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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】物体認識装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240910BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240910BHJP
   G06T 5/70 20240101ALI20240910BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G06T7/00 650Z
G06T1/00 330Z
G06T5/70
G06T7/00 300F
G08G1/16 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021128803
(22)【出願日】2021-08-05
(65)【公開番号】P2023023352
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】長岡 孝太郎
【審査官】高野 美帆子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/125076(WO,A1)
【文献】特開2009-65360(JP,A)
【文献】特開2006-129084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G06T 1/00
G06T 5/70
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィンドシールドの車内側に設けられたカメラで車外状況が撮像された撮像画像から認識対象物の物体像を認識する物体認識装置であって、
前記撮像画像において一定値以上の輝度を有する前記物体像を特定物体像として特定し、前記特定物体像に関して前記撮像画像における二重像判定エリアを、少なくとも前記カメラと前記ウィンドシールドとの相対的な位置関係により設定するエリア設定部と、
前記撮像画像の前記二重像判定エリア内に存在する前記物体像について、前記特定物体像の二重像の可能性を判定する二重像判定部と、
前記二重像の可能性があると判定された前記物体像に対して、前記可能性があると判定されない場合には行わない前記物体像の検出に関する二重像処理を行う二重像処理部と、
を備える物体認識装置。
【請求項2】
前記二重像処理部は、前記二重像処理として、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像を前記撮像画像から削除する、請求項1に記載の物体認識装置。
【請求項3】
前記二重像処理部は、前記二重像処理として、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像の検出信頼度が、前記可能性があると判定されない場合と比較して低くなるように、前記検出信頼度に関する処理を行う、請求項1に記載の物体認識装置。
【請求項4】
前記二重像判定部は、前記特定物体像と前記二重像判定エリア内に存在する前記物体像の間における、色及び形状の少なくとも一方に関する類似度に基づいて、前記可能性を判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物体認識装置。
【請求項5】
前記二重像判定部は、前記特定物体像として特定された前記物体像の前記輝度から、前記二重像の輝度を予測し、予測された該輝度に基づいて、前記可能性を判定する請求項1~4のいずれか一項に記載の物体認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィンドシールドの車内側に設けられたカメラによって車外状況が撮像された撮像画像の物体を認識する物体認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置では、車載カメラの広角化に伴い、信号機などの広角領域にある発光物も認識対象となっている。また、車外状況が撮像された撮像画像の画像認識技術として、撮像画像から信号機の点灯状態を認識する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021―002275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、信号機のように広角領域にある発光物は、車載カメラと外界との間に存在するガラスのために二重像を発生しやすい。その結果、車載カメラによって得られた撮像画像における二重像が実像として誤検出され、実像の検出精度の低下を招くという技術的問題点がある。また、楔型ガラスにより、HUD(Head Up Display)領域等の狭画な範囲において二重像の発生を抑制する方法も提案されているが、当該方法では広角領域における二重像の発生を抑制することは困難である。特に、ウィンドシールドが寝ている場合、入射光の入射角度がつくため、二重像が実像から遠い位置に発生する傾向があり、誤検出が顕著となる。
【0005】
本発明は、車内に設けられたカメラによって車外状況が撮像された撮像画像において実像の検出精度を高め、信頼性の高い物体認識装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る物体認識装置の一の態様は上記課題を解決するために、ウィンドシールドの車内側に設けられたカメラで車外状況が撮像された撮像画像から認識対象物の物体像を認識する物体認識装置であって、前記撮像画像において一定値以上の輝度を有する前記物体像を特定物体像として特定し、前記特定物体像に関して前記撮像画像における二重像判定エリアを、少なくとも前記カメラと前記ウィンドシールドとの相対的な位置関係により設定するエリア設定部と、前記撮像画像の前記二重像判定エリア内に存在する前記物体像について、前記特定物体像の二重像の可能性を判定する二重像判定部と、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像に対して、前記可能性があると判定されない場合には行わない前記物体像の検出に関する二重像処理を行う二重像処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る物体認識装置によれば、まず、撮像画像において、二重像が発生し得る二重像判定エリアが設定され、次に、二重像判定エリア内において二重像の可能性があると判定された物体像に対して検出に関する二重像処理が行われる。カメラとウィンドシールドとの相対的な位置関係により設定される二重像判定エリアは、広角の(即ち、画角が大きい)撮像範囲であっても設定可能である。また、二重像処理は当該可能性があると判定されない物体像には行われない。従って、二重像の可能性があると判定された物体像と当該可能性があると判定されない物体像とにおいて検出に関する識別を可能とすることができる。これにより、二重像が発生している場合でも誤検出の発生を抑制できる。従って、実像の検出精度が高められ、撮像画像における物体認識の信頼性を高めることが可能となる。
【0008】
本発明によるこのような作用効果は、以下に説明する発明の実施形態により、より明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る物体認識装置を実現するための全体構成の一例を示す構成図である。
図2】二重像の発生を説明するための概略図である。
図3】撮像画像の一例を示す概略図である。
図4】二重像の発生予測位置について説明するための図である。
図5】カメラへの入射角が異なる3つの経路ペアを示す図。
図6図1に示す物体認識装置が行う処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る物体認識装置13について、図面を参照して説明する。まず、物体認識装置13が行う処理を実現するための全体構成について、図1を用いて説明する。物体認識装置13は、自動車などの車両10のウィンドシールド11の車内側に設けられたカメラ12と接続され、カメラ12で撮像された撮像画像の画像認識に関する処理を行う。物体認識装置13は、例えば、図1に示すように、カメラ12と別体として設けられ、電気的に接続されてよい。或いは、カメラ12と物体認識装置13とは、一体化されてカメラセンサとして提供されてもよい。車両10には、カメラ12及び物体認識装置13の他に、例えば、車両10を電気的及び/又は物理的に駆動させる各種駆動機構(不図示)や当該各種駆動機構の動作を電気的に制御する各種制御機構(不図示)が設けられてよい。物体認識装置13は、例えば、車両10の動作を電気的に制御する車両制御装置(不図示)の一部として設けられてもよい。
【0011】
ウィンドシールド11は、例えば、所定の厚さを有する透明な車両用ガラスで構成された窓部材である。ウィンドシールド11を構成するガラスは、例えば、平行ガラス(即ち、板厚方向に関する断面において車内側表面と車外側表面とが平行になるように成形されたガラス)でもよいし、楔型ガラス(即ち、板厚方向に関する断面において車内側表面と車外側表面とが楔型になるように成形されたガラス)であってもよい。ウィンドシールド11は、所定の曲率を有するように成形されたものでもよいし、平坦に成形されたものであってもよい。ウィンドシールド11は、車両前方に配置されたフロントウィンドシールド、車両側方に配置されたサイドウィンドシールド、或いは車両後方に配置されたリアウィンドシールドのいずれであってもよい。本形態では、ウィンドシールド11がフロントウィンドシールドである場合について説明する。
【0012】
カメラ12は、ウィンドシールド11を通じて車外状況を撮像するように、レンズ12aを車外に向けてウィンドシールド11の車内側に設けられている。例えば、ウィンドシールド11がフロントウィンドシールドの場合は、カメラ12は、レンズ12aを車両前方に向けてウィンドシールド11の車内側に配置され、ウィンドシールド11を通じて車両前方の車外状況を撮像する。撮像画像は、例えば、動画像であってもよいし、所定の時間間隔で撮像される静止画像であってもよい。カメラ12で撮像された撮像画像は、車外状況の把握のために、物体認識装置13によって、信号機等の認識対象物の物体像が認識される。認識された物体像に関する画像情報を含む撮像画像に関する画像情報は、例えば、撮像画像に基づいた車外状況に応じて実行される各種制御処理で利用される。この制御処理には、例えば、自動運転モードの際の走行制御処理やドライバの運転支援処理が含まれる。
【0013】
物体認識装置13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、及びCPUの動作に必要なRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含むメモリを備えたコンピュータ制御ユニットでよい。物体認識装置13は、例えばROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行してよい。或いは、物体認識装置13が通信機能を有する場合は、クラウドサーバからコンピュータプログラムを読み込んで実行してもよい。物体認識装置13がコンピュータプログラムを実行することにより、物体認識装置13では、物体認識装置13が行うべき動作を実行するための論理的な機能ブロックが実現される。図1では、物体認識装置13に実現される機能ブロックの一例として、物体認識部13a、エリア設定部13b、二重像判定部13c、二重像処理部13d及び物体出力部13eが示されている。各部13a~13eの動作については後述する。
【0014】
カメラ12で撮像された撮像画像に二重像が発生する態様の一例を、図2を用いて説明する。図2は車両10を側面視した場合のウィンドシールド11と、カメラ12と、車外の光源としての発光物体Cとの相対的な位置関係を示す図である。発光物体Cとして、例えば、信号機や先行車のテールランプが考えられる。なお、図2に示すように、ウィンドシールド11は、例えば、厚さBを有し、上方から下方に向かうにつれて徐々に車両の前方方向Aに向かう態様で車両10の車体に対して傾斜していてよい。
【0015】
図2において、実線(即ち、光線X)は、発光物体Cから発射された光がウィンドシールド11に入射し、ウィンドシールド11のガラス内で反射せずにカメラ12のレンズ12aに到達するまでの進行経路を示す。レンズ12aに到達した光線Xで示される光によって発光物体Cの実像が得られる。一方、ウィンドシールド11に入射した入射光の一部は、点線(即ち、光線Y)で示すように、ウィンドシールド11のガラス内を反射し、その後ウィンドシールド11から出射する。ウィンドシールド11のガラス内を反射してレンズ12aに到達した光(即ち、光線Yで示される光)によって、発光物体Cの二重像が発生する。
【0016】
物体認識装置13は、認識した物体像について発光物体Cに関する二重像の可能性を判定する。物体認識装置13によって行われる当該可能性を判定する方法の一例について、図3図5を用いて説明する。図3はカメラ12によって撮像された撮像画像20の一例である。二重像を発生させる可能性のある発光物体C(図2参照)は、一定値以上の輝度を有する特定物体像CCとして撮像画像20に撮像される。即ち、特定物体像CCは発光物体Cの実像と考えてよい。物体認識装置13は、まず、撮像画像20において、特定物体像CCの二重像が発生し得るエリアである二重像判定エリア21を設定する。そして、物体認識装置13は、二重像判定エリア21内に存在する物体像である判定対象像D、E、Fに関して、特定物体像CCの二重像の可能性を判定する。二重像判定エリア21は、例えば、特定物体像CCの二重像が発生し得る位置(即ち、発生予測位置)に基づいた(例えば、発生予測位置を中心とする)所定範囲とするエリアでよい。なお、図3の例では、二重像判定エリア21は四角形であるが、二重像判定エリア21の形状はこれに限らず、例えば、円形であってもよいし、或いは、少なくとも1つの可変係数により可変な形状であってもよい。
【0017】
二重像の発生予測位置は、ウィンドシールド11とカメラ12の相対的な位置関係に基づいて予測され得る。従って、二重像判定エリア21は、少なくともウィンドシールド11とカメラ12との相対的な位置関係により設定され得る。物体認識装置13によって行われる発生予測位置の予測方法の一例について、図4及び図5を用いて説明する。図4は、光線Xがカメラ12のレンズ12aに角度θ1で入射する場合の光線X及び光線Yの進行経路の概略を示す。角度θ1は、例えば、撮像画像20(図3参照)の中心20cをカメラ方向(中心20cを貫く撮像画像20の法線方向)とした場合、当該カメラ方向に対する上下方向Hに関する特定物体像CCの位置に基づいて算出されてよい。なお、図4では、光線がウィンドシールド11に当たる部分における接線を二点鎖線で示し、当該当たる部分における法線及びレンズ12aが向く方向を一点鎖線で示す。
【0018】
図4に示される光線Xの進行経路の概略について説明する。光線Xは、まず、交点P2でウィンドシールド11(即ち、ガラス外側境界11b)に当たり、角度θ5(即ち入射角θ5)で外界から入射し、角度θ4(即ち屈折角θ4)でガラス内部へ透過する。その後、光線Xはガラス内部を進み、交点P1でガラス内側境界11aに当たり、角度θ3(即ち入射角θ3)でガラス内部から入射し、角度θ2(即ち屈折角θ2)で外界へ透過する。そして、外界へ透過した光線Xは角度θ1で外界からレンズ12aへ入射する。角度θ2-θ5は、例えば、スネルの法則に基づき、空気の屈折率(例えば、1)及びガラスの屈折率(例えば、1.51)を用いて、角度θ1から角度θ2、角度θ3、角度θ4、そして角度θ5の順で逆算することにより算出されてよい。そして、交点P1及び交点P2の位置は、例えば、角度θ1-θ5を用いて、カメラ12とウィンドシールド11との相対的な位置関係(例えば、距離)及びガラスの厚さBに基づいて、算出されてよい。
【0019】
一方、二重像を発生させる光線Yは、図4において、ガラス内側境界11aの交点P1において角度θ3(即ち入射角θ3)で入射する光線Xの一部が、角度θ3(即ち反射角θ3)で反射した光線である。図4に示される光線Yの進行経路の概略について説明する。角度θ3で反射した光線Yは、ガラス内部を進み、交点P3でガラス外側境界11bに当たり、角度θ6(即ち入射角θ6)で入射し、角度θ6(即ち反射角θ6)で反射する。角度θ6で反射した光線Yはガラス内部を進み、交点P4でガラス内側境界11aに当たり、角度θ7(即ち入射角θ7)で入射し、角度θ8(即ち屈折角θ8)で外界へ透過する。角度θ8で外界へ透過した光線Yがレンズ12aに到達し、二重像を発生させる。
【0020】
角度θ6-θ8は、例えば、角度θ3の算出後、スネルの法則に基づき、空気の屈折率(例えば、1)及びガラスの屈折率(例えば、1.51)を用いて、算出されてよい。また、交点P3の位置及び交点P4の位置は、例えば、交点P1の位置及び交点P2の位置と同様に、カメラ12とウィンドシールド11との相対的な位置関係(例えば、距離)及びガラスの厚さBに基づいて算出されてよい。そして、交点P4から外界へ透過した光線Yがレンズ12aに至る位置を二重像の発生予測位置として予測してよい。
【0021】
上記予測方法により、3つの異なる角度θ1のそれぞれについて進行経路が予測された光線X及び光線Yを図5に示す。図5には、カメラ位置P0を原点とし、縦軸を車両10車体の上下方向H、横軸を車両10の横方向(即ち、図5の右側を車両10の前方方向Aとする車両10の車体の水平方向)とした座標軸上に、表面が平坦なウィンドシールド11が側面視された状態とともに3つの経路ペアPr1、Pr2、Pr3が示されている。
【0022】
経路ペアPr1は光線X1と光線X1の一部が反射した光線Y1とを含み、二重像の発生予測位置Py1が予測されている。経路ペアPr2は光線X2と光線X2の一部が反射した光線Y2とを含み、二重像の発生予測位置Py2が予測されている。経路ペアPr3は光線X3と光線X3の一部が反射した光線Y3とを含み、二重像の発生予測位置Py3が予測されている。以下、各光線X1、X2、X3を区別する必要がないときは光線Xといい、各光線Y1、Y2、Y3を区別する必要がないときは光線Yという。
【0023】
図5の光線X1の進行経路において、カメラ位置P0と交点P1との間を区間1a、交点P1と交点P2との間を区間1b、交点P2と発光物体Cとの間を区間1cとし、また、光線Y1の進行経路において、交点P1と交点P3との間を区間1d、交点P3と交点P4との間を区間1e、及び交点P4と発生予測位置Py1との間を区間1fとする。この場合、上述した予測方法により、区間1a、区間1b、区間1c、区間1d、区間1e、区間1fの順で進行経路を算出(即ち、予測)していくことが可能である。経路ペアPr2及び経路ペアPr3についても、同様である。
【0024】
カメラ位置P0から車体の水平方向に平行な方向をカメラ方向とした場合、カメラ12に入射する角度θ1は、カメラ位置P0における光線Xのカメラ方向に対する角度としてよい。図5に示す例では、経路ペアPr1の角度θ1=-15°、経路ペアPr2の角度θ1=-5°、経路ペアPr3の角度θ1=0.01°である。経路ペアPr3の角度θ1は、他の経路ペアPr1、Pr2の角度θ1と比較してカメラ方向に対して緩やかであり、この場合、経路ペアPr3の光線X3のガラス外側境界11bへの入射角度(即ち、図4の角度θ5)は他の経路ペアPr1、Pr2の光線X1、X2の入射角度よりもついている。以下、入射角度というときは光線Xのガラス外側境界11bへの入射角度をいう。
【0025】
二重像の発生位置について、「二重像は入射角度がつくほど実像の位置から遠い位置に明るい二重像が発生する」という原理があり、撮像画像20において、実像の位置(即ち、図3では特定物体像CCの位置)と二重像の発生予測位置との相対的な位置関係は、光線Xがウィンドシールド11に入射する入射角度に応じて異なる。経路ペアPr3の場合、他の経路ペアPr1、Pr2と比較して、発生予測位置Py3はカメラ位置P0(即ち、実像の位置)から遠く、また、光線Y3の進行経路が他の光線Y1、Y2より短いことからより明るい二重像が発生する。経路ペアPr3は、上述したように他の経路ペアPr1、Pr2よりも入射角度がついている。このように、本開示の予測方法によれば、上記原理に基づき実像の位置から遠い位置に発生する二重像であっても、発生予測位置を予測することができる。
【0026】
以上のように、撮像画像20において、二重像が発生し得る発生予測位置は、ウィンドシールド11とカメラ12の相対的な位置関係(例えば、距離や角度θ1)に基づいて予測可能である。二重像の発生予測位置が予測されると、物体認識装置13は、上述したように、二重像判定エリア21(図3参照)を設定し、二重像判定エリア21内の判定対象像D、E、Fに関して、二重像の可能性を判定してよい。物体認識装置13によって、二重像の可能性が判定される方法について説明する。
【0027】
物体認識装置13は、例えば、特定物体像CCに対する類似度に基づいて、特定物体像CCの二重像の可能性を判定してよい。物体認識装置13は、例えば、色の類似度に基づいて当該可能性を判定してよい。色の類似度は、例えば、色のRGB値に基づいて判定されてよい。物体認識装置13は、例えば、特定物体像CCのRGB値と二重像判定エリア21内に含まれる判定対象像D、E、FのRGB値とが近いほど類似度が高いと判定しよい。二重像の可能性の判定には、形状の類似度も考慮されてよい。二重像と特定物体像CCとの間で、幅方向Wの長さの変化は上下方向Hの長さの変化に対して小さいことを利用し、物体認識装置13は、例えば、幅方向Wの長さが近いほど類似度が高いと判定してよい。物体認識装置13は、例えば、類似度のレベルに応じて二重像の可能性のレベルを判定してよい。
【0028】
更に、物体認識装置13は、例えば、判定対象像D、E、Fの輝度に基づいて上記可能性を判定してもよい。物体認識装置13は、例えば、光線X及び光線Yが図4に示すように進行すると想定し、下記に示すフレネルの式によって得られるP波及びS波の光量の変化及び進行距離に基づいて、特定物体像CCの輝度に対応する二重像の輝度を予測してよい。
【0029】
【数1】
式1~式4は、入射角をα、反射角をα、屈折角をβ、入射側の屈折率をn1透過側の屈折率をnとした場合のフレネルの式を示す。rはP波の振幅反射率、tはP波の振幅透過率、rはS波の振幅反射率、tはS波の振幅透過率を示す。
【0030】
物体認識装置13は、例えば、特定物体像CCに関する角度θ1(図4参照)と輝度が予測される二重像の輝度に対応付けされたマップで保有し、当該マップを参照することにより、特定物体像CCの輝度に対応する二重像の輝度を予測し、予測された輝度に基づいて各判定対象像D、E、Fの二重像の可能性を判定してよい。物体認識装置13は、例えば、予測された輝度と判定対象像D、E、Fの輝度との差に応じて、二重像の可能性のレベルを判定してよい。なお、物体認識装置13は、例えば、上記判定方法のいずれか1つにより、或いは上記判定方法を組み合わせることにより上記可能性を判定してよい。
【0031】
物体認識装置13は、上述したように、撮像画像20において認識された物体像に関して、二重像の可能性を判定し、後継の各種制御処理のために実像としての物体像の検出精度を上げる処理を行う。当該処理は、上述したように物体認識装置13に形成される物体認識部13a、エリア設定部13b、二重像判定部13c、二重像処理部13d及び物体出力部13eによって実現されてよい。各部13a-13eが行う処理の一例について、図6を用いて説明する。
【0032】
物体認識装置13は、まず、カメラ12により撮像された撮像画像20(図3参照)を入力する(ステップS101)。続いて、物体認識装置13の物体認識部13aは、撮像画像20に対して物体認識処理を行う(ステップS102)。物体認識部13aは、物体認識処理として、例えば、撮像画像20における認識対象物の物体像を認識してよい。認識対象物は、後継の各種制御処理で車外状況として利用される物体であり、例えば、先行車両のテールランプ、信号機等、広角領域にある発光物が含まれてよい。物体認識部13aは、例えば、ディープニューラルネットワークを利用して認識対象物の物体像を認識してよい。ディープニューラルネットワークは、例えば、ディープラーニングにより撮像画像20から認識対象物の物体像を認識可能なように作成されたニューラルネットワークでよい。或いは、物体認識部13aは、パターンマッチングにより認識対象物の物体像を認識してもよい。物体認識部13aは、例えば、認識した各物体像に関して画像情報を生成してよい。画像情報には、例えば、輝度や検出信頼度等が含まれてよい。検出信頼度の初期値は、例えば、最高値(即ち、実像であることを示す値)であってよい。
【0033】
続いて、物体認識装置13のエリア設定部13bは、認識された物体像のうち輝度が一定値以上のものがあるいか否か、即ち、特定物体像CCがあるか否か判定する(ステップS103)。エリア設定部13bは、当該判定のための輝度の閾値として、例えば、「二重像を発生しやすい輝度」として、撮像画像20における特定物体像CCの上下方向Hに関する位置に応じた値を設定してよい。エリア設定部13bは、例えば、特定物体像CCの上下方向Hに関する位置と当該閾値とを対応付けたマップを参照し、当該閾値以上をステップS103における「一定値以上」としてよい。
【0034】
撮像画像20に輝度が一定値以上の物体像が存在しない場合(ステップS103:No)、物体認識装置13は、例えば、ステップS108へ進んでよい。一方、撮像画像20に輝度が一定値以上の物体像、即ち、特定物体像CCが存在する場合(ステップS103:Yes)、エリア設定部13bは、二重像判定エリア設定処理を行ってよい(ステップS104)。エリア設定部13bは、二重像判定エリア設定処理として、例えば、上述した発生予測位置の予測方法に基づいて、特定物体像CCの二重像が発生する可能性がある二重像判定エリア21を撮像画像20に設定してよい。
【0035】
二重像判定エリア21が設定されると、二重像判定部13cが二重像判定処理を行う(ステップS105)。二重像判定処理においては、二重像判定エリア21内に存在する判定対象像D、E、Fから特定物体像CCの二重像の可能性が判定される。判定対象像D、E、Fは、例えば、ステップS102の物体認識処理で認識された物体像でよい。二重像判定部13cは、二重像判定処理として、例えば、上述したように、例えば、色の類似度、形状の類似度、及び輝度差のいずれか1つ、或いは複数の組合せに基づいて特定物体像CCの二重像の可能性を判定してよい。二重像判定部13cは、例えば、二重像の可能性が所定レベルより高い場合に、二重像の可能性があると判定してよい。
【0036】
続いて、物体認識装置13の二重像処理部13dは判定対象像D、E、Fが二重像の可能性があると判定されたか否かを判断する(ステップS106)。例えば、判定対象像Eは当該可能性があると判定された場合(ステップS106:Yes)、二重像処理部13dは判定対象像Eに対して検出に関する二重像処理を行ってよい(ステップS107)。一方、例えば、当該可能性があると判定されない判定対象像Fの場合(ステップS106:No)は、二重像処理部13dは、判定対象像Fに対してステップS107の二重像処理を行わずに、ステップS108へ進んでよい。
【0037】
二重像処理部13dは、二重像処理として、例えば、判定対象像Eが二重像である可能性があると判定された場合、或いは当該可能性が所定レベル以上の場合、判定対象像Eを撮像画像20から削除してよい。即ち、二重像処理部13dは、例えば、撮像画像20に関する画像情報から判定対象像Eに関する画像情報を削除してよい。或いは、二重像処理部13dは、例えば、判定対象像Eの検出信頼度を、二重像の可能性があると判定されない場合(即ち、初期値)と比較して低くなるように、判定対象像Eに関する画像情報に設定してよい。判定対象像Eの検出信頼度は、例えば、二重像の可能性のレベルに応じて設定してよい。二重像処理部13dは、例えば、判定対象像Eの二重像の可能性が高いほど、判定対象像Eの検出信頼度を低く設定してよい。
【0038】
物体認識装置13の物体出力部13eは、ステップS107の二重像処理がされた後、或いは、ステップS106が否定判断(ステップS106:No)されてステップS107の二重像処理がスキップされた後、撮像画像20を利用する各種制御処理のために、判定対象像D、E、Fや特定物体像CCを含む物体像に関する画像情報を出力してよい(ステップS108)。また、物体認識装置13は、ステップS103が否定判断(ステップS103:No)された場合、ステップS104-ステップS108の処理をスキップして、即ち、物体認識処理はされたが二重像処理がされていない物体像に関する画像情報を、撮像画像20を利用する後継の各種制御処理のために出力してよい(ステップS108)。後継の各種制御処理では、例えば、物体像の検出信頼度のレベルに応じて、走行制御に対する判定対象像の影響度が異なるように決定されてよい。例えば、検出信頼度が高レベルの場合は、物体像が走行制御に使用されるように決定され、検出信頼度が中レベル以下の場合は、ドライバへの通知に留めるように決定されてよい。
【0039】
物体認識装置13は、例えば、無線の通信回線を介してカメラ12と接続されてよい。この場合、物体認識装置13は、例えば、不図示のクラウドサーバに設けられてよい。判定対象像D、E、Fに関する二重像の可能性の判定は、例えば、ディープラーニングによって行われてもよい。例えば、物体認識装置13は、特定物体像CCの画像が入力されると、特定物体像CCの予測二重像が出力されるモデルを利用し、予測二重像と判定対象像との類似度に基づいて二重像の可能性を判定しよい。
【0040】
付記
以上説明した実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
【0041】
[付記1]
付記1記載の物体認識装置は、ウィンドシールドの車内側に設けられたカメラで車外状況が撮像された撮像画像から認識対象物の物体像を認識する物体認識装置であって、前記撮像画像において一定値以上の輝度を有する前記物体像を特定物体像として特定し、前記特定物体像に関して前記撮像画像における二重像判定エリアを、少なくとも前記カメラと前記ウィンドシールドとの相対的な位置関係により設定するエリア設定部と、前記撮像画像の前記二重像判定エリア内に存在する前記物体像について、前記特定物体像の二重像の可能性を判定する二重像判定部と、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像に対して、前記可能性があると判定されない場合には行わない前記物体像の検出に関する二重像処理を行う二重像処理部と、を備える物体認識装置である。
【0042】
付記1の物体認識装置によれば、車内に設けられたカメラによってウィンドシールドを介して車外状況が撮像された撮像画像において、まず、一定値以上の輝度を有する物体像が二重像を発生しやすい特定物体像として特定され、二重像判定エリアがカメラとウィンドシールドとの相対的な位置関係により設定される。そして、二重像判定エリア内の物体像に関して、特定物体像の二重像の可能性が判定される。カメラとウィンドシールドとの相対的な位置関係により予測され設定される二重像判定エリアは、広角の撮像範囲であっても設定可能である。また、二重像判定エリアが設定されることにより、二重像の可能性の判定は二重像判定エリア内に存在する物体像のみに関して行われれば足り、処理の効率化も実現される。更に、二重像の可能性があると判定された物体像については、物体像の検出に関する二重像処理が行われる。二重像処理は二重像の可能性があると判定されない物体像には実行されない。これにより、例えば、撮像画像から認識された物体像に基づいて各種制御処理がされる際に、二重像の可能性があると判定された物体像と当該可能性があると判定されない物体像との識別を可能とすることができる。これにより、二重像が発生している場合でも誤検出の発生を抑制できる。従って、実像の検出精度が高められ、撮像画像における物体認識の信頼性を高めることが可能となる。
【0043】
[付記2]
付記2記載の物体認識装置は、前記二重像処理部は、前記二重像処理として、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像を前記撮像画像から削除する、付記1記載の物体認識装置である。
【0044】
付記2記載の物体認識装置によれば、二重像の可能性がある物体像を撮像画像から削除されるので、実像としての物体像のみの撮像画像を提供することが可能である。
【0045】
[付記3]
付記3記載の物体認識装置は、前記二重像処理部は、前記二重像処理として、前記二重像の可能性があると判定された前記物体像の検出信頼度が、前記可能性があると判定されない場合と比較して低くなるように、前記検出信頼度に関する処理を行う、付記1記載の物体認識装置である。
【0046】
付記3記載の物体認識装置によれば、二重像の可能性がある物体像の検出信頼度を当該可能性がない物体像(即ち、実像としての物体像)よりも低く設定される。これにより、例えば、撮像画像から検出された物体像に基づいた処理において、二重像の可能性がある物体像の影響を、実像としての物体像の影響より小さくすることが可能である。
【0047】
[付記4]
付記4記載の物体認識装置は、前記二重像判定部は、前記特定物体像と前記二重像判定エリア内に存在する前記物体像の間における、色及び形状の少なくとも一方に関する類似度に基づいて、前記可能性を判定する、付記1~3のいずれか一項記載の物体認識装置である。
【0048】
付記4記載の物体認識装置によれば、二重像の可能性の判定が、色及び形状の少なくとも一方に関する類似度に基づいて行われる。これにより、二重像の可能性の判定において、判定対象の物体像の態様を考慮することができる。
【0049】
[付記5]
付記5記載の物体認識装置は、前記二重像判定部は、前記特定物体像として特定された前記物体像の前記輝度から、前記二重像の輝度を予測し、予測された該輝度に基づいて、前記可能性を判定する付記1~4のいずれか一項記載の物体認識装置である。
【0050】
付記5記載の物体認識装置によれば、二重像の可能性の判定が、予測された二重像の輝度に基づいて行われる。これにより、二重像の可能性の判定において、判定対象の物体像の輝度を考慮することができる。
【0051】
本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う物体認識装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10 車両
11 ウィンドシールド
12 カメラ
13 物体認識装置
13a 物体認識部
13b エリア設定部
13c 二重像判定部
13d 二重像処理部
13e 物体出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6