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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ハイブリッド式電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20240910BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240910BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240910BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20240910BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240910BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60W20/00 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/387
B60L50/16
B60L15/20 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021142773
(22)【出願日】2021-09-01
(65)【公開番号】P2023035722
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 翔太
(72)【発明者】
【氏名】早坂 昭人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-091618(JP,A)
【文献】特開2019-151256(JP,A)
【文献】特開2020-059393(JP,A)
【文献】特開2020-101219(JP,A)
【文献】特開2018-012440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/48
B60K 6/387
B60W 10/00 ー 20/50
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源としてエンジンおよび電動機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に前記駆動力源側からトルクコンバータおよびギヤ機構が直列に配設されている一方、前記エンジンと前記動力伝達経路との間にエンジン断接装置が設けられているハイブリッド式電動車両に関し、
前記エンジン断接装置が前記エンジンを前記動力伝達経路から切り離す遮断状態で前記電動機のみを用いて走行するモータ走行モードと、前記エンジン断接装置が前記エンジンを前記動力伝達経路に連結する接続状態で少なくとも該エンジンを用いて走行するエンジン走行モードと、に切り替えるハイブリッド制御部と、
前記トルクコンバータを介して前記ギヤ機構側から前記駆動力源側へ動力が伝達される被駆動走行から、前記トルクコンバータを介して前記駆動力源側から前記ギヤ機構側へ動力が伝達される駆動走行へ変化する際に、前記駆動力源から前記トルクコンバータに入力される入力トルクを制限して前記ギヤ機構をガタ詰めするガタ詰め制御部と、
を有するハイブリッド式電動車両の制御装置において、
前記ガタ詰め制御部は、前記エンジン断接装置が前記遮断状態か前記接続状態かを判定する断接判定部を備えており、前記トルクコンバータにおける前記駆動力源側の入力回転速度から前記ギヤ機構側の出力回転速度を引き算した差回転が負から正に変化するガタ詰め領域で前記入力トルクの制限値を漸増させる際に、前記遮断状態の場合には前記接続状態の場合よりも小さな変化率で漸増させる
ことを特徴とするハイブリッド式電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド式電動車両の制御装置に係り、特に、被駆動走行から駆動走行へ変化する際にギヤ機構をガタ詰めするガタ詰め制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動力源としてエンジンおよび電動機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路にギヤ機構が配設されている一方、前記エンジンと前記動力伝達経路との間にエンジン断接装置が設けられているハイブリッド式電動車両が知られている。特許文献1に記載の車両はその一例で、動力分割機構4および第1モータ2がエンジン断接装置として機能する。特許文献1には、車両の加速時にギヤ機構のバックラッシに起因してトルク変動などが生じることを抑制するために、入力トルクを制限するフィルタ処理を行なう技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-103002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路にトルクコンバータが配設されている車両においては、トルクコンバータの前後で差回転が生じ、被駆動走行から駆動走行へ変化する際には、その差回転が負から正へ変化するとともに、ギヤ機構のバックラッシに起因してガタ打ちショック(歯打ち音やトルク変動など)が生じるため、特許文献1と同様に入力トルクを制限し、ガタ打ちショックが抑制されるようにギヤ機構をガタ詰めすることが考えられる。
【0005】
一方、前記ハイブリッド式電動車両においては、エンジン断接装置がエンジンを動力伝達経路から切り離す遮断状態で電動機のみを用いて走行するモータ走行モードと、エンジン断接装置がエンジンを動力伝達経路に連結する接続状態で少なくともエンジンを用いて走行するエンジン走行モードと、に切り替えることができる。その場合に、モータ走行モードとエンジン走行モードとでは、エンジンの有無によってトルクコンバータよりも駆動力源側のイナーシャが異なるため、同じ入力トルクで制限した場合、前記差回転の増減変化量が走行モードによって相違するとともに、その差回転に応じてトルクコンバータの容量係数が変化し、トルクコンバータの伝達トルクが変化するため、ガタ打ちショックを適切に抑制することができないという問題がある。
【0006】
図5は、アクセルOFFの被駆動走行から運転者の加速要求に従って駆動走行へ移行する所謂チップイン加速時に、アクセル操作量θacc に応じて定まる要求入力トルクTindem に対して、走行モードの相違に拘らず共通の制限トルクパターンに従って目標入力トルクTint を制限してガタ詰め制御が行なわれた場合のタイムチャートの一例である。目標入力トルクTint は、駆動力源(エンジンおよび/または電動機)からトルクコンバータに加えられる実際の入力トルクに相当し、差回転ΔNはトルクコンバータの入力回転速度と出力回転速度との回転速度差で、DSトルクTdsはドライブシャフトのトルクである。この例では、応答性を確保するためにガタ詰めの初期段階で目標入力トルクTint を第1制限値tin1まで上昇させた後、差回転ΔNが負から正に変化する直前部分で第2制限値tin2まで低下させ、その後比較的小さな第1変化率Φ1で漸増させることにより滑らかにガタ詰めを行い、ガタ詰めが完了したら比較的大きな第2変化率Φ2で要求入力トルクTindem まで上昇させるようになっている。その場合に、エンジン走行モードであるHEV走行モードの差回転ΔN(実線)に基づいて目標入力トルクTint の制限トルクパターンを設定すると、そのHEV走行モードでは差回転ΔNが滑らかに変化し、DSトルクTdsの急な変動が抑制されてガタ打ちショックを適切に抑制できるものの、モータ走行モードであるBEV走行モード(点線)では、イナーシャが小さいことから差回転ΔNの増減変化量が大きくなり、DSトルクTdsの変動が大きくなってガタ打ちショックが発生する可能性がある。すなわち、目標入力トルクTint を第1変化率Φ1で漸増させ、差回転ΔNを負から正へ変化させるガタ詰め領域(時間t2~t3)で、BEV走行モードの場合の差回転ΔNの変化がHEV走行モードに比較して大きくなり、ガタ打ちショックが発生し易い。なお、図5の例では、目標入力トルクTint を第1制限値tin1まで上昇させる時間t1~t2の間でも、イナーシャが小さいBEV走行モードでは差回転ΔNが正側までオーバーシュートしているため、ガタ打ちショックが発生する可能性がある。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、駆動力源側のイナーシャの相違に拘らず、被駆動走行から駆動走行へ変化する際のガタ打ちショックを適切に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 駆動力源としてエンジンおよび電動機を備えているとともに、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に前記駆動力源側からトルクコンバータおよびギヤ機構が直列に配設されている一方、前記エンジンと前記動力伝達経路との間にエンジン断接装置が設けられているハイブリッド式電動車両に関し、(b) 前記エンジン断接装置が前記エンジンを前記動力伝達経路から切り離す遮断状態で前記電動機のみを用いて走行するモータ走行モードと、前記エンジン断接装置が前記エンジンを前記動力伝達経路に連結する接続状態で少なくともそのエンジンを用いて走行するエンジン走行モードと、に切り替えるハイブリッド制御部と、(c) 前記トルクコンバータを介して前記ギヤ機構側から前記駆動力源側へ動力が伝達される被駆動走行から、前記トルクコンバータを介して前記駆動力源側から前記ギヤ機構側へ動力が伝達される駆動走行へ変化する際に、前記駆動力源から前記トルクコンバータに入力される入力トルクを制限して前記ギヤ機構をガタ詰めするガタ詰め制御部と、を有するハイブリッド式電動車両の制御装置において、(d) 前記ガタ詰め制御部は、前記エンジン断接装置が前記遮断状態か前記接続状態かを判定する断接判定部を備えており、前記トルクコンバータにおける前記駆動力源側の入力回転速度から前記ギヤ機構側の出力回転速度を引き算した差回転が負から正に変化するガタ詰め領域で前記入力トルクの制限値を漸増させる際に、前記遮断状態の場合には前記接続状態の場合よりも小さな変化率で漸増させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このようなハイブリッド式電動車両の制御装置においては、エンジン断接装置が遮断状態か接続状態かを判定し、遮断状態の場合すなわちエンジンが動力伝達経路から切り離され、駆動力源側のイナーシャが比較的小さいモータ走行モードによる走行時には、差回転が負から正に変化するガタ詰め領域で入力トルクの制限値を漸増させる際に、エンジン断接装置が接続状態のエンジン走行モードによる走行時よりも小さな変化率で入力トルクの制限値を漸増させてガタ詰めする。これにより、イナーシャの相違に拘らず、差回転を負から正へ略同じ変化パターンで変化させることができるようになり、何れの走行モードにおいても適切にガタ詰めしてガタ打ちショックを抑制することができる。また、エンジン断接装置が遮断状態か接続状態かを判定する断接判定部を備えているため、エンジンが動力伝達経路に接続されているか否か、すなわちイナーシャの相違を正確に判定でき、走行モードに応じてガタ詰め制御を常に適切に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例である制御装置を有するハイブリッド式電動車両の駆動系統を説明する概略構成図で、各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。
図2図1のハイブリッド式電動車両の電子制御装置が機能的に備えているガタ詰め制御部の作動を具体的に説明するフローチャートである。
図3】チップイン加速時に図2のフローチャートに従ってガタ詰め制御が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を説明するとともに、HEV走行モード時およびBEV走行モード時の制限トルクパターンを説明するタイムチャートの一例である。
図4図2のステップS4、S5で設定される制限トルクパターンの別の例を説明する図で、図3に対応するタイムチャートの一例である。
図5】走行モードの相違に拘らず共通の制限トルクパターンに従って入力トルクを制限してガタ詰め制御を行なった場合の各部の作動状態の変化を、走行モード別に比較して示したタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、駆動力源としてエンジンおよび電動機を備えているハイブリッド式電動車両に適用される。エンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。電動機としては、発電機としても用いることができるモータジェネレータが好適に用いられるが、発電機の機能が得られないものでも良い。エンジンを動力伝達経路から切り離すエンジン断接装置は、例えば動力伝達を接続遮断する単一のクラッチが好適に用いられるが、遊星歯車装置等の差動歯車機構に差動制限用回転機を連結した電気式差動部等を用いることもできる。ハイブリッド式電動車両は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の後輪駆動車両や、途中に前輪側へ動力を分配するトランスファが設けられた前後輪駆動車両、トランスアクスル等のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の前輪駆動車両など、種々の電動車両が対象となる。ギヤ機構は、例えば遊星歯車式や常時噛合式等の歯車式の有段変速機や、一定の変速比で動力伝達する歯車式変速機、遊星歯車式等の歯車式前後進切替装置、左右の駆動輪に動力分配するディファレンシャルギヤなど、噛合歯車を有する種々の動力伝達機構を含む。
【0012】
ガタ詰め制御部によるガタ詰め制御は、例えば被駆動走行時に加速要求に従って駆動走行へ変化する場合に好適に適用されるが、車両の減速時にエンジンブレーキや回生ブレーキによる被駆動走行からクリープトルクによる駆動走行へ移行する場合にも適用できるなど、被駆動走行から駆動走行へ変化する種々の場面に適用できる。被駆動走行は、例えばアクセル操作量が0等の加速要求量が0の惰性走行や減速走行であるが、アクセルペダルが踏込み操作されているアクセルONの降坂路走行における被駆動走行であっても良く、加速要求としてアクセルペダルの増し踏みにより駆動走行へ変化する場合にも、本発明のガタ詰め制御を行なうことができる。加速要求は、例えば運転者によるアクセルペダルの踏込み操作など加速要求操作が行なわれた場合であるが、運転者がアクセル操作しない自動運転中の加速要求であっても良い。
【0013】
ガタ詰め制御部による入力トルクの制限値に関する制限トルクパターンは、例えば前記図5に示されるように、差回転ΔNが負であるガタ詰めの初期段階で制限トルク(目標入力トルク)を第1制限値まで上昇させた後、差回転ΔNが負から正に変化する直前部分で第2制限値まで低下させ、その後比較的小さな第1変化率で漸増させることにより滑らかにガタ詰めを行い、ガタ詰めが完了したら比較的大きな第2変化率で要求入力トルクまで上昇させるように定められ、第1変化率で漸増させる領域がガタ詰め領域に相当する。本発明は、制限トルクを漸増させて差回転ΔNを負から正に変化させるガタ詰め領域における制限トルクを規定したものであるが、それ以外の部分、例えば第1制限値や第2制限値、第2変化率等についても、エンジン走行モードとモータ走行モードとで異なる値を設定することができる。すなわち、エンジン走行モードかモータ走行モードかによって、上記第1制限値、第2制限値、第1変化率、第2変化率がそれぞれ異なる別々の制限トルクパターンに従って入力トルクを制限することが望ましい。図5の制限トルクパターンは一例で、適宜変更できるとともに、ガタ詰め領域における制限トルクの漸増態様も、必ずしも変化率が一定である必要はなく、差回転ΔN等に基づいて変化率を変更しても良いなど、種々の態様が可能である。
【0014】
上記エンジン走行モード、モータ走行モード毎の制限トルクパターンは、例えばイナーシャの相違に拘らず差回転ΔNが同じ変化パターンで変化するように設定される。すなわち、イナーシャが小さいモータ走行モードの制限トルクパターンは、例えば前記第1制限値および第2制限値がエンジン走行モードの場合よりも低く、第1変化率および第2変化率がエンジン走行モードの場合よりも小さくされる。一方、イナーシャが小さいモータ走行モードでは、入力トルクの変化に対する差回転ΔNの変化の応答性が速いため、ガタ詰め制御の進行を速くして、アクセル操作量に応じた駆動力が得られるようになるまでの駆動力応答性を高くすることができる。すなわち、モータ走行モードではエンジン走行モードよりも差回転ΔNが速やかに略0に収束するように、前記第1制限値をエンジン走行モードの場合よりも高くするとともに、差回転ΔNが正側までオーバーシュートしないように、エンジン走行モードよりも短時間で第2制限値まで低下させれば良い。
【実施例
【0015】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や角度、形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0016】
図1は、本発明の一実施例である制御装置として電子制御装置90を有するハイブリッド式電動車両10(以下、単に電動車両10という。)の駆動系統の概略構成図で、電動車両10における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。図1において、電動車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン12およびモータジェネレータMGを備えているパラレル型のハイブリッド式電動車両である。また、電動車両10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。駆動輪14は左右の後輪で、電動車両10はFR型の後輪駆動車両である。
【0017】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御機器50が電子制御装置90によって制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。モータジェネレータMGは、電力から機械的な動力を発生させる電動機としての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械で、例えばロータに永久磁石が用いられた三相交流同期モータ等であり、インバータ52を介してバッテリ54に接続されている。モータジェネレータMGは、電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、モータジェネレータMGのトルクであるMGトルクTmgが制御される。モータジェネレータMGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。モータジェネレータMGはまた、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により回転駆動される際に、発電機として機能するように回生制御されることにより発電を行うとともに、駆動輪14に連結されている場合には回生ブレーキを発生する。モータジェネレータMGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、モータジェネレータMGに対して電力を授受する蓄電装置である。モータジェネレータMGは電動機に相当する。
【0018】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側からK0クラッチ20、トルクコンバータ22、および自動変速機24を直列に備えており、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路にモータジェネレータMGが連結されている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12とモータジェネレータMGとの間に設けられたクラッチで、モータジェネレータMGとエンジン12との間を接続遮断するエンジン断接装置である。トルクコンバータ22は、モータジェネレータMGと自動変速機24との間に設けられた流体式伝動装置で、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された一対のドライブシャフト32等を備えている。また、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結するMG連結軸36等を備えており、MG連結軸36にモータジェネレータMGのロータが連結されている。上記自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30は、電動車両10が被駆動走行から駆動走行に変化する際にバックラッシに起因して歯打ち音やトルク変動等のガタ打ちショックが生じるギヤ機構に相当する。
【0019】
K0クラッチ20は、例えばアクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式または乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ20の入力側部材は、エンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の出力側部材は、MG連結軸36と連結されており、MG連結軸36と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介してモータジェネレータMGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。一方で、K0クラッチ20の開放状態では、モータジェネレータMGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12との間の動力伝達が遮断される。
【0020】
モータジェネレータMGは、ケース18内において、MG連結軸36に動力伝達可能に連結されている。モータジェネレータMGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、モータジェネレータMGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12およびモータジェネレータMGの駆動力源からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0021】
トルクコンバータ22は、MG連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、および自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的にモータジェネレータMGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。MG連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0022】
LUクラッチ40は、油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が開放された状態である完全開放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全開放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。また、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22aおよびタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0023】
自動変速機24は、例えば1組または複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0024】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合させられることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni /AT出力回転速度No )が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等の運転状態に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。また、複数の係合装置CBが総て開放されると、動力伝達を遮断するニュートラルになる。AT入力回転速度Ni は、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Ni は、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。AT出力回転速度No は、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0025】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合させられた場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、MG連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、モータジェネレータMGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、MG連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0026】
電動車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、モータジェネレータMG)により回転駆動されて動力伝達装置16にて用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動されて作動油OIL を吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OIL は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58および/またはEOP60が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。作動油OIL は、各部の潤滑や冷却にも用いられる。作動油OIL は、ケース18の下部に設けられたオイルパン等の油溜に蓄積されるとともに、MOP58および/またはEOP60により汲み上げられて油圧制御回路56へ供給される。
【0027】
電動車両10は、各種の制御を実行する制御装置として電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより電動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、MG制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0028】
電子制御装置90には、電動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、エアフローメータ82、ブレーキスイッチ84、バッテリセンサ86、油温センサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、AT入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、車速Vに対応するAT出力回転速度No 、モータジェネレータMGの回転速度であるMG回転速度Nmg、運転者の加速要求量を表すアクセルペダル79の踏込み操作量であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、エンジン12の吸入空気量Qair 、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキON信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat 、油圧制御回路56内の作動油OIL の温度である油温THoil など)が、それぞれ供給される。MG回転速度Nmgは、トルクコンバータ22の入力回転速度に相当し、タービン回転速度Nt は、トルクコンバータ22の出力回転速度に相当する。
【0029】
電子制御装置90からは、電動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御機器50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se 、モータジェネレータMGを制御するためのMG制御指令信号Smg、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御指令信号Seop など)が、それぞれ出力される。油圧制御回路56には、CB油圧制御指令信号Scb、K0油圧制御指令信号Sk0、およびLU油圧制御指令信号Sluに従って油路を切り替えたり油圧を制御したりする複数のソレノイドバルブが設けられている。
【0030】
電子制御装置90は、電動車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92、変速制御手段すなわち変速制御部94、およびガタ詰め制御手段すなわちガタ詰め制御部96を備えている。
【0031】
ハイブリッド制御部92は、モータジェネレータMGおよびエンジン12の作動を協調して制御する機能を有する。すなわち、ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御部92aと、インバータ52を介してモータジェネレータMGの作動を制御するMG制御部92bとを用いて、エンジン12およびモータジェネレータMGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、運転者による電動車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、トルクコンバータ22のトルク比、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout 等を考慮して、例えば上記要求駆動トルクTrdemを実現するために必要なトルクコンバータ22の入力トルクである要求入力トルクTindem を求め、その要求入力トルクTindem が得られるように、エンジン制御部92aを介してエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Se を出力するとともに、MG制御部92bを介してモータジェネレータMGを制御するMG制御指令信号Smgを出力する。
【0032】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Wout は、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout は、例えばバッテリ温度THbat およびバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態すなわち蓄電残量を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat およびバッテリ電圧Vbat などに基づいて算出できる。
【0033】
ハイブリッド制御部92は、モータジェネレータMGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合には、バッテリ54からの電力のみでモータジェネレータMGを駆動して走行するモータ走行モードであるBEV(Battery Electric Vehicle)走行モードとする。BEV走行モードでは、K0クラッチ20を開放状態としてエンジン12を停止させ、モータジェネレータMGのみを駆動力源として用いて走行するBEV走行を行う。このBEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem を実現するようにMGトルクTmgを制御する。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求入力トルクTindem を賄えない場合には、エンジン走行モードであるHEV(Hybrid Electric Vehicle )走行モードとする。HEV走行モードでは、K0クラッチ20を係合状態として少なくともエンジン12を駆動力源として用いて走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。このHEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem の全部または一部を実現するようにエンジントルクTe を制御し、要求入力トルクTindem に対してエンジントルクTe では不足するトルク分を補うようにMGトルクTmgを制御する。他方で、ハイブリッド制御部92は、モータジェネレータMGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合であっても、エンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。このように、ハイブリッド制御部92は、要求入力トルクTindem 等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
【0034】
つまり、エンジン制御部92aは、電動車両10に対する駆動要求量を実現するようにエンジントルクTe を制御する。また、MG制御部92bは、電動車両10に対する駆動要求量を実現するようにMGトルクTmgを制御する。具体的には、HEV走行モードにおいては、エンジン制御部92aは、目標とする動的システム軸トルクTsys である要求駆動トルクTrdemに対応する要求入力トルクTindem の全部または一部を実現するようにエンジントルクTe を制御し、MG制御部92bは、要求入力トルクTindem に対してエンジントルクTe では不足するトルク分を補うようにMGトルクTmgを制御する。エンジントルクTe としては、例えば予め定められた関係である公知のエンジントルクマップに吸入空気量Qair およびエンジン回転速度Ne を適用して算出した推定エンジントルクを用いることができる。また、BEV走行モードにおいては、MG制御部92bは、要求入力トルクTindem を実現するようにMGトルクTmgを制御する。なお、停車中の要求駆動トルクTrdemは、例えばクリープトルクを維持する為のトルク、エンジン12のアイドリング回転速度Neidlを維持する為のトルクなどである。クリープトルクは、例えばアクセル開度θacc が0のアクセルOFFのままで所謂クリープ走行にて電動車両10を走行させる為のトルクである。
【0035】
変速制御部94は、自動変速機24の変速制御を実行する機能を有する。すなわち、変速制御部94は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行するためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速マップは、例えば車速Vおよび要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する所定の関係である。
【0036】
ガタ詰め制御部96は、LUクラッチ40が完全開放状態でトルクコンバータ22を介して変速機入力軸38側からMG連結軸36側へ動力が伝達される被駆動走行から、トルクコンバータ22を介してMG連結軸36側から変速機入力軸38側へ動力が伝達される駆動走行へ変化する際に、自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30の各部のバックラッシに起因するガタ打ちショックを抑制するために、それ等の自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30を滑らかにガタ詰めするガタ詰め制御を実行する。ガタ詰め制御部96は、断接判定部96aを機能的に備えており、図2のフローチャートのステップS1~S6(以下、ステップを省略して単にS1~S6と表現する。)に従って信号処理を実行する。図2のフローチャートのS3は断接判定部96aに相当する。
【0037】
図2のフローチャートのS1では、予め定められた被駆動状態フェーズか否かを判断する。具体的には、トルクコンバータ22の入力回転速度であるMG回転速度Nmgから出力回転速度であるタービン回転速度Nt を引き算した差回転ΔN(=Nmg-Nt )が負で、且つその絶対値ΔNabが予め定められた被駆動判定値α以上である場合に、被駆動状態フェーズと判定する。被駆動判定値αは、例えば予め一定値が定められる。そして、被駆動状態フェーズでなければそのまま終了するが、被駆動状態フェーズであればS2を実行する。S2では、運転者が加速要求操作を行なったか否か、すなわちアクセルペダル79が踏込み操作されたアクセルONか否かを判断する。具体的にはアクセル開度θacc に基づいて判断し、アクセル開度θacc =0のアクセルOFFであればそのまま終了するが、アクセルONの場合にはS3以下のガタ詰め制御を実行する。本実施例のガタ詰め制御部96は、アクセルOFFの被駆動走行から運転者の加速要求に従って駆動走行へ移行する所謂チップイン加速時に、自動変速機24やディファレンシャルギヤ30のガタ詰め制御を行なうものである。
【0038】
図3は、図2のフローチャートに従ってガタ詰め制御が行なわれた場合の要求入力トルクTindem 、HEV走行モード時の目標入力トルクTinhev 、BEV走行モード時の目標入力トルクTinbev 、差回転ΔN、ドライブシャフト32のトルクであるDSトルクTds、アクセル開度θacc の変化を示したタイムチャートの一例である。目標入力トルクTinhev 、Tinbev は、それぞれガタ詰め制御による制限トルクパターンに従って制限された入力トルクTinである。図3の時間t1は、アクセルペダル79が踏込み操作されてS2の判断がYES(肯定)になり、ガタ詰め制御が開始された時間である。すなわち、時間t1では電動車両10が惰性走行乃至は減速走行中で、HEV走行モードでは、エンジン12がアイドル状態(アイドルON)でエンジンブレーキが作用しており、BEV走行モードでは、エンジンブレーキに相当する回生ブレーキが得られるようにモータジェネレータMGが回生制御されている。
【0039】
図2のS3では、走行モードを判断するためにK0クラッチ20が係合状態か否か、すなわちエンジン12を動力伝達経路に接続する接続状態のHEV走行モードか、エンジン12を動力伝達経路から遮断する遮断状態のBEV走行モードか、を判断する。K0クラッチ20が係合状態か否かは、例えばK0クラッチ20の両側の回転速度であるエンジン回転速度Ne とMG回転速度Nmgとが一致するか否かによって判断できる。また、K0クラッチ20の係合油圧であるK0油圧PRk0を検出したり、K0油圧PRk0を制御するK0油圧制御指令信号Sk0の有無、などに基づいて判断することも可能で、複数種類の判断結果を用いて最終判断を行なうようにしても良い。
【0040】
そして、K0クラッチ20が係合状態の場合、すなわちHEV走行モードの時には、S4でHEV用の制限トルクパターンを選択してS6のガタ詰め処理を実行する一方、K0クラッチ20が係合状態でない場合、すなわちK0クラッチ20が開放状態のBEV走行モードの時には、S5でBEV用の制限トルクパターンを選択してS6のガタ詰め処理を実行する。図3の入力トルクの欄に実線で示した目標入力トルクTinhev は、HEV用の制限トルクパターンに従って入力トルクTinを制限した場合で、HEV走行モード時の入力トルクTinの制限値に相当する。図3の入力トルクの欄に破線で示した目標入力トルクTinbev は、BEV用の制限トルクパターンに従って入力トルクTinを制限した場合で、BEV走行モード時の入力トルクTinの制限値に相当する。これ等の制限トルクの基本パターンは同じで、何れの目標入力トルクTinhev 、Tinbev も、差回転ΔNが負であるガタ詰めの初期段階で第1制限値thev1 、tbev1 まで上昇させた後、差回転ΔNが負から正に変化する直前部分で第2制限値thev2 、tbev2 まで低下させ、その後比較的小さな第1変化率Φhev1、Φbev1で漸増させることにより滑らかにガタ詰めを行い、ガタ詰めが完了したら比較的大きな第2変化率Φhev2、Φbev2で要求入力トルクTindem まで上昇させるように変化させられる。
【0041】
ここで、エンジン12が切り離されるBEV走行モードでは、HEV走行モードに比較してエンジン12の分だけイナーシャが小さいため、MG回転速度Nmgが変化し易く、差回転ΔNの変化が大きくなり易い。本実施例では、イナーシャの相違に拘らず、差回転ΔNが図3に示す同じ変化パターンで滑らかに変化するように、BEV走行モード時の目標入力トルクTinbev がHEV走行モード時の目標入力トルクTinhev よりも低くなるように、それ等の制限トルクパターンが定められている。具体的には、第1制限値はthev1 >tbev1 で、第2制限値はthev2 >tbev2 で、第1変化率はΦhev1>Φbev1で、第2変化率はΦhev2>Φbev2である。
【0042】
上記制限トルクパターンについて具体的に説明すると、第1制限値thev1 、tbev1 は、ガタ打ちショックの発生を抑制しつつ駆動力応答性を確保するために差回転ΔNを速やかに収束させるためのもので、予め一定値が定められても良いが、例えば差回転ΔNの絶対値ΔNabをパラメータとして、絶対値ΔNabが小さい程低いトルク値となるように可変設定されても良い。第1制限値はthev1 >tbev1 の関係を有する。第2制限値thev2 、tbev2 は、ガタ打ちショックが抑制されるように例えば10Nm程度以下のトルクが定められ、目標入力トルクTinhev 、Tinbev は、図3に示されるように差回転ΔNが0になる直前の時間t2で第2制限値thev2 、tbev2 まで低下させられる。この第2制限値thev2 、tbev2 は、thev2 >tbev2 の関係を満たすように予め一定値が定められる。図3では、第1制限値thev1 、tbev1 まで上昇した後に直ちに低下しているが、差回転ΔN或いは経過時間等に基づいて定められる所定のタイミングまで第1制限値thev1 、tbev1 に保持しても良い。
【0043】
第1変化率Φhev1、Φbev1は、各部の個体差に拘らず入力トルクTinの漸増過程で自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30のガタ詰めが確実に行なわれるように、Φhev1>Φbev1の関係を満たすように予め一定値が定められるが、差回転ΔNの変化率等に基づいて制御の途中で第1変化率Φhev1、Φbev1を変更することもできる。このように目標入力トルクTinhev 、Tinbev が所定の第1変化率Φhev1、Φbev1で漸増させられることにより、ガタ詰めに必要な最小限の入力トルクTinで自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30を滑らかにガタ詰めできるとともに、各部の回転抵抗等の個体差に拘らず入力トルクTinの漸増過程で自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30が確実にガタ詰めされるようになる。
【0044】
その後、自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30のガタ詰めが完了したか否かを判断し、ガタ詰め完了判断が為されたら(図3の時間t3)、目標入力トルクTinhev 、Tinbev を第1変化率Φhev1、Φbev1よりも大きい予め定められた第2変化率Φhev2、Φbev2で要求入力トルクTindem まで上昇させる。この第2変化率Φhev2、Φbev2も、Φhev2>Φbev2の関係を満たすように予め一定値が定められる。ガタ詰め完了判断は、例えば目標入力トルクTinhev 、Tinbev を第1変化率Φhev1、Φbev1で漸増させる漸増開始時間、すなわち前記時間t2を基準として、予め定められたガタ詰め完了判定時間に達したか否かによって行なうことができる。ガタ詰め完了判定時間も、例えば目標入力トルクTinhev 、Tinbev 毎に別々に設定されるが、共通の一定時間が定められても良い。ガタ詰め完了判定時間は、例えば自動変速機24のギヤ段毎に定められる。時間t2からの経過時間の代わりに、差回転ΔNに基づいてガタ詰め完了判断を行なうことも可能である。
【0045】
S6のガタ詰め処理は、K0クラッチ20が開放状態のBEV走行モードの時には、モータジェネレータMGのMGトルクTmgを目標入力トルクTinbev に従って制御することにより、目標入力トルクTinbev に対して実際の入力トルクTinを高い精度で制御してガタ詰めを行なうことができる。K0クラッチ20が係合状態のHEV走行モードの時には、例えばエンジン12とモータジェネレータMGとを協調制御することが望ましい。例えば前記第1制限値thev1 よりも低く且つ前記第2制限値thev2 よりも高い所定のエンジントルクTe でエンジン12を作動させるとともに、第1制限値thev1 に対する不足分をモータジェネレータMGの力行制御(電動機として作動させる制御)で補完して入力トルクTinを第1制限値thev1 とする一方、第2制限値thev2 に対する超過分をモータジェネレータMGの回生制御(発電機として作動させる制御)で相殺して入力トルクTinを第2制限値thev2 とすることにより、入力トルクTinを目標入力トルクTinhev に従って高い精度で制御することができる。入力トルクTinを所定の変化率Φhev1、Φhev2で変化させる場合も、モータジェネレータMGの力行制御や回生制御で入力トルクTinを目標入力トルクTinhev に従って高い精度で制御することができる。
【0046】
このように、本実施例の電動車両10のガタ詰め制御部96においては、エンジン断接装置であるK0クラッチ20が開放状態か係合状態かを判定し、開放状態の場合すなわちエンジン12が動力伝達装置16から切り離され、駆動力源側のイナーシャが比較的小さいBEV走行モードによる走行時には、差回転ΔNが負から正に変化するガタ詰め領域(図3の時間t2~t3の領域)で目標入力トルクTinbev を漸増させる際に、K0クラッチ20が係合状態のHEV走行モードによる走行時よりも小さな変化率(Φhev1>Φbev1)で目標入力トルクTinbev を漸増させてガタ詰めする。これにより、図3に示されるようにイナーシャの相違に拘らず差回転ΔNが負から正へ略同じ変化パターンで変化させられるようになり、何れの走行モードにおいても適切にガタ詰めしてガタ打ちショックを抑制することができる。
【0047】
また、K0クラッチ20が開放状態か係合状態かを判定する断接判定部96aを備えているため、エンジン12が動力伝達装置16に接続されているか否か、すなわちイナーシャの相違を正確に判定でき、走行モードに応じてガタ詰め制御を常に適切に行なうことができる。
【0048】
また、ガタ詰め領域の前後においても、イナーシャの相違に拘らず差回転ΔNが図3に示す同じ変化パターンで滑らかに変化するように、BEV走行モード時の制限トルクパターンがHEV走行モード時の制限トルクパターンよりも全体的に低トルクとされているため、イナーシャが小さいBEV走行モード時における差回転ΔNの急な増減変化が適切に抑制され、差回転ΔNの増減変化に伴うトルクコンバータ22の伝達トルク変化が抑制されて、何れの走行モードにおいてもガタ打ちショックが適切に抑制される。
【0049】
因みに、図5は、HEV走行モードかBEV走行モードかに拘らず、上記HEV走行モード時の制限トルクパターンである目標入力トルクTinhev を共通の目標入力トルクTint としてガタ詰め制御を行なった場合で、図3に対応するタイムチャートの一例である。この場合、HEV走行モードでは、差回転ΔNの欄、およびDSトルクTdsの欄に実線で示すように、本実施例と同様に差回転ΔNが滑らかに変化し、DSトルクTdsの急な変動が抑制されてガタ打ちショックを適切に抑制できる。しかし、BEV走行モードでは、差回転ΔNの欄、およびDSトルクTdsの欄に破線で示すように、イナーシャが小さいことから差回転ΔNの増減変化量が大きくなり、DSトルクTdsの変動が大きくなってガタ打ちショックが発生する可能性がある。なお、図5の時間t1~t3は、それぞれ図3の時間t1~t3に対応する。
【0050】
次に、図4を参照して本発明の他の実施例を説明する。図4は、図2のS4、S5で設定される制限トルクパターンの別の例を説明する図で、図3に対応するタイムチャートの一例である。この実施例は、イナーシャが小さいBEV走行モードでは、入力トルクTinの変化に対する差回転ΔNの変化の応答性が速いため、ガタ詰め制御の進行を速くして、アクセル操作量θacc に応じた駆動力が得られるようになるまでの駆動力応答性を高くした場合である。すなわち、目標とする差回転ΔNの変化パターンをHEV走行モードとBEV走行モードとで相違させ、BEV走行モードではHEV走行モードよりも差回転ΔNが速やかに略0に収束するように、前記実施例とは逆に第1制限値tbev1 をHEV走行モード時の第1制限値thev1 よりも高くするとともに、差回転ΔNが正側までオーバーシュートしないように、HEV走行モード時の目標入力トルクTinhev よりも短時間で第2制限値tbev2 まで低下させる。図4の時間t2は、BEV走行モード時の目標入力トルクTinbev が第2制限値tbev2 まで低下させられた時間で、時間t3は、HEV走行モード時の目標入力トルクTinhev が第2制限値thev2 まで低下させられた時間であり、ガタ詰め制御が開始された時間t1からの経過時間や差回転ΔNの変化等に基づいて、差回転ΔNが負から正に変化する直前に目標入力トルクTinbev 、Tinhev が第2制限値tbev2 、thev2 まで低下させられる。
【0051】
上記第2制限値tbev2 についても、イナーシャが小さいBEV走行モードでは、目標入力トルクTinbev の低下により入力回転速度であるMG回転速度Nmgが低下して差回転ΔNが負側へ増加することを抑制するため、HEV走行モードの第2制限値thev2 よりも高い値に設定されている。その後のガタ詰め領域における第1変化率Φbev1、Φhev1は、イナーシャの相違に拘らず差回転ΔNが負から正へ略同じ変化パターンで変化させられるように、前記実施例と同様にΦbev1<Φhev1の関係を満たすように定められている。これにより、ガタ詰めに必要な最小限の入力トルクTinで自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30を滑らかにガタ詰めできるとともに、各部の回転抵抗等の個体差に拘らず入力トルクTinの漸増過程で自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30が確実にガタ詰めされる。
【0052】
その後、自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30のガタ詰めが完了したか否かを前記実施例と同様にして判断し、ガタ詰め完了判断が為されたら(図4の時間t4、t5)、目標入力トルクTinbev 、Tinhev を第1変化率Φbev1、Φhev1よりも大きい予め定められた第2変化率Φbev2、Φhev2で要求入力トルクTindem まで上昇させる。本実施例では、この第2変化率Φbev2、Φhev2に関しても、イナーシャが小さいBEV走行モードでは入力トルクTinが速やかに要求入力トルクTindem まで増大させられるように、Φbev2>Φhev2の関係を満たすように予め一定値が定められる。これにより、図4のDSトルクTdsの欄に矢印Aで示すように、BEV走行モードにおけるDSトルクTdsの立ち上がりがHEV走行モードよりも早くなり、高い駆動力応答性が得られる。この実施例では、時間t2~t4がBEV走行モード時のガタ詰め領域で、時間t3~t5がHEV走行モード時のガタ詰め領域である。
【0053】
本実施例においても、K0クラッチ20が開放状態のBEV走行モード時に差回転ΔNが負から正に変化するガタ詰め領域で目標入力トルクTinbev を漸増させる際の第1変化率Φbev1が、K0クラッチ20が係合状態のHEV走行モード時の第1変化率Φhev1よりも小さいため、イナーシャの相違に拘らず差回転ΔNが負から正へ略同じ変化パターンで変化させられるようになり、何れの走行モードにおいても適切にガタ詰めしてガタ打ちショックを抑制することができる。
【0054】
また、イナーシャが小さいBEV走行モードではHEV走行モードよりも差回転ΔNが速やかに略0に収束するように、前記実施例とは逆に第1制限値tbev1 をHEV走行モード時の第1制限値thev1 よりも高くするとともに、差回転ΔNが正側までオーバーシュートしないように、HEV走行モード時の目標入力トルクTinhev よりも短時間で第2制限値tbev2 へ低下させているため、ガタ詰め後のDSトルクTdsの立ち上がりがHEV走行モード時よりも早くなり、高い駆動力応答性が得られる。この実施例では、ガタ詰め後に入力トルクTinを要求入力トルクTindem まで増大させる第2変化率Φbev2、Φhev2についても、イナーシャが小さいBEV走行モード時の第2変化率Φbev2がHEV走行モード時の第2変化率Φhev2よりも大きくされているため、一層高い駆動力応答性が得られる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
例えば、前述の実施例では駆動力源としてエンジン12および単一のモータジェネレータMGを備えた電動車両10について説明したが、2つ以上のモータジェネレータMGを備えたハイブリッド式電動車両にも本発明は適用され得る。
【0057】
また、前述の実施例では、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に、駆動力源(エンジン12、モータジェネレータMG)の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する自動変速機24として、遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機や、公知のベルト式無段変速機などであっても良く、少なくとも動力伝達経路にディファレンシャルギヤ30等のギヤ機構を備えていれば良い。
【0058】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:ハイブリッド式電動車両 12:エンジン 14:駆動輪 16:動力伝達装置(動力伝達経路) 20:K0クラッチ(エンジン断接装置) 22:トルクコンバータ 24:自動変速機(ギヤ機構) 30:ディファレンシャルギヤ(ギヤ機構) 90:電子制御装置(制御装置) 92:ハイブリッド制御部 96:ガタ詰め制御部 96a:断接判定部 MG:モータジェネレータ(電動機) ΔN:差回転 Nmg:MG回転速度(入力回転速度) Nt :タービン回転速度(出力回転速度) Tinhev 、Tinbev :目標入力トルク(入力トルクの制限値) Φhev1、Φbev1:第1変化率
図1
図2
図3
図4
図5