(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】車両用フードロック装置
(51)【国際特許分類】
E05B 83/24 20140101AFI20240910BHJP
E05B 85/26 20140101ALI20240910BHJP
B62D 25/12 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
E05B83/24 Z
E05B85/26
B62D25/12 N
(21)【出願番号】P 2020183840
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝則
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153079(JP,A)
【文献】特表2016-503473(JP,A)
【文献】特表2019-505703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 77/00-85/28
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカが進退可能なストライカ進入溝を有するベースプレートに回動可能に支持されると共に、前記ストライカに係合したプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置を経て前記ストライカが離脱可能なアンラッチ位置に回動可能で、か
つプライマリラッチ部及
びセカンダリラッチ部を有するラッチと、
前記ベースプレートに回動可能に支持されると共に、前記プライマリラッチ部及び前記セカンダリラッチ部
の各々に係合可能な爪部を有し、かつ解除操作手段の操作に応じて前記爪部が前記プライマリラッチ部又は前記セカンダリラッチ部に係合した係合位置から解除方向へ回動可能なラチェットと、を備え、
前記ラッチは、前記爪部が前記プライマリラッチ部に係合することにより
前記プライマリラッチ位置に保持され、前記爪部が前記セカンダリラッチ部に係合することにより
前記セカンダリラッチ位置に保持され、前記爪部が前記セカンダリラッチ部から離脱することにより
前記アンラッチ位置に回動し、
前記爪部は、前記解除操作手段の1回目の操作に応じて前記プライマリラッチ部から離脱した場合には、その直後に前記セカンダリラッチ部に係合し、前記解除操作手段の2回目の操作に応じて前記セカンダリラッチ部から離脱した場合には、前記ラッチの
前記アンラッチ位置への回動を可能にした車両用フードロック装置において、
前記ラッチは、
前記プライマリラッチ位置から
前記セカンダリラッチ位置に回動する際、
前記プライマリラッチ位置と
前記セカンダリラッチ位置との間の中間位置において、前記ラチェットに設けた当接部に当接することにより、前記ラチェットを
、前記爪部が前記ラッチに係合する係合方向へ向けて強制回動させる強制係合付与部
であって、山形状に突出し、先端部が凸曲面状に形成された形状を呈する強制係合付与部を有
し、
前記当接部は、前記強制係合付与部側に突出する形状であって、前記強制係合付与部に対向する側部が凹曲面状に形成された突出形状を呈しており、
前記ラッチは、前記プライマリラッチ位置から前記セカンダリラッチ位置に回動する際、前記中間位置において、前記強制係合付与部の凸曲面状に形成された先端部が、前記当接部の凹曲面状に形成された側部に対して当接し、そのまま前記当接部の先端部に向かって滑りながら前記ラッチの回動方向に移動することにより、前記ラチェットを前記係合方向へ向けて徐々に強制回動させることを特徴とする車両用フードロック装置。
【請求項2】
前記当接部の凹曲面状に形成された側部の曲率は、前記強制係合付与部の凸曲面状に形成された先端部の曲率より小さく、前記ラッチが前記中間位置にあるとき、前記当接部の側部は、前記強制係合付与部の先端部の回動軌跡と斜めに交差する位置にあることを特徴とする請求項1記載の車両用フードロック装置。
【請求項3】
前記強制係合付与部を、前記ラッチにおける前記ストライカが係合する係合溝の上側に設けたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の車両用フードロック装置。
【請求項4】
前記当接部
は、前記ラチェットの回転中心の近傍に
設けられていることを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項に記載の車両用フードロック装置。
【請求項5】
前記当接部は、前記爪部が前記プライマリラッチ部又はセカンダリラッチ部に完全に係合した位置にあるとき、前記強制係合付与部の移動軌跡外に退避し、前記ラチェットが
前記係合位置から解除方向へ向けて回動した場合、前記強制係合付与部の移動軌跡内に進入することを特徴とする請求項1~
4の
いずれか1項に記載の車両用フードロック装置。
【請求項6】
前記爪部は、前記強制係合付与部が前記当接部に当接することにより、前記ラッチが
前記プライマリラッチ位置から
前記セカンダリラッチ位置に達する前に、前記セカンダリラッチ部の移動軌跡内に進入することを特徴とする請求項1~
5のいずれか
1項に記載の車両用フードロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフードに用いられる車両用フードロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両用フードロック装置においては、自動車等の車両のエンジンルーム内のラジエタコアサポートに取り付けられ、車体に上下方向に開閉自在に枢支されたフードに設けられたストライカと係合するプライマリラッチと、ストライカに係合しているプライマリラッチに係合することにより、フードを全閉位置に保持するラチェットと、プライマリラッチから離脱したストライカに係合することで、フードを全閉位置から僅かに開いた半開位置に保持するためのセカンダリラッチとを備える。フードを開ける場合には、安全性の観点から、運転席近傍に配置されるオープナハンドルの操作に応じて、ラチェットとラッチとの係合を解除してフードを半開位置とする第1の操作と、フードを半開位置とした状態でユーザが車両の前方に移動して、フードの前端とラジエータグリルとの間の隙間に手を差し入れて、セカンダリラッチに設けたハンドル部を操作する第2の操作とを必要とする(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上述のような車両用フードロック装置においては、第2の操作においてユーザが車外からフードとラジエータグリルとの間の隙間から手を差し入れてセカンダリラッチのハンドル部を手探りで探して操作する必要があるため、特に、フードロック装置が奥まった位置に配置されるようなデザインの車両にあっては、ハンドル部を探し難く操作性が非常に悪いという欠点を有する。
【0004】
上記欠点を解消した発明としては、例えば、特許文献2に記載されているようなものがある。
特許文献2に記載の発明の車両用フードロック装置は、特許文献1に記載されているようなセカンダリラッチを省略して、主の要素として、フード側のストライカ(特許文献2においては「ロックホルダ2」)に係合可能であって、プライマリラッチ部(同じく「プライマリラチェット19」)及びセカンダリラッチ部(同じく「プリラチェット16」)を有するラッチ(同じく「回転ラッチ4」)と、プライマリラッチ部に係合することで、ラッチをプライマリラッチ位置(同じく「プライマリラチェット位置」)に保持し、セカンダリラッチ部に係合することで、ラッチをセカンダリラッチ位置(同じく「プリラッチ位置」)に保持するラチェット(同じく「爪部3」)と、を備える。
【0005】
フードを開ける場合には、先ず、車室内からの操作スイッチの1回目の操作に基づいて、電気駆動装置によりラチェットを解除作動させることでプライマリラッチ部から離脱させて、ラッチのアンラッチ位置(同じく「開錠位置」)へ向けての回動を許可する。その際、ラッチがリフトスプリング(同じく「回転ラッチ用バネ9」)の付勢力によりプライマリラッチ位置からアンラッチ位置に向けて一気に回転しないように、ラチェットが解除作動した状態にあるとき、セカンダリラッチ部の端部をラチェットに設けたストッパ部(同じく「停止表面22」)に当接させて、ラッチをプライマリラッチ位置とセカンダリラッチとの間の中間位置に強制的に一旦停止させる。この状態で、ラチェットが係合方向に回転してセカンダリラッチ部に係合することで、ラッチをセカンダリラッチ位置に保持する。ラッチがセカンダリラッチ位置に保持されている状態においては、ストライカがラッチに係合していることから、フードは、全閉位置よりも僅かに開いた第1半開位置に保持される。
【0006】
続いて、車室内からの操作スイッチの2回目の操作で、電気駆動装置を再び駆動させて、ラチェットをラッチのセカンダリラッチ部から離脱させて、ラッチのアンラッチ位置への回動を許可する。これにより、ラッチは、リフトスプリングの付勢力によりアンラッチ位置に回動し、フードを第1半開位置から第2半開位置(第1半開位置からさらに僅かに開いた位置)に上昇させる。ラッチがアンラッチ位置に回動した状態においては、ストライカは、ラッチから容易に外れる状態にある。したがって、ユーザは、車両の前方からフードをそのまま持ち上げることで、フードを開けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-116797号公報
【文献】特表2019-505703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の発明にあっては、ラチェットをラッチのプライマリラッチ部から外した際、ラチェットをセカンダリラッチ部に確実に係合させる必要があるため、ラッチが中間位置に強制停止されるように、セカンダリラッチ部の端部をラチェットのストッパ部に当接させなければならない。しかし、この場合、ラッチは、リフトスプリングの大きな付勢力により、アンラッチ位置へ向けて勢いよく回動して、セカンダリラッチ部の端部がラチェットのストッパ部に大きな力で衝突するため、大きな衝突音を発生し品質低下を招く問題点を有する。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、大きな衝突音の発生を極力抑えて、ラチェットをラッチのセカンダリラッチ部に対して確実に係合可能とした車両用フードロック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
ストライカが進退可能なストライカ進入溝を有するベースプレートに回動可能に支持されると共に、前記ストライカに係合したプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置を経て前記ストライカが離脱可能なアンラッチ位置に回動可能で、かつ前記プライマリラッチ部及び前記セカンダリラッチ部を有するラッチと、前記ベースプレートに回動可能に支持されると共に、前記プライマリラッチ部及び前記セカンダリラッチ部に係合可能な爪部を有し、かつ解除操作手段の操作に応じて前記爪部が前記プライマリラッチ部又は前記セカンダリラッチ部に係合した係合位置から解除方向へ回動可能なラチェットと、を備え、前記ラッチは、前記爪部が前記プライマリラッチ部に係合することによりプライマリラッチ位置に保持され、前記爪部が前記セカンダリラッチ部に係合することによりセカンダリラッチ位置に保持され、前記爪部が前記セカンダリラッチ部から離脱することによりアンラッチ位置に回動し、前記爪部は、前記解除操作手段の1回目の操作に応じて前記プライマリラッチ部から離脱した場合には、その直後に前記セカンダリラッチ部に係合し、前記解除操作手段の2回目の操作に応じて前記セカンダリラッチ部から離脱した場合には、前記ラッチのアンラッチ位置への回動を可能にした車両用フードロック装置において、前記ラッチは、プライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置に回動する際、プライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との間の中間位置において、前記ラチェットに設けた当接部に当接することにより、前記ラチェットを係合方向へ向けて強制回動させる強制係合付与部を有することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記強制係合付与部を、前記ラッチにおける前記ストライカが係合する係合溝の上側に設ける。
【0012】
好ましくは、前記当接部を、前記ラチェットの回転中心の近傍にあって、前記強制係合付与部に向けて突出する形状を呈するものとする。
【0013】
好ましくは、前記当接部は、前記爪部が前記プライマリラッチ部又はセカンダリラッチ部に完全に係合した位置にあるとき、前記強制係合付与部の移動軌跡外に退避し、前記ラチェットが係合位置から解除方向へ向けて回動した場合、前記強制係合付与部の移動軌跡内に進入する。
【0014】
好ましくは、前記爪部は、前記強制係合付与部が前記当接部に当接することにより、前記ラッチがプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置に達する前に、前記セカンダリラッチ部の移動軌跡内に進入する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、解除操作手段の操作に基づいて、ラッチがプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置に回動する際、プライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との間の中間位置においてラチェットを係合方向へ強制作動させるため、大きな衝突音を発生することなく、ラチェットをラッチのセカンダリラッチ部に確実に係合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る車両用フードロック装置を装着した自動車の斜め前方から見た斜視図である。
【
図2】ラッチがプライマリラッチ位置に保持されているときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図3】ラッチがプライマリラッチ位置にあって、ラチェットが解除方向へ作動したときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図4】ラチェットがプライマリラッチ部から離脱した状態の車両用フードロック装置の正面図である。
【
図5】ラッチがプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置へ向けて回動している状態の車両用フードロック装置の正面図である。
【
図6】ラチェットが係合方向へ強制作動させられているときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図7】ラッチがセカンダリラッチ位置に保持されているときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図8】ラッチがアンラッチ位置の直前位置に回動したときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図9】ラッチがアンラッチ位置にあるときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図10】ラッチがアンラッチ位置からラッチ方向へ回動しているときの車両用フードロック装置の正面図である。
【
図12】ラッチがプライマリラッチ位置に達する直前の車両用フードロック装置の正面図である。
【
図13】ラッチ及びラチェットの形状を変更した例を示す車両用フードロック装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る車両用フードロック装置1は、
図1に示すように、自動車等の車両Vのエンジンルーム内のラジエータコアサポート(以下、「車体」という)に取り付けられ、後部が車体に上下方向に開閉自在に枢支されたフードHの前部に設けられたストライカSに係合することによりフードHを全閉位置に保持し、解除操作手段をなす運転席近傍に配置される手動式のオープナハンドル10の操作に基づいてフードHの開放を可能にする。
【0018】
図2~12に示すように、車両用フードロック装置1は、車体に固定される金属製のベースプレート2を備え、ベースプレート2に、ストライカSに係合可能なラッチ3及びリフトレバー4と、ラッチ3に対して係合可能なラチェット5と、リフトレバー4を介してラッチ3に対してリフト方向(時計方向)への付勢力を付与するリフトスプリング6と、ラチェット5に対して係合方向(反時計方向であって、ラチェット5がラッチ3に対して係合する方向)への付勢力を付与するラチェットスプリング7とを配置することにより構成される。
【0019】
ベースプレート2には、中央上部にフードHの開閉作動に伴って、ストライカSが進退し得るように上方が開口したストライカ進入溝21が設けられる。
【0020】
ラッチ3は、前後方向を向くラッチ軸8によりベースプレート2におけるストライカ進入溝21の右側に所定角度回動可能に支持されると共に、フードHの開作動時には、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力により、
図2に示すプライマリラッチ位置からアンラッチ方向(時計方向)へ回動して、
図7に示すセカンダリラッチ位置を経て
図9に示すアンラッチ位置に回動し、フードHの閉作動時には、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力に抗して、ストライカ進入溝21に進入したストライカSが係合溝31に係合することにより、
図9に示すアンラッチ位置からラッチ方向(反時計方向)へ回動して
図2に示すプライマリラッチ位置に回動する。
【0021】
さらに、ラッチ3は、係合溝31の他に、係合溝31の下側に設けられ、プライマリラッチ位置にあるときラチェット5の爪部51が係合するプライマリラッチ部32と、プライマリラッチ部32の下側(反時計方向側)に設けられ、セカンダリラッチ位置にあるときラチェット5の爪部51が係合するセカンダリラッチ部33と、係合溝31の上側(時計方向側)に設けられる強制係合付与部34とを有する。
【0022】
強制係合付与部34は、ラッチ3の外周にあって、遠心方向へ山形状に突出する形状を呈して、ラッチ3がプライマリラッチ位置からアンラッチ方向へ向けて回動した場合、プライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との中間位置(
図6に示す位置)において、ラチェット5を強制的に係合方向(反時計方向)に向けて回動させることで、ラチェット5の爪部51をセカンダリラッチ部33に確実に係合させる機能を有する。
【0023】
なお、本実施形態における説明では、ラッチ3のプライマリラッチ位置は、フードHが完全に閉じた全閉位置に対応し、ラッチ3のセカンダリラッチ位置は、フードHが全閉位置よりも僅かに開いた第1半開位置に対応し、ラッチ3のアンラッチ位置は、フードHが第1半開位置よりもさらに僅かに開いた第2半開位置(フードHの前端とラジエータグリルとの間の隙間に手を差し入れ可能な程度の位置)に対応する。
【0024】
リフトレバー4は、自体とベースプレート2との間にラッチ3を挟み込むように、ラッチ軸8によりベースプレート2の後面側に所定角度回動可能に支持されて、リフトスプリング6の付勢力によりリフト方向(時計方向)へ付勢されると共に、ラッチ3に対して回転方向に若干の遊びを介して連結される。リフトスプリング6の付勢力は、ラッチ3をプライマリラッチ位置からアンラッチ位置まで回動させる力として作用すると共に、フードHを全閉位置から第2半開位置まで持ち上げるリフト力としても作用する。
【0025】
前述のラッチ3に対するリフトレバー4の回動方向への若干の遊びは、ラッチ3に後方へ突出するように設けた突部35をリフトレバー4に設けた連結孔41に対して回動方向に若干の遊びが生じるように係合させることにより達成される。
【0026】
リフトレバー4には、ラッチ3の後側に重なり合うと共に、ラッチ3の係合溝31に下方から若干進入可能なリフトアーム部42が設けられる。フードHが全閉位置にあって、
図2に示すように、ラッチ3がプライマリラッチ位置に保持されている場合、リフトアーム部42は、リフトスプリング6の強力な付勢力により、ラッチ3の係合溝31に係合しているストライカSを係合溝31の上縁に対して強く押し付けることで、係合溝31内でのストライカSのガタ付き、ひいてはフードHのガタ付きを抑止する。
【0027】
ラチェット5は、上端部が前後方向を向くラチェット軸9によりベースプレート2におけるストライカSが進退し得るように上方が開口したストライカ進入溝21の左側に所定角度回動可能に支持されると共に、上下方向の中央部に設けた段差状の爪部51と、ラチェット軸9の周辺近傍にあって、強制係合付与部34に向けて突出する形状を呈する当接部52とを有し、ラチェットスプリング7の付勢力により爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32又はセカンダリラッチ部33に係合する係合方向(反時計方向)に付勢される。
【0028】
当接部52は、ベースプレート2におけるストライカ進入溝21の左側にあって、ラチェット5が係合位置(爪部51がプライマリラッチ部32又はセカンダリラッチ部33に完全に係合した位置)にある場合には、ラッチ3における強制係合付与部34の移動軌跡L1外に退避した位置にあるが、ラチェット5が係合位置から解除方向(爪部51がプライマリラッチ部32又はセカンダリラッチ部33から離脱する方向)へ所定量回動すると、強制係合付与部34の移動軌跡L1内に進入し、ラッチ3がプライマリラッチ位置からアンラッチ方向へ回動する際、プライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との間の中間位置において強制係合付与部34に当接する。強制係合付与部34がラッチ3の回動に伴って当接部52に対して下側から当接して滑りながら上方移動すると、当接部52がラチェット軸9を中心に反時計方向へ徐々に強制回動させられるため、ラチェット5は、強制的に係合方向へ回動させられる。
【0029】
さらに、ラチェット5は、下端部に設けた連結部53がオープナハンドル10にボーデンケーブルにより構成される操作力伝達部材11を介して連結され、オープナハンドル10の一方向への操作に基づいて、ラチェット軸9を中心に、ラチェットスプリング7の付勢力に抗して、解除方向(時計方向)へ所定角度回動して、爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32又はセカンダリラッチ部33から外れて、ラッチ3のアンラッチ方向(時計方向)への回動を許可する。
【0030】
ラッチ3は、プライマリラッチ位置においてアンラッチ方向への回動が許可された場合には、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力により、プライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置まで回動して、係合溝31に係合しているストライカSを介してフードHを第1半開位置まで開かせ、また、セカンダリラッチ位置においてアンラッチ方向への回動が許可された場合には、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力により、セカンダリラッチ位置からアンラッチ位置まで回動して、係合溝31に係合しているストライカSを介してフードHを第2半開位置まで開かせる。
【0031】
なお、本実施形態においては、解除操作手段を、運転席近傍に設けられる手動式のオープナハンドル10としたが、これに代えて、運転席、またはエンジンルーム内に設けられる電動式のアクチュエータとしても良い。
【0032】
フードHが全閉位置にある場合には、
図2に示すように、ラッチ3は、ストライカSが係合溝31に係合したプライマリラッチ位置にあり、ラチェット5は、爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部51に対して係合した係合位置にある。
【0033】
フードHが第1半開位置にある場合には、
図7に示すように、ラッチ3は、ストライカSが係合溝31に係合したセカンダリラッチ位置にあり、ラチェット5は、爪部51がラッチ3のセカンダリラッチ部33に対して係合した係合位置にある。
【0034】
フードHが第2半開位置にある場合には、
図9に示すように、ラッチ3は、ストライカSが係合溝31から離脱可能なアンラッチ位置にあり、ラチェット5は、爪部51よりも上位の一部54がラッチ3におけるセカンダリラッチ部33よりも下位の外周縁37に当接した位置にある。
【0035】
次に、
図2~12を参照して、本実施形態に係る車両用フードロック装置1の作用について説明する。
【0036】
先ず、フードHを開ける場合の作用について説明する。
フードHが全閉位置に保持されている場合には、
図2に示すように、ラッチ3は、プライマリラッチ位置にあり、ラチェット5は、爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32に係合した係合位置にあり、ストライカSは、ラッチ3の係合溝31に係合している。この状態においては、ストライカSは、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力により、リフトレバー4のリフトアーム部42とラッチ3の係合溝31の上縁との間にガタ付きが生じないように挟み込まれている。また、ラチェット5の当接部52は、ラッチ3の強制係合付与部34の移動軌跡L1外に退避した位置にある。
【0037】
図2に示す状態において、オープナハンドル10が1回目の解除操作が行われると、当該解除操作は、操作力伝達部材11を介してラチェット5に伝達される。これにより、ラチェット5は、ラチェットスプリング7の付勢力に抗して、係合位置から
図3に示すハーフストローク位置(爪部51がプライマリラッチ部32に辛うじて係合している位置)を経由して
図4に示すフルストローク位置まで回動する。これにより、爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32から完全に外れると共に、当接部52が強制係合付与部34の移動軌跡L1内に進入する。好ましくは、
図3に示すように、ラチェット5の爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32から完全に離脱する前に、当接部52が強制係合付与部34の移動軌跡L1内に進入するようにする。
【0038】
図4に示すように、ラチェット5の爪部51がラッチ3のプライマリラッチ部32から完全に離脱すると、ラッチ3は、リフトレバー4に作用するリフトスプリング6の付勢力により、プライマリラッチ位置からアンラッチ方向へ回動し、
図5に示す状態(オープナハンドル10を初期位置に戻している状態で、ラチェット5がフルストローク位置から係合方向へ向けて回動した状態)を経由して、
図6に示すように、プライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との間の中間位置において強制係合付与部34がラチェット5の当接部52に対して下側から当接して滑りながら上方移動することで、ラチェット5を係合方向へ強制回動させる。これにより、ラチェット5の爪部51は、ラッチ3がセカンダリラッチ位置に達する前に、セカンダリラッチ部33の移動軌跡L2内に進入する。このようにすると、ラチェット5の爪部51をセカンダリラッチ部33に確実に係合させることができる。
【0039】
ラッチ3が
図6に示す位置からさらにアンロック方向に回動すると、ラッチ3がプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置に達する前に、強制係合付与部34が当接部52を通過し、さらに、ラッチ3がアンロック方向に回動すると、
図7に示すように、セカンダリラッチ部33は、既に移動軌跡L2内に進入しているラチェット5の爪部51に係合する。これにより、ラッチ3をセカンダリラッチ位置に確実に停止させて保持することができる。
【0040】
上述から明らかなように、オープナハンドル10の1回目の解除操作においては、ラッチ3のプライマリラッチ位置からアンラッチ位置への回動を阻止して、ラッチ3をセカンダリラッチ位置に確実に停止させて、フードHを第1半開位置に確実に保持することができるため、フードHが不用意に開くような事態を阻止して安全性を確保することができる。
【0041】
次に、
図7に示す状態において、オープナハンドル10が2回目の解除操作が行われると、
図8に示すように、再び、ラチェット5は、ラチェットスプリング7の付勢力に抗して、解除方向へ回動することで、爪部51がラッチ3のセカンダリラッチ部33から離脱する。これにより、ラッチ3は、リフトスプリング6の付勢力によりリフトレバー4と一緒にアンラッチ方向に回動し、プライマリラッチ部32の先端がラチェット5の当接部52に下方から当接することで、ラチェット5を係合方向へ強制回動させる。
【0042】
ラッチ3が
図8に示す位置からさらにアンラッチ方向へ回動すると、
図9に示すように、ラッチ3の段差部36がベースプレート2のストッパ部22に当接することで、ラッチ3は、アンラッチ位置に停止する。これにより、フードHは、第2半開位置に保持される。そして、オープナハンドル10を初期位置に戻すことで、ラチェット5は、ラチェットスプリング7の付勢力により、係合方向に回動して、ラチェット5の一部54がラッチ3の外周縁37に当接することで、
図9に示す位置に停止する。
【0043】
次に、ユーザがフードHの前側に移動して、第2半開位置に保持されているフードHの前端部をそのまま持ち上げることで、ストライカSがラッチ3の係合溝31から抜け出して、フードHを開けることができる。したがって、従来のように、フードHと車体との間に手を差し入れて、操作部を手探りで探す必要がない。
【0044】
次に、フードHを閉じる場合の作用について説明する。
フードHが開いた状態においては、
図9に示すように、ラッチ3は、アンラッチ位置に保持されている。但し、ストライカSは、フードHが開いているため、ラッチ3から離れた上方に位置にしている。この状態で、フードHが閉じられると、ストライカSがストライカ進入溝21に上方から進入してラッチ3の係合溝31に係合する。これにより、ラッチ3は、外周縁37に当接しているラチェット5を解除方向へ回動させつつリフトスプリング7の付勢力に抗して、リフトレバー4と一緒にラッチ方向に回動する。
【0045】
そして、
図10に示すように、ラッチ3がセカンダリラッチ位置を通過した直後、中間位置(セカンダリラッチ位置とプライマリラッチ位置との間の位置)に達すると、ラッチ3の強制係合付与部34が移動軌跡L1内に進入しているラチェット5の当接部52の先端に当接することで、ラチェット5を強制的に係合方向に回動させる。好ましくは、
図11に明示するように、力点(強制係合付与部34が当接部52に対して力を与える点)Aに作用する力Fの作用線Bの向きが、支点(ラチェット5の回転中心)Oよりも上方に偏位するように、強制係合付与部34の作用部34aを
図11に示すような斜め形状とする。これにより、ラチェット5を円滑かつ確実に係合方向へ強制回動させることができる。
【0046】
さらに、ラッチ3がアンラッチ方向に回動すると、
図12に示すように、強制係合付与部34が当接部52を通過し、最終的に、
図2に示すように、ラッチ3がプライマリラッチ位置に回動して、ラチェット5の爪部51がプライマリラッチ部32に係合することで、ラッチ3はプライマリラッチ位置に保持される。これにより、フードHは全閉位置に保持される。
【0047】
以上のように、本実施形態においては、オープナハンドル10の1回目の一方向への解除操作に基づく、ラチェット5の解除作動により、ラッチ3のプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置への回動を許可し、続いて、オープナハンドル10の2回目の一方向への解除操作に基づく、ラチェット5の解除作動により、ラッチ3をセカンダリラッチ位置からアンラッチ位置に回動させるようにしたので、ユーザは、フードHを車外から簡単に開けることができる。
【0048】
また、ラッチ3がプライマリラッチ位置からセカンダリラッチ位置に回動する際、ラッチ3のプライマリラッチ位置とセカンダリラッチ位置との間の中間位置において、ラッチ3に設けた強制係合付与部34がラチェット5に設けた当接部52に対して下側から当接して滑りながら上方移動することで、ラチェット5を係合方向へ強制回動させるようにしたため、大きな衝突音を発生させることなく、ラチェット5を円滑に係合方向へ回動させて、ラチェット5の爪部51をラッチ3のセカンダリラッチ部33に確実に係合させることができる。この場合、特許文献2記載の発明のように、ラッチ3を中間位置に強制的に停止させる必要がないため、ラッチ3を中間位置に停止させる際の衝突音を無くして、品質の向上を図ることができる。
【0049】
さらには、当接部52をラチェット5の回転中心の周辺近傍に設けたことで、当接部52の回動範囲を小さくできるため、装置の小型化を図ることができる。
【0050】
さらには、ラッチ3における係合溝31の上側に強制係合付与部34、また下側にプライマリラッチ部32、セカンダリラッチ部33をそれぞれ設けたことにより、ラッチ3の大型化を抑えて、装置の小型化を図ることができる。
【0051】
さらには、ベースプレート2のストライカ進入溝21を基準にして、右側にラッチ3をラッチ軸8により枢支し、左側にラチェット5をストライカ進入溝21の開口部周辺にあるラチェット軸9により枢支したことにより、ベースプレート2の小型化を可能にして、装置の小型化を図ることができると共に、ベースブレート2の範囲内に収まるように、ラッチ3の強制係合付与部34とラチェト5の当接部52とを設けたことで、仕様の異なる車両に対しても適用できる。
【0052】
さらには、ラチェット5の当接部52及びラッチ3の強制係合付与部33を、ベースプレート2におけるストライカ進入溝21の左側の領域を移動するように設けたことにより、ベースプレート2の小型化を図ることができる。また、例えば、
図13に示すように、ラッチ3を強制係合付与部34及びセカンダリラッチ部33を除去した形状に変更し、また、ラチェット5を当接部52を除去した形状に変更にすると共に、従来技術で説明したハンドル部を設けたセカンダリラッチを別途追加することで、ハンドルタイプ(セカンダリラッチを別途設けたタイプ)に容易に変更できるため、異なる仕様間での共用部品を多くして、コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用フードロック装置 2 ベースプレート
21 ストライカ進入溝 22 ストッパ部
3 ラッチ 31 係合溝
32 プライマリラッチ部 33 セカンダリラッチ部
34 強制係合付与部 34a 作用部
35 突部 36 段差部
37 外周縁 4 リフトレバー
41 連結孔 42 リフトアーム部
5 ラチェット 51 爪部
52 当接部 53 連結部
54 一部 6 リフトスプリング
7 ラチェットスプリング 8 ラッチ軸
9 ラチェット軸 10 オープナハンドル(解除操作手段)
11 操作力伝達部材 L1 強制係合付与部の移動軌跡
L2 セカンダリ係合部の移動軌跡 H フード
S ストライカ V 車両