(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】シール構造およびタンク
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20240910BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240910BHJP
F17C 13/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F16J15/10 T
F16J12/00 D
F17C13/04 301Z
(21)【出願番号】P 2021163980
(22)【出願日】2021-10-05
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 学
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-241148(JP,A)
【文献】再公表特許第2010/128606(JP,A1)
【文献】特開2003-083451(JP,A)
【文献】特開2015-086973(JP,A)
【文献】特開2018-080742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F16J 12/00
F17C 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール構造であって、
筒部材と、
前記筒部材に嵌め合わされた軸部材と、
前記筒部材と前記軸部材とのうちの一方の部材の中心軸を中心にして前記一方の部材に環状に設けられた溝部に装着され、前記筒部材と前記軸部材とのうちの他方の部材と前記一方の部材との隙間を埋める環状のシール部材と、
を備え、
前記シール部材の周方向に垂直な前記シール部材の断面は、前記溝部に前記シール部材が装着されていない非装着状態において円弧状をなす円弧部と、前記非装着状態において直線状をなす第1直線部と、を有し、
前記第1直線部は、前記溝部に前記シール部材が装着されている装着状態において前記溝部の底面に接触し、
前記円弧部は、前記装着状態において前記他方の部材に接触
し、
前記他方の部材のうちの前記一方の部材に対向する面の算術平均表面粗度は、前記一方の部材のうちの前記他方の部材に対向する面の算術平均表面粗度よりも低い、
シール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシール構造であって、
前記断面の前記シール部材の軸方向に沿った長さは、前記非装着状態において、前記断面の前記シール部材の径方向に沿った長さよりも長い、シール構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシール構造であって、
前記非装着状態における前記断面の形状は、前記第1直線部と前記円弧部とによって構成される半円形である、シール構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のシール構造であって、
前記断面は、前記非装着状態において直線状をなす第2直線部を有し、
前記第2直線部は、前記装着状態において前記溝部の側壁に接触する、シール構造。
【請求項5】
請求項4に記載のシール構造であって、
前記非装着状態における前記断面の形状は、前記第1直線部と前記第2直線部と前記円弧部とによって構成される扇形である、シール構造。
【請求項6】
タンクであって、
筒状の口金を有するタンク本体部と、
前記口金に嵌め合わされた軸状のシャフトを有し、前記タンク本体部に固定されたバルブと、
前記口金と前記シャフトとのうちの一方の部材の中心軸を中心にして前記一方の部材に環状に設けられた溝部に装着され、前記口金と前記シャフトとのうちの他方の部材と前記一方の部材との隙間を埋める環状のシール部材と、
を備え、
前記シール部材の周方向に垂直な前記シール部材の断面は、前記溝部に前記シール部材が装着されていない非装着状態において円弧状をなす円弧部と、前記非装着状態において直線状をなす直線部と、を有し、
前記直線部は、前記溝部に前記シール部材が装着されている装着状態において前記溝部の底面に接触し、
前記円弧部は、前記装着状態において前記他方の部材に接触
し、
前記他方の部材のうちの前記一方の部材に対向する面の算術平均表面粗度は、前記一方の部材のうちの前記他方の部材に対向する面の算術平均表面粗度よりも低い、
タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール構造およびタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筒状の口金にバルブが固定されたガスタンクが開示されている。このガスタンクでは、バルブの軸状部分が口金に挿入されている状態で、口金にバルブが固定されている。口金とバルブの軸状部分との間には、ガスタンクのシール性を確保するための環状のシール部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したガスタンクの構造のように、筒部材と軸部材との間に環状のシール部材が設けられた構造では、筒部材に軸部材を挿入するときにシール部材が捩れることがある。ここでいうシール部材が捩れるとは、シール部材が全周一律に裏返るのではなく、シール部材が周方向において部分的に裏返ることを意味する(
図6参照)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、シール構造が提供される。このシール構造は、筒部材と、前記筒部材に嵌め合わされた軸部材と、前記筒部材と前記軸部材とのうちの一方の部材の中心軸を中心にして前記一方の部材に環状に設けられた溝部に装着され、前記筒部材と前記軸部材とのうちの他方の部材と前記一方の部材との隙間を埋める環状のシール部材と、を備える。前記シール部材の周方向に垂直な前記シール部材の断面は、前記溝部に前記シール部材が装着されていない非装着状態において円弧状をなす円弧部と、前記非装着状態において直線状をなす第1直線部と、を有し、前記第1直線部は、前記溝部に前記シール部材が装着されている装着状態において前記溝部の底面に接触し、前記円弧部は、前記装着状態において前記他方の部材に接触する。
この形態のシール構造によれば、溝部にシール部材が装着されている状態において、第1直線部が底面に接触するので、シール部材の姿勢を安定させることができる。そのため、溝部にシール部材が装着されて筒部材に軸部材が嵌め合わされるときに、シール部材が捩れることを抑制できる。
(2)上記形態のシール構造において、前記断面の前記シール部材の軸方向に沿った長さは、前記非装着状態において、前記断面の前記シール部材の径方向に沿った長さよりも長くてもよい。
この形態のシール構造によれば、シール部材の姿勢を安定させることができる。
(3)上記形態のシール構造において、前記非装着状態における前記断面の形状は、前記第1直線部と前記円弧部とによって構成される半円形であってもよい。
この形態のシール構造によれば、シール部材の断面の形状がシンプルであるため、シール部材を容易に製造することができる。
(4)上記形態のシール構造において、前記断面は、前記非装着状態において直線状をなす第2直線部を有し、前記第2直線部は、前記装着状態において前記溝部の側壁に接触してもよい。
この形態のシール構造によれば、第1直線部が底面に接触し、かつ、第2直線部が側壁に接触するので、シール部材の姿勢を効果的に安定させることができる。
(5)上記形態のシール構造において、前記非装着状態における前記断面の形状は、前記第1直線部と前記第2直線部と前記円弧部とによって構成される扇形であってもよい。
この形態のシール構造によれば、シール部材の断面の形状がシンプルであるため、シール部材を容易に製造することができる。
(6)上記形態のシール構造において、前記他方の部材のうちの前記一方の部材に対向する面の算術平均表面粗度は、前記一方の部材のうちの前記他方の部材に対向する面の算術平均表面粗度よりも低くてもよい。
この形態のシール構造によれば、上記他方の部材のうちの上記一方の部材に対向する面の算術平均表面粗度が上記一方の部材のうちの上記他方の部材に対向する面の算術平均表面粗度以上である形態に比べて、筒部材に軸部材が嵌め合わされるときに上記他方の部材からシール部材に加えられる摩擦力を小さくできる。そのため、上記他方の部材から加えられる摩擦力によってシール部材が捩れることを抑制できる。
【0007】
(7)本開示の第2の形態によれば、タンクが提供される。このタンクは、筒状の口金を有するタンク本体部と、前記口金に嵌め合わされた軸状のシャフトを有し、前記タンク本体部に固定されたバルブと、前記口金と前記シャフトとのうちの一方の部材の中心軸を中心にして前記一方の部材に環状に設けられた溝部に装着され、前記口金と前記シャフトとのうちの他方の部材と前記一方の部材との隙間を埋める環状のシール部材と、を備える。前記シール部材の周方向に垂直な前記シール部材の断面は、前記溝部に前記シール部材が装着されていない非装着状態において円弧状をなす円弧部と、前記非装着状態において直線状をなす直線部と、を有し、前記直線部は、前記溝部に前記シール部材が装着されている装着状態において前記溝部の底面に接触し、前記円弧部は、前記装着状態において前記他方の部材に接触する。
この形態のタンクによれば、溝部にシール部材が装着されている状態において、直線部が底面に接触するので、シール部材の姿勢を安定させることができる。そのため、溝部にシール部材が装着されて口金にシャフトが嵌め合わされるときに、シール部材が捩れることを抑制できる。
本開示は、シール構造やタンク以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、シール部材や流路構造体などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】第1実施形態のシール構造の構成を示す第1の断面図。
【
図3】第1実施形態のシール構造の構成を示す第2の断面図。
【
図4】第2実施形態のシール構造の構成を示す第1の断面図。
【
図5】第2実施形態のシール構造の構成を示す第2の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態におけるシール構造100を備えるタンク10の概略構成を示す断面図である。本実施形態では、タンク10は、タンク本体部20と、タンク本体部20に固定されたバルブ30とを備えている。タンク10は、タンク本体部20とバルブ30との隙間のシール性を確保するためのシール構造100を有している。シール構造100の構成については後述する。
【0010】
タンク本体部20は、例えば、水素ガスなどの気体を貯蔵する容器として構成されている。タンク本体部20は、中心軸CL1を有している。なお、他の実施形態では、タンク本体部20は、気体ではなく、液体を貯蔵する容器として構成されてもよい。
【0011】
タンク本体部20は、ライナ21と、口金25と、補強層28とを備えている。ライナ21は、中心軸CL1を中心とする円筒状に構成されている。ライナ21は、上述した気体を貯蔵するための内部空間SPを有している。ライナ21の端部には、内部空間SPに連通する開口部が設けられている。ライナ21は、例えば、ナイロン樹脂などの樹脂材料で形成されている。
【0012】
口金25は、ライナ21の開口部に固定されている。口金25は、中心軸CL1を中心とする円筒状に構成されている。口金25の内壁面には、雌ネジが形成された雌ネジ部26が設けられている。口金25は、例えば、アルミニウム合金などの金属材料で形成されており、インサート成形によって樹脂製のライナ21と一体化されている。
【0013】
補強層28は、ライナ21の外表面を覆うように設けられており、ライナ21を補強している。補強層28は、例えば、炭素繊維強化プラスチックで形成されている。なお、補強層28は、炭素繊維強化プラスチックの層とガラス繊維強化プラスチックの層との二層で構成されてもよい。この場合、炭素繊維強化プラスチックの層の外側にガラス繊維強化プラスチックの層が設けられることが好ましい。他の実施形態では、タンク本体部20に補強層28が設けられていなくてもよい。
【0014】
バルブ30は、口金25に固定されている。バルブ30は、バルブ本体部31と、シャフト35とを備えている。本実施形態では、バルブ本体部31は、箱状の外形形状を有している。バルブ本体部31には、例えば、弁箱や、弁体や、弁座や、弁体を駆動させるための駆動部などが設けられている。バルブ本体部31には、弁箱に連通する図示されていないポートが設けられている。ポートには、例えば、配管が接続される。
【0015】
シャフト35は、バルブ本体部31から突き出すように設けられている。シャフト35は、中心軸CL2を有しており、中心軸CL2を中心とする円柱状に構成されている。シャフト35は、口金25に嵌め合されている。シャフト35の外壁面には、雄ネジが形成された雄ネジ部36が設けられている。シャフト35の雄ネジ部36と口金25の雌ネジ部26とを用いたネジ締結によって、バルブ30が口金25に固定されている。バルブ30が口金25に適切に固定されている状態では、シャフト35の中心軸CL2とタンク本体部20の中心軸CL1とが一直線上に配置される。シャフト35は、例えば、アルミニウム合金などの金属材料で形成されている。
【0016】
シャフト35には、バルブ本体部31の弁箱とタンク本体部20の内部空間SPとを連通させる図示されていない内部流路が設けられている。バルブ本体部31が開弁されると、内部空間SPに貯蔵された気体のポートへの供給が開始される。バルブ本体部31が閉弁されると、内部空間SPに貯蔵された気体のポートへの供給が停止される。
【0017】
図2は、本実施形態におけるシール構造100を示す第1の断面図である。
図3は、本実施形態におけるシール構造100を示す第2の断面図である。
図2には、
図1において二点鎖線で囲まれたA部が拡大された状態で表されている。
図3には、シャフト35が口金25に挿入される様子が表されている。
【0018】
図2に示すように、本実施形態では、シール構造100は、口金25と、シャフト35と、シールリング40と、バックアップリング50とによって構成されている。なお、口金25のことを筒部材と呼ぶことがあり、シャフト35のことを軸部材と呼ぶことがあり、シールリング40のことをシール部材と呼ぶことがあり、バックアップリング50のことを支持部材と呼ぶことがある。
【0019】
図2および
図3に示すように、口金25の内壁面は、小径部121と、テーパ部122と、大径部123とを有している。タンク本体部20からバルブ30に向かう方向に沿って、小径部121と、テーパ部122と、大径部123とがこの順に配置されている。小径部121の内径は、大径部123の内径よりも小さい。テーパ部122は、小径部121と大径部123とを接続しており、テーパ部122の内径は、小径部121から大径部123に向かうほど大きくなっている。大径部123には、上述した雌ネジ部26が設けられている。本実施形態では、雌ネジ部26以外の口金25の内壁面には、研磨加工が施されており、雌ネジ部26以外の口金25の内壁面の算術平均表面粗度は、シャフト35の外壁面の算術平均表面粗度よりも小さい。
【0020】
図2に示すように、シャフト35の外壁面には、シャフト35の先端部と雄ネジ部36との間に、溝部130が設けられている。溝部130は、シャフト35の中心軸CL2を中心として、シャフト35の外壁面を1周するように環状に設けられている。溝部130は、底面131と、第1側壁132と、第2側壁133とを有している。底面131は、シャフト35の径方向に垂直な面であり、第1側壁132および第2側壁133は、シャフト35の径方向に交差する面である。シャフト35の先端部からバルブ本体部31に向かう方向に沿って、第1側壁132と、第2側壁133とがこの順に配置されている。第1側壁132および第2側壁133は、互いに向かい合って配置されている。
【0021】
シールリング40およびバックアップリング50は、溝部130に装着されている。シャフト35の先端部からバルブ本体部31に向かう方向に沿って、シールリング40と、バックアップリング50とがこの順に配置されている。
【0022】
シールリング40は、環状に構成されている。シールリング40は、伸縮性を有している。溝部130にシールリング40が装着されている状態において、シールリング40の内周部分は、溝部130の底面131に接触しており、シールリング40の外周部分は、溝部130から突き出している。以下の説明では、溝部130にシールリング40が装着されている状態のことを装着状態と呼び、溝部130にシールリング40が装着されていない状態のことを非装着状態と呼ぶ。溝部130に装着されたシールリング40は、溝部130の底面131と口金25の小径部121とによって押し潰されて、シャフト35と口金25との隙間を埋める。シールリング40は、例えば、ニトリルゴムやシリコーンゴムやフッ素ゴムなどのエラストマで形成されている。シールリング40は、例えば、射出成形によって製造できる。
【0023】
本実施形態では、
図3に示すようにシールリング40が押し潰されていない状態や、非装着状態では、シールリング40の断面の形状は、半円形である。シールリング40の断面とは、特に説明しない限り、シールリング40の周方向に垂直な平面で切断したときのシールリング40の断面のことを意味する。シールリング40の断面の輪郭は、非装着状態において直線状をなす直線部141と、非装着状態において円弧状をなす円弧部145とによって構成されている。直線部141の一端は、円弧部145の一端に接続されており、直線部141の他端は、円弧部145の他端に接続されている。
図2に示すように、口金25にバルブ30が固定されている状態では、直線部141が底面131に接触し、かつ、円弧部145が小径部121に接触することによって、シールリング40は、シャフト35と口金25との隙間を埋める。なお、一般に、円形の断面形状を有するシールリングのことをOリングと呼ぶが、本実施形態のシールリング40のように、円形以外の断面形状を有するシールリングのことをOリングと呼んでもよい。
【0024】
図3に示すように、本実施形態では、シールリング40の断面のシールリング40の軸方向に沿った長さは、非装着状態において、シールリング40の断面のシールリング40の径方向に沿った長さよりも長い。より具体的には、本実施形態では、直線部141は、半円形の直径部分であるため、シールリング40の断面のシールリング40の軸方向に沿った長さは、非装着状態において、シールリング40の断面のシールリング40の径方向に沿った長さの2倍である。シールリング40の姿勢を安定させるためには、シールリング40の断面のシールリング40の軸方向に沿った長さは、非装着状態において、シールリング40の断面のシールリング40の径方向に沿った長さの1.5倍以上であることが好ましい。
【0025】
図2に示すように、バックアップリング50は、環状に構成されている。溝部130にバックアップリング50が装着されている状態において、バックアップリング50の内周部分は、溝部130に接触しており、バックアップリング50の外周部分は、溝部130から突き出している。口金25にバルブ30が固定されている状態では、バックアップリング50の外周部分は、口金25の小径部121に接触する。バックアップリング50の外周部分と小径部121との間には、わずかに隙間が空いていてもよい。バックアップリング50は、タンク本体部20に貯蔵された気体に押されるシールリング40を支持する。タンク本体部20に貯蔵された気体にシールリング40が押されるとき、シールリング40は、バックアップリング50を介して、溝部130の第2側壁133に接触する。バックアップリング50は、例えば、ナイロン樹脂などの樹脂材料で形成されている。バックアップリング50は、金属材料で形成されてもよい。
【0026】
図2および
図3を用いて、タンク本体部20にバルブ30が固定される様子について説明する。
図3に示すように、タンク本体部20とバルブ30との固定に先立って、シールリング40およびバックアップリング50がシャフト35の溝部130に装着される。溝部130に装着されたシールリング40は、溝部130に押し広げられてシールリング40の周方向に伸びるので、シールリング40の直線部141は、溝部130の底面131に密着する。シールリング40およびバックアップリング50が溝部130に装着されたシャフト35は、口金25に挿入される。口金25に挿入されたシャフト35が口金25に対して回転されることによって、雄ネジ部36と雌ネジ部26とが噛み合って、タンク本体部20にバルブ30が固定される。
【0027】
口金25にシャフト35が挿入されるとき、シールリング40の円弧部145と口金25の小径部121との摩擦によって、シールリング40に回転力Mが加えられる。シールリング40の全周に回転力Mが加えられるのではなく、シールリング40の周方向において部分的に回転力Mが加えられる場合、あるいは、シールリング40の全周に回転力Mが加えられるもののシールリング40の周方向において回転力Mの大きさに偏りがある場合、シールリング40は捩れようとする。しかしながら、本実施形態では、シールリング40の直線部141が底面131に接触しているので、直線部141のうちのシールリング40の断面の重心に対して第2側壁133側の部分が底面131から受ける反力R1によって、回転力Mによるシールリング40の捩れが抑制される。本実施形態では、口金25へのシャフト35の挿入に先立って、円弧部145には、例えば、シリコーングリスなどの潤滑剤が塗布される。
【0028】
口金25にシャフト35が挿入されるときにシールリング40が捩れると、シャフト35に加えられるタンク本体部20の径方向に沿った力のバランスが崩れて、シャフト35の中心軸CL2が口金25の中心軸CL1からずれる。この場合、シャフト35が小径部121に押し付けられて、小径部121に引掻き傷が形成されることがある。雄ネジ部36と雌ネジ部26とによるネジ締結のためにシャフト35が回転するので、引掻き傷は、螺旋状に小径部121に形成される。小径部121に引掻き傷が形成されると、例えば、メンテナンス時に、タンク本体部20からバルブ30が一旦取り外された後、タンク本体部20にバルブ30が再び取り付けられるときに、小径部121のうちの引掻き傷が形成された部分にシールリング40が接触することでシールリング40が傷付いて、シール構造100のシール性が低下する可能性がある。
【0029】
これに対して、以上で説明した本実施形態におけるシール構造100によれば、溝部130にシールリング40が装着されている装着状態では、シールリング40の直線部141が溝部130の底面131に接触するので、装着状態におけるシールリング40の姿勢を安定させることができる。そのため、口金25にシャフト35を挿入するときに、シールリング40が捩れることを抑制できる。そのため、シールリング40が捩れることによってシール構造100のシール性が低下することを抑制できる。さらに、本実施形態では、シールリング40の断面の形状は、半円形であり、タンク本体部20にバルブ30が固定されている状態では、シールリング40の円弧部145の頂部が口金25の小径部121に接触する。タンク本体部20にバルブ30が固定されている状態において、シールリング40と小径部121との接触面積が小さいほど、つまり、シールリング40と小径部121との接触面の面圧が高いほど、シール構造100のシール性を高めることができる。例えば、円形あるいは長円形の断面形状を有するシールリングでは、装着状態におけるシールリングの姿勢を安定させることと、シールリングと小径部121との接触面の面圧を高めることとを両立させることが困難である。これに対して、本実施形態では、装着状態におけるシールリング40の姿勢を安定させることと、シールリング40と小径部121との接触面の面圧を高めることとを両立できる。
【0030】
また、本実施形態では、シールリング40の断面のシールリング40の軸方向に沿った長さがシールリング40の断面のシールリング40の径方向に沿った長さよりも長いので、装着状態におけるシールリング40の姿勢を安定させやすくできる。
【0031】
また、本実施形態では、シールリング40の断面の形状がシンプルな半円形であるため、シールリング40を容易に製造することができる。
【0032】
また、本実施形態では、口金25の小径部121の内壁面には、小径部121の内壁面の算術平均表面粗度がシャフト35の外壁面の算術平均表面粗度よりも小さくなるように研磨加工が施されている。そのため、小径部121の内壁面に研磨加工が施されていない形態に比べて、口金25にシャフト35を挿入するときにシールリング40の円弧部145が小径部121から受ける摩擦力を低減できる。そのため、口金25にシャフト35を挿入するときに、シールリング40が捩れることを効果的に抑制できる。特に、本実施形態では、口金25にシャフト35を挿入することに先立って、円弧部145に潤滑剤が塗布されるので、円弧部145が小径部121から受ける摩擦力をさらに低減できる。
【0033】
また、本実施形態では、シールリング40と溝部130の第2側壁133との間には、バックアップリング50が設けられている。そのため、タンク本体部20に貯蔵された気体からの圧力によって、口金25とシャフト35との隙間にシールリング40がはみ出すことを抑制できる。
【0034】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態におけるシール構造100bの構成を示す第1の断面図である。
図5は、第2実施形態におけるシール構造100bの構成を示す第2の断面図である。
図5に示すように、第2実施形態におけるシール構造100bでは、シールリング40bが押し潰されていない状態や非装着状態におけるシールリング40bの断面の形状が第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0035】
図5に示すように、本実施形態では、シールリング40bが押し潰されていない状態や非装着状態では、シールリング40bの断面の形状は、90度の中心角を有する扇形である。シールリング40bの断面の輪郭は、非装着状態において直線状をなす第1直線部142と、非装着状態において直線状をなす第2直線部143と、非装着状態において円弧状をなす円弧部146とによって構成されている。第1直線部142の一端は、第2直線部143の一端に接続されており、第2直線部143の他端は、円弧部146の一端に接続されており、円弧部146の他端は、第1直線部142の他端に接続されている。本実施形態では、第1直線部142および第2直線部143は、90度の中心角を有する扇形の半径部分であるため、シールリング40bの断面のシールリング40bの軸方向に沿った長さは、非装着状態において、シールリング40bの断面のシールリング40bの径方向に沿った長さと同じである。装着状態では、第1直線部142は、溝部130の底面131に接触し、第2直線部143は、バックアップリング50を介して溝部130の第2側壁133に接触する。
図4に示すように、口金25にバルブ30が固定されている状態では、第1直線部142は、溝部130の底面131に接触し、第2直線部143は、バックアップリング50を介して溝部130の第2側壁133に接触し、円弧部146は、口金25の小径部121に接触する。
【0036】
以上で説明した本実施形態におけるシール構造100bによれば、
図5に示すように口金25にシャフト35を挿入することによってシールリング40bに回転力Mが加えられたときに、第1直線部142は、底面131からシールリング40bの回転を抑制する反力R1を受け、第2直線部143は、バックアップリング50からシールリング40bの回転を抑制する反力R2を受ける。そのため、口金25にシャフト35を挿入するときに、シールリング40bが捩れることを、第1実施形態よりも効果的に抑制できる。
【0037】
また、本実施形態では、シールリング40bの断面の形状がシンプルな扇形であるため、シールリング40bを容易に製造することができる。
【0038】
C.他の実施形態:
(C1)上述した各実施形態のシール構造100,100bでは、シールリング40,40bが装着される溝部130は、シャフト35の外壁面に設けられている。これに対して、シールリング40,40bが装着される溝部130は、口金25の内壁面に設けられてもよい。
【0039】
(C2)上述した第1実施形態のシール構造100では、非装着状態におけるシールリング40の断面の形状は、半円形である。これに対して、非装着状態におけるシールリング40の断面の形状は、半円形ではなく、半円形に類似する形状でもよい。半円形に類似する形状とは、1つの直線と1つの円弧とによって構成される形状である。円弧とは、円の弧の他に、楕円の弧をも含む意味である。例えば、非装着状態におけるシールリング40の断面の形状は、直径部分に平行な直線で二分割された半円のうちの半円の頂部を含む方の形状と同じでもよいし、円をその中心点を通らない直線で二分割することで得られる円の一部と同じでもよいし、楕円を長軸で二分割することで得られる楕円の一部の形状と同じでもよいし、楕円を短軸で二分割することで得られる楕円の一部の形状と同じでもよい。なお、半円形、および、半円形に類似する形状のことを、半円のような形状という意味で半円状と呼ぶことがある。
【0040】
(C3)上述した第2実施形態のシール構造100bでは、非装着状態におけるシールリング40bの断面の形状は、90度の中心角を有する扇形である。これに対して、非装着状態におけるシールリング40bの断面の形状は、90度の中心角を有する扇形ではなく、90度未満の中心角を有する扇形でもよいし、90度を超え、かつ、180度未満の中心角を有する扇形でもよい。非装着状態におけるシールリング40bの断面の形状は、扇形ではなく、扇形に類似する形状でもよい。扇形に類似する形状とは、2つの直線と1つの円弧とによって構成される形状である。円弧とは、円の弧の他に、楕円の弧をも含む意味である。例えば、非装着状態におけるシールリング40bの断面の形状は、楕円を長軸と短軸とによって四分割することで得られる楕円の一部の形状と同じでもよい。なお、扇形、および、扇形に類似する形状のことを、扇のような形状という意味で扇状と呼ぶことがある。
【0041】
(C4)上述した第1実施形態のシール構造100では、シールリング40の断面の輪郭は、1つの直線部141と1つの円弧部145とによって構成されており、第2実施形態のシール構造100bでは、シールリング40bの断面の輪郭は、2つの直線部142,直線部143と1つの円弧部146とによって構成されている。これに対して、シールリング40,40bの断面の輪郭は、3つの直線部と1つの円弧部によって構成されてもよい。この場合、シールリング40,40bの断面の形状は、例えば、正方形の一辺と半円形の直径部分とを接続することで得られる形状でもよいし、90度の中心角を有する扇形のうちの直線部と円弧部との接続部分が切り取られることで得られる形状でもよい。
【0042】
(C5)上述した各実施形態のシール構造100,100bでは、溝部130には、シールリング40,40bとともにバックアップリング50が装着されている。これに対して、溝部130にバックアップリング50が装着されなくてもよい。第2実施形態のシール構造100bにおいて、溝部130にバックアップリング50が装着されない場合、第2直線部143は、第2側壁133に接触することが好ましい。
【0043】
(C6)上述した第2実施形態のシール構造100bでは、第2直線部143が第2側壁133を向くように溝部130にシールリング40bが装着されている。これに対して、第2直線部143が第1側壁132に接触するように溝部130にシールリング40bが装着されてもよい。この場合でも、シールリング40bに回転力Mが加えられたときに、第2直線部143が第1側壁132から反力を受けることによって、シールリング40bが捩れることを抑制できる。
【0044】
(C7)上述した各実施形態のシール構造100,100bでは、口金25の小径部121の内壁面には、小径部121の内壁面の算術平均表面粗度がシャフト35の外壁面の算術平均表面粗度よりも小さくなるように研磨加工が施されている。これに対して、口金25の小径部121の内壁面に研磨加工が施されていなくてもよいし、小径部121の内壁面の算術平均表面粗度がシャフト35の外壁面の算術平均表面粗度以上でもよい。
【0045】
(C8)上述した各実施形態のシール構造100,100bは、タンク10の口金25とシャフト35との隙間をシールするように構成されている。これに対して、シール構造100,100bは、口金25以外の筒部材とシャフト35以外の軸部材との隙間をシールするように構成されてもよい。例えば、流路部材に設けられた筒状部分と、当該筒状部分に嵌め合される圧力計の軸状部分との隙間をシールするように構成されてもよい。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…タンク、20…タンク本体部、21…ライナ、25…口金、26…雌ネジ部、28…補強層、30…バルブ、31…バルブ本体部、35…シャフト、36…雄ネジ部、40…シールリング、50…バックアップリング、100…シール構造、121…小径部、122…テーパ部、123…大径部、130…溝部、131…底面、132…第1側壁、133…第2側壁、141…直線部、142…第1直線部、143…第2直線部、145…円弧部、146…円弧部