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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】アルデヒド組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20240910BHJP
   C07C 45/62 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 47/228 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C11B9/00 J
C07C45/62
C07C47/228
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023550497
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2022033395
(87)【国際公開番号】W WO2023053860
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021159460
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇多村 竜也
(72)【発明者】
【氏名】西内 潤也
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第1460826(FR,A)
【文献】特表2013-538220(JP,A)
【文献】特表2017-533926(JP,A)
【文献】特表2002-512609(JP,A)
【文献】国際公開第2021/075517(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00 -9/02
C07C 45/62
C07C 48/228
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である、アルデヒド組成物。
【化1】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【請求項2】
Rが水素原子である、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルデヒド組成物を含有する、香料組成物。
【請求項4】
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを更に含有する、請求項3に記載の香料組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である、アルデヒド組成物の香料としての使用。
【化2】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【請求項6】
4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドまたはプロピオンアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記一般式(5)で表されるアルデヒド及び下記一般式(6)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、請求項1又は2に記載のアルデヒド組成物を得る、アルデヒド組成物の製造方法。
【化3】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【請求項7】
酸触媒下で4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、酸触媒下で加水分解して、下記式(5a)で表されるアルデヒド及び下記式(6a)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、請求項2に記載のアルデヒド組成物を得る、アルデヒド組成物の製造方法。
【化4】
【請求項8】
4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-ノルマルブチルベンズアルデヒド)/(2-ノルマルブチルベンズアルデヒド)]が96/4~99.9/0.1である、請求項6に記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【請求項9】
前記4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドが、ノルマルブチルベンゼンを超強酸条件下にて一酸化炭素によってホルミル化により製造される4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドである、請求項6に記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルデヒド組成物、その製造方法、及び該アルデヒド組成物を含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドである3-(アルキルフェニル)-2-アルキルプロパナール類のなかには、調合香料原料として有用なものがあることが知られている。
たとえば、非特許文献1には、スズラン様の香気を有する3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール(p-tert-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、リリアール)、メロン、キュウリ的な感じのシクラメン、スズラン様の香気を有する3-(p-イソプロピルフェニル)-2-メチルプロパナール(シクラメンアルデヒド)、甘いヘリオトロープ、アニス様フローラル香を有する3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-2-メチルプロパナール(ヘリオナール)等が調合香料原料として有用であることが記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、ジヒドロシンナムアルデヒド誘導体が、香料に使用できることが開示されている。具体的には次式の方法で合成されることが開示されている。また、下記式に示されるジヒドロシンナムアルデヒド誘導体において、Rが水素原子であり、R’がn-ブチルであるときに、グリーン、花粉調を伴う強いフローラル、シクラメンの香りであることが開示されている。また、Rがメチルであり、R’がn-ブチルであるときに、繊細なグリーン、ウッディ調を伴うフローラル、シクラメンの香りであることが開示されている。更に下記製造方法によれば、パラ異性体が70%以上、オルト異性体が30%未満得られることが開示されている。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】印藤元一著、「増補新版 合成香料 化学と商品知識」、2016年、218~219ページ、221ページ、233~234ページ、化学工業日報社
【特許文献】
【0005】
【文献】仏国特許第1460826号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特にフローラル系の香料及び調合香料は、フレグランス製品、化粧料、洗剤、衛生用製品、雑貨、医薬品、食品等、様々な分野で使用されている。前記製品の価値を高めるため、新たな香りの開発が行われている。
なかでも、前記のように3-(アルキルフェニル)-2-アルキルプロパナール類には、特徴のあるフローラル香を有するものがあるが、更に新しい香りを有する香料が求められている。
そこで、本発明の課題は、新規な香りを有する香料及び香料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各種アルデヒド組成物を製造し、その香気を評価したところ、特定のアルデヒド組成物が、優れた香りを有すること、及び香料組成物の原料として優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である、アルデヒド組成物。
【化2】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
[2]Rが水素原子である、上記[1]に記載のアルデヒド組成物。
[3]上記[1]又は[2]に記載のアルデヒド組成物を含有する、香料組成物。
[4]式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを更に含有する、上記[3]に記載の香料組成物。
[5]下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である、アルデヒド組成物の香料としての使用。
【化3】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
[6]4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドまたはプロピオンアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記一般式(5)で表されるアルデヒド及び下記一般式(6)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、上記[1]又は[2]に記載のアルデヒド組成物を得る、アルデヒド組成物の製造方法。
【化4】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
[7]酸触媒下で4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、酸触媒下で加水分解して、下記式(5a)で表されるアルデヒド及び下記式(6a)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、上記[2]に記載のアルデヒド組成物を得る、アルデヒド組成物の製造方法。
【化5】

[8]4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-ノルマルブチルベンズアルデヒド)/(2-ノルマルブチルベンズアルデヒド)]が96/4~99.9/0.1である、上記[6]又は[7]に記載のアルデヒド組成物の製造方法。
[9]前記4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドが、ノルマルブチルベンゼンを超強酸条件下にて一酸化炭素によってホルミル化により製造される4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドである、上記[6]~[8]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フローラル、グリーン様かつミュゲの香りを有し、香り立ちに優れるため、香料として有用であるアルデヒド組成物を提供することができる。更に該アルデヒド組成物を含有することで、拡散性、力価、残香性に優れる香料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0011】
[アルデヒド組成物]
本発明のアルデヒド組成物は、下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である。
【化6】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【0012】
上記アルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様かつミュゲの香りを有し、香り立ち(diffusion)に優れ、香料組成物に拡散性(diffusibility)、力価(strength)、残香性(substantivity)を付与できる。
【0013】
前記式(1)において、Rはメチル基または水素原子であり、好ましくは水素原子である。前記式(2)において、Rはメチル基または水素原子であり、好ましくは水素原子である。また、前記式(1)におけるRがメチル基である場合、好ましくは前記式(2)におけるRもメチル基であり、前記式(1)におけるRが水素原子である場合、好ましくは前記式(2)におけるRも水素原子であり、より好ましくは前記式(1)におけるRと前記式(2)におけるRのいずれもが水素原子である。
【0014】
前記式(1)において、Rが水素原子である化合物は、3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールであり、Rがメチル基である化合物は、3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールである。
前記式(2)において、Rが水素原子である化合物は、3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールであり、Rがメチル基である化合物は、3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールである。
【0015】
本発明のアルデヒド組成物は、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを含有するものであり、これら2成分のみを本発明のアルデヒド組成物を構成する成分としてもよいが、実際には該アルデヒド組成物を製造する際に生成する副生成物や原料が含まれることがある。
そのため、本発明のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの合計含有量は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは96質量%以上であり、更に好ましくは97質量%以上である。上限値には制限はなく、100質量%以下であればよく、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドのみからなっていてもよい。
【0016】
本発明のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、96/4~99.9/0.1であり、好ましくは98/2~99.8/0.2であり、より好ましくは98.7/1.3~99.7/0.3であり、更に好ましくは99.0/1.0~99.6/0.4であり、より更に好ましくは99.0/1.0~99.4/0.6である。
また、香り立ち、拡散性の観点からは、本発明のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、好ましくは98.7/1.3~99.9/0.1であり、より好ましくは99.0/1.0~99.8/0.2であり、更に好ましくは99.2/0.8~99.8/0.2であり、より更に好ましくは99.3/0.7~99.7/0.3である。
本発明のアルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様でかつミュゲの香りを有し、香り立ちに優れるため香料として有用である。特に前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比が前記の範囲であることにより、ミュゲの香りが強まり、香り立ちに優れるため、香料として優れたものとなる。
【0017】
本発明のアルデヒド組成物は、下記一般式(5)で表される化合物及び下記一般式(6)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有してもよい。
【化7】

(Rはメチル基または水素を表す)
前記式(5)で表される化合物及び前記式(6)で表される化合物は、本発明のアルデヒド組成物の製造における原料あるいは合成中間体として用いられる不飽和アルデヒドである。
本発明のアルデヒド組成物における前記式(5)で表されるアルデヒド及び前記式(6)で表されるアルデヒドの合計含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。前記式(5)で表されるアルデヒド及び前記式(6)で表されるアルデヒドの合計含有量の下限値は0質量%であってもよく、前記式(5)で表されるアルデヒド及び前記式(6)で表される化合物は含まないことがより更に好ましい。
【0018】
本発明のアルデヒド組成物は、下記一般式(12)で表される化合物及び下記一般式(13)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有してもよい。
【化8】

(Rはメチル基または水素を表す)
前記式(12)で表される化合物及び前記式(13)で表される化合物は、本発明のアルデヒド組成物の製造における副生成物として得られることもあるアルコールである。
本発明のアルデヒド組成物における前記式(12)で表されるアルコール及び前記式(13)で表されるアルコールの合計含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。前記式(12)で表されるアルコール及び前記式(13)で表されるアルコールの合計含有量の下限値は0質量%であってもよく、前記式(12)で表されるアルコール及び前記式(13)で表されるアルコールは含まないことがより更に好ましい。
【0019】
本発明のアルデヒド組成物は、上述の組成を有し、フローラル、グリーン様でかつミュゲの香りを有し、香り立ちに優れるため香料として有用である。
また、前記アルデヒド組成物は、香料組成物の原料としても有用であり、各種製品の香気成分として用いることができ、香料組成物に拡散性、力価、残香性を付与することができる。
【0020】
本発明のアルデヒド組成物は、安全性にも優れている。
近年、香料原料の安全性についての要求は高くなっている。スズラン様の香気を有する3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナールは、香水やパーソナルケアおよびパブリックケア製品において、広く使用されているが、生殖器官に毒性作用を示す懸念があることから、規制の対象になっており、それを代替する香料原料が求められている。こうした状況のなか、本発明のアルデヒド組成物(式(1)及び式(2)において、Rが水素原子である組成物)は、OECD GD231に基づいたBhas42細胞を用いたIn Vitroでの発がん性予測試験においても陰性を示し、安全性にも優れている。
【0021】
[香料としての使用]
下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1である、アルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様かつミュゲの香りを有し、香り立ち(diffusion)に優れ、香料組成物に拡散性、力価、残香性を付与できることから、香料として使用することができる。下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1であるアルデヒド組成物の香料としての使用も本発明に含まれる。
【化9】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【0022】
前記式(1)において、Rはメチル基または水素原子であり、好ましくは水素原子である。前記式(2)において、Rはメチル基または水素原子であり、好ましくは水素原子である。また、前記式(1)におけるRがメチル基である場合、好ましくは前記式(2)におけるRもメチル基であり、前記式(1)におけるRが水素原子である場合、好ましくは前記式(2)におけるRも水素原子であり、より好ましくは前記式(1)におけるRと前記式(2)におけるRのいずれもが水素原子である。
【0023】
前記式(1)において、Rが水素原子である化合物は、3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールであり、Rがメチル基である化合物は、3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールである。
前記式(2)において、Rが水素原子である化合物は、3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールであり、Rがメチル基である化合物は、3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールである。
【0024】
前記アルデヒド組成物は、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを含有するものであり、これら2成分のみを前記アルデヒド組成物を構成する成分としてもよいが、実際には該アルデヒド組成物を製造する際に生成する副生成物や原料が含まれることがある。
そのため、前記アルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの合計含有量は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは96質量%以上であり、更に好ましくは97質量%以上である。上限値には制限はなく、100質量%以下であればよく、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドのみからなっていてもよい。
【0025】
前記アルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、96/4~99.9/0.1であり、好ましくは98/2~99.8/0.2であり、より好ましくは98.7/1.3~99.7/0.3であり、更に好ましくは99.0/1.0~99.6/0.4であり、より更に好ましくは99.0/1.0~99.4/0.6である。
また、香り立ち、拡散性の観点からは、本発明のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、好ましくは98.7/1.3~99.9/0.1であり、より好ましくは99.0/1.0~99.8/0.2であり、更に好ましくは99.2/0.8~99.8/0.2であり、より更に好ましくは99.3/0.7~99.7/0.3である。
前記アルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様でかつミュゲの香りを有し、香り立ちに優れるため香料として使用することができる。特に前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比が前記の範囲であることにより、ミュゲの香りが強まり、香り立ちに優れるため、香料として好適に使用することができる。
【0026】
[香料組成物]
本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物を含有する。
すなわち、本発明の香料組成物は、下記一般式(1)で表されるアルデヒド及び下記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1であるアルデヒド組成物を含有する。
【化10】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物を有効成分として含有する。前記アルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様の香り、ミュゲの香りを香料組成物に付与し、香料組成物の拡散性、力価、残香性を向上させることができる。
本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物の有するフローラル、グリーン様の香り、ミュゲの香りに加え、拡散性、力価、残香性に優れる。そのため、各種製品の香気成分として有用である。
【0027】
本発明の香料組成物における前記アルデヒド組成物の含有量は、香料組成物の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により適宜調整すればよく、好ましくは0.01~90質量%であり、より好ましくは0.1~50質量%である。
【0028】
前記アルデヒド組成物を含有する香料組成物に含有される、前記アルデヒド組成物以外のその他の成分としては、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤等が挙げられ、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましく、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、及び溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つがより好ましい。
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料を含有することで、目的の製品に合わせて香りを調整することができる。また、溶媒を含有することで、目的の製品に溶解、含浸させることが容易となり、香りの強さや香りの持続性を調整することができる。
【0029】
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料は、従来公知な香料成分であれば特に制限はなく、広い範囲の香料が使用でき、例えば下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。
【0030】
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料としては、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、ケタール類、エーテル類、ニトリル類、ラクトン類、天然精油、天然抽出物等が挙げられ、好ましくは炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、ケタール類、エーテル類、ニトリル類、ラクトン類、天然精油及び天然抽出物からなる群より選択される1種以上の香料である。
【0031】
炭化水素類としては、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-t-ブチルシクロヘキサノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等が挙げられる。
フェノール類としては、オイゲノール、チモール、バニリン等が挙げられる。
エステル類としては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等が挙げられる。
【0032】
アルデヒド類としては、n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
ケトン類としては、メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等が挙げられる。
アセタール類及びケタール類としては、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール等が挙げられる。
エーテル類としては、アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキシド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等が挙げられる。
ニトリル類としては、シトロネリルニトリル等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等が挙げられる。
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、サンダルウッド、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等が挙げられる。
【0033】
また、溶媒としては、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルミリステート、トリエチルシトレート等が挙げられる。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテル等が挙げられる。
【0034】
前記アルデヒド組成物を含有する香料組成物は、各種製品の香気成分として使用することができる。
香料組成物を使用することができる製品としては、例えば、香水、コロン類等のフレグランス製品;シャンプー、リンス類、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ムース、ジェル、ポマード、スプレーその他毛髪用化粧料;化粧水、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、各種メークアップ類等の肌用化粧料;皿洗い洗剤、洗濯用洗剤、ソフトナー類、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、室内芳香剤、ファニチャーケア、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、殺菌剤、忌避剤、その他の各種健康衛生用洗剤類;歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、パーマ液等の医薬部外品;トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の雑貨;医薬品等;食品等が挙げられる。
【0035】
上記製品中の香料組成物の配合量は特に限定されず、賦香すべき製品の種類、性質及び官能的効果などに応じて、香料組成物の配合量を選択することができる。例えば、製品中の香料組成物の配合量は、好ましくは0.00001質量%以上であり、より好ましくは0.0001質量%以上であり、更に好ましくは0.001質量%以上である。また、好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下であり、より更に好ましくは40質量%以下である。
なお、香料組成物をアロマオイル、香水等として用いる場合には、製品中の香料組成物の配合量は、80質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0036】
[アルデヒド組成物の製造方法]
本発明のアルデヒド組成物は、上述のとおり、前記一般式(1)で表されるアルデヒド及び前記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、それらの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1であれば、製造方法には制限がないが、次に示す製造方法によって得ることが好ましい。
本発明のアルデヒド組成物の好ましい製造方法として、以下に2つの方法を示すが、いずれも、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを原料として、下記一般式(5)で表されるアルデヒド及び下記一般式(6)で表されるアルデヒド(シンナミックアルデヒド)を得る工程1、並びに水素添加工程である工程2をこの順で有する。
前記水素添加工程によって、目的とする前記一般式(1)で表されるアルデヒド及び前記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有するアルデヒド組成物を得ることができる。
【化11】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【0037】
また、前記工程1に供される前記4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドが、ノルマルブチルベンゼンを超強酸条件下にて一酸化炭素によってホルミル化により製造される4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドであることが好ましい。
以上の各工程をまとめると、次式のようになる。
【化12】

(Rはメチル基または水素を表す)
ここで、式(7)で表される化合物はノルマルブチルベンゼンであり、式(3)で表される化合物は4-ノルマルブチルベンズアルデヒドであり、式(4)で表される化合物は2-ノルマルブチルベンズアルデヒドである。
【0038】
<ホルミル化工程>
前記工程1に供される前記4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドは、ノルマルブチルベンゼンを超強酸条件下にて一酸化炭素によってホルミル化により製造される4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドであることが好ましい。
したがって、本発明のアルデヒド組成物の製造方法における最初の工程として、ノルマルブチルベンゼンを超強酸触媒下で一酸化炭素と反応させて4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを得るホルミル化工程を有することが好ましい。すなわち、「超強酸条件下」とは、反応に超強酸触媒を使用することを意味する。
【0039】
超強酸触媒はブレンステッド酸とルイス酸との組合せによるものが好ましい。
ブレンステッド酸は特に限定されないが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素が好ましく、フッ化水素がより好ましい。
ルイス酸は特に限定されないが、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムが好ましく、三フッ化ホウ素がより好ましい。
触媒の回収・再利用、ホルミル基の位置選択制の観点から、フッ化水素及び三フッ化ホウ素の組合せが更に好ましい。
【0040】
ブレンステッド酸としてフッ化水素を用いる場合、フッ化水素は、反応の溶媒としての機能をも有する。フッ化水素としては、反応性の観点から、実質的に無水のフッ化水素が好ましい。なお、「実質的に無水である」とは、水の含有量が5質量%以下であることを意味し、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。
ノルマルブチルベンゼンに対するフッ化水素のモル比[フッ化水素(モル)/ノルマルブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは10.0以上であり、そして、経済性及び生産効率の観点から、好ましくは30.0以下であり、より好ましくは20.0以下であり、更に好ましくは15.0以下である。
【0041】
ルイス酸として三フッ化ホウ素を用いる場合、ノルマルブチルベンゼンに対する三フッ化ホウ素のモル比[三フッ化ホウ素(モル)/ノルマルブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.0以下である。
【0042】
反応温度は、反応性を向上させ、副反応を抑制し、ホルミル基が導入される位置の選択制を向上させる観点から、好ましくは-50℃以上であり、より好ましくは-40℃以上であり、更に好ましくは-30℃以上であり、そして、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、更に好ましくは-10℃以下である。
【0043】
ノルマルブチルベンゼンと一酸化炭素との反応は、加圧下で行うことが好ましい。反応時の圧力は、反応性を向上させ、かつ、副反応を抑制する観点から、一酸化炭素の分圧として、好ましくは1.0MPaG以上であり、より好ましくは1.5MPaG以上であり、更に好ましくは1.8MPaG以上であり、そして、好ましくは3.0MPaG以下であり、より好ましくは2.5MPaG以下あり、更に好ましくは2.2MPaG以下である。ここで、「MPaG」は「MPa(ゲージ圧)」を表す。
【0044】
本反応(ホルミル化反応)において、反応時間は特に限定されないが、十分に反応を進行させ、かつ、副反応や生成物の分解を抑制すると共に、効率的に製造する観点から、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは20分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは5時間以下である。
【0045】
また、本反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、反応原料の溶解性が良好であり、かつ、フッ化水素及び三フッ化ホウ素等の酸触媒に対して不活性な溶媒であれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素が例示される。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、反応の均一性、反応速度、及び溶媒除去の観点から、適宜選択すればよい。なお、本工程において、フッ化水素を使用する場合、フッ化水素は溶媒としても機能するため、溶媒は使用しなくてもよい。
【0046】
上記の反応は、回分式、半回分式、連続式等のいずれの方法でもよいが、触媒の回収・再利用が可能である点、及び生産効率の観点から、連続式であることが好ましい。
また、製造方法に使用する装置は、加圧下で、温度を調整しつつ、液相と気相とが十分に混合できる反応装置である。
例えば、連続式では、まず始めに撹拌装置付反応器に、フッ化水素及び三フッ化ホウ素を仕込み、内容物を撹拌し液温を好適な温度に設定し、温度を一定に保つような状態にした後、一酸化炭素により、好適な反応圧力に昇圧し、圧力を一定に保つように一酸化炭素を供給できる状態にする。その後、必要により溶媒に溶かしたノルマルブチルベンゼンを供給する半回分式の反応を行う。更に続けて、フッ化水素、三フッ化ホウ素、及び必要に応じて溶媒に溶かしたノルマルブチルベンゼンを供給開始し、反応生成液を連続的に抜き出す。
得られた4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを含む反応生成液からフッ化水素及び三フッ化ホウ素を除き、必要に応じて、蒸留や抽出によって精製することで目的とする4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを得る。
【0047】
得られた4-ノルマルブチルベンズアルデヒドに、2-ノルマルブチルベンズアルデヒドが含有される場合、更に精製を行い、より高純度の4-ノルマルブチルベンズアルデヒド、及びより高純度の2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを得てもよく、これらの混合物のまま次の工程の原料として用いてもよい。
特に4-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(3))と2-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(4))との質量比[(3)/(4)]が、96/4~99.9/0.1である場合、そのまま原料として用いることで、最終生成物の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1)にすることができるため、好ましい。
4-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(3))と2-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(4))との質量比[(3)/(4)]は、好ましくは96/4~99.9/0.1であり、より好ましくは98/2~99.8/0.2であり、更に好ましくは98.7/1.3~99.7/0.3であり、より更に好ましくは99.0/1.0~99.6/0.4であり、より更に好ましくは99.0/1.0~99.4/0.6である。
また、得られるアルデヒド組成物の香り立ち、拡散性の観点からは、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(3))と2-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(4))との質量比[(3)/(4)]は、好ましくは98.7/1.3~99.9/0.1であり、より好ましくは99.0/1.0~99.8/0.2であり、更に好ましくは99.2/0.8~99.8/0.2であり、より更に好ましくは99.3/0.7~99.7/0.3である。
なお、最終生成物の位置異性体の質量比は、本工程に限らず、本製造方法におけるいずれの工程でも調整することができる。具体的には、目的とするアルデヒドに対応する各工程の原料の位置異性体の比率を調整すればよい。
【0048】
<工程1(その1):アルドール縮合を使用するシンナミックアルデヒド合成工程>
前記のとおり、本発明の製造方法では2つの方法が示される。いずれも、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを原料として、下記一般式(5)で表されるアルデヒド及び下記一般式(6)で表されるアルデヒド(シンナミックアルデヒド)を得る工程1、並びに水素添加工程である工程2をこの順で有する。
第1の方法は、前記工程1にアルドール縮合を使用する方法である。
工程1が、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドまたはプロピオンアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記式(5)で表されるアルデヒド及び下記式(6)で表されるアルデヒドを得る工程である。すなわち、第1の方法は、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドを原料とし、アセトアルデヒドまたはプロピオンアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記一般式(5)で表されるアルデヒド及び下記一般式(6)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、前記一般式(1)で表されるアルデヒド及び前記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、それらの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1であるアルデヒド組成物を得る、製造方法である。
【化13】

(Rはメチル基または水素原子を表す)
【0049】
具体的には下記式で示される方法である。
【化14】

(Rはメチル基または水素を表す)
【0050】
本工程のアルドール縮合反応は、塩基性化合物を触媒として用いることが好ましい。
触媒として用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム及びこれらの混合物などが例示される。塩基性化合物の量は、原料であるノルマルブチルベンズアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.05モル以上であり、より好ましくは0.1モル以上であり、更に好ましくは0.2モル以上であり、そして、好ましくは3モル以下であり、より好ましくは1モル以下であり、更に好ましくは0.5モル以下である。
【0051】
アセトアルデヒドの添加量又はプロピオンアルデヒドの添加量は、原料である4-ノルマルブチルベンズアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.5モル以上であり、より好ましくは0.8モル以上であり、そして、好ましくは1.5モル以下であり、より好ましくは1.1モル以下である。アセトアルデヒドの添加又はプロピオンアルデヒドの添加は、逐次的又は連続的に時間をかけて行うことが好ましく、例えば、滴下により行うことが好ましい。
【0052】
本工程のアルドール縮合反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、水混和性の各種有機溶媒が例示され、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコールが好ましく例示され、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジエチレングリコールがより好ましい。
【0053】
本工程のアルドール縮合反応における反応温度は特に限定されないが、反応速度の観点から、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、そして、副反応を抑制する観点から、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。
また、反応時間は特に限定されず、縮合が十分に行われる時間であればよいが、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは30分間以上であり、更に好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは6時間以下であり、より更に好ましくは3時間以下である。
【0054】
反応の停止は、中和により行えばよく、例えば、酢酸等の酸を添加することで、反応を停止させることができる。
【0055】
また、反応終了後の溶液から前記式(5)で表されるアルデヒド及び式(6)で表されるアルデヒドを単離する方法は特に限定されず、分液及び抽出操作、蒸留精製を適宜組み合わせて行えばよい。
例えば、反応終了後の溶液に低極性又は無極性の有機溶媒を添加し、油相に前記アルデヒド又はアルデヒド混合物を移相して、得られた油相を、例えば硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過によって得られたろ液を濃縮し、更に、蒸留精製することで単離することができる。
【0056】
<工程1(その2):Muller-Conradi-Pieroh条件を使用するシンナミックアルデヒド合成工程>
本発明の製造方法の第2の方法は、前記工程1にMuller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法である。
工程1が、酸触媒下で4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、並びに酸触媒下で加水分解する工程をこの順で有する工程である。なお、第2の方法では、得られるアルデヒド組成物の前記式(1)及び前記式(2)におけるRは水素原子である。すなわち、第2の方法は、酸触媒下で4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、酸触媒下で加水分解して、下記式(5a)で表されるアルデヒド及び下記式(6a)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに水素添加工程をこの順で有し、前記一般式(1)で表されるアルデヒド及び前記一般式(2)で表されるアルデヒドを含有し、それらの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1であるアルデヒド組成物を得、前記式(1)及び前記式(2)におけるRが水素原子である、製造方法である。
【0057】
本工程の最初の工程であるアセタール化工程は、具体的には下記式で示される。
【化15】

(R1はメチル基またはエチル基を表す)
【0058】
前記式(3)で表される4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び前記式(4)で表される2-ノルマルブチルベンズアルデヒドをアセタール化させて、それぞれ前記式(8)で表されるアセタール及び前記式(9)で表されるアセタールを得る。
【0059】
アセタール化は公知の方法を用いて行うことが出来る。例えば、酸触媒下にてメタノール又はエタノールを反応させる方法や、酸触媒下にてオルトギ酸トリメチルやオルトギ酸トリエチルと反応させる方法が挙げられる。
【0060】
本アセタール化工程で用いられる酸触媒としては、特に限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、トルエンスルホン酸等をブレンステッド酸や、三弗化ホウ素、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のルイス酸を用いることができる。
【0061】
次に、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させ、アルキルビニルエーテルを付加する工程を有する。
【0062】
アルキルビニルエーテル付加工程は、具体的には下記式で示される。
【化16】

(R1はメチル基またはエチル基、R2は炭素数2~8のアルキル基を表す)
【0063】
前記式(8)で表されるアセタール及び前記式(9)で表されるアセタールを、酸触媒の存在下アルキルビニルエーテルと反応させることにより、アルキルビニルエーテルを付加し、それぞれ前記式(10)で表されるアセタール及び前記式(11)で表されるアセタールを得る。
【0064】
アルキルビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の炭素数2~8のアルキル基を有するビニルエーテルが好ましい。なかでも、反応性の観点から、より好ましくはエチルビニルエーテル及びプロピルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0065】
本アルキルビニルエーテル付加工程で用いられる酸触媒としては、特に限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、トルエンスルホン酸等をブレンステッド酸や、三弗化ホウ素、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のルイス酸を用いることができる。
【0066】
アルキルビニルエーテルの添加量は、反応収率の観点から基質(アセタール)に1モルに対して1モル以上が好ましく、1.2モル以上がより好ましい。更に、経済性の観点から2モル以下が好ましく、1.7モル以下がより好ましい。
【0067】
反応温度は、反応性の観点から0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。また、副反応を抑制する観点から、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0068】
次に、前記アルキルビニルエーテル付加工程で得られたアセタールを、酸触媒下で加水分解する工程を有する。
【0069】
加水分解工程は、具体的には下記式で示される。
【0070】
【化17】

(R1はメチル基またはエチル基、R2は炭素数2から8のアルキル基を表す)
【0071】
前記式(10)で表されるアセタール及び前記式(11)で表されるアセタールを、酸触媒の存在下で加水分解することにより、それぞれ前記式(5a)で表されるアルデヒド及び前記式(6a)で表されるアルデヒドを得る。なお、前記式(5a)で表されるアルデヒドは、上述の一般式(5)で表されるアルデヒドのRが水素原子である化合物であり、前記式(6a)で表されるアルデヒドは、上述の一般式(6)で表されるアルデヒドのRが水素原子である化合物である。
【0072】
本加水分解工程で用いられる酸触媒としては、特に限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、トルエンスルホン酸等を用いることができる。
また、酸触媒の添加量は、加水分解反応の効率の観点から、基質(アセタール)に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、3質量%以上が更に好ましい。更に副反応を抑制する観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0073】
反応温度は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。更に、還流下で行うことが好ましい。また、100℃以下が好ましい。
【0074】
<工程2:水素添加工程>
上述のとおり、本発明のアルデヒド組成物の好ましい製造方法は、前記工程1の次に水素添加工程である工程2を有する。
本水素添加工程は、工程1で得られた、前記式(5)で表されるアルデヒド及び式(6)で表されるアルデヒド(シンナミックアルデヒド)に水素添加して、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを含有するアルデヒド組成物を得る工程である。
【0075】
水素添加の方法は特に限定されないが、水素添加触媒を用いた公知の方法により行うことができる。
水素添加触媒としては、特に限定されず、公知の触媒を使用することができ、例えば、Ni、Pt、Pd、Ru等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水素添加触媒;Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水素添加触媒;Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水素添加触媒等を用いることができる。
【0076】
本工程における水素添加反応の温度は、反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上であり、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
水素添加反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.01MPaG以上であり、より好ましくは0.03MPaG以上であり、更に好ましくは0.05MPaG以上であり、そして、好ましくは10MPaG以下であり、より好ましくは3MPaG以下であり、更に好ましくは1MPaG以下であり、より更に好ましくは0.5MPaG以下である。
反応時間は、特に限定されないが、好ましくは3分間以上であり、より好ましくは10分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは8時間以下である。
【0077】
水素添加反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、水素添加反応を阻害しない限り特に限定されないが、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
反応終了後の溶液から、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを精製する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して行えばよい。具体的には、ろ過、クロマトグラフィー、蒸留精製等が例示され、これらを適宜組み合わせて精製することで純度の高い目的のアルデヒド又はアルデヒド組成物を得ることができる。
上述のとおり、ホルミル化工程の生成物として、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(3))と2-ノルマルブチルベンズアルデヒド(前記式(4))との質量比[(3)/(4)]が、96/4~99.9/0.1である場合、そのまま原料として用いて、最終生成物の位置異性体の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が96/4~99.9/0.1)にすることが好ましいが、水素添加工程後の生成物あるいはそれを生成した精製物を用いて前記範囲に調整してもよく、最終的に得られる質量比が前記範囲であればよい。
【実施例
【0079】
以下に示す実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0080】
[分析・評価]
<ガスクロマトグラフィー分析(組成の分析)>
後述する各工程での組成、生成物の組成、及び組成物の組成は、ガスクロマトグラフ(GC-2010Plus、株式会社島津製作所製)を用いて、n-デカン(試薬グレード、富士フイルム和光純薬株式会社製)を内部標準物質として検量線を作成することにより、求めた。
なお、キャピラリーカラムとして、アジレント・テクノロジー株式会社製のHR-1701(内径0.32mmφ、長さ30m)を用いた。昇温プログラムは、100℃から5℃/分の割合で280℃まで昇温し、30分間保持した。
【0081】
<NMRスペクトル分析>
装置:Varian NMR System PS600 600MHz
溶媒:重クロロホルム(CDCl3
測定モード:1H、13
内部標準物質:テトラメチルシラン(TMS)
【0082】
<香り・香調の評価>
実施例及び比較例で得られたアルデヒド組成物、及び香料組成物の香り及び香調は、幅8mm、長さ15cmのろ紙に含浸し、専門のパネラーが嗅ぐ方法で評価した。なお、香り立ち(拡散性)については、ろ紙に含侵させた直後の香りの強さが、基準となる実施例(実施例1及び実施例7)と比較して、同等であったものを香り立ちが「良好」とした。また、ろ紙に含侵させた直後の香りの強さが、基準となる実施例(実施例1及び実施例7)と比較して、強かったものを香り立ちが「非常に良好」とした。また、ろ紙に含侵させた直後の香りの強さが、基準となる実施例(実施例1及び実施例7)と比較して、弱かったもの(同等未満であったもの)を、香り立ちが「不良」とした。
【0083】
<匂いの閾値の評価>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)をジプロピレングリコールで10ppm、1ppm、0.1ppm、0.01ppm、0.001ppmの濃度にそれぞれ希釈した。当該希釈液を、幅8mm、長さ15cmのろ紙にそれぞれ含浸し、専門のパネラーが嗅ぐ方法で匂いを判別できる下限濃度を評価した。下限濃度が低いほど、匂いの閾値が低く、香気の強さ及び拡散性に優れる。
【0084】
<残香性の評価>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を幅8mm、長さ15cmのろ紙に含浸し、1週間ごとに専門のパネラーが嗅ぐ方法で匂いを検知できる最長期間を評価した。匂いを検知できる最長期間が長いほど、残香性に優れる。
【0085】
<発がん性予測試験>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を用い、OECD GD231に基づいて形質転換試験(Bhas42細胞を用いたIn Vitroでの発がん性予測試験)を実施し、発がん性が陰性であるか、陽性であるかを判断した。本試験の結果が陰性であれば、発がん性の原因となる可能性がないと予測され、安全性が高い。
【0086】
[原料]
製造例1(ノルマルブチルベンズアルデヒドの合成)
実施例及び比較例に用いる原料であるノルマルブチルベンズアルデヒドを次のようにして合成した。
磁力誘導式撹拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を制御できる内容積10Lのステンレス製オートクレーブを用いて実験を行った。まずオートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した後、フッ化水素(森田化学工業株式会社製、1193g、59.6モル)、三フッ化ホウ素(ステラケミファ株式会社製、809g、11.9モル)を仕込み、液温を-25℃とした後、一酸化炭素にて2MPaまで加圧した。反応温度を-25℃に保持し、かつ反応圧力を2MPaに保ちながら、ノルマルブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、800g、4.93モル)をオートクレーブ上部より60分間かけて供給し、一酸化炭素の吸収が認められなくなるまで約30分間撹拌を継続した。オートクレーブ内の反応混合液を氷水中に抜液した。抜液したものをよく振り混ぜた後、油層を分液した。得られた油層部を水洗した後、得られた油層部を蒸留精製し(107℃、5Torr)、ノルマルブチルベンズアルデヒド(純度98.7質量%、4-ノルマルブチルベンズアルデヒド及び2-ノルマルブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-ノルマルブチルベンズアルデヒド)/(2-ノルマルブチルベンズアルデヒド)]=99.3/0.7、677g)を無色透明の液体として得た。
【0087】
[アルデヒド組成物]
実施例1(3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アルドール縮合を使用する方法)
(アルドール縮合工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積1000mLの丸底フラスコに、メタノール(400.0g)、水酸化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、18.1g)、製造例1で得られたノルマルブチルベンズアルデヒド(200.0g)を仕込み、撹拌しながら10℃に冷却した後、アセトアルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社製、56.4g)を3時間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で1時間保持し、反応を完了させた。酢酸(16.4g)を添加して中和した後、水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(138~143℃/3torr)し、3-(ノルマルブチルフェニル)プロペナール(51.0g、純度94.6質量%)を得た。
【0088】
(水素添加工程)
前記アルドール縮合工程にて得られた3-(ノルマルブチルフェニル)プロペナール(50.0g)、2-プロパノール(30.0g)、5%パラジウム-カーボン触媒(エヌ・イー・ケム・キャット社製、含水品、PEタイプ、0.5g)を、磁力誘導式撹拌機を備え、ジャケットにより内部温度を制御できる200mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、25℃、水素圧0.05MPaで5時間撹拌して水素添加反応を行った。反応液を濾過して触媒を除き、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して10torrにて精留し、138~141℃の留分として、3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(9.3g、質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=99.3/0.7)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
なお、3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールは前記式(1)においてRが水素原子である化合物であり、3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールは前記式(2)においてRが水素原子である化合物である。
また、得られた組成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することで3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを単離し(純度98.8%、質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=100.0/0.0)、NMRスペクトルを測定した。結果を以下に示す。なお、ここで単離された3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを比較例1として香り・香調評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
〔3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールのNMRスペクトル測定の結果〕
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 0.92(3H,t,J=7.5Hz),1.31-1.38(2H,m),1.55-1.60(2H,m),2.57(2H,t,J=7.8Hz),2.76(2H,t,J=7.8Hz),2.92(2H,t,J=7.8Hz),7.09(2H,d,J=9.0Hz),7.11(2H,d,J=9.0Hz),9.71(1H,s)
13C NMR(150MHz,CDCl3)δ 14.0,22.4,27.7,33.7,35.2,45.4,128.1,128.6,137.4,140.9,201.8
【0090】
実施例2(3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:Muller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法)
(Muller-Conradi-Pieroh条件によるアセタールへのエチルビニルエーテル付加工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積1000mLの丸底フラスコに、メタノール(139.0g)、オルトギ酸トリメチル(富士フイルム和光純薬株式会社製、393.0g)、製造例1で得られたノルマルブチルベンズアルデヒド(500.0g)を仕込み、撹拌しながら10℃に冷却した後、35%塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、0.5g)を添加し、25℃へ昇温した。25℃で30分間保持した。その後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(富士フイルム和光純薬株式会社製、0.6g)を添加し、エチルビニルエーテル(東京化成工業株式会社製、276.0g)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を継続して反応を完了させた。酢酸ナトリウム(16.4g)を添加して中和した後、低沸成分を留去した。得られた粗反応液に37%塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、58.0g)、水(520.0g)を添加し、90℃へ昇温して24時間撹拌を継続した。その後、ヘプタンを加えて分液にて水相を分離した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(138~143℃/3torr)し、3-(ノルマルブチルフェニル)プロペナール(220g、純度95.4質量%)を得た。
【0091】
(水素添加工程)
前工程で得られた3-(ノルマルブチルフェニル)プロペナール(50.0g)、2-プロパノール(30.0g)、5%パラジウム-カーボン触媒(エヌ・イー・ケム・キャット社製、含水品、PEタイプ、0.5g)を、磁力誘導式撹拌機を備え、ジャケットにより内部温度を制御できる200mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、25℃、水素圧0.05MPaで5時間撹拌して水素添加反応を行った。反応液を濾過して触媒を除き、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して10torrにて精留し、138~141℃の留分として3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(9.3g、質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=99.2/0.8)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0092】
比較例2(3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アセトキシエノール中間体を経由する方法)
(アセトキシエノール中間体の合成工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積200mLの丸底フラスコに、ノルマルブチルベンゼン(50.0g)、アクロレイン(東京化成工業株式会社製、20.9g)、無水酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、25.7g)を仕込み、撹拌しながら-20℃に冷却した。四塩化チタン(富士フイルム和光純薬株式会社製、50.0g)とノルマルブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、16.8g)との混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、-20℃で3時間保持し、反応を完了させた。水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(95~102℃/2torr)、3-(ノルマルブチルフェニル)-1-アセトキシ-1-プロペン(26.0g、純度70.1質量%)を得た。
【0093】
(脱アセトキシ化工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積200mLの丸底フラスコに、前記アセトキシエノール中間体の合成工程にて得られた3-(ノルマルブチルフェニル)-1-アセトキシ-1-プロペン(26.0g)、炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、1.1g)、メタノール(60.0g)を加え、25℃にて2時間撹拌した。水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して6torrにて精留し、130~134℃の留分として3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=95.5/4.5)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0094】
実施例3及び4(3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:組成物を混合することによる方法)
比較例1の3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールと、比較例2のアルデヒド組成物(質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=95.5/4.5)を表1に示す組成になるように混合して、アルデヒド組成物を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0095】
実施例5及び6(3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:組成物を混合することによる方法)
比較例1の3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナールと、実施例2のアルデヒド組成物(質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)プロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)プロパナール]=99.2/0.8)を表1に示す組成になるように混合して、アルデヒド組成物を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例1~6のアルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様かつミュゲの優れた香りを有し、香り立ちにも優れていた。一方、比較例1のアルデヒド組成物は、香り立ちが劣っていた。また、比較例2のアルデヒド組成物は、グリーンな香調が強く、ミュゲの香りを有していなかった。
【0098】
実施例7(3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アルドール縮合を使用する方法)
(アルドール縮合工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積500mLの丸底フラスコに、メタノール(100.0g)、50%水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、11.8g)、製造例1で得られたノルマルブチルベンズアルデヒド(100.0g)を仕込み、撹拌しながら15℃に冷却した後、プロピオンアルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社製、35.9g)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、15℃で1時間保持し、反応を完了させた。酢酸(8.9g)を添加して中和した後、水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(145~149℃/3torr)し、3-ノルマルブチルフェニル-2-メチルプロペナール(76.0g、純度97.6質量%)を得た。
【0099】
(水素添加工程)
アルドール縮合工程にて得られた3-ノルマルブチルフェニル-2-メチルプロペナール(59.0g)、5%炭酸ナトリウム水溶液(60.0g)、10%パラジウム-カーボン触媒(エヌ・イー・ケム・キャット社製、含水品、PEタイプ、1.0g)を、磁力誘導式撹拌機を備え、ジャケットにより内部温度を制御できる200mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、75℃、水素圧0.4MPaで28時間撹拌して水素添加反応を行った。反応液を濾過して触媒を除き、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して10torrにて精留し、145~147℃の留分として3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含むアルデヒド組成物(17.0g、質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール]=99.6/0.4)を得た。得られたアルデヒドの香り・香調評価の結果を表2に示す。
また、得られた組成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することで3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを単離し(純度98.9%、質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール]=100.0/0.0)、NMRスペクトルを測定した。結果を以下に示す。なお、ここで単離された3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを比較例3として香り・香調評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
〔3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールのNMRスペクトル測定の結果〕
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 0.92(3H,t,J=7.2Hz),1.08(3H,d,J=9.6Hz),1.31-1.38(2H,m),1.55-1.60(2H,m),2.55-2.62(3H,m),2.62-2.68(1H,m),3.05(1H,dd,J=6.0Hz,13.8Hz),7.07(2H,d,J=8.1Hz),7.11(2H,d,J=8・1Hz),9.71(1H,s)
13C NMR(150MHz,CDCl3)δ 13.2,14.0,22.4,33.7,35.2,36.3,48.1,128.5,128.9,135.9,141.0,204.7
【0101】
実施例8(3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アセトキシエノール中間体を経由する方法)
(アセトキシエノール中間体の合成工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積200mLの丸底フラスコに、ノルマルブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、50.0g)、メタクロレイン(東京化成工業株式会社製、17.5g)、無水酢酸(25.7g)を仕込み、撹拌しながら-10℃に冷却した。四塩化チタン(富士フイルム和光純薬株式会社製、50.0g)とノルマルブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、16.8g)との混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、-10℃で3時間保持し、反応を完了させた。水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(100~110℃/2torr)、3-ノルマルブチルフェニル-2-メチル-1-アセトキシ-1-プロペン(40.0g、純度72.0質量%)を得た。
【0102】
(脱アセトキシ化工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積200mLの丸底フラスコに、アセトキシエノール中間体の合成工程にて得られた3-ノルマルブチルフェニル-2-メチル-1-アセトキシ-1-プロペン(40.0g)、炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、1.8g)、メタノール(60.0g)を加え、25℃にて2時間撹拌した。水、ヘプタンを加えて分液にて水相を分離した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して6torrにて精留し、139~140℃の留分として3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含むアルデヒド組成物(質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール]=99.0/1.0)を得た。得られたアルデヒドの香り・香調評価の結果を表2に示す。
【0103】
比較例4(3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アセトキシエノール中間体を経由する方法)
実施例4と同様の方法にて粗組成物を得たのち、理論段数20段の精留塔を使用して6torrにて精留し、137~139℃の留分として3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール及び3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナールを含むアルデヒド組成物(質量比[3-(4-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール/3-(2-ノルマルブチルフェニル)-2-メチルプロパナール]=95.1/4.9)を得た。得られたアルデヒドの香り・香調評価の結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例7及び8のアルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様かつミュゲの優れた香りを有していた。一方、比較例3のアルデヒド組成物は、香り立ちが劣っていた。また、比較例4のアルデヒド組成物は、メタリックな香調を有し、ミュゲの香りを有していなかった。
【0106】
表1及び表2の結果から、本発明のアルデヒド組成物は、フローラル、グリーン様かつミュゲの香りを有し、香り立ちに優れるため、香料として有用であることがわかる。
【0107】
[匂いの閾値の評価、残香性の評価、及び発がん性予測試験]
実施例1のアルデヒド組成物の匂いの閾値の評価、残香性の評価、発がん性予測試験を行った。さらに、実施例7のアルデヒド組成物の匂いの閾値の評価及び残香性の評価を行った。また、比較例5として、リリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)の匂いの閾値の評価、残香性の評価、及び発がん性予測試験を行った。
【0108】
【表3】
【0109】
実施例のアルデヒド組成物は、構造及び香調の類似するリリアールよりも匂いの閾値が低く、香気の強さ及び拡散性に優れることがわかる。また、実施例のアルデヒド組成物は、リリアールよりも残香性に優れていることがわかる。さらに、実施例1のアルデヒド組成物は、発がん性予測試験で陰性となっており、安全性にも優れていることがわかる。
【0110】
実施例9及び比較例6(フローラル・グリーン様の香料組成物)
実施例9として、実施例1のアルデヒド組成物を、18質量%となるように、表4に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。また、比較例6として、リリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を、18質量%となるように、表4に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。
【0111】
【表4】
【0112】
香り・香調評価の結果、実施例9の香料組成物は、LilialにAldehyde C-12を加えた様な香り・香調を有しており、拡散性、力価、残香性が比較例6の香料組成物を大きく上回るものであった。
【0113】
実施例10及び比較例7(フローラル・グリーン様の香料組成物)
実施例10として、実施例7で得られたアルデヒド組成物を、10質量%となるように、表5に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。また、比較例7として、リリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を、10質量%となるように、表5に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。
【0114】
【表5】
【0115】
香り・香調評価の結果、実施例10の香料組成物は、LilialにWoody-Amber的な要素が追加された様な香り・香調を有しており、拡散性、力価、残香性が比較例7の香料組成物より優れていた。
【0116】
表4及び5の結果から、前記アルデヒド組成物を含有する本発明の香料組成物は、前記の香りに加え、更に拡散性、力価、残香性に優れるものであることがわかる。すなわち、本発明のアルデヒド組成物は、香料組成物に対して、前記の香りに加え、拡散性、力価、残香性を付与できることがわかる。