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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び電子時計
(51)【国際特許分類】
   G04R 60/08 20130101AFI20240910BHJP
   G04G 21/04 20130101ALI20240910BHJP
   G04C 9/00 20060101ALI20240910BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240910BHJP
   H01Q 1/44 20060101ALI20240910BHJP
   H01Q 5/385 20150101ALI20240910BHJP
【FI】
G04R60/08
G04G21/04
G04C9/00 301A
H01Q13/08
H01Q1/44
H01Q5/385
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023177276
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2022049880の分割
【原出願日】2022-03-25
(65)【公開番号】P2023178372
(43)【公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴司
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0069300(US,A1)
【文献】特開2010-219652(JP,A)
【文献】特開2020-57931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0239847(US,A1)
【文献】特表2018-526880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04R 20/00 - 60/14
G04C 1/00 - 99/00
G04G 3/00 - 99/00
H01Q 1/00 - 1/52
H01Q 5/00 - 5/55
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子の中心位置よりも遠い側に位置して当該アンテナ素子と電気的につながっている導電性部材と、
を備え、
前記導電性部材は、前記中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域の少なくとも一方に位置して、前記第1領域と前記第2領域とで前記アンテナ素子及び前記導電性部材による前記中心位置からの距離方向の広がり幅を異ならせている
アンテナ装置。
【請求項2】
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子と電気的につながっておらず、少なくとも一部が前記第1平面に垂直な高さ方向について前記アンテナ素子と前記導電板の間に位置する導電性部材と、
を備え、
前記導電性部材は、受信対象の互いに異なる第1の周波数及び第2の周波数にそれぞれ対応して、前記アンテナ素子の中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域の少なくとも一方に位置し、前記アンテナ素子と前記導電板との間の電気容量に係る特性を前記第1領域と前記第2領域とで異ならせている
アンテナ装置。
【請求項3】
前記導電性部材は、平面視で少なくとも一部が前記アンテナ素子と重なっている請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記導電性部材は複数個が並んでいる請求項2又は3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記導電性部材は、前記アンテナ素子及び前記導電板に対して平行である請求項2~4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記導電性部材は、前記アンテナ素子及び前記導電板の少なくとも一方に対して傾斜している請求項2~5のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記導電性部材は、基板の両面に位置して互いに電気的につながっている導体面である請求項2~のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記第1領域において、前記導電性部材は前記アンテナ素子の前記中心位置から遠い側に位置しており、
前記第2領域において、前記導電性部材は存在しておらず、
前記中心位置から前記導電性部材までの距離は、前記中心位置から前記アンテナ素子までの距離よりも長い請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第1領域及び前記第2領域において、前記導電性部材は前記アンテナ素子の前記中心位置から遠い側に位置しており、
前記第1領域における前記中心位置から前記導電性部材までの距離は、前記第2領域における前記中心位置から前記導電性部材までの距離よりも長い請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記第1領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第1の全幅方向と前記第2領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第2の全幅方向とは直交している請求項1~のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記アンテナ素子を用いた電波の送受信のうち少なくとも一方を行う動作部を内部に収容する筐体を備え、
前記導電板は当該筐体の裏蓋である
請求項1~10のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
請求項11に記載のアンテナ装置と、
前記筐体内に位置する表示部及び制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記表示部に時刻を表示させる
電子時計。
【請求項13】
請求項2~7のいずれか一項に記載のアンテナ装置と、
前記導電性部材に含まれる部材であって、外部からの操作を受け付ける操作受付部材と、を備える電子時計。
【請求項14】
前記第1領域は12時方向と6時方向を含み、前記第2領域は3時方向と9時方向を含む請求項12又は13記載の電子時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナ装置及び電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を受信する小型の電子機器において、電子機器の小型化や軽量化のために各部品の間隔が詰まると、アンテナの受信感度などに影響を及ぼすことが知られている。特許文献1には、平面視で略円状の電子時計において、パッチアンテナが位置する角度範囲を太陽電池に係る導電性部材や指針の駆動に係るモータとは異なる角度範囲として完全に分離させることで、パッチアンテナの電波受信に他の構成が及ぼす影響を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-168336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器では、複数の周波数の電波を受信するものも増えている。複数の周波数の受信帯域を単一の励振周波数のアンテナではカバーしきれない程度に当該複数の周波数が離隔している場合に、単純に複数のアンテナを両者の受信感度が両立するように配置しようとすると、これらのアンテナが場所を取って小型化や軽量化の妨げになるという課題がある。
【0005】
この発明の目的は、小型で複数の周波数の電波を適切に受信することのできるアンテナ装置及び電子時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一の態様は、
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子の中心位置よりも遠い側に位置して当該アンテナ素子と電気的につながっている導電性部材と、
を備え、
前記導電性部材は、前記中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域の少なくとも一方に位置して、前記第1領域と前記第2領域とで前記アンテナ素子及び前記導電性部材による前記中心位置からの距離方向の広がり幅を異ならせている
アンテナ装置である。
また、本発明の他の一の態様は、
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子と電気的につながっておらず、少なくとも一部が前記第1平面に垂直な高さ方向について前記アンテナ素子と前記導電板の間に位置する導電性部材と、
を備え、
前記導電性部材は、受信対象の互いに異なる第1の周波数及び第2の周波数にそれぞれ
対応して、前記アンテナ素子の中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域の少なくとも一方に位置し、前記アンテナ素子と前記導電板との間の電気容量に係る特性を前記第1領域と前記第2領域とで異ならせている
アンテナ装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従うと、小型のアンテナ装置で複数の周波数の電波を適切に受信することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電子時計の平面図及び底面図である。
図2】アンテナ構成の第1例を説明する図である。
図3】アンテナ構成の第2例を説明する図である。
図4】アンテナ構成の第3例を説明する図である。
図5】アンテナ構成の第4例を説明する図である。
図6】アンテナ構成の第5例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のアンテナ装置を有する電子時計1の平面図及び底面図である。
【0010】
図1(a)の平面図に示すように、電子時計1は、筐体2と、表示画面5と、押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1などの外部からの操作を受け付ける操作受付部材と、を有する。表示画面5には、指針51が回動可能に位置しており、指針51の指す向きに応じた内容が表示される。電子時計1の表示画面5による表示内容には、時刻(日付や曜日などを含む日時であってもよい)表示が含まれる。
【0011】
筐体2は、上下面が開放された筒状の形状を有し、内部に上記表示画面5の他、ベゼル11を用いて受信した電波を用いて測位演算を行う衛星電波受信処理部(動作部)、表示画面5への表示内容を制御する制御部、表示画面5による表示に係る駆動部(駆動部と表示画面5をまとめて表示部)やバッテリなどを収容する。表示画面5の上面(筐体2の上端)は、図示略の透明な風防部材で覆われている。押しボタンスイッチB1~B3及びりゅうずC1は、筐体2の側面の開口を貫通して先端付近が外部へ露出している。筐体2の12時方向及び6時方向は、ベルトの取付部2aが表示画面5から外側へ延びている。ここでは、筐体2は、絶縁性の部材(絶縁材;樹脂やセラミックなど)である。
【0012】
表示画面5の上方において風防部材の周囲は、ベゼル11により囲まれている。このベゼル11は、指針51により指示される標識を有していてもよい。また、ベゼル11は、装飾用途として用いられるほか、後述のアンテナ素子としても機能する。
【0013】
図1(b)の底面図に示すように、筐体2の下端は、裏蓋3(導電板)により封止されている。裏蓋3は、導電性部材(例えば、各種のステンレスやチタンなどの金属部材が挙げられる)であり、筐体接地面であるとともに、装着されるユーザの腕と接触することで接地される。
【0014】
次に、本実施形態のアンテナ構成について説明する。
本実施形態の電子時計1では、単一のアンテナを用いて複数の周波数の電波を受信する。例えば、電子時計1は、測位衛星からの電波として、GPS(Global Positioning System)に係るL1帯の電波(1.57542GHz;第2の周波数)と、L5帯の電波(1.17645GHz;第1の周波数)を受信する。これらの周波数、すなわち波長は30%近く異なる。また、電子時計1(腕時計)では、デザインや実使用上の制約から、アンテナの受信波長に合わせて電子時計1全体のサイズを変更する(大きくする)ことは困難である。
【0015】
電子時計1では、環状のベゼル11を直交する2方向のエリアに区分する。すなわち、90度ごとの4ブロック(ここでは、12時、3時、6時、9時の各方向をそれぞれ中心とする)のうち対角の2ブロックをそれぞれ同一エリアとする。そして、各エリアの中央を結ぶ線に沿った方向の電気長をそれぞれ2つの受信周波数の波長に対応させる(例えば、λ/8)とすることで、複数の波長の電波を受信可能とする。なお、GPSの測位衛星(GPS衛星)からの送信電波は右旋円偏波であるが、上記の受信では各々直線偏波としての受信となる。各エリアの方向と電子時計1(ベゼル11)の中心位置から給電端子との接続点(給電点)への方向は異なっている必要がある。
【0016】
図2は、アンテナ構成の第1例を説明する図である。以降の図では、筐体2の輪郭形状を簡略化して示す。また、電波受信に必要のない構成については適宜図示及び説明を省略する。
図2(a)に示すように、上方から見た(平面視した)アンテナ素子は、筐体2の上側に裏蓋3を含む面(第2平面)と平行な面(第1平面)内に位置する環状のベゼル11である。なお、アンテナ素子は、ベゼル以外の専用の導体部材であってもよい。ベゼル11の1時半方向には、当該ベゼル11と給電端子12とが接続する給電点が位置している。1時半の方向は、後述の第1の直径方向と第2の直径方向の平均方向(始点と終点を区別しない直径方向(全幅方向)の平均方向は、平面内で2本あるが、どちらが選択されてもよい)である。ベゼル11と平行に位置して接地面(筐体接地)をなす裏蓋3などとの組み合わせによりマイクロストリップアンテナとして動作する。
【0017】
ベゼル11は、平面視で(以下、平面視との記載には、上方から見た場合に実際には見えない場合(透視した状態。平面透視)の場合を含む)給電端子12とベゼル11の中心位置Oとを通る直線(基準線)と、これに直交して中心位置Oを通る直線と(これら2本の直線は1点鎖線で示されている)により90度ごとに4ブロックに区分けすることができ(物理的に区分されているわけではない)、各ブロックの中央は、それぞれ12時、3時、6時、9時の方向(点線で示している)である。
【0018】
これらのうち、3時方向(1時半から4時半の90度(ある角度範囲))及びこれと対称な9時方向(7時半から10時半の90度)の2ブロックを含むエリア(第2領域)では、ベゼル11の直径に応じた波長の電波が第2の周波数として受信される。この第2の周波数は、2つの受信対象周波数のうち高周波数側、すなわち、ここではL1帯の電波である。
【0019】
また、12時方向(10時半から1時半の90度(ある角度範囲))及びこれと対称な6時方向(4時半から7時半の90度)の2ブロックを含むエリア(第1領域)では、ベゼル11の外側(中心位置Oから遠い側)に、金属部材13a、13bがそれぞれ接して、電気的につながっている。金属部材13a、13bは、ベゼル11に対してはんだなどで接着固定されてもよいし、接着されずに外側から他の部材により押圧固定されるのであってもよい。また、これらの第1領域では、平面視でベゼル11と重なる位置の下方側に金属部材14a、14bが当該ベゼル11と離隔して位置している。
【0020】
ベゼル11の周囲に位置する金属部材13a、13b、14a、14bは、当該ベゼル11による受信対象の電波の周波数(受信周波数)を調整するための調整部材である。金属部材13a、13b、14a、14bは、例えば、ステンレスであり、後述のように基板上の接地膜などの場合には銅、銀などであってもよく、外面に露出するものについては、チタンなどであってもよい。また、これらは単一種類でなくてもよく、複数種類の材質が混在していてもよい。また、金属部材13a、13b、14a、14bの一部又は全部は、裏蓋3と同一の材質であってもよいし異なる材質であってもよい。
ベゼル11に接する金属部材13a、13bにより、電波受信面の中心位置Oからの距離方向への幅(広がり幅)が大きくなるので、12時方向、ベゼル11の中心位置O及び6時方向を含んでベゼル11を横切る第1の直径方向(第1の全幅方向)、すなわち第1領域の電波受信については、3時方向、中心位置O及び9時方向を含んでベゼル11を横切る第2の直径方向(第2の全幅方向)、すなわち第2領域の電波受信と比較して、受信電波の波長が長くなり、すなわち、励振周波数が低下する。金属部材13a、13bは、ベルトの取付部2a上にま伸びていてもよい。しかしながら、上記のように、金属部材13a、13bを顕著に大きくすることは難しい。
【0021】
図2(b)の断面図(図2(a)の断面線AAに沿って関係のある構成のみを示す)に示すように、金属部材14a、14bは、ある厚さdcを有し、ベゼル11と裏蓋3の間に位置することで、接地面をなす裏蓋3とベゼル11との間の距離(d1+dc+d2)を当該金属部材14a、14bの厚さdcの分だけ減少させることで、この距離に依存する裏蓋3とベゼル11との間の電気容量を増大させる。また、金属部材14a、14bが筐体接地されて(裏蓋3と同一電位で)あれば、距離は実質的に金属部材14a、14bとベゼル11との間の距離d1だけとなるので、より電気容量を増大させることができる。これにより、見かけ上ベゼル11上での電気長が延長されるので、同サイズでもより波長の長い低周波数の電波が励振されることになる。高周波数(ここで受信するGHz帯を含む)の電波受信(送信)時には、ベゼル11の全体としての静的な電気容量よりも、偏波方向ごとの電気容量に係る上記のような特性の影響が大きくなるので、適切にこれらの金属部材14a、14b、13a、13bが並ぶことで、各断面に沿った向きで励振される電波の周波数がそれぞれ適宜に調整されて、2つの受信周波数のうち低周波数側、すなわち、ここではL5帯の電波が受信可能とされる。
【0022】
図3は、アンテナ構成の第2例を説明する図である。
金属部材は、12時、6時方向にそれぞれ1つずつ位置するものではなくてもよい。図3(a)に示すように、例えば、筐体2内に位置する回路基板14cが12時、6時方向にそれぞれベゼル11と裏蓋3との間にまで延在していてもよい。図3(b)に示すように、回路基板14cの当該延在部分は、両面に導体面(金属部材)を有し、互いに電気的に接続されることで、上記金属部材14a、14bと同等の機能を有する。導体面は、回路基板14cの通常の接地面であってもよい。電気的な接続は、特には限られないが、スルービアが用いられればよい。なお、必要に応じて回路基板14cとベゼル11との間に更に金属部材14a、14bが位置していてもよい。
【0023】
図4は、アンテナ構成の第3例を説明する図である。
図4(a)に示すように、金属部材14d、14eは、それぞれ複数(例えば、2つ)ずつの部分に分かれて(互いに離隔して)いる。筐体2の内部には、他の多数の構成も収容されるので、これらとの位置関係に応じて可能な一部の範囲に各々分割されて金属部材14d、14eが位置していてもよい。この場合の複数の金属部材14d、14eの形状は互いに異なっていてもよい。
【0024】
また、これらの金属部材14d、14eなどは、中空であったり枠状であったりしてもよい。図4(b)に示すように、例えば、金属部材14d、14eは、貫通孔Hを垂直に貫く方向がベゼル11を含む第1平面に平行な枠状である。枠の上下辺は電気的につながっており、ベゼル11及び裏蓋3にそれぞれ対向する面には開口を有さない、すなわち対向面積が小さくならないので、上辺とベゼル11との距離と、下辺と裏蓋3との距離の和により、体積に比して大きな電気容量が得られる。
【0025】
図5は、アンテナ構成の第4例を説明する図である。
ベゼル11と裏蓋3との間に位置する金属部材には、押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1のような従来から存在するものが含まれていてよい。ここでは、給電端子12は4時半の方向に位置しており、この給電端子12の位置に対応する基準線からそれぞれ反時計回りに90度の範囲(第1領域)にそれぞれ押しボタンスイッチB1~B3、りゅうずC1及び金属部材14f、14gが位置している。押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1は、静電気対策としてばねなどを用いて筐体接地されている場合があるが、受信中に当該押しボタンスイッチB1~B3の押下やりゅうずC1の回転などにより筐体接地の有無が変化して励振周波数や受信利得が変化しないように、接地状態を安定的に維持できる機構としたり、あるいは反対に通常では筐体接地させない構造としたりしてもよい。
【0026】
押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1の位置は、ユーザの利便性に基づいて定まるので、大きくずらすのは困難であるが、受信対象の周波数に応じて軸の太さを変更(太く)するなどの微調整は可能である。また、上記の例のように押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1の位置を考慮して給電点の位置を定めてもよい。
【0027】
なお、上記では、基準線に対して平面視で時計回り方向に90度の範囲で高周波数側(第2の周波数)の電波を受信し、平面視で反時計回りに90度の範囲で低周波数側(第1の周波数)の電波を受信する(通常の右旋円偏波の受信と同一の位置関係である)こととして説明しているが、上記のように、本実施形態の電子時計1では、受信対象の電波が円偏波であっても直線偏波として電波を受信しているので、給電端子12の位置(角度方向)に対して低周波数側の受信エリアと高周波数側の受信エリアがどちらにあるかは必ずしも関係ない。すなわち、上記実施形態の説明における基準線に対する第1領域及び第2領域の位置関係とは反対であってもよい。基準線から±45度程度の方向で高周波数側の電波と低周波数側の電波が適切に受信可能になっていればよい。また、基準線から±45度の位置を選択的に検出するわけではないので、基準線から±90度程度の範囲で全体として、高周波数側の第2の周波数の電波と低周波数側の第1の周波数の電波の利得が得られるように調整されていればよい。
【0028】
また、実際に所望の励振周波数に関して最も高い利得が得られる向きなどは、筐体2の内部に位置する多数の部品(配線基板の配線や接地面、ケーブル、ねじ、ビス、コイルばね、板ばね、電子部品、基板などを固定する支持枠(フレーム)など)にも影響を受ける。したがって、理論的に金属部材のサイズや位置を定めるのは難しいので、必要に応じて数値解析(シミュレーション)を利用しながら試験や実験の結果に基づいてこれらの最適なサイズや位置などを定めてもよい。
【0029】
図6は、アンテナ構成の第5例を説明する図である。
図6(a)、(b)に示すように、金属部材は、必ずしも上記のように平面視でベゼル11と重なる位置になくてもよい。ここでは、回路基板14hの外縁が12時、6時方向で、平面視でベゼル11の内縁と略同一に位置しており、平面視で重複はしていない。このように平面視で接する程度(又は部分的に重なる程度)の位置関係であっても(大きく離れると意味がなくなるが)、回路基板14hの導体は、容量の増大に寄与し得る。ベゼル11が筐体2上に位置している場合などに、当該筐体2の内部に(内壁面に沿って)位置する回路基板14hの形状及び接地面の範囲に異方性を持たせることで、励振周波数を複数に分散させ、当該複数の周波数の電波の受信を可能とさせることができる。
【0030】
以上のように、本実施形態のアンテナ装置を含む電子時計1は、ある第1平面内に位置する環状のベゼル11と、ベゼル11とは平行な第2平面に位置する接地用(筐体接地でもよい)の裏蓋3と、ベゼル11の中心位置Oよりも遠い側に位置して当該ベゼル11と電気的につながっている金属部材13a、13bなどと、ベゼル11と給電点で接続する給電端子12と、を備える。給電点は、中心位置Oに対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域(例えば、12時方向、6時方向)と、中心位置Oに対して対称かつ第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域(例えば、3時方向、9時方向)の近傍範囲内に位置し、金属部材13a、13bなどは、第1領域と第2領域の少なくとも一方に位置して、第1領域と第2領域とでベゼル11及び金属部材13a、13bによる中心位置Oからの距離方向の広がり幅を異ならせている。
このように、単一のアンテナ素子であるベゼル11自体は単一の受信周波数に対応した形状のまま、ベゼル11の周囲に適切に金属部材を位置させて、部分的に直線偏波の受信に係る励振周波数が低下することで、向きによって受信対象の2つの周波数の周辺周波数で励振可能とする。これにより、元のサイズのベゼル11に応じた励振周波数での電波受信に加えて、これよりも低い周波数の電波を容易に併せて受信可能とすることができる。また、ベゼル11を複雑な形状で作るよりも金属部材13a、13bの形状や位置を柔軟に定めることができる。
【0031】
また、他の実施形態のアンテナ装置を含む電子時計1は、上記ベゼル11、裏蓋3及び給電端子12に加えて、ベゼル11と電気的につながっておらず、第1平面に垂直な高さ方向についての位置範囲がベゼル11と裏蓋3との間であって、ベゼル11及び裏蓋3にそれぞれ面している導電性部材である金属部材14a、14bなどを備える。金属部材14a、14bは、受信対象の互いに異なる第1の周波数及び第2の周波数にそれぞれ対応して、第1領域と第2領域の少なくとも一方に位置し、ベゼル11と裏蓋3との間の電気容量に係る特性を第1領域と第2領域とで異ならせている。ここでいう「面する」には、面する面同士が平行に対向している場合に限られず、一方の面に対して他方の面が傾斜している場合を含む。このようにマイクロストリップアンテナのベゼル11と接地面との間に厚みのある導体を挟むことでアンテナ素子と接地面との間の実質上の距離を縮め、電気容量を増大させることができるので、一部の方向限定で励振周波数を低下させて、元の励振周波数と両周波数を一つのアンテナ素子及び一つの給電端子で効率よく受信することが可能になる。
【0032】
また、金属部材14a、14bは、平面視(実際に見えないものを透視した場合を含む)で少なくとも一部がベゼル11と重なっている。これにより、より効果的にベゼル11と裏蓋3との間の電気容量を増大させることができる。
【0033】
また、金属部材14d、14eのように金属部材が複数個並んでいてもよい。電子時計1のサイズに比して多くの部品が筐体2内に位置するので、大きく一様なサイズの金属部材14a、14bなどを挿入する空間がない場合などでも、より小さい金属部材14d、14eを適宜複数入る範囲に組み合わせて挿入することで、無理なく効果的に本来のベゼル11の励振周波数より低い励振周波数の電波も受信が可能になる。
【0034】
また、導電性部材(金属部材)は、回路基板14cのように、基板の両面に位置して電気的につながっている導体面(接地面)であってもよい。可能な範囲で回路基板の形状を多少変更するだけで、所望の位置に容易に導体面を固定することができる。
【0035】
また、第1の直径方向(12時6時方向)と第2の直径方向(3時9時方向)とが直交していることで、ベゼル11(アンテナ素子)による複数の周波数の電波の受信部分を大きく分離できるので、金属部材13a、13bや金属部材14a、14bを容易かつ適切に配置しやすい。
【0036】
また、給電点は、第1の直径方向と第2の直径方向の平均方向(基準線上の1時半方向)に位置している。このように両方向から均等に離隔した位置に給電端子12が接続しているので、複数の波長の電波の利得をバランスよく向上させることができる。
【0037】
また、電子時計1は、ベゼル11を用いた電波の送受信のうち少なくとも一方(ここでは受信)を行う動作部としての衛星電波受信処理部を内部に収容する筐体2を備え、導電板は当該筐体2の裏蓋3であってもよい。専用の接地面を用意するのが難しい場合でもこのように蓋を接地面として流用することで、省スペースで電波受信が可能になる。特に、腕時計状の電子時計1では、裏蓋3は人体に触れやすいので、適切に接地されやすい。
【0038】
また、本実施形態の電子時計1は、上記アンテナ装置と、筐体2の内部に位置する表示部及び制御部と、を備え、制御部が表示部に時刻を表示させる。
電子時計1(特に腕時計)において上記のようにアンテナ素子をベゼル11が1つのまま複数の周波数の電波を受信することが可能になるので、省スペースでより効率的な受信(通信)電波の利用が可能になる。
【0039】
また、導電性部材(金属部材)には、外部からの操作を受け付ける操作受付部材である押しボタンスイッチB1~B3やりゅうずC1などを含んでもよい。もともと存在する金属部品を適切に併用することで、サイズの増大を抑制しながら複数の周波数の電波を受信(送信)することが可能になる。
【0040】
また、第1領域は12時方向と6時方向を含み、第2領域は3時方向と9時方向を含む。電子時計1では、12時6時方向にベルトが取り付けられる分だけ筐体2などの本体を多少大きく(長く)しやすいので、この方向に金属部材13a、13bなどが位置することで、電子時計1のデザインへの影響を小さく抑えることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、低い側の周波数を受信するエリアにのみ選択的に金属部材があるものとして説明したが、第1例の図2など示したように、高い側の周波数を受信するエリアにも操作受付部材などの金属部材が存在してもよい。この場合には、ベゼル11(アンテナ素子)の直径を全体として更に小さくすることができるが、低い側の周波数の電波を受信するエリアでは、より多くの金属部材により大きく励振周波数を低下させる必要がある。
【0042】
また、ベゼル11である環状のアンテナは、円環状であるものとして説明したが、筐体2の形状などに応じて角を有する形状(矩形、多角形又はこれらの角を丸めたものなど)や平面視楕円形状であってもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、第1の直径方向(12時6時方向)と第2の直径方向(3時9時方向)とが直交し、その平均方向(1時半方向)に給電点があるものとして説明したが、2つの電波は独立なものであるので、必ずしも直交した方向で各々励振しなくてもよく、それぞれ給電点に係る基準線との角度が得られ、かつ両者の間での角度も得られるのであれば、直交する方向から多少(例えば、10度以下など)のずれがあってもよい。また、給電点の位置も、基準線と第1の直径方向及び第2の直径方向とのなす角が小さくならない範囲で、第1の直径方向と第2の直径方向の平均(中間)方向(第1領域と第2領域の境界)から多少、例えば、5度以下、状況によっては15度以下などの範囲(所定の近傍範囲)でずれていてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態の第3例では、中空又は枠状の金属部材14d、14eを示したが、ベゼル11及び裏蓋3との対向面積が適切に得られ、両対向面間が電気的につながっていれば、他の構造(枠の貫通孔の向きが傾いていても(上下方向であっても)もよい。また、両対向面は、平面視で同一位置ではなくてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、ベゼル11と裏蓋3の間には金属部材しかないものとして説明したが、これに限るものではない。例えば、筐体2の内壁面に凹凸を有し、凹部に金属部材がはめ込まれる構造である場合、金属部材とベゼル11及び裏蓋3との間には、それぞれ絶縁材の筐体2が挿入されていることになる。あるいは、金属部材とベゼル11及び裏蓋3との間に他の絶縁材の部品が位置していてもよい。
【0046】
また、上記実施の形態では、筐体2内でベゼル11と離隔している金属部材として、専用のもの、基板上の接地面及び操作受付部材を挙げたが、その他の金属部品であるねじ、ばねやフレームなどを意図的に上記位置関係となるように配置してもよい。
【0047】
また、金属部材13a、13bと金属部材14a、14bなどとのうち、いずれか一方のみで2種類の受信周波数に対応する励振周波数が得られるのであれば、当該いずれか一方のみを有する電子時計1であってもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、導電板の例として裏蓋3を挙げて説明したが、これに限られない。例えば、衛星電波受信処理部、制御部や駆動部が搭載されている回路基板の接地面が導電板とされ、金属部材は、接地状態又はフローティング状態でベゼル11とこの回路基板との間に位置していてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、測位衛星からの電波受信を例に挙げて説明したが、その他の電波の受信や送信に用いられるアンテナであってもよい。
【0050】
また、表示画面5は、指針を用いた表示画面ではなく、液晶ディスプレイなどを用いたデジタル表示画面であってもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、腕時計状の電子時計1を例に挙げて説明したが、これに限られない。他の時刻表示機能を有しない又は時刻表示が主たる機能ではない他の電子機器、特にアクティビティ計などのウェアラブル端末であってもよい。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
【0053】
[付記]
<請求項1>
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子の中心位置よりも遠い側に位置して当該アンテナ素子と電気的につながっている導電性部材と、
前記アンテナ素子と給電点で接続する給電端子と、
を備え、
前記給電点は、前記中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域との境界から所定の近傍範囲内に位置し、
前記導電性部材は、前記第1領域と前記第2領域の少なくとも一方に位置して、前記第1領域と前記第2領域とで前記アンテナ素子及び前記導電性部材による前記中心位置からの距離方向の広がり幅を異ならせている
アンテナ装置。
<請求項2>
ある第1平面内に位置する環状のアンテナ素子と、
前記アンテナ素子とは平行な第2平面に位置する接地用の導電板と、
前記アンテナ素子と電気的につながっておらず、前記第1平面に垂直な高さ方向についての位置範囲が前記アンテナ素子と前記導電板の間であって、当該アンテナ素子及び前記導電板にそれぞれ面している導電性部材と、
前記アンテナ素子と給電点で接続する給電端子と、
を備え、
前記給電点は、前記アンテナ素子の中心位置に対して対称なある角度範囲をそれぞれ含む第1領域と、前記中心位置に対して対称かつ前記第1領域とは異なるある角度範囲をそれぞれ含む第2領域との境界から所定の近傍範囲内に位置し、
前記導電性部材は、受信対象の互いに異なる第1の周波数及び第2の周波数にそれぞれ対応して、前記第1領域と前記第2領域の少なくとも一方に位置し、前記アンテナ素子と前記導電板との間の電気容量に係る特性を前記第1領域と前記第2領域とで異ならせている
アンテナ装置。
<請求項3>
前記導電性部材は、平面視で少なくとも一部が前記アンテナ素子と重なっている請求項2記載のアンテナ装置。
<請求項4>
前記導電性部材は複数個が並んでいる請求項2又は3記載のアンテナ装置。
<請求項5>
前記導電性部材は、基板の両面に位置して互いに電気的につながっている導体面である請求項2~4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
<請求項6>
前記第1領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第1の全幅方向と前記第2領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第2の全幅方向とは直交している請求項1~5のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
<請求項7>
前記給電点は、前記第1領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第1の全幅方向と前記第2領域の前記ある角度範囲の中心同士を結ぶ第2の全幅方向との平均方向に位置している請求項1~6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
<請求項8>
前記アンテナ素子を用いた電波の送受信のうち少なくとも一方を行う動作部を内部に収容する筐体を備え、
前記導電板は当該筐体の裏蓋である
請求項1~7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
<請求項9>
請求項8に記載のアンテナ装置と、
前記筐体内に位置する表示部及び制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記表示部に時刻を表示させる
電子時計。
<請求項10>
前記導電性部材は、外部からの操作を受け付ける操作受付部材を含む請求項9記載の電子時計。
<請求項11>
前記第1領域は12時方向と6時方向を含み、前記第2領域は3時方向と9時方向を含む請求項9又は10記載の電子時計。
【符号の説明】
【0054】
1 電子時計
2 筐体
2a 取付部
3 裏蓋
5 表示画面
11 ベゼル
12 給電端子
13a、13b 金属部材
14a、14b、14d、14e、14f、14g金属部材
14c、14h 回路基板
51 指針
B1~B3 押しボタンスイッチ
C1 りゅうず
H 貫通孔
O 中心位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6