを用いて、関係式(式3)に基づいて効力係数Kを算出する。図6に戻り、ステップS205において効力係数Kの推定を行うと、効力係数推定部20は、本処理ルーチンを終了する。
【0066】
図7に示すように、効力係数推定部20は、算出した効力係数Kを記憶部15に記憶させることができる。このとき、記憶部15は、効力係数Kが算出されたときの車両90の状態量を効力係数Kに関連付けて記憶してもよい。たとえば、記憶部15は、摩擦材75の温度と効力係数Kとを関連付けて記憶してもよい。記憶部15は、摩擦材75の温度と効力係数Kと車速とを関連付けて記憶してもよい。
【0067】
〈作用および効果〉
本実施形態の作用および効果について説明する。
図8の(a)には、増大させた発生駆動力Fpを「0」まで減少させることを三回繰り返した例を示している。
【0068】
図8に示す例では、タイミングt11において、開始条件が成立していると判定されて微小制動制御における付与処理が開始されている(S102)。ここでは、前輪81のみに対して制動力を付与している。このため、図8の(b)に実線で示すように、要求前輪制動力BPfがタイミングt11から増大している。タイミングt12では、終了条件が成立していると判定されて付与処理が終了されて解消処理が開始されている(S104)。このため、タイミングt12以降では、要求前輪制動力BPfが減少している。
【0069】
ここで、たとえば、制動によって車両90が減速中であると、車両90のピッチング運動を抑制するように前後配分比aが設定されていることがある。このため、効力係数Kの推定を行うための制動力の付与を減速中に行おうとすると、前輪81または後輪82のどちらかのみに制動力を付与したり、前後配分比aを変更したりといった調整を行うことが難しい場合がある。仮に、効力係数Kの推定を行うために減速中に前後配分比aを変更すると、ピッチング運動が大きくなったり、車両90の搭乗者に違和感を与えたりするおそれがある。
【0070】
これに対して制御装置10では、駆動力が増大されている場合に、係数推定処理を行うための微小制動制御を開始するようにしている。これによって、前輪81および後輪82の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させたとしても、車両90がピッチング運動をしたり車両90の搭乗者に違和感を与えたり、といった制動力の発生による影響を軽減することができる。
【0071】
また、制御装置10が実行する微小制動制御では、要求制動力BPが駆動力を上回らないようにしている。このため、微小制動制御を実行した場合でも車両90の加速が抑制されにくくなる。
【0072】
図8のタイミングt13では、発生駆動力Fpが再び増大して、付与処理が開始されている。ここでは、後輪82のみに対して制動力を付与している。このため、図8の(b)に破線で示すように、要求後輪制動力BPrがタイミングt13から増大している。タイミングt14では、終了条件が成立していると判定されている。タイミングt14以降では、要求後輪制動力BPrが減少している。
【0073】
タイミングt15以降では、前輪81のみに対して付与処理が開始されて要求前輪制動力BPfが増大している。タイミングt16以降では、解消処理によって要求前輪制動力BPfが減少している。
【0074】
図8に示す例では、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、要求前輪制動力BPfが増大している。このため、当該期間では、駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの算出が繰り返し行われている(S203)。液圧変動量ΔPは、前輪81についての押圧力に対応した制動液圧Pを用いて算出されている。そして、タイミングt12において付与処理が終了すると、前輪81についての効力係数Kの推定が行われる(S205)。
【0075】
続いて、タイミングt13からタイミングt14までの期間では、要求後輪制動力BPrが増大している。このため、当該期間では、後輪82についての押圧力に対応した制動液圧Pを用いて液圧変動量ΔPが算出される。駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの算出が繰り返し行われてタイミングt14において付与処理が終了すると、後輪82についての効力係数Kの推定が行われる。
【0076】
また、タイミングt15からタイミングt16までの期間では、タイミングt11からタイミングt12までの期間と同様に、前輪81についての押圧力に対応した制動液圧Pを用いて液圧変動量ΔPが算出されている。そして、前輪81についての効力係数Kの推定が行われる。
【0077】
制御装置10が実行する微小制動制御では、前輪81および後輪82の少なくとも一方の車輪に対して制動力を発生させる。そして、係数推定処理では、制動力が付与されている車輪に対応する押圧力を効力係数Kの推定に用いるようにしている。これによって、前輪81についての効力係数Kと、後輪82についての効力係数Kとを判別して推定することができる。
【0078】
制御装置10では、効力係数Kの推定に、発生駆動力Fpと実駆動力Fxとの偏差である駆動力偏差ΔFを用いている。動力源91として電動モータを採用している車両90では、動力源91が内燃機関である場合と比較して、発生駆動力Fpの算出精度が高くなりやすい。このため、動力源91として電動モータを採用している車両90では、効力係数Kを精度良く推定することができる。
【0079】
制御装置10では、制動力が増大中である場合のみ駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPの算出を行うようにしている。すなわち、制動力が増大している場合の駆動力偏差ΔFおよび液圧変動量ΔPのみが効力係数Kの推定に用いられる。このため、制動力を増大させている場合と制動力を減少させている場合との差異が効力係数Kの推定に影響することがない。これによって、効力係数Kの推定にあたって、摩擦制動装置70のヒステリシス特性を無視することができる。制御装置10によれば、効力係数Kの推定を精度良く行うことができる。
【0080】
制御装置10によれば、効力係数Kを用いて変換係数Kbを補正することができる。これによって、押圧力と制動力との関係が正確になり、要求制動力BPと実際に車輪に付与される制動力との乖離を抑制することができる。効力係数Kを新たな変換係数Kbとして用いる場合も、同様の効果を奏することができる。
【0081】
車両90が運転者によって操作されている場合には、要求制動力BPと実際に車輪に付与される制動力との乖離が生じたとしても、乖離に伴う違和感を解消するような操作を運転者が行うことを期待できる。これに対して、自動走行が行われている場合には、運転者による介入を期待しにくい。このため、自動走行が行われている場合には、制御装置10のように精度良く効力係数Kを推定して、効力係数Kを制動力の制御に用いることが効果的である。
【0082】
仮に、前輪81における押圧力と制動力との関係と、後輪82における押圧力と制動力との関係とが大きく異なっている場合には、前後配分比aに従って付与される実際の前輪制動力の比率が、前後配分比aに基づいて想定される比率から乖離するおそれがある。この点、制御装置10によれば、前輪81についての効力係数Kと、後輪82についての効力係数Kと、の差異に基づいて前後配分比aを調整することができる。これによって、前輪制動力の比率および後輪制動力の比率が所望の比率から乖離することを抑制できる。
【0083】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0084】
・上記実施形態では、微小制動制御を繰り返し実行する場合に、前輪81に対する制動力の付与と、後輪82に対する制動力の付与と、を交互に行う例を示した。これに限らず、たとえば前輪81に対して制動力を付与する微小制動制御を複数回繰り返し実行してもよい。
【0085】
・上記実施形態では、微小制動制御を開始してから当該微小制動制御を終了するまでの間に前輪81または後輪82に制動力を付与する例を示した。これに替えて、微小制動制御では、前輪81および後輪82に制動力を付与することもできる。図9を用いて説明する。
【0086】
図9に示す例では、タイミングt21において、開始条件が成立していると判定されて微小制動制御における付与処理が開始されている(S102)。ここでは、まず前輪81のみに対して制動力を付与している。図9の(b)に実線で示すように、要求前輪制動力BPfがタイミングt21から増大している。このときの前後配分比aは、図9の(c)に示すように「1」である。
【0087】
タイミングt22からは、図9の(c)に示すように、前後配分比aが徐々に小さくされている。この結果として、図9の(b)に実線で示すように、要求前輪制動力BPfが減少し始めている。さらに、図9の(b)に破線で示すように、要求後輪制動力BPrが増加し始めている。前後配分比aは、タイミングt23において「0」まで減少している。
【0088】
また、タイミングt23では、終了条件が成立していると判定されて付与処理が終了されて解消処理が開始されている(S104)。このため、タイミングt23以降では、要求後輪制動力BPrが減少している。要求後輪制動力BPrは、タイミングt24において「0」になっている。
【0089】
図9に示す例では、タイミングt23までの期間が、要求制動力BPが増大している期間である。こうした微小制動制御の実行中に、係数推定処理を実行して効力係数Kを推定してもよい。この場合には、前後配分比aを考慮して前輪81についての液圧変動量ΔPと後輪82についての液圧変動量ΔPとを算出するとよい。
【0090】
・上記実施形態では、微小制動制御において、図5に示すマップに基づいて要求制動力BPを算出する例を示した。これに替えて、微小制動制御の実行中における要求制動力BPの増加量を設定してもよい。
【0091】
たとえば、図5における縦軸を要求制動力BPの増加量としたマップを用いて、要求制動力BPの増加量を算出することができる。すなわち、発生駆動力Fpと、要求制動力BPの増加量との関係に基づいて、要求制動力BPの増加量を設定することができる。この場合には、付与処理が実行されている間、制動力の増大が継続されやすくなる。すなわち、付与処理が実行されている間では、制動力が一定に保持される期間、および制動力が減少される期間が生じにくくなる。これによって、微小制動制御によって付与される制動力が大きくなるまでの期間が長くなることを抑制できる。このため、効力係数Kの推定が完了するまでの時間を短くすることができる。この結果として、微小制動制御を継続する時間を短くすることができる。微小制動制御を短時間で行うことによって、車両90の加速を妨げにくくなる。
【0092】
また、発生駆動力Fpが規定の増加速度Fps以上で増加している場合に、要求制動力BPを予め設定した増加速度によって最大制動力bmaxまで増大させるようにしてもよい。このように、微小制動制御において要求制動力BPの増加速度を予め設定した増加速度にすることもできる。たとえば、要求制動力BPの増加速度を発生駆動力Fpの増加速度に応じて変動するようにした場合には、要求制動力BPの増加遅れが発生したり、要求制動力BPが急激に増加したりするおそれがある。要求制動力BPが急激に増加する場合には、要求制動力BPの増加に伴って作動音が増大することがある。これに対して、上記構成のように、要求制動力BPの増加速度を予め設定した増加速度とすれば、要求制動力BPの増加遅れの発生を抑制したり、作動音の増大を抑制したりすることができる。
【0093】
・上記実施形態では、微小制動制御の開始条件として条件Aおよび条件Bを例示したが、開始条件はこれに限らない。開始条件は、車速が規定の判定速度よりも小さいことを含んでいてもよい。開始条件は、車速の変化量が規定の速度変化量よりも小さいことを含んでいてもよい。開始条件は、摩擦材75の温度が規定の判定温度よりも低いことを含んでいてもよい。
【0094】
・上記実施形態では、ステップS202の処理として、制動力が増大している場合にステップS203の処理を実行するようにした。ステップS203の処理は、制動力が増大していることに加えて、制動力が規定の判定制動力以上である場合に実行するようにしてもよい。言い換えると、微小制動制御の実行中に制動力が判定制動力未満である間の液圧変動量ΔPおよび駆動力偏差ΔFを、効力係数Kの推定に用いないようにしてもよい。
【0095】
・微小制動制御の実行中に制動力が増大している場合であっても、車両90が旋回しているときには、旋回している間における液圧変動量ΔPおよび駆動力偏差ΔFを、効力係数Kの推定に用いないようにしてもよい。車両90が旋回している場合には、制動力以外の要因によって実駆動力Fxが減少していることがある。制動力以外の要因によって実駆動力Fxが減少している場合における液圧変動量ΔPおよび駆動力偏差ΔFを推定に使用しないことによって、誤差が生じる要因を排除して効力係数Kの推定を精度良く行うことができる。
【0096】
なお、車両90が旋回しているか否かは、たとえば、操舵操作部材の操作量によって検出することができる。また、操舵輪の操舵角によって車両90の旋回を検出することもできる。自動運転制御装置30による操舵の指令に基づいて車両90の旋回を検出することもできる。
【0097】
・上記実施形態では、液圧センサ61による検出値に基づく制動液圧Pを用いて液圧変動量ΔPを算出した。液圧変動量ΔPは、たとえば、押圧力の目標値に基づいて算出することもできる。
【0098】
・微小制動制御の終了条件は、上記実施形態に例示したものに限らない。たとえば、付与処理を開始してから規定時間が経過していない場合でも、車両90が旋回を開始した場合には、終了条件が成立したと判定することもできる。
【0099】
・上記実施形態では、摩擦制動装置70として液圧制動装置を例示した。液圧制動装置に限らず、電動モータの駆動量を機械的に伝達することによって摩擦材を回転体に押し付ける機械式の摩擦制動装置を採用してもよい。この場合には、押圧力の大きさは、電動モータの駆動量に対応する。こうした構成では、上記実施形態における液圧変動量ΔPに替えて電動モータにおける駆動量の変動量を用いることによって、効力係数Kの推定を行うことができる。
【0100】
・上記実施形態では、摩擦材温度推定部14によって摩擦材75の温度を推定した。摩擦材75の温度は、温度センサによって取得してもよい。
【符号の説明】
【0101】
10…制御装置
11…駆動制御部
12…制動制御部
13…取得部
14…摩擦材温度推定部
15…記憶部
20…効力係数推定部
20…摩擦制動装置
30…自動運転制御装置
61…液圧センサ
62…前後加速度センサ
63…車輪速センサ
70…摩擦制動装置
75…摩擦材
76…回転体
81…前輪
82…後輪
90…車両
91…動力源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9