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特許7552694フィルム、フィルムロールおよびフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】フィルム、フィルムロールおよびフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/28 20060101AFI20240910BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240910BHJP
   G02B 5/30 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
B29C41/28
G02B5/20 101
G02B5/30
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022534916
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015821
(87)【国際公開番号】W WO2022009501
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2020116621
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大石 清
(72)【発明者】
【氏名】河邑 陽祐
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/153612(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108208(WO,A1)
【文献】特開2017-202644(JP,A)
【文献】特開2016-144896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/28, 55/08
C08J 5/18,
B65H 75/02,
G02B 5/20, 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に交差する幅手方向の第1端部および第2端部と、
前記第1端部および前記第2端部の間の中央部と、
前記第1端部および前記第2端部のうちの少なくとも前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも小さい、凸状位置と、
前記長手方向において前記凸状位置とは異なる位置に配置されるとともに、前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも大きい、凹状位置と
を備える、フィルム。
【請求項2】
前記凸状位置では、前記第2端部の厚みTe2が前記中央部の厚みTcより小さく、
前記凹状位置では、前記第2端部の厚みTe2が前記中央部の厚みTcより大きい、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記凸状位置が設けられるとともに、前記第1端部および前記第2端部のうちの少なくとも前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも小さい凸状領域と、
前記凹状位置が設けられるとともに、前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも大きい凹状領域とを更に有する、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記長手方向に沿って、交互に配置された複数の前記凸状領域および前記凹状領域を有する、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
前記凸状領域および前記凹状領域の前記長手方向の大きさが、100m以上500m以下である、請求項3または4に記載のフィルム。
【請求項6】
前記凸状位置での前記第1端部の厚みTe1と前記中央部の厚みTcとの差は、前記凸状位置での前記フィルムの平均の厚みに対して10%以下であり、
前記凹状位置での前記第1端部の厚みTe1と前記中央部の厚みTcとの差は、前記凹状位置での前記フィルムの平均の厚みに対して10%以下である、請求項1~5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
前記凸状位置での前記第1端部の厚みTe1と前記中央部の厚みTcとの差は、前記凸状位置での前記フィルムの平均の厚みに対して5%以下であり、
前記凹状位置での前記第1端部の厚みTe1と前記中央部の厚みTcとの差は、前記凹状位置での前記フィルムの平均の厚みに対して5%以下である、請求項1~6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
前記凸状位置と前記凹状位置との間に、前記第1端部の厚みTe1および前記中央部の厚みTcの少なくとも一方が連続的に変化する傾斜部分を更に有する、請求項1~7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
前記傾斜部分の前記長手方向の大きさは5m以上である、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
脂環式構造含有重合体を含む、請求項1~9のいずれかに記載のフィルム。
【請求項11】
光学機能を有する、請求項1~10のいずれかに記載のフィルム。
【請求項12】
タッチセンサーに用いられる、請求項1~11のいずれかに記載のフィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のフィルムと、
前記フィルムに積層された保護フィルムとを有する、積層体。
【請求項14】
巻芯と、
前記巻芯に巻かれた請求項1~12のいずれかに記載のフィルムまたは請求項13に記載の積層体と、
を備える、フィルムロール。
【請求項15】
原反フィルムを準備または形成することと、
前記原反フィルムの長手方向の互いに異なる位置に凸状位置および凹状位置を形成することと、
を含み、
前記凸状位置は、前記原反フィルムの前記長手方向に交差する幅手方向の第1端部および第2端部のうちの少なくとも前記第1端部の厚みTe1を、前記第1端部および前記第2端部の間の中央部の厚みTcよりも小さくして形成し、
前記凹状位置は、前記第1端部の厚みTe1を前記中央部の厚みTcよりも大きくして形成する、フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記凸状位置および前記凹状位置を形成することでは、前記原反フィルムを前記幅手方向に延伸させながら、前記第1端部および前記第2端部のうちの少なくとも前記第1端部の加熱を行い、
前記凸状位置を形成するときの前記第1端部と前記中央部との温度差を、前記凹状位置を形成するときの前記第1端部と前記中央部との温度差よりも大きくする、請求項15に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、フィルムロールおよびフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの軽量化およびフレキシブル化に伴い、デバイスに用いられるフィルムの薄膜化が進められている。たとえば、ディスプレイおよびタッチセンサー等のデバイスでは、薄膜化された光学フィルムが使用される(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-100372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィルムを薄膜化すると、フィルムロールを形成する際に、巻取り不良が生じやすくなり、フィルムの品質が損なわれるおそれがある。たとえば、フィルム間のエアー量が少なすぎると、フィルム間の貼り付き等の巻取り不良が発生する。
【0005】
そこで本発明は、巻取り不良の発生を抑えることが可能なフィルム、フィルムロールおよびフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
長手方向に交差する幅手方向の第1端部および第2端部と、前記第1端部および前記第2端部の間の中央部と、前記第1端部および前記第2端部のうちの少なくとも前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも小さい、凸状位置と、前記長手方向において前記凸状位置とは異なる位置に配置されるとともに、前記第1端部の厚みTe1が前記中央部の厚みTcよりも大きい、凹状位置とを備える、フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルムに、第1端部の厚みTe1が中央部の厚みTcよりも小さい凸状位置と、第1端部の厚みTe1が中央部の厚みTcよりも大きい凹状位置とが設けられているので、フィルムロールを形成する際に、フィルム間のエアー量の制御が容易となる。よって、巻取り不良の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るフィルムロールの構成の一例を表す模式図である。
図2図1に示したフィルムの構成の一例を表す平面図である。
図3】(A)は、図2に示した凸状領域の断面構成を表す図であり、(B)は、図2に示した凹状領域の断面構成を表す図である。
図4図3(A)(B)に示したフィルムの端部の断面構成の他の例を表す図である。
図5A図2に示したフィルムの長手方向の位置と、端部および中央部の厚みの差分比率Dとの関係の一例を表す図である。
図5B図5Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図5C図5Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図6A図5Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図6B図5Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図7】フィルムの製造方法の一例を表す流れ図である。
図8図7に示したステップS102の工程に用いるクリップテンターの構成を表す図である。
図9A】比較例に係るフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の一例を表す図である。
図9B図9Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図9C図9Aに示したフィルムの長手方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表す図である。
図10図1に示したフィルムロールの端面の構成の一例を表す図である。
図11】変形例に係るフィルムの断面構成の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0011】
また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、一実施形態に係るフィルムロール1の模式的な構成を表している。このフィルムロール1は、光学フィルム11を巻芯12にロール状に巻き取ることにより形成されている。光学フィルム11は、光の透過、反射、拡散および吸収等の光学機能を有しており、たとえば、ディスプレイおよびタッチセンサー等に用いられる。巻芯12は、たとえば、円柱形状を有しており、所定の長さ(図1のX方向の大きさ)を有している。この巻芯12の周方向に光学フィルム11が巻かれている。フィルムロール1の全巻長は、たとえば、500m~20000mである。
【0013】
図2は、光学フィルム11の平面構成の一例を表している。光学フィルム11は、その長手方向に沿って巻芯12に巻き取られている。以降の説明では、光学フィルム11の長手方向をY方向、長手方向に交差する幅手方向をX方向、厚み方向をZ方向と称する場合がある。ここでは、光学フィルム11の幅手方向は、長手方向にほぼ直交している。光学フィルム11の長手方向の大きさは、たとえば、500m~20000mであり、光学フィルム11の幅手方向の大きさは、たとえば、100mm~3000mmである。
【0014】
光学フィルム11は、幅手方向の一対の端部e1、e2と、この一対の端部e1、e2の間の中央部cとを有している。一対の端部e1、e2および中央部cは、各々、たとえば、光学フィルム11の幅手方向全体の大きさの10%程度を有する部分であり、端部e1は光学フィルム11の幅手方向の一方の端、端部e2は、光学フィルム11の幅手方向の他方の端、中央部cは、光学フィルム11の幅手方向中心を各々含んでいる。ここでは、端部e1が本発明の第1端部の一具体例に対応し、端部e2が本発明の第2端部の一具体例に対応する。
【0015】
この光学フィルム11は、Y方向に並ぶ凸状領域R1および凹状領域R2を有している。たとえば、光学フィルム11には、複数の凸状領域R1および凹状領域R2が設けられており、凸状領域R1および凹状領域R2がY方向に交互に配置されている。
【0016】
図3(A)は、凸状領域R1のXZ断面を表し、図3(B)は、凹状領域R2のXZ断面を表している。凸状領域R1では、端部e1の厚みTe1および端部e2の厚みTe2が中央部cの厚みTcよりも小さくなっており、凹状領域R2では、端部e1の厚みTe1および端部e2の厚みTe2が、中央部cの厚みTcよりも大きくなっている。即ち、凸状領域R1では、厚みTe1、Te2、Tcが以下の数式(1)および数式(2)を満たし、凹状領域R2では、厚みTe1、Te2、Tcが以下の数式(3)および数式(4)を満たすことが好ましい。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
換言すれば、凸状領域R1内に設けられた凸状位置P1では、厚みTe1、Te2、Tcが数式(1)および数式(2)を満たし、凹状領域R2内に設けられた凹状位置P2では、厚みTe1、Te2、Tcが数式(3)および数式(4)を満たすことが好ましい。凸状位置P1は、凸状領域R1内のいずれの位置であってもよく、凹状位置P2は、凹状領域R2内のいずれの位置であってもよい。
【0020】
詳細は後述するが、本実施形態では、光学フィルム11がこのような凸状位置P1および凹状位置P2、より具体的には、凸状領域R1および凹状領域R2を有しているので、フィルムロール1を形成する際に、互いに重なる光学フィルム11間のエアー量の制御が容易となる。よって、巻取り不良の発生を抑えることが可能となる。
【0021】
凸状位置P1および凸状領域R1では、端部e1の厚みTe1が中央部cの厚みTcよりも小さくなっていればよく、このとき、凹状位置P2および凹状領域R2では、端部e1の厚みTe1が中央部cの厚みTcよりも大きくなっていればよい。即ち、凸状位置P1および凸状領域R1では、厚みTe1、Tcが少なくとも数式(1)を満たしていればよく、このとき、凹状位置P2および凹状領域R2では、厚みTe1、Tcが少なくとも数式(3)を満たしていればよい。
【0022】
光学フィルム11では、凸状位置P1および凸状領域R1で、厚みTe1、Te2、Tcが数式(1)および数式(2)を満たし、凹状位置P2および凹状領域R2で、厚みTe1、Te2、Tcが数式(3)および数式(4)を満たすことが好ましい。これにより、より効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。たとえば、Y方向の所定の位置では、端部e1の厚みTe1および端部e2の厚みTe2は、ほぼ同じである。光学フィルム11全体での平均の厚みは、たとえば、10μm~40μm程度である。凸状領域R1および凹状領域R2各々のY方向の大きさは、100m~500mであることが好ましく、250m以上であることがより好ましい。これにより、より効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。凸状領域R1および凹状領域R2のY方向の大きさは、たとえば、ほぼ同じである。凸状領域R1および凹状領域R2のY方向の大きさは、互いに異な
っていてもよい。
【0023】
図4は、図3に示した光学フィルム11の断面構成の他の例を表している。光学フィルム11は、エンボス部Eを有していてもよい。エンボス部Eは、エンボス加工が施された部分であり、たとえば、表面に凹凸が設けられている。エンボス部Eは、たとえば、端部e1、e2に設けられている。このとき、端部e1、e2の厚みTe1、Te2は、たとえば、エンボス部Eの凸部の厚みである。
【0024】
光学フィルム11では、Y方向の所定の位置(たとえば、凸状位置P1、凹状位置P2)における端部e1、e2の厚みTe1、Te2と中央部cの厚みTcとの差を、差分比率D1、差分比率D2を用いて表すことができる。この差分比率D1、差分比率D2は、光学フィルム11の平均の厚みTaに対する厚みTe1、Te2と厚みTcとの差であり、以下の数式(5)および数式(6)で表すことができる。凸状領域R1では差分比率D1、差分比率D2が正の値となり、凹状領域R2では差分比率D1、差分比率D2が負の値となる。差分比率D1、差分比率D2の絶対値(以下、|D1|、|D2|と表す)は、たとえば、10%以下であり、5%以下であることがより好ましい。|D1|、|D2|を5%以下とすることにより、より効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。
【0025】
【数3】
【0026】
たとえば、Y方向の所定の位置における差分比率D1および差分比率D2は、ほぼ同じである。以下の説明では、Y方向の所定の位置における差分比率D1および差分比率D2がほぼ同じであるとき、差分比率D1および差分比率D2をまとめて差分比率Dと表す。以下で説明する図5A図6Bおよび図8A図8Cでは、Y方向の所定の位置における差分比率D1および差分比率D2がほぼ同じであり、差分比率Dを使用する。
【0027】
図5A図5Bおよび図5Cは、光学フィルム11のY方向の位置と差分比率Dとの関係の一例を表している。光学フィルム11は、たとえば、凸状領域R1および凹状領域R2それぞれに、差分比率Dが一定となるコンスタント部分C1、C2を有している。たとえば、凸状領域R1では、コンスタント部分C1で差分比率Dの絶対値(以下、|D|と表す)が最も大きく、凹状領域R2では、コンスタント部分C2で|D|が最も大きい。このコンスタント部分C1、C2の|D|、即ち、凸状領域R1および凹状領域R2の|D|の最大値が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0028】
光学フィルム11は、コンスタント部分C1とコンスタント部分C2との間に傾斜部分Sを有していることが好ましい(図5A図5B)。この傾斜部分Sは、長手方向に沿って差分比率D(%)が連続的に変化する部分である。換言すれば、傾斜部分Sでは、長手方向に沿って端部e1、e2の厚みTe1、Te2および中央部cの厚みTcの少なくとも一方が連続的に変化する。光学フィルム11が、このような傾斜部分Sを有することにより、傾斜部分Sがない場合(図5C)に比べて、効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。傾斜部分SのY方向の大きさを5m以上にすることにより、より効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。傾斜部分Sでは、Y方向の大きさ100m当たりの|D|の変化量、即ち、傾斜部分Sの傾きは、たとえば0.03%以上10.0%以下であることが好ましく、0.05%以上7.5%以下であることがより好ましく、2.0%以上5.0%以下であることがさらに好ましい。これにより、より効果的に巻取り不良の発生を抑えることができる。
【0029】
図6Aおよび図6Bは、光学フィルム11のY方向の位置と差分比率Dとの関係の他の例を表している。このように、Y方向における差分比率Dの変化は、非線形であってもよい。凸状領域R1内または凹状領域R2内に、差分比率Dは複数の極大値を有していてもよい(図6B)。凸状領域R1内または凹状領域R2内に、差分比率Dの変曲点が設けられていてもよい。光学フィルム11のY方向の位置と差分比率Dとの関係は、図5A図6Bに示した例に限られない。
【0030】
このような光学フィルム11は、たとえば、所望の波長に対して透明な性質を有する樹脂により構成されている。このような樹脂としては、たとえば、シクロオレフィン樹脂(COP)等の脂環式構造含有重合体が挙げられる。光学フィルム11は、アクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂およびポリ塩化ビニル樹脂などにより構成されていてもよい。
【0031】
上記の樹脂の中でも、透明性や機械強度などの観点から、シクロオレフィン樹脂を用いることが好ましい。シクロオレフィン樹脂としては、次のような構造に由来する構造単位を有する(共)重合体が挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、または極性基(すなわち、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、またはシリル基)で置換された炭化水素基である。ただし、R~Rは、2つ以上が互いに結合して、不飽和結合、単環又は多環を形成していてもよく、この単環または多環は、二重結合を有していても、芳香環を形成してもよい。RとRとで、またはRとRとで、アルキリデン基を形成していてもよい。p、mは、それぞれ独立に、0以上の整数である。
【0034】
上記一般式中、RおよびRは、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1~4の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~2の炭化水素基である。RおよびRは、水素原子または1価の有機基であって、RおよびRの少なくとも1つは、水素原子および炭化水素基以外の極性を有する極性基であることが好ましい。mは0~3の整数、pは0~3の整数が好ましく、より好ましくはm+p=0~4、さらに好ましくはm+p=0~2、特に好ましくはm=1、p=0である。m=1、p=0である特定単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度が高くかつ機械的強度も優れたものとなる点で好ましい。
【0035】
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基は、メチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基
、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など、極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども、極性基として挙げられる。これらの中では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましい。
【0036】
さらに、RおよびRの少なくとも1つが式-(CHCOORで表される極性基である単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂が、高いガラス転移温度、低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素数1~12のアルキル基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基、特に好ましくは炭素数1~2のアルキル基である。nは0以上の整数である。
【0037】
上記の構造単位が極性基を有する場合、その他の共重合可能な単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。
【0038】
共重合可能な単量体としてのシクロオレフィンの炭素数は、特に制限されないが4~20が好ましく、さらに好ましいのは5~12である。
【0039】
光学フィルム11に含まれるシクロオレフィン樹脂は、1種であってもよく、あるいは2種以上であってもよい。
【0040】
光学フィルム11に含まれるシクロオレフィン樹脂は、固有粘度〔ηinh〕で好ましくは0.2~5dL/g、より好ましくは0.3~3dL/g、さらに好ましくは0.4~1.5dL/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は好ましくは8000~100000、より好ましくは10000~80000、さらに好ましくは12000~50000であり、重量平均分子量(Mw)は好ましくは20000~300000、より好ましくは30000~250000、さらに好ましくは40000~200000の範囲のものが好適である。
【0041】
固有粘度〔ηinh〕、数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲にあることにより、シクロオレフィン樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、シクロオレフィンフィルムとしての成形加工性とが良好となる。固有粘度〔ηinh〕の値は、シクロオレフィン樹脂をクロロホルムに溶解させた溶液の粘度を温度30℃で測定した値を採用する。粘度の測定は、互いにシクロオレフィン樹脂の濃度が異なる3種以上の溶液について行う。測定には、ウベローデ型粘度計を使用する。
【0042】
光学フィルム11に含まれるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、たとえば、好ましくは110℃以上、より好ましくは110~350℃、さらに好ましくは120~250℃、特に好ましくは120~220℃である。Tgが110℃以上であれば、高温条件下での使用、またはコーティング、印刷などの二次加工による変形を抑えることができる。一方、Tgが350℃以下であれば、成形加工が容易になり、また成形加工時の熱によって樹脂が劣化するのを防止することができる。ガラス転移温度(Tg)の値には、昇温速度20℃/分でシクロオレフィン樹脂の熱分析を行い、JIS K7121(1987)に従って求める中間点ガラス転移温度の値を採用する。熱分析には、セイコーインスツル株式会社製の示差走査熱量計DSC220を使用する。
【0043】
光学フィルム11は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70~90質量%以
上のシクロオレフィン系樹脂を含んでいる。
【0044】
光学フィルム11には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、たとえば特開平9-221577号公報および特開平10-287732号公報に記載されている、公知の炭化水素系樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子または無機微粒子などを配合してもよい。光学フィルム11は、特定の波長分散剤、糖エステル化合物(単に糖エステルとも言う)、酸化防止剤、剥離促進剤、ゴム粒子または可塑剤などの添加剤を含んでもよい。
【0045】
光学フィルム11に含まれるシクロオレフィン樹脂は、市販品であってもよいし合成品であってもよい。市販品の例としては、コニカミノルタ株式会社のSANUQI(登録商標)、JSR株式会社のアートン(登録商標、以下同じ)G、アートンF、アートンR、およびアートンRX、日本ゼオン株式会社のゼオノア(登録商標)ZF14、ZF16、ゼオネックス(登録商標、以下同じ)250またはゼオネックス280が挙げられる。
【0046】
<光学フィルムの製造方法>
図7は、光学フィルム11の製造方法の一例を表す流れ図である。光学フィルム11は、たとえば、原反フィルム(たとえば、後述の図8の原反フィルム11f)を準備または形成した後、この原反フィルムに凸状領域R1および凹状領域R2を形成することにより製造することが好ましい。また、光学フィルム11は、たとえば、原反フィルムを形成した後(ステップS101)、この原反フィルムに凸状領域R1および凹状領域R2を形成する(ステップS102)ことにより製造することがより好ましい。以下、この光学フィルム11の製造方法について説明する。
【0047】
ステップS101では、原反フィルムは、あらかじめ形成されたものを準備しても、新たに形成してもよい。ステップS101では、たとえば、幅手方向および長手方向を有する原反フィルムを形成する。
【0048】
原反フィルムの形成方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。これらの中でも、生産性の観点から溶液流延法又は溶融流延法によって製造することが好ましく、透明性、搬送性及び屈曲性の観点から溶液流延法によって製造することがより好ましい。ここで、溶液流延法は、一般的には、樹脂と、樹脂と、任意に含有されうる他の成分とが溶解した溶液を支持体上に流延し、支持体上で乾燥した後に膜状物(ウェブ)を剥離し、剥離後さらにウェブを乾燥してフィルムを形成する方法である。一方、溶融流延法は、一般的には、樹脂と、任意に含有されうる他の成分とを溶融混練してフィルムを製造する方法であり、これらの混合物を、流動性を呈する温度まで加熱溶融し、流動性の溶融物として流延してフィルム状に成形する方法である。
【0049】
なお、溶液流延法を用いる場合において、本発明に係る原反フィルムは、膜状物(ウェブ)であっても、剥離後さらにウェブを乾燥して得られるフィルムであってもよい。
【0050】
支持体からウェブを剥離する際の残留溶剤量は、剥離が可能な程度の自己支持性を有する量であれば特に制限されない。ただし、原反フィルムが良好な平面性を示すとの観点からは、10~50質量%の範囲内が好ましく、より好ましくは15~40質量%の範囲内であり、さらに好ましくは20~30質量%の範囲内である。
【0051】
ウェブまたはフィルムの残留溶剤量は下記式で定義される;
残留溶剤量(質量%)={(M-N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0052】
剥離後さらにウェブを乾燥して得られるフィルムの残留溶剤量は、1質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0~0.01質量%の範囲内である。
【0053】
たとえば、以下のようにして原反フィルムを形成することが好ましい。溶液流延法では、まず、樹脂および溶媒を含むドープを調製する。次いで、このドープを支持体上に流延させる。流延は、支持体を移動させながら行う。次に、支持体上に形成された流延膜を支持体から剥離する。この後、この流延膜を必要に応じて乾燥させることにより、樹脂を含む原反フィルムが形成される。前述のように、原反フィルムは、いわゆるウェブであってもよい。
【0054】
ドープに用いられる溶剤としては、特に制限されないが、たとえば、クロロホルム、ジクロロメタン(メチレンクロライド)などの塩素系溶剤;トルエン、キシレン、ベンゼン、およびこれらの混合溶剤などの芳香族系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。
【0055】
ドープの固形分濃度は、特に制限されないが、10~35質量%が好ましく、より好ましくは15~35質量%である。
【0056】
支持体は、特に制限されないが、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、ステンレススティールベルト(ステンレスベルト)または鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0057】
ステップS102では、たとえば、原反フィルムを幅手方向に延伸させながら、原反フィルムの幅手方向の端部を加熱することにより、原反フィルムに凸状領域R1および凹状領域R2を形成する。延伸によって、原反フィルムの厚みは延伸前に比べて全体的に小さくなるが、クリップ等で把持されている端部近傍では、中央部に比べて厚みが小さくなりにくい。この原反フィルムの端部を加熱することにより、フィルム11の端部e1、e2の厚みTe1、Te2が調整される。
【0058】
なお、原反フィルムを延伸する際の温度、搬送速度および設備等により、端部e1、e2の厚みTe1、Te2を制御することは可能であり(たとえば、SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業)1985年41巻9号290頁-301頁参照)、延伸技術にはどのような方法を用いても構わない。
【0059】
図8は、原反フィルム(原反フィルム11f)の幅手方向の延伸に使用するクリップテンター50の構成の一例を表している。クリップテンター50では、原反フィルム11fを長手方向に沿って搬送しながら幅手方向の延伸を行う。クリップテンター50には、延伸前の第1緩和エリア50A、延伸エリア50B、延伸後の第2緩和エリア50Cおよび冷却エリア50Dがこの順に並んで設けられている。原反フィルム11fは、第1緩和エリア50A、延伸エリア50B、第2緩和エリア50Cおよび冷却エリア50Dをこの順に通過して、搬送される。
【0060】
たとえば、このクリップテンター50の第1緩和エリア50A、延伸エリア50Bおよび第2緩和エリア50C各々に、原反フィルム11fの両端部を加熱するための加熱部材
51が配置されている(たとえば、特開2011-115985号公報参照)。加熱部材51は、たとえば、第1緩和エリア50A、延伸エリア50Bおよび第2緩和エリア50C各々に配置されている。加熱部材51は、第1緩和エリア50A、延伸エリア50Bおよび第2緩和エリア50Cのうち、少なくともいずれか1つに配置されていればよい。加熱部材51により、X方向の位置による温度調整が可能であってもよい。たとえば、複数の加熱部材51をX方向に並べて配置し、X方向で加熱部材51の温度を変化させるようにしてもよい。加熱部材51の温度は、制御部52により制御される。
【0061】
加熱部材51には、たとえば、原反フィルム11fの幅手方向の端部に向けて赤外線を照射する赤外線照射部材を用いる。加熱部材51は、原反フィルム11fの幅手方向の端部に向けて高温エアーまたは不活性ガスを吹きつける吹きつけ部材等であってもよく、あるいは、電熱線および加熱ロール等であってもよい。加熱部材51は、たとえば、原反フィルム11fの手前、奥、上および下のいずれか、あるいは、これらの複数個所に配置しておく。加熱部材51のX方向の位置は、フィルム11の幅手方向の両端が形成される部分から10mm~500mmの距離にあることが好ましく、20mm~400mmの距離にあることがより好ましい。これにより、端部e1、e2の厚みTe1、Te2の大きさを制御しやすくなる。フィルム11の幅手方向の両端は、たとえば、延伸後の原反フィルム11fから、クリップで把持された部分(幅手方向の端部)をスリットすることにより、形成される。
【0062】
第1緩和エリア50A、延伸エリア50Bおよび第2緩和エリア50C各々に加熱部材51を設けたクリップテンター50を用い、たとえば、以下のようにして、原反フィルム11fに凸状領域R1および凹状領域R2を形成する。
【0063】
まず、原反フィルム11fの幅手方向の両端部をクリップ等で把持する。次いで、この原反フィルム11fの搬送を開始する。これにより、原反フィルム11fが第1緩和エリア50A、延伸エリア50B、第2緩和エリア50Cおよび冷却エリア50Dを順に通過し、幅手方向の延伸がなされる。原反フィルム11fの搬送速度は、特に制限されないが、3m/分~100m/分であることが好ましく、5m/分~50m/分であることがより好ましい。搬送速度を3m/分以上、より好ましくは5m/分以上とすることにより、フィルム11間のエアー量が調整しやすくなり、また、搬送時間を短縮してコストを抑えることが可能となる。搬送速度を100m/分以下、より好ましくは50m/分以下とすることにより、対象範囲に十分な熱量を与えるための加熱部材51が大型化してしまうことが抑制でき、設備コストを抑えることができる。
【0064】
第1緩和エリア50A、延伸エリア50Bおよび第2緩和エリア50Cでは、原反フィルム11fの幅手方向の両端部の温度が、中央部の温度よりも0℃~50℃程度高くなっていることが好ましい。ここで、制御部52により加熱部材51の温度を時間変化させることにより、原反フィルム11fのうち、凸状領域R1を形成する部分の両端部と中央部との温度差を、凹状領域R2を形成する部分の両端部と中央部との温度差よりも大きくする。これにより、凸状領域R1の端部e1、e2の厚みTe1、Te2が、凹状領域R2の端部e1、e2の厚みTe1、Te2よりも小さくなり、原反フィルム11fに凸状領域R1および凹状領域R2が形成される。たとえば、凸状領域R1を形成する部分では、原反フィルム11fの両端部と中央部との温度差を20℃~30℃にし、凹状領域R2を形成する部分では、原反フィルム11fの両端部と中央部との温度差を0℃~10℃にする。
【0065】
たとえば、原反フィルム11fの両端部と中央部との温度差を調整することにより、|D|の大きさを制御することができる。凸状領域R1を形成する部分では、端部と中央部との温度差が大きくなるほど|D|が大きくなり、凹状領域R2を形成する部分では、端
部と中央部との温度差が小さくなるほど|D|が大きくなる。
【0066】
たとえば、原反フィルム11fの両端部(あるいは、加熱部材51)の温度の昇温速度および降温速度を調整することにより、Y方向の大きさ100m当たりの|D|の変化量を制御することができる。両端部の温度の昇温速度または降温速度を速くするほど、Y方向の大きさ100m当たりの|D|の変化量が大きくなる。
【0067】
原反フィルム11fの両端部の温度と、中央部の温度との差は、50℃以下であることが好ましい。これにより、フィルム11の端部e1、e2の軟化が抑えられ、端部e1、e2の厚みTe1,Te2を高い精度で調整することが可能となる。凸状領域領域R1を形成する部分では、原反フィルム11fの両端部と中央部との温度差が3℃以上であることが好ましい。これにより、設備を大型化させることなく、比較的短時間で、端部e1、e2の厚みTe1、Te2を十分に小さくすることが可能となる。また、原反フィルム11fの両端部の温度は、互いに異なっていてもよいが、ほぼ同じであることが好ましい。
【0068】
原反フィルム11fの両端部および中央部の温度は、たとえば、熱型非接触温度センサー(レイテック社製・MT150)を用い、原反フィルム11fの重力方向下側から測定する。原反フィルム11fの両端部の温度は、たとえば、加熱部材51の中央付近に重なる位置で測定し、幅手方向50mmの範囲の平均値を使用する。原反フィルム11fの中央部の温度は、たとえば、両端部の中間の位置で測定し、幅手方向100mmの平均値を使用する。
【0069】
幅手方向の延伸倍率は、特に制限されないが、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。これにより、端部e1、e2の加熱により、端部e1、e2の厚みTe1、Te2を効果的に調整することができる。また、幅手方向の延伸倍率は、1000%以下であることが好ましい。これにより、延伸設備を大型化させずに延伸を行うことができ、設備コストを抑えることが可能となる。幅手方向の延伸倍率は、クリップテンター50のクリップ間の距離により調整することが可能である。幅手方向の延伸倍率は、延伸前後のフィルムの幅を比較することにより評価することができる。上述の延伸倍率および温度は一例であり、所望のフィルム11の配向、物性および表面状態を得るため適宜調整される。幅手方向の延伸には、クリップテンター50に限らず、任意の方法を使用できるが、たとえば、ピンテンター等を使用してもよい。
【0070】
搬送方向の延伸倍率は、特に制限されない。搬送方向の延伸には、任意の方法を使用できるが、たとえば、パンタグラフ式、ロール間ドロー方式およびフロート方式等を使用することができる。
【0071】
凸状領域R1および凹状領域R2は、他の方法を用いて形成してもよい。たとえば、ドープを流延する際の流延量を制御することにより、凸状領域R1および凹状領域R2を形成するようにしてもよい。たとえば、チョークバー(ダイボルトともいう。)などにより、ドーブの流延量を調整し(たとえば特開2016-190344号公報参照)、凸状領域R1および凹状領域R2を形成することができる。中央部cおよび端部e1、e2を形成するためのドープを、独立制御して供給することにより、ドープの流延量を調整し(たとえば特開2009-78371号公報参照)、凸状領域R1および凹状領域R2を形成してもよい。たとえば、端部e1、e2の厚みTe1、Te2を大きくするとき、端部e1、e2を形成するためのドープの流量を増加させ、端部e1、e2の厚みTe1、Te2を小さくするとき、端部e1、e2を形成するためのドープの流量を減少させればよい。
【0072】
あるいは、エンボス部(たとえば、図4のエンボス部E)の有無および大きさ等を制御することにより、凸状領域R1および凹状領域R2を形成するようにしてもよい(たとえば、特開2009-73154号公報参照)。これらの方法を複数組み合わせることにより、凸状領域R1および凹状領域R2を形成するようにしてもよい。
【0073】
たとえば、このようにして凸状領域R1および凹状領域R2を有する光学フィルム11を製造することができる。この光学フィルム11を、たとえば巻き取り機を用いて巻芯12に巻き取ることにより、フィルムロール1が形成される。
【0074】
<光学フィルムおよびフィルムロールの作用および効果>
本実施形態の光学フィルム11には、端部e1、e2の厚みTe1、Te2が中央部cの厚みTcよりも小さい凸状領域R1(または凸状位置P1)と、端部e1、e2の厚みTe1、Te2が中央部cの厚みTcよりも大きい凹状領域R2(または凹状位置P2)とが設けられているので、フィルムロール1を形成する際に、光学フィルム11間のエアー量の制御が容易となる。よって、巻取り不良の発生を抑えることが可能となる。以下、この作用効果について詳細に説明する。
【0075】
図9A図9Bおよび図9Cは各々、比較例に係る光学フィルムのY方向(長手方向)の位置と差分比率Dとの関係を表している。これら比較例に係る光学フィルムは、各々、凸状領域R1および凹状領域R2のいずれか一方のみを有している。図9Aに示した光学フィルムおよび図9Cに示した光学フィルムは、凸状領域R1のみを有するものであり、長手方向のすべての位置で、端部の厚みが中央部の厚みよりも小さくなっている(差分比率D>0)。図9Bに示した光学フィルムは、凹状領域R2のみを有するものであり、長手方向のすべての位置で、端部の厚みが中央部の厚みよりも大きくなっている(差分比率D<0)。このような比較例に係る光学フィルムでは、フィルムロールを形成する際に、互いに重なる光学フィルム間のエアー量の制御が困難となり、巻取り不良が発生しやすい。
【0076】
たとえば、図9Aに示した光学フィルムおよび図9Cに示した光学フィルムでは、互いに重なる光学フィルム間のエアー量が比較的少なく、より厚みの大きい中央部で強い貼り付きが生じやすい。この光学フィルム間の貼り付きに起因して、フィルムロールにブラックバンドが発生するおそれがある。ブラックバンドでは、貼り付きの強い中央部と、貼り付きの弱い端部との間で伸び縮みが発生し、光学フィルムが変形する。また、フィルム間に巻き込まれた微小のエアーが、巻取りとともに成長し、デンツ(へこみ)を形成するおそれもある。
【0077】
一方、図9Bに示した光学フィルムでは、互いに重なる光学フィルム間のエアー量が比較的多いので、光学フィルム間の貼り付きに起因した巻取り不良の発生を抑えることが可能となる。しかし、この光学フィルムでは、フィルムロールの形成後、時間が経つにつれて光学フィルム間のエアーが抜け、形状が維持されにくい。このエアー抜けに起因して光学フィルムが変形するおそれがある。
【0078】
このような巻取り不良の発生に起因する光学フィルムの劣化は、この光学フィルムを用いたディスプレイまたはタッチセンサー等のデバイスにも影響を及ぼす。たとえば、ディスプレイでは、画像の視認性が低下し、タッチセンサーでは抵抗値が変動してセンサー機能が低下する。
【0079】
これら比較例に係る光学フィルムに対し、本実施形態の光学フィルム11は、凸状領域R1および凹状領域R2の両方を有しているので、互いに重なる光学フィルム11間のエアー量を制御することができる。
【0080】
図10は、フィルムロール1の端面の構成の一例を表している。フィルムロール1では、たとえば、凸状領域R1および凹状領域R2が交互に重なるので、光学フィルム11間の貼り付きが抑えられ、かつ、形状が維持される。即ち、ブラックバンドおよびデンツの発生を抑えるとともに、時間経過による光学フィルム11の変形を抑えることができる。
【0081】
以上のように、本実施形態の光学フィルム11およびフィルムロール1では、光学フィルム11に、端部e1、e2の厚みTe1、Te2が中央部cの厚みTcよりも小さい凸状位置P1と、端部e1、e2の厚みTe1、Te2が中央部cの厚みTcよりも大きい凹状位置P2とが設けられているので、フィルムロール1を形成する際に、光学フィルム11間のエアー量の制御が容易となる。よって、巻取り不良の発生を抑えることが可能となる。
【0082】
このような光学フィルム11をディスプレイおよびタッチセンサー等のデバイスに用いると、デバイスの性能を向上させることが可能となる。
【0083】
また、この光学フィルム11では、巻取り不良の発生が抑えられるので、薄膜化を行うことが可能となる。さらに、光学フィルム11には、低弾性材料も好適に用いることができる。加えて、長尺の光学フィルム11を製造する際にも、生産性の低下を抑えることができる。フィルムロール1の全巻長が、1000m以上、好ましくは4000m以上であるとき、巻取り不良の発生をより効果的に抑えることができる。
【0084】
<変形例>
フィルムロール1は、複数のフィルムの積層体を巻き取ることにより形成されていてもよい。この積層体は、たとえば、光学フィルム11および保護フィルム(後述の図11の保護フィルム21)を有していてもよい。ここでは、光学フィルム11が、本発明の機能フィルムの一具体例に対応する。
【0085】
図11は、光学フィルム11および保護フィルム21の積層体の断面構成の一例を表している。保護フィルム21は、光学フィルム11を保護するためのものであり、光学フィルム11から剥離可能に構成されている。保護フィルム21は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、およびこれらの混合物を含んでいる。
【0086】
たとえば、光学フィルム11に保護フィルム21を積層した後、この積層体を巻き取ることによりフィルムロール1が形成される。
【0087】
<その他の変形例>
光学フィルム11には、透明導電膜が積層されていてもよい。透明導電膜を形成するための材料としては、たとえば、Sn、In、Ti、Pb、Au、PtおよびAg等の金属、又はこれらの酸化物等が使用される。この酸化物は、たとえば、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化タングステンである。透明導電膜は、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、硫化カドミウム、硫化亜鉛またはセレン化亜鉛等を用いて形成されていてもよい。
【0088】
光学フィルム11と透明導電膜との間には、接着層およびアンカーコート層が設けられていてもよい。接着層は、たとえば、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリブタジエン、フェ
ノール樹脂およびポリエーテルエーテルケトン等の耐熱樹脂を用いて形成することができる。アンカーコート層は、たとえば、エポキシジアクリレート、ウレタンジアクリレートおよびポリエステルジアクリレート等のアクリルプレポリマー等を含むアンカーコート剤を用いて、公知の硬化手法、たとえばUV硬化や加熱硬化により硬化させて形成することができる。
【0089】
光学フィルム11と透明導電膜との間には、フィルムの平滑性および透明導電膜との密着性向上を目的とした接着層が設けられていてもよい。この接着層は、たとえば、樹脂ワニスを塗布し乾燥により溶媒を除去することで得られる。
【0090】
光学フィルム11および透明導電膜を含む積層体は、透明導電膜とは反対側にガスバリア層を有していてもよい。ガスバリア層は、無機材料で形成しても有機材料で形成してもよい。使用可能な無機材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化インジウム等を、有機材料としてはポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体およびポリアミド等を挙げることができる。更に、ガスバリア層上に、これを保護するための保護コート層を積層してもよい。
【0091】
<適用例>
光学フィルム11は、たとえば、カラーフィルター用基板、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、CD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)、DVD(Digital Versatile
Disc)等の光学記録基板、TFT(Thin Film Transistor)用基板、液晶表示基板および有機EL(Electroluminescence)表示基板、あるいは、光伝送用導波路および光学素子封止材等の光学部品として、好適に使用することができる。中でも、表示素子用部材、具体的には、カラーフィルター用基板、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチセンサー、透明電極基板、TFT用基板、液晶表示基板、有機EL表示基板等に好適に用いることができる。
【0092】
たとえば、光学フィルム11を含むカラーフィルター用基板の上にカラーフィルター層を積層することにより、カラーフィルターを得ることができる。この積層方法としては、公知の顔料分散法、染色法、電着法、印刷法、転写法等を用いることができる。このカラーフィルターは、液晶表示装置のカラーフィルターとして使用することができ、更に、カラーディスプレー、液晶表示装置等の部品の一部として使用することもできる。
【0093】
光学フィルム11は、光学部品のほか、電気絶縁部品、電気・電子部品、電子部品封止剤、医療用器材、及び包装材料にも使用することができる。特にシクロオレフィン樹脂を含む光学フィルム11は、耐熱性及び電気特性に優れ、高温処理や薬品処理を行なっても寸法変化が小さいので、電気絶縁部品として最適である。電気絶縁部品としては、電線・ケーブルの被覆材料、コンピューター、プリンターおよび複写機等のOA機器の絶縁材料、あるいは、フレキシブルプリント基板の絶縁部品等を挙げることができるが、特に、フレキシブルプリント基板として好適に用いられる。
【0094】
光学フィルム11は、たとえば、タッチセンサーにも好適に用いることができる(請求項12)。タッチセンサーは、たとえば、ディスプレイ装置の表面に装着されて使用者の指、タッチペンなどの物理的な接触を電気的信号に変換して出力する装置である。このディスプレイ装置は、たとえば、液晶表示装置、プラズマディスプレイ装置およびEL表示装置等である。
【0095】
光学フィルム11を含むタッチセンサーは、たとえば、透明電極式のタッチセンサーである。透明電極式のタッチセンサーでは、たとえば、光学フィルム11に金属酸化物を被
覆することにより透明電極を形成し、この透明電極への接点により位置が感知される。金属酸化物には、たとえば、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)が用いられる。たとえば、真空蒸着またはスパッタリングにより、光学フィルム11に金属酸化物が被覆される。
【0096】
このようなタッチセンサーに用いられる光学フィルム11は、耐熱性が高いことが好ましい。耐熱性は、たとえば、ガラス転移温度で評価することができ、光学フィルム11は、たとえば、スパッタリング温度以上の高いガラス転移温度および高い機械的強度を有していることが好ましい。
【0097】
また、タッチセンサーに用いられる光学フィルム11は、可視光線領域における透明性も有していることが好ましく、たとえば、可視光線に対して90%以上の光透過度を有していることが好ましい。
【0098】
シクロオレフィン樹脂を含む光学フィルム11は、高いガラス転移温度および高い耐熱性を有し、かつ、可視光線に対する高い光透過性を有しているため、タッチセンサーに好適に用いることができる。
【実施例
【0099】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0100】
<実施例1>
まず、以下のようにして原反フィルムを作製した。
【0101】
(ドープの調製)
PET樹脂(東洋紡株式会社製 東洋紡エステルフィルムE7002) 100質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 10質量部
まず、上記の成分を密閉容器に投入し、攪拌しながらPET樹脂を溶解させ、ドープを調製した。
【0102】
(製膜)
次いで、このドープを、無端ベルト流延装置を用いて、温度31℃、1800mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延(キャスト)させ、流延膜を形成した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。次に、ステンレスベルト支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が30%になるまで溶剤を蒸発させた。続いて、剥離張力128N/mで、流延膜をステンレスベルト支持体上から剥離した後、この流延膜を、160℃の条件下で幅方向に1.15倍延伸した。延伸開始時の残留溶剤は5質量%であった。次に、流延膜を多数のローラーで搬送させながら乾燥させた。続いて、流延膜のうち、テンタークリップで挟んだ部分(両端部分)をレーザーカッターでスリットした後、流延膜の巻き取りを行った。これにより、膜厚33μmの原反フィルムが作製された。
【0103】
次に、この原反フィルムの幅手方向の両端部をクリップで把持しながら、クリップテンターを用いて原反フィルムを幅手方向に延伸した。このとき、原反フィルムの幅手方向の両端部を延伸エリア(図8の延伸エリア50B)で加熱することにより、凸状領域R1および凹状領域R2を形成した。加熱部材には、赤外線照射部材を用いた。加熱部材は、フィルムロールの幅手方向の両端が形成される位置から150mm以内の距離に配置した。原反フィルムの中央部を130℃、両端部を160℃にして凸状領域を形成し、原反フィ
ルムの中央部および両端部をともに130℃にして凹状領域を形成した。凸状領域R1および凹状領域R2ともに、幅手方向の延伸倍率は30%であった。
【0104】
インライン膜厚計を用いて、上記作製したフィルムの平均の厚み、|D|が最大となる凸状領域R1および凹状領域R2各々の差分比率D、および、凸状領域R1、凹状領域R2各々の長手方向の大きさを測定した。また、インライン膜厚計およびエンコーダー(測長計)を用いて、長手方向の大きさ100m当たりの傾斜部分の差分比率Dの変化量を測定した(図5A図5B参照)。作製したフィルムの平均の厚みは25μm、|D|が最大となる凸状領域、凹状領域各々の差分比率Dは7.5%、-7.5%であった。凸状領域R1の長手方向の大きさおよび凹状領域R2の長手方向の大きさは、同じであり、250mであった。傾斜部分での100m当たりの差分比率Dの変化量は、7.5%であった。また、このフィルムのガラス転移温度は80℃であった。この後、作製したフィルムを巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールを作製した。全巻長は4000mであった。
【0105】
<実施例2>
まず、以下のようにして原反フィルムを作製した。
【0106】
(ゴム粒子分散液の調製)
10質量部のゴム粒子(カネカ株式会社製カネエース(登録商標)M210、平均一次粒子径R:200nm)と、90質量部のME16(メチレンクロライドとエタノールが84:16の質量比である混合溶媒)とを含む溶液を、ディゾルバーで50分間撹拌混合した。この後、この溶液を、1500rpm条件下でマイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて分散させ、ゴム粒子分散液を得た。
【0107】
(シリカ粒子分散液の調製)
20質量部のシリカ粒子(アエロジル(登録商標)R812、日本アエロジル株式会社製、疎水性ヒュームドシリカ、平均一次粒子径Rs1:7nm、比表面積:260±30m/g)と、80質量部のME50(メチレンクロライドとエタノールが50:50の質量比である混合溶媒)との混合物を、ディゾルバーで50分間撹拌混合した。この後、この混合物をマントンゴーリンで分散させ、添加液を得た。
【0108】
次いで、溶解タンク中で十分攪拌されている90質量部のME16に、10質量部の上記添加液をゆっくりと添加した。続いて、ME16に添加された添加液をアトライターにて分散させた。これを日本精線株式会社製のファインメットNFでろ過し、シリカ粒子分散液を得た。
【0109】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクに90質量部のメチレンクロライドおよび10質量部のエタノールを添加した。次いで、この加圧溶解タンクに、80質量部のアクリル樹脂(MR1000、日本触媒株式会社製、ラクトンアクリル樹脂)を撹拌しながら投入した。次いで、上記調製したゴム粒子分散液を加圧溶解タンクに投入した後、撹拌を行い、アクリル樹脂を溶解させた。このアクリル樹脂溶液を、SHP150(株式会社ロキテクノ製)を使用して濾過し、ドープを得た。
【0110】
(製膜)
次いで、上記のドープを用いて製膜を行った。具体的には、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1800mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延させ、流延膜を形成した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。
【0111】
ステンレスベルト支持体上で、流延膜中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸
発させた。次いで、剥離張力128N/mで、流延膜をステンレスベルト支持体から剥離した。剥離後の流延膜の残留溶媒量は30質量%であった。
【0112】
次いで、剥離後の流延膜を多数のローラーで搬送させながら、テンターにて140℃の条件下で幅手方向に50%延伸した。続いて、流延膜をロールで搬送しながら、105℃で乾燥させた。次に、流延膜のうち、テンタークリップで挟んだ部分(両端部分)をスリットした後、流延膜の巻き取りを行った。これにより、膜厚33μmの原反フィルムを得た。
【0113】
次に、この原反フィルムの幅手方向の両端部をクリップで把持しながら、クリップテンターを用いて原反フィルムを幅手方向に延伸した。このときの原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、上記実施例1で説明した原反フィルムの延伸と同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を140℃、両端部を170℃にして凸状領域を形成し、原反フィルムの中央部および両端部をともに140℃にして凹状領域を形成した。凸状領域R1および凹状領域R2ともに、幅手方向の延伸倍率は30%であった。
【0114】
<実施例3>
まず、以下のようにして原反フィルムを作製した。
【0115】
(微粒子分散液の調製)
11.3質量部の微粒子(アエロジル(登録商標)R812、日本アエロジル株式会社製)と、84質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、この混合液をマントンゴーリンで分散させた。これにより、微粒子分散液を得た。
【0116】
溶解タンク中の十分攪拌されているメチレンクロライド(100質量部)に、5質量部の微粒子分散液を、ゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるように、メチレンクロライドに添加された微粒子分散液をアトライターにて分散させた。これを日本精線株式会社製のファインメットNFでろ過し、微粒子添加液を調製した。
【0117】
(ドープの調製)
下記組成のドープを調製した。まず加圧溶解タンクに200質量部のジクロロメタンおよび10質量部のエタノールを添加した。次に、ジクロロメタンおよびエタノールの混合溶液の入った加圧溶解タンクに、攪拌しながら、100質量部のシクロオレフィン樹脂(ARTON(登録商標) F4520、JSR株式会社製)と、5質量部の紫外線吸収剤(Tinuvin(登録商標) 477、BASFジャパン株式会社製)と、3質量部の上記微粒子添加液とを投入した。続いて、この混合物を加熱し、攪拌しながらシクロオレフィン樹脂を溶解させた。次いで、このシクロオレフィン樹脂溶液を安積濾紙株式会社製の安積濾紙No.244を使用してろ過し、ドープを調製した。
【0118】
なお、ARTON(登録商標) F4520は、下記構造の構造単位を有する重合体である。
【0119】
【化2】
【0120】
(製膜)
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度31℃、1800mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延させ、流延膜を形成した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。次に、ステンレスベルト支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が30質量%になるまで溶剤を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体上から流延膜を剥離した。続いて、剥離した流延膜を、160℃の条件下で幅方向に1.15倍延伸した。延伸開始時の流延膜の残留溶剤は5質量%であった。続いて、この流延膜を多数のローラーで搬送させながら乾燥させた。次に、この流延膜のうち、テンタークリップで挟んだ部分(両端部分)をレーザーカッターでスリットした後、この流延膜の巻き取りを行った。これにより、厚み33μmの原反フィルムを得た。
【0121】
次に、この原反フィルムの幅手方向の両端部をクリップで把持しながら、クリップテンターを用いて原反フィルムを幅手方向に延伸した。このときの原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、上記実施例1で説明した原反フィルムの延伸と同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を210℃にして凸状領域を形成し、原反フィルムの中央部および両端部をともに180℃にして凹状領域を形成した。凸状領域R1および凹状領域R2ともに、幅手方向の延伸倍率は30%であった。
【0122】
<実施例4>
上記実施例3のフィルムロールの作製において、原反フィルムを幅手方向に延伸する際の原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を200℃にして凸状領域を形成し、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を190℃にして凹状領域を形成した。これにより、上記実施例3のフィルムロールから凸状領域R1および凹状領域R2各々の|D|の最大値が変更された。
【0123】
<実施例5>
上記実施例3のフィルムロールの作製において、原反フィルムの両端部の温度の昇温速度および降温速度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、実施例3と比較して、原反フィルムの両端部の温度の昇温速度および降温速度を、2.1倍遅くした。これにより、上記実施例3のフィルムロールから、傾斜部分での100m当たりの差分比率Dの変化量が変更された。
【0124】
<実施例6>
上記実施例4のフィルムロールの作製において、原反フィルムの両端部の温度の昇温速度および降温速度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、実施例4と比較して、原反フィルムの両端部の温度の昇温速度および降温速度を、2.
1倍遅くした。これにより、上記実施例4のフィルムロールから、傾斜部分での100m当たりの差分比率Dの変化量が変更された。
【0125】
<実施例7>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、全巻長の長さを変更した以外は同様にして、フィルムロールを作製した。
【0126】
<実施例8>
上記実施例4のフィルムロールの作製において、原反フィルムの両端部の温度変化の周期を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、実施例4のフィルムロールの作製時よりも、加熱部材の温度変化の周期を短くした。これにより、上記実施例4のフィルムロールから凸状領域R1および凹状領域R2の長手方向の大きさが変更された。
【0127】
<実施例9>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、凸状領域R1および凹状領域R2の形成方法を変更した以外は同様にして、フィルムロールを作製した。具体的には、流延ダイスの幅手方向にヒートボルトを複数配置し、幅手方向の位置に応じてヒートボルトに印加する電圧の値を変化させた。これにより、流延ダイス両端部のドープ流延量と流延ダイス中央部のドープ流延量とが各々調整され、凸状領域R1および凹状領域R2が形成された。具体的には、幅手方向両端部の流延ギャップを、幅手方向中央部の流延ギャップに対して-2.5%~2.5%の間で変化させた。
【0128】
<実施例10>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、凸状領域R1および凹状領域R2の形成方法を変更した以外は同様にして、フィルムロールを作製した。具体的には、一定押圧のもと、エンボスリングの温度を180℃~200℃まで変化させた。これにより、形成されるエンボスの高さが調整され、凸状領域R1および凹状領域R2が形成された。
【0129】
<実施例11>
上記実施例1のフィルムロールの作製において、原反フィルムを幅手方向に延伸する際の原反フィルムの中央部および両端部の温度と、原反フィルムの両端部の温度の昇温速度および降温速度とを変更した。これ以外は、上記実施例1同様にしてフィルムロールを作製した。これにより、上記実施例1のフィルムロールから凸状領域R1および凹状領域R2各々の|D|の最大値と、傾斜部分での100m当たりの差分比率Dの変化量とが変更された。
【0130】
<実施例12>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、原反フィルムの両端部の温度を非線形に変化させた以外は同様にして、フィルムロールを作製した。これにより、長手方向に沿って、差分比率Dが正弦曲線(サインカーブ)状に変化した。
【0131】
<実施例13>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、全巻長の長さを変更した以外は同様にして、フィルムロールを作製した。
【0132】
<実施例14>
上記実施例6のフィルムロールの作製において、全巻長の長さを変更した以外は同様にして、フィルムロールを作製した。
【0133】
<実施例15>
上記実施例4のフィルムロールの作製において、原反フィルムの両端部の温度変化の周期を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、実施例4のフィルムロールの作製時よりも、加熱部材の温度変化の周期を長くした。これにより、上記実施例4のフィルムロールから凸状領域R1および凹状領域R2の長手方向の大きさが変更された。
【0134】
<比較例1>
上記実施例3のフィルムロールの作製において、原反フィルムを幅手方向に延伸する際の原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を210℃に維持したまま原反フィルムを幅手方向に延伸させた。これにより、フィルムロールに凸状領域のみが形成された。
【0135】
<比較例2>
上記実施例3のフィルムロールの作製において、原反フィルムを幅手方向に延伸する際の原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を190℃に維持したまま原反フィルムを幅手方向に延伸させた。これにより、フィルムロールに凹状領域のみが形成された。
【0136】
<比較例3>
上記比較例1のフィルムロールの作製において、原反フィルムを幅手方向に延伸する際の原反フィルムの中央部および両端部の温度を変更した以外は、同様にしてフィルムロールを作製した。具体的には、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を210℃にして第1凸状領域を形成し、原反フィルムの中央部を180℃、両端部を200℃にして第2凸状領域を形成した。これにより、互いに異なる差分比率Dの値を有する2つの凸状領域(第1凸状領域および第2凸状領域)が形成された。
【0137】
このようにして作成した実施例1~15および比較例1~3に係るフィルムロールの特性を下記表1にまとめる。
【0138】
<フィルムロールの評価>
(ブラックバンドの評価)
フィルムロール作製直後に、白色蛍光灯のもと、フィルムロール表面から巻芯方向を目視し、フィルム表面の色を観察した。観察は、フィルムロール全幅にわたり、フィルムロール1周分について行った。このとき、巻芯の色が透けて見え、周囲と色が異なって見える部分の有無を確認した。この色の確認には、所定の限度見本を用いた。色が異なって見える部分が存在した場合には、この部分についてフィルムの変形の有無を確認した。具体的には、黒色のラシャ紙に対して略水平に設けた台にフィルムを載せ、フィルムに照射した光の反射光によりフィルムの変形の有無を確認した。フィルムへの光の照射は、2500ルクス以上の蛍光灯を用いて行い、蛍光灯はフィルムから2m以内に配置した。このようにして、フィルムロールのブラックバンドを下記評価基準に従って評価した。この結果を下記表1に表す;
≪評価基準≫
A:フィルムロールに色が異なって見える部分が存在しない、
B:フィルムロールに色が異なって見える部分が存在するが、フィルムの変形は確認されない、
C:フィルムの変形が確認された。
【0139】
(経時変化の評価)
フィルムロール作製直後に、黒色の巻芯の表面を外観から目視で観察し、色が異なって見える部分の有無を確認した。次に、フィルムロールを23℃、90%RH条件下で500時間置き、再び、黒色の巻芯の表面を外観から目視で観察し、色が異なって見える部分の有無を確認した。フィルムロール作製直後および500時間経過後それぞれで、色が異なって見える部分が存在した場合には、この部分についてフィルムの変形の有無を確認した。このようにして、フィルムロールの経時変化を下記評価基準に従って評価した。この結果を下記表1に表す;
≪評価基準≫
A:500時間経過後であっても、フィルムロールに色が異なって見える部分が増えていない、
B:500時間経過後に、フィルムロールに色が異なって見える部分が増えているが、この部分でフィルムの変形は確認されない、
C:500時間経過後に、新たに、フィルムの変形が確認された。
【0140】
【表1】
【0141】
本発明に係るフィルムおよびフィルムロールは、幅手方向の端部の厚みが中央部の厚みよりも小さい凸状位置(または凸状領域)と、端部の厚みが中央部の厚みよりも大きい凹状位置(または凹状領域)とを有している。表1の結果より、本発明の各実施例に係るフィルムは、凸状位置または凹状位置のいずれか一方のみを有するフィルムと比較して、ブラックバンドおよび経時変化の点で優れ、巻取り不良の発生が抑えられることが確認された。
【0142】
本出願は、2020年7月6日に出願された日本特許出願(特願2020-116621号)に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11