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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】アルデヒド組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20240910BHJP
   C07C 45/62 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 47/228 20060101ALI20240910BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C11B9/00 K
C07C45/62
C07C47/228
C07B61/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024528752
(86)(22)【出願日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2023021085
(87)【国際公開番号】W WO2023243499
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022098365
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】西内 潤也
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-523641(JP,A)
【文献】国際公開第2021/075517(WO,A1)
【文献】仏国特許発明第1460826(FR,A)
【文献】特表2016-530227(JP,A)
【文献】特表2018-502057(JP,A)
【文献】ISHIKAWA, Y. et al.,Molecular Orbital Approach to Odor Molecules: Normal Fatty Acids and Cyclamenaldehydes,International Journal of Quantum Chemistry,(2000), vol.79, no.2,pp.101-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00 - 9/02
C07C45/62
C07C47/228
C07B61/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であるアルデヒド組成物。
【化1】
【請求項2】
下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10である、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【化2】
【請求項3】
下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下である、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【化3】
【請求項4】
下記式(1)で表されるアルデヒド、下記式(2)で表されるアルデヒド、及び下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%である、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【化4】
【請求項5】
式(1)および式(2)で表されるアルデヒドの合計純度が97質量%以上である、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【請求項6】
下記式(3)で表されるアルコールを0.01~0.90質量%含む、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【化5】
【請求項7】
下記式(5)で表されるスルホン酸エステルを0.01~0.90質量%含む、請求項1に記載のアルデヒド組成物。
【化6】
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物を含有する、香料組成物。
【請求項9】
イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程
をこの順で有する、請求項1に記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【化7】
【請求項10】
イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
パラトルエンスルホン酸触媒存在下で、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、
得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、
酸触媒存在下で加水分解して、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程
をこの順で有する、請求項1に記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【化8】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルデヒド組成物、その製造方法、及び該アルデヒド組成物を含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドである3-フェニルプロパナール類のなかには、調合香料原料として有用なものがあることが知られている。
たとえば、非特許文献1には、ヒヤシンス様バルサミック、グリーン香を有するフェニルプロピオンアルデヒド(3-フェニルプロパナール)、スズラン様の香気を有する3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール(p-tert-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、リリアール)、メロン、キュウリ的な感じのシクラメン、スズラン様の香気を有する3-(p-イソプロピルフェニル)-2-メチルプロパナール(シクラメンアルデヒド)、甘いヘリオトロープ、アニス様フローラル香を有する3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-2-メチルプロパナール(ヘリオナール)等が調合香料原料として有用であることが記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、シクラメン型の匂いを有するパラ-イソブチルジヒドロシナミックアルデヒドの製造方法が開示されている。下記製造方法によれば、パラ異性体を68~70%含む生成物が得られることが開示されている。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】印藤元一著、「増補改訂版 合成香料 化学と商品知識」、1996年、211ページ、213~215ページ、228ページ、化学工業日報社
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭42-009135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように3-フェニルプロパナール類には、特徴のある香気を有するものがあるが、フレグランス製品、化粧料、洗剤、衛生用製品、雑貨、医薬品、食品等の製品の価値を高めるため、新たな香りが必要とされている。
また、特許文献1には、パラ-イソブチルジヒドロシナミックアルデヒド(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール)の前記製造方法と、パラ異性体を70重量%含む生成物の香料組成物について記載されているが、その詳細な組成と香りの関係については検討されていない。
そこで、本発明の課題は、新規な香りを有し、香料として有用であるアルデヒド組成物、及び香料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各種アルデヒド組成物を製造し、その香気を評価したところ、特定のアルデヒド組成物が、優れた香りを有すること、及び香料組成物の原料として優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であるアルデヒド組成物。
【化2】

[2]下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10である、前記[1]に記載のアルデヒド組成物。
【化3】

[3]下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下である、前記[1]又は[2]に記載のアルデヒド組成物。
【化4】

[4]下記式(1)で表されるアルデヒド、下記式(2)で表されるアルデヒド、及び下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%である前記[1]又は[2]に記載のアルデヒド組成物。
【化5】

[5]式(1)および式(2)で表されるアルデヒドの合計純度が97質量%以上である、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物。
[6]下記式(3)で表されるアルコールを0.01~0.90質量%含む、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物。
【化6】

[7]下記式(5)で表されるスルホン酸エステルを0.01~0.90質量%含む、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物。
【化7】

[8]前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物を含有する、香料組成物。
[9]イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程
をこの順で有する、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【化8】

[10]イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
パラトルエンスルホン酸触媒存在下で、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、
得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、
酸触媒存在下で加水分解して、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程
をこの順で有する、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のアルデヒド組成物の製造方法。
【化9】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有するため、香料として有用であるアルデヒド組成物を提供することができる。更に該アルデヒド組成物を含有することで、拡散性に優れる香料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0011】
[アルデヒド組成物]
本発明のアルデヒド組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001である。
【化10】
【0012】
上記アルデヒド組成物は、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有し、香料組成物に拡散性(diffusibility)を付与できる。
【0013】
本発明のアルデヒド組成物は、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを含有するものであり、これら2成分のみを本発明のアルデヒド組成物を構成する成分としてもよいが、実際には該アルデヒド組成物を製造する際に生成する副生成物や原料が含まれることがある。
そのため、本発明のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの合計純度は、好ましくは97質量%以上であり、より好ましくは97.5質量%以上であり、更に好ましくは98質量%以上である。上限値には制限はなく、100質量%以下であればよく、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドのみからなっていてもよい。
以下に本発明のアルデヒド組成物の好ましい実施形態について説明する。
【0014】
[アルデヒド組成物(第一の実施形態)]
本発明のアルデヒド組成物のうち、好ましい実施形態である第一の実施形態であるアルデヒド組成物(以下第一のアルデヒド組成物ともいう。)は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10である。
【化11】
【0015】
第一のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、97.00/3.00~99.90/0.10であり、好ましくは98.00/2.00~99.90/0.10であり、より好ましくは98.50/1.50~99.90/0.10であり、更に好ましくは99.00/1.00~99.80/0.20であり、より更に好ましくは99.20/0.80~99.70/0.30である。
第一のアルデヒド組成物は、前記のようにグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有し、更に強いフローラル感を有するという特徴を有するため香料として有用である。
【0016】
[アルデヒド組成物(第二の実施形態)]
本発明のアルデヒド組成物のうち、好ましい実施形態である第二の実施形態であるアルデヒド組成物(以下第二のアルデヒド組成物ともいう。)は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下である。
【0017】
なお、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下であれば、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0質量%、すなわち、下記式(4)で表されるエステルを含有しない場合も第二のアルデヒド組成物に含まれるが、下記式(4)で表されるエステルを含有することが好ましい。
よって、第二のアルデヒド組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、下記式(4)で表されるエステルを含有しないか、又は下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下であることが好ましく、下記式(1)で表されるアルデヒド、下記式(2)で表されるアルデヒド、及び下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下であることがより好ましい。
なお、第二のアルデヒド組成物は、第一のアルデヒド組成物に含まれることがある。つまり、第二のアルデヒド組成物であり、かつ第一のアルデヒド組成物であるアルデヒド組成物も本発明のアルデヒド組成物に含まれる。
第二のアルデヒド組成物であり、かつ第一のアルデヒド組成物であるアルデヒド組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下である。
【化12】
【0018】
第二のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、97.00/3.00~99.999/0.001であり、好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、更に好ましくは99.50/0.50~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.96/0.04~99.997/0.003である。
また、第二のアルデヒド組成物における前記式(4)で表されるエステルの含有量は、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以下である。下限値には制限はなく、前記式(4)で表されるエステルを含まない場合も第二のアルデヒド組成物に含まれるが、好ましくは0.0001質量%以上であり、より好ましくは0.001質量%以上であり、更に好ましくは0.01質量%以上である。
第二のアルデヒド組成物は、前記のようにグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有し、更に強いアルデヒド感を有するという特徴を有するため香料として有用である。前記式(4)で表されるエステルは、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを製造する際の副生成物として得られる場合もあり、その場合には、前記式(4)で表されるエステルを添加しなくても第二のアルデヒド組成物を得ることができるが、前記式(4)で表されるエステルを含まないアルデヒド組成物に前記式(4)で表されるエステルを添加して第二のアルデヒド組成物を得てもよい。また、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを製造する際の副生成物として得られる前記式(4)で表されるエステルが、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%を超える場合には、蒸留精製やクロマトグラフィーによって、0.10質量%以下としてもよい。
【0019】
[アルデヒド組成物(第三の実施形態)]
本発明のアルデヒド組成物のうち、好ましい実施形態である第三の実施形態であるアルデヒド組成物(以下第三のアルデヒド組成物ともいう。)は、下記式(1)で表されるアルデヒド、下記式(2)で表されるアルデヒド、及び下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%である。
なお、第三のアルデヒド組成物は、第一のアルデヒド組成物に含まれることがある。つまり、第三のアルデヒド組成物であり、かつ第一のアルデヒド組成物であるアルデヒド組成物も本発明のアルデヒド組成物に含まれる。
第三のアルデヒド組成物であり、かつ第一のアルデヒド組成物であるアルデヒド組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%である。
【化13】
【0020】
第三のアルデヒド組成物における前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]は、97.00/3.00~99.999/0.001であり、好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、更に好ましくは99.00/1.00~99.995/0.005であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.99/0.01であり、より更に好ましくは99.92/0.08~99.98/0.02である。
また、第三のアルデヒド組成物における前記式(4)で表されるエステルの含有量は、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%であり、好ましくは0.50~1.00質量%であり、より好ましくは0.50~0.80質量%である。
第三のアルデヒド組成物は、前記のようにグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有し、更にパウダリー感を有するという特徴を有するため香料として有用である。前記式(4)で表されるエステルは、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを製造する際の副生成物として得られる場合もあり、その場合には、前記式(4)で表されるエステルを添加しなくても第三のアルデヒド組成物を得ることができるが、前記式(4)で表されるエステルを含まないアルデヒド組成物に前記式(4)で表されるエステルを添加して第三のアルデヒド組成物を得てもよい。
【0021】
[その他の成分]
本発明のアルデヒド組成物は、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、前記式(4)で表されるエステルを含んでいてもよいが、次に示すその他の成分を更に含んでいてもよく、これらの成分を含むことで、香料として用いたときに、香りにバリエーションを持たせることができるため、好ましい。
なお、本項で説明するその他の成分は、前記第一のアルデヒド組成物、前記第二のアルデヒド組成物及び前記第三のアルデヒド組成物に共通である。
【0022】
本発明のアルデヒド組成物は、下記式(3)で表されるアルコールを0.01~0.90質量%含んでいてもよい。
【化14】

本発明のアルデヒド組成物における前記式(3)で表されるアルコールの含有量は、好ましくは0.01~0.90質量%であり、より好ましくは0.01~0.50質量%であり、更に好ましくは0.01~0.30質量%である。前記式(3)で表されるアルコールは、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを製造する際の副生成物として得られる場合もあるが、前記式(3)で表されるアルコールを含まないアルデヒド組成物に添加してもよい。
【0023】
本発明のアルデヒド組成物は、下記式(5)で表されるスルホン酸エステルを0.01~0.90質量%含んでいてもよい。
【化15】

本発明のアルデヒド組成物における前記式(5)で表されるエステルの含有量は、好ましくは0.01~0.90質量%であり、より好ましくは0.01~0.50質量%であり、更に好ましくは0.01~0.30質量%である。前記式(5)で表されるエステルは、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを製造する際の副生成物として得られる場合もあるが、前記式(5)で表されるエステルを含まないアルデヒド組成物に添加してもよい。
【0024】
本発明のアルデヒド組成物は、上述の組成を有し、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有するため、香料として有用である。
また、前記アルデヒド組成物は、香料組成物の原料としても有用であり、各種製品の香気成分として用いることができ、香料組成物に拡散性を付与することができる。
【0025】
[香料組成物]
本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物を含有する。
すなわち、本発明の香料組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であるアルデヒド組成物を含有する。
【化16】

本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物の有するグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有しつつも、拡散性に優れる。そのため、各種製品の香気成分として有用である。
【0026】
本発明の香料組成物は、好ましい実施形態として、前記第一のアルデヒド組成物を含有する。
すなわち、本発明の好ましい香料組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.90/0.10であるアルデヒド組成物を含有する。
【化17】

前記第一のアルデヒド組成物を含有する本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物の有するグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りと更に強いフローラル感を有しつつも、拡散性に優れる。そのため、各種製品の香気成分として有用である。
【0027】
本発明の香料組成物は、好ましい実施形態として、前記第二のアルデヒド組成物を含有する。
すなわち、本発明の好ましい香料組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.10質量%以下であるアルデヒド組成物を含有する。
【化18】

前記第二のアルデヒド組成物を含有する本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物の有するグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りと更に強いフローラル感を有し、更に強いアルデヒド感を有しつつも、拡散性に優れる。そのため、各種製品の香気成分として有用である。
【0028】
本発明の香料組成物は、好ましい実施形態として、前記第三のアルデヒド組成物を含有する。
すなわち、本発明の好ましい香料組成物は、下記式(1)で表されるアルデヒド、下記式(2)で表されるアルデヒド、及び下記式(4)で表されるエステルを含有し、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であり、下記式(4)で表されるエステルの含有量が、式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの合計量に対し、0.50~2.00質量%であるアルデヒド組成物を含有する。
【化19】

前記第三のアルデヒド組成物を含有する本発明の香料組成物は、前記アルデヒド組成物の有するグリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りと更に強いフローラル感を有し、更にパウダリー感を有しつつも、拡散性に優れる。そのため、各種製品の香気成分として有用である。
【0029】
本発明の香料組成物における前記アルデヒド組成物の含有量は、香料組成物の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により適宜調整すればよく、好ましくは0.01~90質量%であり、より好ましくは0.1~50質量%である。
【0030】
前記アルデヒド組成物を含有する香料組成物に含有される、前記アルデヒド組成物以外のその他の成分としては、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤等が挙げられ、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、界面活性剤、溶媒、酸化防止剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましく、式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料、及び溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つがより好ましい。
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料を含有することで、目的の製品に合わせて香りを調整することができる。また、溶媒を含有することで、目的の製品に溶解、含浸させることが容易となり、香りの強さや香りの持続性を調整することができる。
【0031】
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料は、従来公知な香料成分であれば特に制限はなく、広い範囲の香料が使用でき、例えば下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。
【0032】
式(1)で表されるアルデヒド又は式(2)で表されるアルデヒド以外の香料としては、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、ケタール類、エーテル類、ニトリル類、ラクトン類、天然精油、天然抽出物等が挙げられる。
【0033】
炭化水素類としては、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-t-ブチルシクロヘキサノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等が挙げられる。
フェノール類としては、オイゲノール、チモール、バニリン等が挙げられる。
エステル類としては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等が挙げられる。
【0034】
アルデヒド類としては、n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-t-ブチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
ケトン類としては、メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等が挙げられる。
アセタール類及びケタール類としては、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール等が挙げられる。
エーテル類としては、アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキシド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等が挙げられる。
ニトリル類としては、シトロネリルニトリル等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等が挙げられる。
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、サンダルウッド、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等が挙げられる。
【0035】
また、溶媒としては、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルミリステート、トリエチルシトレート等が挙げられる。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテル等が挙げられる。
【0036】
前記アルデヒド組成物を含有する香料組成物は、各種製品の香気成分として使用することができる。
香料組成物を使用することができる製品としては、例えば、香水、コロン類等のフレグランス製品;シャンプー、リンス類、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ムース、ジェル、ポマード、スプレーその他毛髪用化粧料;化粧水、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、各種メークアップ類等の肌用化粧料;皿洗い洗剤、洗濯用洗剤、ソフトナー類、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、室内芳香剤、ファニチャーケア、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、殺菌剤、忌避剤、その他の各種健康衛生用洗剤類;歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、パーマ液等の医薬部外品;トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の雑貨;医薬品等;食品等が挙げられる。
【0037】
上記製品中の香料組成物の配合量は特に限定されず、賦香すべき製品の種類、性質及び官能的効果などに応じて、香料組成物の配合量を選択することができる。例えば、製品中の香料組成物の配合量は、好ましくは0.00001質量%以上であり、より好ましくは0.0001質量%以上であり、更に好ましくは0.001質量%以上である。また、好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下であり、より更に好ましくは40質量%以下である。
なお、香料組成物をアロマオイル、香水等として用いる場合には、製品中の香料組成物の配合量は、80質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0038】
[アルデヒド組成物の製造方法]
本発明のアルデヒド組成物は、上述のとおり、前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを含有し、それらの質量比[(1)/(2)]が97.00/3.00~99.999/0.001であれば、製造方法には制限がないが、次に示す製造方法によって得ることが好ましい。
本発明のアルデヒド組成物の好ましい製造方法として、以下に2つの方法を示す。
【0039】
(第一の製造方法)
第一の製造方法は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程をこの順で有するアルデヒド組成物の製造方法である。
【化20】
【0040】
(第二の製造方法)
第二の製造方法は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
パラトルエンスルホン酸触媒存在下で、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、
得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、
酸触媒存在下で加水分解して、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程をこの順で有するアルデヒド組成物の製造方法である。
【化21】

以下に各製造方法について説明する。
【0041】
<第一の製造方法>
第一の製造方法は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドとをアルドール縮合させて、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程をこの順で有するアルデヒド組成物の製造方法である。
【化22】
【0042】
(ホルミル化工程)
第一の製造方法における最初の工程は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程である。「超強酸条件下」とは、反応に超強酸触媒を使用することを意味する。
【0043】
超強酸触媒はブレンステッド酸とルイス酸との組合せによるものが好ましい。
ブレンステッド酸は特に限定されないが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素が好ましく、フッ化水素がより好ましい。
ルイス酸は特に限定されないが、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムが好ましく、三フッ化ホウ素がより好ましい。
触媒の回収・再利用、ホルミル基の位置選択制の観点から、フッ化水素及び三フッ化ホウ素の組合せが更に好ましい。
【0044】
ブレンステッド酸としてフッ化水素を用いる場合、フッ化水素は、反応の溶媒としての機能をも有する。フッ化水素としては、反応性の観点から、実質的に無水のフッ化水素が好ましい。なお、「実質的に無水である」とは、水の含有量が5質量%以下であることを意味し、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。
イソブチルベンゼンに対するフッ化水素のモル比[フッ化水素(モル)/イソブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは10.0以上であり、そして、経済性及び生産効率の観点から、好ましくは30.0以下であり、より好ましくは20.0以下であり、更に好ましくは15.0以下である。
【0045】
ルイス酸として三フッ化ホウ素を用いる場合、イソブチルベンゼンに対する三フッ化ホウ素のモル比[三フッ化ホウ素(モル)/イソブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.0以下である。
【0046】
反応温度は、反応性を向上させ、副反応を抑制し、ホルミル基が導入される位置の選択制を向上させる観点から、好ましくは-50℃以上であり、より好ましくは-40℃以上であり、更に好ましくは-30℃以上であり、そして、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、更に好ましくは-10℃以下である。
【0047】
イソブチルベンゼンと一酸化炭素との反応は、加圧下で行うことが好ましい。反応時の圧力は、反応性を向上させ、かつ、副反応を抑制する観点から、一酸化炭素の分圧として、好ましくは1.0MPaG以上であり、より好ましくは1.5MPaG以上であり、更に好ましくは1.8MPaG以上であり、そして、好ましくは3.0MPaG以下であり、より好ましくは2.5MPaG以下あり、更に好ましくは2.2MPaG以下である。
【0048】
本反応(ホルミル化反応)において、反応時間は特に限定されないが、十分に反応を進行させ、かつ、副反応や生成物の分解を抑制すると共に、効率的に製造する観点から、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは20分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは5時間以下である。
【0049】
また、本反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、反応原料の溶解性が良好であり、かつ、フッ化水素及び三フッ化ホウ素等の酸触媒に対して不活性な溶媒であれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素が例示される。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、反応の均一性、反応速度、及び溶媒除去の観点から、適宜選択すればよい。なお、本工程において、フッ化水素を使用する場合、フッ化水素は溶媒としても機能するため、溶媒は使用しなくてもよい。
【0050】
上記の反応は、回分式、半回分式、連続式等のいずれの方法でもよいが、触媒の回収・再利用が可能である点、及び生産効率の観点から、連続式であることが好ましい。
また、製造方法に使用する装置は、加圧下で、温度を調整しつつ、液相と気相とが十分に混合できる反応装置である。
例えば、連続式では、まず始めに撹拌装置付反応器に、フッ化水素及び三フッ化ホウ素を仕込み、内容物を撹拌し液温を好適な温度に設定し、温度を一定に保つような状態にした後、一酸化炭素により、好適な反応圧力に昇圧し、圧力を一定に保つように一酸化炭素を供給できる状態にする。その後、必要により溶媒に溶かしたイソブチルベンゼンを供給する半回分式の反応を行う。更に続けて、フッ化水素、三フッ化ホウ素、及び必要に応じて溶媒に溶かしたイソブチルベンゼンを供給開始し、反応生成液を連続的に抜き出す。
得られた4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを含む反応生成液からフッ化水素及び三フッ化ホウ素を除き、必要に応じて、蒸留や抽出によって精製することで目的とする4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る。
【0051】
得られた4-イソブチルベンズアルデヒドに、2-イソブチルベンズアルデヒドが含有される場合、更に精製を行い、より高純度の4-イソブチルベンズアルデヒド、及びより高純度の2-イソブチルベンズアルデヒドを得てもよく、これらの混合物のまま次の工程の原料として用いてもよい。
特に4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]が、97.00/3.00~99.999/0.001である場合、そのまま原料として用いることで、最終生成物の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)])が97.00/3.00~99.999/0.001にすることができるため、好ましい。
4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]は、目的とする香りによって調整することが好ましく、たとえば、前記第一のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.90/0.10であり、より好ましくは98.00/2.00~99.90/0.10であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.90/0.10であり、より更に好ましくは99.00/1.00~99.80/0.20であり、より更に好ましくは99.20/0.80~99.70/0.30である。前記第二のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、より更に好ましくは99.50/0.50~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.96/0.04~99.997/0.003である。前記第三のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、より更に好ましくは99.00/1.00~99.995/0.005であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.99/0.01であり、より更に好ましくは99.92/0.08~99.98/0.02である。
なお、最終生成物の位置異性体の質量比は、本工程に限らず、本製造方法におけるいずれの工程でも調整することができる。具体的には、目的とするアルデヒドに対応する各工程の原料の位置異性体の比率を調整すればよい。
【0052】
(アルドール縮合を使用するシンナミックアルデヒド合成工程)
第一の製造方法において、次の工程は、前工程で得られた4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドと、アセトアルデヒドとをアルドール縮合させて、前記式(6)で表されるアルデヒド及び前記式(7)で表されるアルデヒド(イソブチルシンナミックアルデヒド)を得る工程である。
【0053】
本工程のアルドール縮合反応は、塩基性化合物を触媒として用いることが好ましい。
触媒として用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム及びこれらの混合物などが例示される。塩基性化合物の量は、原料であるイソブチルベンズアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.05モル以上であり、より好ましくは0.1モル以上であり、更に好ましくは0.2モル以上であり、そして、好ましくは3モル以下であり、より好ましくは1モル以下であり、更に好ましくは0.5モル以下である。
【0054】
アセトアルデヒドの添加量は、原料である4-イソブチルベンズアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.5モル以上であり、より好ましくは0.8モル以上であり、そして、好ましくは1.5モル以下であり、より好ましくは1.1モル以下である。アセトアルデヒドの添加は、逐次的又は連続的に時間をかけて行うことが好ましく、例えば、滴下により行うことが好ましい。
【0055】
本工程のアルドール縮合反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、水混和性の各種有機溶媒が例示され、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコールが好ましく例示され、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジエチレングリコールがより好ましい。
【0056】
本工程のアルドール縮合反応における反応温度は特に限定されないが、反応速度の観点から、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、そして、副反応を抑制する観点から、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。
また、反応時間は特に限定されず、縮合が十分に行われる時間であればよいが、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは30分間以上であり、更に好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは6時間以下であり、より更に好ましくは4時間以下である。
【0057】
反応の停止は、中和により行えばよく、例えば、酢酸等の酸を添加することで、反応を停止させることができる。
【0058】
また、反応終了後の溶液から前記式(6)で表されるアルデヒド及び前記式(7)で表されるアルデヒドを単離する方法は特に限定されず、分液及び抽出操作、蒸留精製を適宜組み合わせて行えばよい。
例えば、反応終了後の溶液に低極性又は無極性の有機溶媒を添加し、油相に前記アルデヒド混合物を移相して、得られた油相を、例えば硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過によって得られたろ液を濃縮し、更に、蒸留精製することで単離することができる。
【0059】
(水素添加工程)
第一の製造方法において、次の工程は、水素添加を行い前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程である。
本水素添加工程は、前工程で得られた、前記式(6)で表されるアルデヒド及び式(7)で表されるアルデヒド(イソブチルシンナミックアルデヒド)に水素添加して、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを含有するアルデヒド組成物を得る工程である。
【0060】
水素添加の方法は特に限定されないが、水素添加触媒を用いた公知の方法により行うことができる。
水素添加触媒としては、特に限定されず、公知の触媒を使用することができ、例えば、Ni、Pt、Pd、Ru等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水素添加触媒;Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水素添加触媒;Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水素添加触媒等を用いることができる。
【0061】
本工程における水素添加反応の温度は、反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
水素添加反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.01MPaG以上であり、より好ましくは0.03MPaG以上であり、更に好ましくは0.05MPaG以上であり、そして、好ましくは10MPaG以下であり、より好ましくは3MPaG以下であり、更に好ましくは1MPaG以下であり、より更に好ましくは0.5MPaG以下である。
反応時間は、特に限定されないが、好ましくは3分間以上であり、より好ましくは10分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは8時間以下である。
【0062】
水素添加反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、水素添加反応を阻害しない限り特に限定されないが、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
反応終了後の溶液から、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを精製する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して行えばよい。具体的には、ろ過、クロマトグラフィー、蒸留精製等が例示され、これらを適宜組み合わせて精製することで純度の高い目的のアルデヒド又はアルデヒド組成物を得ることができる。
上述のとおり、ホルミル化工程の生成物として、4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]が、97.00/3.00~99.999/0.001である場合、そのまま原料として用いて、最終生成物の位置異性体の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)])が97.00/3.00~99.999/0.001にすることが好ましいが、水素添加工程後の生成物あるいはそれを生成した精製物を用いて前記範囲に調整してもよく、最終的に得られる質量比が前記範囲であればよい。
【0064】
<第二の製造方法>
第二の製造方法は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程、
パラトルエンスルホン酸触媒存在下で、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、
得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、
酸触媒存在下で加水分解して、下記式(6)で表されるアルデヒド及び下記式(7)で表されるアルデヒドを得る工程、並びに
水素添加を行い下記式(1)で表されるアルデヒド及び下記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程をこの順で有するアルデヒド組成物の製造方法である。
【化23】
【0065】
(ホルミル化工程)
第二の製造方法における最初の工程は、イソブチルベンゼンを超強酸条件下、一酸化炭素によってホルミル化して4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る工程である。本ホルミル化工程は、第一の製造方法におけるホルミル化工程と同じであり、好ましい条件も同じである。以下に具体的なホルミル化工程を説明する。なお、「超強酸条件下」とは、反応に超強酸触媒を使用することを意味する。
【0066】
超強酸触媒はブレンステッド酸とルイス酸との組合せによるものが好ましい。
ブレンステッド酸は特に限定されないが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素が好ましく、フッ化水素がより好ましい。
ルイス酸は特に限定されないが、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムが好ましく、三フッ化ホウ素がより好ましい。
触媒の回収・再利用、ホルミル基の位置選択制の観点から、フッ化水素及び三フッ化ホウ素の組合せが更に好ましい。
【0067】
ブレンステッド酸としてフッ化水素を用いる場合、フッ化水素は、反応の溶媒としての機能をも有する。フッ化水素としては、反応性の観点から、実質的に無水のフッ化水素が好ましい。なお、「実質的に無水である」とは、水の含有量が5質量%以下であることを意味し、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。
イソブチルベンゼンに対するフッ化水素のモル比[フッ化水素(モル)/イソブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは10.0以上であり、そして、経済性及び生産効率の観点から、好ましくは30.0以下であり、より好ましくは20.0以下であり、更に好ましくは15.0以下である。
【0068】
ルイス酸として三フッ化ホウ素を用いる場合、イソブチルベンゼンに対する三フッ化ホウ素のモル比[三フッ化ホウ素(モル)/イソブチルベンゼン(モル)]は、一酸化炭素との反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.0以下である。
【0069】
反応温度は、反応性を向上させ、副反応を抑制し、ホルミル基が導入される位置の選択制を向上させる観点から、好ましくは-50℃以上であり、より好ましくは-40℃以上であり、更に好ましくは-30℃以上であり、そして、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、更に好ましくは-10℃以下である。
【0070】
イソブチルベンゼンと一酸化炭素との反応は、加圧下で行うことが好ましい。反応時の圧力は、反応性を向上させ、かつ、副反応を抑制する観点から、一酸化炭素の分圧として、好ましくは1.0MPaG以上であり、より好ましくは1.5MPaG以上であり、更に好ましくは1.8MPaG以上であり、そして、好ましくは3.0MPaG以下であり、より好ましくは2.5MPaG以下あり、更に好ましくは2.2MPaG以下である。
【0071】
本反応(ホルミル化反応)において、反応時間は特に限定されないが、十分に反応を進行させ、かつ、副反応や生成物の分解を抑制すると共に、効率的に製造する観点から、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは20分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは5時間以下である。
【0072】
また、本反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、反応原料の溶解性が良好であり、かつ、フッ化水素及び三フッ化ホウ素等の酸触媒に対して不活性な溶媒であれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素が例示される。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、反応の均一性、反応速度、及び溶媒除去の観点から、適宜選択すればよい。なお、本工程において、フッ化水素を使用する場合、フッ化水素は溶媒としても機能するため、溶媒は使用しなくてもよい。
【0073】
上記の反応は、回分式、半回分式、連続式等のいずれの方法でもよいが、触媒の回収・再利用が可能である点、及び生産効率の観点から、連続式であることが好ましい。
また、製造方法に使用する装置は、加圧下で、温度を調整しつつ、液相と気相とが十分に混合できる反応装置である。
例えば、連続式では、まず始めに撹拌装置付反応器に、フッ化水素及び三フッ化ホウ素を仕込み、内容物を撹拌し液温を好適な温度に設定し、温度を一定に保つような状態にした後、一酸化炭素により、好適な反応圧力に昇圧し、圧力を一定に保つように一酸化炭素を供給できる状態にする。その後、必要により溶媒に溶かしたイソブチルベンゼンを供給する半回分式の反応を行う。更に続けて、フッ化水素、三フッ化ホウ素、及び必要に応じて溶媒に溶かしたイソブチルベンゼンを供給開始し、反応生成液を連続的に抜き出す。
得られた4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを含む反応生成液からフッ化水素及び三フッ化ホウ素を除き、必要に応じて、蒸留や抽出によって精製することで目的とする4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドを得る。
【0074】
得られた4-イソブチルベンズアルデヒドに、2-イソブチルベンズアルデヒドが含有される場合、更に精製を行い、より高純度の4-イソブチルベンズアルデヒド、及びより高純度の2-イソブチルベンズアルデヒドを得てもよく、これらの混合物のまま次の工程の原料として用いてもよい。
特に4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]が、97.00/3.00~99.999/0.001である場合、そのまま原料として用いることで、最終生成物の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)])が97.00/3.00~99.999/0.001にすることができるため、好ましい。
4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]は、目的とする香りによって調整することが好ましく、たとえば、前記第一のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.90/0.10であり、より好ましくは98.00/2.00~99.90/0.10であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.90/0.10であり、より更に好ましくは99.00/1.00~99.80/0.20であり、より更に好ましくは99.20/0.80~99.70/0.30である。前記第二のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、より更に好ましくは99.50/0.50~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.998/0.002であり、より更に好ましくは99.96/0.04~99.997/0.003である。前記第三のアルデヒド組成物を得ることを目的とする場合、好ましくは97.00/3.00~99.999/0.001であり、より好ましくは98.00/2.00~99.999/0.001であり、更に好ましくは98.50/1.50~99.999/0.001であり、より更に好ましくは99.00/1.00~99.995/0.005であり、より更に好ましくは99.90/0.10~99.99/0.01であり、より更に好ましくは99.92/0.08~99.98/0.02である。
なお、最終生成物の位置異性体の質量比は、本工程に限らず、本製造方法におけるいずれの工程でも調整することができる。具体的には、目的とするアルデヒドに対応する各工程の原料の位置異性体の比率を調整すればよい。
【0075】
(Muller-Conradi-Pieroh条件を使用するシンナミックアルデヒド合成工程)
第二の製造方法において、次の工程は、パラトルエンスルホン酸触媒存在下で、前工程で得られた4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させる工程、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させる工程、及び酸触媒存在下で加水分解して、前記式(6)で表されるアルデヒド及び前記式(7)で表されるアルデヒド(イソブチルシンナミックアルデヒド)を得る工程である。
本工程は、Muller-Conradi-Pieroh条件を使用してイソブチルシンナミックアルデヒドを合成する工程である。
【0076】
本工程の最初の工程であるアセタール化工程は、具体的には下記式で示される。
【化24】
【0077】
前記式(9)で表される4-イソブチルベンズアルデヒド及び前記式(10)で表される2-イソブチルベンズアルデヒドをアセタール化させて、それぞれ前記式(11)で表されるアセタール及び前記式(12)で表されるアセタールを得る。
【0078】
アセタール化は公知の方法を用いて行うことが出来る。例えば、パラトルエンスルホン酸触媒下にてメタノール又はエタノールを反応させる方法や、パラトルエンスルホン酸触媒下にてオルトギ酸トリエチルと反応させる方法が挙げられる。
【0079】
次に、得られたアセタールを酸触媒下でアルキルビニルエーテルと反応させ、アルキルビニルエーテルを付加する工程を有する。
【0080】
アルキルビニルエーテル付加工程は、具体的には下記式で示される。
【化25】

(式中、Rは炭素数2~8のアルキル基を表す)
【0081】
前記式(11)で表されるアセタール及び前記式(12)で表されるアセタールを、酸触媒の存在下アルキルビニルエーテルと反応させることにより、アルキルビニルエーテルを付加し、それぞれ前記式(13)で表されるアセタール及び前記式(14)で表されるアセタールを得る。
【0082】
アルキルビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の炭素数2~8のアルキル基を有するビニルエーテルが好ましい。なかでも、反応性の観点から、より好ましくはエチルビニルエーテル及びプロピルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0083】
本アルキルビニルエーテル付加工程で用いられる酸触媒としては、特に限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、トルエンスルホン酸等をブレンステッド酸や、三弗化ホウ素、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のルイス酸を用いることができる。
【0084】
アルキルビニルエーテルの添加量は、反応収率の観点から基質(アセタール)に1モルに対して1モル以上が好ましく、1.2モル以上がより好ましい。更に、経済性の観点から2モル以下が好ましく、1.7モル以下がより好ましい。
【0085】
反応温度は、反応性の観点から0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。また、副反応を抑制する観点から、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0086】
次に、前記アルキルビニルエーテル付加工程で得られたアセタールを、酸触媒下で加水分解する工程を有する。
【0087】
加水分解工程は、具体的には下記式で示される。
【0088】
【化26】

(式中、Rは炭素数2~8のアルキル基を表す)
【0089】
前記式(13)で表されるアセタール及び前記式(14)で表されるアセタールを、酸触媒の存在下で加水分解することにより、それぞれ前記式(6)で表されるアルデヒド及び前記式(7)で表されるアルデヒドを得る。
【0090】
本加水分解工程で用いられる酸触媒としては、特に限定されないが、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、トルエンスルホン酸等を用いることができる。
また、酸触媒の添加量は、加水分解反応の効率の観点から、基質(アセタール)に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、3質量%以上が更に好ましい。更に副反応を抑制する観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0091】
反応温度は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。更に、還流下で行うことが好ましい。また、100℃以下が好ましい。
【0092】
(水素添加工程)
第二の製造方法において、次の工程は、水素添加を行い前記式(1)で表されるアルデヒド及び前記式(2)で表されるアルデヒドを得る工程である。
本水素添加工程は、前工程で得られた、前記式(6)で表されるアルデヒド及び式(7)で表されるアルデヒド(イソブチルシンナミックアルデヒド)に水素添加して、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを含有するアルデヒド組成物を得る工程である。本水素添加工程は、第一の製造方法における水素添加工程と同じであり、好ましい条件も同じである。具体的な水素添加工程を以下に説明する。
【0093】
水素添加の方法は特に限定されないが、水素添加触媒を用いた公知の方法により行うことができる。
水素添加触媒としては、特に限定されず、公知の触媒を使用することができ、例えば、Ni、Pt、Pd、Ru等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水素添加触媒;Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水素添加触媒;Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水素添加触媒等を用いることができる。
【0094】
本工程における水素添加反応の温度は、反応性及び副反応を抑制する観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上であり、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
水素添加反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.01MPaG以上であり、より好ましくは0.03MPaG以上であり、更に好ましくは0.05MPaG以上であり、そして、好ましくは10MPaG以下であり、より好ましくは3MPaG以下であり、更に好ましくは1MPaG以下であり、より更に好ましくは0.5MPaG以下である。
反応時間は、特に限定されないが、好ましくは3分間以上であり、より好ましくは10分間以上であり、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは12時間以下であり、更に好ましくは8時間以下である。
【0095】
水素添加反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。使用する溶媒としては、水素添加反応を阻害しない限り特に限定されないが、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
反応終了後の溶液から、目的物である式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドを精製する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して行えばよい。具体的には、ろ過、クロマトグラフィー、蒸留精製等が例示され、これらを適宜組み合わせて精製することで純度の高い目的のアルデヒド又はアルデヒド組成物を得ることができる。
上述のとおり、ホルミル化工程の生成物として、4-イソブチルベンズアルデヒドと2-イソブチルベンズアルデヒドとの質量比[4-イソブチルベンズアルデヒド/2-イソブチルベンズアルデヒド]が、97.00/3.00~99.999/0.001である場合、そのまま原料として用いて、最終生成物の位置異性体の質量比を前記範囲(式(1)で表されるアルデヒド及び式(2)で表されるアルデヒドの質量比[(1)/(2)])が97.00/3.00~99.999/0.001にすることが好ましいが、水素添加工程後の生成物あるいはそれを生成した精製物を用いて前記範囲に調整してもよく、最終的に得られる質量比が前記範囲であればよい。
【実施例
【0097】
以下に示す実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0098】
[分析・評価]
<ガスクロマトグラフィー分析(組成の分析)>
後述する各工程での組成、生成物の組成、及び組成物の組成は、ガスクロマトグラフ(GC-2010Plus、株式会社島津製作所製)を用いて、n-デカン(試薬グレード、富士フィルム和光純薬株式会社製)を内部標準物質として検量線を作成することにより、求めた。
なお、キャピラリーカラムとして、アジレント・テクノロジー株式会社製のHR-1701(内径0.32mmφ、長さ30m)を用いた。昇温プログラムは、100℃から5℃/分の割合で280℃まで昇温し、30分間保持した。
【0099】
<香り・香調の評価>
実施例及び比較例で得られたアルデヒド組成物、及び香料組成物の香り及び香調は、幅8mm、長さ15cmのろ紙に含浸し、専門のパネラーが嗅ぐ方法で評価した。
なお、香調のうち、フローラル感について、実施例1を基準として、同等のものをA、実施例1より強いものをA+、実施例1より弱いものをB、フローラル感がないものをCとした。
また、香調のうち、アルデヒド感について、実施例1を基準として、同等のものをA、実施例1より強いものをA+、実施例1より弱いものをB、アルデヒド感がないものをCとした。
更に、香調のうち、パウダリー感について、パウダリー感を有するものにPを付した。
【0100】
<匂いの閾値の評価>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)をジプロピレングリコールで10ppm、1ppm、0.1ppm、0.01ppm、0.001ppmの濃度にそれぞれ希釈し、幅8mm、長さ15cmのろ紙に含浸し、専門のパネラーが嗅ぐ方法で匂いを判別できる下限濃度を評価した。下限濃度が低いほど、匂いの閾値が低く、香気の強さ及び拡散性に優れる。
【0101】
<残香性の評価>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を幅8mm、長さ15cmのろ紙に含浸し、1週間ごとに専門のパネラーが嗅ぐ方法で匂いを検知できる最長期間を評価した。匂いを検知できる最長期間が長いほど、残香性に優れる。
【0102】
<発がん性予測試験>
実施例で得られたアルデヒド組成物、及びリリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)を用い、OECD231GDに基づいて形質転換試験(Bhas42細胞を用いたIn Vitroでの発がん性予測試験)を実施し、発がん性が陰性であるか、陽性であるかを判断した。本試験の結果が陰性であれば、発がん性の原因となる可能性がないと予測され、安全性が高い。
【0103】
[原料の合成]
製造例1(イソブチルベンズアルデヒドの合成)
磁力誘導式撹拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を制御できる内容積10Lのステンレス製オートクレーブを用いて下記の合成を行った。まずオートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した後、フッ化水素(森田化学工業株式会社製、1128g、56.4モル)、三フッ化ホウ素(ステラケミファ株式会社製、765g、11.3モル)を仕込み、液温を-25℃とした後、一酸化炭素にて2MPaまで加圧した。反応温度を-25℃に保持し、かつ反応圧力を2MPaに保ちながら、イソブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、946g、7.05モル)をオートクレーブ上部より60分間かけて供給し、一酸化炭素の吸収が認められなくなるまで約30分間撹拌を継続した。オートクレーブ内の反応混合液を氷水中に抜液した。抜液したものをよく振り混ぜた後、油層を分液した。得られた油層部を水洗した後、得られた油層部を理論段数20段の精留塔を使用して蒸留精製し(95℃、3Torr)、イソブチルベンズアルデヒド(純度99.5質量%、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-イソブチルベンズアルデヒド)/(2-イソブチルベンズアルデヒド)]=99.95/0.05、650g)を無色透明の液体として得た。
【0104】
製造例2(イソブチルベンズアルデヒドの合成)
磁力誘導式撹拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を制御できる内容積500mLのステンレス製オートクレーブを用いて下記の合成を行った。まずイソブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、100g、0.75モル)、1,2-ジクロロエタン(富士フィルム和光純薬株式会社製、295g)、塩化アルミニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、149g)、37%塩酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、1.0g)を仕込み、オートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した。液温を20℃とした後、一酸化炭素にて2MPaまで加圧した。反応温度を20℃に保持し、かつ反応圧力を2MPaに保ちながら、一酸化炭素の吸収が認められなくなるまで約60分間撹拌を継続した。オートクレーブ内の反応混合液を氷水中に抜液した。抜液したものをよく振り混ぜた後、油層を分液した。得られた油層部を水洗した後、得られた油層部を理論段数20段の精留塔を使用して蒸留精製し(95℃、3Torr)、イソブチルベンズアルデヒド(純度99.5質量%、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-イソブチルベンズアルデヒド)/(2-イソブチルベンズアルデヒド)]=99.0/1.0、50g)を無色透明の液体として得た。
【0105】
製造例3(イソブチルベンズアルデヒドの合成)
磁力誘導式撹拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を制御できる内容積10Lのステンレス製オートクレーブを用いて下記の合成を行った。まずイソブチルベンゼン(東京化成工業株式会社製、1000g、7.5モル)、1,2-ジクロロエタン(富士フィルム和光純薬株式会社製、2950g)、塩化アルミニウム(富士フィルム和光純薬株式会社製,1490g)、37%塩酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、10g)を仕込み、オートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した。液温を20℃とした後、一酸化炭素にて2MPaまで加圧した。反応温度を20℃に保持し、かつ反応圧力を2MPaに保ちながら、一酸化炭素の吸収が認められなくなるまで約60分間撹拌を継続した。オートクレーブ内の反応混合液を氷水中に抜液した。抜液したものをよく振り混ぜた後、油層を分液した。得られた油層部を水洗した後、得られた油層部を理論段数20段の精留塔を使用して蒸留精製し(96~97℃、3Torr)、イソブチルベンズアルデヒド(純度98.5質量%、4-イソブチルベンズアルデヒド及び2-イソブチルベンズアルデヒドの質量比[(4-イソブチルベンズアルデヒド)/(2-イソブチルベンズアルデヒド)]=95.5/4.5、205g)を無色透明の液体として得た。
【0106】
[アルデヒド組成物の製造]
実施例1(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:アルドール縮合を使用する方法)
(アルドール縮合工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積1000mLの丸底フラスコに、メタノール(400.0g)、水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、18.1g)、製造例1で得られたイソブチルベンズアルデヒド(200.0g)を仕込み、撹拌しながら10℃に冷却した後、アセトアルデヒド(富士フィルム和光純薬株式会社製、56.4g)を3時間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で1時間保持し、反応を完了させた。酢酸(16.4g)を添加して中和した後、水、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(154~161℃/7torr)し、3-(イソブチルフェニル)プロペナール(54.0g、純度94.0質量%)を得た。
【0107】
(水素添加工程)
前記アルドール縮合工程にて得られた3-(イソブチルフェニル)プロペナール(50.0g)、2-プロパノール(30.0g)、5%パラジウム-カーボン触媒(エヌ・イー・ケム・キャット社製、含水品、PEタイプ、0.5g)を、磁力誘導式撹拌機を備え、ジャケットにより内部温度を制御できる200mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、25℃、水素圧0.05MPaで5時間撹拌して水素添加反応を行った。反応液を濾過して触媒を除き、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して1torrにて精留し、108~110℃の留分として、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(8.0g、質量比[3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール/3-(2-イソブチルフェニル)プロパナール]=99.95/0.05)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0108】
実施例2(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:Muller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法)
(Muller-Conradi-Pieroh条件によるアセタールへのエチルビニルエーテル付加工程)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を備えた内容積300mLの丸底フラスコに、トリエチルオルトギ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、87.2g)、製造例1で得られたイソブチルベンズアルデヒド(86.0g)を仕込み、撹拌しながら10℃に冷却した後、パラトルエンスルホン酸一水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.5g)を添加し、25℃へ昇温した。25℃で30分間保持した。その後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.2g)を添加し、エチルビニルエーテル(東京化成工業株式会社製、57.3g)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を継続して反応を完了させた。酢酸ナトリウム(4.0g)を添加して中和した後、低沸成分を留去した。得られた粗反応液に37%塩酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、8.0g)、水(50.0g)を添加し、90℃へ昇温して24時間撹拌を継続した。その後、ヘプタンを加えて分液にて水相を分離した。次いで、ヘプタンを留去して、粗中間体を得た。この粗中間体を単蒸留し(156~161℃/7torr)し、3-(イソブチルフェニル)プロペナール(54.0g、純度95.4質量%)を得た。
【0109】
(水素添加工程)
前工程で得られた3-(イソブチルフェニル)プロペナール(50.0g)、2-プロパノール(30.0g)、5%パラジウム-カーボン触媒(エヌ・イー・ケム・キャット社製、含水品、PEタイプ、0.5g)を、磁力誘導式撹拌機を備え、ジャケットにより内部温度を制御できる200mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、25℃、水素圧0.05MPaで5時間撹拌して水素添加反応を行った。反応液を濾過して触媒を除き、ヘプタンを加えて振とうし、分液して水相を分離除去した。次いで、ヘプタンを留去して、粗組成物を得た。粗組成物を理論段数20段の精留塔を使用して1torrにて精留し、108~110℃の留分として3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(9.3g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0110】
実施例3(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:Muller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法)
(Muller-Conradi-Pieroh条件によるアセタールへのエチルビニルエーテル付加工程)
パラトルエンスルホン酸一水和物を3.5g使用し、トリエチルオルトギ酸と反応後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加しないこと以外は実施例2と同様の方法で3-(イソブチルフェニル)プロペナール(52.0g、純度94.4質量%)を得た。
【0111】
(水素添加工程)
前工程で得られた3-(イソブチルフェニル)プロペナール(50.0g)を用い、実施例2と同様の方法により、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(9.0g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0112】
実施例4(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造)
カラムクロマトグラフィーを用いて、実施例1で得られた組成物の3-(4-イソブチルフェニル)プロパナールの含有量を高めることで、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(0.9g)を得た(質量比[3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール/3-(2-イソブチルフェニル)プロパナール]=99.996/0.004)。香り・香調評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
実施例5(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:Muller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法)
(Muller-Conradi-Pieroh条件によるアセタールへのエチルビニルエーテル付加工程)
製造例2で得られたイソブチルベンズアルデヒド(50.0g)を用いた以外は実施例2と同様の方法により、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(8.0g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0114】
実施例6
実施例2で得られたアルデヒド組成物と実施例5で得られたアルデヒド組成物とを1:1の質量比で混合し、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0115】
実施例7(3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物の製造:Muller-Conradi-Pieroh条件を使用する方法)
(Muller-Conradi-Pieroh条件によるアセタールへのエチルビニルエーテル付加工程)
製造例1で得られたイソブチルベンズアルデヒド(50.0g)を用い、実施例2と同様の方法により、粗反応液を得た。得られた粗反応液をそのまま水素添加工程に用いた。
(水素添加工程)
前工程で得られた粗反応液(50.0g)を用い、実施例2と同様の方法により、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(4.0g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0116】
実施例8
カラムクロマトグラフィーを用いて、実施例2で得られた組成物のエステル化合物(式(4))の含有量を高めることで、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(0.8g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0117】
実施例9
実施例3で得られたアルデヒド組成物にパラトルエンスルホン酸エチル(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加する方法により、アルデヒド組成物を調製した。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0118】
実施例10
実施例1で得られたアルデヒド組成物と比較例1で得られたアルデヒド組成物とを6:4の質量比で混合し、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0119】
比較例1
製造例3で得られたイソブチルベンズアルデヒド(200.0g)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、3-(4-イソブチルフェニル)プロパナール及び3-(2-イソブチルフェニル)プロパナールを含有するアルデヒド組成物(7.0g)を得た。得られたアルデヒド組成物の香り・香調評価の結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
実施例のアルデヒド組成物は、グリーン、アルデヒド、フローラル感のバランスに優れた香りを有していた。更に第一のアルデヒド組成物(実施例5及び6)は、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有しつつ、更に強いフローラル感を有していた。また、第二のアルデヒド組成物(実施例1、4及び10)は、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有しつつ、更に強いアルデヒド感を有していた。第三のアルデヒド組成物(実施例2及び8)は、グリーン、アルデヒド、フローラルのバランスに優れた香りを有しつつ、更にパウダリー感を有していた。以上のように、実施例のアルデヒド組成物は、優れた香りを有するため香料として有用であることがわかる。
【0122】
[匂いの閾値の評価、残香性の評価、及び発がん性予測試験]
実施例1のアルデヒド組成物の匂いの閾値の評価、残香性の評価、発がん性予測試験を行った。また、比較例2として、リリアール(Lilial、3-(p-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロパナール)の匂いの閾値の評価、残香性の評価、及び発がん性予測試験を行った。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例のアルデヒド組成物は、構造及び香調の類似するリリアールよりも匂いの閾値が低く、香気の強さ及び拡散性に優れることがわかる。また、実施例のアルデヒド組成物は、リリアールよりも残香性に優れていることがわかる。さらに、実施例のアルデヒド組成物は、発がん性予測試験で陰性となっており、安全性にも優れていることがわかる。
【0125】
実施例11及び比較例3(レモングラス様の香料組成物)
実施例11として、実施例1のアルデヒド組成物を、1質量%となるように、表3に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。また、比較例3として、MEFRANAL(3-メチル-5-フェニル-1-ペンタナール、Aldehyde,Green感を有するFloral香。)を、1質量%となるように、表3に示す調合香料ベースに対して添加し、香り・香調評価を行った。
【0126】
【表3】
【0127】
香り・香調評価の結果、実施例11の香料組成物は、香調が硬い印象のMEFRANALより柔らかいナチュラル感が出て、全体的にもやさしいフローラル感を追加する効果があった。また、拡散性が比較例3の香料組成物を大きく上回るものであった。
【0128】
表3の結果から、更に前記アルデヒド組成物を含有する本発明の香料組成物は、前記の香りが高まり、更に拡散性に優れるものであることがわかる。すなわち、本発明のアルデヒド組成物は、香料組成物に対して、前記の香りに加え、拡散性を付与できることがわかる。