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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】物体検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20240910BHJP
   G01S 7/521 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01S7/526 M
G01S7/521 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023569044
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2022027044
(87)【国際公開番号】W WO2023119699
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2021209481
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 晋一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 隆昭
(72)【発明者】
【氏名】渡部 佑真
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/102130(WO,A1)
【文献】特開2020-165858(JP,A)
【文献】特開平01-129181(JP,A)
【文献】特開2018-105703(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0045614(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の送受信により物体を検知する物体検知装置であって、
所定の周波数帯を有する変調波を前記物体に送信する送波器と、
音波を受信して、受信結果を示す第1受波信号を生成する第1の受波器と、
前記第1の受波器よりも前記送波器から離れた位置において音波を受信して、受信結果を示す第2受波信号を生成する第2の受波器と、
前記第1受波信号と前記第2受波信号とを加算して、第3受波信号を生成する加算器と、
前記送波器に前記変調波を送信させて、前記第3受波信号に基づき前記物体を検知する制御部とを備え、
前記第1及び第2の受波器が前記送波器から前記変調波を受信した場合における、前記変調波に応じた前記第3受波信号の変動幅が、前記変調波に応じた前記第1受波信号の変動幅以下となるように、前記第1及び第2の受波器が配置された
物体検知装置。
【請求項2】
前記変調波に応じた前記第3受波信号の変動幅は、前記送波器から前記第1の受波器までの距離と前記送波器から前記第2の受波器までの距離との間の距離差に応じて増減を繰り返し、一又は複数区間の距離差において前記第1受波信号の変動幅以下となり、
前記第1及び第2の受波器は、前記一又は複数区間のうちの最小の区間内に前記距離差が含まれるように配置される
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の受波器は、互いに共通の周波数特性を有する
請求項1又は2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記変調波の周波数帯は、第1の周波数と、前記周波数特性において前記第1の周波数の感度よりも低い感度を有する第2の周波数とを含む
請求項3に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記変調波の周波数帯は、前記第1の周波数よりも大きくて且つ前記第1の周波数の2倍よりも小さい第3の周波数をさらに含む
請求項4に記載の物体検知装置。
【請求項6】
前記第1及び第2の受波器とは異なる位置に配置された1つ以上の第3の受波器をさらに備え、
前記加算器は、前記第1ないし第3の受波器からの各受波信号を加算して、前記第3受波信号を生成する
請求項1又は2に記載の物体検知装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記変調波を前記送波器に送信させる送波信号と、前記第3受波信号とに基づいて、相互相関関数を演算することにより、前記物体を検知する
請求項1又は2記載の物体検知装置。
【請求項8】
前記送波器は、発熱と発熱停止とを繰り返して前記変調波を送信するサーモホンで構成される
請求項1又は2に記載の物体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波などの音波の送受信により物体を検知する物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、超音波センサを用いて物体を検知する物体検知装置において、物体検知性能の向上と物体の不要検知の抑制との両立を図ることを目的とした技術を開示している。特許文献1では、送波センサから送信された探査波が、物体での反射波ではなく、送波センサから直接、受波センサで受信されることを、横飛びと称している。特許文献1では、横飛びによって、実際には物体が存在していないにも関わらず受波センサで物体が有ると誤って検知されるおそれの対策として、送波センサに対して探査波の送信開始の指令が出力されてから所定の期間に、受波センサにおける受信を禁止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-105703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、音波の送受信による物体の検知において、当該物体を介さず直接的に受信される音波の影響を低減することができる物体検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる物体検知装置は、音波の送受信により物体を検知する。物体検知装置は、所定の周波数帯を有する変調波を物体に送信する送波器と、音波を受信して、受信結果を示す第1受波信号を生成する第1の受波器と、第1の受波器よりも送波器から離れた位置において音波を受信して、受信結果を示す第2受波信号を生成する第2の受波器と、第1受波信号と第2受波信号とを加算して、第3受波信号を生成する加算器と、送波器に変調波を送信させて、第3受波信号に基づき物体を検知する制御部とを備える。第1及び第2の受波器が送波器から変調波を受信した場合における、変調波に応じた第3受波信号の変動幅が、変調波に応じた第1受波信号の変動幅以下となるように、第1及び第2の受波器が配置される。
【発明の効果】
【0006】
本発明における物体検知装置によると、音波の送受信による物体の検知において、当該物体を介さず直接的に受信される音波の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1における物体検知装置の概要を説明するための図
図2】実施形態1における物体検知装置の構成を示すブロック図
図3】実施形態1の物体検知装置における送波器及び受信器の配置例を示す図
図4】物体検知装置における送波信号を説明するための図
図5】実施形態1の物体検知装置における制御部の機能的構成を示すブロック図
図6】物体検知装置における解析信号を説明するためのグラフ
図7】実施形態1の物体検知装置の動作の実験結果を例示するグラフ
図8】直達波の影響を受ける場合の実験結果を例示するグラフ
図9】物体検知装置における受波器の周波数特性の一例を示す図
図10】物体検知装置における第1の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の一例を示す波形図
図11図10の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図12図11において変動幅が最小のシフト時間における加算結果の受波信号を示す波形図
図13】物体検知装置における第2の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の一例を示す波形図
図14図13の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図15】物体検知装置における第3の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の一例を示す波形図
図16図15の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図17】物体検知装置における受波器の周波数特性の別例を示す図
図18】物体検知装置における第1の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の別例を示す波形図
図19図18の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図20】物体検知装置における第2の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の別例を示す波形図
図21図20の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図22】物体検知装置における第3の周波数帯の直達波の受信時の受波信号の別例を示す波形図
図23図22の受波信号の加算結果におけるシフト時間と変動幅との関係を示す図
図24】実施形態2の物体検知装置を説明するための図
図25】実施形態1の物体検知装置の変形例1を示す図
図26】実施形態1の物体検知装置の変形例2を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る物体検知装置の実施の形態を説明する。
【0009】
各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。実施形態2以降では実施形態1と共通の事項についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0010】
(実施形態1)
実施形態1に係る物体検知装置の構成及び動作について、以下説明する。
【0011】
1.構成
1-1.概要
実施形態1に係る物体検知装置の概要を、図1を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の物体検知装置1の概要を説明するための図である。物体検知装置1は、超音波などの音波の送受信により物体3までの距離等を検知する装置である。以下、物体検知装置1と物体3間で距離を検知する方向をZ方向とし、Z方向に対して垂直で且つ互いに直交する二方向をX,Y方向とする。
【0013】
本実施形態の物体検知装置1は、各種の物体3を検知する種々の用途に適用可能である。例えば移動体に搭載する用途において、物体検知装置1は、移動体が周囲の物体3に近接する距離、障害物の有無または路面状態などを検知できる。あるいは、物体検知装置1は、各種物体3の微小変位の検知により、生体の心拍又は呼吸等を測定するバイタルセンシング、もしくは各種製品における配線又は段差等の構造検査といった用途にも適用できる。
【0014】
物体検知装置1は、例えば各検知用途に応じて周波数を変調させた音波すなわちチャープ波W1を、送波器10から物体3に向けた+Z側に放音し、物体3におけるチャープ波W1の反射波すなわちエコーW2を、受波器11で受信して、物体3を検知する。この際、送波器10からのチャープ波W1が、特に物体3における反射を介さず直接、受波器11に到達する直達波W0が生じることから、直達波W0が物体3の検知精度に及ぼす影響が課題となる。
【0015】
上記課題の対策として従来、直達波W0の受信を禁止する時間区間を設ける手法がある(特許文献1参照)。しかしながら、こうした従来手法では、直達波W0の禁止のための時間区間において音波を受信できないことから、直達波W0と同時に到来するエコーW2を物体検知に活用できない点に問題がある。例えば、従来手法は、チャープ波W1に長いチャープ長を持たせるような物体検知方法には適用困難である。又、禁止の時間区間に応じた近距離の物体検知も行えない。
【0016】
これに対して、本実施形態では、直達波W0の受信は禁止せずに許容しながら、物体検知装置1の受波器11を複数用いる構成によって、物体3の検知精度に対する直達波W0の影響を低減して、更に上記問題も解消することができる。こうした物体検知装置1の構成について、以下説明する。
【0017】
1-2.装置構成
本実施形態の物体検知装置1の構成を、図2図3を用いて説明する。図2は、物体検知装置1の構成を示すブロック図である。図3は、本実施形態の物体検知装置1における送波器10及び受波器11の配置例を示す図である。
【0018】
本実施形態の物体検知装置1は、例えば図2に示すように、送波器10と、2つの受波器11a,11bと、制御部13と、記憶部14と、送波回路15と、受波回路16とを備える。以下では、各受波器11a,11bの総称を受波器11とする。
【0019】
図3では、物体検知装置1において、送波器10と、第1の受波器11aと、第2の受波器11bとが順番にX方向に並んで配置された構成例を示す。送波器10及び受波器11は、例えば、XY平面に沿った主面を有する基板上に配置される。送波器10と第1の受波器11aとの間の距離d1は、送波器10と第2の受波器11bとの間の距離d2よりも大きい。各距離d1,d2は、適宜許容誤差の範囲内で規定でき、例えば送波器10の中心位置及び各受波器11の中心位置といった基準位置間の距離として測定できる。
【0020】
本実施形態の物体検知装置1では、送波器10から第1の受波器11aまでの距離d1と第2の受波器11bまでの距離d2との間の距離差d0が、直達波W0(図1)の影響を低減する観点から設定される。換言すると、最適化された距離差d0に応じて、送波器10に対して第1及び第2の受波器11a,11bが配置される。本実施形態の物体検知装置1における距離差d0の最適化については後述する。
【0021】
図3に例示した物体検知装置1の構成例においては、2つの受波器11a,11bと送波器10とが、互いに同一のXY平面上に配置されている。これにより、物体検知装置1から+Z側に位置する物体3(図1)から第1受波器11aまでの距離と第2受波器11bまでの距離とを近似させて、且つ、送波器10から各受波器11a,11bまでの距離差d0を適切に設定し易い。
【0022】
図2に戻り、送波器10は、例えば、空気の加熱とその停止により音波を発生させる音波源であるサーモホンで構成される。サーモホンの送波器10によると、発熱と発熱停止を繰り返す周期に応じて音波の周波数を設定できる等、音波の広帯域化および各種変調を行い易い。また、サーモホンを用いることで小型かつ軽量に送波器10を構成可能である。サーモホンでは、例えばパルス間隔変調を適用してパルス幅を短く保つことにより、発熱及び電力消費を抑制し易い。
【0023】
本実施形態の送波器10は、特に指向性を持たない各種の無指向性音源であってもよい。送波器10は、可変又は固定の指向性音源であってもよい。送波器10はサーモホンに限らず、例えば圧電共振型の超音波トランスデューサ等であってもよい。
【0024】
送波器10は、例えば20kHz以上の周波数を有する超音波を、チャープ波W1といった変調波として発生させる。チャープ波W1は、例えば所定期間分のチャープ長において周波数が次第に(例えば線形に)減少するダウンチャープにより、所定の周波数帯を持たせて変調される。
【0025】
送波器10の変調波は、特に上記に限らず各種の変調方法を用いてもよく、例えばアップチャープでもよいし、M系列符号などの拡散符号を用いてもよい。又、パルス間隔変調の代わりにパルス幅変調が用いられてもよい。更に、周波数変調に限らず振幅変調等が行われてもよい。又、送波器10は、特に超音波に限らず各種の周波数帯の音波を発生させてもよい。チャープ波W1の周波数帯は、例えば当該周波数帯の2倍の周波数帯が、当該周波数帯と重ならないように設定される。
【0026】
送波回路15は、送波器10の駆動回路であり、例えば制御部13から入力される送波信号Sdに基づき送波器10を駆動する。例えば送波器10がサーモホンの場合の送波回路15は、スイッチングトランジスタ、キャパシタ及びインダクタ等を用いて構成でき、送波信号Sdに応じてサーモホンに流す電流をオンオフ制御する。送波回路15により、送波器10で発生させる音波の周波数帯、チャープ長、強度、及び指向性等が設定されてもよい。送波回路15の機能の一部または全ては、送波器10又は制御部13と一体的に構成されてもよい。
【0027】
受波器11は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical System)マイクロホン等のマイクロホンで構成される。第1及び第2の受波器11a,11bは、例えば同種の製品で構成され、互いに共通の周波数特性を有する(図9等参照)。各受波器11の周波数特性は、適宜許容誤差の範囲内でばらついてもよい。
【0028】
各受波器11a,11bは、それぞれ外部からの音波を受信して、受信結果を示す受波信号Sr1,Sr2を生成する。受波器11は、MEMSマイクロホンに限らず、例えば送波器10から送信される広帯域の超音波を受信可能な周波数特性を有する他のマイクロホンで構成されてもよい。例えば受波器11には、コンデンサマイクロホンが用いられてもよい。受波器11は、無指向性であってもよいし、種々の指向性を適宜、有してもよい。
【0029】
受波回路16は、例えば各受波器11a,11bからの複数の受波信号Sr1,Sr2を互いに加算する加算器を構成する。受波回路16は、複数の受波信号Sr1,Sr2の加算結果の受波信号Srを生成して、所定のダイナミックレンジの範囲内で生成した受波信号Srを制御部13に出力する。受波回路16は、各受波器11についての各種駆動回路を含んでもよい。受波回路16の機能の一部または全ては、受波器11又は制御部13と一体的に構成されてもよい。
【0030】
制御部13は、物体検知装置1の全体動作を制御する。制御部13は、例えばマイクロコンピュータで構成され、ソフトウェアと協働して所定の機能を実現する。制御部13は、記憶部14に格納されたデータ及びプログラムを読み出して種々の演算処理を行い、各種の機能を実現する。例えば、制御部13は、記憶部14に格納されたデータに基づき送波器10にチャープ波を発生させるための送波信号Sdを生成して、送波回路15に出力する。又、制御部13は、受波回路16からの受波信号Srに基づき物体3を検知するための演算機能を備える(後述)。
【0031】
なお、制御部13は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路や再構成可能な電子回路などのハードウェア回路であってもよい。制御部13は、CPU、MPU、DSP、FPGA、ASIC等の種々の半導体集積回路で構成されてもよい。また、制御部13は、アナログ/デジタル(A/D)コンバータ及びデジタル/アナログ(D/A)コンバータを含んで構成されてもよい。
【0032】
記憶部14は、制御部13の機能を実現するために必要なプログラム及びデータを記憶する記憶媒体であり、例えばフラッシュメモリで構成される。例えば記憶部14は、送波信号Sdを示すデータを格納する。こうした送波信号Sdのデータを図4に例示する。図4の例では、ダウンチャープのチャープ波W1を生成するための送波信号Sdのパルス波形を例示している。
【0033】
1-3.制御部の機能構成
本実施形態の物体検知装置1における制御部13の演算機能を、図5を用いて説明する。
【0034】
図5は、制御部13の機能的構成を示すブロック図である。制御部13は、例えば機能部として、高速フーリエ変換(FFT)部131a,131b、クロススペクトル演算部132、ヒルベルト変換部133、逆フーリエ変換(IFFT)部134a,134b、及び解析処理部135を含む。以下、各FFT部131a,131bの総称をFFT部131とし、各IFFT部134a,134bの総称をIFFT部134とする。
【0035】
制御部13は、例えば記憶部14からの送波信号Sd、及び受波回路16からの受波信号Srを入力して、各機能部131~135による信号処理を行う。各機能部131~135は、例えば後述するような所定の測定フレームレート(例えば、30フレーム/秒)で周期的に動作可能である。
【0036】
各機能部131~135のうち、FFT部131からIFFT部134までによる一連の処理は、フレーム毎の送波信号Sdと受波信号Srとに基づく解析信号を生成するために行われる。解析信号は、送波信号Sdと受波信号Srとの相互相関関数により構成される。相互相関関数は、2つの信号Sd,Sr間の相関を時間領域において示す関数である。
【0037】
FFT部131aは、制御部13に入力された送波信号Sdに対する高速フーリエ変換を演算することにより、送波信号Sdを時間領域から周波数領域に変換して、変換結果をクロススペクトル演算部132に出力する。FFT部131bは、制御部13に入力された受波信号Srに対して、FFT部131aと同様の演算を行って、変換結果をクロススペクトル演算部132に出力する。
【0038】
クロススペクトル演算部132は、FFT部131による各信号Sd,Srのフーリエ変換の結果からクロススペクトルを演算して、演算結果をIFFT部134a及びヒルベルト変換部133に出力する。クロススペクトルは、送波信号Sdと受波信号Srとの相互相関関数のフーリエ変換による周波数成分に対応する。
【0039】
IFFT部134aは、入力されたクロススペクトルに対して逆高速フーリエ変換を演算して、周波数領域から時間領域に戻す変換結果の信号Iを解析処理部135に出力する。こうして出力される信号Iは、送受波信号Sd,Sr間の相互相関関数を示す(以下「同相成分I」ともいう)。
【0040】
ヒルベルト変換部133は、入力されたクロススペクトルのヒルベルト変換を演算して、クロススペクトルの各周波数成分をπ/2ずつシフトした変換結果をIFFT部134bに出力する。
【0041】
IFFT部134bは、ヒルベルト変換されたクロススペクトルに対して、IFFT部134aと同様の演算を行って、変換結果の信号Qを解析処理部135に出力する。うして出力される信号Qは、同相成分Iと直交関係にある(以下「直交成分Q」ともいう)。
【0042】
解析処理部135は、同相成分Iを実部とし直交成分Qを虚部として有する解析信号を生成して、解析信号に関する処理を行う。このように送波信号Sdと受波信号Srとに基づいて生成された解析信号は、複素領域における解析関数を示す(図6参照)。
【0043】
以上のような制御部13の各種機能は、例えば記憶部14に格納されたプログラムにより実現されてもよく、各種機能の一部または全部がハードウェア回路により実現されてもよい。また、制御部13において、相互相関関数は、フーリエ変換後にクロススペクトルを演算後に逆フーリエ変換を行う処理に代えて、例えば送受波信号Sd,Srから直接に積和演算処理により計算されてもよい。例えば制御部13は、積和演算を行うFPGA等の回路を備えてもよい。また、制御部13における解析信号の生成は、ヒルベルト変換に限らず、例えば直交検波の機能により実現されてもよい。
【0044】
2.動作
以上のように構成される物体検知装置1の動作について、以下説明する。
【0045】
本実施形態の物体検知装置1は、例えば図5に例示した送波信号Sdのデータに対応する1回のチャープ波W1を送波器10に送信させ、当該チャープ波W1のエコーW2を受波器11で受信する動作を1フレームの測定動作として、各フレームの測定動作を順次実行する。例えば、物体検知装置1の制御部13は、測定フレーム毎に各機能部131~135の演算を行って、当該フレーム期間における送波信号Sdと受波信号Srとの相関の解析結果を示す解析信号を生成する。
【0046】
図6は、物体検知装置1における解析信号z(t)を説明するためのグラフである。図6では、1フレーム分の解析信号z(t)を例示する。解析信号z(t)は、送波信号Sdと受波信号Srとの相互相関関数を示す同相成分I(t)の実部と、対応する直交成分Q(t)の虚部とにより、複素数の値域を有する。
【0047】
物体検知装置1は、例えば解析信号z(t)の包絡線E(t)=|z(t)|を求めて、ピーク時刻t0を検出する。ピーク時刻t0は、1フレームの解析信号z(t)において振幅|z(t)|が最大となるタイミングである。このように、当該フレームのチャープ波W1の送受信において物体3による反射時に対応するタイミングを解析することで、例えば、送信したチャープ波W1が物体3からエコーW2として受信されるまでの伝搬期間が測定できる。
【0048】
以上のような解析により、物体検知装置1は、物体3から到達したエコーW2の伝搬期間から物体3までの距離を精度良く検知できる。又、物体検知装置1は、相互相関関数を複素化した解析信号z(t)において、包絡線E(t)に加えて位相∠z(t)を解析してもよく、例えば連続するフレーム間の位相差を算出してもよい。これにより、例えば物体3の微小な変位を精度良く検知可能である。
【0049】
2-1.直達波の影響について
図7は、本実施形態の物体検知装置1の実験結果を例示するグラフである。図7では、物体検知装置1の送波器10及び受波器11から距離2.2mの位置にある壁を検知対象の物体3として、測定実験を行った。チャープ波W1の周波数帯は、40kHzから80kHzという広帯域に設定した。
【0050】
図7(A)は、本実施形態の物体検知装置1における受波信号Srの波形図を例示する。図7(B)は、図7(A)の受波信号Srの解析結果の波形図を例示し、具体的には相互相関関数の解析信号z(t)の包絡線E(t)=|z(t)|の信号波形を示す。
【0051】
本実施形態の物体検知装置1は、例えば上記のような広帯域において変調するチャープ波W1を送受信して、フレーム期間中でチャープ長にわたり送波信号Sdと受波信号Sr間の相関を解析することにより、物体3の測距等の物体検知を高精度に実現する。こうした物体検知動作においては、物体3からのエコーW2をチャープ長分、受信するために、受波器11が受信を継続する時間区間を比較的長く確保することとなる。
【0052】
このため、図7(A),(B)に例示するように、直達波W0の受信範囲と、物体3からのエコー範囲とが、互いに重畳することが想定される。すなわち、上記のような高精度の物体検知動作を行う場合、直達波W1の影響対策として、直達波W1の受信禁止、あるいは受波信号Srにおいて直達波W0の受信範囲を解析対象から除外するような対策は採り難い。
【0053】
図7(A)は、本実施形態の物体検知装置1における図7(B)に対応した受波信号Srを例示する。本例の受波信号Srにおいては、直達波W0の成分が含まれているものの、本実施形態の各受波器11の配置により、受波信号Srの振幅は、受波回路16のダイナミックレンジR1の範囲内に収まっている。
【0054】
この場合、直達波W0の受信範囲と物体3からのエコーW2の受信範囲との間に重畳があっても、相互相関の解析により、図7(B)に示すように、直達波W0のピーク時刻Pw0と、物体3からのエコーW2のピーク時刻Pw2とが別個に得られる。このように、本実施形態の物体検知装置1においては、直達波W0が受信されたとしても、物体3の検知を精度良く行うことができる。
【0055】
これに対して、上記のような物体検知動作において直達波W0の影響を受けて精度低下が生じる場合を図8に例示する。図8(A)は、直達波W0の影響がある場合の受波信号Srxの波形図を例示する。図8(B)は、図8(A)の受波信号Srxの解析結果の波形図を例示する。
【0056】
図8(A)の例では、受波信号Srxにおいて、直達波W0の影響によりクリップが生じている。すなわち、直達波W0により波形振幅が受波回路または受波器のダイナミックレンジR1を超える部分を生じ、受波信号Srxにおいて正確な受信結果の信号波形が得られないことことなる。この場合、図8(B)に示すように、相互相関の解析結果において雑音レベルL1が図7(B)の場合よりも上がり、信号対雑音比の悪化から精度良い物体検知が困難となる。
【0057】
そこで、本実施形態の物体検知装置1では、例えば第1及び第2の受波器11a,11bからの各受波信号Sr1,Sr2を加算する受波回路16においてクリップを生じない程度に、直達波W0の影響を相殺するように各受波器11a,11bに関する距離差d0を最適化しておく。これにより、直達波W0の影響で信号対雑音比が悪化することを抑制し、物体検知における直達波W0の影響を低減することができる。
【0058】
2-2.距離差の最適化について
本実施形態の物体検知装置1における各受波器11a,11bに関する距離差d0の最適化について、図9図22を用いて説明する。
【0059】
図9は、物体検知装置1における受波器11の周波数特性の一例を示す。本例では、受波器11にKnowles社製のマイクロホンSPU0410LR5Hを用いた場合の周波数特性を例示している。図9の横軸は周波数を示し、縦軸は感度を示す。
【0060】
又、図9では、チャープ波W1の周波数帯として3種類の周波数帯Fm,Fn,Fwを例示している。第1の周波数帯Fmは、40kHz以上で且つ80kHz以下である。第2の周波数帯Fnは、60kHz以上で且つ80kHz以下である。第3の周波数帯Fwは、20kHz以上で且つ80kHz以下である。図9の周波数特性によると、例えば周波数80kHzの感度よりも、周波数60kHzの感度が低くなっている。
【0061】
本実施形態の物体検知装置1においては、上記第1~第2の周波数帯Fm,Fn,Fwのような広帯域をチャープ波W1に用いることから、直達波W0の影響は、仮に単一の周波数の位相差のみを考慮したとしても、その他の周波数成分に対しては相殺できないことが考えられる。こうしたことから、本実施形態では、図9に例示するように、チャープ波W1の周波数帯に応じた受波器11の周波数特性も考慮した上で、複数の受波器11a,11b間で相殺が可能な距離差d0の最適化を行う。この際、チャープ波W1の直達波W0のみが1つの受波器11に受信された場合の信号波形を用いる。
【0062】
図10は、第1の周波数帯Fmの直達波W0の受信時の受波信号Sr1の一例を示す。図10の横軸は時間であり、縦軸は受波信号Sr1の信号レベルである。図10では、チャープ波W1が第1の周波数帯Fmにおいてダウンチャープに設定された際の直達波W0が、図9の周波数特性を有する第1の受波器11aに受信された場合を例示する。
【0063】
図10の例では、受波信号Sr1において振幅の起伏即ちうねりが生じている。この受波信号Sr1のうねりの要因は、第1の受波器11aの周波数特性に起因する。例えば、より広帯域で安定した周波数特性のマイクロホンを用いれば、よりフラットな信号波形が得られる。又、第2の受波器11bの受波信号Sr2は、第1の受波器11aの受波信号Sr1の波形を、距離差d0に対応する時間幅(以下「シフト時間Δt」という)だけシフトさせた波形を有する。
【0064】
本実施形態の最適化方法では、例えば図10に示すように、に直達波W0に応じた受波信号Sr1において最大の信号レベルと最小の信号レベルとの間の変動幅Vpp1に着目する。具体的には、図10のような受波信号Sr1の波形を用いて、シフト時間Δtを与えた2つ波形を加算する波形を計算して、加算結果の受波信号Srの波形における変動幅Vppを抽出する。この際のシフト時間Δtを変えた計算結果を図11に例示する。
【0065】
図11は、図10の受波信号Sr1の加算結果の受波信号Srにおけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を示す。例えば、Δt=0の場合、加算結果の受波信号Srの変動幅Vppレベルは、加算前の受波信号Sr1の変動幅Vpp1の2倍である。図11によると、加算結果の受波信号Srの変動幅Vppは、シフト時間Δtに対して略周期的に変化していることがわかる。
【0066】
図11の例では、上記のような周期的な増減において、加算後の変動幅Vppが、加算前の変動幅Vpp1以下になるシフト時間Δtの区間T1が複数、確認できる。この時間区間T1においては、複数の受波器11a,11bを用いることにより、1つの受波器11を用いる場合よりも直達波W0の影響(即ちクリップする可能性)を低減可能となる。そこで、本実施形態では、こうした時間区間T1に含まれるシフト時間Δtを選択し、選択したシフト時間Δtに対応する距離差d0を最適化結果として決定する。距離差d0は、適宜音速によりシフト時間Δtから換算できる。
【0067】
図11において加算後の変動幅Vppが最小ピークP1であるシフト時間Δt=9μsにおける加算結果の受波信号Srを図12に示す。このシフト時間Δtに対応する距離差d0によると、加算後の受波信号Srにおいて直達波W0の影響を最も抑えられる。且つ、距離差d0が最小となることから、物体検知装置1の小型化が図れる。さらに、物体3の検知方向の範囲の位相ズレを最小にすることもでき、検知方向の指向性を広げられる。
【0068】
なお、物体検知装置1は、特に図11のシフト時間Δtに厳密に対応した距離差d0を用いなくてもよい。適宜許容誤差の範囲内で対応した距離差d0であっても上記の効果は奏し得る。例えば、シフト時間Δtの時間区間T1に対応する距離差d0の区間において、最小の区間内の距離差d0が物体検知装置1に設定できる。又、各受波信号Sr1,Srの変動幅Vpp1,Vppは、必ずしも直達波W0に応じた受波信号Sr1,Sr2の最大値及び最小値で厳密に規定されなくてもよく、適宜許容誤差の範囲内で規定できる。
【0069】
図13は、第2の周波数帯Fnの直達波W0の受信時の受波信号Sr1の一例を、図10と同様に示す。図14は、図13の受波信号Sr1の加算結果におけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を、図11と同様に示す。
【0070】
第2の周波数帯Fnをチャープ波W1に用いた場合、上記の場合よりも周波数帯を狭める代わりに、図14に示すように、加算結果の変動幅Vppが加算前の変動幅Vpp1以下になるシフト時間Δtの区間T1が、図11の場合よりも増えている。これにより、直達波W0の影響を低減できる各受波器11a,11bの配置の自由度を向上できる。また、本例では、加算後の受波信号Srの変動幅Vppが最小となるシフト時間Δtは、図11の例と同様である。
【0071】
図15は、第3の周波数帯Fnの直達波W0の受信時の受波信号Sr1の一例を、図10と同様に示す。図16は、図13の受波信号Sr1の加算結果におけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を、図11と同様に示す。
【0072】
チャープ波W1の周波数帯は、直達波W0の相殺の観点からは、例えば第1及び第2の周波数帯Fm,Fnのように最小周波数が最大周波数の半分以上であることが望ましいが、最小周波数が最大周波数の半分未満であってもよい。例えば第3の周波数帯Fwを用いた場合においても、図16に示すように、加算結果の変動幅Vppが加算前の変動幅Vpp1以下になるシフト時間Δtの区間T1が得られる。又、本例では、加算後の受波信号Srの変動幅Vppが最小となるシフト時間Δtも、図11の例と同様である。
【0073】
本実施形態の物体検知装置1は、以上のような距離差d0の最適化を、受波器11の種々の周波数特性に適用して構成できる。図17は、物体検知装置1における受波器11の周波数特性の別例を示す。本例では、受波器11にInfineon Technologies社製のマイクロホンIM73A135V01を用いた場合の周波数特性を例示している。
【0074】
図18は、図17の周波数特性において、図10の例と同様に第1の周波数帯Fmの直達波W0の受信時の受波信号Sr1の一例を示す。図19は、図18の受波信号Sr1の加算結果におけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を、図11と同様に示す。
【0075】
図17の周波数特性によると、図18に示すように、受波信号Sr1のうねりが、図9の周波数特性において同じ周波数帯を用いた場合(図10)から変化している。このため、図19に示すように、各種シフト時間Δtによる加算後の受波信号Srにおいて直達波W0に応じた変動幅Vppも、上記の場合(図11)から変化することとなる。
【0076】
例えば、図19の例では、加算後の変動幅Vppが1つの受波器11の受波信号Sr1における変動幅Vpp1以下の区間T1は1つである。又、変動幅Vppが最小ピークP1となるシフト時間Δtは、Δt=10μsになっている。こうした場合においても、上述した最適化方法により、加算後の変動幅Vppに着目してシフト時間Δtを選択することで、受波信号Srの周波数特性に応じて最適化された距離差d0を物体検知装置1に設定することができる。
【0077】
図20は、図17の周波数特性における第2の周波数帯Fnの直達波W0の受信時の受波信号Sr1を、図13と同様に例示する。図21は、図20の受波信号Sr1の加算結果におけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を、図14と同様に示す。この場合の最小ピークP1はシフト時間Δt=8μsであった。
【0078】
図22は、図17の周波数特性における第3の周波数帯Fnの直達波W0の受信時の受波信号Sr1の一例を、図15と同様に例示する。図23は、図22の受波信号Sr1の加算結果におけるシフト時間Δtと変動幅Vppとの関係を、図16と同様に示す。この場合の最小ピークP1はシフト時間Δt=13μsであった。
【0079】
3.まとめ
本発明にかかる物体検知装置1は、音波の送受信により物体3を検知する。物体検知装置1は、送波器10と、第1の受波器11aと、第2の受波器11bと、加算器の一例の受波回路16と、制御部13とを備える。送波器10は、所定の周波数帯を有する変調波の一例のチャープ波W1を物体3に送信する。第1の受波器11aは、エコーW2及び直達波W0といった音波を受信して、受信結果を示す第1受波信号として受波信号Sr1を生成する。第2の受波器11bは、第1の受波器11aよりも送波器10から離れた位置において音波を受信して、受信結果を示す第2受波信号として受波信号Sr2を生成する。加算器は、第1受波信号と第2受波信号とを加算して、第3受波信号として受波信号Srを生成する。制御部13は、送波器10に変調波を送信させて、第3受波信号に基づき物体3を検知する。第1及び第2の受波器11a,11bが送波器10から変調波を受信した場合における、変調波に応じた第3受波信号の変動幅Vppが、変調波に応じた第1受波信号の変動幅Vpp1以下となるように、第1及び第2の受波器11a,11bが配置される。
【0080】
以上の物体検知装置1によると、第1及び第2の受波器11a,11bの配置により、送波器10から第1及び第2の受波器11a,11bへ直達波W0が受信されても、各々の受波信号Sr1,Sr2の加算結果の受波信号Sr(第3受波信号)では、直達波W0の影響が相殺される。これにより、音波の送受信による物体3の検知において、当該物体3を介さず直接的に受信される直達波W0の影響を低減することができる。
【0081】
また、以上の物体検知装置1において、物体3からのエコーW2は、第1及び第2の受波器11a,11bに特に時間差なく到達し得ることから、加算結果の受波信号SrにおいてエコーW2に対応する信号成分は増大し得る。よって、本実施形態の物体検知装置1によると、直達波W0の雑音成分を低減しながら信号成分を増大でき、物体検知における信号対雑音比を向上できる。
【0082】
本実施形態において、変調波に応じた第3受波信号の変動幅Vppは、送波器10から第1の受波器11aまでの距離d1と、送波器10から第2の受波器11bまでの距離d2との間の距離差d0に対応するシフト時間Δtに応じて増減を繰り返す(図10等)。変動幅Vppは、一又は複数区間T1のシフト時間Δt(或いは対応する距離差d0)において第1受波信号の変動幅Vpp1以下となる。第1及び第2の受波器11a,11bは、例えば、各区間T1を距離に換算した一又は複数区間のうちの最小の区間内に距離差d0が含まれるように配置される。これにより、直達波W0の影響を相殺しながら、例えば物体検知装置1の小型化を図れ、物体検知装置1を構成し易くできる。
【0083】
本実施形態において、第1及び第2の受波器11a,11bは、互いに共通の周波数特性を有する。これにより、第1及び第2の受波器11a,11b間で容易に直達波W0の影響を相殺できる。
【0084】
本実施形態において、送波器10による変調波の周波数帯は、第1の周波数(例えば図9の80kHz)と、受波器11の周波数特性において第1の周波数の感度よりも低い感度を有する第2の周波数(例えば60kHz)とを含む。変調波の周波数帯に、比較的低い感度の周波数をも含めることにより、例えば、変調波の広帯域と直達波W0の影響低減とを両立し易くし得る。
【0085】
本実施形態において、変調波の周波数帯は、第1の周波数の半分よりも大きくて且つ第1の周波数よりも小さい第3の周波数(例えば41kHz)をさらに含んでもよい。変調波の周波数帯が広過ぎる場合には直達波W0の一部の周波数成分を相殺する際に他の部分で強め合いが生じ得るところ、こうした第1の周波数と第3の周波数の間の周波数成分においては、上記強め合いを回避でき、直達波W0の影響を低減し易くできる。
【0086】
本実施形態において、制御部13は、変調波を送波器10に送信させる送波信号Sdと、第3受波信号とに基づいて、相互相関関数を演算することにより、物体3を検知する(図5参照)。こうした相互相関処理の物体検知方法において、受波器11が音波を受信する時間区間を長く確保する場合であっても、本実施形態の物体検知装置1によると、直達波W0の影響を低減できる。
【0087】
本実施形態において、送波器10は、発熱と発熱停止とを繰り返して変調波を送信するサーモホンで構成される。サーモホンにより、周波数帯が広帯域の変調波を実現し、物体検知を行い易くできる。
【0088】
(実施形態2)
上記の実施形態1では、2つの受波器11a,11bの配置を備える物体検知装置1について説明したが、受波器11の個数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。実施形態2では、こうした変形例について図24を用いて説明する。
【0089】
図24は、実施形態2の物体検知装置1Aにおける送波器10及び受波器11の配置を例示する。本実施形態の物体検知装置1Aは、例えば実施形態1の物体検知装置1と同様の構成において、4つの受波器11a,11b,11c,11dを備えてもよい。この場合、物体検知装置1Aにおける受波回路16Aは、例えば図24に示すように、1組の11a,11bの受波信号の加算器と、別の組の11c,11dの受波信号の加算器と、2つの加算器によりそれぞれ加算された2つの受波信号を加算する加算器を備える。
【0090】
上記のような構成例の物体検知装置1Aにおいては、例えば2つの受波器11a,11bの組に関して直達波W0を相殺する距離差が上述した最適化方法により設定され、残りの2つの受波器11c,11dの組に関しても同様に距離差が設定される。さらに、2組の受波器11a~11dに関する距離差を最適化してもよい。こうした複数の受波器11a~11dの配置の最適化により、物体検知において直達波W0の影響をより低減することができる。
【0091】
また、本実施形態の物体検知装置1Aは、より多数の受波器11を備えてもよい。例えば、2のn乗個の受波器11を用いる場合、上記と同様に2つずつの受波器11の組合せを順次、最適化してもよい。あるいは、物体検知装置1Aが備える複数の受波器11において、配置の最適化は2つの受波器11間で直達波W0を相殺する程度に留めてもよい。
【0092】
以上のように、本実施形態の物体検知装置1Aは、第1及び第2の受波器11a,11bとは異なる位置に配置された1つ以上の第3の受波器11c,11dをさらに備える。加算器としての受波回路16Aは、第1ないし第3の受波器11a~11dからの各受波信号を加算して、第3受波信号を生成する。これにより、多数の受波器11を用いて直達波W0の影響を低減しながらエコーW2の信号成分を増大し、物体検知を行い易くすることができる。
【0093】
(他の実施形態)
上記の実施形態1,2では、物体検知装置1,1Aにおける複数の受波器11が互いに隣接する配置を例示したが、物体検知装置1は特にこれに限定されない。こうした変形例について、図25を用いて説明する。
【0094】
図25は、本変形例の物体検知装置1における送波器10及び受波器11の配置を例示する。物体検知装置1において、複数の受波器11a,11bは、特に送波器10から一方向に並んでいなくてもよい。図25の例では、送波器10の-X側に第1の受波器11aが配置され、+X側に第2の受波器11bが配置されている。このように、第1及び第2の受波器11bは、送波器10の両側にそれぞれ配置されてもよい。また、送波器10からの各受波器11a,11bの方向は、特に同一直線上になくてもよく、X,Y方向の間で適宜、設定されてもよい。
【0095】
上記のような配置においても、例えば第1及び第2の受波器11a,11bに関する距離差d0は、送波器10から第1の受波器11aまでの距離d1と第2の受波器11bまでの距離d2との間の差分の大きさとして規定できる。こうした距離差d0が、上述した最適化方法により選択されたシフト時間Δtに応じて設定されれば、設定された距離差d0を満たす範囲内で各受波器11a,11bの配置を適宜、調整可能である。
【0096】
また、上記の各実施形態では、物体検知装置1において送波器10と受波器11とが同一平面上に配置される例を説明したが、特に同一平面上ではない配置を採用してもよい。こうした変形例について、図26を用いて説明する。
【0097】
図26は、本変形例の物体検知装置1における送波器10及び受波器11の配置を例示する。本変形例の物体検知装置1では、例えば実施形態1の物体検知装置1と同様の構成において、Z方向において送波器10と複数の受波器11a,11bとをずらして配置している。例えば、送波器10が物体3に向かう+Z側に配置され、各受波器11a,11bが送波器10よりも-Z側に配置される。これにより、送波器10からの直達波W0が各受波器11a,11bに受信される程度を低減することができる。
【0098】
また、上記の各実施形態では、物体検知装置1による物体検知動作において、複素化した相互相関関数を用いる演算を例示したが、物体検知動作の演算は特にこれに限定されない。例えば、本実施形態の物体検知装置1は、相互相関関数を特に複素化せずに用いてもよい。例えば、物体検知装置1の制御部13は、包絡線E(t)のピーク検出の代わりに、実部の信号Iのピーク検出により物体3までの距離を演算してもよい。この場合、例えば制御部13の機能的構成においてヒルベルト変換部133及びその後段のIFFT部134bは省略可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,1A 物体検知装置
10 送波器
11,11a~11d 受波器
13 制御部
14 記憶部
15 送波回路
16,16A 受波回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26