(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】臭素系難燃化合物の測定方法及び同方法用ガスクロマトグラフカラム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/06 20060101AFI20240910BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240910BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240910BHJP
G01N 30/60 20060101ALI20240910BHJP
G01N 30/56 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01N30/06 G
G01N30/88 X
G01N30/88 C
G01N30/72 A
G01N30/60 K
G01N30/56 Z
(21)【出願番号】P 2023529283
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2021023636
(87)【国際公開番号】W WO2022269763
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-531866(JP,A)
【文献】KUDO, Yukihiko et al.,Development of a screening method for phthalate ester in polymers using a quantitative database in c,Journal of Chromatography A,2019年,Vol.1602,pp.441-449
【文献】フタル酸エステル類分析用UA-PBDEカラム専用 UAガードカラムの開発 Part1:構造,2020年04月01日,<URL:https://www.frontier-lab.com/assets/file/technical-note/UAT-008.pdf>,<https://www.frontier-lab.com/jp/news/p3/>,<https://www.frontier-lab.com/jp/products/ultra-alloy-metal-capillary-columns/76584/>
【文献】3-1イナートキャップシリーズ ガードカラム一体型カラムInertCap ProGuard,,ジーエルサイエンス株式会社、GENERAL CATALOG 総合カタログ31,2019年03月29日,pp.376,<URL:https://ebook-gls.meclib.jp/generalcatalog/book/#target/page_no=377>
【文献】BJORKLUND, Jonas et al.,Influence of the injection technique and column system on gas chromatographic determination of polyb,Journal of Chromatography A,2004年,Vol.1041,pp.201-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を含有する試料を加熱して該試料に含まれる対象化合物を気化させ、
内部に前記対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、接続部品を用いることなく該分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムとを有する分析カラムを、前記対象化合物を気化させる際の最高温度よりも低い温度に温調し、
気化させた前記対象化合物を前記分析カラムに導入し、
前記分離カラムから流出する対象化合物を検出する
ものである
、臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項2】
前記対象化合物をパイロライザーにおいて気化させる、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項3】
前記分析カラムのうち、前記分離カラムにのみ固定相が設けられている、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項4】
前記ガードカラムの長さが50cm以上4m以下である、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項5】
前記分離カラムの長さが10m以上30m以下である、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項6】
前記分離カラムから流出する対象化合物を質量分離して検出する、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項7】
さらに、前記対象化合物の含有量が予め決められた範囲内であるか否かに基づいて、前記試料をスクリーニングする、請求項1に記載
の臭素系難燃化合物の測定方法。
【請求項8】
ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、
接続部品を用いることなく前記分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムと
を備えるガスクロマトグラフカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法、及び該方法を実施する際に用いるガスクロマトグラフカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フタル酸エステル類(フタル酸ジ(2-エチルへキシル)(DEHP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジブチル(DBP)、及びフタル酸ジイソブチル(DIBP))や、臭素系難燃化合物であるポリ臭化ビフェニル群(polybrominated biphenyls, PBBs, 分子式C12H(10-n)Brn(1≦n≦10))及びポリ臭化ジフェニルエーテル群(polybrominated diphenyl ethers, PBDEs, 分子式C12H(10-m)BrmO(1≦m≦10))はRoHS指令における規制対象の化合物に指定されており、欧州に輸出される電気電子機器製品に含まれる樹脂等の各部品に許容されるフタル酸エステル類、PBBs、及びPBDEsの総含有量がそれぞれ定められている。
【0003】
樹脂試料に含まれるフタル酸エステル類、PBBs、及びPBDEsの測定には、熱分解-ガスクロマトグラフィ/質量分析(Py-GC/MS)法やパイロライザー/熱脱離-ガスクロマトグラフィ/質量分析(Py/TD-GC/MS)法が用いられている。Py-GC/MS法では、樹脂試料を収容した容器をパイロライザーに導入して加熱することにより樹脂を熱分解させて、その熱分解物及び樹脂試料に含まれるフタル酸エステル類、PBBs、及びPBDEs(以下、これらをまとめて「規制化合物」と呼ぶ。)をガスクロマトグラフに導入する。Py-GC/MSでは、例えば約600℃に樹脂試料を加熱する。Py/TD-GC/MS法では、樹脂試料を収容した容器をパイロライザーに導入して樹脂が熱分解する温度以下の温度に加熱することにより樹脂内に含まれる規制化合物を樹脂から脱離させてガスクロマトグラフに導入する。Py/TD-GC/MSでは、例えば約340℃に樹脂試料を加熱する。
【0004】
Py-GC/MS法では、規制化合物だけでなく、樹脂の熱分解物及び樹脂試料に含まれる規制化合物以外の化合物(夾雑化合物)もガスクロマトグラフに導入される。Py/TD-GC/MS法でも、樹脂試料の一部が熱分解して生成された熱分解物、及び夾雑化合物がガスクロマトグラフに導入される。これらの規制化合物を測定する際の分離カラムの保温温度は、パイロライザーで樹脂試料を加熱する際の温度よりも低い(例えば約300℃以下)ため、樹脂試料の分解物や夾雑化合物の一部が分離カラム内に付着して残留し、分離カラム内が汚染されやすい。分離カラム内が汚染されると、規制化合物を測定したときにクロマトグラムのピークがテーリングしたり、測定の再現性や定量精度が悪くなったりする。そのため、分離カラムが劣化した場合には、劣化した入口部分を切断したり、分離カラムを新品に交換したりする必要がある。電気電子機器製品には数多くの樹脂部品が用いられており、それらの樹脂部品に含まれる規制化合物の量を高頻度で測定することが求められる場合がある。しかし、分離カラムが劣化する毎に上記の作業を行うと測定効率が悪くなる。そこで、ガスクロマトグラフの分離カラムの入口にガードカラムを取り付け、分離カラムの内部の汚染を抑制することが提案されている(例えば非特許文献1及び2)。これにより分離カラムの寿命を長くして上記作業の頻度を下げ、測定効率を高くすることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】フロンティア・ラボ 株式会社,"フタル酸エステル類の分析用PBDEカラム専用 UAガードカラムセットPh", [online], [令和3年6月16日検索], インターネット<URL:https://www.frontier-lab.com/assets/file/products/UA_guard_column_J_V1.0.pdf>
【文献】J. Bjorklund et al., "Influence of the injection technique and the column system on gas chromatographic determination of polybrominated diphenyl ethers", Journal of Chromatography A, 1041, (2004), pp. 201-210
【文献】フロンティア・ラボ 株式会社, "フタル酸エステル類の熱脱着(TD)-GC/MS分析における各種試料カップの不活性さの重要性", [online], [令和3年6月7日検索], インターネット<URL:https://www.frontier-lab.com/assets/file/technical-note/PYA1-092.pdf>
【文献】Yukihiko Kudo, et al., "Development of a screening method for phthalate esters in polymers using a quantitative database in combination with pyrolyzer/thermal desorption gas chromatography mass spectrometry", Journal of Chromatography A, Volume 1602, 27 September 2019, Pages 441-449
【文献】International Electrotechnical Commission, "Determination of certain substances in electrotechnical products - Part 3-3: Screening - Polybrominated biphenyls, polybrominated diphenyl ethers and phthalates in polymers by gas chromatography-mass spectrometry using a pyrolyzer/thermal desorption accessory (Py/TD-GC-MS) " pre release version, 11, June 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、インサートチューブを用い、次のような手順でガードカラムを分離カラムに取り付けることが記載されている。まず、インサートチューブの一端からガードカラムを挿入し、他端から分離カラムを挿入する。次に、インサートチューブの両端にそれぞれフェラルを配置する。最後に、両端に位置するフェラルの外側にそれぞれナットを取り付けてフェラルを押しつぶすことにより、該インサートチューブ内部に位置するガードカラム及び分離カラムを固定する。このように、非特許文献1に記載のガードカラムを分離カラムに接続するには3段階の作業工程を経る必要があり、手間と時間がかかる。また、ガードカラムと分離カラムの接続状態が完全でないと、キャリアガスや規制化合物がリークして測定結果に誤りが生じる。樹脂製品の検査を目的として規制化合物の含有量を測定する者がこうした作業に熟練した者であるとは限らないため、より簡便に分離カラムの劣化を抑制することができる技術が求められている。さらに、非特許文献1では金属製のインサートチューブが用いられている。非特許文献3に記載されているように、上記規制化合物には金属との反応性が高いものが含まれており、インサートチューブ内に挿入されたガードカラムと分離カラムの接続部に隙間があると、インサートチューブを構成する金属に反応性の高い規制化合物が吸着し、さらに分解した場合、該規制化合物の含有量を正しく測定することができなくなる。
【0007】
ここではパイロライザーを用いて規制化合物を気化させる場合を例に説明したが、パイロライザー以外の熱脱着装置を用いてフタル酸エステル類や臭素系難燃化合物を気化させてクロマトグラフ分析する場合にも上記同様の問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、煩雑な作業を要することなく分離カラムの劣化を抑制することができ、吸着及び分解しやすいフタル酸エステル類や臭素系難燃化合物を正しく測定することができる方法、及び該方法を実施する際に用いるガスクロマトグラフ用カラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法は、
フタル酸エステル類、ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を含有する試料を加熱して該試料に含まれる対象化合物を気化させ、
内部に前記対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、接続部品を用いることなく該分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムとを有する分析カラムを、前記対象化合物を気化させる際の最高温度よりも低い温度に温調し、
気化させた前記対象化合物を前記分析カラムに導入し、
前記分離カラムから流出する対象化合物を検出する
ものである。
【0010】
また、上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、フタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法を実施する際に用いるガスクロマトグラフカラムであって、
フタル酸エステル類、ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、
接続部品を用いることなく前記分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムと
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、フタル酸エステル類、ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を分離するための固定相が設けられたカラムと、該分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムとを有する分析カラムを使用する。本発明では、分離カラムとガードカラムが接続部品を用いることなく一体的に構成されているため、これらを接続する作業が不要であり、両者の接続部からキャリアガスや対象化合物がリークしたり、接続部材に対象化合物が吸着して分解したりすることもない。従って、煩雑な作業を要することなく分離カラムの劣化を抑制することができ、かつ、分離カラムへの付着や分解が生じやすいフタル酸エステル類や臭素系難燃化合物を正しく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法の一実施例において用いる、本発明に係るガスクロマトグラフカラムの一実施例を含む、パイロライザー-ガスクロマトグラフィ/質量分析装置の要部構成図。
【
図3】キャリアガスの流速を一定にし
たときの、ガードカラムの長さとキャリアガスの流量の関係を示すグラフ。
【
図4】本実施例におけるフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定条件。
【
図5】本実施例における相対感度係数テーブルの例。
【
図6】本発明に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法の一実施例における手順を示すフローチャート。
【
図7】本発明に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法の別の実施例における手順を示すフローチャート。
【
図8】本実施例のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法及びクロマトグラフカラムを用いた効果を確認した測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法及びガスクロマトグラフカラムの一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例はパイロライザー-ガスクロマトグラフ質量分析装置(Py-GC-MS)を用いて、フタル酸エステル類、及び臭素系難燃化合物であるポリ臭化ビフェニル群(polybrominated biphenyls, PBBs, 分子式C12H(10-n)Brn(1≦n≦10))とポリ臭化ジフェニルエーテル群(polybrominated diphenyl ethers, PBDEs, 分子式C12H(10-m)BrmO(1≦m≦10))を定量することにより分析対象試料をスクリーニングするものである。以下、これらの化合物をまとめて規制化合物と呼ぶ。本実施例における分析対象試料は、RoHS指令の対象となっている樹脂製品などである。
【0014】
1.Py-GC-MSの構成
図1に、本実施例の規制化合物の測定方法において使用する、パイロライザー-ガスクロマトグラフィ/質量分析装置(Py-GC-MS)1の要部構成を示す。
【0015】
Py-GC-MS1は、大別して、ガスクロマトグラフ部10、質量分析部20、及び制御・処理部30で構成される。ガスクロマトグラフ部10は、試料気化室11と該試料気化室11内に設けられたパイロライザー12と、試料気化室に接続されたキャリアガス流路13と、試料気化室11の出口に接続されたカラム14を備えている。カラム14はカラムオーブン15の内部に収容されている。パイロライザー12とカラムオーブン15内のカラム14はそれぞれ、図示しない加熱機構により所定の温度に加熱される。
【0016】
図2に、本実施例において用いるカラム14(本発明における分析カラムに相当)の構造を示す。カラム14は、ガードカラム141と分離カラム142で構成されている。ガードカラム141は、分離カラム142の試料注入口側に該分離カラム142と継ぎ目なく一体的に設けられている。ガードカラム141及び分離カラム142はいずれも内径が0.25mmであるフューズドシリカ製のキャピラリチューブであり、分離カラム142の内壁面にのみ規制化合物との相互作用により該試料成分を脱着させる固定相(液相)が設けられている。本実施例の分離カラム142では、固定相として100%ジメチルポリシ
ロキサンを膜厚0.1μmで用いている。規制化合物を測定する固定相としてジメチルポリシ
ロキサン以外のものを用いてもよい。本実施例における規制化合物は極性が大きい化合物であることを考慮すると、固定相として無極性の物質を膜厚1.0μm以下で用いることが好ましい。但し、各規制化合物との間で一定程度の相互作用を生じさせて該固定相から脱着させる必要があるため、膜厚は0.05μm以上とすることが好ましい。
【0017】
従来用いられているガードカラムの中には内部に固定相を設けたものが存在する。ガードカラムの内部に固定相を設けることにより、夾雑物が捕集されやすくなり分離カラムに到達しにくくなるため、分離カラムが汚染されにくい。しかし、その一方でガードカラムの固定相に夾雑物と対象化合物が共に捕集されるため、対象化合物の測定時にピークがテーリングしやすくなる。本実施例では、規制化合物のピークにテーリングが生じるのを防ぐために、固定相のないガードカラム141を使用している。
【0018】
本実施例のガードカラム141の長さは2m、分離カラム142の長さは15mである。ガードカラム141は、パイロライザー12で樹脂試料を加熱したときに放出される、規制化合物以外の物質(樹脂の熱分解物や夾雑化合物など)により分離カラム142が汚染されるのを防ぐために用いられる。パイロライザー12における加熱温度よりもカラムオーブン15によるカラム14の加熱温度の方が低いため、パイロライザー12から放出されたこれらの物質は徐々に冷却されてガードカラム141の内壁面に付着する。ガードカラム141が50cmよりも短いとこれらの物質が分離カラム142に進入しやすくなる。一方、ガードカラム141が4mよりも長いと、ガードカラムを用いない場合と線速度を同じにするにはキャリアガスの流量を大きく増大しなければならず、キャリアガスの消費量が大きく増えてしまう。従って、ガードカラム141の長さは50cm以上4m以下とすることが好ましい。
【0019】
図3に、本実施例と同じ、長さ15m、内径0.25mmの分離カラムを用いて線速度を52.1cm/secとするために必要なキャリアガスの流量とガードカラムの長さの関係を示す。ガードカラム141の長さが4m以下であれば、キャリアガスの流量の増加を、ガードカラム141を使用しない場合の流量の30%以下に抑えることができる。本実施例のように2mのガードカラム141を用いれば、キャリアガスの流量を10%増やすのみで、ガードカラム141を使用しないと同じ線速度にすることができる。キャリアガスの流量の値そのものはカラムの内径や分離カラムの長さにも依存するが、多くの場合、キャリアガスの流量とガードカラムの長さは
図3と同様の関係になる。従って、ガードカラムの長さを50cm以上4m以下とすることが好ましい。
【0020】
質量分析部20は、真空チャンバ21内に、電子イオン化源22、イオンレンズ23、四重極マスフィルタ24、及びイオン検出器25を備えている。電子イオン化源22にはカラム14の内部で時間的に分離された試料成分が順次導入され、図示しないフィラメントから放出される熱電子の照射によってイオン化される。
【0021】
制御・処理部30は、記憶部31を有している。記憶部31には、規制化合物を測定する際に用いるメソッドファイルが保存されている。メソッドファイルは、規制化合物の測定条件を記載したファイルである。この測定条件には、パイロライザー12の温度、分離カラム142の温度(カラムオーブン15の温度)、キャリアガスの種類と流量、規制化合物であるフタル酸エステル類、PBBs、及びPBDEsのそれぞれを特徴づける2種類のイオン(定量イオンと確認イオン)などの情報が含まれている。
図4に測定条件の一例を示す。
図4ではフタル酸エステル類に対して3種類のイオン(1種類の定量イオンと2種類の確認イオン)、PBBs及びPBDEsに対して2種類のイオン(1種類の定量イオンと1種類の確認イオン)を記載している。定量イオンは、該定量イオンのピークの面積(あるいは高さ)から当該化合物を定量するために用いられる。確認イオンは、定量イオンのピーク面積と確認イオンのピーク面積の高さの比が予め設定された範囲内であることに基づいて当該化合物であることを確認(同定)するために用いられる。測定する試料によっては、これらの定量イオンと確認イオンのいずれかの質量電荷比が、試料に含まれる夾雑物から生成されるイオンの質量電荷比に近く、当該質量電荷比のイオンを使用することができない場合がある。そのため、記憶部31には、各化合物について1乃至複数の予備イオンの質量電荷比の情報も保存されている。
【0022】
また、記憶部31には、相対応答係数データベース311が保存されている。相対応答係数データベース311とは、規制化合物に含まれる1乃至複数の予め決められた基準化合物に、該基準化合物以外の規制化合物である参照化合物を対応付けたものである。相対応答感度係数データベース311では、基準化合物の検出感度に対する参照化合物の検出感度の比(相対応答係数RRF)がデータベース化されている。PBBs及びPBDEsに関する相対応答係数テーブルの一例を
図5に示す。フタル酸エステル類についても同様に相対応答係数データベース(例えば非特許文献4)が保存されている。なお、相対応答係数データベース311は、「2-1.相対応答係数データベースを用いる規制化合物のスクリーニング」(後記)を行う際に用いるものであり、「2-2.各規制化合物の検量線を用いる規制化合物のスクリーニング」(後記)を行う場合には、記憶部31に相対応答係数データベース311を保存しておく必要はない。
【0023】
基準化合物xに対する参照化合物aの相対応答係数RRFa/xは次式(1)で表される。
RRFa/x=RFa/RFx …(1)
ここで、RFaとRFxはそれぞれ、参照化合物aと基準化合物xの応答係数である。
【0024】
参照化合物aの応答係数RFaは、次式(2)で表される。なお、以降の数式は参照化合物aだけでなく基準化合物xについても同様である。
RFa=Aa/ma …(2)
ここで、Aaとmaはそれぞれ、マスクロマトグラムにおける参照化合物aのピーク面積と重量(mg)である。また、参照化合物aの重量maは次式(3)で表される。
ma=M×Ca …(3)
ここで、MとCaはそれぞれ、標準試料の重量(kg)と、標準試料に含まれる参照化合物aの濃度(mg/kg)である。
【0025】
制御・処理部30は、機能ブロックとして、基準化合物決定部32、標準試料測定部33、分析対象試料測定部34、基準化合物定量部35、参照化合物定量部36、及びスクリーニング部37を備えている。制御・処理部30の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた分析試料測定用プログラムをプロセッサで実行することにより上記の各機能ブロックが具現化される。また、制御・処理部30には、使用者が入力操作を行うための入力部4と、種々の情報を表示するための表示部5が接続されている。上記機能ブロックのうち、基準化合物決定部32と参照化合物定量部36(
図1に破線で示した機能ブロック)は、「2-1.相対応答係数データベースを用いる規制化合物のスクリーニング」(後記)を行うための機能ブロックであり、「2-2.各規制化合物の検量線を用いる規制化合物のスクリーニング」(後記)を行う場合には、制御・処理部30は、標準試料測定部33、分析対象試料測定部34、基準化合物定量部(定量部)35、及びスクリーニング部37(
図1に実線で示した機能ブロック)を備えればよい。
【0026】
2.規制化合物のスクリーニング手順
次に、分析対象試料をスクリーニングする手順を説明する。本実施例のPy-GC-MS1では、相対応答係数データベースを用いる規制化合物のスクリーニング、及び各規制化合物の検量線を用いる規制化合物のスクリーニングの2通りのスクリーニングを行うことができる。
【0027】
2-1.相対応答係数データベースを用いる規制化合物のスクリーニング
図6に示すフローチャートを参照して、相対応答係数データベースを用いて規制化合物をスクリーニングする手順を説明する。
【0028】
使用者が規制化合物のスクリーニングを指示すると、基準化合物決定部32は、記憶部31から相対応答係数データベース311を読み出し、そこに記載されている相対応答係数テーブル(
図5)を表示部5に表示する。使用者はこれを確認し、必要に応じて基準化合物と参照化合物の対応関係を変更する。例えば、相対応答係数テーブルにおいて選定されている基準化合物を含む標準試料を入手することが困難な場合には、当該化合物を基準化合物から削除したり、別の化合物を基準化合物として設定したりすることができる。使用者が基準化合物の確認を終えると、基準化合物が決定される(ステップ1)。
【0029】
次に、基準化合物をそれぞれ既知量含む樹脂試料を標準試料として用意し、標準試料を収容した容器をパイロライザーにセットし、測定開始を指示する。
【0030】
測定開始が指示されると、標準試料測定部33は、記憶部31に保存されている相対応答係数データベース311に対応付けられているメソッドファイルに記載された測定条件(基準化合物の測定に関連するもの)に従って標準試料を測定する(ステップ2)。本実施例では
図3に示した測定条件に基づき、まず、パイロライザー12を200℃から20℃/minの速度で昇温する。そして、300℃に達した後、5℃/minの速度で昇温し、340℃に達したところで1分間維持する。これにより標準試料に含まれている規制化合物が気化する(ステップ21)。気化した規制化合物は、キャリアガスの流れに乗って分析カラム14に導入される。パイロライザー12による標準試料の加熱を完了すると、標準試料測定部33は加熱が完了したことを表示部5に表示し(あるいは音声等で通知し)、使用者に容器の取り出しを指示する。
【0031】
パイロライザー12を加熱している間、ガスクロマトグラフの試料気化室11の試料注入部は300℃に維持され、分析カラム14は80℃に維持されている(ステップ22)。そのため、パイロライザー12で標準試料から気化した、樹脂の分解物を含む各物質は徐々に冷却されつつ分析カラム14に導入される(ステップ23)。分析カラム14に導入された樹脂の分解物は分析カラム14の入口側に設けられているガードカラム141の内部で内壁に付着する。規制化合物はガードカラム141の内壁に付着するか、主には分離カラム142の入口に到達して付着する。
【0032】
使用者がパイロライザー12から容器を取り出すと、標準試料測定部33は、カラムオーブン15の加熱を開始する。本実施例では、80℃から20℃/minの速度で昇温し、320℃で4分間維持する。分離カラム142の入口に付着していた規制化合物は、各化合物の気化温度に達したものから順に分離カラム142の内部に進入し、分離カラム142の固定相1421との作用により該固定相1421に脱着しながら分離カラム142内を進んで流出する。分離カラム142から流出した化合物は順に、電子イオン化源22に導入される。
【0033】
電子イオン化源22で生成されたイオンは、イオンレンズ23で飛行方向の中心軸(イオン光軸C)の近傍に収束されたあと、四重極マスフィルタ24に入射し、質量電荷比に応じて分離されイオン検出器25で検出される(ステップ24)。イオン検出器25からの出力信号は順次、記憶部31に送信され保存される。
【0034】
標準試料の測定中、質量分析部20ではスキャン測定と選択イオンモニタリング(SIM)測定が繰り返し実行される。具体的には、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を所定の範囲(例えばm/zが50~1000の範囲)で走査するスキャン測定と、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を、各化合物の定量イオン又は確認イオンの質量電荷比に所定時間固定する、予め設定された各m/zのSIM測定とを1セットとし、これを繰り返し行う。なお、スキャン測定は必須ではなく、SIM測定のみを繰り返し行ってもよい。
【0035】
また、標準試料の測定とは別に、n-アルカン試料も測定する。n-アルカン試料とは、炭化水素鎖の長さが互いに異なる複数の化合物を含む標準試料であり、各化合物の保持時間を基準とする保持指標を得るために用いられる。非特許文献4に記載されているように、化合物xの保持指標Ixは次式(4)で表される。
Ix=100(Cn+i-Cn){(tx-tn)/(tn+i-tn)}+100Cn …(4)
ここで、Cn, Cn+iはそれぞれ当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの炭素数、txは化合物xの保持時間、tn, tn+iは当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの保持時間である。なお、各規制化合物の保持指標が予め得られている場合には、ここでのn-アルカン試料の測定を省略し、分析対象試料の測定時にのみn-アルカン試料の測定を行い、n-アルカン試料に含まれる各化合物の保持時間と予め得られている規制化合物の保持指標の値から各規制化合物の保持時間を推定するようにしてもよい。
【0036】
標準試料の測定を完了すると、標準試料測定部33は、基準化合物のそれぞれに対応する検量線を作成する(ステップ3)。ここでは、1つの標準試料のみを測定して1点検量線を作成する。基準化合物の量と測定強度が非線形な関係にある場合には、基準化合物の含有量が異なる複数の標準試料を測定し、2点以上の測定点に基づく検量線を作成してもよい。
【0037】
基準化合物の検量線を作成した後、使用者が分析対象試料をセットし、測定開始を指示すると、分析対象試料測定部34は、相対応答係数データベース311に対応付けられているメソッドファイルに記載された測定条件を用いて分析対象試料を測定する(ステップ4)。具体的には、
図3に示した測定条件に基づき、まず、パイロライザー12を200℃から20℃/minの速度で昇温する。そして、300℃に達した後、5℃/minの速度で昇温し、340℃に達したところで1分間維持する。これにより標準試料に含まれている規制化合物が気化する(ステップ41)。気化した規制化合物は、キャリアガスの流れに乗って分析カラム14に導入される。パイロライザー12による標準試料の加熱を完了すると、標準試料測定部33は加熱が完了したことを表示部5に表示し(あるいは音声等で通知し)、使用者に容器の取り出しを指示する。
【0038】
パイロライザー12を加熱している間、ガスクロマトグラフの試料気化室11の試料注入部は300℃に維持され、分析カラム14は80℃に維持されている(ステップ42)。そのため、パイロライザー12で分析対象試料から気化した、樹脂の分解物を含む各物質は徐々に冷却されつつ分析カラム14に導入される(ステップ43)。分析カラム14に導入された樹脂の分解物は分析カラム14の入口側に設けられているガードカラム141の内壁に付着する。規制化合物はガードカラム141の内壁に付着するか、主には分離カラム142の入口に到達して付着する。
【0039】
使用者がパイロライザー12から容器を取り出すと、標準試料測定部33は、カラムオーブン15の加熱を開始する。本実施例では、80℃から20℃/minの速度で昇温し、320℃で4分間維持する。ガードカラム141または分離カラム142の入口に付着していた規制化合物は、各化合物の気化温度に達したものから順に分離カラム142の内部に進入し、分離カラム142の固定相1421との作用により該固定相1421に脱着しながら分離カラム142内を進んで流出する。分離カラム142から流出した化合物は順に、質量分析部20で質量分離され、イオン検出器25で検出される(ステップ44)。
【0040】
また、保持指標を基に各対象化合物の保持時間を予測する場合は分析対象試料の測定とは別に、n-アルカン試料も測定してもよい。分析対象試料の測定においてもスキャン測定は必須でなく、SIM測定のみを行ってもよい。しかし、スキャン測定を行っておくことにより、トータルイオンカレントクロマトグラムの作成後に測定対象化合物以外に大きなピークが見つかった場合に、当該ピークの保持時間に得られたマススペクトルを解析することで、当該ピークに対応する化合物を同定することができる。
【0041】
分析対象試料の測定を完了すると、基準化合物定量部35は、基準化合物のそれぞれの保持指標、または保持指標とn-アルカンの測定データを基に算出した予測保持時間に基づいて定量イオンと確認イオンのマスクロマトグラムのピークを決定する。そして、定量イオンのピーク面積と確認イオンのピーク面積が予め決められた範囲内であることを確認し、定量イオンのピーク面積を当該基準化合物の検量線に照らして定量値を求める(ステップ5)。
【0042】
基準化合物の定量値が得られると、参照化合物定量部36は、各参照化合物の保持時間、または各参照化合物の保持指標とn-アルカンの測定データを基に算出した予測保持時間に基づいて、各参照化合物の定量イオンと確認イオンのマスクロマトグラムのピークを決定する。そして、定量イオンのピーク面積と確認イオンのピーク面積が予め決められた範囲内であることを確認する。さらに、標準試料に含まれる基準化合物の量、標準試料を測定して検出された基準化合物の定量イオンのピーク面積、参照化合物の定量イオンのピーク面積及び相対応答係数に基づいて各参照化合物の定量値を求める(ステップ6)。
【0043】
基準化合物と参照化合物について定量値が得られると、スクリーニング部37は、それらの定量値を予め決められた閾値と比較して分析対象試料をスクリーニングする。本実施例では、RoHS指令における基準値(DEHPの量、BBPの量、DBPの量、DIBPの量、PBBsの総量、及びPBDEsの総量がいずれも1000mg/kg以下である)に基づき、分析対象試料に含まれるDEHP、BBP、DBP、DIBPの定量値が基準値の±50%の範囲内、またPBBsおよびPBDEsの総量がいずれも基準値の±70%の範囲内であるか否かスクリーニング判定する(ステップ7)。
【0044】
具体的には、例えば非特許文献5に記載されている、以下の判定基準を用いることができる。分析対象試料に含まれるDEHP、BBP、DBP、及びDIBPの定量値が500mg/kg以下である場合、またPBBs及びPBDEsの定量値の合計値がいずれも300mg/kg以下である場合には、分析対象試料がRoHS指令の基準を満たしていると判定する。また、DEHP、BBP、DBP、及びDIBPの定量値が1500mg/kg以上の場合、PBBs及びPBDEsの定量値の合計値のいずれかが1700mg/kg以上の場合には、分析対象試料がRoHS指令の基準を満たさないと判定する。そして、DEHP、BBP、DBP、及びDIBPの定量値が300mg/kgから1500mg/kgの場合(いずれかが1500mg/kg以上の場合を除く)、PBBs及びPBDEsの定量値の合計値のいずれかが300mg/kgから1700mg/kgの範囲内である場合(いずれかが1700mg/kg以上の場合を除く)には判定保留とし、当該分析対象試料を別の手法で詳細に分析してより厳密に定量値を算出する。
【0045】
2-2.各規制化合物の検量線を用いる規制化合物のスクリーニング
図7に示すフローチャートを参照して、各規制化合物の検量線を用いて規制化合物をスクリーニングする手順を説明する。なお、相対応答係数データベースを用いる規制化合物のスクリーニングと同じ手順については適宜、説明を省略する。
【0046】
使用者が、全ての規制化合物をそれぞれ既知量含む樹脂試料である標準試料を収容した容器をパイロライザーにセットして測定開始を指示すると、標準試料測定部33は、記憶部31に保存されているメソッドファイルに記載された測定条件に従って標準試料を測定する(ステップ11)。標準試料の測定に係る手順(ステップ21-24)は相対応答係数データベースを用いる場合と同様である(但し、全ての規制化合物を測定するという点では異なる)ため、詳細な説明を省略する。
【0047】
標準試料の測定を完了すると、標準試料測定部33は、各規制化合物の検量線を作成する(ステップ12)。ここでも、1つの標準試料のみを測定して1点検量線を作成する。規制化合物の量と測定強度が非線形な関係にある場合には、その規制化合物について含有量が異なる複数の標準試料を測定し、2点以上の測定点に基づく検量線を作成してもよい。
【0048】
各規制化合物の検量線を作成した後、使用者が分析対象試料をセットし、測定開始を指示すると、分析対象試料測定部34は、標準試料の測定時と同様に、記憶部31に保存されているメソッドファイルに記載された測定条件を用いて分析対象試料を測定する(ステップ13)。分析対象試料の測定に係る手順(ステップ41-44)も相対応答係数データベースを用いる場合と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0049】
分析対象試料の測定を完了すると、基準化合物定量部35は、標準試料の測定時に得られている各規制化合物の保持時間に基づいて、各規制化合物の定量イオンと確認イオンのマスクロマトグラムのピークを決定する。そして、定量イオンのピーク面積と確認イオンのピーク面積が予め決められた範囲内であることを確認し、定量イオンのピーク面積を各規制化合物の検量線に照らして定量値を求める(ステップ14)。
【0050】
各規制化合物について定量値が得られると、スクリーニング部37は、それらの定量値を予め決められた閾値と比較して分析対象試料をスクリーニングする。ここでも上記同様に、RoHS指令における基準値(DEHPの量、BBPの量、DBPの量、DIBPの量、PBBsの総量、及びPBDEsの総量がいずれも1000mg/kg以下である)に基づき、分析対象試料に含まれるDEHP、BBP、DBP、DIBPの定量値が基準値の±50%の範囲内、またPBBsおよびPBDEsの総量がいずれも基準値の±70%の範囲内であるか否かスクリーニング判定する(ステップ15)。
【0051】
このように、本実施例では、規制化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラム142と、該分離カラム142の入口側に該分離カラム142と一体に設けられたガードカラム141とを有するカラム14を使用する。分離カラム142とガードカラム141が接続部品を用いることなく一体的に構成されているため、従来の一般的なガードカラムを用いる場合のように、ナットやフェラルといった部材を用いて両者を接続する作業を行う必要がない。また、両者の接続部からキャリアガスや規制化合物がリークすることがなく、さらに、接続部材に触れて規制化合物が吸着して分解したりすることもない。従って、煩雑な作業を要することなく分離カラム142の劣化を抑制することができ、かつ、分離カラム142への付着や分解が生じやすい規制化合物を正しく測定することができる。
【0052】
上記実施例の測定方法及びカラム14を用いることにより分離カラム142の汚染を防止する効果を確認する実験の結果を説明する。この実験では、100mg/kgのDBPを含む、フタル酸エステル類測定用の樹脂標準試料(島津製作所製。P/N: 225-31003-91)を繰り返し測定し、測定回ごとに取得したマスクロマトグラムのピークの形状(対称性)を確認した。ピークの形状は、シンメトリ係数と呼ばれる指標により表され、ピークのテーリングが大きくなるほどシンメトリ係数の値が大きくなる。通常、シンメトリ係数が2.5を超えるとカラムが汚染されていると判断し、カラムの交換等を行っている。
【0053】
図8に、上記実施例のカラム14を用いた測定(測定条件は上記実施例と同じ
図4)の結果を示す。
図8のグラフは、測定回数に対するシンメトリ係数の変化をプロットしたものである。ガードカラムを有しないカラムでは、通常300~400回の測定でシンメトリ係数が2.5を上回るのに対し、上記実施例のカラム14では700回以上の測定を行ってもシンメトリ係数が2.5未満であった。つまり、従来、300~400回の測定を行う毎にカラムの交換等を行う必要があったのに対し、本実施例のカラム14を用いると少なくとも700回の測定を行う間、カラムを交換する作業を行う必要がなく、カラム14の耐久性が2倍以上に向上していることが分かる。
【0054】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例ではPy-GC-MS1を用いてPy/TD-GC/MS法により規制化合物を熱脱離させて分析対象試料をスクリーニングしたが、Py-GC/MS法により規制化合物を熱分解して分析対象試料をスクリーニングすることもできる。Py-GC/MS法を行う場合の装置構成は上記実施例と同様であり、パイロライザーによる試料の加熱温度が異なる。また、パイロライザーを用いない熱脱離装置を用いて試料から規制化合物を気化させる構成を採ることもできる。これらのいずれにおいても、樹脂試料に含まれる対象化合物を気化させるために該樹脂試料を加熱する際の最高温度の方が分離カラムの加熱温度よりも高く、上記実施例の場合と同様に規制化合物以外の物質(樹脂の分解物や夾雑化合物)が分析カラム14に導入されるため、上記実施例のようにガードカラム141を備えることにより分離カラム142の汚染を防ぐことができる。また、ガードカラム141と分離カラム142が、ナットやフェラルといった接続具を介することなく一体的に構成されているため、フタル酸エステル類や難燃性臭素系化合物のように吸着及び分解しやすい化合物を正しく測定することができる。
【0055】
また、上記実施例ではカラム14から流出した各化合物を質量分析する構成としたが、質量分析以外の方法で各化合物を検出することもできる。そのような検出器として、例えば水素炎イオン化検出器(FID)、熱イオン化検出器(FTD)、炎光光度検出器(FPD)、電子捕捉検出器(ECD)、化学発光硫黄検出器(SCD)、熱伝導度検出器(TCD)、バリア放電イオン化検出器(BID)などを用いることもできる。
【0056】
[態様]
上述した複数の例示的な実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0057】
(第1項)
本発明の一態様に係るフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法は、
フタル酸エステル類、ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を含有する試料を加熱して該試料に含まれる対象化合物を気化させ、
内部に前記対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、接続部品を用いることなく該分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムとを有する分析カラムを、前記対象化合物を気化させる際の最高温度よりも低い温度に温調し、
気化させた前記対象化合物を前記分析カラムに導入し、
前記分離カラムから流出する対象化合物を検出する
ものである。
【0058】
(第8項)
本発明の別の一態様は、フタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法を実施する際に用いるガスクロマトグラフカラムであって、
フタル酸エステル類、ポリ臭化ビフェニル群、及びポリ臭化ジフェニルエーテル群の少なくとも1つに属する対象化合物を分離するための固定相が設けられた分離カラムと、
接続部品を用いることなく前記分離カラムの入口側に該分離カラムと一体に設けられたガードカラムと
を備える。
【0059】
第1項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、第8項に記載のガスクロマトグラフカラムを用いる。このガスクロマトグラフカラムでは分離カラムとガードカラムが接続部品を用いることなく一体的に構成されているため、これらを接続する作業が不要であり、両者の接続部から対象化合物がリークしたり、接続部材に対象化合物が吸着して分解したりすることもない。従って、煩雑な作業を要することなく分離カラムの劣化を抑制することができ、かつ、分離カラムへの付着や分解が生じやすいフタル酸エステル類や臭素系難燃化合物を正しく測定することができる。
【0060】
(第2項)
第1項に記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、
前記対象化合物をパイロライザーにおいて気化させる。
【0061】
第2項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、パイロライザーにおいて試料を加熱する温度を適宜に設定することにより、熱分解により対象化合物を気化させる方法と熱脱離による対象化合物を気化させる方法を適宜に使い分けることができる。
【0062】
(第3項)
第1項又は第2項に記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、
前記分析カラムのうち、前記分離カラムにのみ固定相が設けられている。
【0063】
従来用いられているガードカラムの中には内部に固定相(液相)を設けたものが存在する。ガードカラムの内部に固定相を設けることにより、夾雑物が捕集されやすくなり分離カラムに到達しにくくなるため、分離カラムが汚染されにくい。しかし、その一方でガードカラムの固定相に捕集された夾雑物が流出して対象化合物の測定時にピークがテーリングしやすくなる。第3項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、分離カラムにのみ固定相が設けられた分析カラムを用いるため、クロマトグラムのピークがテーリングするのを抑制して規制化合物の含有量を正確に測定することができる。
【0064】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、
前記ガードカラムの長さが50cm以上4m以下である。
【0065】
第4項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、50cm以上の長さのガードカラムを用いることにより樹脂の分解物等の夾雑物が分離カラムに進入して分離カラムが汚染されることを防止することができる。また、ガードカラムが4m以下であることにより、ガードカラムを用いない場合に比べて3割程度、キャリアガスの流量を増やすのみで同等の線速度で対象化合物を測定することができる。
【0066】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、
前記分離カラムの長さが10m以上30m以下である。
【0067】
第5項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、10m以上の長さの分離カラムを用いることにより試料に含まれる規制化合物を十分に分離することができる。また、分離カラムの長さが30m以下であるため、測定時間が極端に長くなることもない。
【0068】
(第6項)
第1項から第5項のいずれかに記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、
前記分離カラムから流出する対象化合物を質量分離して検出する。
【0069】
フタル酸エステル類や臭素系難燃化合物を含む樹脂試料には、対象化合物以外にも様々な夾雑物が含まれている。また、対象化合物を気化させる際に樹脂の分解物もガスクロマトグラフのカラムに進入する。第6項のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法では、分離カラムから流出した各化合物を質量分離して検出するため、対象化合物と共溶出した夾雑物が存在する場合でも、その夾雑物を高精度で見つけ出し、対象化合物の含有量を正しく測定することができる。
【0070】
(第7項)
第1項から第6項のいずれかに記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法において、さらに、
前記対象化合物の含有量が予め決められた範囲内であるか否かに基づいて、前記試料をスクリーニングする。
【0071】
第1項から第6項に記載のフタル酸エステル類及び臭素系難燃化合物の測定方法は、第7項に記載のように、対象化合物の含有量が予め決められた範囲内であるか否かに基づいて、前記試料をスクリーニングするために好適に用いることができる。特に、第4項及び第5項に記載のような長さのガードカラム及び分離カラムを有する分析カラムを用いることにより、高効率で分析対象の試料をスクリーニングすることができる。
【符号の説明】
【0072】
1…熱脱離-ガスクロマトグラフィ/質量分析装置
10…ガスクロマトグラフ部
11…試料気化室
12…パイロライザー
13…キャリアガス流路
14…カラム(分析カラム)
141…ガードカラム
142…分離カラム
1421…固定相
15…カラムオーブン
20…質量分析部
21…真空チャンバ
22…電子イオン化源
23…イオンレンズ
24…四重極マスフィルタ
25…イオン検出器
30…制御・処理部
31…記憶部
311…相対応答係数データベース
32…基準化合物決定部
33…標準試料測定部
34…分析対象試料測定部
35…基準化合物定量部
36…参照化合物定量部
37…スクリーニング部
4…入力部
5…表示部