(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20240910BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240910BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240910BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240910BHJP
B60W 20/19 20160101ALI20240910BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W20/19
F02D29/02 321B
(21)【出願番号】P 2022012308
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-54164(JP,A)
【文献】特開2017-105356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0238244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/08
B60W 20/19
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達すると共に前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチを制御し、前記クランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように前記電動機を制御し、前記クランキングに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部を含んでおり、
前記始動制御部は、前記クランキングトルクによって前記エンジンの回転速度を上昇させると共に前記同期の完了後に前記エンジンを爆発させる第1始動方式による前記エンジンの始動と、前記同期の完了までの過程で前記エンジンを爆発させると共に前記エンジンの爆発後は少なくとも前記エンジンのトルクによって前記エンジンの回転速度を上昇させる第2始動方式による前記エンジンの始動と、を選択的に実行するものであり、
前記始動制御部は、前記エンジンの始動要求が有るときに、前記車両に対する駆動要求量を前記電動機のトルクのみで実現でき、且つ、前記エンジンの始動方式として前記第1始動方式を選択している場合には、前記エンジンの始動を遅延する始動遅延制御を行うと共に、前記始動遅延制御の開始から所定時間が経過した場合には、前記始動遅延制御を終了して前記第1始動方式による前記エンジンの始動を実行する一方で、前記所定時間が経過するまでに前記エンジンの始動方式の選択を前記第1始動方式から前記第2始動方式へ切り替えた場合には、前記始動遅延制御を終了して前記第2始動方式による前記エンジンの始動を実行することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記始動制御部は、前記電動機の回転速度が、前記第2始動方式による前記エンジンの始動を行ったときの始動ショックを許容できると判断される前記電動機の所定下限回転速度よりも低い場合には、前記第1始動方式を選択する一方で、前記電動機の回転速度が前記所定下限回転速度以上である場合には、前記第2始動方式を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記始動制御部は、前記第2始動方式による前記エンジンの始動を実行する準備ができていると判定した場合には、前記始動遅延制御を許可することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記始動制御部は、前記エンジンの始動要求が有るときに、前記駆動要求量を前記電動機のトルクのみでは実現できない場合には、前記始動遅延制御を行わないか又は終了すると共に、前記エンジンの始動方式を選択し、前記選択した前記エンジンの始動方式による前記エンジンの始動を実行することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記始動制御部は、前記電動機の回転速度と、前記動力伝達経路において前記電動機が動力伝達可能に連結されると共に前記エンジンが前記クラッチを介して動力伝達可能に連結された伝達軸上におけるトルクである伝達軸トルクと、に基づいて、前記第1始動方式及び前記第2始動方式のうちの何れかを前記エンジンの始動方式として選択することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、着火始動によるエンジンの始動後、クラッチの解放状態又はスリップ状態でエンジンの自立回転によってクラッチの同期に向けてエンジン回転速度を上昇させるエンジンの始動方式において、アクセル操作などの運転者の操作によるエンジンの始動要求と、運転者の操作以外によるエンジンの始動要求と、のうちの何れであるかによってエンジンの始動制御を切り替えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、早期にエンジンを初爆させるエンジンの始動方式では、エンジン回転速度の上昇速度が高い為、例えば電動機回転速度が低い場合には早々にクラッチが係合してしまい、始動ショックが発生し易い。始動ショックが発生し易い領域では、フューエルカット状態でクランキングトルクによってエンジン回転速度を上昇させて、クラッチの同期完了後にエンジンを初爆する始動方式によってエンジンを始動することで、始動ショックを抑制することが考えられる。しかしながら、クラッチの同期完了後にエンジンを初爆する始動方式は、早期にエンジンを初爆させる始動方式に比べて加速応答性が劣る。その為、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることについて改善の余地がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの始動に際して、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達すると共に前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように前記クラッチを制御し、前記クランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように前記電動機を制御し、前記クランキングに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部を含んでおり、(c)前記始動制御部は、前記クランキングトルクによって前記エンジンの回転速度を上昇させると共に前記同期の完了後に前記エンジンを爆発させる第1始動方式による前記エンジンの始動と、前記同期の完了までの過程で前記エンジンを爆発させると共に前記エンジンの爆発後は少なくとも前記エンジンのトルクによって前記エンジンの回転速度を上昇させる第2始動方式による前記エンジンの始動と、を選択的に実行するものであり、(d)前記始動制御部は、前記エンジンの始動要求が有るときに、前記車両に対する駆動要求量を前記電動機のトルクのみで実現でき、且つ、前記エンジンの始動方式として前記第1始動方式を選択している場合には、前記エンジンの始動を遅延する始動遅延制御を行うと共に、前記始動遅延制御の開始から所定時間が経過した場合には、前記始動遅延制御を終了して前記第1始動方式による前記エンジンの始動を実行する一方で、前記所定時間が経過するまでに前記エンジンの始動方式の選択を前記第1始動方式から前記第2始動方式へ切り替えた場合には、前記始動遅延制御を終了して前記第2始動方式による前記エンジンの始動を実行することにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電動機の回転速度が、前記第2始動方式による前記エンジンの始動を行ったときの始動ショックを許容できると判断される前記電動機の所定下限回転速度よりも低い場合には、前記第1始動方式を選択する一方で、前記電動機の回転速度が前記所定下限回転速度以上である場合には、前記第2始動方式を選択することにある。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記第2始動方式による前記エンジンの始動を実行する準備ができていると判定した場合には、前記始動遅延制御を許可することにある。
【0009】
また、第4の発明は、前記第1の発明から第3の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記エンジンの始動要求が有るときに、前記駆動要求量を前記電動機のトルクのみでは実現できない場合には、前記始動遅延制御を行わないか又は終了すると共に、前記エンジンの始動方式を選択し、前記選択した前記エンジンの始動方式による前記エンジンの始動を実行することにある。
【0010】
また、第5の発明は、前記第1の発明から第4の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電動機の回転速度と、前記動力伝達経路において前記電動機が動力伝達可能に連結されると共に前記エンジンが前記クラッチを介して動力伝達可能に連結された伝達軸上におけるトルクである伝達軸トルクと、に基づいて、前記第1始動方式及び前記第2始動方式のうちの何れかを前記エンジンの始動方式として選択することにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1の発明によれば、クランキングトルクによってエンジンの回転速度を上昇させると共にクラッチの同期の完了後にエンジンを爆発させる第1始動方式によるエンジンの始動と、クラッチの同期の完了までの過程でエンジンを爆発させると共にエンジンの爆発後は少なくともエンジンのトルクによってエンジンの回転速度を上昇させる第2始動方式によるエンジンの始動と、が選択的に実行されるものであり、エンジンの始動要求が有るときに、駆動要求量が電動機のトルクのみで実現可能とされ、且つ、エンジンの始動方式として第1始動方式が選択されている場合には、始動遅延制御が行われると共に、始動遅延制御の開始から所定時間が経過した場合には、始動遅延制御が終了させられて第1始動方式によるエンジンの始動が実行される一方で、所定時間が経過するまでにエンジンの始動方式の選択が第1始動方式から第2始動方式へ切り替えられた場合には、始動遅延制御が終了させられて第2始動方式によるエンジンの始動が実行されるので、エンジンの始動方式として第2始動方式を選択できないときには所定時間待機し、その待機中に第2始動方式を選択できるようになれば第2始動方式によるエンジンの始動に切り替えられる。よって、エンジンの始動に際して、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【0012】
また、前記第2の発明によれば、電動機の回転速度が、第2始動方式によるエンジンの始動を行ったときの始動ショックを許容できると判断される電動機の所定下限回転速度よりも低い場合には、第1始動方式が選択される一方で、電動機の回転速度が所定下限回転速度以上である場合には、第2始動方式が選択されるので、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【0013】
また、前記第3の発明によれば、第2始動方式によるエンジンの始動を実行する準備ができていると判定された場合には、始動遅延制御が許可されるので、第2始動方式によるエンジンの始動が可能な場合に第2始動方式によるエンジンの始動への切替えを待機することができる。
【0014】
また、前記第4の発明によれば、エンジンの始動要求が有るときに、駆動要求量を電動機のトルクのみでは実現できない場合には、始動遅延制御が行われないか又は終了させられると共に、エンジンの始動方式が選択され、選択されたエンジンの始動方式によるエンジンの始動が実行されるので、エンジンのトルクによって駆動要求量を速やかに実現できる。
【0015】
また、前記第5の発明によれば、電動機の回転速度と伝達軸トルクとに基づいて、第1始動方式及び第2始動方式のうちの何れかがエンジンの始動方式として選択されるので、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】エンジン始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図3】エンジン始動タイプの選択方法の一例を説明する図である。
【
図4】MGトルクに余力が有るか否かを判断することについて走行領域切替マップを用いて説明する図である。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジン始動制御に際して始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0019】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12のトルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0020】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGのトルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0021】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。電動機連結軸36は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路において電動機MGが動力伝達可能に連結されると共にエンジン12がK0クラッチ20を介して動力伝達可能に連結された伝達軸である。K0クラッチ20は、エンジン12と電動機連結軸36との間の動力伝達経路に設けられたクラッチである。
【0022】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0023】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0024】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば複数の油圧式の係合装置例えば公知の摩擦係合装置を含んでいる。係合装置CBは、各々、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0025】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置の制御状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0026】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置であって、湿式タイプ又は乾式タイプのクラッチである。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0027】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0028】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。自動変速機24は、電動機連結軸36に入力された動力源SPのトルクである動力源トルクTspを駆動輪14へ伝達する。動力源トルクTspは、エンジントルクTeとMGトルクTmとの合計のトルクである。このように、動力伝達装置16は、動力源SPからの動力を駆動輪14へ伝達する。
【0029】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0030】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、クラッチ制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0031】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0032】
電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ充電量SOC[%]を算出する。バッテリ充電量SOCは、バッテリ54の充電量であって、バッテリ54の充電状態を示す値つまり充電状態値である。電子制御装置90は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ充電量SOCに基づいてバッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]を算出する。バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限つまり充電制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限つまり放電制限を示している。
【0033】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0034】
各油圧制御指令信号Sについて、K0油圧制御指令信号Sk0を例示して説明する。電子制御装置90は、K0油圧PRk0の指令値として、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為のK0クラッチ20の指示圧であるK0クラッチ指示圧Spk0を算出する。指示圧とは、係合装置に供給される作動油OILに対して電子制御装置90から指示される目標油圧であって、この指示圧に応じて係合装置に供給される実際の油圧である実油圧が変化する。電子制御装置90は、K0クラッチ指示圧Spk0を、油圧制御回路56に備えられたK0ソレノイドSLk0を駆動する為のK0指示電流値Sik0に変換する。K0ソレノイドSLk0は、K0油圧PRk0を出力するK0クラッチ20用のソレノイドバルブである。K0指示電流値Sik0は、電子制御装置90に備えられた、K0ソレノイドSLk0を駆動する駆動回路であるソレノイド用ドライバに対する指示電流である。K0油圧制御指令信号Sk0は、K0指示電流値Sik0に基づいて、ソレノイド用ドライバがK0ソレノイドSLk0を駆動する為の駆動電流又は駆動電圧である。つまり、K0クラッチ指示圧Spk0は、K0油圧制御指令信号Sk0に変換されて油圧制御回路56へ出力される。本実施例では、便宜上、K0クラッチ指示圧Spk0とK0油圧制御指令信号Sk0とを同意に取り扱う。
【0035】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、変速機制御手段すなわち変速機制御部96、及び始動制御手段すなわち始動制御部98を備えている。
【0036】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0037】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0038】
動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat等を考慮して、要求駆動トルクTrdemを実現する為の要求システム軸トルクTsysdemを算出する。要求システム軸トルクTsysdemは、システム軸トルクTsysの要求値である。システム軸トルクTsysは、電動機連結軸36上におけるトルクすなわち伝達軸トルクである。システム軸トルクTsysは、動力源トルクTspのうちの、自動変速機24を介して駆動輪14へ伝達されるトルク、すなわち駆動トルクTrとして用いられるトルクである。動力源制御部92は、要求システム軸トルクTsysdemを実現するように、エンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0039】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードとしてモータ駆動モードつまりBEV駆動モードを成立させる。BEV駆動モードは、K0クラッチ20の解放状態において、エンジン12の運転が停止させられた状態で電動機MGのみを動力源SPに用いて走行するモータ走行つまり電動走行(=BEV走行)が可能な電動駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求システム軸トルクTsysdemを賄えない場合には、駆動モードとしてエンジン駆動モードつまりHEV駆動モードを成立させる。HEV駆動モードは、K0クラッチ20の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源SPに用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、駆動モードとしてHEV駆動モードを成立させる。バッテリ54の充電が必要な場合とは、例えばバッテリ充電量SOCが規定の範囲よりも低下した場合、又は、バッテリ充電量SOCは規定の範囲に入っているが、バッテリ54の充電を行った方がエネルギー効率が良くなる場合などである。
【0040】
変速機制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じてつまりその変速判断の結果に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速機制御部96は、自動変速機24の変速制御では、例えば係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放状態への切替えと、係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合状態への切替えと、によって自動変速機24の変速を行う。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0041】
始動制御部98は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン12の始動要求つまりエンジン始動要求REQstの有無を判定する。例えば、始動制御部98は、BEV駆動モード時に、要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求REQstが有るか否かを判定する。
【0042】
始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有ると判定した場合には、エンジン12の始動つまりエンジン始動制御CTstを実行するようにK0クラッチ20を制御する為の指令をクラッチ制御部94へ出力する。クラッチ制御部94は、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定のトルクである。
【0043】
始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有ると判定した場合には、エンジン始動制御CTstを実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する為の指令を動力源制御部92へ出力する。動力源制御部92特には電動機制御部92bは、K0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせてつまりK0クラッチ20によるエンジン12のクランキングに連動して、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。又、動力源制御部92特にはエンジン制御部92aは、K0クラッチ20によるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0044】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクが生じる。この反力トルクは、BEV走行時には、エンジン始動中のエンジン12等のイナーシャによる駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12のクランキング時には、MGトルクTmは、K0クラッチ20を介して伝達されるクランキングトルクTcr分増加させられる。エンジン始動制御CTstの際にクランキングトルクTcrに向けて増加させられるMGトルクTmは、この反力トルクを打ち消す為のMGトルクTmであって、この反力トルクを補償するMGトルクTm分すなわち反力補償用のMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方式(=始動タイプ)つまりエンジン始動タイプ等に基づいて予め定められた例えば一定のトルクである。
【0045】
つまり、BEV走行中のエンジン始動制御CTstでは、駆動トルクTrとして用いられるMGトルクTm分に加えて、クランキングトルクTcrとして用いられるMGトルクTm分が電動機MGから出力させられる。その為、BEV走行中には、エンジン始動制御CTstにおいて駆動トルクTrの落ち込みを生じさせないように、エンジン始動制御CTstに備えてクランキングトルクTcr分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクすなわち最大MGトルクTmmaxに対して、クランキングトルクTcr分を減じたトルク範囲となる。BEV走行中のシステム軸トルクTsysつまりMGトルクTmは、最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcrを減じたトルクにて上限が制限される。本実施例では、最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcrを減じたトルクをMGトルク上限ガードTmulと称する。最大MGトルクTmmaxは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって決められる及び/又は電動機MGの定格によって決められる、MGトルクTmの最大値である。
【0046】
図2は、エンジン始動制御CTstが実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図2において、t1時点は、例えばBEV走行中に、運転者によるアクセルペダルの踏み増し操作に伴ってエンジン始動要求REQstが有ると判定されたことにより、エンジン始動制御CTstが開始された時点を示している。エンジン始動制御CTstの開始後、K0クラッチ20のパック詰め制御すなわちK0パック詰め制御が実行される。パック詰め制御は、摩擦係合装置を、摩擦係合装置の摩擦プレート等におけるパッククリアランスが詰められた、パック詰めが完了した状態すなわちパック詰め完了状態とする制御である。摩擦係合装置のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態から摩擦係合装置へ供給する油圧を増大させれば摩擦係合装置がトルク容量を持ち始める状態である。K0パック詰め制御の終了後、エンジン12をクランキングする為に、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達するK0クラッチ20によるクランキングすなわちK0クランキングが実行される。
【0047】
K0クランキングによりエンジン回転速度Neが引き上げられた後、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるK0クラッチ20による同期制御すなわちK0同期制御が実行される(
図2の実線参照)。エンジン回転速度Neは、エンジン連結軸34の回転速度であって、K0クラッチ20の入力回転速度と同値である。MG回転速度Nmは、電動機連結軸36の回転速度であって、K0クラッチ20の出力回転速度と同値である。つまり、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させることとは、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを同期させることと同意である。K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度との同期すなわちK0同期が完了させられると(t2時点参照)、つまりK0クラッチ20の係合状態への切替えすなわちK0係合が完了させられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる(
図2の実線参照)。K0同期の完了後、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するK0完全係合制御が実行され(t2時点以降参照)、その後、エンジントルクTeがエンジン制御指令信号Seに従って安定して出力されるようになった時点でエンジン始動制御CTstが完了させられる(t3時点参照)。本実施例では、K0クラッチ20や電動機MGによってK0同期までエンジン回転速度Neを引き上げた後にエンジン12を初爆して始動するエンジン始動タイプを、押しがけ始動方式つまりPUSH始動タイプと称する。PUSH始動タイプは、クランキングトルクTcrによってエンジン回転速度Neを上昇させると共にK0同期の完了後にエンジン12を爆発させる始動方式、つまりフューエルカット状態でK0クラッチ20によってエンジン回転速度Neを持ち上げてK0同期の完了後に点火する第1始動方式つまり始動タイプ1である。
【0048】
本実施例では、
図2の破線で示すように、PUSH始動タイプ(
図2の実線参照)とは別の始動タイプを実行することが可能である。
図2の破線において、K0クランキングによってエンジン回転速度Neが引き上げられると、早期にエンジン点火などが開始されてK0同期前にエンジン12が初爆させられる。
図2の破線に示すように、K0クランキングの終了後、K0クラッチ20の係合状態への切替えを待機する為に、K0トルクTk0をクランキングトルクTcrよりも低下させて所定トルクTk0fに維持するクランキング後定圧待機が実行される。クランキング後定圧待機時のK0クラッチ指示圧Spk0は、例えばK0クラッチ20をパック詰め完了状態又はスリップ状態に維持するK0油圧PRk0と同程度であって、エンジン12の完爆の外乱とならないK0トルクTk0を実現する為のK0クラッチ指示圧Spk0である。クランキング後定圧待機の実行中、エンジン回転速度Neは、K0トルクTk0によってではなく、専らエンジン12の燃焼トルクによって上昇させられる。クランキング後定圧待機の実行中に、エンジン12の爆発による自立回転が安定した状態となると、すなわちエンジン12が完爆した状態となると、K0同期制御が実行されてK0同期が完了させられる。K0同期制御は、エンジン回転速度NeがMG回転速度Nmに到達してから開始されても良い。従って、エンジン12の初爆後のエンジン回転速度Neは、K0同期に向けて少なくともエンジントルクTeによって上昇させられる。本実施例では、K0同期前に例えばK0クランキングの早期にエンジン12を初爆して始動するエンジン始動タイプを、早期始動方式つまりTDC始動タイプと称する。TDC始動タイプは、K0同期の完了までの過程でエンジン12を爆発させると共にエンジン12の爆発後は少なくともエンジントルクTeによってエンジン回転速度Neを上昇させる第2始動方式つまり始動タイプ2である。尚、実線に示すPUSH始動タイプと破線に示すTDC始動タイプとでは、エンジン始動制御CTstの期間は本来は異なるが、
図2では便宜上同じ長さとしている。
【0049】
図2を参照すれば、始動制御部98は、エンジン始動制御CTstに際して、クランキングトルクTcrを伝達すると共にK0同期を完了させるようにK0クラッチ20を制御し、エンジン12のクランキングに連動してクランキングトルクTcrを出力するように電動機MGを制御し、エンジン12のクランキングに連動して運転を開始するようにエンジン12を制御する。又、始動制御部98は、PUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstと、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstと、を選択的に実行する。
【0050】
TDC始動タイプは、エンジン12の自立回転によるエンジン回転速度Neの引き上げがあるので、PUSH始動タイプに比べて、必要なクランキングトルクTcrが小さくされ、エネルギー効率や始動応答性に優れている。一方で、BEV走行中において、例えばMG回転速度Nmが低い場合にTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行うと、クランキング後定圧待機によってK0クラッチ20が解放状態とされる前にエンジン回転速度NeがK0同期の回転速度に到達してしまう可能性がある。つまり、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプが実行されたと仮定した場合のK0同期時点である予測K0同期時点におけるMG回転速度Nmつまり予測MG回転速度Nmeが低い程、エンジン始動制御CTstの開始からK0同期までの期間が短くなる。従って、予測MG回転速度Nmeが低い程、クランキング後定圧待機の実行過渡中におけるK0油圧PRk0の実際値が低くなり難く、予測K0同期時点におけるK0トルクTk0つまり予測K0トルクTk0eが大きくなり易い。予測K0トルクTk0eが大きい程、エンジン12のイナーシャがK0クラッチ20を介して電動機連結軸36に伝達されることによって発生する始動ショックが許容範囲を超え易くなる。又、自動変速機24のギヤ段がローギヤ段である程ショック感度が大きくされる為、始動ショックが問題となり易い。その為、始動ショックが問題となり易い領域例えばMG回転速度Nmが低い領域では、PUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行うことが望ましい。
【0051】
このように、始動制御部98は、MG回転速度Nmが、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行ったときの始動ショックを許容できると判断される予め定められた電動機MGの所定下限回転速度つまりMG下限回転速度Nmllよりも低い場合には、PUSH始動タイプを選択する一方で、MG回転速度NmがMG下限回転速度Nmll以上である場合には、TDC始動タイプを選択する。
【0052】
図3は、エンジン始動タイプの選択方法の一例を説明する図である。
図3において、「MAP1」及び「MAP2」は、各々、予測MG回転速度Nmeとシステム軸トルクTsysとを変数とする二次元座標上に、「TDC領域」と「PUSH領域」とを判断する為の境界線BL(BL1、BL2)を有する予め定められた関係すなわちTDC出力許可システム軸トルクマップである。「TDC領域」は、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行っても始動ショックが許容できる領域である。「PUSH領域」は、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行うと始動ショックが許容できない領域である。「MAP1」は、予測K0トルクTk0eが所定トルク容量α以下の場合に軸トルク判定値Tsysjの算出に用いられるトルクマップMAP1である。「MAP2」は、予測K0トルクTk0eが所定トルク容量αを超えている場合に軸トルク判定値Tsysjの算出に用いられるトルクマップMAP2である。予測K0トルクTk0eが大きい程、始動ショックが許容範囲を超え易くなる為、トルクマップMAP2では、トルクマップMAP1に比べて、「PUSH領域」が「TDC領域」に対して相対的に広くされている。所定トルク容量αは、軸トルク判定値Tsysjの算出に用いるTDC出力許可システム軸トルクマップをトルクマップMAP1とするかトルクマップMAP2とするかを選択する為の予め定められた閾値である。軸トルク判定値Tsysjは、予測K0同期時点におけるシステム軸トルクTsysつまり予測システム軸トルクTsyseと比較されることによって、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行された場合における始動ショックが許容範囲内となることを判定する為の予め定められた閾値である。
【0053】
図3のブロックB10において、先ず、タービン回転速度Ntの現在の値に基づいて、予測MG回転速度Nmeの算出に用いられる予測MG回転速度算出用タービン回転速度Nte(=Ntの現在の値-減速度補正量)が算出される。車両10が駆動状態のときには、減速度補正量はゼロ値とされる。又、予め定められた予測MG回転速度算出用マップに、予測MG回転速度算出用タービン回転速度NteとMG回転速度Nmの現在の値とシステム軸トルクTsysの現在の値とが適用されることで、予測MG回転速度Nmeが算出される。現在の値は、エンジン始動タイプを選択する時点の値である。又、予め定められた予測K0トルク算出用マップに、MG回転速度Nmとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、各現在の値が適用されることで、予測K0トルクTk0eが算出される。又、予め定められた予測システム軸トルク算出用マップに、MG回転速度Nmとシステム軸トルクTsysとタービン回転速度Ntとの、各現在の値が適用されることで、予測システム軸トルクTsyseが算出される。
【0054】
予測MG回転速度Nmeとして予測MG回転速度βが算出されたときには、トルクマップMAP1では軸トルク判定値Tsysjとして軸トルク判定値Tsys1が算出され、トルクマップMAP2では軸トルク判定値Tsysjとして軸トルク判定値Tsys2が算出される。軸トルク判定値Tsys2は、軸トルク判定値Tsys1に対して大きくされている。
【0055】
図3のブロックB20において、予測システム軸トルクTsyseが、トルクマップMAP1及びトルクマップMAP2の何れかを用いて算出された軸トルク判定値Tsysj以上であるか否かが判定される。この判定結果が成立させられた場合には、TDC始動タイプが許可され、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプが選択される。一方で、この判定結果が不成立とされた場合には、TDC始動タイプが不許可とされ、エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプが選択される。尚、
図3におけるシステム軸トルクTsysは、要求システム軸トルクTsysdemが用いられても良い。
【0056】
図3を参照すれば、始動制御部98は、MG回転速度Nmとシステム軸トルクTsysとに基づいて、PUSH始動タイプ及びTDC始動タイプのうちの何れかをエンジン始動タイプとして選択する。
【0057】
ところで、エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプが選択されてPUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行されている過渡中に、例えばアクセルオン又はアクセルの踏み増し操作が為される場合がある。この場合、PUSH始動タイプでは始動応答性がTDC始動タイプに比べて劣る為、加速応答性が低下するおそれがある。
【0058】
エンジン始動要求REQstが有るときにエンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプが選択されている場合には、PUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstの開始を遅延させる。エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプが選択されている場合は、例えばMG回転速度Nmが低い為に、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行うと始動ショックが悪化する場合である。エンジン始動制御CTstの開始を遅延させている間に、MG回転速度Nmが上昇するか又は要求システム軸トルクTsysdemが増加してMG回転速度Nmがエンジン始動制御CTstの実行中に上昇する可能性がある。その為、エンジン始動制御CTstの開始を遅延させている間に、MG回転速度Nmの上昇等によりTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行っても始動ショックが問題とならないと判断され得る場合には、エンジン始動タイプの選択がTDC始動タイプに切り替えられれば良い。
【0059】
エンジン始動要求REQstが有っても要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄える場合、例えばエンジン12等の暖機又はバッテリ54の充電が必要であることでエンジン始動要求REQstが有る場合には、エンジン始動制御CTstの開始を遅延させても違和感が生じ難い。要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄えない場合には、速やかにエンジン始動制御CTstが実行されれば良い。一方で、要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄える場合には、エンジン始動制御CTstが遅延されれば良い。但し、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプが選択されている場合には、速やかにTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行されれば良い。
【0060】
つまり、始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有るときに、要求駆動トルクTrdemをMGトルクTmのみで実現でき、且つ、エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプを選択している場合には、エンジン始動制御CTstを遅延する始動遅延制御CTdlystを行う。又、始動制御部98は、始動遅延制御CTdlystの開始から所定時間TMfが経過した場合には、始動遅延制御CTdlystを終了してPUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。一方で、始動制御部98は、所定時間TMfが経過するまでにエンジン始動タイプの選択をPUSH始動タイプからTDC始動タイプへ切り替えた場合には、始動遅延制御CTdlystを終了してTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。所定時間TMfは、例えばエンジン始動制御CTstを遅延しても違和感が生じ難い予め定められた待機時間である。
【0061】
具体的には、始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有り、且つ、エンジン始動制御CTstの開始前、であるか否かを判定する。始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有り、且つ、エンジン始動制御CTstの開始前、ではないと判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを行わない。
【0062】
始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有り、且つ、エンジン始動制御CTstの開始前、であると判定した場合には、要求駆動トルクTrdemをMGトルクTmのみで実現できるか否かを判定する。すなわち、始動制御部98は、始動遅延制御CTdlystを行ってもMGトルクTmのみで要求駆動トルクTrdemを確保できるか否か、つまりMGトルクTmに余力が有るか否かを判定する。
【0063】
図4は、MGトルクTmに余力が有るか否かを判断することについて走行領域切替マップを用いて説明する図である。
図4において、走行領域切替マップは、MG回転速度Nmと要求システム軸トルクTsysdemとを変数とする二次元座標上に、「BEV走行領域」と「HEV走行領域」とを判断する為の境界線を有する予め定められた関係である。実線L1は、最大MGトルクTmmaxを示している。実線L2は、MGトルク上限ガードTmulを示している。「BEV走行領域」は、駆動モードとしてBEV駆動モードが成立させられる領域である。「HEV走行領域」は、駆動モードとしてHEV駆動モードが成立させられる領域である。BEV駆動モードが成立させられているときには、実線L2が「BEV走行領域」と「HEV走行領域」との境界線として用いられる。HEV駆動モードが成立させられているときには、クランキングトルクTcr分を担保しておく必要がないので、例えば実線L1が「BEV走行領域」と「HEV走行領域」との境界線として用いられる。
【0064】
●印Aは、エンジン始動要求REQstが為される前の車両10の状態を示している。○印B及び○印Cは、各々、エンジン始動要求REQstが為されたときの車両10の状態を示している。実線L3に示す場合、つまりエンジン始動要求REQstが為されたときに車両10の状態が●印Aから○印Bへ遷移する場合には、MGトルクTmに余力が有り、要求駆動トルクTrdemをMGトルクTmのみで確保できると判断される。一方で、実線L4に示す場合、つまりエンジン始動要求REQstが為されたときに車両10の状態が●印Aから○印Cへ遷移する場合には、MGトルクTmに余力がないと判断される。
【0065】
始動制御部98は、MGトルクTmに余力がないと判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを行わないか、又は、始動遅延制御CTdlystの実行中であれば始動遅延制御CTdlystを終了する。又、始動制御部98は、PUSH始動タイプ及びTDC始動タイプのうちの何れかをエンジン始動タイプとして選択する(
図3参照)。又、始動制御部98は、選択したエンジン始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。このように、始動制御部98は、エンジン始動要求REQstが有るときに、要求駆動トルクTrdemをMGトルクTmのみでは実現できない場合には、始動遅延制御CTdlystを行わないか又は終了すると共に、エンジン始動タイプを選択し、選択したエンジン始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。尚、始動制御部98は、MGトルクTmに余力がないと判定した場合には、始動ショックの抑制よりも加速応答性の向上を重視して、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプを選択し、選択したTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行しても良い。
【0066】
始動制御部98は、MGトルクTmに余力が有ると判定した場合には、エンジン12の早期始動つまりTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する準備ができているか否かを判定する。エンジン12の早期始動を実行する準備ができているか否かを判定することとは、エンジン12の早期始動を許可できるか否かを判定することである。始動制御部98は、例えばエンジン制御装置50における高圧燃料供給系の圧力が十分に上がっているか否かなどに基づいて、エンジン12の早期始動を実行する準備ができているか否かを判定する。
【0067】
エンジン12の早期始動を実行する準備ができていないのであれば、始動遅延制御CTdlystを行ってTDC始動タイプが選択されることを待機する必要がない。始動制御部98は、エンジン12の早期始動を実行する準備ができていないと判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを行わないか又は終了すると共に、何れかのエンジン始動タイプを選択し(
図3参照)、選択したエンジン始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。
【0068】
エンジン12の早期始動を実行する準備ができていることは、始動遅延制御CTdlystを行うことの条件の一つである。つまり、始動制御部98は、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する準備ができていると判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを許可する。
【0069】
始動制御部98は、エンジン12の早期始動を実行する準備ができていると判定した場合には、車両10の状態が、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行うと始動ショックが許容できない領域つまりPUSH始動領域にあるか否かを判定する(
図3参照)。始動制御部98は、車両10の状態がPUSH始動領域になく、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを行っても始動ショックが許容できる領域つまりTDC始動領域にあると判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを行わないか又は終了すると共に、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプを選択し、選択したTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。
【0070】
始動制御部98は、車両10の状態がPUSH始動領域にあると判定した場合には、始動遅延制御CTdlystの開始時点からの経過時間が所定時間TMf未満であるか否か、つまり始動遅延制御CTdlystがタイムアウトではないか否かを判定する。尚、始動遅延制御CTdlystの開始前であれば、経過時間はゼロとされ、始動遅延制御CTdlystがタイムアウトではないと判定される。
【0071】
始動制御部98は、始動遅延制御CTdlystがタイムアウトではないと判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを継続又は開始して、始動遅延制御CTdlystを行う。始動制御部98は、始動遅延制御CTdlystがタイムアウトであると判定した場合には、始動遅延制御CTdlystを終了すると共に、エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプを選択し、選択したPUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する。
【0072】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン始動制御CTstに際して始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0073】
図5において、フローチャートの各ステップは始動制御部98の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン始動要求REQstが有り、且つ、エンジン始動制御CTstの開始前、であるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合はS20において、MGトルクTmに余力が有るか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合はS30において、エンジン12の早期始動を許可できるか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合はS40において、車両10の状態がPUSH始動領域にあるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合はS50において、始動遅延制御CTdlystがタイムアウトではないか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合はS60において、始動遅延制御CTdlystが継続又は開始させられて、始動遅延制御CTdlystが行われる。これにより、車両10の状態がPUSH始動領域からTDC始動領域へ切り替えられるかが待機される。TDC始動領域へ切り替えられた場合には、上記S40の判断が否定されて始動遅延制御CTdlystが終了させられる(後述のS70参照)。一方で、上記S10の判断、上記S20の判断、上記S30の判断、上記S40の判断、及び上記S50の判断のうちの何れかの判断が否定される場合はS70において、始動遅延制御CTdlystが行われないか、又は、始動遅延制御CTdlystの実行中であれば始動遅延制御CTdlystが終了させられる。エンジン始動要求REQstが有るときには、各ステップにおける判断に応じたエンジン始動タイプが選択され、選択されたエンジン始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行される。
【0074】
上述のように、本実施例によれば、エンジン始動要求REQstが有るときに、要求駆動トルクTrdemがMGトルクTmのみで実現可能とされ、且つ、エンジン始動タイプとしてPUSH始動タイプが選択されている場合には、始動遅延制御CTdlystが行われると共に、始動遅延制御CTdlystの開始から所定時間TMfが経過した場合には、始動遅延制御CTdlystが終了させられてPUSH始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行される一方で、所定時間TMfが経過するまでにエンジン始動タイプの選択がPUSH始動タイプからTDC始動タイプへ切り替えられた場合には、始動遅延制御CTdlystが終了させられてTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行されるので、エンジン始動タイプとしてTDC始動タイプを選択できないときには所定時間TMf待機し、その待機中にTDC始動タイプを選択できるようになればTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstに切り替えられる。よって、エンジン始動制御CTstに際して、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【0075】
また、本実施例によれば、MG回転速度NmがMG下限回転速度Nmllよりも低い場合には、PUSH始動タイプが選択される一方で、MG回転速度NmがMG下限回転速度Nmll以上である場合には、TDC始動タイプが選択されるので、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【0076】
また、本実施例によれば、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstを実行する準備ができていると判定された場合には、始動遅延制御CTdlystが許可されるので、TDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstが可能な場合にTDC始動タイプによるエンジン始動制御CTstへの切替えを待機することができる。
【0077】
また、本実施例によれば、エンジン始動要求REQstが有るときに、要求駆動トルクTrdemをMGトルクTmのみでは実現できない場合には、始動遅延制御CTdlystが行われないか又は終了させられると共に、エンジン始動タイプが選択され、選択されたエンジン始動タイプによるエンジン始動制御CTstが実行されるので、エンジントルクTeによって要求駆動トルクTrdemを速やかに実現できる。
【0078】
また、本実施例によれば、MG回転速度Nmとシステム軸トルクTsysとに基づいて、PUSH始動タイプ及びTDC始動タイプのうちの何れかがエンジン始動タイプとして選択されるので、始動ショックの抑制と加速応答性の向上とを両立させることができる。
【0079】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0080】
例えば、前述の実施例では、
図3を用いてエンジン始動タイプの選択方法を説明したが、エンジン始動タイプの選択方法はこの態様に限らない。例えば、エンジン始動タイプの選択方法は、予測MG回転速度NmeとMG回転速度Nmに対応した判定値とを比較する方法などであっても良い。又は、予測MG回転速度Nmeは、例えばMG回転速度Nmの現在の値とシステム軸トルクTsysの現在の値とに基づいて算出されても良い。
【0081】
また、前述の実施例における
図5のフローチャートにおいて、S10の判断が肯定される場合にS20が実行されるよりも前にS30が実行されても良いなど、
図5のフローチャートは適宜変更され得る。
【0082】
また、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。又は、自動変速機24は、必ずしも備えられている必要はない。
【0083】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。要は、エンジンと、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、その動力伝達経路におけるエンジンと電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
【0084】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
36:電動機連結軸(伝達軸)
90:電子制御装置(制御装置)
98:始動制御部
MG:電動機