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特許7552611水性ポリマーエマルション及びその製造方法、並びに化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】水性ポリマーエマルション及びその製造方法、並びに化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240910BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240910BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240910BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20240910BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240910BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/06
A61Q1/00
C08F220/18
C08F220/06
C08F265/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021556038
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041215
(87)【国際公開番号】W WO2021095604
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019203651
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 廣之
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 明美
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-151139(JP,A)
【文献】特開平01-203313(JP,A)
【文献】特開2015-063651(JP,A)
【文献】特開2007-001969(JP,A)
【文献】特開平03-182504(JP,A)
【文献】特表2016-507623(JP,A)
【文献】特開2005-002207(JP,A)
【文献】特表2016-523909(JP,A)
【文献】特開平02-221214(JP,A)
【文献】特開2007-099684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C08F 220/00-220/70
C08F 265/00-265/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、
前記水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の5~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有し、かつ、前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
【請求項2】
前記共重合体は、前記共重合体を構成する単量体に由来する構成単位の合計を100質量%として、前記(A)単量体に由来する構成単位を70~95質量%、前記(B)単量体に由来する構成単位を3~25質量%、及び前記(C)単量体に由来する構成単位を0.1~5質量%有する、請求項1に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項3】
前記(C)単量体がメタクリル酸である、請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項4】
前記共重合体のガラス転移温度が-20~20℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項5】
前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が100ppm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを製造する方法であって、
前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物を乳化重合して得られたエマルションを、減圧が可能な容器に仕込み、前記容器内のエマルションの温度を50℃~85℃の範囲にし、前記容器内の圧力を12KPa~57KPaの範囲にし、かつ前記容器内を水が沸騰する状態に維持して、前記容器内に加圧水蒸気を供給することにより、前記エマルション中の揮発性有機化合物を除去する、水性ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを含有する、化粧料用水性ポリマーエマルション組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルションを含有する化粧料。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年11月11日に出願された日本特許出願番号2019-203651号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、特に化粧料用として有用な水性ポリマーエマルション及び該水性ポリマーエマルション組成物を含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0003】
メイクアップ化粧料、美爪料、スキンケア化粧料、毛髪化粧料などの化粧料には、環境面や衛生面を考慮し、被膜形成剤として主に水溶性高分子が利用されてきた。しかし、水溶性高分子は耐湿性と耐水性に劣るため、近年では被膜形成剤として、水性ポリマーエマルションが幅広く使用されている。
【0004】
化粧料の使用性の面からも、また日常の紫外線防止のためにも、化粧持ちの良い化粧料が望まれている。特に、高温多湿の夏季やスポーツ時には、より耐水性、耐油性(耐皮脂性)、及び化粧効果の持続性(以下「化粧持続性」ともいう)の高い化粧料が望まれている。
【0005】
しかし、一般的な水性ポリマーエマルションの被膜は、水に濡れると破れや剥がれ等の現象が起きやすく、耐水性が十分とは言えない。また、皮脂や汗、更には他の化粧料の油性成分等により、撚れたり流れたりして化粧崩れが生じやすく、耐油性においても十分とは言えない。従って、より耐水性及び耐油性に優れ、かつ化粧料用とした場合に化粧持続性に優れた水性ポリマーエマルションを開発することが求められている。
【0006】
これらの欠点を改良するものとして、重合時に乳化剤を使用しない水系無乳化剤重合樹脂エマルション(特許文献1)、シランカップリング剤を用いた水性ポリマーエマルション(特許文献2)、重合時に可塑剤又は成膜助剤を使用した水性ポリマーエマルション(特許文献3)、及びオルガノポリシロキサン粒子を配合する手法(特許文献4)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭54-49338号公報
【文献】特開2002-327019号公報
【文献】特公平8-18950号公報
【文献】特開2000-355532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の水性ポリマーエマルションは、経時安定性及び化粧料にした際の化粧持続性において十分ではなかった。特許文献2の水性ポリマーエマルションは、化粧料にした際の化粧持続性に優れるものの、経時安定性に劣る問題があった。特許文献3の水性ポリマーエマルションでは、可塑剤又は成膜助剤は皮膚に対する刺激性を有する場合があり、化粧料の用途での使用は好ましくない。特許文献4においては、オルガノポリシロキサン粒子と被膜形成性粒子はいずれも粒子状で水系に存在するため、本来の被膜形成能を十分に発揮することができず、耐水性には優れるが、耐油性に劣る場合があった。
【0009】
また、上記の水性ポリマーエマルションには、通常、未反応の単量体や重合中に発生する分解物などの揮発性有機化合物が微量含まれている。そのため、臭い等の面で改良の余地がある。
【0010】
本開示は、上記を鑑みてなされたもので、経時安定性に優れ、更に耐水性、耐油性及び低臭気性に優れた水性ポリマーエマルション、及び化粧持続性に優れた化粧料を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示によれば、以下の手段が提供される。
〔1〕 下記(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体に由来する構成単位を有する共重合体を含む水性ポリマーエマルションであって、前記水性ポリマーエマルション中の全カルボキシ基量の25~75モル%を、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物の重合により形成された粒子の内部に有し、かつ、前記水性ポリマーエマルション中の揮発性有機化合物の濃度が2000ppm以下である、水性ポリマーエマルション。
(A)単量体:炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
(B)単量体:炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体
(C)単量体:不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体
〔2〕 上記〔1〕の水性ポリマーエマルションを製造する方法であって、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体を含む単量体混合物を乳化重合して得られたエマルションを、減圧が可能な容器に仕込み、前記容器内のエマルションの温度を50℃~85℃の範囲にし、前記容器内の圧力を12KPa~57KPaの範囲にし、かつ前記容器内を水が沸騰する状態に維持して、前記容器内に加圧水蒸気を供給することにより、前記エマルション中の揮発性有機化合物を除去する、水性ポリマーエマルションの製造方法。
〔3〕上記〔1〕の水性ポリマーエマルションを含有する、化粧料用水性ポリマーエマルション組成物。
〔4〕上記〔1〕の水性ポリマーエマルションを含有する化粧料。
【発明の効果】
【0012】
本開示の水性ポリマーエマルションは、経時安定性、耐水性、耐油性、及び低臭気性に優れている。これにより、本開示の水性ポリマーエマルションは、優れた経時安定性、耐水性、耐油性、低臭気性、及び化粧持続性を化粧料に付与することができる。そのため、特にメイクアップ化粧料の被膜形成剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、分散粒子が粒子内部に特定量の不飽和カルボン酸単量体単位を有するとともに、減圧下で加圧水蒸気を吹込んだ水性ポリマーエマルションによれば、経時安定性に優れ、更に耐水性、耐油性及び低臭気性にも優れた被膜を形成できること、並びに、該水性ポリマーエマルションを化粧料として用いることで化粧崩れを抑制でき、化粧持続性に優れていることを見出した。以下、本開示を詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
本明細書において、「水性ポリマーエマルション」とは、水を主とする溶剤にポリマーを分散させてなるエマルションを意味する。以降、「水性ポリマーエマルション」を単にエマルションと記載する場合がある。「水を主とする溶剤」とは、溶剤全体に対して水を70質量%以上、好ましくは80質量%以上含む液体を意味する。
【0015】
<エマルションを構成する共重合体の組成について>
本開示のエマルションにおいて、エマルション中のポリマーは、(A)単量体、(B)単量体及び(C)単量体を含む単量体混合物を重合することにより得られる共重合体である。当該共重合体を構成する単量体成分の1種である(A)単量体は、炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体及び環状構造を有するラジカル重合性単量体よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0016】
炭素数1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、n-ブチルアクリレートが安価であり、得られるエマルションの耐水性、耐油性が良好なものとなるために好ましい。
【0017】
環状構造を有するラジカル重合性単量体としては、スチレン、ジビニルトルエン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルジベンジルクロリド、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、スチレンが安価であり、得られるエマルションの耐水性、耐油性が良好なものとなるために好ましい。
【0018】
エマルション中の共重合体を構成する単量体成分の1種である(B)単量体は、炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体である。炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、べヘニル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、2-エチルヘキシルアクリレートが安価であり、得られるエマルションの耐水性、耐油性が良好なものとなるために好ましい。
【0019】
エマルション中の共重合体を構成する単量体成分の1種である(C)単量体は、不飽和カルボン酸単量体及びその無水物よりなる群から選択される少なくとも1種である。不飽和カルボン酸単量体及びその無水物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ケイ皮酸、無水マレイン酸などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中では、アクリル酸及びメタクリル酸が安価であり、得られるエマルションの耐水性、耐油性が良好なものとなるために好ましい。メタクリル酸は、後述するように、不飽和カルボン酸の分布を制御しやすいために特に好ましい。
【0020】
本開示のエマルションは、前記(A)単量体、前記(B)単量体及び前記(C)単量体(以下、「上記(A)~(C)単量体」ともいう)を含む単量体混合物を乳化重合することにより得ることができる。本開示のエマルションに含まれる共重合体は、該共重合体を構成する単量体に由来する構成単位の合計を100質量%として、(A)単量体に由来する構成単位(以下「(A)単量体単位」ともいう)を70~95質量%、(B)単量体に由来する構成単位(以下「(B)単量体単位」ともいう)を3~25質量%、及び(C)単量体に由来する構成単位(以下「(C)単量体単位」ともいう)を0.1~5質量%有することが好ましい。当該共重合体は、(A)単量体単位を70~90質量%、(B)単量体単位を5~25質量%、及び(C)単量体単位を0.5~5質量%有することがより好ましく、(A)単量体単位を75~90質量%、(B)単量体単位を8~20質量%、及び(C)単量体単位を1~5質量%有することが更に好ましい。
【0021】
共重合体中における上記の(A)~(C)の各単量体に由来する構成単位の量について、(A)単量体単位については70~95質量%、(B)単量体単位については3~25質量%、及び(C)単量体単位については0.1~5質量%の範囲内であると、耐水性、耐油性、密着性、経時安定性及び化粧持ち(化粧持続性)の特性のバランスに優れた化粧料及び該化粧料を得るための化粧料用水性エマルション組成物を得ることができる点で好適である。
【0022】
共重合体を構成する単量体に由来する構成単位の合計量に対し、(A)単量体単位が70質量%以上の場合、耐油性、化粧持ちを良好にできる傾向があり、95質量%以下の場合は、耐水性、化粧持ちを良好にできる傾向がある。
(B)単量体単位が3質量%以上の場合、耐水性、化粧持ちを良好にできる傾向があり、25質量%以下の場合は、耐油性、化粧持ちを良好にできる傾向がある。
(C)単量体単位が0.1質量%以上の場合、密着性、経時安定性を良好にできる傾向があり、5質量%以下の場合は、耐水性を良好にできる傾向がある。
【0023】
<不飽和カルボン酸単量体及びその無水物の分布について>
本開示のエマルションは、上記(A)~(C)単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる分散粒子を含む。具体的には、本開示のエマルションは、不飽和カルボン酸単量体及び/又はその無水物を含むビニル系単量体を共重合して得られる分散粒子を含むものであることが好ましい。前記共重合により得られる共重合体は、実質的に全量又は大部分がエマルション中で分散粒子として存在する。ただし、得られる共重合体の一部分は水相に溶解して存在する場合もある。
【0024】
本開示においては、共重合に用いられた前記(C)単量体(好ましくは不飽和カルボン酸単量体)に由来するカルボキシ基がエマルション中の分散粒子の内部に存在する割合、すなわち、重合後の前記(C)単量体単位の存在位置が、優れた耐水性及び耐油性を示すエマルションを得ることができる点において考慮される。本明細書において、分散粒子内部のカルボキシ基の量、延いては前記(C)単量体単位(好ましくは不飽和カルボン酸単位)の量は、以下の様にして測定され決定される。
【0025】
エマルション中に含まれるカルボキシ基のうち、分散粒子内部のカルボキシ基の量は、分散粒子表面に存在するカルボキシ基量及びエマルションの水相に溶解している成分中に存在するカルボキシ基量の合計量と、エマルション中に存在する全カルボキシ基量とを酸塩基滴定により求め、両者の差分により算出された値である。より具体的には、分散粒子表面に存在するカルボキシ基量及びエマルションの水相に溶解している成分中に存在するカルボキシ基量の合計量を(x)ミリモル当量、エマルション中に存在する全カルボキシ基量を(y)ミリモル当量とし、((y)-(x))を(y)で除して、100を乗じることにより求めた値を、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量(モル%)と定義する。ここで、(x)は、不揮発分が10gとなるようにエマルションを量り取り、水を加えて50gとし、1Nの水酸化カリウム溶液を加えてpHを12とした後、電位差滴定装置(HIRANUMA製のAUTOTITRATOR:COM-1700A)を用いて、1N塩酸溶液により酸塩基滴定を行い、カルボキシ基量を算出して求めた値である。(y)は、エマルションを、エタノール10gと水10gの混合溶媒を加えて希釈した以外は、上記(x)と同様の方法でカルボキシ基量を算出して求めた値である。
【0026】
以上の定義は、エマルションそのものを滴定した場合には分散粒子内部に存在するカルボキシ基は検出されないが、水・エタノール1:1混合溶媒(質量比)にて希釈したものを滴定した場合には、エタノールにより粒子が十分に膨潤し、粒子の内部に存在するカルボキシ基まで検出されるとの考えに基づいている。
【0027】
本開示のエマルションは、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量が、エマルション中の全カルボキシ基量の25~75モル%である。すなわち、本開示のエマルションにおいて、分散粒子内部に存在する(C)単量体単位量は、該エマルションに含まれる(C)単量体の全量に対して25~75モル%である。本開示のエマルションにおいて、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量は、エマルション中の全カルボキシ基量に対して、30モル%以上であるものが好ましく、35モル%以上であるものがより好ましい。また、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量の上限については、エマルション中の全カルボキシ基量に対して、70モル%以下であるものが好ましく、65モル%以下であるものがより好ましい。その理由は、分散粒子内部に存在するカルボキシ基量が、エマルション中の全カルボキシ基量に対して25モル%未満である場合又は75モル%を超える場合には、耐水性、耐油性が不良となるためである。
【0028】
<低臭気性について>
乳化重合により得られたエマルション中には、未反応の単量体や、重合中に発生する分解物などの揮発性有機化合物が微量に含まれている。本開示のエマルションは、揮発性有機化合物の濃度が、エマルション全体に対して2000ppm以下である。これにより、揮発性有機化合物に由来する臭気を抑えることができ、低臭気性のエマルションを得ることができる。揮発性有機化合物に由来する臭気を抑えるために、エマルション中の揮発性有機化合物の濃度は、エマルション全体に対して、1000ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましく、50ppm以下がより更に好ましく、0ppmに近いほど好ましい。
【0029】
揮発性有機化合物を低減させる方法としては、エマルションを加熱させることにより残存する揮発性有機化合物を揮発させて取り除く方法、エマルションの気相部に空気等の気体を流通させる方法、エマルションに水蒸気を吹き込む方法、揮発性有機化合物を減圧蒸留する方法などが挙げられる。
【0030】
本開示のエマルションを得るには、乳化重合により得られたエマルションに減圧下で加圧水蒸気を吹き込み、揮発性有機化合物を100ppm以下と極微量まで低減させることが好ましい。具体的には、乳化重合で得られたエマルションを減圧可能な容器(好ましくは、減圧蒸留可能な容器)に仕込み、撹拌下でエマルションの温度を50~85℃とし、該容器内を、水が沸騰する圧力に維持した状態で、該容器内のエマルション中に加圧水蒸気を供給するとともに、該容器内の気相部の水蒸気及び該エマルションから気化した揮発性有機化合物を排気ポンプにより系外に除去することが好ましい。
【0031】
水蒸気を吹き込んでいるときのエマルションの温度が50℃未満であると、揮発性有機化合物の除去速度が遅くなる。一方、85℃を超えると、槽内壁面、特に気液相の界面に重合体皮膜が多量に発生し、不揮発分濃度の低下により品質が低下する。加圧水蒸気を吹き込んでいるときの容器内圧力は、容器内の水を沸騰させるために、12KPa~57KPa(「mmHg」に換算すると90mmHg~430mmHg)程度とする。脱臭処理の際のエマルション温度をより低温に設定でき、ポリマー粒子の凝集物の発生を低く抑えることができる点で、容器内の圧力は、12KPa(90mmHg)~40KPa(300mmHg)が好ましく、12KPa(90mmHg)~30KPa(225mmHg)がより好ましい。なお、エマルションの突沸を回避するために、加圧水蒸気を吹き込む間は撹拌を行うことが好ましい。撹拌に伴い泡が生成し易くなるので、これを抑制するために消泡剤を適量使用することができる。好ましい消泡剤としては、ポリエーテル系消泡剤(例えば、サンノプコ株式会社製、商品名:SNデフォーマーPCなど)及びシリコーン系消泡剤(例えば、信越化学工業株式会社製、商品名:KS-66など)が挙げられる。
【0032】
加圧水蒸気としては、ゲージ圧0.05~0.50MPa(温度110~160℃)程度の水蒸気を使用することが好ましく、ゲージ圧0.05~0.30MPaの水蒸気を使用することがより好ましく、0.10~0.25MPaの水蒸気を使用することが更に好ましい。
【0033】
処理容器内に供給する加圧水蒸気の量は、エマルション100質量部当たり、加圧水蒸気が5~100質量部となる量とすることが好ましく、5~90質量部となる量とすることがより好ましく、15~70質量部となる量とすることが更に好ましい。加圧水蒸気の量を上記範囲とすることにより、エマルションにかかる熱履歴を抑えることができ、エマルションの不安定化を抑制することができる。また、揮発性有機化合物の除去効率を十分に高めることができる。
【0034】
また、水蒸気処理に要する時間は、加圧水蒸気の供給速度及びその他の条件によっても異なるが、生産性の点で10時間以内が好ましい。本開示のエマルションにおいては、3~6時間の水蒸気処理によって、揮発性有機化合物の濃度を100ppm以下に低減することが可能である。
【0035】
<ガラス転移温度について>
本開示のエマルション中の共重合体のガラス転移温度Tgは、-20~20℃が好ましい。ガラス転移温度Tgが-20℃以上であると、適度な粘着性とすることができるため、良好な使用感を得ることができる。また、ガラス転移温度Tgが20℃以下であると、良好な成膜性を保つことができる傾向にある。本開示のエマルション中の共重合体のガラス転移温度は、-15℃以上がより好ましく、-10℃以上が更に好ましい。また、エマルションのガラス転移温度の上限については、15℃以下がより好ましく、10℃以下が更に好ましい。
【0036】
なお、ガラス転移温度の算出方法は、下記式(1)によるものである。ここで、Tgは、共重合体のガラス転移温度(K)、Tga、Tgb、Tgc等は、各々の単量体a、b、c等の単独重合体のガラス転移温度(K)であり、Wa、Wb、Wc等は、各々の単量体a、b、cにおける共重合体中の重量分率を示す。
式(1):
1/Tg=(Wa/Tga)+(Wb/Tgb)+(Wc/Tgc)+…
【0037】
<エマルションの製造方法について>
本開示のエマルションは、上記(A)~(C)単量体を含む単量体混合物を乳化重合させることによって得ることができる。
【0038】
乳化重合は、界面活性剤及び保護コロイドの少なくともいずれかの存在下で行うことが好ましい。界面活性剤は、イオン種としてアニオン、カチオン、ノニオンがあるが、アニオン及び/又はノニオンが好ましい。また、エチレン性不飽和結合を有する重合性界面活性剤も使用できる。ここで、アニオン性界面活性剤とは、水溶液中でイオンとなることができ、親水性を示す部分がアニオンとなるような界面活性剤をいう。また、ノニオン性界面活性剤とは、水溶液中でイオンに解離することなく、界面活性を示す界面活性剤をいう。更に、カチオン性界面活性剤とは、水溶液中でイオンと成ることができ、親水性を示す部分がカチオンとなるような界面活性剤をいう。
【0039】
重合性界面活性剤とは、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を1個以上有するアニオン性又はノニオン性の界面活性剤である。
重合性界面活性剤としては、例えば、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンリン酸塩(例えば、三洋化成工業株式会社製、商品名:エレミノールRS-30など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸塩〔例えば、第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンHS-10など〕、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンの硫酸塩(例えば、第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンKH-10など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンの硫酸塩(例えば、株式会社ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE-10など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸塩(例えば、株式会社ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR-10、SR-30など)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩(例えば、花王株式会社製、商品名:ラテムルPD-104、PD-105)、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化硫酸塩(例えば、日本乳化剤株式会社製、商品名:アントックスMS-60など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製、商品名:アデカリアソープER-20など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンRN-20など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE-10など)などが挙げられる。
【0040】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸塩等のアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸塩、スルホコハク酸ジオクチル塩等のアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル硫酸塩、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンの塩、N-アシル-L-アスパラギン酸塩、ヤシ油脂肪酸エチルエステルスルホン酸塩、アルキルβ-アラニンの塩、アシルメチルタウリン、アルキルエタンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルまたはアルケニルリン酸塩、アルキルアミドリン酸塩などが挙げられる。
【0041】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル及びポリオキシエチレンベヘニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、イソステアリン酸ジエタノールアミド及びオレイン酸ジエタノールアミド等のジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、イソステアリン酸モノエタノールアミド及びオレイン酸モノエタノールアミド等のモノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸イソプロパノールアミド、ラウリン酸イソプロパノールアミド、ミリスチン酸イソプロパノールアミド、パルミチン酸イソプロパノールアミド、ステアリン酸イソプロパノールアミド、イソステアリン酸イソプロパノールアミド及びオレイン酸イソプロパノールアミド等のイソプロパノールアミド、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンミリスチン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンパルミチン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンステアリン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンイソステアリン酸モノエタノールアミド及ポリオキシエチレンオレイン酸モノエタノールアミド等のポリオキシエチレンモノエタノールアミド、デシルグルコシド及びラウリルグルコシド等のアルキルグルコシド、ラウリルジメチルアミンオキシド及びステアリルジメチルアミンオキシド等のアルキルジメチルアミンオキシド、マルチトールヒドロキシ脂肪酸アルキルエーテル、アルキル化多糖、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸イソプロパノールアミドなどが挙げられる。
【0042】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩、オクチルジメチルエチルアンモニウムクロライド等のアルキルジメチルエチルアンモニウム塩、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド等のトリアルキルベンジルアンモニウム塩、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ステアリルアミン塩酸塩等のアルキルアミン塩、ステアリルジメチルアミノプロピルアミド等のアルキルジメチルアミノプロピルアミド、ラウリルピリジニウムクロライド等のアルキルピリジニウム塩などが挙げられる。
【0043】
前記界面活性剤は、単独もしくは2種類以上組み合わせて使用できる。界面活性剤の配合量としては特に制限はないが、単量体混合物100質量部に対して、0.1~20質量部を含むことが好ましい。界面活性剤を適量使用すると、樹脂粒子の機械安定性がより向上し、重合性界面活性剤を適量使用すると、機械安定性が更に向上する。界面活性剤の配合量が0.1質量部以上である場合、良好な乳化安定性を確保することができる。また、界面活性剤の配合量が20質量部以下である場合は、良好な耐水性を確保することができる点で好ましい。
【0044】
乳化重合には、ラジカル重合開始剤(以下、重合開始剤という)を使用することが好ましい。前記重合開始剤は、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0045】
油溶性開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルオキシベンゾエート、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシ-3,5,5,トリメチルヘキサノエート、ジターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、及びp-メンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物などが挙げられる。
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなどが挙げられる。
【0046】
乳化重合には、重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより重合反応を促進することができる。このような還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸の金属塩、クエン酸の金属塩、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート等の還元性有機化合物、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム(SMBS)、次亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などが挙げられる。
本開示の乳化重合には、水溶性重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.05~5質量部を使用することが好ましい。還元剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.01~2.5質量部を使用することが好ましい。
【0047】
本開示のエマルションは、乳化重合の際、必要に応じて、緩衝剤、連鎖移動剤、塩基性化合物等を使用できる。緩衝剤は、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。連鎖移動剤は、例えば、2-メルカプトエタノール、オクチルメルカプタン、ターシャリードデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸オクチルなどが挙げられる。
塩基性化合物は中和に使用し、例えば、アンモニアの他、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン、モルホリン等のエーテルアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物の水溶液などが挙げられる。
【0048】
乳化重合の方法は、例えば、反応槽に単量体、界面活性剤、水を全て仕込み、反応させるバッチ反応、単量体を徐々に反応槽に滴下して反応させる滴下反応等が挙げられる。これらの中でも、重合反応での発熱を制御し易い面で滴下反応が好ましい。また、重合安定性をより向上させるため、滴下反応は、単量体、水及び界面活性剤を混合、撹拌し、乳化状態にしたモノマープレエマルションを形成してから滴下することが好ましい。
【0049】
本開示のエマルションの不揮発分濃度は、30~70質量%であるものが好ましく、40~60質量%であるものがより好ましい。また、不揮発分濃度とは、試料を熱風循環式乾燥器中で155℃30分加熱した後の残存質量又はその割合のことを意味する。
また、本開示のエマルションの粘度は、25℃、12rpmの条件でB型粘度計により測定された値が、10~2000mPa・sであるものが好ましい。本開示のエマルションのpHは、2~9であるものが好ましい。また、エマルションの粒子径は、動的光散乱測定法により測定された体積基準メジアン径として、30~500nmが好ましく、50~200nmがより好ましい。体積基準メジアン径を30~500nmにすることで、耐水性や耐油性がより向上する。
【0050】
<不飽和カルボン酸及びその無水物の分布の制御について>
重合後の不飽和カルボン酸及びその無水物の分散粒子内での分布は、不飽和カルボン酸及びその無水物の種類や添加条件を選ぶことにより所望の分布が得られる。例えば、不飽和カルボン酸、特にアクリル酸のような親水性が極めて大きい単量体は、他の単量体よりも分散粒子の表面又はエマルションの水相に分布しやすい。そのため、分散粒子内部に存在する不飽和カルボン酸単位の割合を所望の範囲(25~75モル%)とするためには、反応器への単量体混合物の添加に際して、不飽和カルボン酸の添加の割合を反応の前半に大きく、後半を小さくするという様に制御することにより実現することができる。メタクリル酸など、アクリル酸よりも親水性が小さい単量体は、添加の初期から完了まで添加割合を一定に近いものとしてもよいし、添加割合が前半の方が後半より大きくなる様に行ってもよい。
【0051】
<化粧料用水性ポリマーエマルション組成物>
本開示のエマルションに、下記に示す成分などを配合することで、化粧料用水性ポリマーエマルション組成物が得られる。化粧料処方に配合する際は、本開示の効果を損なわない範囲であれば、通常、化粧料に配合される成分を必要に応じて配合して使用することができる。本開示の化粧料用水性ポリマーエマルション組成物は、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、保湿剤、紫外線吸収剤、脂肪酸石鹸、油脂、ロウ、炭化水素油、エステル油、粉体、高分子化合物、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、色材などの公知の成分を含むことができる。
【0052】
増粘剤としては、例えば、アルカリ膨潤型増粘剤、会合性ポリウレタン、カルボキシビニルポリマー、増粘性多糖類、粘土鉱物などが挙げられる。
【0053】
成膜助剤及び可塑剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール、ジメチルカルビトール、ジエチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール等のカルビトール類、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、スクロースアセテート等のアセテート類、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノールアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール等のジオール類、フタル酸ジエステル、アジピン酸ジエステル、コハク酸ジエステル、セバシン酸ジエステル、アビエチクエン酸エステル等のエステル類、スクロースベンゾエート等の安息香酸エステル、ジエチルベンゼンなどが挙げられる。
【0054】
保湿剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ピロリドンカルボン酸塩、DL-ピロリドンカルボン酸塩などが挙げられる。
【0055】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸ナトリウム、ジヒドロメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシメトキシベンゾフェノン-スルホン酸ナトリウム、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体や、パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸エチル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、及びパラジメチルアミノ安息香酸オクチル等の安息香酸誘導体や、パラメトキシケイ皮酸エチル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2-エトキシエチル、パラメトキシケイ皮酸ナトリウム、パラメトキシケイ皮酸カリウム、及びパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリン等のメトキシケイ皮酸誘導体や、サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸ジプロピレングリコール、サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸ミリスチル、サリチル酸メチル等のサリチル酸誘導体や、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチル、ウロカニン酸エチルエステル、4-tert-ブチル-4’-メトキシベンゾイルメタン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-フェニル-5-メチルベンゾキサゾール、アントラニル酸メチル、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0056】
脂肪酸石鹸としては、例えば、C6~24の高級脂肪酸のアルカリ塩を例示できる。脂肪酸は、飽和でも不飽和であってもよく、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、イソオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などが挙げられる。また、脂肪酸を中和するアルカリは、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、N-メチルタウリン、アンモニアなどの通常石鹸の製造に用いられるものであれば、特に制限されるものではない。
【0057】
油脂としては、例えば、アボガド油、ツバキ油、月見草油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油及びこれらのポリオキシエチレン付加物などが挙げられる。
【0058】
ロウとしては、例えば、鯨ロウ、ミツロウ、高酸価ミツロウ、セラック、ミンクロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、ヌカロウ、モクロウ、綿ロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、モンタンロウ、カボックロウ、ジョジョバロウ、サトウキビロウ、イボタロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、還元ラノリン、硬質ラノリン、セラックロウ、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールアセテート、ポリオキシエチレンコレステロールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン水素添加ラノリンアルコールエーテルなどが挙げられる。
【0059】
炭化水素油としては、例えば、パラフィン、流動パラフィン、オゾケライト、スクワレン、ブリスタン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの油分が挙げられる。
【0060】
エステル油としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル及びミリスチン酸2-ヘキシルデシル等のミリスチン酸エステル類、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル及びパルミチン酸2-ヘプチルウンデシル等のパルミチン酸エステル類、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸イソセチル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル及びイソステアリン酸N-アルキルグリコール等のステアリン酸エステル類、ラウリン酸イソプロピル及びラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル類、リノール酸エチル及びリノール酸イソプロピル等のリノール酸エステル類、オクタン酸セチル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ジメチルオクタン酸オクチルドデシル及びイソオクタン酸セチル等のオクタン酸エステル類、オレイン酸デシル及びオレイン酸オイル等のオレイン酸エステル類、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン及びセスキイソステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル油類、モノヤシ油脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、ヘキサステアリン酸ポリオキシエチレンソルビット、テトラステアリン酸ポリオキシエチレンソルビット及びテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類、乳酸セチル及び乳酸ミリスチル等の乳酸エステル類、リンゴ酸ジイソステアリル等のリンゴ酸エステル類、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル及びアジピン酸2-ヘキシルデシル等のアジピン酸エステル類、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル及びセバシン酸ジイソプロピル等のセバシン酸エステル類、コハク酸2-エチルヘキシル等のコハク酸エステル類、クエン酸トリエチル、クエン酸トリイソセチル、クエン酸トリイソアラキル、クエン酸トリイソオクチル、クエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、モノカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジデカン酸プロピレングリコール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、デカステアリン酸デカグリセリル、デカオレイン酸デカグリセリル、デカイソステアリン酸デカグリセリル、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリル、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、モノオレイン酸ポリエチレングリコールグリセリル、モノステアリン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、ペンタステアリン酸ポリグリセリル、ペンタオレイン酸ポリグリセリル及びジカプリン酸ネオペンチルグリコール等の多価アルコールエステル類、酢酸ラノリン、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、トリ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、アセトグリセライド、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、エチルラウレートなどが挙げられる。
【0061】
粉体としては、通常、化粧料用樹脂との配合に使用されるものであれば、特に制限されるものではない。粉体としては、粉体の形状(例えば、球状、針状及び板状等)、粒子径(煙霧状、微粒子及び顔料級等)、粒子構造(多孔質及び無孔質等)などを問わず、使用することができる。
【0062】
無機粉体としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、合成雲母、マイカ、カオリン、セリサイト、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ヒドロキシアパタイト、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリナイト、ヘクライト、ゼオライト、セラミックスパウダー、第二リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ボロン、シリカなどが挙げられる。
【0063】
有機粉体としては、例えは、デンプンパウダー、ポリアミドパウダー、ポリエステルパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリプロピレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリウレタンパウダー、ベンゾグアナミンパウダー、ポリメチルベンゾグアナミンパウダー、テトラフルオロエチレンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、セルロース、シルクパウダー、ナイロンパウダー、12ナイロン、6ナイロン、スチレン-アクリル酸共重合体、ジビニルベンゼン-スチレン共重合体、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、微結晶繊維粉体、コメデンプン、ラウロイルリジンなどが挙げられる。
【0064】
高分子化合物としては、通常化粧料用樹脂との配合に使用されるものであれば、特に制限されるものではない。高分子化合物は、天然系高分子化合物、半合成系高分子化合物及び合成系高分子化合物に分類することができる。
【0065】
天然系高分子化合物としては、例えば、アラアビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンナン、クインスシード(マルメロ)、アルケコイド(ガッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、キサンタンガム、デヒドロキサンタンガム、デキストラン、サクシノグルガン、ブルラン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチンなどが挙げられる。
【0066】
半合成系高分子化合物としては、例えば、カルボキシメチンデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン、変性バレイショデンプン、変性コーンスターチ及びヒドロキシプロピルデンプンリン酸等のデンプン系化合物、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、結晶セルロース及びセルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子などが挙げられる。
【0067】
合成系高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン及びカルボキシビニルポリマー(カーボボール)等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール2000、4000、6000等のポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、酢酸ビニル系高分子、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及びポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマーなどが挙げられる。これらの高分子化合物は、溶液状、微粒子状、粒子状などのいずれの形態であってもよい。また、高分子化合物は、ディスパージョン化されていてもよく、エマルション化されていてもよい。
【0068】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール及びデヒドロ酢酸、ならびにそれらの塩などが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、乳酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、dl-リンゴ酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
キレート剤としては、例えば、アラニン、エデト酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸など等が挙げられる。
【0069】
<化粧料>
本開示に係る化粧料は、水性ポリマーエマルションと配合する他の成分を適宜選択することにより、例えば、メイクアップ化粧料、皮膚化粧料、毛髪化粧料などとして使用することができる。メイクアップ化粧料としては、例えば、アイライナー、アイシャドー、アイブロウ、マスカラ、美爪料、ほほ紅、ファンデーション、口紅などが挙げられる。皮膚化粧料としては、例えば、パック、サンスクリーン剤、乳液、クリーム、化粧水などが挙げられる。毛髪化粧料としては、例えば、染毛剤、染毛料、パーマ液、ブリーチ用薬剤、ヘアフォーム、シャンプー、リンスなどが挙げられる。
【実施例
【0070】
以下、本開示を実施例により説明する。なお、本開示は以下の実施例により限定されるものではない。また、特に断りのない限り、「部」は質量部、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
【0071】
1.水性ポリマーエマルションの合成
<実施例1>水性ポリマーエマルションの合成
<乳化重合>
撹拌機、温度計、冷却器、窒素導入管及び2個の滴下ロートを備えた反応容器内に、水50部及び界面活性剤(花王株式会社製、商品名:ネオペレックスG-15、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、以下「G-15」ともいう)を2部仕込み、80℃に昇温した。
下記表1に示す組成の単量体混合物に、G-15を10部、界面活性剤(花王株式会社製、商品名:エマルゲン1150S-60、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、以下「1150S-60」ともいう)を5部、水45部を混合してモノマープレエマルションを調製した。得られたモノマープレエマルション及び重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム水溶液20部を、それぞれ別の滴下ロートより4時間かけて連続的に反応容器内に滴下し、液温を約80℃に保ちつつ乳化重合を行った。滴下終了後、更に2時間、液温を80℃に保った。その後、50℃まで冷却して重合を終了させた。得られたエマルションをアンモニア水でpHを8に調整した後、消泡剤(サンノプコ株式会社製、商品名:SNデフォーマーPC、以下「SNデフォーマーPC」ともいう)を0.1部添加し、エマルションを得た。
【0072】
<脱臭工程(加圧水蒸気を吹き込む工程)>
前記エマルションの入ったフラスコに加圧水蒸気供給管及び排気管を取り付け、液温を55℃に昇温した後、撹拌下、圧力0.2MPaの加圧水蒸気をエマルション100質量部に対し、5部/Hrで液中に吹き込みながら、排気ポンプを用いて系内の水蒸気を排気管を通じて排気することによりフラスコ内の圧力を15KPaに減圧し、系内を水が沸騰している状態に維持した。加圧水蒸気の吹き込みを5時間かけて行うことにより、合計で水蒸気を25部供給した。得られたエマルションのpHをアンモニア水でpH8に調整し、低臭気化したエマルションを得た。
【0073】
<実施例2~22>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表1及び表2に示す配合組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~22のエマルションを得た。なお、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
【0074】
<実施例23>水性ポリマーエマルションの合成
<乳化重合>
撹拌機、温度計、冷却器、窒素導入管及び2個の滴下ロートを備えた反応容器内に、水50部及び界面活性剤(花王株式会社製、商品名:ラテムルE-304T、ポリオキシエチレンアルキル硫酸アンモニウム、以下「E-304T」ともいう)を2部仕込み、80℃に昇温した。
表2に示す組成の単量体混合物に、E-304Tを10部、1150S-60を5部、水45部を混合してモノマープレエマルションを調製した。得られたモノマープレエマルション及び重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム水溶液20部を、それぞれ別の滴下ロートより4時間かけて連続的に反応容器内に滴下し、液温を約80℃に保ちつつ乳化重合を行った。滴下終了後、更に2時間、液温を80℃に保った。その後、50℃まで冷却して重合を終了させた。得られたエマルションのpHをアンモニア水でpH8に調整した後、消泡剤としてSNデフォーマーPCを0.1部添加し、エマルションを得た。
<脱臭工程(加圧水蒸気を吹き込む工程)>
前記エマルションに、実施例1と同様の方法で加圧水蒸気を吹き込み、実施例23のエマルションを得た。
【0075】
<実施例24>水性ポリマーエマルションの合成
<乳化重合>
実施例1と同様の装置を用い、水50部及び界面活性剤(第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンKH-10、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム、以下「KH-10」ともいう)を0.3部仕込み、80℃に昇温した。
表2に示す組成の単量体混合物に、KH-10を1.7部、1150S-60を5部、水55部を混合してモノマープレエマルションを調製した。得られたモノマープレエマルション及び重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム水溶液20部を、それぞれ別の滴下ロートより4時間かけて連続的に反応容器内に滴下し、液温を約80℃に保ちつつ乳化重合を行った。滴下終了後、更に2時間、液温を80℃に保った。その後、50℃まで冷却して重合を終了させた。得られたエマルションのpHをアンモニア水でpH8に調整した後、消泡剤としてSNデフォーマーPCを0.1部添加し、エマルションを得た。
<脱臭工程>
前記エマルションに、実施例1と同様の方法で加圧水蒸気を吹き込み、実施例24のエマルションを得た。
【0076】
<実施例25>水性ポリマーエマルションの合成
<乳化重合>
実施例1と同様の装置を用い、水50部及びG-15を2部仕込み、80℃に昇温した。表2に示す1段目組成の単量体混合物にG-15を5部、1150S-60を2.5部、水22.5部を混合してモノマープレエマルションを調製した。得られたモノマープレエマルション及び重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム水溶液10部を、それぞれ別の滴下ロートより2時間かけて連続的に反応容器内に滴下し、液温を約80℃に保ちつつ乳化重合を行った。滴下終了後、液温を80℃に30分間保った。
続いて、表2に示す2段目組成の単量体混合物に、G-15を5部、1150S-60を2.5部、水22.5部を混合してモノマープレエマルションを調製した。得られたモノマープレエマルション及び重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム水溶液10部を、それぞれ別の滴下ロートより2時間かけて連続的に反応容器内に滴下し、液温を約80℃に保ちつつ乳化重合を行った。
滴下終了後、更に2時間、液温を80℃に保った。その後、50℃まで冷却して重合を終了させた。得られたエマルションのpHをアンモニア水でpH8に調整した後、消泡剤としてSNデフォーマーPCを0.1部添加し、エマルションを得た。
<脱臭工程>
前記エマルションに、実施例1と同様の方法で加圧水蒸気を吹き込み、実施例25のエマルションを得た。
【0077】
<実施例26>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表2に示す配合組成に変更した以外は、実施例25と同様の方法で、実施例26のエマルションを得た。
<実施例27>水性ポリマーエマルションの合成
脱臭工程での加圧水蒸気の供給時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例27のエマルションを得た。
<実施例28>水性ポリマーエマルションの合成
脱臭工程での加圧水蒸気の供給時間を1時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例28のエマルションを得た。
【0078】
<比較例1>水性ポリマーエマルションの合成
脱臭工程での容器内圧力を20KPa(水が沸騰しない状態)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のエマルションを得た。
<比較例2>水性ポリマーエマルションの合成
脱臭工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2のエマルションを得た。
<比較例3>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表2に示す配合組成に変更した以外は、比較例2と同様の方法で、比較例3のエマルションを得た。
【0079】
<比較例4>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表2に示す配合組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4のエマルションを得た。
<比較例5>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表2に示す配合組成に変更した以外は、実施例25と同様の方法で、比較例5のエマルションを得た。
<比較例6>水性ポリマーエマルションの合成
単量体組成を表2に示す配合組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6のエマルションを得た。
【0080】
2.エマルションの評価
実施例1~28、比較例1~6のエマルションの液性及び物性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
<不揮発分濃度>
エマルション0.5gを、予め質量を測定しておいた秤量瓶[秤量瓶の質量=B(g)]に採取して、秤量瓶ごと正確に秤量した後[W(g)]、その試料を秤量瓶ごと熱風循環式乾燥器内に収容して155℃で30分間乾燥した。そのときの質量を秤量瓶ごと測定し[W(g)]、以下の式により不揮発分濃度を求めた。
不揮発分濃度(%)=(W-B)/(W-B)×100
<粘度>
25℃、12rpmの条件でB型粘度計により測定した。
<エマルションの粒子径>
エマルションの粒子径を、動的光散乱測定法により測定された体積基準メジアン径として測定した。
【0081】
<粒子内部のカルボキシ基量>
各例で得られたエマルション中に含まれるカルボキシ基のうち、粒子内部に存在するカルボキシ基の量(モル%)を以下の[1]~[4]の手順により求めた。
[1]分散粒子表面に存在するカルボキシ基量及びエマルションの水相に溶解している成分中に存在するカルボキシ基量の合計量(x)(ミリモル当量)の算出
不揮発分が10gとなるようにエマルションを量り取り、水を加えて50gとし、1Nの水酸化カリウム溶液を加えてpHを12とした。電位差滴定装置(HIRANUMA製のAUTOTITRATOR:COM-1700A)を用いて、1N塩酸溶液により酸塩基滴定を行い、次式よりカルボキシ基量(x)を算出した。
x=(a-b)/10
上記の式中の記号の意味は下記のとおりである。
x:不揮発分が1gとなる量のエマルション中に存在するカルボキシ基量(ミリモル当量)
a:添加した1N水酸化カリウム溶液量(ml)
b:滴定に使用した1N塩酸溶液量(ml)
[2]エマルション中に存在する全カルボキシ基量(y)(ミリモル当量)の算出
不揮発分が10gとなるようにエマルションを量り取り、エタノール10g及び水10gを加えて希釈した以外は、上記[1]と同様の方法で、エマルション中に存在する全カルボキシ基量を算出した。
[3]分散粒子内部に存在するカルボキシ基量(ミリモル当量)の算出
上記[2]の値(y)から上記[1]の値(x)を差し引いて求めた。
[4]分散粒子内部に存在するカルボキシ基量(モル%)の算出
上記[3]の値((y)-(x))を上記[2]の値で除して、100を乗じることにより求めた。
【0082】
<揮発性有機化合物の含有濃度>
未反応の単量体などの揮発性有機化合物の含有量を、ガスクロマトグラフィー(装置:(株)島津製作所製GC-2014、カラム:ジーエルサイエンス(株)製DB-1、キャリアガス:窒素、検出器:水素炎イオン化検出器)により測定した。ガスクロマトグラフィーの測定に際しては、エマルション0.5g、エタノール4.0gと20%塩化カルシウム水溶液0.3gを混合して10分間静置し、12000rpm×10分で遠心分離して、上澄みを1.5g取り、これに内部標準としてエチレングリコールモノメチルアセテートの1%水溶液0.05gを加えた溶液をガスクロマトグラフィーの注入液とした。
【0083】
<耐水性>
乾燥後のエマルションの耐水性を以下に示す方法によって評価した。各例で得られたエマルションを、乾燥後の厚みが50μmになるようにアプリケーターを用いてガラス板上に塗布し、23℃50%RHにて1日間風乾することで試験体を作製した。その試験体を蒸留水中に1日間浸漬させた後、摩擦試験機を用い、含水スポンジにて、100gの荷重で10往復摩擦して、脱落、剥がれの有無を評価した。
(評価基準)
☆:被膜に全く変化が見られない(極めて良好)
◎:被膜が僅かに剥離、脱落(良好)
○:被膜の半分程度が剥離、脱落(普通)
△:被膜の大半が剥離、脱落(やや不良)
×:完全に剥離、脱落(不良)
【0084】
<耐油性>
前記耐水性試験と同様にして作製した各試験体を、オレイン酸の中に1日間浸漬させた後、摩擦試験機を用い、含オレイン酸スポンジにて、100gの荷重で10往復摩擦して、脱落、剥がれの有無を評価した。上記耐水性試験と同様の評価基準により評価した。
【0085】
<柔軟性>
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、乾燥後の厚みが25μmになるように、各例で得られたエマルションを塗布し、次いで熱風循環式乾燥機にて50℃で6時間乾燥させ、23℃50%RHにて1日間風乾することで試験体を作製した。その試験体を10回繰り返し、湾曲させて、被膜のひび割れ、脱落の有無を評価した。
(評価基準)
○:被膜に全く変化が見られない(良好)
△:被膜に僅かなひび割れ、脱落(やや不良)
×:被膜の全面にひび割れ、脱落(不良)
【0086】
<タック>
前記柔軟性試験と同様にして作製した各試験体の表面を指でなぞり、その触感によってべたつきを評価した。
(評価基準)
○:べたつき無し(良好)
△:僅かにべたつく(やや不良)
×:べたつく(不良)
【0087】
<経時安定性>
各例で得られたエマルションの経時安定性を以下に示す方法によって評価した。各例で得られたエマルションの製造直後にエマルション中の粒子の粒子径を測定した後、密閉した容器に入れ、40℃の熱風循環式乾燥機中で1ヶ月間保持した後、再度粒子径を測定した。粒子径の測定は、動的光散乱測定法により行った。
粒子径変化率(%)=[(初期の粒子径-1ヶ月後の粒子径)/初期の粒子径]×100
(評価基準)
◎:粒子径変化率<5%(極めて良好)
○:5%≦粒子径変化率<10%(良好)
△:10%≦粒子径変化率<15%(やや不良)
×:15%≦粒子径変化率(不良)
【0088】
<揮発性有機化合物由来の臭気評価>
100mLガラス容器に、各例で得られたエマルションを80g採取し、容器に蓋をして密封し、40℃の熱風循環式乾燥機中で1時間保持した後、直ちに取り出して、蓋を取った際の臭気を官能試験にて評価した。
(評価基準)
◎:ほとんど臭気を感じない(極めて良好)
○:僅かに臭気を感じる(良好)
△:臭気を感じる(やや不良)
×:強い臭気有り(不良)
【0089】
実施例1~28、比較例1~6のエマルションにつき、液性として不揮発分濃度、粘度、粒子径、pH、粒子内部のカルボキシ基量、及び揮発性有機化合物の含有濃度、並びに、物性として耐水性、耐油性、柔軟性、タック、経時安定性及び揮発性有機化合物由来の臭気を評価した結果を表1及び表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表中の略号は以下の通りである。
<単量体>
St:スチレン
MMA:メチルメタクリレート
BMA:n-ブチルメタクリレート
MA:メチルアクリレート
BA:n-ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
LA:ラウリルアクリレート
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
【0093】
<界面活性剤>
G-15:花王株式会社製、商品名:ネオペレックスG-15、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ
E-304T:花王株式会社製、商品名:ラテムルE-304T、ポリオキシエチレンアルキル硫酸アンモニウム
1150S-60:花王株式会社製、商品名:エマルゲン1150S-60、ポリオキシエチレンアルキルエーテル
KH-10:第一工業製薬株式会社製、商品名:アクアロンKH-10、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム
【0094】
表1及び表2の結果から、実施例1~28の本開示のエマルションは、脱臭工程時に水が沸騰する状態とせず加圧水蒸気を供給した比較例1、脱臭工程を実施していない比較例2、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつ脱臭工程を実施していない比較例3、(B)単量体である炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを用いていない比較例4、粒子内部のカルボキシ基が多い比較例5、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつガラス転移温度が低い比較例6と比べて、耐水性、耐油性及び低臭気性がバランスよく良好であり、優れていた。また、実施例1~28のエマルションは、経時安定性、柔軟性、タックについても良好な結果であった。
【0095】
3.化粧料の配合及び評価
3-1.マスカラ
[マスカラの配合]
<実施例29>
イオン交換水22.3部にメチルヒドロキシプロピルセルロース2部、タルク10部及び実施例1で得たエマルション45部を添加し、均一に撹拌混合した後に、黒色酸化鉄15部、グリセリン5部、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ナカライテスク株式会社製、商品名:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)1.5部からなる着色ペーストを添加して均一に混合し、香料0.1部及び防腐剤0.1部を加えて、黒色のマスカラを得た。
【0096】
<実施例30~42及び比較例7~10>
下記表3に示すエマルションに変更した以外は、実施例29と同様の方法で、実施例30~42及び比較例7~10のマスカラをそれぞれ得た。なお、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
【0097】
[マスカラの評価]
<耐水性>
化粧料を乾燥後の厚みが50μmになるようにアプリケーターを用いてガラス板上に塗布し、23℃50%RHにて1日間風乾することで試験体を作製した。その試験体を蒸留水中に1日間浸漬させ、被膜の脱落、剥がれの有無を評価した。
(評価基準)
☆:被膜に全く変化が見られない(極めて良好)
◎:被膜が僅かに剥離、脱落(良好)
○:被膜の半分程度が剥離、脱落(普通)
△:被膜の大半が剥離、脱落(やや不良)
×:完全に剥離、脱落(不良)
【0098】
<耐油性>
前記耐水性と同様の方法で試験体を作製し、その試験体をオレイン酸中に1日間浸漬させ、被膜の脱落、剥がれの有無を評価した。上記耐水性試験と同様の評価基準により評価した。
【0099】
<化粧持ち>
化粧持ち(化粧効果の持続性)についてパネル10名での使用テストによる評価を行った。なお、評価基準は次のように定めた。
(評価基準)
☆:10名全員が良好とした。
◎:10名中8名以上が良好とした。
○:10名中6名以上が良好とした。
△:10名中4名以上が良好とした。
×:10名中3名以下が良好とした。
【0100】
<経時安定性>
50mLガラス容器に化粧料を40g採取し、密封して、40℃の熱風循環式乾燥機中で1ヶ月間保持した後、分離状態を評価した。
(評価基準)
◎:分離がない(極めて良好)
○:わずかに分離がみられるが、混合すると消失する(良好)
△:分離がみられ、混合しても消失しない(やや不良)
×:分離が著しい(不良)
【0101】
【表3】
【0102】
表3の結果から、本開示のエマルションを配合した実施例29~42のマスカラは、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつ脱臭工程を実施していない比較例7、(B)単量体である炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含有しない比較例8、粒子内部のカルボキシ基が多い比較例9、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつガラス転移温度が低い比較例10のマスカラと比べて、耐水性、耐油性及び化粧持ちが優れていた。
【0103】
3-2.美爪料
[美爪料の配合]
<実施例43>
エチレングリコールモノエチルエーテル10部、クエン酸アセチルトリブチル3部及びイオン交換水7部を混合した溶液を、実施例2で得たエマルション80部に徐々に配合し、均一になるまで撹拌して、美爪料を得た。得られた美爪料を用いて、耐水性、耐油性及び化粧持ちを評価した。
<実施例44~56及び比較例11~14>
表4に示すエマルションに変更した以外は、実施例43と同様の方法で、実施例44~56及び比較例11~14の美爪料をそれぞれ得た。なお、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
[美爪料の評価]
評価方法はマスカラの場合と同じである。
【0104】
表4の結果から、本開示のエマルションを配合した実施例43~56の美爪料は、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつ脱臭工程を実施していない比較例11、(B)単量体である炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含有しない比較例12、粒子内部のカルボキシ基が多い比較例13、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつガラス転移温度が低い比較例14の美爪料と比べて、耐水性、耐油性及び化粧持ちが優れていた。
【0105】
【表4】
【0106】
3-3.アイライナー
[アイライナーの配合]
<実施例57>
イオン交換水33.9部にポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)1部、カルボキシメチルセルロース0.15部、酸化鉄14部を添加し、均一に撹拌混合した後に、グリセリン5部、クエン酸アセチルトリブチル1部を配合し、さらに実施例1で得たエマルション45部を徐々に配合し、均一になるまで撹拌して、アイライナーを得た。
【0107】
<実施例58~70及び比較例15~18>
表5に示す配合組成に変更した以外は、実施例57と同様の方法で、実施例58~70及び比較例15~18のアイライナーをそれぞれ得た。なお、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
[アイライナーの評価]
評価方法はマスカラの場合と同じである。
【0108】
【表5】
【0109】
表5の結果から、本開示のエマルションを配合した実施例57~70のアイライナーは、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつ脱臭工程を実施していない比較例15、(B)単量体であるC8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含有しない比較例16、粒子内部のカルボキシ基が多い比較例17、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつガラス転移温度が低い比較例18のアイライナーと比べて、耐水性、耐油性及び化粧持ちが優れていた。
【0110】
3-4.ファンデーション
[ファンデーションの配合]
<実施例71>
実施例2で得たエマルション5部、ベントナイト0.5部、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(花王株式会社製、商品名:レオドール TW-S106V)1部、プロピレングリコール10部、防腐剤0.1部、イオン交換水52.4部を配合し、70℃でホモミキサーを用いて、均一になるまで分散させた。またpHが7.0になるようトリエタノールアミンで調整した。次に、タルク3部、二酸化チタン5部、ベンガラ0.5部、酸化鉄1部を配合し十分に混合し、これを先の分散液に添加した。ステアリン酸2.5部、イソヘキサデシルアルコール7部、モノステアリン酸グリセリン2部、液状ラノリン2部及び流動パラフィン8部を配合し、80℃で溶解させて油相とした。この油相を先の水相に投入し、70℃でホモミキサーを用いて乳化した。その後、常温になるまで冷却して、ファンデーションを得た。
【0111】
<実施例72~84及び比較例19~22>
表6に示す配合組成に変更した以外は、実施例71と同様の方法で、実施例72~84及び比較例19~22のファンデーションをそれぞれ得た。なお、表中の数値は、単位の記載がない項目は「部」を表し、空欄は使用していないことを表す。
[ファンデーションの評価]
評価方法はマスカラの場合と同じである。
【0112】
【表6】
【0113】
表6の結果から、本開示のエマルションを配合した実施例71~84のファンデーションは、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつ脱臭工程を実施していない比較例19、(B)単量体である炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含有しない比較例20、粒子内部のカルボキシ基が多い比較例21、粒子内部のカルボキシ基が少なく、かつガラス転移温度が低い比較例22のファンデーションと比べて、耐水性、耐油性及び化粧持ちが優れていた。