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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】薄型スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/02 20060101AFI20240910BHJP
   H04R 9/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H04R9/02 103Z
H04R9/04 105B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021552413
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038784
(87)【国際公開番号】W WO2021075464
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019188395
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】市川 浩平
【審査官】松崎 孝大
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-125487(JP,A)
【文献】特開2011-19147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
H04R 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルを有するボイスコイルボビン上端部に振動板胴体の背面が取付けられ、
前記振動板胴体の外周部はエッジを介し薄型フレームに取付けられ、
前記薄型フレームの底部には磁気ギャップを有する磁気回路が設けられ、
前記磁気ギャップに前記ボイスコイルが設けられ、かつ前記ボイスコイルボビンにダンパーのダンパー内周部が取付けられ、かつ前記ダンパーのダンパー外周部は前記薄型フレームのダンパー外周取付部に取付けられた薄型スピーカであって、
前記ダンパー内周部には弓なりに下降する湾曲部が形成され、前記湾曲部の外周端部から前記ダンパー外周部に亘ってコルゲーション部が形成され、前記ダンパー内周部の長さは前記コルゲーション部の長さより短いことを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項2】
請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパー内周部には上方に向って突出し、かつ上面が平坦状の折曲部が形成され、前記折曲部の上面が前記振動板胴体の背面に接して取付けられたことを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項3】
請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記コルゲーション部は少なくとも2以上のコルゲーションを有し、各コルゲーションの頂部は前記ダンパー外周部のダンパー外周端部と同じか、それより低い位置にあることを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項4】
請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記湾曲部には前記湾曲部を下方に向け、かつ剛性を高める折り目が形成されたことを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項5】
請求項2記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパー外周部のダンパー外周端部は前記折曲部より低い位置にあることを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項6】
請求項2記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパーは、前記折曲部と前記ダンパー外周端部との間に、前記ダンパー外周端部よりも低い位置を通る形状を有することを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項7】
請求項1の薄型スピーカにおいて、前記磁気回路のヨークの上端部よりも前記湾曲部の外周端部が低い位置にあることを特徴とする薄型スピーカ。
【請求項8】
請求項3の薄型スピーカにおいて、前記2以上のコルゲーションは少なくとも内周側に形成された第1コルゲーションとその外周側に形成された第2コルゲーションとを備え、前記第1コルゲーションの頂部の高さは前記第2コルゲーションの頂部の高さよりも低いことを特徴とする薄型スピーカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は薄型スピーカ、詳しくは次世代事故自動通報システム(ACN: Automatic Collision Notification: 事故自動通報システム)において通報用スピーカとして用いると好適な薄型スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道やバスのような公共の交通機関がないところでも自動車があればいくことが可能であり、自動車は移動手段として利便性が高い。また、自動車はレジャーにも用いることができ私達の生活を豊かにする。さらに、自動車で資材を運搬することができ産業面でも貢献している。
【0003】
このようなことから世界的に自動車は普及しており、その市場は拡大している。
【0004】
しかしながら、普及に伴い、様々な自動車事故が増加しているため、セキュリティ対策が必要である。
【0005】
近年、世界的にIT(情報技術)が発達しており、これを利用したIoT(Internet of Things)が活用され、自動車とインターネットとを接続する安全システムの構築が加速している。
【0006】
IoTを活用した安全システムの代表的なものとして、自動車が事故を起こした際に自動的または任意に緊急通報センターと繋がって運転者や同乗者の安全を確認したりする車両自動緊急通報システムがある。
【0007】
図15はこの車両自動緊急通報システムの概念図を示す。
【0008】
100は自動車等の位置情報を常時取得する通信衛星、101は緊急通報センター、102は自動車、103は救急センター、104は緊急車両である。
【0009】
このシステムでは、自動車102が例えば走行中に事故にあい、エアバッグ作動または車内に搭載した緊急呼出装置のコールボタンが運転者または同乗者により操作されると、Hで示すように、緊急通報が緊急通報センター101に発せられ、そこから、Rで示すように、救急センター103へ通報がつながるように構成されている。送られる情報の内容としては、音声、車両情報(位置、車の向き、ナンバー、車種など)をネットワークH、Rを介し緊急通報センター101、救急センター103へと送り、事故現場に最も近い緊急車両104を出動させ、救命率を向上させるようにしている。
【0010】
このようなシステムは、欧州連合(EU)でeCallシステムと称され、開発・提供されている。
【0011】
eCallシステムとは、EUが開発している次世代事故自動通報システム(ACN: Automatic Collision Notification: 事故自動通報システム)の名称である。eCallシステムは、eCall端末機能と緊急応答機関(PSAP: Public Safety Answering Point)、EU内緊急電話番号112、携帯電話回線から構成される。
【0012】
ロシアでは、ERA-GLONASSと称され、開発されている。
【0013】
ERA-GLONASSは、道路上で生じた事故またはその他緊急事態の際の応答時間を短縮させることを目的としたロシアにおけるサービスである。
【0014】
このERA-GLONASSは、欧州仕様のeCallシステムとほぼ同様の仕組を採用している。つまり、同じ原則とプロトコルを使用している。一方でSMS(Short Message Service)のようなMSD(Minimum set of Data)の転送用冗長チャネルを提供している。例えば、車両管理や、有料道路システムそしてデジタル・タコグラフ(デジタル自動回転速度計)のようなサービス提供のための設計が施されている。
【0015】
特徴としては、音声回路でセンターとの接続に失敗した場合、SMSで緊急通報センターにIVS(In-vehicle system)と車両位置情報を送信する機能がある。これは現在の欧州のeCallにはない機能である。
【0016】
米国ではONSTAR(登録商標)、日本ではHELPNET(登録商標)と称され開発されている。
【0017】
これらのシステムには従来の産業機器に要求されている小型、高音圧に加え、明瞭な通話が必要なため、音声帯域において平坦な周波数特性が要求されている。
【0018】
使用態用例としては図16に示すように、車内の天井面にオーバーヘッドコンソール200を搭載し、そこに緊急呼出し用のSOSスイッチ201、緊急通報用スピーカ202などを設けている。通常は、車両緊急通報システムはエアバックの作動によって自動的に作動するが、手動でも起動できるようSOSスイッチ201、自動緊急通報用スピーカ202が設けられている。なお、203はSOSスイッチ201を操作する指、204はサンルーフ開閉用スイッチである。
【0019】
この場合、車内空間を広くしたいため、オーバーヘッドコンソール200の薄型化が望まれる。
【0020】
それに伴い、自動緊急通報用スピーカ202は小型化に加え薄型化も要求され、寸法や性能などに制約が課せられる。
【0021】
すなわち、要求されるスペックは例えば次の通りである。
全高 10mm
口径 40mm
fo 400Hz
【0022】
小型のスピーカは種々提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】実開昭63-64199
【文献】特開平10-155198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特許文献1は薄型スピーカにおいて、振動系を支持するスピーカ用ダンパーの構造に関する。このダンパーは全体にわたって波型形状をなす。この波型のダンパーはそのほぼ中央部において、上方側に位置するコルゲーション部と、その外周側であって段差を介し下方側に位置するコルゲーション部との2つのコルゲーション部にて構成している。
【0025】
この特許文献1では、ダンパー形状全体を波型とし許容入力を大きくしているが、波型のコルゲーションだけの構造では剛性が弱いため、歪特性が悪いという課題がある。
【0026】
また、耐入力を高くするには支持系のコンプライアンスを小さくするので、最低共振周波数foが上昇してしまうという課題がある。
【0027】
特許文献2では、ダンパーを内周部から外周部全体にかけて弓状の形状に構成しているが、このような全体を弓状としたダンパー形状では薄型化に支障をきたす。また、ダンパー全体を弓状にし、かつコルゲーションを多くしてダンパーを柔らかくするとダンパー振動時の振幅制限がかかりにくくなり、下動時にボイスコイルボビンがヨークと接触して異音が生じるという課題がある。
【0028】
本開示は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、振動板振幅の対称性を良好とし歪特性を良くし、かつ最低共振周波数foの上昇を抑えた次世代事故自動緊急通報システムに適用し得る小口径であって薄型のスピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1記載の本開示に係る薄型スピーカは、ボイスコイルを有するボイスコイルボビン上端部に振動板胴体の背面が取付けられ、前記振動板胴体の外周部はエッジを介し薄型フレームに取付けられ、前記薄型フレームの底部には磁気ギャップを有する磁気回路が設けられ、前記磁気ギャップに前記ボイスコイルが設けられ、かつ前記ボイスコイルボビンにダンパーのダンパー内周部が取付けられ、かつ前記ダンパーのダンパー外周部は前記薄型フレームのダンパー外周取付部に取付けられた薄型スピーカであって、前記ダンパー内周部には弓なりに下降する湾曲部が形成され、前記湾曲部の外周端部から前記ダンパー外周部に亘ってコルゲーション部が形成され、前記ダンパー内周部の長さは前記コルゲーション部の長さより短いことを特徴とする。
請求項2に係る本開示は、請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパー内周部には上方に向って突出し、かつ上面が平坦上の折曲部が形成され、前記折曲部の上面が前記振動板胴体の背面に取付けられたことを特徴とする。
請求項3に係る本開示の薄型スピーカは、前記コルゲーション部において、少なくとも2以上のコルゲーションを有し、各コルゲーションの頂部は前記ダンパー外周部のダンパー外周端部と同じか、それより低い位置にあることを特徴とする。
請求項4に係る本開示の薄型スピーカは、請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記湾曲部には該湾曲部を下方に向け、かつ剛性を高める折り目が形成されたことを特徴とする。
請求項5に係る本開示の薄型スピーカは、請求項2記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパー外周部のダンパー外周端部は前記折曲部より低い位置にあることを特徴とする。
請求項6に係る本開示の薄型スピーカは、請求項2記載の薄型スピーカにおいて、前記ダンパーは前記折曲部と前記ダンパー外周端部との間に該ダンパー外周端部よりも低い位置を通る形状を有することを特徴とする。
請求項7に係る本開示の薄型スピーカは、請求項1記載の薄型スピーカにおいて、前記磁気回路のヨークの上端部よりも前記湾曲部の外周端部が低い位置にあることを特徴とする。
請求項8に係る本開示の薄型スピーカは、請求項3の薄型スピーカにおいて、前記2以上のコルゲーションは少なくとも内周側に形成された第1コルゲーションとその外周側に形成された第2コルゲーションとを備え、前記第1コルゲーションの頂部の高さは前記第2コルゲーションの頂部の高さよりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1記載の本開示によれば、ダンパーの内周部において外周方向に向かい、かつ下方に位置するヨーク側に弓なり下降する湾曲部を形成し、これによって剛性をもたせた。このため、ダンパーがヨーク側に変形しにくくなり、振動板の下動時にボイスコイルボビン下端が磁気回路のヨークに底当たりするのを軽減し得る。
また、コルゲーション部の長さをダンパー内周部の長さより長くすることで、ダンパー外周部では通常再生される音響レベルにおいて必要なダンパーの柔らかさが確保されているので最低共振周波数foの上昇を抑えることができる。
また、エッジの非直線性とダンパーの非直線性とが相反することで振動板振幅が対称となり、歪が打ち消され、音響特性が良好となる。
請求項2記載の本開示によれば、折曲部によりダンパーを振動板胴体に確実に接着できる。またダンパーとヨークとの間に空間を確保でき、振動系の下動時にダンパーがヨークに当たりにくくなる。
請求項3記載の本開示によれば、ボイスコイルからの引出線とダンパーのコルゲーション部との間の空間が確保され、振動板下動時にボイスコイルからの引出線がダンパーのコルゲーションの頂部に当たりにくくなる。また、2以上のコルゲーションを設けることで、ボイスコイルからの引出線とダンパーとの距離を調節するコルゲーションと、ダンパーの非直線性を調節するコルゲーションとを分けることができ、引出線とダンパーとの空間確保に加え、ダンパーの非直線性の調整も可能となり、音響特性が良好となる。
請求項4記載の本開示によれば、折り目によって湾曲部をヨーク側へ向けることができ、かつ剛性も向上し、形状的に硬くなり下側へ動きにくくなるので、振動系の下動時にさらにダンパーとヨークが当たりにくくなる。
請求項5記載の本開示によれば、ダンパーのダンパー外周端部が折曲部より低い位置にあることにより、振動板とダンパーとの間の距離を十分に確保でき、引出線を容易に配置できるので、振動系の下動時における引出線とダンパーとの接触を回避できる。また、引出線とコルゲーション部との間の距離も十分に確保できるので、コルゲーション部を設置するスペースが十分に確保でき、ダンパーを設計する自由度が上がる。さらに、このような構成とすることにより、さらなるスピーカの薄型化ができる。
請求項6記載の本開示によれば、ダンパーは折曲部とダンパー外周端部との間にダンパー外周端部よりも低い位置を通る形状を有するので、薄型フレームと引出線や振動板との間の僅かなスペースにおいても、折曲部とダンパー外周端部とを直線状に接続した場合と比較して、ダンパーの径方向の長さを長く形成できる。これにより、湾曲部とコルゲーション部とを効率的に配置でき、ダンパー設計の自由度が向上し、スピーカの薄型化ができる。
請求項7記載の本開示によれば、ヨークの上端部より湾曲部の外周端部が低い位置にあることで、湾曲部とコルゲーション部とを効率的に配置でき、さらにスピーカを薄型化できる。
請求項8記載の本開示によれば、第1コルゲーションの頂部は第2コルゲーションの頂部の高さより低いことにより、第1コルゲーションと第2コルゲーションとを同じ山の高さとした時よりダンパーが突っ張りやすくなり、ボイスコイルの下側へ移動しにくくなる。これにより、振動系の下動時において、ボイスコイルの底当たりを確実に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示の一実施例の薄型スピーカの半断面側面図である。
図2】同上の薄型スピーカの要部の拡大説明図である。
図3】本開示の薄型スピーカの分解斜視図である。
図4】本開示の薄型スピーカにおけるボイスコイルの引出線の接着状態の説明図である。
図5】本開示におけるボイスコイルと引出線の斜視図を示す。
図6】本の薄型スピーカの振動系変位のシミュレーション結果の説明図である。
図7】本開示の薄型スピーカのダンパーの振幅状態の測定結果を示す。
図8】本開示における薄型スピーカの通常状態(無信号)の振動系の状態を示す。
図9】同上の振動系が下動した状態を示す。
図10】本開示の音圧に対する周波数特性を示す。
図11】本開示に先立って作製された1次試作品の概略半断面図を示す。
図12】同上の1次試作品のダンパーの振幅の測定結果を示す。
図13】1次試作品の振動系シミュレーション結果の説明図を示す。
図14】1次試作品における1期間中の磁気回路に対するボイスコイルの動きの説明図を示す。
図15】車両緊急通報システムの概念図である。
図16】車内の天井面に設置されたオーバーヘッドコンソールの説明図。
【を実施するための形態】
【0032】
本発明者は、前述したスペックを満たすべく車両緊急通報システム用スピーカを開発するにあたり、図11に示すような薄型スピーカの1次試作品を作製した。
【0033】
図11において、1´はボイスコイルボビン4bを振動可能に支持するダンパーである。このダンパー1´の内周端部1a´はボイスコイルボビン4bの外周面に接着剤を介し取付けられ、ダンパー1´の外周端部1g´の下面は薄型フレーム10の図示右側の部分の上面に取付けられている。
【0034】
この1次試作品の薄型フレーム10の口径はeCallシステムの緊急通報システムに適合するよう例えば40mmに形成されている。また、薄型スピーカS´の全高は10mmとなっている。動作にあたっては、ボイスコイル4aに音声電流を流すと磁界中に置かれたボイスコイル4aが振動し、ボイスコイル4aを有するボイスコイルボビン4bに結合された振動板2Aが前後動(上下動)する。
【0035】
この薄型スピーカS´のダンパー1´の形状はその内周部から外周部に亘ってほぼ直線方向に延びた波型に形成した。またボイスコイルボビン4bへのダンパー内周端部1a´の取付位置と、ダンパー外周端部1g´のダンパー外周取付部への取付位置とはほぼ同じ高さになっている。
【0036】
図12は1次試作品の振幅特性で、前方(UP)の振幅と、その反対側の後方(DOWN)の振幅が非対称で、後方の振幅が大きく、振動系が下に動きやすく歪に影響を及ぼすという課題がある。これはダンパー1´形状が全体に亘って均一な波型で剛性が弱いためである。
【0037】
図13は上述した振動系(振動板2A及びダンパー1´)のシミュレーション結果を示す。
図13において、下側の図の縦軸は荷重を表し、横軸は変位を表す。
Aは前方のUP側の動き、Bは後方のDOWN側の動きである。
【0038】
図13の(a)は振動板2Aの外周のエッジ3の変位と荷重の関係、(b)はダンパー1´の変位と荷重の関係、(c)はこれらを一体化した組立体の薄型スピーカS´の振動系の変位と荷重の関係(合計)を示す。
【0039】
シミュレーション結果から、UP側よりDOWN側の方が同じ変位量でも荷重が少なくてすむということから、振動板2Aのエッジ3もダンパー1´も下に動きやすい傾向にあることが分かる。
【0040】
したがって、振動系の下動時にボイスコイル底当たりが生じる。
【0041】
図14は振動板2Aの前後動の1期間(one period)のボイスコイルボビン4bの動きを(a)~(d)に示す。図14において、Cは磁気回路5の底部、4bはボイスコイルボビンである。
【0042】
この1期間において、ボイスコイルボビン4bの下動時、(b)において丸で囲んだように、ボイスコイルボビン4bが磁気回路5の底部Cに当たり異常音が生じる。図14において下側の図は異音が生じたことの説明図である。
【0043】
また、1次試作品では、図11に示したように、ダンパー内周端部1a´の背面とヨーク6の前端部との空間b´が狭いため、ダンパー内周端部1a´がヨーク6の上端部に当たるおそれもある。
【0044】
このように薄型化した1次試作品では、高い入力レベルではボイスコイルボビン4bの底当たりが生じ、高い入力レベルに耐えられないという課題がある。このため、高入力でもボイスコイルボビン4bの底当たりがなく、かつダンパーがヨークに当たらないようにする必要がある。
【0045】
また、1次試作品では前方の振幅と後方の振幅とが非対称のため、振動板の振幅対称性を良くする必要もある。
【0046】
本開示は上記のことに鑑みなされ、振幅の対称性を良好とし、かつ高入力でもボイスコイルの底当たりを防止し、また最低共振周波数foの上昇を抑えた事故自動通報システムのスペックを満たす薄型スピーカを提供する。
【実施例
【0047】
図1は本開示の一実施例の薄型スピーカの半断面側面図を示す。図2は要部の説明図である。
【0048】
本開示では、振動系を支持するダンパー1の断面形状に主たる特徴がある。
【0049】
振動系は、例えばコーン状をなす振動板胴体2と、この振動板胴体2の外周に設けられたリング状のエッジ3からなる振動板2Aと、振動板2Aを振動させるためにその背面側中央部に設けられたボイスコイル4と、ダンパー1とから構成されている。このボイスコイル4は円筒状のボイスコイルボビン4bの外周に巻回されたボイスコイル4aを含めスピーカの業界では単にボイスコイル4と称することもある。ボイスコイルボビン4bにはダンパー内周部L1のダンパー内周端部(折曲部1a)が取り付けられ、ボイスコイル4は磁気ギャップ内に設けられている。
【0050】
なお、図1において、5は磁気回路である。この磁気回路5は、有底円筒状のヨーク6と、このヨーク6の底面上に設けられた円柱状のマグネット7と、このマグネット7の上面に設けられた平面から見て円形をなすプレート8とを有し、プレート8の外周面とこれと対応するヨーク6の内周面との間に磁気ギャップ9が形成されている。磁気回路5は薄型フレーム10の底部に設けられる。この磁気回路5は内磁型であるが、外磁型のものでも良い。
【0051】
10は、車両自動通報システムで求められる規格に合わせたサイズに作製された口径40mm以下の小口径の薄型のフレームである。薄型フレーム10の内周端にはヨーク6の外周端6aに合せた段形状のフレーム取付部10aが形成され、薄型フレーム10とヨーク6は一体化される。
【0052】
薄型フレーム10の内面外周部には段状のダンパー外周取付部10bと、このダンパー外周取付部10bよりさらに外側の上側に位置する段状のエッジ外周取付部10cが形成されている。
【0053】
ダンパー外周取付部10bは、図示の状態から分かるように、ヨーク6の上端部6b(図2参照)よりやや高い位置に形成されている。エッジ外周取付部10cはダンパー外周取付部10bより高い位置にある。なお、薄型フレーム10の背面には防塵布13が設けられている。
【0054】
そして、薄型フレーム10のエッジ外周取付部10cにエッジ外周部3aの下面が接着剤により取付られる。エッジ外周部3aの上面にはリング11、ガスケット12が設けられる。このガスケット12の上面とヨーク6の背面との寸法(全高Ht)は10mm以下(0mmではない)に設定され、フレーム10は薄型となっている。
【0055】
エッジ内周部3bは振動板胴体2の外周部に接着剤により結合されている。これにより、振動板胴体2の外周部は、エッジ3を介して薄型フレーム10に取り付けられている。
【0056】
振動板胴体2のボイスコイル取付部2aの背面側にボイスコイル4aを有するボイスコイルボビン4bの上端部が接着剤により結合されている。
【0057】
ダンパー1の内周部(ダンパー内周部L1)の内端側には上方に向かって突出し、かつ上面が平坦状の折曲部1aが形成され、この折曲部1a上面の平坦部が振動板胴体2のボイスコイル取付部2aの背面に接した状態で接着剤により取付けられている。また、ダンパー外周部の外端側のダンパー外周端部1gは薄型フレーム10のダンパー外周取付部10bに接着剤により取付けられる。
【0058】
ダンパー1の折曲部1aの外周側は、詳しくは図2に示すように、弓なりにスピーカ背面側に向って下降する湾曲部1bが形成されている。これによりダンパー1の内周側の剛性を向上させ、ダンパー1が変形しにくくなり、下側へ動きにくくし、ボイスコイルボビン4bの底当りを軽減している。
【0059】
この湾曲部1bには図示例では2つの折り目aが形成されている。これはダンパー内周部L1を下側に向け、かつ剛性を高める役割をなす。なお、折り目aは一つであっても良い。また、折り目aはなくてもよい。
【0060】
また、ダンパー内周部L1に形成した折曲部1aの内端は、ボイスコイルボビン4bの上端部側に取付けるようにし、かつ湾曲部1bによってダンパー内周部L1の背面とヨーク6の上端部6bとの空間bを確保し、振動板2Aの下動に伴うダンパー1の下動時にボイスコイル4の底当たりを防ぎ、かつダンパー1がヨーク6の上端部6bに当たりにくくしている。
【0061】
このように、湾曲部1bはヨーク6との空間bを確保しつつ形状剛性を高める役割をなす。
【0062】
ダンパー1は、その内周側に、折曲形状の折曲部1aおよび湾曲部1bの領域のダンパー内周部L1を有し、その外周側の領域にコルゲーション部L2を有している。L1とL2との長さはL1よりL2の方が長く、L1<L2、としている。こうすることによって通常再生される音響レベルにおいてダンパー1の柔らかさが確保されるので最低共振周波数foの上昇を抑えることができる。
【0063】
また、ダンパー内周部L1の領域はその弓状の湾曲部1bの形状に起因して硬く、コルゲーション部L2の領域は柔らかく設定されている。
【0064】
すなわち、ダンパー内周部L1の領域の外周部である弓状をなす湾曲部1bの外周端部1eからコルゲーション部L2の外周端部1fまでの部分は、最低共振周波数foの上昇を抑え、要求される最低共振周波数foで動作し、所望の周波数特性が得られるよう柔らかくしている。
【0065】
また、ダンパー外周取付部10bはダンパー1の内周側の取付部である折曲部1aの内周端より低い位置とし、コルゲーション部L2は低い位置、つまり薄型フレーム10の背面側に空間を介し設けられている。これにより、振動板2Aとダンパーとの間の距離を十分に確保でき、引出線を容易に配置できるので、振動系の下動時における引出線とダンパーとの接触を回避できる。また、引出線とコルゲーション部L2との間の距離も十分に確保できるので、コルゲーション部L2を設置するスペースが十分に確保でき、ダンパーを設計する自由度が上がる。このような構成とすることにより、さらなるスピーカの薄型化ができる。
【0066】
コルゲーション部L2は、少なくとも2以上のコルゲーションを有していてよく、例えば、内周側の第1コルゲーション1cとその外周側に形成された第2コルゲーション1dとを有する。
【0067】
第1コルゲーション1cは湾曲部1bの外周端部1eからゆるやかに前方に向って傾斜し、その頂部からゆるやかに後方(フレーム背面側)に向って傾斜する断面はほぼL字状をなす。また、この第1コルゲーション1cと連なるその外周側の第2コルゲーション1dの断面は第1コルゲーション1cよりも急峻な凸状の波型をなす。内周側の第1コルゲーション1cの曲率半径は外周側の第2コルゲーションの曲率半径より大きい。
【0068】
第1コルゲーション1cの頂部は第2コルゲーション1dの頂部の高さより低い。第1コルゲーション1cを第2コルゲーション1dより低い位置とした理由は変位特性を調整するためで、第1コルゲーション1cの山を低くすることで、同じ山の高さの時より突っ張りやすくなり、ボイスコイル4の下側へ移動がしにくくなる。これにより、振動系の下動時において、ボイスコイルの底当たりを確実に回避できる。
【0069】
また、ダンパー1の内周部のボイスコイル4への取付部である折曲部1aと、ダンパー外周端部1gの薄型フレーム10へのダンパー外周取付部10bの位置は、図示の状態において、ダンパー外周端部1gは折曲部1aより低い位置にある。このように、折曲部1aの方がダンパー外周取付部10bより高い位置関係にあり、コルゲーション部L2は折曲部1aより低い位置にある。また、第1、第2のコルゲーション1c、1dの頂部はダンパー外周端部1gと同じか、それより低い位置にある。
【0070】
また、ダンパー1は、折曲部1aとダンパー外周端部1gとの間に、ダンパー外周端部1gより低い位置を通る形状を有する。図2では、ダンパー1の最も低い位置に湾曲部1bの外周端部1eを有しており、外周端部1eから第1コルゲーション1cと第2コルゲーション1dの波形状を経由してダンパー外周端部1gが外周端部1eより高い位置に形成される。すなわち、折曲部1aとダンパー外周端部1gとを直線的に結ぶように形成するのではなく、1度でもダンパー外周端部1gより低い位置を、この断面においてダンパーが屈折等して通過して、ダンパー外周取付部10bへ架橋されているともいえる。このようにすると、薄型フレーム10と引出線や振動板2Aとの間の僅かなスペースにおいても、折曲部1aとダンパー外周端部1gとを直線状に接続した場合と比較して、ダンパーの径方向の長さを長く形成できる。これにより、湾曲部1bとコルゲーション部L2とを効率的に配置でき、ダンパー設計の自由度が向上し、スピーカの薄型化ができる。
【0071】
また、ヨーク6の上端部6bよりも湾曲部1bの外周端部1eが低い位置にある。これにより、湾曲部1bとコルゲーション部L2とを効率的に配置でき、さらにスピーカを薄型化できる。
【0072】
図3は本開示の薄型スピーカの分解斜視図である。
【0073】
振動板2Aは抄紙で形成された振動板胴体2とその外周に設けられた布製のエッジ3からなり、その下部にボイスコイル4が設けられる。ダンパー1の折曲部1aは振動板胴体2の下面に結合され、ダンパー外周端部1gは薄型フレーム10のダンパー外周取付部10bに結合される。14は薄型フレーム10に設けられた端子部である。薄型フレーム10の下部には、プレート8、マグネット7およびヨーク6からなる磁気回路5が位置する。薄型フレーム10の背面には防塵布13が設けられる。
【0074】
なお、薄型フレーム10に設けられた端子部14にはボイスコイル4の引出線が接続される。図4はボイスコイル4の引出線4cの配置を示す。
【0075】
ボイルコイル4aからの引出線4cはボイスコイルボビン4bの上端部外周から振動板胴体2の背面に沿って引出される。
【0076】
すなわち、振動板胴体2の背面とダンパー1の折曲部1aとで引出線4cを挟持し、振動板胴体2、折曲部1a、ボイスコイルボビン4b、ボイスコイル4aの引出線4cをまとめて、破線で囲まれた接着部AGで示すように接着剤を用いて4点接着するようにしている。
【0077】
引出線4cは接着部AGから外周へ直接引き出され、その外端部を端子部14に同じく接着剤によって接続される(図示せず)。
【0078】
図5は引出線4cの引き出し方を示す。引出線4cは薄型化するため、中継リード線を使用せず、応力集中箇所をL字にフォーミングし、応力を分散しその外端部を端子部14に接着剤によって接続される。
【0079】
本開示の薄型スピーカSはこのようにして構成されている。
【0080】
このようにして構成された薄型スピーカSの振動系変位シミュレーション結果、振幅特性は以下のとおりである。
【0081】
図6の(a)は振動板2Aのエッジ3、(b)はダンパー1、(c)はこれらを組み合わせ一体化した薄型スピーカSの振動系の変位シミュレーション結果を示す。
【0082】
図6の(a)~(c)において、下側の図はそれらの特性を示す。縦軸は荷重を表し、横軸は変位を表す。Aは前方のUP側の動き、Bは後方のDOWN側の動きである。
【0083】
この図6の(b)の本開示のダンパー1の変位と荷重の関係と、図13の(b)の1次試作品のダンパー1´の変位と荷重の関係とを対比すれば特性が改善されたことが分かる。
【0084】
また、1次試作品でのエッジ3とダンパー1´とを合わせて変位と荷重の関係(図13の(c))と、本開示の図6の(c)とを対比すれば分かるように、本開示では、前方UP側と後方DOWN側とのほぼ均等になっていることが分かる。
【0085】
図7は周波数に対する変位の測定結果である。本開示では、振動板2Aのエッジ3の振幅特性の非直線性を、ダンパー1の振幅特性の非直線性で打ち消すようにしたため、前方側の変位UPと、後方側の変位DOWNの振幅が対称になり、歪を改善することができた。
【0086】
図8は振動系が静止状態、図9はボイスコイル4aに音声電流が流れ振動板2Aが下動したときのダンパー1の変形状態を示す。本開示ではボイスコイルボビン4bがヨーク6の底部にあたること、つまりボイスコイル底当りは軽減される。
【0087】
以上のように本開示でのダンパー1によれば、振動系が下に動きやすい傾向を解消でき、ボイスコイルボビン4bがヨーク6の底部に当たることも解消でき、高い入力レベルにも対応できる。
【0088】
また、図10に示すように、本開示では低域から中域にわたって平坦であって良好な周波数特性が得られる。
【0089】
上記において本開示の薄型スピーカSは車両自動緊急通報システムに用いる場合について説明したが、他の用途にも適用可能である。
【0090】
また、ダンパー1のサイズは、スペックに対応した薄型フレーム10に収まるようにしたが、これに限定されるものではなく、薄型フレーム10などを大きくした場合、それに対応したサイズとして良い。
【符号の説明】
【0091】
1 ダンパー
1a 折曲部
1b 湾曲部
1c 第1コルゲーション
1d 第2コルゲーション
1e (湾曲部の)外周端部
1f (コルゲーション部の)外周端部
1g ダンパー外周端部
2 振動板胴体
2a ボイスコイル取付部
2A 振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル
4a ボイスコイル
4b ボイスコイルボビン
4c 引出線
5 磁気回路
6 ヨーク
6a ヨーク外周部
7 マグネット
8 プレート
9 磁気ギャップ
10 フレーム
10a フレーム取付部
10b ダンパー外周取付部
10c エッジ外周取付部
13 防塵布
14 端子部
S,S´´ スピーカ
L1 ダンパー内周部
L2 コルゲーション部
a 折り目
b,b´´空間
AG 接着部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図16