(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールおよびろ過運転方法、ろ過装置
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20240910BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240910BHJP
B01D 61/18 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240910BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20240910BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/08
B01D69/00
B01D61/18
B01D69/02
B01D65/02 520
B01D63/00 500
(21)【出願番号】P 2024513464
(86)(22)【出願日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2024006949
【審査請求日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023034334
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志村 俊
(72)【発明者】
【氏名】橘 高志
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-097362(JP,A)
【文献】特許第7072112(JP,B1)
【文献】特開2015-131267(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131126(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/016573(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材の高さ方向に第1端と第2端とを有する筒状ケースと、前記筒状ケース内の第1端と第2端の間に収容される複数の中空糸膜と、前記筒状ケースに被ろ過原液を流入させる原液流入口と、中空糸膜を透過した透過液を前記筒状ケースから流出する透過液出口を少なくとも有し、
前記原液流入口と前記複数の中空糸膜の外表面が連通されており、
前記筒状ケースの第1端側に位置する前記複数の中空糸膜の端部において、複数の中空部を開口させて、前記複数の中空糸膜の束を接着する第1ポッティング部とを備え、
前記筒状ケースの高さ方向に垂直な断面において、前記筒状ケース内の断面積を100%としたときに、中空部を含む前記複数の中空糸膜の占める面積の割合(以降、充填率)が40%~80%であり、前記複数の中空糸膜の外表面の表面弾性率が200MPa~500MPaである中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸膜の外表面において観察される孔(以降、表面孔)の単位面積あたりの数が200個/μm
2~2000個/μm
2である請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記中空糸膜の外表面の面積に対し開口率が1%~10%である請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記中空糸膜の外表面の平均孔径(以降、表面孔径)が5nm~20nmである請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記表面孔の単位面積あたりの数[個/μm
2]を前記
外表面の表面孔径[nm]で除した値:αが30個/μm
2/nm~150個/μm
2/nmである請求項
4に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記中空糸膜の輪切り断面において、前記中空糸膜の外表面から5μmまでの領域(以降、外表面部とする)における断面空隙率が20%~50%である、請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記中空糸膜の外表面
から5μmまでの領域における細孔と細孔の間の中空糸膜構造体を柱とし、該柱の太さの平均値が20nm~60nmである、請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記柱の密度が10本/μm~50本/μmである、請求項
7に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記筒状ケースの前記第2端側に位置する前記複数の中空糸膜の束を接着する第2ポッティング部とを備え、前記第1ポッティング部の第2端部側と、前記第2ポッティング部の第1端部側の間に存在する前記複数の中空糸膜の平均長さをXとし、筒状ケースにおける前記第1ポッティング部の第2端部側と前記第2ポッティング部の第1端部側との間の高さ方向の長さをYとしたときに、2≦(X-Y)/X×100≦20(%)の関係がある、請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、前記被ろ過原液から透過液を分離した際の前記透過液のウイルス除去率が4log以上である請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項11】
濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、前記被ろ過原液から透過液を分離した際の前記透過液のSDIが3以下である請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項12】
請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュールに、濁度3~50NTUの被ろ過原液を供給し、被ろ過原液から透過液を分離する中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
【請求項13】
請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュールに、全有機体炭素(以下、TOC)4~30mg/Lの被ろ過原液を供給し、前記被ろ過原液から透過液を分離する中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
【請求項14】
請求項1
または2に記載の中空糸膜モジュールのろ過運転方法であって、
(1)前記中空糸膜モジュールに原液を供給して懸濁物質と液体とを分離する膜分離工程と、
(2)上記工程(1)を停止して、中空糸膜の外表面や中空糸膜間に蓄積した懸濁物質を洗浄する洗浄工程とを備え、上記洗浄工程(2)は、前記中空糸膜の外表面側に膜面線速度0.3m/s以上5.0m/s以下の流量で、前記原液または少なくとも前記原液以下の濁度またはTOCを有する液体と気体の混合流を流す空洗操作を行う、中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
【請求項15】
中空糸膜の外表面の面積に対し開口率が1%~10%であり、前記中空糸膜の外表面の表面弾性率が200MPa~500MPaである中空糸膜。
【請求項16】
請求項1~
2、15のいずれかに記載の中空糸膜モジュールまたは中空糸膜を備えるろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールを用いるろ過運転方法、ならびに中空糸膜モジュールを備えるろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の分離膜は、浄水又は排水処理等の水処理分野、血液浄化等の医療分野、食品工業分野等、様々な分野で利用されている。分離膜を用いる処理は、従来行われてきた沈殿法や砂ろ過等の処理と比べて、処理水質が高く、かつ安定していることが大きな利点である。そのため、特に、水処理分野で分離膜を用いる処理が大規模に普及している。最近では、人口増加に伴う水資源の確保のために、ろ過が難しいとされてきた懸濁物質(以下、「濁質」と表記することもある)を多く含むろ過原液に対しても、長時間安定して、高品質な処理水質が得られる膜モジュールが求められている。中空糸状の分離膜は、膜モジュールの設置面積に対して、多くの膜面積を充填することが可能であり、多用されている。
【0003】
しかし、濁質を多く含む原液(以下、「高濁度液」と表記することもある)に対してろ過を行うと、高濁度液に含まれる濁質および有機物等などの膜を透過しない物質によって膜表面が擦られて損傷する場合がある。このような擦れによる損傷が発生すると、分離膜で除去すべき成分が透過液側に漏洩し、ろ過を中断せざるを得ない場合がある。例えば、浄水処理場において所望の除去性が維持できない場合、飲料水に細菌やウイルスが混入するリスクがあるため、新品の膜モジュールに交換する必要があり、多大なコストが必要となる。
【0004】
分離膜の擦れによる損傷、つまり擦過による性能劣化の抑制については、これまであまり検討が行われていなかった。特許文献1には、分離膜表面の開口率を高くすることで、透水性低下を抑制する技術が開示されている。
【0005】
また、高濁度液に対してろ過を行う場合、高濁度液に含まれる濁質や有機物等が、膜モジュール内に蓄積し、分離膜の細孔内や、膜モジュール内部の分離膜と分離膜の間の空間が目詰まりする場合がある。目詰まりが起こると、膜モジュールの処理速度が低下し、ろ過を中断せざるを得ない場合がある。このような場合、膜モジュールを、薬品を用いて洗浄する。薬品洗浄を行っても回復しない場合や、薬品によって膜が劣化し、除去率が低下した場合には膜モジュールを新品に交換するため、多大なコストが必要となる。
【0006】
また、膜モジュールの目詰まりによる性能劣化を抑制するために、目詰まりが完全に進行する前に、膜モジュールを物理洗浄する方法がある。具体的には、透過液や水等を分離膜の透過側から原液側へ通水させて膜細孔内や膜表面に付着した物質を押し出す逆圧洗浄や、中空糸膜モジュールの下部から気体を供給して、中空糸膜を揺らして物理的に洗浄する空洗(例えば、特許文献2参照)、さらには中空糸膜の原液側で膜表面に対して高い線速度で原液や薬液を流すフラッシング方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/104871号
【文献】日本国特開平11-342320号公報
【文献】日本国特開2010-005615号公報
【文献】国際公開第2002/070115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、分離膜の表面開口率を高くし目詰まりによる透水性能劣化及び膜表面擦過による透水性能劣化を抑制しているが、擦過が起こる前の透水性能を向上し、擦過によって性能劣化が起こった場合にも、その透水性能の低下を抑制するに留まっている。つまり、特許文献1の技術では膜表面の擦過現象自体を抑制することはできない。さらに、高濁度液を処理した場合に、十分な除去性を維持し、安全・安心な水質を得る観点については、検討がされていない。
【0009】
また、目詰まりの抑制を目的とする、特許文献2に開示された空洗や、特許文献3に開示されたフラッシングを実施した場合には、濁質が中空糸膜近傍を速い速度で流れるため、大きな運動量の濁質が中空糸膜に衝突しやすく、中空糸膜の擦過が特に起こりやすい。つまり、特許文献2や特許文献3の技術では、付着した物質を取り除き目詰まりが抑制される反面、擦過を加速させてしまい、膜表面を損傷させる懸念がある。
【0010】
そこで、本発明は、高濁度液をろ過する際に、擦過を抑制することで、除去率の安定性が高い中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。擦過を抑制することで、目詰まりを効率的に抑制する中空糸膜の物理洗浄を行い、さらに長期間の安定ろ過が可能となる。これにより、処理が難しい高濁度液に対しても、長期間安定して、安全・安心な水質の透過液を得られるろ過方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成からなる中空糸膜モジュールを提供する。
1.筒状部材の高さ方向に第1端と第2端とを有する筒状ケースと、前記筒状ケース内の第1端と第2端の間に収容される複数の中空糸膜と、前記筒状ケースに被ろ過原液を流入させる原液流入口と、中空糸膜を透過した透過液を前記筒状ケースから流出する透過液出口を少なくとも有し、前記原液流入口と前記複数の中空糸膜の外表面が連通されており、前記筒状ケースの第1端側に位置する前記複数の中空糸膜の端部において、複数の中空部を開口させて、前記複数の中空糸膜の束を接着する第1ポッティング部とを備え、前記筒状ケースの高さ方向に垂直な断面において、前記筒状ケース内の断面積を100%としたときに、中空部を含む前記複数の中空糸膜の占める面積の割合(以降、充填率)が40%~80%であり、前記複数の中空糸膜の外表面の表面弾性率が200MPa~500MPaである中空糸膜モジュール。
【0012】
2.前記中空糸膜の外表面において観察される孔(以降、表面孔)の単位面積あたりの数が200個/μm2~2000個/μm2である前記1に記載の中空糸膜モジュール。
3.前記中空糸膜の外表面の開口率が1%~10%である前記1または2に記載の中空糸膜モジュール。
4.前記中空糸膜の外表面の平均孔径(以降、表面孔径)が5nm~20nmである前記1~3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
5.前記表面孔の単位面積あたりの数[個/μm2]を前記表面孔径[nm]で除した値:αが30個/μm2/nm~150個/μm2/nmである前記2~4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【0013】
6.前記中空糸膜の輪切り断面において、前記中空糸膜の外表面から5μmまでの領域(以降、外表面部とする)における断面空隙率が20%~50%である、前記1~5のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
7.前記中空糸膜の外表面部における細孔と細孔の間の中空糸膜構造体を柱とし、該柱の太さの平均値が20nm~60nmである、前記1~6のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
8.前記柱の密度が10本/μm~50本/μmである、前記1~7のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【0014】
9.前記筒状ケースの前記第2端側に位置する前記複数の中空糸膜の束を接着する第2ポッティング部とを備え、前記第1ポッティング部の第2端部側と、前記第2ポッティング部の第1端部側の間に存在する前記複数の中空糸膜の平均長さをXとし、筒状ケースにおける前記第1ポッティング部の第2端部側と前記第2ポッティング部の第1端部側との間の高さ方向の長さをYとしたときに、2≦(X-Y)/X×100≦20(%)の関係がある、前記1~8のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
10.濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、前記被ろ過液から透過液を分離した際の前記透過液のウイルス除去率が4log以上である前記1~9のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
11.濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、前記被ろ過原液から透過液を分離した際の前記透過液のSDIが3以下である前記1~10のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
12.前記1~11のいずれかに記載の中空糸膜モジュールに、濁度3~50NTUの被ろ過原液を供給し、被ろ過原液から透過液を分離する中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
13.前記1~12のいずれかに記載の中空糸膜モジュールに、全有機体炭素(以下、TOC)4~30mg/Lの被ろ過原液を供給し、前記被ろ過原液から透過液を分離する中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
14.前記1~11のいずれかに記載の中空糸膜モジュールのろ過運転方法であって、
(1)前記中空糸膜モジュールに原液を供給して懸濁物質と液体とを分離する膜分離工程と、
(2)上記工程(1)を停止して、中空糸膜の外表面や中空糸膜間に蓄積した懸濁物質を洗浄する洗浄工程とを備え、上記洗浄工程(2)は、前記中空糸膜の外表面側に膜面線速度0.3m/s以上5.0m/s以下の流量で、前記原液または少なくとも前記原液以下の濁度またはTOCを有する液体と気体の混合流を流す空洗操作を行う、中空糸膜モジュールのろ過運転方法。
【0015】
15.中空糸膜の外表面の面積に対し開口率が1%~10%であり、前記中空糸膜の外表面の表面弾性率が200MPa~500MPaである中空糸膜。さらに、中空糸膜の外表面の表面弾性率が200MPa~500MPaを達成するため、中空糸膜の輪切り断面において、前記外表面から5μmまでの領域(以降、外表面部とする)における断面空隙率が20%~50%であることが好ましい。さらに、前記中空糸膜の外表面部における細孔と細孔の間の中空糸膜構造体を柱とし、前記柱の太さの平均値が20nm~60nmであることが好ましく、前記柱の密度が10本/μm~50本/μmであることが好ましい。
16.前記1~11または15のいずれかに記載の中空糸膜モジュールまたは中空糸膜を備えたろ過装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、濁質を多く含む被ろ過原液と接する中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa以上であることにより、中空糸膜の擦過を抑制し、除去率低下を低減できる。これにより、擦過による除去率低下を起こさずに中空糸膜モジュールの物理洗浄を行うことができ、高濁度原液の長期間ろ過が可能となり、安全・安心な水質の透過水を得るろ過方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一例である。
【
図2】
図2は、中空糸膜外表面の摩耗試験の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の中空糸膜断面のTEM画像の一例である。
【
図5】
図5は、中空糸膜の外表面部に多孔質膜が形成される過程を示す模式図である。
【
図6】
図6は、中空糸膜外表面の摩耗試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、「質量」と「重量」は同義である。また、「ろ過原液」とは分離膜を透過する前のろ過対象液のことであり、「透過液」は分離膜を透過した後の液体を指す。「ろ過原液」と「被ろ過原液」あるいは「被ろ過液」とは同義であり、いずれも分離膜を透過する前のろ過対象液のことを表す。また、高濁度原液とは、ろ過原液に含まれる濁質や有機物の量が多い液を指す。例えば、濁度が3NTU以上の液や、全有機体炭素(以下、TOC)が4mg/L以上の液である。濁質や有機物が膜面に接触した際に、膜面を不可逆的に損傷することを擦過と呼ぶ。本発明の、擦過を抑制する中空糸膜モジュールについて、以下、説明する。
【0019】
<中空糸膜モジュール>
本発明の中空糸膜モジュールは、筒状部材の高さ方向における第1端と第2端とを有する筒状ケースと、筒状ケースの第1端と第2端内に収容される複数の中空糸膜と、筒状ケースに被ろ過原液を流入させる原液流入口と中空糸膜を透過し分離された透過液を流出する透過液出口を少なくとも有する。
【0020】
図1において、中空糸膜モジュール100は、上下に第1端と第2端を配する筒状ケース1に複数の中空糸膜2が束になって収容されている。
図1の下部キャップ6は筒状ケース1と接続されており原液流入口7が設けられている。上部キャップ5は筒状ケース1に接続されており透過液流出口8が設けられている。また、筒状ケース1には原液流入口7とは離れた位置に原液出口9が設けられている。
【0021】
そして、原液流入口7と中空糸膜2の外表面が連通されており、筒状ケース1の第1端側に位置する複数の中空糸膜2の端部において中空部が開口された状態で接着する第1ポッティング部3とを備え、前記中空糸膜2の中空部の端部開口と透過液出口8とを連通している。これにより原液流入口7より流入した被ろ過原液は、中空糸膜2の外表面から内部に向けて分離され、中空糸膜を透過する液体は透過液出口8から取り出すことができる。ここで、中空糸膜2の前記筒状ケース1における充填率が40%~80%であり、複数の中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa~500MPaであることを必要とする。充填率とは、筒状ケース1の高さ方向と垂直な断面において、筒状ケース内側の断面積を100%としたときに、前記複数の中空糸膜とその中空部の合計面積が占める割合である。
【0022】
原液流入口7と、複数の中空糸膜2の外表面が連通していることで、原液に含まれる濁質や有機物は、中空糸膜の外表面と接触してろ過する、いわゆる外圧式ろ過を行うことができる。中空糸膜は内表面よりも外表面の表面積が大きいため、中空糸膜と接触する単位面積当たりの濁質や有機物の量を低減することができ、擦過を抑制することができる。また、筒状ケースの高さ方向に垂直な断面における中空糸膜の占める割合、すなわち充填率が40%~80%であることで、筒状ケース内の濁質濃度が高くなりすぎない範囲で、筒状ケース内の膜面積を高めることができる。充填率は、膜面積を高めるために45%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、55%以上が特に好ましい。また、充填率は筒状ケース内の濁質濃度を低減するために、75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が特に好ましい。
【0023】
中空糸膜が精密ろ過膜または限外ろ過膜であることで、原液中に含まれる濁質や有機物等を効率的に除去しつつ、透過液を得ることができる。中でも、限外ろ過膜であることで、中空糸膜外表面の表面弾性率を高めやすいため、好ましい。中空糸膜外側の表面のことを、中空糸膜外表面、単に外表面と記載することがある。
【0024】
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、膜の擦過を抑制するために、濁質と接触する中空糸膜外側の、表面弾性率を高めることが重要であることを見出した。従来、耐久性に優れた中空糸膜とは透水性能の安定性を目的としており、高い除去性能を維持する除去率の安定性については検討されていない。特許文献1の技術は、除去率や孔径、細孔形状の変化の有無が検討されておらず、擦過自体の抑制については検証されていない。さらに、中空糸膜の表面の表面弾性率に着目されていない。すなわち、特許文献1は、上述の通り、擦過前の透水性能を向上しているのみで、擦過自体を抑制する技術ではない。そのため、中空糸膜表面が擦過してしまい除去率が低下してしまう。除去率の安定性は、高濁度液に対し高精度なろ過を行う際に特に有効で不可欠な機能である。原液中の除去すべき対象は、例えば濁質、菌類、ウイルス、多糖類、タンパク質、有機化合物およびそれらの複合体である。発明者らは、重量平均分子量4万Daのデキストランの除去率:Tが60%以上を示すと、水処理における除去すべき成分を十分に除去しやすいことを見出した。
【0025】
本発明の中空糸膜モジュールは、濁質を多く含む原液と接する中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa以上であることにより、中空糸膜の擦過を抑制し、除去率低下を低減できる。これにより、擦過による除去率低下を起こさずに安定して高い除去率を維持できる。本発明の中空糸膜の外表面の表面弾性率は、押し込みに対して膜が有する復元力の指標であり、復元力が大きいほど、不可逆な変形が起きにくい。不可逆な変形、つまり塑性変形が起こると、中空糸膜の孔の形状が変化し、中空糸膜で除去すべき成分が透過液に漏洩しやすい。たとえば特許文献4には中空糸膜の圧縮弾性率が記載されているものの重要視されておらず、またその範囲は1.5MPa~10MPaと低く、中空糸膜表面の擦過を抑制できるものではない。
【0026】
本発明では表面弾性率が高い中空糸膜を用いることによって、濁質が中空糸膜に接触し、中空糸膜を擦って擦過しようとした際にも、強い復元力によって擦過を抑制することを見出した。表面弾性率は濁質が押しつけられた際に十分な復元力を発揮するために、230MPa以上が好ましく、250MPa以上がさらに好ましく、300MPa以上が特に好ましい、また、中空糸膜が靱性を有し、濁質が衝突した際の割れを抑制するために、450MPa以下が好ましく、400MPa以下がさらに好ましく、350MPaが特に好ましい。なお、中空糸膜の表面弾性率が200MPa以上となる中空糸膜の実施態様の例は、後述する<中空糸膜の構造>、<中空糸膜の素材>と<中空糸膜の製造方法>にて詳細を説明する。
【0027】
発明者らは、後述する物理洗浄(空洗)試験にて、擦過による性能変化が認められた中空糸膜の外表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、表面から数百nmの領域において、膜の削れや変形が起こっていることを確認した。そのため、表面弾性率は表面から数百nmの領域において測定することが好ましい。物理洗浄試験に使用した活性炭や、実際のろ過原液に含まれる濁質は、形態の異なる粒子が存在しており、そのサイズも分布があると予想される。鋭利な形態の濁質や、表面粗さの大きい濁質が膜面に接触した際には、その濁質の凸部よりも深い範囲の表面において、表面弾性率が高いことが重要であると推測している。
【0028】
表面弾性率は市販のナノインデンターを用いて、ISO14577に準拠した方法で試験および算出することができる。中空糸膜を測定する場合、乾燥した中空糸膜を金属またはガラス板状に固定し、最大荷重を0.1mN、印加時間を15秒、最大荷重保持時間を30秒として室温(20℃~25℃)で測定し、中空糸膜の外表面を構成する主成分のポアソン比を用いて、押し込み深さ0.4μm~0.8μmの範囲で算出する。ポアソン比は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の場合、0.35であり、ポリスルホンの場合0.37であり、ポリエーテルスルホンの場合0.40であり、酢酸セルロースの場合0.30の値を用いることができる。ここで、中空糸膜を構成する成分の内、重量分率が50%以上の成分を主成分とする。主成分は一般的な組成分析機器を用いて、公知の技術で求めることができる。例えば、IR、NMR、ICP等である。表面弾性率は、測定箇所を変えて同じ中空糸膜で5回表面弾性率を測定し、さらに3本の異なる中空糸膜に対して測定を行い、それら全ての測定値の平均を算出することで求める。
【0029】
また、中空糸膜の外表面部の表面弾性率のばらつきは小さいことが好ましい。表面弾性率の値の範囲、つまり分布が小さいことで、表面弾性率が低い箇所から擦過が起こる懸念を小さくしやすい。表面弾性率の分布は、測定箇所を変えて同じ中空糸膜で5回表面弾性率を測定し、さらに3本の異なる中空糸膜に対して測定を行い、それら全ての測定値から変動係数を算出することで求める。変動係数は0.3未満が好ましく、0.25未満がより好ましく、0.2未満がさらに好ましく、0.1未満が最も好ましい。
【0030】
次に、中空糸膜モジュールの形状を詳細に説明する。本発明の中空糸膜モジュールの一例を
図1に示す。上下に第1端110と第2端120を配する筒状ケース1に複数の中空糸膜2が束になって収容されている。
図1の下部キャップ6は筒状ケース1と接続されており原液流入口7が設けられている。上部キャップ5は筒状ケース1に接続されており透過液流出口8が設けられている。また、筒状ケース1には原液流入口7とは離れた位置に原液出口9が設けられている。そして、筒状ケース1の第1端側に位置する複数の中空糸膜の端部を開口した状態で接着する第1ポッティング部3と、筒状ケースの第2端側に位置する複数の中空糸膜の端部を封止した状態で接着する第2ポッティング部4を備え、原液流入口7は第2ポッティング部4側に原液が流入されるように設け、透過液出口8は第1ポッティング部3側から透過液が流出されるように備えていることが好ましい。ここで、第2ポッティング部4は複数の中空糸膜の端部を開口した状態で接着し、第2ポッティング部4の端部を覆う第2ポッティングケース12等で封止してもよい。
【0031】
筒状ケースにおける充填率は、
図1のA-A断面における、筒状ケース内における中空糸膜の占める割合のことを言う。被処理液であるろ過原液は、原液流入口7から中空糸膜モジュール内に供給され、中空糸膜2の外側と接触し、中空糸膜の中空部に向かってろ過され、上部キャップ5に具備される透過液出口8から処理済みの液として取り出される。
【0032】
第1ポッティング部3の第2端部側と、第2ポッティング部4の第1端部側の間に存在する中空糸膜の平均長さ(すなわち、第1ポッティング部3と第2ポッティング部4の間に存在する複数の中空糸膜の平均長さ)Xと、筒状ケースにおける第1ポッティング部の第2端部側と第2ポッティング部の第1端部側との間の高さ方向の長さ(すなわち、第1ポッティング部3と第2ポッティング部4の間の距離)Yとの間に、2(%)≦(X-Y)/Y×100≦20(%)の関係があることで、中空糸膜が物理洗浄によって効果的に揺れることができ、中空糸膜間に蓄積した濁質を排出しやすい。これにより、濁質による中空糸膜間および膜細孔内の目詰まりが起こりにくく、好ましい。XとYが前述の関係にあることは、つまり中空糸膜モジュール内において、中空糸膜が所定量の弛みを有していることを表す。通常、中空糸膜が弛みを有している場合、物理洗浄によって効果的に目詰まりが解消される一方で、中空糸膜の擦過が懸念されるが、中空糸膜の外表面が高い表面弾性率を有する膜モジュールにおいては、擦過を抑制することができ、高濁度液を、長時間安定的にろ過しやすく、好ましい。中空糸膜の弛み量を表す(X-Y)/Y×100(%)は、物理洗浄の効果を高める観点から、4%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましく、12%以上が特に好ましい。また、中空糸膜の筒状ケース内における充填率を均一に適切な範囲に制御する観点から、中空糸膜の弛み量は、18%以下がより好ましく、以下がさらに好ましく、16%以下が特に好ましい。
【0033】
以下、中空糸膜モジュールの構成要素の1つである中空糸膜について説明する。
【0034】
<中空糸膜の構造>
本発明の中空糸膜モジュールは、濁質を多く含む原液と接する中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa~500MPaであることにより、中空糸膜の擦過等の損傷を抑制し、除去率低下を低減できる。また、本発明の中空糸膜は、濁質を多く含む原液と接する中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa~500MPaであることにより、中空糸膜の擦過等の損傷を抑制し、除去率低下を低減できる。これにより、擦過等の損傷による除去率低下を起こさずに安定して高い除去率を維持できる。そのためには、中空糸膜の外側表面の開口率が1~10%と比較的小さい範囲であることで、中空糸膜外側の密度が高まり、表面弾性率を比較的高くしやすいため好ましい。また、外側表面の開口率が比較的小さいことで、濁質が細孔に侵入しにくい。そのため、濁質が細孔入口近傍で衝突して細孔の形状を変形させる擦過を起こしづらく、好ましい。表面弾性率を比較的高くするために、開口率は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下が更に好ましく、4%以下が特に好ましい。また、透過液の透過抵抗が小さいと、濁質が中空糸膜外表面に強く押しつけられにくく、擦過しにくい。透過抵抗を小さくするために、表面の開口率は1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上が更に好ましい。表面孔とは、中空糸膜の外側表面を観察したときに面内に存在する孔であり、開口率とは、表面の面内における孔の面積の割合である。
【0035】
中空糸膜表面の開口率を求める場合には、中空糸膜の表面を観察した走査型電子顕微鏡(以降、「SEM」)で得た画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求める。孔を千個以上カウントできる領域を観察し、孔の総面積を求め、観察した膜の面積で割って開口率を求める。
【0036】
中空糸膜外側の表面平均孔径が、5nm~20nmと比較的小さい範囲であることで、中空糸膜外側の密度が高まり、表面弾性率を比較的高くしやすいため好ましい。表面平均孔径は、5nm~10nmであると、さらに好ましい。表面平均孔径とは、後述する表面孔径の平均値である。また、表面平均孔径が比較的小さいことで、濁質が細孔に侵入しにくい。そのため、濁質が細孔入口近傍で衝突して細孔の形状を変形させる擦過を起こしづらく、好ましい。表面孔径とは、中空糸膜の表面を観察したときに面内に在る孔の径である。中空糸膜の表面孔径を求める場合には、表面の開口率を求める場合と同様に各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して算出した直径を表面孔径とする。表面孔径の平均値を求める際は、孔千個以上の孔径を平均して求める。
【0037】
中空糸膜の輪切り断面において、中空糸膜外側から5μmの領域(以降、外表面部とする)における断面空隙率が、中空糸膜内側から5μmの領域(以降、内表面部とする)の断面空隙率よりも小さいことで、中空糸膜外側の密度が高まり、表面弾性率を比較的高くしやすく、好ましい。また、内表面部の断面空隙率が大きいことで、ろ過原液が中空糸膜を透過する際の透過抵抗が低減され、濁質が外表面部に押しつけられる際の圧力を低減しやすい。濁質が押しつけられる圧力が低いと、外表面部は擦過されにくく、好ましい。輪切り断面とは、中空糸膜の糸長手方向に垂直な断面を指す。断面空隙率は、中空糸膜の輪切り断面(観察試料となる切片の厚みは100nm)を透過型電子顕微鏡(以降、「TEM」)で観察した画像を得て、観察した面積に対する細孔部の面積の割合を百分率で求めることで算出する。
【0038】
観察用の輪切り断面試料は、市販の凍結組織切片作成用包埋剤を用いて包埋した中空糸膜を、凍結ミクロトームを用いて、低温で、厚み100nmで切片を採取し、室温で12時間真空乾燥を行って得る。TEMで観察する際、観察する切片の厚み方向の情報が反映される。そのため、ミクロトームで観察試料となる切片を切り出す際は、厚みを単一に揃えて評価することが重要であり、本発明では再現よく観察を行いやすい厚みとして、ミクロトームの切片厚みを100nmに設定する。観察用の断面試料をTEMで観察した画像を得て、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Threshold(二値化の閾値)で条件:Triangleを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求める。孔を100個以上カウントできる領域を観察し、細孔の総面積を求め、観察した膜の面積で割って断面空隙率を求める。
【0039】
表面弾性率は、一般的に押し込んだ深さの5倍から10倍の深さの構造の影響を受けやすい。つまり、後述する物理洗浄(空洗)試験にて、擦過が認められた深さ数百nmにおける表面弾性率は、外表面から5μmの深さ領域である外表面部の断面構造の影響を受けやすい。中空糸膜の外表面部における断面空隙率が20%~50%であることで、外表面部の密度を比較的高めやすく、表面弾性率を適した範囲に制御しやすいため好ましい。表面弾性率を高めやすくするため、断面空隙率は45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましく、36%以下が特に好ましい。また、透過液の抵抗を低減するために、断面空隙率は25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、35%以上が特に好ましい。
【0040】
外表面部において、中空糸膜を構成する細孔と細孔の間の中空糸膜構造体を柱とし、柱の太さの平均値が20nm~60nmであることで、表面弾性率を適切な範囲に制御しやすいため、好ましい。また、透過液の透過抵抗を低減しやすいため、好ましい。ここで、中空糸膜を構成する柱とは、中空糸膜の孔と孔の間に存在する中空糸膜の構成構造体を指す。外表面部に濁質等が押しつけられた際に、柱がその力に対抗して復元力を発揮しやすくする、すなわち表面弾性率を高めやすくするために、柱の太さの平均値は、25nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく32nm以上が特に好ましい。また、柱によって透過液の抵抗を過剰に与えないために、柱の太さの平均値は55nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、45nm以下が特に好ましい。柱の太さは、上述の輪切り断面の外表面部102から5μmの領域である外表面部をTEMで観察した画像において、表面101(
図3中の線103)に対して垂直な線(
図3、4中の線104)を描いたときに、該線104と、孔と孔の間の領域(黒色部)と重なった長さを、柱の太さとして求める。柱500個以上の柱太さ105を用いて平均値を算出する。
図3に、TEMで観察した画像を、
図4にその一部の拡大図を示す。柱の太さ105は線104の内、黒色で示す樹脂部の線分に相当する。
図4(b)には2つの柱があり、それぞれの線分の長さが柱の太さ105となる。
【0041】
外表面部における柱の密度は、線104上の単位長さあたりに占める柱の本数として定義され、10本/μm~50本/μmであることで、表面弾性率を適切な範囲に制御しやすいため、好ましい。これは、外表面部に濁質等が押しつけられた際に、高密度に柱が存在することで、濁質による押し込み力を分散しやすいためであると推測される。濁質による圧縮力を十分に分散し、表面弾性率を高めやすくするために、柱の密度は、15本/μm以上がより好ましく、20本/μm以上がさらに好ましく、25本/μm以上が特に好ましい。また、柱によって透過液の抵抗を過剰に与えないために、柱の密度は45本/μm以下がより好ましく、40本/μm以下がさらに好ましく、35本/μm以下が特に好ましい。柱の密度は、上述の輪切り断面の外表面から5μmの領域である外表面部をTEMで観察した画像において、表面(
図3中の線103)に対して垂直な線(
図3、4中の線104)を描いたときに、該線104上の柱の数を求める。そして、数えた柱の数を、線の長さで除して、柱の密度とする。柱の密度は、柱500個以上の柱の数を用いて平均値を算出する。外表面部において、柱の密度の分布が小さい方が、表面弾性率を高めやすく、好ましい。表面と平行な方向への柱の密度の分布が小さいと、表面弾性率の変動係数を小さくしやすく、好ましい。また特に、表面から深さ方向への柱の密度の分布が小さいと、表面弾性率を平均的に高めやすく、好ましい。
【0042】
表面から深さ方向へ構造および孔径の分布が小さいことは、安全・安心な水を得るために、優れた除去性を発現しやすく、好ましい。また、上述の通り、表面弾性率を高めやすいため、擦過を抑制し、長期的に高い除去性を発現しやすいため、好ましい。表面から深さ方向の構造の分布が小さくするために、膜断面にはマクロボイドを実質的に含まないことが好ましい。マクロボイドとは、中空糸膜断面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で写真撮影した際に、長径が5μm以上となる空孔のことである。長径を判断することが困難な場合、上述の二値化処理によって、孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を孔の長径とする。中空糸膜の断面において、互いに異なる30箇所を観察し、マクロボイドが存在しない時あるいは長径が5μm未満のマクロボイドしか存在しない時に5μm以上のマクロボイドを有さないとし、長径が5μm以上のマクロボイドが一つでも観察された時に5μm以上のマクロボイドを有すると判断した。
【0043】
中空糸膜の純水透水性は、0.1~0.6m3/m2/h/50kPaと比較的低い範囲であることで、中空糸膜外表面の表面弾性率を比較的高い範囲に制御しやすく、好ましい。表面弾性率を高めるために、純水透水性は0.6m3/m2/h/50kPa以下が好ましく、0.5m3/m2/h/50kPa以下がより好ましく、0.4m3/m2/h/50kPa以下が更に好ましい。また、濁質等が中空糸膜に強く押しつけられにくくするために、純水透水性は0.1m3/m2/h/50kPa以上が好ましく、0.2m3/m2/h/50kPa以上がより好ましく、0.3m3/m2/h/50kPa以上が更に好ましい。
【0044】
中空糸膜は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。一層で構成されていても、製膜時に外側と内側の環境を変えることで、外表面部と内表面部の断面空隙率等が異なる構造とすることができる。例えば、製膜時に中空糸の中空部として吐出する注入液と、吐出された中空糸を凝固せしめる凝固浴の組成を変えてもよい。また、複数の層で構成される複合中空糸膜の場合、外表面部の断面空隙率を、内表面部の断面空隙率よりも低くすることで、外表面部の擦過を抑制しつつ、中空糸膜のろ過抵抗を低減することができ、好ましい。
【0045】
中空糸膜の表面において観察される表面孔の数が200個/μm2~2000個/μm2であることで、中空糸膜内でろ過原液中の汚れ成分を分散することができ、高濁水のろ過を長期安定して実施しやすく、好ましい。中空糸膜の表面孔の数とは、中空糸膜の表面を観察したときに面内に在る孔の数である。ろ過の進行とともにろ過原液中の汚れ成分が表面孔を一部閉塞したとしても、表面孔の数が多ければ、ろ過原液が中空糸膜を透過する流路の数を十分に確保しやすく、好ましい。表面孔の数が200個/μm2以上であれば、汚れやすいろ過原液であっても、逆圧洗浄等の洗浄を行うまでの間の流路を十分に確保しやすい。中空糸膜の表面孔の数は290個/μm2~1500個/μm2であることがさらに好ましく、350個/μm2~1000個/μm2であることが特に好ましい。
【0046】
中空糸膜の外表面において観察される孔(以下、表面孔)の単位面積あたりの数[個/μm2]を前記表面孔径[nm]の平均値で除した値:αが30個/μm2/nm~150個/μm2/nmであることで、ろ過原液中の汚れ成分や除去対象物が中空糸膜内に侵入することを防ぎつつ、かつ、ろ過原液が中空糸膜を透過する流路の数を十分に確保できるため、目詰まりを抑制しやすく、好ましい。これにより、高濁度原液の長期間ろ過を行いやすく、安全・安心な水質の透過水を得やすい。αが大きいことは、小さな孔が多いことを意味する。通常、孔径が小さい場合には、中空糸膜の孔を埋めるように、中空糸膜を構成する高分子の割合が多くなりやすく、そのため孔数が少なくなりやすい。その結果、表面孔径が小さくなると表面孔数も少なくなる関係にあり、表面孔径と表面孔数とはトレードオフの関係にある。
【0047】
本発明の中空糸膜は、孔が小さいことでろ過原液中の粗大な汚れ成分や除去対象物が中空糸膜内に侵入することを防ぎつつ、かつ、孔が多いことで、ろ過原液が中空糸膜を透過する流路の数を十分に確保し、また汚れ成分を分散できるため、目詰まりを抑制しやすい。さらに、表面孔が小さいことで表面弾性率を高めやすく、表面孔が多いことで濁質が膜面に接触する圧力を低減しやすい。つまり、上述の表面孔径が小さく、表面孔数が多いことを両立することが、耐汚れ性や耐擦過性の観点では好ましい。表面孔数と表面孔径がともに良好となる正の相関関係を満たし、いずれもが耐汚れ性に寄与するため、両者を勘案したα値を耐汚れ性の指標とすることが好ましい。また、表面孔数が表面孔径に対して負の相関にあるため、表面孔数のみを指標とするよりも、表面孔径で除したα値を指標にすることが好ましい。このような表面孔の数が多く、かつ、表面孔径が小さい多孔質膜は従来技術では得られていなかった。
【0048】
本発明の多孔質膜は、後述するように、多孔質膜の形成過程において、高分子の自己拡散係数を比較的小さくし、つまり動きにくくすることで、過度な相分離および粗大化の進行を抑制し、細孔が微細かつ多量に存在する状態で凝固していることで、孔径と孔数のトレードオフを打破しやすい。αが通常のトレードオフの関係よりも高い30~150個/μm2/nmであることで、優れた耐汚れ性を示すため好ましく、30~100個/μm2/nmであることがより好ましく、32~80個/μm2/nmであることが更に好ましく、50~70個/μm2/nmであることが特に好ましい。
【0049】
<中空糸膜の素材>
濁質等を物理洗浄で効率的に中空糸膜モジュールから排出するため、中空糸膜は、柔軟な素材であることが好ましく、高分子を主成分とすることが好ましい。高分子の種類は特に限定されないが、具体例としては、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ナイロン、セルロースアセテート若しくはセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド若しくはポリメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体、或いはこれらの共重合体等が挙げられる。
【0050】
特に、中空糸膜を長期間ろ過に使用するためには、蓄積した汚れ成分を定期的に薬品洗浄することが好ましく、特に耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むことが好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンの単独重合体又はフッ化ビニリデンの共重合体をいう。ここでフッ化ビニリデンの共重合体とは、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーをいう。フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーは、典型的には、フッ化ビニリデンモノマーと、それ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。そのようなフッ素系モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン又は三フッ化塩化エチレンが挙げられる。上記フッ化ビニリデンの共重合体においては、本発明の効果を損なわない程度に、上記フッ素系モノマー以外のエチレン等が共重合されていても構わない。
【0051】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜の重量を100%としたときに、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことが特に好ましい。高分子の重量平均分子量は、5~100万Daであることで、上述の表面弾性率を適した範囲に制御しやすく、好ましい。
【0052】
中空糸膜の厚みは、150μm以上であることで、表面弾性率を高めやすく、また表面弾性率のばらつきを小さくしやすく、好ましい。中空糸膜の厚みは170μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。中空糸膜の厚みは、350μm以下であることで、筒状モジュール内での中空糸膜外表面の表面積を高めやすく、すなわち膜面積当たりの被ろ過原液量を低減しやすいため、好ましい。膜面積当たりの被ろ過原液量を低減することで、擦過を抑制しやすい。中空糸膜の厚みは300μm以下がより好ましく、250μm以下がさらに好ましい。中空糸膜の厚みは、中空糸膜の外径から内径を引いた値の半分に相当する。
【0053】
<中空糸膜の製造方法>
本発明の中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は、工程(A):高分子を溶媒に溶解して高分子溶液を得る工程と、その後に、工程(B):高分子溶液を非溶媒中で凝固させて中空糸膜の外表面部を形成する外表面部形成工程とを含み、工程(A)で得られる高分子溶液中において、溶解された高分子の全原子分子動力学計算で算出される自己拡散係数[m2/sec]が0.8×10-11m2/sec~1.6×10-11m2/secで、工程(B)で用いる非溶媒が90~100重量%の水を含み、かつ、非溶媒の温度が6℃~45℃とすることが好ましい。
【0054】
工程(A)で用いられる高分子の種類は特に限定されないが、具体例としては、前述の<中空糸膜の素材>に挙げられた樹脂が好ましく用いられる。高分子の重量平均分子量は、5~100万Daであることで、後述の自己拡散係数を比較的遅い、適した範囲に制御しやすく、好ましい。また、高分子は複数種を混合して用いてもよい。溶媒は、良溶媒を含むことが好ましい。ここで「良溶媒」とは、60℃以下の低温領域でも高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒をいう。良溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以降、「NMP」)、2-ピロリドン(以降、「2P」)、ε-カプロラクタム(以降、「ε-CL」)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素もしくはリン酸トリメチル又はそれらの混合溶媒が挙げられる。良溶媒は溶媒の内で40重量%以上含むことがさらに好ましく、60重量%以上含むことが特に好ましい。良溶媒を多く含むことで、高分子溶液中で高分子鎖が拡がり、後述の自己拡散係数を比較的遅い、適した範囲に制御しやすいため、好ましい
ここで、工程(B)の「非溶媒」とは、非溶媒を沸点まで高温にしても、高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒をいう。非溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール若しくは低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、又は、その他の塩素化有機液体あるいはそれらの混合溶媒が挙げられる。高分子溶液における高分子の濃度(重量%)は、自己拡散係数を適した範囲に制御するために、絡み合い濃度以上とすることが好ましく、より具体的には、10~40重量%が好ましく、12~30重量%がさらに好ましく、15~25重量%が特に好ましい。高分子の濃度は10重量%以上が自己拡散係数を比較的遅くすることができ、中空糸膜の外表面部の孔が微細かつ多量に存在する状態で凝固できることを見いだした。高分子濃度は12重量%以上がより好ましく、15重量%以上が特に好ましい。また、高分子の濃度は40重量%以下であることで、外表面部における高分子の占める割合を低減でき、孔の数を十分に確保することができる。高分子濃度は30重量%以下がより好ましく、25重量%以下が特に好ましい。
【0055】
工程(B)の高分子溶液を非溶媒中で凝固させて多孔質膜を形成する外表面部形成工程は、所謂、非溶媒誘起相分離による多孔質膜の形成工程である。高分子溶液が非溶媒と接触すると、高分子が溶媒中に溶けきれず、高分子を多く含む相と、溶媒を多く含む相に相分離し、各相は周囲の同一相と合一しながら粗大化していく。
【0056】
図5は、工程(B)の多孔質膜の形成過程を模式図で示したものである。
図5(a)から(f)の順に、高分子溶液中で相分離が進み、高分子の濃度が高い箇所(高分子を多く含む相301)が粗大化していく。この相分離および/または粗大化過程において、溶媒と非溶媒の交換が進み、非溶媒の濃度が一定以上高くなると、高分子が凝固し、多孔質膜の構造が固定化される。このとき、溶媒を多く含む相302が多孔質膜の孔となる。
【0057】
本発明の中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜の製造において、高分子の自己拡散係数を比較的低い範囲である0.8×10-11m2/sec~1.6×10-11m2/secとすることで、過度な相分離および粗大化の進行を抑制し、高分子を多く含む相301および溶媒を多く含む相302がそれぞれ微細かつ多量に存在する状態で凝固しやすく、微細な孔を多量に形成できる。自己拡散係数が0.8×10-11m2/sec以上であることで、高分子と溶媒が相分離するのに十分な拡散係数を有し、細孔を形成しやすい。相分離しにくいほどに高分子の拡散が遅い場合、細孔は形成されづらい。自己拡散係数が1.6×10-11m2/sec以下であることで、過度な相分離および粗大化の進行を抑制し、細孔の合一を抑制して微細孔を多く形成しやすい。すなわち、高分子の自己拡散係数を適切に、比較的低い範囲で制御することで、微細孔を多く有する多孔質膜を形成することができる。自己拡散係数は0.8×10-11m2/sec~1.4×10-11m2/secであることがさらに好ましく、0.8×10-11m2/sec~1.1×10-11m2/secであることがさらに好ましい。
【0058】
自己拡散係数は、全原子分子動力学計算によって決定する方法が挙げられる。全原子分子動力学計算は、分子集団系の運動方程式を構成原子のすべてに対し逐一解くことにより、それぞれの原子の軌跡を求める手法である。まず、実際に使用する高分子濃度(重量%)となるように高分子溶液系を作成する。このときモデル高分子鎖1本を、分子量が800~6000であり、かつ実際に使用する高分子の重量平均分子量の1/200~1/5となるようにモデリングする。分子動力学計算で用いるポテンシャルパラメータには、DREIDING [S.L.Mayo,B.D.Olafson,W.A.Goddard III,J.Phys.Chem.94,8897(1990).]、GAFF[J.Wang,R.M.Wolf,J.W.Caldwell,P.A.Kollman,D.A.Case、J.Comput.Chem.25,1157(2004)]、OPLS-AA[W.L.Jorgensen、D.S.Maxwell、Julian Tirado-Rives、J.Am.Chem.Soc.118、11225(1996)]、CHARMM[B.R.Brooks、R.E. Bruccoleri、B.D.Olafson、D.J.States、S.Swaminathan、M.Karplus、J.Comput.Chem.4、187(1983)]など公知のパラメータを用いることができるが、溶液系の凝集状態を表す物理量である密度や凝集エネルギーを再現するパラメータが好ましい。
【0059】
発明者らが凝集状態の再現性について検討した結果、GAFFまたはOPLS-AAを用いることが特に好ましいことがわかった。またNose-Hoover法[Hoover,W.G.Phys.Rev.A,31,1695(1985).]により温度を25℃に、Andersenの方法[H.C.Andersen,J.Chem.Phys.72,2384(1980)]により圧力を1barに制御することで圧力・温度一定アンサンブルを構成する。このとき、近距離のLennard-Johns相互作用は、1.0nmからスイッチファンクションを適用し、1.2nmでカットオフすることで取り扱い、長距離の静電相互作用はParticle Mesh Ewald法で計算する。圧力・温度一定アンサンブルで、密度が一定になるまで分子動力学計算を実施した後、平均の密度になるようにユニットセル長を調整し、温度一定アンサンブルで11nsの追加計算を行う。10nsの軌跡を用いて、高分子の各原子の平均二乗変位(MSD)を求め、下記式(1)から高分子の自己拡散係数を算出する。このとき、Dの算出に用いるMSDとtの範囲は、log(MSD)をlog(t)で除した値が0.9~1.1の範囲にあることを確認する。複数種の高分子を混合して高分子溶液とする場合、各高分子の自己拡散係数を、高分子の重量%を基に加重平均した値を高分子溶液中の高分子の自己拡散係数とする。
D=MSD/6t ・・・・・式(1)
D:自己拡散係数 t:時間 。
【0060】
本発明の中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜の製造において、凝固に用いる非溶媒が90~100重量%の水を含むことで、凝固が早く、高分子溶液における自己拡散係数が、相分離および粗大化の速度に影響を与えやすい。つまり、高分子溶液における自己拡散係数を比較的低い範囲に制御する効果を得やすい。また、非溶媒の温度が6℃~45℃であることで、凝固が早く、高分子溶液における自己拡散係数が、相分離および粗大化の速度に影響を与えやすい。非溶媒の温度は10℃~35℃であることがさらに好ましく、15℃~30℃であることがさらに好ましい。
本発明の中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜の製造に関し、上述の工程(A)において、前記溶媒は水素結合ドナー性および水素結合アクセプター性を有する分子量500Da以下の水素結合性溶媒を含み、高分子の自己拡散係数を適切な範囲に制御しやすく、好ましい。水素結合ドナー性を有するとは、正に分極した水素原子を持つことを意味し、具体的には、ヒドロキシ基(OH基)、カルボキシル基(COOH基)、アミノ基(NH基)等を有することを指す。水素結合アクセプター性を有するとは、孤立電子対を持つことを意味し、具体的には、カルボニル基、アルコキシ基、シアノ基等を有することを指す。溶媒が水素結合ドナー性および水素結合アクセプター性であることで、溶媒-溶媒間の水素結合による相互作用が強く、溶媒和した高分子の動きを抑制し、高分子の自己拡散係数を比較的遅い、適した範囲に制御しやすい。水素結合ドナー性および水素結合アクセプター性の溶媒は、特に限定されないが、具体例としては、2P、ε-CL、1,3-ジメチル尿素、N-メチルアセトアミド、ヒダントイン、2-イミダゾリジノン、DL-ピログルタミン酸等が挙げられる。
【0061】
上述の工程(A)において、溶解される高分子は水素結合ドナー性および/または水素結合アクセプター性を有する高分子を含むことで、高分子の自己拡散係数を適切な範囲に制御しやすく、好ましい。高分子が水素結合ドナー性および/または水素結合アクセプター性であることで、水素結合ドナー性および水素結合アクセプター性を有する溶媒と水素結合によって相互作用し、高分子の自己拡散係数を比較的遅い、適した範囲に制御しやすいためである。水素結合ドナー性および/または水素結合アクセプター性を有する高分子は、多孔質膜の内、10重量%~50重量%含まれることが、高分子の自己拡散係数を適切な範囲に制御する観点からより好ましい。
【0062】
<ろ過運転方法>
本発明の中空糸膜モジュールは、中空糸膜モジュールに濁度3~50NTUの液体を供給するろ過運転方法であることが好ましい。これは、擦過しやすい高濁度液を、擦過しにくい中空糸膜モジュールによって、安定的かつ効率的に液体を処理することが可能となるからである。高濁度液を膜モジュールで処理する場合、濁度を低減するために膜モジュールの前段にて前処理をすることが多い。濁度が3~50NTUと、比較的高い液体をろ過原液として膜モジュールに供給することで、前処理の負荷を軽減しやすく、液体の処理プロセスの効率を向上しやすい。ここで、前処理とは、凝集沈殿、加圧浮上、遠心分離など工程を指す。液体処理プロセス全体の効率を向上するため、中空糸膜モジュールに供給する液体の濁度は5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、20以上が特に好ましい。また、中空糸膜モジュール内の液体の流動抵抗を過度に高めないために、中空糸膜モジュールに供給する液体の濁度は45以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましい。中空糸膜モジュールに供給する被ろ過原液の濁度は、前処理の仕事量や凝集剤等の添加量で制御することができる。
【0063】
中空糸膜モジュールに供給する被ろ過原液に対し、活性炭などの吸着剤を添加することによって、除去率を高めやすい。一方で、活性炭は、カオリンなどの一般的な濁質と比べて硬度が高く、中空糸膜の擦過を引き起こしやすい。そのため、従来は擦過が起こらない範囲で添加量を調整する必要があった。本願の表面弾性率が高い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュールに、活性炭を添加した被ろ過原液を供給してろ過することで、安定して高い除去率を発現しやすく、好ましい。
【0064】
本発明の中空糸膜モジュールにTOCが4~30mg/Lの液体を供給するろ過運転方法であることで、擦過しやすい高濁度液を、擦過しにくい中空糸膜モジュールによって、安定的かつ効率的に液体を処理しやすく、好ましい。高濁度液を膜モジュールで処理する場合、TOCを低減するために膜モジュールの前段にて前処理をすることが多い。TOCが4~30mg/Lと、比較的高い液体をろ過原液として膜モジュールに供給することで、前処理の負荷を軽減しやすく、液体の処理プロセスの効率を向上しやすい。液体処理プロセス全体の効率を向上するため、中空糸膜モジュールに供給する液体のTOCは6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。また、中空糸膜モジュール内の液体の流動抵抗を過剰に高めないために、中空糸膜モジュールに供給する液体のTOCは25以下がより好ましく、20以下がさらに好ましく、15以下が特に好ましい。中空糸膜モジュールに供給する被ろ過原液のTOCは、前処理の仕事量や凝集剤等の添加量で制御することができる。
【0065】
中空糸膜モジュールに供給されたろ過原液は、ろ過が進むにつれて、中空糸膜モジュール内で濃縮される。中空糸膜モジュール内の濁度がある程度高くなった時点で、物理洗浄と共に中空糸膜モジュール内の濁質を排出し、再度ろ過原液を中空糸膜モジュールに供給する。このようなろ過と物理洗浄を繰り返す運転が、長時間ろ過を継続するためには好ましい。液体の処理プロセスの効率を向上するためには、中空糸膜モジュール内の最大濁度が10~100NTUとなるように制御することが好ましい。最大濁度が10NTU以上となるように制御することで、物理洗浄までのろ過継続時間を長くすることができ、ろ過の効率を向上しやすい。最大濁度は10以上が好ましく、15以上がさらに好ましく、20以上が特に好ましい。また、中空糸膜モジュールの擦過や目詰まりを抑制する観点から、最大濁度は90以下が好ましく、80以下がさらに好ましく、70以下が特に好ましい。最大濁度は、物理洗浄の頻度によって制御することができる。
【0066】
中空糸膜モジュール内のTOCも、ろ過が進むにつれてある程度高くなった時点で、物理洗浄と共に中空糸膜モジュール内のTOCを排出し、再度ろ過原液を中空糸膜モジュールに供給する。このようなろ過と物理洗浄を繰り返す運転が、長時間ろ過を継続するためには好ましい。液体の処理プロセスの効率を向上するためには、中空糸膜モジュール内の最大TOCが15~50mg/Lとなるように制御することが好ましい。最大TOCが15mg/L以上となるように制御することで、物理洗浄までのろ過継続時間を長くすることができ、ろ過の効率を向上しやすい。最大TOCは15以上が好ましく、20以上がさらに好ましく、25以上が特に好ましい。また、中空糸膜モジュールの擦過や目詰まりを抑制する観点から、最大TOCは50以下が好ましく、45以下がさらに好ましく、40以下が特に好ましい。最大TOCは、物理洗浄の頻度によって制御することができる。
中空糸膜モジュール内の濁度やTOCが高くなりすぎないように、定期的にろ過を停止して、物理洗浄を行うことが好ましい。特に、(1)中空糸膜モジュールに原液を供給して懸濁物質と液体とを分離する膜分離工程と、(2)膜分離工程を停止して、中空糸膜の外表面や中空糸膜間に蓄積した懸濁物質を洗浄する洗浄工程とを備えることが好ましい。洗浄方法は、中空糸膜の外表面側に膜面線速度0.3m/s以上5.0m/s以下の流量で、原液または少なくとも原液以下の濁度またはTOCを有する液体と気体の混合流を流す空洗操作を行うことが、効果的に中空糸膜モジュール内を洗浄することができ、好ましい。ここで、線速度は、ろ過原液のろ過方向(すなわち、中空糸膜の外表面から内表面へ向かう方向)と垂直な方向の流量を、該流れの流路の断面積で除した値である。また、洗浄方法は、中空糸膜の内表面側から前記中空糸膜の外表面側へ通液する逆洗操作を空洗操作と同時に行うことは、さらに洗浄効率を高めることができ、好ましい。
【0067】
本発明の中空糸膜モジュールを用いることで、膜の擦過を抑制することができ、ウイルス除去率が4log(99.99%)以上となるようにろ過運転することで、安全・安心な水質の透過液を得やすく、好ましい。ウイルス除去率を高めるためには、例えば、中空糸膜モジュールの液体の濁度を3~50NTUと比較的高くすることで、ウイルスが濁質に吸着されて除去率が向上しやすく、好ましい。すなわち、本発明の中空糸膜モジュールは、濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、被ろ過原液から分離した透過液のウイルス除去率が4log以上であり、高濁度液であっても高い除去率が得られ、好ましい。また、中空糸膜モジュールの液体のTOCを4~30mg/Lと比較的高くすることで、ウイルスが有機物に吸着されて除去率が向上しやすく、好ましい。中空糸膜モジュール内の最大濁度が10~100NTUとすることも、ウイルスが濁質に吸着されて除去率が向上しやすく、好ましい。中空糸膜モジュール内の最大TOCが15~50mg/Lとすることも、ウイルスが有機物に吸着されて除去率が向上しやすく、好ましい。
【0068】
従来の中空糸膜モジュールと異なり、表面弾性率が高い中空糸膜を用いることで、濁質やTOCが高い範囲で、長期間運転しやすく、ウイルス除去率が高めやすく、透過液水質の安全性が高めやすい。また、膜モジュールの前段に凝集沈殿等の前処理工程を含む液体処理プロセスにおいては、前処理における凝集剤の添加量を増やすことでも、ウイルス除去率を向上しやすい。なお、凝集剤を添加することなく、膜モジュールでのウイルス除去率を上げる手段として、精密ろ過膜または限外ろ過膜の比ろ過抵抗を高くすることも挙げられる。これはあえて精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせることにより、ウイルスの除去率を上げる方法である。比ろ過抵抗は式(2)で表される。
Rm=(TMP-TMP0)/(μ×J) ・・・ 式(2)
ここで、Rm:比ろ過抵抗[1/m]、TMP:運転時の膜間差圧[Pa]、TMP0:初期の膜間差圧[Pa]、μ:水の粘性係数[Pa・s]、J:膜ろ過流束[m/s]である。精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせて比ろ過抵抗を高くする方法としては、膜ろ過流束を上げる、ろ過時間を長くする(物理洗浄頻度を低減する)、物理洗浄の1回あたりの流量や時間を低減する、薬液逆流洗浄の頻度を低減する、薬液逆流洗浄の1回あたりの流量や時間を低減するなどが挙げられる。このような方法でウイルス除去率を上げることにより、凝集剤を添加する必要がないため、薬剤コストを低減しやすい。ウイルス除去率は4log以上が好ましく、5log以上がさらに好ましく、6log以上が特に好ましい。
【0069】
本発明の中空糸膜モジュールを用いることで、膜の擦過を抑制することができ、中空糸膜モジュールの透過液のSDI(Silt density index)が3以下となるように制御することで安全・安心な水質の透過液を得やすく、好ましい。すなわち、本発明の中空糸膜モジュールは、濁度3~50NTUの被ろ過原液をろ過し、分離した透過液のSDIが3以下であり、高濁度液であっても高いSDI低減率が得られ好ましい。透過液のSDIを低減するためには、例えば、中空糸膜モジュール内の液体の濁度を3~50NTUと比較的高くすることで、シルトが濁質に吸着されて除去率が向上しやすく、つまり透過液のSDIを低減しやすく、好ましい。また、中空糸膜モジュール内の液体のTOCを15~50mg/Lと比較的高くすることで、シルトが有機物に吸着されて除去率が向上しやすく、つまり透過液のSDIを低減しやすく、好ましい。中空糸膜モジュール内の最大濁度が10~100NTUとすることも、シルトが濁質に吸着されて除去率が向上しやすく、つまり透過液のSDIを低減しやすく、好ましい。中空糸膜モジュール内の最大TOCが15~50mg/Lとすることも、シルトが有機物に吸着されて除去率が向上しやすく、つまり透過液のSDIを低減しやすく、好ましい。従来の中空糸膜モジュールと異なり、表面弾性率が高い中空糸膜を用いることで、濁質やTOCが高い範囲で、長期間運転しやすく、シルト除去率が高めやすく、透過液水質の水質が高めやすい。
【0070】
また、膜モジュールの前段に凝集沈殿等の前処理工程を含む液体処理プロセスにおいては、前処理における凝集剤の添加量を増やすことでも、膜モジュール透過液のSDIを低減しやすい。なお、凝集剤を添加することなく、膜モジュールでのSDIを低減する手段として、精密ろ過膜または限外ろ過膜の比ろ過抵抗を高くすることも挙げられる。これはあえて精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせることにより、シルトの除去率を上げる方法である。精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせて比ろ過抵抗を高くする方法としては、膜ろ過流束を上げる、ろ過時間を長くする(物理洗浄頻度を低減する)、物理洗浄の1回あたりの流量や時間を低減する、薬液逆流洗浄の頻度を低減する、薬液逆流洗浄の1回あたりの流量や時間を低減するなどが挙げられる。このような方法で透過液のSDIを低減することにより、凝集剤を添加する必要がないため、薬剤コストを低減しやすい。透過液のSDIは3以下が好ましく、2以下がさらに好ましく、1以下が特に好ましい。
【0071】
SDIは、ASTM D4189-95(2002):Standard Test Method for Silt Density Index (SDI)of Waterに記載の方法で測定することができる。SDI値はFI値とも称され、対象水中の微細な濁質濃度を示し、0.45μmのフィルタにより対象水を0.2MPaで加圧ろ過し、ろ過開始から500mlのろ過水取得に要する時間T0と、その後同じ条件で更にろ過を継続し、15分間ろ過した時点から500mlのろ過水取得に要する時間T15から、(1-T0/T15)×100/15で表される値である。SDI値は濁質が全くない場合は0となり、最も汚れた水の場合は6.67となる。
【0072】
<ろ過装置>
上述の中空糸膜モジュールを用いたろ過運転を実行できるろ過装置であることが好ましい。具体的には、濁度やTOCが、上述の適切な範囲となることを想定し、また比ろ過抵抗を高められるポンプや配管仕様の選定、膜モジュール前処理工程の選定などが挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。まず、測定方法と評価方法を以下に示す。
【0074】
(i)表面弾性率の測定
KLM社製Nano Indenter SA2にダイヤモンド製Berkovich圧子を装着し、ISO14577に準拠した方法で圧縮負荷を印可-除荷試験を室温大気中で行った。乾燥した中空糸膜を長さ約1cmにカットし、1cm四方の金属板上に両面テープで固定し、測定に用いた。最大荷重を0.1mN、印可時間を15秒、最大荷重保持時間を30秒として大気中室温で測定し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする中空糸膜を測定した場合、ポアソン比は0.35として表面弾性率を算出した。N=5でそれぞれ別の場所を押し込み、押し込み深さ0.4μm~0.8μmの範囲で表面弾性率を算出した。異なる中空糸膜3本を用いて同様の測定を行い、全ての測定値の平均値を表面弾性率の測定結果とした。
【0075】
(ii)表面部の断面構造(断面空隙率、柱の太さの平均値、密度)
市販の凍結組織切片作成用包埋剤(ティシュー・テック社製;O.C.T.コンパウンド)を用いて包埋した中空糸膜を、クライオウルトラミクロトーム(Leica製;FC7)を用いて、-40℃で中空糸膜を表面と垂直な向きに100nmの厚みの切片を採取し、室温で12時間真空乾燥を行った。中空糸膜の最表面部の断面をTEM(日本電子社製;JEM-1400Plus)で観察し、画像を得て、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化した。二値化する際は、Threshold(二値化の閾値)で条件:Triangleを選択した。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各断面孔の面積を求めた。孔を100個以上カウントできる領域を観察し、細孔の総面積を求め、観察した膜の面積で割って断面空隙率を求めた。
【0076】
柱の太さは、上述の輪切り断面をTEMで観察した画像において、表面に対して垂直な線を書いたときに、該線と、孔と孔の間の領域が重なった長さとして求める。柱100個以上の柱太さを用いて平均値を算出した。柱の密度は、上述の輪切り断面をTEMで観察した画像において、表面に対して垂直な線を書いたときに、該線と、孔と孔の間の領域が重なった本数を、該線の長さで割って算出した。
【0077】
(iii)表面部の表面構造(孔径、孔数)
中空糸膜を25℃で12時間、真空乾燥した後、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;S-5500)を用いて、3万~10万倍の倍率で観察した。中空糸膜の表面を観察したSEMで得た画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化した。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択した。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、表面孔の数と、各表面孔の面積を求め、各表面孔を円と仮定して算出した直径を表面孔径とした。表面孔径の平均値を求める際は、孔千個以上の表面孔径を平均して求めた。
【0078】
(iv)濁度
ろ過原液の濁度は、HACH社製携帯用濁度計2100Qを用いてN=5で測定し、その平均値を用いた。
【0079】
(v)TOC
ろ過原液のTOCは、島津社製TOC-V CSH/ASI-V/TNM-1を用いて測定した。
【0080】
(vi)摩耗試験
乾燥した中空糸膜を長さ約1cmにカットし、1cm四方の金属板上に両面テープで固定した。測定には、Hysitron社製Triboindenter TI950にBerkovich圧子を装着して室温大気中で行った。所定の接触荷重で20μm/sの走査速度で5μm四方の領域について圧子を
図2のように走査して摩耗を行った。その後、非摩耗領域と摩耗領域を含む20μm四方の領域を、2μNの接触荷重で40μm/sの走査速度で走査して表面凹凸像を取得した。非摩耗領域の最低高さと摩耗領域の最低高さの差を、最大摩耗深さとして扱った。摩耗時の接触荷重に対して、最大摩耗深さが小さい方が、擦過を抑制できていると判定できる。
【0081】
(vii)物理洗浄(空洗)試験
内径200mmの筒状ケース内に、外径1.4mmの中空糸膜10000本を装填してエポキシ樹脂で両端をポッティングし、充填率49%の中空糸膜モジュールを作成した。なお、両端のポッティング間距離Yと、中空糸膜の平均長さXとの間で、(X-Y)/X×100=10となるように中空糸膜をケース内に充填した。中空糸膜モジュール内に、大阪ガスケミカル製水処理用活性炭商品名「白鷲C」を4000mg/Lの懸濁液を充填した。中空糸膜モジュールを筒状ケースの長手方向が上下となるように設置し、上部端部近傍の筒状ケースの側面に在るサイドノズルを開放した状態で、中空糸膜モジュールの下部から、空気を100NL/minで導入して空洗した。24時間経過後に、中空糸膜を切り出して重量平均分子量が4万Daの除去率を評価した。硬い濁質である活性炭をモデルとし、空洗による擦過の加速評価であり、性能変動が小さい方が擦過を抑制できていると判定できる。
【0082】
(viii)4万Daデキストランの除去率
デキストラン(Aldrich社製;重量平均分子量4万Da)を1000ppm蒸留水に混合して、デキストラン水溶液を調製した。調製したデキストラン水溶液を25℃で中空糸膜の外側に膜間差圧10kPaとなるように供給して、クロスフロー線速度1.0m/secでクロスフローろ過し、膜面積当たり1.3g/m2の透過液を廃棄した後、2.0g/m2の透過液をサンプリングした。透過液をサンプリングしたタイミングで中空糸膜に供給したデキストラン水溶液(原液)をサンプリングした。透過液と原液の屈折率を測定し、式(3)に基づいて除去率:T(%)を求めた。
T={(原液の屈折率)-(透過液の屈折率)}/(原液の屈折率)×100 ・・・・式(3)
(ix)中空糸膜の純水透水性
中空糸膜4本からなる有効長さ200mmの小型モジュールを作製した。中空糸膜外側に、温度25℃、ろ過差圧10kPaの条件で、1時間にわたって蒸留水を送液して全量ろ過し、得られた透過水量(m3)を測定し、単位時間(h)及び単位膜面積(m2)当たりの数値に換算し、さらに圧力(50kPa)換算して算出した。
【0083】
(x)ウイルス除去率
試験用のウイルスであるBacteriophage MS-2 ATCC 15597-B1(MS-2ファージ、粒径約25nm)をろ過原液に添加し、MS-2ファージを約1.0×107PFU/mLの濃度で含有する試験原液を調製した。ろ過原液は化学工場の廃水に大阪ガスケミカル製水処理用活性炭商品名「白鷲C」を5mg/Lとなるように添加した液(TOC;20mg/L、濁度;17NTU)を用いた。この試験原液を(xi)で用いる中空糸膜モジュールにより温度25℃、濾過差圧100kPaの条件で濾過し、膜面積当たり200mL/m2ろ過後の透過液をサンプリングした。Overlay agar assay、Standard Method 9211-D(APHA、1998、Standard methods for the examination of water and wastewater, 18th ed.)の方法に基づいて、希釈した原液及び透過液1mLをそれぞれ検定用シャーレに接種し、プラークを計数することによって、濾過試験前後のMS-2ファージの濃度を求めた。これらの濃度を用い、ウイルス除去率(log):TVを下記式(4)に従い算出した。安全性が高く、良好な除去率の目安は3.0以上である。
【0084】
ウイルス除去率(log)=-log10{(濾液中のMS-2ファージ濃度)/(原液中のMS-2ファージ濃度}・・・式(4)
(xi)ろ過試験
内径200mmの筒状ケース内に、外径1.4mmの中空糸膜10000本を装填してエポキシ樹脂で両端をポッティングし、充填率49%の中空糸膜モジュールを作成した。なお、両端のポッティング間距離Yと、中空糸膜の平均長さXとの間で、(X-Y)/X×100=10となるように中空糸膜をケース内に充填した。得られた中空糸膜モジュールを用いて、以下の試験を行った。湖水(日本国琵琶湖の淡水)(TOC;5mg/L、濁度;5NTU)または、化学工場の廃水に大阪ガスケミカル製水処理用活性炭「白鷲C」を5mg/Lを添加した液(TOC;20mg/L、濁度;17NTU)を被ろ過原液として、25℃で中空糸膜モジュールに供給した。膜間差圧100kPaとなるように供給して全量ろ過し、透過液量を測定した。透過液量が膜面積当たり28L/m2となった際に、膜間差圧150kPaとなるように逆ろ過透過量が3L/m2となるまで逆ろ過を実施した。逆ろ過と同時に、中空糸膜外側に膜面線速度0.3m/sの流量で、ろ過原液と空気の混合流を流す空洗操作を行い、中空糸膜モジュール内のろ過原液を排出した。ろ過と逆ろ過および空洗を繰り返し行い、ろ過開始直後のろ過流束(F1)と、単位膜面積あたりの透過液量が600L/m2以上となった後のろ過開始直後のろ過流束(F2)とにおいて、ろ過流束の比(F2/F1)を算出し、ろ過流束の初期比とした。ろ過流束の初期比は1に近いほど初期の特性が維持されており、長時間の使用後も中空糸膜は詰まりにくく、良好なろ過が維持できる目安は0.50以上である。
【0085】
(実施例1)
中空糸膜は以下の製法で得た支持膜を含む複合中空糸膜を用いた。38質量%のPVDF(クレハ社製;KF1300、重量平均分子量35万Da)と、62質量%のγ-ブチロラクトンを混合し、160℃で溶解して、支持膜原液を調製した。この支持膜原液を、85質量%γ-ブチロラクトン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら二重管口金から吐出した。吐出した支持膜原液を、口金の30mm下方に設置した温度20℃の85質量%γ-ブチロラクトン水溶液が入った冷却浴中で凝固させて、球状構造を有する中空糸状の支持膜を作製した。支持膜は外径1300μm、内径800μmであった。
【0086】
12質量%の直鎖状のPVDF1(アルケマ社製;“Kynar”(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.8質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、2.4質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、68.8質量%のN-メチル-2-ピロリドン(以降、「NMP」)、12質量%の2-ピロリドン(以降、「2P」)を混合して120℃で4時間撹拌して高分子溶液を調製した。高分子溶液中の高分子の自己拡散係数は1.0×10-11m2/sと小さかった。
【0087】
次いで、上記の中空糸状の支持膜の外表面に、50℃の高分子溶液を、10m/minで均一に塗布した(厚み60μm)。高分子溶液を塗布した支持膜を10m/minで引取り、塗布から1秒後に、25℃の蒸留水の凝固浴に10秒浸漬するように通過させて凝固させ、外径1.4mmで、外側に三次元網目構造を有する複合中空糸膜を形成した。中空糸膜外側の表面弾性率は310MPaと高かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は36%と低かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。中空糸膜の外表面部の断面をTEMで観察した画像を
図3に示す。中空糸膜の純水透水性は0.4m
3/m
2/h/50kPaだった。外表面の孔数を外表面の平均孔径で除したα値は62と高かった。
【0088】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(xi)ろ過試験を行った。ろ過原液として湖水を用いて評価した結果を表1に示す。ろ過量の比(F2/F1)は0.7と良好であった。また、ろ過試験後の除去率はろ過試験前と同等であった。
【0089】
(実施例2)
実施例1と同じ中空糸膜モジュールを用いて(xi)ろ過試験を行った。工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いて評価した結果を表1に示す。ろ過量の比(F2/F1)は0.6と良好であった。また、ろ過試験後の除去率は、ろ過試験前と比べて向上した。比較的高い濁度およびTOCで、活性炭を添加したろ過原液を、表面弾性率が高い膜を用いた中空糸膜モジュールに供給した結果、高い除去率を示した。
【0090】
(比較例1)
実施例1において、高分子溶液の組成を12質量%のPVDF1(アルケマ社製;“Kynar”(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.0質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、4.0質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、80.0質量%のNMPとし、凝固浴の温度を40℃とした以外は、同様に製膜して複合中空糸膜を得た。高分子溶液中の高分子の自己拡散係数は1.8×10-11m2/sと大きかった。得られた中空糸膜外側の表面弾性率は150MPaと低かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は57%と高かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。外表面の孔数を外表面の平均孔径で除したα値は13と低かった。
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(xi)ろ過試験を行った。工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いて評価した結果を表1に示す。ろ過量の比(F2/F1)は0.4と低かった。ろ過試験前の除去率が55%と低く、ろ過試験後の除去率は、ろ過試験前と比べて更に低下した。比較的高い濁度およびTOCで、活性炭を添加したろ過原液を、表面弾性率が低い膜を用いた中空糸膜モジュールに供給した結果、除去率が低下した。
【0091】
(比較例2)
実施例1において、高分子溶液の組成を12質量%の分岐状のPVDF2(ソルベイスペシャリティケミカル製;Solef9009)、7質量%のセルローストリアセテート(株式会社ダイセル製;LT-35)、81質量%のNMPとし、凝固浴の温度を15℃とした以外は、同様に製膜して複合中空糸膜を得た。中空糸膜外側の表面弾性率は98MPaと低かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は59%と高かった。また、中空糸膜の外表面部を含む領域にマクロボイドが多量に存在した。外表面の孔数を外表面の平均孔径で除したα値は6と低かった。
【0092】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(xi)ろ過試験を行った。工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いて評価した結果を表1に示す。ろ過量の比(F2/F1)は0.4と低かった。ろ過試験前の除去率は71%と高かったが、ろ過試験後の除去率は、ろ過試験前と比べて低下した。比較的高い濁度およびTOCで、活性炭を添加したろ過原液を、表面弾性率が低く、マクロボイドが多い膜を用いた中空糸膜モジュールに供給した結果、除去率が低下した。
【0093】
(実施例3)
実施例1得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表2に示す。物理洗浄後の膜の4万Daデキストランの除去率:Tの変化は小さく、物理洗浄後においても高い除去性が維持されていた。
【0094】
(実施例4)
実施例1において、高分子溶液の組成を12質量%のPVDF1(アルケマ社製;“Kynar”(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.8質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、2.4質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、60.6質量%のNMP、20.2質量%のε-カプロラクタム(以降、「CL」)とし、凝固浴の温度を40℃とした以外は同様にして複合中空糸膜を形成した。中空糸膜外側の表面弾性率は、253MPaと高かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は38%と低かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。中空糸膜の純水透水性は0.3m3/m2/h/50kPaだった。
【0095】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表2に示す。物理洗浄後の膜の4万Daデキストランの除去率:Tの変化は小さく、物理洗浄後においても高い除去性が維持されていた。
【0096】
(実施例5)
実施例4において、高分子溶液の組成を12質量%のPVDF1(アルケマ社製;“Kynar”(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.8質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、2.4質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、52.5質量%のNMP、28.3質量%のCLとした以外は同様にして複合中空糸膜を形成した。中空糸膜外側の表面弾性率は、294MPaと高かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は35%と低かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。中空糸膜の純水透水性は0.2m3/m2/h/50kPaだった。
【0097】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表2に示す。物理洗浄後の膜の4万Daデキストランの除去率:Tの変化は小さく、物理洗浄後においても高い除去性が維持されていた。
【0098】
(実施例6)
実際例4において、高分子溶液の組成を12質量%のPVDF1(アルケマ社製;“Kynar”(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.8質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、2.4質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、44.4質量%のNMP、36.4質量%のCLとした以外は同様にして複合中空糸膜を形成した。中空糸膜外側の表面弾性率は、352MPaと高かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は32%と低かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。中空糸膜の純水透水性は0.2m3/m2/h/50kPaだった。
【0099】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表2に示す。物理洗浄後の膜の4万Daデキストランの除去率:Tの変化は小さく、物理洗浄後においても高い除去性が維持されていた。
【0100】
(比較例3)
比較例1得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表3に示す。物理洗浄試験前の除去率が55%と低く、物理洗浄試験後の除去率は、物理洗浄試験前と比べて更に低下した。
【0101】
(比較例4)
比較例2得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表3に示す。物理洗浄試験前の除去率は70%と高かったが、物理洗浄試験後の除去率は、物理洗浄試験前と比べて低下した。
【0102】
(比較例5)
実施例1における中空糸状の支持膜を使用したが、支持膜の外表面に、本発明の中空糸膜モジュールの外表面を形成しなかった。中空糸膜外側の表面弾性率は、130MPaと低かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は62%と高かった。
【0103】
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(vii)物理洗浄(空洗)試験を行った。評価結果を表3に示す。物理洗浄試験前の除去率が20%と低く、物理洗浄試験後の除去率は、物理洗浄試験前と比べて更に低下した。
【0104】
(実施例7)
実施例1で得られた中空糸膜を用いて(vi)摩耗試験を行った結果を
図6に示す。接触荷重30μN時の最大摩耗深さは150nmと小さく、中空糸膜外表面の擦過が抑制されていることが分かった。
【0105】
(比較例6)
比較例1得られた中空糸膜を用いて(vi)摩耗試験を行った結果を
図6に示す。実施例7と比べて、いずれの接触荷重で摩耗した場合も、摩耗深さが大きく、擦過されやすいことが分かった。
【0106】
(実施例8)
実施例1で得られた中空糸膜モジュールを用いて、(xi)工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いたろ過試験の前後で、(x)ウイルス除去率:TVを評価した結果、ろ過試験前後共に4.5であった。比較的高い濁度およびTOCで、活性炭を添加したろ過原液を処理した後であっても、高濃度のウイルスを含むろ過原液に対しても長時間高い除去率を示した。
【0107】
(比較例7)
比較例1で得られた中空糸膜モジュールを用いて、(xi)工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いたろ過試験の前後で、(x)に記載のウイルス除去率:TVを評価した結果、ろ過試験前は3.6と高かったが、ろ過試験後は2.8に低下した。比較的高い濁度およびTOCで、活性炭を添加したろ過原液を処理した後には、高濃度のウイルスを含むろ過原液に対して長時間高い除去率を維持することはできなかった。これは、中空糸膜モジュールの中空糸膜の表面弾性率が低かったため、外表面が擦過されたものと推定される。
【0108】
(実施例9)
比較例1において、凝固浴の温度を6℃とした以外は、同様に製膜して複合中空糸膜を得た。高分子溶液中の高分子の自己拡散係数は1.8×10-11m2/sと大きかった。中空糸膜外側の表面弾性率は、458MPaと高かった。中空糸膜は外側表面から厚み5μmまでの外表面部の断面空隙率は3%と低かった。また、中空糸膜はマクロボイドを含まなかった。外表面の孔数は78個/μm2と少なく、外表面の開口率は0.5%と低かった。外表面の平均孔径は8.0nmと小さかった。外表面の孔数を外表面の平均孔径で除したα値は10と低かった。
得られた中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを作成し、(xi)ろ過試験を行った。工場廃水に活性炭を添加したろ過原液を用いて評価した結果、ろ過量の比(F2/F1)は0.4と低かった。ろ過試験前の除去率が70%と高く、ろ過試験後の除去率もろ過試験前と比べて変化がなく、高い除去率を維持した。
【0109】
【0110】
【0111】
【符号の説明】
【0112】
100 中空糸膜モジュール
110 第1端
120 第2端
1 筒状ケース
2 中空糸膜
3 第1ポッティング部
4 第2ポッティング部
4A 貫通孔
4B クリアランス
5 上部キャップ
6 下部キャップ
7 原液流入口
8 透過液出口
9 原液出口
10 整流筒
11 整流孔
12 第2ポッティング部ケース
13 中空糸膜外表面の摩耗試験における非摩耗領域
14 中空糸膜外表面の摩耗試験における摩耗領域
101 外表面
102 外表面部
103 中空糸膜の外表面の線
104 外表面に対して垂直な線
105 柱太さ
300 高分子溶液
301 高分子を多く含む相
302 溶媒を多く含む相
【要約】
高濁度液をろ過する際、ろ過原液と中空糸膜が接触することで、中空糸膜の表面が擦過され、中空糸膜の除去性能が低下してしまう問題に対し、除去率の安定性が高い中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。筒状部材の高さ方向に第1端と第2端とを有する筒状ケースと、前記筒状ケース内の第1端と第2端の間に収容される複数の中空糸膜と、前記筒状ケースに被ろ過原液を流入させる原液流入口と、中空糸膜を透過した透過液を前記筒状ケースから流出する透過液出口を少なくとも有し、前記原液流入口と前記複数の中空糸膜の外表面が連通されており、前記筒状ケースの第1端側に位置する前記複数の中空糸膜の端部おいて、複数の中空部を開口させて、前記複数の中空糸膜の束を接着する第1ポッティング部とを備え、前記筒状ケースの高さ方向に垂直な断面において、前記筒状ケース内の断面積を100%としたときに、前記複数の中空糸膜とその中空部の占める面積の割合(以降、充填率)が40~80%であり、前記複数の中空糸膜外側の表面弾性率が200~500MPaである中空糸膜モジュールを提供する。