(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】リング状部材の製造方法、軸受の製造方法、機械部品の製造方法、車両の製造方法、機械装置の製造方法、リング状部材、軸受要素、軸受、機械装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
B21K 1/04 20060101AFI20240910BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20240910BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20240910BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B21K1/04
B21J5/02 D
B21J5/02 Z
B21J5/06 B
B21J5/06 C
F16C33/64
(21)【出願番号】P 2024514483
(86)(22)【出願日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2023039111
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2022204298
(32)【優先日】2022-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】森 浩平
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-277614(JP,A)
【文献】特開2012-045577(JP,A)
【文献】特表2018-530432(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114406604(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/04
B21J 5/02
B21J 5/06
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースを用意する第1工程と、
前記ワークピースに第1部材を押し付けて軸方向の深さを有する窪みを前記ワークピースに形成する第2工程と、
第2部材を用いて前記ワークピースの前記窪みの底部を打ち抜く第3工程であり、開口を囲む周壁を形成する、前記第3工程と、
前記ワークピースと第3部材との間の相対移動に伴って前記周壁を変形させる第4工程であり、前記周壁の軸長さを拡大することを含む、前記第4工程と、
を備え、
前記ワークピースは、前記軸方向の一端面である第1軸面と、前記軸方向の別の端面である第2軸面と、を有し、
前記第4工程において、前記ワークピースの前記第1軸面が第1支持部材の支持面に支持されるとともに、前記第2軸面の側から前記第3部材が前記ワークピースに挿入され、前記第3部材の先端と前記第1支持部材の前記支持面とが前記軸方向に互いにすれ違い、
前記ワークピースと第4部材との間の相対移動に伴って、前記ワークピースの径方向内側をシェービングするとともに、前記第4工程で生じたバリを除去する第5工程をさらに備え、
前記第5工程において、前記ワークピースの前記第2軸面が第2支持部材の支持面に支持されるとともに、前記第1軸面の側から前記第4部材が前記ワークピースに挿入される、
リング状部材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、前記ワークピースにおける前記窪みの周辺部の軸長さを拡大すること、を含む、請求項1に記載のリング状部材の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程は、前記周壁の外径の拡大を抑制した状態で、前記第3部材を前記周壁の内面に押し付けて前記周壁の内径を拡大することを含む、請求項1に記載のリング状部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える、軸受の製造方法。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれかに記載の製造方法によって機械部品を製造する工程を備える、機械部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から
3のいずれかに記載の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える、機械装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれかに記載の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える、車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リング状部材の製造方法に関する。
本願は、2022年12月21日に出願された特願2022-204298号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の軌道輪の製造方法として、金属製の素材に鍛造加工などを施して、軌道輪の大まかな形状を有するリング状部材(軸受要素)を得る工程と、該リング状部材に切削加工、研削加工などの仕上加工を施して、完成形状を有する軌道輪を得る工程とを備える方法が知られている。なお、これらの工程における加工は、いずれも冷間での加工である。
【0003】
リング状部材を得る工程は、たとえば、円板状の第1素材に、鍛造加工である後方押し出し加工を施して、径方向内側部分に軸方向一方側に開口する凹部と、該凹部の軸方向他方側にある底部とを有する有底円筒状の第2素材を得る工程と、第2素材の底部を打ち抜いて、内周面を有するリング状部材を得る工程とを備える。
【0004】
このようにして得られるリング状部材の内径は、軌道輪を得るための仕上加工の加工代を少なく抑える観点から、軌道輪の内径に近い大きさであることが望まれる。すなわち、リング状部材を得る工程において、第2素材の凹部の内径は、軌道輪の内径に近い大きさであることが望まれる。このような要望に応える場合には、軌道輪の外径と内径との径差が小さくなるほど、凹部を形成する際のワーク(被加工物)の断面減少率が大きくなる。
【0005】
特許第3422941号公報には、高硬度マルテンサイトや金型用鋼などの、通常は冷間加工できない高硬度かつ低延性の材料からなるリング状部材の製造方法が記載されている。具体的には、該公報には、円板状の第1素材に、鍛造加工である後方押し出し加工を施して、径方向内側部分に軸方向一方側に開口する凹部と、該凹部の軸方向他方側にある底部とを有する有底円筒状の第2素材を得る工程と、第2素材の凹部の内径を押し出し加工により拡げて、第2素材の凹部の内径よりも大きい内径を有する凹部を備えた第3素材を得る工程と、第3素材の底部を、前記押し出し加工で形成された余肉と一緒に打ち抜いて、内周面を有するリング状部材を得る工程とを備えた方法が記載されている。
【0006】
特開2009-297731号公報には、円筒状の第1素材の径方向内側に、軸方向両側から1対のパンチを押し込むことにより、第1素材の軸方向両側部分の内径を拡げると同時に、第1素材の周方向長さおよび軸方向寸法を増大させて、リング状部材を得る工程を備える、リング状部材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3422941号公報
【文献】特開2009-297731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許第3422941号公報に記載された従来方法は、通常は冷間加工できない高硬度かつ低延性の材料を対象とするものであり、かつ、ワークの断面減少率が小さく設定されている。該従来方法を冷間での鍛造加工に適用し、さらに、前述のように、ワークの断面減少率を大きくすることを企図した場合、その分、成形荷重が大きくなる。その結果、たとえば、高出力のプレス機が必要になる、金型の耐久寿命が短くなる、ワークに割れなどの損傷が発生しやすくなるといった不都合が生じる。
【0009】
さらに、特許第3422941号公報に記載された従来方法では、押し出し加工によって凹部の内径を拡げる、具体的には、凹部の径方向内側に押し込んだパンチにより、凹部の内周面の表層部に存在していた金属材料を凹部の底部側に移動させることで、凹部の内径を拡げる。この際の金属材料の流動方向は、パンチの押し込み方向のみとなる。そして、凹部の底部側に移動した金属材料は、そのすべてが余肉となり、凹部の底部と一緒に打ち抜かれてスクラップとなる。このため、材料の歩留まりが悪くなる。さらに、厚肉となった底部を打ち抜くには大荷重が必要になる。
【0010】
特開2009-297731号公報に記載された従来方法では、円筒状の第1素材の径方向内側に、軸方向両側から1対のパンチを押し込むことにより、第1素材の軸方向両側部分の内径を拡げる際に、第1素材を構成する金属材料は、それぞれのパンチの押し込み方向に対する逆方向にも流動して、ワークの軸方向寸法の増大に役立てられる。したがって、その分、材料の歩留まりをよくすることができる。
【0011】
しかしながら、特開2009-297731号公報に記載された従来方法では、1対のパンチを押し込む前の第1素材の外周面と、その周囲に配置される金型の内周面との間に、径方向の隙間が設けられている。このため、1対のパンチを押し込むことに伴って第1素材の外周面が拡径し、ワークに大きな周方向引っ張り応力が作用する。このため、ワークに割れなどの損傷が発生しやすくなる。
【0012】
本発明の態様は、製造コストの低減、及び/又は製品の品質向上に有利なリング状部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様におけるリング状部材の製造方法は、ワークピースを用意する工程と、前記ワークピースに第1部材を押し付けて軸方向の深さを有する窪みを前記ワークピースに形成する工程と、第2部材を用いて前記ワークピースの前記窪みの底部を打ち抜く工程であり、開口を囲む周壁を形成する、前記工程と、前記ワークピースと第3部材との間の相対移動に伴って前記周壁を変形させる工程であり、前記周壁の軸長さを拡大することを含む、前記工程と、を備える。
【0014】
本発明の一態様における軸受の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える。
【0015】
本発明の一態様における機械部品の製造方法は、上記の製造方法によって機械部品を製造する工程を備える。
【0016】
本発明の一態様における機械装置の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える。
【0017】
本発明の一態様における車両の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備える。
【0018】
本発明の一態様におけるリング状部材は、上記の製造方法によって製造された痕跡を有する。
【0019】
本発明の一態様における軸受要素は、リング形状を有する本体を備え、前記本体は、軸方向の一端面である第1軸面と、前記軸方向の別の端面である第2軸面と、内周面と、外周面と、前記内周面に設けられた軌道面と、前記外周面と前記第1軸面との間の第1面取り部と、前記外周面と前記第2軸面との間の第2面取り部と、を有する。前記本体のメタルフローは、前記第1面取り部の表面近傍において前記第1面取り部に沿って連続している第1パターンと、前記第2面取り部の表面近傍において前記第2面取り部に沿って連続している第2パターンと、前記外周面の近傍において前記外周面に沿って連続している第3パターンと、前記第1軸面の近傍において前記第1軸面に沿って連続している第4パターンと、前記第2軸面の近傍において前記第2軸面に沿って連続している第5パターンと、前記第1軸面に近い前記内周面の近傍における第6パターンと、前記第2軸面に近い前記内周面の近傍における第7パターンと、を有する。前記第6パターンは、前記第1軸面に向かって凸形状を有する複数の線要素を含む。前記第7パターンは、前記内周面に沿って連続している複数の線要素を含む。前記第7パターンにおける複数の線要素の間隔は、前記第6パターンにおける複数の線要素の間隔に比べて狭い。
【0020】
本発明の一態様における軸受は、上記の軸受要素を備える。
【0021】
本発明の一態様における機械装置は、上記の軸受を備える。
【0022】
本発明の一態様における車両は、上記の軸受を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明の態様によれば製造コストの低減及び/又は製品の品質向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、転がり軸受の一例を示す部分切断斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施例のリング状部材の製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3】
図3は、第2実施例のリング状部材の製造方法についての、
図1の(c)部に相当する図である。
【
図4】
図4は、第3実施例のリング状部材の製造方法の3工程を順番に示す断面図である。
【
図5】
図5は、第4実施例のリング状部材の製造方法の1工程を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第5実施例のリング状部材の製造方法の1工程を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第6実施例のリング状部材の製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図8】
図8は、第7実施例のリング状部材の製造方法の2工程を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第8実施例のリング状部材の製造方法の1工程を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第9実施例のリング状部材の製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図11】
図11は、軸受要素の軸方向断面におけるメタルフローの一例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、軸受要素(外輪)の軸方向断面におけるメタルフローの一例を示す模式図である。
【
図13】
図13は、軸受が適用されたモータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図13を参照して説明する。括弧内の符号は後述する実施例の説明に示す符号に対応する。
【0026】
一実施形態において、リング状部材の製造方法は、第1工程(初期準備工程)と、第2工程(窪み形成工程)と、第3工程(打ち抜き工程)と、第4工程(周壁変形工程)と、を備える。追加的に、リング状部材の製造方法は、上記工程に加えて別の工程を備えることができる。この製造方法によれば、成形荷重が小さく抑えられるとともに、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0027】
第1工程(初期準備工程)は、ワークピース(Wp)を用意することを含む。第1工程において、所定形状を有するワークピース(Wp)が供給される、又は、第1工程での加工によって所定形状のワークピース(Wp)が得られる。第1工程で用意されたワークピース(Wp)が次の工程で用いられる。
【0028】
一例において、第1工程で用意されるワークピース(Wp)は、第1軸面と、第2軸面と、外周面と、を含む略円柱形状(略円板形状)を有する。第2軸面は、第1軸面の反対側の面である。例えば、ワークピース(Wp)において、第1軸面と第2軸面との間の軸長さ(厚み、高さ)に比べて、外径(径方向の幅)が大きく設定される。ワークピース(Wp)の軸長さをAL1、外径をDM1とするとき、AL1/DM1は、例えば、約1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、又は1/10以下に設定できる。上記数値は一例であって別の例において他の数値が適用可能である。代替的及び/又は追加的に、第1工程において、上記形状の変形形状又は上記以外の形状を有するワークピースを用意することができる。
【0029】
一例において、第1工程は、所定形状のワークピース(Wp)を得るための初期段階加工を含むことができる。例えば、初期段階加工は、素材の軸長さ(高さ)を減少させかつ外径(径方向の幅)を拡大させる加圧処理を含む。
【0030】
一例において、パンチングツール(PT1)を用いて、略円柱形状(略円板形状)を変形した形状、又は略円柱形状とは異なる形状を有するワークピース(Wp)が形成される。例えば、第1工程で得られるワークピース(Wp)は、径方向における所定の領域に設けられた厚み変化(容量変化)を有することができる。厚み変化は、所定深さを有しかつ周方向に延在する溝、及び/又は、所定高さを有しかつ周方向に延在する凸部を含むことができる。一例において、第1工程で得られるワークピース(Wp)は、例えば、最終的なリング状部材の形態パラメータ及び他の工程での加工パラメータ等に基づいて、パンチングツール(PT1、)が設計され、ワークピース(Wp)の初期段階の形状が設定される。こうした初期段階での形状制御により、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0031】
第2工程(窪み形成工程)は、ワークピース(Wp)に第1部材(14a、13b、14n)を押し付けて軸方向の深さを有する窪み(16、16A、16b)をワークピース(Wp)に形成することを含む。一例において、第2工程は、第1部材(14a、13b、14n)を含むパンチングツール(PT2)を用いた、後方押し出し加工又は前方押し出し加工を含むことができる。他の例において、後方押し出し加工及び前方押し出し加工を変形した手法又は別の手法が適用され得る。
【0032】
一例において、パンチングツール(PT2)は、パンチユニットとダイユニットとを有し、パンチとダイとの間で軸方向に相対移動可能に構成される。パンチユニット及びダイユニットの一方に第1部材(14a、13b、14n)が備えられ、他方に支持部材(13、14g、12n)が備えられる。第1部材(14a、13b、14n)と支持部材(13、14g、12n)との間の軸方向の相対移動において、支持部材(13、14g、12n)によってワークピース(Wp)が支持され、ワークピース(Wp)と第1部材(14a、13b、14n)との間で相対移動が行われる。第1部材(14a、13b、14n)の先端部分がワークピース(Wp)に押し付けられ、ワークピース(Wp)に窪み(16、16A、16B)が形成される。第1部材(14a、13b、14n)の先端部分の外径は、最終的なリング状部材の内径に比べて小さく設定される。
【0033】
第2工程で窪み(16、16A、16B)が形成されたワークピース(Wp)は、窪み(16、16A、16B)の底部(17、17A、17B)と周辺部(15b、15A、15B)とを有する。窪み(16、16A、16B)の底部(17、17A、17B)は、比較的径方向内方に設けられ、周辺部(15b、15A、15B)は、比較的径方向外方に設けられる。窪み(16、16A、16B)の内径は、最終的なリング状部材の内径に比べて小さく設定される。周辺部(15b、15A、15B)の軸長さ(周辺部の厚み、周辺部の第1軸端面と第2軸端面との間の軸方向の距離)は、底部(17、17A、17B)の軸長さ(底部の厚み、底部の一面と他面との間の軸方向の距離)に比べて大きく設定される。例えば、周辺部(15b、15A、15B)の軸長さをAL2、底部(17、17A、17B)の軸長さをAL3、とするとき、AL2/AL3は、約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、又は30以上に設定できる。上記数値は一例であって別の例において他の数値が適用可能である。
【0034】
第3工程(打ち抜き工程)は、第2部材(14b、14p)を用いてワークピース(Wp)の窪み(16、16A、16B)の底部(17、17A、17B)を打ち抜くことを含む。第3工程では、ワークピース(Wp)において、開口(18z)を囲む周壁(Cw)が形成される。
【0035】
一例において、第3工程は、第2部材(14b、14p)を含むパンチングツール(PT3)を用いた、打ち抜き加工を含むことができる。他の例において、打ち抜き加工を変形した手法又は別の手法が適用され得る。
【0036】
一例において、パンチングツール(PT3)は、パンチユニットとダイユニットとを有し、パンチとダイとの間で軸方向に相対移動可能に構成される。パンチユニット及びダイユニットの一方に第2部材(14b、14p)が備えられ、他方に支持部材(19、12p)が備えられる。第2部材(14b、14p)と支持部材(19、12p)との間の軸方向の相対移動において、支持部材(19、12p)によってワークピース(Wp)が支持され、ワークピース(Wp)と第2部材(14b、14p)との間で相対移動が行われる。第2部材(14b、14p)の先端によってワークピース(Wp)の窪みの底部(17、17A、17B)が打ち抜かれる。第2部材(14b、14p)の先端部分の外径は、最終的なリング状部材の内径に比べて小さく設定される。
【0037】
追加的に、第3工程は、第2部材(14p)を用いた打ち抜き動作に伴って、第2部材(14p)によってワークピース(Wp)を整形することを含む。一例において、第2部材(14p)は、先端から軸方向に離れた位置に設けられた整形部(73)を有することができる。例えば、整形部(73)は、第2部材(14p)に設けられた、傾斜面、段差面、及び/又は湾曲面を有することができる。整形部(73)は、窪みの底部(17B)を打ち抜く動作に伴って、ワークピース(Wp)に所定の形状(輪郭)を与える、及び/又は、ワークピース(Wp)の形状を整える、ために設けられる。例えば、第3工程の加工後のワークピース(Wp)は、傾斜面、段差面、及び/又は湾曲面を有することができる。最終的なリング状部材の形態パラメータ及び他の工程での加工パラメータ等に基づいて、パンチングツール(PT3)が設計され、打ち抜き加工後のワークピース(Wp)の形状が設定される。こうした形状制御により、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0038】
第4工程(周壁変形工程)は、ワークピース(Wp)と第3部材(14c、14s)との間の相対移動に伴ってワークピース(Wp)の周壁(Cw)を変形させることを含む。第4工程において、周壁(Cw)の変形は、周壁(Cw)の軸長さの拡大を含む。
【0039】
一例において、第4工程では、パンチングツール(PT4)が用いられる。他の例において、パンチングツールを用いない手法が適用され得る。一例において、パンチングツール(PT4)は、パンチユニットとダイユニットとを有し、パンチとダイとの間で軸方向に相対移動可能に構成される。パンチユニット及びダイユニットの一方に第3部材(14c、14s)が備えられ、他方に支持部材(19a、12s)が備えられる。第3部材(14c、14s)と支持部材(19a、12s)との間の相対移動において、支持部材(19a、12s)によってワークピース(Wp)が支持され、ワークピース(Wp)と第3部材(14c、14s)との間で相対移動が行われる。第3部材(14c、14s)は、ワークピース(Wp)の内周面に接する加工部(40x、40y)を有する。支持部材(19、12s)は、ワークピース(Wp)の軸面を支持する支持面(19z、)を有する。例えば、加工部(40x、40y)は、他の部分に比べて外径が大きい大外径部(14x、14y)と、大外径部(14x、14y)に向かって外径が徐々に拡大する遷移部(21、21y)とを有することができる。第3部材(14c、14s)の加工部(40x、40y)とダイユニットの内周面(12x)との間の径方向の隙間が、加工前の周壁(Cw)の厚みに比べて小さく設定される。
【0040】
一例において、第4工程は、第3部材(14c、14s)を周壁(Cw)の内周面に押し付けて周壁(Cw)の内径を拡大することを含む。例えば、ワークピース(Wp)と第3部材(14c、14s)との間の軸方向の相対移動において、周壁(Cw)の内周面に第3部材(14c、14s)の加工部(40x、40y)が押し付けられる。周壁(Cw)の内周面上での第3部材(14c、14s)の移動に伴って、周壁(Cw)の材料が流動する。材料の流動に基づき、周壁(Cw)の内径が拡大するとともに周壁(Cw)の軸長さが拡大する。
【0041】
一例において、第4工程は、周壁(Cw)の変形時、周壁(Cw)の外径の拡大を抑制することを含む。外径の拡大が抑制された状態で、周壁(Cw)の内径が拡大するとともに周壁(Cw)の軸長さが拡大する。周壁(Cw)の開口(18z)の拡大に基づく材料の流動に従って、周壁(Cw)の厚みが減少され、周壁(Cw)が軸方向に伸びる。
【0042】
一例において、第4工程における、加工前の周壁(Cw)の軸長さをAL4、加工後の周壁(Cw)の軸長さをAL5とするとき、AL5/AL4は、約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10以上に設定できる。上記数値は一例であって別の例において他の数値が適用可能である。
【0043】
一例において、第4工程での第3部材(14c、14s)を用いた加工に先立って、ダイユニットにセットされるワークピース(Wp)の向きが反転されることができる。例えば、ある工程においては、ワークピース(Wp)の第2軸面(AX2)がダイユニットに支持され、第1軸面(AX1)の側から第2部材(14b、14p)がワークピース(Wp)に挿入される。一方、第4工程では、ワークピース(Wp)の第1軸面(AX1)がダイユニットに支持され、第2軸面(AX2)の側から第3部材(14c、14s)がワークピースに挿入される。
【0044】
一例において、第4工程において、加工前のワークピース(Wp)は、軸方向における所定の領域に設けられた厚み変化(容量変化)を有することができる。第4工程において、容量の大きい第1軸面の側から第3部材(14s)がワークピース(Wp)に挿入される。第3部材(14s)の軸方向の移動に従って、材料が第2軸面の側から第1軸面の側に移動する流動が生じる。第3部材(14s)の軸方向への移動に伴い、材料の一部が容量の大きい部分から容量の小さい部分に流動する。こうした材料の流動に基づき、周壁の軸方向の全体にわたって材料の容量(厚み)が均一化される。バリの発生が抑制されるなど、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0045】
一実施形態において、リング状部材の製造方法は、円板状の第1素材(11、11A)に、後方押し出し加工または前方押し出し加工を施して、径方向内側部分に軸方向一方側に開口する凹部(16、16A)と、該凹部(16、16A)の軸方向他方側にある底部(17、17A)とを有する有底円筒状の第2素材(15、15A)を得る工程と、前記第2素材(15、15A)の前記底部(17、17A)を打ち抜き、内周面を有する第3素材(18、18A)を得る工程と、少なくとも、前記第3素材(18、18A)の外周面の拡径を阻止した状態で、該第3素材(18、18A)の前記内周面にしごき加工を施して、前記第3素材(18、18A)の内径よりも大きい内径を有する内周面および前記第3素材(18、18A)の軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法を有する本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を含む、リング状部材を得る工程と、を備える。
【0046】
一例において、前記第1素材(11、11A)から前記第2素材(15、15A)を得る際の断面減少率は、80%以下とすること好ましく、60%以下とすることがより好ましく、45%以下とすることがさらに好ましい。なお、断面減少率=(初期断面積-変形後断面積)/(初期断面積)である。
【0047】
一例において、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合には、該バリ(23、23a、23A)を除去する工程を備えることができる。
【0048】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を軸方向に圧縮する工程を備えることができる。
【0049】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の少なくともいずれか一方の軸方向側面と外周面または内周面との接続部を押圧して面取り部(8,9)を形成する工程を備えることができる。
【0050】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を軸方向に圧縮すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のいずれか一方の軸方向側面と外周面または内周面との接続部を押圧して面取り部(8,9)を形成する工程を備えることができる。
【0051】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の内周部分を軸方向にシェービングして除去する工程を備えることができる。
【0052】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合には、前記本体部の少なくともいずれか一方の軸方向側面と外周面との接続部を押圧して面取り部を形成すると同時に、前記バリ(23、23a、23A)を径方向内側に向けて倒す工程をさらに備え、かつ、その後、前記バリ(23、23a、23A)を除去することができる。
【0053】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合には、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の内周部分および前記バリ(23、23a、23A)を軸方向にシェービングして除去する工程を備えることができる。
【0054】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を軸方向に圧縮すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の前記バリ(23、23a、23A)に近い側の軸方向側面と外周面との接続部を押圧して面取り部(8、9)を形成し、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の前記バリ(23、23a、23A)から遠い側の軸方向側面と外周面との接続部を押圧して面取り部(8、9)を形成するのと同時に、前記バリ(23、23a、23A)を径方向内側に向けて倒し、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の内周部分および前記バリ(23、23a、23A)を軸方向にシェービングして除去する工程を備えることができる。
【0055】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を軸方向に圧縮し、前記バリ(23、23a、23A)を径方向内側に向けて倒し、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の内周部分および前記バリ(23、23a、23A)を軸方向にシェービングして除去する工程を備えることができる。
【0056】
一例において、リング状部材の製造方法は、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を形成すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)のうち前記しごき加工の向きに関する前方側の端部の内周縁部分に接続されたバリ(23、23a、23A)が形成された場合に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の内周部分および前記バリ(23、23a、23A)を軸方向にシェービングして除去し、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)を軸方向に圧縮すると同時に、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の軸方向両側の側面と内周面との接続部をそれぞれ押圧して面取り部を形成し、かつ、前記本体部(22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C)の軸方向中間部に径方向内側に張り出した余肉部(31)を形成し、前記余肉部(31)を軸方向にシェービングして除去する工程を備えることができる。
【0057】
一実施形態において、軸受の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備え、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。一例において、軸受の製造方法は、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数個の転動体とを備える軸受を製造対象とし、上記のリング状部材の製造方法により製造したリング状部材に仕上加工を施して、前記外輪および/または前記内輪を製造する工程を備える。
【0058】
一実施形態において、機械部品の製造方法は、上記の製造方法によって機械部品を製造する工程を備え、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。例えば、上記のリング状部材の製造方法により製造したリング状部材に仕上加工を施して、前記機械部品を製造する。
【0059】
一実施形態において、車両の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備え、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。一例において、車両の製造方法は、機械部品を備える車両を製造対象とし、上記の機械部品の製造方法により、前記機械部品を製造する工程を備える。
【0060】
一実施形態において、機械装置の製造方法は、上記の製造方法によってリング状部材を製造する工程を備え、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。機械部品を備える機械装置を製造対象とし、上記の製造方法により、前記機械部品を製造する工程を備え、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。
【0061】
一実施形態において、リング状部材は、上記の製造方法によって製造された痕跡を有し、これは、製造コストの低減及び/又は製品の信頼性向上に有利である。
【0062】
一実施形態において、リング状部材(軸受要素)は、上記のリング状部材(軸受要素)の製造方法によって製造された痕跡を有する。一例において、痕跡は、リング状部材(軸受要素)の断面に観察されるメタルフロー(メタルファイバーフロー、繊維状金属組織)である。
図11、12は、軸受要素の軸方向断面(軸断面)におけるメタルフローの一例を示している。
【0063】
一実施形態において、
図11、12に示すように、軸受要素は、リング形状を有する本体(101、102)を備える。前記本体(101、102)は、軸方向の一端面である第1軸面(AF1)と、前記軸方向の別の端面である第2軸面(AF2)と、内周面(ICS)と、外周面(OCS)と、前記外周面(OCS)と前記第1軸面(AF1)との間の第1面取り部(CF1)と、前記外周面(OCS)と前記第2軸面(AF2)との間の第2面取り部(CF2)と、を有する。前記本体(101、102)のメタルフローは、前記第1面取り部(CF1)の表面近傍において前記第1面取り部(CF1)に沿って連続している第1パターン(MFP1)と、前記第2面取り部(CF2)の表面近傍において前記第2面取り部(CF2)に沿って連続している第2パターン(MFP2)と、前記外周面(OCS)の近傍において前記外周面(OCS)に沿って連続している第3パターン(MFP3)と、前記第1軸面(AF1)の近傍において前記第1軸面(AF1)に沿って連続している第4パターン(MFP4)と、前記第2軸面(AF2)の近傍において前記第2軸面(AF2)に沿って連続している第5パターン(MFP5)と、前記第1軸面(AF1)に近い前記内周面(ICS)の近傍における第6パターン(MFP6)と、前記第2軸面(AF2)に近い前記内周面(ICS)の近傍における第7パターン(MFP7)と、を有する。前記第6パターン(MFP6)は、前記第1軸面(AF1)に向かって凸形状を有する複数の線要素を含む。前記第7パターン(MFP7)は、前記内周面(ICS)に沿って連続している複数の線要素を含む。前記第7パターン(MFP7)における複数の線要素の間隔は、前記第6パターン(MFP6)における複数の線要素の間隔に比べて狭い。こうした軸受要素は、製造コストの低減及び/又は品質向上に有利である。例えば、メタルフローの連続した線要素は、本体の高強度化に有利である。
【0064】
一例において、前記第6パターン(MFP6)における前記第1軸面(AF1)に近い領域の線要素は、比較的緩やかな曲げを有し、前記第6パターン(MFP6)における前記第1軸面(AF1)から離れた領域の線要素は、比較的鋭い曲げを有する。前記第6パターン(MFP6)は、前記第1軸面(AF1)から離れるに従って曲率が大きくなる湾曲パターンを有する。前記第6パターン(MFP6)は、前記第1軸面(AF1)から離れるに従って曲率半径が小さくなる前記湾曲パターンを有する。
【0065】
一例において、前記第6パターン(MFP6)における複数の線要素の間隔の平均値(第1平均値)は、前記第7パターン(MFP7)における複数の線要素の間隔の平均値(第2平均値)に比べて大きい。例えば、前記第1平均値/前記第2平均値は、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、又は3.0倍以上にできる。
【0066】
一例において、前記第6パターン(MFP6)は、前記本体(101、102)の軸方向の中心を通りかつ径方向に沿った第1直線(SL1)と前記第1軸面(AF1)との間であり、かつ、前記本体(101、102)の断面における前記内周面(ICS)と前記外周面(OCS)との間の径方向の中心を通りかつ軸方向に沿った第2直線(SL2)と前記内周面(ICS)との間の領域、に配置される。追加的及び/又は代替的に、前記第6パターン(MFP6)は、前記第1直線(SL1)と前記第1軸面(AF1)との間の軸方向の中心を通りかつ径方向に沿った第3直線(SL3)と前記第1軸面(AF1)との間の領域であり、かつ、前記第2直線(SL2)と前記内周面(ICS)との間の領域、に配置される。
【0067】
一例において、前記第6パターン(MFP6)における前記第1軸面(AF1)に向かって凸形状を有する前記複数の線要素の各々は、前記第1軸面(AF1)に最も近い第1部分(CV1)と、前記径方向における前記第1部分(CV1)と前記内周面(ICS)との間に配置される第2部分(CV2)と、前記径方向における前記第1部分(CV1)と前記外周面(OCS)との間に配置される第3部分(CV3)とを含む。第2部分(CV2)は、第1部分(CV1)から前記第2軸面(AF2)に向かって延在する湾曲を含む。第3部分(CV3)は、第1部分(CV1)から前記第2軸面(AF2)に向かって延在する湾曲を含む。前記第1部分(CV1)は、前記第2部分(CV2)及び前記第3部分(CV3)に比べて鋭い湾曲を有する。
【0068】
一例において、前記第7パターン(MFP7)は、前記本体(101、102)の軸方向の中心を通りかつ径方向に沿った第1直線(SL1)と前記第2軸面(AF2)との間であり、かつ、前記本体(101、102)の断面における前記内周面(ICS)と前記外周面(OCS)との間の径方向の中心を通りかつ軸方向に沿った第2直線(SL2)と前記内周面(ICS)との間の領域、に配置される。追加的及び/又は代替的に、前記第7パターン(MFP7)は、前記第1直線(SL1)と前記第2軸面(AF2)との間の軸方向の中心を通りかつ径方向に沿った第4直線(SL4)と前記第2軸面(AF2)との間の領域であり、かつ、前記第2直線(SL2)と前記内周面(ICS)との間の領域、に配置される。
【0069】
一例において、前記第7パターン(MFP7)における前記複数の線要素の間隔は、前記内周面(ICS)と前記第2軸面(AF2)との仮想交点に向かって徐々に狭くなるように変化する。
【0070】
一例において、前記第7パターン(MFP7)は、前記内周面(ICS)に最も近く前記内周面(ICS)に沿って延在する第1線要素と、前記外周面(OCS)に最も近い第2線要素とを含む。前記第2軸面(AF2)から比較的離れた領域において、前記第1線要素に沿った直線と前記第2線要素に沿った直線との間の角度(劣角)は、約40、30、20、10、又は5°以下である。前記第2軸面に比較的近い領域において、前記第1線要素に沿った直線と前記第2線要素に沿った直線との間の角度(劣角)は、約40、50、60、70、80、又は85°以上である。
【0071】
一例において、軸受要素は、前記内周面(ICS)に設けられた軌道面(RWS)をさらに備える。前記軌道面(RWS)の中心を通りかつ径方向に沿った直線(SL1)と前記第2軸面(AF2)との間において前記軌道面(RWS)と交差する複数の線要素の数は、前記直線(SL1)と前記第1軸面(AF1)との間において前記軌道面(RWS)と交差する複数の線要素の数に比べて大きい。
【0072】
一実施形態において、軸受は、上記の軸受要素を備え、これは、軸受の低コスト化に有利である。
【0073】
一実施形態において、機械は、上記の軸受を備え、これは、軸受の低コスト化に有利である。
【0074】
一実施形態において、車両は、上記の軸受を備え、これは、軸受の低コスト化に有利である。
【0075】
本開示の方法は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【0076】
以上説明した軸受要素又は軸受は、例えば、
図12に示すモータ961の回転軸963を支持する軸受900A、900B等に適用できる。
【0077】
図12において、モータ961は、ブラシレスモータであって、円筒形のセンタハウジング965と、このセンタハウジング965の一方の開口端部を閉塞する略円板状のフロントハウジング967とを有する。センタハウジング965の内側には、その軸心に沿って、フロントハウジング967及びセンタハウジング965の底部に配置された軸受900A、900Bを介して、回転自在な回転軸963が支持されている。回転軸963の周囲にはモータ駆動用のロータ969が設けられ、センタハウジング965の内周面にはステータ971が固定されている。
【0078】
モータ961は、一般に、機械や車両に搭載され、軸受900A、900Bにより支持された回転軸963を回転駆動する。
【0079】
軸受要素又は軸受は、回転部を有する機械、各種製造装置、例えば、ボールねじ装置等のねじ装置、及びアクチュエータ(直動案内軸受とボールねじの組合せ、XYテーブル等)等の直動装置の回転支持部に適用可能である。また、軸受要素又は軸受は、ワイパー、パワーウィンドウ、電動ドア、電動シート、ステアリングコラム(例えば、電動チルトテレスコステアリングコラム)、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、およびウォーム減速機等の操舵装置に適用可能である。さらに、軸受要素又は軸受は、自動車、オートバイ、鉄道等の各種車両に適用可能である。相対回転する箇所であれば、本構成の軸受を好適に適用でき、製品品質の向上及び低コスト化につなげることができる。
【0080】
軸受要素を備える軸受として、転がり軸受、滑り軸受等、様々な種類のものが好適に適用可能である。例えば、軸受要素は、ラジアル転がり軸受の外輪及び内輪、円筒ころ(ニードルを含む)を使用したラジアル円筒ころ軸受の外輪及び内輪、円すいころを使用したラジアル円すいころ軸受の外輪及び内輪に適用可能である。
【0081】
[第1実施例]
第1実施例について、
図1および
図2を用いて説明する。
【0082】
本例は、
図1に示す転がり軸受1の外輪2を得るためのリング状部材を製造する例である。
【0083】
ただし、一態様のリング状部材の製造方法は、任意のリング状部材を製造対象とすることができる。たとえば、一態様のリング状部材の製造方法は、
図1に示す転がり軸受1の内輪3、あるいは、
図1に示す例とは異なる構造の転がり軸受の外輪や内輪を得るためのリング状部材(軸受要素)を製造対象とすることができる。この場合には、該リング状部材に切削加工、研削加工などの仕上加工を施して、該外輪や該内輪を製造することができる。また、一態様のリング状部材の製造方法は、車両または機械装置を構成する各種の機械部品を得るためのリング状部材を製造対象とすることもできる。この場合には、該リング状部材に切削加工、研削加工などの仕上加工を施して、該機械部品を製造することができる。
【0084】
図1に示す転がり軸受1は、単列の深溝玉軸受により構成されており、外輪(リング状部材、軸受要素)2と、内輪(リング状部材、軸受要素)3と、複数個の転動体4とを備える。
【0085】
外輪2は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属により構成され、内周面に深溝型の外輪軌道5を有する。内輪3は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属により構成され、外周面に深溝型の内輪軌道6を有する。複数個の転動体4は、玉により構成され、外輪軌道5と内輪軌道6との間に、保持器7により保持された状態で配置される。それぞれの転動体4は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属またはセラミックにより構成される。
【0086】
図示の例では、外輪2は、外周面と軸方向両側の側面との接続部に、それぞれ円弧形の断面形状を有する面取り部8を有する。面取り部8は、たとえば、外輪2をハウジングの内周面などに内嵌する際の案内面として用いることができる。内輪3は、内周面と軸方向両側の側面との接続部に、それぞれ円弧形の断面形状を有する面取り部9を有する。面取り部9は、たとえば、内輪3を回転軸の外周面などに内嵌する際の案内面として用いることができる。
【0087】
本例における外輪2の製造方法は、一態様の製造方法によりリング状部材を得る本工程および追加的工程と、その後の仕上加工により外輪2の最終形状を得る仕上工程とを備える。なお、これらの工程における加工は、いずれも冷間での加工である。
【0088】
前記本工程では、
図2(b)に示すような、円板状の第1素材11を用意する。本例では、第1素材11は、外輪2よりも小さい軸方向寸法、および、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。
【0089】
なお、本例に関する以下の説明中、上下方向は、
図2(a)~
図2(h)の上下方向を意味する。ただし、
図2(a)~
図2(h)の上下方向は、加工時の上下方向と一致するとは限らない。
図2(a)~
図2(h)において、図示されているそれぞれの部材の軸方向は、上下方向に一致している。
【0090】
本例では、
図1(a)に示すような、金属製で円柱状のビレット10に据込み加工を施して、第1素材11を得る。ビレット10は、第1素材11の軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法、および、第1素材11の外径よりも小さい外径を有する。また、この際の据込み加工は、
図2(b)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT1を用いて行う。
【0091】
図2(b)に示す金型(パンチングツール、ツールセット)は、ダイス12と、ダイスピン13と、パンチ14とを備える。ダイス12は、内側にダイスピン13およびパンチ14を配置する円筒状の内周面を有する。ダイス12の内径は、第1素材11の外径と同じ大きさである。ダイスピン13は、円柱状に構成され、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径を有する。ダイスピン13は、ダイス12の下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14は、円柱状に構成され、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径を有する。パンチ14は、ダイス12の上側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0092】
図2(b)に示す金型を用いてビレット10に据込み加工を施す際には、パンチ14を上方に退避させ、ダイスピン13の上面の中央部にビレット10を載置する。この状態で、パンチ14を下降させ、ダイスピン13の上面とパンチ14の下面との間でビレット10を軸方向に押し潰し、軸方向寸法を縮小させ、かつ、外径を拡大する。これにより、円板状の第1素材11を得る。
【0093】
図2(b)に示す工程の一例において、初期段階加工は、パンチングツールPT1を用いた、プレス加工(据込み加工など)を含むことができる。
図2(b)において、ダイスピン13に支持された素材がパンチ14で押しつぶされ、所定形状のワークピースWpが形成される。他の例において、プレス加工(据込み加工など)を変形した手法又は別の手法が適用され得る。
【0094】
追加的及び/又は代替的に、第1素材11を、他の方法で得ること、たとえば金属素材に切削加工を施す、金属板に打ち抜き加工を施す、金属丸棒を円板状に切断するなどの方法で得ることもできる。
【0095】
前記本工程では、円板状の第1素材11に後方押し出し加工を施して、
図2(c)に示すような第2素材15、具体的には、径方向内側部分に軸方向一方側(
図2(c)の上側)に開口する凹部16と、該凹部16の軸方向他方側(
図2(c)の下側)にある底部17とを有する有底円筒状の第2素材15を得る。本例では、この際の後方押し出し加工を、
図2(c)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT2を用いて行う。
【0096】
図2(c)に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12およびダイスピン13と、
図2(b)のパンチ14よりも外径が小さい円柱状のパンチ14aとを備える。パンチ14aは、ダイス12の上側部分の内側に同軸に配置される。
【0097】
図2(c)に示す金型を用いて第1素材11に後方押し出し加工を施す際には、パンチ14aを上方に退避させ、第1素材11を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、ダイスピン13の上面に載置する。この状態で、パンチ14aを下降させて、ダイスピン13の上面とパンチ14aの下面との間で、第1素材11の径方向内側部分を軸方向に押し潰す。これにより、該径方向内側部分の金属材料を径方向外側に流動させて、径方向外側部分の軸方向寸法を拡大し、かつ、径方向内側部分に上側に開口する凹部16を形成することで、凹部16と、凹部16の下側にある底部17とを有する、有底円筒状の第2素材15を得る。
【0098】
図2(c)に示す後方押し出し加工の一例において、ダイスピン13に支持されたワークピース(Wp)に対してパンチ14a(第1部材)が相対的に移動する。ダイスピン13に近づくように、パンチ14aが軸方向に移動する。ワークピースWpとパンチ14aとの間の軸方向の相対移動に伴って、ワークピースWpの径方向内方領域にパンチ14aが押し付けられ、パンチ14aの先端部分がワークピースWpに挿入される。材料の一部がワークピースWpの径方向内方から径方向外方に向かって流動する。また、ワークピースWpの径方向外方領域において、パンチ14aの移動方向と反対方向に材料が流動する(後方流動)。ワークピースWpにおいて、径方向内方領域の厚みが減少するとともに、径方向外方領域の厚みが増大する。ワークピースWpの径方向内方領域に凹部(窪み)16が形成され、径方向外方領域に窪み16を囲う周辺部15bが形成される。周辺部15bの軸長さの拡大に伴い、ワークピースWpの全体の軸長さ(第1軸端と第2軸端との間の距離)が拡大する。
【0099】
凹部16は、パンチ14aの下端部の押し込みによって形成された部分である。凹部16の内径は、リング状部材20を構成する円筒状の本体部22(
図2(e)参照)の内径よりも小さい。底部17は、第1素材11の径方向内側部分を軸方向に押し潰すことにより形成された部分である。すなわち、底部17の軸方向寸法は、第1素材11の軸方向寸法よりも小さい。第2素材15のうち、凹部16および底部17の周囲に存在する円筒状の径方向外側部分は、第1素材11の径方向内側部分の金属材料を径方向外側に流動させることにより軸方向寸法が拡大された部分である。すなわち、該円筒状の径方向外側部分の軸方向寸法は、第1素材11の軸方向寸法よりも大きい。第2素材15は、外輪2の軸方向寸法よりも小さい軸方向寸法、および、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。
【0100】
このように、本例では、外輪2を得るためのリング状部材20(
図2(e)参照)を製造する際に、ワークに対して、冷間での鍛造加工(後方押し出し加工)により、リング状部材20の本体部22の内径と同じ大きさの内径を有する凹部を形成するのではなく、本体部22の内径よりも小さい内径を有する凹部16を形成することで、凹部16を形成する際のワークの断面減少率を小さく抑えている。このため、冷間での鍛造加工を行う際の成形荷重を小さく抑えることができる。
【0101】
なお、本例の製造方法を実施する場合、第1素材11から第2素材15を得る際の断面減少率は、80%以下とすること好ましく、60%以下とすることがより好ましく、45%以下とすることがさらに好ましい。
【0102】
前記本工程では、第2素材15の底部17を打ち抜き、
図2(d)に示すような第3素材18、具体的には、内周面を有する円筒状の第3素材18を得る。本例では、この際の打ち抜きを、
図2(d)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT3を用いて行う。
【0103】
図2(d)に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12と、
図2(c)のパンチ14aと同じ外径を有する円柱状のパンチ14bと、スリーブ19とを備える。スリーブ19は、円筒状に構成されており、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径、および、第2素材15の凹部16の内径と同じ大きさまたは該内径よりも僅かに大きい内径を有する。スリーブ19は、ダイス12の下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0104】
図2(d)に示す金型を用いて第2素材15の底部17を打ち抜く際には、パンチ14bを上方に退避させ、第2素材15の底部17を下側に配置した状態で、該第2素材15を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、スリーブ19の上面に載置する。この状態で、パンチ14bを下降させて、該パンチ14bを第2素材15の凹部16の内側に進入させ、さらに該パンチ14bにより第2素材15の底部17を打ち抜く。これにより、リング状部材20の本体部22の内径よりも小さい内径を有する内周面を備えた、円筒状の第3素材18を得る。本例では、底部17の軸方向寸法は、上述した後方押し出し加工により、第1素材11の軸方向寸法よりも縮小されているため、底部17として打ち抜かれる金属材料を少なくすることができる。第3素材18は、外輪2の軸方向寸法よりも小さい軸方向寸法、および、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。
【0105】
図2(d)に示す工程の一例において、スリーブ19に支持されたワークピースWpに対してパンチ14b(第2部材)が相対的に移動する。ワークピースWpに近づくようにパンチ14aが軸方向に移動し、パンチ14aの先端がワークピースWpの窪みの底部17に押し当てられる。さらに、パンチ14aの先端がワークピースWpを超えた位置まで移動する。すなわち、ワークピースWpとパンチ14bとの間の相対移動において、ワークピースWpの軸面がスリーブ19の支持面19yに支持された状態で、パンチ14aの先端とスリーブ19の支持面19yとが軸方向に互いにすれ違う。窪みの底部17がパンチ14aを用いて打ち抜かれ、開口18zを囲む周壁Cwが形成される。
【0106】
前記本工程では、第3素材18の外周面の拡径を阻止した状態で、第3素材18の内周面にしごき加工を施して、第3素材18の内径よりも大きい内径を有する内周面および第3素材18の軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法を有する円筒状の本体部22を形成して、
図2(e)に示すようなリング状部材20を得る。本例では、この際のしごき加工を、
図2(e)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT4を用いて行う。
【0107】
図2(e)に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12と、円筒状のスリーブ19aと、円柱状のパンチ14cとを備える。スリーブ19aは、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径、および、第3素材18の内径よりも大きい内径を有し、ダイス12の下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14cは、下端部の外周面に、しごき面21を有する。しごき面21は、下側に向かうにしたがって外径が小さくなる略円すい筒形状を有する。しごき面21の最小径部である下端部の外径は、第3素材18の内径よりも小さい。しごき面21の最大径部である上端部の外径は、第3素材18の内径よりも大きく、かつ、スリーブ19aの内径よりも少しだけ小さい。パンチ14cの外周面のうち、しごき面21よりも上側に位置する部分は、しごき面21の上端部の外径と同じ大きさの外径を有する円筒面により構成されている。
【0108】
図2(e)に示す金型を用いて第3素材18の内周面にしごき加工を施す際には、パンチ14cを上方に退避させ、第3素材18を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌することにより、第3素材18の外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、スリーブ19aの上面により、第3素材18の下面を支持する。この状態で、パンチ14cを下降させ、しごき面21を、第3素材18の内側に上方から下方に向けて押し込み、さらに該内側を軸方向に通過させることで、第3素材18の内周面にしごき加工を施す。これにより、第3素材18の内周面を拡径することに伴い、第3素材18を構成する金属材料の一部分を、パンチ14cの押し込み方向と逆方向に流動させることで、第3素材18の軸方向寸法を拡大して、第3素材18の内径よりも大きい内径、および、第3素材18の軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法を有する円筒状の本体部22を形成する。本体部22は、外輪2の軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法、および、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。本例では、上述のような加工を行うことで、本体部22を備えたリング状部材20が得られる。なお、
図2(e)に示した状態では、パンチ14cと本体部22との間に大きな摩擦力が作用しているため、パンチ14cを上方に戻す際には、不図示の抑えスリーブにより本体部22の上面を抑え付けた状態で、本体部22および抑えスリーブに対してパンチ14cを上方に戻す。これにより、パンチ14cと本体部22とを分離する。
【0109】
図2(e)に示す工程の一例において、ダイユニットの内周面12xによって周壁Cwの外径の拡大が抑制される。
図2(e)において、ダイユニットは、ワークピースWpの外周面に面する内周面12xと、ワークピースWpの軸面を支持する支持面19zとを有する。例えば、ダイユニットの内周面12xの内径が加工前の周壁Cwの外径と実質的に等しく又は同程度となるように設定される。また、パンチ14c(第3部材)の加工部40xとダイユニットの内周面12xとの間の径方向の隙間が、加工前の周壁Cwの厚みに比べて小さく設定される。ワークピースWpとパンチ14cとの間の相対移動において、パンチ14cが、ワークピースWpから離れた状態(40-i)からワークピースWpの第1軸端に近づき、ワークピースWpの第1軸端の側から第2軸端の側に向かって軸方向にパンチ14cがワークピースWpに挿入される。ワークピースWpの軸面がスリーブ19a(支持部材)の支持面19zに支持された状態で、周壁Cwの内周面に押し付けられた加工部40xが一方の軸側から他方の軸側に向けて動く。ワークピースWpの材料が流動し、ワークピースWpが変形する。パンチ14cの軸端とスリーブ19aの支持面19zとが軸方向に相対的に近づいて実質的に同じ位置に達する(40-ii)。さらに、ワークピースWpとパンチ14cとの間の相対移動において、パンチ14cの先端とスリーブ19aの支持面19zとが軸方向に互いにすれ違う(40-iii)。ワークピースWpの軸方向の全体にわたり、パンチ14cの加工部40xが周壁Cwの内周面に押し付けられる。ダイユニットの内周面12xによって周壁Cwの外径の拡大が抑制された状態で、材料の流動に基づいて周壁Cwの内径が拡大する。軸方向及び周方向の全体にわたり、外径が維持された状態で、周壁Cwの内径が拡大する。周壁Cwの全体の厚みが小さくなるとともに、周壁Cwの軸長さが拡大する。
【0110】
上述のように、本例では、外輪2を製造するためのワークに対して、冷間での鍛造加工(しごき加工)により、該ワークの内径をより大きく拡げることで、この際のワークの断面減少率を小さく抑えている。このため、冷間での鍛造加工を行う際の成形荷重を小さく抑えることができる。
【0111】
また、本例では、冷間での鍛造加工(しごき加工)により、ワークの内径をより大きく拡げる際の金属材料の流動は、パンチ14cの押し込み方向だけでなく、パンチ14cの押し込み方向と逆方向にも生じ、ワークの軸方向寸法を拡大することに役立てられる。このため、金属材料の歩留まりを良好にしやすい。
【0112】
さらに本例では、冷間での鍛造加工(しごき加工)により、ワークの内径をより大きく拡げる工程を、ワークの外周面の拡径を阻止しながら行う。このため、該加工に伴って、ワークの外周面が拡径せず、ワークに大きな周方向引っ張り応力が作用しない。したがって、ワークに割れなどの損傷が発生しにくい。
【0113】
本例では、本体部22を形成すると同時に、第3素材18を構成する金属材料の他の一部分が、パンチ14cの押し込み方向に流動することで、バリ23が形成される。バリ23は、本体部22のうち、しごき加工の向きに関する前方側である下側の端部の内周縁部分に接続され、かつ、軸方向に伸長する円筒形状を有する。したがって、本例では、追加的工程として、後述するように、バリ23を除去する工程を備える。
【0114】
なお、スリーブ19aの内径を、しごき面21の最大径部である上端部の外径と同じ大きさにすると、しごき加工を行う際に、バリ23が形成されない可能性がある。バリ23が形成されなかった場合には、それ以降の工程において、バリ23を除去するための加工が不要となる。
【0115】
本例では、リング状部材を転がり軸受1の外輪2に適用するために、前記本工程に続いて、以下に説明する
図2(f)、
図2(g)、および
図2(h)の工程が備えられる。これらの工程は、リング状部材に最終的に要求される構造および用途に応じて設けられる、リング状部材を製造する上での任意かつ追加的工程である。
【0116】
図2(f)に示す工程では、リング状部材20の本体部22を軸方向に圧縮すること、具体的には本体部22の軸方向寸法を外輪2の軸方向寸法と同じ大きさまで圧縮することにより、リング状部材20aを得る。本例では、この際の圧縮を、
図2(f)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT5を用いて行う。
【0117】
図2(f)に示す金型は、ダイス12aと、円筒状のスリーブ19bと、円柱状のパンチ14dとを備える。ダイス12aは、段付円筒状の内周面を有する。すなわち、ダイス12aの内周面は、互いに同軸に配置された、下側の小径円筒面部24と上側の大径円筒面部25とを、段差面である面取り加工面26により接続してなる。小径円筒面部24は、リング状部材20の本体部22の外径よりも小さい内径を有する。大径円筒面部25は、
図2(b)~
図2(e)のダイス12の内径と同じ大きさの内径、すなわち本体部22の外径と同じ大きさの内径を有する。面取り加工面26は、径方向外側に向かうにしたがって上方に向かう方向に曲線的に傾斜した、凹円弧形の断面形状を有する。スリーブ19bは、小径円筒面部24の内径よりも僅かに小さい外径、および、リング状部材20のバリ23の外径と同じ大きさまたは該外径よりも僅かに大きい内径を有する。スリーブ19bは、小径円筒面部24の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14dは、大径円筒面部25の内径よりも僅かに小さい外径を有し、大径円筒面部25の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0118】
図2(f)に示す金型を用いてリング状部材20の本体部22を軸方向に圧縮する際には、パンチ14dを上方に退避させ、リング状部材20のバリ23を下に向けて、本体部22を大径円筒面部25に径方向のがたつきなく内嵌することにより、本体部22の外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、本体部22の下面を面取り加工面26およびスリーブ19bの上面により支持する。この状態で、パンチ14dを下降させて、面取り加工面26およびスリーブ19bの上面とパンチ14dの下面との間で本体部22を軸方向に圧縮する。これにより、本体部22を、外輪2の軸方向寸法と同じ大きさの軸方向寸法を有する円筒状の本体部22aとすることで、本体部22aおよびバリ23を備えたリング状部材20aを得る。本体部22aは、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。本体部22aの内周面は、上述した圧縮に伴う変形により、軸方向中央部が最も径方向内側に張り出した凸円弧形の断面形状を有し、少なくとも軸方向中間部がバリ23の内周面よりも径方向内側に位置している。
【0119】
本例では、上述した本体部22aを形成する工程において、本体部22を軸方向に圧縮して本体部22aを形成するのと同時に、本体部22の下面であるバリ23に近い側の軸方向側面と外周面との接続部を、面取り加工面26に強く押圧して、該接続部に面取り部8を形成する。
【0120】
このように、本例では、本体部22を圧縮して本体部22aを形成すると同時に面取り部8を形成するため、その分、外輪2の製造を効率良く行うことができる。
【0121】
図2(g)に示す工程では、リング状部材20aに加工を施すことで、リング状部材20bを得る。本例では、この際の加工を、
図2(g)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT6を用いて行う。
【0122】
図2(g)に示す金型は、
図2(f)と同様のダイス12aと、円柱状のダイスピン13aと、円柱状のパンチ14eとを備える。ダイスピン13aは、ダイス12aの小径円筒面部24の内径よりも僅かに小さい外径を有し、小径円筒面部24の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14eは、ダイス12aの大径円筒面部25よりも僅かに小さい外径を有する。パンチ14eは、下面の中央部に凹部を備え、該凹部の内周面は、上側に向かうにしたがって内径が小さくなる円すい筒状のバリ倒し面27により構成されている。バリ倒し面27の最大径部である下端部の内径は、リング状部材20aのバリ23の外径と同じ大きさまたは該内径よりも僅かに大きい。バリ倒し面27は、バリ23よりも大きい軸方向寸法を有する。パンチ14eは、大径円筒面部25の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0123】
図2(g)に示す金型を用いてリング状部材20aに加工を施す際には、パンチ14eを上方に退避させ、リング状部材20aを
図2(f)の状態から上下を反転させバリ23を上に向けた状態で、リング状部材20aの本体部22aを、ダイス12aの大径円筒面部25に径方向のがたつきなく内嵌することにより、本体部22aの外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、本体部22aの下面を面取り加工面26およびダイスピン13aの上面により支持する。この状態で、パンチ14eを下降させて、バリ倒し面27を、円筒状のバリ23に上方から押し付けることで、バリ23を径方向内側に向けて倒す。具体的には、バリ23をバリ倒し面27に沿う円すい筒状に変形させることで、バリ23aとする。なお、円筒状のバリ23を、円すい筒状のバリ23aに変形させる理由は、後述する軸方向のシェービングにより該バリを削り取りやすくするためである。バリ23aの基端部(
図2(g)における下端部)の外径は、バリ23の外径と同じ大きさである。また、パンチ14eの下面のうちバリ倒し面27よりも径方向外側に位置する部分により本体部22aの上面を押圧することで、本体部22aの下面であるバリ23から遠い側の軸方向側面と外周面との接続部を、面取り加工面26に強く押圧して、該接続部に面取り部8を形成する。すなわち、外周面と軸方向両側の側面との接続部にそれぞれ面取り部8を有する円筒状の本体部22bを形成する。
【0124】
上述のように、1工程で、面取り部8を形成すると同時に、バリ23を径方向内側に向けて倒すことにより、本体部22bおよびバリ23aを備えたリング状部材20bを得る。本体部22bは、外輪2の軸方向寸法と同じ大きさの軸方向寸法、および、外輪2の外径と同じ大きさの外径を有する。
【0125】
図2(h)に示す工程では、リング状部材20bに加工を施すことで、リング状部材20cを得る。本例では、この際の加工を、
図2(h)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)PT6を用いて行う。
【0126】
図2(h)に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12と、円筒状のスリーブ19cと、円柱状のパンチ14fとを備える。スリーブ19cは、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径、および、外輪2の内径と同じ大きさまたは該内径よりも僅かに大きい内径を有する。スリーブ19cは、ダイス12の下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14fは、外輪2の内径と同じ大きさの外径を有し、ダイス12の内側に同軸に配置される。
【0127】
図2(h)に示す金型を用いてリング状部材20bに加工を施す際には、パンチ14fを上方に退避させ、リング状部材20bのバリ23aを上または下に向けた状態で、リング状部材20bの本体部22bを、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、本体部22bの下面を、スリーブ19cの上面により支持する。この状態で、パンチ14fを下降させて、該パンチ14fにより、本体部22bの内周部分およびバリ23aを軸方向にシェービングして除去する。これにより、円筒状のリング状部材20cを得る。リング状部材20cは、外輪2の軸方向寸法と同じ大きさの軸方向寸法、外輪2の外径と同じ大きさの外径、および外輪2の内径と同じ大きさの内径を有する。
【0128】
本例では、その後、リング状部材20cに対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する外輪2を得る。
【0129】
以上に述べたように、本例のリング状部材の製造方法によれば、前記本工程において、冷間の鍛造加工を行う際の成形荷重を小さく抑えられるため、該鍛造加工を行うために用いるプレス加工機を小型に構成することができる。また、外輪2を構成する金属材料の歩留まりを良好にしやすいため、材料コストを抑えることができる。また、ワークに割れなどの損傷が発生しにくいため、不良品の発生率を抑えることができる。
【0130】
追加的及び/又は代替的に、
図2(e)のリング状部材20、
図20(f)のリング状部材20a、および
図2(g)のリング状部材20bのうち、いずれかのリング状部材に対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する外輪2を含む最終製品としてのリング状部材を得ることもできる。
【0131】
[第2実施例]
第2実施例について、
図3を用いて説明する。
【0132】
本例では、外輪2(
図1参照)を製造する際の本工程における、円板状の第1素材11(
図2(b)参照)から有底円筒状の第2素材15を得るための加工が、第1実施例と異なる。本例では、該加工として、前方押し出し加工を採用する。本例では、該前方押し出し加工を、
図3に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0133】
図3に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12と、円柱状のダイスピン13bと、円柱状のパンチ14gとを備える。ダイスピン13bは、ダイス12の内径よりも小さい外径を有し、ダイス12の下側部分の内側に同軸に配置される。パンチ14gは、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径を有し、ダイス12の上側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0134】
図3に示す金型を用いて第1素材11に前方押し出し加工を施す際には、パンチ14gを上方に退避させ、第1素材11を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、ダイスピン13bの上面に載置する。この状態で、パンチ14gを下降させて、ダイスピン13bの上面とパンチ14gの下面との間で、第1素材11の径方向内側部分を軸方向に押し潰す。これにより、該径方向内側部分の金属材料を径方向外側に流動させることで、径方向外側部分の軸方向寸法を拡大し、かつ、径方向内側部分に下側に開口する凹部16を形成して、凹部16と底部17とを有する、有底円筒状の第2素材15を得る。
【0135】
図3に示す前方押し出し加工の一例において、パンチ14gに支持されたワークピースWpがダイスピン13b(第1部材)に対して相対的に移動する。ダイスピン13bに近づくように、パンチ14g及びワークピースWpが軸方向に移動する。ワークピースWpとダイスピン13bとの間の軸方向の相対移動に伴って、ワークピースWpの径方向内方領域にダイスピン13bが押し付けられ、ダイスピン13bの先端部分がワークピースWpに挿入される。材料の一部がワークピースWpの径方向内方から径方向外方に向かって流動する。また、ワークピースWpの径方向外方領域において、パンチ14gの移動方向と同じ方向に材料が流動する(前方流動)。ワークピースWpにおいて、径方向内方領域の厚みが減少するとともに、径方向外方領域の厚みが増大する。ワークピースWpの径方向内方領域に凹部(窪み)16が形成され、径方向外方領域に窪み16を囲う周辺部15bが形成される。周辺部15bの軸長さの拡大に伴い、ワークピースWpの全体の軸長さ(第1軸端と第2軸端との間の距離)が拡大する。
【0136】
追加的及び/又は代替的に、円板状の第1素材11(
図2(b)参照)から有底円筒状の第2素材15を得る方法として、第1実施例の後方押し出し加工に限らず、本例の前方押し出し加工を採用することもできる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1実施例と同様である。
【0137】
[第3実施例]
第3実施例について、
図4を用いて説明する。
【0138】
本例では、外輪2(
図1参照)を製造する際の追加的工程が第1実施例と異なる。なお、本例でも、
図2(c)に示す工程に代えて、
図3に示す工程を採用することもできる。
【0139】
本例では、
図4(a)に示す工程において、リング状部材20(
図2(e)参照)の本体部22を軸方向に圧縮して、リング状部材20dを得る。本例では、この際の圧縮を、
図4(a)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0140】
図4(a)に示す金型は、
図2(e)と同様のダイス12およびスリーブ19aと、
図2(f)と同様のパンチ14dとを備える。
【0141】
図4(a)に示す金型を用いてリング状部材20(
図2(e)参照)の本体部22を軸方向に圧縮する際には、パンチ14dを上方に退避させ、リング状部材20のバリ23を下に向けた状態で、リング状部材20の本体部22を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌することにより、本体部22の外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、本体部22の下面をスリーブ19aの上面により支持する。この状態で、パンチ14dを下降させて、スリーブ19aの上面とパンチ14dの下面との間で本体部22を軸方向に圧縮する。これにより、本体部22を、外輪2の軸方向寸法と同じ大きさの軸方向寸法を有する円筒状の本体部22cとすることで、本体部22cおよびバリ23を備えたリング状部材20dを得る。
【0142】
本例では、リング状部材20dを得る工程で、本体部22cの下面であるバリ23に近い側の軸方向側面と外周面との接続部に面取り部8(
図1参照)を形成しない。この点が、第1実施例の
図2(f)の工程と異なる。
【0143】
本例では、
図4(b)に示す工程において、リング状部材20dに加工を施して、リング状部材20eを得る。本例では、この際の圧縮を、
図4(b)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0144】
図4(b)に示す金型は、
図2(b)と同様のダイス12と、
図2(g)と同様のパンチ14eと、円柱状のダイスピン13cとを備える。ダイスピン13cは、ダイス12の内径よりも僅かに小さい外径を有し、ダイス12の下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0145】
図4(b)に示す金型を用いてリング状部材20dに加工を施す際には、パンチ14eを上方に退避させ、リング状部材20dのバリ23を上に向けた状態で、リング状部材20dの本体部22cを、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌することにより、本体部22cの外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、本体部22cの下面をダイスピン13cの上面により支持する。この状態で、パンチ14eを下降させて、パンチ14eの下面に備えられた円すい凹面状のバリ倒し面27を、円筒状のバリ23に上方から押し付けることで、該バリ23を径方向内側に向けて倒して、円すい筒状のバリ23aとする。これにより、本体部22dおよびバリ23aを備えたリング状部材20eを得る。
【0146】
本例では、リング状部材20eを得る工程で、本体部22dの下面であるバリ23から遠い側の軸方向側面と外周面との接続部に面取り部8(
図1参照)を形成しない。この点が、第1実施例の
図2(g)の工程と異なる。
【0147】
本例では、
図4(c)に示す工程において、リング状部材20eに加工を施して、リング状部材20fを得る。
【0148】
該工程では、第1実施例の
図2(h)に示した工程と同様、ダイス12の内側で、スリーブ19cとパンチ14fとを用いて、リング状部材20eの本体部22dの内周部分およびバリ23aを、軸方向にシェービングして除去し、円筒状のリング状部材20fを得る。
【0149】
本例では、その後、リング状部材20fに対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する外輪2を得る。外輪2の面取り部8は、該仕上工程で形成される。
【0150】
本例では、前記追加的工程で外輪2のそれぞれの面取り部8を形成しないため、前記追加的工程で用いる金型(パンチングツール、ツールセット)、具体的には
図4(a)および
図4(b)のダイス12の内周面の形状を簡素化することができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1実施例と同様である。
【0151】
追加的及び/又は代替的に、
図4(a)のリング状部材20dおよび
図4(b)のリング状部材20eのうち、いずれかのリング状部材に対して、切削加工、研削加工などを施す前記仕上工程により、完成形状を有する外輪2を得ることもできる。
【0152】
[第4実施例]
第4実施例について、
図5を用いて説明する。
【0153】
本例では、外輪2(
図1参照)を製造する際の追加的工程が第1実施例と異なる。なお、本例でも、
図2(c)に示す工程に代えて、
図3に示す工程を採用することもできる。
【0154】
本例では、
図5に示す工程において、リング状部材20(
図2(e)参照)に加工を施して、リング状部材20gを得る。本例では、この際の加工を、
図5に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0155】
図5に示す金型は、
図2(h)と同様のダイス12、スリーブ19c、およびパンチ14fを備える。
【0156】
図5に示す金型を用いてリング状部材20(
図2(e)参照)に加工を施す際には、パンチ14fを上方に退避させ、リング状部材20のバリ23を下に向けた状態で、リング状部材20の本体部22を、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、本体部22の下面を、スリーブ19cの上面により支持する。この状態で、パンチ14fを下降させて、該パンチ14fにより、本体部22の内周部分およびバリ23を、軸方向にシェービングして除去し、円筒状のリング状部材20gを得る。
【0157】
本例では、その後、リング状部材20gに対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する外輪2を得る。外輪2の軸方向寸法の仕上げ、および、外輪2のそれぞれの面取り部8の形成は、該仕上工程で行われる。
【0158】
本例では、前記追加的工程で、外輪2の軸方向寸法の仕上げ、外輪2のそれぞれの面取り部8の形成、および円筒状のバリ23を径方向内側に向けて倒す加工を行わないため、前記追加的工程における工程数を減らすことができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1実施例と同様である。
【0159】
[第5実施例]
第5実施例について、
図6を用いて説明する。
【0160】
本例では、外輪2(
図1参照)を製造する際の追加的工程が第1実施例と異なる。本例の追加的工程では、
図2(f)までは第1実施例と同じである。なお、本例でも、
図2(c)に示す工程に代えて、
図3に示す工程を採用することもできる。
【0161】
本例では、
図6に示す工程において、
図2(f)に示す工程で得られたリング状部材20aに加工を施して、リング状部材20hを得る。本例では、この際の加工を、
図6に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0162】
図6に示す金型は、
図2(g)と同様のダイス12aおよびダイスピン13aと、パンチ14hとを備える。パンチ14hは、円筒状に構成され、ダイス12aの大径円筒面部25の内径よりも僅かに小さい外径、および、バリ23の外径と同じ大きさまたは該外径よりも僅かに大きい内径を有する。パンチ14hは、大径円筒面部25の内側に径方向のがたつきなく配置される。
【0163】
図6に示す金型を用いてリング状部材20aに加工を施す際には、パンチ14hを上方に退避させ、リング状部材20aのバリ23を上に向けた状態で、リング状部材20aの本体部22aを、ダイス12aの大径円筒面部25に径方向のがたつきなく内嵌することにより、本体部22aの外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、本体部22aの下面を面取り加工面26およびダイスピン13aの上面により支持する。この状態で、パンチ14hを下降させて、パンチ14hの下面により本体部22aの上面を押圧することで、本体部22aの下面であるバリ23から遠い側の軸方向側面と外周面との接続部を、面取り加工面26に強く押圧して、該接続部に面取り部8を形成する。すなわち、軸方向両側の側面と外周面との接続部にそれぞれ面取り部8を有する本体部22bを形成する。ただし、本例では、この際に円筒状のバリ23に加工を施さない。この点が、第1実施例の
図2(g)の工程と異なる。
【0164】
本例では、その後、リング状部材20hに対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する外輪2を得る。外輪2の内径の仕上げ、およびバリ23の除去は、該仕上工程で行われる。
【0165】
本例では、前記追加的工程で、外輪2の内径の仕上げ、バリ23の除去を行わないため、前記追加的工程における工程数を減らすことができる。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1実施例と同様である。
【0166】
[第6実施例]
第6実施例について、
図7(a)~
図7(h)を用いて説明する。
【0167】
本例は、一態様のリング状部材の製造方法により、
図1に示す転がり軸受1の内輪3を得るためのリング状部材を製造する例である。
【0168】
本例における内輪3の製造方法は、一態様の製造方法によりリング状部材を得る本工程および追加的加工と、その後の仕上加工により内輪3の最終形状を得る仕上工程とを備える。なお、これらの工程における加工は、いずれも冷間での加工である。
【0169】
本例では、前記本工程は、第1実施例の
図2(a)~
図2(e)に示す本工程と同様である。すなわち、本例では、
図7(a)に示すような円柱状のビレット10Aを軸方向に押し潰す据込み加工を施して、
図7(b)に示すような円板状の第1素材11Aを得て、第1素材11Aに後方押し出し加工を施して、
図7(c)に示すような凹部16Aおよび底部17Aを有する有底円筒状の第2素材15Aを得て、第2素材15Aの底部17Aを打ち抜き、
図7(d)に示すような円筒状の第3素材18Aを得る。本例でも、第2素材15Aを得るための加工を、後方押し出し加工に代えて、前方押し出し加工とすることもできる。さらに、第3素材18Aの外周面の拡径を阻止した状態で、第3素材18Aの内周面にしごき加工を施して、第3素材18Aの内径よりも大きい内径を有する内周面および第3素材18Aの軸方向寸法よりも大きい軸方向寸法を有する円筒状の本体部22Aを形成して、
図7(e)に示すようなリング状部材20Aを得る。本例でも、リング状部材20Aは、本体部22Aの下側の端部の内周縁部分に接続された円筒状のバリ23Aをさらに備える。
【0170】
本例では、前記追加的工程において、第4実施例の
図5と同様の工程により、リング状部材20Aの本体部22Aの内周部分およびバリ23Aを軸方向にシェービングして除去し、
図7(f)に示すような円筒状の本体部22Bのみからなるリング状部材20Bを得る。前記追加的工程において、さらに、リング状部材20Bに加工を施して、
図7(g)に示すような、円筒状の本体部22Cのみからなるリング状部材20Cを得る。本例では、この際の加工を、
図7(g)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0171】
図7(g)に示す金型は、ダイス12A、ダイスピン13A、パンチ14Aを備える。
【0172】
ダイス12Aは、内側にダイスピン13Aおよびパンチ14Aを配置する円筒状の内周面を有する。ダイス12Aの内径は、リング状部材20Bの外径と同じ大きさである。
【0173】
ダイスピン13Aは、段付円柱状に構成され、ダイス12Aの内径よりも僅かに小さい外径を有する円柱状の本体部28Aと、本体部28Aの上面の中央部から上方に突出した、本体部28Aよりも小径の円柱状の小径部29Aとを備える。小径部29Aの外径は、リング状部材20Bの内径と同じ大きさである。ダイスピン13Aは、小径部29Aの外周面と本体部28Aの上面との接続部に、下側に向かうにしたがって外径が大きくなる方向に曲線的に傾斜した凹円弧形の断面形状を有する面取り加工面30Aを備える。ダイスピン13Aの本体部28Aは、ダイス12Aの下側部分の内側に径方向のがたつきなく内嵌されている。
【0174】
パンチ14Aは、段付円柱状に構成され、ダイス12Aの内径よりも僅かに小さい外径を有する円柱状の本体部28Bと、本体部28Bの下面の中央部から下方に突出した、本体部28Bよりも小径の円柱状の小径部29Bとを備える。小径部29Bの外径は、リング状部材20Bの内径と同じ大きさである。パンチ14Aは、小径部29Bの外周面と本体部28Bの下面との接続部に、上側に向かうにしたがって外径が大きくなる方向に曲線的に傾斜した凹円弧形の断面形状を有する面取り加工面30Bを備える。パンチ14Aの本体部28Bは、ダイス12Aの上側部分の内側に径方向のがたつきなく内嵌されている。
【0175】
図7(g)に示す金型を用いてリング状部材20Bに加工を施す際には、パンチ14Aを上方に退避させ、リング状部材20Bを、ダイス12Aに径方向のがたつきなく内嵌することにより、リング状部材20Bの外周面を拘束して、該外周面の拡径を阻止し、かつ、リング状部材20Bの下側部分の内側に、ダイスピン13Aの小径部29Aを径方向のがたつきなく挿入する。さらに、パンチ14Aを下降させて、リング状部材20Bの上側部分の内側に、パンチ14Aの小径部29Bを径方向のがたつきなく挿入する。この状態で、パンチ14Aをさらに下降させて、リング状部材20Bの下側の軸方向側面と内周面との接続部をダイスピン13Aの面取り加工面30Aに強く押圧するとともに、リング状部材20Bの上側の軸方向側面と内周面との接続部をパンチ14Aの面取り加工面30Bに強く押圧する。これにより、それぞれの接続部に面取り部9を形成する。さらに、ダイスピン13Aの本体部28Aの上面とパンチ14Aの本体部28Bの下面との間で、リング状部材20Bを軸方向に圧縮する。これにより、リング状部材20Bの軸方向寸法を内輪3の軸方向寸法と同じ大きさまで縮小する。本例では、該縮小に伴って流動した金属材料の一部が、ダイスピン13Aの小径部29Aの上面とパンチ14Aの小径部29Bの下面との間に入り込んで、本体部22Cの軸方向中間部に径方向内側に張り出した余肉部31が形成される。すなわち、本例では、上述のような加工により、リング状部材20Cを得る。
【0176】
本例では、前記追加的工程において、リング状部材20Cに加工を施すことで、
図7(h)に示すような円筒状のリング状部材20Dを得る。本例では、この際の加工を、
図7(h)に示すような金型(パンチングツール、ツールセット)を用いて行う。
【0177】
図7(h)に示す金型は、
図7(g)と同様のダイス12Aと、円筒状のスリーブ19Aと、パンチ14Bを備える。スリーブ19Aは、ダイス12Aの内径よりも僅かに小さい外径、および、内輪3と同じ大きさの内径を有する。スリーブ19Aは、ダイス12Aの下側部分の内側に径方向のがたつきなく配置される。パンチ14Bは、内輪3と同じ大きさの外径を有し、ダイス12の内側に同軸に配置される。
【0178】
図7(h)に示す金型を用いてリング状部材20Cに加工を施す際には、パンチ14Bを上方に退避させ、リング状部材20Cを、ダイス12に径方向のがたつきなく内嵌し、かつ、リング状部材20Cの下面を、スリーブ19Aの上面により支持する。この状態で、パンチ14Bを下降させて、該パンチ14Bにより、余肉部31を、軸方向にシェービングして除去し、円筒状のリング状部材20Dを得る。リング状部材20Dは、内輪3の軸方向寸法と同じ大きさの軸方向寸法、内輪3の外径と同じ大きさの外径、および内輪3の内径と同じ大きさの内径を有する。
【0179】
本例では、その後、リング状部材20Dに対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する内輪3を得る。本例についてのその他の構成および作用効果は、第1実施例と同様である。
【0180】
なお、本開示のリング状素材の製造方法を実施する場合には、内輪3に関しても、軸方向寸法の仕上げ、面取り部の形成、およびバリの除去のうちの少なくとも一部の作業を、仕上工程で行うこともできる。
【0181】
たとえば、本開示の製造方法を実施する場合には、
図7(e)のリング状部材20A、
図7(f)のリング状部材20B、および
図7(g)のリング状部材20Cのうち、いずれかのリング状部材に対して、切削加工、研削加工などを施す仕上工程を適用することにより、完成形状を有する内輪3を得ることもできる。
【0182】
[第7実施例]
第7実施例について、
図8を用いて説明する。
【0183】
本例では、シェービング加工のタイミングが第1実施例と異なる。本例では、
図2(e)に示す工程の後に、
図8(a)に示すように、パンチ14iを用いてシェービング加工を行う。このシェービング加工は、
図2(h)の工程と同様である。また、本例では、シェービング加工の後に、
図8(b)に示すように、パンチ14jを用いてリング状部材20jの本体部22jを軸方向に圧縮する。この圧縮加工は、
図2(f)の工程と同様である。本例では、第1実施例と異なり、バリを除去する工程を備えず、バリ23を備えたリング状部材20jを得る。必要に応じて、バリ23は、後工程で除去することができる。
【0184】
[第8実施例]
第8実施例について、
図9を用いて説明する。
【0185】
本例では、シェービング加工のタイミングは、第1実施例と異なり、第7実施例と同様である。また、円板状の第1素材11(
図2(b)参照)から有底円筒状の第2素材15を得るための加工として、
図3に示す、前方押し出し加工を採用する。本例では、シェービング加工の後に、
図9に示すように、パンチ14kを用いてリング状部材20kの本体部22kを軸方向に圧縮する。この圧縮加工は、
図6の工程と同様である。本例では、第1実施例と異なり、バリを除去する工程を備えず、バリ23を備えたリング状部材20kを得る。必要に応じて、バリ23は、後工程で除去することができる。
【0186】
[第9実施例]
第9実施例について、
図10を用いて説明する。
【0187】
図10(a)に示す工程の一例において、パンチングツールPT1を用いて、
図2(b)の例と異なる形状を有するワークピースWpが形成される。
図10(a)において、第1工程での加工後のワークピースWpは、第1軸面と、第2軸面と、外周面と、を含む略円柱形状(略円板形状)を有し、さらに、径方向外方領域において互いに厚みが異なる第1部分81と第2部分82とを有する。一例において、第1部分81の厚み(軸長さ)に比べて、第2部分82の厚み(軸長さ)が大きい。第2部分82は、第1部分81に比べて径方向外方に位置する。
図10(a)の例において、ワークピースWpは、径方向外方領域において、軸方向に突出した凸部80を含む第2部分82を含む。ダイスユニットの一面には、溝85が設けられている。素材がパンチ14mで押しつぶされた際に、材料の一部が溝85内に流動し、ワークピースWpの径方向外方領域において厚み変化(大厚部、大容量部)が形成される。例えば、最終的なリング状部材の形態パラメータ及び他の工程での加工パラメータ等に基づいて、パンチングツールPT1が設計され、ワークピースWpの初期段階の形状が設定される。こうした初期段階での形状制御により、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0188】
図10(b)に示す後方押し出し加工の一例において、ダイスユニット12nの支持面に支持されたワークピースWpに対してパンチ14n(第1部材)が相対的に移動する。ダイスユニット12nの支持面に近づくように、パンチ14nが軸方向に移動する。ワークピースWpとパンチ14nとの間の軸方向の相対移動に伴って、ワークピースWpの径方向内方領域にパンチ14nが押し付けられ、パンチ14nの先端部分がワークピースWpに挿入される。材料の一部がワークピースWpの径方向内方から径方向外方に向かって流動する。また、ワークピースWpの径方向外方領域において、パンチ14nの移動方向と反対方向に材料が流動する(後方流動)。ワークピースWpにおいて、径方向内方領域の厚みが減少するとともに、径方向外方領域の厚みが増大する。ワークピースWpの径方向内方領域に窪み(凹部)16Bが形成され、径方向外方領域に窪み16Bを囲う周辺部15Bが形成される。周辺部15Bの軸長さの拡大に伴い、ワークピースWpの全体の軸長さ(第1軸端と第2軸端との間の距離)が拡大する。
【0189】
図10(c)に示す工程の一例において、パンチ14pは、先端部71と、中間部72と、軸方向において先端部71と中間部72との間に位置する整形部73と、を有する。例えば、先端部71は、第1外径を有する。第1外径は、打ち抜き前のワークピースWpの底部17の大きさと同程度の大きさに設定される。中間部72は、第2外径を有する。第2外径は、底部17の大きさに比べて大きく設定される。整形部73は、パンチ14pの中心軸に対して傾いた傾斜面を有する。例えば、整形部73の傾斜面は、先端部71の側から中間部72の側に向かうに従って径が徐々に拡大する。他の例において、整形部73は、上記とは異なる形状を有することができる。例えば、整形部73は、段差形状及び/又は湾曲形状を有することができる。
【0190】
図10(c)において、
図2(d)の例と同様に、ワークピースWpとパンチ14pとの間の相対移動において、窪みの底部17Bがパンチ14pを用いて打ち抜かれ、リング状部材18B(ワークピースWp)が形成される。ワークピースWpは、開口18zを囲む本体部18p(周壁Cw)を有する。追加的に、打ち抜きと実質的同時に、又は、打ち抜きの直後に、パンチ14pの整形部73がワークピースWpに押し当てられ、ワークピースWpの形状が変化する。パンチ14pの相対移動において、整形部73との接触に応じてワークピースWpの材料が流動する。例えば、周壁Cwにおける第1軸面AX1と内周面との角部に傾斜面18yが形成される。
【0191】
図10(d)及び
図10(e)に示す工程の一例において、
図2(e)の例と同様に、周壁Cwの外径の拡大が抑制された状態で、パンチ14sの加工部40yが周壁Cwの内周面に押し付けられ、周壁Cwの内径が拡大する。軸方向及び周方向の全体にわたり、外径が維持された状態で、周壁Cwの内径が拡大する。周壁Cwの全体の厚みが小さくなるとともに、周壁Cwの軸長さが拡大する。
【0192】
ここで、
図10(d)に示すパンチ14sを用いた加工に先立って、ダイユニットにセットされるワークピースWpの向きが反転される。すなわち、
図10(c)に示す工程では、ワークピースWpの第2軸面AX2がダイユニットに支持され、第1軸面AX1の側からパンチ14がワークピースWpに挿入される。一方、
図10(d)に示す工程では、第1軸面AX1がダイユニットに支持され、第2軸面AX2の側からパンチ(第3部材)14sがワークピースに挿入される。
【0193】
図10(d)に示すように、加工前のワークピース(Wp)は、第1軸面に近い部分において厚みが小さく容量が小さい。また、第2軸面に近い部分において厚みが大きく容量が大きい。この工程において、容量の大きい第1軸面AX1の側からパンチ(第3部材)14sがワークピースWpに挿入される。パンチ14sの軸方向の移動に従って、材料が第2軸面AX2の側から第1軸面AX1の側に移動する流動が生じる。パンチ14sの軸方向への移動に伴い、材料の一部が容量の大きい部分から容量の小さい部分に流動する。こうした材料の流動に基づき、周壁の軸方向の全体にわたって材料の容量(厚み)が均一化される。その結果、
図10(e)に示すような、バリを実質的に有しないリング状部材20sが得られる。本例では、バリの発生が抑制されるなど、材料使用効率(材料歩留まり)の向上が図られる。また、材料の流動形態に基づき、製品の品質向上(例えば製品の強度向上など)が図られる。
【0194】
上述した実施の形態の各例は、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0195】
1 転がり軸受
2 外輪
3 内輪
4 転動体
5 外輪軌道
6 内輪軌道
7 保持器
8 面取り部
9 面取り部
10、10A ビレット
11、11A 第1素材
12、12a、12A ダイス
13、13a、13b、13A ダイスピン
14、14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14h、14A、14B パンチ
15、15A 第2素材
16、16A 凹部
17、17A 底部
18、18A 第3素材
19、19a、19b、19c、19A スリーブ
20、20a、20b、20c、20d、20e、20f、20g、20h、20A、20B、20C、20D リング状部材
21 しごき面
22、22a、22b、22c、22d、22A、22B、22C 本体部
23、23a、23A バリ
24 小径円筒面部
25 大径円筒面部
26 面取り加工面
27 バリ倒し面
28A、28B 本体部
29A、29B 小径部
30A、30B 面取り加工面
31 余肉部
【要約】
リング状部材の製造方法は、ワークピース(Wp)を用意する工程と、ワークピース(Wp)に第1部材(14a)を押し付けて軸方向の深さを有する窪み(16)をワークピース(Wp)に形成する工程と、第2部材(14b)を用いてワークピース(Wp)の窪み(16)の底部(17)を打ち抜く工程と、ワークピース(Wp)と第3部材(14c)との間の相対移動に伴って周壁(Cw)を変形させる工程とを有する。