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特許7552585含フッ素重合体の製造方法、水性分散液および含フッ素重合体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】含フッ素重合体の製造方法、水性分散液および含フッ素重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/04 20060101AFI20240910BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08F265/04
C08L27/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021509607
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013770
(87)【国際公開番号】W WO2020196779
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019060003
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】服部 裕紀子
(72)【発明者】
【氏名】▲樋▼口 信弥
(72)【発明者】
【氏名】安齋 潤子
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504841(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065640(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065644(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181740(WO,A1)
【文献】国際公開第1995/008582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で、下式(1-1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体の存在下に、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体を重合
前記第1の重合体が、前記式(1-1)で表される化合物1モルに対して0.1~5.0モルの水溶性重合開始剤を使用して、前記式(1-1)で表される化合物を重合させて得られた重合体である、含フッ素重合体の製造方法。
CH=C(CH)-CO-O-R21 ・・・(1-1)
ただし、R21は、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基または炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~3の鎖状アルキル基である。
【請求項2】
前記第1の重合体の存在量が、前記水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水性媒体中に存在する前記第1の重合体が、体積基準累積50%径が10~1000nmの粒子からなる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
下式(1-1)で表される化合物を水性媒体中で重合して第1の重合体が存在する水性媒体を得、次いで、第1の重合体が存在する前記水性媒体中で、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体を重合して含フッ素重合体を製造する、含フッ素重合体の製造方法。
CH=C(CH)-CO-O-R21 ・・・(1-1)
ただし、R21は、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基または炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~3の鎖状アルキル基である。
【請求項5】
前記第1の重合体が存在する水性媒体が、前記第1の重合体の製造に使用されて第1の重合体が存在するに至った水性媒体である、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(1-1)で表される化合物を、式(1-1)で表される化合物1モルに対して0.1~5.0モルの水溶性重合開始剤を使用して重合させる、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項7】
前記含フッ素単量体の重合における前記第1の重合体の存在量が、前記水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部である、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
水性媒体と、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体に基づく単位を有する含フッ素重合体を含む、体積基準累積50%径が20~3000nmである粒子と、下式(1-1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体であって、前記水性媒体中に粒子として含まれるかまたは前記含フッ素重合体を含む粒子中に含まれる、第1の重合体と、を含み、乳化剤を含まない、含フッ素重合体水性分散液。
CH=C(CH)-CO-O-R21 ・・・(1-1)
ただし、R21は、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基または炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~3の鎖状アルキル基である。
【請求項9】
前記含フッ素重合体を含む粒子を、水性媒体100質量部に対して1.0~50.0質量部含む、請求項に記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項10】
前記第1の重合体の粒子を、水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部含む、請求項またはに記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項11】
前記第1の重合体の粒子を、前記含フッ素重合体を含む粒子100質量部に対して0.001~5.00質量部含む、請求項10のいずれか1項に記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項12】
前記第1の重合体の粒子が、体積基準累積50%径が10~1000nmの粒子である、請求項11のいずれか1項に記載の含フッ素重合体水性分散液。
【請求項13】
下式(1-1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体と、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体とを含み、乳化剤を含まず、赤外吸収スペクトルの1500~1800cm-1に下式(1-1)で表される化合物に基づく単位に由来するピークを有
前記含フッ素重合体100質量部に対する前記第1の重合体の含有量が、0.001~2.108質量部である、重合体組成物。
CH=C(CH)-CO-O-R21 ・・・(1-1)
ただし、R21は、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基または炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~3の鎖状アルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体の製造方法、水性分散液および含フッ素重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体等の含フッ素重合体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性等に優れているため種々の産業分野で用いられている。
含フッ素重合体の製造方法として、含フッ素乳化剤を使用し、水性媒体中で含フッ素モノマーを乳化重合する方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2007/046377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は水性媒体を使用するため環境負荷は小さいが、必須成分である乳化剤が重合により得られた水性分散液に大量に残存する場合、用途によっては乳化剤の除去が必要になる。
【0005】
本発明は、環境負荷の小さい水性媒体を用いつつも、乳化剤を必須としない含フッ素重合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
[1]水性媒体中で、下式(1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体の存在下に、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体を重合する、含フッ素重合体の製造方法。
CXY=CR-L-R ・・・(1)
ただし、XおよびYは相互に独立して水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。ただし、*はRとの結合位置を表す。Rは、環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基または炭素数1~6の鎖状アルキル基を表す。ただし、Rの炭素数1~6の鎖状アルキル基の炭素-炭素結合間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、Rの環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基および炭素数1~6の鎖状アルキル基に含まれる水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
[2]前記第1の重合体の存在量が、前記水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部である、[1]に記載の製造方法。
[3]水性媒体中に存在する前記第1の重合体が、体積基準累積50%径が10~1000nmの粒子からなる、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記第1の重合体が、前記式(1)で表される化合物1モルに対して0.1~5.0モルの水溶性重合開始剤を使用して、前記式(1)で表される化合物を重合させて得られた重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0008】
[5]下式(1)で表される化合物を水性媒体中で重合して第1の重合体が存在する水性媒体を得、次いで、第1の重合体が存在する前記水性媒体中で、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体を重合して含フッ素重合体を製造する、含フッ素重合体の製造方法。
CXY=CR-L-R ・・・(1)
ただし、XおよびYは相互に独立して水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。ただし、*はRとの結合位置を表す。Rは、環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基または炭素数1~6の鎖状アルキル基を表す。ただし、Rの炭素数1~6の鎖状アルキル基の炭素-炭素結合間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、Rの環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基および炭素数1~6の鎖状アルキル基に含まれる水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
[6]前記第1の重合体が存在する水性媒体が、前記第1の重合体の製造に使用されて第1の重合体が存在するに至った水性媒体である、[5]に記載の製造方法。
[7]前記式(1)で表される化合物を、式(1)で表される化合物1モルに対して0.1~5.0モルの水溶性重合開始剤を使用して重合させる、[5]または[6]に記載の製造方法。
[8]前記含フッ素単量体の重合における前記第1の重合体の存在量が、前記水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部である、[5]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
[9]水性媒体と、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体に基づく単位を有する含フッ素重合体を含む、体積基準累積50%径が20~3000nmである粒子と、下式(1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体であって、前記水性媒体中に粒子として含まれるかまたは前記含フッ素重合体を含む粒子中に含まれる、第1の重合体と、を含む、含フッ素重合体水性分散液。
CXY=CR-L-R ・・・(1)
ただし、XおよびYは相互に独立して水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。ただし、*はRとの結合位置を表す。Rは、環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基または炭素数1~6の鎖状アルキル基を表す。ただし、Rの炭素数1~6の鎖状アルキル基の炭素-炭素結合間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、Rの環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基および炭素数1~6の鎖状アルキル基に含まれる水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
[10]前記含フッ素重合体を含む粒子を、水性媒体100質量部に対して1.0~50.0質量部含む、[9]に記載の含フッ素重合体水性分散液。
[11]前記第1の重合体の粒子を、水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部含む、[9]または[10]に記載の含フッ素重合体水性分散液。
[12]前記第1の重合体の粒子を、前記含フッ素重合体を含む粒子100質量部に対して0.001~5.00質量部含む、[9]~[11]のいずれかに記載の含フッ素重合体水性分散液。
[13]前記第1の重合体の粒子が、体積基準累積50%径が10~1000nmの粒子である、[9]~[12]のいずれかに記載の含フッ素重合体水性分散液。
【0010】
[14]下式(1)で表される化合物に基づく単位を含む第1の重合体と、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体とを含み、赤外吸収スペクトルの1500~1800cm-1に下式(1)で表される化合物に基づく単位に由来するピークを有する、重合体組成物。
CXY=CR-L-R ・・・(1)
ただし、XおよびYは相互に独立して水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。ただし、*はRとの結合位置を表す。Rは、環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基または炭素数1~6の鎖状アルキル基を表す。ただし、Rの炭素数1~6の鎖状アルキル基の炭素-炭素結合間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、Rの環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基および炭素数1~6の鎖状アルキル基に含まれる水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
[15]前記含フッ素重合体100質量部に対する前記第1の重合体の含有量が、0.001~5.00質量部である、[14]に記載の重合体組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境負荷の小さい水性媒体を用いつつも、乳化剤を必須としない含フッ素重合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、単量体1分子に由来する原子団の総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(質量%)は、重合体を固体核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められるが、各単量体の仕込み量から推算できる。通常、各単量体の仕込み量から計算される各単位の含有量は、実際の各単位の含有量と略一致している。
「体積基準累積50%径」は、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。以下、「D50」とも記す。
「赤外吸収スペクトルのピーク」は、含フッ素重合体を含む組成物をプレス成型して得た厚さ100μmのフィルムを、赤外分光光度計(ThemoFisher SCIENTIFIC社製)により測定した。
【0013】
本発明の含フッ素重合体の製造方法は、下式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」とも記す。)に基づく単位を含む第1の重合体(以下、「特定重合体」とも記す。)の存在下に、水性媒体中で、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体(以下、「特定含フッ素単量体」とも記す。)を重合する方法である。
本発明の含フッ素重合体の製造方法は、別途重合して得た特定重合体を用いてもよく、水性媒体中で特定重合体を重合し、引き続き同じ重合系で特定含フッ素単量体を重合してもよい。引き続き同じ重合系で重合するとは、特定重合体の製造に使用されて特定重合体が存在するに至った水性媒体を用い、かかる特定重合体が存在する水性媒体中で特定含フッ素単量体を重合することを意味する。別途重合して得た特定重合体としては市販品を用いてもよい。
本発明の含フッ素重合体の製造方法としては、化合物(1)を水性媒体中で重合して特定重合体が存在する水性媒体を得、次いで、特定重合体が存在する前記水性媒体中で特定含フッ素単量体を重合して含フッ素重合体を製造する方法が好ましい。この2段階の製造方法において、前段の特定重合体が存在する水性媒体を得る段階を以下「工程1」といい、後段の含フッ素重合体を製造する段階を以下「工程2」という。
工程1における化合物(1)の重合および工程2における特定含フッ素単量体の重合は、それぞれ、重合開始剤の存在下に行われることが好ましい。重合開始剤としては、水溶性重合開始剤が好ましい。
【0014】
<工程1>
工程1において、化合物(1)は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
CXY=CR-L-R ・・・(1)
ただし、XおよびYは相互に独立して水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。Lは、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。ただし、*はRとの結合位置を表す。Rは、環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基または炭素数1~6の鎖状アルキル基を表す。ただし、Rの炭素数1~6の鎖状アルキル基の炭素-炭素結合間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、Rの環状アルキル基、一価の芳香族炭化水素基および炭素数1~6の鎖状アルキル基に含まれる水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
の環状アルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。一価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。炭素数1~6の鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基が挙げられる。
【0015】
特定重合体を得やすいことから、式(1)における各基は、以下に示すものが好ましい。
XおよびYは、相互に独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子であるのが好ましく、いずれも水素原子であるのがより好ましい。
としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
Lとしては、-CO-O-*および-O-CO-*が好ましく、-CO-O-*が特に好ましい。
としては、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基、および、炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~5の鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~4の鎖状アルキル基および炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基が特に好ましい。
【0016】
式(1)で表される化合物としては、式(1-1)で表される化合物が好ましい。
CH=C(CH)-CO-O-R21 ・・・(1-1)
ただし、R21は、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1~4の鎖状アルキル基、炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基または炭素-炭素結合間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~3の鎖状アルキル基である。
21としては、炭素数1~4の鎖状アルキル基および炭素数1~4の鎖状フルオロアルキル基が好ましい。
【0017】
(水性媒体)
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合物の場合、水溶性有機溶媒濃度は、10質量%以下が好ましい。水性媒体としては、水のみであることが好ましい。
【0018】
(水溶性重合開始剤)
水溶性重合開始剤としては、水溶性ラジカル開始剤および水溶性酸化還元系触媒が好ましい。
水溶性ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸過酸化物、ビスグルタル酸過酸化物、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
水溶性酸化還元系触媒としては、臭素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸水素またはその塩、チオ硫酸またはその塩、有機酸、無機塩等の還元剤と、の組み合わせが好ましい。過硫酸塩としては過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが好ましい。亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウムが好ましい。無機塩としては、硫酸アニオン、亜硫酸アニオンおよび塩化物アニオンと、金属イオンの組み合わせが挙げられる。金属イオンとしては、遷移金属が好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、セリウムおよび銀のイオンが挙げられ、中でも鉄イオンが好ましい。無機塩としては硫酸鉄(II)が好ましい。
水溶性重合開始剤としては、水溶性酸化還元系触媒が好ましく、なかでも過硫酸カリウムと亜硫酸ナトリウムの組み合わせ、過硫酸カリウムと亜硫酸ナトリウムと無機塩の組み合わせが好ましく、過硫酸カリウムと亜硫酸ナトリウムの組み合わせ、および、過硫酸カリウムと亜硫酸ナトリウムと硫酸鉄(II)の組み合わせがより好ましい。
なお、化合物(1)の重合が進みやすいことから、反応系のpHを3~10とすることが好ましく、6~8とすることが好ましい。調整するために、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、アンモニア、水酸化ナトリウム、塩酸等を必要に応じて添加してもよい。
水溶性重合開始剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 なお、水溶性重合開始剤の仕込み方法としては、重合反応を開始する前にその全量を反応系に仕込んでおいてもよく、連続的または断続的に反応系に添加してもよい。
【0019】
化合物(1)の使用量は、水性媒体100質量部に対して、0.0001~1.0質量部が好ましく、0.001~0.5質量部がより好ましい。この範囲であると、重合速度の低下を防ぐとともに、工程2で含フッ素重合体を製造したときに、含フッ素重合体に混在する特定重合体の量を減らすことができる。なお、化合物(1)の仕込み方法としては、重合反応を開始する前に、その全量を反応系に仕込んでおく、初期一括添加が好ましい。
【0020】
水溶性重合開始剤の使用量は、化合物(1)1モルに対して、0.1~5.0モルが好ましく、0.1~2.0モルがより好ましく、0.1~1.5モルがさらに好ましく、0.2~1.0モルが特に好ましい。
【0021】
化合物(1)の重合温度は、10~95℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。重合時間は、バッチ処理の場合5~400分が好ましく、5~300分がより好ましい。 重合時の圧力条件は、減圧条件または常圧条件が好ましい。
【0022】
上記重合により、特定重合体を含む水性分散液が得られる。特定重合体は粒子状で水性媒体中に均一分散している。水性分散液はコロイド状である。
特定重合体の粒子(以下、「特定粒子」とも記す。)は、後述する特定含フッ素単量体の重合時に、疎水部で特定含フッ素単量体を吸着し、取り込むことにより特定含フッ素単量体を可溶化し、ここに開始剤を加えることで特定含フッ素単量体は特定粒子の粒子内で重合すると推測される。また特定粒子は水性媒体中および有機溶媒中における分散安定化に寄与すると推測される。
特定粒子のD50は、10~1000nmが好ましく、10~300nmがより好ましく、10~200nmがさらに好ましく、10~150nmが特に好ましい。
【0023】
特定粒子は、化合物(1)に基づく単位を含む重合体から構成される。
重合体中における化合物(1)に基づく単位の含有量は、重合体の全単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0024】
上記重合により、D50が10~1000nmである特定粒子を、水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部含む含フッ素重合体水性分散液を得やすい。水性媒体100質量部に対して、特定粒子は0.005~0.5質量部含まれるのが好ましく、0.002~0.1質量部含まれるのがより好ましい。
【0025】
<工程2>
工程2は、前記工程1で得られた、特定重合体が存在する水性媒体中で、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の含フッ素単量体(すなわち、特定含フッ素単量体)を重合する、含フッ素重合体の製造方法である。
特定含フッ素単量体の重合は水溶性重合開始剤を用いて行われることが好ましく、水溶性重合開始剤としては、工程1で説明した水溶性重合開始剤が挙げられる。また、特定含フッ素単量体の重合は、さらに連鎖移動剤を用いて行われることも好ましい。
含フッ素重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を有するテトラフルオロエチレン系重合体、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVdF」とも記す。)、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体が挙げられる。中でも、テトラフルオロエチレン系重合体が好ましい。
【0026】
含フッ素重合体は、特定含フッ素単量体以外の単量体を共重合させてもよい。
他の単量体としては、含フッ素単量体として、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)およびフルオロアルキルエチレン(以下、「FAE」とも記す。)が挙げられる。
PAVEとしては、CF=CFOCF(以下、「PMVE」とも記す。)、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFFが挙げられ、PMVEおよびはPPVEが好ましい。
FAEとしては、CH=CH(CFF(以下、「PFEE」とも記す。)、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF(以下、「PFBE」とも記す。)、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられ、PFEEおよびPFBEが好ましい。
また、他の単量体としては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルも挙げられる。
また、他の単量体としては、酸素含有極性基を有する単量体も挙げられる。酸素含有極性基としては、水酸基、カルボニル基含有基、アセタール基およびオキシシクロアルカン基が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。酸無水物残基を有する単量体としては、環状酸無水物残基を有する単量体が好ましく、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも記す。)、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」とも記す。)および無水マレイン酸が好ましい。
【0027】
テトラフルオロエチレン系重合体としては、TFEとPAVEとの共重合体、TFEとHFPとの共重合体(以下、「FEP」とも記す。)、TFEとエチレンとの共重合体(以下、「ETFE」とも記す。)、TFEとプロピレンとの共重合体、および、TFEとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
ただし、本発明のテトラフルオロエチレン系重合体は、下記の特定高耐熱性重合体を含まない。
特定高耐熱性重合体:示差走査熱量計で、10℃/min昇温による最初の吸熱ピークが少なくとも340℃以上であり、最初の吸熱ピークを経た後の吸熱ピークが少なくとも340℃以上である重合体。
本発明のテトラフルオロエチレン系重合体は、溶融成形性または弾性を有する。
【0028】
本発明におけるテトラフルオロエチレン系重合体としては、ETFE、PFAおよびFEPが好ましく、中でも後述のETFEおよび後述のPFAが特に好ましい。
FEPとしては、TFE単位とHFP単位の合計に対するHFP単位の割合が1~15モル%であるFEPが好ましく、5~13モル%であるFEPがより好ましい。
【0029】
ETFEは、TFE単位とエチレンに基づく単位(以下、「E単位」とも記す。)を有する。TFE単位とE単位を有する共重合体において、E単位とTFE単位との合計に対するE単位の割合は、20~70モル%が好ましく、25~60モル%がより好ましく、35~55モル%が特に好ましい。
ETFEを構成する全単位に対して、E単位とTFE単位との合計の割合は80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
また、E単位とTFE単位の他に、FAE単位を有することも好ましい。E単位とTFE単位との合計に対するFAE単位の割合は、0.1~10モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましく、0.2~4モル%が特に好ましい。
また、E単位とTFE単位の他に、酸素含有極性基を有する単量体単位を有することも好ましい。E単位とTFE単位との合計に対する酸素含有極性基を有する単量体単位の割合は、0.01~5モル%が好ましく、0.05~3モル%がより好ましい。本発明の含フッ素重合体の製造方法は、水性媒体を用いた乳化重合だが、親水性の高い環状酸無水物残基を有する単量体など酸素含有極性基を有する単量体を用いても溶解し過ぎず、テトラフルオロエチレン等との共重合が容易であり、含フッ素重合体に酸素含有極性基を容易に導入できる。
【0030】
TFEとPAVEとの共重合体はTFE単位とPAVE単位を有する。TFEとPAVEとの共重合体としては、TFE単位とPAVE単位の合計に対するPAVE単位の割合が0.1モル%以上20モル%未満である共重合体(以下、「PF1」とも記す。)と、PAVE単位の割合が20~70モル%である共重合体(以下、「PF2」とも記す。)が好ましい。
【0031】
PF1において、TFE単位とPAVE単位の合計に対するPAVE単位の割合は、0.5~10モル%が好ましく、0.5~5.0モル%がより好ましい。
PF1は、TFE単位とPAVE単位のみからなる共重合体でもよく、これら以外の他の単量体に基づく単位の1種以上を含んでもよい。 他の単量体としては、他のフッ素単量体や酸素含有極性基を有する単量体が好ましい。他のフッ素単量体としてはヘキサフルオロプロピレンが好ましい。酸素含有極性基を有する単量体としてはNAHが好ましい。 他の単量体に基づく単位を含む場合、その含有割合は、TFE単位とPAVE単位との合計に対して、他のフッ素単量体は0.1~10モル%が好ましく、0.1~6モル%がより好ましい。酸素含有極性基を有する単量体は、0.01~5モル%が好ましく、0.05~3モル%がより好ましい。
PF1を構成する全単位に対して、TFE単位とPAVE単位の合計の割合は80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
なお、PF1は、以下「PFA」とも記す。
【0032】
PF2において、TFE単位とPAVE単位の合計に対するPAVE単位の割合は、20~50モル%が好ましく、25~45モル%がより好ましい。
また、TFE単位とPAVE単位の他に、フッ素原子およびニトリル基を有する単量体に基づく単位(以下、「CN単位」とも記す。)や、フッ素原子および複数のビニル基を有する単量体に基づく単位(以下、「DV単位」とも記す。)を有することも好ましい。
フッ素原子およびニトリル基を有する単量体としては、CF=CFO(CFCN、CF=CFOCFCF(CF)CFCFCNが挙げられる。
フッ素原子および複数のビニル基を有する単量体としては、CF=CFO(CFOCF=CF、CF=CFO(CFOCF=CF、CH=CH(CFCH=CHが挙げられる。
TFE単位とPAVE単位との合計に対するCN単位の割合は、0.1~10.0モル%が好ましく、0.5~5.0モル%がより好ましい。
TFE単位とPAVE単位との合計に対するDV単位の割合は、0.01~1.0モル%が好ましく、0.01~0.5モル%がより好ましい。
PF2を構成する全単位に対して、TFE単位とPAVE単位の合計の割合は80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0033】
特定含フッ素単量体および他の単量体は、常法により、反応系(つまり、重合反応容器)に投入される。例えば、TFEは、重合圧力が所定の圧力となるように、連続的または断続的に反応系に投入される。また、例えば、他の単量体は水性媒体に溶解させて、得られた溶液が連続的または断続的に反応系に投入される。
水溶性重合開始剤を用いる場合、水溶性重合開始剤は反応系に一括して添加されてもよいし、分割して添加されてもよい。
連鎖移動剤を用いる場合、連鎖移動剤としては、樹脂の末端構造を安定化させる効果がある点から、アルコール、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボンが好ましく、アルコール、ハイドロカーボンがさらに好ましい。アルコールとしては、水に溶解しやすく、製造後に共重合体と分離しやすい点から、メタノール、エタノールが好ましい。ハイドロカーボンとしては、樹脂の末端構造に導入された際に熱安定性が良く、連鎖移動性も高いn-ペンタン、シクロヘキサン、メタン、プロパンが好ましい。
【0034】
重合温度は、10~95℃が好ましく、15~90℃がより好ましい。重合圧力は、0.5~4.0MPaが好ましく、0.6~3.5MPaがより好ましい。重合時間は、バッチ処理の場合、90~1000分が好ましく、90~700分がより好ましい。
【0035】
なお、特定重合体の製造と含フッ素重合体の製造は、同一の重合反応容器内で連続的に行ってもよい。
また、本発明の製造方法においては、特定重合体の製造において特定粒子が形成されればよく、特定重合体の製造において完全に化合物(1)が消費される前に、含フッ素重合体の製造を実施してもよい。この場合には、化合物(1)に基づく単位を含む含フッ素重合体が生成することがあると考えられる。
【0036】
特定重合体の製造と含フッ素重合体の製造を連続して行う場合、工程1により得られ、工程2で存在する前記特定重合体は、水性媒体100質量部に対して、0.0001~1.0質量部が好ましく、0.001~0.5質量部がより好ましい。
【0037】
特定重合体の製造と含フッ素重合体の製造を連続して行わない場合は、工程1を省略できる。工程1の代わりに市販の特定重合体を用意し、工程2で存在する前記特定重合体を、水性媒体100質量部に対して、0.0001~1.0質量部とするのが好ましく、0.001~0.5質量部とするのがより好ましい。
なお、市販の特定重合体としては、Ardrich社のPoly(2,2,3,3,4,4,4-heptrafluorobutyl methacrylate)、等が挙げられる。
市販の特定重合体も、D50は10~1000nmが好ましく、10~300nmがより好ましく、10~200nmがさらに好ましく、10~150nmが特に好ましい。
また、市販の重合体中における化合物(1)に基づく単位の含有量は、重合体の全単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0038】
上記手順によって、特定含フッ素単量体に基づく単位を有する含フッ素重合体を含む、D50が20~3000nmである粒子と、特定粒子とを含む、含フッ素重合体水性分散液が容易に得られる。
また、前記のように、特定含フッ素単量体の重合時に特定粒子内で単量体が重合すると推測されることより、生成する含フッ素重合体粒子が特定粒子を取り込み、含フッ素重合体と特定重合体とを含む粒子が生成する場合もある。特に、特定粒子が特定含フッ素単量体と親和性が高い場合(例えば、特定粒子がフッ素原子を有する特定重合体の粒子である場合)、含フッ素重合体と特定重合体とを含む、D50が20~3000nmである粒子が生成しやすいと考えられる。
本発明の含フッ素重合体水性分散液は、上記のような、水性媒体と、含フッ素重合体を含むD50が20~3000nmである粒子と、水性媒体中に粒子として含まれるかまたは上記含フッ素重合体を含む粒子中に含まれる、特定重合体と、を含む、水性分散液である。
以下、含フッ素重合体を含む粒子とは、特に言及しない限り、特定重合体を含んでいてもよい粒子を意味する。
前記含フッ素重合体水性分散液は、前記含フッ素重合体を含む粒子を水性媒体100質量部に対して1.0~50.0質量部含むのが好ましく、3~40質量部含むのがより好ましい。
前記含フッ素重合体水性分散液は、前記特定重合体を水性媒体100質量部に対して0.0001~1.0質量部含むことが好ましい。
また、前記含フッ素重合体水性分散液において、含フッ素重合体を含む粒子100質量部に対する前記特定重合体の含有量は、0.001~5.00質量部が好ましく、0.005~3.00質量部がより好ましい。
含フッ素重合体を含む粒子の粒子径は、20~1000nmが好ましい。
【0039】
本発明の含フッ素重合体を含む粒子を有する水性分散液は、乳化剤を必須としないため、溶媒置換により例えばN-メチルピロリドン、アセトン等の有機溶媒の分散液とすることも容易である。
含フッ素重合体を含む粒子を有する水性分散液を有機溶媒と混合し、蒸発または無水硫酸ナトリウム等を用いて脱水することにより、有機溶媒の分散液とすることができる。
【0040】
本発明の含フッ素重合体を有する水性分散液は、乳化剤を含まなくても含フッ素重合体が安定して分散する。そのため、コーティング用途、バインダー等に好適に使用できる。
【0041】
本発明の重合体組成物は、前記特定重合体と、前記特定含フッ素単量体に基づく単位を含む含フッ素重合体とを含み、赤外吸収スペクトルの1500~1800cm-1に化合物(1)に基づく単位に由来するピークを有する。特に1700~1800cm-1にピークを有する組成物であることが好ましい。
上記赤外スペクトルのピークは、特定重合体に存在する化合物(1)に基づく単位に由来するピークであり、場合によっては前記のように含フッ素重合体に含まれることもある化合物(1)に基づく単位に由来するピークでもある。
本発明の重合体組成物は、前記工程2により得られた本発明の水性分散液から容易に得られる。すなわち、本発明の水性分散液から重合体を凝集させることにより、重合体組成物の粉末を得ることができる。さらに、凝集により得られた粉末状の重合体組成物を、溶融混練等により均質化して、含フッ素重合体と特定重合体とを含むペレット状、粒状等の形状の成形材料とすることができ、また、凝集により得られた粉末状の重合体組成物から溶融成形等により成形物とすることもできる。
【0042】
凝集方法としては、凍結凝集、酸凝集、塩基凝集および凝析剤を用いた凝集が挙げられるがこれに限られない。
凍結凝集の場合、凝集温度は0~5℃が好ましい。凝集時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。
酸凝集の場合、酸を含む溶液を本発明の水性分散液に添加する方法が好ましい。添加する酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、シュウ酸、フッ化水素酸等が挙げられ、中でも塩酸が好ましい。酸を含む溶液中の酸の濃度は0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
塩基凝集としては、塩基を含む溶液を本発明の水性分散液に添加する方法が好ましい。添加する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられ、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。塩基を含む溶液中の塩基の濃度は0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
凝析剤による凝集としては、公知の凝析剤が使用できる。公知の凝析剤としては、アルミニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩が挙げられる。具体的には、硫酸アルミニウム、一般式M’Al(SO12O〔式中、M’はリチウム以外の一価カチオンである。〕で表されるミョウバン、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウムが挙げられ、中でもミョウバンが好ましく、特にMがカリウムであるカリミョウバンが好ましい。
凝集方法としては、凝集が特に進みやすいことから塩基凝集が好ましい。この理由は定かではないが、塩基性条件下にすることで、前記特定重合体を加水分解し、含フッ素重合体を効率的に進ませることが可能であると考えられるためである。
【0043】
本発明の重合体組成物における含フッ素重合体の融点は、150℃以上が好ましく、150~330℃がより好ましく、180~320℃がより好ましく、220~310℃がさらに好ましく、260~300℃がなお好ましい。融点がこの範囲であると、含フッ素重合体の耐熱性が高いため好ましい。
【実施例
【0044】
以下に、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、以下の実施例において、赤外吸収スペクトルの1700~1800cm-1の範囲にピークを有する含フッ素重合体とは、その含フッ素重合体の製造に使用された特定重合体を含む含フッ素重合体、すなわち特定重合体と含フッ素重合体とを含む前記重合体組成物であること(ただし、化合物(1)に基づく単位を有する含フッ素重合体の存在を否定するものではない。)を意味する。
赤外吸収スペクトルの測定のない場合であっても、実施例で得られた含フッ素重合体は、特定重合体と含フッ素重合体とを含む前記重合体組成物であると認められる。
【0045】
各種測定方法および評価方法は下記のとおりである。
水性分散液中の重合体粒子のD50(nm):
重合体粒子の水性分散液を試料とし、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(大塚電子株式会社、ELSZ)を用いて測定した。
特定重合体の確認:
特定重合体が得られていることはH-NMR分析により確認した。
【0046】
Q(mm/s)の測定:
フローテスター(島津製作所社製)を用いてQ値(容量流速ともいう)を測定した。PFAの場合は380℃、ETFEおよびFEPの場合は297℃で、荷重7kg、30kgまたは50kgで測定した。
【0047】
重合体における各単位の割合:
重合体における各単位の割合は、19F-NMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析から求めた。
【0048】
重合体の貯蔵弾性率G’:
重合体について、ゴム加工解析装置(Alpha Technologies社製、RPA2000)を用いて、ASTM D5289およびASTM D6204にしたがい、温度:100℃、振幅:0.5度、振動数:50回/分の条件で測定した値を貯蔵弾性率G’とした。重合体の貯蔵弾性率G’は、架橋ゴム物品のゴム物性の目安となる。
【0049】
融点(℃):
融点は、示差走査熱分析器(NETZSCH社製 DSC 3500Sirius)を用いて、窒素雰囲気下に測定した融解による吸熱ピークにおける温度である。測定中の温度推移プログラムは-20℃→310℃→-70℃→310℃とし、各昇温速度は10℃/分、降温速度は5℃/分とする。-70℃まで降温した後の2度目の昇温時の融解熱による吸熱ピークにおける温度を「融点」とする。
【0050】
熱重量減少温度(5%減量点、1%減量点):
示差熱重量測定装置(TG-DTA)(NETZSCH社製 STA2500Regulus)を用いて、空気雰囲気中10℃/分で昇温させたときに重量が5%、1%減少する温度である。
【0051】
[特定重合体の水性分散液の作製]
(参考例1)
1Lのガラス製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、n-ブチルメタクリレイト(以下、「nBMA」とも記す。)(330mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、過硫酸カリウム(以下、「KPS」とも記す。)を脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)3.8mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。30分後に重合槽から混合液を抜出し、ポリnBMAの水性分散液を得た。水性分散液中のポリnBMA粒子のD50は60nmであった。
その後、減圧下で水を除去し、室温で真空乾燥した。得られたポリnBMAをアセトン‐d6に溶解させ、NMR分析を行った。
H-NMR(アセトン-d6):1.0ppm(br、3H)、1.1ppm(br、2H)、1.3ppm(br、1H)、1.9-2.4ppm(br、6H)、4.2ppm(br、2H)
【0052】
(参考例2)
nBMA(330mg)の代わりに、メタクリル酸2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル(以下、「MHFBE」とも記す。)(624mg)を用いた以外は、参考例1と同様に実験を行った。水性分散液中のポリMHFBE粒子のD50は131nmであった。
H-NMR(アセトン-d6):1.1ppm(br、2H)、1.3ppm(br、1H)、1.9-2.4ppm(br、2H)、4.8ppm(br、2H)
【0053】
(参考例3)
1Lのガラス製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、nBMA(330mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(11mg)、キレストHC(17mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)3.8mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。30分後に重合槽から反応液を抜出し、ポリnBMAの水性分散液を得た。水性分散液中のポリnBMA粒子のD50は86nmであった。
【0054】
(参考例4)
nBMA(330mg)の代わりに、i-ブチルメタクリレイト(330mg)を用いた以外は、参考例3と同様に実験を行った。水性分散液中のポリ(i-ブチルメタクリレイト)粒子のD50は58.3nmであった。
【0055】
(参考例5)
nBMA(330mg)の代わりに、メタクリル酸シクロヘキシル(390mg)を用いた以外は、参考例3と同様に実験を行った。水性分散液中のポリ(メタクリル酸シクロヘキシル)粒子のD50は94.3nmであった。
【0056】
(参考例6)
nBMA(330mg)の代わりに、メタクリル酸フェニル(377mg)を用いた以外は、参考例3と同様に実験を行った。水性分散液中のポリ(メタクリル酸フェニル)粒子のD50は41.6nmであった。
【0057】
(参考例7)
nBMA(330mg)の代わりに、メタクリル酸2-メトキシエチル(335mg)を用いた以外は、参考例3と同様に実験を行った。水性分散液中のポリ(メタクリル酸2-メトキシエチル)粒子のD50は103.7nmであった。
【0058】
(参考例8)
nBMA(330mg)の代わりに、MHFBE(624mg)を用いた以外は、参考例3と同様に実験を行った。水性分散液中のポリMHFBE粒子のD50は90.6nmであった。
【0059】
(比較例1)
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(630g)、t-ブタノール(72g)、CFCFOCFCFOCFCOONH水溶液(30質量%、12g)、NaOH水溶液(2質量%、3.5g)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で1.9MPaGまで加圧した。KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を1.9MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体の連続仕込みが50gになった時点で重合槽を室温に冷却し、重合槽内のガスを大気放出した。重合時間は210分間であった。得られた共重合体の水性分散液の固形分濃度は約7%であった。また、水性分散液中の共重合体粒子のD50は297nmだった。
水性分散液を冷却し、共重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この共重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた共重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は115mm/s、共重合体中のTFE単位/E単位のモル比は54.7/45.3であった。
【0060】
[含フッ素重合体の製造]
(実施例1)
[工程1]
2.1Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(1274g)、亜硫酸ナトリウム(152mg)、nBMA(568mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(19mg)、キレストHC(29mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)6.5mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.044質量部である。
[工程2]
次に、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で重合槽を2.6MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)19.5mlを重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を2.6MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体を5g圧入するたびに亜硫酸ナトリウム水溶液(1.8質量%、2mL)を重合槽に添加した。混合単量体の連続仕込みが140gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は377分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約9%であった。また、含フッ素重合体水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は240nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は56mm/s、含フッ素重合体中のTFE単位/E単位のモル比は54.7/45.3であった。得られた含フッ素重合体の融点は270℃であった。また、得られた含フッ素重合体において、1740cm-1に特定重合体に由来する赤外吸収スペクトルのピークを検出した。
【0061】
得られた含フッ素重合体の水性分散液(20g)にN-メチルピロリドン(以下、「NMP」とも記す。)(20g)を加え、混合液を作製した。その後、減圧下で水を除去し、無水硫酸マグネシウムを加えた。濾過することで無水硫酸マグネシウムを除去し、ETFEのNMP分散液を得た。固形分濃度は約9%であった。
【0062】
(実施例2)
[工程1]
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、MHFBE(624mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)3.8mlを重合槽内に注入し、MHFBEを重合させた。
MHFBEの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリMHFBEは、0.084質量部である。
[工程2]
次に、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で重合槽を1.9MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)11.3mlとPFBE(0.85g)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を1.9MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体の添加量が40gに達したところでPFBE(0.85g)を添加した。混合単量体の連続仕込みが60gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は690分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約8%であった。また、水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は221nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は0.35mm/s、含フッ素重合体中のTFE単位/E単位/PFBE単位のモル比は54.2/45.1/0.67であった。得られた含フッ素重合体の融点は265℃であった。得られた含フッ素重合体において、1760cm-1に特定重合体に由来する赤外吸収スペクトルのピークを検出した。
【0063】
(実施例3)
[工程1]
2.1Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(1274g)、亜硫酸ナトリウム(152mg)、nBMA(568mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(19mg)、キレストHC(29mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(3.3質量%)10mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。
nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.044質量部である。
[工程2]
30分後に、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で2.6MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(3.3質量%)40mlとPFBE(1.5g)とIAH水溶液(5質量%、2mL)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を2.6MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、混合単量体を10g仕込むごとにIAH水溶液(5質量%、2mL)を添加し、重合を進行させた。混合単量体の連続仕込みが50gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は450分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約4%であった。また、水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は135nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は13mm/s、共重合体中のTFE単位/E単位/PFBE単位/IAH単位のモル比は54.1/45.6/0.3/0.2であった。
【0064】
(実施例4)
[工程1]
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、MHFBE(624mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)3.8mlを重合槽内に注入し、MHFBEを重合させた。
MHFBEの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリMHFBEは、0.084質量部である。
[工程2]
30分後に、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で1.9MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)15.1mlとPFBE(1.1g)とメタノール(1.5g)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を1.9MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体の連続仕込みが30gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は407分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約4%であった。また、水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は141nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は130mm/s、含フッ素重合体中のTFE単位/E単位/PFBE単位のモル比は54.0/45.0/1.0であった。
【0065】
(実施例5)
[工程1]
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、減圧にし、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、nBMA(330mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(11mg)、キレストHC(17mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)3.8mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。
nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.044質量部である。
[工程2]
30分後に、TFEで1.4MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)25mlとPPVE(23.5g)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を1.4MPaGに保つようにTFEを添加し、重合を進行させた。混合単量体を3g圧入するたびに亜硫酸ナトリウム水溶液(1.2質量%、1.9mL)を重合槽に添加した。TFEの連続仕込みが30gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は197分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約4%であった。また、水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は131nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の50kg荷重におけるQ値は680mm/s、含フッ素重合体中のTFE単位/PPVE単位のモル比は98.6/1.4であった。
【0066】
(実施例6)
[工程1]
アンカー翼を備えた内容積2100mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、超純水の1000g、亜硫酸ナトリウム(119mg)、nBMA(297mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(15mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら70℃に昇温し、KPSを超純水に溶解させた溶液(5質量%)5mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。
nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.030質量部である。
[工程2]
30分後に、PMVEの82g、TFEの17gを仕込んだ(TFE:PMVE=25:75モル比)。昇温し、内温が80℃になったときの反応器内圧は1.14MPaGであった。過硫酸アンモニウムを超純水に溶解させた溶液(5質量%)の40mLを添加し、重合を開始した。その直後に、1,4-ジヨードペルフルオロブタンの0.7gを、超純水の10gとともに仕込んだ。重合の進行に伴い、反応器内圧が1.13MPaGに低下した時点でTFEを圧入し、反応器内圧を1.14MPaGに昇圧させた。これを繰り返し、TFEの8gを圧入するたびにPMVEの7gも圧入した。
TFEの総添加質量が80gとなった時点で、重合開始後に圧入する単量体(以下、「後添加単量体」と記す。)の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却させ、重合反応を停止させ、含フッ素重合体(以下、「含フッ素弾性共重合体」とも記す。)を含むラテックスを得た。重合時間は300分間であった。また、後添加単量体の総添加質量は、TFEが80g、PMVEが63gであり、これをモル比に換算すると、TFE:PMVE=65:35であった。得られた共重合体の水性分散液の固形分濃度は約13%であった。ラテックスを硫酸アルミニウムカリウムの5質量%水溶液に添加して、含フッ素弾性共重合体を凝集、分離した。含フッ素弾性共重合体を濾過し、脱塩水によって洗浄し、50℃で真空乾燥させ、白色の含フッ素弾性共重合体を得た。含フッ素弾性共重合体における各単量体のモル比は、TFE:PMVE=63.3:36.7であり、ヨウ素原子の含有量は、0.15質量%であった。また、含フッ素弾性共重合体の貯蔵弾性率G’は、112kPaであった。
【0067】
(実施例7)
nBMA(568mg)の代わりに、i-ブチルメタクリレイト(568mg)を用いた以外は、実施例6と同様に実験を行った。重合時間は375分間であった。得られた共重合体の水性分散液の固形分濃度は約13%であった。
ラテックスを硫酸アルミニウムカリウムの5質量%水溶液に添加して、含フッ素弾性共重合体を凝集、分離した。含フッ素弾性共重合体を濾過し、脱塩水によって洗浄し、50℃で真空乾燥させ、白色の含フッ素弾性共重合体を得た。含フッ素弾性共重合体における各単量体のモル比は、TFE:PMVE=64.7:35.3であり、ヨウ素原子の含有量は、0.15質量%であった。また、含フッ素弾性共重合体の貯蔵弾性率G’は、152kPaであった。
【0068】
(実施例8)
[工程1]
アンカー翼を備えた内容積2100mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、超純水の1000g、亜硫酸ナトリウム(119mg)、nBMA(297mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(15mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら70℃に昇温し、KPSの5質量%超純水溶液5mLを重合槽内に注入し、nBMA重合させた。
nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.030質量部である。
[工程2]
30分後に、8CNVE(CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN)の0.4gを、超純水の10gとともに仕込んだ。つづいて、PMVEの63g、TFEの13gを仕込んだ(TFE:PMVE=24:74モル比)。昇温し、内温が80℃になったときの反応器内圧は0.93MPaGであった。過硫酸アンモニウムの5質量%超純水溶液の40mLを添加し、重合を開始した。重合の進行に伴い、反応器内圧が0.92MPaGに低下した時点でTFEを圧入し、反応器内圧を0.93MPaGに昇圧させた。これを繰り返し、TFEの6gを圧入するたびにPMVEの7gおよび8CNVEの0.4gも圧入した。TFEの総添加質量が80gとなった時点で、後添加単量体の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却させ、重合反応を停止させ、含フッ素弾性共重合体を含むラテックスを得た。重合時間は300分間であった。また、後添加単量体の総添加質量は、TFEが80g、PMVEが50g、8CNVEが4.3gであり、これをモル比に換算すると、TFE:PMVE:8CNVE=72:27:1であった。得られた共重合体の水性分散液の固形分濃度は約14%であった。
ラテックスを硫酸アルミニウムカリウムの5質量%水溶液に添加して、含フッ素弾性共重合体を凝集、分離した。含フッ素弾性共重合体を濾過し、脱塩水によって洗浄し、50℃で真空乾燥させ、白色の含フッ素弾性共重合体を得た。含フッ素弾性共重合体における各単量体のモル比は、TFE:PMVE:8CNVE=69.1:30.3:0.6であった。また、含フッ素弾性共重合体の貯蔵弾性率G’は、359kPaであった。
【0069】
(実施例9)
1.3Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(640g)、t-ブタノール(11g)、ポリ(MHFBE)(50mg)(Aldrich社製 商品名:Poly(2,2,3,3,4,4,4-heptrafluorobutyl methacrylate))を仕込み、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温した。
次に、HFP(16g)を仕込み、TFE単量体で重合槽を1.6MPaGまで加圧し、APSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)20mlを重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を1.6MPaGに保つようにTFE単量体を添加し、重合を進行させた。TFE単量体の連続仕込みが83gになった時点で重合槽を室温に冷却した。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約7%であった。水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の7kg荷重におけるQ値は23mm/sであった。含フッ素重合体中のTFE単位/HFP単位のモル比は98.6/1.4であった。
【0070】
(実施例10)
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、ポリ(MHFBE)(30mg)、t-ブタノール (11g)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で重合槽を2.6MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)19.5mlを重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を2.6MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体の連続仕込みが30gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は110分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約4%であった。また、含フッ素重合体水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は250nmだった。水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の30kg荷重におけるQ値は5.5mm3/s、含フッ素重合体中のTFE単位/E単位のモル比は54.7/45.3であった。得られた含フッ素重合体の融点は272℃であった。得られた含フッ素重合体において、1760cm-1に特定重合体に由来する赤外吸収スペクトルのピークを検出した。
【0071】
(実施例11)
1.2Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(740g)、亜硫酸ナトリウム(88mg)、MHFBE(624mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)4mlを重合槽内に注入し、MHFBEを重合させた。
MHFBEの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリMHFBEは、0.084質量部である。
次に、TFE/E=86/14モル比の混合単量体で重合槽を2.6MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)12mlとt-ブタノール (11g)とMeOH(2.2g)を重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を2.6MPaGに保つようにTFE/E=54/46モル比の混合単量体を添加し、重合を進行させた。混合単量体の添加量が10gに達したところでPFBE(0.7g)を添加した。以降、混合単量体を14g添加する度にPFBE(0.7g)を添加した。混合単量体の連続仕込みが80gになった時点で重合槽を室温に冷却した。重合時間は458分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約9%であった。また、水性分散液中の含フッ素重合体粒子のD50は262nmだった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の7kg荷重におけるQ値は5mm3/s、含フッ素重合体中のTFE単位/E単位/PFBE単位のモル比は53.8/45.3/0.96であった。得られた含フッ素重合体の融点は262℃であった。得られた含フッ素重合体において、1760cm-1に特定重合体に由来する赤外吸収スペクトルのピークを検出した。TG-DTA測定による1%熱重量減少温度は429℃、5%熱重量減少温度は455℃であった。
【0072】
(実施例12)
[工程1]
2.1Lのステンレス鋼製の重合槽を窒素置換した後、-0.1MPaGまで減圧し、超純水(1274g)、亜硫酸ナトリウム(152mg)、nBMA(568mg)、硫酸鉄(II)・7水和物(19mg)、キレストHC(29mg)を仕込んだ。次に、重合槽内の溶液を撹拌しながら60℃に昇温し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)6.5mlを重合槽内に注入し、nBMAを重合させた。nBMAの仕込み量から、水性媒体100質量部中のポリnBMAは、0.044質量部である。
[工程2]
次に、フッ化ビニリデン(以下、「VDF」とも記す。)で重合槽を2.5MPaGまで加圧し、KPSを脱イオン水に溶解させた溶液(5質量%)19.5mlを重合槽内に注入した。重合槽内の圧力が降下し始めたら重合槽内の内圧を2.5MPaGに保つようにVDFを添加し、重合を進行させた。VDFの連続仕込みが30gになった時点で重合槽を室温に冷却し、重合槽内のガスを大気放出した。重合時間は120分間であった。得られた含フッ素重合体の水性分散液の固形分濃度は約4%であった。
水性分散液を冷却し、含フッ素重合体粒子を凝集させ、粉末を取得した。次に、この含フッ素重合体粉末を150℃で乾燥した。得られた含フッ素重合体粉末の30kg荷重におけるQ値は1mm/s、得られた含フッ素重合体の融点は172℃であった。得られた含フッ素重合体において、1740cm-1に特定重合体に由来する赤外吸収スペクトルのピークを検出した。
【0073】
各実施例の製造方法についてまとめたものを表1に、含フッ素重合体水性分散液についてまとめたものを表2に、それぞれ示す。
なお、表1において、「重合開始剤量」とは、工程1における化合物(1)1モルに対する水溶性重合開始剤の使用量(モル量)をいい、「特定重合体量」とは、工程2に用いられた水性媒体100質量部中の特定重合体の含有量(質量部)をいう。
また、表2において、「含フッ素重合体量」とは、得られた水性分散液中の水100質量部に対する含フッ素重合体の含有量(質量部)をいい、「特定重合体量A」とは、得られた水性分散液中の、水100質量部に対する特定重合体の含有量(質量部)をいい、「特定重合体量B」とは、得られた水性分散液中の、含フッ素重合体100質量部に対する特定重合体の含有量(質量部)をいう。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
なお、2019年03月27日に出願された日本特許出願2019-060003号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。