(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240910BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2023502659
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2021024231
(87)【国際公開番号】W WO2022269929
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】多和田 義大
(72)【発明者】
【氏名】勝倉 朋也
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一誠
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158456(JP,A)
【文献】特開2007-116790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0241503(US,A1)
【文献】特開2011-101548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置の制御装置であって、
インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、
前記変換値算出部が求めた前記変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、
前記インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得し、前記電圧値から故障検出に用いられる判定値を求める判定値算出部と、
を備え、
前記故障検出部は、前記変換値算出部が求めた前記変換値と、前記判定値算出部が求めた前記判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出
し、
前記判定値は、前記判定値算出部が、前記インバータ回路の出力電圧の電圧値と前記交流コンデンサの定格コンダクタンスの値とを用いて求めた、コンデンサ電圧に対して90度位相がずれた軸の電流成分の値である第2のq軸電流値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
電力変換装置の制御装置であって、
インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、
前記変換値算出部が求めた前記変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、
を備え、
前記交流側の出力回路は、三相交流回路であり、
前記変換値は、前記変換値算出部が、前記三相交流回路の各相における前記コンデンサ回路における単数又は複数の前記交流コンデンサに流れる各相の各電流の前記電流値をdq変換して求めた、コンデンサ電圧に対して90度位相がずれた軸の電流成分の値である第1のq軸電流値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
電力変換装置の制御装置であって、
インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、
前記変換値算出部が求めた前記変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、
前記インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得し、前記電圧値から故障検出に用いられる判定値を求める判定値算出部と、
を備え、
前記故障検出部は、前記変換値算出部が求めた前記変換値と、前記判定値算出部が求めた前記判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出し、
前記故障検出部は、前記変換値と前記判定値とを大小比較し、前記変換値が前記判定値よりも小さいときは、前記交流コンデンサの故障を検出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求
項2に記載の制御装置において、
前記判定値は、所定の異常検出レベルを乗算した値に基づく誤差を許容する値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求
項2に記載の制御装置において、
前記故障検出部は、前記変換値と前記判定値とを大小比較し、前記変換値が前記判定値よりも小さいときは、前記交流コンデンサの故障を検出する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項6】
請求
項2に記載の制御装置において、
前記故障検出部が前記交流コンデンサの故障を検出したときは、所定の上位装置に向けて故障情報を発報する故障情報発報部をさらに備える
ことを特徴とする制御装置。
【請求項7】
請求
項2に記載の制御装置において、
前記故障検出部が前記交流コンデンサの故障を検出したときは、前記電力変換装置の停止又は前記交流側の出力回路における交流スイッチの開放の少なくともいずれか一方の動作を行うように動作指示を与える動作制御部をさらに備える
ことを特徴とする制御装置。
【請求項8】
直流電源を交流電源に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の交流側の三相交流回路において、前記三相交流回路の各相におけるコンデンサ回路に接続された交流コンデンサと、
前記各相の前記交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得する電流センサと、
前記インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得する電圧センサと、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置と、
を備え、
前記変換値算出部は、前記電流センサで取得した前記電流値を取得して前記変換値を求め、
判定値算出部は、前記電圧センサで取得した前記電圧値を取得して前記判定値を求める
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記電流センサは、前記三相交流回路から分岐したコンデンサ回路に設けられる
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記電流センサは、前記三相交流回路において、前記三相交流回路からコンデンサ回路に分岐する分岐点の前後に設けられる
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項8に記載の電力変換装置において、
前記交流コンデンサは、スター結線又はデルタ結線されたパッケージが複数並列接続されている
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンデンサ容量を稼ぐため、コンデンサを複数並列接続する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、直流-三相交流変換を行う電力変換装置においても、コンデンサ容量を稼ぐため、三相交流回路の各相のフィルタ回路(コンデンサ回路)に、交流コンデンサを複数並列接続することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電力変換装置において、複数並列接続されている交流コンデンサの一部がオープン故障した場合、電圧波形はひずむものの、従来は、運転中には故障として検出できなかったため、電力変換装置は、運転を継続していた。また、複数並列接続されている交流コンデンサの全てがオープン故障した場合、一部がオープン故障した場合よりも電圧波形はひずむが、従来は、このような場合でも、運転中には故障として検出できないことがあり、電力変換装置の運転を継続することがあった。
【0005】
しかし、交流コンデンサの一部がオープン故障した場合、運転中に故障が検出できないと、正常な交流コンデンサに電圧印加が集中するため、正常な交流コンデンサにまで故障が拡大する恐れがあった。また、故障が拡大し、交流コンデンサの全てがオープン故障した場合にも、運転中に故障が検出できないと、系統側に大きな高調波を流出させてしまう恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、電力変換装置の運転中に交流コンデンサがオープン故障した場合において、交流コンデンサの故障を早期に発見し、正常な交流コンデンサへの故障拡大や系統側への高調波の流出を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る制御装置は、電力変換装置の制御装置であって、インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、変換値算出部が求めた変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、前記インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得し、前記電圧値から故障検出に用いられる判定値を求める判定値算出部と、を備え、前記故障検出部は、前記変換値算出部が求めた前記変換値と、前記判定値算出部が求めた前記判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出し、判定値は、判定値算出部が、インバータ回路の出力電圧の電圧値と交流コンデンサの定格コンダクタンスの値とを用いて求めた、コンデンサ電圧に対して90度位相がずれた軸の電流成分の値である第2のq軸電流値であることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様に係る制御装置は、電力変換装置の制御装置であって、インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、前記電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、前記変換値算出部が求めた前記変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して前記交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、を備え、前記交流側の出力回路は、三相交流回路であり、前記変換値は、前記変換値算出部が、前記三相交流回路の各相における前記コンデンサ回路における単数又は複数の前記交流コンデンサに流れる各相の各電流の前記電流値をdq変換して求めた、コンデンサ電圧に対して90度位相がずれた軸の電流成分の値である第1のq軸電流値であることを特徴とする。
【0010】
また、一態様に係る制御装置は、電力変換装置の制御装置であって、インバータ回路の交流側の出力回路におけるコンデンサ回路に接続される交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得し、電流値を変換して所定の変換値を求める変換値算出部と、変換値算出部が求めた変換値と、故障検出に用いられる所定の判定値とを比較して交流コンデンサの故障を検出する故障検出部と、インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得し、電圧値から故障検出に用いられる判定値を求める判定値算出部と、を備え、故障検出部は、変換値算出部が求めた変換値と、判定値算出部が求めた判定値と、を比較して交流コンデンサの故障を検出し、故障検出部は、変換値と判定値とを大小比較し、変換値が判定値よりも小さいときは、交流コンデンサの故障を検出することを特徴とする。
【0011】
また、一態様に係る制御装置において、判定値は、所定の異常検出レベルを乗算した値に基づく誤差を許容する値であってもよい。
【0012】
また、一態様に係る制御装置において、故障検出部は、変換値と判定値とを大小比較し、変換値が判定値よりも小さいときは、交流コンデンサの故障を検出してもよい。
【0013】
また、一態様に係る制御装置において、故障検出部が交流コンデンサの故障を検出したときは、所定の上位装置に向けて故障情報を発報する故障情報発報部をさらに備えてもよい。
【0014】
また、一態様に係る制御装置において、故障検出部が交流コンデンサの故障を検出したときは、電力変換装置の停止又は交流側の出力回路における交流スイッチの開放の少なくともいずれか一方の動作を行うように動作指示を与える動作制御部をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る電力変換装置は、直流電源を交流電源に変換するインバータ回路と、インバータ回路の交流側の三相交流回路において、三相交流回路の各相におけるコンデンサ回路に接続された交流コンデンサと、各相の交流コンデンサに流れる電流の電流値を取得する電流センサと、インバータ回路の出力電圧の電圧値を取得する電圧センサと、上記の制御装置と、を備え、変換値算出部は、電流センサで取得した電流値を取得して変換値を求め、判定値算出部は、電圧センサで取得した電圧値を取得して判定値を求めることを特徴とする。
【0016】
なお、一態様に係る電力変換装置において、電流センサは、三相交流回路から分岐したコンデンサ回路に設けられてもよい。
【0017】
また、一態様に係る電力変換装置において、電流センサは、三相交流回路において、三相交流回路からコンデンサ回路に分岐する分岐点の前後に設けられてもよい。
【0018】
また、一態様に係る電力変換装置において、交流コンデンサは、スター結線又はデルタ結線されたパッケージが複数並列接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電力変換装置の運転中に交流コンデンサがオープン故障した場合において、交流コンデンサの故障を早期に発見し、正常な交流コンデンサへの故障拡大や系統側への高調波の流出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の一実施形態を示す図である。
【
図2】
図1に示す電力変換装置において、交流コンデンサの別の接続方法の一例を示す図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す電力変換装置の内部構成の一例を示す図である。
【
図4】
図3に示すインバータ制御部の構成例を示す図である。
【
図5】
図1から
図4に示す制御装置の故障検出動作の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示す故障検出ロジックを説明する図である。
【
図7】
図1から
図6に示す実施形態に係る電力変換装置の動作例を示す図である。
【
図8】
図1から
図7に示す実施形態に係る電力変換装置の別の動作例を示す図である。
【
図9】比較例に係る電力変換装置の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
<一実施形態>
図1は、制御装置、電力変換装置、及び交流コンデンサの故障検出方法の一実施形態を示す図である。
【0024】
図1において、電力変換装置1は、
図1中左側の直流端で直流電源2と接続され、
図1中右側の交流端で交流電力系統3(以下、「系統3」とも称する。)と接続されている。
【0025】
電力変換装置1は、直流電源2から直流母線を介して供給された直流電源を交流電源に変換し、変換した交流電源を系統3に出力する。なお、電力変換装置1は、電力変換器、インバータユニット、パワーコンディショナー、パワーコンディショニングシステム(PCS:Power Conditioning Subsystem)とも称される。
【0026】
直流電源2は、例えば、太陽電池パネル、太陽電池モジュール、又は太陽電池アレイ等からなる太陽電池であっても、各種の二次電池又は燃料電池等からなる蓄電池であってもよく、これらの両方を備えてもよい。なお、直流電源2は、風力発電機と交流直流コンバータとからなる直流電源システムであっても、各種の再生可能エネルギー発電装置であってもよい。直流電源2は、直流電力を電力変換装置1に供給する。
【0027】
交流電力系統3(系統3)は、電力変換装置1から出力された交流電力を需要家の受電設備に供給するための、発電・変電・送電・配電を統合したシステムであり、例えば、不特定の負荷が接続されている。
【0028】
また、
図1において、電力変換装置1は、インバータ回路10と、三相交流回路20と、交流リアクトル30と、交流スイッチ40と、コンデンサ回路50と、交流コンデンサ60と、電流センサ70と、制御装置80とを有する。
【0029】
電力変換装置1は、インバータ回路10の交流端(交流側)に出力回路として三相交流回路20を有し、三相交流回路20には、交流リアクトル30と、交流スイッチ40とが設けられている。三相交流回路20は、交流リアクトル30と交流スイッチ40の間で、コンデンサ回路50に分岐している。コンデンサ回路50は、電流センサ70を介して交流コンデンサ60と接続されている。制御装置80は、図中配線は省略するが、電力変換装置1の各要素と電気的に接続されている。
【0030】
インバータ回路10は、電力変換回路又は単にインバータとも称され、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の複数のスイッチング素子で構築されている。インバータ回路10は、不図示のインバータ制御回路を有し、インバータ制御回路は、スイッチング素子のゲート駆動信号であるパルス幅変調信号を生成する。インバータ回路10は、直流端で直流母線を介して直流電源2と接続され、交流端で交流回路20を介して交流リアクトル30と接続されている。インバータ回路10は、直流電源2から供給される直流電力を、直流母線を介して直流端から受け、交流電力に変換して、交流端から出力する。
【0031】
交流回路20は、一端がインバータ回路10の交流端に接続され、他端が交流電力系統3と接続されている。本実施形態における交流回路20は、三相三線式の三相交流回路であり、電流又は電圧の位相を互いにずらした3系統の単相交流を組み合わせた三相交流電力を3本の電線・ケーブルを用いて供給する。以下、交流回路20は、「三相交流回路20」とも称する。
【0032】
交流リアクトル30は、AC(alternating-current)リアクトルとも称され、インバータ回路10の出力側の三相交流回路20の各相に直列に接続されている。インバータ回路10の出力側の交流リアクトル30は、騒音を低減させる効果やサージ電圧を抑制させる効果を有する。交流リアクトル30と後述の交流コンデンサ60とは、L型に接続されたLCフィルタ回路(フィルタ回路)を構成する。
【0033】
交流スイッチ(交流開閉器)40は、三相交流回路20の各相において、上述のLCフィルタ回路と交流電力系統3との間に直列に設けられ、後述の制御装置80や作業者からの投入指示又は開放指示に従って、交流回路20を接続又は開放する。交流スイッチ40が開放されるとインバータ回路10から供給される交流電力が交流電力系統3に流出することが遮断される。
【0034】
コンデンサ回路50は、一端が、交流リアクトル30と交流スイッチ40との間で三相交流回路20の各相から分岐した回路であり、他端が交流コンデンサ60と接続されている。なお、コンデンサ回路50は、LCフィルタ回路(フィルタ回路)の一例である。
【0035】
交流コンデンサ60は、電気(電荷)を蓄えたり、放出したりする電子部品であり、AC(alternating-current)コンデンサ、ACキャパシタ(alternating-current capacitor)、フィルタコンデンサとも称される。以下、交流コンデンサ60は、「ACコンデンサ60」とも称する。ACコンデンサ60は、インバータ回路10の不図示のスイッチング素子がスイッチングするときのリプル(振動)を除去するフィルタの役割を果たし、系統3側に高調波(高調波電流)が流出することを抑制する。
【0036】
ACコンデンサ60は、静電容量を稼ぐため又は定格電流を満たすために、三相交流回路20の各相(u相、v相、w相)のコンデンサ回路50が複数に分岐して、複数並列接続されている。本実施形態におけるコンデンサ回路50は、各相とも3つに分岐され、ACコンデンサ60は、各相とも3個並列接続されているが、分岐数や並列数は、これには限られない。例えば、コンデンサ回路50は、各相とも5つに分岐され、ACコンデンサ60は、各相とも5個並列接続されていてもよい。ACコンデンサ60は、三相で一塊のパッケージとなっており、一塊のACコンデンサパッケージ61が並列接続されていてもよい。また、各ACコンデンサパッケージ61において、ACコンデンサ60は、デルタ結線(Δ結線)されているが、スター結線(Y結線)されていてもよく、その他の結線方式でもよい。また、異なる結線方式のACコンデンサ60又はACコンデンサパッケージ61が混在して並列接続されていてもよい。
【0037】
ACコンデンサ60は、それぞれ保安機構62を有する。保安機構62は、例えば、ACコンデンサ60に異常が発生し、ACコンデンサ60の内圧が上昇したときなどに、当該ACコンデンサ60を回路から切り離すヒューズのような役割を有する。保安機構62は、ACコンデンサ60を個別に回路から切り離すものであってもよいし、ACコンデンサパッケージ61毎に回路から切り離すものであってもよい。なお、保安機構62は、
図1に示すようにACコンデンサ60毎に配置されることには限られず、ACコンデンサパッケージ61毎に配置されてもよい。
【0038】
図2は、
図1に示す電力変換装置1において、交流コンデンサ60の別の接続方法の一例を示す図である。
図2において、
図1と同一の構成については、
図1と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。ACコンデンサ60は、例えば、
図2に示す結線方式でも良く、
図2に示すACコンデンサパッケージ61の方式でもよい。すなわち、ACコンデンサ60の並列接続の方式は特に限定されない。また、
図2においても、
図1と同様に、保安機構62が配置される位置も、
図2に示す位置には限られない。
【0039】
図1に戻り、電流センサ70は、例えば、ホール式、CT(Current Transformer)式等のセンサであり、三相の各コンデンサ回路50に配置され、三相の各ACコンデンサ60に流れる電流の電流値を測定する。なお、電流センサ70の設けられる位置は、
図1に示す位置には限られず、例えば、三相の各コンデンサ回路50が分岐した先の回路に設けられてもよい。
【0040】
また、後述の
図8に示すように、電流センサ70は、三相交流回路20において、三相交流回路20からコンデンサ回路50に分岐する分岐点の前後に設けられてもよい。後述の
図8に示すように、理論上、電流センサ70で測定された電流値I
70は、電流センサ70Xで測定された電流値I
Xから電流センサ70Yで測定された電流値I
Yをマイナスした値と等しいからである。すなわち、理論上、電流値I
70=電流値I
X-電流値I
Yが成立する。このため、電流値I
Xの値と電流値I
Yの値とが分かれば、理論上、電流値I
70の値を求めることができる。このため、三相の各コンデンサ回路50に電流センサ70が配置されなくとも、
図8に示す電流センサ70Xと電流センサ70Yとが三相交流回路20に配置されていれば、三相の各ACコンデンサ60に流れる電流の電流値を取得することができる。
【0041】
制御装置80は、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサであり、所定のプログラムに従って電力変換装置1の動作の統括的な制御を行う。制御装置80は、電力変換装置1の内部又は外部に設けられ、図中配線は省略するが、電力変換装置1の各要素と、有線又は無線で電気的に接続されている。制御装置80は、例えば、電流センサ70の測定値を取得することや、インバータ回路10や交流スイッチ40の動作を制御することができる。
【0042】
制御装置80は、電圧変換部81と、電流変換部82と、位相同期回路83と、電力制御部84と、インバータ制御部85との機能を有する(
図3参照)。なお、これらの一部又は全部の機能は、インバータ回路10が有する不図示のインバータ制御回路が有していてもよい。なお、制御装置80の上記の各機能の詳細は、後述する。
【0043】
図3は、
図1及び
図2に示す電力変換装置1の内部構成の一例を示す図である。
図3において、
図1及び
図2と同一の構成については、
図1及び
図2と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。なお、
図3において、実際は、
図1及び
図2に示すように、インバータ回路10の出力側には三相分の交流回路20が接続されており、三相分の交流リアクトル30、交流スイッチ40、ACコンデンサ60等が配置されている。また、ACコンデンサ60は、実際には、
図1及び
図2に示すように、各相に複数並列接続されているが、図面の簡単のため、これらの要素を簡略化して示している。
【0044】
図3において、電力変換装置1は、交流スイッチ40と系統3との間の交流回路20に電圧センサ21と、電流センサ22とを有する。電圧センサ21は、インバータ回路10の出力電圧の電圧値Vを測定する。電流センサ22は、インバータ回路10から出力される電流の電流値Iを測定する。
【0045】
制御装置80は、上述のとおり、電圧変換部81と、電流変換部82と、位相同期回路83と、電力制御部84と、インバータ制御部85との機能を有する。
【0046】
電圧変換部81は、電圧センサ21から電圧値Vを取得し、位相同期回路83から位相指令値θ*を取得する。電圧変換部81は、取得した電圧値Vを、取得した位相指令値θ*に基づいてdq信号に変換(dq変換)し、d軸電圧値Vdとq軸電圧値Vqとを求めて、電力制御部84に出力する。また、電圧変換部81は、電圧センサ21によって測定された電圧値V、又は電圧変換部81によってdq変換されたd軸電圧値Vd及びq軸電圧値Vqを位相同期回路83に出力する。なお、dq変換は、3相2相変換、すなわち、3相から2相への座標変換であり、三相交流を2軸で表すためのものである。ここで、本実施形態では、d軸はコンデンサ電圧と同じ軸とし、q軸はコンデンサ電圧から90度位相をずらした軸としている。
【0047】
電流変換部82は、電流センサ22から電流値Iを取得し、位相同期回路83から位相指令値θ*を取得する。電流変換部82は、取得した電流値Iを、取得した位相指令値θ*に基づいてdq変換し、d軸電流値Idとq軸電流値Iqとを求めて、電力制御部84に出力する。なお、上述のとおり、本実施形態では、d軸はコンデンサ電圧と同じ軸とし、q軸はコンデンサ電圧から90度位相をずらした軸としている。このため、q軸電流値Iqは、コンデンサ電圧に対して90度位相がずれた軸の電流成分の値である。
【0048】
位相同期回路83は、周波数負帰還回路を構成する。位相同期回路83は、入力される周期的な信号を元にフィードバック制御を加えて、別の発振器から位相が同期した信号を出力する電子回路である。位相同期回路83は、電圧変換部81から電圧値V、又はd軸電圧値Vd及びq軸電圧値Vqを取得する。位相同期回路83は、取得した電圧値の位相θに基づいて、q軸電圧値Vqが0になるようにPLL(Phase Locked Loop)制御を行い、位相指令値θ*を求める。位相同期回路83は、求めた位相指令値θ*を電圧変換部81及び電流変換部82に出力する。
【0049】
電力制御部84は、電圧変換部81からd軸電圧値Vd及びq軸電圧値Vqを取得し、電流変換部82からd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを取得する。電力制御部84は、インバータ回路10と接続され、これらの電圧値Vd、Vq及び電流値Id、Iq等を用いてインバータ回路10(電力変換装置1)の電力を統括的に制御する。電力制御部84は、インバータ制御部85とも接続されており、インバータ制御部85にこれらの電圧値Vd、Vq及び電流値Id、Iq等を出力する。なお、インバータ制御部85の構成は、後述する。
【0050】
図4は、
図3に示すインバータ制御部85の構成例を示す図である。なお、
図3における電力制御部84とインバータ制御部85の構成は一例であり、電力制御部84が、インバータ制御部85の機能を有していてもよく、インバータ制御部85が電力制御部84の機能を有していてもよい。また、制御装置80内の他の要素がこれらの機能を有していてもよい。
【0051】
インバータ制御部85は、変換値算出部91と、判定値算出部92と、記憶部93と、故障検出部94と、故障情報発報部95と、動作制御部96との機能を有する。変換値算出部91と、判定値算出部92と、故障検出部94と、故障情報発報部95と、動作制御部96とは、例えば、記憶部93に記憶されている所定のプログラムを実行して、以下の処理を行う。
【0052】
変換値算出部91は、電流センサ70から三相(u相、v相、w相)のACコンデンサ60に流れる電流の測定値である電流値Iu、Iv、Iwを取得する。変換値算出部91は、所定の演算プログラムを用いて電流値Iu、Iv、Iwをdq変換し、変換値、すなわち、d軸電流値Id1とq軸電流値Iq1とを求める。なお、q軸電流値Iq1は、請求項の「変換値」及び「第1のq軸電流値」の一例である。
【0053】
判定値算出部92は、電力制御部84からインバータ回路10の出力電圧の測定値であるd軸電圧値Vdを取得する。判定値算出部92は、記憶部93に記憶されているACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値を取得する。ACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値は、例えば、並列接続されている複数のACコンデンサ60の全てが正常な場合における複数のACコンデンサ60全体の値であり、一定値である。判定値算出部92は、例えば、取得したd軸電圧値Vdと、取得したACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値とを乗算して、q軸電流値I’qを求める。なお、求めたq軸電流値I’qは、ACコンデンサ60全てが正常な場合におけるq軸電流の理論値である。
【0054】
判定値算出部92は、記憶部93に記憶されている異常検出レベルの値を取得する。なお、異常検出レベルの値は、予め判定値算出部92が実行するプログラムに組み込まれていてもよい。判定値算出部92は、求めた理論値であるq軸電流値I’qと、取得した又は既にプログラムされている異常検出レベルの値とを乗算して、判定値であるq軸電流値I’q2を求める。ここで、本実施形態における異常検出レベルの値は、例えば、1よりも小さい値であり、例えば、0.8である。なお、q軸電流値I’q又はq軸電流値I’q2(判定値)は、予め決められた値(故障検出に用いられる所定の判定値)であってもよい。この場合、判定値算出部92は、省略されてもよい。なお、q軸電流値I’q2は、請求項の「判定値」及び「第2のq軸電流値」の一例である。
【0055】
記憶部93は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)等の揮発性又は不揮発性の記憶媒体である。記憶部93は、制御装置80の各部が実行するプログラムを記憶するとともに、制御装置80の各部により、各種の情報の書き込みや読み出しが行われる。記憶部93は、インバータ制御部85が実行するプログラムや情報も記憶しており、例えば、判定値算出部92で用いられるACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値や、異常検出レベルの値を記憶する。なお、記憶部93は、制御装置80の外部に設けられ、有線又は無線のネットワークを介して制御装置80と接続されていてもよい。
【0056】
故障検出部94は、変換値算出部91が求めたq軸電流値Iq1と、判定値算出部92が求めたq軸電流値I’q2とを比較して、ACコンデンサ60の故障を検出する。すなわち、故障検出部94は、q軸電流値Iq1と、q軸電流値I’q2とを大小比較して、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60が故障していると判定し、ACコンデンサ60の故障を検出する。故障検出部94は、ACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障情報発報部95と、動作制御部96との少なくともいずれか一方に故障情報を出力する。なお、故障検出部94は、変換値算出部91が求めたq軸電流値Iq1と、予め決められた判定値(故障検出に用いられる所定の判定値)とを比較して、ACコンデンサ60の故障を検出してもよい。この場合、判定値算出部92は、省略されてもよい。
【0057】
故障情報発報部95は、故障検出部94がACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障検出部94からACコンデンサ60の故障情報を取得し、例えば、不図示の上位装置等に故障情報を発報する。すなわち、故障情報発報部95は、例えば、不図示の上位装置や、電力変換装置1の操作盤等に警報やアラームを発報する。
【0058】
動作制御部96は、故障検出部94がACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障検出部94からACコンデンサ60の故障情報を取得する。そして、動作制御部96は、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放の少なくともいずれか一方の動作を行うよう、それらに動作指示を与える。
【0059】
<一実施形態の動作>
図5は、
図1から
図4に示す制御装置80の故障検出動作の一例を示す図である。なお、
図5は、電力変換装置1の運転中におけるインバータ制御部85の故障検出動作の一例を示す。ここで、本実施形態では、上述のとおり、d軸はコンデンサ電圧と同じ軸とし、q軸はコンデンサ電圧から90度位相をずらした軸としている。
【0060】
ステップS1において、変換値算出部91は、電流センサ70から三相(u相、v相、w相)のACコンデンサ60に流れる電流の測定値である電流値Iu、Iv、Iwを取得する。なお、電流センサ70は、常時電流値Iu、Iv、Iwを測定しており、変換値算出部91は、常時電流値Iu、Iv、Iwを取得する。
【0061】
ステップS2において、変換値算出部91は、所定の演算プログラムを用いて電流値Iu、Iv、Iwをdq変換し、d軸電流値Id1とq軸電流値Iq1とを求める。
【0062】
ステップS3において、変換値算出部91は、q軸電流値Iq1を故障検出部94に出力する。なお、q軸電圧がゼロになるように、すなわちd軸電圧のみが見えるようにdq変換した場合、ACコンデンサ60の容量が減った場合でも、d軸電流値Id1は変わらないため、d軸電流値Id1はACコンデンサの60の故障検出には影響しない。このため、変換値算出部91は、q軸電流値Iq1を故障検出部94に出力する。
【0063】
ステップS4において、判定値算出部92は、電力制御部84からインバータ回路10の出力電圧の測定値であるd軸電圧値Vdを取得する。
【0064】
ステップS5において、判定値算出部92は、記憶部93に記憶されているACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値(一定値)を取得する。
【0065】
ステップS6において、判定値算出部92は、取得したd軸電圧値Vdと、取得したACコンデンサ60の定格コンダクタンスの値とを乗算して、q軸電流の理論値であるq軸電流値I’qを求める。
【0066】
ステップS7において、判定値算出部92は、記憶部93に記憶されている異常検出レベルの値を取得する。なお、本実施形態において、以下、異常検出レベルの値は、0.8であるとする。
【0067】
ステップS8において、判定値算出部92は、理論値であるq軸電流値I’qに異常検出レベルである0.8を乗算して、判定値であるq軸電流値I’q2を求める。
【0068】
ステップS9において、故障検出部94は、変換値算出部91が求めたq軸電流値Iq1と、判定値算出部92が求めたq軸電流値I’q2とを大小比較する。そして、故障検出部94は、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60が故障していると判定し、ACコンデンサ60の故障を検出する。なお、故障検出部94は、変換値算出部91が求めたq軸電流値Iq1と、予め決められた判定値(故障検出に用いられる所定の判定値)とを大小比較して故障を検出してもよい。そして、故障検出部94は、ACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障情報発報部95と、動作制御部96との少なくともいずれか一方に故障情報を出力する。
【0069】
図6は、
図5に示す故障検出ロジックを説明する図である。
図6(a)において、中央のコンパレータ(比較器)は、故障検出部94を表す。左上のI
q1は、ステップS3で求められたq軸電流値I
q1であり、左中央のI’
qは、ステップS6で求められた理論値であるq軸電流値I’
qであり、左下の0.8は、ステップS7で取得された異常検出レベルの値である。そして、
図6(a)では、q軸電流値I
q1と、理論値であるq軸電流値I’
qと異常検出レベルの値である0.8とが乗算されたq軸電流値I’
q2とが、故障検出部94に向けて出力されている様子が示されている。
【0070】
ここで、上述のとおり、異常検出レベルの値は、1よりも小さい値であり、一例として、本実施形態では、0.8である。通常、ACコンデンサ60が正常な場合、ACコンデンサ60に流れる電流の電流値(測定値)から求めたq軸電流値Iq1と、インバータ回路10の出力電圧の電圧値(測定値)から求めたq軸電流値I’qとは、同一の値のはずである。しかし、誤差もあることから、多少の誤差を許容するため、判定値算出部92は、理論値であるq軸電流値I’qに、1よりも小さい値である異常検出レベルの値である0.8を乗算して、q軸電流値I’q2を求めている。これにより、多少の誤差があったとしても、ACコンデンサ60が正常な場合、q軸電流値Iq1の方が、0.8が乗算されたq軸電流値I’q2よりも大きくなるはずである。
【0071】
それにもかかわらず、q軸電流値Iq1の方が、0.8が乗算されたq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60に何らかの異常が発生している場合と考えられる。このため、故障検出部94は、q軸電流値Iq1と、q軸電流値I’q2とを大小比較して、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60が故障していると判定し、ACコンデンサ60の故障を検出している。
【0072】
式を用いて説明すると、下記のとおりである。ACコンデンサ60がオープン故障した場合を例にとって説明する。まず、理論値であるq軸電流値I’
qは、以下の(1)式で求められる。
【数1】
【0073】
次に、例えば、ACコンデンサ60が3個並列されており、全てのACコンデンサ60が正常な場合のq軸電流値I
q1は、以下の(2)式で求められる。
【数2】
【0074】
すなわち、Vdが同一である場合、(1)式で求められるq軸電流値I’qと(2)式で求められるq軸電流値Iq1とは同一の値である。これにより、多少の誤差があったとしても、ACコンデンサ60が正常な場合、(1)式で求められるq軸電流値I’qに0.8が乗算されたq軸電流値I’q2よりも、(2)式で求められるq軸電流値Iq1の方が大きくなる。
【0075】
次に、例えば、ACコンデンサ60が3個並列されており、3個中1個がオープン故障した場合、q軸電流値I
q1は、以下の(3)式で求められる。
【数3】
【0076】
(3)式によれば、ACコンデンサ60が正常な場合のq軸電流値Iq1に(2/3)≒0.67が乗算されている。このため、(1)式で求められるq軸電流値I’qに0.8が乗算されたq軸電流値I’q2よりも、(3)式で求められるq軸電流値Iq1の方が小さくなる。これにより、故障検出部94は、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60が故障していると判定し、ACコンデンサ60の故障を検出する。
【0077】
ここで、ACコンデンサ60に異常が発生した場合、なぜq軸電流値I
q1がq軸電流値I’
q2より小さくなるか、ACコンデンサ60がオープン故障した場合を例にとって説明する。一般に、ACコンデンサ60に流れる電流値は、複素数で表され、以下の(4)式で求められる。なお、
図6(b)は、(4)式を図で表したものである。
【数4】
【0078】
(4)式によれば、ACコンデンサ60がオープン故障するとコンデンサの容量Cが減少することになるため、電流値Iも比例して減少する。そうすると、q軸電流値Iq1も減少する。これにより、ACコンデンサ60がオープン故障すると、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q(q軸電流値I’q2)より小さくなる。なお、(4)式によれば、ACコンデンサ60には、電圧の位相に対して、大きさとしてはωC、位相としては90度進んだ電流が流れることを示している。
【0079】
このため、故障検出部94は、q軸電流値Iq1と、q軸電流値I’q2とを大小比較して、q軸電流値Iq1がq軸電流値I’q2よりも小さいときは、ACコンデンサ60が故障していると判定し、ACコンデンサ60の故障を検出している。これは、ACコンデンサ60の容量Cが減った場合、電流の大きさも減るため、故障検出部94は、この性質を用いてACコンデンサ60の故障を検出していることにもなる。また、これは、故障検出部94が、電圧の位相に対して90度位相が進んだ電流成分の大きさに基づいてACコンデンサ60の故障を検出していることにもなる。
【0080】
図5に戻り、ステップS10において、故障情報発報部95は、故障検出部94がACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障検出部94からACコンデンサ60の故障情報を取得する。そして、故障情報発報部95は、例えば、不図示の上位装置や、電力変換装置1の操作盤等に警報やアラーム等の故障情報を発報する。
【0081】
これにより、例えば、人の手、不図示の上位装置、又はソフトウェアにより、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放のいずれか一方又は両方を行うことができる。そうすることにより、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。なお、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放のうち、電力変換装置1の停止を優先してもよい。
【0082】
なお、不図示の上位装置は、複数台の電力変換装置1を統括的に監視及び制御するものであり、各電力変換装置1と有線又は無線で接続されている。
【0083】
ステップS11において、動作制御部96は、故障検出部94がACコンデンサ60の故障を検出したときは、故障検出部94からACコンデンサ60の故障情報を取得する。そして、動作制御部96は、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放の少なくともいずれか一方の動作を行うよう、それらに動作指示を与える。
【0084】
これにより、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放のいずれか一方又は両方が行われ、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。なお、上記のステップS9と同様に、電力変換装置1の停止及び交流スイッチ40の開放のうち、電力変換装置1の停止を優先してもよい。
【0085】
図7は、
図1から
図6に示す実施形態に係る電力変換装置1の動作例を示す図である。
図7(a)は、電力変換装置1が運転中の状態を示す図であり、
図7(b)は、電力変換装置1の運転中にACコンデンサ60のオープン故障が発生したときの状態を示す図である。
【0086】
なお、
図7において、実際は、
図1及び
図2に示すように、インバータ回路10の出力側には三相分の交流回路20が接続されており、三相分の交流リアクトル30、交流スイッチ40、ACコンデンサ60等が配置されている。また、ACコンデンサ60は、実際には、
図1及び
図2に示すように、各相に複数並列接続されている。しかし、
図3と同様に、図面の簡単のため、これらの要素を簡略化して示している。
【0087】
図7(a)において、電力変換装置1の運転中は、交流スイッチ40が投入されている。これにより、インバータ回路10から出力されている交流電力は、系統3側に流出している。電力変換装置1には、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられており、複数並列接続されている各相のACコンデンサの電流値Iu、Iv、Iwを常時検出している。そして、制御装置80は、
図5に示すステップS1からステップS9の動作を常時行っている。
【0088】
図7(b)において、電力変換装置1の運転中にACコンデンサ60の一部にオープン故障が発生すると、複数並列接続されている各相のACコンデンサ60の電流値Iu、Iv、Iwの値から求められるq軸電流値I
q1が正常時よりも小さくなる。このため、制御装置80は、
図5に示すステップS9に示す動作において、これをACコンデンサ60のオープン故障として検出する。制御装置80は、ACコンデンサ60のオープン故障を検出したときは、ステップS10により、故障情報を発報し、ステップS11により、電力変換装置1を停止させ、交流スイッチ40を開放し、ACコンデンサ60への電圧印加を止める。これにより、正常なACコンデンサ60への故障拡大が抑制され、系統3側への高調波流出を抑制することができる。
【0089】
<一実施形態の作用効果>
以上、
図1から
図7に示す実施形態では、交流回路20の各相におけるコンデンサ回路50でそれぞれ複数並列接続された複数のACコンデンサ60に流れる電流の電流値を測定する複数の電流センサ70を備える。これにより、制御装置80は、電力変換装置1の運転中にもACコンデンサ60に流れる電流の電流値の変動を検出することができるため、電力変換装置1の運転中にもACコンデンサ60のオープン故障を検出することができる。
【0090】
また、
図1から
図7に示す実施形態では、判定値算出部92は、ステップS8において、ステップS6で求められた理論値であるq軸電流値I’
qに、ステップS7で取得された異常検出レベルの値を乗算している。これにより、故障検出部94が比較する電流値に多少の誤差があった場合でも、多少の誤差を許容することが出来る。
【0091】
また、
図1から
図7に示す実施形態では、ステップS10において、故障情報発報部95は、ACコンデンサ60の故障情報を取得したときは、取得した故障情報を不図示の上位装置に発報する。これにより、例えば、人の手、不図示の上位装置、又はソフトウェアにより、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放のいずれか一方又は両方を行うことができる。そうすることにより、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0092】
また、
図1から
図7に示す実施形態では、ステップS11において、動作制御部96は、ACコンデンサ60の故障情報を取得したときは、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放の少なくともいずれか一方の動作を行うよう、それらに動作指示を与える。これにより、電力変換装置1の停止又は交流スイッチ40の開放のいずれか一方又は両方が行われ、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。
【0093】
<変形例>
図8は、
図1から
図7に示す実施形態の変形例である電力変換装置1’の動作例を示す図である。
図8において、
図1から
図7に示す実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。なお、
図8においても、
図7と同様に、
図8(a)は、電力変換装置1’が運転中の状態を示し、
図8(b)は、電力変換装置1’の運転中にACコンデンサ60のオープン故障が発生したときの状態を示す。また、
図8においても、
図7と同様に、図面の簡単のため、各要素は、簡略化して示されている。
【0094】
図8において、電力変換装置1’は、コンデンサ回路50に設けられた電流センサ70の代わりに、三相交流回路20に電流センサ70Xと電流センサ70Yとが設けられる。三相交流回路20において、電流センサ70Xは、三相交流回路20からコンデンサ回路50に分岐する分岐点の前に設けられ、電流センサ70Yは、三相交流回路20からコンデンサ回路50に分岐する分岐点の後に設けられる。
【0095】
理論上、電流センサ70で測定される電流値I
70は、電流センサ70Xで測定された電流値I
Xから電流センサ70Yで測定された電流値I
Yをマイナスした値と等しい。すなわち、理論上、電流値I
70=電流値I
X-電流値I
Yが成立する。このため、電流値I
Xの値と電流値I
Yの値とが分かれば、理論上、電流値I
70の値を求めることができる。このため、三相の各コンデンサ回路50に電流センサ70が配置されなくとも、
図8に示す位置に電流センサ70Xと電流センサ70Yとが配置されていれば、制御装置80は、三相の各ACコンデンサ60に流れる電流の電流値を取得することができる。
【0096】
以上より、
図8に示す電力変換装置1’によっても、制御装置80は、理論上、電流センサ70で測定される電流値I
70を算出して取得することができるため、
図1から
図7に示す実施形態と同様の効果を奏する。
【0097】
<比較例>
図9は、比較例に係る電力変換装置100の動作例を示す図である。
図9(a)は、電力変換装置100のACコンデンサ60の一部にオープン故障が発生したときの状態を示す図であり、
図9(b)は、ACコンデンサ60の全てにオープン故障が発生したときの状態を示す図である。なお、
図9において、
図1から
図7に示す実施形態と同一の構成については、
図1から
図7と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0098】
また、
図9において、実際は、
図1及び
図2に示すように、インバータ回路10の出力側には三相分の交流回路20が接続されており、三相分の交流リアクトル30、交流スイッチ40、ACコンデンサ60等が配置されている。また、ACコンデンサ60は、実際には、
図1及び
図2に示すように、各相に複数並列接続されている。しかし、
図3及び
図7と同様に、図面の簡単のため、これらの要素を簡略化して示している。
【0099】
図9に示す比較例では、
図1から
図7に示す実施形態と異なり、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられていない。このため、制御装置80は、ACコンデンサ60に流れる電流を把握することができない。
【0100】
図9(a)において、比較例に係る電力変換装置100の運転中にACコンデンサ60の一部にオープン故障が発生したときは、制御装置80は、電圧波形のひずみを検出することはできる。しかし、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられていないため、制御装置80は、ACコンデンサ60の故障として検出することができないため、運転を継続する。これにより、比較例に係る電力変換装置100では、正常なACコンデンサ60に負荷が集中して、正常なACコンデンサ60もドミノ倒し的に故障する恐れがある。また、比較例に係る電力変換装置100では、あまりにも1つのACコンデンサ60に負荷が集中すると、保安機構62の動作も追いつかず、ACコンデンサ60(ACコンデンサパッケージ61)が破裂する恐れもある。
【0101】
また、
図9(a)において、比較例に係る電力変換装置100が停止中の場合、制御装置80は、交流回路20のインバータ出力電圧を系統3の電圧と同期してから、交流スイッチ40を投入して電力変換装置100を起動する。しかし、比較例に係る電力変換装置100では、制御装置80は、ACコンデンサ60の故障を検出することができないため、ACコンデンサ60の一部にオープン故障が発生している場合でも、電力変換装置100を起動することが出来る。これにより、比較例に係る電力変換装置100では運転中と同様に正常なACコンデンサ60への故障拡大等の恐れがある。
【0102】
一方、
図1から
図7に示す実施形態では、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられている。このため、制御装置80は、電力変換装置1の運転中や起動後すぐにACコンデンサ60のオープン故障を検出することができ、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。なお、
図8に示す変形例においても、
図1から
図7に示す実施形態と同様の効果を奏する。
【0103】
図9(b)において、比較例に係る電力変換装置100の運転中にACコンデンサ60の全てにオープン故障が発生したときは、電圧波形がさらにひずむため、制御装置80は、電圧波形のひずみを検出することはできる。しかし、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられていないため、制御装置80は、ACコンデンサ60の故障として検出することができず、運転を継続するケースがある。これにより、比較例に係る電力変換装置100では、高調波電流を系統3側に流出させてしまう恐れがある。
【0104】
また、
図9(b)において、比較例に係る電力変換装置100が停止中の場合、制御装置80は、交流回路20のインバータ出力電圧を系統3の電圧と同期してから、交流スイッチ40を投入して電力変換装置100を起動する。
図9(b)に示す場合のように、ACコンデンサ60が全て故障している場合、インバータ出力電圧と系統3の電圧の同期制御が正しく動作しなくなり、制御装置80は、「同期合わせ異常」として電力変換装置1の故障を検出する。これは、制御装置80が、ソフト内でACコンデンサ60の容量を考慮してインバータ出力電圧を計算しているため、ACコンデンサ60が全て故障していると計算が合わなくなるためである。
【0105】
すなわち、制御装置80は、電力変換装置1の電力制御をしているため、ACコンデンサ60の容量が分かれば、どの位電流を流せばインバータ出力電圧を系統3の電圧と合わせられるかを把握している。しかし、ACコンデンサ60が故障していると、電流が多めに流れてしまい、その結果、インバータ出力電圧が大きくなるため、制御装置80は、インバータ出力電圧と系統3の電圧とを合わせられず、「同期合わせ異常」として電力変換装置1の故障を検出する。
【0106】
このように、比較例に係る電力変換装置100では、運転中にはACコンデンサ60の故障を検出することができず、起動時の同期合わせのときに電圧を計測して初めて、故障を検出することができる。これにより、比較例に係る電力変換装置100では運転中に正常なACコンデンサ60への故障が拡大する恐れや、系統3側への高調波を流出させる恐れがある。
【0107】
一方、
図1から
図7に示す実施形態では、コンデンサ回路50に電流センサ70が設けられている。このため、制御装置80は、電力変換装置1の起動時に初めてACコンデンサ60のオープン故障を検出することができるわけではなく、電力変換装置1の運転中にもすぐにACコンデンサ60のオープン故障を検出することができる。このため、
図1から
図7に示す実施形態に係る電力変換装置1によれば、正常なACコンデンサ60への故障拡大や系統3側への高調波の流出を抑制することができる。なお、
図8に示す変形例においても、
図1から
図7に示す実施形態と同様の効果を奏する。
【0108】
<実施形態の補足事項>
図1から
図7に示す実施形態では、
図5に示すステップS8において、q軸電流値I’
qに異常検出レベルの値(0.8)を乗算している。しかし、q軸電流値I’
qに異常検出レベルの値を乗算しなくてもよい。すなわち、q軸電流値I
q1とq軸電流値I’
qとを大小比較してもよい。この場合、請求項の「第2のq軸電流値」は、理論値のq軸電流値I’
qとなる。なお、
図8に示す変形例においても、同様である。
【0109】
また、
図1から
図7に示す実施形態では、
図5に示すステップS9において、ACコンデンサ60の一部がオープン故障したら、故障検出部94は、ACコンデンサ60の故障を検出する。しかし、例えば、故障検出部94は、ACコンデンサ60が1つのみ故障した場合はACコンデンサ60の故障を検出せず、2つ以上故障した場合にACコンデンサ60の故障を検出するようにしてもよい。このような方法は、例えば、ACコンデンサ60が1つのみ故障した程度では電力変換装置1に与える影響が少ない場合などに有効である。なお、故障検出部94は、実体に即して、3つ以上やそれ以上故障した場合にACコンデンサ60の故障を検出するようにしてもよい。なお、
図8に示す変形例においても、同様である。
【0110】
また、
図1から
図7に示す実施形態における各部の処理のステップは、故障検出方法としても、コンピュータに実行させる故障検出プログラムとしても実現可能である。また、当該故障検出プログラムは、当該故障検出プログラムを記憶させた記憶媒体としても実現可能である。すなわち、故障検出プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)あるいはDVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のリムーバブルディスクに記録して頒布することができる。なお、故障検出プログラムは、電力変換装置1に含まれるネットワークインタフェースを介してネットワークからダウンロードされ、記憶部93に格納されてもよい。なお、
図8に示す変形例においても、同様である。
【0111】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0112】
1,1’,100…電力変換装置;2…直流電源;3…交流電力系統(系統);10…インバータ回路;20…交流回路(三相交流回路);21…電圧センサ;22…電流センサ;30…交流リアクトル(ACリアクトル);40…交流スイッチ(交流開閉器);50…コンデンサ回路;60…交流コンデンサ(ACコンデンサ);61…ACコンデンサパッケージ;62…保安機構;70,70X,70Y…電流センサ;80…制御装置;81…電圧変換部;82…電流変換部;83…位相同期回路;84…電力制御部;85…インバータ制御部;91…変換値算出部;92…判定値算出部;93…記憶部;94…故障検出部;95…故障情報発報部;96…動作制御部;I,I70,IX,IY…電流値;Id,Id1…d軸電流値;Iq,Iq1,I’q,I’q2…q軸電流値;V…電圧値;Vd…d軸電圧値;Vq…q軸電圧値;θ…位相;θ*…位相指令値