IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図1
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図2
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図3
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図4
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図5
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図6
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図7
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図8
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図9
  • 特許-生体内植え込み型医療装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】生体内植え込み型医療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/378 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
A61N1/378
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021572960
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031478
(87)【国際公開番号】W WO2021149292
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020009290
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貝和 航陽
(72)【発明者】
【氏名】長井 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】細谷 達也
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0171420(US,A1)
【文献】特表2018-501021(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190095(WO,A1)
【文献】特許第5041610(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/378
H02J 7/00
H02J 50/10
H02J 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する本体部と前記開口部を塞ぐように設けられた突出部とを有し、密閉された内部空間を形成する筐体と、
前記内部空間における前記突出部によって形成された部分に配置され、外部にある送電コイルに交流電流が流れて発生する外部磁束を鎖交させて電力を受ける受電コイルと、
前記受電コイルに電気的に接続された受電回路が設けられ、前記受電コイルより前記突出部の突出端から離れて前記内部空間に配置された回路基板と
前記受電コイルと前記回路基板との間に配置された磁性シートと、
備え、
前記本体部は金属系の生体適合材で形成され、前記突出部は非金属系の生体適合材で形成され、
前記本体部は、天板部、底板部および側壁部で構成され、
前記開口部は、前記底板部の一部を残す形状で形成され、
前記受電コイルと前記磁性シートは、前記底板部の外面よりも前記突出端側に配置され、
前記受電コイルは、前記受電コイルの等価的キャパシタを用いて受電共振回路を構成し、
前記受電コイルと前記送電コイルとの間で電磁界共鳴フィールドを形成し、
前記受電共振回路を備えて前記受電コイルに共振電流を流すことにより磁束を発生させて前記磁性シートを通る磁路を形成することで、前記受電コイルに前記外部磁束が鎖交する磁路において磁束密度を大きくし、
前記突出部は、前記外部磁束が通る磁路に対して、前記本体部を避けて前記受電コイルに磁束が鎖交する前記磁性シートを通る磁路を形成する構造であり、前記外部磁束が前記本体部に鎖交することにより発生する渦電流による渦電流損失を低減するように設けられる、生体内植え込み型医療装置。
【請求項2】
前記受電コイルに共振電流を流すことにより、前記本体部を避けて前記受電コイルに磁束が鎖交する前記磁路において磁束密度を大きくして、大きな受電電力を得て、かつ、前記外部磁束が前記本体部に鎖交することにより発生する渦電流による渦電流損失を低減する、請求項1に記載の生体内植え込み型医療装置。
【請求項3】
前記受電コイルは、一層の渦巻き状の導体パターンで構成され、前記受電コイルの巻回軸方向は、前記突出部の突出方向に実質的に一致して前記突出端を形成する面に実質的に直交するように配置されることで、前記本体部を避けて前記受電コイルに磁束が鎖交する前記磁性シートを通る磁路を形成する、請求項1又は2に記載の生体内植え込み型医療装置。
【請求項4】
前記磁性シートは、前記内部空間における前記突出部によって形成された部分に配置され、前記本体部を避けて前記受電コイルに磁束が鎖交する磁路を形成する、請求項3に記載の生体内植え込み型医療装置。
【請求項5】
前記非金属系の生体適合材は、サファイア、ルビー、ガラス、又はセラミックである、請求項1から4の何れかに記載の生体内植え込み型医療装置。
【請求項6】
前記金属系の生体適合材は、チタン又はチタン合金を主成分とする材料である、請求項1から5の何れかに記載の生体内植え込み型医療装置。
【請求項7】
前記突出部の突出方向における前記本体部の寸法は、前記突出部が突出する長さより長く、前記突出部の突出方向に直交する任意の方向における前記本体部の寸法より短い、請求項1から6の何れかに記載の生体内植え込み型医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や動物などの生体内に植え込んで(埋め込んで)利用され、生体外からワイヤレスで電力を供給して給電する生体内植え込み型医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内植え込み型医療装置に適用される様々な技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、ペースメーカとして用いられる生体内植え込み型医療装置が開示されている。この生体内植え込み型医療装置は、筐体、受電コイル、二次電池、及び駆動装置を備える。筐体は、受電コイル、二次電池、及び駆動装置を収容している。受電コイルは体外から電磁誘導により磁束を鎖交させて電力を受ける。二次電池は受電コイルが受けた電力を蓄える。駆動装置は二次電池を電源として駆動する。駆動装置は、例えば、心電データに基づいてペーシングを行う制御回路を有する。
【0004】
また、特許文献2には、ペースメーカ等に用いられるワイヤレス充電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-164192号公報
【文献】特許第5041610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された生体内植え込み型医療装置では、受電コイルを収容する筐体が金属製である。このため、ワイヤレス給電のために生成される磁束によって筐体に渦電流が発生し、渦電流損失により筐体が発熱する。その結果、生体内植え込み型医療装置を植え込まれた生体に悪影響が出るおそれがある。また、受電コイルと送電コイルとの磁気的な結合を高めることが容易ではなく、受電における電力効率を向上させることが難しい。特許文献2に開示されたワイヤレス充電装置でも、筐体が金属製であるため、同様の問題が生じる。
【0007】
一方、生体内植え込み型医療装置の筐体が非金属材料で形成されれば、ワイヤレス給電においても筐体に渦電流が発生せず、渦電流損失により筐体が発熱することを抑制できる。また、受電コイルと送電コイルとの磁気的な結合が妨げられることもない。しかし、一般に、生体適合性に優れた非金属材料として知られるサファイア、ルビー、ガラス、又はセラミックの加工は容易ではなく、これらの材料から筐体を形成することは困難である。
【0008】
本発明の目的は、ワイヤレス給電のために生成される磁束によって筐体に渦電流が発生し、渦電流損失により筐体が発熱することを低減でき、受電における電力効率が高い生体内植え込み型医療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生体内植え込み型医療装置は、開口部を有する本体部と前記開口部を塞ぐように設けられた突出部とを有し、密閉された内部空間を形成する筐体と、前記内部空間における前記突出部によって形成された部分に配置され、外部にある送電コイルに交流電流が流れて発生する外部磁束を鎖交させて電力を受ける受電コイルと、前記受電コイルに電気的に接続された受電回路が設けられ、前記受電コイルより前記突出部の突出端から離れて前記内部空間に配置された回路基板と、を備え、前記本体部は金属系の生体適合材で形成され、前記突出部は非金属系の生体適合材で形成され、前記突出部は、前記外部磁束が通る磁路に対して、前記本体部を避けて前記受電コイルに磁束が鎖交する磁路を形成する構造であり、前記外部磁束が前記本体部に鎖交することにより発生する渦電流による渦電流損失を低減するように設けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワイヤレス給電のために生成される磁束によって筐体に渦電流が発生し、渦電流損失により筐体が発熱することを低減でき、受電における電力効率が高い生体内植え込み型医療装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の第1の実施形態に係る生体内植え込み型医療装置10の外観斜視図である。
図2図2は生体内植え込み型医療装置10の断面図である。
図3図3はコイル基板12の平面図である。
図4図4は本発明の第1の実施形態に係る給電システムの断面図である。
図5図5は本発明の第1の実施形態に係る給電システムの回路構成を示すブロック図である。
図6図6は本発明の第1の実施形態の変形例に係る生体内植え込み型医療装置の断面図である。
図7図7は本発明の第2の実施形態に係る給電システムの断面図である。
図8図8は本発明の第3の実施形態に係る給電システムの断面図である。
図9図9は、第4の実施形態に係る生体内植え込み型医療装置の、送電装置の送電部と生体内植え込み型医療装置の受電部とで構成される給電系の回路図である。
図10図10図9に示される給電系の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、本発明を実施するための複数の形態を示す。各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能である。各々の実施形態では、その実施形態以前に説明した点と異なる点について説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0013】
《第1の実施形態》
図1は本発明の第1の実施形態に係る生体内植え込み型医療装置10の外観斜視図である。図2は生体内植え込み型医療装置10の断面図である。図3はコイル基板12の平面図である。図3では、受電コイル23の両端からの引き出し配線の図示を省略している。図4は本発明の第1の実施形態に係る給電システムの断面図である。図5は本発明の第1の実施形態に係る給電システムの回路構成を示すブロック図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、生体内植え込み型医療装置10は、筐体11、コイル基板12、磁性シート13、回路基板14、蓄電デバイス15、フィードスルー16、及び生体センサ17を備える。筐体11は本体部31及び突出部41を有する。コイル基板12は受電コイル23を有する。
【0015】
本体部31は開口部22を有する。突出部41は開口部22を塞ぐように設けられる。筐体11は密閉された内部空間21を形成する。受電コイル23は、内部空間21における突出部41によって形成された部分に配置される。受電コイル23は、筐体11の外部にある送電コイル63(図4参照)に交流電流が流れて発生する外部磁束φを鎖交させて電力を受ける。回路基板14には、受電コイル23に電気的に接続された受電回路25(図5参照)が設けられる。回路基板14は受電コイル23より突出部41の突出端から離れて内部空間21に配置される。本体部31は金属系の生体適合材で形成される。突出部41は、磁性を有しない非金属系の生体適合材で形成される。突出部41は、外部磁束φが通る磁路に対して、本体部31を避けて受電コイル23に磁束が鎖交する磁路を形成する構造であり、外部磁束φが本体部31に鎖交することにより発生する渦電流による渦電流損失を低減するように設けられる。
【0016】
本体部31は、天板部、底板部、及び側壁部で構成される。開口部22は本体部31の底板部に形成される。突出部41は本体部31の底板部から突出するように設けられる。突出部41は底板部及び側壁部で構成される。突出部41の底板部は上記の突出部41の突出端に相当する。本体部31と突出部41は例えば生体適合性を有する接着剤で接合される。
【0017】
本体部31の厚みTは、突出部41が突出する長さLより長く、本体部31の幅(本体部31の天板部の直径)Wより短い。即ち、突出部41の突出方向における本体部31の寸法は、突出部41が突出する長さより長く、突出部41の突出方向に直交する任意の方向における本体部31の寸法より短い。本体部31の幅Wは例えば30mm程度である。
【0018】
なお、本体部31及び突出部41は、平面視で(突出部41の突出方向から見て)円形状であるが、平面視で方形形状又は他の形状を有してもよい。
【0019】
本体部31を形成する金属系の生体適合材は、チタン又はチタン合金を主成分とする材料であることが好ましい。例えば、本体部31は、純チタン、又はTi-6Al-4V等のチタン合金からなる。又は、セラミックの粉末と上記チタン合金の粉末との混合物の焼結材である。本体部31に、このような金属系の生体適合材を用いることによって、生体への影響及び生体からの影響を抑制できる。また、本体部31にチタン材を用いることによって、本体部31の軽量化及び耐久性の向上を実現できる。
【0020】
金属系の生体適合材としては、上記のとおり、チタン又はチタン合金を主成分にする材料であることが好ましいが、金属系の生体適合材として、ステンレス鋼においてクロムやモリブデンを含む材料や、Co-Cr合金等も利用可能である。金属系の生体適合材としては、環境や応力等への耐久性が得られる材料であることが好ましく、例えば、ヤング率が100GPa以上の材料であることがより好ましい。
【0021】
突出部41を形成する非金属系の生体適合材は、サファイア、ルビー、ガラス、又はセラミックであることが好ましい。突出部41に、このような非金属系の生体適合材を用いることによって、生体への影響及び生体からの影響を抑制できる。
【0022】
環境に対する耐久性の面で、上記セラミックとしては、化学式Al2O3で表されるファインセラミックスであることが好ましい。加工の容易性に重点をおく場合には、非金属系の生体適合材にはガラスを用いることが好ましい。また、非金属系の生体適合材には、耐久性に優れた強化ガラスを用いてもよい。
【0023】
突出部41は、例えば板状の非金属系の生体適合材を切削して掘り込むことで形成される。
【0024】
なお、図6に示すように、突出部41に代えて、突出部42が設けられてもよい。突出部42は、生体適合性を有する接着剤で接合された底板部421及び側壁部422で構成される。
【0025】
コイル基板12、磁性シート13、及び回路基板14は、突出部41の底板部にこの順に積層される。
【0026】
コイル基板12は突出部41の底板部に当接するように配置される。換言すると、コイル基板12は本体部31の外部に配置される。コイル基板12は絶縁性基体及び受電コイル23で構成される。受電コイル23は生体外からの磁束を鎖交させて電力を受ける。図3に示すように、受電コイル23は、例えば絶縁性基体内の一層に渦巻き(スパイラル)状に導体パターンで形成される。受電コイル23の巻回軸方向は突出部41の突出方向に実質的に一致する。受電コイル23は後述の回路基板14の導体パターン(図示せず)に電気的に接続される。
【0027】
なお、コイル基板12及び受電コイル23の外形は、平面視で円形状であるが、平面視で方形形状又は他の形状を有してもよい。また、受電コイル23は、絶縁性基体の主面上に形成されてもよいし、絶縁性基体に複数層に亘って形成されてもよい。
【0028】
磁性シート13は受電コイル23と回路基板14との間に配置される。磁性シート13は、内部空間21における突出部41によって形成された部分に配置される。換言すると、磁性シート13は本体部31の外部に配置される。磁性シート13により、本体部31をさらに避けて受電コイル23に磁束が鎖交する磁路が形成される。磁性シート13は、平面視で、本体部31の開口部22より小さく、受電コイル23の外形及び回路基板14より大きい。受電コイル23の外形より大きい磁性シート13を受電コイル23と回路基板14との間に配置することで、外部磁束φが回路基板14及び蓄電デバイス15に影響を及ぼすことを防止できる。
【0029】
なお、磁性シート13は、本体部31の内部に配置されてもよいし、平面視で開口部22より大きくてもよい。また、磁性シート13は、本体部31に接触しないことが好ましいが、本体部31に幾分接触してもよい。
【0030】
回路基板14は、導体パターンが形成された絶縁性基体、及びこの絶縁性基体に実装された複数の電子部品24を有する。電子部品24は、例えば、生体センサ、IC、受動素子である。回路基板14の導体パターン及び電子部品24は、後述の電源系、信号処理系、及び演算系の回路を構成する。
【0031】
蓄電デバイス15は、回路基板14上に設けられ、回路基板14の導体パターンに電気的に接続される。蓄電デバイス15は例えば薄型の二次電池である。蓄電デバイス15は、受電コイル23が受けた電力を蓄電する。
【0032】
フィードスルー16は本体部31の側壁部又は天板部に設けられる。生体センサ17はフィードスルー16を介して筐体11外へ引き出される。生体センサ17は、フィードスルー16を介して筐体11内の回路基板14の導体パターンに電気的に接続される。
【0033】
図4に示すように、第1の実施形態に係る給電システムは生体内植え込み型医療装置10及び送電装置50を備える。生体内植え込み型医療装置10は生体内に配置され、送電装置50は生体外に配置される。生体内植え込み型医療装置10は、突出部41の突出方向が生体の外側を向くように配置される。
【0034】
送電装置50は、筐体51、コイル基板52、磁性シート53、及び回路基板54を備える。筐体51は樹脂等の非金属材料から形成される。コイル基板52、磁性シート53、及び回路基板54は筐体51の内部空間61に配置される。コイル基板52は絶縁性基体及び送電コイル63を有する。回路基板54は、導体パターン(図示せず)が形成された絶縁性基体、及びこの絶縁性基体に実装された複数の電子部品64を有する。送電コイル63は、例えば絶縁性基体内の一層にスパイラル状に導体パターンで形成される。送電コイル63は回路基板54の導体パターンに電気的に接続される。電子部品64は、例えば、電源用IC、受動素子である。回路基板54の導体パターン及び電子部品64は後述の送電装置50の回路を構成する。磁性シート53はコイル基板52の主面に当接するように設けられる。
【0035】
送電装置50は、送電コイル63が受電コイル23に対して所定の位置関係となるように、生体内植え込み型医療装置10に近接して配置される。その際、送電装置50は、送電コイル63が磁性シート13と磁性シート53との間に挟まれるように配置される。このような配置状態で、送電コイル63と受電コイル23とは磁気的に結合し、送電装置50から生体内植え込み型医療装置10に電力が供給される。この電力は、蓄電デバイス15に蓄電され、電子部品24等に供給される。
【0036】
送電コイル63及び受電コイル23は、給電において、磁性シート13と磁性シート53との間に挟まれるように配置される。これにより、送電コイル63と受電コイル23との間の磁気的な結合が強まるので、受電における電力効率が向上する。
【0037】
図5に示すように、送電装置50には、送電コイル63、それに電気的に接続された送電回路、通信回路、及びマイクロプロセッサ等が設けられる。生体内植え込み型医療装置10には、受電コイル23、受電回路25、及び蓄電デバイス15が設けられる。受電回路25は、整合回路、EMIフィルタ、整流回路、及び充電回路を有する。これらの回路によって電源系の回路が構成される。また、生体内植え込み型医療装置10には、通信回路、マイクロプロセッサ、及びI/O回路が設けられる。これらの回路によって信号処理系及び演算系の回路が構成される。上記通信回路はキャパシタCを介して受電コイル23に電気的に接続される。
【0038】
上記整合回路はインピーダンス整合をとる。EMIフィルタは電磁ノイズ成分を除去する。整流回路は、受電コイル23が受けた交流電力を直流電力に変換する。充電回路は整流回路から出力される直流電力で蓄電デバイス15を充電制御する。
【0039】
上記I/O回路は、それに電気的に接続される各種センサに対する信号の入出力を行う。マイクロプロセッサは所定の信号処理及び演算処理を行う。通信回路は、送電装置50、又は計測装置、診療装置等の他の外部装置に対してデータを出力する。このデータ出力は、受電コイル23に流れる電流に所定フォーマットの信号を重畳させることによって行われる。マイクロプロセッサや通信回路は蓄電デバイス15を電源として動作する。
【0040】
このような回路構成により、生体内植え込み型医療装置10はワイヤレスで受電や通信を行うことができる。
【0041】
なお、マイクロプロセッサと、I/O回路に電気的に接続された所定の回路とによって、例えば、心電データに基づいてペーシングを行う制御回路や、生体信号をセンシングして得られた信号を処理する信号処理回路、筋肉に電気信号を与える生体信号発生回路が構成されてもよい。
【0042】
第1の実施形態によれば、受電コイル23は、内部空間21における突出部41によって形成された部分に配置される。このため、ワイヤレス給電において、近接して配置された送電コイル63及び受電コイル23は、本体部31から離れて配置される。その結果、外部磁束φが通る磁路に対して、本体部31を避けて受電コイル23に磁束が鎖交する磁路が形成される。本体部31は金属系の生体適合材で形成され、突出部41は非金属系の生体適合材で形成される。従って、外部磁束φが筐体11に鎖交することによって筐体11に渦電流が発生し、渦電流損失により筐体11が発熱することを低減できる。
【0043】
また、送電コイル63と受電コイル23とは、金属系の生体適合材ではなく、非金属系の生体適合材を介して対向する。このため、送電コイル63と受電コイル23との間の磁気的な結合が妨げられることはなく、受電における高い電力効率が得られる。
【0044】
また、第1の実施形態によれば、加工が容易な金属系の生体適合材が筐体11の主な部分に用いられ、非金属系の生体適合材が筐体11の一部だけに用いられる。このため、筐体11の作製はそれほど困難ではない。
【0045】
また、磁性シート13は、受電コイル23と本体部31との間に配置され、本体部31に接触しない。このため、外部磁束φが本体部31により到達しにくくなり、外部磁束φが本体部31に鎖交することがより低減される。
【0046】
また、コイル基板12は本体部31に接触しないように配置される。このため、ワイヤレス給電の場合に受電コイル23で発生した熱が本体部31に伝わり難く、本体部31の温度上昇が抑制される。
【0047】
《第2の実施形態》
図7は本発明の第2の実施形態に係る給電システムの断面図である。この給電システムは生体内植え込み型医療装置70及び送電装置80を備える。生体内植え込み型医療装置70は、筐体71、コイル基板12、回路基板14、及び蓄電デバイス15を備える。筐体71は本体部32及び突出部41を有する。
【0048】
本体部32は薄型の箱状に形成される。本体部32は、天板部、底板部、及び側壁部で構成される。本体部32の底板部はその端部の傍に開口部22を有する。突出部41は開口部22を塞ぐように設けられる。コイル基板12、回路基板14、及び蓄電デバイス15は筐体71の内部空間21に設けられる。コイル基板12は突出部41の底板部上に配置される。回路基板14及び蓄電デバイス15は本体部32の内部に配置される。コイル基板12、回路基板14、及び蓄電デバイス15は、本体部32の幅方向に並ぶように配置される。生体内植え込み型医療装置70及び送電装置80には磁性シートが設けられていない。
【0049】
第2の実施形態によれば、回路基板14及び蓄電デバイス15は本体部32の幅方向に受電コイル23から離れて配置される。このため、外部磁束φは回路基板14及び蓄電デバイス15にあまり到達しない。その結果、磁性シートが設けられていなくても、外部磁束φは回路基板14及び蓄電デバイス15に影響を及ぼさない。
【0050】
《第3の実施形態》
図8は本発明の第3の実施形態に係る給電システムの断面図である。この給電システムは生体内植え込み型医療装置90及び送電装置50を備える。
【0051】
生体内植え込み型医療装置90は第2の実施形態に係る生体内植え込み型医療装置70と次の点で異なる。回路基板14の一部は平面視で受電コイル23に重なる。生体内植え込み型医療装置90はコイル基板12の主面に当接した磁性シート13を備える。磁性シート13は受電コイル23と回路基板14の間に配置される。
【0052】
第3の実施形態によれば、磁性シート13が回路基板14への外部磁束φの到達を抑制する。このため、回路基板14は、平面視で受電コイル23に重なるように配置されても、外部磁束φの影響を受けない。
【0053】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、生体内植え込み型医療装置の受電コイルと、その筐体の外部にある送電コイルとの間に電磁界共鳴フィールドを形成して、送電コイルから電力を受電する生体内植え込み型医療装置について示す。
【0054】
図9は、第4の実施形態に係る生体内植え込み型医療装置の、送電装置の送電部と生体内植え込み型医療装置の受電部とで構成される給電系の回路図である。図10図9に示される給電系の等価回路図である。
【0055】
送電部の入力部には入力電源Viを備える。送電部は、送電コイルnpと、この送電コイルnpに電気的に接続された交流電流発生回路とを備える。受電部は、受電コイルnsと、この受電コイルnsに電気的に接続された受電回路とを備える。
【0056】
送電コイルnp及び受電コイルnsはそれぞれヘリカル状のコイルであり、それぞれ中央部を入出力部としている。そのため、送電コイルnpは等価的インダクタンスLp,Lmp,Lrp及び等価的キャパシタンスCrpを有し、これらによって送電共振回路を構成している。同様に、受電コイルnsは等価的インダクタンスLs,Lms,Lrs及び等価的キャパシタンスCrsを有し、これらによって受電共振回路を構成している。そして、この二つのヘリカル状コイルは巻回軸がほぼ揃っている(ほぼ同軸)であることにより、送電コイルnpと受電コイルnsとの間に、電界エネルギー及び磁界エネルギーが相互に作用して電磁界共鳴フィールドが形成される。
【0057】
上記交流電流発生回路は、等価的にスイッチング素子Q1、ダイオードDds1及びキャパシタCds1の並列接続回路で構成される第1スイッチ回路と、等価的にスイッチング素子Q2、ダイオードDds2及びキャパシタCds2の並列接続回路で構成される第2スイッチ回路とを備える。
【0058】
スイッチング素子Q1,Q2は図外のスイッチング制御回路によってスイッチング制御される。スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2は交互にオン/オフされることにより、送電コイルnpに交流電圧交流電流を供給する。
【0059】
上記スイッチング制御回路はスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2を所定の動作周波数でスイッチングすることで、直流電圧を上記送電共振回路に断続的に与えて共振電流を発生させる。これにより、第1スイッチ回路及び第2スイッチ回路の両端電圧を半周期毎の半波の正弦波状の波形とする。例えば、国際的なISM(Industrial, Scientific and Medical)バンドである6.78MHzや13.56MHzでスイッチング動作させる。
【0060】
上記受電回路は、等価的にスイッチング素子Q3、ダイオードDds3及びキャパシタCds3の並列接続回路で構成される第3スイッチ回路、等価的にスイッチング素子Q4、ダイオードDds4及びキャパシタCds4の並列接続回路で構成される第4スイッチ回路、及び平滑用キャパシタCoを備える。第3スイッチ回路及び第4スイッチ回路は、受電コイルnsに生じる共振電流を整流する受電整流回路を構成する。
【0061】
スイッチング素子Q3,Q4は図外のスイッチング制御回路によって制御され、受電コイルnsに流れる共振電流の方向の変化に同期して整流が行われ、負荷Roに直流電流が供給される。
【0062】
第4の実施形態では、受電共振回路を備えて受電コイルnsに共振電流を流すことにより、本体部31(図4参照)を避けて受電コイルnsに磁束が鎖交する磁路において磁束密度を大きくして、大きな受電電力を得て、かつ、外部磁束φが本体部31に鎖交することにより発生する渦電流による渦電流損失を低減する。
【0063】
最後に、上記の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上記の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0064】
C,Cds1,Cds2,Cds3,Cds4…キャパシタ
Co…平滑用キャパシタ
Crp,Crs…等価的キャパシタンス
Dds1,Dds2,Dds3,Dds4…ダイオード
Lp,Lmp,Lrp,Ls,Lms,Lrs…等価的インダクタンス
np…送電コイル
ns…受電コイル
Q1,Q2,Q3,Q4…スイッチング素子
Ro…負荷
Vi…入力電源
10,70,90…生体内植え込み型医療装置
11,71…筐体
12…コイル基板
13…磁性シート
14…回路基板
15…蓄電デバイス
16…フィードスルー
17…生体センサ
21…内部空間
22…開口部
23…受電コイル
24…電子部品
25…受電回路
31,32…本体部
41,42…突出部
50,80…送電装置
51…筐体
52…コイル基板
53…磁性シート
54…回路基板
61…内部空間
63…送電コイル
64…電子部品
421…底板部
422…側壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10