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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/029 20120101AFI20240910BHJP
【FI】
B60W50/029
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023195157
(22)【出願日】2023-11-16
(62)【分割の表示】P 2022168068の分割
【原出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2024009100
(43)【公開日】2024-01-19
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩司
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-096618(JP,A)
【文献】特開2012-096619(JP,A)
【文献】特開2006-051922(JP,A)
【文献】特開2005-178626(JP,A)
【文献】特開2005-186762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された制御システムであって、
複数の運転支援アプリケーションから複数の要求を受け付け、前記複数の要求を調停する要求調停部と、
前記要求調停部による調停結果に基づいて、アクチュエータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記アクチュエータが特定の故障状態でない場合、前記複数の運転支援アプリケーションに対して前記要求調停部を介して前記アクチュエータの状態情報を出力し、
前記アクチュエータが前記特定の故障状態である場合、前記要求調停部を介さずに、前記複数の運転支援アプリケーションに対して前記アクチュエータの状態情報を出力する、制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記アクチュエータが故障しており、かつ前記特定の故障状態でない場合、前記複数の運転支援アプリケーションに対して前記要求調停部を介して前記アクチュエータの状態情報を出力する、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記アクチュエータが故障していない場合、前記複数の運転支援アプリケーションに対して前記要求調停部を介して前記アクチュエータの状態情報を出力する、請求項1に記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フロントステア、リアステア及びブレーキのそれぞれに設けられたアクチュエータを駆動することにより、車両の横方向の運動を制御する車両横方向運動制御システムが記載されている。特許文献1に記載のシステムでは、各アクチュエータの制御可能範囲を表すアベイラビリティを取得し、取得したアベイラビリティを用いて、各アクチュエータをフィードフォワード制御するためのF/F要求値と、各アクチュエータをフィードバック制御するためのF/B要求値とを算出し、算出したF/F要求値及びF/B要求値に基づいて、制御対象となる機構と当該機構に最終的に発生させる制御量とを決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-96619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両に実装される運転支援機能の増加に伴って、複数のアプリケーションからの要求に対してアクチュエータが実行する処理が複雑化している。そこで、複数のアプリケーションと複数のアクチュエータとの間で信号の送受信を中継すると共に、複数のアプリケーションからの要求を調停する調停機能部を車両に設け、各アクチュエータの状態を、調停機能部を介して各アプリケーションにフィードバックするシステム構成が考えられる。
【0005】
しかしながら、このシステム構成では、調停機能部が故障した場合には、各アクチュエータの状態をアプリケーションにフィードバックできないという問題がある。
【0006】
それ故に、本発明は、運転支援アプリケーションに対してアクチュエータの状態情報を出力する制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御システムは、複数の運転支援アプリケーションから複数の要求を受け付け、複数の要求を調停する要求調停部と、要求調停部による調停結果に基づいて、アクチュエータを制御する制御部とを備え、制御部は、アクチュエータが特定の故障状態でない場合、複数の運転支援アプリケーションに対して要求調停部を介してアクチュエータの状態情報を出力し、アクチュエータが特定の故障状態である場合、要求調停部を介さずに、複数の運転支援アプリケーションに対してアクチュエータの状態情報を出力するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転支援アプリケーションに対してアクチュエータの状態情報を出力する制御システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る車両制御装置の機能ブロック図
図2図1に示した要求調停部の機能ブロック図
図3図1に示した制御部の機能ブロック図
図4図1に示した制御部が実行する制御処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(概要)
本発明に係る車両制御装置は、運転支援機能を実現する複数のアプリケーション実行部と、アクチュエータを制御する制御部との間に、複数のアプリケーション実行部からの要求を調停する要求調停部を備える。アクチュエータを制御する制御部は、要求調停部の正常動作時には、アクチュエータの状態を示す情報を、要求調停部を通じてアプリケーション実行部にフィードバックし、要求調停部の異常時には、アクチュエータの状態を示す情報を直接アプリケーション実行部にフィードバックする。したがって、要求調停部の動作状態にかかわらず、運転支援機能を実現するアプリケーション実行部に対して、アクチュエータの状態を確実にフィードバックすることができる。
【0011】
(実施形態)
<構成>
図1は、実施形態に係る車両制御装置の機能ブロック図である。図1において、実線の矢印は、アプリケーション実行部5からアクチュエータ4までの要求信号の伝達経路を表し、破線の矢印は、アクチュエータ4からアプリケーション実行部5までの信号のフィードバック経路を表す。
【0012】
車両制御装置10は、複数のアプリケーション実行部5からの要求に基づいて、車両に備わるアクチュエータ4を制御する装置である。アプリケーション実行部5は、自動運転や自動駐車、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシスト、衝突軽減ブレーキ等の車両の運転支援機能を実現するアプリケーションを実行する装置であり、典型的には、ECUによって実現される。利用される運転支援機能に応じて、複数のアプリケーション実行部5が同時にアプリケーションを実行する場合がある。尚、図1においては、説明を簡略化するため、3つのアプリケーション実行部5を示しているが、運転支援機能を実現するアプリケーション実行部の数は限定されず、2以下または4以上のアプリケーション実行部が車両に実装される場合もある。アプリケーション実行部5は、アクチュエータ4を動作させるための要求信号を、後述する要求調停部1に出力する。アクチュエータ4は、パワートレイン(ドライブトレインと呼ばれる場合もある)やブレーキ装置、ス
テアリング装置等を動作させる駆動機構であり、後述する制御部3によって制御される。
【0013】
車両制御装置10は、要求調停部1と、要求生成部2と、制御部3とを備える。
【0014】
要求調停部1は、複数のアプリケーション実行部5から出力された要求信号を受け付け、所定の選択基準に基づいて、受け付けた複数の要求信号の中から1つの要求信号を選択することにより、複数のアプリケーション実行部5からの要求を調停する。
【0015】
要求生成部2は、要求調停部1による調停結果、すなわち、要求調停部1によって選択された要求信号に基づいて、アクチュエータ4に対する駆動要求を生成し、生成した駆動要求を制御部3に出力する。
【0016】
制御部3は、アクチュエータ4を制御するECUである。図1の例では、1つの制御部3が1つまたは2つのアクチュエータ4を制御しているが、制御部3が制御するアクチュエータの数は3以上であっても良い。
【0017】
要求調停部1、要求生成部2、制御部3、アクチュエータ4及びアプリケーション実行部5は、通信ネットワークを介して通信可能に接続されており、図1に示すように、アクチュエータ4からアプリケーション実行部5への信号のフィードバック経路として、要求調停部1を経由してアプリケーション実行部5に信号を伝達する第1のフィードバック経路と、要求調停部1を経由せずに直接アプリケーション実行部5に信号を伝達する第2のフィードバック経路とが設けられている。この2種類のフィードバック経路の詳細は後述する。要求調停部1を介してアクチュエータ4及びアプリケーション実行部5を接続する通信ネットワークと、ダイレクトにアクチュエータ4及びアプリケーション実行部5を接続する通信ネットワークとは同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0018】
尚、図1の例では、車両制御装置10が3つの要求生成部2と3つの制御部3とを備える例を説明したが、要求生成部2及び制御部3の数はこれに限定されない。
【0019】
以下、図2及び図3を参照しながら、要求調停部1及び制御部3の詳細な構成を説明する。
【0020】
図2は、図1に示した要求調停部の機能ブロック図である。
【0021】
要求調停部1は、調停処理部11と、状態情報受信部12と、状態情報出力部13とを備える。
【0022】
調停処理部11は、複数のアプリケーション実行部5からの要求信号を受信し、調停処理、すなわち、受信した複数の要求信号から1つの要求信号を選択する処理を実行する。
【0023】
状態情報受信部12は、アクチュエータ4の状態を表す状態情報を制御部3から受信する。状態情報は、アクチュエータ4が正常であるか、または、故障しているかを表す情報であり、アクチュエータ4を制御する制御部3によって取得または生成される。アクチュエータ4が故障している場合は、状態情報は、アクチュエータ4の故障モード、すなわち、アクチュエータ4がどのような故障状態にあるかを表す情報を含む。状態情報にアクチュエータ4の故障モードが含まれていれば、状態情報を受信したアプリケーション実行部5が、故障状態にあるアクチュエータ4に対して指示できる駆動要求と指示できない駆動要求とを切り分けることができる。
【0024】
状態情報出力部13は、状態情報受信部12によって受信された状態情報をアプリケー
ション実行部5に対して出力することにより、アクチュエータ4の状態のフィードバックを行う。
【0025】
図3は、図1に示した制御部の機能ブロック図である。
【0026】
制御部3のそれぞれは、検出部19と、状態取得部20と、第1の送信部21と、第2の送信部22とを備える。
【0027】
検出部19は、要求調停部1が異常であるか否かを検出する。検出部19による要求調停部1の異常の判定方法は特に限定されず、例えば、要求調停部1が異常であることを表す情報を要求調停部1から受信したことに基づいて異常を判定しても良いし、要求調停部1からの要求信号や応答信号が所定時間検出できないことに基づいて異常を判定しても良いし、要求生成部2から受信した駆動要求が正常でないことに基づいて異常を判定しても良い。
【0028】
状態取得部20は、アクチュエータ4の状態を検出し、アクチュエータ4の状態を表す状態情報を生成する。例えば、状態取得部20は、アクチュエータ4に対して出力した駆動信号に応答してアクチュエータ4から出力される応答信号や、アクチュエータ4またはその近傍に設けられたセンサ類の出力等に基づいて、アクチュエータ4の状態が正常であるか否かを判定し、アクチュエータ4が故障していると判定した場合は、どのような故障状態であるか(故障モード)を特定する。状態取得部20は、アクチュエータ4の状態の判定結果と特定した故障モードを含む状態情報を生成する。
【0029】
第1の送信部21は、状態取得部20によって生成された状態情報を要求調停部1に送信する。第1の送信部21によって要求調停部1に送信された状態情報は、要求調停部1の状態情報出力部からアプリケーション実行部5に出力される。第1の送信部21から要求調停部1を経由してアプリケーション実行部5に状態情報を送信する経路が上述した第1のフィードバック経路に相当する。
【0030】
第2の送信部22は、検出部19によって要求調停部1が異常であると判定された場合、または、アクチュエータ4が特定の故障状態にあると判定された場合に、状態取得部20によって生成された状態情報を、要求調停部1を介さずに、アプリケーション実行部5に送信する。ここで、アクチュエータ4の特定の故障状態とは、車両を速やかに安全な状態に遷移させることが必要とされる程度の故障が生じている状態をいう。第2の送信部22から要求調停部1を経由せずに、アプリケーション実行部5に状態情報を送信する経路が上述した第2のフィードバック経路に相当する。
【0031】
<制御処理>
図4は、図1に示した制御部が実行する制御処理を示すフローチャートである。図4の制御処理は、車両の始動スイッチがオンされたことを契機に開始され、車両の動作がオフされるまで繰り返し実行される。
【0032】
ステップS1:検出部19が、要求調停部1が異常であるか否かを判定する。ステップS1の判定がYESの場合、処理はステップS4に進み、それ以外の場合、処理はステップS2に進む。
【0033】
ステップS2:状態取得部20が、アクチュエータ4が故障しているか否かを判定する。ステップS2の判定がYESの場合、処理はステップS3に進み、それ以外の場合、処理はステップS5に進む。
【0034】
ステップS3:状態取得部20は、アクチュエータ4が特定の故障状態であるか否かを判定する。ステップS3の判定がYESの場合、処理はステップS4に進み、それ以外の場合、処理はステップS5に進む。
【0035】
ステップS4:第2の送信部22が、アクチュエータ4の状態情報をアプリケーション実行部5に直接送信する。その後、処理はステップS1に進む。
【0036】
ステップS5:第1の送信部21が、アクチュエータ4の状態情報を要求調停部1に送信する。その後、処理はステップS1に進む。尚、要求調停部1において、状態情報受信部12が第1の送信部21から送信された状態情報を受信すると、状態情報出力部13が受信した状態情報をアプリケーション実行部5に出力する。
【0037】
<効果等>
本実施形態に係る車両制御装置10には、運転支援機能を実現するために各アクチュエータ4を動作させる複数のアプリケーション実行部5と、アクチュエータ4の制御部3との間に、要求調停部1が設けられている。要求調停部1は、アプリケーション実行部5と制御部3との間の信号の送受信を中継し、複数のアプリケーション実行部5からの要求を調停する機能を有する。要求調停部1を設けることにより、運転支援機能を実現するアプリケーション実行部5の数が増えた場合でも、アクチュエータ4に対する制御干渉を防止し、アプリケーション実行部5とアクチュエータ4との間の信号経路が複雑化することを抑制することができる。
【0038】
ただし、アプリケーション実行部5とアクチュエータ4との間の全ての信号の送受信を要求調停部1を経由して行う構成において、要求調停部1に故障等の異常が発生した場合、アクチュエータ4の状態情報をアプリケーション実行部5にフィードバックすることができず、制御性が悪化する可能性がある。また、車両を安全な状態に遷移させることが必要とされる程度の故障がアクチュエータ4に発生した場合、速やかに車両を安全な状態に制御できるように、アクチュエータ4の状態情報を遅延なくアプリケーション実行部5に伝達できることが好ましい。これらの技術的課題を解決するために、アクチュエータ4の状態情報を常時アプリケーション実行部5に直接送信することも考えられるが、この場合、車両に搭載された多数のアクチュエータ4からの信号により通信インフラストラクチャへの負荷の増大を招くという問題が生じる。
【0039】
本実施形態に係る車両制御装置10においては、通常時は、第1の送信部21から要求調停部1を介してアプリケーション実行部5にアクチュエータ4の状態情報を送信する。ただし、要求調停部1が異常であると判定された場合、または、アクチュエータ4が特定の故障状態にあると判定された場合には、第2の送信部22が、要求調停部1を介さずに、アクチュエータ4からアプリケーション実行部5へと直接状態情報を送信する。このように構成することにより、要求調停部1に異常が発生した場合においても、アクチュエータ4の状態情報をアプリケーション実行部5に確実にフィードバックすることができる。また、アクチュエータ4が、速やかに安全な状態に遷移させる必要がある程度の特定の故障状態となった場合、要求調停部1を介さず、アクチュエータ4の状態情報を直接アプリケーション実行部5に送信することにより、信号伝達の遅延を回避することができる。また、アクチュエータ4からアプリケーション実行部5に対して状態情報を直接フィードバックするのは、特定の条件下に限られるため、通信インフラストラクチャへの負荷の増大を最小限に留めることができる。
【0040】
(その他の変形例)
尚、上記の実施形態においては、アクチュエータ4が特定の故障状態にあることが検出された場合に、第2の送信部22がアプリケーション実行部5に状態情報を直接フィード
バックしているが、要求調停部1が異常でない場合には、通常時と同様に、第1の送信部21が要求調停部1を経由してアプリケーション実行部5に状態情報をフィードバックしても良い。ただし、上記の実施形態のように、アクチュエータ4が特定の故障状態にあることが検出された場合にも、第2の送信部22がアプリケーション実行部5に状態情報を直接フィードバックした方が、状態情報の伝達の遅延をより抑制できるので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、運転支援機能が実装された車両を制御するための車両制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 要求調停部
2 要求生成部
3 制御部
4 アクチュエータ
5 アプリケーション実行部
10 車両制御装置
11 調停処理部
12 状態情報受信部
13 状態情報出力部
19 検出部
20 状態取得部
21 第1の送信部
22 第2の送信部
図1
図2
図3
図4