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特許7552699遠隔監視装置、遠隔監視方法、及び遠隔監視システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】遠隔監視装置、遠隔監視方法、及び遠隔監視システム
(51)【国際特許分類】
   H04Q 9/00 20060101AFI20240910BHJP
   H04M 11/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H04Q9/00 301B
H04M11/00 301
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022539942
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029434
(87)【国際公開番号】W WO2022024345
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】沢辺 亜南
(72)【発明者】
【氏名】岩井 孝法
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093374(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04Q 9/00
H04M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象である移動体が移動する移動区間にて前記移動体が通信するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックと、前記移動区間におけるトラヒックモデルとに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える、遠隔監視装置。
【請求項2】
前記観測部は、前記トラヒックとして、前記移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する、
請求項1に記載の遠隔監視装置。
【請求項3】
前記特定部は、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布を考慮して、前記移動区間を分割する、
請求項1又は2に記載の遠隔監視装置。
【請求項4】
前記特定部は、
前記移動区間における前記トラヒックモデルを用いて、前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の特定及び尤度の算出を行い、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の尤度の合計が大きくなるように、前記移動区間を分割する、
請求項1又は3に記載の遠隔監視装置。
【請求項5】
前記トラヒックモデルは、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づくモデルである、
請求項4に記載の遠隔監視装置。
【請求項6】
前記移動区間を分割した区間を、前記移動区間を表すマップ上に表示する表示部をさらに備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の遠隔監視装置。
【請求項7】
監視対象である移動体が移動する移動区間にて前記移動体が通信するネットワークにおけるトラヒックを観測する第1ステップと、
前記観測されたトラヒックと、前記移動区間におけるトラヒックモデルとに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する第2ステップと、
を含む、遠隔監視方法。
【請求項8】
前記第1ステップでは、前記トラヒックとして、前記移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する、
請求項7に記載の遠隔監視方法。
【請求項9】
前記第2ステップでは、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布を考慮して、前記移動区間を分割する、
請求項7又は8に記載の遠隔監視方法。
【請求項10】
監視対象である移動体が移動する移動区間にて前記移動体が通信するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックと、前記移動区間におけるトラヒックモデルとに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える、遠隔監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔監視装置、遠隔監視方法、及び遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
監視対象である車両等の移動体が移動する移動区間から離れた遠隔地にある遠隔監視装置において、移動体の状態を推定することがある。この場合、遠隔監視装置は、移動体とネットワーク経由で通信して、移動体の情報を取得し、取得された情報に基づいて、移動体の状態を推定する。
【0003】
しかし、移動体と通信するネットワークは、遅延ジッター等の通信品質の変動が発生する。遅延ジッターは、通信の遅延変動の安定性を示す指標となるものである。
【0004】
そのため、不安定な通信環境下でも、移動体の状態を高精度に推定することが重要である。そこで、最近は、不安定な通信環境下において、各種の処理を行う技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、サンプリング周期から算出される遅延ジッター量と、事前計測されたシステム遅延時間と、に基づいて、センサが物体をセンシングした事象検知時刻を推定すること、さらに、その物体の位置を推定すること、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/154296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、移動体と通信するネットワークは、地理的特性に依存して通信品質が頻繁に変動する。例えば、ネットワークにおける遅延ジッターは、移動体の位置や移動方向によって変動する。
【0008】
そのため、移動体の状態を高精度に推定するためには、移動体の位置や移動方向を考慮した、地理的特性に応じた遅延ジッター分布を特定する必要がある。遅延ジッター分布は、例えば、遅延ジッターの確率密度関数として、表現されるものである。
【0009】
そこで本開示の目的は、上述した課題を解決し、地理的特性に応じた遅延ジッター分布を特定することができる遠隔監視装置、遠隔監視方法、及び遠隔監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様による遠隔監視装置は、
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える。
【0011】
一態様による遠隔監視方法は、
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する第1ステップと、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する第2ステップと、
を含む。
【0012】
一態様による遠隔監視システムは、
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、地理的特性に応じた遅延ジッター分布を特定できる遠隔監視装置、遠隔監視方法、及び遠隔監視システムを提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】移動体の移動方向の例を示す図である。
図2】移動体が図1に示される(1)の移動方向に移動したケースの遅延ジッターの例を示す図である。
図3】移動体が図1に示される(2)の移動方向に移動したケースの遅延ジッターの例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る遠隔監視システムの全体構成例を示す図である。
図5】実施の形態1に係る車両及び遠隔監視装置の構成例を示すブロック図である。
図6】パケットの同時到着及びパケットロスが発生した状況の例を示す図である。
図7】ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布の例を示す図である。
図8】実施の形態1に係る区間分割部の動作例を示す図である。
図9】実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルの有用性を検証する前提条件を示す図である。
図10図9に示される前提条件下における遅延ジッターの例を示す図である。
図11図10に示される遅延ジッターに基づいて算出された遅延ジッター分布の例を示す図である。
図12】ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布の例を示す図である。
図13】実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布の例を示す図である。
図14】実施の形態1に係る尤度ベースの区間分割の有用性を検証する前提条件を示す図である。
図15図14に示される前提条件下における遅延ジッターに基づいて、移動体の移動区間を区間分割した結果の例を示す図である。
図16】クラスターID0の混合ラプラス分布の例を示す図である。
図17】クラスターID1の混合ラプラス分布の例を示す図である。
図18】クラスターID2の混合ラプラス分布の例を示す図である。
図19】クラスターID3の混合ラプラス分布の例を示す図である。
図20】クラスターID4の混合ラプラス分布の例を示す図である。
図21】実施の形態1に係る遠隔監視装置の動作の流れの例を示すフロー図である。
図22】実施の形態2に係る車両及び遠隔監視装置の構成例を示すブロック図である。
図23】実施の形態2に係る区間表示部による、分割された区間の表示例を示す図である。
図24】実施の形態2に係る区間表示部による、分割された区間の表示例を示す図である。
図25】実施の形態2に係る区間表示部による、分割された区間の表示例を示す図である。
図26】実施の形態2に係る遠隔監視装置の動作の流れの例を示すフロー図である。
図27】実施の形態を概念的に示した遠隔監視システムの構成例を示すブロック図である。
図28図27に示される遠隔監視システムの動作の流れの例を示すフロー図である。
図29】実施の形態に係る遠隔監視装置及び遠隔監視システムを実現するコンピュータのハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本開示の課題>
本開示に係る実施の形態を説明する前に、図1図3を参照して、本開示の課題について詳細に説明する。
【0016】
ここでは、図1に示されるように、以下の2つのケースを想定する。
(A1)車両等の移動体が、(1)の移動方向に移動しながら所定の送信間隔でパケットを送信するケース
(A2)移動体が、(1)とは反対の(2)の移動方向に移動しながら所定の送信間隔でパケットを送信するケース
【0017】
移動体は、移動体の位置を示す位置情報とパケット番号とを少なくともパケットに含める。移動体が送信したパケットは、基地局20を経由して、遠隔監視装置により受信される。遠隔監視装置は、例えば、以下の数式1を用いて、遅延ジッターを算出する。
【数1】
【0018】
図2は、上述した(A1)のケースの遅延ジッターの例を示し、図3は、上述した(A2)のケースの遅延ジッターの例を示している。図2及び図3において、横軸はパケット番号を示し、縦軸はそのパケット番号のパケットの遅延ジッターを示している。上述した(A1)のケースでは、パケット番号の初期値は0で、移動の度にパケット番号を増加させている。一方、上述した(A2)のケースでは、パケット番号の初期値は250で、移動の度にパケット番号を減少させている。そのため、図2及び図3の横軸のパケット番号は、移動体の同じ位置を示している。
【0019】
図2及び図3に示されるように、移動体の位置に依存して、遅延ジッターが変動していることがわかる。
また、図2図3とを対比すると、移動体の位置が同じでも、移動体の移動方向に依存して、遅延ジッターが変動していることがわかる。
【0020】
そのため、遠隔監視装置において、遅延ジッター分布を高精度に特定するためには、移動体の位置や移動方向等の地理的特性に応じた遅延ジッター分布モデルを学習することにより、移動体が移動する移動区間の中で、この区間は、この遅延ジッター分布となる、ということを知っておく必要がある。
【0021】
しかし、移動体の移動区間を固定サイズで分割すると、サイズによっては、以下の問題が生じる。例えば、固定サイズが大きい場合には、同じ区間の中に複数種類の遅延ジッター分布が現れてしまうという問題が生じる。また、固定サイズが小さい場合には、同じ種類の遅延ジッター分布が複数の区間に分離されてしまうという問題が生じる。
【0022】
このように、移動体の移動区間を固定サイズで分割すると、上述した問題により、遅延ジッター分布の特定精度が低下してしまうため、移動体の移動区間は、適切に分割する必要がある。
【0023】
また、本開示には、他の課題も存在する。
遅延ジッター分布は、ラプラス分布に従うことが知られている。
しかし、ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布は、パケットの同時到着やパケットロス等の通信品質の変動による遅延ジッターのばらつきが考慮されていない。
そのため、遅延ジッター分布を高精度に特定するためには、パケットの同時到着やパケットロスを考慮した遅延ジッター分布モデルを学習する必要もある。
以下で説明する本開示の各実施の形態は、上述の課題の解決に寄与するものである。
【0024】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の記載及び図面は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、以下の各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、以下の各実施形態では、監視対象となる移動体が、自動車等の車両であるものとして説明するが、移動体は車両に限定されるものではない。
【0025】
<実施の形態1>
まず、図4を参照して、本実施の形態1に係る遠隔監視システム1の全体構成例について説明する。
図4に示されるように、本実施の形態1に係る遠隔監視システム1は、車両10及び遠隔監視装置50を備えている。
【0026】
車両10は、無線ネットワークを経由して、基地局20に接続されている。無線ネットワークは、3G(Generation)、4G/LTE(Long Term Evolution)、5G、ローカル5G、Wi-Fi(Wireless Fidelity)等のネットワークである。
【0027】
車両10は、さらに、基地局20から、インターネット30を経由して、クラウド40上に配置された遠隔監視装置50に接続されている。ただし、これには限定されず、車両10は、インターネット30を経由せず、無線ネットワークから、遠隔監視装置50側のネットワークに直接接続される態様であっても良い。
【0028】
続いて、図5を参照して、本実施の形態1に係る車両10及び遠隔監視装置50の構成例について説明する。
図5に示されるように、本実施の形態1に係る車両10は、車両情報特定部11及び車両情報送信部12を備えている。
【0029】
車両情報特定部11は、車両10の状態を特定する。
車両情報送信部12は、車両情報特定部11により特定された車両10の状態を示す車両情報と、パケット番号と、を少なくとも含むパケットを遠隔監視装置50に送信する。
【0030】
なお、本実施の形態1では、車両情報特定部11は、少なくとも、車両10の位置を特定し、車両情報は、少なくとも、タイムスタンプと、そのタイムスタンプの時刻での車両10の位置の情報と、を含むものとする。ただし、これには限定されず、車両情報は、車両10の速度、ハンドル、燃料の残量の状態等の情報も含んでも良い。
【0031】
本実施の形態1に係る遠隔監視装置50は、車両情報受信部51、遅延ジッター特定部52、及び区間分割部53を備えている。
車両情報受信部51は、車両10から、車両情報を含むパケットを受信する。
【0032】
遅延ジッター特定部52は、車両10から受信されたパケット及びパケットに含まれる車両情報に基づいて、車両10と通信するネットワークにおける遅延ジッターを、車両10の位置毎に算出する。車両10と通信するネットワークとは、図4の例では、車両10と基地局20との間の無線ネットワーク、インターネット30、及び遠隔監視装置50側のネットワークからなるネットワークとなる。遅延ジッター特定部52は、例えば、上述した数式1を用いて、遅延ジッターを算出することができる。
【0033】
区間分割部53は、遅延ジッター特定部52により算出された車両10の位置毎の遅延ジッターに基づいて、車両10が移動する移動区間における遅延ジッター分布モデルを学習する。さらに、区間分割部53は、車両10の位置毎の遅延ジッターと、学習された遅延ジッター分布モデルと、に基づいて、車両10の移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する。なお、車両10の移動区間と、車両10と通信するネットワークと、は互いに対応している。
【0034】
なお、遠隔監視装置50は、車両10の運行状況を監視する監視部(不図示)を設けても良い。監視部は、車両10からの車両情報に基づいて、車両10が衝突するまでの残余時間であるTTC(Time to collision。衝突余裕時間)を算出し、TTCに基づいて車両10の危険度を算出しても良い。また、監視部は、車両10が移動している区間の遅延ジッターに基づいて、TTCを修正し、修正後のTTCに基づいて、危険度を算出しても良い。例えば、遅延ジッターが大きい区間では、TTCを短めに修正することが考えられる。
また、監視部は、車両10の監視結果に基づいて、車両10を制御しても良い。例えば、監視部は、車両10の危険度が高い場合は、急ブレーキをかける、走行速度を落とす等の制御をしても良い。また、車両10が自動運転車であれば、監視部は、自動運転から遠隔運転に切り替えても良い。
【0035】
以下、本実施の形態1に係る区間分割部53の動作について、詳細に説明する。
(B1)遅延ジッター分布モデル
まず、図6及び図7を参照して、区間分割部53が使用する遅延ジッター分布モデルについて説明する。
【0036】
図6に示されるように、車両10は、所定の送信間隔でパケットを送信する。
そのため、通信品質が正常である場合、遠隔監視装置50は、車両10から、所定の送信間隔に相当する間隔でパケットを受信する。
しかし、パケットの同時到着やパケットロスが発生した場合、遠隔監視装置50において、車両10からのパケットの受信間隔は変動し、その結果、遅延ジッターが変動する。
【0037】
また、遅延ジッター分布は、図7に示されるように、ラプラス分布に従うことが知られている。図7において、横軸は遅延ジッターを示し、縦軸はその遅延ジッターである確率を示している。
【0038】
通信品質が正常である場合、遠隔監視装置50は、車両10から、所定の送信間隔に相当する間隔でパケットを受信する。そのため、遅延ジッター分布には、パケットの送信間隔に相当する位置にてピークが発生する。
【0039】
しかし、パケットの同時到着やパケットロスが発生した場合、遠隔監視装置50において、車両10からのパケットの受信間隔は変動し、その結果、遅延ジッターが変動する。そのため、遅延ジッター分布には、複数のピークが発生する。また、通信品質の変動が激しい場合、遅延ジッター分布の裾が伸びる。
【0040】
そこで、本実施の形態1に係る区間分割部53は、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを採用し、この混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて、車両10の移動区間における遅延ジッター分布を特定する。
【0041】
本実施の形態1に係る遅延ジッター分布モデルfθ(y)は、例えば、g個のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布とする場合、以下の数式2を用いて定義される。
【数2】
ここで、θはモデルパラメータ、yは車両10の位置毎の遅延ジッターを示す観測データ、f(y;φ)はj番目のラプラス分布、ξはj番目のラプラス分布から観測される割合を示す混合割合である。
【0042】
また、j番目のラプラス分布f(y;φ)は、以下の数式3を用いて定義される。
【数3】
ここで、βは尺度の母数、μは位置の母数である。
【0043】
また、上述した数式2,3の各種のパラメータは、以下の数式4を用いて定義される。
【数4】
【0044】
(B2)区間分割
続いて、図8を参照して、区間分割部53が、車両10の移動区間を分割する動作について説明する。
区間分割部53は、上述した混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定される遅延ジッター分布が、実際の遅延ジッター分布を最も良く表現できるように、車両10の移動区間を分割することを、基本方針とする。
【0045】
ステップS1:
区間分割部53は、遅延ジッター特定部52から、以下の数式5で定義される、車両10の移動方向の全移動区間分の観測データyを取得する。
【数5】
【0046】
そして、区間分割部53は、観測データyを用いて、遅延ジッター分布モデルのモデルパラメータθを学習する。
そして、区間分割部53は、遅延ジッター分布モデルと、学習済みのモデルパラメータθと、観測データyと、を用いて、車両10の全移動区間における遅延ジッター分布を特定すると共に、以下の数式6で定義される、特定された遅延ジッター分布の対数尤度を算出する。
【数6】
【0047】
ステップS2:
続いて、区間分割部53は、所定長の移動窓を用いて、観測データyの平均及び分散を算出し、k-means法等を用いて、車両10の移動区間をN個の区間に分割する。
【0048】
そして、区間分割部53は、分割された区間毎に、その区間内の観測データを用いて、ステップS1と同様にして、その区間における遅延ジッター分布を特定すると共に、以下の数式7で定義される、特定された遅延ジッター分布の対数尤度を算出する。
【数7】
【0049】
ステップS3:
続いて、区間分割部53は、ステップS2で算出された分割後の各区間の対数尤度の合計が、ステップS1で算出された分割前の対数尤度よりも改善されたか否かを判断し、改善された場合は、ステップS1及びステップS2を繰り返して、さらなる区間分割を行う。
【0050】
すなわち、区間分割部53は、以下の数式8を満足する間は、ステップS1及びステップS2を繰り返す。
【数8】
【0051】
区間分割部53は、上述した数式8を満足しなくなった時点で、区間分割を終了する。そして、区間分割部53は、直近の区間分割をする前の各区間を、最終的な各区間として特定する。このように、区間分割部53は、分割後の各区間の対数尤度の合計が大きくなるように、車両10の移動区間を分割していく。
【0052】
ここで、上述したステップS1において、遅延ジッター分布モデルのモデルパラメータθを学習する方法の例について説明する。
モデルパラメータθは、例えば、混合ラプラス分布に対するEM(Expectation Maximization)アルゴリズムを用いて、算出することができる。
【0053】
混合ラプラス分布に対するEMアルゴリズムは以下のように算出できる。
E-ステップ:
【数9】
を算出する。
この算出のために、以下の数式10,11を用いる。
【数10】
【数11】
【0054】
M-ステップ:
【数12】
を算出し、
【数13】
を最大化するパラメータ
【数14】
を算出する。
この算出のために、以下の数式15~17を用いる。
【数15】
【数16】
【数17】
【0055】
以降、尤度が閾値を下回るまで、上述したE-ステップ及びM-ステップを繰り返す。
【数18】
【0056】
続いて、EMアルゴリズムの初期値について説明する。
【数19】
は、以下の数式20,21を用いて算出できる。
【数20】
【数21】
ここで、τは送信間隔、τminは送信間隔の下限値(観測された遅延ジッターの最小値を設定)、δは定数(例えば、送信間隔の1/2の値)である。
【0057】
【数22】
は、
【数23】
と同じである。
【0058】
【数24】
は、
【数25】
と同じである。
【0059】
【数26】
は、ロス率が事前にわからない場合は、
【数27】
と同じである。
【0060】
ロス率が事前にρとわかる場合(例えば、シーケンス番号等でロス率ρを算出できる場合)、ロスが発生しない確率は、以下の数式28を用いて算出できる。
【数28】
【0061】
よって、j≧2のラプラス分布の生起確率は、cを標準化定数として、以下の数式29を用いて算出できる。
【数29】
【0062】
j=1のラプラス分布(パケットの同時到着が発生したときの遅延ジッター分布)は、遅延ジッターが送信間隔の2倍以上のときに発生するため、以下の数式30を用いて表される。
【数30】
【0063】
また、標準化定数は、以下の数式31を用いて表される。
【数31】
【0064】
(C1)混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルの有用性
続いて、図9図13を参照して、上述した(B1)で説明した混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルの有用性を検証した検証結果について説明する。
ここでは、図9に示されるように、位置を固定された移動体10Xが、基地局20を経由して、遠隔監視装置50に対し、10msの送信間隔で500バイトのパケットを送信する、という前提条件を想定する。ここでは、移動体10Xは、パケット番号を少なくともパケットに含める。
【0065】
図10は、図9に示される前提条件下において、遠隔監視装置50の遅延ジッター特定部52により算出された遅延ジッターである観測データを示している。図10の横軸及び縦軸は、図2及び図3と同様である。ただし、図9では、移動体10Xの位置が固定されているため、パケット番号が異なっていても、移動体10Xの位置は同じである。
【0066】
図11は、図10に示される遅延ジッターに基づいて算出された遅延ジッター分布を示している。図12は、ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布を示している。図13は、本実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布を示している。図11図13の横軸及び縦軸は、図7と同様である。
【0067】
図11に示されるように、実際に算出された遅延ジッター分布は、パケットの同時到着等に起因して発生する複数のピークや、通信品質の変動に起因して発生する裾の広がりが観測される。
【0068】
これに対して、図12に示されるように、ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布は、裾を引っ張ったような分布となり、パケットの同時到着等に起因して発生する複数のピーク等が表現できていないことがわかる。
【0069】
その一方、図13に示されるように、本実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて特定された遅延ジッター分布は、パケットの同時到着等に起因して発生する複数のピークや、通信品質の変動に起因して発生する裾の広がりが、良く表現できていることがわかる。
【0070】
そのため、本実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルは、パケットの同時到着やパケットロスを考慮した遅延ジッター分布を、高精度に学習できていることがわかる。
【0071】
(C2)尤度ベースの区間分割の有用性
続いて、図14図20を参照して、上述した(B2)で説明した尤度ベースの区間分割の有用性を検証した検証結果について説明する。ここでの有用性は、本実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルが、区間分割された区間毎の遅延ジッター分布を高精度に学習できているかに応じて判断する。
【0072】
ここでは、図14に示されるように、移動体10Xが、ユーザに携帯等されて、(1)の移動方向(基地局20に近づき、その後、基地局20から離れる方向)に移動しながら、基地局20を経由して、遠隔監視装置50に対し、10msの送信間隔で500バイトのパケットを送信する、という前提条件を想定する。ここでは、移動体10Xは、移動体10Xの位置を示す位置情報とパケット番号とを少なくともパケットに含める。
【0073】
図15は、図14に示される前提条件下における遅延ジッターに基づいて、移動体10Xの移動区間を区間分割した結果の例を示す図である。
図15の上図は、図14に示される前提条件下において、遠隔監視装置50の遅延ジッター特定部52により算出された、移動体10Xの位置毎の遅延ジッターである観測データを示している。図15の横軸及び縦軸は、図2及び図3と同様である。図14では、移動体10Xが移動しながらパケットを送信しているため、図15の上図の横軸のパケット番号は、移動体10Xの位置に対応するものとなる。
【0074】
図15の中図及び下図は、移動体10Xの移動区間において、ある区間の遅延ジッター分布が、どのクラスターIDの混合ラプラス分布で表現されるかを示すもので、図15の中図は区間分割される前の状態を示し、図15の下図は、区間分割された後の状態を示している。図15の中図及び下図において、横軸はパケット番号を示し、縦軸はそのパケット番号のパケットが送信された位置を含む区間の遅延ジッター分布を表現する混合ラプラス分布のクラスターIDを示している。
【0075】
区間分割される前の対数尤度は、-4.753×10であったのに対し、区間分割された後の対数尤度は、-4.431×10に改善されている。ここでの対数尤度は、0に近いほど、良いことを示している。
【0076】
図15の中図に示されるように、区間分割される前は、移動区間全体の遅延ジッター分布は、クラスターID0の1つの混合ラプラス分布で表現される。
【0077】
これに対して、図15の下図に示されるように、区間分割された後は、分割された各区間の遅延ジッター分布は、クラスターID0~ID4の5つの混合ラプラス分布のいずれかで表現される。例えば、パケット番号0のパケットが送信された位置を含む区間の遅延ジッター分布は、クラスターID2の混合ラプラス分布で表現される。また、パケット番号350のパケットが送信された位置を含む区間の遅延ジッター分布は、クラスターID0の混合ラプラス分布で表現される。
【0078】
図16図20は、それぞれ、クラスターID0~ID4の混合ラプラス分布を示している。図16図20の横軸及び縦軸は、図7と同様である。
図16及び図17に示されるように、クラスターID0,ID1の混合ラプラス分布は、裾が広がった分布になっている。
図18に示されるように、クラスターID2の混合ラプラス分布は、遅延ジッターの急峻の増加を表現した分布になっている。
図19及び図20に示されるように、クラスターID3,ID4の混合ラプラス分布は、遅延ジッターのばらつきの少なさを表現した分布になっている。
【0079】
ここで、図15の上図を参照すると、例えば、パケット番号1000~2000のパケットが送信された区間付近は、遅延ジッターのばらつきが少ない。この付近の区間の遅延ジッター分布は、遅延ジッターのばらつきの少なさを表現したクラスターID3又はID4のいずれかの混合ラプラス分布で表現されている。
【0080】
また、パケット番号3000~3500のパケットが送信された区間付近は、遅延ジッターのばらつきが大きい。この付近の区間の遅延ジッター分布は、裾が広がったクラスターID0,ID1の混合ラプラス分布又は遅延ジッターの急峻の増加を表現したクラスターID2のいずれかの混合ラプラス分布で表現されている。
【0081】
そのため、本実施の形態1に係る混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルは、移動体の位置や移動方向等の地理的特性に適応し、区間分割された区間毎の特徴を捉えた遅延ジッター分布を、高精度に学習できていることがわかる。
【0082】
続いて、図21を参照して、本実施の形態1に係る遠隔監視装置50の動作の流れの例について説明する。
図21に示されるように、まず、遅延ジッター特定部52は、車両10と通信するネットワークに対応する車両10の全移動区間における車両10の位置毎の遅延ジッターを算出する(ステップS11)。
【0083】
続いて、区間分割部53は、ステップS11で算出された現区間(最初のステップS12では、車両10の全移動区間)における遅延ジッターに基づいて、現区間における遅延ジッター分布モデルを学習する。さらに、区間分割部53は、現区間における遅延ジッターと、学習された遅延ジッター分布モデルと、に基づいて、現区間における遅延ジッター分布を特定し、特定された遅延ジッター分布の尤度を算出する(ステップS12)。
【0084】
続いて、区間分割部53は、現区間を分割する。そして、区間分割部53は、分割された区間毎に、その区間における遅延ジッターと、学習された遅延ジッター分布モデルと、に基づいて、その区間における遅延ジッター分布を特定し、特定された遅延ジッター分布の尤度を算出する(ステップS13)。
【0085】
続いて、区間分割部53は、ステップS13で算出された、現区間が分割された各区間の尤度の合計が、ステップS12で算出された現区間の尤度よりも改善されているか否かを判断する(ステップS14)。
【0086】
ステップS14において、尤度が改善されている場合は(ステップS14のYes)、ステップS12に戻り、区間分割部53は、ステップS13で分割された区間毎に、その区間を現区間とした上で、ステップS12,S13の処理を行う。
【0087】
一方、ステップS14において、尤度が改善されていない場合は(ステップS14のNo)、区間分割部53は、処理を終了する。その結果、区間分割部53は、直近のステップS13で区間分割をする前の各区間を、最終的な各区間として特定することになる。
【0088】
上述したように本実施の形態1によれば、遅延ジッター特定部52は、車両10と通信するネットワークにおける遅延ジッターを算出する。区間分割部53は、算出された遅延ジッターに基づいて、ネットワークに対応し車両10が移動する移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する。このように、車両10の移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定するため、車両10の位置や移動方向等の地理的特性に応じた遅延ジッター分布を特定することができる。
【0089】
また、本実施の形態1によれば、区間分割部53は、混合ラプラス分布に基づく遅延ジッター分布モデルを用いて、遅延ジッター分布を特定する。この遅延ジッター分布モデルは、パケットの同時到着やパケットロスを考慮した遅延ジッター分布を、高精度に学習することができる。そのため、パケットの同時到着やパケットロスを考慮した遅延ジッター分布を特定することができる。
【0090】
また、本実施の形態1によれば、区間分割部53は、混合ラプラス分布の尤度が大きくなるように、車両10の移動区間を分割していく。そのため、車両10の位置や移動方向等の地理的特性に適応し、分割された区間毎の特徴を捉えた、より高精度な遅延ジッター分布となるように、車両10の移動区間を分割することができる。
【0091】
<実施の形態2>
本実施の形態2に係る遠隔監視システム1Aは、上述した実施の形態1と比較して、遠隔監視装置50の構成が異なる。
そこで、以下では、図22を参照して、本実施の形態2に係る遠隔監視装置50の構成例について説明する。
【0092】
図22に示されるように、本実施の形態2に係る遠隔監視装置50は、上述した実施の形態1の図5の構成と比較して、区間表示部54が追加されている点が異なる。
区間表示部54は、区間分割部53により分割された区間を、車両10の移動区間を表すマップ上に表示する。
【0093】
区間表示部54による、分割された各区間の表示例を図23に示す。図23の例では、区間表示部54は、道路上の各区間を模様で区分けし、各区間における遅延ジッターを追記している。
【0094】
ただし、図23の表示例には限定されない。例えば、区間表示部54は、道路上の各区間を色で区分けしても良い。また、区間表示部54は、遅延ジッターが大きい区間には、注意喚起のマークを表しても良い。また、区間表示部54は、遅延ジッター又は遅延ジッター分布に応じて、区間に対して段階的な色分けをしても良い。また、区間表示部54は、各区間の名称や座標を一覧で表示しても良い。また、区間表示部54は、いずれかの区間がクリック等で指定されると、指定された区間の詳細情報を表示しても良い。
【0095】
また、図23から図25の表示例では、区間表示部54は、分割された各区間を、遠隔監視装置50の画面に表示しているが、これには限定されない。区間表示部54は、分割された各区間を、遠隔監視装置50以外の任意の表示装置(例えば、道路を監視する監視センターの表示装置等)に表示しても良い。
【0096】
また、上述した監視部(不図示)は、複数の車両10を同時に監視しても良い。区間表示部54による、分割された各区間の表示例として、複数の車両10を同時に監視する場合の表示例を図24に示す。図24の表示例では、区間表示部54は、複数の車両10を表示する。そして、区間表示部54は、いずれかの車両10がクリック等で指定されると、指定された車両10の詳細情報を表示する。図24において、車両10の詳細情報を吹き出しで、監視画面上に重畳するように表示する例を記載したが、表示方法はこれに限定されるものではない。
【0097】
区間表示部54による、分割された各区間の他の表示例として、車両10の危険度を監視する場合の表示例を図25に示す。図25の表示例では、区間表示部54は、図25の左上に監視用画面を表示しているが、車両10の詳細情報を重畳して表示しても良い。また、区間表示部54は、図25の左下に示されるように、車両10をす監視カメラの映像や近くの監視カメラの映像を表示しても良い。また、区間表示部54は、図25の右上に示されるように、危険度が高い車両10の一覧を表示しても良い。また、区間表示部54は、図25の右下に示されるように、クリック等で指定された車両10を拡大表示したりしても良いし、車両10を自動運転から遠隔運転に切り替える場合には、遠隔運転用の画面を表示したりしても良い。
【0098】
なお、上述した監視部の動作は、車両情報受信部51、遅延ジッター特定部52、区間分割部53、及び区間表示部54のいずれかが行うこととしても良い。この場合、監視部は、設けなくても良い。
【0099】
続いて、図26を参照して、本実施の形態2に係る遠隔監視装置50の動作の流れの例について説明する。
図26に示されるように、まず、上述した実施の形態1の図21のステップS11~S14と同様のステップS21~S24の処理が行われる。
その後、区間表示部54は、区間分割部53により分割された区間を、車両10の移動区間を表すマップ上に表示する(ステップS25)。
【0100】
上述したように本実施の形態2によれば、区間表示部54は、区間分割部53により分割された区間を、車両10の移動区間を表すマップ上に表示する。これにより、車両10の位置や移動方向等の地理的特性に適応し、区間毎の特徴を踏まえて分割された区間を、車両を監視する監視者等に知らせることができる。
その他の効果は、上述した実施の形態1と同様である。
【0101】
<他の実施の形態>
上述した実施の形態1,2では、遠隔監視装置50が、車両10の移動区間の分割と、分割された各区間における遅延ジッター分布の特定と、を行っていたが、これには限定されない。車両10が、他の車両10から、直接又は遠隔監視装置50を経由して、車両情報を取得して、他の車両10の移動区間の分割と、分割された各区間における遅延ジッター分布の特定と、を行っても良い。この場合、車両10は、車両情報受信部51、遅延ジッター特定部52、及び区間分割部53に対応する構成要素を備えていれば良い。また、車両10が、他の車両10を監視し、他の車両10を制御しても良い(例えば、急ブレーキをかける、走行速度を落とす、自動運転から遠隔運転に切り替える等)。この場合、車両10は、上述した監視部及び区間表示部54に対応する構成要素をさらに備えていれば良い。
【0102】
<実施の形態の概念>
続いて、図27を参照して、上述した実施の形態1,2に係る遠隔監視システム1,1Aを概念的に示した遠隔監視システム100の構成例について説明する。
図27に示される遠隔監視システム100は、観測部101及び特定部102を備えている。
観測部101及び特定部102は、上述した実施の形態1,2に係る遠隔監視装置50側又は車両10側のどちらに設けられても良い。
【0103】
観測部101は、上述した実施の形態1,2に係る遅延ジッター特定部52に対応する。観測部101は、監視対象である移動体(例えば、車両)が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する。
【0104】
例えば、観測部101は、移動体と通信するネットワークにおけるトラヒックとして、移動体が移動する移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する。
【0105】
特定部102は、上述した実施の形態1,2に係る区間分割部53に対応する。特定部102は、観測部101により観測されたトラヒックに基づいて、移動体の移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する。
【0106】
例えば、特定部102は、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を考慮して、移動体の移動区間を分割する。より詳細には、特定部102は、移動体の移動区間におけるトラヒックモデルを用いて、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布の特定及び尤度の算出を行う。そして、特定部102は、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布の尤度の合計が大きくなるように、移動区間を分割する。なお、トラヒックモデルは、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づくモデルとするのが良い。
【0107】
また、遠隔監視システム100は、特定部102により分割された区間を、移動体の移動区間を表すマップ上に表示する表示部をさらに備えていても良い。この表示部は、上述した実施の形態2に係る区間表示部54に対応する。
【0108】
続いて、図28を参照して、図27に示される遠隔監視システム100の動作の流れの例について説明する。
【0109】
図28に示されるように、まず、観測部101は、監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する(ステップS31)。
続いて、特定部102は、ステップS31で観測されたトラヒックに基づいて、移動体の移動区間を分割し(ステップS32)、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する(ステップS33)。
【0110】
上述したように、図27に示される遠隔監視システム100によれば、観測部101は、監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する。特定部102は、観測されたトラヒックに基づいて、移動体の移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する。このように、移動体の移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定するため、移動体の位置や移動方向等の地理的特性に応じた遅延ジッター分布を特定することができる。
【0111】
<実施の形態に係る遠隔監視装置及び遠隔監視システムのハードウェア構成>
続いて、図27を参照して、上述した実施の形態1,2に係る遠隔監視装置50及び上述した実施の形態の概念に係る遠隔監視システム100を実現するコンピュータ90のハードウェア構成について説明する。
【0112】
図29に示されるように、コンピュータ90は、プロセッサ91、メモリ92、ストレージ93、入出力インタフェース(入出力I/F)94、及び通信インタフェース(通信I/F)95等を備える。プロセッサ91、メモリ92、ストレージ93、入出力インタフェース94、及び通信インタフェース95は、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路で接続されている。
【0113】
プロセッサ91は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置である。メモリ92は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリである。ストレージ93は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはメモリカード等の記憶装置である。また、ストレージ93は、RAMやROM等のメモリであっても良い。
【0114】
ストレージ93は、遠隔監視装置50及び遠隔監視システム100が備える構成要素の機能を実現するプログラムを記憶している。プロセッサ91は、これら各プログラムを実行することで、遠隔監視装置50及び遠隔監視システム100が備える構成要素の機能をそれぞれ実現する。ここで、プロセッサ91は、上記各プログラムを実行する際、これらのプログラムをメモリ92上に読み出してから実行しても良いし、メモリ92上に読み出さずに実行しても良い。また、メモリ92やストレージ93は、遠隔監視装置50及び遠隔監視システム100が備える構成要素が保持する情報やデータを記憶する役割も果たす。
【0115】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータ(コンピュータ90を含む)に供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Compact Disc-ROM)、CD-R(CD-Recordable)、CD-R/W(CD-ReWritable)、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAMを含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されても良い。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0116】
入出力インタフェース94は、表示装置941、入力装置942、音出力装置943等と接続される。表示装置941は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、モニターのような、プロセッサ91により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置942は、オペレータの操作入力を受け付ける装置であり、例えば、キーボード、マウス、及びタッチセンサ等である。表示装置941及び入力装置942は一体化され、タッチパネルとして実現されていても良い。音出力装置943は、スピーカのような、プロセッサ91により処理された音響データに対応する音を音響出力する装置である。
【0117】
通信インタフェース95は、外部の装置との間でデータを送受信する。例えば、通信インタフェース95は、有線通信路または無線通信路を介して外部装置と通信する。
【0118】
以上、実施の形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0119】
また、上述した実施の形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える。
(付記2)
前記観測部は、前記トラヒックとして、前記移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する、
付記1に記載の遠隔監視装置。
(付記3)
前記特定部は、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布を考慮して、前記移動区間を分割する、
付記1又は2に記載の遠隔監視装置。
(付記4)
前記特定部は、
前記移動区間におけるトラヒックモデルを用いて、前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の特定及び尤度の算出を行い、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の尤度の合計が大きくなるように、前記移動区間を分割する、
付記1又は2に記載の遠隔監視装置。
(付記5)
前記トラヒックモデルは、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づくモデルである、
付記4に記載の遠隔監視装置。
(付記6)
前記移動区間を分割した区間を、前記移動区間を表すマップ上に表示する表示部をさらに備える、
付記1から5のいずれか1項に記載の遠隔監視装置。
(付記7)
前記分割された区間を移動する前記移動体の危険度を算出し、前記移動体を制御する監視部をさらに備える、
付記1から6のいずれか1項に記載の遠隔監視装置。
(付記8)
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する第1ステップと、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する第2ステップと、
を含む、遠隔監視方法。
(付記9)
前記第1ステップでは、前記トラヒックとして、前記移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する、
付記8に記載の遠隔監視方法。
(付記10)
前記第2ステップでは、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布を考慮して、前記移動区間を分割する、
付記8又は9に記載の遠隔監視方法。
(付記11)
前記第2ステップでは、
前記移動区間におけるトラヒックモデルを用いて、前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の特定及び尤度の算出を行い、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の尤度の合計が大きくなるように、前記移動区間を分割する、
付記8又は9に記載の遠隔監視方法。
(付記12)
前記トラヒックモデルは、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づくモデルである、
付記11に記載の遠隔監視方法。
(付記13)
前記移動区間を分割した区間を、前記移動区間を表すマップ上に表示する第3ステップをさらに含む、
付記8から12のいずれか1項に記載の遠隔監視方法。
(付記14)
前記分割された区間を移動する前記移動体の危険度を算出し、前記移動体を制御する第4ステップをさらに含む、
付記8から13のいずれか1項に記載の遠隔監視方法。
(付記15)
監視対象である移動体が移動する移動区間に対応するネットワークにおけるトラヒックを観測する観測部と、
前記観測されたトラヒックに基づいて、前記移動区間を分割し、分割された区間のそれぞれにおける遅延ジッター分布を特定する特定部と、
を備える、遠隔監視システム。
(付記16)
前記観測部は、前記トラヒックとして、前記移動区間の各位置における遅延ジッターを観測する、
付記15に記載の遠隔監視システム。
(付記17)
前記特定部は、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布を考慮して、前記移動区間を分割する、
付記15又は16に記載の遠隔監視システム。
(付記18)
前記特定部は、
前記移動区間におけるトラヒックモデルを用いて、前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の特定及び尤度の算出を行い、
前記分割された区間のそれぞれにおける前記遅延ジッター分布の尤度の合計が大きくなるように、前記移動区間を分割する、
付記15又は16に記載の遠隔監視システム。
(付記19)
前記トラヒックモデルは、複数のラプラス分布を混合した混合ラプラス分布に基づくモデルである、
付記18に記載の遠隔監視システム。
(付記20)
前記移動区間を分割した区間を、前記移動区間を表すマップ上に表示する表示部をさらに備える、
付記15から19のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
(付記21)
前記分割された区間を移動する前記移動体の危険度を算出し、前記移動体を制御する監視部をさらに備える、
付記15から20のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【符号の説明】
【0120】
1,1A 遠隔監視システム
10 車両
10X 移動体
11 車両情報特定部
12 車両情報送信部
20 基地局
30 インターネット
40 クラウド
50 遠隔監視装置
51 車両情報受信部
52 遅延ジッター特定部
53 区間分割部
54 区間表示部
90 コンピュータ
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ストレージ
94 入出力インタフェース
941 表示装置
942 入力装置
943 音出力装置
95 通信インタフェース
100 遠隔監視システム
101 観測部
102 特定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29