IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7552954複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置
<>
  • 特許-複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置 図1
  • 特許-複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置 図2
  • 特許-複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置 図3
  • 特許-複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20240910BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240910BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240910BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240910BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240910BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D71/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024508584
(86)(22)【出願日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2024003269
【審査請求日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023015305
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】水野 竣介
(72)【発明者】
【氏名】峰原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213500(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057028(WO,A1)
【文献】特開2008-073134(JP,A)
【文献】特開2003-135939(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115090128(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持膜と、前記支持膜上に配置された架橋ポリアミドを含む分離機能層と、前記分離機能層上に配置された被覆層と、を備える複合半透膜であって、
前記複合半透膜の前記被覆層側表面の展開面積比Sdrが60~200%であり、
前記複合半透膜の前記被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との静止摩擦係数μsが0.40~1.30である、複合半透膜。
【請求項2】
前記複合半透膜の前記被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との動摩擦係数μdが0.25~0.73である、請求項1記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記複合半透膜の前記被覆層側表面の二乗平均平方根高さSqが140~300nmである、請求項1又は2記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記被覆層が、ビニルアルコール系重合体及びアルキレングリコール系重合体の少なくとも一方を含む、請求項1又は2記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記ビニルアルコール系重合体のけん化度が96mol%以上である、請求項4記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記ビニルアルコール系重合体の重合度が100~1,500である、請求項4記載の複合半透膜。
【請求項7】
前記ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(1)で表される構造を含むビニルアルコール共重合体である、請求項4記載の複合半透膜。
【化1】
[一般式(1)中、Xは炭素数2~6の二価の炭化水素基であり、l、m及びnは繰り返し単位の数である。]
【請求項8】
前記一般式(1)のXが炭素数2の二価の炭化水素基である、請求項7記載の複合半透膜。
【請求項9】
前記一般式(1)のXがエチレン基である、請求項8記載の複合半透膜。
【請求項10】
前記ビニルアルコール共重合体の、共重合比率:n/(l+m+n)が0.035~0.16である、請求項7記載の複合半透膜。
【請求項11】
前記アルキレングリコール系重合体の分子量が500~500,000である、請求項4記載の複合半透膜。
【請求項12】
請求項1又は2記載の複合半透膜を備える複合半透膜モジュール。
【請求項13】
請求項12記載の複合半透膜モジュールを備える流体分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な、複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒(例えば、水)に溶解した物質(例えば、塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギー及び省資源のためのプロセスとして、逆浸透膜やナノろ過膜等の半透膜を用いる膜分離法の利用が拡大している。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜及びナノろ過膜としては、支持膜と、支持膜に積層された分離機能層とを有する複合半透膜が一般的である。分離機能層として、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドが知られている。
【0004】
このような複合半透膜は、分離機能層が薄いことから、分離機能層の擦過により、分離性能が低下しやすいという問題がある。擦過の原因としては、製造後に保管のため積み重ねられたときの複合半透膜同士の接触、保管用の梱包材との接触等が挙げられる。また、複合半透膜は、多くの場合、2枚以上の複合半透膜とその間に挿入された流路材とを有するエレメントに組み込まれた状態で使用される。このエレメントの組み立て時における複合半透膜と、組立装置の部材又はエレメントの部材との接触も擦過の原因として挙げられる。
【0005】
このような擦過による分離性能の低下を抑制する方法としては、種々のものが開示されている。例えば、特許文献1には、分離機能層表面にポリビニルアルコール等のポリマーからなる被覆層を配置することで、分離機能層が擦過されることを抑制する方法が開示されている。また、特許文献2には、分離機能層が十分なポリアミド量を有することで、分離機能層が擦過されることによる膜欠点発生を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2003-200026号公報
【文献】日本国特開2019-98329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の方法では、一定の耐擦過性向上効果はみられるが、被覆層の存在により、複合半透膜の透水性能が低下するという問題があった。また、特許文献2記載の方法では、分離機能層のポリアミド量と複合半透膜の透水性能とがトレードオフの関係にあるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、優れた耐擦過性を備えつつ、透水性能が良好な複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の複合半透膜、複合半透膜モジュール及び流体分離装置提供する。
[1]支持膜と、前記支持膜上に配置された架橋ポリアミドを含む分離機能層と、前記分離機能層上に配置された被覆層と、を備える複合半透膜であって、
前記複合半透膜の前記被覆層側表面の展開面積比Sdrが60~200%であり、
前記複合半透膜の前記被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との静止摩擦係数μsが0.40~1.30である、複合半透膜。
[2]前記複合半透膜の前記被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との動摩擦係数μdが0.25~0.73である、上記[1]記載の複合半透膜。
[3]前記複合半透膜の前記被覆層側表面の二乗平均平方根高さSqが140~300nmである、上記[1]又は[2]記載の複合半透膜。
[4]前記被覆層が、ビニルアルコール系重合体及びアルキレングリコール系重合体の少なくとも一方を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の複合半透膜。
[5]前記ビニルアルコール系重合体のけん化度が96mol%以上である、上記[4]記載の複合半透膜。
[6]前記ビニルアルコール系重合体の重合度が100~1,500である、上記[4]又は[5]に記載の複合半透膜。
[7]前記ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(1)で表される構造を含むビニルアルコール共重合体である、上記[4]~[6]のいずれか1つに記載の複合半透膜。
【0010】
【化1】
【0011】
[一般式(1)中、Xは炭素数2~6の二価の炭化水素基であり、l、m及びnは繰り返し単位の数である。]
[8]前記一般式(1)のXが炭素数2の二価の炭化水素基である、上記[7]記載の複合半透膜。
[9]前記一般式(1)のXがエチレン基である、上記[8]記載の複合半透膜。
[10]前記ビニルアルコール共重合体の、共重合比率:n/(l+m+n)が0.035~0.16である、上記[7]~[9]のいずれか1つに記載の複合半透膜。
[11]前記アルキレングリコール系重合体の分子量が500~500,000である、上記[4]記載の複合半透膜。
[12]上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の複合半透膜を備える複合半透膜モジュール。
[13]上記[12]記載の複合半透膜モジュールを備える流体分離装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた耐擦過性を備えつつ、透水性能が良好な複合半透膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、複合半透膜の断面構造を示す模式図である。
図2図2は、ひだ形状の分離機能層及び被覆層を備えた複合半透膜の構造を示す模式図であり、(a)は部分拡大図であり、(b)は(a)のYの拡大図である。
図3図3は、複合半透膜の擦過試験の方法を示す概略図である。
図4図4は、複合半透膜の擦過試験により測定される、静止摩擦力Fs(N)及び動摩擦力Fd(N)を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0015】
1.複合半透膜
図1に本実施形態における複合半透膜1の構造の第1形態を示す。本発明の複合半透膜1は、支持膜2と、分離機能層3と、被覆層4とを備える。
【0016】
(1-1)支持膜
本実施形態に係る複合半透膜が備える支持膜は、少なくとも多孔性支持層を有する。支持膜は複合半透膜に強度を付与するためのものであり、それ自体は実質的に溶質の分離性能を有さない。
【0017】
多孔性支持層は、連通した多数の細孔を有する。細孔の孔径や孔径分布は特に限定されないが、例えば、均一な孔径からなる対称構造、又は一方の面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなる非対称構造であり、かつ孔径が小さい側の表面における孔径が、0.1~100nmである、多孔性支持層が好ましい。
【0018】
多孔性支持層の素材としては、ポリスルホン(以下、「PSf」とも称する。)、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド等の、ホモポリマー又はコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロース等、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルが挙げられる。中でも、PSf、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等の、ホモポリマー又はコポリマーが好ましく、酢酸セルロース、PSf、ポリフェニレンスルフィドスルホン、又はポリフェニレンスルホンがより好ましく、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることから、PSfが特に好ましい。
【0019】
PSfの重量平均分子量(以下、「Mw」とも称する。)は、10,000~200,000が好ましく、15,000~100,000がより好ましい。PSfのMwが10,000以上である場合、多孔性支持層として好ましい機械的強度及び耐熱性を得ることができる。一方、PSfのMwが200,000以下である場合、多孔性支持層原液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0020】
また、支持膜は、多孔性支持層に加えて基材を有していてもよい。
基材の素材としては、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、及びこれらの混合物又は共重合体からなる布帛が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が好ましい。布帛の形態としては、長繊維不織布や短繊維不織布、さらには織編物を好ましく用いることができる。
【0021】
支持膜の厚みは、複合半透膜の強度及びそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。良好な機械的強度及び充填密度を得るため、支持膜の厚みは、50~300μmが好ましく、100~250μmがより好ましい。また、支持膜が多孔性支持層と基材で構成される場合、多孔性支持層の厚みは、20~100μmが好ましい。なお、支持膜の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求めることができる。
【0022】
(1-2)分離機能層
本実施形態に係る複合半透膜の支持膜上に配置される分離機能層は、溶質の分離機能を担う層であり、架橋ポリアミドを含む。分離機能層中の架橋ポリアミドが占める割合は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。分離機能層中の架橋ポリアミドの含有量は、一般に核磁気共鳴法を用いた分析により算出することができる。
【0023】
架橋ポリアミドは、多官能アミンと多官能酸クロリドとの重縮合物であることが好ましい。ここで、多官能アミン及び多官能酸クロリドの少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。これにより、剛直な分子鎖が得られ、水和イオンやシリカ等の微細な溶質を除去するための良好な孔構造が形成される。
【0024】
多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアミンをいう。例えば、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン等の芳香族3官能アミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン(以下、「m-PDA」とも称する。)、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノベンゼンスルホン酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミン等の芳香族2官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、4-アミノピペリジン、アミノエチルピペラジン等の脂肪族2官能アミンが挙げられる。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
複合半透膜の分離性能、透水性能及び耐熱性の観点から、多官能アミンは、m-PDA、p-フェニレンジアミン又は1,3,5-トリアミノベンゼンが好ましい。中でも、入手の容易性及び取り扱い易さの観点から、m-PDAが特に好ましい。
【0026】
多官能酸クロリドとは、一分子中に少なくとも2個のクロロカルボニル基を有する酸クロリドをいう。例えば、トリメシン酸クロリド(以下、「TMC」とも称する。)、トリメリット酸クロリド等の芳香族3官能酸クロリド、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド等の脂肪族3官能酸クロリド、ビフェニルジカルボン酸クロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロリド等の芳香族2官能酸クロリド、アジポイルクロリド、セバコイルクロリド、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド等の脂肪族2官能酸クロリドが挙げられる。これらの多官能酸クロリドは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
複合半透膜の分離性能及び耐熱性の観点から、多官能酸クロリドは、一分子中に2~4個のクロロカルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドが好ましい。中でも、入手の容易性及び取り扱い易さの観点から、TMCが特に好ましい。
【0028】
(1-3)被覆層
本実施形態に係る複合半透膜が備える被覆層は、分離機能層の保護を担う層であり、分離機能層上に配置される。
本発明の複合半透膜は、被覆層側表面と粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との静止摩擦係数(以下、「μs」とも称する。)が0.40~1.30である。
【0029】
静止摩擦係数は、物体が静止状態から移動し始めるのを妨げるように働く静止摩擦力に比例する。μsが1.30以下であると、複合半透膜が滑り始めるときに受ける静止摩擦力が小さくなるため、分離機能層が擦過による受ける損傷を低減することができる。一方、μsが0.40以上であると、複合半透膜が滑りにくくなるため、複合半透膜を巻囲してスパイラル型の複合半透膜エレメントへ加工する際又は複合半透膜エレメントを運転する際に、複合半透膜が複合半透膜エレメントの軸方向にずれることによる巻囲体の変形(テレスコープ現象)を抑制することができる。μsは、0.80~1.30が好ましく、0.95~1.25がより好ましく、1.08~1.20がさらに好ましい。
複合半透膜の静止摩擦係数は、例えば、分離機能層の重合工程における多官能酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた支持膜の加熱温度、被覆層の素材、被覆層の形成に用いる水溶液中の水溶性ポリマーの濃度等により制御できる。
【0030】
本実施形態に係る複合半透膜の被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との動摩擦係数(以下、「μd」とも称する。)は、0.25~0.73が好ましく、0.45~0.73がより好ましく、0.55~0.72がさらに好ましく、0.66~0.70が特に好ましい。
【0031】
動摩擦係数は、物体が移動しているときに移動を妨げるように働く動摩擦力に比例する。μdが0.73以下であると、複合半透膜が滑る間に受ける動摩擦力が小さくなるため、分離機能層が擦過による受ける損傷を低減することができる。一方、μdが0.25以上であると、複合半透膜が滑りにくくなるため、複合半透膜エレメントのテレスコープ現象を抑制することができる。
複合半透膜の動摩擦係数は、例えば、分離機能層の重合工程における多官能酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた支持膜の加熱温度、被覆層の素材、被覆層の形成に用いる水溶液中の水溶性ポリマーの濃度等により制御できる。
【0032】
分離機能層及び被覆層の形状や厚みは、分離性能及び透水性能に影響を与える。図2に本実施形態における複合半透膜1の構造の第2形態を示す。図2の(a)及び(b)に示すように、分離機能層3は、複数の凸部を有するひだ形状であることが好ましい。また、凸部内部5(分離機能層3と支持膜2との間)は空隙であることがより好ましい。分離機能層3は、平たい形状を有するよりもひだ形状を有する方が表面積をより大きくすることができるので、分離性能を維持しつつ、高い透水性能をすることができる。なお、被覆層4は、分離機能層3上に薄く形成されることで分離機能層と共にひだ形状を構成するか、分離機能層3のひだ形状を埋めるような比較的大きな厚みを有していてもよい。
【0033】
分離機能層の擦過による性能低下を抑制するのに効果的な構成として、複合半透膜の被覆層側表面の形状(下記展開面積比Sdr)及び分離機能層及び被覆層の厚みの合計等について以下に述べる。
【0034】
本発明の複合半透膜の被覆層側表面の展開面積比(以下、「Sdr」とも称する。)は60~200%である。展開面積比(Sdr)とは、定義領域の展開面積(表面積)の、定義領域の面積に対する増加率(%)を表すパラメータである。この値が小さいほど、平坦に近い表面形状であることを示し、完全に平坦な表面のSdrは0%である。一方、この値が大きいほど、凹凸が多い表面形状であることを示す。Sdrが60%以上であると、複合半透膜の表面積が大きいものとなるため、良好な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。しかし、Sdrが60%以上、すなわち分離機能層表面の凹凸が多くなると、分離機能層の凸部は擦過による損傷を受けやすいため、通常は複合半透膜の耐擦過性が低くなる。そこで、本発明者らは、Sdrを60~200%としても、複合半透膜の被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との静止摩擦係数μsが0.40~1.30であることで、良好な耐擦過性を発現する複合半透膜が得られることを見出した。Sdrは70~180%が好ましく、80~150%がより好ましい。
複合半透膜の展開面積比は、例えば、分離機能層の重合工程における多官能酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた支持膜の加熱温度、被覆層の形成に用いる水溶液中の水溶性ポリマーの濃度等により制御できる。
【0035】
本実施形態に係る複合半透膜の被覆層側表面の二乗平均平方根高さ(以下、「Sq」とも称する。)は、140~300nmが好ましく、145~270nmがより好ましく、150~240nmがさらに好ましい。Sqが140nm以上であると、複合半透膜の大きな表面積に比例して、良好な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。一方、Sqが300nm以下であると、良好な耐擦過性を発現する複合半透膜を得ることができる。
複合半透膜の被覆層側表面の二乗平均平方根高さは、例えば、分離機能層の重合工程における多官能酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた支持膜の加熱温度、被覆層の形成に用いる水溶液中の水溶性ポリマーの濃度等により制御できる。
【0036】
分離機能層及び被覆層の厚みの合計Tは10~100nmが好ましく、11~70nmがより好ましく、11~20nmがさらに好ましい。分離機能層及び被覆層の厚みの合計Tが10nm以上であると、良好な分離性能と耐擦過性とを発現する複合半透膜を得ることができる。一方、分離機能層及び被覆層の厚みの合計Tが100nm以下であると、良好な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。図2の(b)に示すように、「厚みの合計T」とは、分離機能層3と被覆層4が重なり一体となっており、かつ分離機能層及び被覆層が複数の中空の凸部を構成するひだ形状である場合は、その凸部内部5から外部までの厚みを意味する。
【0037】
分離対象物質が複合半透膜内部に浸透することを防ぐため、分離機能層及び被覆層は、ろ過一次側に配置されていることが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る複合半透膜が備える被覆層は水溶性ポリマーを含むことが好ましい。ここで、「水溶性ポリマー」とは、25℃の水に対して0.5質量%以上溶解するポリマーを意味する。被覆層中の水溶性ポリマーが占める割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。水溶性ポリマーを含むことで、後述する「(2-3)被覆層の形成工程」で、水溶性ポリマー水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成することができる。また、一般に水溶性ポリマーは親水性に優れ、被覆層による透水性能の低下を抑制することができるため、十分な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。
なお、被覆層中の水溶性ポリマーの割合は、一般に核磁気共鳴法を用いた分析により算出することができる。
【0039】
水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ビニルアルコール系重合体、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリアクリロイルモルホリン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、アルキレングリコール系重合体、ポリビニルイミダゾール、ポリスチレンスルホン酸等の合成高分子及びその共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、デキストリン、エーテル化デンプン等のデンプン類が挙げられる。これらの水溶性ポリマーは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
複合半透膜の分離性能、透水性能及び耐擦過性の観点から、水溶性ポリマーは、ビニルアルコール系重合体及びアルキレングリコール系重合体の少なくとも一方であることが好ましく、ビニルアルコール系重合体がより好ましい。ビニルアルコール系重合体及びアルキレングリコール系重合体の少なくとも一方を含む被覆層により複合半透膜を被覆することで、分離機能層の擦過による損傷を抑制できる。また、ビニルアルコール系重合体の水酸基は、複合半透膜の架橋ポリアミドと水素結合を形成するため、ビニルアルコール系重合体を含む被覆層は架橋ポリアミドから剥離しにくく、架橋ポリアミドを擦過から保護するのに好適である。これらにより、複合半透膜に耐擦過性を付与することができる。
【0041】
本実施形態に係る被覆層が含むビニルアルコール系重合体のけん化度は、96mol%以上が好ましく、98mol%以上がより好ましい。ビニルアルコール系重合体のけん化度が96mol%以上である場合、ビニルアルコール系重合体はより多くの水酸基を有し、複合半透膜の架橋ポリアミドと強固な水素結合を形成するため、複合半透膜に優れた耐擦過性を付与することができる。
【0042】
本実施形態に係る被覆層が含むビニルアルコール系重合体の重合度は、100~1,500が好ましく、200~1,200がより好ましい。ビニルアルコール系重合体の重合度が100以上である場合、十分な厚みを有する被覆層を設けることができ、優れた耐擦過性を発現する複合半透膜を得ることができる。一方、ビニルアルコール系重合体の重合度が1,500以下である場合、被覆層の厚みによる透過抵抗を抑えることができ、十分な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。また、重合度を上記の範囲内とすることでビニルアルコール系重合体が十分な水溶性を有し、後述する「(2-3)被覆層の形成工程」で、ビニルアルコール系重合体水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成させることができる。
【0043】
また、ビニルアルコール系重合体は、官能基として水酸基、酢酸基のみを有するポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも称する。)でもよく、これら以外の官能基を有していてもよい。水酸基、酢酸基以外の官能基を有するビニルアルコール系重合体としては、例えば、水酸基がカルボキシ基、アセトアセチル基等のカルボニル基に変性した変性PVA、ビニルピロリドン、オレフィン単位等を共重合したビニルアルコール共重合体が挙げられる。中でも、下記一般式(1)で表される構造を含むビニルアルコール共重合体(以下、単に「ビニルアルコール共重合体」とも称する。)が特に好ましい。
【0044】
【化2】
【0045】
一般式(1)中、Xは炭素数2~6の二価の炭化水素基であり、l、m及びnは繰り返し単位の数である。
【0046】
ビニルアルコール共重合体には、上記一般式(1)で表される構造以外の、他の構造が含まれていてもよい。ビニルアルコール共重合体中の一般式(1)で表される構造が占める割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、上記一般式(1)で表される構造のみからなることが特に好ましい。ビニルアルコール共重合体中の一般式(1)で表される構造の割合は、一般に核磁気共鳴法を用いた分析により算出することができる。
【0047】
上記一般式(1)で表される構造を含むビニルアルコール共重合体は、PVAが示す水酸基同士の分子間水素結合に加え、炭化水素同士の疎水性相互作用も示す。これにより、PVAと比較して分子間相互作用が強いため、高次構造が変化しにくく、架橋ポリアミドとの水素結合が維持されやすい。また、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール共重合体は、PVAと比較して平滑性に優れ摩擦係数が小さい皮膜を形成することが知られている。そのため、被覆層にビニルアルコール共重合体を用いることで、擦過による劣化リスクの低い、耐擦過性が良好な複合半透膜を得ることができる。
【0048】
上記一般式(1)において、Xの炭素数2~6の二価の炭化水素基としては、例えば、エチレン基(-CHCH-)、エチリデン基(-CH(CH)-)、ビニレン基(-CH=CH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、プロピレン基(-CH(CH)CH-)、テトラメチレン基(-CH(CHCH-)、シクロペンチレン基、ヘキサメチレン基(-CH(CHCH-)等が挙げられる。上記一般式(1)中のXは炭素数2の二価の炭化水素基であることが好ましい。上記一般式(1)中のXが炭素数2の二価の炭化水素基である場合、ビニルアルコール共重合体が十分な水溶性を有し、後述する「(2-3)被覆層の形成工程」で、ビニルアルコール共重合体水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成させることができる。また、上記一般式(1)中のXは炭素数2~6の二価の飽和炭化水素基であることが好ましい。上記一般式(1)中のXが炭素数2~6の二価の飽和炭化水素基である場合、酸化等により劣化しにくい被覆層を形成させることができる。中でも、入手の容易性の観点から、上記一般式(1)中のXはエチレン基であることが特に好ましい。
【0049】
上記一般式(1)で表される構造を含むビニルアルコール共重合体の、共重合比率:n/(l+m+n)は、0.035~0.16が好ましく、0.040~0.11がより好ましく、0.042~0.095がさらに好ましい。共重合比率が0.035以上である場合、ビニルアルコール共重合体が十分な疎水性相互作用により強固な分子間相互作用を示し、耐擦過性が良好な複合半透膜を得ることができる。一方、共重合比率が0.16以下である場合、ビニルアルコール共重合体が十分な水溶性を有し、後述する「(2-3)被覆層の形成工程」で、ビニルアルコール共重合体水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成することができる。なお、共重合比率は、一般に核磁気共鳴法を用いた分析により算出することができる。
【0050】
ビニルアルコール共重合体の重合度:l+m+nは、100~1,500が好ましく、200~1,200がより好ましい。ビニルアルコール共重合体の重合度が100以上である場合、十分な厚みを有する被覆層を設けることができ、優れた耐擦過性を発現する複合半透膜を得ることができる。一方、ビニルアルコール共重合体の重合度が1,500以下である場合、被覆層の厚みによる透過抵抗を抑えることができ、十分な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。また、重合度が上記の範囲内であるとビニルアルコール共重合体が十分な水溶性を有し、後述する「(2-3)被覆層の形成工程」で、ビニルアルコール共重合体水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成させることができる。
【0051】
本実施形態に係る被覆層が含むアルキレングリコール系重合体の分子量は、500~500,000が好ましく、700~100,000がより好ましく、800~10,000がさらに好ましい。アルキレングリコール系重合体の重合度が500以上である場合、十分な厚みを有する被覆層を設けることができ、優れた耐擦過性を発現する複合半透膜を得ることができる。一方、アルキレングリコール系重合体の重合度が500,000以下である場合、被覆層の厚みによる透水性能の低下を抑制することができ、十分な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。
【0052】
また、アルキレングリコール系重合体は、末端にカルボキシ基、アミノ基、アセトアセチル基、グリシジル基等、架橋ポリアミドの官能基と反応可能な官能基を有することが好ましい。アルキレングリコール系重合体が末端にこれらの官能基を有することで、アルキレングリコール系重合体水溶液を用いて、簡易に分離機能層上に被覆層を形成させることができる。
【0053】
被覆層に含まれる水溶性ポリマーは、複合半透膜を使用する際に溶出しないよう、不溶化されていることが好ましい。被覆層の水溶性ポリマーの不溶化方法としては、例えば、水溶性ポリマーを架橋ポリアミドと水素結合、イオン結合等の非共有結合を形成し、分離機能層上へ固定化する方法、架橋ポリアミドと官能基同士の反応、架橋剤による架橋等により共有結合を形成し、分離機能層上へ固定化する方法、水溶性ポリマー同士で架橋剤による架橋等により共有結合を形成し、三次元構造として不溶化する方法等が挙げられる。中でも、長期間にわたって安定な運転を継続することができる観点から、水溶性ポリマーと架橋ポリアミドとで官能基同士の反応や架橋剤による架橋等により共有結合を形成し、分離機能層上へ固定化する方法がより好ましい。
【0054】
(1-4)NaCl除去率、膜透過流束
本実施形態に係る複合半透膜の、NaCl除去率は、99.55%以上が好ましく、99.65%以上がより好ましく、99.75%以上がさらに好ましい。また、複合半透膜製造時の膜透過流束は、1.00m/d以上が好ましく、1.15m/d以上がより好ましく、1.30m/d以上がさらに好ましい。複合半透膜の膜性能が上記の範囲内であることで、塩類等の分離用途の分離膜として好ましく用いることができる。
【0055】
また、複合半透膜の擦過試験後のNaCl除去率は、99.25%以上が好ましく、99.35%以上がより好ましく、99.40%以上がさらに好ましい。複合半透膜の擦過試験後の膜性能が上記の範囲内であることで、耐擦過性に優れた複合半透膜として好ましく用いることができる。擦過試験方法は、後述する「(3)擦過試験及び摩擦係数」に記載の通りである。
【0056】
2.複合半透膜の製造方法
本実施形態に係る複合半透膜の製造方法は、上述した所望の特徴を満たす複合半透膜が得られれば特に限定されないが、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0057】
(2-1)支持膜の製膜
支持膜の製膜方法としては、公知の方法が好適に利用できる。以下、多孔性支持層の素材としてPSfを用いる場合を例にとって述べる。
【0058】
まず、PSfを、PSfの良溶媒に溶解し、多孔性支持層原液を調製する。PSfの良溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とも称する。)が好ましい。
【0059】
多孔性支持層原液中のPSfの濃度は、10~25質量%が好ましく、12~20質量%がより好ましい。多孔性支持層原液中のPSfの濃度が上記の範囲内であることで、得られる多孔性支持層の強度と透水性能とを両立することができる。なお、多孔性支持層原液中の素材の濃度の好ましい範囲は、用いる素材、良溶媒等によって適宜調整することができる。
【0060】
次に、得られた多孔性支持層原液を、基材表面に塗布し、PSfの非溶媒を含む凝固浴に浸漬する。
凝固浴に含まれるPSfの非溶媒としては、例えば、水が好ましい。基材表面に塗布した多孔性支持層原液を、PSfの非溶媒を含む凝固浴に接触させることで、非溶媒誘起相分離によって多孔性支持層原液が凝固し、基材表面に多孔性支持層が形成した支持膜を得ることができる。
【0061】
凝固浴は、PSfの非溶媒のみで構成されていてもよく、多孔性支持層原液を凝固可能な範囲で、PSfの良溶媒を含んでいてもよい。
【0062】
得られた支持膜を、分離機能層を形成する前に洗浄することにより、支持膜中に残存する溶媒を除去してもよい。
【0063】
(2-2)分離機能層の重合工程
次に、支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成する。
架橋ポリアミドを含む分離機能層の形成方法について、「(2-1)支持膜の製膜」で得られた支持膜上で、多官能アミンと多官能酸クロリドとを重合して固化させる方法を例にとって述べる。重合方法としては、生産性、性能の観点から界面重合法が最も好ましい。以下、界面重合の工程について説明する。
【0064】
界面重合の工程は、(a)多官能アミンを含有する水溶液を支持膜に接触させる工程と、(b)多官能酸クロリドを含有する有機溶媒溶液を、多官能アミンを含有する水溶液を接触させた支持膜に接触させる工程と、(c)接触後の有機溶媒溶液を液切りする工程と、(d)有機溶媒溶液を液切りした複合半透膜を熱水で洗浄する工程、とを備える。
【0065】
工程(a)において、水溶液は、少なくとも多官能アミンを含有する。多官能アミンとしては、例えば、「(1-2)分離機能層」で例示した多官能アミンが挙げられる。
【0066】
水溶液中の多官能アミンの濃度は、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1.0~10質量%がさらに好ましい。多官能アミンの濃度が0.1質量%以上であると、溶質の分離性能を有する分離機能層を形成することができる。一方、多官能アミンの濃度が20質量%以下であると、良好な透水性能を有する分離機能層を形成することができる。
【0067】
また、水溶液には、重合を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0068】
水溶液は、支持膜に均一かつ連続的に接触させることが好ましい。具体的には、例えば、支持膜上に多官能アミン水溶液をコーティングする方法、支持膜を水溶液に浸漬する方法が挙げられる。支持膜と水溶液との接触時間は、1秒~10分が好ましく、3秒~3分がより好ましい。
【0069】
水溶液を支持膜に接触させた後は、支持膜上に液滴が残らないよう十分に液切りすることが好ましい。十分に液切りすることで、分離機能層形成後に液滴残存部分が膜欠点となって分離性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法、エアーノズルから窒素等の気流を吹き付け、強制的に液切りする方法が挙げられる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0070】
工程(b)において、多官能酸クロリドとしては、例えば、「(1-2)分離機能層」で例示した多官能酸クロリドが挙げられる。
【0071】
有機溶媒は、水と非混和性であり、多官能酸クロリドを溶解し、支持膜を侵さず、かつ多官能アミン及び多官能酸クロリドに対して不活性であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、イソオクタン、イソデカン、イソドデカン等の炭化水素化合物及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0072】
有機溶媒溶液中の多官能酸クロリドの濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.02~4質量%がより好ましく、0.03~2質量%がさらに好ましい。多官能酸クロリドの濃度が0.01質量%以上であると、十分な反応速度で重合を進行させることができる。一方、多官能酸クロリドの濃度が10質量%以下であると、重合中の副反応の発生を抑制することができる。また、有機溶媒溶液には、重合を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、界面活性剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0073】
多官能酸クロリドの有機溶媒溶液は、多官能アミン水溶液と接触させた支持膜に均一かつ連続的に接触させることが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液と接触させた支持膜上に、多官能酸クロリドの有機溶媒溶液をコーティングする方法が挙げられる。多官能アミン水溶液と接触させた支持膜と、多官能酸クロリドの有機溶媒溶液との接触時間は、3秒~10分が好ましく、5秒~3分がより好ましい。
【0074】
また、必要に応じて、多官能酸クロリドの有機溶媒溶液を接触させた支持膜を加熱処理してもよい。加熱処理する場合、加熱温度は35~180℃が好ましく、50~160℃がより好ましく、60~150℃がさらに好ましい。加熱時間は反応場である膜面の温度によって最適な時間が異なるが、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましい。
【0075】
工程(c)において、重合反応後の複合半透膜上の有機溶媒溶液を液切りして除去する。液切りの方法としては、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒溶液を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体で過剰の有機溶媒溶液を除去する方法等が挙げられる。
【0076】
工程(d)において、有機溶媒を除去した複合半透膜を熱水で洗浄する。熱水の温度は、40~95℃が好ましく、60~95℃がより好ましい。熱水の温度が40℃以上であると、膜中に残存する未反応物やオリゴマーを十分に除去することができる。一方、熱水の温度が95℃以下であると、複合半透膜の収縮度が大きくならず、良好な透水性能を維持することができる。なお、熱水の温度の好ましい範囲は、用いる多官能アミンや多官能酸クロリドによって適宜調整することができる。
【0077】
(2-3)被覆層の形成工程
次に、分離機能層上に被覆層を形成する。
分離機能層上への被覆層の形成方法について、水溶性ポリマーを「(2-2)分離機能層の重合工程」で得られた分離機能層に含まれる架橋ポリアミドと架橋し、水溶性ポリマーを不溶化させる方法を例にとって述べる。
【0078】
被覆層の形成工程は、(e)分離機能層上に水溶性ポリマーと架橋剤を含有する水溶液を分離機能層上に接触させる工程と、(f)水溶性ポリマーを架橋ポリアミドと架橋し、分離機能層上に固定化する工程と、(g)余分な水溶液を液切りする工程と、(h)複合半透膜を洗浄する工程、とを備える。
【0079】
工程(e)において、水溶液は、水溶性ポリマーと架橋剤とを含有する。水溶性ポリマーとしては、例えば、「(1-3)被覆層」で例示した水溶性ポリマーが挙げられる。
【0080】
水溶液中の水溶性ポリマーの濃度は、0.3~10質量%が好ましく、0.35~8質量%がより好ましく、0.4~5質量%がさらに好ましい。水溶性ポリマーの濃度が0.3質量%以上であると、十分な厚みを有する被覆層を設けることができ、優れた耐擦過性を発現する複合半透膜を得ることができる。一方、水溶性ポリマーの濃度が10質量%以下であると、被覆層の厚みが厚すぎず、十分な透水性能を有する複合半透膜を得ることができる。
【0081】
「架橋剤」とは、水溶性ポリマーの官能基及び架橋ポリアミドの官能基と反応し、それぞれと共有結合を形成する化合物を意味する。水溶性ポリマーとしてビニルアルコール系重合体を用いる場合、架橋剤としては、例えば、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等の多価アルデヒドが挙げられる。
【0082】
水溶液中の架橋剤の濃度は、0.01~5質量%が好ましく、0.02~1質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。架橋剤の濃度が0.01質量%以上であると、水溶性ポリマーと架橋ポリアミドとが共有結合を形成し、水溶性ポリマーを不溶化させることができる。一方、架橋剤の濃度が5質量%以下であると、急激な架橋反応進行を抑制し、均一な被覆層を形成させることができる。
【0083】
また、水溶液には、必要に応じて、触媒等の化合物が含まれていてもよい。水溶性ポリマーとしてビニルアルコール系重合体を、架橋剤として多価アルデヒドを用いる場合、触媒としては、例えば、塩酸や硫酸等の無機酸が挙げられる。
【0084】
水溶液は、分離機能層上に均一かつ連続的に接触させることが好ましい。具体的には、例えば、分離機能層上に水溶液をコーティングする方法が挙げられる。分離機能層と水溶液との接触時間は、5秒~10時間が好ましく、10秒~1時間がより好ましい。
【0085】
工程(f)において、水溶性ポリマーを分離機能層の架橋ポリアミドと架橋し、不溶化する。架橋方法は、用いる水溶性ポリマーや架橋剤によって適宜選択することができる。水溶性ポリマーとしてビニルアルコール系重合体を、架橋剤として多価アルデヒドを用いる場合、架橋方法としては熱架橋が好ましい。熱架橋の方法としては、例えば、送風機で熱風を吹き付けることで水溶液及び複合半透膜を加熱する方法等が挙げられる。熱風の温度は、30~120℃が好ましく、40~80℃がより好ましい。熱風の温度が30℃以上であると、水溶性ポリマーと架橋ポリアミドとが共有結合を形成し、水溶性ポリマーを不溶化させることができる。一方、熱風の温度が120℃以下であると、急激な架橋反応進行を抑制し、均一な被覆層を形成させることができるとともに、複合半透膜の収縮度が大きくならず、良好な透水性能を維持することができる。
【0086】
工程(g)において、架橋反応後の複合半透膜上の水溶液を液切りして除去する。液切りの方法としては、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで水溶媒を乾燥除去する方法等が挙げられる。
【0087】
工程(h)において、水溶液を除去した複合半透膜を水で洗浄する。洗浄に用いる水の温度は、15~70℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。水の温度が15℃以上であると、複合半透膜中に残存する未反応物や触媒等を十分に除去することができる。一方、水の温度が70℃以下であると、複合半透膜の収縮度が大きくならず、良好な透水性能を維持することができる。なお、水の温度の好ましい範囲は、用いる水溶性ポリマーや架橋剤の種類によって適宜調整することができる。
【0088】
また、必要に応じて、複合半透膜の親水化処理を行ってもよい。親水化処理方法としては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ノルマルドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤水溶液や、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液を複合半透膜に接触させる方法等が挙げられる。
【0089】
3.複合半透膜の利用
本実施形態に係る複合半透膜は、プラスチックネット等の供給水流路材と、トリコット等の透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列又は並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0090】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプ、その供給水を前処理する装置等と組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この流体分離装置を用いることにより、供給水を飲料水等の透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0091】
本実施形態に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L~100g/Lの総溶解固形分(Total Dissolved Solids:以下、「TDS」とも称する。)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量/体積」又は「質量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターでろ過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0092】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5~10MPaが好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるに従い透水性能も減少する。そのため、供給水温度は5~45℃が好ましい。また、海水等の高溶質濃度の供給水の場合、供給水pHが高くなると、マグネシウム等のスケールが発生する恐れがある。また、高pH条件下での運転による複合半透膜の劣化が懸念されるため、中性領域で運転することが好ましい。
【実施例
【0093】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0094】
本発明の複合半透膜に関する物性値は、以下の方法で測定した。
(1)膜透過流束
直径75mmの複合半透膜に対し、NaCl濃度2,000mg/L、25℃、pH7に調製した評価水(以下、「評価水」とも称する。)を操作圧力1.55MPaで供給して、2時間運転した後、15分間透過水を採取した。透過水量(m)を測定し、単位膜面積(m)及び単位時間(d)当たりの数値に換算し、膜透過流束(m/d)を算出した。
【0095】
(2)NaCl除去率
「(1)膜透過流束」の膜ろ過試験において、評価水及び透過水の電気伝導度をマルチ水質計(東亜ディーケーケー株式会社製;MM-60R)により測定し、それぞれのNaCl濃度(実用塩分)を測定した。得られたNaCl濃度から、下記式(1)に基づいて、NaCl除去率(%)を算出した。なお、小数点第3位を四捨五入した値を用いた。
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/評価水中のNaCl濃度)} ・・・式(1)
【0096】
(3)擦過試験及び摩擦係数
擦過試験を以下のとおり行った。
複合半透膜を10cm×10cm角に切り出し、70℃の蒸留水で5分洗浄した。洗浄後の複合半透膜を、被覆層又は分離機能層が表側になるよう2.09kg(20.5N)の直方体(底面12cm×13cm角)のおもりに貼り付け、エアーノズルから窒素気流を吹き付けることで膜表面を液切りした。また、ラッピングフィルム研磨材(トラスコ中山株式会社製;TLF-2000、粒度#2000)を、研磨面が表側になるよう平坦な金属板上に貼り付けた。図3に示すように、金属板11上に張り付けたラッピングフィルム研磨材10の研磨面に、複合半透膜9の被覆層又は分離機能層の全体が接するようおもり8を乗せた。おもり8の軸方向(水平方向)の一方に紐を取り付け、紐の他方を引張試験機6(株式会社エー・アンド・デイ製;RTG-1210)に繋いだ。おもり8と引張試験機6の間で紐が垂直に曲がるように滑車7を介在させた。引張試験機6により、以下の条件にておもり8を複合半透膜9ごと引っ張った。
引張速度:100mm/min
引張距離:120mm
測定室温:25℃
【0097】
図4に示すように、擦過試験における最大荷重を静止摩擦力Fs(N)、接触面間の相対ずれ運動を開始した後の最初の60mmまでの平均荷重を動摩擦力Fd(N)とした。
複合半透膜を交換して同様の測定を5回繰り返し、静止摩擦力Fs(N)、動摩擦力Fd(N)それぞれの平均値と、おもりの荷重Fp(N)から、下記式(2)及び(3)に基づいて、静止摩擦係数μs及び動摩擦係数μdを算出した。
μs=Fs/Fp ・・・式(2)
μd=Fd/Fp ・・・式(3)
【0098】
また、擦過試験を実施した複合半透膜を用い、「(2)NaCl除去率」に記載の方法で、擦過試験後のNaCl除去率(%)を算出した。擦過試験を実施した5枚すべてで測定を行い、その平均値を擦過試験後のNaCl除去率とした。
【0099】
(4)分離機能層及び被覆層の厚みの合計T
複合半透膜を3cm×3cm角に切り出し、25℃の蒸留水に24時間浸漬した。浸漬後の複合半透膜をエポキシ樹脂で包埋した後、四酸化オスミウムで染色し、ミクロトームを用いて極薄切片を切り出して測定サンプルとした。得られたサンプルを、複合半透膜の断面を観察面として、走査型透過電子顕微鏡(株式会社日立製作所製;HD2700)を用いて観察した。倍率100万倍での取得画像を用いて、分離機能層又は被覆層外部表面上のある点から内部表面への最短距離を測定した。無作為に選択した10個の凸部について、凸部1個に対し5箇所の点を測定し、それらの平均値を分離機能層及び被覆層の厚みの合計T(nm)とした。
【0100】
(5)展開面積比Sdr、二乗平均平方根高さSq
複合半透膜を3cm×3cm角に切り出し、25℃の蒸留水に24時間浸漬した。浸漬後の複合半透膜を、表面に配置された被覆層又は分離機能層を測定面として、蒸留水湿潤状態のまま下記の条件で原子間力顕微鏡(Bruker社製;Dimension FastScan)を用いて観察した。無作為に選択した10箇所について、それぞれISO 25178:2014 表面性状(面粗さ測定)に準じて展開面積比及び二乗平均平方根高さを算出し、それらの平均値を展開面積比Sdr(%)及び二乗平均平方根高さSq(nm)とした。
走査モード:水中ナノメカニカルマッピング
探針:シリコンカンチレバー(Bruker社製;Scan Asyst-Fluid)
最大荷重:5nN
走査範囲:10μm×10μm
走査速度:1Hz
ピクセル数:512×512
測定環境:蒸留水中
測定温度:25℃
【0101】
(6)重量平均分子量
PSfの重量平均分子量(ポリスチレン換算)を、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製;HLC-8022)を用いて測定した。具体的な測定条件は以下のとおりとした。
カラム:TSK gel SuperHM-H(東ソー株式会社製;内径6.0mm、長さ15cm)2本
溶離液:LiBr/N-メチルピロリドン溶液(10mM)
サンプル濃度:0.1質量%
流量:0.5mL/min
温度:40℃
【0102】
実施例及び比較例で用いた複合半透膜の原料を、以下にまとめる。
PSf(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製;Udel P-3500、Mw80,000)
DMF(富士フイルム和光純薬株式会社製)
ポリエステル長繊維不織布(厚み90μm、密度0.42g/cm
m-PDA(富士フイルム和光純薬株式会社製)
TMC(富士フイルム和光純薬株式会社製)
n-デカン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
亜硝酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
亜硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
ポリアクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製;Mw25,000)
4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(以下、「DMT-MM」とも称する。)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
PVA1(シグマアルドリッチ社製;けん化度99.5mol%、重合度2,600)
PVA2(シグマアルドリッチ社製;けん化度98.0-99.0mol%、重合度900)
ビニルアルコール共重合体1(株式会社クラレ製;エクセバールRS-2117、けん化度97.5-99.0mol%、重合度1,700、エチレン共重合比率0.030)
ビニルアルコール共重合体2(株式会社クラレ製;エクセバールAQ-4104、けん化度98.0-99.0mol%、重合度400、エチレン共重合比率0.059)
ビニルアルコール共重合体3(株式会社クラレ製;エクセバールHR-3010、けん化度99.0-99.4mol%、重合度1,000、エチレン共重合比率0.045)
ビニルアルコール共重合体4(株式会社クラレ製;エクセバールRS-1717、けん化度92.0-94.0mol%、重合度1,700、エチレン共重合比率0.028)
グルタルアルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社製)
イソプロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
アルキレングリコール系重合体1(ナガセケムテックス株式会社製;デナコールEX-171、分子量900)
アルキレングリコール系重合体2(ナガセケムテックス株式会社製;デナコールEX-861、分子量1100)
【0103】
[比較例1]
PSf15質量%とDMF85質量%を100℃で溶解し、多孔性支持層原液を調製した。この多孔性支持層原液を、ポリエステル長繊維不織布表面に25℃で塗布し、3秒後、25℃の蒸留水からなる凝固浴に30秒浸漬して凝固させ、80℃の熱水で2分洗浄することで、基材であるポリエステル長繊維不織布表面にPSfからなる多孔性支持層が形成された支持膜を得た。得られた支持膜中の多孔性支持層の厚みは30μmであった。
次いで、得られた支持膜をm-PDA3質量%水溶液中に2分浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。25℃に制御した環境で、TMC0.12質量%を含む25℃のn-デカン溶液20mlを、支持膜の表面が完全に濡れるように塗布して1分静置し、界面重合により分離機能層を形成した。次に、得られた膜を30秒垂直に保持して余分な溶液を液切りして取り除き、その後、80℃の熱水で2分洗浄した。さらに、洗浄後の膜を35℃、pH3の亜硝酸ナトリウム0.3質量%水溶液中に1分浸漬させた後、亜硫酸ナトリウム0.1質量%水溶液中に2分浸漬し、複合半透膜を得た。
【0104】
[比較例2]
比較例1で得られた複合半透膜を、20℃に制御した環境で、ポリアクリル酸0.01質量%とDMT-MM0.1質量%を含む水溶液中に6時間浸漬することで、分離機能層上に被覆層を形成させた。その後、複合半透膜を垂直にして余分な水溶液を液切りして取り除き、40℃の水で2分洗浄した。
【0105】
[比較例3]
比較例1で得られた複合半透膜の分離機能層表面に、20℃に制御した環境で、PVA1(けん化度99.5mol%、重合度2,600)0.25質量%を含む溶液(イソプロパノール/水=3/7)を表面全体に接触させた。分離機能層表面に水溶液が残存した状態のまま、100℃で5分間保持し、再度該溶液を接触させ130℃で5分間保持することで、分離機能層上に被覆層を形成させた。その後、20℃の水で2分洗浄した。最後に、複合半透膜を20℃のイソプロパノール14質量%水溶液に5分浸漬し、親水化処理した。
【0106】
[比較例4]
比較例1で得られた複合半透膜の分離機能層表面に、20℃に制御した環境で、ビニルアルコール共重合体1(エクセバールRS-2117)0.15質量%、グルタルアルデヒド0.1質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を表面全体に接触させた。分離機能層表面に水溶液が残存した状態のまま、複合半透膜に70℃の熱風を1分吹き付けることで、分離機能層上に被覆層を形成させた。その後、複合半透膜を垂直にして余分な水溶液を液切りして取り除き、20℃の水で2分洗浄した。最後に、複合半透膜を20℃のイソプロパノール14質量%水溶液に5分浸漬し、親水化処理した。
【0107】
[実施例1]
比較例1で得られた複合半透膜の分離機能層表面に、20℃に制御した環境で、PVA2(けん化度98.0-99.0mol%、重合度900)2.0質量%、グルタルアルデヒド0.5質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を表面全体に接触させた。分離機能層表面に水溶液が残存した状態のまま、複合半透膜に70℃の熱風を3分吹き付けることで、分離機能層上に被覆層を形成させた。その後、複合半透膜を垂直にして余分な水溶液を液切りして取り除き、20℃の水で2分洗浄した。最後に、複合半透膜を20℃のイソプロパノール14質量%水溶液に5分浸漬し、親水化処理した。
【0108】
[実施例2]
ビニルアルコール共重合体2(エクセバールAQ-4104)0.5質量%、グルタルアルデヒド0.3質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用い、70℃の熱風を吹き付ける時間を1分としたこと以外は、実施例1と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0109】
[実施例3]
ビニルアルコール共重合体3(エクセバールHR-3010)0.8質量%、グルタルアルデヒド0.4質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0110】
[実施例4]
ビニルアルコール共重合体1(エクセバールRS-2117)1.1質量%、グルタルアルデヒド0.4質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0111】
[実施例5]
ビニルアルコール共重合体4(エクセバールRS-1717)0.4質量%、グルタルアルデヒド0.2質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0112】
[実施例6]
PVA2(けん化度98.0-99.0mol%、重合度900)0.7質量%、ビニルアルコール共重合体3(エクセバールHR-3010)0.3質量%、グルタルアルデヒド0.4質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0113】
[実施例7]
比較例2で得られた複合半透膜と、ビニルアルコール共重合体3(エクセバールHR-3010)0.3質量%、グルタルアルデヒド0.2質量%、硫酸0.1質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成し、親水化処理した。
【0114】
[実施例8]
比較例1で得られた複合半透膜の分離機能層表面に、20℃に制御した環境で、アルキレングリコール系重合体1(デナコールEX-171)1.2質量%を含む水溶液を15分接触させることで、分離機能層上に被覆層を形成させた。その後、複合半透膜を垂直にして余分な水溶液を液切りして取り除き、20℃の水で2分洗浄した。
【0115】
[実施例9]
アルキレングリコール系重合体2(デナコールEX-861)0.8質量%を含む水溶液を用いた以外は、実施例6と同様の方法で分離機能層上に被覆層を形成させ、液切り、洗浄した。
【0116】
比較例1~4、実施例1~9によって得られた複合半透膜の構造を表1に、性能を表2に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
表2に示す通り、実施例1~9の複合半透膜は比較例1~4の複合半透膜と比べて優れた耐擦過性と透水性能を示した。
また、実施例2~3、実施例6及び実施例9と実施例8との比較から、μsを1.08~1.20とすることで、より優れた耐擦過性を示すことが分かる。
【0120】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2023年2月3日付で出願された日本特許出願(特願2023-015305)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0121】
1 複合半透膜
2 支持膜
3 分離機能層
4 被覆層
5 凸部内部
6 引張試験機
7 滑車
8 おもり
9 複合半透膜
10 ラッピングフィルム研磨材(粒度#2000)
11 金属板
【要約】
本発明は、優れた耐擦過性を備えつつ、透水性能が良好な複合半透膜を提供する。本発明の複合半透膜は、支持膜と、架橋ポリアミドを含む分離機能層と、分離機能層上に配置された被覆層とを備え、被覆層側表面の展開面積比Sdrが60~200%であり、被覆層側表面と、粒度#2000のラッピングフィルム研磨材との静止摩擦係数μsが0.40~1.30である。
図1
図2
図3
図4