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特許7553011脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、及び抗神経炎症剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、及び抗神経炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/05 20060101AFI20240910BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K36/05
A61P3/04
A61P29/00
A61P39/06
A61P43/00 111
A61P25/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020095978
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187797
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-28
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22360
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 篤
(72)【発明者】
【氏名】堀川 豊
(72)【発明者】
【氏名】額賀 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】宮前 友策
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真哉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一憲
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189742(JP,A)
【文献】Arch.Dermatol.Res.,2012年,Vol.304,pp.755-764
【文献】J.Agric.Food Chem.,2006年,Vol.54,pp.4593-4599
【文献】Frontiers in Physiolosy,2017年,Vol.8,Article No.900
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の緑色を呈する藻体のアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の緑色を呈する藻体のアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗炎症剤。
【請求項3】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の緑色を呈する藻体のアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗酸化剤。
【請求項4】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の緑色を呈する藻体のアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、PPARγのパーシャルアゴニストとして用いるための、核内受容体作動剤。
【請求項5】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の緑色を呈する藻体のアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗神経炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Botryococcus terribilis(ボトリオコックス テリビリス)に属する微細藻類である黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、及び抗神経炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内に油分を蓄積する微細藻類がいくつか知られており、例えば、炭素数30~34程度の炭化水素を蓄積するボトリオコックス属に属する微細藻類が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-226062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細藻類はバイオマスエネルギーの原料として一般に注目されているが、本発明者らが単離したボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株は種々の代謝物を産生することから、それらの代謝物の中に医薬品類の有効成分を含むことが考えられた。本発明者らはこれを検討し、次の有効成分を含むことを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
本発明は、ボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、及び抗神経炎症剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、脂肪蓄積抑制剤。
[2] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗炎症剤。
[3] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗酸化剤。
[4] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、核内受容体作動剤。
[5] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗神経炎症剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、及び抗神経炎症剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】増殖期における緑色のTEPMO-26株が攪拌培養液中に分散している様子を示す写真である。培養初期の緑色の細胞(藻体)は、表面が滑らかな雨滴型で、細胞同士が近接した群体を形成する。
図2】培養後期のTEPMO-26株の光学顕微鏡写真である。写真中、オレンジ色の細胞は、表面の滑らかさが失われ、細胞間に間隙が生じている。
図3】培養後期に大量の炭化水素を藻体内に蓄積し、オレンジ色を呈したTEPMO-26株が攪拌停止とともに培養液の液面に浮上した様子を示す写真である。写真上部は透明な培養容器であり、写真中央の濃い色に見える帯が浮上した細胞群であり、写真下部は培養液中に散見される少数の細胞群である。
図4】3T3-L1前駆脂肪細胞を分化誘導後、10日間培養した後、脂肪滴を0.5% Oil Red O試薬により染色した結果を示す顕微鏡写真である。1/500、1/1000、1/5000、1/10000の倍率で希釈した各試験サンプル(本発明に係る試料)を分化誘導開始時から染色時まで継続して処理した。
図5】Gal4 DBDにhuman PPARγLBDを接続したキメラタンパク質およびルシフェラーゼ遺伝子上流にUAS配列を連結したレポーター遺伝子を安定発現するU2OS細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイにより評価した結果を示すグラフである。細胞に0.1 % DMSO、トログリタゾン (10 μM)、1/500、/1000、1/5000、1/10000の倍率で希釈した各試験サンプル(本発明に係る試料)を24時間処理した後、細胞抽出液を調整し、ルシフェラーゼ活性および総タンパク質濃度からPPARγアゴニスト活性を算出した。0.1% DMSOの値を1として相対値化した。平均値±SD値(n = 3)を表す。
図6】本発明に係る試料がマウスマクロファージ様RAW264細胞の生存率への影響評価を行った結果を表すグラフである。細胞に1/100、1/500、/1000、1/5000の倍率で希釈した各試験サンプル(本発明に係る試料)、希釈に用いた培養液のみ(Cont.)を24時間処理した後、MTT試薬を加えて、染色の程度を比色法にて測定し、Cont.における染色の程度を100%として相対値化し、生存率とした。平均値±SD値(n = 3)を表す。
図7】本発明に係る試料が炎症メディエーターの一種である一酸化窒素(NO)産生量に与える影響を評価した結果を表すグラフである。マウスマクロファージ様RAW264細胞に1/500、/1000、1/5000の倍率で希釈した各試験サンプル(本発明に係る試料)、希釈に用いた培養液のみ(Cont.)を24時間処理した後、さらにリポ多糖(LPS)を14時間処理し、グリース法にしたがってNO産生量を比色法で測定した。Cont.における染色の程度を100%として相対値化し、生存率とした。平均値±SD値(n = 3)を表す。Cont.にLPS処理した細胞におけるNO産生量を100%として相対値化した。平均値±SD値(n = 3)を表す。
図8】本発明に係る試料の抗酸化能を評価した結果を表すグラフである。DPPH試薬に対して20倍量の試験サンプル(本発明に係る試料)を添加し、DPPH試薬が示す青色の消去量を、標準試料(Trolox)の濃度相当として算出した。平均値±SD値(n = 3)を表す。
図9】本発明に係る試料が神経細胞モデルであるSH-SY5Y細胞の生存率へ及ぼす影響を評価した結果(48時間処理)を表すグラフである。
図10】本発明に係る試料が神経細胞モデルであるSH-SY5Y細胞の生存率へ及ぼす影響を評価した結果(72時間処理)を表すグラフである。
図11】本発明に係る試料が、デキサメタゾン処理又はアミロイドβ処理したSH-SY5Y細胞の生存率へ及ぼす影響を評価した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪薬剤の形態≫
本発明に係る薬剤は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする。
【0010】
<藻体>
TEPMO-26株の藻体は、水を含む藻体でもよいし、乾燥した藻体でもよい。藻体の生死の状態はいずれであってもよい。藻体を乾燥させる方法は特に限定されず、例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、風乾等の常法が適用可能である。
TEPMO-26株の藻体は、後述するように、増殖し易い良好な培養条件であると緑色を呈するが、その後に増殖し難い条件に切り替えるとオレンジ色に変化する。藻体の色の変化は、藻体に含まれる色素の種類や組成が変化したことを示す。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において、「TEPMO-26株の藻体」の用語は、緑色を呈する藻体とオレンジ色を呈する藻体を区別せず、両方を含む用語である。これらを特に区別する場合には、TEPMO-26株の緑色を呈する藻体を「グリーンセル」といい、TEPMO-26株のオレンジ色を呈する藻体を「オレンジセル」という。
なお、「TEPMO-26株の藻体」を単に「TEPMO-26株」と略すことがある。
【0012】
<藻体分泌物>
TEPMO-26株の藻体分泌物は、TEPMO-26株が生育した培養液若しくは培地に含まれる前記藻体に由来する成分、又は、前記培養液若しくは前記培地から回収した藻体を水若しくは培養液に懸濁した懸濁液に含まれる前記藻体に由来する成分(ただし、藻体自体は除く。)である。
ここで「生育」とは、TEPMO-26株が増殖する場合だけでなく、TEPMO-26株が増殖せずとも生きた状態で活動する場合も含む。
前記藻体分泌物には、TEPMO-26株の藻体から分泌又は排出された有機物が含まれる。前記有機物としては、例えば、多糖類、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、ホルモン様物質等の代謝産物が挙げられる。
前記藻体に由来する成分は、任意の溶媒に溶解又は分散された液体として、又は、乾燥した固体(例えば粉末)として使用され得る。
【0013】
<藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物>
TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物は、湿潤又は乾燥状態の藻体をアルコール又はアルコール水溶液に接触させて、アルコール又はアルコール水溶液に溶解又は分散されたことにより藻体から抽出された、藻体に由来する成分である。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール等の2価アルコールが挙げられる。前記アルコールは1価アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールがより好ましい。
前記アルコール水溶液は、1種以上の前記アルコールを含む水溶液である。
前記アルコール水溶液の総質量に対する前記アルコールの合計の含有量は、有効成分の抽出効率を高める観点から、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、70~90質量%がさらに好ましい。
抽出時の前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の温度は、例えば4~40℃が挙げられ、18~28℃程度が簡便で好ましい。
抽出時の前記藻体(乾燥時の質量)と前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の質量比は、例えば10:1~1:10の範囲で適宜調整すればよい。
抽出時間は特に制限されず、例えば1~2400時間が挙げられ、24~480時間が好ましい。
抽出時に、ホモジナイザーや超音波処理機を用いて前記藻体を砕いてもよいし、前記藻体を砕かずに自然に抽出してもよい。
抽出後には、遠心分離や濾過によって、前記藻体の残渣を除去することにより、目的の抽出物を含む抽出液が得られる。
前記抽出液に含まれるアルコール及び/又は水は、除去されてもよいし、他の溶媒に置換されてもよい。
前記藻体に由来する成分は、任意の溶媒に溶解又は分散された液体として、又は、乾燥した固体(例えば粉末)として使用され得る。
【0014】
<TEPMO-26株>
本発明に用いられるTEPMO-26株はボトリオコックス属に属する黄緑色藻である。その培養初期における形態は、図1の光学顕微鏡写真に示す様なコロニー状の群体を呈し、概ね従来のボトリオコックス ブラウニー(Botryococcus braunii)と類似した形態である。二酸化炭素を例えば5~20%で含む通気ガスを供給しながら撹拌し、例えば25~35℃でTEPMO-26株を培養すると、最短2.1日で藻体濃度が倍化する。適当な藻体濃度に達した時点で、通気ガスを純空気に切り換えると、培養液のpHがアルカリ性へ変化し、翌日には藻体が黄色味を帯びはじめ、数日以内にオレンジ色が深まる(図2)。また、培養液の攪拌を停止すると藻体が培養液の液面に浮上する(図3)。藻体が緑色である場合に攪拌を停止すると藻体は培養液の底へ沈降することから、オレンジ色に変色した藻体内には培養液よりも密度が低い物質(高濃度の油分)が蓄積されていることが分かる。
【0015】
常法により、TEPMO-26株からDNAを抽出し、18S rDNAのITS-2領域の塩基配列解析を行った結果、ボトリオコックス属の既知の微細藻類ボトリオコックス テリビリスのAICB870株と塩基配列が高い相同性を示したことから、TEPMO-26株はボトリオコックス属テリビリス種(Botryococcus terribilis)に分類される株であることが分かった。
【0016】
TEPMO-26株は、出願人によって、受託番号FERM P-22360として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに受託された(受託日:2018年3月9日)。
【0017】
[TEPMO-26株の培養方法]
TEPMO-26株を培養する方法は特に制限されず、例えば、従来のボトリオコックス属に属する微細藻類を培養可能な公知方法が適用できる。また、例えば培養容器を継代ごとに大きくすることにより、大量培養を行うことができる。培養時には藻体が沈殿しない程度に攪拌しながら、光照射下で通気培養することが好ましい。
【0018】
培養液の種類は特に限定されず、微細藻類を培養可能な公知の培養液が適用可能であり、例えば、C培地、BG-11培地、BG-11改変培地等が挙げられる。
培養液のpHは、pH6~9が好ましく、pH6~7がより好ましい。
【0019】
培養温度は、例えば、20~35℃の範囲で、培養する微細藻類の倍化時間が短くなる温度を選定することが好ましい。
【0020】
培養液に通気するガスには二酸化炭素が含まれていることが好ましい。通気ガス中の二酸化炭素濃度としては、例えば0.5~20体積%が好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。上記範囲であると良好に増殖し易い。
【0021】
光照射条件としては、培養液中の藻体濃度や培養槽の深さによって適宜調節すればよく、例えば、10~10000μmol/m/sの自然光又は人工光が適用できる。
【0022】
培養液中の初期の藻体濃度は特に限定されないが、例えば、0.01~0.5dry‐g/L(乾燥重量g/L)が好ましく、0.03~0.3dry‐g/Lがより好ましい。上記好適な範囲であると盛んに増殖し、倍化時間が比較的短くなり易い。
【0023】
以上で説明した培養方法により、グリーンセルが得られる。グリーンセルをオレンジセルに変化させる方法として、(i)通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる、(ii)通気ガスを停止する、(iii)pHを上昇させる等の培養条件を切り替える方法が挙げられる。
培養条件を切り替える時期としては、増殖期の後半が好ましく、例えば、藻体濃度が0.8dry‐g/L以上になった後で培養条件を切り替えることが好ましい。藻体濃度が比較的高くなった後で培養条件を切り替えることにより、オレンジセルに変化する効率を高めることができる。
【0024】
上記(iii)の方法としては、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.0~6.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH7.0~10.0が好ましく、pH7.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。また、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.5超~7.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH8.0~10.0が好ましく、pH8.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。
【0025】
培養液のpHをアルカリ性に近づける方法としては、例えば、培養液中に通気する通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる上記(i)の方法、培養液への通気を中止する上記(ii)の方法、培養液中にアルカリ性物質を添加する上記(iii)の方法等が挙げられる。
【0026】
前記アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ性側で使用される公知のpH緩衝剤等が挙げられる。
【0027】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液の温度は、例えば、20~50℃の範囲で、微細藻類の色が徐々に褐変する温度を選定することが好ましい。
【0028】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液への通気ガスには、二酸化炭素が含まれていないことが好ましく、含まれているとしても二酸化炭素濃度は0.1体積%以下であることが好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。
【0029】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液に対する光照射は行ってもよいし、行わなくてもよい。前記培養液に光照射を行う場合の光照射条件としては、例えば、10~10000μmol/m/sが挙げられる。
【0030】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養日数としては、例えば、0.5~40日程度が挙げられ、3~10日程度が好ましい。
【0031】
培養液からグリーンセルまたはオレンジセルを回収する方法は特に限定されず、従来の微細藻類の場合と同様の方法が適用可能であり、例えば、培養液をフィルターに通して藻体を濾過して回収する方法、培養液を遠心分離して藻体を浮上または沈殿させて回収する方法が挙げられる。また、培養液の攪拌を停止し、沈殿したグリーンセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。さらに、培養液の攪拌を停止し、液面に浮上させたオレンジセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。
【0032】
回収した藻体が、培養液のpH調整に影響されて酸性又はアルカリ性を示す場合がある。回収した藻体のpHは、必要に応じて調整すればよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
また、藻体を回収した後の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
また、藻体を回収する直前の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
pHを調整する方法は特に制限されず、例えば無機酸又は無機アルカリ塩を添加する公知方法が適用される。
【0033】
≪脂肪蓄積抑制剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、脂肪蓄積抑制剤である。
【0034】
糖尿病、がん、循環器疾患などをはじめとする生活習慣病は、我が国の医療費の約3割を占めており、国民の健康を守るのみならず医療費削減の観点からも、予防に効果のある機能性食品素材の探索が求められている。中でも食習慣の乱れは肥満や代謝異常を端緒として糖尿病、高脂血症、大腸がんなど重篤な疾患につながるリスクがある。よって肥満を抑制する成分は、生活習慣病予防の観点から有用である。
【0035】
本態様の脂肪蓄積抑制剤によれば、後述する実施例で示すように、細胞内に脂肪滴が蓄積することを抑制することができる。つまり、抗肥満効果が奏される。
【0036】
本態様の脂肪蓄積抑制剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0037】
また、本態様の脂肪蓄積抑制剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0038】
≪抗炎症剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗炎症剤である。
【0039】
炎症は慢性化することで生体組織の損傷や機能低下などを引き起こし、これらに起因する動脈硬化、糖尿病、肥満などの疾患の原因となることが明らかになりつつある。炎症の治療には非ステロイド性抗炎症薬などが使用されるが、吐き気や胃痛などの副作用があることが知られており、抗炎症効果を持つ副作用の少ない補完医療が求められている。
【0040】
本態様の抗炎症剤によれば、後述する実施例で示すように、炎症メディエーターの一種である一酸化窒素(NO)の細胞における産生を抑制できる。従い、本態様の抗炎症剤は一酸化窒素産生抑制剤と称してもよい。
【0041】
本態様の抗炎症剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0042】
また、本態様の抗炎症剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0043】
≪抗酸化剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗酸化剤である。
【0044】
本態様の抗酸化剤によれば、後述する実施例で示すように、フリーラジカルを捕捉して無毒化することができる。従い、本態様の抗酸化剤はフリーラジカルスカベンジャーと称してもよい。
【0045】
本態様の抗酸化剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0046】
また、本態様の抗酸化剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0047】
≪核内受容体作動剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、核内受容体作動剤である。
【0048】
II型糖尿病は、高血糖が慢性的に続く代謝異常疾患であり、深刻な合併症を引き起こす。その発症には肥満が密接に関連しており、過食や運動不足により肥大化した白色脂肪細胞がマクロファージの集積を引き起こし、炎症性サイトカインの放出を誘発する。これにより、糖貯蔵細胞・器官におけるインスリン抵抗性を招き、糖尿病発症につながる。この時、核内受容体の一種であるperoxisome proliferator-activated receptor (PPAR) γと呼ばれる転写因子に結合し転写活性を増大させるような化合物・成分などは、小型脂肪細胞への分化を誘導し、血糖値降下作用のある善玉アディポサイトカインの放出を促進することで、インスリン抵抗性の改善をもたらすことから、糖尿病予防や治療に有用であると考えられている。
【0049】
本態様の核内受容体作動剤によれば、後述する実施例で示すように、PPARγのパーシャルアゴニストとして作用することができる。つまり、核内受容体活性化効果が奏される。従い、本態様の核内受容体作動剤はPPARγ作動剤又はPPARγ半作動剤と称してもよい。
【0050】
本態様の核内受容体作動剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0051】
また、本態様の核内受容体作動剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0052】
≪抗神経炎症剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、抗神経炎症剤である。
【0053】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)は老年期認知症の主要な原因疾患であるが、AD治療であるコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬は認知症の進行抑制効果はあるものの認知機能回復や根治にはいたっていない。ADの病理学的特徴として、神経原線維変化や老人斑が知られている。神経原線維変化の主成分は過剰リン酸化タウ蛋白であり、また老人斑の主成分はアミロイドβ蛋白(amyloid-β protein,Aβ)である。一般的に、Aβの凝集促進がADの主因と考えられており、その抑止薬の開発が期待されている。
他方、神経炎症に起因するうつ病の病原毒素として、グルココルチコイドが知られている。グルココルチコイドは、ストレス中に分泌される副腎ステロイドホルモンであり、ストレス反応において不可欠である。しかしながら、グルココルチコイド受容体の活性化による過剰なグルココルチコイドは、神経細胞への酸化ストレスおよびミクログリアの活性化に伴う炎症性サイトカインの過剰産生、すなわち神経炎症を引き起こすことにより、アポトーシスを誘導し、うつ病を誘導してしまう。そのため過剰なグルココルチコイドによる神経炎症とこれに続く神経細胞死を抑制することは、不安症、うつ病治療の治療標的と考えられる。
【0054】
本態様の抗神経炎症剤によれば、後述する実施例で示すように、神経細胞にうつ病に関連する毒素を添加した後における神経炎症を抑制し、細胞生存率を高める効果がある。この効果から、本態様の抗神経炎症剤は、神経細胞保護剤、抗不安剤、及び抗うつ剤として作用し得る。
【0055】
本態様の抗神経炎症剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0056】
また、本態様の抗神経炎症剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0057】
≪薬剤含有組成物≫
本発明の一態様として、上述した各薬剤(脂肪蓄積抑制剤、抗炎症剤、抗酸化剤、核内受容体作動剤、又は抗神経炎症剤)と、薬学的に許容される担体とを含有する、薬剤含有組成物が挙げられる。
【0058】
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、注射剤用溶剤等が挙げられる。また、その他の添加剤としては、特に制限されず、例えば、防腐剤、pH調整剤、安定剤紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、香料等が挙げられる。薬学的に許容される担体及びその他の添加剤としては、例えば、第十六改正日本薬局方等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
【0059】
前記薬剤含有組成物の剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。
【0060】
皮膚外用剤としては、例えば、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0061】
前記薬剤含有組成物は、疾患治療薬であってもよいし、化粧料であってもよいし、サプリメント等の食品であってもよい。
【0062】
前記薬剤含有組成物中の総質量に対する前記薬剤の含有量は、前記薬剤の固形分(乾燥重量)換算で、例えば、0.01~50質量%、0.01~30質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、又は0.01~1質量%の範囲が挙げられる。
【0063】
前記薬剤含有組成物又は前記薬剤の投与方法は特に制限されず、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0064】
前記薬剤含有組成物又は前記薬剤の投与量は、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり0.01~5000mg/kg体重の有効成分を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり0.01~1000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。
【実施例
【0065】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例だけに限定されるものではない。
【0066】
[株の単離と選抜]
国内の水田や人工池、ダム湖からサンプリングした表層水を顕微鏡観察し、ボトリオコックス属の細胞群体の単離を公知のピペット洗浄法で行った。得られた複数の単離株の中から増殖力に優れた株を、500ml培養瓶に移植し、培養容器表面光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-1mL/secで通気して増殖させた。最も増殖に優れた株としてTEPMO-26株を選抜した。単離から選抜に至る培養にはC培地(Ichimura, 1971)を用いた。
【0067】
[培養例1]
TEPMO-26株を下記条件で培養した。
緑藻用C培地、ラン色細菌用BG-11培地、BG-11改変培地の3種の液体培地を使用し、TEPMO-26株の増殖の比較を行った。ここで使用したBG-11培地は、C培地よりも窒素濃度が高く窒素要求性の高い株に適し、かつ高価なビタミンを含まない培地である。BG11改変培地はBG-11培地をさらに安価にするため、窒素減としての硝酸塩を、窒素ベースで等モル濃度の尿素に置き換えた培地である。培地各500mLを用意し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始した。
【0068】
ほぼ5日間隔で定期的に培養液をサンプリングし、波長730nmの吸光度測定により細胞濃度(藻体濃度)を求めた。ここで、吸光度として求めた細胞濃度を、乾燥重量としての細胞濃度(dry-g/L)に換算するための換算係数を算出した。培養開始時および培養終了時に吸光度測定したサンプルをろ過乾燥し、吸光度1あたりの乾燥藻体濃度を算出したところ、平均3.42dry-g/Lであった。なお、吸光度と細胞濃度の関係は、群体の大きさに影響されるため、培養期間中に群体サイズが変化していないことを顕微鏡下で確認した。
【0069】
36日の培養の結果、C培地(pH7.5)、BG-11培地(pH 7.5)、BG-11改変培地(pH 7.5)の何れの液体培地を使用した場合においても、細胞濃度は約1.3dry-g/Lに到達した。倍化時間は細胞濃度0.3dry-g/L付近で最短5.6日を示した。
【0070】
次に、BG-11培地及びBG-11改変培地における細胞濃度が約1.3dry-g/Lに到達した時点以後、引き続き5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を継続した場合と、100%Air-8mL/sec通気に切り替えて培養を継続した場合を比較した。
【0071】
その結果、5%CO2/95%Airで培養を継続した場合には、両方の培地において細胞は緑色を保ったままで増殖を続けた。一方、100%Airに切り替えた場合には、培養液のpHはそれぞれBG-11培地(pH 8.5)、BG-11改変培地(pH 8.5)となり、切り替えた翌日には細胞を含んだ培養液の色調が緑色から黄色味を帯びた緑色に変化した。特にBG-11改変培地において、切り替え7日目には細胞を含んだ培養液の色調が完全にオレンジ色に変化した。
【0072】
細胞がオレンジ色に変色した段階で通気攪拌を停止すると、オレンジ色の細胞群体は、ほぼ透明な培養液の液面付近に浮上し、固液分離によって二層に分かれた(図3)。オレンジ色の細胞群体を回収し、ナイルレッド染色の後、顕微鏡観察した。オレンジ色の細胞群体は、活発な増殖を示す緑色の細胞群体に比較して、細胞中において赤色発光を伴う葉緑素が減少し、黄色発色を伴う油分が顕著に増加していた。
攪拌停止により液面浮上したオレンジ色の細胞群体を茶漉しネットで回収することができた。
【0073】
[培養例2]
BG-11改変培地500mLを用意し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気の条件下で、培養温度を20℃、25℃、30℃、35℃の4段階に設定して、TEPMO-26株の増殖を比較した。
その結果、各温度における倍化時間が170日、8.5日、7.5日、13日であったことから、至適増殖温度帯は25~30℃近辺にあり、20℃近辺に温度が低下すると著しく増殖が低下することが判った。
【0074】
[培養例3]
BG-11改変培地を使用し、培養規模を10Lジャーファメンタ、50Lパンライト水槽、50Lチューブリアクタに拡大し、更に各培養容器表面の光強度をそれぞれ100、270、320μmol/m2/sに設定して、5%CO2/95%Air通気、培養温度25℃で、TEPMO-26株の増殖を比較した。
その結果、細胞濃度は50Lチューブリアクタで最高1dry-g/Lに達し、倍化時間は10Lジャーファメンタで最短の2.1日であった。また、50Lチューブリアクタへの通気を5%CO2から純空気に切り替えることによって、細胞がオレンジに変色し、細胞内で炭化水素が産生されたことを確認することができた。
【0075】
[培養例4]
TEPMO-26株を下記条件で培養した。
緑藻用C液体培地を使用し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始した。
【0076】
約10日後、細胞濃度約0.5dry-g/Lに到達した時点で、32μm金属メッシュろ過によりTEPMO-26株細胞コロニーを回収し、フリーズドライしたものを「グリーンセル」とした。
【0077】
「グリーンセル」回収後の培養液を、0.45μフィルターろ過し、上清をフリーズドライして得られた乾燥物を「藻体分泌物」とした。
【0078】
緑藻用C液体培地を使用し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始し、細胞濃度が約1.3dry-g/Lに到達した時点で水酸化ナトリウムを投入して培養液のpHを10前後まで高め、さらに10日ほど経過後にオレンジ色を呈したTEPMO-26株細胞コロニーを、32μm金属メッシュろ過により回収したものを「オレンジセル」とした。
ここで回収した「オレンジセル」は水酸化ナトリウムの持ち込みがあるためpH10のアルカリ性を示す。塩酸を用いてpHを7.4まで低下させたものを「オレンジセル(pH7.4)」とした。
【0079】
[実施例用のサンプル調製]
培養例4で得たグリーンセル、オレンジセル、及びオレンジセル(pH7.4)の凍結乾燥体の各100mgに対して、70%(v/v)エタノール1mLの割合で添加して、各サンプルを浸潤させた状態で、室温、暗所にて14日間抽出を行った。抽出後、2000rpm、5分間の遠心分離を行い、上清をフィルター(ポアサイズ0.22μm)にて滅菌した。
ここで得た、グリーンセルの抽出サンプルを以下では「S1」といい、オレンジセルの抽出サンプルを以下では「S2」といい、オレンジセル(pH7.4)の抽出サンプルを以下では「S3」という。
培養例4で得た藻体分泌物の凍結乾燥体を滅菌水に溶解して、終濃度5mg/mLの溶液を得た。ここで得た溶液を以下では「S4」という。
各サンプルを使用時まで-20℃で保存した。
【0080】
[実施例1;脂肪蓄積抑制剤]
<実験方法>
分化後のマウス由来3T3-L1細胞における脂肪蓄積の有無を指標に抗肥満効果を評価した。3T3-L1前駆脂肪細胞はDulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM低グルコース)に10% (v/v) Fetal bovine serum (FBS)、1% (v/v) penicillin/streptomycinを添加した培地を用いて、37℃、5% CO2存在下で培養した。3T3-L1前駆脂肪細胞を1×105 cells/wellの細胞数で12ウェルマイクロプレートに播種し48時間培養後、0.5mM isobutylmethylxanthine、5μg/mL insulin、0.25μM dexamethasoneを含む分化誘導培地に交換した(Day 0)。48時間培養後、5μg/mL insulinのみ含む培養培地に交換し(Day 2)、さらに48時間培養した。その後、2日置きに培地を交換し、分化誘導開始から10日経過後、培養培地を除去し、phosphate buffered saline (PBS)で細胞を2回洗浄し、10% ホルマリン-MeOH溶液を加えて30分、室温で静置し、細胞を固定した。その後、PBSで細胞を洗浄した後、0.5% Oil Red O溶液を加えて1時間室温で静置し脂肪滴を染色後、倒立型光学顕微鏡を用いて染色された脂肪滴を観察した。試験サンプルの処理は、1/500、1/1000、1/5000、1/10000の希釈濃度で分化誘導開始時(Day 0)から添加し、脂肪滴染色まで処理を継続した。陰性対象として0.1%エタノールを用いた。
【0081】
<結果>
S1では、1/1000、1/5000、1/10000希釈処理では陰性対象であるvehicle controlと同等の脂肪滴蓄積が観察された。一方、1/500希釈処理において顕著な脂肪滴蓄積抑制効果が認められた(図4)。
S2、およびS3については、いずれの濃度においてもvehicle controlと同程度の脂肪滴蓄積が観察された。
【0082】
<考察>
グリーンセルの抽出サンプル「S1」において、脂肪滴蓄積抑制効果が認められたことから「S1」は抗肥満作用を有する脂肪蓄積抑制剤となり得る。
【0083】
[実施例2;核内受容体作動剤]
<実験方法>
転写活性を定量的に評価可能なレポーター遺伝子プラスミドおよび転写を誘発するエフェクタープラスミドを動物細胞に発現させて、核内受容体活性化効果を評価した。
エフェクタープラスミドは、ヒト由来核内受容体PPARγのリガンド結合ドメイン(ligand-binding domain: LBD)と、酵母由来GAL4転写因子DNA結合ドメイン (DNA-binding domain: DBD)を融合させたキメラタンパク質を発現する遺伝子、ならびにG418耐性遺伝子を搭載したプラスミドを用いた。レポーター遺伝子プラスミドは、GAL4 DBDの結合塩基配列であるupstream activation sequence (UAS)をホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子の上流に接続した遺伝子と、ハイグロマイシン耐性遺伝子を搭載したプラスミドを用いた。各プラスミド遺伝子をヒト由来骨肉腫細胞株U2OSに遺伝子導入し、G418およびハイグロマイシン処理により両プラスミド遺伝子を安定的に発現する細胞コロニーを選別した。U2OS細胞は、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM高グルコース)に10% (v/v) Fetal bovine serum (FBS)、1% (v/v) penicillin/streptomycinを添加した培地を用いて、37℃、5% CO2存在下で培養した。両プラスミド遺伝子を安定発現するU2OS細胞を96ウェルマイクロプレートの各ウェルに、8×105 cells/mlの細胞数濃度に調整した細胞懸濁液を50μl添加した後、試験サンプルを終濃度の2倍濃い濃度に希釈した培養培地を50μl加えて混合した後、24時間CO2インキュベーター内で培養した。その後、培地を除去し、PBSで2回洗浄した後、50μlの1 x passive lysis buffer (Promega)を各ウェルに加え、プレートを15分間震とうさせた。得られた細胞抽出液のうち、25μlを白色96ウェルマイクロプレートに移し、25μlのルシフェリン基質溶液(Luciferase Assay System, Promega)を加え、マイクロプレートリーダー(Vario Skan LUX, Thermo Fischer Scientific)にて各ウェルの発光値を測定した。また、細胞抽出液25μlを用いてTaKaRa BCA Protein Assay Kit (タカラバイオ)により、タンパク質濃度を測定した。各ウェルの発光値をタンパク質濃度で除し、細胞あたりのルシフェラーゼ活性を求めた後、対象区(サンプル無添加処理)の値を1としたときの相対値を算出し、PPARγアゴニスト活性を評価した。ポジティブコントロールとして、PPARγフルアゴニストとして知られるトログリタゾン(Troglitazone, 10μM)を用いた。
【0084】
<結果>
ポジティブコントロールであるトログリタゾン処理によりPPARγアゴニスト活性の増加が確認されたことから、実験系が適切に応答していることが確認された。
S1では、濃度依存的なアゴニスト活性が検出された(図5)。また、その最大値はフルアゴニストであるトログリタゾンと比較して部分的であったことから、S1にはパーシャルアゴニストとして作用する成分が含有されている可能性が示唆された。
S2、およびS3については、いずれの濃度においても顕著な増加は観察されなかった。
【0085】
<考察>
グリーンセルの抽出サンプル「S1」において、PPARγアゴニスト活性が認められたことから「S1」は核内受容体作動剤、なかでもPPARγ作動剤となり得る。
【0086】
[実施例3;抗炎症剤]
<実験方法>
まず、各種サンプル処理によるマウスマクロファージ様RAW264細胞の生存率への影響評価(細胞毒性試験)を行った。
RAW264細胞はDulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM低グルコース)に10% (v/v) Fetal bovine serum (FBS)、1% (v/v) penicillin/streptomycinを添加したもの(DMEM培地)で培養を行った。RAW264細胞は、2×105 cell/ mLになるように懸濁して、96ウェルマイクロプレートに各ウェル100μLずつ加えて播種を行い、37℃ 5% CO2の条件下で培養を行った。培養開始24時間後、すべての培地を除去し、各サンプル(S1、S2、S3、S4)をDMEM培地で、100倍、500倍、1000倍、5000倍の濃度に希釈したものを各ウェル100μLずつ加えて、37℃ 5% CO2の条件下で培養を行った。培養開始24時間後、すべての培地を除去し、5mg/mL 3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide(MTT)試薬を各ウェル10μLずつ加えて37℃ 5% CO2の条件下で培養を行ってホルマザン結晶を生成させた。培養開始2時間後、すべての培地を除去し、各ウェル100μLずつリン酸緩衝液を加えて、除去したのちにホルマザン結晶溶解液(0.04 M塩酸-イソプロパノール)を各ウェル200μL加えて、結晶が完全に溶解したのちに、マイクロプレートリーダー(Vario Skan LUX, Thermo Fischer Scientific 社)にて各ウェルの570nmと650 nmの吸光度を測定し、差分を測定値とした。測定値は、対象区(サンプル無添加処理)の値を100 %としたときの相対値を算出し、サンプル処理による細胞生存率への影響を評価した。
細胞毒性試験において、S1、S2では、100, 500, 1000, 5000倍希釈サンプルのいずれでも生存率の低下は見られなかった。一方、S3については、100倍希釈サンプルで著しい生存率低下がみられた。S4では、100, 500, 1000, 5000倍希釈サンプルのいずれでも生存率の低下は見られなかった(図6)。
【0087】
次に、抗炎症効果の評価は、既報に従い行った(参照文献:Takahashi et al. (2018) Frontiers in Physiology Vol.9, Article 1205、参照文献:Takahashi et al (2019) Biomedical Research International. Vol. 2019, Article 3104057)。
細胞生存率に影響のない希釈濃度のサンプルを用いて、抗炎症効果を評価するため、炎症メディエーターの一種である一酸化窒素(NO)産生量を指標にして定量を行った。
RAW264細胞はDMEM培地で培養を行った。RAW264細胞は、2×105 cell/ mLになるように懸濁して、96ウェルプレートに各ウェル100μLずつ加えて播種を行い、37℃、5% CO2の条件下で培養を行った。培養開始24時間後、すべての培地を除去し、各サンプルをDMEM培地で、500倍、1000倍、5000倍の濃度に希釈したものを各ウェル100μLずつ加えて、37℃ 5% CO2の条件下で培養を行った。培養開始24時間後、すべての培地を除去し、各ウェル100μLずつリポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)を1 ng/mLの濃度で含むDMEM培地を加えて37℃ 5% CO2の条件下で培養しNO産生を促した。培養開始14時間後にすべての上清を96ウェルマイクロプレートに回収し、Griess法によるNO量の定量を行った(参照文献:Sharma et al (2007) Journal of Antimicrobial Chemotherapy Vol. 59, No.3, pp.499-506)。具体的には、回収した上清と等量のGriess試薬(1% スルファニル酸、0.1% N-(1-ナフチル)エチレンジアミンジハイドロクロライドを含む2.5%リン酸)を添加してよく混和し、室温で10分間静置したのちにマイクロプレートリーダーにて各ウェルの540nmの吸光度を測定した。測定値は、対象区(サンプル無添加でLPS処理した細胞より得た上清)の値を100 %としたときの相対値を算出し、サンプル処理による抗炎症効果の効率を評価した。
【0088】
<結果>
図7を参照する。
S1では、500倍希釈でNO産生抑制効果(17.5~24.2%)がみられた。
S2、S3、S4ではNO産生抑制効果は見られなかった。
【0089】
<考察>
グリーンセルの抽出サンプル「S1」において、NO産生抑制効果が認められたことから「S1」は抗炎症剤となり得る。
【0090】
[実施例4;抗酸化剤]
<実験方法>
各サンプル(S1、S2、S3)の抗酸化能測定はDPPH フリーラジカルスカベンジングアッセイ法により行った。各サンプル10μLに対して、DPPH Working Solution (DWS) DPPH(+)溶液(0.4 mM 2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH), 45% (v/v) EtOH, 25 mM MES (pH 6.0)を含む)とDPPH(-)溶液(50% (v/v) EtOH, 25 mM MES (pH 6.0)を含む)をそれぞれ190μL添加し、常温暗所で10分間静置したのちに、520 nmの吸光度を測定した。DPPH(+)添加サンプルの吸光度からDPPH(-)添加サンプルの吸光度の差分を測定値とした。得られた測定値は、DPPHラジカル消去能をTrolox相当量 (μM Trolox相当)として算出した。
【0091】
<結果>
図8を参照する。
S1は高い抗酸化能を示した(889.65 μM Trolox相当)。
S2、S3は抗酸化能をほとんど示さなかった(それぞれ、49.68 μM Trolox相当、101.33 μM Trolox相当)。
【0092】
<考察>
グリーンセルの抽出サンプル「S1」は高い抗酸化能を示したことから「S1」は抗酸化剤となり得る。
【0093】
[実施例5;抗神経炎症剤]
<実験方法>
神経細胞モデルとして汎用されているSH-SY5Y細胞を実験に供した。SH-SY5Y細胞は、DMEMとHam’s F-12 nutrient mixtureを1:1 (v:v)で混合したものに、15% FBS、1 % Penicillin/Streptomycin、1%非必須アミノ酸を添加した培地を用いて、37℃、5% CO2存在下で培養した。
まず初めにS1~S3の3種の試料について、最適濃度の検討のため、細胞毒性評価試験(MTT試験)を実施した。MTT試験の際、SH-SY5Y細胞を2×105 cells/wellの細胞数で96ウェルマイクロプレートに播種し24時間培養後、各試料を1/10000、1/1000、1/500の濃度でOpti-MEM培地で希釈し、細胞に添加した。試料処理48時間、72時間後試料入り培地を除去し、5 mg/mLの濃度のMTT試薬を1:10の割合でOpti-MEMと混合し、細胞に添加し、24時間インキュベーションした。その後10% SDSを添加し、24時間後570 nmの吸光度を測定した。
その後、アルツハイマー病の毒素であるアミロイドβ(Aβ)およびうつ病の毒素であるデキサメタゾン(DEX)に対する神経細胞保護作用評価を実施した。神経細胞保護作用評価は、SH-SY5Y細胞を2 x105 cells/wellの細胞数で96ウェルマイクロプレートに播種し24時間培養後、各試料を1/10000、1/1000、1/500の濃度でOpti-MEM培地で希釈し、細胞に添加した。試料処理1時間後、DEXあるいはAβを細胞に添加し、48時間(DEX)あるいは72時間(Aβ)インキュベーター内でインキュベーションした。試料入り培地を除去し、5 mg/mLの濃度のMTT試薬を1:10の割合でOpti-MEMと混合し、細胞に添加し、24時間インキュベーションした。その後10% SDSを添加し、24時間後570 nmの吸光度を測定した。
【0094】
<実験結果>
MTT試験の結果、3種の試料について、いずれの処理濃度、処理時間において細胞生存率の減少は認められなかった(図9図10)。
S1(1/1000および1/500希釈濃度)の48時間処理において細胞生存率の有意な増加が認められた(図9)。さらにDEXに対する神経細胞保護作用を評価した所、細胞生存率の増加が認められた処理濃度のS1においてDEX処理による細胞生存率の減少が有意に抑制され、神経細胞保護作用が示唆された(図11)。
S2およびオレンジセルS3試料においてはDEX処理による細胞生存率の減少抑制は認められなかった。
Aβに対する神経細胞保護作用については、いずれの試料処理群において、神経細胞保護作用は認められなかった(図11)。
【0095】
<考察>
グリーンセルの抽出サンプル「S1」において、DEXに対する神経細胞保護作用が認められたことから「S1」は抗うつ作用を有する抗うつ剤となり得る。さらにDEXは神経細胞において酸化ストレスに伴う神経炎症により、神経細胞死を誘導することから、「S1」は、神経細胞死を起こす前段階において、神経細胞における抗酸化剤、神経細胞保護剤、抗不安剤、抗うつ剤等を広く捉えた抗神経炎症剤になり得る。
【0096】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態だけに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11