(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240910BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240910BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2021201517
(22)【出願日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立石 満
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 元
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-147005(JP,A)
【文献】特開2012-094364(JP,A)
【文献】特開2014-082084(JP,A)
【文献】特開2013-246992(JP,A)
【文献】特開2005-243537(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121563(WO,A1)
【文献】特開2023-39751(JP,A)
【文献】特開2015-15084(JP,A)
【文献】特開2014-229563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)正極活物質を含む正極を準備すること、
(b)負極活物質を含む負極を準備すること、
(c)前記正極と前記負極と電解液と特定金属とを含むリチウムイオン電池を組み立てること、
(d)前記リチウムイオン電池に第1充電を施すこと、および
(e)前記第1充電の後、前記リチウムイオン電池に第2充電を施すこと
を含み、
前記負極活物質の内部に空隙が形成されており、
前記特定金属は、溶解電位と析出電位とを有し、
前記溶解電位は、前記正極活物質がリチウムイオンを放出する電位より低く、
前記析出電位は、前記負極活物質がリチウムイオンを吸蔵する電位より高く、
前記(c)において、前記特定金属は、前記正極と電気的に接触するように配置され、
前記第1充電は、正極電位が前記溶解電位より高く、かつ負極電位が前記析出電位より高くなる電池電圧において、前記リチウムイオン電池に定電圧充電を施すことを含み、
前記第2充電において、前記負極電位が前記析出電位以下になる、
リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-246992号公報(特許文献1)は、負極活物質が、その表面にMo、W、Al、Zr、Mg、TiおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池(以下「電池」と略記され得る。)において、負極活物質と電解液との界面に被膜が形成されることが知られている。当該被膜は、SEI(Solid Electrolyte Interface)と称されている。SEIが厚く成長すると、電池抵抗が増大する。
【0005】
SEIの成長を阻害するため、負極活物質の外部表面に金属を付着させることが提案されている。SEIの成長が阻害されることにより、電池抵抗の低減が期待される。ただし、未だ改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、電池抵抗の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
1.リチウムイオン電池は、正極と負極と電解液とを含む。正極は正極活物質を含む。負極は、負極活物質と特定金属とを含む。負極活物質の内部に空隙が形成されている。特定金属は、負極活物質の外部表面および内部表面に付着している。特定金属は、溶解電位と析出電位とを有する。溶解電位は、正極活物質がリチウム(Li)イオンを放出する電位より低い。析出電位は、負極活物質がLiイオンを吸蔵する電位より高い。
【0009】
「特定金属」は、特定の溶解電位と析出電位とを有する。溶解電位は、正極活物質がLiイオンを放出する電位より低い。析出電位は、負極活物質がLiイオンを吸蔵する電位より高い。
【0010】
従来、特定金属が電池内に混入することは避けられている。特定金属が正極で溶解し、負極に析出することにより、例えば、微小短絡の原因になり得るためである。本開示の新知見によると、特定金属はSEIの成長を阻害し得るという利点を持つ。特定金属が負極活物質の外部表面に付着していることにより、電池抵抗の低減が期待される。
【0011】
ただし負極活物質の内部に空隙が形成されている場合がある。すなわち負極活物質は、外部表面のみならず、内部表面も有し得る。内部表面は、内部の空隙に接する表面である。内部表面は外部に露出していない。SEIは、外部表面および内部表面の両方で成長し得る。特定金属が外部表面のみに付着していても、内部表面において、SEIが成長する可能性がある。
【0012】
本開示においては、外部表面および内部表面の両方に特定金属が付着している。そのため、外部表面および内部表面の両方において、SEIの成長が阻害され得る。内部表面においてもSEIの成長が阻害されることにより、電池抵抗の更なる低減が期待される。
【0013】
2.特定金属は、例えば、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ウラン(U)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、水銀(Hg)、および銀(Ag)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0014】
3.特定金属は、例えば、Fe、CrおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0015】
4.負極活物質の質量に対する、特定金属の質量の比は、0.192~0.384であってもよい。
【0016】
以下「負極活物質の質量に対する、特定金属の質量の比」が、「質量比」と略記され得る。質量比が0.192以上であることにより、抵抗低減効果が増大することが期待される。質量比が0.384以下であることにより、微小短絡の発生率が低減され得る。
【0017】
5.リチウムイオン電池の製造方法は、下記(a)~(e)を含む。
(a)正極活物質を含む正極を準備する。
(b)負極活物質を含む負極を準備する。
(c)正極と負極と電解液と特定金属とを含むリチウムイオン電池を組み立てる。
(d)リチウムイオン電池に第1充電を施す。
(e)第1充電の後、リチウムイオン電池に第2充電を施す。
負極活物質の内部に空隙が形成されている。
特定金属は、溶解電位と析出電位とを有する。溶解電位は、正極活物質がLiイオンを放出する電位より低い。析出電位は、負極活物質がLiイオンを吸蔵する電位より高い。上記(c)において、特定金属は、正極と電気的に接触するように配置される。
第1充電は、正極電位が溶解電位より高く、かつ負極電位が析出電位より高くなる電池電圧において、リチウムイオン電池に定電圧充電を施すことを含む。第2充電において、負極電位が析出電位以下になる。
【0018】
上記「1」の電池は、例えば上記「5」の製造方法により、製造され得る。第1充電においては、特定金属が正極側で酸化溶解することにより、特定金属イオンが発生し得る。特定金属イオンは、負極側に拡散する。第1充電においては、負極電位が特定金属の析出電位より高いため、特定金属は析出し難い。そのため特定金属イオンは、負極活物質の空隙に拡散し得る。特定金属イオンが負極活物質の空隙に拡散した後、負極電位が析出電位以下になるように、第2充電が実施される。これにより、負極活物質の外部表面および内部表面の両方に特定金属が析出し得る。
【0019】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法の概略フローチャートである。
【
図4】
図4は、第1充電の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、No.2、3の負極の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<用語の定義等>
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0022】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0023】
本明細書において、例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0024】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0025】
本明細書において、化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0026】
本明細書において、各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0027】
本明細書の「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。
【0028】
本明細書の「空隙率」は、負極活物質の断面画像において測定され得る。断面画像は、SEM(Scanning Electron Microscope)により取得され得る。断面画像が二値化されることにより、実体部分と空隙部分とが区別される。断面画像において、実体部分の面積と、空隙部分の面積とが測定される。下記式(I)により、空隙率が求まる。
【0029】
φ=S2÷(S1+S2)×100 …(I)
φは、空隙率(%)を示す。
S1は、実体部分の面積を示す。
S2は、空隙部分の面積を示す。
【0030】
本明細書において、「外部表面」は、物体の外面を示す。「内部表面」は、物体の内部の空隙に接触する面を示す。
【0031】
本明細書において「電気的に接触すること」は、2つの物体が直接または間接に接触することにより、2つの物体が等電位を有することを示す。
【0032】
本明細書においては、電流の時間率の大きさが記号「C」により表される場合がある。1Cの電流は、電池の定格容量を1時間で放電する。
【0033】
本明細書において「SOC(State Of Charge)」は、満充電容量に対する、その時点の充電容量の百分率を示す。
【0034】
本明細書において「周囲温度」は、対象物の周辺の雰囲気温度を示す。例えば、恒温槽内に電池(対象物)が配置されている時、恒温槽の設定温度が周囲温度とみなされ得る。
【0035】
<リチウムイオン電池>
図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の概略図である。以下「本実施形態におけるリチウムイオン電池」が「本電池」と略記され得る。本電池100はケース90を含む。ケース90は、例えば、金属製であってもよい。ケース90は、任意の形態を有し得る。ケース90は、例えば角形(扁平直方体状)であってもよいし、円筒形であってもよい。ケース90は、例えばAlラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。ケース90に、正極端子91と負極端子92とが設けられていてもよい。
【0036】
ケース90は、電極体50および電解液を収納している。電解液は電極体50に含浸されている。電解液の一部がケース90の底部に貯留されていてもよい。電極体50は、正極端子91および負極端子92と接続されている。
【0037】
図2は、電極体の概略図である。電極体50は、正極10とセパレータ30と負極20とを含む。電極体50は任意の構造を有し得る。電極体50は、例えば巻回型であってもよい。電極体50は、例えば積層体40を含んでいてもよい。積層体40は、正極10とセパレータ30(1枚目)と負極20とセパレータ30(2枚目)とがこの順に積層されることにより、形成されている。積層体40が渦巻き状に巻回されることにより、電極体50が形成される。巻回後、電極体50が扁平状に成形されてもよい。
【0038】
《正極》
正極10は、例えば帯状のシートであってもよい。正極10は、正極集電体と正極活物質層とを含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極活物質層は、正極集電体の表面に配置されていてもよい。正極活物質層は、正極集電体の片面のみに配置されていてもよいし、表裏両面に配置されていてもよい。正極活物質層は正極活物質を含む。正極活物質層は、例えば導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0039】
正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。正極活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。
【0040】
正極活物質は、放出電位において、Liイオンを放出し得る。放出電位は、反応電位とも称される。放出電位は、例えば、3.0V vs.Li/Li+以上あってもよいし、3.2V vs.Li/Li+以上あってもよいし、3.4V vs.Li/Li+以上あってもよい。放出電位は、例えば、3.5~4.5V vs.Li/Li+であってもよい。なお「V vs.Li/Li+」は、Liの酸化還元電位を基準(ゼロ)とする電位を示す。
【0041】
正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2等を含んでいてもよい。
【0042】
導電材は、例えば、カーボンブラック等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。
【0043】
《負極》
負極20は、例えば帯状のシートであってもよい。負極20は、負極集電体と負極活物質層とを含んでいてもよい。負極集電体は、例えば、Cu箔等を含んでいてもよい。負極活物質層は、負極集電体の表面に配置されていてもよい。負極活物質層は、負極集電体の片面のみに配置されていてもよいし、表裏両面に配置されていてもよい。負極活物質層は負極活物質と特定金属とを含む。負極活物質層は、例えば導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0044】
負極活物質は、例えば粒子状であってもよい。負極活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。
【0045】
負極活物質は、吸蔵電位において、Liイオンを吸蔵する。吸蔵電位は、反応電位とも称される。吸蔵電位は、例えば、2.0V vs.Li/Li+以下であってもよいし、1.0V vs.Li/Li+以下であってもよいし、0.5V vs.Li/Li+以下であってもよい。吸蔵電位は、例えば、0~0.3V vs.Li/Li+であってもよい。
【0046】
負極活物質は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、珪素(Si)、酸化珪素、珪素基合金、Sn、酸化錫、錫基合金、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0047】
負極活物質の内部には空隙が形成されている。負極活物質は、例えば中空粒子であってもよい。負極活物質は、例えば二次粒子であってもよい。二次粒子は、複数個の一次粒子を含む。一次粒子同士の間に空隙が形成され得る。負極活物質は、例えば、球形化黒鉛を含んでいてもよい。球形化黒鉛は二次粒子である。球形化黒鉛は、複数個の鱗片(一次粒子)を含む。鱗片同士の間に空隙が形成され得る。負極活物質は、例えば、5~70%の空隙率を有していてもよいし、10~50%の空隙率を有していてもよい。
【0048】
特定金属は、負極活物質の外部表面および内部表面に付着している。特定金属は、SEIの成長を阻害し得る。特定金属は、溶解電位と析出電位とを有する。特定金属は、溶解電位において、電解液に溶解し得る。電解液に溶解した特定金属は、析出電位において、析出し得る。溶解電位は、正極活物質の放出電位(反応電位)より低い。析出電位は、負極活物質の吸蔵電位(反応電位)より高い。
【0049】
特定金属の溶解電位と、正極活物質の放出電位との差は、例えば0.01V以上であってもよいし、0.1V以上であってもよい。溶解電位と、正極活物質の放出電位との差は、例えば0.3V以下であってもよい。
【0050】
特定金属の析出電位と、負極活物質の吸蔵電位との差は、例えば0.01V以上であってもよいし、0.1V以上であってもよい。特定金属の析出電位と、負極活物質の吸蔵電位との差は、例えば0.3V以下であってもよい。
【0051】
特定金属は、負極活物質の内部に深く浸透していてもよい。例えば、負極活物質の断面画像において、負極活物質(粒子)の最大径(d)が測定される。最大径をなす線分上において、粒子の表面から、粒子の中心に向かって、1/5d以上離れた内部表面に、特定金属が付着していてもよい。最大径をなす線分上において、粒子の表面から、粒子の中心に向かって、2/5d以上離れた内部表面に、特定金属が付着していてもよい。
【0052】
特定金属は、内部表面の10~100%を被覆していてもよいし、内部表面の30~100%を被覆していてもよいし、内部表面の50~100%を被覆していてもよいし、内部表面の70~100%を被覆していてもよい。内部表面の被覆率は、次の手順で測定され得る。負極活物質の断面画像において、空隙の輪郭線の長さの合計が測定される。同断面画像において、内部表面に付着した特定金属(曲線)の長さの合計が測定される。下記式(II)により、内部表面の被覆率が求まる。
【0053】
θ=σ2÷σ1×100 …(II)
θは、内部表面の被覆率(%)を示す。
σ1は、空隙の輪郭線の長さの合計を示す。
σ2は、特定金属の長さの合計を示す。なお、特定金属の長さは、特定金属が空隙と接する長さを示す。
【0054】
特定金属は、例えば化合物を形成していてもよい。特定金属は、例えば固溶体を形成していてもよい。特定金属は、例えば金属間化合物を形成していてもよい。特定金属は、例えば酸化物を形成していてもよい。特定金属は、例えば合金であってもよい。特定金属は、例えば単体であってもよい。特定金属が単体、合金、金属間化合物であることにより、抵抗低減効果が増大することが期待される。
【0055】
特定金属は、例えば、K、Rb、Ba、Sr、Ca、Na、Mg、Al、U、Ti、Zr、Mn、Zn、Cr、Fe、Cd、Co、Ni、Sn、Pb、Cu、Hg、およびAgからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0056】
特定金属は、例えば、Fe、CrおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。Fe、CrおよびNiは、SUS304の構成元素である。SUS304は、電池の製造装置に多用されている。従来、例えば、製造装置の摩耗により、SUS304の小片等が電池に混入すると、微小短絡の原因になると考えられている。そのため通常、SUS304ならびにFe、CrおよびNiの小片等が電池内に混入しないように、電池が製造されている。本開示の新知見によると、Fe、Cr、Niは、SEIの成長を阻害し得るという利点を持つ。SUS304の溶解電位は、3.5V vs.Li/Li+であり得る。SUS304の析出電位は、1.9V vs.Li/Li+であり得る。
【0057】
負極活物質の質量に対する、特定金属の質量の比(質量比)は、例えば、0.192~0.384であってもよい。質量比が0.192以上であることにより、抵抗低減効果が増大することが期待される。質量比が0.384以下であることにより、微小短絡の発生率が低減され得る。例えば、負極活物質層の断面SEM画像において、EDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)が実施されることにより、負極活物質の質量分率と、特定金属の質量分率とが測定され得る。特定金属の質量分率が、負極活物質の質量分率で除されることにより、質量比が求まる。
【0058】
導電材は、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。
【0059】
《セパレータ》
セパレータ30は、例えば帯状のフィルムであってもよい。セパレータ30は多孔質である。セパレータ30は電解液を透過し得る。セパレータ30は、正極10と負極20とを分離している。セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は、例えばポリオレフィン系樹脂等を含んでいてもよい。ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。セパレータ30は、例えば単層構造を有していてもよい。セパレータ30は、例えば、実質的にPE層からなっていてもよい。セパレータ30は、例えば多層構造を有していてもよい。セパレータは、例えばPP層とPE層とPP層とがこの順に積層されることにより形成されていてもよい。セパレータ30の表面に、例えば耐熱層(セラミック粒子層)等が形成されていてもよい。
【0060】
《電解液》
電解液は溶媒とLi塩とを含む。溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0061】
Li塩は支持電解質である。Li塩は溶媒に溶解している。Li塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO2)2からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。Li塩は、例えば0.5~2.0mоl/Lのモル濃度を有していてもよいし、0.8~1.2mоl/Lのモル濃度を有していてもよい。
【0062】
電解液は、溶媒およびLi塩に加えて、任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、電解液は、質量分率で0.01~5%の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、およびビニルエチレンカーボネート(VEC)等からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0063】
<リチウムイオン電池の製造方法>
図3は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)正極の準備」、「(b)負極の準備」、「(c)組立」、「(d)第1充電」、および「(e)第2充電」を含む。本製造方法は、例えば「(f)エージング」等をさらに含んでいてもよい。
【0064】
《(a)正極の準備》
本製造方法は、正極活物質を含む正極10を準備することを含む。例えば、正極活物質を含むスラリーが正極集電体の表面に塗布されることにより、正極活物質層が形成されてもよい。
【0065】
本製造方法においては、特定金属が正極10と電気的に接触するように配置される。特定金属は、予め正極10に添加されてもよい。例えば、スラリーに特定金属の粉末が添加されてもよい。例えば、正極活物質層の表面に、特定金属の小片が載せ置かれてもよい。
【0066】
《(b)負極の準備》
本製造方法は、負極活物質を含む負極20を準備することを含む。例えば、負極活物質を含むスラリーが負極集電体の表面に塗布されることにより、負極活物質層が形成されてもよい。
【0067】
《(c)組立》
本製造方法は、正極10と負極20と電解液と特定金属とを含む本電池100を組み立てることを含む。例えば、正極10とセパレータ30と負極20とを含む電極体50が形成され得る。特定金属は、電極体50の組立時に正極10と接触する位置に配置されてもよい。
【0068】
電極体50がケース90に収納される。ケース90に電解液が注入される。ケース90は、例えば、この時点で密閉されてもよい。ケース90は、例えば「(d)第1充電」の後に密閉されてもよいし、「(e)第2充電」の後に密閉されてもよい。初回充電時にガスが発生し得るためである。
【0069】
《(d)第1充電》
本製造方法は、本電池100に第1充電を施すことを含む。第1充電においては、定電圧(CV)充電が施される。以下、CV充電時の電池電圧が「CV電圧」とも記される。例えば、電池電圧がCV電圧に到達するまで、CC充電が実施されてもよい。すなわち第1充電は、CCCV充電を含んでいてもよい。以下、CC充電時の電流が「CC電流」とも記される。第1充電におけるCC電流は、例えば、0.1~1Cであってもよいし、0.3~0.7Cであってもよい。
【0070】
図4は、第1充電の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は、電極電位[単位 V vs.Li/Li
+]または電池電圧[単位 V]を示す。グラフの横軸は充電時間[単位 h]を示す。仮に、特定金属の溶解電位が3.5V vs.Li/Li
+であり、特定金属の析出電位が1.9V vs.Li/Li
+であるとする。例えば、CV電圧が1.5Vに設定される。CV充電時、正極電位は、溶解電位(3.5V vs.Li/Li
+)より高い。よって、正極10と電気的に接触する特定金属は、酸化溶解すると考えられる。特定金属の酸化溶解により、特定金属イオンが発生する。特定金属イオンは、卑な電位を有する負極20に引き寄せられる。CV充電時、負極電位は、析出電位(1.9V vs.Li/Li
+)より高い。よって、負極20に到達した特定金属イオンは析出し難いと考えられる。特定金属イオンは、析出せずに、負極活物質の内部(空隙)に浸透し得ると考えられる。
【0071】
CV電圧は、例えば、1.1~1.8Vであってもよいし、1.2~1.5Vであってもよい。
【0072】
CV充電は、例えば、1~48時間にわたって実施されてもよいし、8~24時間にわたって実施されてもよい。
【0073】
第1充電時、本電池100が加温されてもよい。加温により、例えば、特定金属イオンの拡散が促進される可能性がある。第1充電時の周囲温度は、例えば40~70℃であってもよいし、55~65℃であってもよい。
【0074】
《(e)第2充電》
本製造方法は、第1充電の後、本電池100に第2充電を施すことを含む。第2充電においては、負極電位が析出電位以下になるように、本電池100が充電される。これにより、負極20において特定金属が析出する。第1充電において、特定金属イオンが負極活物質の内部に浸透しているため、負極活物質の外部表面および内部表面の両方に特定金属が析出し得る。
【0075】
第2充電時の周囲温度は、例えば、室温(25±10℃)であってもよい。第2充電は、例えば、CCCV充電を含んでいてもよい。CC電流は、例えば0.1~10Cであってもよいし、0.5~5Cであってもよい。第2充電において、本電池100は、例えば、50~100%のSOCまで充電されてもよいし、70~100%のSOCまで充電されてもよいし、80~90%のSOCまで充電されてもよい。
【0076】
《(f)エージング》
本製造方法は、第2充電後に、エージングを含んでいてもよい。例えば、本電池100が高温環境で保管されてもよい。エージング時の周囲温度は、例えば、40~70℃であってもよいし、55~65℃であってもよい。保管時間(エージング時間)は、例えば、1~48時間であってもよいし、18~24時間であってもよい。
【実施例】
【0077】
<試験電池の製造>
以下のように、No.1~3に係る試験電池が製造された。以下、例えば「No.1に係る試験電池」が「No.1」と略記され得る。
【0078】
《No.1》
「(a)正極の準備」および「(b)負極の準備」が実施された(
図3参照)。「(c)組立」においては、内部に特定金属が混入しないように、試験電池が組み立てられた。
【0079】
下記条件で、90%のSOCまで「(e)第2充電」が実施された。
周囲温度:25℃
充電モード:CCCV
CC電流:5C
カット電流:0.2C
【0080】
第2充電後、下記条件で「(f)エージング」が実施された。
周囲温度:60℃
エージング時間:22時間
【0081】
以上よりNo.1が製造された。No.1は特定金属を含まないと考えられる。No.1の製造過程では、「(d)第1充電」が実施されていない(
図3参照)。
【0082】
《No.2》
特定金属として、SUS304の小片が準備された。SUS304は、Fe、CrおよびNiを含む。
【0083】
正極の表面に特定金属の小片が配置された。特定金属の配置後、電極体が形成された。これを除いては、No.1と同様に「(c)組立」が実施された。
【0084】
試験電池の組立後、No.1と同様に「(e)第2充電」と「(f)エージング」とが実施された。以上より、No.2が製造された。No.2の製造過程では、「(d)第1充電」が実施されていない(
図3参照)。
【0085】
《No.3》
No.2と同様に、特定金属を含む試験電池が組み立てられた。
【0086】
下記条件で「(d)第1充電」が実施された。
周囲温度:60℃
充電モード:CCCV
CC電流:0.5C
CV電圧:1.5V
カット時間:24時間
【0087】
第1充電後、No.1、2と同様に「(e)第2充電」と「(f)エージング」とが実施された。以上より、No.3が製造された。
【0088】
<評価>
試験電池のSOCが10%に調整された。25℃の周囲温度において、5Cの電流により試験電池が放電された。放電開始から10秒後の電圧降下量が測定された。電流と電圧降下量とから電池抵抗(DC-IR)が求められた。
【0089】
図5は、電池抵抗を示すグラフである。グラフの縦軸は電池抵抗を示す。
図5の電池抵抗は、No.1の電池抵抗を100%とする相対値である。No.2は、No.1に比して、電池抵抗が4.3%低減していた。No.3は、No.1に比して、電池抵抗が7.8%低減していた。
【0090】
図6は、No.2、3の負極の断面SEM画像である。画像内における明るさの差異は、組成の差異を示している。黒色部は空隙を示すと考えられる。灰色部は負極活物質2(黒鉛)を示すと考えられる。白色部は特定金属3(Fe、Cr、Ni)を示すと考えられる。
【0091】
No.2においては、負極活物質2の外部表面に特定金属3が付着していた。外部表面が特定金属3で被覆されることにより、外部表面においてSEIの成長が阻害され、電池抵抗が4.3%低減したと考えられる。No.2においては、負極活物質2の内部表面に特定金属3が付着していなかった。
【0092】
No.3においては、負極活物質2の外部表面および内部表面の両方に特定金属3が付着していた。No.3においては、第1充電により、負極活物質2の内部まで特定金属イオンが浸透したためと考えられる。外部表面および内部表面の両方が特定金属3で被覆されることにより、外部表面および内部表面の両方においてSEIの成長が阻害され、電池抵抗が7.8%低減したと考えられる。
【0093】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0094】
2 負極活物質、3 特定金属、10 正極、20 負極、30 セパレータ、40 積層体、50 電極体、90 ケース、91 正極端子、92 負極端子、100 リチウムイオン電池。