(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】半導体レーザ、及び半導体レーザの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20240910BHJP
H01S 5/10 20210101ALI20240910BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240910BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/10
H01S5/343 610
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2021558337
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042260
(87)【国際公開番号】W WO2021100604
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019210558
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 康弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀輝
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0148911(US,A1)
【文献】特開平05-102603(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037747(WO,A1)
【文献】特開2012-227187(JP,A)
【文献】特開2011-119360(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020793(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0167649(US,A1)
【文献】特開昭62-213188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ
、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記両端面は、前記積層体に対して凸又は凹となるように設けられると共に、前記リッジ部に対応する領域で略平面となるように設けられる、半導体レーザ。
【請求項2】
前記両端面は、前記リッジ部に対応する領域では、少なくとも前記発光層が設けられる深さまで略平面となるように設けられる、
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記両端面のうち、前記略平面となる領域における凹凸の大きさは、0.02μm以上0.1μm以下である、
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記溝断面部は、前記延在方向に向かって湾曲する、
請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記溝断面部は、前記リッジ部と離隔して設けられる、
請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項7】
前記溝断面部は、前記積層体を貫通して設けられる、
請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項8】
前記積層体には、前記上面と対向する下面に裏面溝断面部がさらに設けられる、請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項9】
前記第1クラッド層、前記第2クラッド層、及び前記発光層は、前記半導体基板の半極性主面の上に積層される、請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項10】
前記半導体基板は、六方晶系III族窒化物半導体で設けられる、請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項11】
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、半導体レーザ。
【請求項12】
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記両端面は、前記積層体に対して凸又は凹となるように設けられると共に、前記リッジ部に対応する領域で略平面となるように設けられる、半導体レーザであって、
前記第1導電型の
前記第1クラッド層と、
前記第2導電型の
前記第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた
前記発光層とを
前記半導体基板の上に積層し、
前記積層体を形成する工程と、
前記上面にて一方向に延在する凸構造の
前記リッジ部を形成する工程と、
前記上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、
前記上面から前記積層体を平面視した際に
前記延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように前記積層体を個片化する工程と
を含む、半導体レーザの製造方法。
【請求項13】
前記割断溝部は、レーザアブレーションによって形成される、
請求項12に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項14】
前記レーザアブレーションは、円偏光レーザによって行われる、
請求項13に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項15】
前記割断溝部の湾曲角度は、0°超75°未満である、
請求項12に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項16】
前記積層体の個片化は、前記積層体を劈開することで行われる、
請求項12に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項17】
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、半導体レーザであって、
前記第1導電型の前記第1クラッド層と、前記第2導電型の前記第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた前記発光層とを前記半導体基板の上に積層し、前記積層体を形成する工程と、
前記上面にて一方向に延在する凸構造の前記リッジ部を形成する工程と、
前記上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、
前記上面から前記積層体を平面視した際に前記延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように前記積層体を個片化する工程と
を含む、半導体レーザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ、及び半導体レーザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザが様々な分野で利用されている。半導体レーザは、レーザ光の伝搬方向と直交する半導体レーザの端面を共振器の反射面として用いることで、レーザ光を増幅している。
【0003】
このような半導体レーザは、例えば、半導体基板の上に複数のレーザ構造体を形成した後、レーザ構造体ごとに半導体基板を割断することで製造される。半導体基板の割断は、例えば、結晶構造由来の結晶面に沿って半導体基板を劈開することで行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ここで、半導体レーザでは、共振器によるレーザ光の増幅をより適切に行うことで、出射されるレーザ光の特性を向上させることが望まれている。
【0006】
よって、より優れた特性を有するレーザ光を出射することが可能な半導体レーザを提供することが望ましい。
【0007】
本開示の一実施形態に係る第1の半導体レーザは、第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、第1クラッド層及び第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、を備え、積層体は、上面から積層体を平面視した際に、リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、上面から平面視した際の積層体の平面形状は、延在方向に延伸する長手形状であり、両端面は、積層体に対して凸又は凹となるように設けられると共に、リッジ部に対応する領域で略平面となるように設けられる。本開示の一実施形態に係る第2の半導体レーザは、第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、第1クラッド層及び第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、を備え、積層体は、上面から積層体を平面視した際に、リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、上面から平面視した際の積層体の平面形状は、延在方向に延伸する長手形状であり、積層体の長手形状の角部には、積層体の上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる。
【0008】
また、本開示の一実施形態に係る第1の半導体レーザの製造方法は、上記第1の半導体レーザであって、第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、第1クラッド層及び第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層し、積層体を形成する工程と、積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造のリッジ部を形成する工程と、上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、上面から積層体を平面視した際に延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように積層体を個片化する工程とを含む。本開示の一実施形態に係る第2の半導体レーザの製造方法は、上記第2の半導体レーザであって、第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、第1クラッド層及び第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層し、積層体を形成する工程と、上面にて一方向に延在する凸構造のリッジ部を形成する工程と、上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、上面から積層体を平面視した際に延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように積層体を個片化する工程とを含む。
【0009】
本開示の一実施形態に係る第1の半導体レーザ、及び第1の半導体レーザの製造方法ならびに本開示の一実施形態に係る第2の半導体レーザ、及び第2の半導体レーザの製造方法によれば、第1導電型の第1クラッド層、発光層、及び第2導電型の第2クラッド層を半導体基板の上に積層した積層体において、積層体の積層方向の上面にてリッジ部が延在する方向の端面を、上面から積層体を平面視した際に円弧を含む形状となるように設けることができる。これにより、半導体レーザは、例えば、リッジ部に対応する領域に設けられた導波路領域に対して、リッジ部の延在方向の積層体の端面を略垂直に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る半導体レーザの積層構造を示す模式的な断面図である。
【
図3】同実施形態に係る半導体レーザの平面構造を説明する平面図である。
【
図4A】同実施形態の変形例に係る半導体レーザの平面構造の一例を示す平面図である。
【
図4B】同実施形態の変形例に係る半導体レーザの平面構造の他の例を示す平面図である。
【
図5】同実施形態に係る半導体レーザの製造方法の流れを示すフローチャート図である。
【
図6】割断溝部の断面形状の一例を模式的に示す説明図である。
【
図7】割断溝部を用いて積層体を割断する方法を模式的に示す説明図である。
【
図8】割断溝部の具体例を示す積層体の断面図である。
【
図9】割断溝部の具体例を示す積層体の積層方向の上面の平面図である。
【
図10】割断溝部の具体例を示す積層体の上面と反対側の裏面の平面図である。
【
図11】割断溝部の変形例を示す積層体の積層方向の上面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下で説明する実施形態は本開示の一具体例であって、本開示にかかる技術が以下の態様に限定されるわけではない。また、本開示の各構成要素の配置、寸法、及び寸法比等についても、各図に示す様態に限定されるわけではない。
【0012】
なお、説明は以下の順序で行う。
1.半導体レーザの構成
1.1.積層構造
1.2.平面構造
2.半導体レーザの製造方法
2.1.製造方法の概要
2.2.割断溝部の具体例
3.まとめ
【0013】
<1.半導体レーザの構成>
(1.1.積層構造)
まず、
図1を参照して、本開示の一実施形態に係る半導体レーザの積層構造について説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体レーザ100の積層構造を示す模式的な断面図である。
図1では、半導体レーザ100の積層方向をZ方向とし、半導体レーザ100の面内方向のうち紙面手前側から紙面奥側に向かう方向をY方向とし、Y方向と直交する半導体レーザ100の面内方向をX方向とする。
【0014】
なお、以下の明細書では、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明を行う。
【0015】
図1に示すように、半導体レーザ100は、例えば、半導体基板1の一方の面1a(上面1aとも称する)にエピタキシャル層2を積層した積層体10と、エピタキシャル層2の上に設けられた絶縁層3及び第1電極4と、半導体基板1の上面1aと反対側の他方の面1b(裏面1bとも称する)に設けられた第2電極5とを備える。
【0016】
半導体基板1は、例えば、GaN、AlN、AlGaN、InGaN、又はInAlGaNなどの六方晶系III族窒化物半導体にて形成される。具体的には、半導体基板1は、キャリアがn型のGaN基板であってもよい。本実施形態に係る半導体レーザ100では、エピタキシャル層2、絶縁層3、及び第1電極4が積層される半導体基板1の上面1aは、半極性面である。半極性面については、
図2を参照して後述する。
【0017】
エピタキシャル層2は、例えば、半導体基板1の上面1aに、バッファ層11と、第1クラッド層12と、第1光ガイド層13と、発光層14と、第2光ガイド層15と、キャリアブロック層16と、第2クラッド層17と、コンタクト層18とを順にエピタキシャル成長させることで設けられる。
【0018】
バッファ層11は、例えば、n型GaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。第1クラッド層12は、例えば、n型AlGaN層、又はn型InAlGaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。第1光ガイド層13は、例えば、n型GaN層、又はn型InGaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。
【0019】
発光層14は、例えば、InGaN、又はInAlGaNなどの窒化ガリウム系半導体で形成された井戸層(図示せず)と、GaN、InGaN、InAlGaNなどの窒化ガリウム系半導体で形成された障壁層(図示せず)とにて設けられる。具体的には、発光層14は、井戸層と障壁層とを交互に複数積層した多重量子井戸構造にて設けられてもよい。発光層14は、エピタキシャル層2における発光領域であり、例えば、480nm~550nmの波長帯域の光を発することができる。
【0020】
第2光ガイド層15は、p型GaN層、又はp型InGaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。キャリアブロック層16は、電子ブロック層であり、例えば、p型AlGaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。
【0021】
第2クラッド層17は、例えば、p型AlGaN層、又はp型InAlGaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。第2クラッド層17の第1電極4側には、リッジ部17aが設けられる。リッジ部17aは、
図1の紙面手前側から紙面奥側に向かうY方向に延在する凸構造であり、第2クラッド層17の第1電極4側の表面のうち、リッジ部17aに対応する領域以外の領域をエッチング等により掘り込むことで設けられる。
【0022】
リッジ部17aは、半導体レーザ100の個片の一方の端面から反対側の他方の端面まで延在するように設けられる。リッジ部17aの延在方向の互いに対向する両端面は、レーザ共振器の反射面として機能する。すなわち、リッジ部17aの延在方向に設けられた両端面と、リッジ部17aが設けられた平面領域に対応するエピタキシャル層2内の光導波路領域とによってレーザ共振器が構成される。半導体レーザ100は、発光層14から発せられた光を該レーザ共振器によって増幅することで、外部にレーザ光を出射することができる。
【0023】
コンタクト層18は、例えば、p型GaN層などの窒化ガリウム系半導体層として設けられる。コンタクト層18は、第2クラッド層17のリッジ部17aの上に設けられる。
【0024】
絶縁層3は、例えば、SiO2膜などの絶縁膜にて設けられる。絶縁層3は、第2クラッド層17のリッジ部17a以外の領域上、並びにリッジ部17a及びコンタクト層18の側面上に設けられる。
【0025】
第1電極4は、例えば、Pd膜などの導電性膜にて設けられる。第1電極4は、コンタクト層18上、及び絶縁層3のコンタクト層18側の端面上に設けられる。なお、半導体レーザ100では、第1電極4に電気的に接続するパッド電極用の導電性膜がさらに設けられてもよい。パッド電極用の導電性膜は、例えば、絶縁層3、及び第1電極4を覆うように設けられてもよい。
【0026】
第2電極5は、例えば、Al膜などの導電性膜にて設けられる。第2電極5は、半導体基板1の裏面1bに設けられる。
【0027】
ここで、
図2を参照して、GaNなどの六方晶系III族窒化物半導体の結晶構造、及び半導体基板1の半極性面について説明する。
図2は、GaNの結晶構造を示す説明図である。
【0028】
GaNは、
図2に示すような六方晶と呼ばれる結晶構造を有する。六方晶の結晶構造の中で、成長軸であるc軸に垂直な第1面201は、極性面と称され、c軸と平行な第2面202は、無極性面と称される。また、c軸をm軸方向に所定角度傾けた軸方向を法線方向とする第3面203は、第1面201と第2面202との中間的な性質の面となるため、半極性面と称される。
【0029】
半導体レーザ100では、エピタキシャル層2は、半導体基板1の半極性面上にエピタキシャル成長される。例えば、エピタキシャル層2は、半導体基板1の{2,0,-2,1}面、{1,0,-1,1}面、{2,0,-2,-1}面、又は{1,0,-1,-1}面などの半極性面上にエピタキシャル成長されてもよい。半極性面では、極性面に近い結晶成長性を維持しつつ、かつc軸方向に生じるピエゾ電界を低減することができる。これによれば、半導体レーザ100は、エピタキシャル層2を良好に結晶成長させると共に、発光層14での発光効率を低下させるピエゾ電界を低減することができるため、発光特性を向上させることができる。
【0030】
一方で、半導体レーザ100は、複数の半導体レーザ100を2次元状に配列して形成した生産基板から各々の半導体レーザ100を切り出すことで製造される。生産基板からの半導体レーザ100の切り出しは、例えば、半導体基板1及びエピタキシャル層2の結晶構造の結晶面に沿った劈開によって行われる。劈開によって形成される面(劈開面とも称する)は、比較的平坦かつ平滑であるため、半導体レーザ100におけるレーザ共振器の反射面として好適に用いることができる。
【0031】
しかしながら、半導体基板1の半極性面の上にエピタキシャル層2を積層した場合、半導体レーザ100の切り出しの際の劈開面は、第1面201の結晶面(すなわち、{0,0,0,1}面)の影響を受けてしまう。そのため、半導体レーザ100の切り出しの際の劈開面は、第1面201となり、
図2に示すように発光層14(すなわち、第3面203)に対して垂直な面とならないことがある。このような場合、発光層14の端面の劈開面は、レーザ共振器の反射面としての機能が低下するため、実質的な反射率の低下、又はレーザ光の導波損失の増加を招いてしまう。これにより、半導体レーザ100では、レーザ光の発光特性の低下、又は素子ごとの特性ばらつきの増加が発生してしまう。
【0032】
本開示に係る技術は、上記事情を鑑みることで想到された。本開示に係る技術は、半導体レーザ100におけるレーザ共振器の反射面として機能する端面を円弧が含まれる形状として設けるものである。本開示に係る技術によれば、劈開面と光導波路領域の延在方向との垂直性を向上させることができる。
【0033】
(1.2.平面構造)
以下では、
図3を参照して、本開示に係る技術の詳細について説明する。
図3は、本実施形態に係る半導体レーザ100の平面構造を説明する平面図である。
図3では、図に正対して左右方向がX方向に対応し、図に正対して上下方向がY方向に対応する。また、
図3では、紙面奥側から紙面手前側に向かう方向がZ方向に対応する。
【0034】
図3に示すように、半導体レーザ100では、積層体10は、半導体基板1にエピタキシャル層2を積層した積層方向(以下、単に積層方向とも称する)から平面視した際にリッジ部17aが延在する方向(
図3では、Y方向)に延伸する長手形状にて設けられる。より具体的には、積層体10は、リッジ部17aの延在方向に延伸する略矩形形状にて設けられる。
【0035】
また、リッジ部17aは、積層方向から平面視した際に積層体10の短手方向(
図3では、X方向)の略中央に積層体10の一方の端面6から他方の端面6まで延在するように設けられる。なお、リッジ部17aの上には、図示しない第1電極4が設けられる。
【0036】
リッジ部17aが延在する方向の積層体10の端面6は、積層方向から平面視した際に円弧を含む形状となるようにそれぞれ設けられる。具体的には、端面6は、積層方向から平面視した際に積層体10の略矩形形状の各角部から積層体10に対して凹となる円弧を描くようにそれぞれ設けられてもよい。これによれば、積層体10の短手方向の略中央に設けられたリッジ部17aでは、端面6が描く円弧の曲率が低くなり、端面6が略平面となる。したがって、リッジ部17aが延在する方向の積層体10の端面6は、レーザ共振器の反射面としての機能を備えることができる。
【0037】
例えば、端面6は、積層方向から平面視した際に、積層体10に対して凹となる曲率半径5mm以上の円弧を描くように設けられてもよい。このような場合、積層体10の短手方向の略中央に設けられたリッジ部17aでは、端面6は、導波路領域に対してほぼ垂直となるため、レーザ共振器の反射面としてより良好な形状を有することができる。
【0038】
上記の積層体10の端面6は、複数の半導体レーザ100を2次元状に配列して形成した生産基板から半導体レーザ100を切り出す際に設けられるガイド用の割断溝部をリッジ部17aの延在方向に湾曲するように設けることで形成される。具体的には、半導体レーザ100を生産基板から割断する際に積層体10に設けられるガイド用の割断溝部を積層体10に向かって湾曲するように設けて割断を行うことで、
図2の第1面201の結晶面に沿わない端面6を形成することができる。これにより、半導体レーザ100では、
図2の第1面201の結晶面に沿わない端面6を割断によって形成することができるため、発光層14の面内方向に対する端面6の垂直性を向上させることができる。
【0039】
このような割断によれば、端面6は、凹凸の大きさが0.1μm以下となるような平滑な割断面として形成され得る。また、半導体レーザ100におけるレーザ共振器の反射面として端面6を用いる場合、0.02μm以上の凹凸は許容されるため、端面6における凹凸の大きさは、0.02μm以上0.1μm以下であってもよい。このような凹凸を含む端面6は、半導体レーザ100におけるレーザ共振器の反射面として好適に用いることができる。
【0040】
なお、端面6は、リッジ部17aが設けられた上面から少なくとも発光層14が設けられる深さまでの領域が上記の円弧を含む形状として設けられてもよい。例えば、端面6は、リッジ部17aが設けられた上面から少なくとも2μmの深さまでの領域が上記の円弧を含む形状として設けられてもよい。レーザ共振器の反射面として機能するのは、発光層14の面内方向に存在する積層体10の端面6である。そのため、端面6は、リッジ部17aが設けられた上面から少なくとも発光層14が設けられる深さまでの領域が上記の円弧を含む形状となっていることが好ましい。一方、積層体10の発光層14よりも下方の第1光ガイド層13、第1クラッド層12、バッファ層11、及び半導体基板1の端面6は、
図2の第1面201の結晶面に沿って割断された端面となっていてもよい。
【0041】
さらに、
図3に示すように、積層方向から平面視した際の積層体10の略矩形形状の各角部には、溝断面部7がそれぞれ設けられる。
【0042】
溝断面部7は、複数の半導体レーザ100を2次元状に配列して形成した生産基板から半導体レーザ100の各々を割断する際に設けられるガイド用の割断溝部の残存部である。具体的には、溝断面部7は、リッジ部17aが設けられた積層体10の上面から深さ方向に向かって湾曲するように設けられた溝部の側壁面の残存部である。例えば、溝断面部7は、積層体10の上面からリッジ部17aの延在方向に向かって湾曲する側壁面であってもよい。
【0043】
溝断面部7は、リッジ部17aと離隔して設けられてもよい。例えば、溝断面部7は、リッジ部17aから10μm以上離隔して設けられてもよい。これは、溝断面部7を含むガイド用の割断溝部は、ガイド用の割断溝部を形成するプロセスにて周囲の積層体10にダメージを与える可能性があるためである。溝断面部7をリッジ部17aと離隔して設けることによって、リッジ部17aに対応する領域に設けられた発光に寄与する領域がダメージを受けることを抑制することができる。
【0044】
なお、生産基板から半導体レーザ100の各々を割断する際に設けられるガイド用の割断溝部の詳細については、半導体レーザ100の製造方法の項にて後述する。
【0045】
続いて、
図4A及び
図4Bを参照して、本実施形態に係る半導体レーザ100の変形例について説明する。
図4Aは、変形例に係る半導体レーザ100の平面構造の一例を示す平面図である。
図4Bは、変形例に係る半導体レーザ100の平面構造の他の例を示す平面図である。
図4A及び
図4Bでは、リッジ部17aの延在方向の一方の積層体10の構成を抜き出して示す。
【0046】
図4Aに示すように、半導体レーザ100Aでは、リッジ部17aが延在する方向の積層体10の端面6Aは、積層方向から平面視した際に複数の円弧を含む形状となるように設けられる。具体的には、端面6Aは、積層方向から平面視した際に、積層体10の略矩形形状に対して角を丸めたより小さい矩形形状を凹に掘り込んだ形状となっていてもよい。本変形例によれば、リッジ部17aが設けられた領域の端面6Aが略平面となるのであれば、端面6Aの積層方向から平面視した際の形状は、円弧のみで構成されてもよく、複数の円弧で構成されてもよく、円弧及び直線で構成されてもよい。
【0047】
図4Bに示すように、半導体レーザ100Bでは、リッジ部17aが延在する方向の積層体10の端面6Bは、積層方向から平面視した際に積層体10に対して凸となるように設けられる。具体的には、端面6Bは、積層方向から平面視した際に積層体10の略矩形形状の各角部から積層体10に対して凸となる円弧を描くように設けられてもよい。このような端面6Bは、半導体レーザ100を生産基板から割断する際に積層体10に設けられるガイド用の割断溝部を積層体10から離れるように湾曲して設けることで形成することができる。本変形例によれば、リッジ部17aが設けられた領域の端面6Bが略平面となるのであれば、端面6Bを積層方向から平面視した際の形状は、積層体10に対して凹となる形状であってもよく、凸となる形状であってもよい。
【0048】
<2.半導体レーザの製造方法>
(2.1.製造方法の概要)
次に、
図5~
図7を参照して、本開示の一実施形態に係る半導体レーザ100の製造方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る半導体レーザ100の製造方法の流れを示すフローチャート図である。
【0049】
図5に示すように、まず、複数の半導体レーザ100を2次元状に配置して形成するための半導体基板1を用意する(S100)。半導体基板1は、例えば、六方晶系III族窒化物半導体で形成され、上面1aが半極性面となる基板である。用意された半導体基板1の半極性面は、例えば、サーマルクリーニング等によって清浄化される。
【0050】
次に、半導体基板1の半極性面上に、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、各種半導体層を順にエピタキシャル成長させることで、エピタキシャル層2を形成する(S110)。具体的には、半導体基板1の上面1a上に、バッファ層11、第1クラッド層12、第1光ガイド層13、発光層14、第2光ガイド層15、キャリアブロック層16、第2クラッド層17、及びコンタクト層18を順にエピタキシャル成長させる。
【0051】
続いて、コンタクト層18の表面領域のうち、リッジ部17aが形成される領域にマスクを設け、マスクを設けた領域以外の領域のコンタクト層18、及び第2クラッド層17をエッチングすることで、半導体レーザ100の各々にリッジ部17aを形成する(S120)。その後、マスクを除去し、コンタクト層18、及び第2クラッド層17の表面に、蒸着法又はスパッタ法を用いて絶縁層3を形成する。
【0052】
次に、フォトリソグラフィグ技術を用いて、リッジ部17aの上の絶縁層3を除去してコンタクト層18を露出させた後、露出したコンタクト層18の上に蒸着法又はスパッタ法を用いて第1電極4を形成する(S130)。続いて、半導体基板1の裏面1bを半導体基板1が所望の厚さ(例えば、70μm~80μm程度)になるまで研磨した後、半導体基板1の裏面1bに蒸着法又はスパッタ法を用いて第2電極5を形成する。
【0053】
続いて、半導体基板1及びエピタキシャル層2が積層された積層体10の積層方向の上面において、リッジ部17aの延在方向に隣接する半導体レーザ100の形成領域の各角部に割断溝部(ケガキとも称される)を形成する(S140)。具体的には、割断溝部は、半導体レーザ100の形成領域の各角部にて、積層体10の積層方向の上面から深さ方向に湾曲するように設けられる。
【0054】
ここで、
図6を参照して、割断溝部の断面形状について説明する。
図6は、割断溝部300の断面形状の一例を模式的に示す説明図である。
【0055】
図6に示すように、割断溝部300は、積層体10の積層方向の上面から深さ方向に向かって先端が湾曲するように設けられる。具体的には、割断溝部300は、湾曲方向に割断溝部300を切断した断面において、割断溝部300の中心を通る直線の角度θが0°<θ<75°となるように設けられてもよく、好ましくは10°<θ<45°となるように設けられてもよい。また、割断溝部300の湾曲方向は、例えば、リッジ部17aの延在方向であるY方向(すなわち、
図2の第1面201の結晶面に向かう方向)としてもよい。
【0056】
このような割断溝部300は、例えば、レーザアブレーションによって形成することができる。レーザアブレーションは、照射したレーザ光を対象物が吸収した際の熱によってレーザ光照射位置の対象物を蒸発させることで、対象物の加工を行う手法である。例えば、積層体10に対しては、III族窒化物半導体が吸収可能な波長355nmのレーザを用いることで、レーザアブレーションを行うことができる。
【0057】
具体的には、発振器から出射されたレーザ光を1/4波長板の主面に偏光面を45°傾けて入射させることにより、円偏光のレーザ光を生成する。生成した円偏光のレーザ光をレンズ等で集光し、積層体10に照射することで、先端が湾曲した形状となる割断溝部300を形成することができる。割断溝部300の湾曲角度は、例えば、レーザアブレーションに用いたレーザ光に含まれる円偏光及び直線偏光の割合で変化させることができる。
【0058】
なお、湾曲形状の割断溝部300を形成することができれば、レーザアブレーションに替えて、ドライエッチング等を用いて割断溝部300を形成することも可能である。
【0059】
さらに、後段における積層体10の割断がより円滑に行われるようにするためには、他の形状の割断溝部がさらに設けられてもよい。例えば、積層体10を貫通する割断溝部、又は積層体10の積層方向の上面と反対側の裏面から掘り込まれた裏面割断溝部がさらに設けられてもよい。積層体10に設けられる割断溝部の具体例については、
図8~
図10を参照して後述する。
【0060】
次に、割断溝部を用いて、複数の半導体レーザ100が2次元状に配置された積層体10を割断(劈開)し、リッジ部17aの延在方向に隣接する半導体レーザ100を互いに切り離すことで、積層体10をバー状に加工する(S150)。具体的には、積層体10の裏面にブレードを当てて、積層方向の上面から積層体10を開くように割断することで、積層体10をバー状に加工することができる。
【0061】
ここで、
図7を参照して、割断溝部を用いた積層体10の割断方法について説明する。
図7は、割断溝部を用いて積層体10を割断する方法を模式的に示す説明図である。
【0062】
図7に示すように、ブレイキング装置を用いて、裏面が上を向くように積層体10を2つの受け刃401、402で支持し、割断予定位置に裏面からブレード403を当てることで、積層体10の割断を行うことができる。割断予定位置は、例えば、割断溝部が設けられた各角部を含む半導体レーザ100の形成領域の境界である。これにより、積層体10の積層方向の上面(すなわち、ブレード403を当てた裏面の反対側の面)が開くように割断(劈開)するため、積層体10がバー状に割断される。
【0063】
これにより、リッジ部17aの延在方向の積層体10の端面6は、平滑かつ平坦に形成されるため、レーザ共振器の反射面として用いることが可能となる。また、本実施形態に係る半導体レーザ100の製造方法では、割断溝部を積層体10の深さ方向に第1面201の結晶面に向かって湾曲させることによって、第1面201の結晶面に沿わないように積層体10を割断することができる。よって、割断された積層体10の端面6は、円弧を含む形状となるため、リッジ部17aが設けられた領域では、端面6は、リッジ部17aの延在方向と直交する略平面となる。したがって、本実施形態に係る半導体レーザ100の製造方法によれば、レーザ共振器の導波路領域に対して傾斜していない端面を得ることが可能である。
【0064】
続いて、バー状に加工した積層体10を切断し、半導体レーザ100の各々を分離することで、半導体レーザ100を1つのチップ単位に個片化する(S160)。その後、個片化された半導体レーザ100は、制御回路、及び電源回路等と共に組み立てられることで、製品として製造される(S170)。
【0065】
(2.2.割断溝部の具体例)
続いて、
図8~
図10を参照して、本実施形態に係る半導体レーザ100の製造方法にて設けられる割断溝部の具体例について説明する。
【0066】
図8~
図10は、割断溝部の具体例を示す積層体10の断面図、又は平面図である。
図8は、隣接する半導体レーザ100の形成領域の境界にて積層体10をZ方向に切断した断面図を示す。
図9は、積層体10の積層方向の上面を平面視した平面図を示し、
図10は、積層体10の積層方向の上面と反対側の裏面を平面視した平面図を示す。例えば、
図8に示す断面図は、
図9及び
図10に示す平面図のA-AA線で切断した断面図に対応する。
図8~
図10では、積層体10の積層方向をZ方向とし、リッジ部17aの延在方向をY方向とし、Z方向及びY方向と互いに直交する方向をX方向とする。
【0067】
図8~
図10に示すように、Y方向に隣接する半導体レーザ100の形成領域の境界には、半導体レーザ100におけるレーザ共振器の反射面を割断(劈開)するために、レーザアブレーション等によって割断溝部300が形成される。具体的には、割断溝部300は、湾曲割断溝部301、貫通割断溝部302、及び裏面割断溝部303を含む。
【0068】
湾曲割断溝部301は、積層体10の上面の隣接する半導体レーザ100の間に、先端がリッジ部17aの延在方向に湾曲するように設けられる。例えば、湾曲割断溝部301は、リッジ部17aからX方向に10μm以上離れた位置の半導体レーザ100の形成領域の境界に、深さが5μm以上40μm以下となるように設けられてもよい。湾曲割断溝部301の深さが上記の範囲である場合、積層体10の割断を容易に行うことができ、かつ積層体10へのダメージが過度になることを抑制することができる。湾曲割断溝部301のY方向の幅は、積層体10へのダメージを抑制するためには、狭いほどよいが、例えば、5μm以下であることが好ましい。湾曲割断溝部301の湾曲角度は、例えば、0°超75°未満、好ましくは10°超45°未満としてもよい。湾曲割断溝部301が設けられることによって、積層体10は、割断された半導体レーザ100が所望の円弧を含む端面を有するように割断される。
【0069】
貫通割断溝部302は、積層体10の上面から裏面にかけて積層体10を貫通して設けられる。例えば、貫通割断溝部302は、半導体レーザ100の形成領域の境界の交点に、X方向の幅が3μm以上30μm以下、かつY方向の幅が10μm以下となるように設けられてもよい。貫通割断溝部302は、積層体10の端面6を積層方向から平面視した際に円弧を含む形状とするために、より効果的な割断溝部である。貫通割断溝部302が設けられることによって、積層体10は、より容易に、端面6が円弧を含む形状となるように割断される。
【0070】
裏面割断溝部303は、積層体10の裏面の隣接する半導体レーザ100の間に、短い間隔を空けて複数設けられる。例えば、裏面割断溝部303は、Y方向に隣接する半導体レーザ100の形成領域の境界に、X方向の幅が8μm程度、かつ深さが35μmの溝を互いに2μ程度の間隔を空けて破線状に形成することで設けられてもよい。裏面割断溝部303が設けられることによって、積層体10は、より容易に割断されるようになる。
【0071】
なお、これらの割断溝部300は、レーザアブレーションに替えて、ドライエッチングによって形成することも可能である。
図11を参照して、ドライエッチングにて割断溝部300を形成する変形例について説明する。
図11は、割断溝部300の変形例を示す積層体10の平面図である。
図11では、ドライエッチングを用いる場合の積層体10の積層方向の上面を平面視した平面図を示す。
図11では、積層体10の積層方向をZ方向とし、リッジ部17aの延在方向をY方向とし、Z方向及びY方向と互いに直交する方向をX方向とする。
【0072】
図11に示すように、ドライエッチングを用いて割断溝部300を形成する場合、割断溝部300は、湾曲割断溝部301に替えて、ガイド割断溝部304を含む。
【0073】
ガイド割断溝部304は、Y方向に隣接する半導体レーザ100の端面6を円弧が含まれる形状に割断(劈開)することを促す平面形状を有する溝である。具体的には、ガイド割断溝部304は、リッジ部17aからX方向に離れた位置の半導体レーザ100の形成領域の境界に設けられ、端部がリッジ部17aに対して斜交するように曲がった形状にて設けられる。例えば、ガイド割断溝部304は、両端部がリッジ部17aに対して二股に分かれた直線形状にて設けられてもよい。ガイド割断溝部304が設けられることによって、半導体レーザ100のY方向の端面の割断は、半導体レーザ100の形成領域の各角部からリッジ部17aに向かって斜めに行われるようになる。これにより、半導体レーザ100のY方向の端面は、半導体レーザ100の形成領域の各角部を円弧で結んだ形状に形成されやすくなる。したがって、このような製造方法を用いた場合でも、本実施形態に係る半導体レーザ100を製造することが可能である。
【0074】
<3.まとめ>
以上にて説明したように、本実施形態に係る半導体レーザ100では、リッジ部17aの延在方向の端面6の各々を円弧が含まれる形状とすることで、光導波路領域に対して傾斜していないレーザ共振器の反射面を得ることができる。これによれば、半導体レーザ100は、レーザ光の発光特性を向上させることができると共に、特性ばらつきを抑制することができる。具体的には、半導体レーザ100は、しきい電流値、スロープ効率、及びこれらの特性のばらつきを抑制することができる。また、半導体レーザ100は、FFP(Far Field Pattern)スペクトルの光軸ずれ、及び該特性のばらつきを抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る半導体レーザ100では、レーザ共振器の反射面の凹凸を抑制することができる。これによれば、半導体レーザ100は、静電気放電(Electro Static Discharge:ESD)に対する耐性、光学損傷(Catastrophic Optical Damage:COD)に対する耐性、及び長期信頼性を向上させることができる。
【0076】
以上、実施形態、及び変形例を挙げて、本開示にかかる技術を説明した。ただし、本開示にかかる技術は、上記実施の形態等に限定されるわけではなく、種々の変形が可能である。例えば、本開示に係る技術は、AlGaAs/GaAs系材料を用いた半導体レーザに対して適用することも可能である。
【0077】
さらに、各実施形態で説明した構成および動作の全てが本開示の構成および動作として必須であるとは限らない。たとえば、各実施形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素として理解されるべきである。
【0078】
本明細書および添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるとして記載された様態に限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するとして記載された様態に限定されない」と解釈されるべきである。
【0079】
本明細書で使用した用語には、単に説明の便宜のために用いており、構成及び動作を限定する目的で使用したわけではない用語が含まれる。たとえば、「右」、「左」、「上」、「下」などの用語は、参照している図面上での方向を示しているにすぎない。また、「内側」、「外側」という用語は、それぞれ、注目要素の中心に向かう方向、注目要素の中心から離れる方向を示しているにすぎない。これらに類似する用語や同様の趣旨の用語についても同様である。
【0080】
なお、本開示にかかる技術は、以下のような構成を取ることも可能である。以下の構成を備える本開示にかかる技術によれば、リッジ部の延在方向の積層体の端面を光導波路領域に対して傾斜していない略垂直な端面とすることができるため、半導体レーザにおけるレーザ共振器の特性をより良好にすることができる。このような半導体レーザによれば、出射されるレーザ光の特性を向上させると共に、特性ばらつきを低減することができる。本開示にかかる技術が奏する効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるわけではなく、本開示中に記載されたいずれの効果であってもよい。
(1)
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記両端面は、前記積層体に対して凸又は凹となるように設けられると共に、前記リッジ部に対応する領域で略平面となるように設けられる、半導体レーザ。
(2)
前記両端面は、前記リッジ部に対応する領域では、少なくとも前記発光層が設けられる深さまで略平面となるように設けられる、上記(1)に記載の半導体レーザ。
(3)
前記両端面のうち、前記略平面となる領域における凹凸の大きさは、0.02μm以上0.1μm以下である、上記(1)又は(2)に記載の半導体レーザ。
(4)
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
(5)
前記溝断面部は、前記延在方向に向かって湾曲する、上記(4)に記載の半導体レーザ。
(6)
前記溝断面部は、前記リッジ部と離隔して設けられる、上記(4)又は(5)に記載の半導体レーザ。
(7)
前記溝断面部は、前記積層体を貫通して設けられる、上記(4)~(6)のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
(8)
前記積層体には、前記上面と対向する下面に裏面溝断面部がさらに設けられる、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
(9)
前記第1クラッド層、前記第2クラッド層、及び前記発光層は、前記半導体基板の半極性主面の上に積層される、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
(10)
前記半導体基板は、六方晶系III族窒化物半導体で設けられる、上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
(11)
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、半導体レーザ。
(12)
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記両端面は、前記積層体に対して凸又は凹となるように設けられると共に、前記リッジ部に対応する領域で略平面となるように設けられる、半導体レーザであって、
前記第1導電型の前記第1クラッド層と、前記第2導電型の前記第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた前記発光層とを前記半導体基板の上に積層し、前記積層体を形成する工程と、
前記上面にて一方向に延在する凸構造の前記リッジ部を形成する工程と、
前記上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、
前記上面から前記積層体を平面視した際に前記延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように前記積層体を個片化する工程と
を含む、半導体レーザの製造方法。
(13)
前記割断溝部は、レーザアブレーションによって形成される、上記(12)に記載の半導体レーザの製造方法。
(14)
前記レーザアブレーションは、円偏光レーザによって行われる、上記(13)に記載の半導体レーザの製造方法。
(15)
前記割断溝部の湾曲角度は、0°超75°未満である、上記(12)~(14)のいずれか一項に記載の半導体レーザの製造方法。
(16)
前記積層体の個片化は、前記積層体を劈開することで行われる、上記(12)~(15)のいずれか一項に記載の半導体レーザの製造方法。
(17)
第1導電型の第1クラッド層と、第2導電型の第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた発光層とを半導体基板の上に積層した積層体と、
前記積層体の積層方向の上面にて一方向に延在する凸構造として設けられるリッジ部と、
を備え、
前記積層体は、前記上面から前記積層体を平面視した際に、前記リッジ部の延在方向の両端面が円弧を含む形状となるように設けられ、
前記上面から平面視した際の前記積層体の平面形状は、前記延在方向に延伸する長手形状であり、
前記積層体の前記長手形状の角部には、前記積層体の前記上面から深さ方向に向かって湾曲する溝断面部が設けられる、半導体レーザであって、
前記第1導電型の前記第1クラッド層と、前記第2導電型の前記第2クラッド層と、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の間に設けられた前記発光層とを前記半導体基板の上に積層し、前記積層体を形成する工程と、
前記上面にて一方向に延在する凸構造の前記リッジ部を形成する工程と、
前記上面から深さ方向に向かって湾曲する割断溝部を形成する工程と、
前記上面から前記積層体を平面視した際に前記延在方向の両端部が円弧を含む形状となるように前記積層体を個片化する工程と
を含む、半導体レーザの製造方法。
【0081】
本出願は、日本国特許庁において2019年11月21日に出願された日本特許出願番号第2019-210558号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0082】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。