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特許7552548金属皮膜の成膜装置および金属皮膜の成膜方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜装置および金属皮膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/00 20060101AFI20240910BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20240910BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C25D21/00 B
C25D17/00 H
C25D5/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021168472
(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公開番号】P2023058770
(43)【公開日】2023-04-26
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072481(WO,A1)
【文献】特表2005-530926(JP,A)
【文献】米国特許第06398926(US,B1)
【文献】特開2000-313990(JP,A)
【文献】特開2008-208421(JP,A)
【文献】特開2019-065314(JP,A)
【文献】特許第5605517(JP,B2)
【文献】特開2020-132948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0181443(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00-21/22
C25D 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極と陰極となる基材との間に配置された固体電解質膜と、
前記陽極と前記基材との間に電流を通電する電源部と、
前記基材が載置される載置台と、
前記陽極とともに電解液を収容する収容室が形成され、前記収容室を封止するように前記固体電解質膜が取り付けられたハウジングと、
を少なくとも備えており、
前記収容室の電解液の液圧により、前記固体電解質膜で前記基材を押圧した状態で、前記電流を通電し、前記電解液に含まれる金属イオンから金属皮膜を、前記基材の表面に成膜する成膜装置であって、
前記載置台には、前記ハウジングの側壁の端面と対向する位置から、前記固体電解質膜を透過した前記電解液を排液する排液部が設けられており、
前記排液部には、前記排液部から前記電解液を吸引する吸引ポンプが接続されていることを特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【請求項2】
前記載置台には、前記基材の形状に応じた収容凹部が、載置用の凹部として、形成されており、
前記排液部は、排液溝を有しており、
前記排液溝は、前記収容凹部の周縁から間隔を空けて、前記収容凹部を囲繞するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項3】
前記電源部は、前記金属皮膜の成膜時において、前記陽極と前記基材との間に通電する電流を一定に保持するように、前記陽極と前記基材との間に電流を通電するものであり、
前記成膜装置は、
前記陽極と前記基材との間の電圧を測定する電圧計と、
前記吸引ポンプの起動および停止を制御する制御装置と、をさらに備えており、
前記制御装置は、前記成膜時において、前記電圧計で測定した電圧が、所定の電圧値以上となった時に、前記吸引ポンプを起動させ、前記吸引ポンプを起動してから予め設定した設定時間経過後に、前記吸引ポンプを停止させることを特徴とする請求項に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項4】
収容室に収容された電解液の液圧により、固体電解質膜で基材を押圧した状態で、陽極と、陰極となる基材との間に電流を通電し、前記電解液に含まれる金属イオンから金属皮膜を、前記基材の表面に成膜する成膜方法であって、
前記成膜方法は、
前記基材を載置台に載置する工程と、
前記載置台に載置された前記基材に、前記固体電解質膜を接触させるとともに、前記液圧により、前記固体電解質膜で前記基材を押圧する工程と、
前記固体電解質膜で前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電流を通電することにより、前記基材に前記金属皮膜を成膜する工程とを、含み、
前記成膜する工程において、前記載置台の表面のうち、前記収容室を形成するハウジングの側壁の端面と対向する位置から、前記固体電解質膜を透過した前記電解液を、吸引ポンプにより吸引しながら、排液することを特徴とする金属皮膜の成膜方法。
【請求項5】
前記載置台には、前記基材の形状に応じた収容凹部と、前記収容凹部の周縁から間隔を空けて、前記収容凹部を囲繞する排液溝が形成されており、
前記載置する工程において、前記収容凹部に前記基材が収容されるように、前記基材を載置台に載置し、
前記成膜する工程において、前記電解液の排液を、前記排液溝により行うことを特徴とする請求項に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項6】
前記成膜する工程において、前記電流を一定に保持しながら、前記陽極と前記基材との間の電圧を測定し、測定した電圧が、所定の電圧値以上となった時に、前記吸引ポンプによる前記電解液の吸引を開始し、吸引を開始してから予め設定した設定時間経過後に、前記吸引ポンプによる前記吸引を停止することを特徴とする請求項に記載の金属皮膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に金属イオンに由来した金属を析出させることで、基材の表面に金属皮膜を成膜する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、陽極と、陽極と陰極となる基材との間に配置された固体電解質膜と、陽極と基材との間に電流を通電する電源部と、基材を載置する載置台と、を備えた成膜装置が提案されている。この成膜装置の載置台には、基材を収容する収容凹部が形成され、収容凹部の底面には、固体電解質膜が基材の表面に密着するように吸引する吸引部が設けられている。
【0003】
この吸引部は、収容凹部の底面に形成された吸引口を有し、吸引口から、固体電解質膜を吸引することで、固体電解質膜で基材の表面を加圧し、加圧した状態で、陽極と基材との間に電流を通電することにより、基材の表面に金属皮膜を成膜している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-169399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固体電解質膜で成膜する際に、金属イオンが固体電解質膜を透過するに伴い、固体電解質膜を介して基材側に電解液が透過することがある。成膜時には、固体電解質膜で基材が押圧されているため、基材側に透過した電解液は、固体電解質膜と基材との間に滞留することが想定される。このような電解液の滞留により、基材の表面に金属イオンの金属が析出し難くなり、均質な金属皮膜を成膜することができないことがある。
【0006】
そこで、たとえば、特許文献1に示す成膜装置を用いた場合には、滞留した電解液は、基材を収容する収容凹部の側壁面と基材の側面との隙間から排出されると考えられる。しかしながら、電解液を排出する隙間は、固体電解質膜を介して電解液に対向しているため、この隙間と対向する固体電解質膜は変形し易く、成膜時に電解液を排出する際には、電解液の液流とともに、この隙間に固体電解質膜も変形し入り込むおそれがある。この結果、成膜時に、固体電解質膜と基材との間に滞留した電解液を十分に排出することは難しく、固体電解質膜も損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、固体電解質膜と基材との間に電解液が滞留することを抑えることにより、均質な金属皮膜を成膜することができる成膜装置および成膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、陽極と、前記陽極と陰極となる基材との間に配置された固体電解質膜と、前記陽極と前記基材との間に電流を通電する電源部と、前記基材が載置される載置台と、前記陽極とともに電解液を収容する収容室が形成され、前記収容室を封止するように前記固体電解質膜が取り付けられたハウジングと、を少なくとも備えており、前記収容室の電解液の液圧により、前記固体電解質膜で前記基材を押圧した状態で、前記電流を通電し、前記電解液に含まれる金属イオンから金属皮膜を、前記基材の表面に成膜する成膜装置であって、前記載置台には、前記ハウジングの側壁の端面と対向する位置から、前記固体電解質膜を透過した前記電解液を排液する排液部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、収容室の電解液の液圧により、固体電解質膜で基材の表面を押圧した状態で、陽極と基材との間に電圧を印加して、収容室に収容された電解液に含まれる金属イオンを、固体電解質膜に透過させ、基材の表面で金属を析出させることができる。これにより、基材の表面に金属皮膜を成膜することができる。
【0010】
ここで、本発明によれば、載置台には、ハウジングの側壁の端面と対向する位置から、固体電解質膜を透過した電解液を排液する排液部が設けられている。したがって、固体電解質膜を挟んで排液部と対向する箇所には、収容室に収容された電解液が存在せず、固体電解質膜が変形し易い箇所と対向する位置から、電解液が排液されることはない。このような結果、固体電解質膜が、電解液の液圧や電解液の液流等により、排液部を塞ぐように変形することはないため、固体電解質膜の損傷を回避しつつ、固体電解質膜を透過した電解液を、排液部を介して排液し易くなる。このようにして、本発明によれば、固体電解質膜と基材との間に滞留する電解液を排出するとともに、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0011】
ここで、排液部は、複数の排液口を有してもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記載置台には、前記基材の形状に応じた収容凹部が、載置用の凹部として、形成されており、前記排液部は、排液溝を有しており、前記排液溝は、前記収容凹部の周縁から間隔を空けて、前記収容凹部を囲繞するように形成されている。
【0012】
この態様によれば、金属皮膜の成膜時において、収容凹部に収容した基材の周りに、排液溝が設けられるので、固体電解質膜と基材との間から流れ出した電解液を、基材の周りからより均一に排液することができる。
【0013】
さらに、電解液の液圧により固体電解質膜で、固体電解質膜と基材との間から、排液部に電解液を押し流すことができるのであれば、電解液を吸引しなくてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記排液部には、前記排液部から前記電解液を吸引する吸引ポンプが接続されている。
【0014】
この態様によれば、排液部内に、吸引ポンプにより負圧を発生させることにより、固体電解質膜と基材との間から、電解液を効率的に吸い出して、排液部を介して、成膜装置の外部に排出することができる。
【0015】
ここで、吸引ポンプを設けた場合、成膜を開始したタイミングから、成膜を終了するタイミングまで、吸引ポンプを連続的に稼働させてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記電源部は、前記金属皮膜の成膜時において、前記陽極と前記基材との間に通電する電流を一定に保持するように、前記陽極と前記基材との間に電流を通電するものであり、前記成膜装置は、前記陽極と前記基材との間の電圧を測定する電圧計と、前記吸引ポンプの起動および停止を制御する制御装置と、をさらに備えており、前記制御装置は、前記成膜時において、前記電圧計で測定した電圧が、所定の電圧値以上となった時に、前記吸引ポンプを起動させ、前記吸引ポンプを起動してから予め設定した設定時間経過後に、前記吸引ポンプを停止させる。
【0016】
成膜時において、固体電解質膜と基材との間に、固体電解質膜を透過した電解液が留まっている場合には、この電解液の金属イオンが成膜で消費されているため、陽極と基材との間の電圧が増加する。したがって、金属皮膜の成膜時に、陽極と基材との間の電圧が、所定の電圧値以上となった時には、固体電解質膜と基材との間に、十分な量の電解液が滞留していると判断できる。そこで、この態様によれば、制御装置は、このようなタイミングで、吸引ポンプを起動させ、起動してから予め設定した設定時間経過後まで、滞留した電解液を吸引しながら、吸引した電解液を強制的に排出することができる。このようにして、吸引ポンプを有効に起動および停止させることで、吸引ポンプで、固体電解質膜と基材との間に滞留した電解液を効率的に吸い出して、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0017】
本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、収容室に収容された電解液の液圧により、固体電解質膜で基材を押圧した状態で、陽極と、陰極となる基材との間に電流を通電し、前記電解液に含まれる金属イオンから金属皮膜を、前記基材の表面に成膜する成膜方法であって、前記成膜方法は、前記基材を載置台に載置する工程と、前記載置台に載置された前記基材に、前記固体電解質膜を接触させるとともに、前記液圧により、前記固体電解質膜で前記基材を押圧する工程と、前記固体電解質膜で前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電流を通電することにより、前記基材に前記金属皮膜を成膜する工程とを、含み、前記成膜する工程において、前記載置台の表面のうち、前記収容室を形成するハウジングの側壁の端面と対向する位置から、前記固体電解質膜を透過した前記電解液を排液することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、成膜する工程において、収容室の電解液の液圧により、固体電解質膜で基材の表面を押圧した状態で、陽極と基材との間に電圧を印加する。これにより、収容室に収容された電解液に含まれる金属イオンを、固体電解質膜に透過させ、基材の表面で金属を析出させることができる。このような結果、基材の表面に金属皮膜を成膜することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、成膜する工程において、載置台の表面のうち、ハウジングの側壁の端面と対向する位置から、固体電解質膜を透過した電解液を排液する。したがって、固体電解質膜を挟んで、電解液を排液する位置と対向する箇所には、収容室に収容された電解液が存在しない。このような結果、固体電解質膜が、排液する部分を塞ぐように変形することはないため、固体電解質膜の損傷を回避しつつ、固体電解質膜を透過した電解液を、排液し易くなる。このようにして、本発明によれば、固体電解質膜と基材との間に滞留する電解液を排出するとともに、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0020】
ここで、収容凹部の周りに、複数の排液口を設けて、排液口から電解液を排液してもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記載置台には、前記基材の形状に応じた収容凹部と、前記収容凹部の周縁から間隔を空けて、前記収容凹部を囲繞する排液溝が形成されており、前記載置する工程において、前記収容凹部に前記基材が収容されるように、前記基材を載置台に載置し、前記成膜する工程において、前記電解液の排液を、前記排液溝により行う。
【0021】
この態様によれば、金属皮膜の成膜時において、収容凹部に収容した基材の周りに、排液溝が設けられるので、固体電解質膜と基材との間から流れ出した電解液を、基材の周りからより均一に排液することができる。
【0022】
さらに、電解液の液圧により固体電解質膜で、固体電解質膜と基材との間から、電解液を押し流すことにより、電解液を排液することができるのであれば、電解液を吸引しなくてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記成膜する工程において、吸引ポンプにより前記電解液を吸引しながら、前記排液を行う。
【0023】
この態様によれば、吸引ポンプにより発生した負圧により、固体電解質膜と基材との間から、電解液を効率的に吸い出して、ハウジングの側壁の端面と対向する位置から、成膜装置の外部に排出することができる。
【0024】
ここで、吸引ポンプを設けた場合、成膜を開始したタイミングから、成膜を終了するタイミングまで、吸引ポンプを連続的に稼働させてもよい。しかしながら、より好ましい態様としては、前記成膜する工程において、前記電流を一定に保持しながら、前記陽極と前記基材との間の電圧を測定し、測定した電圧が、所定の電圧値以上となった時に、前記吸引ポンプによる前記電解液の吸引を開始し、吸引を開始してから予め設定した設定時間経過後に、前記吸引ポンプによる前記吸引を停止する。
【0025】
この態様によれば、陽極と基材との間の電圧が、所定の電圧値以上となったときに、固体電解質膜と基材との間に、十分な量の電解液が滞留していると判断できる。したがって、このようなタイミングで、吸引ポンプを起動させ、起動してから予め設定した設定時間経過後まで、滞留した電解液を吸引しながら、吸引した電解液を強制的に排出することができる。このようにして、吸引ポンプを有効に起動および停止させることで、吸引ポンプで、固体電解質膜と基材との間に滞留した電解液を効率的に吸い出して、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の成膜装置および成膜方法によれば、固体電解質膜を基材との間に電解液が滞留することを抑えることにより、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置に基材を載置した状態を説明する模式的断面図である。
図2図1に示す成膜装置の載置台をハウジング側から見た図である。
図3図1に示す成膜装置を用いた金属皮膜の成膜方法の工程を説明するフロー図である。
図4図3に示す金属皮膜の成膜工程を説明する模式的概念図である。
図5図1に示す成膜装置の変形例を説明する模式的断面図である。
図6図5に示す制御装置の制御フロー図である
図7A】実施例の試験体について成膜後の外観を観察した写真である。
図7B】比較例の試験体について成膜後の外観を観察した写真である。
図8】実施例に係る成膜時間経過に伴う電圧の変化を示すグラフである。
図9】比較となる成膜装置において、固体電解質膜に屈曲部が発生し、固体電解質膜が基材から離れるように変形した状態を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図1図9を参照しながら本発明に係る実施形態およびその変形例について説明する。
【0029】
1.成膜装置1の構造について
図1および図2を参照しながら、本実施形態に係る金属皮膜を成膜する成膜装置1について説明する。本実施形態の成膜装置1は、固体電解質膜を用いた固相電析法で、金属皮膜を成膜する成膜装置(めっき装置)である。成膜装置1は、基材Wを陰極として、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜(形成)する際に用いられる。成膜装置1は、複数の基材Wの表面に金属皮膜Fを連続して成膜する際に用いてもよい。陰極となる基材Wは、銅、ニッケル、銀、または金等の金属材料からなる基材でもよく、樹脂、セラミックス等の表面に、銅、ニッケル、銀、または金等の金属下地層が形成されている基材でもよい。金属皮膜の成膜時には、この金属下地層は、後述する電源部13の負極に導通されて、陰極となる。
【0030】
図1に示すように、成膜装置1は、陽極11と、陽極11と基材Wとの間に配置された固体電解質膜12と、陽極11と基材Wとの間に電流を通電する電源部13と、を備えている。成膜装置1は、電解液Sを収容する収容室14aが形成されたハウジング14と、基材Wを載置する載置台15と、をさらに備えている。
【0031】
本実施形態では、陽極11は、電源部13の正極に電気的に接続されており、載置台15は、電源部13の負極に電気的に接続されている。後述するように、載置台15は、導電性の材料からなるため、基材Wは、電源部13の負極と導通する。これにより、固体電解質膜12を基材Wの表面に接触させた状態で、電源部13で陽極11と基材Wとの間に電流を通電することができる。
【0032】
本実施形態では、陽極11は、たとえば、板状の金属板であり、金属皮膜Fと同じ材料(たとえばCu)からなる可溶性の陽極、または、電解液Sに対して不溶性を有した材料(たとえばTi)からなる陽極のいずれであってもよい。
【0033】
固体電解質膜12は、電解液Sに接触させることにより、金属イオンを内部に含浸(含有)することができ、陽極11と陰極との間を通電した時に、陰極(基材W)の表面において金属イオン由来の金属を析出可能であれば、特に限定されるものではない。
【0034】
固体電解質膜12は、後述する電解液Sの液圧により可撓性を有する厚みに設定されており、固体電解質膜12の厚みは、たとえば、1μm~200μmであることが好ましい。固体電解質膜12の材料としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)等の陽イオン交換機能を有した樹脂を挙げることができる。
【0035】
電解液Sは、金属皮膜Fの金属をイオンの状態で含有している液であり、その金属に、Cu、Ni、Zn、Ag、Sn、またはAu等を挙げることができる。電解液Sは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、またはピロリン酸等の酸で溶解(イオン化)したものである。
【0036】
本実施形態では、ハウジング14は、電解液Sに対して不溶性の材料からなる。ハウジング14には、陽極11ともに電解液Sを収容室14aが形成されている。ハウジング14には、下方に開口した収容室14aを封止するように、固体電解質膜12が取り付けられている。具体的には、収容室14aには、固体電解質膜12と間隔を空けて陽極11が配置されており、陽極11と固体電解質膜12との間には、これらに接触するように、電解液Sが収容されている。
【0037】
本実施形態では、ハウジング14の側壁14bの端面14cには、固体電解質膜12の周縁を折り曲げた状態で、シール材17を挿入する挿入溝14dが形成されている。挿入溝14dは、収容室14aの開口を囲うように形成されている。固体電解質膜12の周縁を折り曲げた状態で、挿入溝14dにシール材17を挿入し、弾性変形したシール材17で、固体電解質膜12の周縁を押圧することにより、固体電解質膜12で、下方に開口した収容室14aを封止することができる。
【0038】
ハウジング14には、電解液Sが供給される供給口14eと、電解液Sが排出される排出口14fとが形成されている。供給口14eおよび排出口14fは、配管を介してタンク21に接続されている。タンク21と供給口14eとの間には、タンク21の電解液Sを圧送する圧送ポンプ22が設けられている。これにより、タンク21から圧送ポンプ22によって送り出された電解液Sを、供給口14eから収容室14aに流入させ、流入した電解液Sを排出口14fから排出させ、排出した電解液Sをタンク21に戻すことができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、排出口14fの下流側に、圧力調整弁23が設けられており、圧力調整弁23および圧送ポンプ22により収容室14a内の電解液Sを所定の圧力で加圧することができる。このようにして、成膜時に、電解液Sの液圧により、固体電解質膜12に接触した基材Wを、固体電解質膜12で押圧することができる(図4を参照)。これにより、基材Wを固体電解質膜12で均一に加圧しながら、基材Wに金属皮膜Fを成膜することができる。なお、本明細書では、圧力調整弁23および圧送ポンプ22を押圧機構と称する。
【0040】
載置台15には、基材Wの形状に応じた収容凹部15aが形成されている。収容凹部15aは、基材Wを載置するための載置用の凹部であり、収容凹部15aに基材Wを収容することにより、基材Wは載置される。本実施形態では、その一例として、基材Wを収容凹部15aに収容した状態で、収容凹部15aの側壁面と基材Wの側面との間には隙間がないことが好ましく、載置台15の表面と基材Wとの表面が同一平面上に形成されていることがさらに好ましい。
【0041】
これにより、固体電解質膜12を透過した電解液Sが、固体電解質膜12と基材Wとの間から、後述する排液部30に向かって流れ易くなる。ただし、収容凹部15aの側壁面と基材Wの側面との間に、隙間が形成されていたとしても、この隙間に、固体電解質膜12を透過した電解液Sが充填されると、固体電解質膜12をさらに透過した電解液Sは、排液部30に向かって流れ易くなる。したがって、後述するように、固体電解質膜12と基材Wとの間に、電解液Sが滞留し難い。なお、固体電解質膜12と金属皮膜Fとの間に滞留する電解液Sを排出することができるのであれば、載置台15に収容凹部15aを設けなくてもよい。
【0042】
本実施形態では、成膜装置1は、ハウジング14の上部に接続された昇降装置16を、さらに備えている。昇降装置16は、基材Wと固体電解質膜12とが離間した位置から、基材Wに固体電解質膜12が接触する位置までの区間、ハウジング14を昇降させる装置である。昇降装置16は、ハウジング14を昇降させることができるものであれば、その詳細は限定されるものではなく、たとえば、油圧式または空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータ、リニアガイドおよびモータ等によって構成可能である。
【0043】
ところで、金属皮膜Fの成膜の際に、金属イオンは、水分子が配位した状態で固体電解質膜12内を移動し、基材W側に移動した金属イオンは、基材Wの表面において還元され(電子が授与され)、金属となって析出する。成膜時における金属イオンの移動により、固体電解質膜12を電解液Sが透過し、透過した電解液Sは、成膜により金属イオンが消費されるため、電解液Sに含まれる溶媒が、基材Wと固体電解質膜12との間に滞留することがある。ここで、本発明でいう「前記固体電解質膜を透過した前記電解液」とは、厳密にいうと、金属イオンの移動とともに、透過する電解液に由来する液体のことであり、収容室14aに含まれる液体の組成とは、若干異なる。
【0044】
このような結果、図9に示す如き比較となる成膜装置90では、ハウジング94の収容室94aに収容された電解液Sが、陽極11と基材Wとの間の通電時に、固体電解質膜92を透過する。固体電解質膜92を透過した電解液Sは、固体電解質膜92と基材Wとの間に滞留する。滞留した電解液Sは、金属イオンが消費され、電解液Sの溶媒の成分が過多となるため、成膜時の電気抵抗として作用することがある。このような電解液Sの滞留量が増加すると、滞留した電解液により固体電解質膜92が基材Wから離れるように変形し、固体電解質膜92と基材Wの表面との間に、成膜時に大きな隙間が形成されてしまう。この結果、基材Wの表面に金属イオンの金属が析出し難くなり、均質な金属皮膜を成膜することができないことがある。
【0045】
ここで、図9に示す成膜装置90では、基材Wを載置する載置台95に、基材Wを収容する収容凹部95aが設けられており、基材Wの側面と収容凹部95aの側壁面の隙間97を含む排液部96により排液しようとしている。しかしながら、この隙間97を含む排液部96に、電解液Sを排液するための液流が生成されると、固体電解質膜92が、この隙間97に入り込んで、屈曲した屈曲部98を形成することがある。これにより、固体電解質膜92と基材Wとの間に滞留した電解液Sの排液性が阻害され、固体電解質膜92の屈曲部98が、損傷するおそれがある。
【0046】
このような点から、本実施形態では、載置台15には、固体電解質膜12を透過した電解液Sを排液する排液部30が設けられている。排液部30は、収容室14aを形成するハウジング14の側壁14bの端面14cと対向する位置から、固体電解質膜12を透過した電解液Sを排液する。すなわち、排液部30は、収容室14aから外れた位置から、固体電解質膜12を透過した電解液Sを排液する。
【0047】
本実施形態では、図1および図2に示すように、排液部30は、排液溝31と、排液溝31に連通した排液通路32と、を有している。排液溝31は、収容凹部15aから離間した位置(具体的には、ハウジングの14の側壁14bの端面14cに対向する位置)において、載置台15の表面に形成されている。
【0048】
本実施形態では、図2に示すように、排液溝31は、収容凹部15aの周縁15bから間隔を空けて、収容凹部15aを囲繞するように形成されている。排液溝31は、接続部32aを介して、排液通路32に連通している。排液溝31は、排液通路32の接続部32aに向かって電解液Sが流れるように、傾斜していてもよい。本実施形態では、排液通路32は、載置台15の内部に形成されている。本実施形態では、接続部32aは、1つであるが、排液溝31と排液通路32とを接続する接続部を、複数設けて、排液溝31に流れる電解液Sを、複数の接続部から排液してもよい。
【0049】
なお、本実施形態では、図1に示すように、排液溝31は、シール材17と対向する位置に形成されているが、収容室14aおよび収容凹部15aから外れた位置において、電解液Sを排液できるものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、排液溝31は、シール材17よりも外側において、ハウジングの14の側壁14bの露出した端面14cと対向した位置に設けられていてもよく、シール材17よりも内側において、側壁14bの端面14cを覆う固体電解質膜12と対向する位置に設けられていてもよい。また、電解液Sを排液することができるのでれば、排液部30は、排液溝31の代わりに、複数の排液口を有してもよい。排液溝31は、透過した電解液Sを排液することができるものであれば、収容凹部15aの周縁15bの少なくとも一部に沿って形成されていてもよい。
【0050】
排液部30(排液通路32)の端部32bから、吸引等を行わず、電解液Sを排液することができるのであれば、この端部32bに排液を回収する槽等を設けてもよい。しかしながら、本実施形態では、排液部30には、固体電解質膜12を透過した電解液Sを排液部30から吸引する吸引ポンプ41が接続されている。吸引ポンプ41の下流には、電解液Sを回収する回収槽42が設けられている。
【0051】
2.金属皮膜Fの成膜方法について
図3および図4を参照して、本実施形態に係る金属皮膜Fの成膜方法について、成膜装置1の作用および効果とともに説明する。なお、成膜方法は、以下に、図3に示す工程のフローに沿って、説明する。
【0052】
2-1.基材Wの載置工程S1について
本実施形態に係る金属皮膜Fの成膜方法では、まず、基材Wの載置工程S1を行う。この工程では、載置台15に基材Wを配置する(図1を参照)。具体的には、ハウジング14が載置台15の上方に配置された状態で、載置台15の収容凹部15aに基材Wが収容されるように、載置台15に基材Wを載置する。これにより、固体電解質膜12を挟んで収容室14aに対向する位置に、基材Wが配置される。
【0053】
2-2.固体電解質膜12の押圧工程S2について
次に、固体電解質膜12の押圧工程S2を行う。この工程では、図4に示すように、ハウジング14に取り付けられた固体電解質膜12を、載置台15に載置された状態の基材Wに接触させるとともに、液圧により、固体電解質膜12で基材Wを押圧する。
【0054】
具体的には、昇降装置16で、ハウジング14を基材Wに向かって移動させ、ハウジング14に基材Wと対向するように取り付けられた固体電解質膜12を基材Wの表面に接触させる(図1および図4参照)。この接触状態で、金属皮膜Fを成膜する圧力条件で、押圧機構(圧送ポンプ22および圧力調整弁23)により、固体電解質膜12で基材Wを押圧する。この結果、圧送ポンプ22により電解液Sが増圧され、固体電解質膜12が基材Wに倣うとともに、圧力調整弁23によりハウジング14内の電解液Sは設定された一定の圧力になる。これにより、固体電解質膜12は、ハウジング14内の電解液Sの調圧させた液圧で、基材Wの表面を均一に押圧することができる。
【0055】
2-3.金属皮膜の成膜工程S3について
次に、金属皮膜の成膜工程S3を行う。この工程では、図4に示すように、固体電解質膜12を押圧した状態で、電源部13により陽極11と基材Wとの間に電流を通電することにより、基材Wに金属皮膜Fを成膜する。ここで、成膜する際、載置台15の表面のうち、収容室14aを形成するハウジング14の側壁14bの端面14cと対向する位置から、固体電解質膜12を透過した電解液Sを排液する。より具体的には、電解液Sの排液を、排液部30により行う。
【0056】
本実施形態によれば、このように構成することにより、金属皮膜Fの成膜時に、固体電解質膜12を挟んで排液部30と対向する箇所には、収容室14aに収容された電解液Sが存在しない。すなわち、固体電解質膜12が変形し易い箇所(収容室14aと面する箇所)と対向する位置から、電解液Sが排液されることはない。
【0057】
このような結果、固体電解質膜12が電解液Sの液圧や電解液Sの液流により、排液部30を塞ぐように変形することは低減されるため、固体電解質膜12の損傷を回避しつつ、固体電解質膜12を透過した電解液Sを、排液部30を介して排液し易くなる。
【0058】
特に、金属皮膜Fの成膜時において、収容凹部15aに収容した基材Wの周りに、排液部30の一部として、排液溝31が設けられるので、固体電解質膜12と基材Wとの間から流れ出した電解液Sを、基材Wの周りからより均一に排液することができる。これにより、図9に示すような、固体電解質膜12が基材Wから離れるような変形を低減することができる。
【0059】
さらに、排液部30内に、吸引ポンプ41により負圧を発生させることにより、固体電解質膜12と基材Wとの間から、電解液Sを効率的に吸い出して、排液部30を介して、載置台15の外部に排出することができる。
【0060】
このようにして、固体電解質膜12と基材Wとの間に滞留する電解液Sを排出するとともに、基材Wの表面に均質な金属皮膜Fを成膜することができる。
【0061】
<変形例>
図5および図6を参照して、本実施形態の変形例に係る金属皮膜Fの成膜装置1および金属皮膜Fの成膜方法について説明する。本変形例では、成膜中の陽極11と基材Wとの電圧値に基づいて、排液部30を介して吸引ポンプ41により、強制的に排液を行う点が上述した実施形態とは異なる。以下では、上述した実施形態とは異なる点を主に説明する。
【0062】
図5に示すように、この変形例の成膜装置1では、上述した実施形態の排液部30に吸引ポンプ41が接続されている。また、この変形例では、電源部13は、固体電解質膜12と基材Wとの間に通電する電流を一定に保持するように、陽極11と基材Wとの間に電流を通電するものである。このような電流制御を達成すべく、電源部13には、電流計19により測定された電流が一定に保持されるように、印加する電圧を制御する制御回路が設けられてもよい。
【0063】
電源部13により、陽極11と基材Wとの間に通電する電流を一定に制御することにより、金属皮膜Fの成膜速度を一定にすることができる。これにより、電流の通電開始から通電終了までの時間を予め設定することにより、所望の厚さの金属皮膜Fを成膜することができる。
【0064】
この変形例では、成膜装置1は、電圧計50と、制御装置60と、をさらに備えている。電圧計50は、陽極11と基材Wとの間の電圧を測定するものである。電圧計50により測定された測定値(電圧値)が、信号として制御装置60に入力されるように、電圧計50は、制御装置60に電気的に接続されている。
【0065】
ここで、制御装置60は、ハードウエアとしてCPU等の演算装置、RAM、ROM等の記憶装置を基本構成とする。演算装置では、電圧計50の信号に基づいて、所定の電圧値以上か否かを判定し、電源部13および吸引ポンプ41への制御信号が演算され、これらの信号が出力される。また、記憶装置では、たとえば、予め設定された成膜時間、後述する水素過電圧、および予め設定された吸引時間等が記憶されている。
【0066】
より具体的には、制御装置60は、吸引ポンプ41の起動および停止を制御する制御信号を、吸引ポンプ41に送信する。吸引ポンプ41が起動してから、吸引ポンプ41は、稼働し続け、制御装置60からの停止信号により、吸引ポンプ41による吸引が停止する。さらに、制御装置60は、電源部13による、通電と通電停止を制御してもよい。
【0067】
この変形例では、制御装置60は、金属皮膜Fの成膜時において、電圧計50で測定した電圧が、所定の電圧値以上となった時に、吸引ポンプ41を起動させ、吸引ポンプ41を起動してから予め設定した設定時間経過後に、吸引ポンプ41を停止させる。
【0068】
ここで、固体電解質膜12と基材Wとの間に、滞留する電解液Sが増加するに従って、陽極11と基材Wとの間の電圧も増加する。そして、滞留する電解液Sの量が、所定の量に達すると、成膜された金属皮膜が変色し始めるため、吸引ポンプ41を起動する基準となる「所定の電圧」は、この時の電圧またはそれ未満の電圧であることが好ましい。さらに、吸引ポンプ41による吸引時間に相当する「設定時間」は、固体電解質膜12と基材Wとの間に、滞留する電解液Sを吸い出すことができる時間に設定されることが好ましく、たとえば、この設定時間は、実験等により求めることができる。
【0069】
制御装置60による詳細な制御を、図6に示す制御フローを参照しながら、作用および効果とともに説明する。
【0070】
図6は、制御装置60の制御フロー図である。図6に示す制御フローは、図3に示す金属皮膜の成膜工程S3で行うものであるため、以下には、図3に示す金属皮膜の成膜方法の工程S1~工程S3のうち、金属皮膜の成膜工程S3について説明する。なお、以下では、制御装置60が制御する方法を説明するが、これを手動で行ってもよい。
【0071】
まず、ステップS601では、制御装置60は、電源部13に制御信号を出力し、固体電解質膜12と基材Wとの間に通電する電流を一定に保持するように、陽極11と基材Wとの間に電流を通電させる。これにより、液圧により固体電解質膜12で基材Wを押圧した状態で、金属皮膜Fの成膜を開始する。
【0072】
次に、ステップS602では、制御装置60は、成膜累積時間が、予め設定した所定の時間未満か否かの判定を行う。制御装置60が、所定の時間以上であると判定した場合(ステップS602:NO)、後述するように、ステップS603へ進み、電流の通電を停止し、成膜を終了する。一方、成膜累積時間が、予め設定した時間未満であると判定した場合(ステップS602:YES)、成膜途中であるため、電圧値の判定を行うステップS604へ進む。
【0073】
ステップS604では、制御装置60は、測定した陽極11と基材Wとの間の電圧値が、所定の電圧値以上か否かを判定する。制御装置60は、電圧計50から測定した電圧値を受信して、判定を行う。たとえば、制御装置60は、成膜を開始した時の電圧値(初期電圧)に対して、測定した電圧値の増加(変化)が、所定値以上か否かを判定してもよい。
【0074】
ここで、本変形例では、所定値(電圧値)の例として、金属皮膜Fの材料である金属の水素過電圧を用いる。制御装置60は、予め金属の水素過電圧(たとえば、Cu:0.58V、Ni:0.75V、Zn:0.75V、Ag:0.76V、Sn:1.08V、およびAu:0.37V)を記憶しておき、判定の際、適宜読み出してよい。
【0075】
制御装置60が、所定の電圧値未満であると判定した場合(ステップS604:NO)、ステップS601へ戻る。この場合には、固体電解質膜12と基材Wとの間に、固体電解質膜12を透過した電解液Sがそれほど留まっていないため、成膜を継続する。
【0076】
一方、制御装置60が、所定の電圧値以上であると判定する場合には(ステップS604:YES)、ステップS605に進む。ステップS605では、固体電解質膜12と基材Wとの間に、固体電解質膜12を透過した電解液Sが留まっているため、制御装置60により、電流の通電を停止させる。これにより、金属皮膜Fの成膜を停止する。
【0077】
ここで、金属の水素過電圧を基準とし、初期電圧から水素過電圧以上となったタイミングで、陽極11と基材Wとの間の電流の通電を停止することにより、金属の異常な析出を未然に回避することができる。
【0078】
次に、ステップS606では、制御装置60により、吸引ポンプ41を起動させ、ステップS607に進む。ここで、ステップS605において、電流の通電を既に停止しているため、吸引ポンプ41の吸引の際に、固体電解質膜12が振動したとしても、金属皮膜Fの成膜を中断しているので、この振動による成膜不良が発生することはない。
【0079】
ただし、吸引により固体電解質膜12に振動が発生しない、または、この振動が発生しても金属皮膜Fの成膜に影響を受けない場合には、ステップS605による電流通電の停止を行わず、金属皮膜Fの成膜を続行してもよい。このようにして、ステップS606では、固体電解質膜12を透過した電解液Sの排液が開始される。
【0080】
次に、ステップS607では、制御装置60は、吸引時間が予め設定した設定時間未満か否かを判定する。この設定時間は、固体電解質膜12を透過した電解液Sを、ほぼ排液することができる時間であれば、特に限定されるものではない。
【0081】
予め設定した吸引時間未満の判定の場合には(ステップS607:YES)、ステップS606へ戻る。この場合には、排液が不十分であるため、吸引を継続する。一方、予め設定した設定時間以上の判定の場合には(ステップS607:NO)、電解液Sを十分に排液できたと判断できるため、ステップS608へ進む。
【0082】
ステップS608では、制御装置60により、吸引ポンプ41を停止させ、排液部30を介した吸引ポンプ41による排液を完了する。吸引ポンプ41の停止後、ステップS601に戻り、再び、成膜を開始する。ステップS602において、通電した時間を累積した成膜累積時間が、所定の時間未満ではないと判定した場合には、電流が一定の通電下において、金属皮膜が所望の膜厚で成膜されたことになるため、ステップS603において、制御装置60により、電源部13に電流の通電を停止させて、成膜を終了する。これにより、所望の膜厚に金属皮膜Fが成膜された基材Wを作製することができる。なお、吸引ポンプの起動および停止が所定回数以上繰り返される場合には、成膜装置1に異常が発生したと判断し、成膜を中止してよい。
【実施例
【0083】
以下に、本発明を実施例により説明する。
【0084】
<実施例>
表面に成膜する基材として、ガラスエポキシ基材の表面にCu皮膜が形成されたもの(10cm×10cm×Cu皮膜の膜厚500nm)を準備した。次に、図5に示す成膜装置を用いて、図3に示す成膜方法に沿って、銅皮膜を成膜し、銅皮膜の成膜工程では、図6に示す制御フローに沿って、制御装置の制御を行った。
【0085】
電解液に、硫酸銅水溶液(1M CuSO+0.2M HSO)を用い、陽極にはCu板、固体電解質膜には、膜厚8μmのナフィオンN212(デュポン(株)社製)を使用した。試験条件としては、温度70℃、電流密度18A/dm、液圧0.6MPa、成膜時間1506秒で、1000μmの膜厚の銅皮膜を成膜した。
【0086】
また、成膜の間、陽極と基材との間の電圧を測定して、所定の電圧値の判定(ステップS604)の際は、成膜を開始した時の電圧値に対して、測定した電圧値の増加が、Cuの水素過電圧(0.6V)以上か否かを判定した。この電圧値(0.6V)以上となったタイミングで、吸引ポンプによる吸引を、1分間行った。成膜完了後の基材の外観を観察した。
【0087】
<比較例>
実施例と同様にして、銅皮膜を成膜して、成膜完了後の外観を観察した。実施例と相違する点は、排液部を設けず、固体電解質膜と基材との間に滞留する電解液Sの排液を行わなかった点である。
【0088】
(結果および考察)
図7Aおよび図7Bは、それぞれ、実施例および比較例の試験体について成膜後の外観を観察した写真である。図7Aからわかるように、実施例では、均質な銅皮膜が成膜された。よって、実施例のごとく、排液部を介して、吸引ポンプの吸引により、固体電解質膜を透過した電解液を排液すれば、透過した電解液が固体電解質膜と基材との間に留まることを防止して、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0089】
一方、図7Bからわかるように、比較例では金属の異常析出による変色(いわゆるヤケ)が認められた。比較例では、透過した電解液が固体電解質膜と基材との間に留まることにより、固体電解質膜が基材から離れるように変形し、これがヤケの原因と考えられる。
【0090】
図8は、実施例において、成膜時間経過に伴う電圧の変化を示すグラフである。図8に示すように、成膜開始から、時間経過とともに、徐々に電圧が増加し、成膜時間680秒付近で、電圧の増加量が、初期電圧に対して、Cuの水素過電圧である0.6V以上となったため、吸引を開始した。このような条件で、実施例では、均質な銅皮膜が成膜された。以上のことから、吸引を開始するタイミングを、成膜開始からの電圧の増加量が、水素過電圧に到達した(水素過電圧以上となった)タイミングとすれば、均質な金属皮膜を成膜することができると考えられる。
【0091】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0092】
1:成膜装置、11:陽極、12:固体電解質膜、13:電源部、14:ハウジング、14a:収容室、14b:側壁、14c:端面、15:載置台、15a:収容凹部、15b:周縁、30:排液部、31:排液溝、41:吸引ポンプ、50:電圧計、60:制御装置、F:金属皮膜、S:電解液、W:基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9