(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】アーク炉設備
(51)【国際特許分類】
F27B 3/28 20060101AFI20240910BHJP
F27D 21/02 20060101ALI20240910BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240910BHJP
H05B 7/152 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F27B3/28
F27D21/02
F27D19/00 Z
H05B7/152
(21)【出願番号】P 2023518529
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021040981
(87)【国際公開番号】W WO2023079737
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 真康
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-174965(JP,A)
【文献】特開2018-070926(JP,A)
【文献】特開2017-216216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/28
F27D 21/02
F27D 19/00
H05B 7/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラップと電極との間のアーク放電により発生した熱を利用して前記スクラップを溶解するアーク炉設備であって、
アーク炉内に投入された前記スクラップを撮影するカメラと、
前記カメラから取得したスクラップ投入時の画像データと、前記電極に関する溶解開始後の制御実績データと、アーク切れ予測モデルとを含む情報が格納されたメモリと、前記メモリに格納された前記情報を処理するプロセッサと、を含む情報処理装置と、を備え、
前記プロセッサは、
前記画像データに基づく前記スクラップの配置および粗密状態と、前記制御実績データとを、前記アーク切れ予測モデルに入力して、前記スクラップと前記電極との短絡によるアーク切れの発生を予測する予測処理を行うように構成されていること、
を特徴とするアーク炉設備。
【請求項2】
前記スクラップの配置および粗密状態は、前記画像データの各画素の明度指標に基づき、
前記制御実績データは、操業時系列データと操業属性データとを含み、
前記操業時系列データは、各サンプリング時刻における前記電極に関する電流値と電圧値と昇降速度値とを含み、
前記操業属性データは、前記スクラップの投入時刻と投入量とを含むこと、
を特徴とする請求項1に記載のアーク炉設備。
【請求項3】
前記メモリは、学習用データを格納し、
前記学習用データは、前記アーク炉から過去に出鉱されたスクラップに関する、前記画像データと、前記操業時系列データと、前記操業属性データと、前記操業時系列データの各サンプリング時刻について電流値が短絡相関値よりも高いサンプリング時刻に関連付けられたアーク切れの発生を示すアーク切れ発生ラベルと、を含み、
前記プロセッサは、前記学習用データに基づいて、前記アーク切れ予測モデルを構築する学習処理を行うように構成されていること、
を特徴とする請求項2に記載のアーク炉設備。
【請求項4】
前記カメラは、前記アーク炉内に投入された前記スクラップを3次元で撮影し、
前記画像データは、各画素について明度指標および高さ指標を含み、
前記スクラップの配置および粗密状態は、前記画像データの各画素の明度指標および高さ指標に基づくこと、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアーク炉設備。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記予測処理によりアーク切れが発生すると予測された場合に、前記電極の上昇指令を出力する短絡予防処理を行うように構成されていること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアーク炉設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼片(スクラップ)と電極間のアーク放電により発生した熱を利用してスクラップを溶解するアーク炉設備に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉は、炉内に挿入されたスクラップを、電力を供給して加熱し、溶解させる。電気炉には、ジュール熱によりスクラップを加熱する抵抗炉や、電磁誘導作用によりスクラップに電流を誘起し、それ自身の抵抗発熱で加熱する誘導炉、アークならびに電極に発生する熱を利用するアーク炉がある。
【0003】
特にアーク炉は、安価な鉄屑を主原料として利用できる、容易に稼働・休止ができ設備稼働に柔軟性がある、高炉に比べて少ない投資額で比較的大量生産ができる、という利点がある。
【0004】
アーク炉は、スクラップと電極の間、または電極間にアークを発生させ、その熱によりスクラップを溶解する。電極に供給される電力と、電極とスクラップ間の距離とを操作することで、アークを発生させることができる。特許文献1には、アークを安定的に発生させるために、インピーダンス一定制御を行い、電極の昇降位置を制御することが開示されている。
【0005】
スクラップの投入から溶解されたスクラップ(溶湯)を排出するまでには、通常、2
~3回のスクラップの追加投入と、その後に成分調整などの工程を経る。この一連の動作をチャージと呼ぶ。スクラップの追加投入では、アーク炉の操業者が、経験則に基づいて炉内状況を想像しながら、予め決められたタイミングで、予め決められた量のスクラップを投入している。
【0006】
また、アークを安定的に発生させるために、自動制御とは別に、操業者により電極の昇降がなされることもある。溶解の操業中に、何らかの要因により操業者によって電極がスクラップから大きく離されることがある。例えば、電極とスクラップが近接してしまい、電流値が許容範囲を超えた場合などである。電流値が許容範囲を超えても電極の上昇操作がなされなかった場合、過電流となり、電極とスクラップ間で短絡が生じてしまう。短絡が発生した場合、通常は遮断機が切断される。ここでは、この現象を、アーク切れとよぶ。
【0007】
いったん遮断機が切断されると、その復旧に時間がかかるため、操業停止となり、生産量が低下してしまう。操業者は、これを防ぐため、経験則に基づいて電極を昇降操作している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本特開2006―85936号公報
【文献】日本特開2018―28421号公報
【文献】日本特開2008―116066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電流値が許容範囲を超える要因の一つに、投入されたスクラップの投入状態が不明確であること挙げられる。スクラップの投入量は、操業条件から決定されるが、粗密具合や、投入されたときのスクラップの偏りなどのスクラップ投入状態は、操作できない。また、スクラップ投入後は、炉内部温度の保持や周辺への溶湯の飛散防止のために蓋が閉じられる。そのため、操業者は溶解中の炉内部の状態を把握することはできない。
【0010】
スクラップの投入状態によっては、溶解中にスクラップの一部が崩落し、電極に接触することがある。この場合、予期しない短絡によりアーク切れが発生するため、現状では予防する術がない。このように、スクラップの投入状態や、溶解中の炉内部の状態を把握、または、スクラップの崩落のような非定常な現象の発生を予測、回避する方法が求められている。
【0011】
炉内部の状態を把握する方法として、例えば、特許文献2には、溶解により消費される電極の長さを予測して、スクラップと電極の間の距離を適切に捉えることが開示されている。しかし、これは電極の長さを予測するものにすぎず、スクラップの崩落のような非定常な要因による操業停止は防ぐことができない。
【0012】
また、炉内部の状態を把握する方法として、例えば、特許文献3には、炉壁各所に温度計を設置し、炉外周温度から炉内部状態を把握する操業方法が開示されている。これによれば、投入されるスクラップの鋼種の融点と炉全体の温度から炉内部の状態を可視化することが可能である。しかしながら、炉外周近傍のスクラップの状態と、溶融したスクラップの温度履歴情報を得るのみで、必ずしも、溶解中のスクラップの状態が把握できるわけではない。そのため、スクラップの崩落のような非定常な要因による操業停止の予防は難しい。
【0013】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされた。本開示は、溶解中のスクラップの崩落による短絡を起因とした遮断機の切断(アーク切れ)の発生を予測することのできるアーク炉設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の観点は、アーク炉設備に関連する。
アーク炉設備は、アーク炉と、カメラと、情報処理装置とを備える。
前記アーク炉は、スクラップと電極との間のアーク放電により発生した熱を利用して前記スクラップを溶解する。
前記カメラは、前記アーク炉内に投入された前記スクラップを撮影する。
前記情報処理装置は、メモリと、プロセッサとを備える。
前記メモリは、前記カメラから取得したスクラップ投入時の画像データと、前記電極に関する溶解開始後の制御実績データと、アーク切れ予測モデルとを含む情報を格納する。
前記プロセッサは、前記メモリに格納された前記情報を処理する。
前記プロセッサは、前記画像データに基づく前記スクラップの配置および粗密状態と、前記制御実績データとを、前記アーク切れ予測モデルに入力して、前記スクラップと前記電極との短絡によるアーク切れの発生を予測する予測処理を行うように構成されている。
【0015】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
前記スクラップの配置および粗密状態は、前記画像データの各画素の明度指標に基づく。
前記制御実績データは、操業時系列データと操業属性データとを含む。
前記操業時系列データは、各サンプリング時刻における前記電極に関する電流値と電圧値と昇降速度値とを含む。
前記操業属性データは、前記スクラップの投入時刻と投入量とを含む。
【0016】
第3の観点は、第2の観点に加えて、次の特徴を更に有する。
前記メモリは、学習用データを格納する。
前記学習用データは、前記アーク炉から過去に出鉱されたスクラップに関する、前記画像データと、前記操業時系列データと、前記操業属性データと、アーク切れ発生ラベルとを含む。前記アーク切れ発生ラベルは、前記操業時系列データの各サンプリング時刻について電流値が短絡相関値よりも高いサンプリング時刻に関連付けられたアーク切れの発生を示す。
前記プロセッサは、前記学習用データに基づいて、前記アーク切れ予測モデルを構築する学習処理を行うように構成されている。
【0017】
第4の観点は、第1乃至第3の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記カメラは、前記アーク炉内に投入された前記スクラップを3次元で撮影する。
前記画像データは、各画素について明度指標および高さ指標を含む。
前記スクラップの配置および粗密状態は、前記画像データの各画素の明度指標および高さ指標に基づく。
【0018】
第5の観点は、第1乃至第4の観点のいずれかに加えて、次の特徴を更に有する。
前記プロセッサは、前記予測処理によりアーク切れが発生すると予測された場合に、前記電極の上昇指令を出力する短絡予防処理を行うように構成されている。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、アーク炉設備は、カメラから取得した画像データからスクラップ投入時のスクラップの配置および粗密状態の情報を得る。アーク炉設備は、溶解開始後に当該情報と現在の制御実績データとからアーク切れの発生を予測できる。これによれば、アーク炉設備は、溶解中のスクラップの崩落による短絡を起因とした遮断機の切断(アーク切れ)の発生を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態1に係るアーク炉設備の構成例を説明するための図である。
【
図2】実施の形態1に係るスクラップ撮影カメラの撮像範囲を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係るアーク切れ予測装置が有する機能の概要を例示するブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係る操業時系列データおよび操業属性データの概要を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係るカメラ画像取得部におけるスクラップ画像データの取得手順について説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係るスクラップ画像データの一例を示す図である。
【
図7】実施の形態1に係るスクラップ画像データの明度指標の保存の概要を示す図である。
【
図8】実施の形態1に係るアーク切れ学習部におけるアーク切れ予測モデルの構築手順について説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施の形態1に係るアーク切れ学習部におけるアーク切れラベルの付与手順について説明するためのフローチャートである。
【
図10】実施の形態1に係るアーク切れ学習部におけるアーク切れラベルの付与手順について説明するための図である。
【
図11】実施の形態1における入力値の概要を示す図である。
【
図12】実施の形態1に係るアーク切れ予測部におけるアーク切れ予測手順について説明するためのフローチャートである。
【
図13】実施の形態2におけるスクラップ画像データの明度指標および高さ指標の概要を示す図である。
【
図14】実施の形態3に係るアーク切れ予測装置が有する機能の概要を例示するブロック図である。
【
図15】アーク切れ予測装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
実施の形態1.
1.アーク炉
図1は、実施の形態1に係るアーク炉設備1の構成例を説明するための図である。
アーク炉は、炉内に投入した様々な合金を含む鋼片(スクラップ2)を溶解して溶湯3を形成する。アーク炉は、スクラップ2を投入し、溶解した溶湯3を貯留する炉本体4と、溶解時の抜熱や周辺への溶湯3の飛散を防止するための蓋体5と、溶湯3を排出するためのタップ孔6を備える。
【0023】
溶解時の炉内は鋼片(スクラップ2)を溶かすほどの高温のため、炉本体4や蓋体5の内面には、耐火レンガが貼り付けられている。蓋体5には穴が設けられ、アークを発生させるための電極7が炉本体4内部へ挿入される。一般的に、電極7は、炭素で形成され、複数設けられている。
【0024】
これらの電極7に電力が供給され、電極7と、内部に投入されたスクラップ2との間でアークを発生させ、その熱でスクラップ2を溶解させて溶湯3を得る。電極7は、スクラップ2との間でアークを発生させるために適切な距離をとるため、電極昇降装置8により、昇降操作される。電極7に供給される電力や、電極7の昇降位置は、制御装置9により制御される。出力装置10は、例えば電源および遮断器を含む。
【0025】
このとき、電極7に供給する電力を得るための電流や電圧、電極7の昇降位置を得るための昇降速度などの、指令値は、スクラップ2の鋼種やスクラップ2の投入量といった情報をもとに設定される。これらの設定を基に自動操業も可能であるが、上記の通り、アークの発生は不安定であるため、通常は、操業者により都度、手動操作が加わる。この手動操作は、主に、電極7の昇降位置を変更する昇降速度に与えられる。
【0026】
また、実際に溶解操業しているときの実績情報は、制御装置9に取り込まれ、フィードバック制御などに用いられることもある。
【0027】
スクラップ2の初期投入から溶解された溶湯3を排出するまでの1つのチャージで製造される溶湯3ごとに、溶解番号が設定され、製品管理、品質管理に用いられる。
【0028】
本実施形態に係るアーク炉設備1は、さらに、炉本体4の内部を撮影するためのカメラ(スクラップ撮影カメラ20)と、アーク切れを予測する情報処理装置(アーク切れ予測装置30)とを備える。
【0029】
2.スクラップ撮影カメラ
スクラップ撮影カメラ20は、スクラップ2の投入毎に、スクラップ2の投入状態を撮影する。スクラップ撮影カメラ20の撮像範囲を、
図2に示す。スクラップ撮影カメラ20は、
図2に示すように炉内すべてを撮影できるように、炉本体4の直上に配置されることが望ましい。溶解中は炉本体4の内部が高温となり、その輻射熱が外部にも伝わるため、スクラップ撮影カメラ20は、水冷機構を備えることが望ましい。さらに、溶解により発生する蒸気やガスは直上へ立ち込めるため、スクラップ撮影カメラ20は、その影響を受けない程度に炉本体4から距離を空けて配置されることが望ましい。
【0030】
また、スクラップ2の投入状態を撮影するにあたり、コントラストや明るさ、露出などを調整して、スクラップ2を適切に視認できるようにしておくことが望ましい。これらの調整は、スクラップ撮影カメラ20にて処理されてもよいし、後述するカメラ画像取得部32にて処理されてもよい。
【0031】
3.アーク切れ予測装置
図3は、実施の形態1に係るアーク切れ予測装置30が有する機能の概要を例示するブロック図である。
図3に示す構成は一例であり、これに限定されるものではない。アーク切れ予測装置30は、スクラップ2の投入毎に得られるスクラップ2の投入状態と、溶解時の操業のデータから、アーク切れを予測して、その結果を出力する。
【0032】
(操業データ収集部)
操業データ収集部31は、制御実績データを収集する。制御実績データは、操業時系列データと操業属性データを含む。
【0033】
操業時系列データは、溶解時の制御出力の情報である。操業時系列データは、例えば、各電極7の、設定および実績電流値、実績電圧値、昇降速度基準値、実績電流値が過電流の水準に達したか否かを表すフラグ信号を含む。さらに操業時系列データは、操業者による手動操作があったか否かを表すフラグ信号、またその昇降速度指令値、アーク切れ発生などのトラブル発生に伴う遮断機の入切のフラグ信号、などを含む。操業時系列データは、これらJ個の信号を一定のサンプリング間隔Δtで取得した各サンプリング点(サンプリング時刻)のデータである。
【0034】
操業属性データは、その他の溶解の操業に付随する情報である。操業属性データは、例えば、スクラップ2の投入時刻と投入量、電極7の消耗状態、溶解後の炉内温度、投入されたスクラップ2の鋼種、組成の他、成分調整時に投入した元素の量、などを含む。操業属性データは、溶解の状況を総括した情報である。
【0035】
操業データ収集部31で収集した情報は、例えば、
図4に示すように、操業時系列データおよび操業属性データを、溶解番号や各工程の開始時刻により紐づけて、データベース33へ格納される。
【0036】
(カメラ画像取得部)
カメラ画像取得部32は、スクラップ撮影カメラ20から、スクラップ2の投入状態(スクラップ2の配置および粗密状態)を撮影した画像データ(撮像データ)を取得する。その後、カメラ画像取得部32は、アーク切れ学習部34およびアーク切れ予測部35で使用するためのスクラップ画像データを生成する。
【0037】
図5は、カメラ画像取得部32におけるスクラップ画像データの生成手順について説明するためのフローチャートである。
【0038】
ステップS100において、カメラ画像取得部32は、炉本体4にスクラップ2が投入されたタイミングであるか否かを判定する。スクラップ2が投入されたタイミングでない場合は、カメラ画像取得部32はスクラップ投入タイミングを待つ。
【0039】
一方、スクラップ2が投入されたタイミングである場合は、ステップS110において、カメラ画像取得部32は、スクラップ撮影カメラ20からスクラップ投入時の画像データ(撮像データ)取得する。
【0040】
ステップS120において、カメラ画像取得部32は、撮像データをグレースケール化する。グレースケール化により、スクラップ2の投入時の粗密の状態を表す明度を得る。グレースケール化の方法として、例えば、以下のような変換方法がある。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
ここで、imgは、撮像データの色空間の数値配列である。wは、画像の横方向の画素数である。hは、画像の縦方向の画素数である。Iは、横方向画素位置x、縦方向画素装置yにおける画素値である。img_grayは、グレースケール後の数値配列である。I’(x,y)は、横方向画素位置x、縦方向画素位置yにおけるグレースケール後の画素値である。
【0046】
一例として、I(x,y)の色空間をRGB空間にて記述しているが、この限りではない。また、I’(x,y)を算出するための各係数は、アナログ信号とデジタル信号の変換に係る国際規格であるITU-R BT.601(Studio encoding parameters of digital television for standard 4:3 and wide screen 16:9 aspect ratios International Telecommunication Union)にて定められたものであり、他の規格に依ってもよい。
【0047】
設備環境によっては、スクラップ2が常に視認できるとは限らない。そのため、スクラップ投入後、蓋体5を閉じる前に、複数回撮像データを得た後に、上述の処理にて得たグレースケール画像を、各画素位置での平均値から得てもよい(式(5))。
【0048】
【0049】
ここで、Ncapは、スクラップ投入後、蓋体5を閉じる前に取得した撮像データの取得数である。
【0050】
次にステップS130において、カメラ画像取得部32は、グレースケールデータの画素数を変更する。
【0051】
カメラ画像取得部32は、グレースケール化された画像を、平滑化した後に、アーク切れ学習部34およびアーク切れ予測部35にて利用する所定の画素数(データ数)へ調整し、スクラップ画像データを得る。例えば、ガウシアンフィルタは、ガウス分布gにより近傍画素値に重みづけをして、画像を平滑化する(式(6))。
【0052】
【0053】
これは、一例であって、平均値フィルタリングやメディアンフィルタリングによる平滑化も可能である。平滑化した画像に対して画素数を調整する。以下の手順で画素数を調整できる(式(7))。
【0054】
【0055】
ここで、img_resizeは、平滑化された画像の数値配列である。xは、平滑化された画像の横方向画素位置である。yは、平滑化された画像の縦方向画素位置である。αは、倍率である。記号[]は、四捨五入である。Rは、平滑化された画素数値(明度指標)である。w’は、平滑化された画像の横方向画素数である。h’は、平滑化された画像の縦方向画素数である。
【0056】
スクラップ2の投入状態を示す指標として画素の明度が用いられる。スクラップ2の配置および粗密状態は、スクラップ画像データの各画素の明度指標に基づいて表される。
図6は、スクラップ画像データの一例を示す図である。
【0057】
ステップS140において、カメラ画像取得部32は、スクラップ画像データをデータベース33に格納する。スクラップ画像データの数値配列は、明度指標として、データベース33に格納される。スクラップ画像データは、
図7のように、溶解番号および撮影日時に紐づけて保存される。
【0058】
(アーク切れ学習部)
次にアーク切れ学習部34について説明する。
アーク切れ学習部34は、データベース33へ格納された学習用データおよび評価用データに基づいて、アーク切れ予測モデルを構築する。学習用データおよび評価用データは、アーク炉から過去に出鉱されたスクラップ2に関する、スクラップ画像データと、操業時系列データと、操業属性データと、アーク切れ発生ラベルとを含む。アーク切れ発生ラベルは、操業時系列データの各サンプリング時刻について電流値が短絡相関値よりも高いサンプリング時刻に関連付けられたアーク切れの発生を示す。
図8を参照してアーク切れ予測モデルの構築手順について説明する。
【0059】
図8は、アーク切れ学習部34におけるアーク切れ予測モデルの構築手順について説明するためのフローチャートである。
【0060】
ステップS200において、アーク切れ学習部34は、データベース33へ格納された溶解番号の総数、つまり、チャージ数Mchargeが、モデル学習に必要な回数MLearningより多いか否かを判定する。
【0061】
MchargeがMLearningより多い場合、ステップS210において、アーク切れ学習部34は、溶解番号や日時に基づいてデータベース33から、操業時系列データ、操業属性データ、スクラップ画像データを取得する。一方、MchargeがMLearning以下である場合、アーク切れ予測モデルの学習に使用するデータ数が十分ではないため、アーク切れ学習部34は、現在のチャージが終了した後にステップS200の処理を再実行する。
【0062】
ステップS220において、アーク切れ学習部34は、アーク切れラベルを取得する。ここで、
図9を参照し、ステップS220におけるアーク切れラベルの付与手順について説明する。
図9は、アーク切れ学習部34におけるアーク切れラベルの付与手順について説明するためのフローチャートである。
図9の処理は、データベース33に記憶された操業時系列データ毎に実行される。
【0063】
図9のステップS300において、アーク切れ学習部34は、操業時系列データを取得する。
【0064】
ステップS310において、アーク切れ学習部34は、取得した操業時系列データのサンプリング点nにおけるデータの、実績電流値IAct(n)が所定の電流値IARCよりも小さいか否かを判定する。IAct(n)がIARCよりも小さい場合はステップS320の処理が実行される。
【0065】
ステップS320において、アーク切れ学習部34は、サンプリング点nにおけるデータの遮断機の入切信号SVCB(n)がオフであるか否かを判定する。SVCB(n)がオフである場合はステップS330の処理が実行される。
【0066】
ステップS330において、アーク切れ学習部34は、操業者による手動操作があったか否かを表す信号SMAN(n)がオフであるか否かを判定する。SMAN(n)がオフである場合はステップS340の処理が実行される。すなわち、ステップS310~ステップS330のすべての判定条件が成立する場合は、ステップS340の処理が実行される。
【0067】
ステップS340において、アーク切れ学習部34は、サンプリング点nから所定のサンプリング点数NOCだけ前後したサンプリング点数分(n-NOC,n-NOC+1,n-NOC+2,…,n-1,n,n+1,…,n+NOC-2,n+NOC-1,n+NOC)の操業時系列データを取得する。
【0068】
ステップS350において、アーク切れ学習部34は、ステップS340で取得した操業時系列データにおいて実績電流値が過電流(短絡相関値)の水準に達したか否かを表す信号SOvercurrentがオンとなっている時刻があるか否かを判定する。SOvercurrentがオンとなっている時刻がある場合、アーク切れ学習部34は、アーク切れラベルLARCにマークをする(LARC=1)。
【0069】
サンプリング点nにおける所定のサンプリング点数NOCは、操業時系列データの溶解工程内の短い範囲を指定する、あらかじめ決めた点数である。そして、このとき、アーク切れが発生する前にこの予兆を捉える必要があるので、アーク切れラベルは、アーク切れを予測する所望の時刻Taimとサンプリング間隔Δtを元に式(8)で算出されるサンプリング点数Naim分だけ遡ったサンプリング点にて付与される。つまり、アーク切れ学習部34は、サンプリング点n-Naimのアーク切れラベルLARC(n-Naim)にマークをする。
【0070】
【0071】
すなわち、ステップS310~ステップS350のすべての判定条件を満たす場合、ステップS360において、アーク切れ学習部34は、アーク切れラベルLARC(n-Naim)にマークをする(LARC(n-Naim)=1)。マークされたアーク切れラベルをアーク切れ発生ラベルとよぶ。一方、ステップS310~ステップS350のいずれかの判定条件を満たさない場合、ステップS370において、アーク切れ学習部34は、アーク切れラベルLARC(n-Naim)にマークをしない(LARC(n-Naim)=0)。
【0072】
上述したアーク切れラベルの付与の方法は、一例であって、他の条件や手順によってアーク切れラベルを生成してもよいし、操業者が何らかの入力端末からアーク切れラベルを生成してもよい。アーク切れラベルは、操業時系列データの溶解番号とサンプリング点とに関連付けられて、データベース33に格納される。
【0073】
図8に戻りアーク切れ予測モデルの構築手順について説明を続ける。
ステップS220において、上述した
図9の処理によりデータベース33に格納されたアーク切れラベルが取得される。
【0074】
ステップS230において、アーク切れ学習部34は、アーク切れラベル総数NLabelが、所定のアーク切れ発生回数NLabel’より多いか否かを判定する。アーク切れラベル総数NLabelは、チャージ数Mcharge分の操業時系列データの各サンプリング点においてアーク切れが発生した総数である。
【0075】
NLabelがNLabel’より多い場合、ステップS240において、アーク切れ学習部34は、データベース33から学習用データを取得する。学習用データは、データベース33に格納された、スクラップ画像データと操業時系列データと操業属性データとアーク切れラベルの組の一部である。一方、NLabelがNLabel’以下の場合、アーク切れ予測モデルの学習に使用するデータ数が十分ではないため、アーク切れ学習部34は、現在のチャージが終了した後にステップS210の処理を再実行する。
【0076】
ステップS250において、アーク切れ学習部34は、取得した学習用データを用いて後述するアーク切れ予測モデルを学習する。
【0077】
ステップS260において、アーク切れ学習部34は、データベース33から評価用データを取得する。評価用データは、データベース33に格納された、スクラップ画像データと操業時系列データと操業属性データとアーク切れラベルの組からなるデータ群のうち、学習用データを除いた一部である。
【0078】
ステップS270において、アーク切れ学習部34は、評価用データを用いて後述するアーク切れ予測モデルを評価する。
【0079】
ステップS280において、アーク切れ学習部34は、アーク切れ予測モデルを適用するか否かを判定する。評価値が所定値以上である場合、アーク切れ予測モデルはデータベース33へ保存される。一方、評価値が所定値未満である場合、学習したアーク切れ予測モデルの精度が十分ではないため、アーク切れ学習部34は、現在のチャージが終了した後にステップS210の処理を再実行する。
【0080】
ステップS290において、アーク切れ学習部34は、アーク切れ予測モデルを更新または保存する。既に学習済みのアーク切れ予測モデルがある場合、アーク切れ学習部34は、これを更新してもよいしそれぞれ保存してもよい。アーク切れ予測モデルは、データベース33に格納される。
【0081】
上述したステップS250におけるアーク切れ予測モデルの学習と、ステップS270におけるアーク切れ予測モデルの評価について、より具体的に説明する。
【0082】
アーク切れ予測モデルは、一例として次のような線形回帰モデルで表すことができる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
ここで、Lpredはアーク切れ予測、Ipredは予測電流値、Xは予測モデルの説明変数(入力値)、βは係数、εは擾乱項、NLは学習用データ総数、pは説明変数の個数である。式(9)において、サンプリング点iにおけるアーク切れ予測Lpred i=1であることは、式(8)に示すサンプリング点数Naim経過後の時刻i+Naimにおいてアーク切れが発生することを予測している。
【0088】
アーク切れ予測モデルは、学習用データを用いて式(10)および式(11)を満たすように、β、εを決定することで構築される。その後、アーク切れ予測モデルは、評価用データおよび式(12)を用いて評価される。アーク切れ予測モデルは、学習用データおよび評価用データにて式(12)が最小となるように構築されることが望ましい。ここで、NVは評価に使用するデータ総数である。上述したステップS280では、式(12)に基づく評価値を用いることができる。
【0089】
線形回帰モデルは一例であり、機械学習のような非線形モデルを用いてアーク切れ予測モデルを構築してもよい。例えば、アーク切れモデルとして、決定木によるアンサンブル学習モデルである、XGBoost(Extreme Gradient Boosting)による分類器や、同様の、Random Forestなどを適用してもよい。ここでは、一例として、XGBoostの概念を以下に示す。XGBoostでは、並列化された複数の決定木の結果をアンサンブルすることで予測値を得る。入力値Xiに対して得られる予測値ypred iは、次式により得られる。
【0090】
【0091】
ここでXiは入力値、Kは木の数、Tは葉の数、ωは葉の重み、Fは回帰木空間である。モデル構築の初期段階では、木の数K=1である。得られた予測値と目的値の差が最小となるとき、精度の良いモデルとなる。モデルの精度は、次式のような損失関数L(φ)を計算することで評価される。
【0092】
【0093】
ここで、yiは目的値、lは予測値と目的値の残差、Ωは正則化項、γおよびλはパラメータである。損失関数L(φ)が最小となるモデルを求めていく。損失関数L(φ)が最小となるモデルを生成するために、Gradient Boostingにより決定木を増やすことでL(φ)の最小化を目指す。このような分類器を用いる場合には、予測値ypred iをアーク切れ予測Lpredととる。あるいは、電流値を予測する回帰モデルとする場合には、予測値ypred iを予測電流値Ipredととって、さらに式(9)のような条件によってアーク切れを判定してもよい。
【0094】
サンプリング点iにおけるアーク切れ予測Lpred iを出力するためにアーク切れ予測モデルへ入力する説明変数は、例えば以下のようにとることができる。
【0095】
【0096】
ここで、R
w’h’はスクラップ画像データの明度指標、P
Kは操業属性データ、O
i(j)はサンプリング点iの操業時系列データのj成分(j=1,2,…,J)である。操業時系列データは、サンプリング点iの成分のみ説明変数にとってもよいし、サンプリング点iから所定のサンプリング点N
Buff分だけ遡ったサンプリング点分の成分を説明変数に加えてもよい。N
Buffは、
図11に示すような溶解工程内の短い範囲の点数である。スクラップ画像データの明度指標R
w’h’と操業属性データP
Kに紐づけられた日時データに相当する操業時系列データが取得される。つまり、アーク切れ予測モデルを、線形回帰モデルとした場合、例えば、式(10)内のp(説明変数の個数)は、以下のように表される。
【0097】
【0098】
(アーク切れ予測部)
次にアーク切れ予測部35について説明する。
アーク切れ予測部35は、スクラップ画像データに基づくスクラップ2の配置および粗密状態と、制御実績データとを、アーク切れ予測モデルに入力して、スクラップ2と電極7との短絡によるアーク切れの発生を予測する。
【0099】
図12は、アーク切れ予測部35におけるアーク切れ予測手順について説明するためのフローチャートである。
【0100】
ステップS400において、アーク切れ予測部35は、炉本体4にスクラップ2が投入されたタイミングであるか否かを判定する。スクラップ2が投入されたタイミングでない場合は、アーク切れ予測部35はスクラップ投入タイミングを待つ。
【0101】
一方、スクラップ2が投入されたタイミングである場合、上述した
図5と同様の処理により、溶解開始前に、カメラ画像取得部32によりスクラップ画像データが生成される。
【0102】
ステップS410において、アーク切れ予測部35は、最新のスクラップ画像データを取得する。スクラップ画像データは、カメラ画像取得部32から直接取得されてもよいし、データベース33に格納された後に取得されてもよい。
【0103】
ステップS420において、アーク切れ予測部35は、溶解が開始されたか否かを判定する。溶解が開始されていない場合、アーク切れ予測部35は溶解開始を待つ。
【0104】
溶解が開始された後、ステップS430において、アーク切れ予測部35は、現在のチャージにおける操業時系列データおよび操業属性データを取得する。操業データ収集部31にて収集された操業時系列データは、操業データ収集部31から直接、時々刻々、サンプリング周期に従って取得されてもよいし、データベース33に格納された後に取得されてもよい。
【0105】
ステップS440において、スクラップ画像データと操業時系列データと操業属性データとを入力値とし、アーク切れ予測モデルを用いてアーク切れを予測する。アーク切れ予測モデルの入力値は、モデル構築時と同様に説明変数である(式(15))。したがって、最新のサンプリング点nNowよりNBuff点だけ遡ったサンプリング点分を、操業時系列データとして取得する。ここで得られたアーク切れ予測モデルの入力値(説明変数)を、データベース33に保存したアーク切れ予測モデルに入力して、アーク切れを予測する。
【0106】
ステップS450において、アーク切れ予測部35は、最新のサンプリング点nNowについてのアーク切れ予測結果を出力する。例えば、アーク切れ予測結果はデータベース33へ格納される。ここで、アーク切れ予測Lpredが1となった場合、アーク切れ予報出力部36は、映像、音、振動などにより、アーク切れの発生予報を発報する。発報を受けた操業者は、アーク切れを回避するよう、電極7を上昇させる操作を実施できる。これにより、遮断機のトリップによる操業停止時間を削減できる。
【0107】
ステップS460において、アーク切れ予測部35は、溶解が終了したか否かを判定する。溶解が終了していない場合は、アーク切れ予測部35は、再びステップS430の処理に戻り、最新の制御実績データに基づいてアーク切れを予測する。
【0108】
4.効果
以上説明したように、本実施の形態に係るアーク切れ予測装置30によれば、溶解中のスクラップの崩落による短絡を起因とした遮断機の切断(アーク切れ)の発生を予測できる。またアーク切れの発生予報を発報することで、操業者は、スクラップ2と電極7の接触による短絡を防ぐよう電極7を上昇させることができる。そのため、遮断機のトリップによる操業停止を回避できる。
【0109】
5.変形例
ところで、上述した実施の形態1に係るアーク炉設備1においては、アーク切れ予測部35は、アーク切れ学習部34において構築されたアーク切れ予測モデルを利用してアーク切れの発生を予測する。しかしながら、予め適切なアーク切れ予測モデルが存在する場合には、アーク切れ予測部35は、その予測モデルを利用してアーク切れの発生を予測することとしてもよい。なお、この点は以下の実施の形態でも同様である。
【0110】
なお、
図3では、アーク切れ予報出力部36は、アーク切れ予測装置30の外に配置されているが、アーク切れ予測装置30に含めることとしてもよい。
【0111】
実施の形態2.
次に、
図13を参照して本開示の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態と重複する説明は省略する。
【0112】
実施の形態2では、スクラップ2の投入状態を示す指標として、画素の明度に加えて高さを用いる。スクラップ2の配置および粗密状態は、スクラップ画像データの各画素の明度指標および高さ指標に基づいて表される。これにより、アーク切れ予測モデルの説明変数として、より正確なスクラップ2の投入状態が与えられ、精度高くアーク切れが発生するか否かを予測することができる。
【0113】
実施の形態2に係るスクラップ撮影カメラ20は、物体を3次元で撮影可能である。スクラップ撮影カメラ20の配置は、上述した実施の形態1と同様である。スクラップ撮影カメラ20の撮像データには、スクラップ投入時の高さの情報が含まれる。
【0114】
3次元で撮影可能なカメラの種類として、例えば、ステレオカメラ方式、ToF(Time of Flight)方式、プロジェクタ方式などがある。ステレオカメラ方式では、複数台のカメラを用いて、それぞれの設置間隔や、焦点距離、撮像の差異(視差)によって、対象物と、ステレオカメラの距離を導出する。ToF方式では、同カメラから照射されるパルス光や連続光の、対象物からの反射の速度によって、対象物とカメラの距離を導出する。プロジェクタ方式では、対象物に照射された縞模様の歪みによって、対象物の高低差を導出する。
【0115】
ここで示した3次元撮影方法は、その原理を説明するものであって、いずれの方式を利用してもよい。また、ここに示していない方式であっても、3次元で撮影可能であればよい。炉本体4の構造と、スクラップ撮影カメラ20を設置する場所の情報があれば、スクラップ投入後の3次元カメラと、スクラップ2の高低差からなる高さの情報を元に、炉内のスクラップ2の高さの情報を得ることができる。
【0116】
上述したスクラップの投入状態による明度数値配列imgresizeと、スクラップの投入状態の高さ数値配列imgheightは、例えば以下のように得ることができる。
【0117】
【0118】
ここで、Hは、横方向画素数w’、縦方向画素数h’における高さ数値(高さ指標)である。カメラ画像取得部32は、これらの情報を含むスクラップ画像データを実施の形態1と同様に、
図13に示す形式でデータベース33へ格納する。
【0119】
こうして得られたスクラップ画像データを元に、実施の形態1と同様に、アーク切れ予測モデルを構築し、その予測モデルを使用して、アーク切れを予測する。このとき、アーク切れ予測モデルの構築や、予測に用いられる入力値(説明変数)は、以下のような構成になる。
【0120】
【0121】
以上説明したように、実施の形態2に係るアーク炉設備1によれば、明度指標および高さ指標を含む情報をアーク切れ予測モデルの説明変数とする。高さ指標を加えることで、実施の形態1に比してより精度高くアーク切れの発生を予測できる。
【0122】
実施の形態3.
次に、
図14を参照して実施の形態3について説明する。上述した実施の形態と重複する説明は省略する。
【0123】
実施の形態3は、アーク切れが発生すると予測された場合にアーク切れの予報を発報するアーク切れ予報出力部36に加え、短絡予防出力部37を有することを特徴とする。短絡予防出力部37は、アーク切れが発生すると予測された場合に、電極の昇降を自動操作することで、スクラップと電極の接触に伴う短絡を起因とした遮断機の切断を予防する。
【0124】
実施の形態3における入力値は、実施の形態1または実施の形態2のいずれ形態であってもよい。アーク切れ予測部35において、アーク切れ予測Lpredが1となった場合、短絡予防出力部37では、電極7の上昇指令値を出力する。指令値は、制御装置9へ出力され、電極7を予め定めた回避高さまで上昇させる。そのため、操業者による操作を待たずに遮断器の切断を予防できる。
【0125】
なお、
図14では、短絡予防出力部37は、アーク切れ予測装置30の外に配置されているが、アーク切れ予測装置30に含めることとしてもよい。
【0126】
(ハードウェア構成例)
図15は、上述した各実施の形態に係るアーク切れ予測装置30が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
図3および
図14のアーク切れ予測装置30内の各部は機能の一部を示し、各機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0127】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムおよび各種データを読み出して実行することにより、各機能を実現する。メモリ92は、主記憶装置および補助記憶装置を含む。メモリ92は、データベース33に保存される各種データを格納する。
【0128】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0129】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0130】
1 アーク炉設備
2 スクラップ
3 溶湯
4 炉本体
5 蓋体
6 タップ孔
7 電極
8 電極昇降装置
9 制御装置
10 出力装置
20 スクラップ撮影カメラ
30 アーク切れ予測装置
31 操業データ収集部
32 カメラ画像取得部
33 データベース
34 アーク切れ学習部
35 アーク切れ予測部
36 アーク切れ予報出力部
37 短絡予防出力部
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ハードウェア