(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電池監視装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20240910BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01R27/02 A
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2023065134
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2019131906の分割
【原出願日】2019-07-17
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌明
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-227519(JP,A)
【文献】特開2017-118642(JP,A)
【文献】特開2019-015599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0170397(US,A1)
【文献】特開2006-220629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と複数の電極とを含む蓄電池(42)の状態を監視する電池監視装置(50)において、
所定の交流信号の波形を指示する波形指示部(53)と、
監視対象である前記蓄電池を電源として、前記波形指示部により指示された交流信号を出力させる信号制御部(56)と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記波形指示部が指示する前記交流信号に応じて決定された参照信号と、前記応答信号入力部から入力した応答信号とを掛け合わせた値に基づいて、前記応答信号のうち、前記交流信号の周波数に応じた周波数成分を検出する検出部(52)と、
前記検出部によって検出された前記応答信号の周波数成分に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスを算出する演算部(53)と、
前記信号制御部が前記交流信号を出力させる前に、前記波形指示部が指示する前記交流信号の周波数に応じたノイズ信号の有無を判定する第1ノイズ判定部(53)と、
前記第1ノイズ判定部によりノイズ信号があると判定された場合、前記応答信号が前記応答信号入力部に入力された後に、前記第1ノイズ判定部により判定されたノイズ信号と同じノイズ信号が未だに存在しているか否かを判定する第2ノイズ判定部(53)と、
前記第2ノイズ判定部により同じ前記ノイズ信号が未だ存在していると判定された場合、前記演算部により複素インピーダンスが算出される前に、当該ノイズ信号を除去するノイズ対応部(53)と、を備え
、
前記検出部は、
前記信号制御部が前記交流信号を出力させる前の第1のタイミングにおいて、前記蓄電池に流れるノイズ信号を入力し、当該ノイズ信号と、前記波形指示部が指示する前記交流信号に応じて決定された参照信号とを掛け合わせた値に基づいて、前記ノイズ信号のうち、前記交流信号の周波数に応じた周波数成分を検出するとともに、
前記信号制御部が前記交流信号を出力させた後の第2のタイミングにおいて、前記蓄電池に流れるノイズ信号を入力し、当該ノイズ信号と、前記第1のタイミングにおける参照信号と同じ参照信号とを掛け合わせた値に基づいて、前記ノイズ信号のうち、前記交流信号の周波数に応じた周波数成分を検出するように構成されており、
前記第1ノイズ判定部は、前記第1のタイミングで前記検出部により検出されたノイズ信号の周波数成分に基づいて、前記波形指示部が指示する前記交流信号の周波数に応じたノイズ信号の有無を判定し、
前記第2ノイズ判定部は、前記第2のタイミングで前記検出部により検出されたノイズ信号の周波数成分に基づいて、前記第1ノイズ判定部により判定されたノイズ信号と同じノイズ信号が未だに存在しているか否かを判定
し、
前記波形指示部は、前記第1のタイミングから前記第2のタイミングに至るまで、前記信号制御部により出力される前記参照信号の位相が同じとなるように前記交流信号の波形を指示するものであり、
前記ノイズ対応部は、前記応答信号の周波数成分と、前記ノイズ信号の周波数成分とを比較して、前記応答信号の周波数成分から前記ノイズ信号の周波数成分を減算することにより、前記応答信号の周波数成分から前記ノイズ信号の周波数成分を除去し、前記演算部は、その結果に基づいて複素インピーダンスを算出する電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の状態を監視するため、蓄電池の複素インピーダンスを測定することが行われていた(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発明では、パワーコントローラにより、蓄電池に対して矩形波信号を印加して、その応答信号に基づいて複素インピーダンス特性を算出していた。そして、この複素インピーダンス特性を基に、蓄電池の劣化状態などを判別していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この複素インピーダンス測定法を、車載の蓄電池の複素インピーダンス測定法として採用する場合、次のような問題が生じる。車両では、インバータなどのノイズ源が数多く存在し、複素インピーダンスの検出精度が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複素インピーダンスの検出精度を向上させることができる電池監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、
電解質と複数の電極とを含む蓄電池の状態を監視する電池監視装置において、
所定の交流信号の波形を指示する波形指示部と、
監視対象である前記蓄電池を電源として、前記波形指示部により指示された交流信号を出力させる信号制御部と、
前記交流信号に対する前記蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部と、
前記波形指示部が指示する前記交流信号に応じて決定された参照信号と、前記応答信号入力部から入力した応答信号とを掛け合わせた値に基づいて、前記応答信号のうち、前記交流信号の周波数に応じた周波数成分を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記応答信号の周波数成分に基づいて前記蓄電池の複素インピーダンスを算出する演算部と、
前記信号制御部が前記交流信号を出力させる前に、前記波形指示部が指示する前記交流信号の周波数に応じたノイズ信号の有無を判定する第1ノイズ判定部と、
前記第1ノイズ判定部によりノイズ信号があると判定された場合、前記応答信号が前記応答信号入力部に入力された後に、前記第1ノイズ判定部により判定されたノイズ信号と同じノイズ信号が未だに存在しているか否かを判定する第2ノイズ判定部と、
前記第2ノイズ判定部により同じ前記ノイズ信号が未だ存在していると判定された場合、前記演算部により複素インピーダンスが算出される前に、当該ノイズ信号を除去するノイズ対応部と、を備える。
【0007】
信号制御部は、監視対象とする蓄電池を電源として、所定の交流信号を出力させる。このため、交流信号を蓄電池に入力するための電源が必要なくなり、部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0008】
また、車載の蓄電池には、一般的に保護素子やフィルタ回路などの周辺回路が接続されており、蓄電池に交流信号を入力しても、当該周辺回路に電流の一部が漏れてしまう。このため、蓄電池に交流信号を入力し、その応答信号に基づいて複素インピーダンスを算出する場合、応答信号に誤差が生じ、複素インピーダンスの検出精度が低下するという問題があった。
【0009】
しかしながら、上記構成では、蓄電池を電源として、所定の交流信号を出力させるため、信号制御部と蓄電池とで閉回路を実現できる。よって、蓄電池からの電流の漏れをなくすことができ、誤差を抑制することができる。
【0010】
また、上記構成では、検出部は、応答信号のうち、交流信号の周波数に応じた周波数成分を検出し、演算部は検出された応答信号の周波数成分に基づいて複素インピーダンスを算出する。このため、ホワイトノイズ等、ノイズ信号に強くなり、高精度に複素インピーダンスを算出することができる。特に車載の蓄電池の場合、ノイズ信号が多くなる傾向にあるため、好適に複素インピーダンスを算出することができる。
【0011】
ところで、上述したように交流信号の周波数に応じた応答信号の周波数成分を検出する場合であっても、交流信号と同じ周波数のノイズ信号、特に同じ周波数でかつ位相が揃ったノイズ信号が存在する場合、当該ノイズ信号も検出してしまい、誤差が生じるという可能性がある。特に車両では、インバータ装置など所定の駆動周波数で駆動する装置が種々あり、所定周波数のノイズ信号が出力される可能性が高い。
【0012】
そこで、交流信号を出力させる前に、波形指示部が指示する交流信号の周波数に応じたノイズ信号の有無を判定する第1ノイズ判定部と、当該ノイズ信号を除去するノイズ対応部と、を備えた。これにより、交流信号と同じ周波数のノイズ信号が存在する場合であっても当該ノイズ信号の影響を抑制し、複素インピーダンスの検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】インピーダンス算出処理を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態のインピーダンス算出処理を示すフローチャート。
【
図8】第3実施形態のインピーダンス算出処理を示すフローチャート。
【
図9】第4実施形態のインピーダンス算出処理を示すフローチャート。
【
図10】第5実施形態のインピーダンス算出処理を示すフローチャート。
【
図12】第6実施形態の応答信号検出処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、「電池監視装置」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)の電源システムに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1に示すように、電源システム10は、回転電機としてのモータ20と、モータ20に対して3相電流を流す電力変換器としてのインバータ30と、充放電可能な組電池40と、組電池40の状態を監視する電池監視装置50と、モータ20などを制御するECU60と、を備えている。
【0016】
モータ20は、車載主機であり、図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータ20として、3相の永久磁石同期モータを用いている。
【0017】
インバータ30は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(IGBT等の半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線において通電電流が調整される。
【0018】
インバータ30には、図示しないインバータ制御装置が設けられており、インバータ制御装置は、モータ20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ30における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。これにより、インバータ制御装置は、組電池40からインバータ30を介してモータ20に電力を供給し、モータ20を力行駆動させる。また、インバータ制御装置は、駆動輪からの動力に基づいてモータ20を発電させ、インバータ30を介して、発電電力を変換して組電池40に供給し、組電池40を充電させる。
【0019】
組電池40は、インバータ30を介して、モータ20に電気的に接続されている。組電池40は、例えば百V以上となる端子間電圧を有し、複数の電池モジュール41が直列接続されて構成されている。電池モジュール41は、複数の電池セル42が直列接続されて構成されている。電池セル42として、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。各電池セル42は、電解質と複数の電極とを有する蓄電池である。
【0020】
組電池40の正極側電源端子に接続される正極側電源経路L1には、インバータ30等の電気負荷の正極側端子が接続されている。同様に、組電池40の負極側電源端子に接続される負極側電源経路L2には、インバータ30等の電気負荷の負極側端子が接続されている。なお、正極側電源経路L1及び負極側電源経路L2には、それぞれリレースイッチSMR(システムメインリレースイッチ)が設けられており、リレースイッチSMRにより、通電及び通電遮断が切り替え可能に構成されている。
【0021】
電池監視装置50は、各電池セル42の蓄電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)などを監視する装置である。第1実施形態において電池監視装置50は、電池セル42毎に設けられている。電池監視装置50は、ECU60に接続されており、各電池セル42の状態などを出力する。電池監視装置50の構成については、後述する。
【0022】
ECU60は、各種情報に基づいて、インバータ制御装置に対して力行駆動及び発電の要求を行う。各種情報には、例えば、アクセル及びブレーキの操作情報、車速、組電池40の状態などが含まれる。
【0023】
次に、電池監視装置50について詳しく説明する。
図2に示すように、第1実施形態では、電池セル42毎に電池監視装置50が設けられている。
【0024】
電池監視装置50は、ASIC部50aと、フィルタ部55と、電流モジュレーション回路56と、を備えている。ASIC部50aは、安定化電源供給部51と、ロックインアンプ52と、演算部としてのマイコン部53と、通信部54と、電圧測定部57と、を備えている。
【0025】
安定化電源供給部51は、電池セル42の電源ラインに接続されており、電池セル42から供給された電力をロックインアンプ52、マイコン部53、通信部54、及び電圧測定部57に対して供給している(破線で示す)。ロックインアンプ52、マイコン部53、通信部54、及び電圧測定部57は、この電力に基づいて駆動する。
【0026】
電圧測定部57は、例えば、差動アンプであり、監視対象とする電池セル42に対して接続されている。具体的に説明すると、電圧測定部57は、電池セル42から直流電圧を入力(測定)可能な直流電圧入力端子57a,57bを有する。電池セル42と直流電圧入力端子57a,57bとの間には、フィルタ部55が設けられている。すなわち、正極側の直流電圧入力端子57aと、負極側の直流電圧入力端子57bとの間には、フィルタ回路としてのRCフィルタ55a、及び保護素子としてのツェナーダイオード55bなどが設けられている。つまり、電池セル42に対して、RCフィルタ55aやツェナーダイオード55bなどが並列に接続されている。
【0027】
また、電圧測定部57は、マイコン部53に接続されており、入力した直流電圧をマイコン部53に対して出力するように構成されている。なお、電圧測定部57は、図示しないAD変換器に接続されており、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換してマイコン部53に出力するように構成されている。
【0028】
同様に、ロックインアンプ52は、監視対象とする電池セル42に対して接続されている。ロックインアンプ52は、電池セル42の端子間において、電池セル42の内部複素インピーダンス情報を反映した応答信号(電圧変動)を入力するための応答信号入力端子58を有する。このため、ロックインアンプ52は、応答信号入力部として機能する。
【0029】
また、ロックインアンプ52は、信号制御部としての電流モジュレーション回路56に接続されており、電流モジュレーション回路56に対して、電池セル42から出力させる正弦波信号(交流信号)を指示する指示信号を出力する指示信号出力端子59aを有する。また、ロックインアンプ52は、フィードバック信号入力端子59bを有する。フィードバック信号入力端子59bは、電流モジュレーション回路56を介して、電池セル42から実際に出力される(流れる)電流信号を、フィードバック信号として入力する。
【0030】
また、ロックインアンプ52は、マイコン部53に接続されており、応答信号入力端子58が入力した応答信号や、フィードバック信号入力端子59bが入力したフィードバック信号などをマイコン部53に対して出力するように構成されている。なお、ロックインアンプ52は、内部にAD変換器を有しており、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換してマイコン部53に出力するように構成されている。
【0031】
また、ロックインアンプ52は、マイコン部53から信号を入力可能に構成されており、マイコン部53からの指示に基づいて、指示信号出力端子59aから、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。なお、ロックインアンプ52は、内部にDA変換器を有しており、デジタル信号をアナログ信号に変換して、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。また、電流モジュレーション回路56に指示信号により指示される正弦波信号は、直流バイアスがかけられており、正弦波信号が負の電流(電池セル42に対して逆流)とならないようになっている。
【0032】
電流モジュレーション回路56は、監視対象である電池セル42を電源として、所定の交流信号(正弦波信号)を出力させる回路である。具体的に説明すると、電流モジュレーション回路56は、スイッチ部としての半導体スイッチ素子56a(例えば、MOSFET)と、半導体スイッチ素子56aに直列に接続された抵抗56bとを有する。半導体スイッチ素子56aのドレイン端子は、電池セル42の正極端子に接続され、半導体スイッチ素子56aのソース端子は、抵抗56bの一端に直列に接続されている。また、抵抗56bの他端は、電池セル42の負極端子に接続されている。半導体スイッチ素子56aは、ドレイン端子とソース端子との間において通電量を調整可能に構成されている。また、半導体スイッチ素子56aの動作領域に応じて、半導体スイッチ素子56aにかかる電圧を調整するために、抵抗を電流モジュレーション回路内に直列に挿入する場合もある。
【0033】
なお、電池セル42の正極端子及び負極端子は、それぞれ電極(正極又は負極)に繋がっている。そして、応答信号入力端子58は、正極端子及び負極端子の接続可能な部分のうち、最も電極に近い箇所に接続されることが望ましい。また、直流電圧入力端子57a,57bの接続箇所も同様に、最も電極に近い箇所、又は応答信号入力端子58の接続箇所の次に近い箇所であることが望ましい。これにより、主電流又は均等化電流による電圧低下の影響を最低限にすることができる。
【0034】
また、電流モジュレーション回路56には、抵抗56bの両端に接続された電流検出部としての電流検出アンプ56cが設けられている。電流検出アンプ56cは、抵抗56bに流れる信号(電流信号)を検出し、検出信号をフィードバック信号として、ロックインアンプ52のフィードバック信号入力端子59bに出力するように構成されている。
【0035】
また、電流モジュレーション回路56には、フィードバック回路56dが設けられている。フィードバック回路56dは、ロックインアンプ52の指示信号出力端子59aから、指示信号を入力するとともに、電流検出アンプ56cからフィードバック信号を入力するように構成されている。そして、指示信号とフィードバック信号とを比較し、その結果を半導体スイッチ素子56aのゲート端子に出力するように構成されている。
【0036】
半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、指示信号により指示された正弦波信号(所定の交流信号)を電池セル42から出力させるように、ゲート・ソース間に印加する電圧を調整して、ドレイン・ソース間の電流量を調整する。なお、指示信号により指示される波形と、実際に抵抗56bに流れる波形との間に誤差が生じている場合、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、その誤差が補正されるように、電流量を調整する。これにより、抵抗56bに流れる正弦波信号が安定化する。
【0037】
次に、電池セル42の複素インピーダンスを算出方法について説明する。一般的に、蓄電池の複素インピーダンスを算出する場合、蓄電池に交流信号(電流信号)を流し、その時における蓄電池の電圧変動を入力し、交流信号と電圧変動に基づいて複素インピーダンスを算出している。しかしながら、本実施形態のような車載の電池セル42の場合、通常、保護素子(ツェナーダイオード55b)やフィルタ回路(RCフィルタ55a)などの周辺回路が接続されており、電池セル42に交流信号を入力しても、当該周辺回路に電流の一部が漏れてしまう。このため、正確な電圧変動を入力することができないという問題がある。また、車載の電池セル42の場合、ノイズ信号が多いという問題がある。なお、ノイズ信号としては、ホワイトノイズや、インバータ30の駆動周波数を起因とする所定周波数のノイズ信号が存在する。
【0038】
本実施形態では、これらの問題を解決するため、以下のような方法で、複素インピーダンスを算出している。以下、詳しく説明する。
【0039】
電池監視装置50のマイコン部53は、所定周期ごとに、
図3に示すインピーダンス算出処理を実行する。インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、最初に複素インピーダンスの測定周波数を設定する(ステップS101)。測定周波数は、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。この処理により、マイコン部53が、波形指示部に相当する。
【0040】
次に、マイコン部53は、測定周波数が、所定の周波数範囲内であるか否かを判定する(ステップS102)。所定の周波数範囲とは、周波数が一定であるノイズ信号が発生している可能性が高い範囲(ノイズ範囲)のことである。例えば、インバータ30がノイズ源となるノイズ信号は、インバータ30の駆動周波数と一致する又は近傍の周波数、又は駆動周波数の高調波成分、又はインバータ30の寄生インダクタンス、寄生容量を含むL成分やC成分による共振周波数とその高調波を有する。このため、周波数が一定であるノイズ信号が発生している可能性が高い範囲は、ある程度予測可能である。そこで、インバータ30等のノイズ源の駆動周波数や実験結果に基づいて所定の周波数範囲が定められている。すなわち、ノイズ源から出力されるノイズ信号の周波数に基づいて周波数が一定であるノイズ信号が発生している可能性が高い範囲が所定の周波数範囲として定められて、記憶部としてのマイコン部53に記憶されている。
【0041】
ステップS102の判定結果が否定の場合、マイコン部53は、ロックインアンプ52に対して、測定周波数を通知し、当該測定周波数における応答信号の周波数成分の検出を指示する(ステップS103)。
【0042】
具体的には、ステップS103において、マイコン部53は、測定周波数に基づいて、正弦波信号(所定の交流信号)の周波数を決定する。そして、マイコン部53は、当該正弦波信号の出力を指示する指示信号を出力することにより、ロックインアンプ52に、いわゆる応答信号のロックイン検出を実行させる。ここで、ロックインアンプ52が実施する応答信号検出処理について
図4に基づき、詳しく説明する。
【0043】
ロックインアンプ52は、マイコン部53から指示信号を入力すると、指示信号に基づいて、電池セル42を電源として正弦波信号を出力させる(ステップS201)。具体的には、ロックインアンプ52は、DA変換器により、入力した指示信号により指示された前記正弦波信号をアナログ信号に変換し、電流モジュレーション回路56に出力する。これにより、電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、電池セル42を電源として正弦波信号を出力させる。より詳しくは、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dを介して入力された信号に基づき、指示信号により指示された正弦波信号を電池セル42から出力させるように、電流量を調整する。これにより、電池セル42から正弦波信号が出力される。
【0044】
電池セル42から正弦波信号を出力させると、すなわち、電池セル42に外乱を与えると、電池セル42の端子間に電池セル42の内部複素インピーダンス情報を反映した電圧変動が生じる。ロックインアンプ52は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を応答信号として入力する(ステップS202)。その際、AD変換器により、デジタル信号に変換する。
【0045】
次に、ロックインアンプ52は、出力させる正弦波信号に応じて決定された参照信号と、入力した応答信号とを乗算する。そして、ロックインアンプ52は、乗算して得られた値に基づいて、応答信号のうち、正弦波信号の周波数(測定周波数)における周波数成分(目的とする直流成分)を検出(抽出)するロックイン検出を行う(ステップS203)。具体的には、ローパスフィルタなどを利用して、検出する。なお、参照信号は、指示信号により出力が指示された正弦波信号としたが、実際に抵抗56bに流れた信号(フィードバック信号)であってもよい。
【0046】
そして、ロックインアンプ52は、抽出した応答信号の周波数成分をマイコン部53に出力する(ステップS204)。これにより、応答信号のロックイン検出が終了する。
【0047】
ここで、
図3のインピーダンス算出処理の説明に戻る。
【0048】
ステップS103の処理後、マイコン部53は、ロックインアンプ52から応答信号の周波数成分を入力すると、ステップS104の処理に移行する。ステップS104において、マイコン部53は、入力した応答信号の周波数成分と電池セル42から出力させた電流信号に基づいて、複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、位相のすべて若しくはいずれかを算出する(ステップS104)。ここで電流信号は、フィードバック信号に基づくものであってもよいし、指示信号により出力を指示した正弦波信号に基づくものであってもよい。また、電流信号は、フィードバック信号から測定周波数成分をロックイン検出したものであってもよい。
【0049】
そして、マイコン部53は、通信部54を介して、算出した複素インピーダンスをECU60に出力する(ステップS105)。そして、インピーダンス算出処理を終了する。
【0050】
次に、ステップS102の判定結果が肯定の場合における処理について説明する。つまり、測定周波数が、所定の周波数範囲内であり、一定周波数のノイズ信号が発生している可能性が高い場合における処理について説明する。ステップS102の判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、ノイズ信号(バックグラウンドノイズ)の検出をロックインアンプ52に対して指示する(ステップS106)。
【0051】
ステップS106において、マイコン部53は、ロックインアンプ52に、電池セル42に対して外乱を与えない場合に検出可能なノイズ信号(バックグラウンドノイズ)のロックイン検出を実行させる。ここで、ロックインアンプ52が実施するノイズ信号検出処理について
図5に基づき、詳しく説明する。
【0052】
ロックインアンプ52は、ノイズ信号(バックグラウンドノイズ)の検出が指示されると、そのまま、ロックインアンプ52は、応答信号入力端子58を介して、電池セル42の電圧変動をノイズ信号として入力する(ステップS301)。つまり、電池セル42に外乱を与えていない通常状態における電池セル42の電圧変動を入力する。その際、AD変換器により、デジタル信号に変換して入力する。
【0053】
そして、ロックインアンプ52は、出力させる正弦波信号に応じて決定された参照信号と、入力したノイズ信号とを乗算する。そして、ロックインアンプ52は、乗算により得られた値に基づいて、ノイズ信号のうち、当該正弦波信号の周波数(測定周波数)における周波数成分(直流成分)を抽出するロックイン検出を行う(ステップS302)。
【0054】
なお、ステップS302では、必要に応じてロックイン検出を複数回繰り返し、その平均値を取得してもよい。若しくは、AD変換時に信号を複数回加算及び平準化する処理を入れてもよい。これにより、位相の揃っているノイズ成分のみをバックグラウンドノイズとして検出し、位相の揃っていないノイズ成分はバックグラウンドノイズとして検出しないようにすることができる。
【0055】
そして、ロックインアンプ52は、抽出したノイズ信号の周波数成分をマイコン部53に出力する(ステップS303)。これにより、ノイズ信号のロックイン検出が終了する。
【0056】
ここで、
図3のインピーダンス算出処理の説明に戻る。
【0057】
ステップS106の処理後、マイコン部53は、ロックインアンプ52からノイズ信号の周波数成分を入力すると、ステップS107の処理に移行する。ステップS107において、マイコン部53は、入力したノイズ信号の周波数成分が所定の基準値以上であるか否かを判定する(ステップS107)。この処理により、ノイズ信号の有無を判定することとなる。このため、本実施形態のマイコン部53が、ノイズ判定部に相当する。
【0058】
ステップS107の判定結果が否定の場合、すなわち、ノイズ信号が大きくない場合、マイコン部53は、ステップS103へ移行する。
【0059】
一方、ステップS107の判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、ロックインアンプ52に対して、測定周波数を通知し、当該測定周波数における応答信号(ノイズ信号を含む)の周波数成分の検出を指示する(ステップS108)。これにより、
図4で説明した処理と同様にして、ロックインアンプ52に、当該正弦波信号が電池セル42に流れた場合における電池セル42の電圧変動を、応答信号(ノイズ信号を含む)として入力(取得)させる。その際、応答信号(ノイズ信号を含む)のうち、正弦波信号の周波数(測定周波数)における周波数成分を検出させる。いわゆるロックイン検出を実行させる。なお、ステップS108で入力される応答信号の周波数成分には、ノイズ信号による誤差が含まれることとなる。
【0060】
次に、ステップS108の処理後、マイコン部53は、ロックインアンプ52から応答信号の周波数成分を入力すると、ステップS109の処理に移行する。ステップS109において、マイコン部53は、ステップS106と同様に、ノイズ信号の検出をロックインアンプ52に対して再び指示する(ステップS109)。ノイズ信号のロックイン検出は、ステップS106と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0061】
なお、ステップS106~ステップS109までの処理において、参照信号の位相は、同じとなるように調整する必要がある。参照信号の位相がずれた場合、ロックイン検出が正常に行うことができないためである。その方法としては、例えば、ステップS106において参照信号を出力させた後、他のステップの処理中に参照信号の出力を停止させることなく、出力させ続ければ、一貫してノイズ成分と同一の位相関係を保つことができる。
【0062】
ステップS109の処理後、マイコン部53は、ロックインアンプ52からノイズ信号の周波数成分を入力すると、ステップS110に移行する。ステップS110において、マイコン部53は、ステップS106の処理により入力したノイズ信号の周波数成分と、ステップS109の処理により入力したノイズ信号の周波数成分を比較する。そして、マイコン部53は、ノイズ信号の差(振幅差)が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS110)。つまり、応答信号の周波数成分を取得する前後でノイズ信号に変化があるか否かについて判定する。
【0063】
ステップS110の判定結果が肯定の場合(変化がない場合)、マイコン部53は、ステップS108の処理により入力した応答信号の周波数成分から、ノイズ信号を除去する(ステップS111)。より詳しく説明すると、マイコン部53は、ステップS108の処理により入力した応答信号の周波数成分と、ステップS106(又はステップS109)の処理により入力したノイズ信号の周波数成分とを比較して、ノイズ信号を除去する。具体的には、マイコン部53は、応答信号の周波数成分からノイズ信号の周波数成分を減算することにより、ノイズ信号を除去する。この処理により、マイコン部53が、ノイズ対応部に相当する。
【0064】
そして、マイコン部53は、ステップS104の処理に移行する。すなわち、マイコン部53は、ステップS111で算出された応答信号の周波数成分と電池セル42から出力させた電流信号に基づいて、複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、位相のすべて若しくはいずれかを算出する(ステップS104)。
【0065】
一方、ステップS111の判定結果が否定の場合(変化がある場合)、マイコン部53は、応答信号の測定回数が所定回数以下であるか否かを判定する(ステップS112)。この判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、ステップS106の処理に再び移行する。なお、その際、応答信号の測定回数に1加算する。この測定回数は、インピーダンス算出処理の開始時又は終了時にリセットされる。
【0066】
一方、ステップS112の判定結果が否定の場合、マイコン部53は、通信部54を介して、応答信号を正確に入力することができない旨を知らせる異常信号をECU60に出力する(ステップS113)。そして、インピーダンス算出処理を終了する。
【0067】
このインピーダンス算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0068】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【0069】
第1実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0070】
ロックインアンプ52は、応答信号と参照信号とを乗算した値に基づいて、応答信号のうち、測定周波数に応じた周波数成分を検出する。そして、マイコン部53は、応答信号の周波数成分と、正弦波信号(電流信号)に基づいて、複素インピーダンスを算出する。このように、いわゆるロックイン検出を行うことにより、応答信号から、正弦波信号の測定周波数と同一の周波数成分のみを抽出することができる。このため、ホワイトノイズやピンクノイズに強くなり、高精度に複素インピーダンスを算出することができる。特に車両に採用する場合、ノイズが多くなるため、好適に複素インピーダンスを算出することができる。また、ノイズに強くなるため、電池セル42から出力させる電流(正弦波信号)を小さくすることが可能となる。このため、消費電力や電池セル42や半導体スイッチ素子56aの温度上昇を抑制することができる。
【0071】
ところで、上述したように測定周波数に応じた応答信号の周波数成分を検出する場合であっても、測定周波数と同じ周波数のノイズ信号が存在する場合、当該ノイズ信号も検出してしまい、誤差が生じる可能性がある。特に車両では、インバータ装置など所定の駆動周波数で駆動する装置が種々あり、所定周波数のノイズ信号が出力される可能性が高い。第1実施形態でもインバータ30が所定の駆動周波数で駆動している場合がある。
【0072】
そこで、電池セル42から正弦波信号を出力させる前に、マイコン部53により指示される正弦波信号の周波数(測定周波数)に応じたノイズ信号の有無を判定し、ノイズ信号が存在する場合には、当該ノイズ信号を除去するようにした。
【0073】
具体的には、マイコン部53は、応答信号の周波数成分からノイズ信号の周波数成分を減算し、減算後の応答信号の周波数成分と電池セル42から出力させた電流信号に基づいて、複素インピーダンスを算出するようにしている。これにより、測定周波数と同じ周波数のノイズ信号が存在する場合であっても当該ノイズ信号の影響を抑制し、複素インピーダンスの検出精度を向上させることができる。
【0074】
また、ロックインアンプ52は、正弦波信号を出力させる前に、電池セル42に流れるノイズ信号を入力する。そして、ロックインアンプ52は、当該ノイズ信号と、指示信号により指示される正弦波信号に応じて決定された参照信号とを乗算した値に基づいて、前記ノイズ信号のうち、正弦波信号に応じたノイズ信号の周波数成分を検出する。
【0075】
これにより、複素インピーダンスを算出する場合と同様に、測定周波数に応じたノイズ信号の周波数成分をロックイン検出するため、高精度にノイズ信号の除去を行うことができる。また、ロックインアンプ52を流用して、ノイズ信号を特定するため、構成を簡単にすることができる。
【0076】
車両の場合、インバータ30など所定の駆動周波数で駆動するため、当該駆動周波数に基づいて、特定の周波数帯域でノイズ信号が発生する可能性が高い。そこで、マイコン部53は、ステップS101で設定された測定周波数が所定の周波数範囲内である場合、ノイズ信号が存在する可能性が高いと判定することとした。これにより、簡易的に測定周波数に応じたノイズ信号の有無を判定することができる。
【0077】
また、マイコン部53は、ノイズ信号が存在する可能性が高いと判定された場合、ロックインアンプ52によりロックイン検出されたノイズ信号の周波数成分が基準値以上であるか否かに基づいて、ノイズ信号の有無を判別している。これにより、高精度にノイズ信号を判定することができる。
【0078】
また、電流モジュレーション回路56は、監視対象とする電池セル42を電源として、正弦波信号(所定の交流信号)を出力させている。このため、正弦波信号を電池セル42に入力するための外部電源が必要なくなり、部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0079】
ところで、車載の蓄電池には、一般的に保護素子やフィルタ回路などの周辺回路が接続されており、蓄電池に交流信号を入力しても、当該周辺回路に電流の一部が漏れてしまう。例えば、第1実施形態においても、電池セル42には、RCフィルタ55aやツェナーダイオード55bが接続されており、電池セル42に交流信号を入力しても、電流の一部がそれらの回路に漏れる。このため、電池セル42に交流信号を入力し、その応答信号に基づいて複素インピーダンスを算出する場合、漏れ電流の影響により応答信号に誤差が生じ、複素インピーダンスの検出精度が低下するという問題があった。
【0080】
しかしながら、上記第1実施形態の電池監視装置50では、電池セル42を電源として、正弦波信号を出力させるため、電流モジュレーション回路56と電池セル42とで閉回路を実現できる。よって、電池セル42からの電流の漏れをなくすことができ、応答信号の誤差を抑制することができる。
【0081】
抵抗56bに実際に流れる信号と、電池セル42から出力させるべき正弦波信号との間に誤差が生じる場合がある。この場合、応答信号の誤差要因となる。そこで、フィードバック回路56dを備えて、半導体スイッチ素子56aに対して指示を行う際、フィードバック信号(検出信号)と指示信号との比較に基づいてフィードバックを行うこととした。これにより、指示した正弦波信号を電池セル42から安定して、正確に出力させることができる。
【0082】
また、指示信号により、電流モジュレーション回路56に対して正弦波信号の波形を指示する場合、指示信号をデジタル信号からアナログ信号に変換する。この変換する際に、誤差が生じる。ロックインアンプ52と電流モジュレーション回路56との間に、フィルタ回路等を設けることにより、指示信号の波形を滑らかにして、この誤差を抑制することができるが、フィルタ回路を設けることは大型化やコスト増につながる。
【0083】
また、車載の電池セル42は、一般的に大容量であるため、複素インピーダンスを算出する場合、測定周波数の測定範囲は広くなる傾向にある。したがって、その分フィルタ回路も大型化する可能性がある。そこで、上記フィードバックを行うこととし、信号変換時における指示信号の波形の誤差を抑制した。これにより、ロックインアンプ52と電流モジュレーション回路56との間において、フィルタ回路を省略することができる。ただし、AD変換用のアンチエイリアシングフィルタは必要に応じて用いる。
【0084】
電流モジュレーション回路56は、抵抗56bに流れる信号を検出し、検出信号をフィードバック信号として、ロックインアンプ52に出力するように構成されている。そして、ロックインアンプ52は、フィードバック信号を電流信号として利用可能に構成されている。これにより、抵抗56bに実際に流れる信号と、出力させるべき正弦波信号(マイコン部53により指示された信号)との間に誤差(位相ずれなど)が生じた場合であっても、フィードバック信号、つまり、抵抗56bに実際に流れる信号を利用すれば、複素インピーダンスの算出精度を向上させることができる。
【0085】
また、上記のようにフィードバック信号により補正する場合、ロックインアンプ52と電流モジュレーション回路56との間において、フィルタ回路を省略することができ、電池監視装置50を小型化することができる。ただし、AD変換用のアンチエイリアシングフィルタは必要に応じて用いる。この場合もカットオフ周波数を比較的高く設定することができるので、定数の小さい素子を用いることができ、小型化することができる。
【0086】
応答信号入力端子58は、電池セル42の端子において、接続可能な部分のうち、電極に最も近い部分に接続されている。これにより、電池セル42の端子が有するインピーダンス成分の影響を抑制して、複素インピーダンスの算出精度をより向上させることができる。より詳しく説明すると、
図6に示すように、電池セル42の端子42aは、インピーダンス成分を有する。このため、応答信号入力端子58を接続する場合、
図6(a)よりも
図6(b)に示すように、電極により近い部分に接続することが望ましい。これにより、複素インピーダンスの算出精度をより向上させることができる。なお、
図6(b)に示すように、応答信号入力端子58の接続箇所は、電流モジュレーション回路56の接続箇所よりも電極に近いことが望ましい。
【0087】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電池監視装置50について説明する。第2実施形態では、第1実施形態とはインピーダンス算出処理が異なる。具体的には、
図7に示すように、第2実施形態のインピーダンス算出処理では、ステップS102の処理が省略されている。すなわち、測定周波数がいずれの値でも、ノイズ信号のうち、測定周波数に応じた周波数成分をロックイン検出し、当該周波数成分の大きさにより、ノイズ信号の有無を判定している。なお、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0088】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電池監視装置50について説明する。第3実施形態では、第1実施形態とはインピーダンス算出処理が異なる。具体的には、
図8に示すように、第3実施形態のインピーダンス算出処理では、ノイズ信号の有無を判定していない。すなわち、ステップS102,S103,S107の処理が省略されている。
【0089】
このため、マイコン部53は、ノイズ信号の有無にかかわらず、毎回、ノイズ信号のうち、測定周波数に応じた周波数成分をロックイン検出し、当該ノイズ信号の周波数成分を、応答信号の周波数成分から除去することとなる。なお、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0090】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電池監視装置50について説明する。第4実施形態では、第1実施形態とはインピーダンス算出処理が異なる。
図9に示すように、第4実施形態のインピーダンス算出処理では、ノイズ信号の除去を行うことなく、回避するようにしている。以下、詳しく説明する。なお、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0091】
電池監視装置50のマイコン部53は、所定周期ごとに、
図9に示すインピーダンス算出処理を実行する。
図9のインピーダンス算出処理において、ステップS101~S105までの処理は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0092】
第4実施形態において、ステップS102の判定結果が肯定の場合における処理について説明する。つまり、測定周波数が、所定の周波数範囲内であり、一定周波数のノイズ信号が発生している可能性が高い場合における処理について説明する。
【0093】
ステップS102の判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、測定周波数を変更する(ステップS401)。測定周波数の変更方法は、任意の方法でよく、測定周波数が周波数範囲外となるように、測定周波数を変更すればよい。ステップS401の処理後、マイコン部53は、ステップS102の処理に移行する。これにより、マイコン部53は、簡単な方法で、ノイズ信号を回避することが可能となる。
【0094】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の電池監視装置50について説明する。第5実施形態では、第1実施形態とはインピーダンス算出処理が異なる。具体的には、
図10に示すように、第5実施形態のインピーダンス算出処理では、ノイズ信号の除去を行うことなく、回避するようにしている。以下、詳しく説明する。なお、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0095】
電池監視装置50のマイコン部53は、所定周期ごとに、
図10に示すインピーダンス算出処理を実行する。インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、ステップS101と同様に、複素インピーダンスの測定周波数を設定する(ステップS501)。測定周波数は、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。
【0096】
次に、マイコン部53は、ステップS106と同様にして、ノイズ信号(バックグラウンドノイズ)の検出をロックインアンプ52に対して指示する(ステップS502)。ステップS502において、マイコン部53は、ロックインアンプ52に、電池セル42に対して外乱を与えない場合に検出可能なノイズ信号(バックグラウンドノイズ)のロックイン検出を実行させる。なお、ロックインアンプ52が実施するノイズ信号のロックイン検出については
図5に基づいて前述しているため、詳細な説明は省略する。
【0097】
ステップS502の処理後、ノイズ信号の周波数成分を入力すると、マイコン部53は、入力したノイズ信号の周波数成分が基準値以上であるか否かを判定する(ステップS503)。この判定結果が否定の場合、すなわち、ノイズ信号が大きくない場合、マイコン部53は、ステップS103と同様に、ロックインアンプ52に対して、測定周波数を通知し、当該測定周波数における応答信号の周波数成分の検出を指示する(ステップS504)。なお、ロックインアンプ52が実施する応答信号のロックイン検出について
図4に基づいて前述しているため、詳細な説明は省略する。
【0098】
その後、マイコン部53は、応答信号の周波数成分を入力すると、入力した応答信号の周波数成分と電池セル42から出力させた電流信号に基づいて、複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、位相のすべて若しくはいずれかを算出する(ステップS505)。ここで電流信号は、フィードバック信号に基づくものであってもよいし、指示信号により出力を指示した正弦波信号に基づくものであってもよい。
【0099】
そして、マイコン部53は、通信部54を介して、算出した複素インピーダンスをECU60に出力する(ステップS506)。そして、インピーダンス算出処理を終了する。
【0100】
一方、ステップS503の判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、ノイズ信号のロックイン検出の回数が所定回数以下であるか否かを判定する(ステップS507)。この判定結果が肯定の場合、マイコン部53は、測定周波数を変更する(ステップS508)。第4実施形態のステップS401と同様、測定周波数の変更方法は、任意の方法でよい。ステップS508の処理後、マイコン部53は、ステップS502の処理に移行する。
【0101】
一方、ステップS507の判定結果が否定の場合、マイコン部53は、通信部54を介して、応答信号を正確に入力することができない旨を知らせる異常信号をECU60に出力する(ステップS509)。そして、インピーダンス算出処理を終了する。
【0102】
第5実施形態に示すようなインピーダンス算出処理を実行により、マイコン部53は、簡単な方法で、ノイズ信号を回避することが可能となる。
【0103】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態の電池監視装置50について説明する。第6実施形態の電池監視装置50は、いわゆる2位相ロックイン検出を実施する。以下、詳しく説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0104】
図11に示すように、ロックインアンプ52には、正弦波信号の出力時における電池セル42の電圧変動を、応答信号入力端子58を介して入力する増幅器としてのプリアンプ152が設けられている。プリアンプ152は、応答信号入力端子58を介して入力した電圧変動を増幅し、応答信号として出力する。すなわち、応答信号の振幅は、電池セル42の電圧に比較して微弱な信号であることから、応答信号の検出精度を向上させるため、プリアンプ152が設けられている。なお、第6実施形態では、プリアンプ152は、1段であったが、多段にしてもよい。
【0105】
また、
図11に示すように、電池セル42の正極端子と正極側の応答信号入力端子58(プリアンプ152の正極側端子側)との間には、直流成分をカットするためのコンデンサC1が設けられている。これにより、電池セル42の電圧変動のうち、直流成分(内部複素インピーダンス情報に関係ない部分)を除くことができ、応答信号の検出精度を向上させることができる。
【0106】
また、ロックインアンプ52には、AD変換器154が接続されており、プリアンプ152から出力される応答信号(アナログ信号)が、デジタル信号に変換されて出力されるように構成されている。
【0107】
AD変換器154は、第1乗算器156及び第2乗算器157に接続されており、応答信号をそれぞれ入力するように構成されている。
【0108】
第1乗算器156には、後述する発振回路158が接続されており、第1の参照信号が入力されるようになっている。第1乗算器156は、第1の参照信号と、応答信号を乗算して、測定周波数における応答信号の実部に比例した値を算出し、ローパスフィルタ159を介して、応答信号の実部に比例した値をマイコン部53に出力するようになっている。なお、
図11では、応答信号の実部をRe|Vr|と示す。
【0109】
第2乗算器157には、位相シフト回路160を介して、発振回路158に接続されており、第2の参照信号が入力される。第2の参照信号は、第1の参照信号の位相を90度(π/2)進ませた信号である。位相シフト回路160は、発振回路158から入力した正弦波信号(第1の参照信号)の位相を進ませ、第2の参照信号として出力する。
【0110】
第2乗算器157は、第2の参照信号と、応答信号を乗算して、応答信号の虚部に比例した値を算出し、ローパスフィルタ161を介して、応答信号の虚部に比例した値をマイコン部53に出力するようになっている。なお、
図11では、応答信号の虚部をIm|Vr|と示す。応答信号の実部及び虚部が、測定周波数における応答信号の周波数成分に相当する。
【0111】
発振回路158は、測定周波数に応じて設定された正弦波信号を出力する回路である。発振回路158は、前述したように、第1乗算器156及び位相シフト回路160に対して、正弦波信号を第1の参照信号として出力する。また、発振回路158は、DA変換器162を介して、指示信号出力端子59aに接続されており、正弦波信号を指示信号として出力する。
【0112】
フィードバック信号入力端子59bは、AD変換器163を介して、マイコン部53に接続されている。マイコン部53は、AD変換器163を介して、フィードバック信号入力端子59bからフィードバック信号(検出信号)を入力する。
【0113】
マイコン部53は、応答信号の実部に比例した値及び応答信号の虚部に比例した値を入力し、それらの値に基づいて、複素インピーダンスの実部及び虚部を算出する。その際、マイコン部53は、入力したフィードバック信号を用いて、実際に流れる信号の振幅と、参照信号との位相ずれを加味して、複素インピーダンスの実部及び虚部を算出(補正)する。
【0114】
また、マイコン部53は、複素インピーダンスの絶対値と位相を算出する。詳しく説明すると、2位相ロックイン検出により、応答信号の実部と虚部がわかるため、応答信号の位相をθvとすると、複素平面の極座標表示では|Vr|e^jθvのように示すことができる。同様に、電流は、|I|e^jθiに示すように表すことができる。これから複素インピーダンスの極座標表示を|Z|e^jθzとすると、V=ZIから数式(1)のように表すことができる。また、「j」は、j^2=-1を満たす虚数単位である。
【数1】
【0115】
よって、複素インピーダンスの絶対値は|Z|=|Vr|/|I|、位相はθv-θiから求めることができる。そして、マイコン部53は、通信部54を介して、ECU60に算出結果を出力する。なお、
図11では、複素インピーダンスの絶対値を|Z|と示し、その位相をarg(Z)と示す。
【0116】
次に、第6実施形態におけるロックイン検出について説明する。まず、ステップS103等の処理により、マイコン部53からロックインアンプ52に対して、測定周波数が通知し、当該測定周波数における応答信号の周波数成分の取得が指示された場合における処理について
図12に基づいて説明する。
【0117】
ロックインアンプ52の発振回路158は、マイコン部53から指示された測定周波数に基づいて、正弦波信号(所定の交流信号)の周波数を決定する。そして、発振回路158は、DA変換器162を介して、指示信号出力端子59aから電流モジュレーション回路56に対して、当該正弦波信号の出力を指示する指示信号を出力する(ステップS601)。DA変換器162によりアナログ信号に変換される際、電池セル42の電圧を考慮して、適切なオフセット値(直流バイアス)が設定されて、変換される。オフセット値(直流バイアス)の設定は、例えば、マイコン部53により行われる。オフセット値(直流バイアス)の設定は、電池セル42の直流電圧に基づき、行われることが望ましい。なお、電池セル42の直流電圧は、電圧測定部57により測定すればよい。
【0118】
これにより、電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、電池セル42を電源として正弦波信号を出力させる。つまり、電池セル42から正弦波信号が出力される。
【0119】
電池セル42から正弦波信号を出力させると、電池セル42の端子間に電池セル42の内部複素インピーダンス情報を反映した電圧変動が生じる。ロックインアンプ52のプリアンプ152は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を入力し、応答信号として出力する(ステップS602)。
【0120】
なお、応答信号入力端子58に入力される際、電圧変動の直流成分はコンデンサC1によりカットされ、電圧変動の特徴部分だけ取り出される。また、プリアンプ152は、直流成分がカットされた微弱な電圧変動を増幅させて、応答信号として出力する。その際、AD変換器154は、信号切替部153を介して入力された応答信号を、デジタル信号に変換し、出力する。コンデンサC1によりカットされる直流成分の大きさは、電池セル42の直流電圧に基づき、調整されることが望ましい。同様に、電圧変動をどれだけ増幅させるかは、電池セル42の直流電圧に基づき、調整されることが望ましい。
【0121】
第1乗算器156は、発振回路158から入力した正弦波信号を第1の参照信号とし、AD変換器154から入力した応答信号を乗算して、応答信号の実部に比例した値を算出する(ステップS603)。同様に、第2乗算器157は、位相シフト回路160から入力した第2の参照信号と、応答信号を乗算して、応答信号の虚部に比例した値を算出する。
【0122】
ロックインアンプ52は、これらの値を、ローパスフィルタ159及びローパスフィルタ161を介して、マイコン部53に出力する(ステップS604)。ローパスフィルタ159及びローパスフィルタ161を通過する際、直流成分(DC成分)以外の信号は減衰し、除去される。
【0123】
なお、ノイズ信号をロックイン検出する場合は、ステップS601の処理が省略されることとなる。つまり、電流モジュレーション回路56に対して、正弦波信号の出力を指示する指示信号を出力しないで、ノイズ信号のロックイン検出が行われることとなる。
【0124】
第6実施形態の電池監視装置50では、以下の効果を有する。
【0125】
ロックインアンプ52は、入力した応答信号と第1の参照信号とを乗算した値に基づいて、応答信号の実部に比例した値を検出する。また、ロックインアンプ52は、正弦波信号の位相をシフトさせた信号を第2の参照信号とし、応答信号と第2の参照信号とを乗算した値に基づいて、応答信号の虚部に比例した値を検出する。そして、マイコン部53は、これらの値に基づいて、複素インピーダンスを算出する。このように、いわゆる2位相ロックイン検出を行うことにより、応答信号から、測定周波数と同一の周波成分のみを抽出することができる。このため、ホワイトノイズやピンクノイズに強くなり、高精度に複素インピーダンスを算出することができる。また、2位相ロックイン検出を行うことにより、参照信号と応答信号との位相調整が不要となる。
【0126】
(他の実施形態)
・上記実施形態では、電池セル42毎に電池監視装置50を設けたが、複数の電池セル42ごと(例えば、電池モジュール41ごと、組電池40ごと)に、電池監視装置50を設けてもよい。その際、電池監視装置50の機能の一部を共通化してもよい。
【0127】
例えば、
図13に示すように、安定化電源供給部301、通信部54及びマイコン部53を共通化してもよい。この場合、負電極の電位が電池セル42ごとに異なる場合がある。このため、各電池セル42の情報を伝達する際に利用される各電気信号の基準電位が異なる場合がある。そこで、基準電位の差を考慮してマイコン部53へ各電気信号を入力する機能を設けて、演算する必要がある。異なる基準電位間の信号伝達手段としては、コンデンサやトランス、電波、光を用いる方法がある。
【0128】
・上記実施形態において、各電池セル42の蓄電状態や電圧を均等化する均等化処理を電池監視装置50に実施させてもよい。均等化処理とは、各電池セル42の蓄電状態を揃えるように、他の電池セル42に比較して蓄電状態が高い一部の電池セル42を放電させる処理である。これにより、各電池セル42の蓄電状態を揃え、電池セル42のうち一部が過充電となることを抑制することができる。そして、電池監視装置50が、均等化処理を実施する場合、電流モジュレーション回路56を利用して、電池セル42を放電させてもよい。この場合、電池監視装置50が放電制御部として機能する。
【0129】
具体的に説明すると、上記実施形態において、マイコン部53は、各電池セル42の蓄電状態に基づいてECU60等から放電指示を受けた場合、若しくは、電池セル42の蓄電状態又は電圧が所定値以上となった場合、電流モジュレーション回路56に指示信号を出力し、電池セル42から正弦波信号や矩形波といった周期関数若しくは直流信号を出力させる。そして、マイコン部53は、放電指示が終了するまで、若しくは電池セル42の蓄電状態又は電圧が所定値よりも小さくなるまで、信号の出力を継続させる。これにより、均等化処理を実施する。
【0130】
そして、均等化処理のために、電池セル42から放電させる際、正弦波信号を出力させて、複素インピーダンスを算出してもよい。これにより、消費電力を抑制することができる。なお、均等化処理のために出力させる電流は、電力消費を抑制するため、及び装置の小型化のため、一般的には微弱な電流とされている。このため、上記実施形態のように微弱な電流でもロックイン検出により、複素インピーダンスを精度よく算出することができる電池監視装置50において均等化処理を実施させることが好ましい。
【0131】
・上記実施形態において、フィルタ部55は、素子のみにより構成されていなくてもよい。例えば、配線、コネクタ接触部、プリント基板のパターン配線やベタパターン間により、又はこれらの構成と素子とが混在する構成であってもよい。
【0132】
・上記実施形態において、電流モジュレーション回路56と、ロックインアンプ52との間に、フィルタ回路を設けてもよい。これにより、指示信号をアナログ信号に変換する際の誤差を抑制することができる。
【0133】
・上記実施形態において、フィードバック回路56dがなくてもよい。また、電流検出アンプ56cにより抵抗56bに流れる電流を検出しなくてもよい。また、マイコン部53は、フィードバック信号を入力しなくてもよい。
【0134】
・上記実施形態において、電圧測定部57を設けて、直流電圧を検出したが、検出しなくてもよい。
【0135】
・上記実施形態の電池監視装置50を、車両として、HEV,EV,PHV,補機電池、電動飛行機、電動バイク、電動船舶に採用してもよい。
【0136】
・上記実施形態において、電池セル42は、並列に接続されていてもよい。
【0137】
・上記実施形態において、電池モジュール41単位で、状態を監視してもよい。このとき、電池モジュール41ごとに通信部54を設ける場合、各通信部54からECU60への通信は電位基準の異なる絶縁通信となることがある。例えば、絶縁トランスやコンデンサを用いて絶縁通信を行う場合がある。
【0138】
・上記実施形態において、フィードバック信号をロックイン検出してもよい。フィードバック信号をロックイン検出(又は2位相ロックイン検出)により測定することにより、ノイズが存在する環境下にあっても、電池セル42から実際に出力される電流信号の振幅と位相を精度よく測定することができる。フィードバック信号を複素インピーダンス算出時の補正に利用すれば、複素インピーダンスの算出精度を向上させることができる。
【0139】
なお、フィードバック信号などの電流信号に対してもロックイン検出を行うことによって、電流信号の測定周波数成分を求めて複素インピーダンスの算出時に用いる場合には、
図3と同様の処理を電流信号の検出時においても行い、ノイズ成分を除去する必要がある。電流信号の検出に関する処理を行うタイミングとしては、例えば、応答信号の測定前又は測定後、若しくは応答信号の測定前後が考えられる。なお、応答信号の測定前後に行った場合に、応答信号の測定前後でノイズ成分の差が、予め決められた基準値よりも大きい場合、再度測定プロセスを行う。なお、規定回数繰り返したにもかかわらず、測定前後のノイズ成分の差が基準値以下とならない場合には、異常信号をECU60に出力して、インピーダンス算出処理を終了する。
【0140】
・上記実施形態において、電池セル42から出力させる電流信号は、正弦波信号に限らない。例えば、交流信号であれば、矩形波や三角波等の信号であっても構わない。
【0141】
・上記実施形態において、ECU60は、複数のECUにより構成されていてもよい。例えば、機能ごとに複数のECUを設けてもよく、また、制御対象ごとに複数のECUを設けてもよい。例えば、電池用ECUと、インバータ制御用ECUとに分けてもよい。
【0142】
・上記実施形態において、電池セル42(電池モジュール41、組電池40)は、指示に基づいて正弦波信号を出力している際に(応答信号の出力時)、周辺回路の電源として用いられてもよい。逆に、電池セル42(電池モジュール41、組電池40)は、指示に基づいて正弦波信号を出力している際に(応答信号の出力時)、周辺回路の電源として用いられないように構成してもよい。
【0143】
・上記第4実施形態のステップS401、及び上記第5実施形態のステップS508において、測定周波数の変更方法は、次のようにしてもよい。すなわち、前回取得した複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)に基づいて、複素インピーダンスの変化量が所定値よりも少ないと予測される周波数のうち、現在の測定周波数から最も近い周波数を特定し、当該周波数を測定周波数に変更してもよい。変化量が少ないか否かは、微分量により特定可能である。また、その際、前回取得したときにおける電池状態(電池セル42の温度、SOC等)と、現在における電池状態とを比較し、今回の複素インピーダンス平面プロットを予測し、当該予測した複素インピーダンス平面プロットに基づいて周波数を予測してもよい。
【0144】
・上記実施形態において、ノイズ源としては、インバータ30等の車両に搭載されたノイズ源のみならず、急速充電器等、車両に一時的に接続されるノイズ源も含まれていてもよい。
【0145】
・上記実施形態において、複素インピーダンスの測定周波数を設定するために用いられる測定範囲(ステップS101等参照)は、車両に搭載されたノイズ源(インバータ30等)、又は車両に一時的に接続されるノイズ源(例えば、急速充電器等)から出力されるノイズ信号の周波数に基づいて、当該ノイズ信号の周波数を避けて設定されていてもよい。測定範囲の設定方法としては、例えば、ノイズ発生が予測される周波数のマップを事前に取得し、その周波数を避けるように設定すればよい。このようにすれば、ノイズ判定やノイズ除去を行う必要がなくなる。
【0146】
また、この別例として、1又は複数の固定周波数を予め定めておき、予め決められた固定周波数の中から測定周波数を選択して設定してもよい。固定周波数の決定方法は、例えば、上記測定範囲内の周波数から決定すればよい。また、例えば、ノイズ発生が予測される周波数のマップを事前に取得し、その周波数を避けるように固定周波数を決定すればよい。さらに、固定周波数の選択と、測定範囲内から周波数を設定する手法の両方を備えてもよい。
【符号の説明】
【0147】
42…電池セル、50…電池監視装置、52…ロックインアンプ、53…マイコン部、56…電流モジュレーション回路。