(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G09B9/00 A
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2022558707
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040612
(87)【国際公開番号】W WO2022091291
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】窪澤 駿平
(72)【発明者】
【氏名】大西 貴士
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-128583(JP,A)
【文献】特開2009-140454(JP,A)
【文献】特開2012-149839(JP,A)
【文献】特開2018-024055(JP,A)
【文献】特開2018-206061(JP,A)
【文献】特開2015-088079(JP,A)
【文献】特開2013-143009(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に関する測定項目の時系列データと、
前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得する学習データ取得手段と、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行う学習手段と、
前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する推定手段と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記推定対象外の項目の値が、その項目について予め定められた値となるように調整された前記モデルを用いて、前記推定対象外となっていない項目の値を推定する、
請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記モデルはニューラルネットワークを用いて構成され、
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力値を定数値に切り替えること、前記ニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力にバイアスをかけること、前記ニューラルネットワークの1つ以上のエッジの重み係数を書き換えること、または、前記ニューラルネットワークの一部または全部を別のニューラルネットワークに切り替えること、の少なくとも何れかによって調整された前記モデルを用いる、請求項
2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記推定対象外として指定される可能性のある項目またはその組み合わせごとに、前記モデルの調整方法を学習する、
請求項
2または請求項
3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記モデルへの入力データに基づいて、前記モデルの出力データの妥当性を判定する妥当性判定手段
をさらに備える、請求項1から
4の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記妥当性判定手段は、前記モデルの出力データの定性表現を用いた定性推論で得られる推論結果と前記モデルへの入力データとの整合性に基づいて、前記モデルの出力データの妥当性を判定する、
請求項
5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記妥当性判定手段は、前記モデルの出力データを前記対象のシミュレータに入力して得られるシミュレーション結果と前記モデルへの入力データとの比較により、前記モデルの出力データの妥当性を判定する、
請求項
5または請求項
6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
コンピュータが、
対象に関する測定項目の時系列データと、
前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得し、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行
い、
前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する、
情報処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、
対象に関する測定項目の時系列データと、
前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得することと、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行うことと、
前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定することと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの特性または異常状態でのプラントの動作等を把握するためにシミュレータが用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シミュレータを用いることで、プラントなど対象の動作を推定することができる。一方、一般的には、シミュレーションモデルを逆に用いて、出力に相当するデータに対応する、入力に相当するデータを計算することは困難である。このため、対象に関して検出される事象の要因をシミュレーションで推定することは困難である。これに対して、例えば対象の異常が検出された場合に異常の要因を推定するなど、対象に関して検出される事象の要因を推定できることが好ましい。
【0005】
本発明の目的の1つは、上述の課題を解決することのできる情報処理装置、情報処理方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、情報処理装置は、対象に関する測定項目の時系列データと、前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得する学習データ取得手段と、前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行う学習手段と、前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する推定手段と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、情報処理方法では、コンピュータが、対象に関する測定項目の時系列データと、前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得し、前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行い、前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、対象に関する測定項目の時系列データと、前記測定項目の値に影響を及ぼす可能性のある項目である、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得することと、前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行うことと、前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定することと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
上記した情報処理装置、情報処理方法およびプログラムによれば、対象に関して検出される事象の要因を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る推定装置の機能構成の例を示す概略ブロック図である。
【
図2】実施形態に係る要因推定モデルの入出力データの例を示す図である。
【
図3】実施形態における対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受けるための、要因推定モデルの構造の例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る推定装置が要因推定モデルの学習を行う処理手順の例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る推定装置が測定データの時系列データに基づいて対象900の異常要因を推定する処理の手順の例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る推定装置が、要因推定モデルを更新する処理の手順の例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る情報処理方法における処理手順の例を示す図である。
【
図9】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、実施形態に係る推定装置の機能構成の例を示す概略ブロック図である。
図1に示す構成で、推定装置100は、通信部110と、表示部120と、操作入力部130と、記憶部170と、制御部180とを備える。制御部180は、学習データ取得部181と、学習部182と、要因推定部183と、妥当性判定部184と、モデル更新部185と、異常推定部186と、シミュレータ部187と、定性推論部188とを備える。
また、推定装置100は、対象900に設けられたセンサが送信するセンサ測定データなど、対象900に関する測定データを取得する。
【0012】
推定装置100は、対象900に関する測定データの時系列データに基づいて、対象900に影響を及ぼす項目の時系列データを推定する。
また、推定装置100は、学習部182を備えて対象900における異常要因推定のためのモデルを学習する。推定装置100は、情報処理装置の例に該当する。
ここでいう要因(Factor)は、結果に対して影響を及ぼす事物である。要因には原因(Cause)が含まれていてもよい。ここでいう原因は、結果に対して直接的な影響を及ぼす事物である。
【0013】
対象900に関する測定データには、対象900の出力を示すデータが含まれていてもよいし、対象900の状態を示すデータが含まれていてもよい。
対象900の出力は、対象900の動作であってもよい。あるいは、対象900が物またはエネルギーを出力する場合、対象900の出力は、対象900が出力する物またはエネルギーであってもよい。
【0014】
対象900の状態は、対象900の所定部分の温度など、状態量を測定可能な状態であってもよい。また、対象900の状態に、遮断弁に設けられたセンサが検出する遮断弁の開閉状態など、離散値で示される状態が含まれていてもよい。
【0015】
対象900に影響を及ぼす可能性がある項目には、対象900に対する弁開度指令など、対象900に対する操作が含まれていてもよい。対象900に対する操作には、人が行う操作が含まれていてもよい。また、対象900に対する操作には、例えば対象900と通信を行う制御装置からの制御指令など、機械が行う操作が含まれていてもよい。
【0016】
また、対象900に影響を及ぼす可能性がある項目には、対象900の周囲環境の状態が含まれていてもよい。対象900の周囲環境の状態は、対象900が設置されている室内の気温または湿度など、対象900またはその周囲にセンサを設置して測定可能な状態であってもよい。
また、対象900の周囲環境の状態には、対象900に入力される原料または燃料の流量など、対象900への入力の状態が含まれていてもよい。
【0017】
対象900は、対象900の外部から作用可能、かつ、対象900の出力または状態の少なくとも何れかに関するデータを測定可能な、いろいろなものとすることができる。例えば、対象900が、ロボット、工作機械、または、移動体などの装置であってもよい。あるいは、対象900が、工場または発電プラントなど、複数の装置を備える設備であってもよい。
【0018】
例えば、対象900が産業用ロボットであってもよい。この場合、推定装置100が、対象900に設けられたセンサによる対象900の動作の時系列データの入力を受けて、対象900に入力される制御指令値の時系列データを推定するようにしてもよい。
【0019】
あるいは、対象900が化学プラントであってもよい。この場合、対象900に設けられたセンサによる対象900の状態の測定値と、対象900が生産する製品の品質管理用に設けられたセンサによる製品の状態の測定値との時系列データが推定装置100への入力データとなっていてもよい。そして、推定装置100が、対象900への制御指令値、対象900に入力される原料の状態、および、対象900の周囲の温度など対象900の周囲環境のセンサ測定値の時系列データを推定するようにしてもよい。
【0020】
対象900の実機で測定されるデータを、対象900に関する測定データ、または単に測定データとも称する。
対象900の実機で測定されるデータに限らず、対象900について測定対象となっている項目のデータを、対象900に関する測定項目データ、または単に測定項目データとも称する。
【0021】
測定データと測定項目データとは同じ項目のデータであり、項目ごとの値を要素とするベクトルで示される。測定データ、または、測定項目データの何れも、実数ベクトルで示されてもよい。あるいは、測定項目に遮断弁のオン/オフが含まれる場合など、測定データ、または、測定項目データを示すベクトルが、実数値の要素と、離散値の要素とを有していてもよい。
【0022】
測定データの時系列データは、測定時刻が異なる複数の測定データを纏めたデータである。測定データの時系列データを、対象900に関する測定データの時系列データとも称する。
測定項目データの時系列データは、測定時刻が異なる複数の測定項目データを含むデータである。ただし、上記のように、測定項目データは実測データに限定されない。したがって、ここでの測定時刻は仮想的なものであってもよい。測定項目データの時系列データを、対象900に関する測定項目の時系列データとも称する。
【0023】
対象900に影響を及ぼす可能性がある項目を、影響項目とも称する。対象900に影響を及ぼす可能性がある項目のデータを、対象900に対する影響項目データ、または単に影響項目データとも称する。
影響項目データは、項目ごとの値を要素とするベクトルで示される。影響項目データが、実数ベクトルで示されてもよい。あるいは、対象900に対する操作にスイッチのオン/オフ操作が含まれる場合など、影響項目データが、実数値の要素と、離散値の要素とを有していてもよい。
【0024】
影響項目データの時系列データは、時刻が異なる複数の影響項目データを纏めたデータである。影響項目データの時系列データを、影響項目の時系列データ、または、対象900に対する影響項目の時系列データとも称する。
測定項目データ、または、影響項目データの何れか一方、あるいは両方に、熱伝係数など実測ではなく計算によって得られる項目の値が含まれていてもよい。
【0025】
推定装置100は、測定項目の時系列データの入力に対して、影響項目の時系列データを出力するモデルを、学習によって取得する。推定装置100は、測定項目の時系列データと、影響項目の時系列データとを含む学習データを用いてモデルの学習を行う。
【0026】
また、推定装置100は、対象900に異常が発生した場合に、異常の要因を推定する。例えば、推定装置100は、異常が検出された時刻およびそれ以前における測定データの時系列データに基づいて、異常が検出された時刻およびそれ以前における影響項目の時系列データを推定する。また、推定装置100は、対象900の正常時における測定項目の時系列データに基づいて、正常時における影響項目の時系列データを推定する。そして、推定装置100は、正常時と異常時とで所定の条件以上に異なる値が推定された項目を異常の要因と推定する。
【0027】
通信部110は、制御部180の制御に従って他の装置と通信を行う。例えば、通信部110は、対象900に設けられたセンサが送信するセンサ測定データなど、対象900に関する測定データを受信する。また、学習部182が対象900の異常要因推定の学習を行うための学習データが他の装置にある場合、通信部110が、その装置と通信を行って学習データを取得するようにしてもよい。
【0028】
表示部120は、例えば液晶パネルまたはLED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)パネル等の表示画面を備え、各種画像を表示する。例えば、表示部120は、異常推定部186による、対象900における異常の要因の推定結果を表示する。
【0029】
操作入力部130は、例えばキーボードおよびマウス等の入力デバイスを備え、ユーザ操作を受け付ける。例えば、操作入力部130は、対象900に対する操作項目のうち、異常要因の候補から除外する項目を指定するユーザ操作を受け付ける。
【0030】
記憶部170は、各種データを記憶する。記憶部170は、推定装置100が備える記憶デバイスを用いて構成される。
特に、記憶部170は、対象900の動作を模擬するモデルを記憶する。対象900の動作を模擬するモデルをシミュレーションモデルとも称する。
また、記憶部170は、対象900における異常の要因を推定するためのモデルを記憶する。対象900における異常の要因を推定するためのモデルを要因推定モデルとも称する。
【0031】
要因推定モデルとシミュレーションモデルとは、入力データと出力データとが逆になる関係にある。
具体的には、シミュレーションモデルへの入力データは、影響項目の時系列データである。シミュレーションモデルの出力データは、入力データに示される操作および周囲環境の状態に応じて対象900の動作を模擬して得られる、測定項目の時系列データである。
【0032】
これに対し、要因推定モデルへの入力データは、測定項目の時系列データである。要因推定モデルの出力データは、測定項目の時系列データに示される対象900の状態および出力を生じさせると推定される、対象900に対する操作および周囲環境の状態を示す、影響項目の時系列データである。
この点で、要因推定モデルはシミュレーションモデルの逆モデルであるといえる。
【0033】
図2は、要因推定モデルの入出力データの例を示す図である。
図2で、「t-4」、「t-3」、・・・、「t」は、時刻をタイムステップで示す。データm
t-4、m
t-3、m
t-2、m
t-1は、それぞれの時刻における影響項目データの例に該当する。一連のデータm
t-4、m
t-3、m
t-2およびm
t-1は、影響項目の時系列データの例に該当する。
【0034】
データxt-3、xt-2、xt-1、xtは、それぞれの時刻における測定項目データの例に該当する。一連のデータxt-3、xt-2、xt-1およびxtは、測定項目の時系列データの例に該当する。
【0035】
要因推定モデルは、測定項目データの入力を受けて、影響項目データを出力する。
図2の例で、要因推定モデルは、データx
t-3の入力を受けてデータm
t-4を出力する。要因推定モデルは、さらにデータx
t-2の入力を受けてデータm
t-3を出力する。要因推定モデルは、さらにデータx
t-1の入力を受けてデータm
t-2を出力する。要因推定モデルは、さらにデータx
tの入力を受けてデータm
t-1を出力する。
【0036】
ある時刻における対象900の状態および出力に対して、それ以前の時刻における対象900に対する操作および周囲環境の状態は、結果に対する要因の関係にあるといえる。例えば、データmt-4、mt-3、mt-2およびmt-1が示す対象900に対する操作および周囲環境の状態は、対象900の状態および出力がデータxtに示される状態および出力になる要因であるといえる。
この点で、要因推定モデルによれば、対象900の状態および出力の要因を推定することができる。
【0037】
特に、要因推定モデルは、影響項目の時系列データを出力する。これにより、対象900に対する操作または周囲環境の状態の時刻から、対象900の状態および出力に対する影響が表れる時刻までの時間が不明な場合でも、推定装置100は、要因推定モデルを用いて、対象900における異常等の要因を推定することができる。
【0038】
例えば、対象900の異常状態がデータxtに示されており、異常の要因となる操作または周囲環境の状態が、データmt-4、mt-3、mt-2、または、mt-1の何れか1つ以上に示されている場合について考える。この場合、推定装置100は、データmt-4、mt-3、mt-2、および、mt-1に示される、対象900に対する操作および周囲環境の状態の中から、異常の要因と推定される操作または周囲環境の状態を検出し、異常の要因の推定結果としてユーザに提示することができる。
【0039】
推定装置100が、対象900の状態または出力の中から異常を検出する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、表示部120が測定項目の時系列データを表示し、操作入力部130が、測定項目の時系列データに示される対象900の状態または出力のうち、異常状態または異常出力を選択するユーザ操作を受け付けるようにしてもよい。この場合、ユーザが、異常に限らず要因を知りたい状態または出力を選択するようにしてもよい。
【0040】
あるいは、記憶部170が、対象900の状態および出力のそれぞれについて、異常判定閾値を記憶しておくようにしてもよい。そして、推定装置100が、対象900に関する測定項目ごとに、測定項目データに示される値と異常判定閾値とを比較して、異常を検出するようにしてもよい。
【0041】
推定装置100が、対象900に対する操作および周囲環境の状態の中から、異常の要因と推定される操作または周囲環境の状態を検出する方法として、上述した正常時の値との比較を行う方法に加えて、あるいは代えて、例えば統計的な方法を用いることができる。
例えば、測定項目の時系列データと影響項目の時系列データとの組み合わせを複数有するデータを統計的に解析して得られる、対象900の状態または出力と対象900に対する操作または周囲環境の状態との相関性を示すデータを、記憶部170が記憶しておくようにしてもよい。
【0042】
そして、推定装置100が、対象900の状態または出力から異常を検出した場合に、異常発生時刻よりも前の時刻における、対象900に対する操作および周囲環境の状態のうち、検出された異常と正の相関性が所定の閾値以上に強い操作または周囲環境の状態を、異常の要因の推定結果として検出するようにしてもよい。推定装置100が、異常の要因の推定結果として、操作または周囲環境の状態を複数選択するようにしてもよい。
ただし、推定装置100が、対象900に対する操作および周囲環境の状態の中から、異常の要因と推定される操作または周囲環境の状態を検出する方法は、特定の方法に限定されない。
【0043】
図2の矢印B11およびB12は、要因推定モデルがデータx
t-1およびx
tに基づいてデータm
t-1を算出する場合の例を示している。このように、要因推定モデルが、複数の時刻における対象900の状態および出力に基づいて、ある時刻における対象900に対する操作および周囲環境の状態を推定することで、高精度に推定を行えると期待される。
【0044】
推定装置100が、対象900に関する測定データをリアルタイムで取得する場合、要因推定モデルとして内部状態を有するモデルを用いる。
例えば、推定装置100が、ナイーブな再帰ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network;RNN)を用いて学習を行って、要因推定モデルを構築するようにしてもよい。あるいは、推定装置100が、再帰ニューラルネットワークの一種であるロングショートタームメモリ(Long short-term memory;LSTM)を用いて学習を行って、要因推定モデルを構築するようにしてもよい。
【0045】
ただし、要因推定モデルの構築方法は、特定の方法に限定されない。要因推定モデルの構築方法として、内部状態を有するモデルを用いて学習を行ういろいろなモデル構築方法を用いることができる。
【0046】
このように、要因推定モデルとして内部状態を有するモデルを用いることで、推定装置100が測定データをリアルタイムで取得する場合でも、複数の時刻における対象900の状態および出力に基づいて、ある時刻における対象900に対する操作および周囲環境の状態を推定することができる。
【0047】
また、要因推定モデルが、測定項目の時系列データの入力を受けて、影響項目の時系列データを出力することで、推定装置100は、要因に該当する操作または周囲環境の状態の発生時刻から、結果に該当する対象900の状態または出力の発生時刻までの時間が未知の場合に対応して、要因推定を行うことができる。
【0048】
また、記憶部170は、対象900の定性的な挙動を示す論理モデルを記憶する。対象900の定性的な挙動を示す論理モデルを定性推論モデルとも称する。
推定装置100は、要因推論モデルの出力データの妥当性を、定性推論モデルを用いて判定する。
【0049】
制御部180は、推定装置100の各部を制御して各種処理を実行する。制御部180の機能は、推定装置100が備えるCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)が、記憶部170からプログラムを読み出して実行することで実行される。
【0050】
学習データ取得部181は、要因推定モデルの学習のための学習データを取得する。特に、学習データ取得部181は、測定項目の時系列データと、影響項目の時系列データとを含む学習データを取得する。
学習データ取得部181は、学習データ取得手段の例に該当する。
【0051】
ここで、一般的には、シミュレーションモデルを逆に用いて、出力に相当するデータに対応する、入力に相当するデータを計算することは困難である。対象900に関しても、シミュレーションモデルを用いて測定項目の時系列データから影響項目の時系列データを取得できないことが考えられる。
【0052】
そこで、学習データ取得部181が学習データを取得し、学習部182が、学習データを用いて要因推定モデルの学習を行う。推定装置100は、要因推定モデルを用いることで、測定項目の時系列データから影響項目の時系列データを推定できる。
また、推定装置100は、上記のように再帰ニューラルネットワークまたはロングショートタームメモリを用いて学習にて要因推定モデルを構築できる。
【0053】
学習データ取得部181が、シミュレータ部187が行う対象900のシミュレーションの結果に基づく学習データを取得するようにしてもよい。
ここで、一般的には設備等における異常発生の頻度は高くないと考えられる。対象900における異常発生の頻度が高くない場合、異常時の実測データを十分に得られないことが考えられる。また、対象900における異常の種類によって異常発生の頻度が異なる場合、特に、発生頻度の低い異常に関する実測データを十分に得られないことが考えられる。
【0054】
対象900に対する操作等によって人為的に異常を発生させることも考えられるが、安全性または経済性の観点から人的に異常を発生させることが困難であることが考えられる。また、対象900に生じ得る異常およびその異常を発生させる操作を網羅的に把握することが困難であることが考えられる。さらには、異常を発生させるために微妙な操作が必要な場合など、異常を発生させるための操作の実行が困難な場合が考えられる。
【0055】
これに対し、シミュレータ部187が、いろいろな入力データをシミュレーションモデルに入力して対象900の動作を模擬することで、いろいろな状況でのいろいろな操作および周囲環境の状態について、対象900の状態および出力のデータを得られる。対象900に異常が発生する場合についても、学習データを得られると期待される。
このように、学習データ取得部181は、実際の対象900を用いて異常時のデータを取得することが困難な場合でも、対象900の動作の模擬によって異常時のデータを取得できる。
【0056】
学習データ取得部181が、対象900のシミュレーション結果のデータにノイズを乗せたデータを学習データとして取得するようにしてもよい。例えば、学習データ取得部181が、対象900のシミュレーション結果のデータにノイズを合成するようにしてもよい。
これにより、推定装置100が取得する測定データにノイズが含まれている場合に、測定データの近似精度が高い学習データを得ることができ、要因推定モデルの学習を高精度に行えると期待される。
【0057】
学習データ取得部181が、対象900のシミュレーション結果に基づくデータに加えて、あるいは代えて、対象900にて得られる実測データを含む学習データを取得するようにしてもよい。
対象900の種類によっては、異常の発生頻度が比較的高く、異常発生時についても学習データを得られることが考えられる。この場合、実測データを用いて要因推定モデルの学習を行うことで、学習を高精度に行えると期待される。
【0058】
学習部182は、学習データ取得部181が取得する学習データを用いて、上述した要因推定モデルの学習を行う。
学習部182は、学習手段の例に該当する。
【0059】
要因推定部183は、測定項目データを要因推定モデルに入力して、影響項目データを算出する。要因推定部183は、測定項目データをタイムステップに応じた順番で要因推定モデルに繰り返し入力する。これにより、要因推定部183は、測定項目の時系列データを要因推定モデルに入力する。
【0060】
そして、要因推定部183は、測定項目データを要因推定モデルに入力するごとに、影響項目データを算出する。これにより、要因推定部183は、影響項目の時系列データを算出する。
要因推定部183が算出する影響項目の時系列データは、要因推定モデルに入力される推定項目データの時系列データが示す対象900の状態および出力の要因となる、対象900に対する操作および周囲環境の状態を示しているといえる。このように、要因推定部183は、対象900の状態および出力の要因となる、対象900に対する操作および周囲環境の状態を推定する。
【0061】
特に、要因推定部183は、対象900に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する。例えば、要因推定部183は、推定対象外に指定された項目の値が、対象900の正常時におけるその項目の値として予め定められている値となるように、要因推定モデルを調整する。そして、要因推定部183は、調整後の要因推定モデルを用いて影響項目の時系列データを算出する。
要因推定部183は、推定手段の例に該当する。
【0062】
図3は、対象900に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受けるための、要因推定モデルの構造の例を示す図である。
図3は、ニューラルネットワークモデルを用いて要因推定モデルを構築する場合の例を示している。
図3に例示されるニューラルネットワークは、入力層L11と、中間層L12、L13、および、L14と、出力層L15と、マスク指定層L16とを有する。
【0063】
入力層L11は、時刻tにおける測定項目データであるデータxtの入力を受け付けている。出力層L15は、時刻「t-1」における影響項目データであるデータmt-1を出力している。マスク指定層L16は、時刻tにおけるマスクの指定を示すデータptの入力を受け付けている。
【0064】
ここでいうマスクは、対象900に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目を指定する情報である。例えばユーザが推定対象外の項目を決定し、操作入力部130を用いたユーザ操作にて推定装置100に指定する。
例えば、対象900が有するある調整弁の開度が正常値のまま変化していないことが明らかである場合、ユーザがこの調整弁を推定対象外の項目に指定してもよい。
複数の項目を同時に推定対象外に指定可能であってもよい。
【0065】
推定対象外の項目が指定された場合、対象900は、例えば、指定された項目の値が対象900の正常時の値として予め定められている値となるように、要因推定モデルを調整する。
この場合、指定された項目以外の項目の値についても、測定項目データの値に対して矛盾が生じないように、要因推定モデルを調整する必要がある。
【0066】
そこで、要因推定部183は、推定対象外の操作箇所における操作量だけでなく、それ以外の操作箇所における操作量についても測定項目データの値に対して矛盾しないように、要因推定モデルを一時的に調整する。
要因推定部183による要因推定モデルの調整方法は、特定の方法に限定されない。例えば、要因推定モデルがニューラルネットワークを用いて構築されている場合、要因推定部183が、「1つ以上のノードへの入力を定数値に切り替える」、「1つ以上のノードへの入力にバイアスをかける」、「1つ以上のエッジの重み係数を書き換える」、または、「ニューラルネットワークの一部または全部を別のニューラルネットワークに切り替える」のうちの何れか、あるいはこれらの組み合わせを行うようにしてもよい。
【0067】
学習部182または要因推定部183が、指定される可能性のある項目またはその組み合わせごとに、要因推定モデルの調整方法を学習しておくようにしてもよい。
例えば、学習データ取得部181が、推定対象外に指定された操作箇所の操作量を、正常時の操作量として予め定められた値にした、対象900に対する操作を示す時系列データを複数用意する。
【0068】
シミュレータ部187は、学習データ取得部181が用意した時系列データをシミュレーションモデルに入力してシミュレーションを行う。
学習データ取得部181は、用意した、対象900に対する操作を示す時系列データと、そのデータを用いたシミュレーション結果による、対象900の状態および出力を示す時系列データとを紐付けて学習データを生成する。
学習部182は、学習データ取得部181が生成する学習データを用いて、学習データに示される要因推定モデルに対する入出力を満たすための、要因推定モデルの調整方法を学習する。
【0069】
例えば、推定対象外に指定可能な操作箇所がn個あり、何れの操作箇所も他の操作箇所と独立して推定対象外に指定可能である場合、これらの操作箇所を推定対象外に指定するか否かの選択方法は2n通りある。ここで、nはn≧1の整数である。
【0070】
学習部182は、これら2n通りの選択方法の各々について、要因推定モデルの調整方法を学習しておく。推定装置100の運用時に、推定対象外の操作箇所が指定された場合、要因推定部183は、指定された操作箇所について学習した調整方法で、要因推定モデルを調整する。これにより、要因推定モデルは、推定対象外に指定された操作箇所の操作量が予め定められている操作量となるような、操作量の時系列データを出力する。
【0071】
このように、要因推定部183が、対象900に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定することで、推定対象である要因を絞り込むことができる。この点で、要因推定部183が、対象900に関して検出される事象の要因を高精度に推定できると期待される。
【0072】
妥当性判定部184は、要因推定モデルへの入力データに基づいて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定する。
妥当性判定部184は、妥当性判定手段の例に該当する。
妥当性判定部184が、定性推論部188による定性推論を用いて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するようにしてもよい。特に、妥当性判定部184が、要因推定モデルの出力データの定性表現を用いた定性推論で得られる推論結果と、定性推論モデルへの入力データとの整合性に基づいて、要因推論モデルの出力データの妥当性を判定するようにしてもよい。
【0073】
例えば、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データに示される操作量および周囲環境の状態量を、例えば小、中、大の何れかなどの定性表現に置き換える。妥当性判定部184は、例えば操作量と操作箇所ごとに定められている閾値とを比較し、比較結果に基づいて操作量を定性表現に置き換える。また、妥当性判定部184は、例えば周囲環境の状態量と、周囲環境の項目ごとに定められている閾値とを比較し、比較結果に基づいて状態量を定性表現に置き換える。
【0074】
そして、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データの定性表現を定性推論モデルに入力して、推論結果を取得する。推論結果では、例えば対象900の所定部分の温度が低、中、高の何れかで示されるなど、対象900の状態量および対象900の出力に関する値が定性表現で示される。
【0075】
また、妥当性判定部184は、要因推定モデルへの入力である測定データに示される状態量と、予め定められている閾値とを比較し、比較結果に基づいて状態量を定性表現に置き換える。また、妥当性判定部184は、要因推定モデルへの入力である測定データに示される、対象900の出力に関する量と、予め定められている閾値とを比較し、比較結果に基づいて、対象900の出力に関する量を定性表現に置き換える。
【0076】
妥当性判定部184は、定性推論モデルによる推論結果と、要因推定モデルの出力データの定性表現とを比較して、両者が整合するか否かを判定する。例えば、妥当性判定部184は、定性推論モデルによる推論結果と、要因推定モデルの出力データの定性表現とが、全項目のうち所定割合以上の項目について一致する場合に、両者が整合すると判定するようにしてもよい。
定性推論モデルによる推論結果と、要因推定モデルの出力データの定性表現とが整合すると判定する場合、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データが妥当であると判定する。
【0077】
妥当性判定部184が、要因推定モデルの出力データを対象900のシミュレータに入力して得られるシミュレーション結果と要因推定モデルへの入力データとの比較により、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するようにしてもよい。
例えば、通信部110が測定データを受信すると、要因推定部183は、測定データを要因推定モデルに入力して、要因推定モデルの出力データを取得する。
【0078】
また、シミュレータ部187は、要因推定モデルの出力データをシミュレーションモデルに入力して、シミュレーション結果を取得する。
妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データと、シミュレーション結果との比較により、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定する。
【0079】
例えば、妥当性判定部184は、要因推定モデルへの入力に示される各項目の値と、シミュレーション結果に示される同じ項目の値との誤差の、その項目の値の大きさに対する割合を算出する。算出した誤差の割合が、何れの項目についても所定の閾値以下である場合、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データが妥当であると判定する。
【0080】
要因推定モデルの出力データが妥当でないと判定した場合、例えば妥当性判定部184が上述した推定対象外の項目を設定するなど、要因推定のための設定を変更するようにしてもよい。そして、異常推定部186が、設定後の要因推定モデルを用いて要因を推定し直すようにしてもよい。
【0081】
モデル更新部185は、測定データを用いて要因推定モデルを更新する。上述したように、ここでいう測定データは、対象900における実測データである。
モデル更新部185は、モデル更新手段の例に該当する。
例えば、モデル更新部185は、測定データの時系列データと、そのときの影響項目の時系列データとを取得する。影響項目の時系列データについては、対象900の実機における操作および周囲環境の状態の履歴を手動または自動で記録するようにしてもよい。あるいは、オートモードなど対象900に対してパターン化された操作が行われることがある場合、モデル更新部185が、そのパターン化された操作の時系列データと、パターン化された操作による運転時の測定データの時系列データとを取得するようにしてもよい。
【0082】
モデル更新部185は、得られた影響項目の時系列データと測定データの時系列データとを用いて、まず、シミュレーションモデルを更新する。シミュレーションモデルが、対象900の動作を記述するモデルとして構築されている等により、機械学習による要因推定モデルの更新の場合よりも、少ないデータで高精度にモデルを更新できると期待される。
【0083】
次に、モデル更新部185は、学習データ取得部181に対して学習データの生成を指示する。学習データ取得部181が、更新後のシミュレーションモデルを用いて、要因推定モデルの学習のための学習データを生成する。例えば、学習データ取得部181は、影響項目の時系列データを複数生成する。シミュレータ部187は、学習データ取得部181が生成した影響項目の時系列データをシミュレーションモデルに入力して、影響項目の時系列データごとに、測定項目の時系列データを取得する。学習データ取得部181は、影響項目の時系列データと、測定項目の時系列データとを紐付けて、要因推定モデルの学習データを生成する。
【0084】
モデル更新部185は、学習部182に対して要因推定モデルの学習を指示する。学習部182は、学習データ取得部181が生成した学習データを用いて、要因推定モデルの学習を行う。これにより、モデル更新部185が、要因推定モデルを対象900の実機に合わせて更新する。これにより、例えば対象900の実機の経年劣化など特性の変化を要因推定モデルに反映させることができ、この点で、要因推定モデルの精度を高めることができる。
【0085】
異常推定部186は、対象900に関する異常を推定する。
異常推定部186は、異常推定手段の例に該当する。
具体的には、異常推定部186は、測定データを用いて異常の有無を判定する。例えば、異常推定部186は、測定データと対象900の正常時における測定項目データとを比較し、正常時の値から所定の条件以上に乖離している値を示す項目の有無を判定し、該当項目ありと判定した場合に異常ありと判定する。
異常ありと判定した場合、異常推定部186は、異常の発生時刻、対象900における異常発生個所および異常の内容を検出する。異常推定部186が、異常の内容として異常発生個所で測定される状態量を検出するようにしてもよい。
【0086】
あるいは、異常推定部186が、上述した測定データに基づく異常判定に加えて、あるいは代えて、影響項目の時系列データに基づいて、対象900に関する異常を推定するようにしてもよい。具体的には、異常推定部186は、測定データの時系列データを要因推定モデルに入力して算出される、影響項目の時系列データに基づいて、対象900に関する異常を推定する。
【0087】
例えば、異常推定部186は、影響項目の時系列データと対象900の正常時における影響項目の時系列データとを比較し、正常時の値から所定の条件以上に乖離している値を示す項目の有無を判定する。該当項目ありと判定した場合、異常推定部186は、対象900における異常ありと判定する。
【0088】
異常ありと判定した場合、異常推定部186がさらに、対象900における異常発生個所および異常の内容を推定するようにしてもよい。
例えば、異常推定部186は、上述した対象900の状態または出力と対象900に対する操作または周囲環境の状態との相関性を示すデータに基づいて、測定項目のうち、異常ありと判定された影響項目との相関性が所定の条件以上に強い項目を、異常発生項目と推定する。異常推定部186が、異常の内容として異常発生項目の値を検出するようにしてもよい。
【0089】
対象900に対する操作に起因して異常が生じる場合、要因となる操作が正常時の操作と異なることが考えられる。また、要因となる操作が行われてから異常が生じるまでにタイムラグがあり、異常そのものを検出するよりも、要因となる操作を検出する方が早く検出できることが考えられる。異常推定部186が、要因推定部183が算出する操作の時系列データに基づいて対象900に関する異常を推定することで、異常が検出される前に異常の可能性を検出できることが期待される。
同様に、対象900の周囲環境の状態に起因して異常が生じる場合も、異常推定部186によれば、異常が検出される前に異常の可能性を検出できることが期待される。
【0090】
また、対象900に異常が生じた場合に、異常に対応する操作が行われることで、測定データとしては正常時に近いデータが得られる場合が考えられる。この場合、測定データを用いて異常を検出するよりも、対象900に対する操作のデータを用いて異常を検出する方が、正常時との差異が大きくなり、より高精度に異常を検出できる可能性がある。異常推定部186が、要因推定部183が算出する操作の時系列データに基づいて対象900に関する異常を推定することで、より高精度に異常を検出できることが期待される。
同様に、対象900の周囲環境の状態に起因して異常が生じる場合も、異常推定部186によれば、より高精度に異常を検出できることが期待される。
【0091】
また、異常推定部186は、異常ありと判定した場合に異常の要因を推定する。具体的には、異常推定部186は、推定装置100について上述したように、正常時における対象900に対する操作の時系列データと、異常時における対象900に対する操作の時系列データとを比較する。そして、異常推定部186は、正常時と異常時とで所定の条件以上に異なる値が推定された項目を異常の要因と推定する。
【0092】
シミュレータ部187は、シミュレータを用いた対象900のシミュレーションを実行する。具体的には、シミュレータ部187は、記憶部170が記憶するシミュレーションモデルに影響項目の時系列データを入力して、対象900の動作のシミュレーションを行う。
【0093】
学習データ取得部181について上述したように、シミュレータ部187は、学習データ取得部181が学習データを取得するために、対象900のシミュレーションを実行する。また、妥当性判定部184について上述したように、シミュレータ部187は、妥当性判定部184が、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するために、対象900のシミュレーションを実行する。
【0094】
定性推論部188は、要因推定モデルの出力データである影響項目の時系列データの定性表現を定性推論モデルに入力して定性推論を行う。
妥当性判定部184について上述したように、定性推論部188は、妥当性判定部184が、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するために、要因推定モデルの出力データの定性表現を用いた定性推論を行う。
【0095】
図4は、推定装置100が要因推定モデルの学習を行う処理手順の例を示すフローチャートである。
図4の処理で、学習データ取得部181は、測定項目の時系列データを生成する(ステップS101)。
次に、シミュレータ部187は、学習データ取得部181が生成した測定項目の時系列データをシミュレーションモデルに入力して、対象900のシミュレーションを実行する(ステップS102)。
【0096】
学習データ取得部181は、ステップS101で生成した測定項目の時系列データと、ステップS102でのシミュレーションの結果として得られる影響項目の時系列データとを紐付けて学習データを生成する(ステップS103)。
次に、学習部182は、学習データ取得部181が生成した学習データを用いて要因推定モデルの学習を行う(ステップS104)。
【0097】
そして、学習部182は、要因推定モデルの学習について、所定の終了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS105)。
要因推定モデルの学習の終了条件は特定の条件に限定されず、いろいろな条件を用いることができる。例えば、学習部182が、ステップS101からS105までの処理のループの繰り返し回数が、所定の閾値以上か否かを判定し、閾値以上と判定した場合に、終了条件が成立していると判定するようにしてもよい。
【0098】
あるいは、学習部182が、実データまたは予め用意されたテスト用データを用いて、要因推定モデルの評価値を算出するようにしてもよい。そして、学習部182が、算出した評価値が所定の閾値以上か否かを判定し、閾値以上と判定した場合に、終了条件が成立していると判定するようにしてもよい。
【0099】
終了条件が成立していないと学習部182が判定した場合(ステップS105:NO)、処理がステップS101へ遷移する。この場合、推定装置100は、ステップS101からS105までの処理のループを繰り返すことで、新たな学習データを生成して要因推定モデルの学習をさらに行う。
一方、終了条件が成立していると学習部182が判定した場合(ステップS105:YES)、推定装置100は、
図4の処理を終了する。
【0100】
図5は、推定装置100が測定データの時系列データに基づいて対象900の異常要因を推定する処理の手順の例を示すフローチャートである。
図5の処理で、要因推定部183は、測定データの時系列データを取得する(ステップS201)。
【0101】
例えば、制御部180が、通信部110の受信データから測定データを読み出し、測定時刻情報または受信時刻情報と紐付けて記憶部170に記憶させる。制御部180が、記憶部170が記憶している過去の測定データを残したまま、さらに新たな測定データを記憶部170に記憶させることで、記憶部170は、測定データの時系列データを記憶する。要因推定部183は、記憶部170が記憶する測定データの時系列データを読み出すことで、測定データの時系列データを取得する。
【0102】
次に、要因推定部183は、ステップS201で得られた測定データの時系列データを要因推定モデルに入力して、影響項目の時系列データを算出する(ステップS202)。
次に、異常推定部186は、対象900における異常の有無を判定するための異常判定処理を行う(ステップS203)。上述したように、異常推定部186は、測定データと対象900の正常時における測定項目データとを比較し、正常時の値から所定の条件以上に乖離している値を示す項目の有無を判定する。
【0103】
そして、異常推定部186は、ステップS203での処理に基づいて、対象900における異常の有無を判定する(ステップS204)。
例えば、異常推定部186は、ステップS203で該当項目ありと判定した場合に、対象900における異常ありと判定する。
上述したように、異常推定部186が、測定データに基づく異常の有無の判定に加えて、あるいは代えて、影響項目の時系列データに基づいて、対象900に関する異常の有無を判定するようにしてもよい。
【0104】
異常なしと異常推定部186が判定した場合(ステップS204:NO)、推定装置100は、
図5の処理を終了する。
一方、異常ありと判定した場合(ステップS204:YES)、要因推定部183は、異常の要因を推定する(ステップS211)。上述したように、要因推定部183は、正常時における影響項目の時系列データと、異常時における影響項目の時系列データとを比較する。そして、要因推定部183は、正常時と異常時とで所定の条件以上に異なる値が推定された項目を異常の要因と推定する。
【0105】
あるいは、上記のステップS203からS204で、異常推定部186が、影響項目の時系列データに基づいて、対象900に関する異常の有無を判定した場合、要因推定部183が、異常ありと判定された影響項目を異常の要因と推定するようにしてもよい。
【0106】
次に、妥当性判定部184は、異常の要因の推定結果の妥当性を判定するための処理を行う(ステップS212)。
上述したように、妥当性判定部184が、定性推論部188による定性推論を用いて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するようにしてもよい。妥当性判定部184が、定性推論部188による定性推論を用いての妥当性判定に加えて、あるいは代えて、シミュレータ部187による対象900のシミュレーションを用いて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定するようにしてもよい。
そして、妥当性判定部184は、ステップS212での処理に基づいて、異常の要因の推定結果が妥当か否かを判定する(ステップS213)。
【0107】
異常の要因の推定結果が妥当でないと判定した場合(ステップS213:NO)、妥当性判定部184は、要因推定のための設定を変更する(ステップS221)。上述したように、妥当性判定部184が、推定対象外の影響項目を設定するようにしてもよい。
ステップS221の後、処理がステップS202へ遷移する。
【0108】
一方、ステップS213で、異常の要因の推定結果が妥当であると妥当性判定部184が判定した場合(ステップS213:YES)、表示部120は、制御部180の制御に従って、異常および異常の要因の推定結果を表示する(ステップS231)。
ステップS231の後、推定装置100は、
図5の処理を終了する。
【0109】
図6は、推定装置100が、要因推定モデルを更新する処理の手順の例を示すフローチャートである。
図6の処理で、モデル更新部185は、測定データの時系列データと、そのときの影響項目の時系列データとを取得する(ステップS301)。
【0110】
次に、モデル更新部185は、シミュレーションモデルを更新する(ステップS302)。
そして、モデル更新部185は、要因推定モデルを更新する(ステップS303)。上述したように、学習データ取得部181が、モデル更新部185の指示に応じて、更新後のシミュレーションモデルを用いて、要因推定モデルの学習のための学習データを生成する。そして、学習部182が、モデル更新部185の指示に応じて、学習データ取得部181が生成した学習データを用いて、要因推定モデルの学習を行う。
ステップS303の後、推定装置100は、
図6の処理を終了する。
【0111】
以上のように、学習データ取得部181は、測定項目の時系列データと、影響項目の時系列データとを含む学習データを取得する。学習部182は、測定項目の時系列データを入力として、影響項目の時系列データを出力する要因推定モデルの学習を、学習データ取得部181が取得する学習データを用いて行う。
【0112】
推定装置100によれば、要因推定モデルを用いて、測定データの時系列データに基づいて、影響項目の時系列データを推定することができる。この場合、推定結果として得られる、影響項目の時系列データは、測定データの時系列データに示される事象の要因となっている操作または周囲環境の状態を示すといえる。このように、推定装置100では、対象900に関して検出される事象の要因を推定することができる。
【0113】
測定データの時系列データに示される特定の事象の要因を推定する場合、上述したように、対象900に関して検出される事象と、対象900に影響を及ぼす項目との相関性を予め統計的に解析しておくようにしてもよい。この相関性に基づいて、測定データの時系列データに示される特定の事象の要因を、影響項目の時系列データに示される事象の中から抽出できると期待される。
【0114】
また、推定装置100によれば、測定データの時系列データの入力を受けて、影響項目の時系列データを出力する要因推定モデルを得られる。これにより、対象900に対する操作および周囲環境の状態の発生時刻から、対象900の状態および出力に対する影響が表れる時刻までの時間が不明な場合でも、推定装置100は、要因推定モデルを用いて、対象900における異常等の要因を推定することができる。
【0115】
また、学習データ取得部181は、シミュレータを用いた対象900のシミュレーション結果に基づく学習データを取得する。
これにより、推定装置100では、対象900における異常発生の頻度が高くない場合など、測定データによっては学習データを十分に得られない場合でも、対象900のいろいろな状況についての学習データを得られる。上述したように、ここでいう測定データは、対象900に関する実測データである。
【0116】
また、学習データ取得部181は、シミュレーション結果として得られる影響項目の時系列データにノイズを乗せたデータを含む学習データを取得する。
これにより、推定装置100が取得する測定データにノイズが含まれている場合に、測定データに近い学習データを得ることができ、要因推定モデルの学習を高精度に行えると期待される。
【0117】
また、学習データ取得部181は、シミュレーション結果に基づくデータに加えて、測定項目データを含む学習データを取得する。上述したように、ここでいう測定データは、対象900に関する実測データである。
推定装置100によれば、実測データを含む学習データを用いて要因推定モデルの学習を行うことで、学習を高精度に行えると期待される。
【0118】
また、要因推定部183は、影響項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する。
これにより、要因推定部183は、推定対象である要因を絞り込むことができる。この点で、要因推定部183が、対象900に関して検出される事象の要因を高精度に推定できると期待される。
【0119】
また、要因推定部183は、推定対象外の項目の値が、その項目について予め定められた値となるように調整された要因推定モデルを用いて、推定対象外となっていない項目の値を推定する。
これにより、要因推定部183は、上記のように推定対象の要因を絞り込めることに加えて、さらに、推定対象外の項目の値を要因の推定に利用することができる。この点で、要因推定部183が、対象900に関して検出される事象の要因を、さらに高精度に推定できると期待される。
【0120】
また、要因推定モデルはニューラルネットワークを用いて構成される。要因推定部183は、そのニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力値を定数値に切り替えること、そのニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力にバイアスをかけること、そのニューラルネットワークの1つ以上のエッジの重み係数を書き換えること、または、そのニューラルネットワークの一部または全部を別のニューラルネットワークに切り替えること、の少なくとも何れかによって調整された要因推定モデルを用いる。
このように、要因推定部183がニューラルネットワークの構造に応じて要因推定モデルとしてのニューラルネットワークの調整を行うことで、調整のための仕組みを比較的簡単なものとすることができる。この点で、推定装置100の構成を比較的簡単な構成とすることができる。
【0121】
また、要因推定部183は、推定対象外として指定される可能性のある項目またはその組み合わせごとに、要因推定モデルの調整方法を学習する。
これにより、ユーザは、推定対象外の項目が指定された場合の要因推定モデルの調整方法を設定する必要がない。推定装置100によれば、この点で、ユーザの負担を軽減することができる。
【0122】
また、妥当性判定部184は、要因推定モデルへの入力データに基づいて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定する。
要因推定モデルが妥当でないと判定された場合、例えば、要因推定モデルによる計算のための設定を変更し、要因推定モデルを用いて、影響項目の時系列データを推定し直すことができる。
妥当性判定部184によれば、このように、影響項目の時系列データを高精度に推定することができ、対象900に関して検出される事象の要因を高精度に推定できると期待される。
【0123】
また、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データの定性表現を用いた定性推論で得られる推論結果と、要因推定モデルへの入力データとの整合性に基づいて、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定する。
推定装置100によれば、要因推定モデルの出力データとして得られる影響項目の時系列データの妥当性を判定することができ、妥当でないと判定した場合は、影響項目の時系列データを推定し直すことができる。
妥当性判定部184によれば、このように、影響項目の時系列データを高精度に推定することができ、対象900に関して検出される事象の要因を高精度に推定できると期待される。
【0124】
また、妥当性判定部184は、要因推定モデルの出力データを対象900のシミュレータに入力して得られるシミュレーション結果と、要因推定モデルへの入力データとの比較により、要因推定モデルの出力データの妥当性を判定する。
推定装置100によれば、要因推定モデルの出力データとして得られる影響項目の時系列データの妥当性を判定することができ、妥当でないと判定した場合は、影響項目の時系列データを推定し直すことができる。
妥当性判定部184によれば、このように、影響項目の時系列データを高精度に推定することができ、対象900に関して検出される事象の要因を高精度に推定できると期待される。
【0125】
また、モデル更新部185は、測定データを用いて要因推定モデルを更新する。上述したように、ここでいう測定データは、対象900に関する実測データある。
これにより、モデル更新部185は、要因推定モデルを対象900の実機に合わせて更新することができ、例えば対象900の実機の経年劣化など特性の変化を要因推定モデルに反映させることができる。モデル更新部185によれば、この点で、要因推定モデルの精度を高めることができる。
【0126】
また、異常推定部186は、測定データを要因推定モデルに入力して算出される出力データに基づいて、対象900に関する異常を推定する。上述したように、ここでいう測定データは、対象900に関する実測データある。
上述したように、対象900に対する操作に起因して異常が生じた場合、要因となる操作が正常時の操作と異なることが考えられる。また、要因となる操作が行われてから異常が生じるまでにタイムラグがあり、異常そのものを検出するよりも、要因となる操作を検出する方が早く検出できることが考えられる。異常推定部186が、要因推定部183が算出する操作の時系列データに基づいて対象900に関する異常を推定することで、異常が検出される前に異常の可能性を検出できることが期待される。
同様に、対象900の周囲環境の状態に起因して異常が生じる場合も、異常推定部186によれば、異常が検出される前に異常の可能性を検出できることが期待される。
【0127】
また、上述したように、対象900に異常が生じた場合に、異常に対応する操作が行われることで、測定データとしては正常時に近いデータが得られる場合が考えられる。この場合、測定データを用いて異常を検出するよりも、対象900に対する操作のデータを用いて異常を検出する方が、正常時との差異が大きくなり、より高精度に異常を検出できる可能性がある。異常推定部186が、要因推定部183が算出する操作の時系列データに基づいて対象900に関する異常を推定することで、より高精度に異常を検出できることが期待される。
同様に、対象900の周囲環境の状態に起因して異常が生じる場合も、異常推定部186によれば、より高精度に異常を検出できることが期待される。
【0128】
図7は、実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
図7に示す構成で、情報処理装置610は、学習データ取得部611と、学習部612とを備える。
かかる構成で、学習データ取得部611は、対象に関する測定項目の時系列データと、対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得する。学習部612は、測定項目の時系列データを入力として、対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、学習データ取得部611が取得する学習データを用いて行う。
学習データ取得部611は、学習データ取得手段の例に該当する。学習部612は、学習手段の例に該当する。
【0129】
情報処理装置610によれば、学習後のモデルを用いて、測定項目の時系列データに基づいて、対象に影響を及ぼす項目の時系列データを推定することができる。この場合、推定結果として得られる、対象に影響を及ぼす項目の時系列データは、測定項目の時系列データに示される事象の要因となっているといえる。このように、情報処理装置610では、対象に関して検出される事象の要因を推定することができる。
【0130】
測定項目の時系列データに示される特定の事象の要因を推定する場合、対象に関して検出される事象と、対象に影響を及ぼす項目との相関性を予め統計的に解析しておくようにしてもよい。この相関性に基づいて、測定項目の時系列データに示される特定の事象の要因を、対象に影響を及ぼす項目の時系列データに示される事象の中から抽出できると期待される。
【0131】
学習データ取得部611は、例えば、
図1に示される学習データ取得部181等の機能を用いて実現することができる。学習部612は、例えば、
図1に示される学習部182等の機能を用いて実現することができる。
【0132】
図8は、実施形態に係る情報処理方法における処理手順の例を示す図である。
図8に示す情報処理方法は、学習データを取得する工程(ステップS611)と、学習を行う工程(ステップS612)とを含む。
学習データを取得する工程(ステップS611)では、対象に関する測定項目の時系列データと、対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得する。学習を行う工程(ステップS612)では、測定項目の時系列データを入力として、対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、ステップS611で得られる学習データを用いて行う。
ステップS611の処理は、例えば、
図1に示される学習データ取得部181等の機能を用いて行うことができる。ステップS612の処理は、例えば、
図1に示される学習部182等の機能を用いて行うことができる。
【0133】
図8の方法によれば、学習後のモデルを用いて、測定項目の時系列データに基づいて、対象に影響を及ぼす項目の時系列データを推定することができる。この場合、推定結果として得られる、対象に影響を及ぼす項目の時系列データは、測定項目の時系列データに示される事象の要因となっているといえる。このように、
図8の方法では、対象に関して検出される事象の要因を推定することができる。
【0134】
測定項目の時系列データに示される特定の事象の要因を推定する場合、対象に関して検出される事象と、対象に影響を及ぼす項目との相関性を予め統計的に解析しておくようにしてもよい。この相関性に基づいて、測定項目の時系列データに示される特定の事象の要因を、対象に影響を及ぼす項目の時系列データに示される事象の中から抽出できると期待される。
【0135】
図9は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図9に示す構成で、コンピュータ700は、CPU710と、主記憶装置720と、補助記憶装置730と、インタフェース740と、不揮発性記録媒体750とを備える。
上記の推定装置100、および、情報処理装置610のうち何れか1つ以上またはその一部が、コンピュータ700に実装されてもよい。その場合、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU710は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。各装置と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って通信を行うことで実行される。また、インタフェース740は、不揮発性記録媒体750用のポートを有し、不揮発性記録媒体750からの情報の読出、および、不揮発性記録媒体750への情報の書込を行う。
【0136】
推定装置100がコンピュータ700に実装される場合、制御部180およびその各部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0137】
また、CPU710は、プログラムに従って、記憶部170に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。
通信部110による他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。
表示部120による表示は、インタフェース740が表示装置を有し、CPU710の制御に従って各種画像を表示することで実行される。
操作入力部130によるユーザ操作の受け付けは、インタフェース740が例えばキーボードおよびマウスなどの入力デバイスを有してユーザ操作を受け付け、受け付けたユーザ操作を示す情報をCPU710へ出力することで実行される。
【0138】
情報処理装置610がコンピュータ700に実装される場合、学習データ取得部611、および、学習部612の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0139】
また、CPU710は、プログラムに従って、情報処理装置610が行う処理のための記憶領域を主記憶装置720に確保する。
情報処理装置610と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。
情報処理装置610とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が入力デバイスおよび出力デバイスを有し、CPU710の制御に従って出力デバイスにて情報をユーザに提示し、入力デバイスにてユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0140】
上述したプログラムのうち何れか1つ以上が不揮発性記録媒体750に記録されていてもよい。この場合、インタフェース740が不揮発性記録媒体750からプログラムを読み出すようにしてもよい。そして、CPU710が、インタフェース740が読み出したプログラムを直接実行するか、あるいは、主記憶装置720または補助記憶装置730に一旦保存して実行するようにしてもよい。
【0141】
なお、推定装置100、および、情報処理装置610が行う処理の全部または一部を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0142】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記述され得るが、以下に限定されるものではない。
【0143】
(付記1)
対象に関する測定項目の時系列データと、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得する学習データ取得手段と、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行う学習手段と、
を備える情報処理装置。
【0144】
(付記2)
前記学習データ取得手段は、シミュレータを用いた前記対象のシミュレーション結果に基づく前記学習データを取得する、
付記1に記載の情報処理装置。
【0145】
(付記3)
前記学習データ取得手段は、前記シミュレーション結果のデータにノイズを乗せたデータを含む前記学習データを取得する、
付記2に記載の情報処理装置。
【0146】
(付記4)
前記学習データ取得手段は、前記シミュレーション結果に基づくデータに加えて、前記測定項目の実測データを含む前記学習データを取得する、
付記2または付記3に記載の情報処理装置。
【0147】
(付記5)
前記対象に影響を及ぼす項目のうち推定対象外の項目の指定を受け、推定対象外となっていない項目の値を推定する推定手段
をさらに備える、付記1から4の何れか一つに記載の情報処理装置。
【0148】
(付記6)
前記推定手段は、前記推定対象外の項目の値が、その項目について予め定められた値となるように調整された前記モデルを用いて、前記推定対象外となっていない項目の値を推定する、
付記5に記載の情報処理装置。
【0149】
(付記7)
前記モデルはニューラルネットワークを用いて構成され、
前記推定手段は、前記ニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力値を定数値に切り替えること、前記ニューラルネットワークの1つ以上のノードへの入力にバイアスをかけること、前記ニューラルネットワークの1つ以上のエッジの重み係数を書き換えること、または、前記ニューラルネットワークの一部または全部を別のニューラルネットワークに切り替えること、の少なくとも何れかによって調整された前記モデルを用いる、付記6に記載の情報処理装置。
【0150】
(付記8)
前記推定手段は、前記推定対象外として指定される可能性のある項目またはその組み合わせごとに、前記モデルの調整方法を学習する、
付記6または付記7に記載の情報処理装置。
【0151】
(付記9)
前記モデルへの入力データに基づいて、前記モデルの出力データの妥当性を判定する妥当性判定手段
をさらに備える、付記1から8の何れか一つに記載の情報処理装置。
【0152】
(付記10)
前記妥当性判定手段は、前記モデルの出力データの定性表現を用いた定性推論で得られる推論結果と前記モデルへの入力データとの整合性に基づいて、前記モデルの出力データの妥当性を判定する、
付記9に記載の情報処理装置。
【0153】
(付記11)
前記妥当性判定手段は、前記モデルの出力データを前記対象のシミュレータに入力して得られるシミュレーション結果と前記モデルへの入力データとの比較により、前記モデルの出力データの妥当性を判定する、
付記9または付記10に記載の情報処理装置。
【0154】
(付記12)
前記測定項目の実測データを用いて前記モデルを更新するモデル更新手段
をさらに備える、付記1から11の何れか一つに記載の情報処理装置。
【0155】
(付記13)
前記測定項目の実測データを前記モデルに入力して算出される出力データに基づいて、前記対象に関する異常を推定する異常推定手段
をさらに備える、付記1から12の何れか一つに記載の情報処理装置。
【0156】
(付記14)
コンピュータが、
対象に関する測定項目の時系列データと、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得し、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行う、
情報処理方法。
【0157】
(付記15)
コンピュータに、
対象に関する測定項目の時系列データと、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データとを含む学習データを取得することと、
前記測定項目の時系列データを入力として、前記対象に影響を及ぼす項目の時系列データを出力するモデルの学習を、前記学習データを用いて行うことと、
を実行させるためのプログラムを記録する記録媒体。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法および記録媒体に適用してもよい。
【符号の説明】
【0159】
100 推定装置
110 通信部
120 表示部
130 操作入力部
170 記憶部
180 制御部
181、611 学習データ取得部
182、612 学習部
183 要因推定部
184 妥当性判定部
185 モデル更新部
186 異常推定部
187 シミュレータ部
188 定性推論部
610 情報処理装置