(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20240910BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240910BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/17 A
B60T7/12 D
(21)【出願番号】P 2021125677
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】正木 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】前野 良汰
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102006053617(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0291279(US,A1)
【文献】国際公開第2017/002452(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181806(WO,A1)
【文献】特表2001-523618(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0278107(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪である第1輪、第2輪、第3輪及び第4輪に付与する制動力を制御する制動制御装置であって、
前記車輪に付与する制動力を指示する指示部として、第1主指示部と第2主指示部とバックアップ指示部とを有しており、
前記第1主指示部及び前記第2主指示部が共に正常に機能しているときには、前記第1輪及び前記第3輪に付与する制動力を前記第1主指示部が指示するとともに、前記第2輪及び前記第4輪に付与する制動力を前記第2主指示部が指示しており、
前記第1主指示部及び前記第2主指示部のうち、前記第2主指示部のみが正常に機能した状態となる異常が発生した異常時には、前記第1輪に付与する制動力の指示を前記第2主指示部が補完し、前記第3輪に付与する制動力の指示を前記バックアップ指示部が補完する
制動制御装置。
【請求項2】
前記第1輪及び前記第2輪は左右の前輪であり、前記第3輪及び前記第4輪は左右の後輪であり、前記異常時には、前記第4輪に付与する制動力の指示を前記バックアップ指示部が補完する請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記第1輪のホイールシリンダに液圧を発生させる第1輪用アクチュエータと、
前記第2輪のホイールシリンダに液圧を発生させる第2輪用アクチュエータと、
前記第1輪のホイールシリンダと前記第2輪のホイールシリンダとの連通を遮断した状態と同連通を許容した状態とを切替える第1の切替機構と、
を備えており、
前記第1主指示部は、前記第1輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第1輪に付与する制動力を指示しており、
前記第2主指示部は、前記第2輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第2輪に付与する制動力を指示しており、
前記第2主指示部は、前記異常時には、前記連通を遮断した状態から同連通を許容した状態へと前記第1の切替機構の状態を切替えるとともに、前記第2輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第1輪及び前記第2輪に付与する制動力を指示する
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記第3輪のホイールシリンダに液圧を発生させる第3輪用アクチュエータと、
前記第4輪のホイールシリンダに液圧を発生させる第4輪用アクチュエータと、
前記第3輪のホイールシリンダと前記第4輪のホイールシリンダとの連通を遮断した状態と前記連通を許容した状態とを切替える第2の切替機構と、
を備えており、
前記第1主指示部は、前記第3輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第3輪に付与する制動力を指示しており、
前記第2主指示部は、前記第4輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第4輪に付与する制動力を指示しており、
前記バックアップ指示部は、前記異常時には、前記連通を遮断した状態から同連通を許容した状態へと前記第2の切替機構の状態を切替えるとともに、前記第3輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第3輪及び前記第4輪に付与する制動力を指示する
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記バックアップ指示部は、前記第1主指示部から前記第3輪用アクチュエータへの発生液圧の指示が途絶えていることをもって、前記異常が発生していると判断する請求項4に記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記バックアップ指示部として、前記第3輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を行う第1バックアップ指示部と、前記第4輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を行う第2バックアップ指示部と、を有しており、
前記第1バックアップ指示部は、前記第1主指示部、前記第2主指示部、前記第1バックアップ指示部及び前記第2バックアップ指示部のうち、前記第1バックアップ指示部のみが正常に機能しているときには、前記連通を遮断した状態から同連通を許容する状態に前記第2の切替機構の状態を切替えるとともに、前記第3輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第3輪及び前記第4輪に付与する制動力を指示するものであり、
かつ前記第2バックアップ指示部は、前記第1主指示部、前記第2主指示部、前記第1バックアップ指示部及び前記第2バックアップ指示部のうち、前記第2バックアップ指示部のみが正常に機能しているときには、前記連通を遮断した状態から同連通を許容する状態に前記第2の切替機構の状態を切替えるとともに、前記第4輪用アクチュエータへの発生液圧の指示を通じて前記第3輪及び前記第4輪に付与する制動力を指示するものである
請求項4又は5に記載の制動制御装置。
【請求項7】
前記第1輪を制動するアクチュエータを駆動させる第1駆動部と、
前記第2輪を制動するアクチュエータを駆動させる第2駆動部と、
前記第3輪を制動するアクチュエータを駆動させる第3駆動部と、
前記第4輪を制動するアクチュエータを駆動させる第4駆動部と、
を備え、
前記第1主指示部、前記第2主指示部、前記第1駆動部、及び前記第2駆動部が第1制動ユニットに搭載され、
前記バックアップ指示部、前記第3駆動部、及び前記第4駆動部が前記第1制動ユニットと異なる第2制動ユニットに搭載される請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の制動制御装置。
【請求項8】
前記異常時に前記第2主指示部は、前記第1輪に付与する制動力と前記第2輪に付与する制動力が同じとなるように指示を行う請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪に付与する制動力を制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の各車輪に付与する制動力を制御する制動制御装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。同文献の制動制御装置は、各車輪に付与する制動力を指示する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)として、第1ECU及び第2ECUを備えている。そして、同文献の制動制御装置では、いずれか一方のECUに異常が生じた場合には、異常が生じたECUの処理を、もう一方のECUが補完することで、各車輪の制動力制御を継続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制動制御装置では、いずれか一方のECUに異常が生じた場合、もう一方のECUの処理量が大幅に増加する。そのため、正常時に必要な分を大幅に上回る高い処理能力を両ECUに持たせる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両の車輪である第1輪、第2輪、第3輪及び第4輪に付与する制動力を制御する装置である。同制動制御装置は、車輪に付与する制動力を付与する指示部として、第1主指示部と第2主指示部とバックアップ指示部とを有している。同制動制御装置では、第1主指示部及び第2主指示部が共に正常に機能しているときには、第1輪及び第3輪に付与する制動力を第1主指示部が指示するとともに、第2輪及び第4輪に付与する制動力を第2主指示部が指示している。そして、同制動制御装置では、第1主指示部及び第2主指示部のうち、第2主指示部のみが正常に機能した状態となる異常が発生した異常時には、第1輪に付与する制動力の指示を第2主指示部が補完し、前記第3輪に付与する制動力の指示をバックアップ指示部が補完している。
【0006】
ここで、上記制動制御装置において、第1主指示部が正常に機能しなくなった場合に、その機能を第2主指示部だけで補完する場合を考える。この場合、第1主指示部の異常時には、第2主指示部が制動力を指示する車輪の数が2輪から4輪に増え、その分、第2主指示部の処理量も増加する。一方、第1主指示部が正常に機能しなくなった場合に、その機能をバックアップ指示部だけで補完する場合を考える。この場合、第1主指示部と同等の機能をバックアップ指示部に持たせる必要がある。しかしながら、第1主指示部の異常時のためだけに高機能のバックアップ指示部を設けるのは、費用対効果の点で難しい。
【0007】
その点、上記制動制御装置では、第1主指示部が正常に機能しなくなった場合には、同第1主指示部が行っていた第1輪及び第3輪への制動力の指示を、第2主指示部とバックアップ指示部とが分担して補完する。そのため、異常時の第2主指示部の処理量の増加が抑えられる。また、バックアップ指示部に必要な機能も少なくても済む。したがって、異常耐性の高い制動制御装置の実現が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】制動制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】正常時の同制動制御装置の動作態様を示す図である。
【
図3】第1指示部の異常時における同制動制御装置の動作態様を示す図である。
【
図4】第1、第2指示部の異常時における同制動制御装置の動作態様を示す図である。
【
図5】制動制御装置の変形例における3系統異常時の動作態様を示す図である。
【
図6】制動制御装置の別の変形例における第1指示部の異常時の動作態様を示す図である。
【
図7】制動制御装置の更なる変形例における第1指示部の異常時の動作態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、制動制御装置を具体化した一実施形態を、
図1~
図4に従って説明する。
(制動制御装置10の構成)
図1を参照して、本実施形態の制動制御装置10の構成を説明する。本実施形態の制動制御装置10は、車両の第1輪11、第2輪12、第3輪13、及び第4輪14の4つの車輪に付与する制動力を制御する。本実施形態では、車両の左前輪を第1輪11、右前輪を第2輪12、左後輪を第3輪13、右後輪を第4輪14としている。各車輪に付与する制動力の制御は、各車輪のホイールシリンダ15~18の液圧調整を通じて行われる。
【0010】
また、制動制御装置10は、第1制動ユニット30と第2制動ユニット50とを備えている。第1制動ユニット30は、第1輪11及び第2輪12のホイールシリンダ15、16の液圧回路を備えている。また、第2制動ユニット50は、第3輪13及び第4輪14のホイールシリンダ17、18の液圧回路を備えている。
【0011】
(第1制動ユニット30の構成)
第1制動ユニット30は、第1輪11のホイールシリンダ15に液圧を発生させる第1輪用アクチュエータ31と、第2輪12のホイールシリンダ16に液圧を発生させる第2輪用アクチュエータ32と、を備えている。本実施形態では、第1輪用アクチュエータ31及び第2輪用アクチュエータ32として、電気モータによりシリンダ内でピストンを移動させることで、液圧を発生する電動シリンダを採用している。
【0012】
また、第1制動ユニット30は、第1電磁弁34を備えている。第1電磁弁34は、通電状態では閉弁する一方で、非通電状態では開弁する常開式の電磁弁である。第1輪11のホイールシリンダ15と第2輪12のホイールシリンダ16とは、第1電磁弁34を介して接続されている。第1電磁弁34が開弁した状態では、第1輪11及び第2輪12の双方のホイールシリンダ15、16に、第1輪用アクチュエータ31及び第2輪用アクチュエータ32が接続された状態となる。
【0013】
さらに、第1制動ユニット30は、液圧センサ37~38、第1駆動回路42、及び第2駆動回路43を備えている。液圧センサ37は、第1輪用アクチュエータ31の発生液圧を検出するセンサである。液圧センサ38は、第2輪用アクチュエータ32の発生液圧を検出するセンサである。第1駆動回路42は、第1輪用アクチュエータ31の電力制御用の回路であり、第2駆動回路43は、第2輪用アクチュエータ32の電力制御用の回路である。
【0014】
また、第1制動ユニット30は、第1指示部40、及び第2指示部41を備えている。第1指示部40は、車両の制動力制御のための各種処理を実行する1つ又は複数のプロセッサと、制御用のプログラムやデータを記憶したメモリと、を備える電子制御部である。また、第2指示部41は、第1指示部40と同様に構成された電子制御部である。第1指示部40は第1駆動回路42を制御可能に接続されており、第2指示部41は第2駆動回路43を制御可能に接続されている。また、第1指示部40及び第2指示部41は双方共に、第1電磁弁34を制御可能に接続されている。
【0015】
さらに、第1指示部40及び第2指示部41は、車内ネットワーク回線19に接続されている。これにより、第1制動ユニット30は、車内ネットワーク回線19を通じて制動制御装置10の他に車両に搭載された装置との通信を行う。さらに、第1指示部40及び第2指示部41は、制動制御装置内通信90に接続されている。加えて、第1指示部40及び第2指示部41は、ストロークセンサや車輪速センサといった車両センサ91からセンサ信号を受信可能に接続されている。なお、第1指示部40及び第2指示部41は、第1制動ユニット30内において、相互に通信可能に接続されている。
【0016】
(第2制動ユニット50の構成)
第2制動ユニット50の液圧回路の構成は、第1制動ユニット30の液圧回路と同様の構成となっている。すなわち、第2制動ユニット50は、第3輪13のホイールシリンダ17に液圧を発生させる第3輪用アクチュエータ51と、第4輪14のホイールシリンダ18に液圧を発生させる第4輪用アクチュエータ52と、を備えている。また、第2制動ユニット50は、常開式の電磁弁である第2電磁弁54を備えている。第3輪13のホイールシリンダ17と第4輪14のホイールシリンダ18とは、第2電磁弁54を介して接続されている。
【0017】
また、第2制動ユニット50は、液圧センサ57~58、第3駆動回路62、及び第4駆動回路63を備えている。液圧センサ57は、第3輪用アクチュエータ51の発生液圧を検出するセンサである。液圧センサ58は、第4輪用アクチュエータ52の発生液圧を検出するセンサである。第3駆動回路62は第3輪用アクチュエータ51の電力制御用の回路であり、第4駆動回路63は第4輪用アクチュエータ52の電力制御用の回路である。
【0018】
さらに、第2制動ユニット50は、第3指示部60及び第4指示部61の2つの電子制御部を備えている。第3指示部60は第3駆動回路62を制御可能に接続されており、第4指示部61は第4駆動回路63を制御可能に接続されている。また、第3指示部60及び第4指示部61には双方共に、第2電磁弁54を制御可能に接続されている。
【0019】
さらに、第3指示部60及び第4指示部61は、制動制御装置内通信90に接続されている。そして、第3指示部60及び第4指示部61は、制動制御装置内通信90を通じて、第1指示部40及び第2指示部41と通信可能とされている。第3指示部60及び第4指示部61は、ストロークセンサや車輪速センサといった車両センサ91からセンサ信号を受信可能に接続されている。
【0020】
(正常時の制動制御装置10の動作)
続いて、
図2を参照して、正常時の制動制御装置10の動作を説明する。ここでの正常時とは、第1指示部40及び第2指示部41が共に正常に機能している状態を表している。なお、以下の説明では、第1輪11のホイールシリンダ15の液圧を第1輪液圧P1、第2輪12のホイールシリンダ16の液圧を第2輪液圧P2、と記載する。また、第3輪13のホイールシリンダ17の液圧を第3輪液圧P3、第4輪14のホイールシリンダ18の液圧を第4輪液圧P4、と記載する。
【0021】
なお、
図2~
図7では、図中に示される制動制御装置10の各構成要素のうち、正常に機能している要素を実線で表し、正常に機能していない要素を破線で表している。また、
図2~
図7では、図中に示される制動制御装置10の各構成要素及び各ホイールシリンダ15~18の間の情報、液圧の伝達経路にあって、機能している経路を実線で表し、機能していない経路を点線で表している。
【0022】
正常時の第1指示部40及び第2指示部41は、第1電磁弁34に通電を指示している。よって、正常時の第1電磁弁34は閉弁した状態となっている。したがって、正常時には、第1輪用アクチュエータ31により第1輪液圧P1が発生される。また、正常時には、第2輪用アクチュエータ32により第2輪液圧P2が発生される。
【0023】
一方、正常時の第3指示部60及び第4指示部61は、第2電磁弁54に通電を指示している。よって、正常時の第2電磁弁54は閉弁した状態となっている。したがって、正常時には、第3輪用アクチュエータ51により第3輪液圧P3が発生される。また、正常時には、第4輪用アクチュエータ52により第4輪液圧P4が発生される。
【0024】
また、正常時の第1指示部40は、ペダルストローク等に基づき、第1輪液圧P1の目標値である第1輪目標液圧P1*、及び第3輪液圧P3の目標値である第3輪目標液圧P3*を演算する。そして、第1指示部40は、第1輪目標液圧P1*の演算値を第1駆動回路42に送信する。第1駆動回路42は、第1指示部40から受信した第1輪目標液圧P1*の演算値と液圧センサ37による第1輪用アクチュエータ31の発生液圧の検出値とを一致させるべく、第1輪用アクチュエータ31の駆動電力を調整する。また、第1指示部40は、第3輪目標液圧P3*の演算値を第3駆動回路62に送信する。第3駆動回路62は、受信した第3輪目標液圧P3*の演算値と液圧センサ37による第3輪用アクチュエータ51の発生液圧の検出値とを一致させるべく、第3輪用アクチュエータ51の駆動電力を調整する。なお、本実施形態では、第1指示部40は、第3輪目標液圧P3*の演算値を、車内ネットワーク回線19及び第3指示部60を経由して第3駆動回路62に送信している。
【0025】
一方、正常時の第2指示部41は、ペダルストローク等に基づき、第2輪液圧P2の目標値である第2輪目標液圧P2*、及び第4輪液圧P4の目標値である第4輪目標液圧P4*を演算する。そして、第2指示部41は、第2輪目標液圧P2*の演算値を第2駆動回路43に送信する。第2駆動回路43は、受信した第2輪目標液圧P2*の演算値と液圧センサ38による第2輪用アクチュエータ32の発生液圧の検出値とを一致させるべく、第2輪用アクチュエータ32の駆動電力を調整する。また、第2指示部41は、第4輪目標液圧P4*の演算値を第4駆動回路63に送信する。第4駆動回路63は、受信した第4輪目標液圧P4*の演算値と液圧センサ37による第4輪用アクチュエータ52の発生液圧の検出値とを一致させるべく、第4輪用アクチュエータ52の駆動電力を調整する。なお、本実施形態では、第2指示部41は、第4輪目標液圧P4*の演算値を、車内ネットワーク回線19及び第4指示部61を経由して第4駆動回路63に送信している。
【0026】
こうした正常時の第1指示部40は、第1輪目標液圧P1*の演算及びその演算値の送信を通じて第1輪11に付与する制動力を指示している。また、正常時の第2指示部41は、第2輪目標液圧P2*の演算及びその演算値の送信を通じて第2輪12に付与する制動力を指示している。
【0027】
一方、正常時には、第1指示部40が第3輪目標液圧P3*を演算しており、第1指示部40からブレーキ間通信70を経由して第3輪目標液圧P3*が第3駆動回路62に送信される。また、同様に、正常時の第4輪14に付与する制動力は、第2指示部41が指示している。
【0028】
(第1指示部40、第2指示部41の異常診断)
制動制御装置10では、第1指示部40及び第2指示部41が正常に機能しているか否かの異常診断が行われている。次に、そうした異常診断の実施態様を説明する。
【0029】
なお、本実施形態では、第1輪用アクチュエータ31や第1駆動回路42に異常が発生した場合も、第1指示部40が正常に機能していない場合に含めている。すなわち、本実施形態では、正常時における第1指示部40の指示に応じた第1輪11への制動力の付与に係る機能に異常が発生した場合を、第1指示部40が正常に機能していない場合としている。また、本実施形態では、第2輪用アクチュエータ32や第2駆動回路43に異常が発生した場合も、第2指示部41が正常に機能していない場合に含めている。すなわち、本実施形態では、正常時における第2指示部41の指示に応じた第2輪12への制動力の付与に係る機能に異常が発生した場合を、第2指示部41が正常に機能していない場合としている。
【0030】
第1指示部40及び第2指示部41は、自身が正常に機能しているか否かを自己診断している。第1指示部40は、自己診断の機能を維持できる範囲で自身に異常が生じたことを確認すると、自身の異常発生を、第2指示部41、第3指示部60及び第4指示部61に通知する。また、第2指示部41は、自己診断の機能を維持できる範囲で自身に異常が生じたことを確認すると、自身の異常発生を、第1指示部40、第3指示部60及び第4指示部61に通知する。
【0031】
また、第1指示部40及び第2指示部41は、互いが正常に機能しているかどうかを相互監視している。これにより、第1指示部40及び第2指示部41のいずれか一方に、自己診断機能の喪失を含む異常が発生した場合にも、その異常発生を確認できるようにしている。そして、第1指示部40は、第2指示部41が正常に機能していないことを確認すると、同第2指示部41の異常発生を、第3指示部60及び第4指示部61に通知する。同様に、第2指示部41は、第1指示部40が正常に機能していないことを確認すると、同第1指示部40の異常発生を、第3指示部60及び第4指示部61に通知する。
【0032】
さらに、第3指示部60は、第1指示部40からの第3輪目標液圧P3*の演算値の受信が途絶している場合には、第1指示部40が正常に機能していないと判断している。同様に、第4指示部61は、第2指示部41からの第4輪目標液圧P4*の演算値の受信が途絶している場合には、第2指示部41が正常に機能していないと判断している。
【0033】
(1系統異常時の制動制御装置10の動作)
続いて、
図3を参照して、1系統異常時の制動制御装置10の動作を説明する。ここでの1系統異常は、第1指示部40及び第2指示部41のうちのいずれか一方のみが正常に機能している状態をいう。ちなみに、
図3は、第1指示部40及び第2指示部41のうちの第2指示部41のみが正常に機能しているときの制動制御装置10の動作態様を示している。
【0034】
ここではまず、第1指示部40に異常が発生した場合について説明する。第2指示部41は、第1指示部40の異常発生を確認すると、第1電磁弁34を非通電状態に切替える。これにより、第1電磁弁34が開弁する。その結果、第1輪11のホイールシリンダ15と第2輪12のホイールシリンダ16とが連通して、第1輪液圧P1及び第2輪液圧P2の双方の液圧を第2輪用アクチュエータ32により発生可能となる。
【0035】
また、このときの第2指示部41は、正常時と同様に、第2輪目標液圧P2*及び第4輪目標液圧P4*を演算する。そして、第2指示部41は、第2輪目標液圧P2*の演算値を第2駆動回路43に送信するとともに、第4輪目標液圧P4*の演算値を第4駆動回路63に送信する。第2駆動回路43は、第2指示部41から受信した第2輪目標液圧P2*の演算値に応じて第2輪用アクチュエータ32の駆動電力を調整する。上記のように、このときには、第1輪11及び第2輪12のホイールシリンダ15、16は互いに連通した状態となっている。そのため、このときには、第2指示部41が、第1輪11、第2輪12、及び第4輪14のそれぞれに付与する制動力を指示することになる。
【0036】
一方、上記のように、第3指示部60は、第1指示部40又は第2指示部41からの通知により、第1指示部40の異常発生を確認している。また、第3指示部60は、第3輪目標液圧P3*の演算値の受信が途絶していることをもって、第1指示部40に異常が発生していると判断している。第3指示部60は、これらのいずれかにより第1指示部40に異常が発生していると判断すると、下記の異常時制御を開始する。異常時制御に際して第3指示部60は、ペダルストローク等に基づく第3輪目標液圧P3*を演算して第3駆動回路62に送信する。よって、この場合には、第3指示部60が、第3輪13に付与する制動力を指示することになる。
【0037】
これに対して、第1指示部40及び第2指示部41のうち、第1指示部40のみが正常に機能している場合には、次のように制動制御装置10の動作が行われる。すなわち、この場合の第1指示部40は、第1電磁弁34を非通電状態とした上で、第1輪目標液圧P1*及び第3輪目標液圧P3*の演算、及び送信を行う。また、第4指示部61は、第2指示部41に異常が発生していると判断すると、第4輪目標液圧P4*の演算、及びその演算値の第4駆動回路63への送信を開始する。よって、この場合には、第1指示部40により、第1輪11、第2輪12、及び第3輪13のそれぞれに付与する制動力の指示が行われる。また、この場合には、第4指示部61により、第4輪14に付与する制動力の指示が行われる。
【0038】
(2系統異常時の制動制御装置10の動作)
続いて、
図4を参照して、2系統異常時の制動制御装置10の動作を説明する。ここでの2系統異常とは、第1指示部40及び第2指示部41が共に正常に機能していない状態をいう。
【0039】
上記のように第3指示部60は、第1指示部40に異常が発生していると判断すると、第3輪目標液圧P3*の演算、及びその演算値の第3駆動回路62への送信を開始する。また、第4指示部61は、第2指示部41に異常が発生していると判断すると、第4輪目標液圧P4*の演算、及びその演算値の第4駆動回路63への送信を開始する。よって、この場合には、第3指示部60により、第3輪13に付与する制動力が指示される。また、この場合には、第4指示部61により、第4輪14に付与する制動力が指示される。
【0040】
なお、第1指示部40及び第2指示部41に異常が発生すると、第1電磁弁34は非通電の状態となる。この場合、第1輪用アクチュエータ31及び第2輪用アクチュエータ32によって第1輪液圧P1及び第2輪液圧P2が発生できなくなる。この場合においては、各ホイールシリンダ15~16にマスタシリンダを接続するよう構成することで、第1輪液圧P1及び第2輪液圧P2をマスタシリンダにより発生させることができる。この場合、各ホイールシリンダ15~16とマスタシリンダの間には常開の電磁弁であるマスタカット弁を設ける。そして、第1輪用アクチュエータ31と第2輪用アクチュエータ32の少なくとも一方によって第1輪液圧P1及び第2輪液圧P2を発生させる場合、マスタカット弁によってマスタシリンダと各ホイールシリンダ15~16の間の接続を遮断することが好ましい。
【0041】
なお、電源喪失等により、第1指示部40、第2指示部41、第3指示部60及び第4指示部61の全てが正常に機能しなくなった場合の制動制御装置10は、次のように動作する。すなわち、この場合には、第1電磁弁34、及び第2電磁弁54はいずれも非通電の状態となる。この場合においては、上記と同様に各ホイールシリンダ15~18にマスタシリンダを接続するよう構成することで、第1輪液圧P1、第2輪液圧P2、第3輪液圧P3、及び第4輪液圧P4をマスタシリンダにより発生させることができる。なお、このように制動制御装置10を機能させる場合には、各ホイールシリンダ15~18とマスタシリンダの間には常開式の電磁弁であるマスタカット弁を設けておく。そして、4つのアクチュエータのいずれかによって第1輪液圧P1、第2輪液圧P2、第3輪液圧P3、及び第4輪液圧P4を発生させる場合には、マスタカット弁によってマスタシリンダとホイールシリンダ15~18の間の接続を遮断することが好ましい。
【0042】
(実施形態の作用効果)
本実施形態の作用、及び効果を説明する。
本実施形態の制動制御装置10では、正常時には、第1輪11及び第3輪13に付与する制動力を第1指示部40が指示している。また、正常時には、第2輪12及び第4輪14に付与する制動力を第2指示部41が指示している。すなわち、正常時の第1指示部40及び第2指示部41はそれぞれ、前輪の一つと後輪の一つの制動力の指示を行っている。
【0043】
なお、本実施形態の制動制御装置10は、正常時に制動力の指示を行う上記2つの指示部の他、第3指示部60及び第4指示部61の2つの指示部を備えている。以下の説明では、正常時に制動力の指示を行う第1指示部40及び第2指示部41を主指示部と記載し、それ以外の第3指示部60及び第4指示部61をバックアップ指示部と記載する。また、以下の説明では、2つの主指示部のうち、1系統異常時に異常が発生した方のECUを異常主指示部、正常に機能している方のECUを正常主指示部と記載する。
【0044】
また、以下の説明では、指示部と、その指示部が目標液圧を直接送信する駆動回路と、及びその駆動回路により駆動されるアクチュエータ、そのアクチュエータが常時接続されたホイールシリンダの組を系統と記載する。第1制動ユニット30は、第1指示部40、第1駆動回路42、及び第1輪用アクチュエータ31からなる系統と、第2指示部41、第1駆動回路42、及び第2輪用アクチュエータ32からなる系統と、の2つの系統を有している。また、第2制動ユニット50は、第3指示部60、第3駆動回路62、及び第3輪用アクチュエータ51からなる系統と、第4指示部61、第2駆動回路43、及び第4輪用アクチュエータ52からなる系統と、の2つの系統を有している。
【0045】
そして、2つの主指示部の一方のみが正常に機能した状態となる1系統異常時には、異常主指示部が行っていた2つの車輪に対する制動力の指示を、正常主指示部とバックアップ指示部とが分担して補完している。すなわち、第2指示部41の異常による1系統異常時には、第1指示部40が第2輪12に付与する制動力の指示を補完し、第4指示部61が第4輪14に付与する制動力の指示を補完している。また、第1指示部40の異常による1系統異常時には、第2指示部41が第1輪11に付与する制動力の指示を補完し、第3指示部60が第3輪13に付与する制動力の指示を補完している。
【0046】
ここで、1系統異常時に、正常主指示部だけで、異常主指示部の機能を補完する場合を考える。この場合には、1系統異常時には、正常時には2つの主指示部が分担して実施していた4つの車輪に対する制動力の指示を、正常主指示部が単独で実施しなければならなくなる。よって、そうした場合には、それぞれの主指示部に、4つの車輪に対する制動力の指示を実施できるだけの高い処理能力を持たせる必要がある。
【0047】
これに対して、異常主指示部の機能を、バックアップ指示部だけで補完する場合を考える。この場合のバックアップ指示部には、主指示部と同等の機能が必要となる。しかしながら、異常時のためだけに高い処理能力をバックアップ指示部に持たせるのは、費用対効果の点で望ましくない。
【0048】
その点、本実施形態では、異常主指示部の機能補完を、正常主指示部とバックアップ指示部とが分担している。そのため、主指示部及びバックアップ指示部の処理能力をあまり高めなくても、各車輪の制動力制御を1系統異常時にも継続可能となる。このように本実施形態の制動制御装置10によれば、異常耐性の向上が容易となる。
【0049】
なお、制動制御装置10では、1系統異常時に第1電磁弁34を開弁して第1輪11及び第2輪12のホイールシリンダ15、16を連通した状態としている。これにより、正常主指示部と同じ系統に属するアクチュエータだけで、第1輪11及び第2輪12の双方のホイールシリンダ15、16の液圧を発生できる状態となる。そのため、正常主指示部が制動力を指示する車輪の数が正常時の2つから1系統異常時の3つに増えても、演算する目標液圧の数や、その演算値を送信する駆動回路の数は2つのままとなる。すなわち、1系統異常時の正常主指示部に要求される機能は、正常時と殆ど変わらない。なお、このときの主指示部が第1輪11、第2輪12に指示する制動力は同じとなる。
【0050】
また、本実施形態の制動制御装置10における第3指示部60は、第3駆動回路62への第3輪目標液圧P3*の送信が途絶えていることをもって、第1指示部40が正常に機能していないと判断している。また、第4指示部61は、第4駆動回路63への第4輪目標液圧P4*の送信が途絶えていることをもって、第2指示部41が正常に機能していないと判断している。そして、第3指示部60及び第4指示部61は、その判断に応じて、異常時制御を開始している。よって、主指示部からの異常発生の通知が通信異常により届かない状態となった場合や、主指示部が異常発生の通知を送信できない状態になった場合にも、バックアップ指示部が異常時制御を実施できる。
【0051】
なお、制動制御装置10において、車両の横滑りの抑制制御を行う場合には、前輪である第1輪11及び第2輪12には、後輪である第3輪13及び第4輪14よりも高度な制動力の制御が必要となる。一方、本実施形態の制動制御装置10のバックアップ指示部が制動力を指示する車輪は、後輪である第3輪13及び第4輪14のみとなっている。そして、本実施形態では、主指示部である第1指示部40及び第2指示部41は第1制動ユニット30に搭載されており、バックアップ指示部である第3指示部60及び第4指示部61は第2制動ユニット50に搭載されている。そのため、前輪の高度な制動力制御に必要な機能は第1制動ユニット30だけに搭載すればよく、第2制動ユニット50は第1制動ユニット30よりも簡易な構成とすることが可能となる。
【0052】
(対応関係について)
本実施形態では、第1指示部40及び第2指示部41のうち、1系統異常時に異常となった方の指示部が第1主指示部に対応し、正常に機能している方の指示部が第2主指示部に対応する。また、第3指示部60及び第4指示部61のうちの一方が第1バックアップ指示部に、他方が第2バックアップ指示部に、それぞれ対応している。そして、第3指示部60及び第4指示部61により、バックアップ指示部が構成されている。また、本実施形態では、第1駆動回路42が第1駆動部を、第2駆動回路43が第2駆動部を、第3駆動回路62が第3駆動部を、第4駆動回路63が第4駆動部を、それぞれ構成している。
【0053】
また、本実施形態では、第1電磁弁34により、第1輪11のホイールシリンダ15と第2輪12のホイールシリンダ16との連通を遮断した状態と同連通を許容した状態とを切替える第1の切替機構が構成されている。さらに本実施形態では、第2電磁弁54により、第3輪13のホイールシリンダ17と第4輪14のホイールシリンダ18との連通を遮断した状態と同連通を許容した状態とを切替える第2の切替機構が構成されている。
【0054】
(他の実施形態)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
(3系統異常への対応について)
下記のように制動制御装置10を構成することで、3系統異常時にも制動力制御を継続できるようになる。ここでの3系統異常とは、第1指示部40、第2指示部41、第3指示部60及び第4指示部61のうち、第3指示部60及び第4指示部61のいずれか一方のみが正常に機能している状態をいう。
【0056】
3系統異常への対応に際してはまず、第3指示部60及び第4指示部61が相互監視等により、互いが正常に機能しているか否かを確認可能とする必要がある。そして、3系統異常時には、下記の態様で制動制御装置10を動作させることで、第3輪13及び第4輪14に付与する制動力の制御を継続できる。
【0057】
図5に、第3指示部60以外のECUに異常が発生した場合の制動制御装置10の動作態様を示す。第3指示部60は、自身以外の指示部が正常に動作していないと判断すると、第2電磁弁54を非通電の状態とする。これにより、第3輪13及び第4輪14のホイールシリンダ17、18が連通して、第3輪用アクチュエータ51により第3輪液圧P3及び第4輪液圧P4を発生可能となる。そして、第3指示部60は、第3輪目標液圧P3*の演算、及びその演算値の第3駆動回路62への送信を開始する。これにより、残された第3指示部60だけで、第3輪13及び第4輪14に付与する制動力を制御できるようになる。
【0058】
なお、第4指示部61以外の指示部に異常が発生した場合には、第2電磁弁54を非通電の状態とする。そして、第4指示部61が、第4輪目標液圧P4*の演算、及びその演算値の第4駆動回路63への送信を実施する。これにより、残された第4指示部61のみで、第3輪13及び第4輪14に付与する制動力を制御できるようになる。
【0059】
(1系統異常発生時の動作について)
上記実施形態では、異常主指示部が正常時に制動力を指示していた前輪、後輪の2つの車輪のうち、正常主指示部が前輪の制動力の指示を補完し、バックアップ指示部が後輪の制動力の指示を補完していた。一方、正常主指示部は、1系統異常時にも、正常時と同様に、前輪、後輪の2つの車輪に付与する制動力の指示を継続していた。1系統異常時に、正常主指示部が2つの前輪に付与する制動力を指示するとともに、バックアップ指示部が2つの後輪に付与する制動力を指示するようにしてもよい。
図6には、そうした場合の1系統異常時の制動制御装置10の動作態様の一例が示されている。また、
図7には、そうした場合の1系統異常時の制動制御装置10の動作態様の他の例が示されている。
【0060】
図6の場合、正常主指示部である第2指示部41が、前輪である第1輪11及び第2輪12に付与する制動力を指示している。そして、第3指示部60が第3輪13に付与する制動力を指示し、第4指示部61が第4輪14に付与する制動力を指示している。詳細には、第2指示部41は、第1電磁弁34を非通電の状態として、第1輪11及び第2輪12のホイールシリンダ15、16を連通させている。そして、第2指示部41は、第2輪目標液圧P2*を演算して、その演算値を第2駆動回路43に送信することで、第1輪11及び第2輪12に付与する制動力を指示している。また、第3指示部60は、第3輪目標液圧P3*を演算してその演算値を第3駆動回路62に送信することで、第3輪13に付与する制動力を指示している。さらに第4指示部61は、第4輪目標液圧P4*を演算してその演算値を第4駆動回路63に送信することで、第4輪14に付与する制動力を指示している。
【0061】
図7の場合にも、正常主指示部である第2指示部41が第1輪11及び第2輪12に付与する制動力を指示している。一方、
図7の場合には、第3指示部60が第3輪13及び第4輪14に付与する制動力を指示している。詳細には、第3指示部60は、第2電磁弁54を非通電の状態として、第3輪13及び第4輪14のホイールシリンダ17、18を互いに連通させる。そして、第3指示部60は、第3輪目標液圧P3*を演算してその演算値を第3駆動回路62に送信することで、第3輪13及び第4輪14に付与する制動力を指示している。なお、こうした態様での第3輪13及び第4輪14に付与する制動力の指示を、第4指示部61が行うようにしてもよい。
【0062】
また、正常主指示部による第1輪11及び第2輪12の制動力の指示を次のように行うようにしてもよい。すなわち、正常主指示部が第1輪目標液圧P1*及び第2輪目標液圧P2*を演算する。そして、正常主指示部が、第1輪目標液圧P1*の演算値を第1駆動回路42に、第2輪目標液圧P2*を第2駆動回路43にそれぞれ送信することで、第1輪11及び第2輪12のそれぞれに付与する制動力を指示するようにしてもよい。この場合の正常主指示部が、第1輪目標液圧P1*及び第2輪目標液圧P2*をそれぞれ個別に演算してもよい。この場合には、1系統異常時にも、左右の前輪に異なる制動力を発生できる。また、正常主指示部が、目標液圧を一つだけ演算して同じ値を第1駆動回路42及び第2駆動回路43に送信するようにしてもよい。この場合には、1系統異常時の正常主指示部の処理量の増加が抑えられる。
【0063】
これらの場合、1系統異常時のバックアップ指示部は、左右の後輪である第3輪13及び第4輪14に付与する制動力を指示することになる。これに対して、異常主指示部の機能をそのままバックアップ指示部が補完する場合には、前輪と後輪に付与する制動力を指示しなければならなくなる。制動力を指示する車輪の数は同じ2つであっても、2つの車輪が共に後輪である場合には、前輪と後輪の組合せである場合よりも、バックアップ指示部の処理量は少なくなる。そのため、バックアップ指示部に要求される処理能力が抑えられる。また、これらの場合、1系統異常時の正常主指示部が制動力を指示する車輪の数は、正常時と同じ2つとなる。また、1系統異常時の正常主指示部が制動力を指示する2つの車輪は、共に前輪となる。そのため、1系統異常時の正常主指示部の処理量の増加が抑えられる。
【0064】
(アクチュエータの制御について)
上記実施形態では、指示部による目標液圧の演算値と液圧センサによる発生液圧の検出値とを一致させるように駆動回路がアクチュエータの駆動電力を調整することで、各アクチュエータの制御が行われていた。こうしたアクチュエータの制御を次のように行うようにしてもよい。すなわち、指示部が、目標液圧の演算値と発生液圧の検出値とに基づき駆動電力を演算してその演算値を駆動回路に送信する。そして、駆動回路が指示部から受信した駆動電力をアクチュエータに供給することで、アクチュエータの制御を行うようにしてもよい。
【0065】
(その他の変形例)
・上記実施形態では、第3指示部60及び第4指示部61の2つの指示部によりバックアップ指示部を構成していたが、一つの指示部でバックアップ指示部を構成してもよい。
【0066】
・第1輪11のホイールシリンダ15と第2輪12のホイールシリンダ16との連通を遮断した状態と同連通を許容した状態とを切替える第1の切替機構を、複数の電磁弁で構成するようにしてもよい。また、上記第1の切替機構とマスタカット弁の機能を兼ね備えた三方弁を設けるようにしてもよい。この場合の三方弁は、マスタシリンダ、ホイールシリンダ15、16の3つにそれぞれ接続される。そして三方弁は、それら3つのシリンダを液圧的に切り離した状態、3つのシリンダのうちの任意の2つを接続した状態、3つのシリンダを接続した状態を切替可能に構成される。また、第3輪13のホイールシリンダ17と第4輪14のホイールシリンダ18との連通を遮断した状態と同連通を許容した状態とを切替える上記第2の切替機構も、同様に変更してもよい。
【0067】
・マスタシリンダを省略して、完全なバイワイヤ式の制動制御装置としてもよい。
・第1輪用アクチュエータ31、第2輪用アクチュエータ32、第3輪用アクチュエータ51、及び第4輪用アクチュエータ52として、電気モータの動力を機械的に制動力に変換する電気機械式ブレーキ(EMB:Electro Mechanical Brake)を採用してもよい。その場合のECUは、例えば電気モータの出力の目標値を演算して、EMBの駆動回路に送信することで、車輪に付与する制動力を指示することになる。
【0068】
・上記実施形態では、主指示部である第1指示部40及び第2指示部41を第1制動ユニット30に搭載していた。また、バックアップ指示部である第3指示部60及び第4指示部61を第2制動ユニット50に搭載していた。第1制動ユニット30及び第2制動ユニット50のそれぞれに搭載するECUの組合せを変更してもよい。例えば、第1制動ユニット30及び第2制動ユニット50のそれぞれに、主指示部及びバックアップ指示部を一つずつ搭載するようにしてもよい。
【0069】
・第1指示部40、第2指示部41、第3指示部60及び第4指示部61は、次のように構成し得る。すなわち、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路として構成し得る。また、上記プロセッサ、及び上記専用のハードウェア回路の組合せを含む回路としても構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0070】
10…制動制御装置
11…第1輪
12…第2輪
13…第3輪
14…第4輪
15、16、17、18…ホイールシリンダ
19…車内ネットワーク回線
20…リザーバタンク
21…マスタシリンダ
22…ブレーキペダル
23…シミュレータカット弁
24…ストロークシミュレータ
30…第1制動ユニット
31…第1輪用アクチュエータ
32…第2輪用アクチュエータ
33…第1マスタカット弁
34…第1電磁弁
37、38、57、58…液圧センサ
40…第1指示部
41…第2指示部
42…第1駆動回路
43…第2駆動回路
50…第2制動ユニット
51…第3輪用アクチュエータ
52…第4輪用アクチュエータ
53…第2マスタカット弁
54…第2電磁弁
60…第3指示部
60…第4指示部
61…第3駆動回路
62…第4駆動回路