IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電工ハードメタル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-切削工具 図1
  • 特許-切削工具 図2
  • 特許-切削工具 図3
  • 特許-切削工具 図4
  • 特許-切削工具 図5
  • 特許-切削工具 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240910BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240910BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 N
C23C14/34 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023540771
(86)(22)【出願日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2023016837
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優太
(72)【発明者】
【氏名】金岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】今村 晋也
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-202505(JP,A)
【文献】特開2011-224717(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B27/14
B23B51/00
B23C 5/16
B23P15/28
C23C14/00-14/58
C23C16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第1層および第2層を含み、
前記第2層は、前記第1層よりも前記基材に近い位置に設けられ、
前記第1層は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、
ここで、
0.30≦a≦0.50、
0<b≦0.10、を満たし、
前記第2単位層は、TiAl1-cNからなり、
ここで、
0.70≦c≦1.00、を満たし、
前記第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上であり、
前記第2層は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、
前記第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、
ここで、
0.25≦d<0.45、
0<e≦0.10、
0.35≦f<0.55、
0<g≦0.10、
0.05≦f-d≦0.20、を満たし、
前記第2層のX線回折スペクトルにおいて、六方晶の(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、立方晶の(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、前記六方晶の(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である、切削工具。
【請求項2】
25℃における前記第1層のナノインデンテーション硬さは、30GPa以上である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1層の平均厚さは、1.0μm以上20μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第2層の平均厚さは、0.5μm以上10μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具の性能向上のため、超硬合金、立方晶窒化硼素焼結体等からなる基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2022/176057号
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第1層および第2層を含み、
前記第2層は、前記第1層よりも前記基材に近い位置に設けられ、
前記第1層は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、
ここで、
0.30≦a≦0.50、
0<b≦0.10、を満たし、
前記第2単位層は、TiAl1-cNからなり、
ここで、
0.70≦c≦1.00、を満たし、
前記第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上であり、
前記第2層は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、
前記第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、
ここで、
0.25≦d<0.45、
0<e≦0.10、
0.35≦f<0.55、
0<g≦0.10、
0.05≦f-d≦0.20、を満たし、
前記第2層のX線回折スペクトルにおいて、(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、前記(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態1に係る切削工具の構成の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、成膜装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図3図3は、成膜装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、第1層の結晶粒の最大内接円の直径を測定する際の測定領域を説明するための図である。
図5図5は、第1層の結晶粒の最大内接円の直径の測定方法を説明するための図であり、測定視野の明視野像を模式的に示す図である。
図6図6は、結晶粒と第1単位層および第2単位層との位置関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、コスト低減の要求が益々高まっており、工具の長寿命化が求められている。例えば、ステンレス鋼の旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の切削工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第1層および第2層を含み、
前記第2層は、前記第1層よりも前記基材に近い位置に設けられ、
前記第1層は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
前記第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、
ここで、
0.30≦a≦0.50、
0<b≦0.10、を満たし、
前記第2単位層は、TiAl1-cNからなり、
ここで、
0.70≦c≦1.00、を満たし、
前記第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上であり、
前記第2層は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
前記第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
前記第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、
前記第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、
ここで、
0.25≦d<0.45、
0<e≦0.10、
0.35≦f<0.55、
0<g≦0.10、
0.05≦f-d≦0.20、を満たし、
前記第2層のX線回折スペクトルにおいて、(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、前記(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である、切削工具である。
【0010】
本開示の切削工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、25℃における前記第1層のナノインデンテーション硬さは、30GPa以上であってもよい。これによると、切削工具の耐摩耗性が向上する。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1層の平均厚さは、1.0μm以上20μm以下であってもよい。これによると、第1層における第1単位層と第2単位層の積層数が多く、亀裂の進展の抑制効果が更に向上する。よって、被膜の大規模な損傷を抑制することができ、切削工具の工具寿命が長くなる。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第2層の平均厚さは、0.5μm以上10μm以下であってもよい。これによると、第2層における第3単位層と第4単位層の積層数が多く、亀裂の進展の抑制効果が更に向上する。よって、被膜の大規模な損傷を抑制することができ、切削工具の工具寿命が長くなる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0015】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0016】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0017】
本開示において、数値範囲下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0018】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)の切削工具は、基材と、該基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、第1層および第2層を含み、
該第2層は、該第1層よりも該基材に近い位置に設けられ、
該第1層は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
該第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
該第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、
該第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、
ここで、
0.30≦a≦0.50、
0<b≦0.10、を満たし、
該第2単位層は、TiAl1-cNからなり、
ここで、
0.70≦c≦1.00、を満たし、
該第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上であり、
該第2層は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなり、
該第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
該第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、
該第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、
該第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、
ここで、
0.25≦d<0.45、
0<e≦0.10、
0.35≦f<0.55、
0<g≦0.10、
0.05≦f-d≦0.20、を満たし、
該第2層のX線回折スペクトルにおいて、(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、該(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である、切削工具である。
【0019】
本開示の切削工具は、長い工具寿命を有することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
【0020】
(i)本開示の切削工具の被膜は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなる第1層を含む。第1単位層と第2単位層とは、互いに組成が異なる。このため、第1単位層と第2単位層との界面付近で、切削工具の使用時に生じる被膜の表面からの亀裂の進展を抑制することができる。
【0021】
(ii)第1単位層はTiAl1-a-bN(ここで、0.30≦a≦0.50、0<b≦0.10を満たす。)からなる。第1単位層は、TiAlNに少量の硼素(B)が添加されていることにより、硬度が向上している。第2単位層は、TiAl1-cN(ここで、0.70≦c≦1.00を満たす。)からなる。第2単位層は、チタン(Ti)含有率が高く、優れた高温安定性を有する。本開示において、第1層は、高硬度な第1単位層と、高温安定性に優れる第2単位層とが交互に積層された多層構造からなるため、高温下でも安定した硬度が得られ、耐クレータ摩耗性が向上している。クレータ摩耗とは、切削工具と切り屑との摩擦熱に起因する、切削工具の主にすくい面に生じる摩耗である。更に、第1層は、高硬度な第1単位層と、第1単位層に比べて低硬度な第2単位層とが交互に積層された多層構造からなるため、耐欠損性も向上している。よって、被膜の耐クレータ摩耗性と耐欠損性とがバランスよく向上し、切削工具の工具寿命が長くなる。
【0022】
(iii)第1単位層と第2単位層とは、Ti含有率およびAl含有率が異なる。このため、第1単位層と第2単位層とは結晶格子が異なり、第1層に結晶格子の歪みが生じ、第1層は高い硬度を有することができる。よって第1層を含む被膜は、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0023】
(iv)第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上である。これによると、第1層は優れた耐クレータ摩耗性を有することができ、切削工具の工具寿命が長くなる。
【0024】
(v)本開示の切削工具の被膜は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなる第2層を含む。第3単位層と第4単位層とは、互いに組成が異なる。このため、第3単位層と第4単位層との界面付近で、切削工具の使用時に生じる被膜の表面からの亀裂の進展を抑制することができる。
【0025】
(vi)第2層は、第1層に比べて、アルミニウム(Al)の含有率が高く、靭性が高い。よって、第2層を有する被膜は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0026】
(vii)第3単位層と第4単位層とは、Ti含有率が異なる。このため、第3単位層と第4単位層とは結晶格子が異なり、第2層に結晶格子の歪みが生じ、第2層は高い硬度を有することができる。よって第2層を含む被膜は、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0027】
<切削工具>
実施形態1の切削工具は、切削工具である限り、その形状および用途等は、特に限定されない。実施形態1の切削工具は、たとえば、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップまたはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等であり得る。
【0028】
図1は、実施形態1の切削工具の構成の一例を示す概略部分断面図である。切削工具100は、基材10と、基材10上に設けられた被膜20と、を備える。被膜20は、第1層21および第2層22を含む。第2層22は第1層21よりも基材10に近い位置に設けられる。第1層21は、第1単位層1と第2単位層2とが交互に積層された多層構造からなる。第2層22は、第3単位層3と第4単位層4とが交互に積層された多層構造からなる。
【0029】
≪基材≫
基材10は、特に限定されない。基材10は、例えば、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、およびダイヤモンド焼結体等により構成され得る。基材10は、好ましくは超硬合金製である。超硬合金は、耐摩耗性に優れるためである。
【0030】
超硬合金とは、WC(炭化タングステン)粒子を主成分とする焼結体である。超硬合金は、硬質相および結合相を含む。硬質相は、WC粒子を含有する。結合相は、WC粒子同士を互いに結合している。結合相は、たとえばCo(コバルト)等を含有する。結合相は、たとえば、TiC(炭化チタン)、TaC(炭化タンタル)、NbC(炭化ニオブ)等をさらに含有していてもよい。
【0031】
超硬合金は、その製造過程で不可避的に混入する不純物を含有していてもよい。超硬合金は、その組織中に遊離炭素または「η層」と称される異常層を含む場合もある。さらに超硬合金は、表面改質処理が施されたものでもよい。たとえば、超硬合金は、その表面に脱β層等を含んでいてもよい。
【0032】
超硬合金は、WC粒子を85質量%以上98質量%以下含有し、Coを2質量%以上15質量%以下含有してもよい。WC粒子は、平均粒径が0.2μm以上4μm以下であってもよい。
【0033】
Coは、WC粒子に比べて軟質である。後述のように、基材10の表面にイオンボンバードメント処理を施すと、軟質なCoは除去され得る。超硬合金が上記の組成を有し、かつWC粒子が上記の平均粒径を有することにより、Coが除去された後の表面には、適度な凹凸が形成されることになる。かかる表面に被膜20を形成することにより、アンカー効果が発現し、被膜20と基材10との密着性が向上すると考えられる。
【0034】
ここで、WC粒子の粒径は、WC粒子の2次元投影像に外接する円の直径を示す。粒径は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)または透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)を用いて測定する。すなわち、超硬合金を切断し、その切断面をSEMまたはTEMで観察する。観察像において、WC粒子に外接する円の直径を、WC粒子の粒径とみなす。観察像において、無作為に抽出した10個以上(好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上)のWC粒子の粒径を測定し、その算術平均値をWC粒子の平均粒径とする。観察にあたり、切断面は、クロスセクションポリッシャ(Cross section Polisher;CP)または集束イオンビーム(Focused Ion Beam;FIB)等により、断面加工しておくことが望ましい。
【0035】
≪被膜≫
被膜20は、基材10上に設けられている。被膜20は、基材10の表面の一部に設けられていてもよいし、全面に設けられていてもよい。ただし、被膜20は、基材10の表面のうち、少なくとも切れ刃に相当する部分に設けられているものとする。本開示において、基材10の表面の切れ刃に相当する部分とは、基材10の表面において、刃先稜線からの距離が0.5mm以内、または、2mm以内の領域を意味する。本開示の効果を損なわない限り、切れ刃に相当する部分の少なくとも一部に被膜が形成されていなくても、本開示の範囲を逸脱するものではない。
【0036】
被膜20は、第1層21および第2層22を含む。第2層22は基材10の直上に設けられていてもよい。第1層21は被膜20の最表面の層であってもよい。被膜20は、基材10の直上に設けられた第2層22と、第2層22の直上に設けられた第1層21とからなることができる。被膜20は、本開示の効果を損なわない限り、第1層21および第2層22とともに、その他の層を含んでいてもよい。例えば、被膜20は、基材10と第2層22との間に設けられる下地層、および、被膜20の最表面に設けられる表面層の一方または両方を含むことができる。下地層は、TiCN層、TiN層およびTiCNO層からなる群より選ばれる少なくとも1層を含むことができる。表面層は、TiC層、TiN層およびTiCN層からなる群より選ばれる少なくとも1層を含むことができる。
【0037】
被膜20の積層構成は、被膜20全体に亘って一様である必要はなく、部分的に積層構成が異なっていてもよい。
【0038】
被膜20の厚さは、1.5μm以上30μm以下でもよい。被膜20の厚さが1.5μm以上であることにより、耐摩耗性が向上する。被膜20の厚さが30μm以下であることにより、耐欠損性が向上する。被膜20の厚さは、2.0μm以上25μm以下でもよく、3.0μm以上20μm以下でもよい。ここで、被膜の厚さとは、被膜を構成する層それぞれの厚さの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、第1層、第2層、下地層、表面層等が挙げられる。
【0039】
被膜を構成する各層の厚さは、切削工具の表面の法線方向に平行な断面の薄片サンプル(以下、「断面サンプル」とも記す。)を得て、該断面サンプルを走査透過電子顕微鏡(STEM)で観察することにより測定される。走査透過電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2100F(商品名)が挙げられる。断面サンプルの観察倍率を5000~10000倍とし、各層の5箇所の厚さを測定し、その算術平均値を「各層の厚さ」とする。
【0040】
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0041】
≪第1層≫
第1層21は、第1単位層1と第2単位層2とが交互に積層された多層構造からなる。第1単位層1および第2単位層2のそれぞれの平均厚さが2nm以上50nm以下である限り、積層数は、特に限定されない。積層数とは、第1層21に含まれる第1単位層1および第2単位層2のそれぞれの数を示す。積層数は、10以上5000以下でもよく、200以上5000以下でもよく、400以上2000以下でもよく、500以上1000以下でもよい。第1層21において、最も基材10に近い層は、第1単位層1であってもよいし、第2単位層2であってもよい。また第1層21において、最も基材10から離れている層は、第1単位層1であってもよいし、第2単位層2であってもよい。
【0042】
第1層の平均厚さは、1.0μm以上20μm以下とすることができる。第1層の平均厚さが1.0μm以上であることにより、耐摩耗性が向上する。第1層の平均厚さが20μm以下であることにより、耐欠損性が向上する。第1層の平均厚さの下限は、1.0μm以上でもよく、2.0μm以上でもよく、3.0μm以上でもよい。第1層の平均厚さの上限は、20μm以下でもよく、18μm以下でもよく、16μm以下でもよく、12μm以下でもよい。第1層の平均厚さは、1.0μm以上20μm以下でもよく、2.0μm以上16μm以下でもよく、3.0μm以上12μm以下でもよい。
【0043】
≪第1単位層および第2単位層の平均厚さ≫
第1単位層1の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、第2単位層2の平均厚さは、2nm以上50nm以下である。第1層において、このような薄層が交互に積層されることにより、亀裂の進展を抑制できる。第1単位層1および第2単位層2の一方または両方の平均厚さが2nm未満になると、第1単位層1および第2単位層2の組成が混ざり合って、亀裂進展の抑制効果が低減する可能性がある。第1単位層1および第2単位層2の一方または両方の平均厚さが50nm超であると、層間剥離の抑制効果が低減する可能性がある。第1単位層の平均厚さと、第2単位層の平均厚さとは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
第1単位層の平均厚さの下限は、2nm以上であり、4nm以上でもよく、6nm以上でもよく、8nm以上でもよい。第1単位層の平均厚さの上限は、50nm以下であり、46nm以下でもよく、40nm以下でもよく、30nm以下でもよい。第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、4nm以上40nm以下でもよく、6nm以上30nm以下でもよい。
【0045】
第2単位層の平均厚さの下限は、2nm以上であり、4nm以上でもよく、6nm以上でもよく、8nm以上でもよい。第2単位層の平均厚さの上限は、50nm以下であり、46nm以下でもよく、40nm以下でもよく、30nm以下でもよい。第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、4nm以上40nm以下でもよく、6nm以上30nm以下でもよい。
【0046】
第1単位層および第2単位層のそれぞれの平均厚さの測定方法は以下の通りである。切削工具の表面の法線方向に平行な切削工具の断面の薄片サンプル(以下、「断面サンプル」とも記す。)を得る。該断面サンプルを走査透過電子顕微鏡(STEM)で観察する。走査透過電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2100F(商品名)が挙げられる。断面サンプルの観察倍率は、第1単位層1および第2単位層2の厚さに応じて適宜調整するものとする。例えば、観察倍率は約100万倍とすることができる。1つの第1単位層において、5箇所の厚さを測定する。第1単位層の5箇所の厚さの算術平均値を算出し、該算術平均値を該第1単位層の平均厚さとする。1つの第2単位層において、5箇所の厚さを測定する。
【0047】
5つの異なる第1単位層のそれぞれについて、上記の手順で第1単位層の平均厚さを測定する。5つの第1単位層の平均厚さの算術平均値を求める。本開示において、該算術平均値を、第1単位層の平均厚さとする。5つの異なる第2単位層のそれぞれについて、上記の手順で第2単位層の平均厚さを測定する。5つの第2単位層の平均厚さの算術平均値を求める。本開示において、該算術平均値を、第2単位層の平均厚さとする。後述の第3単位層および第4単位層のそれぞれの平均厚さも、上記と同様の方法で測定される。
【0048】
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0049】
≪第1単位層および第2単位層の組成≫
本開示の切削工具において、第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、ここで、0.30≦a≦0.50、0<b≦0.10、を満たし、第2単位層は、TiAl1-cNからなり、ここで、0.70≦c≦1.00、を満たす。本開示の効果を損なわない限り、第1単位層はTiAl1-a-bNとともに不純物を含むことができる。第1単位層は、TiAl1-a-bNと不純物とからなることができる。本開示の効果を損なわない限り、第2単位層はTiAl1-cNとともに不純物を含むことができる。第2単位層は、TiAl1-cNと不純物とからなることができる。不純物としては、例えば、炭素(C)、酸素(O)が挙げられる。
【0050】
第1単位層において、aの下限は、0.30以上であり、0.36以上でもよく、0.37以上でもよく、0.39以上でもよい。aの上限は、0.50以下であり、0.48以下でもよく、0.45以下でもよい。aは、0.36≦a≦0.48でもよく、0.37≦a≦0.45でもよい。
【0051】
第1単位層において、bの下限は、0超であり、0.01以上でもよく、0.02以上でもよく、0.05以上でもよい。bの上限は、0.10以下であり、0.08以下でもよく、0.07以下でもよい。bは、0.01≦b≦0.08でもよく、0.02≦b≦0.07でもよい。
【0052】
第2単位層において、cの下限は、0.70以上であり、0.75以上でもよく、0.80以上でもよく、0.87以上でもよい。cの上限は、1.00以下であり、0.95以下でもよく、0.92以下でもよい。cは、0.75≦d≦0.95でもよく、0.80≦d≦0.92でもよい。
【0053】
第1単位層のTiAl1-a-bNにおけるa、bおよび第2単位層のTiAl1-cNにおけるcは、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectrometry;EDX)を用いて、各層の組成を測定することにより特定される。組成分析には透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscop:TEM)に付属のEDX(TEM-DEX)を用いる。EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED-2300(商標)が挙げられる。
【0054】
上記組成分析は以下の手順で行われる。切削工具の表面の法線方向に平行な断面の薄片サンプル(以下、「断面サンプル」とも記す。)を得る。該断面サンプルをTEMで観察しながら、1つの第1単位層内または1つの第2単位層内において、任意に選択された5点で、EDX分析を行う。第1単位層と第2単位層とは、コントラストの差で区別可能である。ここで「任意に選択された5点」は、互いに異なる結晶粒から選択するものとする。5点の測定で得られた各元素の組成比を算術平均することにより、第1単位層および第2単位層のそれぞれの組成を特定する。
【0055】
5つの異なる第1単位層のそれぞれについて、上記の手順で第1単位層の組成を特定する。本開示において、5つの第1単位層の組成の平均を、第1単位層の組成とし、これに基づき、aおよびbを特定する。5つの異なる第2単位層のそれぞれについて、上記の手順で第2単位層の組成を特定する。本開示において、5つの第2単位層の組成の平均を、第2単位層の組成とし、これに基づき、cを特定する。後述の第3単位層および第4単位層のそれぞれの組成、ならびに、第3単位層のTiAl1-d-eNにおけるdおよびe、第4単位層のTiAl1-f-gNにおけるfおよびgも、上記と同様の方法で測定される。
【0056】
同一の切削工具で測定する限り、測定点を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0057】
≪第1層の組成≫
第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100(以下、「百分率(T2/T1)×100」とも記す。)は、60%以上である。これによると、第1層は優れた耐クレータ摩耗性を有することができる。百分率(T2/T1)×100の下限は、耐クレータ摩耗性向上の観点から、60%以上であり、60.0%以上でもよく、62.2%以上でもよく、62.5%以上でもよく、63%以上でもよく、63.5%以上でもよく、66%以上でもよい。百分率(T2/T1)×100の上限は、耐酸化性向上の観点から、80%以下でもよく、77%以下でもよく、76.9%以下でもよく、75%以下でもよい。百分率(T2/T1)×100は、60%以上80%以下でもよく、63%以上77%以下でもよく、66%以上75%以下でもよい。
【0058】
第1層における百分率(T2/T1)×100は、TEM-EDXで測定される。EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED-2300(商品名)が挙げられる。百分率(T2/T1)×100は以下の手順で測定される。
【0059】
切削工具の表面の法線方向に平行な断面の薄片サンプル(以下、「断面サンプル」とも記す。)を得る。該断面サンプルをTEMで観察しながら、第1層内において、任意に選択された5視野で、EDX分析を行い、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100を測定する。ここで「任意に選択された5視野」は、互いに重ならないように設定される。1つの視野の範囲は200×200nmとする。本開示において、5つの視野の測定で得られた百分率(T2/T1)×100の算術平均を第1層における百分率(T2/T1)×100とする。
【0060】
同一の切削工具で測定する限り、測定点を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0061】
≪第1層のナノインデンテーション硬さ≫
25℃における第1層のナノインデンテーション硬さは、30GPa以上でもよい。これによると、切削工具の耐摩耗性が向上する。ナノインデンテーション硬さの下限は、32GPa以上でもよく、34GPa以上でもよい。ナノインデンテーション硬さHの上限は、特に制限されないが、製造上の観点から、60GPa以下でもよく、40GPa以下でもよく、36GPa以下でもよい。ナノインデンテーション硬さHは30GPa以上60GPa以下でもよく、32GPa以上60GPa以下でもよく、34GPa以上60GPa以下でもよい。
【0062】
25℃における第1層のナノインデンテーション硬さは、「ISO 14577-1: 2015 Metallic materials-Instrumented indentation test for hardness and materials parameters-」に定められる標準手順に準拠して、ナノインデンテーション法によって測定される。測定機器には、エリオニクス(Elionix)社製の「ENT-1100a」を用いる。圧子の押し込み荷重は1gとする。切削工具の表面の法線方向に平行な断面において、第1層に対して、断面の垂直方向(すなわち、切削工具の表面に対して平行な方向)に圧子の押し込みを行う。
【0063】
上記の測定を1つの測定サンプルにおいて5箇所で行う。5箇所のナノインデンテーション硬さの平均値を、第1層のナノインデンテーション硬さとする。なお、一見して異常値と思われるデータについては、除外するものとする。
【0064】
同一の切削工具で測定する限り、測定点を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0065】
≪第1層の結晶粒の最大内接円の直径≫
第1層は複数の結晶粒からなり、該結晶粒の最大内接円の直径は5nm以上500nm以下であってもよい。これによると、切削工具の耐クレータ摩耗性が向上する。本開示の第1層は、本開示の効果を損なわない範囲において、複数の結晶粒とともに、結晶粒を構成しない領域(原子配列がランダムな領域)を含んでいてもよい。
【0066】
上記結晶粒の最大内接円の直径の上限は、耐摩耗性および耐欠損性の向上の観点から、500nm以下でもよく、450nm以下でもよく、400nm以下でもよい。該結晶粒の最大内接円の直径の下限は、過度な結晶粒微細化による膜硬度低下の抑制の観点から、5nm以上でもよく、7nm以上でもよく、10nm以上でもよい。該結晶粒の最大内接円の直径は、5nm以上500nm以下でもよく、7nm以上450nm以下でもよく、10nm以上400nm以下でもよい。
【0067】
上記結晶粒の最大内接円の直径の測定方法は以下の通りである。切削工具の表面の法線方向に平行な切削工具の断面の薄片サンプル(厚さ:約10~100nm、以下、「断面サンプル」とも記す。)を得る。該断面サンプルを透過電子顕微鏡(TEM)で観察し、明視野像を得る。観察倍率は100万倍~500万倍とする。該明視野像は、図4に示されるように、第1層の平均厚さ方向の中心を示す線L1から基材側への距離が0.2μmの線L2と、前記線L1から被膜の表面側への距離が0.2μmの線L3とに挟まれる領域Aを含むように取得する。該領域A中に、150nm×150nmの矩形の測定視野を任意に設定する。
【0068】
上記測定視野において、原子配列が±0.5°以下の領域を特定し、該領域を結晶粒と定義する。原子配列が±0.5°以下の領域、および、結晶粒の特定方法について、図5を用いて説明する。
【0069】
図5は、上記測定視野の明視野像の一例を示す模式図である。図5において、原子は符号50の黒点で示される。なお、図5では、原子の一部が示されている。該明視野像において、規則的に配置されている原子50を最も原子間距離が近くなるような線分で結ぶ。図5において、該線分はL10~L14、L20~L22、および、L30~L34で示される。線分同士の角度が±0.5°以下(すなわち、-0.5°以上0.5°以下)の領域を結晶粒と定義する。
【0070】
図5では、線分L10~L14同士の角度は±0.5°以下であり、これらの線分が含まれる領域が結晶粒24aに該当する。線分L20~L22同士の角度は±0.5°以下であり、これらの線分が含まれる領域が結晶粒24bに該当する。線分L30~L34同士の角度は±0.5°以下であり、これらの線分が含まれる領域が結晶粒24cに該当する。
【0071】
上記測定視野中の各結晶粒の最大内接円の直径を求める。最大内接円の直径とは、結晶粒の内部に描くことのできる、該結晶粒の外縁の少なくとも一部に接触する最大の内接円の直径を意味する。
【0072】
図5において、結晶粒24aの最大内接円25aの直径はD1である。結晶粒24bの最大内接円25bの直径はD2である。結晶粒24cの最大内接円25cの直径はD3である。D1、D2およびD3の全てが50nm以下の場合、図5に示される第1層は複数の結晶粒からなり、該結晶粒の最大内接円の直径は50nm以下であることが確認される。
【0073】
同一の切削工具で測定する限り、上記測定視野を任意に設定しても、結晶粒の最大内接円の直径の測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0074】
図5では、結晶粒24a、結晶粒24bおよび結晶粒24cの間に空間が存在しているが、実際は空間に結晶粒が存在している。TEM用の断面サンプルの厚みが約10~100nmであるため、明視野像には奥行き方向の情報も反映される。サンプルの厚み方向に複数の結晶粒が重なっている領域では、明視野像上で規則的な原子配列を確認できない。よって、該複数の結晶粒が重なっている領域は、上記の特定方法においては結晶粒と判別されない。
【0075】
≪結晶粒と第1単位層および第2単位層との位置関係≫
結晶粒と第1単位層および第2単位層との位置関係について、図6を用いて説明する。図6は、実施形態1の第1層の膜厚方向に沿う断面を模式的に示す図である。図6に示される通り、第1層21は、第1単位層1と第2単位層2とが交互に積層された多層構造からなる。図6には、複数の結晶粒24が示されており、結晶粒24間の境界は、結晶粒界25として示される。各結晶粒24は、第1単位層または第2単位層のみからなることができる。また、各結晶粒24は、1層以上の第1単位層および1層以上の第2単位層にまたがって存在することができる。すなわち、各結晶粒24は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層されたラメラ構造を有することができる。
【0076】
≪第2層≫
第2層22は、第3単位層3と第4単位層4とが交互に積層された多層構造からなる。第3単位層3および第4単位層4のそれぞれの平均厚さが2nm以上50nm以下である限り、積層数は、特に限定されない。積層数とは、第2層22に含まれる第3単位層3および第4単位層4のそれぞれの数を示す。積層数は、10以上5000以下でもよく、200以上5000以下でもよく、400以上2000以下でもよく、500以上1000以下でもよい。第2層22において、最も基材10に近い層は、第3単位層3であってもよいし、第4単位層4であってもよい。また第2層22において、最も基材10から離れている層は、第3単位層3であってもよいし、第4単位層4であってもよい。
【0077】
第2層の平均厚さは、0.5μm以上10μm以下とすることができる。第2層の平均厚さが0.5μm以上であることにより、耐摩耗性が向上する。第2層の平均厚さが10μm以下であることにより、耐欠損性が向上する。第2層の平均厚さの下限は、1.0μm以上でもよく、2.0μm以上でもよく、3.0μm以上でもよい。第2層の平均厚さの上限は、10μm以下でもよく、9μm以下でもよく、8μm以下でもよく、7μm以下でもよい。第2層の平均厚さは、1.0μm以上9μm以下でもよく、2.0μm以上8μm以下でもよく、3.0μm以上7μm以下でもよい。
【0078】
≪第3単位層および第4単位層の平均厚さ≫
第3単位層3の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、第4単位層4の平均厚さは、2nm以上100nm以下である。第2層において、このような薄層が交互に積層されることにより、亀裂の進展を抑制できる。第3単位層3および第4単位層4の一方または両方の平均厚さが2nm未満になると、第3単位層3および第4単位層4の組成が混ざり合って、亀裂進展の抑制効果が低減する可能性がある。第3単位層3および第4単位層4の一方または両方の平均厚さが100nm超であると、層間剥離の抑制効果が低減する可能性がある。第3単位層の平均厚さと、第4単位層の平均厚さとは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
第3単位層の平均厚さの下限は、2nm以上であり、5nm以上でもよく、10nm以上でもよく、15nm以上でもよく、20nm以上でもよい。第3単位層の平均厚さの上限は、100nm以下であり、80nm以下でもよく、75nm以下でもよく、65nm以下でもよく、64nm以下でもよい。第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、5nm以上75nm以下でもよく、10nm以上65nm以下でもよい。
【0080】
第4単位層の平均厚さの下限は、2nm以上であり、5nm以上でもよく、10nm以上でもよく、15nm以上でもよく、20nm以上でもよい。第4単位層の平均厚さの上限は、100nm以下であり、80nm以下でもよく、75nm以下でもよく、65nm以下でもよく、52nm以下でもよく、50nm以下でもよい。第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、5nm以上75nm以下でもよく、10nm以上50nm以下でもよい。
【0081】
第3単位層および第4単位層のそれぞれの平均厚さは、上述の第1単位層および第2単位層のそれぞれの平均厚さの測定方法と同様の方法で測定される。同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0082】
≪第3単位層および第4単位層の組成≫
本開示の切削工具において、第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、ここで、0.25≦d<0.45、0<e≦0.10を満たし、第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、ここで、0.35≦f<0.55、0<g≦0.10、0.05≦f-d≦0.2を満たす。本開示の効果を損なわない限り、第3単位層はTiAl1-d-eNとともに不純物を含むことができる。第3単位層は、TiAl1-d-eNと不純物とからなることができる。本開示の効果を損なわない限り、第4単位層はTiAl1-f-gNとともに不純物を含むことができる。第4単位層は、TiAl1-f-gNと不純物とからなることができる。該不純物としては、例えば、炭素(C)、酸素(O)が挙げられる。
【0083】
第3単位層において、dの下限は、0.25以上であり、0.30以上でもよく、0.31以上でもよく、0.32以上でもよく、0.33以上でもよく、0.34以上でもよい。dの上限は、0.45未満であり、0.40以下でもよく、0.37以下でもよく、0.35以下でもよい。dは、0.30≦d≦0.40でもよく、0.31≦d≦0.37でもよい。
【0084】
第3単位層において、eの下限は、0超であり、0.01以上でもよく、0.02以上でもよく、0.04以上でもよく、0.05以上でもよい。eの上限は、0.10以下であり、0.08以下でもよく、0.07以下でもよく、0.06以下でもよい。eは、0.01≦e≦0.08でもよく、0.02≦e≦0.07でもよい。
【0085】
第4単位層において、fの下限は、0.35以上であり、0.40以上でもよく、0.41以上でもよく、0.42以上でもよく、0.43以上でもよく、0.45以上でもよい。fの上限は、0.55未満であり、0.50以下でもよい。は、0.40≦f<0.55でもよく、0.45≦f≦0.50でもよい。
【0086】
第4単位層において、gの下限は、0超であり、0.01以上でもよく、0.02以上でもよく、0.04以上でもよい。gの上限は、0.10以下であり、0.08以下でもよく、0.06以下でもよい。は、0.01≦≦0.10でもよく、0.02≦≦0.06でもよい。
【0087】
第2層において、f-dの下限は、0.05以上であり、0.08以上でもよく、0.10以上でもよく、0.11以上でもよい。f-dの上限は、0.20以下であり、0.18以下でもよい。f-dは、0.08≦f-d≦0.18でもよく、0.10≦f-d≦0.18でもよい。
【0088】
第3単位層のTiAl1-d-eNにおけるdおよびe、第4単位層のTiAl1-f-gNにおけるfおよびgは、上述の第1単位層のTiAl1-a-bNにおけるa、bおよび第2単位層のTiAl1-cNにおけるcと同様の方法で測定される。同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0089】
≪第2層におけるX線回折分析≫
第2層のX線回折スペクトルにおいて、(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である。これによると、第2層の硬度および靭性が向上し、優れた耐摩耗性および耐欠損性を得ることができる。「(002)面に由来するピーク強度I(002)」とは、六方晶の(002)面に由来するX線回折ピークのうち、最も高いピークにおける回折強度(ピークの高さ)を意味する。「(200)面に由来するピーク強度I(200)」とは、立方晶の(200)面に由来するX線回折ピークのうち、最も高いピークにおける回折強度(ピークの高さ)を意味する。第2層のX線回折スペクトルにおいて、六方晶の(002)面に由来するピークが存在する場合、第2層は六方晶型の結晶構造を含むことが確認される。第2層のX線回折スペクトルにおいて、立方晶の(200)面に由来するピークが存在する場合、第2層は立方晶型の結晶構造を含むことが確認される。比I(200)/I(002)が2以上であることは、第2層において立方晶と六方晶との混晶が形成されていることを意味する。
【0090】
ピーク強度I(002)およびピーク強度I(200)を測定する際のX線回折分析の条件は以下の通りである。
走査軸:2θ-θ
X線源:Cu-Kα線(1.541862Å)
検出器:0次元検出器(シンチレーションカウンタ)
管電圧:45kV
管電流:40mA
入射光学系:ミラーの利用
受光光学系:アナライザ結晶(PW3098/27)の利用
ステップ:0.03°
積算時間:2秒
スキャン範囲(2θ):20°~80°
【0091】
第2層における任意の3箇所のそれぞれにおいて、θ/2θ法によるX線回折測定(XRD測定)を行い、所定の結晶面のX線回折強度を求め、求められた3箇所のX線回折強度の平均値を当該所定の結晶面のX線回折強度とする。(200)面のX線回折強度は、2θ=43~44°付近におけるX線回折強度に対応し、(002)面のX線回折強度は、2θ=30~40°付近におけるX線回折強度に対応する。X線回折測定に用いる装置としては、たとえば、株式会社リガク製の「SmartLab」(商品名)、パナリティカル製の「X’pert」(商品名)等が挙げられる。
【0092】
比I(200)/I(002)の下限は、2以上であり、2.0以上でもよく、2.2以上でもよく、2.3以上でもよい。比I(200)/I(002)の上限は、例えば10以下でもよく、10未満でもよく、5以下でもよく、3以下でもよい。比I(200)/I(002)は2以上10以下でもよく、2以上5以下でもよい。
【0093】
(002)面に由来するピークの半値幅が2度以上であることは、第2層において六方晶が微細に分散しており、硬度および靭性を向上させていることを意味する。(002)面に由来するピークの半値幅の下限は、2度以上であり、2.0度以上でもよく、2.2度以上でもよい。(002)面に由来するピークの半値幅の上限は、4度以下でもよく、3度以下でもよい。(002)面に由来するピークの半値幅の下限は、2度以上でもよく、2.2度以上でもよく、2.4度以上でもよい。(002)面に由来するピークの半値幅は、2度以上4度以下でもよく、2度以上3度以下でもよい。
【0094】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
実施形態2では、実施形態1の切削工具の製造方法について説明する。実施形態2の製造方法は、基材を準備する工程と、該基材上に被膜を形成する工程とを含むことができる。各工程の詳細について、以下に説明する。
【0095】
≪基材を準備する工程≫
基材を準備する工程では、基材10が準備される。基材10は、実施形態1に記載の基材を用いることができる。
【0096】
≪被膜を形成する工程≫
被膜を形成する工程では、基材10上に被膜20を形成する。実施形態2では、物理蒸着(Physical Vapor Deposition;PVD)法により、被膜20を形成することができる。PVD法の具体例としては、アークイオンプレーティング(Arc Ion Plating;AIP)法、バランスドマグネトロンスパッタリング(Balanced Magnetron Sputtering;BMS)法、およびアンバランスドマグネトロンスパッタリング(Unbalanced Magnetron Sputtering;UBMS)法等が挙げられる。実施形態2では、アークイオンプレーティングを用いることが好ましい。
【0097】
AIP法では、ターゲット材を陰極(カソード)としてアーク放電を生起する。これにより、ターゲット材を蒸発、イオン化させる。そして負のバイアス電圧が印加された基材10の表面にイオンを堆積させる。AIP法は、ターゲット材のイオン化率において優れている。
【0098】
AIP法で用いられる成膜装置について、図2および図3を用いて説明する。図2に示されるように、成膜装置200は、チャンバ201を備える。チャンバ201には、チャンバ201内に原料ガスを導入するためのガス導入口202、および、チャンバ201内から原料ガスを外部に排出するためのガス排気口203が設けられている。ガス排気口203は、図示しない真空ポンプに接続されている。チャンバ201内の圧力は、ガスの導入量および排出量により調整される。
【0099】
チャンバ201内には、回転テーブル204が配置されている。回転テーブル204には、基材10を保持するための基材ホルダ205が取り付けられている。基材ホルダ205は、バイアス電源206の負極に接続されている。バイアス電源206の正極は、アースされている。
【0100】
図3に示されるように、チャンバ201の側壁には、複数のターゲット材211,212,213,214が取り付けられている。図2に示されるように各ターゲット材211,212は、それぞれ直流電源221,222の負極に接続されている。直流電源221,222は、可変電源であり、その正極はアースされている。図2では、図示されていないが、ターゲット材213,214についても同様である。以下、具体的な操作を説明する。
【0101】
基材ホルダ205に基材10を保持させる。真空ポンプを用いて、チャンバ201内の圧力を、1.0×10-4Paに調整する。回転テーブル204を回転させながら、成膜装置200に付帯するヒータ(図示せず)により、基材10の温度を500℃に調整する。
【0102】
ガス導入口202からArガスを導入し、チャンバ201内の圧力を3.0Paに調整する。同圧力を維持しながら、バイアス電源206の電圧を徐々に変化させ、最終的に-1000Vに調整する。そして、Arイオンによるイオンボンバードメント処理により、基材10の表面を洗浄する。
【0103】
次に、被膜が下地層を含む場合は、基材10の表面に下地層を形成する。例えば、基材10の表面に、TiCN層、TiN層またはTiCNO層を形成する。
【0104】
次に、基材10の表面、または下地層の表面に、第2層を形成する。各ターゲット材の組成は、第3単位層および第4単位層の組成を得られるように選択される。各ターゲット材を、所定の位置にセットし、ガス導入口202から窒素ガスを導入し、回転テーブル204を回転させながら、第2層を形成する。第2層の形成の際は、基材を温度400~800℃に、反応ガス圧を1~10Pa(窒素ガスの分圧は5~10Pa)に維持し、バイアス電源の電圧を30~200V(直流電源)の範囲で徐々に変化させながら、第3単位層形成用の蒸発源及び第4単位層形成用の蒸発源に80~200Aのアーク電流を交互に供給する。これにより、第3単位層形成用の蒸発源及び第4単位層形成用の蒸発源から金属イオンを発生させ、上記基材が第3単位層形成用の蒸発源に対向しているときは第3単位層が形成され、上記基材が第4単位層形成用の蒸発源に対向しているときは第4単位層が形成される。また、バイアス電源の電圧を上述のように変化させながら成膜することによって、第2層の高い硬度と刃先品位との両立が可能になる。所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止める。第2層の形成の際に、基材の回転速度を調節することにより、第3単位層及び第4単位層それぞれの厚さを調整する。また、成膜時間を調節することにより、第2層の厚さが所定範囲になるように調整する。切削加工に関与する部分(例えば、切れ刃付近のすくい面)に加えて、切削加工に関与する部分以外の上記基材の表面上に第2層が形成されていてもよい。
【0105】
本実施形態の一側面において、基材を温度500~600℃に、反応ガス圧を5~10Pa(窒素ガスの分圧は5~8Pa)に維持し、バイアス電源の電圧を30~200V(直流電源)の範囲で徐々に変化させながら、第3単位層形成用の蒸発源及び第4単位層形成用の蒸発源に80~120Aのアーク電流を交互に供給してもよい。このようにすることで、第2層中に、立方晶と六方晶との混晶組織を形成することが可能になる。このような混晶組織とすることで、立方晶及び六方晶それぞれの結晶粒の粗大化が抑制され、ひいては第2層における靱性及び耐熱性が向上する。
【0106】
次に、第2層の上に第1層を形成する。各ターゲット材の組成は、第1単位層および第2単位層の組成を得られるように選択される。各ターゲット材を、所定の位置にセットし、ガス導入口202から窒素ガスを導入し、回転テーブル204を回転させながら、第1層を形成する。第1層の形成条件は以下の通りである。
【0107】
<第1層の形成条件>
基材温度 :400~800℃
バイアス電圧:-400~-20V
アーク電流 :80~200A
反応ガス圧 :2~10Pa
【0108】
基材温度、反応ガス圧、バイアス電圧およびアーク電流は、上記の範囲内で一定値とするか、あるいは、上記の範囲内で連続的に値を変化させる。
【0109】
第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造は、以下(A)~(D)の方法を適宜組み合わせることにより、形成することができる。
(A)AIP法において、組成が互いに異なる複数のターゲット材(焼結合金)を用いる。
(B)AIP法において、成膜中、基材10に印加されるバイアス電圧を上記の第1層の形成条件に記載のバイアス電圧内で変化させる。
(C)AIP法において、ガス流量を変化させる。
(D)AIP法において、基材10を回転させ、その回転周期を制御する。
【0110】
次に、被膜が表面層を含む場合は、例えば、第1層の表面に表面層を形成する。
【0111】
以上より、基材10と、該基材10上に設けられた被膜20とを備える切削工具100を製造することができる。
【実施例
【0112】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0113】
[実施例1]
<切削工具の作製>
以下のようにして、切削工具を作製し、工具寿命を評価した。
【0114】
基材として、超硬合金からなる切削チップ(型番:CNMG120408(住友電工ハードメタル社製))を準備した。該超硬合金は、WC粒子(90質量%)、およびCo(10質量%)を含む。該WC粒子の平均粒径は1~2μmである。
【0115】
上記基材上に、図2および図3に示される構成を有する成膜装置を用いて被膜を形成した。まず、基材に対してArイオンによるイオンボンバードメント処理により、基材の表面を洗浄した。イオンボンバーメント処理の具体的な条件は、実施形態2に記載の通りである。
【0116】
次に、ターゲット材を、成膜装置の所定の位置にセットした。各ターゲット材の組成は、表1に記載の第1単位層および第2単位層の組成、および、表2に記載の第3単位層および第4単位層の組成が得られるように調整してある。
【0117】
基材上に第2層を形成した。具体的には、ガス導入口から窒素ガスを導入し、回転テーブルを回転させながら、第3単位層と第4単位層とを交互に形成することにより、第2層を形成した。基材を温度550℃に、反応ガス圧を8Pa(窒素ガスの分圧:8Pa)に維持し、バイアス電源の電圧を35~180Vの範囲で徐々に変化させながら第3単位層形成用の蒸発源及び第4単位層形成用の蒸発源にそれぞれ90Aのアーク電流を交互に供給した。第3単位層および第4単位層のそれぞれの厚みおよび積層数は、基材の回転速度で調整した。
【0118】
次に、第2層上に第1層を形成した。具体的には、ガス導入口から窒素ガスを導入し、回転テーブルを回転させながら、第1単位層と第2単位層とを交互に形成することにより、第2層上に第1層を形成した。各試料の第1層の形成条件は、基材温度400~800℃、バイアス電圧-400~-20V、アーク電流80~200A、反応ガス圧2~10Paとした。基材温度、反応ガス圧、バイアス電圧およびアーク電流は、上記の範囲内で一定値とするか、あるいは、上記の範囲内で連続的に値を変化させた。第1単位層および第2単位層のそれぞれの厚みおよび積層数は、基材の回転速度で調整した。上記の工程により、各試料の切削工具を得た。
【0119】
<評価>
≪被膜の構成≫
各試料の被膜について、第1単位層、第2単位層、第3単位層および第4単位層の組成、平均厚さ、積層数、第1層および第2層の平均厚さ、第1層におけるチタンおよびアルミニウムの原子数の合計に対するチタンの原子数の百分率(表1において「(T2/T1)×100」と示す。)、第1層のナノインデンテーション硬さ(表1において「硬さ」と示す。)、第2層の割合I(200)/I(002)、(002)面に由来するピークの半値幅(表2において「(002)ピーク半値幅」と示す。)を測定した。各項目の測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表1および表2に示す。表1において、「積層数」が「1」との表記は、第1単位層または第2単位層を1層のみ形成したことを示す。表1において「-」との表記は、該当する層を形成しなかったことを示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
≪切削試験≫
各試料の切削工具を用いて以下の条件で旋削加工を行い、逃げ面から測定した欠損の幅が0.5mm以上となるまでの切削距離を測定した。切削距離が長いほど、耐クレータ摩耗性および耐欠損性に優れ、工具寿命が長いことを示す。結果を表3の「切削試験」の「切削距離」欄に示す。
【0123】
(切削条件)
被削材:SUS316 丸材
切削速度:200m/min
送り量:0.2mm/rev
切り込み量:1.5mm
湿式
上記の切削条件は、ステンレス鋼の旋削加工(高速加工)に該当する。
【0124】
【表3】
【0125】
<評価>
試料1~試料15は実施例に該当する。試料21~試料28は比較例に該当する。試料1~試料15は試料21~試料28よりも、工具寿命が長いことが確認された。
【0126】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
1 第1単位層、2 第2単位層、3 第3単位層、4 第4単位層、10 基材、20 被膜、21 第1層、22 第2層、24,24a,24b,24c 結晶粒、25 結晶粒界、50 原子、100 切削工具、200 成膜装置、201 チャンバ、202 ガス導入口、203 ガス排気口、204 回転テーブル、205 基材ホルダ、206 バイアス電源、211,212,213,214 ターゲット材、221,222 直流電源
【要約】
基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、第1層および第2層を含み、前記第2層は、前記第1層よりも前記基材に近い位置に設けられ、前記第1層は、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造からなり、前記第1単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、前記第2単位層の平均厚さは、2nm以上50nm以下であり、前記第1単位層は、TiAl1-a-bNからなり、ここで、0.30≦a≦0.50、0<b≦0.10、を満たし、前記第2単位層は、TiAl1-cNからなり、ここで、0.70≦c≦1.00、を満たし、前記第1層において、チタンおよびアルミニウムの原子数の合計T1に対する、チタンの原子数T2の百分率(T2/T1)×100は、60%以上であり、前記第2層は、第3単位層と第4単位層とが交互に積層された多層構造からなり、前記第3単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、前記第4単位層の平均厚さは、2nm以上100nm以下であり、前記第3単位層は、TiAl1-d-eNからなり、前記第4単位層は、TiAl1-f-gNからなり、ここで、0.25≦d<0.45、0<e≦0.10、0.35≦f<0.55、0<g≦0.10、0.05≦f-d≦0.20、を満たし、前記第2層のX線回折スペクトルにおいて、(002)面に由来するピーク強度I(002)に対する、(200)面に由来するピーク強度I(200)の割合I(200)/I(002)は、2以上であり、かつ、前記(002)面に由来するピークの半値幅は2度以上である、切削工具である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6