(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240910BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2023555841
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2022032946
(87)【国際公開番号】W WO2024047841
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森崎 光貴
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一誠
(72)【発明者】
【氏名】木下 雅博
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-100241(JP,A)
【文献】特開2017-060261(JP,A)
【文献】特開2017-001425(JP,A)
【文献】特開2019-180188(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088497(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から入力される直流電力を交流電力または直流電力に変換する電力変換器と、
前記電力変換器の入力端子に接続される正極直流ラインと負極直流ラインとの間に設けられるコンデンサと、
前記負極直流ラインと接地電位とを接続し、第1の接地抵抗器が設けられる接地ラインと、
前記正極直流ラインと前記第1の接地抵抗器の前記接地電位側の前記接地ラインとを接続する放電ラインと、
前記放電ラインに設けられ、前記コンデンサの残留電荷を放電するときにONにされる放電スイッチと、を備える電力変換システム。
【請求項2】
前記放電ラインとの接続点よりも前記接地電位側の前記接地ラインに第2の接地抵抗器が設けられる請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記正極直流ライン及び前記負極直流ラインに夫々設けられる、前記電力変換器から前記直流電源を切り離すときにOFFにされる第1の切り離しスイッチと、
前記電力変換器から電力系統への出力ラインに設けられる、前記電力変換器から前記電力系統を切り離すときにOFFにされる第2の切り離しスイッチと、
前記放電スイッチ、前記第1の切り離しスイッチ及び前記第2の切り離しスイッチのONまたはOFFを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記第1の切り離しスイッチ及び前記第2の切り離しスイッチをOFFにした後に、前記放電スイッチをONにするように構成される請求項1または請求項2に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換システムに関し、特に電力変換器の直流電源側にコンデンサを有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、電力変換システムが開示されている。この電力変換システムでは、電力変換器の入力端子に接続される正極直流ライン(正極母線ともいう)と負極直流ライン(負極母線ともいう)との間に、コンデンサと、コンデンサに蓄積された電荷を放電するための放電回路が並列に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の電力変換システムでは、放電回路が放電抵抗器のみで構成されており、直列接続された放電抵抗器及びスイッチで構成されていない。直流電源から電力変換器に直流電力が供給される間、放電抵抗器には比較的高い直流電圧が常に印加されることになる。このため、放電抵抗器全体としての容量を大きくする必要があり、これでは、放電抵抗器の損失が大きくなることに伴い、電力変換システムの損失が大きくなる。また、放電抵抗器1個当たりの容量を大きくすると、放電抵抗器のコストが上昇する。1個当たりの容量が比較的小さい複数の放電抵抗器を直列接続する場合、放電抵抗器の数が増加する。放電抵抗器全体のコストが上昇するのに加えて、設置スペースが増大する。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、低損失化及び省スペース化を実現することができる低コストの電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の観点にかかる電力変換システムは、直流電源から入力される直流電力を交流電力または直流電力に変換する電力変換器と、電力変換器の入力端子に接続される正極直流ラインと負極直流ラインとの間に設けられるコンデンサと、負極直流ラインと接地電位とを接続し、第1の接地抵抗器が設けられる接地ラインと、正極直流ラインと第1の接地抵抗器の接地電位側の接地ラインとを接続する放電ラインと、放電ラインに設けられ、コンデンサの残留電荷を放電するときにONにされる放電スイッチと、を備える。
【0007】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。放電ラインとの接続点よりも接地電位側の接地ラインに第2の接地抵抗器が設けられる。
【0008】
第3の観点は、第1または第2の観点に加えて、次の特徴を更に有する。正極直流ライン及び負極直流ラインに、電力変換器から直流電源を切り離すときにOFFにされる第1の切り離しスイッチが夫々設けられる。電力変換器から電力系統への出力ラインに、電力変換器から電力系統を切り離すときにOFFにされる第2の切り離しスイッチが設けられる。電力変換システムは、放電スイッチ、第1の切り離しスイッチ及び第2の切り離しスイッチのONまたはOFFを制御する制御装置を備える。制御装置は、第1の切り離しスイッチ及び第2の切り離しスイッチをOFFにした後に、放電スイッチをONにするように構成される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の第1の観点によれば、放電スイッチをONにすると、コンデンサに蓄積された電荷が接地ラインに設けられた第1の接地抵抗器によって放電される。すなわち、第1の接地抵抗器を放電抵抗器として兼用することができる。これにより、正極直流ラインと負極直流ラインとの間に従来設けられていた放電抵抗器を削減することができる。さらに、直流電源から電力変換器に直流電力が供給される間は、放電スイッチをOFFにすることで、第1の接地抵抗器に比較的高い直流電圧が常に印加されることはないため、第1の接地抵抗器の容量を大きくする必要がない。このため、電力変換システムの低コスト化及び省スペース化を実現することができる。しかも、従来の放電抵抗器の分だけ電力変換システムの損失を低減することができる。
【0010】
第2の観点によれば、第2の接地抵抗器を設けたことにより、負極直流ラインが地絡していたとしても、短絡事故に至らないため、放電時の安全性を向上させることができる。
【0011】
第3の観点によれば、制御装置の各種スイッチの開閉操作により、コンデンサの残留電荷を確実に放電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1による電力変換システムの構成例を説明するための模式図である。
【
図2】実施の形態2による電力変換システムの構成例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。各図において共通または対応する要素には、同一の符号を付して、説明を簡略化または省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による電力変換システム1の構成例を説明するための図である。なお、
図1において破線で示す放電抵抗器Rdは、従来の電力変換システムに設けられていたものであり、本実施の形態の電力変換システム1には設けられていない。
【0015】
電力変換システム1は、電力変換器11を備える。電力変換器11は、直流電源2から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を電力系統3に供給するDC/AC変換器である。電力変換器11は、複数のスイッチング素子11aと、各スイッチング素子11aにゲート駆動信号を夫々供給する図示省略のゲート回路を有する。スイッチング素子11aは、例えば、IGBTやMOSFETである。電力変換器11としては、公知のものを利用することができるため、これ以上の説明を省略する。
【0016】
直流電源2は、例えば、太陽電池でもよく、蓄電池でもよい。直流電源2は、風力発電機と交流直流コンバータとからなる直流電源システムであってもよい。
【0017】
電力変換器11の入力端子には正極直流ライン12及び負極直流ライン13が接続されている。正極直流ライン12は、スイッチ12aを介して直流電源2の正極に接続され、負極直流ライン13はスイッチ13aを介して直流電源2の負極に接続されている。スイッチ12a,13aは、電力変換器11から直流電源2を切り離すときにOFFにされる第1の切り離し用スイッチに相当する。スイッチ12a,13aは、正極直流ライン12及び負極直流ライン13に介設することができる。
【0018】
正極直流ライン12と負極直流ライン13の間には、コンデンサ14が設けられている。負極直流ライン13には、接地ライン15の一端が接続されている。接地ライン15の他端は接地電位Gpに接続されている。接地ライン15には、負極直流ライン13との接続点から第1の接地抵抗器15aと接地用スイッチ15bが直列に設けられている。すなわち、負極直流ライン13が、直列接続された第1の接地抵抗器15aと接地用スイッチ15bを介して接地されている。第1の接地抵抗器15aの容量は、従来の放電抵抗器Rdの容量(例えば、400W×5本=2000W)よりも小さく、例えば、400Wに設定することができる。第1の接地抵抗器15aは、複数の抵抗器で構成することができる。接地用スイッチ15bは、通常ONである。なお、接地用スイッチ15bは必須ではなく、負極直流ライン13が接地抵抗器15aを介して接地されてもよい。
【0019】
本実施の形態の電力変換システム1は、放電用スイッチ16aが介設された放電ライン16を備える。放電ライン16の一端は正極直流ライン12に接続される。放電ライン16の他端は、接地ライン15の第1の接地抵抗器15aと接地用スイッチ15bの間に接続される。放電用スイッチ16aは、コンデンサ14に蓄積された電荷を放電する際にONにされ、通常はOFFである。
【0020】
また、電力変換器11の出力端子は、三相の出力ライン17を介して電力系統3が接続されている。各出力ライン17には、スイッチ17aが夫々設けられている。スイッチ17aは、電力変換器11から電力系統3を切り離すときにOFFにされる第2の切り離し用スイッチに相当する。なお、出力ライン17は、単層または二相であってもよい。
【0021】
電力変換システム1は、制御装置18を備える。制御装置18は、電力変換器11のゲート回路、各種のスイッチ12a,13a,15b,16a,17aのON/OFF操作(開閉操作)などを制御することで、電力変換システム1を統括制御するように構成されている。
【0022】
制御装置18の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ18aと少なくとも1つのメモリ18bとを備えるか、または、少なくとも1つの専用のハードウェア(図示省略)を備える。処理回路が少なくとも1つのプロセッサ18aと少なくとも1つのメモリ18bとを備える場合、制御装置18の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ18bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ18aは、少なくとも1つのメモリ18bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置18の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ18aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ18bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0023】
次に、上記電力変換システム1の動作について説明する。スイッチ12a,13a,17aをONにし、直流電源2から電力変換器11に直流電力を供給する。電力変換器11は、制御装置18から入力される指令に基づき、各スイッチング素子11aを駆動することで、直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を電力系統3に供給する。このように電力系統3に電力供給する間、放電用スイッチ16aをOFFにすると共に、接地用スイッチ15bをONにする。
【0024】
ところで、電力変換器11の動作を停止する場合や、直流電源2から電力変換器11への直流電力の供給が停止する場合がある。この場合、制御装置18は、スイッチ12a,13a,17aをOFFにし、電力変換器11から直流電源2と電力系統3を切り離す。
【0025】
その後、制御装置18は、放電用スイッチ16aをONにすると共に、接地用スイッチ15bをOFFにする。これにより、コンデンサ14に蓄積された電荷が、接地ライン15に設けられた第1の接地抵抗器15aによって放電される。すなわち、第1の接地抵抗器15aを放電抵抗器として兼用することで、コンデンサ14の残留電荷を確実に放電することができる。このため、正極直流ライン12と負極直流ライン13との間に従来設けられていた放電抵抗器Rdを削減することができる。また、従来の放電抵抗器Rdのように第1の接地抵抗器15aには比較的高い直流電圧が常に印加されないため、第1の接地抵抗器15aの容量は放電抵抗器Rdよりも小さくてよい。つまり、第1の接地抵抗器15aの容量を大きくする必要はない。その結果として、電力変換システム1の低コスト化及び省スペース化を実現することができる。さらに、放電抵抗器Rdの分だけ電力変換システム1の損失を低減することができる。
【0026】
実施の形態2.
図2は、実施の形態2による電力変換システム10の構成例を説明するための図である。電力変換システム10は、接地ライン15に第2の接地抵抗器15cを更に設ける点で、実施の形態1の電力変換システム1と相違する。以下、この相違点を中心に説明する。
【0027】
第2の接地抵抗器15cは、第1の接地抵抗器15aと接地用スイッチ15bの間に設けられる。そして、第1の接地抵抗器15aと第2の接地抵抗器15cとの間に、放電ライン16が接続されている。言い換えると、第2の接地抵抗器15cは、放電ライン16との接続点Pcよりも接地電位Gp側の接地ライン15に設けられている。第2の接地抵抗器15cの容量は、第1の接地抵抗器15aの容量と同じまたはそれ以下に設定することができ、例えば、200Wに設定することができる。第2の接地抵抗器15cは、複数の抵抗器で構成することができる。また、接地抵抗器が2つの接地抵抗器15a,15cで構成されるため、第1の接地抵抗器15aの容量を、実施の形態1よりも小さい例えば300Wに設定してもよい。
【0028】
本実施の形態によれば、コンデンサ14の残留電荷を放電するとき、接地用スイッチ15bをOFFにする。これにより、負極直流ライン13が第2の接地抵抗器15cを介して接地された状態での放電が可能となる。従って、負極直流ライン13が地絡していたとしても、短絡事故に至らないため、放電時の安全性を向上させることができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上記実施の形態では、直流電力を交流電力に変換する電力変換システムを例に説明したが、直流電力を直流電力に変換する電力変換システムにも本発明を適用することができる。また、上記実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上記実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0030】
1…電力変換システム、2…直流電源、3…電力系統、11…電力変換器、12…正極直流ライン、12a…第1の切り離し用スイッチ、13…負極直流ライン、13a…第1の切り離し用スイッチ、14…コンデンサ、15…接地ライン、15a…第1の接地抵抗器、15c…第2の接地抵抗器、16…放電ライン、16a…放電用スイッチ、17…出力ライン、17a…第2の切り離しスイッチ、18…制御装置、Gp…接地電位、Pc…接続点