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特許7552947制御支援装置、制御支援方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御支援装置、制御支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G05B23/02 X
G05B23/02 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024061226
(22)【出願日】2024-04-05
【審査請求日】2024-04-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】丹下 吉雄
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-106037(JP,A)
【文献】特開2023-157603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチプロセスを実行する対象の制御を支援する制御支援装置であって、
前記対象から出力された制御量と、前記制御量に対する目標値とを取得する取得部と、
前記制御量と、前記対象の操作量と制御量との関係を表すモデルと、前記操作量の時系列を表す操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第1の制御量予測時系列を計算する予測部と、
前記第1の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、複数の前記操作パターンの中から最良の操作パターンを選択する選択部と、
前記目標値に基づいて、前記最良の操作パターンを1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する補正部と、
を有し、
前記1以上の補正方法には、
前記最良の操作パターンの所定の時刻からバッチ終了時刻までの操作量の時系列を前又は後に所定の時間スライドさせる補正方法と、
前記最良の操作パターンのバッチ終了時刻を前又は後に所定の時間ずらす補正方法と、
が含まれる、制御支援装置。
【請求項2】
前記予測部は、
前記制御量と、前記モデルと、前記補正操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第2の制御量予測時系列を計算し、
前記補正部は、
前記第2の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、前記1以上の補正操作パターンの中から、前記最良の補正操作パターンを選択する、請求項1に記載の制御支援装置。
【請求項3】
前記選択部は、
前記第1の制御量予測時系列のバッチ終了時点における制御量が前記目標値に最も近い前記操作パターン、又は、前記バッチ終了時点における制御量が前記目標値に最も近く、かつ、前記バッチ終了時点における制御量が前記目標値を超えない前記操作パターンを、前記最良の操作パターンとして選択する、請求項1に記載の制御支援装置。
【請求項4】
前記補正部は、
前記第2の制御量予測時系列のバッチ終了時点における制御量が前記目標値に最も近い前記補正操作パターン、又は、前記バッチ終了時点における制御量が前記目標値に最も近く、かつ、前記バッチ終了時点における制御量が前記目標値を超えない前記補正操作パターンを、前記最良の補正操作パターンとして選択する、請求項2に記載の制御支援装置。
【請求項5】
前記最良の補正操作パターンと、前記最良の補正操作パターンに対応する前記第2の制御量予測時系列とを表示させる表示制御部を有する請求項2又は4に記載の制御支援装置。
【請求項6】
前記最良の補正操作パターンを前記対象に出力する出力部を有する請求項1に記載の制御支援装置。
【請求項7】
前記所定の時刻は、バッチ開始時刻である、請求項1に記載の制御支援装置。
【請求項8】
前記モデルは、
前記取得部によって取得された前記制御量と、少なくとも操作量を所定の関数で変換した値の積分値との和により、各予測対象時刻における制御量を計算する、請求項1に記載の制御支援装置。
【請求項9】
前記取得部は、
予め決められた所定の周期毎に、前記制御量を取得し、
前記予測部は、
前記周期毎に、前記制御量と、前記モデルと、前記補正操作パターンとに基づいて、前記第2の制御量予測時系列を計算し、
前記補正部は、
前記第2の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、前記最良の操作パターンのうちの現在時刻よりも未来の操作量の時系列を表す対象操作パターンを前記1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する、請求項2に記載の制御支援装置。
【請求項10】
前記所定の時刻は、現在時刻である、請求項9に記載の制御支援装置。
【請求項11】
バッチプロセスを実行する対象の制御を支援する制御支援装置が、
前記対象から出力された制御量と、前記制御量に対する目標値とを取得する取得手順と、
前記制御量と、前記対象の操作量と制御量との関係を表すモデルと、前記操作量の時系列を表す操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第1の制御量予測時系列を計算する予測手順と、
前記第1の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、複数の前記操作パターンの中から最良の操作パターンを選択する選択手順と、
前記目標値に基づいて、前記最良の操作パターンを1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する補正手順と、
を実行し、
前記1以上の補正方法には、
前記最良の操作パターンの所定の時刻からバッチ終了時刻までの操作量の時系列を前又は後に所定の時間スライドさせる補正方法と、
前記最良の操作パターンのバッチ終了時刻を前又は後に所定の時間ずらす補正方法と、
が含まれる、制御支援方法。
【請求項12】
バッチプロセスを実行する対象の制御を支援する制御支援装置に、
前記対象から出力された制御量と、前記制御量に対する目標値とを取得する取得手順と、
前記制御量と、前記対象の操作量と制御量との関係を表すモデルと、前記操作量の時系列を表す操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第1の制御量予測時系列を計算する予測手順と、
前記第1の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、複数の前記操作パターンの中から最良の操作パターンを選択する選択手順と、
前記目標値に基づいて、前記最良の操作パターンを1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する補正手順と、
を実行させ
前記1以上の補正方法には、
前記最良の操作パターンの所定の時刻からバッチ終了時刻までの操作量の時系列を前又は後に所定の時間スライドさせる補正方法と、
前記最良の操作パターンのバッチ終了時刻を前又は後に所定の時間ずらす補正方法と、
が含まれる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御支援装置、制御支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バッチプロセスでは、バッチ毎に同じ処理が繰り返されるという特徴がある。このため、バッチプロセスのパラメータ同定とそのパラメータを利用したプロセス制御とを行う際に、前回処理の情報を次回処理にも利用する技術が知られている(例えば、特許文献1)。また、バッチプロセスのプロセス制御を行う際に、ゴールデンバッチと呼ばれる過去の最良のバッチ操作パターンを利用することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-191202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、様々な要因(例えば、プラントの現在の状態や外乱条件、設備の特性変化等といった要因)によって、必ずしも目標とする制御性能がゴールデンバッチにより達成できるとは限らない。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、目標とする制御性能を達成できるバッチプロセス制御を実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による制御支援装置は、バッチプロセスを実行する対象の制御を支援する制御支援装置であって、前記対象から出力された制御量と、前記制御量に対する目標値とを取得する取得部と、前記制御量と、前記対象の操作量と制御量との関係を表すモデルと、前記操作量の時系列を表す操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第1の制御量予測時系列を計算する予測部と、前記第1の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、複数の前記操作パターンの中から最良の操作パターンを選択する選択部と、前記目標値に基づいて、前記最良の操作パターンを1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する補正部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
目標とする制御性能を達成できるバッチプロセス制御が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一の実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】第一の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図3】1番目~n番目のバッチ操作パターンの一例を示す図である。
図4】1番目~m番目のバッチ補正方法の一例を示す図である。
図5】第一の実施形態に係る最良バッチ操作パターン選択処理の一例を示すフローチャートである。
図6】目標偏差の一例を示す図である。
図7】第一の実施形態に係るバッチ補正処理の一例を示すフローチャートである。
図8】第二の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図9】m+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法の一例を示す図である。
図10】第二の実施形態に係るバッチ補正処理の一例を示すフローチャートである。
図11】一実施例に係る制御対象を模式的に示す図である。
図12】一実施例に係る制御対象の入力バルブの弁特性を示す図である。
図13】一実施例に係るバッチ操作パターン、CV値、制御量及び目標値を示す図である。
図14】一実施例に係る最良バッチ操作パターンに対する補正を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第一及び第二の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の第一及び第二の実施形態では、バッチプロセスを実行するプラント等を制御対象20として、その制御対象20が目標とする制御性能を達成できるバッチプロセス制御を実現する制御装置10について説明する。なお、バッチプロセスを実行するプラントの具体例としては、例えば、鉄鋼、鋳造、食品、半導体等の分野の製造プロセスを実行するプラント等が挙げられる。ただし、制御対象20がプラントであることは一例であって、制御対象20は、バッチプロセスを実行する機器、装置、設備等であればプラントに限られるものではない。
【0010】
ここで、バッチプロセスでは、バッチと呼ばれる単位毎に同一の処理が繰り返される。以下、バッチプロセスに含まれるバッチ単位の各処理のことを「バッチ処理」と呼ぶことにする。また、バッチプロセスには少なくとも1以上のバッチ処理が含まれているものとする。
【0011】
また、以下、制御対象20の制御量をy、バッチ処理の終了時刻における制御量yに対する目標値をr、制御対象20に対する操作量uとする。また、時刻を表す変数をtとして、時刻tにおける制御量をy(t)、時刻tにおける操作量をu(t)と表すことにする。更に、時刻は、或る所定の基準時刻(例:「0時00分」等)からの相対時刻で表されているものとする。
【0012】
[第一の実施形態]
まず、第一の実施形態について説明する。以下、現在時刻をtとして、現在時刻tは、制御対象20が実行するバッチプロセスに含まれる或るバッチ処理の開始前、かつ、そのバッチ処理の1つ前のバッチ処理の終了後であるものとする。すなわち、或るバッチ処理の開始時刻をtbgn、終了時刻をtend、その1つ前のバッチ処理の開始時刻をtbgn'、終了時刻をtend'としたとき、tend'<t<tbgnであるものとする。なお、バッチ処理の開始時刻のことを「バッチ開始時刻」、終了時刻のことを「バッチ終了時刻」とも呼ぶことにする。
【0013】
<第一の実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成例>
第一の実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成例を図1に示す。図1に示すように、第一の実施形態に係る制御装置10は、入力装置101と、表示装置102と、外部I/F103と、通信I/F104と、RAM(Random Access Memory)105と、ROM(Read Only Memory)106と、補助記憶装置107と、プロセッサ108とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス109を介して通信可能に接続される。
【0014】
入力装置101は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、物理ボタン等である。表示装置102は、例えば、ディスプレイ、表示パネル等である。なお、制御装置10は、例えば、入力装置101及び表示装置102のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0015】
外部I/F103は、記録媒体103a等の外部装置とのインタフェースである。記録媒体103aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0016】
通信I/F104は、制御装置10が他の機器や装置、端末等と通信するためのインタフェースである。RAM105は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。ROM106は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。補助記憶装置107は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置である。プロセッサ108は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。
【0017】
なお、図1に示す制御装置10のハードウェア構成は一例であって、制御装置10のハードウェア構成はこれに限られるものではない。例えば、制御装置10は、複数の補助記憶装置107や複数のプロセッサ108を有していてもよいし、図示したハードウェアの一部を有していなくてもよいし、図示したハードウェア以外の種々のハードウェアを有していてもよい。
【0018】
<第一の実施形態に係る制御装置10の機能構成例>
第一の実施形態に係る制御装置10の機能構成例を図2に示す。図2に示すように、第一の実施形態に係る制御装置10は、制御量・目標値取得部201と、制御量予測部202と、バッチ選択部203と、バッチ補正部204と、表示制御部205と、出力部206とを有する。これら各部は、例えば、制御装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ108等に実行させる処理により実現される。また、第一の実施形態に係る制御装置10は、バッチ操作パターン記憶部207と、バッチ応答モデル記憶部208と、バッチ補正方法記憶部209とを有する。これら各記憶部は、例えば、補助記憶装置107等の記憶領域により実現される。ただし、これら各記憶部のうちの少なくとも1つの記憶部が、例えば、制御装置10と通信可能に接続される記憶装置の記憶領域等により実現されていてもよい。
【0019】
制御量・目標値取得部201は、与えられた目標値rを取得すると共に、現在時刻tにおける制御量y(t)を制御対象20から取得する。なお、目標値rは、例えば、制御対象20のオペレータの操作によって与えられてもよいし、制御対象20のオペレータが利用する端末から与えられてもよいし、その他の機器等から与えられてもよい。
【0020】
制御量予測部202は、バッチ応答モデル記憶部208に記憶されているバッチ応答モデルと、制御量・目標値取得部201によって取得された制御量y(t)と、バッチ選択部203によって選択されたバッチ操作パターンとに基づいて、そのバッチ操作パターンに対応する制御量予測時系列を計算する。バッチ操作パターンとは、過去にバッチ処理を実行したときの操作量u(t)の時系列データのことである。制御量予測時系列とは、現在時刻tからバッチ終了時刻tendまでの制御量yの予測値(以下、「制御量予測値」ともいう。)の時系列データのことである。また、バッチ応答モデルとは、操作量uが入力されたときに制御対象20から出力される制御量yをモデル化したデータ(言い換えれば、制御対象20における操作量uと制御量yとの関係をモデル化したデータ)のことである。バッチ応答モデルは、例えば、操作量uを少なくとも入力として、制御量yを出力する関数又はアルゴリズム等で表される。
【0021】
また、制御量予測部202は、バッチ応答モデル記憶部208に記憶されているバッチ応答モデルと、制御量・目標値取得部201によって取得された制御量y(t)と、バッチ補正部204によって計算された補正バッチ操作パターンとに基づいて、その補正バッチ操作パターンに対応する制御量予測時系列を計算する。補正バッチ操作パターンとは、バッチ選択部203によって選択された最良バッチ操作パターン(後述)を或る補正方法により補正した操作量u(t)の時系列データのことである。
【0022】
バッチ選択部203は、バッチ操作パターン記憶部207に記憶されているバッチ操作パターンの中から、制御量予測時系列の計算対象となるバッチ操作パターンを選択する。また、バッチ選択部203は、バッチ操作パターン記憶部207に記憶されているすべてのバッチ操作パターンに対して制御量予測時系列が計算された場合、制御量・目標値取得部201によって取得された目標値rと、各制御量予測時系列とに基づいて、最良バッチ操作パターンを選択する。最良バッチ操作パターンとは、バッチ操作パターン記憶部207に記憶されているバッチ操作パターンのうち、最良の制御量予測時系列が得られたバッチ操作パターンのことである。ここで、制御量予測時系列の良さは、目標値rと、バッチ終了時刻tendにおける制御量予測値との差を表す目標偏差により評価される。例えば、目標偏差の絶対値が最も小さい制御量予測時系列を最良の制御量予測時系列としてもよいし、バッチ終了時刻tendにおける制御量予測値が目標値rを超えず、かつ、目標偏差の絶対値が最も小さい制御量予測時系列を最良の制御量予測時系列としてもよい。
【0023】
バッチ補正部204は、バッチ補正方法記憶部209に記憶されているバッチ補正方法と、バッチ選択部203によって選択された最良バッチ操作パターンとに基づいて、そのバッチ補正方法により最良バッチ操作パターンを補正した補正バッチ操作パターンを計算する。また、バッチ補正部204は、補正バッチ操作パターンのうち、最良の補正バッチ操作パターンを最良補正バッチ操作パターンとして選択する。最良の補正バッチ操作パターンとは、補正バッチ操作パターンのうち、最良の制御量予測時系列が得られた補正バッチ操作パターンのことである。
【0024】
表示制御部205は、バッチ補正部204によって選択された最良補正バッチ操作パターンと、その最良補正バッチ操作パターンに対応する制御量予測時系列とを表示装置102上に表示させる。
【0025】
出力部206は、バッチ補正部204によって選択された最良補正バッチ操作パターンを制御対象20に出力する。
【0026】
バッチ操作パターン記憶部207は、1以上のバッチ操作パターンを記憶する。バッチ操作パターン記憶部207には、ゴールデンバッチと呼ばれるバッチ操作パターンが記憶されていてもよい。以下、バッチ操作パターン記憶部207には1番目~n番目のn個のバッチ操作パターンが記憶されているものとして、i番目のバッチ操作パターンを{u(t)|t∈[tbgn -Δ ,tend +Δ ]}とする。また、簡単のため、i番目のバッチ操作パターンのことを「バッチ操作パターンi」とも呼ぶことにする。ここで、tbgn はi番目のバッチ操作パターンが行われたときのバッチ処理のバッチ開始時刻、tend は当該バッチ処理のバッチ終了時刻である。また、Δ ≧0、Δ ≧0であり、tbgn -Δ ≦t<tbgn に対してu(t)=u(tbgn )、tend <t≦tend +Δ に対してu(t)=u(tend )であるものとする。バッチ操作パターンは、過去の操業時に実際にバッチ処理を実行したときの操作量u(t)の時系列データであってもよいし、過去にシミュレーション等でバッチ処理を実行したときの操作量u(t)の時系列データであってもよい。なお、バッチ操作パターンの具体例については後述する。
【0027】
バッチ応答モデル記憶部208は、バッチ応答モデルを記憶する。なお、バッチ応答モデルの具体例については後述する。
【0028】
バッチ補正方法記憶部209は、1以上のバッチ補正方法を記憶する。以下、バッチ補正方法記憶部209には1番目~m番目のm個のバッチ補正方法が記憶されているものとする。また、簡単のため、i番目のバッチ補正方法のことを「バッチ補正方法i」とも呼ぶことにする。なお、1番目~m番目のバッチ補正方法の具体例については後述する。
【0029】
≪1番目~n番目のバッチ操作パターンの具体例≫
一例として、n=3である場合における1番目~3番目のバッチ操作パターンの具体例を図3(A)~図3(B)に示す。図3(A)はバッチ操作パターン1、図3(B)はバッチ操作パターン2、図3(C)はバッチ操作パターン3をそれぞれ示している。
【0030】
≪1番目~m番目のバッチ補正方法の具体例≫
一例として、m=2である場合における1番目~2番目のバッチ補正方法の具体例を図4(A)~図4(B)に示す。
【0031】
図4(A)に示すバッチ補正方法1は、バッチ開始時刻~バッチ終了時刻までの間のバッチ操作パターンを所定の時間だけ後ろ又は前にスライドさせる補正方法である。例えば、補正対象となるバッチ操作パターンのバッチ開始時刻をtbgn,0、バッチ終了時刻をtend,0とする。このとき、図4(A)に示すバッチ補正方法1では、バッチ開始時刻がtbgn,1=tbgn,0+d、バッチ終了時刻がtend,1=tend,0+dとなるように、バッチ開始時刻tbgn,0からバッチ終了時刻tend,0までの間のバッチ操作パターンを後ろ又は前にスライドさせる。なお、t<tbgn,1を満たす時刻tにおける操作量はバッチ開始時刻tbgn,1における操作量と同一、tend,1<tを満たす時刻tにおける操作量はバッチ終了時刻tend,1における操作量と同一とする。ここで、tbgn,1は補正後のバッチ操作パターンのバッチ開始時刻、tend,1は補正後のバッチ操作パターンのバッチ終了時刻、dは予め決められた実数である。
【0032】
図4(B)に示すバッチ補正方法2は、バッチ終了時刻を所定の時間だけ後ろ又は前にずらす補正方法である。例えば、補正対象となるバッチ操作パターンのバッチ開始時刻をtbgn,0、バッチ終了時刻をtend,0とする。このとき、図4(B)に示すバッチ補正方法2では、バッチ終了時刻をtend,1=tend,0+dとする。なお、tend,1<tを満たす時刻tにおける操作量はバッチ終了時刻tend,1における操作量と同一とする。ここで、tend,1は補正後のバッチ操作パターンのバッチ終了時刻、dは予め決められた実数である。
【0033】
なお、図4(A)~図4(B)に示すバッチ補正方法はいずれも一例であって、これら以外にも様々なバッチ補正方法がバッチ補正方法記憶部209に記憶されていてもよい。
【0034】
<第一の実施形態に係る最良バッチ操作パターン選択処理>
最良バッチ操作パターンを選択する最良バッチ操作パターン選択処理について、図5を参照しながら説明する。以下では、i=1,・・・,nに対して、t∈[tbgn -Δ ,tbgn )であるものとする。また、与えられた目標値rと、現在時刻tまでの制御量yとが制御量・目標値取得部201によって取得されているものとする。
【0035】
バッチ選択部203は、最良バッチ操作パターン選択処理内で使用される変数iの値を1に初期化する(ステップS101)。すなわち、バッチ選択部203は、i←1とする。
【0036】
バッチ選択部203は、バッチ操作パターン記憶部207に記憶されている1番目~n番目のバッチ操作パターンの中からi番目のバッチ操作パターンを選択する(ステップS102)。
【0037】
制御量予測部202は、バッチ応答モデル記憶部208に記憶されているバッチ応答モデルと、制御量・目標値取得部201によって取得された制御量y(t)と、上記のステップS102で選択されたi番目のバッチ操作パターンとに基づいて、i番目のバッチ操作パターンに対応する制御量予測時系列を計算する(ステップS103)。バッチ応答モデルは、例えば、以下の式(1)により表すことができる。
【0038】
【数1】

ここで、tは予測対象時刻、fは少なくとも操作量uを入力として制御量yを出力する関数である。なお、関数fは予め設計される。
【0039】
ただし、上記の式(1)に示すバッチ応答モデルは一例であって、バッチ応答モデルは、例えば、以下の式(2)により表すこともできる。
【0040】
【数2】
ここで、x(t)は外部変数である。なお、外部変数xとは操作量u以外に制御量yが依存する変数のことである。外部変数xの具体例としては、例えば、操作量uが或る入出力系統における入力バルブの開度であるときに出力バルブの開度等が挙げられる。
【0041】
他の例として、バッチ応答モデルは、例えば、以下の式(3)により表すこともできる。
【0042】
【数3】
ここで、θはパラメータである。なお、パラメータθとは関数fが依存する変数のことである。パラメータθの具体例としては、例えば、気温等の環境条件、液体の温度や膨張率等が挙げられる。
【0043】
上記の式(1)、(2)又は(3)に示すバッチ応答モデルは、現在時刻tの制御量y(t)を基準として、予測対象時刻tにおける制御量が、少なくとも操作量u(t)を関数fで変換した値の積分値でモデル化されることを意味している。
【0044】
このとき、制御量予測部202は、u(t)=u(t)として、上記の式(1)、(2)又は(3)に示すバッチ応答モデルにより各予測対象時刻t∈(t,tend +Δ ]における制御量予測値yp,1 (t):=y(t)を計算することができる。これにより、i番目のバッチ操作パターンに対応する制御量予測時系列{yp,1 (t)|t∈(t,tend +Δ ]}が得られる。
【0045】
制御量予測部202は、上記のステップS103で計算された制御量予測時系列と、制御量・目標値取得部201によって取得された目標値rとに基づいて、その制御量予測時系列に対応する目標偏差を計算する(ステップS104)。すなわち、制御量予測部202は、目標値rと、バッチ終了時刻tend における制御量予測値yp,1 (tend )との差を目標偏差ei,1として計算する。ここで、目標偏差ei,1の一例を図6に示す。図6に示すように、目標偏差ei,1は、目標値rと、バッチ終了時刻tend における制御量予測値yp,1 (tend )との差として定義される。なお、ei,1=r-yp,1 (tend )と定義すればよい。
【0046】
バッチ選択部203は、i>n-1であるか否かを判定する(ステップS105)。言い換えれば、バッチ選択部203は、バッチ操作パターン記憶部207に記憶されている1番目~n番目のバッチ操作パターンが選択済であるか否かを判定する。
【0047】
上記のステップS105でi>n-1であると判定されなかった場合、バッチ選択部203は、変数iに対して1を加算(ステップS106)し、上記のステップS102に戻る。すなわち、バッチ選択部203は、i←i+1として、上記のステップS102に戻る。これにより、すべてのバッチ操作パターンに対して上記のステップS102~ステップS105が実行され、n個の目標偏差e1,1,・・・,en,1が得られる。
【0048】
一方で、上記のステップS105でi>n-1であると判定された場合、バッチ選択部203は、1番目~n番目のバッチ操作パターンの中から最良バッチ操作パターンを選択する(ステップS107)。バッチ選択部203は、例えば、目標偏差ei,1の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応するバッチ操作パターンiを最良バッチ操作パターンとして選択してもよいし、制御量予測値yp,1 (tend )が目標値rを超えず、かつ、目標偏差ei,1の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応するバッチ操作パターンiを最良バッチ操作パターンとして選択してもよい。以下、最良バッチ操作パターンを{u(t)|t∈[tbgn -Δ ,tend +Δ ]}と表すことにする。
【0049】
<第一の実施形態に係るバッチ補正処理>
最良補正バッチ操作パターンを計算するバッチ補正処理について、図7を参照しながら説明する。以下では、上記の最良バッチ操作パターン選択処理により最良バッチ操作パターン{u(t)|t∈[tbgn -Δ ,tend +Δ ]}が得られたものとする。
【0050】
バッチ補正部204は、バッチ補正処理内で使用される変数iの値を1に初期化する(ステップS201)。すなわち、バッチ補正部204は、i←1とする。
【0051】
バッチ補正部204は、バッチ補正方法記憶部209に記憶されている1番目~m番目のバッチ補正方法の中からi番目のバッチ補正方法を選択する(ステップS202)。
【0052】
バッチ補正部204は、上記のステップS202で選択されたi番目のバッチ補正方法により最良バッチ操作パターンを補正した補正バッチ操作パターンiを計算する(ステップS203)。以下、補正バッチ操作パターンiを{ub,i(t)|t∈[tbgn b,i-Δ ,tend b,i+Δ ]}と表すことにする。ここで、ub,i(t)は補正バッチ操作パターンiに含まれる操作量、tbgn b,iは補正バッチ操作パターンiにおけるバッチ開始時刻、tend b,iは補正バッチ操作パターンiにおけるバッチ終了時刻である。
【0053】
制御量予測部202は、バッチ応答モデル記憶部208に記憶されているバッチ応答モデルと、制御量・目標値取得部201によって取得された制御量y(t)と、上記のステップS203で計算された補正バッチ操作パターンiとに基づいて、補正バッチ操作パターンiに対応する制御量予測時系列を計算する(ステップS204)。制御量予測部202は、u(t)=ub,i(t)として、上記の式(1)、(2)又は(3)に示すバッチ応答モデルにより各予測対象時刻t∈(t,tend b,i+Δ ]における制御量予測値yp,2 (t):=y(t)を計算することができる。これにより、補正バッチ操作パターンiに対応する制御量予測時系列{yp,2 (t)|t∈(t,tend b,i+Δ ]}が得られる。
【0054】
制御量予測部202は、上記のステップS204で計算された制御量予測時系列と、制御量・目標値取得部201によって取得された目標値rとに基づいて、その制御量予測時系列に対応する目標偏差を計算する(ステップS205)。すなわち、制御量予測部202は、目標値rと、バッチ終了時刻tend b,iにおける制御量予測値yp,2 (tend b,i)との差を目標偏差ei,2として計算する。なお、ei,2=r-yp,2 (tend b,i)と定義すればよい。
【0055】
バッチ補正部204は、i>m-1であるか否かを判定する(ステップS206)。言い換えれば、バッチ補正部204は、バッチ補正方法記憶部209に記憶されている1番目~m番目のバッチ補正方法が選択済であるか否かを判定する。
【0056】
上記のステップS206でi>m-1であると判定されなかった場合、バッチ補正部204は、変数iに対して1を加算(ステップS207)し、上記のステップS202に戻る。すなわち、バッチ補正部204は、i←i+1として、上記のステップS202に戻る。これにより、1番目~m番目のバッチ補正方法に対して上記のステップS202~ステップS206が実行され、m個の目標偏差e1,2,・・・,em,2が得られる。
【0057】
一方で、上記のステップS206でi>m-1であると判定された場合、バッチ補正部204は、補正バッチ操作パターン1~mの中から最良補正バッチ操作パターンを選択する(ステップS208)。バッチ補正部204は、例えば、目標偏差ei,2の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応する補正バッチ操作パターンiを最良補正バッチ操作パターンとして選択してもよいし、制御量予測値yp,2 (tend b,i)が目標値rを超えず、かつ、目標偏差ei,2の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応する補正バッチ操作パターンiを最良補正バッチ操作パターンとして選択してもよい。
【0058】
上記の最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列は、表示制御部205により、表示装置102上に表示される。ただし、表示制御部205は、例えば、制御装置10と通信可能に接続される端末(例:制御対象20のオペレータが利用する端末等)が備えるディスプレイ上に最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列とを表示させてもよい。これにより、例えば、制御対象20のオペレータ等は、制御対象20が目標とする制御性能を最も達成できるバッチ操作パターンである最良補正バッチ操作パターンと、最良補正バッチ操作パターンが行われたときの制御量予測時系列とを知ることが可能となる。
【0059】
また、上記の最良補正バッチ操作パターンは、出力部206により、制御対象20に出力される。これにより、制御対象20を最良補正バッチ操作パターンにより制御することが可能となる。ただし、出力部206は、例えば、最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列とを参考にしてオペレータ等により決定されたバッチ操作パターンを制御対象20に出力してもよい。
【0060】
<第一の実施形態のまとめ>
以上のように、第一の実施形態に係る制御装置10によれば、過去のゴールデンバッチを含むバッチ操作パターンと、現在時刻tにおける制御量y(t)と、バッチ応答モデルとに基づいて、最適なバッチ操作パターンを選択した上でそのバッチ操作パターンを補正することにより、制御量をより目標値に近付けるようなバッチプロセス制御を実現又はその支援をすることができる。
【0061】
[第二の実施形態]
次に、第二の実施形態について説明する。第二の実施形態では、tbgn≦t<tendであるものとして、バッチ処理中にサンプリング周期T毎にバッチ補正処理を繰り返す場合について説明する。これにより、例えば、バッチ開始後に、未知の外乱が生じたり、バッチ応答モデルの誤差が大きくなったりした場合であっても、最良バッチ操作パターンをリアルタイムに補正することができるため、目標とする制御性能を達成することが可能となる。
【0062】
なお、第二の実施形態では、主に、第一の実施形態との相違点について説明し、第一の実施形態と同様としてよい構成要素についてはその説明を省略する。
【0063】
<第二の実施形態に係る制御装置10の機能構成例>
第二の実施形態に係る制御装置10の機能構成例を図8に示す。図8に示すように、第二の実施形態に係る制御装置10は、第一の実施形態で説明した各部に加えて、タイマ210を有する。タイマ210は、例えば、制御装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ108等に実行させる処理により実現される。
【0064】
タイマ210は、バッチ処理の開始後、サンプリング周期T毎にバッチ補正部204を動作させる。ここで、サンプリング周期Tとは制御量・目標値取得部201によって制御量y(t)が取得される周期(時間幅)のことであり、その値は予め設定される。
【0065】
また、バッチ補正方法記憶部209には、1番目~m番目のm個のバッチ補正方法に加えて、バッチ処理の開始後に実行されるバッチ補正処理で利用するm+1番目~m+m'番目のm'個のバッチ補正方法が記憶されている。なお、m+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法の具体例については後述する。
【0066】
ただし、m+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法には、1番目~m番目のバッチ補正方法の全部又は一部が含まれていてもよい。言い換えれば、1番目~m番目のバッチ補正方法とm+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法は、全部又は一部が重複していてもよい。
【0067】
≪m+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法の具体例≫
一例として、m'=2である場合におけるm+1番目~m+2番目のバッチ補正方法の具体例を図9(A)~図9(B)に示す。
【0068】
図9(A)に示すバッチ補正方法m+1は、現在時刻~バッチ終了時刻までの間のバッチ操作パターンを所定の時間だけ後ろにスライド(言い換えれば、現在時刻における操作量を所定の時間だけ延長)させる補正方法である。例えば、補正対象となるバッチ操作パターンのバッチ終了時刻をtend,0とする。このとき、図9(A)に示すバッチ補正方法m+1では、現在時刻tにおける操作量をt=t+dm+1まで延長し、バッチ終了時刻をtend,1=tend,0+dm+1とする。なお、tend,1<tを満たす時刻tにおける操作量はバッチ終了時刻tend,1における操作量と同一とする。ここで、tend,1は補正後のバッチ操作パターンのバッチ終了時刻、dm+1は予め決められた実数である。
【0069】
図9(B)に示すバッチ補正方法m+2は、バッチ終了時刻を所定の時間だけ後ろ又は前にずらす補正方法である。例えば、補正対象となるバッチ操作パターンのバッチ終了時刻をtend,0とする。このとき、図9(B)に示すバッチ補正方法m+2では、バッチ終了時刻をtend,1=tend,0+dm+2とする。なお、tend,1<tを満たす時刻tにおける操作量はバッチ終了時刻tend,1における操作量と同一とする。ここで、tend,1は補正後のバッチ操作パターンのバッチ終了時刻、dm+2は予め決められた実数である。
【0070】
なお、図9(A)~図9(B)に示すバッチ補正方法はいずれも一例であって、これら以外にも様々なバッチ補正方法がバッチ補正方法記憶部209に記憶されていてもよい。
【0071】
<第二の実施形態に係るバッチ補正処理>
サンプリング周期T毎に最良補正バッチ操作パターンを計算するバッチ補正処理について、図10を参照しながら説明する。以下では、上記の最良バッチ操作パターン選択処理により最良バッチ操作パターン{u(t)|t∈[tbgn -Δ ,tend +Δ ]}が得られたものとして、{u(t)|t∈(t,tend +Δ ]}を対象最良バッチ操作パターンと呼ぶことにする。すなわち、対象最良バッチ操作パターンとは、最良バッチ操作パターンのうち、未来の時刻の操作量の時系列データで構成されるバッチ操作パターンのことである。なお、以下のステップS301~ステップS308はサンプリング周期T毎に繰り返し実行される。
【0072】
バッチ補正部204は、バッチ補正処理内で使用される変数iの値をm+1に初期化する(ステップS301)。すなわち、バッチ補正部204は、i←m+1とする。
【0073】
バッチ補正部204は、バッチ補正方法記憶部209に記憶されているm+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法の中からi番目のバッチ補正方法を選択する(ステップS302)。
【0074】
バッチ補正部204は、上記のステップS302で選択されたi番目のバッチ補正方法により対象最良バッチ操作パターンを補正した補正バッチ操作パターンiを計算する(ステップS303)。以下、補正バッチ操作パターンiを{ub,i(t)|t∈(t,tend b,i+Δ ]}と表すことにする。ここで、ub,i(t)は補正バッチ操作パターンiに含まれる操作量、tend b,iは補正バッチ操作パターンiにおけるバッチ終了時刻である。
【0075】
制御量予測部202は、バッチ応答モデル記憶部208に記憶されているバッチ応答モデルと、制御量・目標値取得部201によって取得された制御量y(t)と、上記のステップS303で計算された補正バッチ操作パターンiとに基づいて、補正バッチ操作パターンiに対応する制御量予測時系列を計算する(ステップS304)。制御量予測部202は、u(t)=ub,i(t)として、上記の式(1)、(2)又は(3)に示すバッチ応答モデルにより各予測対象時刻t∈(t,tend b,i+Δ ]における制御量予測値yp,2 (t):=y(t)を計算することができる。これにより、補正バッチ操作パターンiに対応する制御量予測時系列{yp,2 (t)|t∈(t,tend b,i+Δ ]}が得られる。
【0076】
制御量予測部202は、上記のステップS304で計算された制御量予測時系列と、制御量・目標値取得部201によって取得された目標値rとに基づいて、その制御量予測時系列に対応する目標偏差を計算する(ステップS305)。すなわち、制御量予測部202は、目標値rと、バッチ終了時刻tend b,iにおける制御量予測値yp,2 (tend b,i)との差を目標偏差ei,2として計算する。
【0077】
バッチ補正部204は、i>m+m'-1であるか否かを判定する(ステップS306)。言い換えれば、バッチ補正部204は、バッチ補正方法記憶部209に記憶されているm+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法が選択済であるか否かを判定する。
【0078】
上記のステップS306でi>m+m'-1であると判定されなかった場合、バッチ補正部204は、変数iに対して1を加算(ステップS307)し、上記のステップS302に戻る。すなわち、バッチ補正部204は、i←i+1として、上記のステップS302に戻る。これにより、m+1番目~m+m'番目のバッチ補正方法に対して上記のステップS302~ステップS306が実行され、m'個の目標偏差em+1,2,・・・,em+m',2が得られる。
【0079】
一方で、上記のステップS306でi>m+m'-1であると判定された場合、バッチ補正部204は、補正バッチ操作パターンm+1~m+m'の中から最良補正バッチ操作パターンを選択する(ステップS308)。バッチ補正部204は、例えば、目標偏差ei,2の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応する補正バッチ操作パターンiを最良補正バッチ操作パターンとして選択してもよいし、制御量予測値yp,2 (tend b,i)が目標値rを超えず、かつ、目標偏差ei,2の絶対値が最も小さい制御量予測時系列に対応する補正バッチ操作パターンiを最良補正バッチ操作パターンとして選択してもよい。
【0080】
上記の最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列は、表示制御部205により、表示装置102上に表示される。ただし、表示制御部205は、例えば、制御装置10と通信可能に接続される端末が備えるディスプレイ上に最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列とを表示させてもよい。これにより、例えば、制御対象20のオペレータ等は、制御対象20が目標とする制御性能を最も達成できるバッチ操作パターンである最良補正バッチ操作パターンと、最良補正バッチ操作パターンが行われたときの制御量予測時系列とを知ることが可能となる。
【0081】
また、上記の最良補正バッチ操作パターンは、出力部206により、制御対象20に出力される。これにより、制御対象20を最良補正バッチ操作パターンにより制御することが可能となる。ただし、出力部206は、例えば、最良補正バッチ操作パターンとそれに対応する制御量予測時系列とを参考にしてオペレータ等により決定されたバッチ操作パターンを制御対象20に出力してもよい。
【0082】
<第二の実施形態のまとめ>
以上のように、第二の実施形態に係る制御装置10によれば、バッチ開始後においても、現在時刻tにおける制御量y(t)に応じて定期的にバッチ操作パターンを補正することにより、例えば、未知の外乱が生じたり、バッチ応答モデルの誤差が大きくなったりした場合であっても、制御量をより目標値に近付けるようなバッチプロセス制御を実現又はその支援をすることができる。
【0083】
[実施例]
以下、第一の実施形態に係る制御装置10の一実施例について説明する。
【0084】
本実施例では、図11に示す制御対象20を対象とする。図11に示す制御対象20はタンク500に水を貯める系統であり、上部から水を供給する入力バルブ501と、下部から水を排出する出力バルブ502とが存在する。このとき、本実施例では、タンク500の液面レベル(つまり、タンク500の底面からの水の高さ)を制御量y、目標とする液面レベルを目標値rとする。また、入力バルブ501の弁の弁開度を操作量uとする。更に、操作量uに関して、弁開度と実際に流れる水の流量との間には、図12に示すイコール%の特性があるものとする。なお、CV値とは、バルブが流体を流すことができる能力を表す係数のことである。
【0085】
また、本実施例では、以下の式(4)に示すバッチ応答モデルを用いるものとする。
【0086】
【数4】
ここで、上記の式(4)中の関数fは、f(u)=0.01(0.005u+0.5u)であるものとする。
【0087】
バッチ操作パターン記憶部207には、図13(A)に示すバッチ操作パターン1と、図13(B)に示すバッチ操作パターン2との2つのバッチ操作パターンが記憶されているものとする。これら2つのバッチ操作パターンは、いずれもバッチ開始時刻は10、バッチ終了時刻は30である。なお、図13(A)及び(B)では、制御量y、目標値r、弁開度に応じた流量のCV値も同時に図示している。
【0088】
また、バッチ補正方法記憶部209には、図4(A)に示すバッチ補正方法1が記憶されているものとする。ただし、d=7として、バッチ操作パターン全体をdだけ後ろにスライドさせるものとする。
【0089】
このとき、図5に示す最良バッチ操作パターン選択処理を実行した結果、e1,1=7.05、e2,1=6.84となった。このため、目標偏差の小さいバッチ操作パターン2を最良バッチ操作パターンとして選択した。
【0090】
その後、図7に示すバッチ補正処理を実行し、図14に示すように、バッチ補正方法1により最良バッチ操作パターンを補正した。すなわち、バッチ開始時刻が10から17、バッチ終了時刻が30から37になるように、最良バッチ操作パターンを後ろにスライドさせた。その結果、最良補正バッチ操作パターンのバッチ終了時刻における制御量予測値と目標値rとの差である目標偏差e1,2は、e1,2=-0.16となった。
【0091】
以上により、最良バッチ操作パターンよりも最良補正バッチ操作パターンの方が目標偏差の絶対値が小さくなり、制御量をより目標値に近付けるようなバッチプロセス制御が実現できることがわかる。
【0092】
本発明は、具体的に開示された上記の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 制御装置
101 入力装置
102 表示装置
103 外部I/F
103a 記録媒体
104 通信I/F
105 RAM
106 ROM
107 補助記憶装置
108 プロセッサ
109 バス
201 制御量・目標値取得部
202 制御量予測部
203 バッチ選択部
204 バッチ補正部
205 表示制御部
206 出力部
207 バッチ操作パターン記憶部
208 バッチ応答モデル記憶部
209 バッチ補正方法記憶部
210 タイマ
【要約】
【課題】目標とする制御性能を達成できるバッチプロセス制御を実現可能とすること。
【解決手段】本開示の一態様による制御支援装置は、バッチプロセスを実行する対象の制御を支援する制御支援装置であって、前記対象から出力された制御量と、前記制御量に対する目標値とを取得する取得部と、前記制御量と、前記対象の操作量と制御量との関係を表すモデルと、前記操作量の時系列を表す操作パターンとに基づいて、前記制御量よりも未来の制御量の時系列を表す第1の制御量予測時系列を計算する予測部と、前記第1の制御量予測時系列と、前記目標値とに基づいて、複数の前記操作パターンの中から最良の操作パターンを選択する選択部と、前記目標値に基づいて、前記最良の操作パターンを1以上の補正方法によりそれぞれ補正した1以上の補正操作パターンの中から、最良の補正操作パターンを選択する補正部と、を有する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14