(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20240910BHJP
B60T 13/128 20060101ALI20240910BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/128
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2021125676
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安間 善貞
(72)【発明者】
【氏名】増田 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】丸山 将来
(72)【発明者】
【氏名】長江 大地
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231821(JP,A)
【文献】特開2013-75544(JP,A)
【文献】特開2012-60871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 13/128
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び該電動モータの駆動回路によって構成されるモータ装置を有しており前記電動モータの駆動量に応じて車両の車輪に対して制動力を発生させる第1制動部と、前記車輪に対して制動力を発生させる第2制動部と、を有する制動装置に適用される制動制御装置であって、
前記モータ装置の温度を第1制動部温度として取得する取得部と、
前記第1制動部温度が第1判定値以上であり且つ前記第1制動部温度が前記第1判定値よりも高い値である第2判定値よりも小さい場合に、前記第1制動部によって発生させる制動力の制限値として第1制限値を設定し、前記第1制動部温度が前記第2判定値以上である場合に、前記制限値として前記第1制限値よりも小さい値である第2制限値を設定する出力制限部と、
前記第1制動部によって発生させる制動力を前記出力制限部が制限している場合に前記第2制動部によって発生させる制動力を増大させて、制限された前記第1制動部による制動力を補う補充制御を実行する補充制御部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記電動モータを第1電動モータとして、前記モータ装置を第1モータ装置として、
前記第2制動部は、第2電動モータ及び該第2電動モータの駆動回路によって構成される第2モータ装置を有しており、前記第2電動モータの駆動量に応じて制動力を発生させるものであり、
前記取得部は、前記第2モータ装置の温度を第2制動部温度として取得することができ、
前記出力制限部は、前記第2制動部温度が規定のしきい値以上である場合に、前記第2制動部温度が前記しきい値よりも小さい場合よりも、前記第2制動部によって発生させる制動力を小さく制限する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記出力制限部は、
前記補充制御部によって前記補充制御が実行されている場合には、前記第2制動部によって発生させる制動力を制限するものであり、
前記制限値として前記第1制限値が設定されている場合には、前記制限値として前記第2制限値が設定されている場合よりも、前記第2制動部によって発生させる制動力を小さく制限する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記出力制限部は、
制動要求が継続している間、前記制限値の設定を新たに行うことを保留し、当該制動要求が終了した場合に、該制動要求が継続している間に保留していた前記制限値の設定を行う
請求項1~3のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記出力制限部は、前記制動要求中に前記第1制動部温度が前記第1判定値未満から前記第1判定値以上となった場合には、当該制動要求が継続している間、前記制限値の設定を新たに行うことを保留し、前記制動要求中に前記第1制動部温度が前記第2判定値未満から前記第2判定値以上となった場合には、前記制動要求が継続している間であっても前記制限値の設定を前記第2制限値に変更する
請求項4に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、制動力を発生させる装置である電気的液圧発生部と、車両挙動安定化装置と、を制御する制御装置が開示されている。制御装置は、電気的液圧発生部におけるモータの温度が所定温度以上である場合には当該モータの出力を制限して、車両挙動安定化装置によって制動力を発生させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている制御装置のように、一方の装置の出力を制限して他方の装置によって制動力の不足を補うようにすると、他方の装置における温度上昇が発生することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、電動モータ及び該電動モータの駆動回路によって構成されるモータ装置を有しており前記電動モータの駆動量に応じて車両の車輪に対して制動力を発生させる第1制動部と、前記車輪に対して制動力を発生させる第2制動部と、を有する制動装置に適用される制動制御装置であって、前記モータ装置の温度を第1制動部温度として取得する取得部と、前記第1制動部温度が第1判定値以上であり且つ前記第1制動部温度が前記第1判定値よりも高い値である第2判定値よりも小さい場合に、前記第1制動部によって発生させる制動力の制限値として第1制限値を設定し、前記第1制動部温度が前記第2判定値以上である場合に、前記制限値として前記第1制限値よりも小さい値である第2制限値を設定する出力制限部と、前記第1制動部によって発生させる制動力を前記出力制限部が制限している場合に前記第2制動部によって発生させる制動力を増大させて、制限された前記第1制動部による制動力を補う補充制御を実行する補充制御部と、を備えることをその要旨とする。
【0006】
上記構成では、第1制動部が備えるモータ装置の温度上昇に伴って制限値が段階的に小さく変更される。このため、制限値が比較的大きい第1制限値である場合には、制限値が小さい第2制限値である場合よりも、補充制御において第2制動部によって発生させる制動力の増大量を小さく抑えやすくなる。これによって、第1制動部温度が第1判定値以上であり第2判定値よりも小さい間では、第1制動部によって制動力を発生させながら第2制動部にかかる負荷の増大を抑制して第2制動部における温度の上昇速度を遅くすることができる。すなわち、第2制動部の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態の制動制御装置と、同制動制御装置の制御対象である制動装置と、を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の制動制御装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1実施形態の制動制御装置によって第1制動部の出力が制限されている際の制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、第2実施形態の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2実施形態の制動制御装置によって第1制動部の出力が制限されている際の制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、変更例の制動制御装置が実行する第2制限制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、別の変更例の制動制御装置が実行する第2制限制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、他の変更例の制動制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態の制動制御装置について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、車両の制動装置20と、制動装置20を制御対象とする制動制御装置100と、を示す。
図1には、車両の車輪として、前輪FL,FR及び後輪RL,RRを示している。車両は、制動操作部材21を備えている。制動操作部材21は、車両の運転者によって操作が可能である。制動操作部材21の一例は、ブレーキペダルである。
【0009】
〈制動装置〉
制動装置20は、車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応した制動機構10を備えている。制動機構10によって、各車輪FL,FR,RL,RRに対して摩擦制動力を付与することができる。各制動機構10が車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力は、制動装置20によって調整することができる。
【0010】
制動装置20の一例は、液圧式の制動装置である。制動装置20は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク24と、液圧発生装置22と、第2制動部23と、を備えている。制動制御装置100は、たとえば、液圧発生装置22及び第2制動部23を制御することによって、制動装置20を制御することができる。
【0011】
〈制動機構〉
制動機構10について説明する。各制動機構10におけるそれぞれの構成要素は共通である。制動機構10は、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ11と、車輪FL,FR,RL,RRと一体に回転する回転板12と、回転板12に対して回転板12の板厚方向に相対移動する摩擦材13と、を有している。制動機構10は、ホイールシリンダ11内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど、摩擦材13を回転板12に強く押し付けるように構成されている。つまり、制動機構10によれば、WC圧Pwcが高いほど、車輪FL,FR,RL,RRに付与する摩擦制動力が大きくされる。
【0012】
〈液圧発生装置〉
液圧発生装置22の一例は、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式の液圧発生装置である。液圧発生装置22は、制動操作部材21の操作量に応じて液圧を発生させることができる。液圧発生装置22は、マスタ装置30と、第1制動部50と、を備えている。マスタ装置30は、第2制動部23にブレーキ液を供給することができる。第1制動部50は、マスタ装置30と第2制動部23とにブレーキ液を供給することができる。
【0013】
〈マスタ装置〉
マスタ装置30は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342と、を備えている。マスタ装置30は、液圧を検出する複数の液圧センサ351,352,353を備えていてもよい。
【0014】
ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を付勢するマスタスプリング45と、入力ピストン44を付勢する入力スプリング46と、を備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。以降の説明では、マスタシリンダ31において、
図1における左方を前方として、
図1における右方を後方とする。
【0015】
マスタシリンダ31の一例を、より詳しく説明する。
マスタシリンダ31が備えるメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412と、を有している。さらにメインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414と、を有している。第1周壁412及び第2周壁413は筒状をなしている。第1環状壁414は、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔を備えている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0016】
メインシリンダ41には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによって区画されるマスタ室Rmが形成されている。さらにメインシリンダ41には、第2周壁413とマスタピストン43とによって区画される第1液室R1と、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによって区画されるサーボ室Rsと、が形成されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成され、第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に形成され、サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。
【0017】
マスタシリンダ31が備えるカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422と、を有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422は、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔を備えている。
【0018】
カバーシリンダ42には、メインシリンダ41の第1環状壁414と第3周壁421と入力ピストン44とによって区画される第2液室R2と、第3周壁421と第2環状壁422と入力ピストン44とによって区画される第3液室R3と、が形成されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2は、サーボ室Rsよりも後方に形成され、第3液室R3は、第2液室R2よりも後方に形成されている。カバーシリンダ42の内部において、第2液室R2及び第3液室R3は、互いに接続していない。
【0019】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。
【0020】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第3周壁421の内周面及び第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出しており制動操作部材21に連結されている。入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0021】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41のマスタ室Rm、詳しくは、メインシリンダ41の底壁411とマスタピストン43との間に配置される。マスタスプリング45は、マスタピストン43を後方に付勢する。つまり、マスタスプリング45は、マスタピストン43が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0022】
入力スプリング46は、カバーシリンダ42の第2液室R2、詳しくは、メインシリンダ41の第1環状壁414と入力ピストン44との間に配置される。入力スプリング46は、入力ピストン44を後方に付勢する。つまり、入力スプリング46は、入力ピストン44が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0023】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmは、リザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が
図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0024】
第3液室R3は、後述する第3流路333を介して、リザーバタンク24と接続されている。このため、入力ピストン44が前方に移動する場合には、リザーバタンク24から第3液室R3にブレーキ液が供給され、入力ピストン44が後方に移動する場合には、第3液室R3からリザーバタンク24にブレーキ液が排出される。
【0025】
第1流路331は、マスタ室Rmと第2制動部23とを接続している。第2流路332は、第1液室R1及び第2液室R2を接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0026】
第1制御弁341は、常閉型の電磁弁であり、第2制御弁342は、常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第2液室R2側に設けられる。第2制御弁342は、第3流路333における第2流路332との接続点の近くに設けられる。後述する制動制御装置100が稼働している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0027】
マスタ液圧センサ351は、第1流路331に設けられ、マスタ室Rm内の液圧を検出する。入力液圧センサ352は、第2流路332において、第1制御弁341より第2液室R2側に設けられ、第2液室R2内の液圧を検出する。シミュレータ液圧センサ353は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第1液室R1側に設けられ、ストロークシミュレータ32が接続される第2流路332内の液圧を検出する。以降の説明では、マスタ液圧センサ351が検出する液圧を「マスタ圧」ともいい、入力液圧センサ352が検出する液圧を「入力液圧」ともいい、シミュレータ液圧センサ353が検出する液圧を「シミュレータ液圧」ともいう。
【0028】
〈第1制動部〉
第1制動部50は、動力源としての第1モータ装置542を有する加圧部54を備えている。第1モータ装置542は、第1電動モータと、第1電動モータの駆動回路と、によって構成されている。第1制動部50は、第1電動モータの駆動量に応じて車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。
【0029】
第1制動部50の一例について説明する。
第1制動部50は、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52と、逆止弁53と、加圧部54と、第1液圧調整弁51と加圧部54との間の液圧を検出するサーボ圧センサ55と、を有している。第1制動部50は、第2制動部23とリザーバタンク24とを接続する第4流路56と、リザーバタンク24と第4流路56とを接続する第5流路57と、サーボ室Rsと第4流路56とを接続する第6流路58と、を有している。第1制動部50は、第4流路56と第6流路58とを接続する第7流路59を有している。
【0030】
第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52は、常開型のリニア電磁弁である。第1液圧調整弁51は、第4流路56における第6流路58との接続点及び第7流路59との接続点の間に設けられている。第2液圧調整弁52は、第4流路56における第6流路58との接続点及び第7流路59との接続点の間に設けられている。
【0031】
逆止弁53は、第2液圧調整弁52と並列するように、第6流路58に設けられている。逆止弁53は、リザーバタンク24からサーボ室Rsに向かうブレーキ液の流れを許容するものである。一方で、逆止弁53は、逆方向のブレーキ液の流れを制限する。
【0032】
加圧部54は、第5流路57に設けられている。加圧部54は、リザーバタンク24から汲み上げたブレーキ液を吐出するポンプ541を備えている。ポンプ541は、第1モータ装置542によって駆動される。
【0033】
サーボ圧センサ55は、第5流路57における第4流路56との接続点と加圧部54との間に設けられている。以降の説明では、サーボ圧センサ55が検出する液圧を「サーボ圧」ともいう。
【0034】
第1制動部50は、加圧部54を作動させた状況下において、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の開度を調整することによって、第2制動部23及びマスタシリンダ31に調圧したブレーキ液を供給することができる。第1液圧調整弁51によって調圧されたブレーキ液は、第2制動部23に供給される。加圧部54は、ポンプ541によってホイールシリンダ11内にブレーキ液を供給することでWC圧Pwcを増大させるものである。第2液圧調整弁52によって調圧されたブレーキ液は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsに供給される。
【0035】
〈第2制動部〉
第2制動部23は、動力源としての第2モータ装置64を備えている。第2モータ装置64は、第2電動モータと、第2電動モータの駆動回路と、によって構成されている。第2制動部23は、第2電動モータの駆動量に応じて車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。
【0036】
第2制動部23の一例について説明する。
第2制動部23は、各車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcを個別に調整することができる制動アクチュエータである。第2制動部23は、ブレーキ液を吐出するポンプ631,632を備えている。ポンプ631,632は、第2モータ装置64によって駆動される。
【0037】
第2制動部23は、第1制動部50によって調圧されたブレーキ液の液圧を増大させることなくWC圧Pwcを増大させることができる。制動装置20は、第1制動部50を上流側として第2制動部23を下流側とした冗長構成を有している。
【0038】
第2制動部23には、2系統の液圧回路611,612が設けられている。第1液圧回路611には、前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。また、第2液圧回路612には、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。
【0039】
第1液圧回路611は、第1流路331及びマスタ室Rmを介してリザーバタンク24に接続されている。第1液圧回路611において、第1流路331との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第1差圧調整弁621が設けられている。
【0040】
第2液圧回路612は、第4流路56を介してリザーバタンク24に接続されている。第2液圧回路612において、第4流路56との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第2差圧調整弁622が設けられている。
【0041】
ポンプ631は、第1液圧回路611に設けられている。ポンプ631は、第1差圧調整弁621とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。ポンプ632は、第2液圧回路612に設けられている。ポンプ632は、第2差圧調整弁622とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。
【0042】
液圧回路611において第1差圧調整弁621よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路611に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65a,65bが設けられている。同様に、液圧回路612において第2差圧調整弁622よりもホイールシリンダ11側には、液圧回路612に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65c,65dが設けられている。そして、各経路65a~65dには、WC圧Pwcの増大を規制する際に閉弁される保持弁66と、WC圧Pwcを減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。すなわち、各差圧調整弁621,622よりもホイールシリンダ11側の液路に各保持弁66が配置されている。なお、各保持弁66は常開型の電磁弁であり、各減圧弁67は常閉型の電磁弁である。
【0043】
液圧回路611,612には、減圧弁67が開弁しているときにホイールシリンダ11から減圧弁67を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ681,682が接続されている。各リザーバ681,682は、吸入用流路691,692を介してポンプ631,632に接続されている。
【0044】
リザーバ681は、タンク側流路701を介して差圧調整弁621とマスタ室Rmとを繋ぐ液路に接続されている。リザーバ682は、タンク側流路702を介して、第2液圧回路612における第4流路56との接続点と差圧調整弁622とを繋ぐ液路に接続されている。
【0045】
各ポンプ631,632は、リザーバタンク24内のブレーキ液をリザーバ681,682を介して汲み取り、当該ブレーキ液を差圧調整弁621,622と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路とポンプ631,632との間の液路を、中間液路711,712という。
【0046】
〈センサ〉
車両が備える各種センサについて説明する。上述したマスタ装置30に取り付けられている液圧センサ351,352,353は、各種センサの一例である。
図1には、さらに各種センサの例として、第1温度センサSE1、第2温度センサSE2、第3温度センサSE3及びストロークセンサSE4を示している。各種センサからの検出信号は、制動制御装置100に入力される。
【0047】
ストロークセンサSE4は、制動操作部材21の操作量を検出することができる。
第1温度センサSE1及び第2温度センサSE2は、第1モータ装置542の温度を検出することができる。第1温度センサSE1は、たとえば、第1モータ装置542における第1電動モータの温度を検出するセンサである。より具体的には、第1温度センサSE1は、第1電動モータのコイルの温度を検出する。第2温度センサSE2は、たとえば、第1モータ装置542における駆動回路の温度を検出するセンサである。より具体的には、第2温度センサSE2は、駆動回路の半導体素子の温度を検出する。半導体素子の一例は、FETである。
【0048】
第3温度センサSE3は、第2モータ装置64の温度を検出することができる。第3温度センサSE3の一例は、第2モータ装置64における第2電動モータのコイルの温度を検出するセンサである。第2モータ装置64における駆動回路の半導体素子の温度を検出するセンサとして、第4温度センサをさらに備えていてもよい。あるいは、第3温度センサSE3が、第2モータ装置64における駆動回路の半導体素子の温度を検出することができるセンサであってもよい。
【0049】
〈制動制御装置〉
図2を用いて制動制御装置100について説明する。制動制御装置100は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。
図2には、機能部の一例として、取得部101と制御部102とを示している。制御部102は、出力制限部103と補充制御部104とを備えている。制動制御装置100が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0050】
車両は、制動制御装置100に限らず、他の制御装置を備えていてもよい。制動制御装置100が備える機能部の一部は、他の制御装置が備えていてもよい。他の制御装置としては、たとえば、車両を自動走行させるための自動運転制御装置が挙げられる。各制御装置は、互いに情報の送受信が可能なように接続されているとよい。
【0051】
なお、制動制御装置100及び他の制御装置は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSP及びGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROM及びフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)及びFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路である。
【0052】
取得部101について説明する。取得部101は、車両が備える各種センサからの検出信号に基づいて、車両の状態量を取得することができる。
たとえば、取得部101は、ストロークセンサSE4からの検出信号に基づいて、制動操作部材21の操作量を算出することができる。
【0053】
取得部101は、第1モータ装置542の温度を取得することができる。具体的には、取得部101は、第1温度センサSE1からの検出信号に基づいて、第1温度Tmaを算出することができる。取得部101は、第2温度センサSE2からの検出信号に基づいて、第2温度Tmbを算出することができる。第1温度Tmaと第2温度Tmbとを併せて、第1モータ装置542の温度を示す第1制動部温度Tm1という。
【0054】
取得部101は、第2モータ装置64の温度を取得してもよい。第2モータ装置64の温度は、第3温度センサSE3からの検出信号に基づいて、第2制動部温度Tm11として算出することができる。第2制動部温度Tm11は、第2モータ装置64の温度を示す。あるいは、取得部101は、第3温度センサSE3からの検出信号と第2モータ装置64の駆動関連情報とに基づいて、第2制動部温度Tm11を算出することもできる。第2モータ装置64の駆動関連情報としては、たとえば、駆動時の電圧、駆動時の電流、モータ駆動時間、モータ停止時間、駆動周波数等がある。
【0055】
制御部102について説明する。制御部102は、制動装置20を制御する機能を備えている。制御部102は、制動装置20を作動させて制動力を発生させることができる。
制御部102は、制動要求に基づいて制動装置20を作動させることができる。制動要求は、たとえば制動操作部材21の操作によって発生して制動操作部材21の操作が解消されることで解消される。この場合には、制御部102は、制動操作部材21の操作量に基づいて算出される要求制動力を用いて制動装置20を作動させることができる。また、制動要求は、自動運転制御装置によって出力されることもある。この場合には、制御部102は、自動運転制御装置が算出する要求制動力に基づいて制動装置20を作動させることができる。
【0056】
制御部102は、要求制動力をホイールシリンダ11における液圧の目標値に変換した値、すなわち、WC圧Pwcの目標値に基づいて制動装置20を作動させる。以下では、WC圧Pwcの目標値のことを「目標WC圧」ということもある。目標WC圧に基づいて車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcが調整されることによって、要求制動力に対応した制動力が車輪FL,FR,RL,RRに付与される。
【0057】
制御部102が備える出力制限部103は、第1制動部50によって発生させる制動力を第1制動部温度Tm1に基づいて制限する第1制限制御を実行することができる。出力制限部103は、第2制動部23によって発生させる制動力を第2制動部温度Tm11に基づいて制限する第2制限制御を実行してもよい。出力制限部103は、第1制限制御及び第2制限制御を実行すると、たとえば、ホイールシリンダ11に供給するブレーキ液の液圧に上限値を設定することによって、制動力を制限させる。
【0058】
制御部102が備える補充制御部104は、出力制限部103によって第1制限制御が実行されている場合に、第2制動部23によって発生させる制動力を増大させて、制限された第1制動部50による制動力を補う補充制御を実施することができる。
【0059】
〈第1制動部によるWC圧の調整〉
制御部102は、加圧部54を構成する第1モータ装置542における第1電動モータの駆動量に応じてポンプ541を作動させてWC圧Pwcを調整することができる。これによって、第1制動部50によって車両の車輪FL,FR,RL,RRに対して制動力を発生させることができる。各車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcについて第1制動部50によって加圧される分を第1制動圧P1という。
【0060】
制御部102は、目標WC圧が増大される場合には、加圧部54を作動させた状態で、マスタ圧が目標WC圧に応じた液圧まで増大するように、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。すると、調圧されたブレーキ液が、マスタシリンダ31のサーボ室Rsに供給され、マスタピストン43が前方に移動する。続いて、第2制動部23の第1液圧回路611を介して、マスタ室Rmから前輪FL,FR用のホイールシリンダ11内にブレーキ液が供給される。その結果、前輪FL,FRのWC圧Pwcが目標WC圧まで増大される。また、制御部102は、加圧部54を作動させた状態で、サーボ圧が目標WC圧に応じた液圧まで増大するように、第1液圧調整弁51を制御する。すると、第2制動部23の第2液圧回路612を介して、第4流路56から後輪RL,RR用のホイールシリンダ11内にブレーキ液が供給される。その結果、後輪RL,RRのWC圧Pwcが目標WC圧まで増大される。この場合には、第1液圧調整弁51が調圧したブレーキ液が後輪RL,RR用のホイールシリンダ11内に直接供給されることになるため、第1液圧調整弁51が調圧したブレーキ液の液圧と後輪RL,RRのWC圧Pwcとが等しくなる。
【0061】
制御部102は、目標WC圧が維持される場合には、加圧部54の作動を継続するとともに、サーボ圧及びマスタ圧を維持できるように第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。
【0062】
制御部102は、目標WC圧が減少される場合には、マスタ圧が目標WC圧に応じた液圧まで減少するように第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52を制御する。すると、マスタピストン43が後方に移動して、第2制動部23の第1液圧回路611を介して、ブレーキ液が前輪FL,FR用のホイールシリンダ11内からマスタ室Rmに流入する。その結果、前輪FL,FRのWC圧Pwcが目標WC圧まで減少する。また、制御部102は、サーボ圧が目標WC圧に応じた液圧まで減少するように第1液圧調整弁51を制御する。すると、ブレーキ液が後輪RL,RR用のホイールシリンダ11内から第4流路56に流入する。その結果、後輪RL,RRのWC圧Pwcが目標WC圧まで減少する。
【0063】
〈第2制動部によるWC圧の調整〉
制御部102は、第2モータ装置64における第2電動モータの駆動量に応じてポンプ631,632を作動させてWC圧Pwcを調整することができる。これによって、車輪FL,FR,RL,RRに対して第2制動部23によって制動力を発生させることができる。各車輪FL,FR,RL,RRのWC圧Pwcについて第2制動部23によって加圧される分を第2制動圧P2という。以下、第2制動部23によってWC圧Pwcを調整する例を説明する。
【0064】
第1液圧回路611に設けられているポンプ631が作動する場合には、リザーバタンク24から、マスタ室Rm、第1流路331、タンク側流路701、リザーバ681及び吸入用流路691を介して、中間液路711にブレーキ液が吐出される。
【0065】
第2液圧回路612に設けられているポンプ632が作動する場合には、リザーバタンク24から、第4流路56、タンク側流路702、リザーバ682及び吸入用流路692を介して、中間液路712にブレーキ液が吐出される。この点で、本実施形態では、第4流路56、タンク側流路702及び吸入用流路692が「連通通路」の一例に相当する。
【0066】
第2制動部23において、差圧調整弁621,622を作動させて、且つ、ポンプ631,632からブレーキ液を吐出させると、タンク側流路701,702内のブレーキ液及び中間液路711,712内のブレーキ液との間に差圧が発生する。
【0067】
制御部102は、第2制動部23において上記差圧を発生させることで、第1制動部50によって調圧されたブレーキ液の液圧に対して差圧分だけWC圧Pwcを増大させることができる。すなわち、当該差圧分が第2制動圧P2に対応する。第1制動圧P1と第2制動圧P2との和がWC圧Pwcに対応する。
【0068】
ポンプ632、第2モータ装置64及び差圧調整弁622は、リザーバタンク24から取り込んだブレーキ液をホイールシリンダ11内に供給することによって後輪RL,RRのWC圧Pwcを増大させる後輪加圧部72を構成している。後輪加圧部72は、リザーバタンク24に対して連通通路を介して接続されている。ポンプ631、第2モータ装置64及び差圧調整弁621は、リザーバタンク24から取り込んだブレーキ液をホイールシリンダ11内に供給することによって前輪FL,FRのWC圧Pwcを増大させる前輪加圧部73を構成している。後輪加圧部72及び前輪加圧部73は、第2モータ装置64を共用している。
【0069】
〈第1制限制御〉
図3を用いて、出力制限部103が実行する第1制限制御について説明する。
図3には、出力制限部103が第1制限制御を実行する際の処理の流れを例示している。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0070】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、出力制限部103は、第1制動部温度Tm1を取得する取得処理を実行する。出力制限部103は、取得部101によって算出された第1温度Tma及び第2温度Tmbを取得する。その後、出力制限部103は、処理をステップS102に移行する。
【0071】
ステップS102では、出力制限部103は、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であるか否かを判定する。
第1制動部温度Tm1を判定する方法の一例について説明する。出力制限部103には、第1制動部温度Tm1が過度に高くなっているか否かを判定するための判定値として、第1判定値Tth1及び第2判定値Tth2が記憶されている。たとえば、第2判定値Tth2は、第1モータ装置542が過熱した状態にあることを判定するための判定値として予め実験等によって算出された値が設定されている。第1判定値Tth1は、第1モータ装置542の温度が上昇しているが、過熱した状態にまでは至っていないことを判定するための判定値として予め実験等によって算出された値が設定されている。すなわち、第2判定値Tth2は、第1判定値Tth1よりも高い値として設定されている。
【0072】
出力制限部103は、たとえば、第1温度Tma及び第2温度Tmbのうち少なくとも一方が第1判定値Tth1以上である場合に第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であると判定することができる。出力制限部103は、第1温度Tma及び第2温度Tmbの両方が第1判定値Tth1よりも小さい場合には、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1よりも小さいと判定することができる。
【0073】
ステップS102の処理において、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1よりも小さいと判定する場合には(S102:NO)、出力制限部103は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方で、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であると判定する場合には(S102:YES)、出力制限部103は、処理をステップS103に移行する。
【0074】
ステップS103では、出力制限部103は、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2よりも小さいか否かを判定する。出力制限部103は、たとえば、第1温度Tma及び第2温度Tmbのうち少なくとも一方が第2判定値Tth2以上である場合に第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上であると判定することができる。出力制限部103は、第1温度Tma及び第2温度Tmbの両方が第2判定値Tth2よりも小さい場合には、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2よりも小さいと判定することができる。
【0075】
ステップS103の処理において、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2よりも小さいと判定する場合には(S103:YES)、出力制限部103は、処理をステップS104に移行する。
【0076】
ステップS104では、出力制限部103は、制限値Lmxとして第1制限値Lm1を設定する。第1制限値Lm1の一例について説明する。第1制限値Lm1は、制動時に所定の制動力を確保するために設定される。たとえば、第1制限値Lm1は、第1制限値Lm1と等しい値までWC圧Pwcを増大させれば、常用制動の範囲における制動力を確保できる値として設定されている。常用制動とは、車両の運転者による制動操作部材21の操作量に応じて制動力を付与する制動である。常用制動の範囲で発生可能な制動力として確保すべき大きさの制動力をWC圧Pwcに変換した値が第1制限値Lm1である。制限値Lmxを設定した後、出力制限部103は、本処理ルーチンを終了する。
【0077】
一方、ステップS103の処理において、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上であると判定する場合には(S103:NO)、出力制限部103は、処理をステップS105に移行する。
【0078】
ステップS105では、出力制限部103は、制限値Lmxとして第2制限値Lm2を設定する。第2制限値Lm2は、第1制限値Lm1よりも小さい値である。第2制限値Lm2の一例は、「0」である。制限値Lmxを設定した後、出力制限部103は、本処理ルーチンを終了する。
【0079】
〈補充制御〉
補充制御部104は、第1制限制御によって第1制動圧P1が制限されると、補充制御を実行する。
【0080】
補充制御の一例では、補充制御部104は、常用制動の範囲で確保すべき大きさの制動力を付与するようにWC圧Pwcを増大させる。すなわち、WC圧Pwcが第1制限値Lm1と等しくなるように第2制動圧P2を増大させる。補充制御部104は、要求制動力が常用制動の範囲よりも大きい場合には、要求制動力に対して第1制動圧P1だけでは不足する分の制動力を第2制動部23によって補うように第2制動部23を作動させることもできる。
【0081】
〈第1実施形態の作用及び効果〉
第1実施形態の作用及び効果について説明する。
図4は、第1制限制御及び補充制御が実行される場合の一例を示す。
【0082】
図4に示す例では、例示する期間において
図4の(a)に示すように制動要求が継続しており、制動力の付与が継続されている。
図4の(e)は、車輪FL,FR,RL,RRのうち一つの車輪についてのホイールシリンダ11に供給されるブレーキ液の液圧を制動圧として例示したものである。
図4の(e)における実線は、WC圧Pwcを示す。
図4の(e)における二点鎖線は、第1制動圧P1を示す。
【0083】
図4の(b)は、第1温度Tmaの推移を示す。
図4の(c)は、第2温度Tmbの推移を示す。第1温度Tma及び第2温度Tmbは、時間の経過に伴って徐々に上昇している。
【0084】
タイミングt12よりも前の期間では、
図4の(b)に示すように第1温度Tmaも第2温度Tmbも第1判定値Tth1に達していない。このため、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であるとは判定されない(S102:NO)。
【0085】
タイミングt12において、
図4の(c)に示すように第2温度Tmbが第1判定値Tth1に達している。このため、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であると判定され(S102:YES)、制限値Lmxが設定される(S104)。
図4の(d)に示すように、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定される。この結果、タイミングt12以降では、
図4の(e)に二点鎖線で示すように、第1制動圧P1の上限が第1制限値Lm1に制限される。タイミングt12よりも前の期間における第1制動圧P1は、第1制限値Lm1よりも高くなっている。このため、タイミングt12以降では、第1制動圧P1が減少されている。
【0086】
制限値Lmxが設定されることで、タイミングt12以降では、補充制御が開始される。補充制御によって第2制動部23が作動されることで第2制動圧P2が増大される。
図4の(e)では、実線で示すWC圧Pwcと、二点鎖線で示す第1制動圧P1と、の差分が第2制動圧P2の大きさを示す。タイミングt12よりも前の期間では、第2制動圧P2は、「0」である。
【0087】
タイミングt13において、
図4の(b)に示すように第1温度Tmaが第1判定値Tth1に達している。すなわち、この時点では、第1温度Tmaは、第2判定値Tth2よりも低い。さらに、この時点では、
図4の(c)に示すように第2温度Tmbも第2判定値Tth2よりも低い。このため、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2よりも小さいと判定される(S103:YES)。したがって、制限値Lmxは、第1制限値Lm1に設定されたままである。
【0088】
タイミングt14において、
図4の(c)に示すように第2温度Tmbが第2判定値Tth2に達している。このため、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上であると判定され(S103:NO)、
図4の(d)に示すように制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定される(S105)。この結果、タイミングt14以降では、
図4の(e)に二点鎖線で示すように、第1制動圧P1の上限が第2制限値Lm2に制限される。このため、タイミングt14以降では、第1制動圧P1がさらに減少されている。なお、第1温度Tmaは、
図4の(b)に示すように、タイミングt14よりも後のタイミングt15において第2判定値Tth2に達している。
【0089】
第1制動圧P1の上限が第2制限値Lm2に制限されるタイミングt14以降では、補充制御によって第2制動圧P2がさらに増大される。制動制御装置100では、このように、第2制動部23の作動によって制動力を確保することができる。ここでは、第1制限値Lm1に等しい値まで第2制動圧P2が増大されている。すなわち、常用制動の範囲で要する制動力が第2制動圧P2によって確保されている。
【0090】
制動制御装置100では、第1制限制御によって、第1制動部50が備える第1モータ装置542の温度上昇に伴って制限値Lmxが段階的に変更される。すなわち、制動制御装置100は、第1制動部温度Tm1の上昇に伴って、段階的に第1制動部50によって発生させる制動力を制限している。第1制動部温度Tm1が比較的低い間、すなわち第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であり第2判定値Tth2よりも小さい間では、制動力を確保しつつ第1制動部温度Tm1の上昇速度を遅らせることができる。第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合には、制限値Lmxがより小さくされることによって、第1制動部温度Tm1の上昇を抑制することができる。これによって、過熱状態に起因する異常の発生を抑制して、第1制動部50を保護することができる。
【0091】
制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されているタイミングt12からタイミングt14までの期間では、タイミングt14以降の期間と比較して、第2制動圧P2が小さくても要求制動力を満たしやすい。このため、タイミングt12からタイミングt14までの期間では、第2制動部23の負荷が増大することを軽減できる。すなわち、制動制御装置100によれば、制限値Lmxが比較的大きい第1制限値Lm1である場合には、制限値Lmxが小さい第2制限値Lm2である場合よりも、補充制御において第2制動部23によって発生させる制動力の増大量を小さく抑えやすくなる。これによって、第1制動部温度Tm1が比較的低い間、すなわち第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であり第2判定値Tth2よりも小さい間では、第2制動部23にかかる負荷の増大を軽減することができる。すなわち、第2制動部23における温度の上昇速度を遅くすることができる。第2制動部23の温度上昇を抑制することができるため、第2制動部23の温度が過度に上昇することを抑制できる。
【0092】
制動制御装置100によれば、第2制限値Lm2が「0」に設定されていることによって、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合には、第1制動圧P1が「0」に制限される。これによって、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合には第1制動部50を作動させないようにして第1制動部50を保護することができる。
【0093】
(第2実施形態)
第2実施形態の制動制御装置について、
図5及び
図6を参照して説明する。第1実施形態における第1制限制御では、第1制動部温度Tm1が判定値以上となった時点で制限値Lmxの設定を行うようにした。第2実施形態では、制動要求が継続している間には制限値Lmxの設定を新たに行うことを保留して、当該制動要求が終了した場合に、制動要求が継続している間に保留していた制限値Lmxの設定を行うことができる点で第1実施形態と異なる。また、第2実施形態では、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合には、以降において第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満になるまでは、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2未満となっても、制限値Lmxを第2制限値Lm2に保持するようにした。
【0094】
第2実施形態では、制動制御装置は、制動要求中に第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満から第1判定値Tth1以上となった場合には、当該制動要求が継続している間、制限値Lmxの設定を新たに行うことを保留することもできる。制動制御装置は、制動要求中に第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2未満から第2判定値Tth2以上となった場合には、制動要求が継続している間であっても制限値Lmxを第2制限値Lm2に変更することもできる。
【0095】
図5を用いて、第2実施形態の制動制御装置が実行する第1制限制御について説明する。
図5には、第2実施形態の制動制御装置が第1制限制御を実行する際の処理の流れを例示している。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0096】
図5では、第1実施形態において
図3に示したフローチャートに対して、以下の処理が追加されている。一つは、制動要求を判断するための処理(ステップS405)である。また、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上になったことがあるか否かを判断するための処理(ステップS404、ステップS407)である。さらに、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となった場合の設定処理(ステップS409、ステップS410)である。
【0097】
たとえば、第2実施形態の制動制御装置は、ステップS401では、ステップS101と共通の処理を実施することができる。ステップS401で実施する取得処理では、さらに、制動制御装置は、制動要求があるか否かを取得することもできる。その後、制動制御装置は、処理をステップS402に移行する。
【0098】
ステップS402では、制動制御装置は、ステップS102と共通の処理によって第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であるか否かを判定することができる。ステップS402において肯定判定される場合には、制動制御装置は、処理をステップS403に移行する。
【0099】
ステップS403では、制動制御装置は、ステップS103と共通の処理によって第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2よりも小さいか否かを判定することができる。ステップS403において肯定判定される場合には、制動制御装置は、処理をステップS404に移行する。
【0100】
ステップS404では、第2実施形態の制動制御装置は、第2判定値超過記憶フラグF1がONであるか否かを判定する。第2判定値超過記憶フラグF1は、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合にONにされるフラグである。第2判定値超過記憶フラグF1の初期値は、OFFである。第2実施形態の制動制御装置による第2判定値超過記憶フラグF1の操作については後述する。
【0101】
ステップS404の処理において肯定判定される場合には、第2実施形態の制動制御装置は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS404の処理において否定判定される場合には、制動制御装置は、処理をステップS405に移行する。
【0102】
ステップS405では、第2実施形態の制動制御装置は、制動要求があるか否かを判定する。ステップS405の処理において肯定判定される場合には、第2実施形態の制動制御装置は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS405の処理において否定判定される場合には、制動制御装置は、処理をステップS406に移行する。
【0103】
ステップS406では、第2実施形態の制動制御装置は、ステップS104と共通の処理によって制限値Lmxとして第1制限値Lm1を設定することができる。その後、制動制御装置は、本処理ルーチンを終了する。
【0104】
ステップS403の処理において否定判定される場合、すなわち第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上である場合には、第2実施形態の制動制御装置は、処理をステップS407に移行する。ステップS407では、第2実施形態の制動制御装置は、第2判定値超過記憶フラグF1をONにする。その後、制動制御装置は、処理をステップS408に移行する。ステップS408では、第2実施形態の制動制御装置は、ステップS105と共通の処理によって制限値Lmxとして第2制限値Lm2を設定することができる。その後、制動制御装置は、本処理ルーチンを終了する。
【0105】
ステップS402の処理において否定判定される場合、すなわち第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1よりも小さい場合には、制動制御装置は、処理をステップS409に移行する。ステップS409では、第2実施形態の制動制御装置は、第2判定値超過記憶フラグF1をOFFにする。その後、制動制御装置は、処理をステップS410に移行する。ステップS410では、第2実施形態の制動制御装置は、制限値Lmxを初期値にすることができる。その後、制動制御装置は、本処理ルーチンを終了する。
【0106】
以上説明した第1制限制御によって第2実施形態の制動制御装置では、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となって、ステップS403において肯定判定がなされても、制限値Lmxの設定を保留する場合がある。具体的には、ステップS405において制動要求があるか否かを判定して、制動要求がある場合にはステップS405において肯定判定がなされて制限値Lmxの設定が保留される。一方で、制動要求が解消された場合にはステップS405において否定判定がなされる。このため、ステップS406の処理が実行されることで保留していた制限値Lmxの設定が行われる。すなわち、制動要求が解消された場合に制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定される。
【0107】
一方、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となって、ステップS402が肯定判定されて、ステップS403が否定判定された場合には、第2実施形態の制動制御装置は、ステップS407で第2判定値超過記憶フラグF1をONにする。その後、ステップS408において制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定される。すなわち、この場合には、制動要求の有無に関わらず、制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定される。
【0108】
また、第2実施形態の制動制御装置は、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった後に、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2未満となった場合には、制限値Lmxを更新せず、制限値Lmxを第2制限値Lm2に維持する。具体的には、ステップS402において肯定判定されてステップS403において肯定判定されても、第2判定値超過記憶フラグF1がONに設定されているために、ステップS404において肯定判定がなされる。これによって、制限値Lmxが更新されず、制限値Lmxは第2制限値Lm2に維持される。
【0109】
第2実施形態の制動制御装置では、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となると、ステップS402において否定判定されて、ステップS409の処理が実行される。ステップS409の処理が実行されると、第2判定値超過記憶フラグF1がOFFにされる。さらに制限値Lmxが初期値に戻される。制限値Lmxが初期値に戻されると、第1制限制御が終了される。なお、制限値Lmxの初期値とは、第1制動圧P1の制限が実行されない値であればよい。例えば、制限値Lmxの初期値は、その時の要求制動力である目標WC圧に設定することができる。あるいは、第1制動部50の出力最大値が制限値Lmxの初期値に設定されてもよい。
【0110】
第2実施形態の制動制御装置は、第1制限制御を終了させる際に終了特定処理を実行することもできる。
〈第2実施形態の作用及び効果〉
第2実施形態の作用及び効果について説明する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と異なり、第1制動部50が制動力を発生しないときには、第1制動部温度Tm1が直ぐに所定の速度で低下する場合を想定している。
【0111】
図6は、第1制限制御及び補充制御が実行される場合の一例を示す。
図6に示す例では、例示する期間において制動の要求と解消とが繰り返されている。
図6の(a)に示すように、タイミングt22において制動要求が解消されている。その後、タイミングt23で再び制動が要求され、タイミングt25において制動要求が再度解消されている。さらにその後、タイミングt26で再び制動が要求されている。
【0112】
図6の(b)は、第1温度Tma及び第2温度Tmbのうち高い方の温度を第1制動部温度Tm1としてプロットしたものである。
図6の(d)は、車輪FL,FR,RL,RRのうち一つの車輪についてのホイールシリンダ11に供給されるブレーキ液の液圧を制動圧として例示したものである。
図6の(d)における実線は、WC圧Pwcを示す。
図6の(d)における二点鎖線は、第1制動圧P1を示す。
【0113】
タイミングt21において、
図6の(b)に示すように第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となっている。この時点では制動要求が継続しており、
図6の(d)に示すように制動力の付与が継続されている。このため、制限値Lmxの設定が保留される。
【0114】
タイミングt22において、制動要求が解消されている。この結果、
図6の(c)に示すように、タイミングt22以降では、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定される。
【0115】
これによって、タイミングt22よりも前の期間では第1制動圧P1が制限されず、タイミングt22以降での制動では、第1制動圧P1が第1制限値Lm1に制限される。第1制動圧P1が制限されることによって補充制御が実施され、
図6の(d)に示すように第2制動圧P2が増大されてWC圧Pwcの不足が補われている。なお、第2制動圧P2は、実線で示すWC圧Pwcと二点鎖線で示す第1制動圧P1との差分として
図6の(d)に表示している。
【0116】
タイミングt24において、
図6の(b)に示すように第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となっている。この時点では制動要求が継続しており、
図6の(d)に示すように制動力の付与が継続されているが、第1制動部50の過熱からの保護を優先して、第1制動圧P1が第2制限値Lm2に制限される。第2制限値Lm2は、第1実施形態と同様に「0」が設定されている。その後、タイミングt24以降では、第2制限値Lm2として「0」が設定されていることによって、第1制動部50の作動が抑制されて
図6の(b)に示すように第1制動部温度Tm1が低下する。第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2未満となるが、制限値Lmxは第2制限値Lm2が維持される。
【0117】
タイミングt25において、制動要求が解消されている。タイミングt25以降は制動要求が解除されたために、第1制動部50は作動が抑制されている。このため、
図6の(b)に示すように引き続き第1制動部温度Tm1が低下する。
【0118】
この結果として、タイミングt24よりも前の期間では、
図6の(c)に示すように制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定された状態が継続される。タイミングt24以降での制動では、第1制動圧P1が第2制限値Lm2に制限される。第2制限値Lm2として「0」が設定されていることによって、
図6の(d)に二点鎖線で示すように第1制動圧P1が「0」に制限される。補充制御によって第2制動圧P2が増大されてWC圧Pwcの不足が補われているが、ここでは、第1制限値Lm1に等しい値まで第2制動圧P2が増大されている。すなわち、常用制動の範囲で要する制動力が第2制動圧P2によって確保されている。
【0119】
タイミングt26において、運転者の制動操作により制動要求が発生する。ここで、運転者の要求制動力を表す目標WC圧は、第1制限値Lm1に等しい値よりも大きいLmaであるが、第1制動圧P1は制限値Lmxに従って「0」である。タイミングt26以降では、補充制御によって第2制動圧P2が増大されて第1制限値Lm1に等しい値までWC圧Pwcが確保されている。
【0120】
タイミングt27において、
図6の(b)に示すように第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となる。これにより、第1制限制御を終了し、制限値Lmxには目標WC圧であるLmaが設定される。この際、タイミングt27時点での第1制動圧P1は「0」であり、補充制御を直ちに終了すると制動力の急変が起きる可能性がある。そのため、二点鎖線で示される第1制動圧P1の上昇と同期するように補充制御による第2制動圧P2を減少させる終了特定処理を行っている。終了特定処理は第2制動圧P2が「0」となった時点であるタイミングt28で終了する。
図6の(d)におけるタイミングt27からタイミングt28までの期間には、当該期間において第1制限値Lm1に等しい値から「0」まで減少される第2制動圧P2を示す太い破線を表示している。この太い破線は、終了特定処理中の第2制動圧P2の変動を示すものである。タイミングt28で終了特定処理が終了した後、第1制動圧P1は目標WC圧に従ってLmaまで上昇する。このため、WC圧PwcもLmaまで上昇している。
【0121】
以上のように、第2実施形態の制動制御装置によれば、制動が継続されている間には、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となっても、制限値Lmxは第1制限値Lm1に変更されない。たとえば、運転者が制動操作部材21を操作し続けている間は、制限値Lmxが変更されなくなる。これによって、第1制限制御が介入して第1制動圧P1が制限されることによるWC圧Pwcの変動が制動中に発生することを抑制できる。すなわち、制動中の制動力変動を抑制することができる。一方、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合は、制動要求の有無に関わらず制限値Lmxが第2制限値Lm2に変更されて、第1制動部50の温度上昇を確実に抑制することができる。さらに、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合は、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となるまでは、制限値Lmxが第2制限値Lm2から更新されない。これによって、第1制動部温度Tm1の温度変化に伴って第1制動部50の制御が頻繁に切り替わることを抑制できるため、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0122】
(変更例)
上記第1実施形態及び第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。第1実施形態、第2実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0123】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1温度Tma及び第2温度Tmbのうち少なくとも一方が第1判定値Tth1以上である場合に第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であると判定する例を示した。出力制限部103は、第1温度Tma及び第2温度Tmbの両方が第1判定値Tth1以上である場合に第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であると判定することもできる。同様に、出力制限部103は、第1温度Tma及び第2温度Tmbの両方が第2判定値Tth2以上である場合に第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上であると判定することもできる。
【0124】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1判定値Tth1及び第2判定値Tth2を用いて第1制動部温度Tm1が高いか否かを判定する例を示した。すなわち、第1温度Tma及び第2温度Tmbについて、共通の判定値として第1判定値Tth1及び第2判定値Tth2を用いた。これに替えて、出力制限部103は、第1温度Tmaが高いか否かを判定するための判定値と、第2温度Tmbが高いか否かを判定するための判定値と、を用いることもできる。たとえば、第1温度Tmaの第2判定値Tth2は、モータコイルの発熱によってコイルの被覆が溶解する温度に基づいて設定してもよい。第2温度Tmbの第2判定値Tth2は、駆動回路の半導体素子の耐熱温度に基づいて設定してもよい。
【0125】
また、第1温度Tmaの第1判定値Tth1を、第1温度Tmaの第2判定値Tth2に対する余裕度や、所定の使用条件で第1温度Tmaが第1判定値Tth1に到達すると予想される頻度に基づいて設定してもよい。同様に、第2温度Tmbの第1判定値Tth1を、第2温度Tmbの第2判定値Tth2に対する余裕度や、所定の使用条件で第2温度Tmbが第1判定値Tth1に到達すると予想される頻度に基づいて設定してもよい。
【0126】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第2制限値Lm2として「0」を採用する例を示した。第2制限値Lm2は、「0」に限らない。第2制限値Lm2は、第1制限値Lm1よりも小さい値であればよい。
【0127】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1制限値Lm1と第2制限値Lm2とを用いて、第1制動圧P1を二段階に制限する例を示した。第1制動圧P1を制限するための制限値を三つ以上用いて、第1制動圧P1を三段階以上に制限することもできる。たとえば、第3制限値Lm3を「0」として、第2制限値Lm2を第3制限値Lm3よりも大きく、且つ第1制限値Lm1よりも小さい値とすることができる。この場合には、出力制限部103は、各制限値に対応した三つの判定値を用いて第1制動部温度Tm1の判定を行い、制限値Lmxの設定を行うようにするとよい。各判定値は、第1制限値Lm1に対応する判定値、第2制限値Lm2に対応する判定値、第3制限値Lm3に対応する判定値の順に大きい値となるように設定するとよい。
【0128】
・上記第2実施形態では、制動要求が解消されたタイミングで、保留していた制限値Lmxの設定を行うようにした。制限値Lmxの設定は、制動要求が解消されたタイミングに限らず、制動要求が継続していない期間であれば行うことができる。すなわち、制動要求が解消されてから次の制動が要求されるまでの期間において、制限値Lmxの設定を新たに行うことができる。
【0129】
・制動要求が開始されたときに、
図3に示した処理ルーチンが開始されるようにしてもよい。この構成によれば、制動要求が開始されたときにのみ、第1制動部温度Tm1に基づいて制限値Lmxの変更が行われる。これによって、上記第2実施形態において制限値Lmxの設定を新たに行うことを保留した場合のように、制動中の制動力変動を抑制することができる。
【0130】
・上記第2実施形態では、制動要求が継続している間は第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となっても制限値Lmxの設定を新たに行うことを保留するようにした。さらに、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上から第1判定値Tth1未満となった場合にも、制動要求が継続している間は制限値Lmxを初期値に戻すことを保留して、第1制限制御を終了することを保留するようにしてもよい。より詳しく言えば、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となる前に第1判定値Tth1未満となった場合、及び、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった後に第1判定値Tth1未満となった場合の両方とも、制動要求が継続している間は制限値Lmxを初期値に戻すことを保留して第1制限制御を終了することを保留するようにしてもよい。第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となる前に第1判定値Tth1未満となった場合、及び、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった後に第1判定値Tth1未満となった場合のうちどちらか一方の場合において、制動要求が継続している間は制限値Lmxを初期値に戻すことを保留して第1制限制御を終了することを保留するようにしてもよい。これにより、第1制動部温度Tm1が低下して第1制動部温度Tm1を解除する場合にも制動中の制動力変動を抑制できる。
【0131】
・出力制限部103は、第2制動部23によって発生させる制動力を制限する第2制限制御を実行してもよい。出力制限部103が実行する第2制限制御の一例について、
図7を用いて説明する。
【0132】
図7は、出力制限部103が第2制限制御を実行する際の処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンを開始すると、まず、ステップS201では、出力制限部103は、取得処理を実行する。出力制限部103は、第2制動部温度Tm11を取得部101から取得する。その後、出力制限部103は、処理をステップS202に移行する。ステップS202では、出力制限部103は、第2制動部温度Tm11が下流制限判定値Tth11以上であるか否かを判定する。
【0133】
第2制動部温度Tm11の一例は、第2モータ装置64が備える第2電動モータにおけるコイルの温度である。第2制動部温度Tm11としては、第2モータ装置64が備える駆動回路における半導体素子の温度を採用してもよい。第2制動部温度Tm11として採用する温度、すなわちコイル温度又は駆動回路における半導体素子の温度は、第3温度センサSE3の検出値を用いることができる。あるいは、第2制動部温度Tm11は、第3温度センサSE3の検出値及び第2モータ装置64の駆動関連情報に基づいて推定した推定温度であってもよい。第2制動部温度Tm11は、第3温度センサSE3の検出値又は第2モータ装置64の駆動関連情報に基づいて推定した推定温度であってもよい。第2モータ装置64の駆動関連情報としては、たとえば、駆動時の電圧、駆動時の電流、モータ駆動時間、モータ停止時間、駆動周波数等がある。
【0134】
下流制限判定値Tth11は、第2モータ装置64の温度上昇を抑制する必要があるか否かを判定するために、予め実験等によって算出された値が設定されている。下流制限判定値Tth11は、規定のしきい値に対応する。
【0135】
第2制動部温度Tm11が下流制限判定値Tth11よりも小さい場合には(S202:NO)、出力制限部103は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方で、第2制動部温度Tm11が下流制限判定値Tth11以上である場合には(S202:YES)、出力制限部103は、処理をステップS203に移行する。
【0136】
ステップS203では、出力制限部103は、下流制限値Lmyとして、保護制限値Lmlを設定する。保護制限値Lmlは、第2モータ装置64の温度上昇を抑制して第2モータ装置64を保護するために、第2制動部23の出力を制限する値として設定されている。下流制限値Lmyを設定すると、出力制限部103は、本処理ルーチンを終了する。
【0137】
第2制限制御によれば、第2制動部温度Tm11が下流制限判定値Tth11以上である場合に、第2制動部温度Tm11が下流制限判定値Tth11よりも小さい場合よりも、第2制動部23によって発生させる制動力が小さく制限される。言い換えれば、第2制動部23によって補償すべき制動力が緩和される。第2制限制御が実行されることによって、前記第2制動部23に掛かる負荷が低減され、第2モータ装置64の温度が過度に上昇することを抑制できる。これによって、過熱状態に起因する異常の発生を抑制して、第2制動部23が備える第2モータ装置64を保護することができる。
【0138】
・
図7を用いて説明した上記第2制限制御では、第2制動部温度Tm11として第2モータ装置64におけるコイルの温度又は半導体素子の温度を用いた。上記第1実施形態及び第2実施形態における第1制限制御と同様に、第2モータ装置64におけるコイルの温度及び半導体素子の温度を用いて判定を行ってもよい。
【0139】
・第2制限制御は、
図8に示す処理ルーチンに従って実行されてもよい。
図8は、出力制限部103が第2制限制御を実行する際の処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0140】
本処理ルーチンを開始すると、まず、ステップS301では、出力制限部103は、補充制御を実施中であるか否かを判定する。補充制御を実行していない場合には(S301:NO)、出力制限部103は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0141】
一方で、補充制御を実施中である場合には(S301:YES)、出力制限部103は、処理をステップS302に移行する。ステップS302では、出力制限部103は、取得処理を実行する。出力制限部103は、制限値Lmxの設定値を取得部101から取得する。その後、出力制限部103は、処理をステップS303に移行する。
【0142】
ステップS303では、出力制限部103は、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されているか否かを判定する。制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されている場合には(S303:YES)、出力制限部103は、処理をステップS304に移行する。ステップS304では、出力制限部103は、下流制限値Lmyとして保護制限値Lmlを設定する。その後、出力制限部103は、本処理ルーチンを終了する。
【0143】
一方で、ステップS303の処理において、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されていない場合には(S303:NO)、出力制限部103は、処理をステップS305に移行する。たとえば制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定されている場合には、出力制限部103は、処理をステップS305に移行する。
【0144】
ステップS305では、出力制限部103は、下流制限値Lmyとして緩和制限値Lmhを設定する。緩和制限値Lmhは、保護制限値Lmlよりも大きい値である。すなわち、下流制限値Lmyとして緩和制限値Lmhが設定されている場合には、下流制限値Lmyとして保護制限値Lmlが設定されている場合と比較して、第2制動部23の制限が緩和されているといえる。
【0145】
図8を用いて説明した上記第2制限制御によれば、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されている場合には、制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定されている場合よりも、第2制動部23によって発生させる制動力が小さく制限される。これによって、第2制動圧P2が過度に大きくされることを抑制できるため、第2制動部23の負荷を軽減することができる。また、制限値Lmxとして第2制限値Lm2が設定されている場合には、第2制動部23の制限が緩和される。これによって、第1制動圧P1が制限されることによって不足するWC圧Pwcを第2制動圧P2によって補いやすくなる。このとき、緩和制限値Lmhが設定されていることによって、第2制動圧P2の増大によって第2制動部23が過熱状態になることを抑制できる。
【0146】
・
図7を用いて説明した上記第2制限制御においても、
図8を用いて説明した上記第2制限制御のように保護制限値Lmlと緩和制限値Lmhとを用いた二段階の制限を行うこともできる。この場合には、出力制限部103は、各制限値に対応した二つの判定値を用いて第2制動部温度Tm11の判定を行い、下流制限値Lmyの設定を行うようにするとよい。具体的には、下流制限判定値Tth11に加えて、緩和制限値Lmhに対応する判定値として下流制限判定値Tth11よりも大きい判定値を用いるとよい。
【0147】
・第2制限制御において、出力制限部103は、第2制動部23の出力を制限するにあたって、三段階以上の制限を行うこともできる。
・第2制限制御では、第1制動圧P1に対する制限値Lmxが大きいほど、下流制限値Lmyを小さく設定してもよい。また、第1制動圧P1に対する制限値Lmxが小さいほど、下流制限値Lmyを大きく設定してもよい。
【0148】
・
図8では、ステップS301の処理として、補充制御を実施中であるか否かを判定する処理を例示した。これに替えて、第1制限制御を実施中であるか否かを判定する処理を行ってもよい。この場合は、第1制限制御を実施中である場合には、出力制限部103は、肯定判定を行って処理をステップS302に移行することができる。一方で、第1制限制御が実施されていない場合には、出力制限部103は、否定判定を行って
図8に示す処理ルーチンを終了することができる。
【0149】
・
図8におけるステップS303の処理では、制限値Lmxとして第1制限値Lm1が設定されているか否かを判定した。これに替えて、制限値Lmxの選択に用いられる値、すなわち第1制動部温度Tm1に基づいて判定を行ってもよい。たとえば、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上であり且つ第2判定値Tth2よりも小さい場合には、出力制限部103は、処理をステップS304に移行することができる。一方で、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上である場合には、出力制限部103は、処理をステップS305に移行することができる。なお、この場合には、ステップS302の処理では、第1制動部温度Tm1を取得する処理を行うとよい。
【0150】
・第2制限制御における下流制限値Lmyの設定は、上記第2実施形態において制限値Lmxの新たな設定を保留する場合と同様に、制動要求が継続している間は保留することもできる。
【0151】
・第2制限制御が実施されている場合の補充制御では、補充制御部104は、下流制限値Lmyによって制限されている範囲で第2制動圧P2を増大させる。この結果として実際に車両に付与される制動力が要求制動力に達しない場合には、出力制限部103は、第1制限制御による制限及び第2制限制御による制限のうち少なくとも一方の制限を緩和して制動力を増大させてもよい。また、第1制限制御、補充制御及び第2制限制御が実行されていることによって第1制限値Lm1と等しい値までWC圧Pwcが増大されない場合にも、出力制限部103は、制限を緩和して制動力を増大させてもよい。
【0152】
・出力制限部103が実行する第1制限制御の一例は、第1制動部50によって発生させる制動力の制限として、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力のそれぞれに対する制限を行うものである。その他の例として第1制限制御では、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力の合計、すなわち車両に付与する総制動力に対する制限を行ってもよい。第2制限制御についても同様に、第2制動部23によって発生させる制動力の制限として、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力の合計、すなわち車両に付与する総制動力に対する制限を行ってもよい。
【0153】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1温度センサSE1によって、第1電動モータのコイルの温度を検出して、第2温度センサSE2によって、第1モータ装置542における駆動回路の半導体素子の温度を検出していた。これに替えて、間接的に第1電動モータのコイル温度や第1モータ装置542における駆動回路の温度を推定するようにしてもよい。
【0154】
温度を推定する構成の一例を説明する。まず第1温度センサSE1により雰囲気温度や第1制動部50のブレーキ液の温度を検出する。そして、第1温度センサSE1が検出した温度と、モータの駆動時間、モータの停止時間、駆動中のモータに流れる電流値等に基づいて、第1電動モータのコイル温度を推定することができる。別の例としては、まず第2温度センサSE2により、雰囲気温度や駆動回路周辺の温度を検出する。そして、第2温度センサSE2が検出した温度と駆動回路の駆動状態に基づいて、第1モータ装置542における駆動回路の温度を推定することができる。上記駆動回路の駆動状態は、具体的には、出力電圧や駆動周波数や駆動時間や時間等のいずれか一つあるいは二つ以上の組み合わせである。また、温度推定の際に第1電動モータの温度モデルや第1モータ装置542における駆動回路の温度モデルに基づいて推定するようにしてもよいし、予め実験で計測したデータをマップ等で記憶して、記憶したデータに基づいて推定するようにしてもよい。
【0155】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、一つの制動制御装置100によって液圧発生装置22及び第2制動部23を制御していた。たとえば、液圧発生装置22を制御する第1の制動制御装置と、第2制動部23を制御する制御装置として第1の制動制御装置とは別個の制御装置である第2の制動制御装置と、を採用することもできる。
【0156】
図9には、第1の制動制御装置として制動制御装置100を例示して、第2の制動制御装置である制動制御装置200を例示している。制動制御装置200は、機能部として取得部201を備えていてもよい。取得部201は、車両の状態量を取得することができる。制動制御装置200は、機能部として制御部202を備えていてもよい。制御部202は、制動装置を制御する機能を備えている。たとえば、制動制御装置100は液圧発生装置22を制御し、制動制御装置200は第2制動部23を制御し、制動制御装置100と制動制御装置200は信号線で結ばれるように構成されてもよい。補充制御にて要求制動力に対して第1制動圧P1だけでは不足する分の制動力を第2制動部23によって補うように第2制動部23を作動させる場合には、制動制御装置100が制動制御装置200に対して第2制動部23で発生させる制動力を伝達してもよい。制動制御装置200は、制動制御装置100から伝達された制動力に基づいて第2制動部23を制御することができる。あるいは、制動制御装置100から制動制御装置200へ、要求制動力と制動制御装置200の温度状態と制限値Lmxを送信してもよい。制動制御装置200は、制動制御装置100から受信した情報に基づいて第2制動部23で発生させる制動力を算出して、算出した制動力に基づいて第2制動部23を制御してもよい。
【0157】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、第1制限制御を次のように行う例を示した。すなわち、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となった場合に制限値Lmxを第1制限値Lm1に設定して、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となった場合に、第1制限制御を終了していた。これに対して、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1以上となった場合に制限値Lmxを第1制限値Lm1に設定して、第1制動部温度Tm1が解除用判定値Tth1r未満となった場合に、第1制限制御を終了するようにしてもよい。解除用判定値Tth1rは、第1判定値Tth1よりも小さな値とする。
【0158】
・上記第1実施形態では、第1制限制御を次のように行う例を示した。すなわち、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合に制限値Lmxを第2制限値Lm2に設定して、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2未満となった場合に、制限値Lmxを第1制限値Lm1に設定していた。これに対して、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合に制限値Lmxを第2制限値Lm2に設定して、第1制動部温度Tm1が解除用判定値Tth2r未満となった場合に、制限値Lmxを第1制限値Lm1に設定するようにしてもよい。この場合、解除用判定値Tth2rは、第2判定値Tth2よりも小さな値とする。解除用判定値Tth2rは第1判定値Tth1よりも大きいことが望ましい。
【0159】
・上記第2実施形態では、第1制動部温度Tm1が第2判定値Tth2以上となった場合に制限値Lmxを第2制限値Lm2に設定し、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1未満となった場合に第1制限制御を終了して制限値Lmxを初期値に設定していた。これに対して、第1制動部温度Tm1が第1判定値Tth1よりも小さな解除用判定値Tth1r未満となった場合に、第1制限制御を終了して制限値Lmxを初期値に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0160】
10…制動機構
20…制動装置
22…液圧発生装置
23…第2制動部
31…マスタシリンダ
50…第1制動部
54…加圧部
542…第1モータ装置
64…第2モータ装置
100…制動制御装置
101…取得部
102…制御部
103…出力制限部
104…補充制御部
FL,FR,RL,RR…車輪