(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用単セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0204 20160101AFI20240910BHJP
H01M 8/2483 20160101ALI20240910BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20240910BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240910BHJP
【FI】
H01M8/0204
H01M8/2483
H01M8/0267
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021189175
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂之井 遼太
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕臣
(72)【発明者】
【氏名】三浦 淳弘
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-004631(JP,A)
【文献】特開昭63-030187(JP,A)
【文献】特開2011-219808(JP,A)
【文献】特開2006-117964(JP,A)
【文献】特開2003-034822(JP,A)
【文献】特開2020-145130(JP,A)
【文献】特開2016-015310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
B23K 26/20
B23K 26/352
B23K 26/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用のセパレータの製造方法であって、
前記セパレータにおいて他の前記セパレータと接合されることが予定されている接合部位に、前記セパレータと他の前記セパレータとを接合させることなくレーザ光を照射する洗浄工程を備え、
前記洗浄工程において、少なくとも一部の前記接合部位に対して、
前記レーザ光によって形成される複数の照射痕が、互いに離間して配置される離間照射痕パターンとなるように、前記レーザ光を照射
し、
前記離間照射痕パターンは、
隣り合う前記照射痕の一部が重なって配置される照射痕群を複数有し、前記複数の照射痕群が互いに離間して列状に配置される列状パターンを含み、
前記洗浄工程において、
単セルに含まれる一対のセパレータを構成する一方の前記セパレータにおいて、前記一対のセパレータを構成する他方の前記セパレータと接合されることが予定されている前記接合部位のうち、前記単セルの内部を流れるガスの圧力に起因して一方の前記セパレータと他方の前記セパレータとを互いに離間させる力が、他の部位と比較して大きく作用する前記接合部位に対して、
前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射する、
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記離間照射痕パターンは、全ての照射痕同士が離間して配置されるドット状パターンを含む請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記離間照射痕パターンにおいて、前記照射痕は等間隔で配置される請求項2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程において、
前記ガスの圧力が作用する方向と、前記複数の照射痕群の並列方向とが一致する前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射する請求項
1~請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記セパレータは、前記セパレータを貫通する冷媒出口孔を有しており、
前記洗浄工程において、
前記セパレータにおいて前記セパレータと共に単セルを構成する他の前記セパレータと接合されることが予定されている前記接合部位のうち、前記冷媒出口孔の周囲に位置する前記接合部位に対して、前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射する請求項
1~請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記セパレータは、前記セパレータを貫通する冷媒入口孔と、前記冷媒入口孔から前記冷媒出口孔側へ延びて形成される流路溝と、をさらに有しており、
前記洗浄工程において、
前記流路溝の延びる方向と、前記複数の照射痕群の並列方向とが一致する前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射する請求項
5に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項
6のうちいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法により前記セパレータを製造するセパレータ製造工程と、
前記セパレータ製造工程により製造された複数の前記セパレータを準備するセパレータ準備工程と、
前記セパレータ準備工程により準備された前記セパレータの間に熱可塑接着シート部材を挟んで設置する接着シート部材設置工程と、
前記接着シート部材設置工程により、前記熱可塑接着シート部材を挟んで積層された前記セパレータを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を備える燃料電池用単セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用単セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、MEAを挟持する2枚のセパレータと、を有する燃料電池セル(単セル)を、複数積層して構成されている。セパレータは、隣接する他のセパレータと相互に接合されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、単セルを積層したときに隣接するセパレータ同士を、レーザ溶接にて接合している。そして、レーザ溶接の前には、接合部位およびその周辺に付着した付着物を除去するために、レーザ光(以下、「洗浄用レーザ光」と呼ぶ)を接合部位やその周囲に照射するようにしている。レーザ溶接等の接合時にセパレータの表面に付着物が付着していると、接合品質が低下する虞があるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、洗浄用レーザ光の照射態様によっては、セパレータへの入熱量が過剰に大きくなり、薄板状部材であるセパレータに反りが発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池用セパレータの製造方法が提供される。この燃料電池用セパレータの製造方法は、前記セパレータにおいて他の前記セパレータと接合されることが予定されている接合部位に、前記セパレータと他の前記セパレータとを接合させることなくレーザ光を照射する洗浄工程を備え、前記洗浄工程において、少なくとも一部の前記接合部位に対して、前記レーザ光によって形成される複数の照射痕が、互いに離間して配置される離間照射痕パターンとなるように、前記レーザ光を照射し、前記離間照射痕パターンは、隣り合う前記照射痕の一部が重なって配置される照射痕群を複数有し、前記複数の照射痕群が互いに離間して列状に配置される列状パターンを含み、前記洗浄工程において、単セルに含まれる一対のセパレータを構成する一方の前記セパレータにおいて、前記一対のセパレータを構成する他方の前記セパレータと接合されることが予定されている前記接合部位のうち、前記単セルの内部を流れるガスの圧力に起因して一方の前記セパレータと他方の前記セパレータとを互いに離間させる力が、他の部位と比較して大きく作用する前記接合部位に対して、前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射する。
この形態によれば、少なくとも一部の接合部位に対して離間照射痕パターンとなるようにレーザ光を照射するため、複数の照射痕を離間させずに敷き詰めたパターンとなるように照射する場合と比較して、レーザ光が照射されて熱影響を受ける部位(熱影響部位)を減らすことができる。すなわち、セパレータへのレーザ照射による入熱量を減少させることができ、レーザ光の照射に起因するセパレータの反りを抑制できる。また、隣り合う照射痕の一部が重なって配置される照射痕群の部位では、洗浄能力を高めることができる。そして、複数の照射痕群は、互いに離間して列状をなすため、セパレータへのレーザ照射による入熱量を減少させることができる。また、単セルの内部を流れるガスの圧力の影響により、単セルを構成する一対のセパレータ同士を離間させる力が、セパレータ表面上の他の部位と比較して大きく作用する部位に対しては、ドット状パターンよりも洗浄力の高い列状パターンとなるように洗浄レーザを照射することができる。このため、セパレータにおいて剥離力が大きく作用する部位では、洗浄能力を維持し、ひいては接合強度を維持しつつ、セパレータの反りを低減することができる。
(2)上記形態において、前記離間照射痕パターンは、全ての照射痕同士が離間して配置されるドット状パターンを含んでいてもよい。この形態によれば、ドット状パターンでは、全ての照射痕同士が離間して配置されるため、セパレータへのレーザ照射による入熱量を好適に低減できる。
(3)上記形態において、前記離間照射痕パターンにおいて、前記照射痕は等間隔で配置されてもよい。この形態によれば、離間照射痕パターンにおいて、照射痕は等間隔で配置されるため、照射による洗浄を均一にできる。
(4)上記形態において、前記洗浄工程において、前記ガスの圧力が作用する方向と、前記複数の照射痕群の並列方向とが一致する前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射してもよい。この形態によれば、照射痕が形成される部位よりも接合強度が低い列間の離間は、ガスの圧力が作用する方向において連続しないため、ガスの圧力が作用する方向と列状パターンの照射痕群の並列方向とが例えば直交する場合と比較して、ガスの圧力の入力に対して接合強度を高めることができる。
(5)上記形態において、前記セパレータは、前記セパレータを貫通する冷媒出口孔を有しており、前記洗浄工程において、前記セパレータにおいて前記セパレータと共に単セルを構成する他の前記セパレータと接合されることが予定されている前記接合部位のうち、前記冷媒出口孔の周囲に位置する前記接合部位に対して、前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射してもよい。
この形態によれば、セパレータが単セルとして構成された際に、ガスの圧力の影響を受けて、2枚のセパレータを剥がす力が、セパレータ表面上の他の部位と比較して大きく作用する部位である冷媒出口孔の周囲に位置する洗浄部位に対しては、ドット状パターンよりも洗浄力の高い列状パターンとなるように洗浄レーザを照射することができる。このため、冷媒出口孔の周囲に位置する洗浄部位では、洗浄能力を維持し、ひいては接合強度を維持しつつ、セパレータの反りを低減することができる。
(6)上記形態において、前記セパレータは、前記セパレータを貫通する冷媒入口孔と、前記冷媒入口孔から前記冷媒出口孔側へ延びて形成される流路溝と、をさらに有しており、前記洗浄工程において、前記流路溝の延びる方向と、前記複数の照射痕群の並列方向とが一致する前記列状パターンとなるように、前記レーザ光を照射してもよい。
流路溝の延びる方向は、セパレータが単セルとして構成された際に、単セルの内部を流通するガスの圧力が作用する方向と略一致する。この形態によれば、照射痕が形成される部位よりも接合強度が低い列間の離間は、ガスの圧力が作用する方向において連続しないため、ガスの圧力が作用する方向と列状パターンの照射痕群の並列方向とが例えば直交する場合と比較して、ガスの圧力の入力に対して接合強度を高めることができる。
(7)本開示の他の形態によれば、燃料電池用単セルの製造方法が提供される。この燃料電池用単セルの製造方法は、上記形態の燃料電池用セパレータの製造方法により前記セパレータを製造するセパレータ製造工程と、前記セパレータ製造工程により製造された複数の前記セパレータを準備するセパレータ準備工程と、前記セパレータ準備工程により準備された前記セパレータの間に熱可塑接着シート部材を挟んで設置する接着シート部材設置工程と、前記接着シート部材設置工程により、前記熱可塑接着シート部材を挟んで積層された前記セパレータを熱圧着により接合する熱圧着工程と、を備える。
この形態によれば、セパレータ製造工程において、レーザ光の照射に起因するセパレータの反りが抑制されたセパレータを製造することができる。そして、セパレータ準備工程、接着シート部材設置工程、および熱圧着工程を経ることで、熱可塑接着シート部材を利用して好適に燃料電池用単セルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1実施形態としての燃料電池用セパレータの製造方法により製造されたセパレータを適用した燃料電池の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態におけるセパレータの製造方法により製造されたセパレータを示す平面図である。
【
図3】燃料電池用セパレータの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】レーザ照射処理を施した際の熱影響範囲について説明する図である。
【
図7】比較形態における、照射痕パターンの一例を示す図である。
【
図8】燃料電池用単セルの製造方法における手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.燃料電池の全体構成:
図1は、本開示の一実施形態としての燃料電池用セパレータの製造方法により製造されたセパレータ10,20を適用した燃料電池500の概略構成を示す斜視図である。なお、
図1では、セパレータ10,20の表面を一部簡略化して図示している。燃料電池500は、複数の燃料電池用単セル300(以下、単に「単セル300」ともいう)が積層方向SDに沿って積層されて形成されている。以下、X軸およびY軸は水平面と平行であり、Z軸は鉛直方向と平行である。+Z方向は鉛直上方、-Z方向は鉛直下方を示す。本実施形態では、積層方向SDとは、Y軸と平行な方向である。本実施形態において、単セル300は、固体高分子型燃料電池である。燃料電池500の内部には、6つのマニホールド2~7が形成されている。
【0010】
酸化剤ガス供給マニホールド2は、各単セル300に酸化剤ガスである空気を供給する。冷却媒体供給マニホールド3は、各単セル300に冷却媒体を供給する。燃料ガス排出マニホールド4は、各単セル300から排出される燃料ガスを燃料電池500の外部へと排出する。燃料ガス供給マニホールド5は、各単セル300に燃料ガスである水素ガスを供給する。冷却媒体排出マニホールド6は、各単セル300から排出される冷却媒体を燃料電池500の外部へと排出する。酸化剤ガス排出マニホールド7は、各単セル300から排出される酸化剤ガスを燃料電池500の外部へと排出する。6つのマニホールド2~7は、いずれも積層方向SDと平行に延設されている。
【0011】
各単セル300は、MEGAプレート280と、MEGAプレート280を積層方向に沿って挟んで配置される一対のセパレータである第1セパレータ10および第2セパレータ20を備える。以下、第1セパレータ10および第2セパレータ20を特に区別しないときは、単に「セパレータ10,20」ともいう。
【0012】
MEGAプレート280は、MEGA(膜電極ガス拡散接合体:Membrane Electrode and Gas Diffusion Layer Assembly)200と、支持フレーム250と、を備える。MEGA200は、固体高分子電解質膜と、アノード側触媒電極層と、カソード側触媒電極層と、アノード側ガス拡散層と、カソード側ガス拡散層とを積層方向SDに積層した構成を有する。支持フレーム250の中央部には、厚さ方向(Y軸方向)に貫通孔が設けられており、かかる貫通孔にMEGA200が配置されている。なお、支持フレーム250は、熱可塑性接着シートで構成されており、MEGAプレート280は、「熱可塑接着シート部材」に相当する。
【0013】
A2.セパレータの構成:
次に、セパレータ10,20の構成について説明する。セパレータ10,20は、略矩形形状の薄板部材であり、積層方向SDの両面には凹凸形状が形成されている。この凹凸形状により、反応ガス(燃料ガスあるいは酸化剤ガス)が流れるセル内ガス流路が形成される。
図2は、第1実施形態におけるセパレータの製造方法により製造された第1セパレータ10を示す平面図である。
図2では、第1セパレータ10の両面のうち、MEGAプレート280と対面する面を表している。第2セパレータ20の形状と第1セパレータ10の形状とは、面対称の関係にある。そこで、第1セパレータ10について代表して説明する。
【0014】
図2に示すように、第1セパレータ10は、発電反応部11、第1マニホールド部12、第2マニホールド部13、入口バッファ部14、および出口バッファ部15を有している。発電反応部11は、X方向の略中央位置であって、第1マニホールド部12と第2マニホールド部13との間に位置している。発電反応部11は、X方向に直線状に延びる複数の流路溝21を有する。
【0015】
第1マニホールド部12は、-X方向の端縁部に位置している。第1マニホールド部12は、酸化剤ガス入口孔22、冷媒入口孔23、および燃料ガス出口孔24を有している。これらの各孔22,23,24は、セパレータ10をY方向に貫通しており、-Z方向へ順に形成されている。
【0016】
第2マニホールド部13は、+X方向の端縁部に位置している。第2マニホールド部13は、燃料ガス入口孔25、冷媒出口孔26、および酸化剤ガス出口孔27を有している。これらの各孔25,26,27は、セパレータ10をY方向に貫通しており、-Z方向へ順に形成されている。複数の単セル300が積層されて燃料電池500が組み立てられたときに、各孔22~27が積層方向SDに重なることにより、上述の6つのマニホールド2~7が形成される。
【0017】
入口バッファ部14は、複数個のエンボス部28を有しており、第1マニホールド部12と発電反応部11との間に設けられている。出口バッファ部15は、複数個のエンボス部29を有しており、第2マニホールド部13と発電反応部11との間に設けられている。
【0018】
第1セパレータ10の流路溝21は、酸化剤ガス入口孔22から酸化剤ガス出口孔27への酸化剤ガスが流れる流路として機能する。第1セパレータ10の裏面には、図示しない流路溝が同様に形成されており、かかる流路溝は、冷媒入口孔23から冷媒出口孔26へ冷媒が流動する冷媒流路として機能する。第2セパレータ20には、第1セパレータ10と同様に、表裏両面に流路溝が形成されており、一方の流路溝は、流路溝21と同様に冷媒流路として機能する。他方の流路溝は、燃料ガス入口孔25から燃料ガス出口孔24へ、燃料ガスを流動させる燃料ガス流路として機能する。
【0019】
A3.セパレータの製造方法:
次に、上記セパレータ10,20の製造方法について説明する。
図3は、第1実施形態における燃料電池用セパレータ10,20の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、燃料電池用セパレータ10,20の製造方法では、まず、ステップS101(以下。ステップを「S」と略す)においてプレス成形工程が実行され、次に、S102において洗浄工程が実行される。プレス成形工程(S101)では、上記説明したように、各孔22~27や流路溝21を有するセパレータ10,20の外形形状がプレス成形によって成形される。
【0020】
洗浄工程(S102)では、単セル300を構成し、重ねて互いに接合されるセパレータ10,20の接合表面、すなわち、各セパレータ10,20がMEGAプレート280と対面する側の面に洗浄用レーザ光を照射する。
図2において、洗浄工程(S102)においてレーザ洗浄する部位である洗浄部位Aを破線で示している。また、洗浄部位Aは、第1セパレータ10と第2セパレータ20とを接合する接合部位に対応しており、「接合部位」と「洗浄部位」とは略同一部位である。
【0021】
洗浄工程(S102)では、セパレータ(任意の単セル300を構成する第1セパレータ10)において、かかるセパレータと対となって共に任意の単セル300を構成する他のセパレータ(任意の単セル300を構成する第2セパレータ20)と接合されることが予定されている接合部位に対して、セパレータと他のセパレータとを接合させることなくレーザ光を照射する。
【0022】
図2に示すように、洗浄部位Aは、セパレータ10の外形端縁の近傍に沿う外周洗浄部A1と、酸化剤ガス入口孔22の周囲、冷媒入口孔23の周囲、冷媒出口孔26の周囲、酸化剤ガス出口孔27の周囲をそれぞれ囲む孔周囲洗浄部A2とを含む。
【0023】
セパレータ10,20を接合する方法として、本実施形態では、セパレータ10,20間にMEGAプレート280を挟み、接合部位に対して加熱プレスを行うことにより熱可塑接合する方法を採用する。この接合時に、セパレータ10,20の表面に付着物が付着していると、接合品質が低下する虞があるため、接合処理の前には、接合部位に付着した付着物を除去するために、洗浄用レーザ光を接合部位に照射する洗浄工程を行う。なお、熱可塑接着シート部材としての上記MEGAプレート280を用いてセパレータ10,20を接合する工程を含む、単セル300の製造方法についての詳細は後述する。
【0024】
本実施形態の洗浄工程(S102)では、洗浄部位Aに対して、洗浄用レーザ光によって形成される複数の照射痕31(
図4,
図5参照)が離間して配置される離間照射痕パターンとなるように、洗浄用レーザ光を照射する。離間照射痕パターンは、ドット状パターンDPと、列状パターンLPとの2つのパターンを有する。ドット状パターンDPと、列状パターンLPとは、照射痕31の形成態様が異なる。
【0025】
図4は、ドット状パターンDPを模式的に示す図である。
図4に示すように、ドット状パターンDPでは、円形状をなす全ての照射痕31同士が離間して等間隔に配置される。隣合う照射痕31の間には、所定の隙間32が形成される。
図5は、列状パターンLPを模式的に示す図である。
図5に示すように、列状パターンLPでは、円形状をなす隣り合う照射痕31の一部が重なって配置される照射痕群33を複数有し、複数の照射痕群33が互いに離間して列状に配置される。隣合う照射痕群33の間には、所定の隙間34が形成される。なお、
図4、
図5では、模式的に照射痕31を正円で図示しているが、実際には使用するレーザビームの仕様により、正円ではなく例えば楕円に近い形状をなす。また、照射痕31の径は、例えば100~150μm程度である。
【0026】
図6は、レーザ照射処理を施した際の熱影響範囲41について説明する図であり、黒色汚れを施した実験用セパレータ30に対し、レーザ洗浄処理を施した後の実験用セパレータ30の表面の写真が示されている。
図6において、照射痕31を細実線で囲んで示しており、レーザ照射によって熱影響が及ぶ熱影響範囲41を破線で囲んで示している。
図6に示すように、熱影響範囲41より外側の部分では黒色汚れが除去されていないが、熱影響範囲41は照射痕31よりも大きく、照射痕31の外側まで熱影響範囲41が存在しており、熱影響範囲41内であれば、汚れの除去が可能である。
【0027】
図7は、比較形態における、照射痕パターンCPの一例を示す図である。
図7に示すように、比較形態では、照射痕31が隙間なく敷き詰められた照射痕パターンCPが形成されている。このような照射痕パターンCPでなくても、本実施形態における離間照射痕パターンのように、照射痕31を所定距離離間させて照射痕31の形成間隔を空けても付着物の除去が可能である。
【0028】
上記ドット状パターンDPおよび列状パターンLPでは、照射痕31間または照射痕群33間に隙間32,34が形成されるが、この隙間32,34は、熱影響範囲41内に収まる程度に設定されており、隙間32,34についても付着物の除去が可能である。なお、照射痕31の径や間隔の数値は適宜変更可能であるが、径や間隔は、熱影響範囲41が及ぶ範囲が予め定められた閾値を満たす程度の値として、予め実験等により特定して設定されている。また、列状パターンLPは、一方向(
図5に示す上下方向)については照射痕31の一部が重なって形成されており、ドット状パターンDPと比較すると、レーザ照射される面積が大きいため、レーザ照射による洗浄能力は高くなっている。
【0029】
第1実施形態のセパレータの製造方法における洗浄工程(S102)では、孔周囲洗浄部A2のうち、冷媒出口孔26の周囲であって、-X方向側に位置し、Z方向に延びる洗浄部位(以下、「高入力部位A3(
図2参照)」という)に対して、列状パターンLPとなるように洗浄する。高入力部位A3は、
図2において、高入力領域HA内に位置する洗浄部位である。その他の接合部(
図2において、例えば接合部DAとして示す部位)に対しては、ドット状パターンDPとなるように洗浄する。
【0030】
高入力領域HAとは、セパレータ10,20が単セル300として積層され、さらに、単セル300が積層されて燃料電池500として構成される際に、単セル300の内部を流通する反応ガスの圧力に起因して生じる2枚のセパレータ10,20を剥がす力が、セパレータ10,20の接合表面上の他の部位と比較して大きく作用する部位である。よって、この高入力領域HA内に位置する洗浄部位である高入力部位A3に対しては、付着物をより確実に除去することで接合強度が高められるように、洗浄能力の高い列状パターンLPとなるようにレーザ洗浄する。
【0031】
さらに、第1実施形態では、
図5に示すように、ガス圧力が作用する方向D1と、列状パターンLPの照射痕群33の並列方向D2とが一致するように、レーザを照射する。並列方向D2は、照射痕群33が直線状に延びる方向に交差(本実施形態では直交)する方向である。ガス圧力の作用する方向D1と照射痕群33の並列方向D2とを一致させることで、ガス圧力が作用する方向D1には、照射痕31と、照射痕群33の列の隙間34と、が交互に形成される。
【0032】
なお、「ガス圧力が作用する方向D1」と「流路溝21の延びる方向」とは略同じである。ガス圧力が作用する方向D1に対して直交する方向には、隙間無く照射痕31が列状に配置されるため、ガス圧力に対する耐性を向上できる。
【0033】
なお、照射痕パターンの調整は、周知のレーザ溶接装置により実施される。レーザ溶接装置が備えるレーザ光出射部が、レーザ光を出射しながら洗浄部位Aのライン上を移動する。出射部アクチュエータは、制御部の指示に基づき、各照射痕パターンとなるようにレーザ光出射部を移動させる。
【0034】
ドット状パターンDPでは、レーザ光出射部の走査方向および送り方向において、1回の照射ごとに照射を間引きする。列状パターンLPでは、一つの照射痕群33を形成するときは、レーザ光出射部の走査方向に照射痕31が重なるようにレーザ光出射部を走査し、次の列の照射痕群33を形成するときは、レーザ光出射部の送り方向に隙間34が形成されるように照射を一旦間引いてから、次の列の照射痕群33を上記と同様にして形成する。なお、レーザの反射方向を変化させることによってレーザを二次元方向に走査することが可能なガルバノスキャナを備えるレーザ装置により、照射痕パターンの調整を行うようにしてもよい。
【0035】
A4.単セルの製造方法:
次に、単セル300の製造方法について、
図8を参照して説明する。
図8は、単セル300の製造方法における手順を示すフローチャートである。
図8に示すように、単セル300の製造方法は、実行される工程順に、セパレータ製造工程(S100)、セパレータ準備工程(S200)、接着シート部材設置工程(S300)、および熱圧着工程(S400)を備える。
【0036】
セパレータ製造工程(S100)では、上記セパレータの製造方法により、第1セパレータ10および第2セパレータ20を製造する。セパレータ準備工程(S200)では、セパレータ製造工程(S100)により製造された第1セパレータ10および第2セパレータ20を準備する。接着シール部材設置工程(S300)では、第1セパレータ10と第2セパレータ20との間に、MEGAプレート280(熱可塑接着シート部材)を挟んで設置する。熱圧着工程(S400)では、MEGAプレート280(熱可塑接着シート部材)を挟んで積層されたセパレータ10,20を熱圧着により接合する。以上により、単セル300が製造される。
【0037】
(1)上記第1実施形態のセパレータ10,20の製造方法では、洗浄工程(S102)において、洗浄部位Aに対して、照射痕31が離間して配置される離間照射痕パターンとなるように、洗浄用レーザ光を照射する。このため、複数の照射痕31を離間させずに敷き詰めた照射痕パターンCP(
図7参照)で照射する場合と比較して、レーザ光が照射されて熱影響を受ける領域を減らすことができる。
【0038】
すなわち、セパレータ10,20へのレーザ照射による入熱量を減少させることができ、洗浄用レーザ光の照射に起因するセパレータ10,20の反りを抑制できる。セパレータ10,20に反りが発生すると、セパレータ10,20の搬送工程において、治具と干渉するなどの搬送不良や、接合不良などが生じる虞があったが、こうした問題を回避できる。
【0039】
(2)上記第1実施形態のセパレータ10,20の製造方法では、燃料電池用単セル300として構成された際に、セパレータ10,20同士の接合を剥がす力が大きく作用する高入力部位A3に対しては、ドット状パターンDPよりも洗浄力の高い列状パターンLPとなるように洗浄レーザを照射する。このため、高入力部位A3における付着物をより確実に除去することができ、その後の接合工程での接合強度を高めることができる。
【0040】
(3)そして、上記第1実施形態のセパレータ10,20の製造方法では、比較的強度が低くてもよい外周洗浄部A1については、ドット状パターンDPとなるように洗浄レーザを照射する。すなわち、洗浄能力(ひいては接合強度)の異なる複数の離間照射痕パターンを、複数の洗浄部位に対してそれぞれ要求される強度に応じて適宜使い分けることで、必要な部位での接合強度を維持しつつ、セパレータ10,20の反りを好適に低減することができる。
【0041】
(4)さらに、高入力部位A3に対して、ガス圧力が作用する方向D1と、列状パターンLPの照射痕群33の並列方向D2とが一致するように、レーザを照射する。このため、照射痕31が形成される部位よりも接合強度が低い列間の隙間34は、ガス圧力が作用する方向D1において連続しないため、ガス圧力が作用する方向D1と列状パターンLPの照射痕群33の並列方向D2とが例えば直交する場合と比較して、ガス圧力の入力に対して接合強度を高めることができる。
【0042】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、ドット状パターンDPにおける照射痕31は等間隔で配置されるものとしたが、熱影響範囲41が所望に達成できれば等間隔でなくてもよい。また、列状パターンLPにおける照射痕群33の間隔も同様に等間隔でなくてもよい。
【0043】
(B2)上記第1実施形態では、洗浄部位Aは、外周洗浄部A1と、孔周囲洗浄部A2とを含むものとしたが、この形態に限らず、洗浄部位A(接合部位)は、セパレータ10,20の製品仕様に応じて適宜変更可能である。
【0044】
(B3)上記第1実施形態では、離間照射痕パターンは、ドット状パターンDPと列状パターンLPとを有するものとしたが、いずれか1種類でも良いし、複数の照射痕31が離間して配置されるその他のパターンでもよい。
【0045】
(B4)上記第1実施形態では、全ての洗浄部位Aに対して、離間照射痕パターンとなるようにレーザを照射するものとしたが、少なくとも一部の洗浄部位Aに対して、離間照射痕パターンを採用してもよい。例えば、強度が要求される高入力部位A3に対しては、比較形態として
図7に示した照射痕31が敷き詰められる照射痕パターンCPとなるように照射し、その他の洗浄部位A1,A2に対しては離間照射痕パターンとなるように照射してもよい。さらに、ドット状パターンDPと列状パターンLPとの洗浄部位に対する使い分けについても、適宜変更可能である。例えば、高入力部位A3を含む全ての孔周囲洗浄部A2に対しては列状パターンLPとなるように照射し、外周洗浄部A1に対してはドット状パターンDPとなるように照射してもよい。
【0046】
(B5)上記第1実施形態のセパレータの製造方法では、一つの単セル300を構成するセパレータ10,20において、熱可塑接着シート部材としてのMEGAプレート280を用いて熱可塑接合される接合面、すなわち単セル300の内面側を接合する際の前処理として洗浄工程(S102)を実施する製造方法を説明した。これに代えて、例えば、単セル300の外面側を溶接により接合する際の前処理として、洗浄工程を実施する製造方法としてもよい。
【0047】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
2…酸化剤ガス供給マニホールド、3…冷却媒体供給マニホールド、4…燃料ガス排出マニホールド、5…燃料ガス供給マニホールド、6…冷却媒体排出マニホールド、10…第1セパレータ、11…発電反応部、12…第1マニホールド部、13…第2マニホールド部、14…入口バッファ部、15…出口バッファ部、20…第2セパレータ、21…流路溝、22…酸化剤ガス入口孔、23…冷媒入口孔、24…燃料ガス出口孔、25…燃料ガス入口孔、26…冷媒出口孔、27…酸化剤ガス出口孔、28,29…エンボス部、31…照射痕、32,34…隙間、33…照射痕群、41…熱影響範囲、200…MEGA、250…支持フレーム、280…MEGAプレート(熱可塑接着シート部材)、300…燃料電池用単セル、500…燃料電池、A…洗浄部位(接合部位)、A1…外周洗浄部、A2…孔周囲洗浄部、A3…高入力部位、DP…ドット状パターン、HA…高入力領域、LP…列状パターン