(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240910BHJP
【FI】
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021139778
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
(72)【発明者】
【氏名】近都 佑介
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138619(JP,A)
【文献】特開2013-229315(JP,A)
【文献】特開2003-187875(JP,A)
【文献】特開2008-010253(JP,A)
【文献】特開2022-133086(JP,A)
【文献】特開2021-027043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活物質粒子とバインダと分散媒とを混合することにより、スラリーを調製すること、
(b)前記スラリーを基材の表面に塗布することにより、第1塗膜を形成すること、
(c)前記第1塗膜を乾燥することにより、第2塗膜を形成すること、
(d)前記第2塗膜の表面に、凸型を押し付けることにより、前記表面に凹部を形成すること、および
(e)前記凹部の形成後、前記第2塗膜を乾燥することにより、活物質層を形成すること、
を含み、
前記第2塗膜においては、固相、液相および気相が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーは、質量分率で50~65%の固形分率を有し、
前記第2塗膜は、質量分率で70~99%の固形分率を有する、
請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記活物質粒子は正極活物質を含み、
前記スラリーは、質量分率で55~65%の固形分率を有し、
前記第2塗膜は、質量分率で80~99%の固形分率を有する、
請求項1または請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記活物質粒子は負極活物質を含み、
前記スラリーは、質量分率で50~60%の固形分率を有し、
前記第2塗膜は、質量分率で70~99%の固形分率を有する、
請求項1または請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
平面視において、前記第2塗膜は長手方向と短手方向とを有し、
前記短手方向において、前記第2塗膜の端部に液垂れ部が形成され、
前記液垂れ部の少なくとも一部が前記凸型と接触しないように、前記凸型が前記第2塗膜に押し付けられる、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
(f)前記活物質層を圧縮すること、
をさらに含む、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法および電極製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-138619号公報(特許文献1)は、凹凸パターンを有する型を負極活物質合材層に押し当てる前に、負極活物質合材層の表面に溶媒を噴霧することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活物質層の表面に凹部を形成することが提案されている。凹部は、例えば、電解液の浸透経路、ガスの排出経路等として機能することが期待される。
【0005】
活物質層は、スラリーの塗布により形成され得る。すなわち活物質粒子、バインダおよび分散媒が混合されることにより、スラリーが調製される。スラリーが基材の表面に塗布されることにより、塗膜が形成される。塗膜が乾燥されることにより、活物質層が形成される。
【0006】
凹部は型押し加工により形成され得る。すなわち、乾燥後の活物質層の表面に凸型が押し付けられることにより、凹部が形成される。乾燥後の活物質層においては、固体材料(活物質粒子等)の流動性が低い傾向がある。そのため、凹部の底部においては、固体材料が圧縮されることにより、局所的に密度が上昇し得る。活物質層に密度バラツキが生じることにより、例えば、電極反応が不均一になる等の不都合が想定される。
【0007】
例えば、乾燥後の活物質層の表面に、液体(分散媒)が再噴霧されることにより、活物質層の表層において、固体材料に流動性が付与され得る。これにより、型押し加工による密度バラツキが低減することが期待される。しかしながら、離型性に改善の余地がある。すなわち、固体材料が湿ることにより、付着力が発生し得る。凸型に固体材料が付着することにより、所望の凹部が形成されない可能性がある。さらに、再噴霧された液体は、活物質層の深層まで浸透しないと考えられる。活物質層の深層においては、依然として、固体材料の流動性が低いため、密度バラツキが解消されない可能性もある。
【0008】
本開示の目的は、凹部付き電極の製造方法を提供することである。
【0009】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.電極の製造方法は、下記(a)~(e)を含む。
(a)活物質粒子とバインダと分散媒とを混合することにより、スラリーを調製する。
(b)スラリーを基材の表面に塗布することにより、第1塗膜を形成する。
(c)第1塗膜を乾燥することにより、第2塗膜を形成する。
(d)第2塗膜の表面に、凸型を押し付けることにより、表面に凹部を形成する。
(e)凹部の形成後、第2塗膜を乾燥することにより、活物質層を形成する。
第2塗膜においては、固相、液相および気相が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0011】
基材に塗布されたスラリー(塗膜)が乾燥されることにより、液相(分散媒)が減少し、気相(気泡、空隙)が発生する。最終的に塗膜は、ドライ状態(固相および気相)となる。
【0012】
図1は、塗膜の乾燥過程を示す概念図である。
塗膜は、「スラリー状態」、「キャピラリー状態」、「ファニキュラー状態」および「ペンジュラー状態」を経ることにより、「ドライ状態」に至る。乾燥状態の分類は、C. E. CAPES著「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)において詳述されている。各状態では、固相(活物質粒子)、液相(分散媒)、および気相(ガス)の関係が異なる。
【0013】
「スラリー状態」は、固相(活物質粒子1)および液相(分散媒2)からなる。気相(ガス3)は、実質的に存在しない。固相(活物質粒子1)は液相(分散媒2)中に懸濁している。固相は液相中に分散しており、連続していない。
【0014】
「キャピラリー状態」は、スラリー状態から液相が減少した状態を示す。キャピラリー状態は、固相、液相および気相(ガス3)からなる。固相が液相で被覆されている。固相の周囲で液相が連続している。気相は液相と接触している。気相は固相と接触していない。
【0015】
「ファニキュラー状態」は、キャピラリー状態から、さらに液相が減少した状態である。ファニキュラー状態は、固相、液相および気相からなる。固相の周囲で液相が連続している。固相の一部が気相と接触している。
【0016】
「ペンジュラー状態」は、ファニキュラー状態から、さらに液相が減少した状態である。ペンジュラー状態は、固相、液相および気相からなる。液相は不連続である。液相は固相同士を架橋している。気相は、固相および液相の両方と接触している。
【0017】
「ドライ状態」は固相および気相からなる。液相は実質的に存在しない。
【0018】
本開示の新知見によると、塗膜がペンジュラー状態またはファニキュラー状態であることにより、型押し加工時、離型性と流動性とが両立し得る。すなわちペンジュラー状態またはファニキュラー状態にある塗膜は、凸型に付着し難く、かつ密度バラツキが生じ難い傾向がある。ペンジュラー状態またはファニキュラー状態にある塗膜は、付着力が小さく、かつ全体にわたって一体的に流動し得るためと考えられる。
【0019】
他方、例えば、塗膜がキャピラリー状態であると、塗膜が凸型に付着しやすい傾向がある。例えば、塗膜がドライ状態であると、密度バラツキが増大する傾向がある。
【0020】
2.スラリーは、質量分率で、例えば50~65%の固形分率を有していてもよい。第2塗膜は、質量分率で、例えば70~99%の固形分率を有していてもよい。
【0021】
50~65%の固形分率において、スラリー状態が形成されやすい傾向がある。70~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。
【0022】
3.活物質粒子は、例えば正極活物質を含んでいてもよい。スラリーは、質量分率で、例えば55~65%の固形分率を有していてもよい。第2塗膜は、質量分率で、例えば80~99%の固形分率を有していてもよい。
【0023】
活物質粒子が正極活物質粒子である場合、55~65%の固形分率においてスラリー状態が形成されやすい傾向がある。80~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。
【0024】
4.活物質粒子は、例えば負極活物質を含んでいてもよい。スラリーは、質量分率で、例えば50~60%の固形分率を有していてもよい。第2塗膜は、質量分率で、例えば70~99%の固形分率を有していてもよい。
【0025】
活物質粒子が負極活物質粒子である場合、50~60%の固形分率においてスラリー状態が形成されやすい傾向がある。70~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。
【0026】
5.平面視において、第2塗膜は長手方向と短手方向とを有していてもよい。短手方向において、第2塗膜の端部に液垂れ部が形成されてもよい。液垂れ部の少なくとも一部が凸型と接触しないように、凸型が第2塗膜に押し付けられてもよい。
【0027】
例えば、スラリー状態を経由せず、当初よりペンジュラー状態またはファニキュラー状態の塗料を調製することも考えられる。該塗料は、例えば、湿潤粉粒体(湿潤粉体または湿潤顆粒)であり得る。顆粒は造粒体とも称される。顆粒は粉体に造粒操作が施されることにより形成され得る。
【0028】
スラリーは、高い流動性を有し得る。スラリーにより形成された塗膜では、その端部に液垂れ部が形成され得る。液垂れ部においては、塗膜が外側に向かって傾斜している。
【0029】
湿潤粉粒体はスラリーに比して流動性が低い。湿潤粉粒体により形成された塗膜では、端部が傾斜し難い傾向がある。端部に傾斜部を有しない塗膜に対して、型押し加工が施されると、塗膜の先端の近傍まで凹部が形成されることになる。先端の近傍まで凹部が形成されることにより、端部において塗膜が剥がれたり、崩落したりする可能性がある。
【0030】
液垂れ部においては、外側に向かうにつれて、塗膜の厚さが漸減している。したがって、塗膜の中央部では、凸型が塗膜と接触し、かつ塗膜の端部(液垂れ部)では凸型が塗膜と接触しないように、型押し加工を行うことが可能である。塗膜の端部(液垂れ部)に、凹部が形成されないことにより、塗膜の端部における、塗膜の剥離、崩落等が低減することが期待される。
【0031】
6.電極の製造方法は、例えば、下記(f)をさらに含んでいてもよい。
(f)活物質層を圧縮する。
【0032】
乾燥後の凹部付き塗膜(活物質層)に対して、さらに圧縮加工が施されてもよい。
【0033】
7.電極製造装置は、搬送装置、塗布装置、第1乾燥装置、成形装置、および第2乾燥装置を含む。搬送装置は、基材を、塗布装置、第1乾燥装置、成形装置、第2乾燥装置の順に、搬送するように構成されている。塗布装置は、基材の表面にスラリーを塗布することにより、第1塗膜を形成するように構成されている。スラリーは、活物質粒子とバインダと分散媒とを含む。第1乾燥装置は、第1塗膜を乾燥することにより、第2塗膜を形成するように構成されている。成形装置は、第2塗膜の表面に凸型を押し付けることにより、該表面に凹部を形成するように構成されている。第2乾燥装置は、第2塗膜を乾燥することにより、活物質層を形成するように構成されている。
【0034】
成形装置においては型押し加工が実施される。成形装置の前に第1乾燥装置が配置されていることにより、型押し加工の前に、塗膜がペンジュラー状態またはファニキュラー状態に調整され得る。すなわち上記「1.」の電極の製造方法が実施され得る。
【0035】
8.平面視において、第2塗膜は長手方向と短手方向とを有するように形成されてもよい。短手方向において、第2塗膜の端部に液垂れ部が形成されるように、塗布装置が第1塗膜を形成し、かつ第1乾燥装置が第1塗膜を乾燥するように構成されていてもよい。
【0036】
液垂れ部の形成により、塗膜の端部における、塗膜の剥離、崩落等が低減することが期待される。
【0037】
9.成形装置は、例えばエンボスロールを含んでいてもよい。エンボスロールの表面に凸型が形成されていてもよい。成形装置は、液垂れ部の少なくとも一部が凸型と接触しないように、エンボスロールを第2塗膜に押し付けるように構成されていてもよい。
【0038】
上記「9.」の電極製造装置によれば、上記「5.」の電極の製造方法が実施され得る。
【0039】
10.電極製造装置は、圧縮装置をさらに含んでいてもよい。搬送装置は、第2乾燥装置を通過した基材を、圧縮装置に搬送するように構成されていてもよい。圧縮装置は、活物質層を圧縮するように構成されていてもよい。
【0040】
上記「10.」の電極製造装置によれば、上記「6.」の電極の製造方法が実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、塗膜の乾燥過程を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態における電極を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本実施形態における電極を示す第1概略断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における電極を示す平面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態における電極を示す第2概略断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態における電極製造装置を示す概念図である。
【
図8】
図8は、第1試験例~第3試験例における電極の断面画像および上面画像である。
【
図9】
図9は、第1試験例における固形分率と乾燥時間との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、第2試験例における固形分率と乾燥時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
<用語の定義等>
以下、本開示の実施形態(「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0043】
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない要素の付加が許容される。
【0044】
本明細書に記載される方法において、複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0045】
本明細書において、単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1個の粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0046】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならない」という意味ではなく、許容的な意味「する可能性を有する」という意味で使用されている。
【0047】
本明細書において、例えば「70~99%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「70~99%」は、「70%以上99%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0048】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値である。全ての数値は有効数字で表示される。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差を含み得る。
【0049】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0050】
本明細書の「平面視」は、対象物(例えば「電極」等)の厚さ方向と平行な視線で、対象物を視ることを示す。本明細書の「断面視」は、対象物の厚さ方向と直交する視線で、対象物を視ることを示す。
【0051】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0052】
本明細書の「固形分率」は、固液混合体における、液体以外の成分の質量分率(百分率)を示す。固形分率は「NV(Nonvolatile content)」とも称され得る。スラリー、塗膜においては、分散媒が液体である。分散媒にバインダが溶解している場合、バインダ(溶質)は、液体以外の成分とみなされる。
【0053】
本明細書の「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径と定義される。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0054】
<電極の製造方法>
図2は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
以下「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。
本製造方法は、「(a)スラリーの調製」、「(b)塗布」、「(c)第1乾燥」、「(d)型押し加工」、および「(e)第2乾燥」を含む。本製造方法は、例えば「(f)圧縮」等をさらに含んでいてもよい。各ステップは、大気中で実施されてもよいし、例えば、ドライエア中等で実施されてもよい。
【0055】
本製造方法においては、リチウムイオン電池が製造され得る。ただしリチウムイオン電池は一例に過ぎない。本製造方法においては、任意の電池が製造され得る。本製造方法においては、正極が製造されてもよいし、負極が製造されてもよい。本製造方法においては、正極および負極の少なくとも一方が製造され得る。
【0056】
《(a)スラリーの調製》
本製造方法は、活物質粒子とバインダと分散媒とを混合することにより、スラリーを調製することを含む。スラリーは液状塗料である。本製造方法においては、任意の攪拌装置によりスラリーが調製され得る。例えば、プラネタリーミキサー、「ハイスピードミキサーシリーズ(アーステクニカ社製)」等が使用されてもよい。
【0057】
攪拌装置の攪拌槽に、活物質粒子、バインダおよび分散媒が投入される。例えば、任意の成分(導電材等)が追加されてもよい。所定条件で、材料が混合されることにより、スラリーが調製され得る。
【0058】
〈活物質粒子〉
活物質粒子は、スラリーの分散質である。活物質粒子は、任意の形状を有し得る。活物質粒子は、例えば、球状、塊状、フレーク状、柱状等であってもよい。活物質粒子は、任意のサイズを有し得る。活物質粒子は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよいし、5~20μmのD50を有していてもよい。
【0059】
活物質粒子は、正極活物質または負極活物質を含む。活物質粒子が正極活物質を含む時、正極が製造され得る。活物質粒子が負極活物質を含む時、負極が製造され得る。
【0060】
正極活物質は、負極活物質に比して高い電位において、リチウムイオンを吸蔵し、放出し得る。正極活物質は任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。
【0061】
負極活物質は、正極活物質に比して低い電位において、リチウムイオンを吸蔵し、放出し得る。負極活物質は任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0062】
〈バインダ〉
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダは、分散媒に可溶であってもよいし、不溶であってもよい。バインダの配合量は、100質量部の活物質粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)およびポリアクリル酸(PAA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0063】
〈導電材〉
スラリーに導電材が混合されてもよい。導電材は、活物質層において電子伝導パスを形成し得る。導電材の配合量は、100質量部の活物質粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびサーマルブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0064】
〈分散媒〉
分散媒は液体である。分散媒は、バインダの溶剤であってもよい。分散媒は、例えば、活物質粒子の種類、バインダの種類等に応じて選択され得る。分散媒は、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を含んでいてもよい。
【0065】
分散媒の配合量は、スラリーの固形分率に応じて調整される。スラリーは、例えば50~65%の固形分率を有していてもよい。活物質粒子が正極活物質を含む時、スラリーは例えば55~65%の固形分率を有していてもよい。活物質粒子が負極活物質を含む時、スラリーは、例えば50~60%の固形分率を有していてもよい。これらの固形分率の範囲において、活物質粒子の凝集および沈降が発生し難く、スラリー状態が維持されやすい傾向がある。
【0066】
《(b)塗布》
本製造方法は、スラリーを基材の表面に塗布することにより、第1塗膜を形成することを含む。本製造方法においては、任意の塗布装置により、スラリーが塗布され得る。例えば、ダイコータ、ロールコータ等が使用されてもよい。
【0067】
スラリーは高い流動性を有する。そのため第1塗膜には、液垂れ部が形成され得る。液垂れ部は、平面視において、短手方向の端部に形成され得る。短手方向は長手方向と直交する。長手方向は、塗布装置におけるワークの搬送方向と同方向であり得る。
【0068】
〈基材〉
基材は活物質層の支持体である。基材は、例えばシート状であってもよい。基材は、例えば帯状であってもよい。基材は導電性を有していてもよい。基材は集電体として機能してもよい。基材は、例えば金属箔等を含んでいてもよい。基材は、例えば、アルミニウム(Al)箔、Al合金箔、銅(Cu)箔、Cu合金箔、ニッケル(Ni)箔、Ni合金箔、チタン(Ti)箔、およびTi合金箔からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。電極が正極である時、基材は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。電極が負極である時、基材は、例えばCu箔等を含んでいてもよい。基材は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよいし、5~20μmの厚さを有していてもよい。
【0069】
《(c)第1乾燥》
本製造方法は、第1塗膜を乾燥することにより、第2塗膜を形成することを含む。第1乾燥は、例えば「予備乾燥」と換言され得る。第1乾燥においては、任意の乾燥装置が使用され得る。例えば、熱風乾燥装置、赤外線乾燥装置等が使用されてもよい。
【0070】
本製造方法においては、第2塗膜において、固相、液相および気相がペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成するように、乾燥条件が調整される。乾燥条件は、例えば、乾燥温度、乾燥時間等を含み得る。第2塗膜の乾燥状態は次の方法により確認される。
【0071】
〈乾燥状態の確認方法〉
平面視において、第2塗膜は、長手方向と短手方向とを有する。長手方向は、乾燥装置内におけるワークの搬送方向と同方向であり得る。短手方向は「幅方向」と換言され得る。第2塗膜が短手方向に5等分されることにより、5個の領域に区分される。例えばカッター等により、各領域の中心付近から、基材ごと試料(第2塗膜)が切り出される。すなわち5個の試料が準備される。
【0072】
Cryo-SEM(Cryo Scanning Electron Microscopy)が準備される。
大気中において、液体窒素により試料が急速凍結される。第1乾燥から急速凍結までの時間は、10分以内が望ましい。凍結後、試料がCryoチャンバに導入される。Cryoチャンバにおいて、試料に断面加工が施される。断面加工後、試料が冷却ステージに導入される。冷却ステージにおいて、試料がSEMにより観察される。観察倍率は、1000~5000倍であり得る。
【0073】
SEM画像において、「表面の一部が分散媒で覆われている活物質粒子」は、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態にあるとみなされる。換言すれば、下記(i)および(ii)以外の活物質粒子は、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態にあるとみなされる。
【0074】
(i)「表面全体が分散媒で覆われている活物質粒子」
(ii)「表面全体が気相(空隙)で覆われている活物質粒子」
【0075】
各試料のSEM画像において、20個以上の活物質粒子の状態が確認される。すなわち合計で100個以上の活物質粒子の状態が確認される。確認個数が多い程、測定結果の信頼性が向上すると考えられる。個数分率で、50%以上の活物質粒子がペンジュラー状態またはファニキュラー状態にある場合、第2塗膜において、固相、液相および気相が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成しているとみなされる。
【0076】
個数分率で例えば70%以上の活物質粒子がペンジュラー状態またはファニキュラー状態にあってもよい。個数分率で例えば80%以上の活物質粒子がペンジュラー状態またはファニキュラー状態にあってもよい。
【0077】
〈固形分率〉
第2塗膜の固形分率が確認されてもよい。例えば、基材ごと試料(第2塗膜)が切り出される。試料の面積は、例えば10~50cm2であってもよい。ウェット状態での試料の質量と、ドライ状態での試料の質量とが測定される。ウェット状態の質量と、ドライ状態の質量との差分から、分散媒の質量が求まる。さらに分散媒の質量から固形分率が求まる。
【0078】
第2塗膜は、例えば70~99%の固形分率を有していてもよい。70~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。
【0079】
活物質粒子が正極活物質を含む時、第2塗膜は、例えば80~99%の固形分率を有していてもよい。活物質粒子が正極活物質を含む時、80~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。活物質粒子が正極活物質を含む時、第2塗膜は、例えば81~97%の固形分率を有していてもよい。
【0080】
活物質粒子が負極活物質を含む時、第2塗膜は、例えば70~99%の固形分率を有していてもよい。活物質粒子が負極活物質を含む時、70~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態が形成されやすい傾向がある。活物質粒子が負極活物質を含む時、第2塗膜は、例えば72~96%の固形分率を有していてもよい。
【0081】
《(d)型押し加工》
本製造方法は、第2塗膜の表面に、凸型を押し付けることにより、該表面に凹部を形成することを含む。
【0082】
型押し加工においては、例えば、エンボスロール等が使用されてもよい。本製造方法においては、第2塗膜(加工対象)が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態にある。よって、第2塗膜の離型性が良好であり得る。すなわち、凸型に第2塗膜(材料)が付着し難い。さらに、凸型との接触部およびその周囲が、一体的に流動し得るため、密度バラツキの発生が低減し得る。また、ドライ状態に比して、小さい荷重により成形し得るという利点もある。
【0083】
本製造方法においては、1個以上の凹部が形成される。複数個の凹部が形成されてもよい。複数個の凹部が形成されることにより、第2塗膜の表面に凹凸構造が形成され得る。個々の凹部は、例えば直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、波線状であってもよいし、ドット状であってもよい。凹部の平面パターンは、例えば、万線状であってもよいし、格子状であってもよい。
【0084】
《(e)第2乾燥》
本製造方法は、凹部の形成後、第2塗膜を乾燥することにより、活物質層を形成することを含む。
【0085】
第2乾燥は、例えば「本乾燥」と換言され得る。第2乾燥においては、第2塗膜がドライ状態まで乾燥される(
図1参照)。これにより活物質層(ドライ状態の塗膜)が形成される。第2乾燥においても、任意の乾燥装置が使用され得る。例えば、熱風乾燥装置、赤外線乾燥装置等が使用されてもよい。
【0086】
《(f)圧縮》
本製造方法は、活物質層を圧縮することを含んでいてもよい。圧縮により、活物質層の厚さ、密度が調整され得る。例えば、ロールプレス装置により、活物質層が圧縮されてもよい。
【0087】
以上より電極(原反)が製造され得る。原反は、電池の仕様に合わせて、所定の形状に切断され得る。
【0088】
<電極>
図3は、本実施形態における電極を示す概略図である。
電極100は、基材110と活物質層120とを含む。基材110の詳細は、前述のとおりである。活物質層120は基材110の表面に形成されている。活物質層120は、基材110の片面のみに形成されていてもよい。活物質層120は、基材110の表裏両面に形成されていてもよい。活物質層120は、例えば、10~1000μmの厚さを有していてもよいし、50~500μmの厚さを有していてもよいし、100~200μmの厚さを有していてもよい。
【0089】
活物質層120は、活物質粒子とバインダとを含む。活物質層120は、例えば導電材等をさらに含んでいてもよい。各材料の詳細は前述のとおりである。活物質層120の表面には、凹部121(溝)が形成されている。1個の凹部121が形成されていてもよいし、複数個の凹部121(溝群)が形成されていてもよい。
【0090】
図4は、本実施形態における電極を示す第1概略断面図である。
凹部121の断面形状は任意である。断面視において、凹部121の底部は、例えば、平坦であってもよいし、湾曲していてもよいし、傾斜していてもよい。断面視において、凹部121は、例えばV字状であってもよいし、U字状であってもよい。
【0091】
凹部121のピッチ121pは、隣接する凹部121間において、最深部間の距離を示す。凹部121の底部が平坦である場合、底部の中央が最深部とみなされる。ピッチ121pは、例えば、0.1~10mmであってもよいし、0.5~5mmであってもよいし、1~3mmであってもよい。
【0092】
凹部121の深さ121dは、活物質層120の表面(凸部122の頂点)から、凹部121の最深部までの深さを示す。深さ121dは、例えば、10~150μmであってもよいし、50~100μmであってもよい。活物質層120の厚さ120tに対する、凹部121の深さ121dの比は、例えば、0.1~0.9であってもよいし、0.2~0.8であってもよいし、0.3~0.7であってもよい。
【0093】
凸部122は、凹部121と凹部121との間に形成されている。本実施形態においては、凹部121と、凸部122との間で、密度バラツキ(密度の差)が小さいことが期待される。凹部121における活物質粒子の密度に対する、凸部122における活物質粒子の密度の比は、例えば、0.7~1.0であってもよいし、0.8~1.0であってもよいし、0.9~1.0であってもよい。例えば、活物質層120の断面SEM画像において、凹部121の面積に対する、凹部121に含まれる活物質粒子の面積の比率が、凹部121の密度とみなされてもよい。例えば、凸部122の面積に対する、凸部122に含まれる活物質粒子の面積の比率が、凸部122の密度とみなされてもよい。
【0094】
図5は、本実施形態における電極を示す平面図である。
平面視(XY平面)において、活物質層120は長手方向(Y軸方向)と短手方向(X軸方向)とを有する。長手方向は「長さ方向」と換言され得る。短手方向は「幅方向」と換言され得る。凹部121および凸部122は、短手方向に沿って延びている。ただし、凹部121および凸部122は、例えば、長手方向に沿って延びていてもよい。
【0095】
短手方向(X軸方向)において、活物質層120は、中央部123と、端部124とを含む。端部124は、中央部123に接続している。端部124は、中央部123の両側に形成されていてもよいし、片側のみに形成されていてもよい。端部124(片側)の幅は、例えば、0.001~10mmであってもよいし、0.01~5mmであってもよいし、0.1~3mmであってもよい。中央部123は、任意の幅を有し得る。中央部123の幅に対する、端部124(片側)の幅の比は、例えば、0.001~0.05であってもよい。
【0096】
図6は、本実施形態における電極を示す第2概略断面図である。
端部124は、例えば液垂れ部125を含んでいてもよい。液垂れ部125は、例えば「傾斜部」と換言され得る。液垂れ部125においては、活物質層120が傾斜している。すなわち、液垂れ部125においては、活物質層120の厚さが外側に向かって漸減している。液垂れ部125の傾斜角125θは、例えば、1~60度であってもよいし、1~30度であってもよい。液垂れ部125の幅125wは、例えば、0.1~3mmであってもよいし、0.5~2mmであってもよい。
【0097】
例えば、凸型が液垂れ部125に届かないために、液垂れ部125の少なくとも一部に凹部121が形成されないことがある。これにより、例えば、端部124における活物質層120の剥離、崩落が低減することが期待される。短手方向において、液垂れ部125の先端と、凹部121の先端との距離は、例えば、0.1~3mmであってもよいし、0.5~2mmであってもよい。
【0098】
<電極製造装置>
図7は、本実施形態における電極製造装置を示す概念図である。
電極製造装置200においては、本製造方法が実施され得る。電極製造装置200においては、ロールtoロール方式により電極が製造され得る。電極製造装置200は、搬送装置210、塗布装置220、第1乾燥装置230、成形装置240、および第2乾燥装置250を含む。電極製造装置200は、例えば圧縮装置260等をさらに含んでいてもよい。
【0099】
電極製造装置200は、例えば、混合装置(不図示)等をさらに含んでいてもよい。混合装置は、例えば、スラリーを調製し得る。電極製造装置200は、例えば、切断装置(不図示)等をさらに含んでいてもよい。切断装置は、例えば圧縮後の電極を所定の形状に切断し得る。電極製造装置200は、例えば、制御装置(不図示)等をさらに含んでいてもよい。制御装置は、例えば各装置の動作および連携を制御し得る。
【0100】
《搬送装置》
搬送装置210は基材110を搬送する。搬送装置210は、例えば、送り出しロール211と巻き取りロール212とを含んでいてもよい。例えば、送り出しロール211が基材110を送り出す。巻き取りロール212が基材110(電極100)を巻き取る。基材110は、塗布装置220、第1乾燥装置230、成形装置240、第2乾燥装置250、圧縮装置260の順に、各装置を通過し得る。
【0101】
《塗布装置》
塗布装置220は、基材110の表面にスラリーを塗布する。これにより第1塗膜が形成され得る。塗布装置220は、任意の方法によりスラリーを塗布し得る。塗布装置220は、例えば、ダイコータ、ロールコータ等を含んでいてもよい。第1塗膜は、第2塗膜が液垂れ部を有するように形成され得る。例えば、スラリーの目付量、粘度等により、液垂れ部の傾斜および幅等が調整され得る。
【0102】
《第1乾燥装置》
第1乾燥装置230は、第1塗膜を乾燥することにより、第2塗膜を形成する。第1乾燥装置230は、第2塗膜が液垂れ部を有するように、第1塗膜を乾燥し得る。例えば、乾燥条件(乾燥温度、乾燥時間等)により、液垂れ部の傾斜および幅等が調整され得る。第1乾燥装置230は、任意の方法により、第1塗膜を乾燥し得る。第1乾燥装置230は、例えば、熱風乾燥装置、赤外線乾燥装置等を含んでいてもよい。乾燥条件は、第2塗膜において、固相、液相および気相がペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成するように調整される。
【0103】
《成形装置》
成形装置240は、第2塗膜の表面に凸型を押し付けることにより、該表面に凹部を形成する。成形装置240は、例えば、エンボスロール241等を含んでいてもよい。エンボスロール241の表面には、1個以上の凸型が形成されている。凸型のパターンに応じて、凹部が形成され得る。エンボスロール241の表面に、例えばセラミックス層が形成されていてもよい。セラミックス層に凸型が形成されていてもよい。活物質層との接触部がセラミックス層であることにより、例えば、活物質層への金属異物の混入が低減し得る。セラミックス層は、例えば、アルミナ、チタニア等を含んでいてもよい。例えば、レーザ彫刻により、セラミックス層に凸型が形成され得る。例えば、凸型の高さ等により、凹部の深さが調整され得る。凸型は、例えば50~200μmの高さを有していてもよい。エンボスロール241の芯部は、例えば、ステンレス鋼材等により形成されていてもよい。
【0104】
《第2乾燥装置》
第2乾燥装置250は、第2塗膜を乾燥することにより、活物質層を形成する。第2乾燥装置250は、任意の方法により、第2塗膜を乾燥し得る。第2乾燥装置250は、例えば、熱風乾燥装置、赤外線乾燥装置等を含んでいてもよい。乾燥条件は、活物質層がドライ状態になるように調整される。
【0105】
《圧縮装置》
圧縮装置260は、活物質層を圧縮する。圧縮装置260は、任意の方法により活物質層を圧縮し得る。圧縮装置260は、例えばロールプレス装置等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0106】
以下、本実施例が説明される。
【0107】
<第1試験例>
第1試験例においては正極が製造された。
【0108】
《(a)スラリーの調製》
下記材料が準備された。
活物質粒子:Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVDF
分散媒:NMP
【0109】
攪拌装置としてプラネタリーミキサーが準備された。90質量部の活物質粒子と、2質量部のバインダと、8質量部の導電材とが、攪拌装置の攪拌槽に投入された。さらに、スラリーの固形分率が62.5%になるように、分散媒が攪拌槽に投入された。攪拌槽において材料が混合されることにより、スラリーが調製された。
【0110】
《(b)塗布》
基材としてAl箔が準備された。塗布装置としてダイコータが準備された。基材の表面にスラリーが塗布されることにより第1塗膜が形成された。
【0111】
《(c)第1乾燥》
第1塗膜(当初固形分率:62.5%)が乾燥されることにより、第2塗膜が形成された。第2塗膜の固形分率は、80%であった。前述の方法により、第2塗膜の乾燥状態が確認された。第2塗膜においては、固相、液相および気相が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していた。第2塗膜の狙い厚さは、150μmであった。
【0112】
《(d)型押し加工》
エンボスロールにより、第2塗膜の表面に凹部が形成された。凸型の高さは、100μmであった。凹部は万線状に形成された。すなわち、平面視において、複数個の平行線により凹凸構造が形成された。凹部の各々は、第2塗膜の短手方向(幅方向)に沿って延びていた。凹部のピッチは1mmであった。線圧は40N/cmであった。
【0113】
《(e)第2乾燥》
凹部の形成後、第2塗膜が乾燥されることにより、活物質層が形成された。
【0114】
《(f)圧縮》
ロールプレス装置により、活物質層が圧縮された。線圧は4t/cmであった。以上より、電極(正極)が製造された。
【0115】
<第2試験例>
第2試験例においては、負極が製造された。
【0116】
《(a)スラリーの調製》
下記材料が準備された。
活物質粒子:黒鉛
バインダ:CMC、SBR
分散媒:水
【0117】
攪拌装置としてプラネタリーミキサーが準備された。98質量部の活物質粒子と、2質量部のバインダ(1質量部のCMCと、1質量部のSBR)とが、攪拌装置の攪拌槽に投入された。さらに、スラリーの固形分率が60%になるように、分散媒が攪拌槽に投入された。攪拌槽において材料が混合されることにより、スラリーが調製された。
【0118】
《(b)塗布》
基材としてCu箔が準備された。塗布装置としてダイコータが準備された。基材の表面にスラリーが塗布されることにより第1塗膜が形成された。
【0119】
《(c)第1乾燥》
第1塗膜(当初固形分率:60%)が乾燥されることにより、第2塗膜が形成された。第2塗膜の固形分率は、72%であった。前述の方法により、第2塗膜の乾燥状態が確認された。第2塗膜においては、固相、液相および気相が、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していた。
【0120】
《(d)型押し加工》
エンボスロールにより、第2塗膜の表面に凹部が形成された。凹部は万線状に形成された。凹部の各々は、第2塗膜の短手方向(幅方向)に沿って延びていた。凹部のピッチは1mmであった。線圧は40N/cmであった。
【0121】
《(e)第2乾燥》
凹部の形成後、第2塗膜が乾燥されることにより、活物質層が形成された。
【0122】
《(f)圧縮》
ロールプレス装置により、活物質層が圧縮された。線圧は1t/cmであった。以上より、電極(負極)が製造された。
【0123】
《第3試験例》
第3試験例においては、正極が製造された。第3試験例においては、スラリーに代えて、湿潤粉粒体により、塗膜が形成された。使用材料は、第1試験例と同一であった。
【0124】
攪拌装置としてハイスピードミキサー(アーステクニカ社製)が準備された。90質量部の活物質粒子と、2質量部のバインダと、8質量部の導電材とが、攪拌装置の攪拌槽に投入された。攪拌槽において、固体材料が15秒間混合された。混合羽根の回転速度は4500rpmであった。混合後、固形分率が90%になるように、液体(NMP)が追加された。液体の追加後、攪拌槽において、材料が30秒間混合された。混合羽根の回転速度は300rpmであった。さらに2秒間材料が混合されることにより、材料が微細化された。混合羽根の回転速度は4500rpmであった。
【0125】
塗布装置としてロールコータが準備された。ロールギャップにおいて、湿潤粉粒体が圧密されることにより、シート状の成形体が形成された。成形体が基材の表面に転写されることにより、塗膜が形成された。へら状の掻き取り治具により、塗膜の端部の形状が整えられた。以降、第1試験例と同様に、型押し加工、乾燥、圧縮が実施されることにより、電極(正極)が製造された。
【0126】
<結果>
図8は、第1試験例~第3試験例における電極の断面画像および上面画像である。
第1試験例、2試験例においては、スラリーの塗布により活物質層が形成された。断面画像に示されるように、短手方向(X軸方向)の端部に液垂れ部(傾斜部)が形成されていた。液垂れ部は、1mm程度の範囲にわたって形成されていた。
【0127】
第3試験例においては、湿潤粉粒体により活物質層が形成された。さらに短手方向(X軸方向)の端部において、塗膜の掻き取り処理が施された。断面画像に示されるように、第3試験例においては、液垂れ部が殆ど見られない。第3試験例において、活物質層の上面と下面とのずれは、20μm程度であった。
【0128】
上面画像に示されるように、第1試験例および第2試験例においては、凹部が短手方向(X軸方向)の先端まで延びていない。第1試験例および第2試験例においては、短手方向の端部に液垂れ部が形成されているためと考えられる。短手方向の端部において、活物質層(塗膜)の剥離、崩落等は見られない。
【0129】
上面画像に示されるように、第3試験例においては、凹部が短手方向の先端付近まで延びている。液垂れ部が形成されていないためと考えられる。第3試験例においては、短手方向の端部において、活物質層の剥離、崩落が発生した。
【0130】
図9は、第1試験例における固形分率と乾燥時間との関係を示すグラフである。
図9の横軸は、「(c)第1乾燥」における乾燥時間を示す。
図9の縦軸は、「(c)第1乾燥」直後の固形分率を示す。第1試験例(正極)においては、80~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の形成が確認された。80~99%の固形分率において、狙い形状の凹部が形成されていた。凹部の深さは60~80μmであった。80%未満の固形分率では、凸型に材料が付着し、狙い形状の凹部を形成することが困難であった。
【0131】
図10は、第2試験例における固形分率と乾燥時間との関係を示すグラフである。
図10の横軸は、「(c)第1乾燥」における乾燥時間を示す。
図10の縦軸は、「(c)第1乾燥」直後の固形分率を示す。第2試験例(負極)においては、70~99%の固形分率において、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の形成が確認された。70~99%の固形分率において、狙い形状の凹部が形成されていた。凹部の深さは70~80μmであった。70%未満の固形分率では、凸型に材料が付着し、狙い形状の凹部を形成することが困難であった。
【0132】
<付記>
本実施形態および本実施例は、下記「電極」も開示する。
基材と活物質層とを含み、
前記活物質層は前記基材の表面に形成されており、
前記活物質層は活物質粒子とバインダとを含み、
前記活物質層の表面に凹部と凸部とが形成されており、
前記凹部における前記活物質粒子の密度に対する、前記凸部における前記活物質粒子の密度の比は、0.7~1.0であり、
平面視において、前記活物質層は、長手方向と短手方向とを有し、
前記短手方向において、前記活物質層の端部に傾斜部(液垂れ部)が形成されている、
電極。
【0133】
前記凹部は、前記短手方向に沿って延びており、
前記凹部は、前記傾斜部(液垂れ部)の先端まで延びていない、
電極。
【0134】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0135】
1 活物質粒子、2 分散媒、3 ガス、100 電極、110 基材、120 活物質層、120t 厚さ、121 凹部、121d 深さ、121p ピッチ、122 凸部、123 中央部、124 端部、125θ 傾斜角、125 液垂れ部、200 電極製造装置、210 搬送装置、211 ロール、212 取りロール、220 塗布装置、230 第1乾燥装置、240 成形装置、241 エンボスロール、250 第2乾燥装置、260 圧縮装置。