(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】表示体、版、転写箔、粘着ラベル及び表示体付き物品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240910BHJP
G09F 19/14 20060101ALI20240910BHJP
G09F 3/10 20060101ALI20240910BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20240910BHJP
G09F 19/12 20060101ALI20240910BHJP
B42D 25/328 20140101ALN20240910BHJP
【FI】
G02B5/18
G09F19/14
G09F3/10 A
G09F3/02 G
G09F3/02 W
G09F19/12 H
B42D25/328
(21)【出願番号】P 2023060261
(22)【出願日】2023-04-03
(62)【分割の表示】P 2019022538の分割
【原出願日】2019-02-12
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤村 力
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505926(JP,A)
【文献】特開平7-239408(JP,A)
【文献】特表2005-514672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0021660(US,A1)
【文献】特開2015-132721(JP,A)
【文献】特開2010-78821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
B42D25/00-25/485
G09F 3/00- 3/20
G09F19/12-19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示面に対して
同じ傾き角で傾いた
複数の傾斜領域を含んだ反射面を備え、
前記複数の傾斜領域は、それらが前記反射面に段差を生じさせるように、前記表示面に対して平行であり且つ前記複数の傾斜領域と交差する方向に連続しており、前記
複数の傾斜領域の各々には、前記表示面及び前記反射面に対して垂直な面と交差する方向に各々が延びた複数の溝が設けられ、前記複数の溝は、700乃至100000nmの範囲内の格子定数を有する回折格子を構成している表示体。
【請求項2】
前記複数の溝の各々は、前記表示面及び前記
複数の傾斜領域に対して平行な方向に延びた請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記
複数の傾斜領域の前記表示面に対する
前記傾き角は0.1乃至70°の範囲内にある請求項1
又は2に記載の表示体。
【請求項4】
フィルム又はシート状である請求項1乃至
3の何れか1項に記載の表示体。
【請求項5】
前記反射面を有する反射層と、
前記反射層を支持し、前記反射層と接する面に、前記反射面に対応した形状のレリーフ構造が設けられたレリーフ構造形成層と
を具備した請求項1乃至
4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
請求項1乃至
5の何れか1項に記載の表示体の製造に使用するための版。
【請求項7】
請求項1乃至
5の何れか1項に記載の表示体を含んだ転写材層と、
前記転写材層を剥離可能に支持した支持体と
を備えた転写箔。
【請求項8】
請求項1乃至
5の何れか1項に記載の表示体と、
前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層と
を備えた粘着ラベル。
【請求項9】
請求項1乃至
5の何れか1項に記載の表示体と、
前記表示体を支持した物品と
を備えた表示体付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ型の回折格子には、溝の長さ方向に垂直な断面が、矩形波状のもの(特許文献1及び非特許文献1参照)や、鋸歯状のものがある。
【0003】
矩形波状の断面を有している一般的な回折格子は、法線方向から白色光で照明し、この回折格子を法線の周りで180°回転させながら、これを斜め方向から観察すると、回転前後で同じ色の画像を表示する。なお、正弦波状の断面を有している回折格子も、上記の条件のもとで観察した場合、矩形波状の断面を有している回折格子と同様に、回転前後で同じ色の画像を表示する。
【0004】
他方、鋸歯状の断面を有している回折格子、即ちブレーズド回折格子は、法線方向から白色光で照明し、この回折格子を法線の周りで180°回転させながら、これを斜め方向から観察すると、回転前後で明度が異なる画像を表示し得る。しかしながら、それら画像は彩度や色相が同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2004/0021945号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Michael W. Farn (1992) "Binary gratings with increased efficiency", Appl. Opt., Vol.31, No.22, pp.4453-4458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特殊な光学効果を奏する表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1側面によると、表示面に対して同じ傾き角で傾いた複数の傾斜領域を含んだ反射面を備え、前記複数の傾斜領域は、それらが前記反射面に段差を生じさせるように、前記表示面に対して平行であり且つ前記複数の傾斜領域と交差する方向に連続しており、前記複数の傾斜領域の各々には、前記表示面及び前記反射面に対して垂直な面と交差する方向に各々が延びた複数の溝が設けられ、前記複数の溝は、700乃至100000nmの範囲内の格子定数を有する回折格子を構成している表示体が提供される。
【0010】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体の製造に使用するための版が提供される。
【0011】
本発明の第3側面によると、第1側面に係る表示体を含んだ転写材層と、前記転写材層を剥離可能に支持した支持体とを備えた転写箔が提供される。
【0012】
本発明の第4側面によると、第1側面に係る表示体と、前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層とを備えた粘着ラベルが提供される。
【0013】
本発明の第5側面によると、第1側面に係る表示体と、前記表示体を支持した物品とを備えた表示体付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明よると、特殊な光学効果を奏する表示体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図。
【
図2】
図1に示す表示体のII-II線に沿った断面図。
【
図3】
図1及び
図2に示す表示体が含んでいる反射面の斜視図。
【
図4】
図1及び
図2に示す表示体が含んでいる反射面の構造を説明する図。
【
図5】
図1及び
図2に示す表示体の製造に使用可能な版の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】
図1及び
図2に示す表示体の観察条件の例を概略的に示す図。
【
図7】
図1及び
図2に示す表示体が或る観察条件のもとで表示する画像を示す図。
【
図8】
図1及び
図2に示す表示体が他の観察条件のもとで表示する画像を示す図。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る表示体を概略的に示す断面図。
【
図10】
図9に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図。
【
図11】
図9に示す表示体の製造に使用可能な版の一例を概略的に示す断面図。
【
図12】
図9に示す表示体の他の変形例を概略的に示す斜視図。
【
図13】本発明の一実施形態に係る転写箔を概略的に示す断面図。
【
図14】本発明の一実施形態に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図。
【
図15】本発明の一実施形態に係る表示体付き物品を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
先ず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図である。
図2は、
図1に示す表示体のII-II線に沿った断面図である。
図3は、
図1及び
図2に示す表示体が含んでいる反射面の斜視図である。
図4は、
図1及び
図2に示す表示体が含んでいる反射面の構造を説明する図である。
【0018】
なお、図中、X方向は、表示体1の主面に対して平行な方向である。Y方向は、表示体1の主面に対して平行であり且つX方向に対して垂直な方向である。Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0019】
図1及び
図2に示す表示体1は、フィルム又はシート状である。この表示体1は、
図2に示すように、レリーフ構造形成層11と反射層12とを含んでいる。
【0020】
表示体1は、レリーフ構造形成層11側が観察者と向き合う前面であり、反射層12側が背面であってもよい。或いは、この表示体1は、反射層12側が観察者と向き合う前面であり、レリーフ構造形成層11側が背面であってもよい。ここでは、一例として、この表示体1は、レリーフ構造形成層11側が観察者と向き合う前面であり、反射層12側が背面であるとする。
【0021】
レリーフ構造形成層11は、可視光透過性を有している層である。一例によれば、レリーフ構造形成層11は、無色透明なフィルム又はシートである。
【0022】
レリーフ構造形成層11の反射層12と接している面には、レリーフ構造が設けられている。ここでは、一例として、レリーフ構造形成層11の反射層12と接している面のうち、
図1に示す第1領域R1にはレリーフ構造が設けられ、第2領域R2にはレリーフ構造は設けられていないこととする。具体的には、ここでは、
図2に示すレリーフ構造形成層11と反射層12と界面のうち、
図1に示す第1領域R1に対応した領域は、
図2乃至
図4に示す波型の反射面RSaであり、
図1に示す第2領域R2に対応した領域は平坦面であるとする。
【0023】
この波型の反射面RSaは、
図2乃至4に示すように、複数の第1傾斜面IS1と複数の第2傾斜面IS2とを含んでいる。第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々は、表示面に対して平行な第1方向へ延びた形状を有している。ここで、「表示面」は、表示体1の厚さ方向に垂直な面である。また、ここでは、第1方向はX方向である。
【0024】
第1傾斜面IS1は、表示面に対して垂直であり且つ第1方向に対して平行な基準面に対して正の角度に傾いている。また、第2傾斜面IS2は、先の基準面に対して負の角度に傾いている。そして、第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2は、表示面に対して平行であり且つ第1方向に対して垂直な第2方向へ交互に配列している。
【0025】
ここでは、第1傾斜面IS1は、Y方向に垂直な面に対して正の角度に傾き、第2傾斜面IS2は、Y方向に垂直な面に対して負の角度に傾いている。そして、第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2は、Y方向へ交互に配列している。
【0026】
第1傾斜面IS1は、
図4に示すように、周期T1で規則的に配列している。第1傾斜面IS1の配列は、第1格子定数d1(=T1)を有する第1回折格子を構成している。第1格子定数d1は、700乃至1100nmの範囲内にある。
【0027】
他方、第2傾斜面IS2は、周期T1よりも長い周期T2で規則的に配列している。第2傾斜面IS2の配列は、第1格子定数d1よりも大きな第2格子定数d2(=T2)を有する第2回折格子を構成している。第2格子定数d2は、800乃至1200nmの範囲内にある。
【0028】
第1格子定数d1と第2格子定数d2とは、以下の等式に示す関係を満足していることが好ましい。
d1×(n+1)=d2×n
ここで、nは2以上の整数である。nは、5以上の整数であることが好ましい。また、nは、12以下の整数であることが好ましい。nは、9であることがより好ましい。nを小さくすると、周期T1の配列と周期T2の配列とを合成してなる配列の周期T12が短くなる。その結果、周期T12の配列が、周期T1の配列と周期T2の配列とが提供する光学効果へ及ぼす影響が大きくなる。nを過剰に大きくすると、観察者は、後述する光学効果を知覚し辛くなる。
【0029】
第1格子定数d1と前記第2格子定数d2との比d1/d2は、0.833乃至0.917の範囲内にあることが好ましく、0.875乃至0.9の範囲内にあることがより好ましい。比d1/d2を1に近づけると、観察者は、後述する光学効果を知覚し辛くなる。比d1/d2を過剰に大きくすると、周期T1の配列が射出する回折光及び周期T2の配列が射出する回折光の一方の波長が可視域から外れる可能性がある。
【0030】
第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々の第1方向に対して垂直な断面、ここでは、X方向に対して垂直な断面は湾曲している。これら断面は湾曲していなくてもよいが、湾曲させた場合、湾曲させない場合と比較して、観察者は、後述する光学効果を知覚し易くなる。
【0031】
波型の反射面RSaのうち表示面に対して平行な領域の面積S1と、波型の反射面RSaの表示面への正射影の面積S0との比S1/S0は、0.5以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。比S1/S0を小さくすると、観察者は、後述する光学効果を知覚し易くなる。
【0032】
比S1/S0は、ゼロ又はそれに近い値であることが好ましい。
【0033】
図2に示す反射層12は、レリーフ構造形成層11のレリーフ構造が設けられた面を被覆している。反射層12は、可視光反射性を有している。
【0034】
反射層12としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層12として、レリーフ構造形成層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層12として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ構造形成層11と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。
【0035】
この表示体1は、例えば、以下の方法により製造することができる。
図5は、
図1及び
図2に示す表示体の製造に使用可能な版の一例を概略的に示す断面図である。表示体1の製造に先立ち、先ず、
図5に示す版6を準備する。
【0036】
版6は、その表面に、上述したレリーフ構造に対応したレリーフ構造を有している。版6は、例えば、以下の方法により製造する。
【0037】
先ず、平滑な表面を有する基板、例えばガラス基板上に感光性レジスト材料を塗布して、均一な厚さを有するレジスト材料層を形成する。感光性レジスト材料は、ポジ型及びネガ型の何れであってもよい。
【0038】
次に、レジスト材料層に、電子ビームなどの荷電粒子ビームで、所望のパターンを描画する。続いて、このレジスト材料層を現像して、所望のレリーフ構造を表面に有する構造体を得る。なお、感光性レジスト材料がポジ型である場合、レジスト材料層のうち電荷粒子線を照射した部分が、現像液に対して可溶化する。或いは、感光性レジスト材料がネガ型である場合、レジスト材料層のうち荷電粒子線を照射した部分が、現像液に対して不溶化する。
【0039】
なお、感光性レジスト材料として低感度の材料を使用した場合、或る領域と他の領域とで荷電粒子線の強度や照射回数を異ならしめると、それら領域間で、可溶化又は不溶化の程度を異ならしめることができる。従って、これを利用すると、例えば、凸部及び凹部の表面が、
図2乃至
図4に示す反射面RSaのように湾曲したレジストパターンを得ることができる。
【0040】
次に、このようにして得られた構造体を原版として用いて、電鋳等の方法により金属製の版6を作成する。電鋳により版6を製造する場合、例えば、先ず、原版の表面に、スパッタリング及び真空蒸着などの気相堆積法により金属薄膜を形成する。次いで、原版をめっき液に浸漬させ、この状態で通電することにより、めっき液中の金属イオンを原版上に電析させる。その後、これにより得られた金属製の構造体から原版を取り除くことにより、スタンパとして使用する版6を得る。電析を利用すると、原版の表面に設けられたレリーフ構造を精度よく複製することができる。
【0041】
次に、
図2に示すレリーフ構造形成層11を形成する。レリーフ構造形成層11は、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルなどからなる基材上に形成する。
【0042】
レリーフ構造形成層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は放射線硬化性樹脂を使用する。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂又はビニル樹脂を使用する。熱硬化性樹脂としては、例えば、反応性水酸基を有するアクリルポリオール若しくはポリエステルポリオールにポリイソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミン樹脂又はフェノール樹脂を使用する。放射線硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリル、エポキシメタクリル、ウレタンアクリレート又はウレタンメタクリレートを使用する。
【0043】
レリーフ構造形成層11は、例えば、以下の方法より形成することができる。例えば、熱可塑性樹脂層に、レリーフ構造が設けられた版6を、熱を印加しながら押し当て、その後、熱可塑性樹脂層から版6を取り除く。或いは、紫外線硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これに版6を押し当てながら紫外線などの放射線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜から版6を取り除く。或いは、熱硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これに版6を押し当てながら加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜から版6を取り除く。
【0044】
次いで、レリーフ構造形成層11のレリーフ構造が設けられた面に、反射層12を形成する。反射層12は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。気相堆積法によって得られた膜からは、その一部をエッチングなどによって除去してもよい。
以上のようにして、
図1及び
図2に示す表示体1を得る。
【0045】
この表示体1は、以下に説明する光学効果を奏する。
図6は、
図1及び
図2に示す表示体の観察条件の例を概略的に示す図である。
図7は、
図1及び
図2に示す表示体が或る観察条件のもとで表示する画像を示す図である。
図8は、
図1及び
図2に示す表示体が他の観察条件のもとで表示する画像を示す図である。
【0046】
図6において、参照符号LSは、白色光を射出する光源である。また、参照符号OP1は第1観察位置を表し、参照符号OP2は第2観察位置を表している。第1観察位置OP1と第2観察位置OP2とは、表示体1の中心を通り且つY方向に垂直な面に対して対称である。
【0047】
図6に示すように、表示体1の前面をその法線方向、ここではZ方向から白色光で照明した場合、表示体1は、第1観察位置OP1から観察している観察者に対して、
図7に示す第1画像I1を表示する。また、
図6に示すように、表示体1の前面をその法線方向から白色光で照明した場合、表示体1は、第2観察位置OP2から観察している観察者に対して、
図8に示す第2画像I2を表示する。
【0048】
第1画像I1及び第2画像I2のうち、
図1の第1領域R1に対応した部分は、回折光によって表示される回折画像である。これら回折画像は、彩度や色相が異なっている。即ち、
図7に示す第1画像I1のうち
図1の第1領域R1に対応した部分を形成する回折光と、
図8に示す第1画像I1のうち
図1の第1領域R1に対応した部分を形成する回折光とは、波長が異なっている。例えば、これら回折画像の一方は赤色であり、他方は緑色である。
【0049】
これから明らかなように、
図1及び
図2に示す表示体1の前面を法線方向から白色光で照明し、これを斜め方向から観察しながら、表示体1を法線の周りで180°回転させると、
図1の第1領域R1の彩度や色相が変化する。例えば、第1領域R1の色は、赤色と緑色との間で変化する。
【0050】
上記の通り、これと同様な条件のもとで、一般的な回折格子が設けられた表示体を観察した場合、この表示体を法線の周りで180°回転させても、回折領域が設けられた領域の色変化は生じない。また、これと同様な条件のもとで、ブレーズド回折格子が設けられた表示体を観察した場合、この表示体を法線の周りで180°回転させると、先の回折格子が設けられた領域は、回転前後で明度の変化は生じ得るが、それら彩度や色相の変化は生じない。
即ち、上記の表示体1は、特殊な光学効果を奏する。
【0051】
この表示体1が上記の光学効果を奏する理由を、以下に説明する。
図2乃至
図4に示す第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2は、それぞれ、第1格子定数d1を有する第1回折格子及び第2格子定数d2を有する第2回折格子を形成している。第1格子定数d1と第2格子定数d2とは異なっているので、表示体1の前面を法線方向から白色光で照明した場合、第1回折格子が或る方向へ射出する回折光と、第2回折格子が同じ方向へ射出する回折光とは、異なる波長を有することになる。
【0052】
ここで、第1傾斜面IS1は、上記の基準面に対して正の角度に傾いている。それ故、第1傾斜面IS1が形成している第1回折格子は、法線方向から白色光で照明した場合、負の角度範囲内に、正の角度範囲内と比較してより強い回折光を射出する。
【0053】
他方、第2傾斜面IS2は、上記の基準面に対して負の角度に傾いている。それ故、第2傾斜面IS2が形成している第2回折格子は、法線方向から白色光で照明した場合、正の角度範囲内に、負の角度範囲内と比較してより強い回折光を射出する。
従って、この表示体1は、上記の光学効果を奏する。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図9は、本発明の第2実施形態に係る表示体を概略的に示す断面図である。
図9に示す表示体1は、以下の構成を採用していること以外は、第1実施形態に係る表示体1と同様である。
【0055】
即ち、
図9に示す表示体1では、レリーフ構造形成層11と反射層12との間の界面である反射面RSbは、表示面に対して傾いた領域である傾斜領域IRを含んでいる。この傾斜領域IRには、表示面及び反射面RSbに対して垂直な面と交差する方向に各々が延びた複数の溝Gが設けられている。ここでは、溝Gの各々は、表示面及び反射面RSbに対して平行な方向、即ちX方向に延びている。これら溝Gは、160乃至100000nmの範囲内の、好ましくは700乃至1200nmの範囲内の格子定数を有する回折格子DGを構成している。
【0056】
この表示体1も、第1実施形態に係る表示体1と同様の光学効果を奏する。その理由を、以下に説明する。
【0057】
上記の通り、
図9に示す表示体1では、回折格子DGは、表示面に対して傾いた傾斜領域IRに設けられている。そして、この回折格子DGを構成している溝Gの長さ方向は、表示面及び反射面RSbに対して平行である。それ故、この表示体1をその法線方向から白色光で照明した場合、回折格子DGには、溝Gの配列方向に対して傾いた方向から白色光が入射することになる。従って、この表示体1が、溝Gの長さ方向に対して垂直であり且つ表示面に対して傾いた或る方向へ射出する回折光と、この射出方向とは、溝Gの長さ方向に対して平行であり且つ表示面に対して垂直な面に対して対称な方向へ射出する回折光とは、異なる波長を有することになる。このような理由で、この表示体1は、第1実施形態に係る表示体1と同様の光学効果を奏する。
【0058】
図10は、
図9に示す表示体の一変形例を概略的に示す断面図である。
図10に示す表示体1は、以下の点を除き、
図9を参照しながら説明した表示体1と同様である。
【0059】
即ち、
図9に示す表示体1では、レリーフ構造形成層11のうち回折格子DGに対応した部分の厚さは、一端から他端へ向けて増加している。それ故、回折格子DGの面積を広くすると、レリーフ構造形成層11を厚く形成する必要を生じ、また、その形成も難しくなる。
【0060】
これに対し、
図10に示す表示体1では、表示面に対して平行な方向に配列した複数の傾斜領域IRを反射面RSbに設けている。ここでは、これら傾斜領域IRを、反射面に段差を生じさせるように、表示面に対して平行であり且つ傾斜領域IRと交差する方向に配列させている。そして、これら傾斜領域IRの各々には、
図9に示す表示体1と同様に、複数の溝Gが設けられており、これら溝Gは回折格子DGを構成している。それ故、この表示体1は、
図9に示す表示体1と同様の光学効果を奏するのに加え、回折格子DGの合計面積を広くしても、レリーフ構造形成層11を厚く形成する必要を生じず、その形成が難しくなることもない。
【0061】
溝Gの長さ方向と、表示面及び傾斜領域IRに対して平行な方向とが成す角度(
図12の角度θ)は、ここでは、溝Gの長さ方向とX方向とが成す角度は、0°以上90°未満であり、0乃至45°の範囲内にあることが好ましい。この角度を大きくすると、観察者は、上述した光学効果を知覚し辛くなる。溝Gの長さ方向は、表示面及び傾斜領域IRに対して平行であることが特に好ましい。
【0062】
傾斜領域IRの表示面に対する傾き角は、0.1乃至70°の範囲内にあることが好ましく、0.3乃至1.5°の範囲内にあることがより好ましい。この傾き角を小さくすると、観察者は、上述した光学効果を知覚し辛くなる。この傾き角を過剰に大きくすると、上記の条件のもとで表示体1を法線の周りで180°回転させた場合に、表示体1は、回転前及び回転後の何れかにおいて、
図7に示す第1画像I1及び
図8に示す第2画像I2の一方を表示しなくなる可能性がある。
【0063】
溝Gの長さ方向と交差し且つ表示面に対して平行な方向に配列した複数の傾斜領域IRを反射面RSbに設ける場合、それらの配列方向における傾斜領域IRの寸法、ここではY方向における傾斜領域IRの寸法は、4000乃至13200nmの範囲内にあることが好ましい。この寸法が小さいと、1つの傾斜領域IRに多数の溝Gを配置することができない。この寸法を大きくすると、レリーフ構造形成層11を厚く形成する必要を生じる可能性がある。
【0064】
溝Gの長さ方向と交差し且つ表示面に対して平行な方向に配列した複数の傾斜領域IRを反射面RSbに設ける場合、それらの配列方向における傾斜領域IR間の距離は、132000μm以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。或いは、この距離は、上記の配列方向における傾斜領域IRの寸法の10倍以下であることが好ましい。この距離を短くすると、
図7に示す第1画像I1や
図8に示す第2画像I2をより明るく表示することが可能となる。
【0065】
なお、
図10に示す表示体1は、
図11に示す版6を使用すること以外は、第1実施形態に係る表示体1と同様の方法により製造することができる。
【0066】
図12は、
図9に示す表示体の他の変形例を概略的に示す断面図である。
図12に示す表示体1は、以下の点を除き、
図10を参照しながら説明した表示体1と同様である。
【0067】
即ち、
図12に示す表示体1では、溝Gの長さ方向と、表示面及び傾斜領域IRに対して平行な方向とが成す角度θは、ここでは、溝Gの長さ方向とX方向とが成す角度は、0°より大きく且つ90°未満である。このように、溝Gの長さ方向は、表示面及び傾斜領域IRに対して平行な方向、ここではX方向に対して傾いていてもよい。
【0068】
上述した表示体には、様々な変形が可能である。
例えば、
図1乃至
図4を参照しながら説明した表示体1では、第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が直線状の形状を有している。第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が湾曲していてもよい。例えば、第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が正弦波状の形状を有していてもよい。
【0069】
また、
図9、
図10及び
図12を参照しながら説明した各表示体1では、溝Gの各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が直線状の形状を有している。溝Gの各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が湾曲していてもよい。例えば、溝Gの各々は、Z方向に垂直な平面への正射影が正弦波状の形状を有していてもよい。
【0070】
上記の通り、これら表示体1の各々は、その前面を法線方向から白色光で照明し、これを斜め方向から観察しながら、法線の周りで180°回転させると、彩度や色相の変化を生じる。上記の正射影が直線状の形状を有している場合、表示体1を僅かに回転させただけで(180°よりも遥かに小さな角度回転させただけで)、色が大きく変化する。他方、上記の正射影が湾曲している場合、表示体1を僅かに回転させただけでは、色が大きく変化することはない。それ故、上記の正射影が湾曲している場合、上記の正射影が直線状の形状を有している場合と比較して、表示体1を180°回転させることによって生じる光学効果をより確認し易い。
【0071】
次に、本発明の一実施形態に係る転写箔について説明する。
図13は、本発明の一実施形態に係る転写箔を概略的に示す断面図である。
図13に示す転写箔2は、支持体21と転写材層22と接着層23とを含んでいる。
【0072】
支持体21は、転写材層22を剥離可能に支持している。
支持体21は、例えば樹脂フィルム又はシートである。支持体は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料からなる。支持体21の転写材層22を支持している主面には、例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。
【0073】
接着層23は、転写材層22を被覆している。接着層23は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0074】
転写材層22は、レリーフ構造形成層221と、反射層222と、剥離保護層223とを含んでいる。剥離保護層223、レリーフ構造形成層221、及び反射層222は、この順に、支持体21上に積層されている。
【0075】
転写材層22は、互いに隣接した転写部及び非転写部を含んでいる。
転写部は、転写材層22のうち、物品へ転写される部分であって、上記の表示体1を含んでいる。レリーフ構造形成層221及び反射層222のうち、転写部に相当する部分は、それぞれ、表示体1のレリーフ構造形成層11及び反射層12に対応している。
【0076】
非転写部は、転写材層22のうち、物品へ転写されずに残留する部分である。非転写部は、転写部と同様の層構成を有している。
【0077】
剥離保護層223は、転写部の支持体21からの剥離を容易にするとともに、剥離した転写部、即ち、表示体1の表面を損傷及び劣化から保護する役割を果たす。剥離保護層223は、例えば、光透過性を有している。剥離保護層223は、例えば樹脂からなる。
【0078】
次に、本発明の一実施形態に係る粘着ラベルについて説明する。
図14は、本発明の一実施形態に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図である。
【0079】
図14に示す粘着ラベル3は、基材31と表示体1と粘着層32とを含んでいる。なお、
図14において、符号4は台紙を表している。
【0080】
基材31は、例えば、透明樹脂フィルムである。基材31は、その一方の主面に、表示体1を支持している。
【0081】
粘着層32は、表示体1の一方の主面に設けられている。粘着層32は、表示体1を間に挟んで基材31と向き合っている。粘着層32は、粘着ラベル3の使用直前まで、台紙4によって保護される。
【0082】
粘着層32は、感圧接着剤などの粘着剤からなる。粘着剤としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、又は、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコーン系若しくはポリイソブチル系粘着剤を使用する。
【0083】
粘着剤は、添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、アルキルメタクリレート、ビニルエステル、アクリルニトリル、スチレン及びビニルモノマーなどの凝集成分;不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有モノマー及びアクリルニトリルなどの改質成分;重合開始剤;可塑剤;硬化剤;硬化促進剤;酸化防止;又はそれらの2つ以上を含んだ混合物を使用する。
【0084】
次に、本発明の一実施形態に係る表示体付き物品について説明する。
図15は、本発明の一実施形態に係る表示体付き物品を概略的に示す平面図である。
【0085】
図15に示す表示体付き物品5は、印刷物である。表示体付き物品5は、例えば、紙幣、有価証券、証明書類、クレジットカード、パスポート及びID(identification)カードなどの個人認証媒体、又は、内容物を包装する包装体である。
【0086】
この表示体付き物品5は、表示体1と、これを支持した物品51とを含んでいる。物品51は、印刷基材と、これに設けられた印刷層を含んでいる。印刷基材の材質は、例えば、プラスチック、金属、紙、又はそれらの複合体である。表示体1は、例えば、この物品51の表面に貼り付けるか又はこの物品51内に埋め込まれることにより、物品51によって支持されている。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
表示面に対して平行な第1方向へ延びた形状を各々が有し、前記表示面に対して平行であり且つ前記第1方向に対して垂直な第2方向へ交互に配列した第1及び第2傾斜面を含み、前記第1傾斜面は、前記表示面に対して垂直であり且つ前記第1方向に対して平行な基準面に対して正の角度に傾き、前記第2傾斜面は前記基準面に対して負の角度に傾いた波型の反射面を備え、
前記第1傾斜面の配列は、700乃至1100nmの範囲内の第1格子定数d1を有する第1回折格子を構成し、前記第2傾斜面の配列は、前記第1格子定数d1よりも大きく且つ800乃至1200nmの範囲内の第2格子定数d2を有する第2回折格子を構成した表示体。
[2]
前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2とは、
等式:d1×(n+1)=d2×n
に示す関係を満足し、nは2以上の整数である項1に記載の表示体。
[3]
前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2との比d1/d2は、0.833乃至0.917の範囲内にある項1又は2に記載の表示体。
[4]
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面の各々の前記第1方向に対して垂直な断面は湾曲している項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
[5]
前記波型の反射面のうち前記表示面に対して平行な領域の面積S1と、前記波型の反射面の前記表示面への正射影の面積S0との比S1/S0は0.5以下である項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
[6]
表示面に対して傾いた1以上の傾斜領域を含んだ反射面を備え、前記1以上の傾斜領域の各々には、前記表示面及び前記反射面に対して垂直な面と交差する方向に各々が延びた複数の溝が設けられ、前記複数の溝は、160乃至100000nmの範囲内の格子定数を有する回折格子を構成している表示体。
[7]
前記複数の溝の各々は、前記表示面及び前記1以上の傾斜面に対して平行な方向に延びた項6に記載の表示体。
[8]
前記1以上の傾斜領域は、前記表示面に対して平行な方向に配列した2以上の傾斜領域を含んだ項6又は7に記載の表示体。
[9]
前記2以上の傾斜領域は、それらが前記反射面に段差を生じさせるように、前記表示面に対して平行であり且つ前記2以上の傾斜領域と交差する方向に配列した項8に記載の表示体。
[10]
前記1以上の傾斜領域の前記表示面に対する傾き角は0.1乃至70°の範囲内にある項6乃至9の何れか1項に記載の表示体。
[11]
フィルム又はシート状である項1乃至10の何れか1項に記載の表示体。
[12]
前記反射面を有する反射層と、
前記反射層を支持し、前記反射層と接する面に、前記反射面に対応した形状のレリーフ構造が設けられたレリーフ構造形成層と
を具備した項1乃至11の何れか1項に記載の表示体。
[13]
項1乃至12の何れか1項に記載の表示体の製造に使用するための版。
[14]
項1乃至12の何れか1項に記載の表示体を含んだ転写材層と、
前記転写材層を剥離可能に支持した支持体と
を備えた転写箔。
[15]
項1乃至12の何れか1項に記載の表示体と、
前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層と
を備えた粘着ラベル。
[16]
項1乃至12の何れか1項に記載の表示体と、
前記表示体を支持した物品と
を備えた表示体付き物品。
【符号の説明】
【0087】
1…表示体、2…転写箔、3…粘着ラベル、4…台紙、5…表示体付き物品、6…版、11…レリーフ構造形成層、12…反射層、21…支持体、22…転写材層、23…接着層、31…基材、32…粘着層、51…物品、212…レリーフ構造形成層、222…反射層、223…剥離保護層、DG…回折格子、G…溝、I1…第1画像、I2…第2画像、IR…傾斜領域、IS1…第1傾斜面、IS2…第2傾斜面、LS…光源、OP1…第1観察位置、OP2…第2観察位置、R1…第1領域、R2…第2領域、RSa…反射面、RSb…反射面。